(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022111998
(43)【公開日】2022-08-01
(54)【発明の名称】ピペット充填可能な流体リザーバ本体と電子流体分注システム
(51)【国際特許分類】
G01N 35/10 20060101AFI20220725BHJP
B01L 3/02 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
G01N35/10 A
B01L3/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000709
(22)【出願日】2022-01-05
(31)【優先権主張番号】17/152,845
(32)【優先日】2021-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000201113
【氏名又は名称】船井電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148460
【弁理士】
【氏名又は名称】小俣 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100168125
【弁理士】
【氏名又は名称】三藤 誠司
(72)【発明者】
【氏名】キャリザーズ・アダム ディー.
(72)【発明者】
【氏名】デボード・ブルース エー.
(72)【発明者】
【氏名】マーラ サード・マイケル エー.
(72)【発明者】
【氏名】ノラサック・サム
【テーマコード(参考)】
2G058
4G057
【Fターム(参考)】
2G058BB28
2G058EA03
2G058EA05
2G058ED20
4G057AB21
4G057AB31
4G057AB38
(57)【要約】
【課題】ピペット充填可能な流体リザーバ本体。
【解決手段】流体リザーバ本体は、2以上の個別の流体チャンバを含む。流体チャンバのうちの少なくとも1つは圧力補償装置を含み、少なくとも他の1つには圧力補償装置がない。各流体チャンバは流体供給ビアと流体連通しており、各流体チャンバは、側壁と、側壁に取り付けられた底壁とを有し、底壁は流体供給ビアに向かい傾斜している。流体リザーバ本体は、流体チャンバからの流体を吐出するために単一の流体吐出装置を取り付けるための、流体チャンバと流体連通した吐出ヘッド支持面も含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体吐出ヘッド基板が取り付けられたピペット充填可能な流体リザーバ本体であって、
2以上の個別の流体チャンバであって、前記2以上の個別の流体チャンバのうちの少なくとも1つが圧力補償装置を含み、前記2以上の個別の流体チャンバのうちの少なくとも他の1つには前記圧力補償装置がなく、それぞれが流体供給ビアと流体連通しており、前記2以上の個別の流体チャンバのそれぞれが側壁と、前記側壁に取り付けられて前記流体供給ビアに向かい傾斜した底壁とを有する、2以上の個別の流体チャンバと、
前記2以上の個別の流体チャンバからの流体を吐出するために流体吐出装置を取り付けるための、前記2以上の個別の流体チャンバと流体連通している吐出ヘッド支持面と
を含む、
ピペット充填可能な流体リザーバ本体。
【請求項2】
傾斜した前記底壁が、前記側壁に直交する面に対し約6~約12°の範囲の角度を有する、
請求項1に記載のピペット充填可能な流体リザーバ本体。
【請求項3】
4つの流体チャンバを含み、前記4つの流体チャンバが、それらの間の分離壁により互いに分離された、
請求項1に記載のピペット充填可能な流体リザーバ本体。
【請求項4】
透明流体リザーバ本体を含む、
請求項1に記載のピペット充填可能な流体リザーバ本体。
【請求項5】
前記圧力補償装置のない前記流体チャンバのそれぞれの最大流体充填ボリュームを示すためのしるしを更に含む、
請求項4に記載のピペット充填可能な流体リザーバ本体。
【請求項6】
カバーが前記圧力補償装置を含む前記流体チャンバのそれぞれに隣接して取外し可能又は固定で取り付けられた、
請求項1に記載のピペット充填可能な流体リザーバ本体。
【請求項7】
前記カバーが、前記圧力補償装置のない1以上の個別の流体チャンバの上に設けられたヒンジ付きカバー部を更に含む、
請求項6に記載のピペット充填可能な流体リザーバ本体。
【請求項8】
前記カバーが空気抜き溝を更に含む、
請求項6に記載のピペット充填可能な流体リザーバ本体。
【請求項9】
前記圧力補償装置を含む前記流体チャンバ、前記圧力補償装置のない前記流体チャンバ、又は前記流体チャンバの全てを覆うための取外し可能なテープを更に含む、
請求項1に記載のピペット充填可能な流体リザーバ本体。
【請求項10】
前記圧力補償装置のない各個別の流体チャンバが、約200マイクロリットル~約1ミリリットルの範囲の流体ボリュームを有する、
請求項1に記載のピペット充填可能な流体リザーバ本体。
【請求項11】
前記圧力補償装置のない前記1以上の個別の流体チャンバが、流体充填ボリューム限度を示す隆起を更に含む、
請求項1に記載のピペット充填可能な流体リザーバ本体。
【請求項12】
前記圧力補償装置を含む前記2以上の個別の流体チャンバのうちの少なくとも1つが、前記圧力補償装置と前記流体供給ビアとの間に設けられた流体フィルタを更に含む、
請求項1に記載のピペット充填可能な流体リザーバ本体。
【請求項13】
前記圧力補償装置のない前記1以上の個別の流体チャンバに隣接した半透明成型流体リザーバ本体を更に含む、
請求項1に記載のピペット充填可能な流体リザーバ本体。
【請求項14】
前記圧力補償装置のない前記1以上の個別の流体チャンバの最大流体充填ボリュームを示すため、その透明領域にしるしを更に含む、
請求項13に記載のピペット充填可能な流体リザーバ本体。
【請求項15】
請求項1に記載の前記ピペット充填可能な流体リザーバ本体を含む、電子流体分注システムにおける、
前記圧力補償装置は、前記電子流体分注システムの動作中に前記流体吐出装置からの流体の垂れを防ぎ、それにより、マイクロウェルプレートのウェルまたはガラススライド上に分注される流体の精度を改善する、
電子流体分注システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物スクリーニングといった化学的又は生物学的アッセイに関するものであり、特に、高価でない流体堆積装置における化学的又は生物学的アッセイの応用のために用いられる改善された流体リザーバ本体に関する。
【背景技術】
【0002】
特に医療分野において、分析のための自動化された試料調製及び分析の必要性がある。分析は、比色分析、又は顕微鏡下で試料をより好ましく観察するため試料の着色を要する可能性がある。そのような分析は、薬剤試料分析、血液試料分析等を含む。例えば、血液のアッセイ分析において、血液は個人の健康を判定するために用いられるいくつかの異なる要因を提供する。血液試料分析を要する多くの患者がいる場合、分析のため試料を調製する手順は非常に時間がかかるものとなる。薬物スクリーニングといったアッセイ分析には、試料に対する効果及び性能を評価するため微量の標的試薬を堆積させることが望ましい。従来、手動又は電気機械的に作動するピペットが、これらアッセイ試薬中に微量物質を堆積させるために用いられている。アッセイ分析のために生成される試験流体の総量は、最小の試薬に対する試薬の所望の割合を達成する能力により決定付けられる。ピペットの小規模なボリューム限度により、試薬の適切な割合を達成するために過剰な試験流体を作成することが度々必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
サーマルインクジェット技術は噴射流体のピコリットルサイズの液滴を正確に分配できることが周知である。インクジェット技術が提供する精度と速度は、無駄な試料の量を削減しつつアッセイ分析のスループットを向上させるための有望な候補である。従来のサーマルジェットプリンタでは、典型的に、噴射流体はエンドユーザに届く前にプリントヘッドに事前に充填される。しかし、現場で試験溶液を作成することが望ましいライフサイエンス分野では、予め完全に充填されたカートリッジを使用することは現実的でない。
【0004】
インクジェットプリンティングは化学的及び生物学的なアッセイ分析を行う実行可能な方法であるかもしれないが、現在市場に出ているインクジェット印刷製品は、一部研究者にとって法外なコストのかかる特殊なプリンタと特別に設計されたプリントヘッドを使用している。製造コスト及びエンドユーザのコストを削減するため、特別に設計されたプリンティングシステムではなく、既存の標準的なインクジェットプリンタを用いることが望ましい。ライフサイエンス分野において標準的なインクジェットプリンタを使用できるようにするため、流体リザーバ本体に独自の噴射流体を容易に充填できるようにしつつ既存の流体リザーバのフォームファクタが維持されるようプリントヘッド流体リザーバ本体を改変する必要がある。
【0005】
インクジェットプリンティング技術を用いるとき、吐出ヘッドからの流体の最大流速は吐出ヘッドの微小電気機械システム及び設計に依存し、吐出ヘッドのための流体カートリッジの最大ボリュームは流体リザーバのサイズ及び吐出ヘッドから流体が垂れることを防止する能力に依存する。垂れ(drooling)、又は溢れ(flooding)は、吐出ヘッド上の噴射流体の絶え間ない溜まりを説明するために用いられる用語である。吐出ヘッドからの流体の垂れは、流体特性、吐出器チップの化学的性質、そしてリザーバ内の噴射流体の静水圧の作用である。リザーバ内の流体の背圧制御なしでは、吐出ヘッドは、垂れることなく流体リザーバ内に収容されることのできる液体ボリュームにかなり制限される。ピペット充填可能な流体吐出ヘッドは主に少量の試薬ボリュームに適するが、緩衝液を投入するといった、大きなボリュームを分注することが望ましいときもある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記を鑑み、本発明の1つの実施形態は、流体吐出ヘッド基板が取り付けられた、ピペット充填可能な流体リザーバ本体を提供する。ピペット充填可能な流体リザーバ本体は、2以上の個別の流体チャンバを含む。2以上の個別の流体チャンバのうちの少なくとも1つは圧力補償装置を含み、2以上の個別の流体チャンバのうちの少なくとも他の1つには圧力補償装置がない。2以上の個別の流体チャンバのそれぞれは流体供給ビアと流体連通しており、2以上の個別の流体チャンバのそれぞれは、側壁と、側壁に取り付けられた底壁とを有し、底壁は流体供給ビアへ向かい傾斜している。2以上の個別の流体チャンバからの流体を吐出するために単一の流体吐出装置を取り付けるため、吐出ヘッド支持面が2以上の個別の流体チャンバと流体連通して提供される。
【0007】
いくつかの実施形態において、傾斜した底壁は、側壁に直交する面に対し約6~約12°の範囲の角度を有する。
【0008】
いくつかの実施形態において、ピペット充填可能な流体リザーバ本体は4つの流体チャンバを含み、4つの流体チャンバはこれらの間の分離壁により互いに分離される。
【0009】
いくつかの実施形態において、ピペット充填可能な流体リザーバ本体は透明成型流体リザーバ本体を含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、ピペット充填可能な流体リザーバ本体は、圧力補償装置のない各流体チャンバの最大充填ボリュームを示すためのしるしを含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、圧力補償装置を含む各流体チャンバに隣接したピペット充填可能な流体リザーバ本体に、カバーが固定又は取外し可能に取り付けられる。いくつかの実施形態において、カバーは、圧力補償装置のない1以上の個別の流体チャンバの上に設けられたヒンジ付きカバー部を更に含む。いくつかの実施形態において、カバーは空気抜き溝を含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、ピペット充填可能な流体リザーバ本体内の、圧力補償装置を含む流体チャンバ、圧力補償装置のない流体チャンバ、又は全ての流体チャンバを覆うため、取外し可能なテープが提供される。
【0013】
いくつかの実施形態において、圧力補償装置のない各個別の流体チャンバは、約200マイクロリットル~約1ミリリットルの範囲の流体ボリュームを有する。
【0014】
いくつかの実施形態において、圧力補償装置のない1以上の個別の流体チャンバのそれぞれは、流体充填ボリューム限度を示すための隆起(shelf)を更に含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、圧力補償装置を含む2以上の個別の流体チャンバのうちの少なくとも1つは、圧力補償装置と流体供給ビアとの間に設けられた流体フィルタも含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、ピペット充填可能な流体リザーバ本体は、圧力補償装置のない1以上の流体チャンバに隣接した半透明成型流体リザーバ本体を含む。他の実施形態において、ピペット充填可能な流体リザーバ本体は、圧力補償装置のない1以上の個別の流体チャンバの最大流体充填ボリュームを示すため、ピペット充填可能な流体リザーバ本体の透明領域にしるしを含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、流体吐出ヘッド基板が取り付けられたピペット充填可能な流体リザーバ本体を含む、電子流体分注システムが提供される。ピペット充填可能な流体リザーバ本体は、2以上の個別の流体チャンバを含む。2以上の個別の流体チャンバのうちの少なくとも1つは圧力補償装置を含み、2以上の個別の流体チャンバのうちの少なくとも他の1つには圧力補償装置がない。2以上の個別の流体チャンバのそれぞれは流体供給ビアと流体連通しており、2以上の個別の流体チャンバのそれぞれは、側壁と、側壁に取り付けられた底壁とを有し、底壁は流体供給ビアへ向かい傾斜している。2以上の個別の流体チャンバからの流体を吐出するために単一の流体吐出装置を取り付けるため、吐出ヘッド支持面が2以上の個別の流体チャンバと流体連通して提供される。
【発明の効果】
【0018】
開示される実施形態の利点は、様々な液体分注の応用に使用でき、分注すべき多様な流体に適合することのできる、流体を電子的に分注するためのユニークな低コストカートリッジを提供できることである。カートリッジには、比較的大きなボリュームの試験流体を提供するため、予め充填されるか、ユーザにより充填されることのできる少なくとも1つの圧力補償チャンバを提供できる利点も有する。少なくとも1つの流体チャンバにおける圧力補償は、流体が吐出ヘッドから垂れること及び吐出ヘッドが流体で溢れることなく、流体チャンバのボリュームが完全に使用されることを可能とする。従って、圧力補償は、吐出ヘッドの流体分注の性能に負の影響を与える吐出ヘッドからの流体の垂れを防止する。非圧力補償チャンバは、吐出ヘッドから吐出される流体の所定の量を提供するため、使用時にピペットで充填することができる。
【0019】
各液体リザーバに個別の液体吐出ヘッドチップを用いる製品とは異なり、カートリッジの本体に単一の液体吐出ヘッドチップが取り付けられ、複数の液体リザーバのために用いられる。単一の流体吐出ヘッドチップの使用は、吐出ヘッドから吐出される液滴の位置精度を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の1つの実施形態による電子流体分注システムの、縮尺通りではない、斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1の電子流体分注システムで用いるための、スライドのためのアダプタ及びマイクロウェルプレートの、縮尺通りではない、斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の1つの実施形態によるピペット充填可能なカートリッジの、縮尺通りではない、斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3のピペット充填可能なカートリッジの、縮尺通りではない、分解斜視図である。
【
図5】
図5は、濾過塔を示す、
図3のピペット充填可能なカートリッジの、縮尺通りではない、平面図である。
【
図6】
図6は、カートリッジの圧力補償チャンバ上に取り付けられカバーを有する
図3のピペット充填可能なカートリッジの、縮尺通りではない、平面図である。
【
図7】
図7は、カートリッジの流体チャンバの流体ビアを示す、
図3のピペット充填可能なカートリッジの、縮尺通りではない、平面図である。
【
図8】
図8は、流体チャンバの傾斜底壁を示す、
図3のピペット充填可能なカートリッジの、縮尺通りではない、断面立面図である。
【
図9】
図9は、取外し可能なテープを示す、
図3のピペット充填可能なカートリッジの、縮尺通りではない、底面斜視図である。
【
図10】
図10は、本発明の1つの実施形態によるヒンジ付きカバーを示す、
図3のピペット充填可能なカートリッジの、縮尺通りではない、上面斜視図である。
【
図11】
図11は、本発明の1つの実施形態によるヒンジ付きカバーを示す、
図3のピペット充填可能なカートリッジの、縮尺通りではない、上面斜視図である。
【
図12】
図12は、
図10と
図11のピペット充填可能なカートリッジのヒンジ付きカバーの、縮尺通りではない、拡大斜視図である。
【
図13】
図13は、
図10と
図11のピペット充填可能なカートリッジのヒンジ付きカバーの、縮尺通りではない、拡大斜視図である。
【
図14】
図14は、本発明による代替的なピペット充填可能なカートリッジの側面立面図である。
【
図15】
図15は、本発明の実施形態による、異なる流体を含むピペット充填可能なカートリッジの概略的な図示である。
【
図16】
図16は、本発明の実施形態による、異なる流体を含むピペット充填可能なカートリッジの概略的な図示である。
【
図17】
図17は、本発明の実施形態による、異なる流体を含むピペット充填可能なカートリッジの概略的な図示である。
【
図18】
図18は、本発明の実施形態による、異なる流体を含むピペット充填可能なカートリッジの概略的な図示である。
【
図19】
図19は、本発明の実施形態による、異なる流体を含むピペット充填可能なカートリッジの概略的な図示である。
【
図20】
図20は、本発明の実施形態による、異なる流体を含むピペット充填可能なカートリッジの概略的な図示である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1~
図2を参照し、1以上の流体のある量を基板上に正確に分注する電子流体分注システム10が示される。ハイエンドな電子分注装置とは異なり、本発明の電子流体分注システム10は、第1のx方向に進退する吐出ヘッドと、流体分注動作の間に第1の方向に直交する第2のy方向に進退する基板を移動させるためのトレイ14とに基づく。開示される電子流体分注システム10は、開放型分注ヘッドのみではなく、開放型及び閉鎖型分注ヘッドを受け入れることができる。トレイ14は、マイクロウェルプレート、ガラススライド、電子回路基板等を含むがこれらに限定されない、多様な基板に適合可能である。
図2は、マイクロウェルプレートのウェル内又はガラススライド上に流体を分注するため電子流体分注システム10で用いるための、ウェル42を含むマイクロウェルプレート38を保持するためのトレイ14を表す。トレイ14は、流体を堆積させるため異なるサイズのマイクロウェルプレート又はスライド又は他の基板を保持するためのアダプタを含む。
【0022】
流体吐出ヘッドとカートリッジ移動機構とを含む分注ヘッドカートリッジは、直方体状のボックス18に内包される。起動スイッチ20が電子流体分注システム10を起動するためボックス18に含まれる。ボックス18の背面側は、流体を基板上に分注するため第2の方向でボックス18を通るトレイ14の移動のための開口を含む。USBポートが、電子流体分注システム10をコンピュータ又は電子表示装置に接続するため提供される。電源は、ボックス18上の電源入力ポートを介し電子流体分注システム10に提供される。
【0023】
図1の電子流体分注システム10で用いるための流体カートリッジ及びその部品が、
図3~
図20に表される。
図3は、本発明の1つの実施形態によるピペット充填可能なカートリッジ50の、縮尺通りではない、斜視図である。ここで説明されるピペット充填可能なカートリッジ50の利点は、カートリッジ50が従来のインクジェットプリンタカートリッジと実質的に同一のサイズ寸法を有することである。従って、上述した電子流体分注システム10は、電子流体分注システム10を通じマイクロウェルプレート38を含むトレイ14又はガラススライドを移動させるよう適合された従来のインクジェットプリンティングハードウェア及びソフトウェアを含んでもよい。
【0024】
図4の分解図に示すように、カートリッジ50は、2以上の流体チャンバ54A、54B、54C、54Dを提供する成型本体52を有する。流体チャンバ54A~54Dのうちの少なくとも1つは、メラミンフォーム又はフェルト挿入物又はスプリング補助式ブラダ(図示せず)といった圧力補償装置56を含む。
図4に示す例において、各流体チャンバ54Aと54Dは圧力補償装置56を含む。いくつかの実施形態において、流体チャンバ54Aと54Dは、濾過された流体を流体吐出ヘッド84へ提供するため圧力補償装置56と流体供給ビアとに流体連通した濾過塔62C~62D(
図5)に取り付けられた、流体フィルタ60も含む。他の実施形態において、流体チャンバ54C又は54Dのうちの1つのみが圧力補償装置56を含む。他の実施形態において、圧力補償装置56を含む単一の流体チャンバ54Cが存在する。他の実施形態において、カートリッジは、圧力補償装置56を含む3つの流体チャンバと、圧力補償装置のない1つのチャンバとを含む。単純化するため、圧力補償装置を含む2つのチャンバ54Cと54D、圧力補償装置のない2つのチャンバ54Aと54Bを有するカートリッジ50を説明する。
【0025】
流体が漏れる、乾燥する、又は圧力補償流体チャンバ54Cと54Dからこぼれることを防ぐため、カバー58が流体カートリッジ50の本体52に固定又は取外し可能に取り付けられる。いくつかの実施形態において、カバー58はスナップフィット又はプレスフィットカバー58であってよい。他の実施形態において、カバー58はチャンバ54Cと54Dが流体で充填された後、成型本体52に恒久的に取り付けられてよい。従って、流体チャンバ54Cと54Dは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)といった試験液又は緩衝液、又は他の一般的な生化学用試験液で予め充填されてよい。取外し可能なカバー58が用いられる場合、チャンバ54Cと54Dはカートリッジ50の使用前にユーザにより緩衝液又は試験液が充填されてよい。圧力補償装置56のない1以上の残りの流体チャンバ54Aと54Bは、カートリッジ50の使用時にピペットからの流体で充填及び/又は再充填されてよい。
【0026】
図6と
図7は、カバー58が配置されたカートリッジ50及び配置されていないカートリッジ50の上面図である。
図6と
図7に見られるように、チャンバ54A~54Dに関連付く流体供給ビア64A、64B、64C、64Dが存在する。流体供給ビア64Cと64Dは、
図5に示されるように、濾過塔62Cと62Dと流体連通している。分離壁66Aと66Bがチャンバ54A~54Dを互いに分離する。各チャンバ54A~54Dの底壁は、流体供給ビア64A~64Dへ向かい傾斜している。
図8は、チャンバ54Aと54Bの底壁の傾斜を表すカートリッジ50の前端断面図である。x方向及びy方向における水平面に対する底壁70Aと70Bの傾斜は、分離壁66Aと直交するx及びy方向における面に対し約6~約12°といった、約4~約20°であってもよい。
【0027】
図6を参照し、カバー58は、チャンバ54Cと54Dの過圧を防ぐため、カートリッジの保管又は使用の間にカバーされたチャンバ54Cと54Dから空気を抜くのを補助する蛇行した空気流路72も含む。空気入口74Cと74Dは、チャンバ54C、54Dと空気流路72との間の空気流連通を提供する。空気流路は典型的に非取外し可能なテープ76(
図4)により覆われる。空気流路72の終端78は大気へ放出する。
【0028】
再び
図4を参照し、プルテープ80が、カートリッジ50の輸送及び保管の間に開放型流体チャンバ54Aと54Bを覆うため、カートリッジ50に取り外し可能に取り付けられる。プルテープ80は、カートリッジ50の使用前に吐出ヘッド84を覆う吐出ヘッド保護テープ82に取り付けられる。吐出ヘッド84は、流体供給ビア64A~64Dに隣接したカートリッジ本体52と、吐出ヘッド84に電力を提供するフレキシブル回路86とに取り付けられる。フレキシブル回路86はカートリッジ本体52の前側にも取り付けられる。
図9は、カートリッジ本体52に取り付けられた、プルテープ80、吐出ヘッドテープ82、吐出ヘッド84、及びフレキシブル回路86を備えたカートリッジ50の底面図を提供する。
【0029】
図10~
図13に表されるもう1つの実施形態において、ヒンジ付き部分90Aと固定部分90Bとを有するカバー90が、上述したカートリッジ50の本体52に取り付けられる。ヒンジ付き部分90Aは、チャンバをごみや屑から保護するためピペットチャンバ54Aと54Bを覆うよう構成される。高揮発性流体がチャンバ54A又は54Bに挿入される場合、ヒンジ付き部分90Aはチャンバからの流体の蒸発の防止又は低減もする。カバー90のヒンジ付き部分90Aは、カートリッジ50の本体52にスナップフィット又はプレスフィットされてよい。チャンバ54Aと54Bが
図12に示されるようにヒンジ付き部分90Aで封止される場合、ヒンジ付き部分90Aはカバー90の固定部分90Bと同一面にある。従って、カバー部分90Aと90Bは実質的に同一の厚さを有する。ただし、部分90Aが部分90Bと接合するところは、
図13に示されるようにヒンジ92Aと92Bを提供するためにカバー材料が薄くされる。他の実施形態において、示されたような2つのヒンジではなく、単一の幅広いヒンジが用いられてもよい。従って、カバー90全体が単一の弾性プラスチック材料から成型されていてもよい。カバーの固定部分90Bはカートリッジの本体52に溶着又は接着されていてもよく、又は、いくつかの実施形態において、カートリッジの本体52に取外し可能に取り付けられていてもよい。使用の間、ヒンジ付き部分90Aは流体がチャンバ54A及び/又は54Bに分注されることができるよう跳ね上げられてもよい。
【0030】
いくつかの実施形態において、
図14に示されるように、カートリッジ本体100は、チャンバがカバー90により覆われたときチャンバ54A~54D中の流体のレベルを判断できるよう、透明又は半透明の材料製であってもよい。従って、チャンバ54A~D中の流体レベルが即座に判断できるよう、しるし102がカートリッジ本体100の外側側壁に刻まれるか、さもなくば表記されていてもよい。
【0031】
上述したピペット充填可能なカートリッジの使用方法を
図15~
図20に概略的に表す。少なくとも1つの閉鎖型の圧力補償チャンバ106を含むカートリッジ104の側面概略図を
図15に表す。圧力補償チャンバ106は、チャンバ106中の流体の背圧制御を提供するため、メラミンフォーム又はフェルト又はブラダを含む。チャンバ106は吐出ヘッド84と直接流体連通しており、流体107が予め充填されているか現場で充填される。示されるように、ピペット108が開放型チャンバ110に流体112を充填するため用いられてよい。
図16は、流体107を含む圧力補償チャンバ106と、ピペットで分注された流体112を含む開放型チャンバ110とを示すカートリッジ104の上面図である。従って、カートリッジ104は特定の分析に2つの流体のみが必要なときに用いられてもよい。チャンバ106は、単一チャンバではなく、共に上述した圧力補償装置を含む2つのチャンバであってもよいことを理解されたい。
【0032】
図17において、カートリッジ200は3つの流体チャンバを有する。カートリッジ200は、圧力補償装置と、予め充填された又はユーザが充填した流体204とを含む、単一又は2つの閉鎖型チャンバ202と、ピペット装置108から分注された流体210と212のための開放型チャンバ206と208とを含む。
【0033】
図18~
図20は、3つ又は4つの異なる流体を吐出するための、上記カートリッジの変形を表す。カートリッジ300は、
図5に示されるような、チャンバ302と304に関連付く流体ビアを介し濾過塔から異なる流体306と308が予め充填された又は現場で充填された、閉鎖型の圧力補償チャンバ302と304を含む。チャンバ310と312はピペット装置108から流体314と316が充填されてもよい。
【0034】
図19は、3つの異なる流体を吐出するためのカートリッジ400を表す。カートリッジ400は、流体406と408が予め充填された又は現場で充填された、閉鎖型の圧力補償チャンバ402と404を含む。
図18の実施形態とは異なり、チャンバ410もまた、流体406を分注するため圧力補償チャンバ402からつながる濾過塔と濾過材を備えた閉鎖型チャンバであってもよい。この場合、ピペット108からの流体414のための単一の開放型チャンバ412が存在する。このため、上述したカバー90がチャンバ412の上で開放可能な単一のヒンジ付き部分を有するように改変される。他の実施形態においても、チャンバ410と412の両方が開放型チャンバであり、流体406がカートリッジの使用時にチャンバ410内にピペットで分注される。
【0035】
図20は、ピペット充填可能なカートリッジ500から3つの異なる流体を吐出するための、代替的な実施形態を表す。カートリッジ500は、流体506が予め充填された又は現場で充填された、閉鎖型の圧力補償チャンバ502と504を含む。開放型チャンバ508と510は上述したようにピペット108から流体512と514が充填されてよい。当業者によりピペット充填可能なカートリッジの他の変形例が上記説明の範囲内で考え出され得ることを理解されたい。
【0036】
いくつかの実施形態において、上述したピペット充填可能なカートリッジを含む電子流体分注システム10がマイクロウェルプレート内に流体を堆積させるため用いられてもよい。実験のためのマイクロウェルプレートの充填は、時間のかかる手動タスクとなり得る。マイクロウェルプレートの準備に要する時間を短縮するため、複数のウェルに同時に流体を堆積できることが望ましい。従来の電子分注システムが存在するが、従来のシステムは単一軸に沿って直線的に配置された分注ヘッドを有する。流体吐出器を含む分注ヘッドチップがそのような分注ヘッドに個別に配置される。本発明は、単一の吐出ヘッドチップ84上の2次元マトリクスに設けられた流体吐出器の複数アレイを組み合わせることにより改善された電子流体分注システム10を提供する。このような2次元マトリクスは、マイクロウェルプレートのウェルを充填する時間を大幅に短縮することができる。流体吐出器の2次元アレイを含む吐出ヘッドは、吐出ヘッド基板上に個々の吐出ヘッドを機械的に配置するのではなく、フォトリソグラフィ技術により形成されるため、2次元マトリクスは流体吐出器とマイクロウェルプレートとの間の位置合わせをも改善できる。
【0037】
従って、本発明による電子流体分注システム10は、上述した流体カートリッジを用いて、マイクロウェルプレートのウェル内、スライド上、回路基板上、又は他の基板上に流体を堆積させるために用いることができる。流体吐出器の複数アレイを含む吐出ヘッドチップ84は、より正確なマイクロウェルプレートの充填、ガラススライド上への液滴の配置、又は回路板基板上への流体の堆積を可能にする、改善された位置合わせ精度を提供する。
【0038】
上記の実施形態では1つ~4つの流体チャンバを有する流体カートリッジを特に説明したが、各流体カートリッジは単一の流体又は2以上の異なる流体を分注するよう構成されてもよいことを理解されたい。
【0039】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いられる単数形「a」、「an」、「the」は、明示的かつ明確に1つの指示物に限定されない限り、複数の指示物を含むことに留意されたい。本明細書で用いられる「include」という用語およびその文法上の変形は、リスト内の項目の列挙が、リストされた項目を置換または追加できる他の同様の項目を除外しないよう、非限定的であることを意図している。
【0040】
本明細書及び添付の特許請求の範囲の目的のため、特に明記しない限り、明細書及び特許請求の範囲で使用される量、百分率又は比率を表す全ての数値及び他の数値は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されると理解されるべきである。従って、そうでないと示されない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本発明により得ることが求められる所望の特性に応じて変わり得る近似値である。少なくとも、そして各数値パラメータは、特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限する試みとしてではなく、少なくとも、述べられた有効数字の数を考慮し、そして通常の丸め手法を適用することにより、解釈されるべきである。
【0041】
特定の実施形態について説明したが、出願人又は他の当業者には、現在予測してない、又は予測できない、代替、修正、変形、改善、及び実質的な均等物が生じうる。従って、提出された添付の特許請求の範囲及び補正された特許請求の範囲は、そのようなすべての代替、修正、変形、改善、及び実質的な均等物を包含することを意図している。
【符号の説明】
【0042】
10:電子流体分注システム
14:トレイ
18:ボックス
20:起動スイッチ
38:マイクロウェルプレート
42:ウェル
50:カートリッジ
52:本体
54A、54B、54C、54D:流体チャンバ
56:圧力補償装置
58:カバー
60:流体フィルタ
62C、62D:濾過塔
64A、64B、64C、64D:流体供給ビア
66A、66B:分離壁
70A、70B:底壁
72:空気流路
74C、74D:空気入口
76:非取外し可能なテープ
78:終端
80:プルテープ
82:吐出ヘッドテープ
84:流体吐出ヘッド
86:フレキシブル回路
90:カバー
90A:ヒンジ付き部分
90B:固定部分
92A、92B:ヒンジ
100:本体
102:しるし
104:カートリッジ
106:圧力補償チャンバ
107:流体
108:ピペット
110:開放型チャンバ
112:流体
200:カートリッジ
202:閉鎖型チャンバ
204:流体
206、208:開放型チャンバ
210、212:流体
300:カートリッジ
302、304:圧力補償チャンバ
306、308:流体
310、312:開放型チャンバ
314、316:流体
400:カートリッジ
402、404:閉鎖型の圧力補償チャンバ
406、408:流体
410:閉鎖型チャンバ
412:開放型チャンバ
414:流体
500:カートリッジ
502、504:圧力補償チャンバ
506:流体
508、510:開放型チャンバ
512、514:流体