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特開2022-112006医療器具又は美容器具のための転がり軸受
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112006
(43)【公開日】2022-08-01
(54)【発明の名称】医療器具又は美容器具のための転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   A61C 1/14 20060101AFI20220725BHJP
   A61H 15/00 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
A61C1/14 A
A61C1/14 Z
A61H15/00 380A
【審査請求】未請求
【請求項の数】31
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022004763
(22)【出願日】2022-01-17
(31)【優先権主張番号】10 2021 200 484.9
(32)【優先日】2021-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】10 2022 200 272.5
(32)【優先日】2022-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クルト アドレフ
(72)【発明者】
【氏名】エーリヒ グライター
(72)【発明者】
【氏名】マルティン ラウ
(72)【発明者】
【氏名】マルティン エングラー
【テーマコード(参考)】
4C052
4C100
【Fターム(参考)】
4C052AA07
4C052BB01
4C052CC02
4C052CC03
4C052CC17
4C052CC22
4C052CC27
4C052FF03
4C100AF04
4C100BB03
4C100CA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】医療器具又は美容器具のための転がり軸受を提供する。
【解決手段】回転軸線5を中心に回転する軸受内輪1と、軸受内輪を包囲する固定の軸受外輪2とを備え、軸受内輪と軸受外輪との間に軸受間隙3が形成されており、軸受間隙には、複数の転動体が周方向に相前後して配置され、転動体4を介して、軸受内輪が軸受外輪に支承され、転動体は、軸受内輪及び軸受外輪上を転動するように配置され、径方向において、転動体高さを有し、軸受間隙は、軸線方向において、軸受外輪に取り付けられるか、軸受外輪を収容するケーシングに取り付けられるか、又はケーシング若しくは軸受外輪と一体的に形成されるカバーディスク6によって覆われ、カバーディスクは、軸受内輪と共に、軸線方向において間隙長さにわたり延在する径方向間隙7を形成し、径方向間隙は、径方向において、間隙高さを有し、間隙長さが、転動体高さの少なくとも25%である構成とする。
【選択図】図21
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.1 回転軸線(5)を中心に回転する軸受内輪(1)と、前記軸受内輪(1)を同心状に包囲する固定型の軸受外輪(2)と、を備え、
1.2 前記回転軸線(5)に対し径方向において、軸受内輪(1)と軸受外輪(2)との間に軸受間隙(3)が形成されており、前記軸受間隙(3)に複数の転動体(4)が周方向に相前後して配置されており、前記転動体(4)を介して、前記軸受内輪(1)が前記軸受外輪(2)に支承されており、
1.3 前記転動体(4)は、前記軸受内輪(1)及び前記軸受外輪(2)上を転動するように配置されており、前記径方向において、転動体高さ(WH)を有し、
1.4 前記軸受間隙(3)は、軸線方向において、前記軸受外輪(2)に若しくは前記軸受外輪(2)を収容するケーシング(11)に取り付けられている又は前記ケーシング(11)若しくは前記軸受外輪(2)と一体的に形成されているカバーディスク(6)によって覆われており、前記カバーディスク(6)は、前記軸受内輪(1)と共に、前記軸線方向において所定の間隙長さ(L)にわたり延在する径方向間隙(7)を形成し、前記径方向間隙(7)は、前記径方向において、間隙高さ(H)を有し、
前記間隙長さ(L)は、前記転動体高さ(WH)の少なくとも25%である
ことを特徴とする、医療器具又は美容器具のための転がり軸受。
【請求項2】
前記間隙高さ(H)の最大高さは、前記転動体高さ(WH)の最大20%であることを特徴とする、請求項1記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記間隙長さ(L)は、前記転動体高さ(WH)の最大2倍又は最大3倍であることを特徴とする、請求項1又は2記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記間隙高さ(H)の最小高さは、前記転がり軸受の動作温度における前記軸受内輪(1)と前記軸受外輪(2)との間の動作遊びよりも大きいことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記カバーディスク(6)は、前記軸受外輪(2)の軸方向端面に取り付けられており、特に素材結合により取り付けられていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項記載の転がり軸受。
【請求項6】
前記カバーディスク(6)は、径方向外側で前記軸受外輪(2)を包囲し、前記軸受外輪(2)の径方向外側の表面に、特に前記軸受外輪(2)の、縁部が開放又は閉鎖された径方向凹部(8)に取り付けられていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項記載の転がり軸受。
【請求項7】
前記カバーディスク(6)は、前記回転軸線(5)を通る軸断面において見て前記回転軸線(5)の両側でそれぞれ、前記軸受外輪(2)に配置されている径方向脚部(9)と、前記径方向間隙(7)を形成する軸線方向脚部(10)とを備えたL字型であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項記載の転がり軸受。
【請求項8】
前記軸線方向脚部(10)は、前記径方向脚部(9)から始まり、前記転動体(4)の方向にのみ延在することを特徴とする、請求項7記載の転がり軸受。
【請求項9】
前記カバーディスク(6)は、前記回転軸線(5)を通る軸断面において見て前記回転軸線(5)の両側でそれぞれ、前記軸受外輪(2)に配置されている径方向脚部(9)と、前記径方向間隙(7)を形成する軸線方向脚部(10)とを備えたT字型であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項記載の転がり軸受。
【請求項10】
前記カバーディスク(6)は、前記回転軸線(5)を通る軸断面において見て、前記回転軸線(5)の両側でそれぞれ、半径方向に延在し、且つ前記軸受外輪(2)に配置されている径方向脚部(9)と、段部(1.2)内において軸線方向に延在し、且つ前記段部(1.2)内において前記径方向間隙(7)を形成する軸線方向脚部(10)とをそれぞれ有することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項記載の転がり軸受。
【請求項11】
前記軸線方向脚部(10)は、前記軸受内輪(1)に支承されている軸(12)と共に前記径方向間隙(7)の一部を形成する第1の軸線方向部分(10.1)と、前記軸受内輪(1)と共に前記径方向間隙(7)の一部を形成する第2の軸線方向部分(10.2)と、を有し、前記径方向間隙(7)の前記2つの部分は、径方向において相互にずらされていることを特徴とする、請求項10記載の転がり軸受。
【請求項12】
前記カバーディスク(6)は、径方向に延在する若しくは前記軸線方向に対して傾斜して延在する1つの孔(6.1)を有する、又は周方向において相前後して配置されており、且つ径方向に延在する若しくは軸線方向に対して傾斜して延在する複数の孔(6.1)を有し、前記孔(6.1)は、前記間隙長さ(L)内で前記径方向間隙(7)に開口していることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項記載の転がり軸受。
【請求項13】
前記間隙長さ(L)は、前記転動体高さ(WH)の少なくとも50%であることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項記載の転がり軸受。
【請求項14】
前記転動体(4)は、球形であり、前記転動体高さ(WH)は、前記転動体(4)の外径に相当することを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項記載の転がり軸受。
【請求項15】
前記間隙高さ(H)は、前記間隙長さ(L)にわたり一定であることを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項記載の転がり軸受。
【請求項16】
前記間隙高さ(H)は、前記間隙長さ(L)にわたり変化することを特徴とする、請求項1から15のいずれか一項記載の転がり軸受。
【請求項17】
前記間隙高さ(H)は、前記カバーディスク(6)の軸線方向外側の端部から前記転動体(4)の方向において、間隙長さ(L)にわたり減少し、特に前記回転軸線(5)を通る軸断面において見て線形に減少することを特徴とする、請求項16記載の転がり軸受。
【請求項18】
前記カバーディスク(6)は、少なくとも前記軸受内輪(1)に対応付けられた端部の領域で前記軸線方向において弾性に変形可能であることを特徴とする、請求項1から17のいずれか一項記載の転がり軸受。
【請求項19】
前記カバーディスク(6)は、前記転がり軸受の静止状態では、前記軸受内輪(1)の段部(1.2)又は端面(1.1)に位置しており、前記軸受内輪(1)の回転時には、前記カバーディスク(6)にわたる差圧によって、前記段部(1.2)又は前記端面(1.1)から浮遊していることを特徴とする、請求項18記載の転がり軸受。
【請求項20】
前記カバーディスク(6)及び/又は前記軸受内輪(1)は、前記径方向間隙(7)に接して、前記径方向間隙(7)に存在する空気を、前記転動体(4)の方向へ空気搬送させることを可能にする搬送輪郭を有することを特徴とする、請求項1から19のいずれか一項記載の転がり軸受。
【請求項21】
前記径方向間隙(7)は、前記軸線方向において、周囲に何も存在せずに開口していることを特徴とする、請求項1から20のいずれか一項記載の転がり軸受。
【請求項22】
前記カバーディスク(6)は、前記軸受外輪(2)に径方向内側で挿入されていることを特徴とする、請求項1から21のいずれか一項記載の転がり軸受。
【請求項23】
前記カバーディスク(6)は、前記軸受外輪(2)に溶接されていることを特徴とする、請求項22記載の転がり軸受。
【請求項24】
前記軸受外輪(2)は、径方向内側の、縁部が開放された径方向溝(22)を有し、前記径方向溝(22)には、前記カバーディスク(6)が挿入されていることを特徴とする、請求項22又は23記載の転がり軸受。
【請求項25】
前記転がり軸受の前記カバーディスク(6)側とは反対の軸線方向側には、前記軸受内輪(1)と共に第2の径方向間隙(7’)を形成する付加的なカバーディスク(18)が設けられていることを特徴とする、請求項1から24のいずれか一項記載の転がり軸受。
【請求項26】
前記転がり軸受は、分離可能な玉軸受又はアンギュラ玉軸受として構成されていることを特徴とする、請求項1から25のいずれか一項記載の転がり軸受。
【請求項27】
前記転がり軸受は、単列の玉軸受として構成されており、前記カバーディスク(6)の軸線方向側において、前記軸受外輪(2)に肩(23)を備え、且つ前記カバーディスク(6)側とは反対の軸線方向側において、前記軸受内輪(1)に肩(23)を備えることを特徴とする、請求項26記載の転がり軸受。
【請求項28】
ツール(16)を収容する回転する軸(12)又はツール(16)を備えた回転する軸(12)を含む医療器具又は美容器具であって、前記軸(12)は、請求項1から27のいずれか一項記載の、少なくとも1つの転がり軸受(13)に支承されていることを特徴とする、医療器具又は美容器具。
【請求項29】
歯科用の手持ち式器具として構成されており、前記軸(12)には、歯科用のツール(16)が支承されている又は支承可能であることを特徴とする、請求項28記載の医療器具。
【請求項30】
請求項1から27のいずれか一項記載の転がり軸受にカバーディスク(6)を取り付ける方法であって、前記カバーディスク(6)を、径方向間隙(7)に配置されているスペーサ(17)を用いて軸受内輪(1)に載置し、それによって前記軸受内輪(1)に対してセンタリングし、続いて、前記カバーディスク(6)をセンタリングされた状態において軸受外輪(2)又はケーシング(11)に固定し、固定された状態において初めて前記スペーサ(17)を前記径方向間隙(7)から取り外すことを特徴とする、方法。
【請求項31】
スペーサ(17)として、シートを前記軸受内輪(1)に被着させることを特徴とする請求項30記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療器具又は美容器具のための転がり軸受、特に手持ち式器具、並びにその種の転がり軸受を備えた、医療器具又は美容器具、特に手持ち式器具、例えば歯科用の手持ち式器具に関する。
【0002】
転がり軸受では、一般的に、軸受外輪と軸受内輪との間に、特に転動体の転動面の領域に侵入した汚染粒子によって早期の摩耗が生じ、これによって、転がり軸受の寿命が縮まる危険がある。更に、医療器具又は美容器具における転がり軸受では、多かれ少なかれ強力な殺菌剤でもって機器を殺菌する必要がある場合、グリース又は潤滑剤が転がり軸受から濯がれてしまい、これによって同様に、転がり軸受の摩耗が早まり、また寿命が縮まる。従って、少なくとも手持ち式器具では、軸受内輪と軸受外輪との間の軸受間隙をシールし、異物又は不所望な媒体の侵入を最小限にすることが一般的に行われている。
【0003】
それと同時に、本発明が特に関係するような、医療器具、とりわけ歯科用の手持ち式器具、例えばストレートハンドピース又はアングルハンドピースにおける転がり軸受では、特定の用途において、血液又は唾液のような体液が機器を通って流れ、その後、適切に処理されることが所望される場合がある。この場合においても、特に駆動軸の停止時、またそれに伴う後続の軸静止状態には、それにより軸受の領域における圧力差が解消されるので、軸受内の粒子の堆積は回避されなければならない。更には、殺菌剤の侵入に関して上記において言及したことについても同様である。従って、その種の機器では、転がり軸受が静止しているとき、即ち転がり軸受が回転していないときに、乃至転がり軸受内に支承されている器具の軸が回転していないときに、軸受間隙をシールし、転がり軸受が回転する際、乃至軸が回転する際に、多かれ少なかれその軸受間隙を解消するシールが設けられていることが好ましい。
【0004】
EP0689801(A2)には、相応に、駆動部を備えた医療用又は歯科用の処置器具に関して、軸受外輪及び軸受内輪に、ラビリンスシールを形成することによって軸受間隙を十分にシールする、直線状のシールプレート又は曲げられたラビリンスリングを備えた軸受シーリングが開示されている。ラビリンスシーリングを形成するために、軸受外輪と軸受内輪に交互に取り付けられる、シールプレート又はシーリングリングを使用することができる。更に、ツールを担持する軸に遠心リングを設けることができ、この遠心リングは、血液又は唾液のような体液の浸食側におけるシーリングの上流側に設けられている。
【0005】
DE102012000757(A1)には、軸受外輪と軸受内輪との間の軸受間隙をシールするための、弾性に変形可能なシーリングプレートが開示されている。軸受外輪に相対回動不能に保持されているシールプレートは、軸受内輪の回転時の差圧によって対向面から浮揚し、また差圧の解消を伴う軸受内輪の静止時には対向面に当接する。これによって、静止状態での接触式のシーリングの前述の機能、また軸が回転している動作状態での非接触式のシーリングの前述の機能が達成される。
【0006】
EP0497139(B1)では、同一の機能を達成するために、ハンドピースヘッド内のツールシャフトの周囲に、静止状態ではそのツールシャフトを取り囲むように接触し、且つ外側に向かってシールする弾性のプレートを設けることが提案されており、この弾性のプレートは、ハンドピースヘッドにおいて動作時に生じる過圧の作用下で、接触がもはや生じない程度にツールシャフトから浮揚する。駆動エアが遮断され、その結果、ハンドピースヘッド内の過圧が解消されると、弾性のプレートが再び、未だ回転しているツールシャフトに当接し、それによってツールシャフトを制動し、他方では、それと同時に、ケーシング内に負圧が生じる結果、ツールシャフトに沿った異物の侵入が阻止される。
【0007】
DE102018200303(A1)では、冒頭で述べたような軸受に関して、遠心力によって多かれ少なかれ変形させ、従って間隙を静止状態ではシールし、動作時にはそのシールを解消するために、回転する軸受リングに取り付けられている、弾性材料から成るシールプレートが提案されている。シールプレートは、固定の軸受リングに取り付けられた対向部材によって形成される対向面と共にシール間隙を画定することができる。
【0008】
DE102019200371(A1)では、その種の軸受に関して、軸受ケーシングと軸受外輪との間に位置決めされており、且つ減衰機能を担う脚部を備えたシールプレートが提案されている。シールプレートは、軸受内輪の軸方向端面にシール間隙を形成することができるか、又は軸受内輪の半径方向外側にシール間隙を形成することができる。
【0009】
DE102018201621(A1)では、冒頭で述べたような軸受に関して、浮遊式のシールプレートが提案されており、このシールプレートは、浮遊した状態において当接面に接触する。
【0010】
DE102018212721(A1)では、冒頭で述べたような軸受に関して、スライド可能なシールプレートが提案されている。
【0011】
DE102005012277(A1)には、中空円筒状又は円筒状の本体と、リング状のシール部材とを備えた軸受装置が開示されている。
【0012】
JP2004-19722(A)には、軸受リングと共に一種のラビリンスシールを形成するシールリップを備えた転がり軸受が開示されている。
【0013】
従って、冒頭で述べたような転がり軸受では、転がり軸受の動作時に過圧に起因する空気の流れを周囲に解放するシールが設けられている。軸受を備えた機器を使用する際に、この流れ出る圧縮空気が液体、乃至液体によって湿潤された表面に当たると、それによって、周囲の空間に流出するエアロゾルが発生する可能性がある。このエアロゾルが感染性である場合、その周囲空間に居る人間も感染する危険がある。例えば、液体が、ウィルスに感染している可能性がある患者の口腔内の唾液であることも考えられ、その場合、唾液内にもウィルスが存在しているので、ウィルスはエアロゾルと共に周囲の空間の空気に分散する。更に、流出した圧縮空気は、気腫を生じさせる可能性がある。
【0014】
従って、本発明の課題は、上記の感染の危険、乃至気腫が発生する危険が低減されるように、医療器具又は美容器具、特に手持ち式器具のための転がり軸受を改良することである。好ましくは、既存の転がり軸受を、本発明による解決手段によって容易に拡張できることが望ましい。
【0015】
本発明による課題は、請求項1の特徴を備えた転がり軸受によって解決される。従属請求項には、本発明の有利で特に好適な実施の形態が記載されている。更に、その種の転がり軸受を備えた医療器具又は美容器具、並びにその種の転がり軸受にカバーディスクカバーディスクを取り付けるための方法が開示される。
【0016】
医療器具又は美容器具のための本発明による転がり軸受は、回転軸線を中心に回転する軸受内輪と、軸受内輪を同心状に包囲する固定型の軸受外輪と、を有する。回転軸線に対する半径方向において、軸受内輪と軸受外輪との間に軸受間隙が形成され、この軸受間隙には、複数の転動体が周方向に相前後して配置されており、それらの転動体を介して、軸受内輪が軸受外輪に支承されている。
【0017】
転動体は、軸受内輪及び軸受外輪上を転動するように配置されており、半径方向において、転動体高さを有する。転動体が球体である場合、転動体高さは球体の外径に相当する。
【0018】
軸受間隙は、本発明によれば、軸線方向において、軸受外輪に取り付けられているか、又は軸受外輪と一体的に形成されているカバーディスクカバーディスクによって覆われ、このカバーディスクは、軸受内輪と共に、軸線方向において所定の間隙長さにわたり延在する半径方向間隙を形成し、この半径方向間隙が半径方向において、間隙高さを有する。代替的に、カバーディスクは、軸受外輪を収容するか、又は軸受外輪と一体的に形成されているケーシングに取り付けることもできる。通常の場合、取り付け部は軸受外輪の軸線方向端部の直ぐ近くに配置されている。
【0019】
本発明によれば、間隙長さは、転動体高さの少なくとも25%であり、好ましくは、転動体高さの少なくとも50%である。
【0020】
転動体高さに対して相対的な間隙長さの寸法に基づき、カバーディスクによって、医療器具又は美容器具において、転がり軸受内部から流出する空気の流れを低減することができ、これによって、冒頭で述べたような、エアロゾルの形成による感染のリスク、乃至気腫の形成のリスクを十分に最小化することができ、また異なるタイプの転がり軸受に対して異なる高さの転動体を適用することができる。つまり、本発明者らは、例えば僅か0.5~3mm、特に0.8~1.2mm、例えば1mmの転動体高さが、転がり軸受を通過する空気流量に決定的な影響を与え、また転動体高さが大きくなるほど、空気流量も増加することに気付いたので、空気流量を低減するために、本発明に従い、相応により大きい間隙長さを設けることにした。
【0021】
半径方向間隙は、好ましくは、周囲に対して一貫して解放されている。つまり、半径方向間隙は、特に出口側においては、軸受内輪の静止状態においても回転状態においても、別のシール部材又は別のシールプレートによって閉鎖されない。
【0022】
好ましくは、軸線方向において、転動体側とは反対の軸線側では、半径方向間隙には、別のシール部材又はカバー部材は対向していない。
【0023】
好ましくは、間隙高さの最大高さは、転がり軸受の半径に関して、転動体高さの最大20%である。間隙高さの最小高さは、好ましくは、転がり軸受の動作温度における軸受内輪と軸受外輪との間の動作遊びよりも大きいので、動作遊びは、軸受内輪と転動体との間の遊びと、転動体と軸受外輪との間の遊びとから形成されている。この最小間隙高さによって、一方では、カバーディスクと軸受内輪との不所望な接触が回避され、他方では、カバーディスクの側における転がり軸受における空気の通過が効果的に最小限になる。
【0024】
カバーディスクと軸受内輪との間の半径方向間隙の間隙長さが、転動体高さの2倍又は3倍に制限されている場合には好適である。それを超える間隙長さは、構造的に煩雑であり、それよりも短い間隙長さに比べて効果が低いことが分かった。むしろ、始動を阻止するために、長い間隙長さは、より大きい半径方向間隙を必要とし、これは逆効果となる。
【0025】
特に好ましくは、カバーディスクは、軸受外輪の軸方向端面に取り付けられている。取り付けは、例えば、素材結合による取り付けであってよく、特に溶接、接着又は加硫による取り付けであってよい。しかしながら、形状結合又は力結合による接続も考えられる。
【0026】
本発明の特別な実施の形態によれば、カバーディスクは、軸線方向端部において、軸受外輪の外周面を放射状に周方向に包囲し、また特に、軸受外輪の、縁部が開放又は閉鎖されている半径方向凹部において、軸受外輪の半径方向外側の表面に取り付けられている。取り付けは、ここでもまた、素材結合であってもよいし、力結合(摩擦結合及び/又は形状結合であってもよい。例えば、溶接、接着、締り嵌め、クリップ留め、乃至機械的なスナップ(弾性の形状結合又は軸受外輪における逃げ溝及びサークリップを用いるクランプによる取り付けも考えられる。
【0027】
本発明の一実施の形態によれば、カバーディスクが、回転軸線を通る軸断面で見ると、回転軸線の両側においてそれぞれL字型であり、このL字型は、軸受外輪に配置されている半径方向脚部と、半径方向間隙を形成する軸線方向脚部とを備える。これによって、構造的に特に小型であって、既存の軸受に、若しくは既存の軸受環境に事後的に容易に実装可能な解決手段を達成することができる。好ましくは、軸線方向脚部が、半径方向脚部から始まり、転動体の方向にのみ、即ち軸受内部の方向にのみ延在する。
【0028】
代替的な実施の形態によれば、カバーディスクが、回転軸線を通る軸断面で見ると、回転軸線の両側においてそれぞれT字型であり、このT字型は、軸受外輪に配置されている半径方向脚部と、半径方向間隙を形成する軸線方向脚部とを備える。これによって、軸線方向脚部が、半径方向脚部から始まり、両方の軸線方向に延在し、また軸線方向脚部の一部を軸受内輪と軸受外輪との間の空間の内側に配置することができ、一部を軸受内輪と軸受外輪との間の空間の外側に配置することができる。原理的には、対応する空間内に完全に配置することも考えられる。
【0029】
T字型の解決手段でもって、過度に大きい自由な長さに起因して軸線方向脚部が不所望に湾曲又は破断する危険が生じることなく、特に大きい間隙長さを容易に達成することができる。
【0030】
一実施の形態によれば、カバーディスクのT字型の構成では、半径方向脚部から始まり、転動体の方向、即ち軸受内部の方向に延在する、軸線方向脚部の部分は、半径方向脚部から始まり、周囲の方向、即ち転動体から離れる方向に延在する軸線方向脚部の部分よりも長くてよい。
【0031】
本発明の好ましい実施の形態によれば、カバーディスクが、回転軸線周りの軸断面で見ると、半径方向に延在する、軸受外輪に配置されている半径方向脚部と、段部内において軸線方向に延在し、且つ段部内において半径方向間隙を形成する軸線方向脚部とをそれぞれ含む。従って、軸線方向脚部は、異なる直径の2つの部分を有するように延在する。軸線方向脚部は、軸受内輪に支承されている軸と共に半径方向間隙の一部を形成する第1の軸線方向部分と、軸受内輪と共に半径方向間隙の一部を形成する第2の軸線方向部分とを有し、半径方向間隙の2つの部分は、半径方向において相互にずらされており、即ち異なる直径に配置されている。従って、特に効果的なシールを達成することができる。
【0032】
本発明の一実施の形態によれば、半径方向間隙におけるシーリングエアカーテンを達成するために、カバーディスクには、半径方向に延在するか、又は軸線方向に対して傾斜して延在する少なくとも1つの孔を設けることができ、この孔は、間隙長さ内で半径方向間隙に開口している。これによって、空気は軸受間隙から、少なくとも1つの孔を通過して、半径方向間隙に流入することができ、所望のシーリングエアカーテンを形成することができる。好ましくは、複数の相応の孔が設けられており、それらの孔は、周方向において相前後して配置されており、規則的又は不規則的な間隔で、特に同一の間隔で相互に並んで配置されている。
【0033】
本発明の特に好ましい実施の形態によれば、転動体高さの少なくとも50%の間隙長さが設けられる場合、空気の流出を非常に効果的に低減することができ、更に構造的に非常に容易に実現することができる。更には、それと共に、既存の転がり軸受に事後的に容易に実装することができる。
【0034】
本発明の一実施の形態によれば、間隙高さが、間隙長さにわたり変化する。軸受を通過する媒体の流れの方向において、転動体の側から見て、間隙の断面積が好ましくは増大する。特に、流れの方向(転動体から離れる方向において、間隙高さが、間隙長さにわたり増大し、特に回転軸線を通る軸断面で見ると、線形に増大する。例えば、半径方向間隙の高さは、軸受内部の方向において、即ち転動体の方向において漸次的に小さくなる。
【0035】
一実施の形態によれば、カバーディスクは、少なくとも、軸受内輪に対応付けられた端部の領域では、軸線方向において弾性に変形可能である。これによって、カバーディスクにわたる圧力差が存在しない転がり軸受の静止状態では、転がり軸受の動作時のシールよりも強いシールを達成することができる。
【0036】
好ましくは、カバーディスクは、転がり軸受の静止状態では、軸受内輪の段部又は端面に位置しており、また軸受内輪の回転時には、カバーディスクに印加される差圧によって、段部又は端面から浮遊している。
【0037】
更に良好なシール効果を生じさせるために、カバーディスク及び/又は軸受内輪は、半径方向間隙に接して、半径方向間隙に存在する空気を、軸受内部の方向へ、即ち転動体の方向へ空気搬送させることを可能にする搬送輪郭を有する。例えば、この搬送輪郭は、半径方向間隙に接する、カバーディスク及び/又は軸受内輪の表面に、細溝、凹部及び/又は凸部を含む。特に、螺旋状の溝又は螺旋状の凸部が考えられる。しかしながら、他の溝形状も考えられ、例えば、軸線方向(回転軸線の方向に相並んで配置された個々の周方向溝も考えられ、これらの周方向溝は、軸断面において、例えば回転軸に対して垂直に、又は傾斜して延在することができる。
【0038】
特に、本発明による転がり軸受において、半径方向間隙に段部が設けられている場合、即ち半径方向間隙が、第1の直径から始まり、半径方向外側に第2の直径まで延在している場合には、カバーディスクの表面及び/又は軸受内輪の対向面における段部においても、空気を半径方向外側に向かって転がり軸受内部へと戻すように搬送する搬送輪郭を形成することができる。
【0039】
本発明の一実施の形態によれば、カバーディスクが、半径方向内側に、軸受外輪に挿入されている。これによって、転がり軸受が、分離可能な玉軸受として構成されている場合に、カバーディスクを介する、軸受外輪を収容するケーシングへの力の流れ、例えば転がり軸受を軸線方向において調節する際に生じる力の流れが回避される。特に、カバーディスクが軸受外輪に溶接されている場合には、溶接継ぎ目によって相応の力の流れが阻止される。
【0040】
有利な実施の形態によれば、軸受外輪が、半径方向内側に、即ち半径方向内側に向けられた表面に、縁部において開かれている半径方向溝を有し、この半径方向溝には、カバーディスクが挿入されている。これによって、例えば軸受外輪に溶接される前に、カバーディスクを軸受外輪において特に好適にセンタリングすることができる。特に、付加的なセンタリングツールは必要ない。
【0041】
本発明の好適な実施の形態によれば、転がり軸受のカバーディスク側とは反対の軸線方向側に、軸受内輪と共に第2の半径方向間隙を形成する、即ち半径方向間隙を画定する付加的なカバーディスクが設けられている。その種の付加的なカバーディスクは、特に転がり軸受への空気の流れを低減する。このカバーディスクも、軸受外輪に取り付けることができるか、又は軸受外輪とワンピースで形成することができる。特に、カバーディスクは、軸受外輪に溶接されている。
【0042】
転がり軸受が、分離可能な玉軸受の形態の単列の玉軸受として構成されている場合、好ましくは、カバーディスクの軸線方向側において軸受外輪に肩が設けられており、またカバーディスク側とは反対の軸線方向側において軸受内輪に肩が設けられている。これによって、軸受内輪のカバーディスク側とは反対の軸線方向側から、カバーディスクを備えた軸受外輪の軸線方向側の方向への斜めの力の流れを有する、軸受の軸線方向における調節を達成することができる。
【0043】
本発明による医療器具又は美容器具は、ツールを収容するための、又はツールを備えた回転する軸と、ここで説明するような軸受とを含む。医療器具は、例えば歯科用の手持ち式器具として構成されており、軸には、歯科用のツールが支承されているか、又は支承可能である。
【0044】
本発明による間隙寸法を可能な限り正確に調整できるようにするために、本発明による転がり軸受にカバーディスクを取り付けるための方法では、カバーディスクが、半径方向間隙においてスペーサを用いて軸受内輪に載置され、それによって軸受内輪に対してセンタリングされる。続いて、カバーディスクがセンタリングされた状態において、軸受外輪又はケーシングに固定され、それによって初めて、固定された状態において、スペーサが半径方向間隙から取り外される。
【0045】
スペーサとして、例えば、所定の厚さを有するシートを使用することができ、このシートが、半径方向間隙に挿入される。特に、先ずシートが、後に半径方向間隙を画定する領域において、軸受内輪に被着される。続いて、カバーディスクを、シート上にスライドさせることができ、それによってセンタリングさせることができる。最後に、カバーディスクを軸受外輪又はケーシングに固定させ、シートを取り外すことができる。
【0046】
特に好ましくは、カバーディスクが既存の軸受構成部品と衝突することなく、既存の転がり軸受に容易に事後的に実装できる形状を有する。代替的に、既存の軸受構成部品の幾何形状を適合させることができる。例えば、軸受内輪では、軸線方向端部に、カバーディスクが入り込む、特に縁部において開かれている凹部を設けることができる。別の実施の形態では、例えば転がり軸受が所謂かご形保持器を有する場合、軸受外輪と軸受内輪との間にいずれにせよ存在する構造空間を、カバーディスクの挿入のために使用することができる。
【0047】
本発明は、様々なタイプの転がり軸受に適用できる。分離可能な玉軸受及び溝玉軸受は一例に過ぎない。
【0048】
カバーディスクのための材料として、例えば、腐食耐性のある鋼(特に1.4301又は1.4305が適している。他の有利な材料は、殺菌耐性のあるポリマーPEEK又はPTFEである。
【0049】
有利には医療器具又は美容器具において、ツール又はツール収容部の近くに位置する軸受の軸線方向の軸受外側に設けられているカバーディスクは、転がり軸受の単一のカバーディスクであってよい。1つの別の実施の形態によれば、転がり軸受の反対側にもカバーディスクが設けられており、このカバーディスクはプレート状であってもよいし、本明細書において示す形状を有していてもよい。他の形状も可能である。
【0050】
1つの別の実施の形態によれば、医療器具又は美容器具において、ツール又はツール収容部の近くに位置する軸受の軸線方向の軸受内側に設けられているカバーディスクは、転がり軸受の単一のカバーディスクであってよい。これによって、カバーディスクは軸受への空気流入を制限し、従って軸受からの空気流出を間接的に制限する。1つの別の実施の形態によれば、転がり軸受の反対側にもカバーディスクが設けられており、このカバーディスクはプレート状であってもよいし、本明細書において示す形状を有していてもよい。他の形状も考えられる。
【0051】
以下では、実施例及び図面に基づき、本発明を例示的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】少なくとも1つの本発明による転がり軸受を設けることができる歯科用の手持ち式器具(デンタルハンドピース)の例示的な図を示す。
図2】本発明による転がり軸受の一実施例を示す。
図3】本発明による転がり軸受の別の実施例を示す。
図4】本発明による転がり軸受の別の実施例を示す。
図5】本発明による転がり軸受の別の実施例を示す。
図6】本発明による転がり軸受の別の実施例を示す。
図7】本発明による転がり軸受の別の実施例を示す。
図8】本発明による転がり軸受の別の実施例を示す。
図9】本発明による転がり軸受の別の実施例を示す。
図10】本発明による転がり軸受の別の実施例を示す。
図11】本発明による転がり軸受の別の実施例を示す。
図12】本発明による転がり軸受の別の実施例を示す。
図13】本発明による転がり軸受の別の実施例を示す。
図14】本発明による転がり軸受の別の実施例を示す。
図15】本発明による転がり軸受の別の実施例を示す。
図16】本発明による転がり軸受の別の実施例を示す。
図17】本発明による転がり軸受の別の実施例を示す。
図18】転がり軸受においてカバーディスクを取り付けるための、半径方向間隙におけるスペーサを示す。
図19】本発明による転がり軸受の別の実施例を示す。
図20】本発明による転がり軸受の別の実施例を示す。
図21】本発明による転がり軸受の別の実施例を示す。
図22図19から図21に示したXの細部を示す。
【0053】
図1には、歯科用の手持ち式器具が例示的に断面図で示されており、この断面図では、ヘッドケーシングとも称されるケーシング11の前部のみが図示されており、このケーシング11においては、軸12が転がり軸受13、14を用いて回転軸線5を中心に回転可能に支承されている。軸12には、タービンの形態のロータ15が取り付けられており、このロータ15は、圧縮空気によって駆動される。軸12の軸線方向端部には、ツール16を取り付けることができる。好ましくは、ツール側に配置されている転がり軸受13には、本発明によるカバーディスクを設けることができる。
【0054】
図2から図21には、本発明による転がり軸受、例えば図1における転がり軸受13についての種々の実施の形態が示されている。各転がり軸受は、好ましくは、図1におけるツール16に対向する側に、半径方向脚部又は径方向脚部9に続く軸線方向脚部10が設けられているカバーディスク6を有する。原理的には、転がり軸受13への空気流入を低減するために、カバーディスク6を、転がり軸受13の、ツール16側とは反対側にも設けることができる。
【0055】
半径方向脚部9は、転がり軸受の軸受外輪2に取り付けられており、軸線方向脚部10は、半径方向又は径方向において、少なくとも軸受内輪1の半径方向外側の表面と、次のように対向している。つまり、軸受内輪1が、カバーディスク6と共に、軸線方向における間隙長さLと半径方向における間隙高さHとを有する半径方向間隙又は径方向間隙7を形成するように、軸線方向脚部10は、少なくとも軸受内輪1の半径方向外側の表面と対向している。
【0056】
カバーディスク6は、軸線方向において、軸受内輪1と軸受外輪2との間の軸受間隙3を覆う。軸受間隙3には、転がり軸受の転動体4が支承されており、この転動体4は、軸受外輪2の半径方向内側の表面上及び軸受内輪1の半径方向外側の表面上を転動するので、回転軸線5を中心に回転する軸受内輪1は、転動体4を介して、静止した軸受外輪2に支承されている。
【0057】
転動体4は、半径方向において、転動体高さWHを有し、転動体高さWHは、図1に図示した歯科用の手持ち式器具では、例えば僅か1mmとすることができる。
【0058】
本発明によれば、間隙長さLは、転動体高さWHの少なくとも25%である。
【0059】
ここに図示した実施例では、間隙長さLは、好ましくは、転動体高さWHの少なくとも50%、特に70%以上である。
【0060】
間隙高さHの最小高さは、好ましくは、転動体4が介在している場合の、軸受内輪1と軸受外輪2との間の動作遊びよりも大きいので、転がり軸受の動作温度において測定される動作遊びは、特に半径方向における、転動体4に対する軸受内輪1の可動性と、軸受外輪2に対する転動体4の可動性とから生じる。
【0061】
間隙高さHの最大高さは、有利には、転動体高さWHの最大20%である。
【0062】
好ましくは、図2から図22より見て取れるように、軸受間隙3は、軸線方向において、その周囲に何も存在せずに開口している。このことは、軸受間隙3を軸線方向において部分的又は完全に覆う付加的なカバーディスク、カバー部材又はシーリングプレートが設けられていないことを意味する。
【0063】
図2から図5において、カバーディスクは、回転軸線5を通る軸断面で見ると、回転軸線5の一方の側における、その軸断面の半分をそれぞれ基準にして、L字型である。従って、軸線方向脚部10は、半径方向脚部9の軸側にのみ完全に延在している。
【0064】
軸線方向脚部10には、孔6.1を設けることができる。圧縮空気は、軸受間隙3から半径方向内側に向かって、孔6.1を介して半径方向間隙7に流れることができるので、孔6.1は、半径方向間隙7において、軸受間隙7におけるシーリングエアカーテンを生じさせる。孔6.1は、軸線方向乃至半径方向に対して傾斜して延在してもよいし、回転軸線5に対して垂直に延在してもよい。好ましくは、複数の相応の孔6.1が、回転軸線5を中心とした周方向に相前して配置されている。
【0065】
図6による実施の形態では、カバーディスク6は、回転軸線5を通る軸断面で見ると、回転軸線5の両側においてそれぞれT字型に形成されており、この場合においても、半径方向脚部9は半径方向に延在しており、また軸線方向脚部10は軸線方向に延在している。しかしながら、ここでは、軸線方向脚部10が、軸線方向において半径方向脚部9の両側に延在している。
【0066】
図2から図6に図示されているように、軸線方向脚部10が、回転軸線5を通る図示の軸断面において、軸線方向においてのみ延在している場合、つまり回転軸線5に平行に延在している場合に、軸受内輪1の半径方向外側の表面が、好ましくは、その軸線方向端部の方向において先細りしていれば、半径方向間隙7を、異なる高さHを有するように形成することができる。しかしながら、代替的に、カバーディスク6及び軸受内輪1の相互に対向する平行な相応の表面によって、間隙長さLにわたって一定の間隙高さHを有する半径方向間隙7を設けることもでき、その場合、それらの表面は、図示した軸断面において、回転軸線5に対して平行に配置されてもよいし、回転軸線5に対して傾斜して配置されてもよい。
【0067】
図3による構成では、転がり軸受のカバーディスク6側とは反対側に、付加的なカバーディスク18を設けることができることが更に示されており、この付加的なカバーディスク18は、転がり軸受内への空気の流入を低減する。このカバーディスク18も、軸受外輪2に取り付けることができるか、又は軸受外輪2とワンピースで形成することができ、また軸受内輪1と共に、第2の半径方向間隙又は第2の径方向間隙7’を形成することができる。代替的に、付加的なカバーディスク18は、軸受内輪1に接続されているか、又は軸受内輪1と一体型に(一体的に形成されており、それによって、軸受内輪1の回転に起因して、空気を半径方向外側に搬送するので、空気は、軸受間隙3に流入しないか、又は極少量しか軸受間隙3に流入しない。
【0068】
図7及び図8による構成では、カバーディスク6は、半径方向脚部9の他に、異なる直径において2つの軸線方向部分10.1及び10.2を備えた軸線方向脚部10を有し、これによって、段状の半径方向間隙7が形成される。第1の軸線方向部分10.1は、軸12の半径方向外側の表面と共に、半径方向間隙7の軸線方向の一部を形成する。このために、第1の軸線方向部分10.1は、軸受間隙3側乃至転動体4側とは反対側において、半径方向脚部9に接続されている。第2の軸線方向部分10.2は、転動体4と対向する側において、半径方向脚部9に接続されて、軸受内輪1の半径方向外側の表面と共に、半径方向間隙7の一部を形成する。半径方向間隙7の2つ部分は、半径方向間隙7の半径方向部分によって相互に接続されている。半径方向部分は、軸受内輪1の端面1.1と、カバーディスク6の対向する表面、例えば半径方向脚部9の表面とによって形成される。この段付けによって、半径方向間隙7を通る圧縮空気の通流が更に低減される。
【0069】
図8による構成は、図7の構成にほぼ対応する。しかしながら、軸線方向脚部10の第2の軸線方向部分10.2に対向する軸受内輪1の軸線方向端部部分は、回転軸線5に対して比較的大きく傾斜しているので、半径方向間隙7は、軸受内部に向かう経過にわたり、即ち転動体4の方向において、比較的大きく減少する。
【0070】
図9による構成は、ここに図示する他の実施の形態と同様に、軸受外輪2の一方の軸線方向端部に半径方向凹部又は径方向凹部8を示す。この半径方向凹部8には、有利には、軸受外輪2をケーシングに対して支持するために、例えば、ゴムリング、有利にはOリングの形態のシール部材及び/又は減衰部材を収容することができる。この半径方向凹部8が設けられているにもかかわらず、カバーディスク6は、軸受外輪2の軸方向端面に取り付けられており、軸受外輪2の周囲には係合していない。
【0071】
図2から図9及び図19から図21による実施の形態では、転動体4は、軸線方向において、一方の側にのみ軸受内輪1に案内されているが、これに対して、軸受外輪2は、軸線方向において両側で転動体4に係合している。図10による構成では、これが逆になっている。即ち、軸受は、それぞれ好適には分離可能な玉軸受である。転動体4による斜め方向への力の流れにより玉軸受の軸線方向における調節を達成するために、玉軸受が、アンギュラコンタクト玉軸受として構成されていてもよい。つまり、それに応じて、転動体4が、軸線方向において、軸受外輪2の一方の側においてのみ案内され、しかも軸受内輪1におけるガイドとは反対側の軸線方向側においてのみ案内される。
【0072】
更に、図10による構成では、軸受内輪1が段部1.2を形成するので、半径方向間隙7が、半径方向に延在する部分を有する。しかしながらここでは、この部分は、軸受内輪1の端面1.1によっては形成されない。しかしながら、端面1.1には、別の段部が設けられてもよい。
【0073】
一実施例によれば、段部1.2の軸線方向端部と、カバーディスク6との間には、相応の軸線方向間隙が常に残存する。1つの別の実施例によれば、カバーディスク6が弾性に変形可能であり、軸受の静止状態では、カバーディスク6が段部1.2に当接する。
【0074】
図11による構成は、図10の構成にほぼ対応するが、ここでは、転動体4が軸線方向において、軸受内輪1及び軸受外輪2によって両側で係合される。即ち、好適には、溝玉軸受である。また、転動体4が保持される保持器19の構成も、前述の実施の形態とは異なる。つまり、保持器19は冠型保持器として構成されており、転動体4が軸線方向において両側で保持器19に保持される前述の実施の形態とは異なり、転動体4を一方の軸線方向側においてのみ包囲する。しかしながら、これらの詳細は必須ではない。
【0075】
図12によると、カバーディスク6は、軸線方向端部において軸受外輪2に係合し、半径方向凹部8にまで達する。この場合、カバーディスク6は、例えば半径方向外側において、軸受外輪2に押圧されている。
【0076】
図13による構成では、半径方向凹部8内に周方向溝20が設けられており、この周方向溝20にカバーディスク6が半径において外側から形状結合により係合される。
【0077】
図14による構成では、転がり軸受が静止しているときに、カバーディスク6が、その軸線方向脚部10によって、軸受内輪1の端面側において段部1.2に当接する。動作時には、圧力差に起因して、カバーディスク6が弾性に変形することによって、カバーディスク6と軸受内輪1との間の接触が解消される。
【0078】
図15による構成では、カバーディスク6が、図示した他の実施の形態と比較すると、転がり軸受の同等の他方の軸線方向端部に配置されている。これは、図1における転がり軸受13の内側端部であってよい。従って、この構成では、転がり軸受への空気の流入が低減されるので、それに応じて、外側端部においても、転がり軸受からの空気の流出を少なくすることもできる。カバーディスク6は、上記において説明したように、種々に形成することができる。カバーディスク6側とは反対側の端部には、付加的なカバーディスク18が設けられており、この付加的なカバーディスク18は、例えば、軸受外輪2の逃げ溝にスナップリング21でもって固定されている。
【0079】
しかしながら、カバーディスク6がツール側に位置決めされ、且つ付加的なカバーディスク18がツール16側とは反対側に位置決めされることで、2つのカバーディスク6、18の機能が相応に逆転するように、図15による転がり軸受を、例えば図1に示した手持ち式器具に配置することも可能である。この場合、付加的なカバーディスク18は、軸受間隙3への空気の流入を低減し、カバーディスク6は、軸受間隙3からの空気の流出を低減することになる。
【0080】
図16においても、溝玉軸受を形成するために、転動体4が軸線方向において、軸受内輪1及び軸受外輪2によって両側で包囲される。ここでもまた、カバーディスク6の他に、付加的なカバーディスク18が設けられており、この付加的なカバーディスク18は、ここでは、軸受外輪2の軸方向端面に取り付けられており、例えば素材結合により取り付けられている。
【0081】
図17による構成では、カバーディスク6が、相応の間隙長さを有する半径方向間隙7を形成するだけでなく、付加的なカバーディスク18も、半径方向間隙7’の相応の間隙長さを形成するための軸線方向脚部10を有する。
【0082】
従って、付加的なカバーディスク18については、上記においてカバーディスク6について説明したことが当てはまり、構成を相応に変更することができる。
【0083】
図18においては、カバーディスク6を転がり軸受に取り付ける際に、半径方向外側においては、調整すべき半径方向間隙7に対応する厚さを有する例えばシートの形態のスペーサ17が軸受内輪1に被着されることが概略的に図示されている。カバーディスク6は、スペーサ17と共に、半径方向間隙に配置されて、軸受内輪1に載置され、またそれによって、軸受内輪1に対してセンタリングされる。続いて、カバーディスク6がセンタリングされた状態において、軸受外輪2に固定され、その後に初めて、スペーサ17が半径方向間隙7から取り外される。
【0084】
図19から図21による実施の形態では、カバーディスク6が、軸受外輪2の半径方向内側に挿入されている。好ましくは、特に図22に示されている細部Xから見て取れるように、軸受外輪2は、カバーディスク6が挿入されている半径方向内側の、縁部において開かれている半径方向溝22を有する。
【0085】
軸受外輪2とカバーディスク6との間には、特に半径方向溝又は径方向溝22内には、カバーディスク6を軸受外輪2に溶接する前に、半径方向遊びを設けることができるので、それによって、軸受内輪1の周面にわたり一定の半径方向間隙7を形成するために、カバーディスク6を軸受内輪1に対してセンタリングすることができる。
【0086】
図21による構成においても、カバーディスク6を備えた軸線方向端部に対向する、軸受外輪2の軸線方向端部に、付加的なカバーディスク18が設けられており、この付加的なカバーディスク18は、軸受内輪1と共に、第2の半径方向間隙7’を形成する。この第2の半径方向間隙7’は、転がり軸受への空気の流入を阻止又は低減する。
【0087】
図20による構成では、カバーディスク6の軸線方向脚部10に孔6.1が設けられており、この孔6.1の機能は、例えば上記において図9に基づいて説明した機能である。
【0088】
更に、図20及び図21による実施の形態は、図19の実施の形態に対応する。
【0089】
図19から図21による構成においても、カバーディスク6は、好ましくはL字型に形成されており、軸線方向脚部10は、好ましくは半径方向脚部9から始まり転動体4の方向に延在している。半径方向間隙7は、例えば、軸線方向脚部10に対向する、軸受内輪1の半径方向外側の表面を僅かに傾斜するように配向させることによって、先細りさせることができる。
【0090】
図19から図21においても、転がり軸受は分離可能な玉軸受として構成されていてもよく、カバーディスク6の軸線方向側において、軸受外輪2に肩23を備え、またカバーディスク6側とは反対の軸線方向側において、軸受内輪1に肩23を備える。更に、カバーディスク6側とは反対の軸線方向側において、軸受外輪2に肩23が設けられている。この肩23は、転がり軸受がアンギュラコンタクト玉軸受として構成されている場合には省略されてもよい。
【0091】
肩23によって、軸受内輪1から転動体4を介して軸受外輪2へと向かう斜め方向の力の流れが生じる。
【0092】
半径方向内側で軸受外輪2に挿入されたカバーディスク6を有する構成においても、軸受外輪2は、半径方向凹部8、特に縁部において開かれている半径方向凹部8を、好ましくは軸線方向端部に有することができる。この半径方向凹部8には、有利には、軸受外輪2をケーシングに対して支持するために、例えば、ゴムリング、有利にはOリングの形態のシール部材及び/又は減衰部材を収容することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 軸受内輪
1.1 端面
1.2 段部
2 軸受外輪
3 軸受間隙
4 転動体
5 回転軸線
6 カバーディスク
6.1 孔
7 半径方向間隙
7’ 第2の半径方向間隙
8 半径方向凹部
9 半径方向脚部
10 軸線方向脚部
10.1 第1の軸線方向部分
10.2 第2の軸線方向部分
11 ケーシング
12 軸
13 転がり軸受
14 転がり軸受
15 ロータ
16 ツール
17 スペーサ
18 付加的なカバーディスク
19 保持器
20 周方向溝
21 スナップリング
22 半径方向溝
23 肩
H 間隙高さ
L 間隙長さ
WH 転動体高さ
図1
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【外国語明細書】