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特開2022-112022相対位置検出システム、相対位置検出方法及び位置情報送信装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112022
(43)【公開日】2022-08-01
(54)【発明の名称】相対位置検出システム、相対位置検出方法及び位置情報送信装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/04 20100101AFI20220725BHJP
   G01S 19/43 20100101ALI20220725BHJP
【FI】
G01S19/04
G01S19/43
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006788
(22)【出願日】2022-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2021007561
(32)【優先日】2021-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】518212241
【氏名又は名称】公立大学法人公立諏訪東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠司
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062AA09
5J062BB08
5J062CC07
5J062DD24
5J062EE04
(57)【要約】
【課題】崖地などに設置して電池で長期間動作し、なおかつ、数cm程度の位置精度を実現することの可能な、相対位置検出システムを提供する。
【解決手段】演算手段6と、通信回線により演算手段6に接続された受信基地局5と、それぞれが複数のGNSS衛星から送出される電波の搬送波位相の瞬時値をGNSS時刻に同期した所定のサンプリングタイミングで取得して、取得した搬送波位相の瞬時値を受信基地局5に無線送信することにより、搬送波位相の瞬時値を演算手段6に送信する複数の位置情報送信装置2A,2Bと、通信回線により演算手段6に接続され、GNSS衛星の衛星軌道情報を取得して、当該衛星軌道情報を演算手段6に送信する衛星情報取得手段4とを含み、演算手段6は、搬送波位相の瞬時値と衛星軌道情報とを用いて複数の位置情報送信装置2A,2Bの相対位置を検出することを特徴とする相対位置検出システム1。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
演算手段と、
通信回線により前記演算手段に接続された受信基地局と、
それぞれが複数のGNSS(Global Navigation Satellite System)衛星から送出される電波の搬送波位相の瞬時値をGNSS時刻に同期した所定のサンプリングタイミングで取得し、取得した前記搬送波位相の瞬時値を前記受信基地局に無線送信することにより、前記搬送波位相の瞬時値を前記演算手段に送信する複数の位置情報送信装置と、
通信回線により前記演算手段に接続され、GNSS衛星の衛星軌道情報を取得して、取得した前記衛星軌道情報を前記演算手段に送信する衛星情報取得手段とを含み、
前記演算手段は、前記搬送波位相の瞬時値と前記衛星軌道情報とを用いて前記複数の位置情報送信装置の相対位置を検出することを特徴とする相対位置検出システム。
【請求項2】
前記演算手段は、前記搬送波位相の2重位相差演算を用いて前記複数の位置情報送信装置の相対位置を検出することを特徴とする請求項1に記載の相対位置検出システム。
【請求項3】
前記複数の位置情報送信装置から前記受信基地局への送信レートは、前記衛星情報取得手段から前記演算手段への送信レートよりも低速であることを特徴とする請求項1又は2に記載の相対位置検出システム。
【請求項4】
前記複数の位置情報送信装置から前記受信基地局への無線送信は、長距離通信可能かつ低消費電力のLPWA(Low Power Wide Area)無線通信手段により行われることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の相対位置検出システム。
【請求項5】
前記所定のサンプリングタイミングの間隔が1分間以上に設定されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の相対位置検出システム。
【請求項6】
複数の計測地点において、複数のGNSS衛星から送出される電波の搬送波位相の瞬時値をGNSS時刻に同期した所定のサンプリングタイミングで取得して、取得した前記搬送波位相の瞬時値を少なくとも無線送信を含む通信手段により演算手段に伝送し、
複数のGNSS衛星の衛星軌道情報を取得して、取得した前記衛星軌道情報を前記演算手段に伝送し、
前記演算手段においては、前記搬送波位相の瞬時値と前記衛星軌道情報とを用いて前記複数の計測地点間の相対位置を検出することを特徴とする相対位置検出方法。
【請求項7】
前記搬送波位相の2重位相差演算を用いて前記複数の計測地点間の相対位置を検出することを特徴とする請求項6に記載の相対位置検出方法。
【請求項8】
無線送信の送信レートは、前記衛星情報の伝送レートよりも低速であることを特徴とする請求項6又は7に記載の相対位置検出方法。
【請求項9】
前記無線送信に長距離通信可能かつ低消費電力のLPWA(Low Power Wide Area)無線通信手段を用いることを特徴とする請求項6~8のいずれかに記載の相対位置検出方法。
【請求項10】
前記所定のサンプリングタイミングの間隔が1分間以上であることを特徴とする請求項6~9いずれかに記載の相対位置検出方法。
【請求項11】
前記複数の計測地点の相対位置は、
前記複数の計測地点における2つの計測地点のうちの基準となる計測地点のGNSSアンテナを出発点とし、前記2つの計測地点のうちの他の計測地点のGNNSアンテナを終着点として算出される3次元の相対距離ベクトルPで表され、当該相対距離ベクトルPは、当該相対距離ベクトルの推定値として3次元の推定相対距離ベクトルReを推定し、
前記推定された推定相対距離ベクトルReに対して、位置誤差評価の指標となる誤差評価値Eを演算して算出し、
前記誤差評価値Eを最も小さくする推定相対距離ベクトルを定め、定められた推定相対距離ベクトルを前記相対距離ベクトルPとして出力することを特徴とする請求項6~10のいずれかに記載の相対位置検出方法。
【請求項12】
前記搬送波位相の瞬時値から2重位相差φ(n)を求め、
前記推定相対距離ベクトルReに基づいて推定2重位相差φ“(n)を求めて、
前記2重位相差φ(n)と前記推定2重位相差φ“(n)との差異に応じた前記誤差評価値Eを演算することを特徴とする請求項11に記載の相対位置検出方法。
【請求項13】
前記推定2重位相差φ“(n)は、
前記複数のGNSS衛星の衛星軌道情報を用いて前記所定サンプリングタイミングにおける前記複数のGNSS衛星の位置情報を算出し、
前記複数のGNSS衛星のうちの1つを基準衛星としたとき、前記複数のGNSS衛星の位置情報から前記基準衛星の基準衛星位置座標(X(0),Y(0),Z(0))を抽出するとともに、前記GNSS衛星の位置情報から前記基準衛星以外の各衛星の位置座標(X(n),Y(n),Z(n))を抽出し、
前記基準となる計測地点の位置座標(Xr, Yr, Zr)を求め、
前記基準衛星位置座標(X(0),Y(0),Z(0))と、前記各衛星nの位置座標(X(n),Y(n),Z(n))と、前記基準となる計測地点の位置座標(Xr, Yr, Zr)とにより波数ベクトルk(n)を算出し、
前記波数ベクトルk(n)と前記推定相対距離ベクトルReとの内積演算により、推定2重位相差φ’(n)を求め、当該推定2重位相差φ’(n)に対して、2πを法とする剰余演算を適用することにより求めることを特徴とする請求項12に記載の相対位置検出方法。
【請求項14】
複数のGNSS衛星から送出される電波を受信するとともに、前記電波に含まれる搬送波位相と衛星軌道情報とを出力する衛星信号受信部と、
前記衛星軌道情報からGNSS時刻情報を検出する演算部と、
前記衛星信号受信部から出力された前記搬送波位相を所定のサンプリングタイミングでサンプリングして、搬送波位相の瞬時値を取得するサンプリング手段と、
前記サンプリング手段により取得された前記搬送波位相の瞬時値を無線送信する無線通信部とを含み、
前記所定のサンプリングタイミングが、前記GNSS時刻情報に同期していることを特徴とする位置情報送信装置。
【請求項15】
前記所定のサンプリングタイミングが前記GNSS時刻情報で定まる所定時刻であることを特徴とする請求項14に記載の位置情報送信装置。
【請求項16】
前記無線通信部は、長距離通信可能かつ低消費電力のLPWA(Low Power Wide Area)無線通信手段により、前記搬送波位相の瞬時値を無線送信することを特徴とする請求項14又は15に記載の位置情報送信装置。
【請求項17】
前記所定のサンプリングタイミングの間隔が1分間以上であることを特徴とする請求項14~16のいずれかに記載の位置情報送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対位置検出システム、相対位置検出方法及び位置情報送信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地滑り等の災害が発生しそうな危険地帯においては、地盤や構造物のわずかな変位を監視するためにGPS(Global Positioning System)、またはGNSS(Global Navigation Satellite System)を用いた地盤監視システムが提案されている。ここでGPSは米国が運営する衛星を、GNSSは米国を含めて日本、ヨーロッパ、中国などの国々が打ち上げた人工衛星システムを表す用語である。本発明ではGNSSという用語に統一して説明するが、本発明がGPSに適用できることは言うまでもない。
【0003】
GNSSの位置検出方法は、コード位相を検出する方法と、搬送波位相を検出する方法の2通りに大別できる。カーナビゲーションなど、広く一般的に用いられているのはコード位相を検出する方法である。GNSS衛星から送られるコード信号は約1MHzで変化するので、数メートル~数十メートルの誤差で地球上の位置を確定できる。これに対して搬送波位相を検出する方法は、搬送波周波数(1.5GHz)を検出することにより格段に高い精度(数センチメートル以下)が得られる。
【0004】
本発明は、GNSS衛星から送出される電波の搬送波位相を検出して、地盤や構造物のわずかな変位を検出することにより、地滑りや土砂崩れなどの検出を可能とする相対位置検出システム及び相対位置検出方法並びにGNSS衛星から送出される電波の搬送波位相を送信する位置情報送信装置に関する。
【0005】
搬送波位相を検出するGNSSの受信方式として、スタティック方式とキネマティック方式が知られている。スタティック方式は、測量などに使われる超高精度(誤差数mm)を実現する方式であり、搬送波位相を連続観測しなければならない。このため消費電力が大きくなり、商用電源が供給されない場所での地滑りや土砂崩れの検出には使うことができない。
【0006】
キネマティック方式は、搬送波位相の積算値を毎秒転送することで、高精度(誤差数cm)の相対位置検出を可能とする。例えば特許文献1には、GNSS衛星が送信する電波を受信して、その搬送波位相の積算値をカウントし、一定時間毎にセンタに伝送し、センタでは受信した位相の積算値に基づいて受信点位置(基線ベクトル)を求める方法が示されている。
【0007】
このキネマティック方式を使って地滑りや土砂崩れを検出するためには、複数の衛星からの搬送波位相積算値を途切れなく連続伝送することが必要となる。このため少なくとも1kbps以上の伝送レートが必要になるが、地滑りや土砂崩れの危険地点ではネットワークが整っていない場合が多く、そのような場合は適用できないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3532267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明では、崖地などに設置して電池で長期間動作し、なおかつ、数cm程度の位置精度を実現することの可能な、相対位置検出システム、相対位置検出方法及び位置情報送信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]本発明の相対位置検出システム1は、演算手段6、通信回線により前記演算手段6に接続された受信基地局5と、それぞれが複数のGNSS(Global Navigation Satellite System)衛星から送出される電波の搬送波位相の瞬時値をGNSS時刻に同期した所定のサンプリングタイミングで取得し、取得した前記搬送波位相の瞬時値を前記受信基地局に無線送信することにより、前記搬送波位相の瞬時値を前記演算手段6に送信する複数の位置情報送信装置2A,2Bと、通信回線により前記演算手段に接続され、GNSS衛星の衛星軌道情報を取得して、取得した前記衛星軌道情報を前記演算手段6に送信する衛星情報取得手段4とを含み、前記演算手段6は、前記搬送波位相の瞬時値と前記衛星軌道情報とを用いて前記複数の位置情報送信装置の相対位置を検出する相対位置検出システム1である。
【0011】
[2]本発明の相対位置検出システム1において、前記演算手段6は、前記搬送波位相の2重位相差演算を用いて前記複数の位置情報送信装置2A,2Bの相対位置を検出することが好ましい。
【0012】
[3]本発明の相対位置検出システム1において、前記複数の位置情報送信装置2A,2Bから前記受信基地局5への送信レートは、前記衛星情報取得手段4から前記演算手段6への送信レートよりも低速であることが好ましい。
【0013】
[4]本発明の相対位置検出システム1において、前記複数の位置情報送信装置2A,2Bから前記受信基地局5への無線送信は、長距離通信可能かつ低消費電力のLPWA(Low Power Wide Area)無線通信手段により行われることが好ましい。
【0014】
[5]本発明の相対位置検出システム1において、前記所定のサンプリングタイミング(SEC00)の間隔が1分間以上に設定されていることが好ましい。
【0015】
[6]本発明の相対位置検出方法は、複数の計測地点において、複数のGNSS衛星から送出される電波の搬送波位相の瞬時値をGNSS時刻に同期した所定のサンプリングタイミングで取得して、取得した前記搬送波位相の瞬時値を少なくとも無線送信を含む通信手段により演算手段に伝送し、複数のGNSS衛星の衛星軌道情報を取得して、取得した前記衛星軌道情報を前記演算手段に伝送し、前記演算手段においては、前記搬送波位相の瞬時値と前記衛星軌道情報とを用いて前記複数の計測地点間の相対位置を検出する相対位置検出方法である。
【0016】
[7]本発明の相対位置検出方法において、前記搬送波位相の2重位相差演算を用いて前記複数の位置情報送信装置2A,2Bの相対位置を検出することが好ましい。
【0017】
[8]本発明の相対位置検出方法において、前記無線送信の送信レートは、前記衛星情報の伝送レートよりも低速であることが好ましい。
【0018】
[9]本発明の相対位置検出方法において、前記無線送信に長距離通信可能かつ低消費電力のLPWA(Low Power Wide Area)無線通信手段を用いることが好ましい。
【0019】
[10]本発明の相対位置検出方法において、前記所定のサンプリングタイミング(SEC00)の間隔が1分間以上であることが好ましい。
【0020】
[11]本発明の相対位置検出方法において、前記複数の計測地点の相対位置は、前記複数の計測地点における2つの計測地点のうちの基準となる計測地点のGNSSアンテナを出発点とし、前記2つの計測地点のうちの他の計測地点のGNNSアンテナを終着点として算出される3次元の相対距離ベクトルPで表され、当該相対距離ベクトルPは、当該相対距離ベクトルの推定値として3次元の推定相対距離ベクトルReを推定し、前記推定された推定相対距離ベクトルReに対して、位置誤差評価の指標となる誤差評価値Eを演算して算出し、前記誤差評価値Eを最も小さくする推定相対距離ベクトルを定め、定められた推定相対距離ベクトルを前記相対距離ベクトルPとして出力することが好ましい。
【0021】
[12]本発明の相対位置検出方法において、前記搬送波位相の瞬時値から2重位相差φ(n)を求め、前記推定相対距離ベクトルReに基づいて推定2重位相差φ“(n)を求めて、前記2重位相差φ(n)と前記推定2重位相差φ“(n)との差異に応じた前記誤差評価値Eを演算することが好ましい。
【0022】
[13]本発明の相対位置検出方法において、前記推定2重位相差φ“(n)は、前記複数のGNSS衛星の衛星軌道情報を用いて前記所定サンプリングタイミングにおける前記複数のGNSS衛星の位置情報を算出し、前記複数のGNSS衛星のうちの1つを基準衛星としたとき、前記複数のGNSS衛星の位置情報から前記基準衛星の基準衛星位置座標(X(0),Y(0),Z(0))を抽出するとともに、前記GNSS衛星の位置情報から前記基準衛星以外の各衛星の位置座標(X(n),Y(n),Z(n))を抽出し、前記基準となる計測地点の位置座標(Xr, Yr, Zr)を求め、前記基準衛星位置座標(X(0),Y(0),Z(0))と、前記各衛星nの位置座標(X(n),Y(n),Z(n))と、前記基準となる計測地点の位置座標(Xr, Yr, Zr)とにより波数ベクトルk(n)を算出し、前記波数ベクトルk(n)と前記推定相対距離ベクトルReとの内積演算により、推定2重位相差φ’(n)を求め、当該推定2重位相差φ’(n)に対して、2πを法とする剰余演算を適用することにより求めることが好ましい。
【0023】
[14]本発明の位置情報送信装置2は、複数のGNSS衛星から送出される電波を受信するとともに、前記電波に含まれる搬送波位相と衛星軌道情報とを出力する衛星信号受信部221と、前記衛星軌道情報からGNSS時刻情報を検出する演算部23と、前記衛星信号受信部221から出力された前記搬送波位相を所定のサンプリングタイミングでサンプリングして、搬送波位相の瞬時値を取得するサンプリング手段25と、前記サンプリング手段25により取得された前記搬送波位相の瞬時値を無線送信する無線通信部26とを含み、前記所定のサンプリングタイミングが、前記GNSS時刻情報に同期している位置情報送信装置2である。
【0024】
[15]本発明の位置情報送信装置2において、前記所定のサンプリングタイミングが前記GNSS時刻情報で定まる所定時刻であることが好ましい。
【0025】
[16]本発明の位置情報送信装置2において、前記無線通信部26は、長距離通信可能かつ低消費電力のLPWA(Low Power Wide Area)無線通信手段により前記搬送波位相の瞬時値を無線送信することが好ましい。
【0026】
[17]本発明の位置情報送信装置2において、前記所定のサンプリングタイミング(SEC00)の間隔が1分間以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の相対位置検出システム、相対位置検出方法及び位置情報送信装置によれば、GNSS時刻に同期したサンプリングタイミングで取得した搬送波位相の瞬時値を位置情報送信装置から取得するとともに、別途設けたGNSS受信機(衛星情報取得手段)から衛星情報を取得し、これら搬送波位相の瞬時値と衛星情報とを用いて複数の位置情報送信装置の相対位置を検出することができる。このため、位置情報送信装置においては、極めて低いサンプリングレート(例えば1分に1回)で搬送波位相の瞬時値を取得して送信すればよくなるので、搬送波位相を用いた高精度位置検出を極めて低消費電力で行うことが可能となり、例えば電池で動作させることも可能となる。また、無線伝送される情報量を極めて小さくすることが可能となるため、例えばLPWAのような低消費電力かつ長距離の無線伝送システムを用いることにより、従来の携帯電話が圏外となるような山中に設置して、山中での崖崩れを検出することも可能となる。その結果、本発明によれば、崖地などに設置して電池で長期間動作し、なおかつ、数cm程度の位置精度を実現することが可能な、相対位置検出システム、相対位置検出方法及び位置情報送信装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】従来法1によるGNSS位置情報送信装置40の構成図である。
図2】従来法2によるGNSS位置情報送信装置41の構成図である。
図3】搬送波位相の瞬時値と積算位相の差異を説明する模式図である。
図4】積算位相検出方式の実験構成図である。
図5】積算位相検出方式の実験結果である。
図6】実施形態1に係る位置情報送信装置2の構成図である。
図7】実施形態1に係る位置情報送信装置2が送出するLPWA無線信号のペイロード構成 を示す図である。
図8】実施形態1に係る相対位置検出システム1の構成図である。
図9】実施形態1に係る相対位置検出システム1を用いた相対位置検出方法を示す図である。
図10】実施形態1に係る相対位置検出システム1を用いて実施形態2に係る相対位置検出方法を説明する図である。。
図11】実施形態2に係る相対位置検出システムにおける演算サーバ6の演算方法を説明する解説図である。
図12】実験を行うために2本のGNSSアンテナA1,B1を2階建ての建物の屋上に所定間隔で設置した例を示す図である。
図13】実験により得られた相対距離Rの計測結果を示す図である。
図14】実験により得られた南北線L1に対する水平方位角α及び水平面L2に対する上下方向の角度βの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図に示す実施形態を用いて本発明を従来法と対比しながら説明する。まずは、従来法について説明する。
【0030】
[従来法1]
図1は、従来法1によるGNSS位置情報送信装置40の構成図である。GNSS位置情報送信装置40は、コード信号(コード位相情報)を検出するGNSS位置情報送信装置であって、カーナビゲーションなどに搭載されている一般的なGNSS位置情報送信装置である。公知技術であるので簡略化して説明する。アンテナ20により各GNSS衛星からの電波が受信され、衛星信号受信部221により各衛星のコード位相情報と衛星軌道情報(エフェメリス)が受信され、演算部23に提供される。フロントエンド21は微弱な受信信号をフィルタで抽出し、増幅してから低周波数信号(IQ信号)に変換し、複数の衛星受信部221に供給する。衛星受信部221は図示しない同期部、乱数発生部、逆拡散部や復号部等で構成され、各衛星のコード位相情報と衛星軌道情報を出力する。
【0031】
演算部23は、衛星軌道情報から各衛星の衛星位置(X(n), Y(n), Z(n))を求め、コード位相情報から各衛星と受信点の距離(疑似距離)を求める。演算部23は、4つ以上の衛星位置と疑似距離から形成される連立方程式を解くことにより、受信点の位置(Xr,Yr,Zr)と、正確なGNSS時刻とを出力する。GNSS時刻に正確に一致したパルスとして、例えば1秒に1回の「1PPS」信号を出力する。
【0032】
ところでコード信号の変調周波数は約1MHzなので、図1に示す装置で検出される位置(Xr,Yr,Zr)は、数メートル~数十メートルの計測誤差を含んでいる。本発明で目標としている、地盤や構造物のわずかな変位を検出する目的には、精度が足りず使うことができない。
【0033】
[従来法2]
図2は、従来法2によるGNSS位置情報送信装置41の構成図である。GNSS位置情報送信装置41は、搬送波位相を検出する位置情報送信装置である。搬送波周波数(1.5GHz)は変調周波数(約1MHz)よりも格段に周波数が高いので、誤差数センチメートルの高精度を実現できる。図2において衛星信号受信部221は、コード位相情報、衛星軌道情報に加えて各衛星の搬送波位相(φ1,φ2,・・・,φM)を出力する。搬送波位相は、-πからπまでの範囲で変化する信号であり、位相境界を跨ぐ度に「位相飛び」が発生する。そこで位相積算部222は、搬送波位相を積算していくことにより、積算位相(φs(1),φs(2),・・・,φs(M))として出力する。積算位相とすることにより、「位相飛び」の影響を減らすことができる。
【0034】
図3は、搬送波位相の瞬時値と積算位相との差異を説明する模式図である。この図3に示す例では、時刻t=0に搬送波位相の計測が開始されるものとして、時刻t=Tにおけるn番目の衛星の搬送波位相の瞬時値φ(n)と積算位相φs(n)とを模式的に表示している。この図3において、搬送波位相の瞬時値φ(n)は+πから-πまでの間に折りたたまれるので、時刻t=Tの時点においてはφ(n)=0となり、観測開始からどれだけ位相が回転したかを伺い知ることはできない。これに対して、時刻t=Tの時点における積算位相φs(n)は7πとなり、観測開始から位相が3回転し、さらにπだけの位相偏移があったことが解る。
【0035】
積算位相(φs(1),φs(2),・・・,φs(M))は、ラッチ25により1秒毎にその値が保持される。1秒間の積算値なので、各積算位相は30ビット以上の情報量である。これら積算位相は、無線通信部26によってアンテナ27から送信される。公知技術であるので詳細は省くが、搬送波位相を使った高精度相対位置検出では、図示しない受信装置によって積算位相(φs(1),φs(2),・・・,φs(M))が受信され、異なる受信装置間で位相差が計算され、さらに異なる衛星間の位相差が演算される。2回の位相差を求めることから、2重差位相演算と呼ばれる演算であり、電離層の影響や受信装置の周波数ずれ等が除去される。最後に2πの整数倍の位相不確定性が除去されて高精度位置情報が出力される。2πの整数倍となる位相不確定性のことを、「整数値バイアスN」と一般に呼ばれる。従来法2においては、この整数値バイアスNの値を、受信した衛星毎に正しく定めることが難しいという課題がある。
【0036】
図4は、積算位相検出方式の実験構成図である。図5は、積算位相検出方式の実験結果である。図4において、GNSS位置情報送信装置41Bは、初期状態において場所Aに設置した。ここで場所Aは、GNSS位置情報送信装置41Aが置かれた場所(基準位置)から1m離れた地点である。この実験では20秒毎に、41Bの設置場所を10cmずつシフトして、A→B→C→D→E→F→Gと移動させた。
【0037】
GNSS位置情報送信装置41Aを基準位置、GNSS衛星3Bを基準衛星として、GNSS位置情報送信装置41Bから出力される積算位相を求め、2重差位相演算を施した結果を図5に示す。図5からわかるように20秒間隔で、10cmの移動が精度良く検出されていることが解る。また、このように積算位相を用いることにより、位相差が±πの範囲を超えても、連続した波形として検出されることが解る。
【0038】
このような搬送波位相による高精度位置検出を実現するためには、しかし、無線送信部26が1秒おきに積算位相(φs(1),φs(2),・・・,φs(M))を伝送しなければならない。各積算位相が30ビット、衛星数Mが6であると仮定すると、無線通信部26の伝送レートは180bpsが必要となる。実際にはヘッダーや誤り訂正などの冗長度があり、数倍の伝送レート(例えば1kbps)が必要になる。携帯電話回線などを用いることができれば容易に実現できる伝送レートであるが、携帯電話回線を使う無線機器は消費電力が大きい問題があり、さらに山間部などでは携帯電話回線が使えない場所も多く存在する。
【0039】
ところで、LPWA(Low Power Wide Area)の無線通信であれば、通信距離が長いので山間部でも使うことができ、なおかつ消費電力が少ないというメリットがある。しかし、LPWAで伝送できるデータ量は少なく、例えば、1分間に128ビット程度である。伝送レートに換算すると2bpsとなり、積算位相の伝送に必要となる180bpsと比較すると2桁も低い値である。この2桁の差異を埋めて、搬送波位相を検出するGNSS位置情報送信装置が望まれる。
【0040】
続いて、本発明の実施形態について説明する。
[実施形態1]
図6は、実施形態1に係る位置情報送信装置2の構成図である。複数の計測地点に設置されている位置情報送信装置2は、図6に示すように、受信アンテナ20によりGNSS衛星からの電波を受信し、衛星信号処理部22によりGNSSの受信処理を行なう。フロントエンド21は微弱な受信信号をフィルタで抽出し、増幅してから低周波数信号に変換し、複数の衛星信号受信部221に供給する。衛星信号受信部221は、コード位相情報、衛星軌道情報、搬送波位相(φ1, φ2, , ,φM)を出力する。演算部23は受信アンテナ20が置かれた位置(Xr,Yr,Zr)と、正確なGNSS時刻を算出する。なお、本発明の実施においては、GNSS衛星から送られる搬送波周波数が約1.5GHzであるとする。
【0041】
ラッチ(サンプリング手段)25は、GNSS時刻の毎分00秒のタイミング(サンプリングタイミングSEC00)で搬送波位相(φ1,φ2,・・・,φM)をサンプリング(取得)する。 なお、サンプリングタイミングSEC00は、例えば、1秒1回のパルス(1PPSパルス)を、GNSS時刻に同期して60分周すれば作成できる。ここで、ラッチ25でサンプリングされるのは搬送波位相の積算値ではなく瞬時値である。
【0042】
すなわち、ラッチ25は、衛星信号受信部221から出力された搬送波位相(φ1,φ2,・・・,φM)を所定のサンプリングタイミング(サンプリングタイミングSEC00)でサンプリングすることにより、ラッチ25においては、搬送波位相の瞬時値が取得される。なお、搬送波位相(φ1,φ2,・・・,φM)をサンプリングすることによって取得された「搬送波位相の瞬時値」は、搬送波位相(φ1,φ2,・・・,φM)と区別するために、「φ(1),φ(2),・・・,φ(M)」というように、φの添え字1,2,・・・,Mに()を付して表すものとする。
【0043】
そして、ラッチ25でサンプリングされた搬送波位相の瞬時値(φ(1),φ(2),・・・,φ(M))は、無線通信部26により無線伝送される。搬送波位相の瞬時値をラッチしたタイミングが正確にGNSS時刻で定められるので、後述する演算サーバ(演算手段)6は、高精度の相対位置検出を実現できる。
【0044】
図7は、実施形態1に係る位置情報送信装置2が送出するLPWA無線信号のペイロード構成を示す図である。先頭2バイトはヘッダー(Head)であり、位置情報送信装置2のID番号や電池電圧などの情報をセットする。残りの14バイトは、最大で7つの衛星から得られた各2バイトの情報(衛星番号(6ビット)、CNR(2ビット)、搬送波位相(8ビット))をセットする。このCNRは搬送波強度を表す指標で、英語のCarrier to Noise Ratioに相当する。ここでは、情報量を圧縮して伝送するためにCNRを簡略化して2ビットだけを伝送する。すなわち、CNRが良好な場合は「11」、中程度の場合は「10」または「01」を伝送する。衛星が受信できていない場合にCNRは「00」とされる。
【0045】
図8は、実施形態1に係る相対位置検出システム1の構成図である。相対位置検出システム1は、図8に示すように、上記の位置情報送信装置2を2台使って構成されている。なお、2台の位置情報送信装置2を別々に説明する場合には、位置情報送信装置2A及び位置情報送信装置2Bとして説明する場合もある。これら、位置情報送信装2A,2Bは、2箇所の計測地点に設置されている。すなわち、位置情報送信装置2Aは、崖崩れが発生する恐れのない岩盤などがある場所に設置する。一方、位置情報送信装置2Bは、崖崩れの予兆現象で位置ずれが発生する恐れのある場所に設置する。位置情報送信装置2Aから位置情報送信装置2Bまでの相対距離を正確に測定すれば、崖崩れなどの予兆現象を捉えることができる。
【0046】
位置情報送信装置2A及び位置情報送信装置2Bは、上述したようにGNSS衛星3からの電波を受信して、各衛星の搬送波位相の瞬時値をペイロードとしてセットし、LPWA無線として山麓に設置された受信基地局5に向けて送信する。受信基地局5は、位置情報送信装置2から送られたペイロードをクラウドに置かれた演算サーバ(演算手段)6に伝送する。衛星軌道情報取得手段(GNSS受信機とする。)4は、市販のGNSS受信機などで構成され、GNSS衛星の電波から衛星軌道情報(エフェメリス)を受信して、演算サーバ6に伝送する。GNSS受信機4により提供される衛星軌道情報により、演算サーバ6は全衛星位置を正確に知ることができる。
【0047】
演算サーバ6は、後述する演算により相対距離Rを算出して求める。崖崩れが発生する場合には、相対距離がゆっくりと変化し、やがてある値を超えたところでがけ崩れとなることが知られている。従って、演算サーバ6は相対距離があらかじめ設定された所定値を超えたときに、崖崩れの危険が高まっていると判断する。演算サーバ6は、危険が高まっている場合にスマートフォン7に警告を表示することにより、住民の避難を促す。
【0048】
図9は、実施形態1に係る相対位置検出システム1を用いた相対位置検出方法を示す図である。図9を用いて、相対距離の演算方法を説明する。この演算では、受信されたGNSS衛星のうちの1つを基準衛星として衛星番号を「0」にしている。基準衛星と番号nの衛星から得られた搬送波位相の瞬時値に関して、下記の[式1]と[式2]に示す差分演算を行う。なお、「搬送波位相の瞬時値」を「瞬時位相」と表記する場合もある。

[式1] φAr(n)=φA(n) - φA(0)
[式2] φBr(n)=φB(n) - φB(0)

[式1]及び[式2]において、φA(n)は、番号nの衛星からの電波を位置情報送信装置2Aで受信して、当該位置情報送信装置2Aのラッチ25で取得された瞬時位相であり、また、φB(n)は、同様に位置情報送信装置2Bが受信して、当該位置情報送信装置2Bのラッチ25で取得された瞬時位相である。
【0049】
次に、位置情報送信装置2Aを基準位置として、搬送波位相の2重位相差φd(n)を下記[式3]により求める。

[式3] φd(n)=φBr(n) - φAr(n)

上記[式3]で求められた2重位相差φd(n)と、相対距離との関係は下記の[式4]に示すようになる。相対距離の変化範囲が解っていることから、複数の衛星nに関して[式4]に最小二乗法を適用して解くことができる。

[式4] 2πN(n)+φd(n)=R×(2π/λ)×{cosθ(n)-cosθ(0))}

[式4]において、N(n)は整数であり、衛星番号nに関する位相の不確定性である。λは搬送波の波長であり、θ(0)は移動方向ベクトルRと位置情報送信装置2Aから基準衛星(0)への方向ベクトルがなす角度であり、θ(n)は移動方向ベクトルRと位置情報送信装置2Bから衛星nへの方向ベクトルがなす角度である。
【0050】
ここで、移動方向ベクトルRは、位置情報送信装置2Aの座標(Xr,Yr,Zr)から位置情報送信装置2Bの想定移動方向に設けた仮想点(Xt,Yt,Zt)へのベクトルである。また、衛星nへの方向ベクトルは、位置情報送信装置2Aの座標(Xr,Yr,Zr)から衛星nの位置(X(n), Y(n), Z(n))へのベクトルである。各GNSS衛星の位置は、衛星軌道情報(エフェメリス)にケプラー方程式を適用することで求めることができる。
【0051】
なお、以上の説明では煩雑になるのを防ぐために、崖崩れによる移動方向が予め解っているものとして、移動方向ベクトルRの長さRだけを求めることとして説明したが、後述する実施形態2に示すように、3次元の移動方向ベクトルPを考え、同様の処理を適用して3次元の移動方向に対応することでさらに適用範囲を広げることが可能となる。また、上記[式4]では、位相の不確定性をあらわす整数N(n)が衛星毎に異なり、衛星毎に整数N(n)を求めなければならないため、演算量が多くなる。整数N(n)の推定を間違えた場合は誤差が生じる場合もある。
【0052】
[実施形態2]
図10は、実施形態1に係る相対位置検出システム1を用いて実施形態2に係る相対位置検出方法を説明する図である。実施形態2においては、後述する演算により、3次元の相対距離ベクトルPを求める。図10に示すように、相対距離ベクトルPは、位置情報送信装置2AのGNSSアンテナを出発点とし、位置情報送信装置2BのGNNSアンテナを終着点とする3次元ベクトルであり、2つの位置情報送信装置2A,2Bの相対位置を表すベクトルである。
【0053】
図10では相対距離ベクトルPを3つの成分に分解することを示している。相対距離ベクトルPは、A-B間の相対距離Rと、水平面上において南と北とを結ぶ南北線L1に対する水平面上の角度α(南北線L1に対する水平方位角αとする。)と、水平面L2に対する上下方向の角度βとで構成される極座標(R,α、β)で表すことができる。なお、相対距離ベクトルPは、極座標ではなく直交座標系を用いて表すこともできるが、以降では極座標(R,α、β)に統一して説明する。
【0054】
崖崩れが発生する場合には、相対距離Rがゆっくりと大きくなるだけでなく、上下方向の角度βも変化する。また、崖の構造によっては、水平方向にも移動する(水平方位角αも変化する)ことも考えられる。そこで、演算サーバ6は相対距離ベクトルPを所定時間毎に求め、相対距離R、水平方位角α及び上下方向の角度βの変化が所定値を超えたときに、崖崩れの危険が高まったと判断する。演算サーバ6は、前述した実施形態1と同様に、スマートフォン7に警告を表示することにより、住民の避難を促すことができる。
【0055】
演算サーバ6は以下の演算(ステップS1~ステップS12)を行って、相対距離ベクトルPを求める。
図11は、実施形態2に係る相対位置検出システムにおける演算サーバ6の演算方法を説明する解説図である。ステップS1以降の説明する際には必要に応じて図11を参照する。なお、実施形態2に係る相対位置検出システムは、システム構成としては、実施形態1に係る相対位置検出システム1と同様である。
【0056】
[ステップS1]
まず、ステップS1では、LPWAにより伝送された各衛星(n)の搬送波位相の瞬時値すなわち瞬時位相φ(n)に対して、[式3]で説明した2段階の差分演算を施して2重位相差φd(n)を求める。
【0057】
[ステップS2]
ステップS2として、GNSS受信機4から提供される衛星軌道情報(エフェメリス)を用いて、瞬時位相φ(n)が取得された時刻における基準衛星(0)の基準衛星位置座標(X(0),Y(0),Z(0))及び基準衛星(0)以外の各衛星(n)の位置座標(X(n),Y(n),Z(n))を求める。なお、以下では、「基準衛星(0)の基準衛星位置座標(X(0),Y(0),Z(0))」を「基準衛星位置座標(X(0),Y(0),Z(0))」と表記する場合もあり、また、「各衛星(n)の位置座標(X(n),Y(n),Z(n))」を「各衛星位置座標(X(n),Y(n),Z(n))」と表記する場合もある。
【0058】
[ステップS3]
ステップS3においては、基準となる位置情報送信装置2Aが設置された位置(基準となる計測地点)を受信点位置座標(Xr,Yr,Zr)として求める。
【0059】
[ステップS4]
ステップS4においては、受信点位置座標(Xr,Yr,Zr)から各衛星位置座標(X(n),Y(n),Z(n))へ向かう方向ベクトルe(n)を求める。受信点位置座標(Xr,Yr,Zr)から基準衛星位置座標(X(0),Y(0),Z(0))へ向かう方向ベクトルも同様にe(0)として求める。ここで方向ベクトルは、方向成分のみを指し示すベクトルであり、その大きさは「1」に正規化されている。
【0060】
[ステップS5]
ステップS5においては、演算サーバ6は、方向ベクトルe(n)から基準衛星(0)に向かう方向ベクトルe(0)を差し引くことにより、波数ベクトルk(n)=e(n)-e(0)を求める。ここで、二重位相差φd(n)の等位相面は、波数ベクトルk(n)に直交する方向に形成されている。また、二重位相差φd(n)の間隔は、波数ベクトルk(n)の大きさに逆比例している。
【0061】
[ステップS6]
ステップS6においては、演算サーバ6は、相対距離ベクトルPの推定値として3次元の推定相対距離ベクトルReを下記[式5]のように定める。

[式5] Re=(R’+ΔR,α’+Δα、β’+Δβ)

上記[式5]において、(R’,α’、β’)は演算の出発点とする初期ベクトルである。崖崩れによる位置ずれはゆっくりとした動きであることから、相対距離ベクトルPは、初期ベクトル(R’,α’、β’)と大きな差異が無いことが予想される。そこで、受信点Bの位置を予め計測しておくことで初期ベクトル(R’,α’、β’)を求めることができる。あるいは数分前に計測した相対距離ベクトルPを初期ベクトル(R’,α’、β’)として使うこともできる。
【0062】
以降の演算で求めたい値は、推定相対距離ベクトルReと相対距離ベクトルPとの距離が最も小さくなる(ΔR,Δα、Δβ)の組み合わせである。崖崩れによる位置変化はゆっくりとして始まるので、崖崩れの前兆現象が発生したとき、この (ΔR,Δα、Δβ)は小さな値であることが期待される。
【0063】
[ステップS7]
ステップS7においては、演算サーバ6は、 (ΔR,Δα、Δβ)の各値をスキャンする。例えば、ΔRとしては、ΔR=-0.5mからΔR=+0.5mまでを1mm刻み(1000通り)にスキャンし、Δαとしては、Δα=-30度から+30度までを0.5度刻み(120通り)にスキャンし、Δβとしては、Δβ=-15度から+15度までを0.5度刻み(60通り)にスキャンする。スキャンの総組み合わせは、1000×120×60=720万通りとなる。
【0064】
最適値探索の様々な手法を適用することにより、スキャンの総組み合わせ数を減らして、演算時間を短縮することができる。実施形態2においては、演算の簡略化については記載せずに、全ての組み合わせに関してスキャンするものとして以降を説明する。
【0065】
[ステップS8]
ステップS8においては、演算サーバ6は、スキャンによって推定されている推定相対距離ベクトルReと波数ベクトルk(n)との内積を求めることにより、下記[式6]に示す推定2重位相差φ’d(n)を求める。

[式6] φ’d(n)=(2π/λ)×{Re・k(n)}

なお、[式6]において、{}におけるRe・k(n)の「・」は、2つのベクトルRe,k(n)の内積を表している。
【0066】
以上に説明した演算サーバ6の演算を図11によりベクトルとして模式的に説明する。すなわち、受信点Aにおいて、基準衛星(0)と衛星(n)の方向ベクトルe(0)とe(n)が計算され、2つの方向ベクトルの引き算として波数ベクトルk(n)が求まる。波数ベクトルk(n)に直交する方向に2重位相差φd(n)の等位相面が形成されている。相対距離ベクトルPは、受信点Aから未知の場所にある受信点Bへ延びる3次元ベクトルである。受信点Bの近傍には、推定相対距離ベクトルReが推定受信点B’に延びている。
【0067】
仮に、受信点Bが推定受信点B’の位置にあった場合を考えると、その時に観測される推定2重位相差は上記[式6]で定まるφ’d(n)である。
【0068】
従って、LPWAで伝送された瞬時位相から観測される2重位相差φd(n)と、推定2重位相差φ’d(n)との差異が最も小さくなるような推定受信点B’を探せば、それが求める受信点Bの座標に最も近くなっている。
【0069】
但し、先に述べたようにLPWAで伝送される瞬時位相は+πから-πまでの範囲に折りたたまれているので、2重位相差φd(n)の値も同様に折りたたまれている。これに対して、推定2重位相差φ’d(n)は、推定相対距離ベクトルReに対して[式6]の演算を施して求めた値であるから、折りたたまれるようなことは無く、例えば、πを大きく超えるような値となる可能性がある。そこで、下記のステップS9を行う。
【0070】
[ステップS9]
ステップS9においては、演算サーバ6は、下記[式7]に示す演算を行い、推定2重位相差φ’d(n)に対して、2πを法とする剰余演算(mod)を適用して、+πから-πまでの範囲に折りたたむ。

[式7] φ“d(n)=mod{φ’d(n),2π}
【0071】
推定受信点B’と受信点Bとの距離が最も近いときに、[式]7によって求めた2重位相差φ“d(n)は、2重位相差φd(n)に近い値になる。
【0072】
ここで、上記[式7]に示す2重位相差φ“d(n)と[式3]に示す2重位相差φd(n)とを比較するときに、2πの位相飛びを考慮する必要がある。例えば、φ“d(n)=0.9π、φd(n)=-0.9πとして、単純に差異を減算で求めると、φ“d(n)-φd(n)=1.8πとなる。しかし、この例の場合、正しい位相差は、0.2πである。このように、単純に減算(引き算)することができないので、位相差を求めるのに何等かの工夫が必要になる。そこで、下記のステップS10を行う。
【0073】
[ステップS10]
ステップS10として、例えば、次の[式8]の演算を施すことで、φ“d(n)とφd(n)の位相がどの程度違っているかを評価する。

[式8]
F(n)={cosφ“d(n)-cosφd(n)}+{sinφ“d(n)-sinφd(n)}
【0074】
[ステップS11]
最後にステップS11として、下記[式9]の演算を行い、衛星番号1~衛星番号Mまで全ての評価結果を合算して、位置誤差評価の指標となる誤差評価値Eを求める。
【数1】
前述のステップS7において与えられた(ΔR,Δα、Δβ)の全ての組み合わせ(720万通り)に対して、ステップS8からステップS11までの演算を行い、誤差評価値Eを求める。そして、ステップS12において、誤差評価値Eを最小とする(ΔR,Δα、Δβ)の組み合わせを抽出し、[式5]により推定相対距離ベクトルReを求めることによって、相対距離ベクトルPの最適推測値を得ることができる。
【0075】
以上説明したように、搬送波位相の瞬時値(φ(1),φ(2),・・・,φ(M))を使って、相対距離ベクトルPの最適推測値を得ることができる。搬送波位相の瞬時値は情報量が少ないので、LPWA等の低レート・低消費電力の無線通信技術を使って崖崩れの予兆現象を捉えることができる。
【0076】
続いて、発明者が行った実験について説明する。
図12は、実験を行うために2本のGNSSアンテナA1,B1を2階建ての建物の屋上に所定間隔で設置した例を示す図である。図12に示すように、2本のGNSSアンテナA1,B1を2階建ての建物の屋上に1.6mの間隔で設置し、当該アンテナA1,B1(図12参照。)を、自作した2台のGNSS受信機(図示せず。)にそれぞれ接続した。
【0077】
そして、6個のGNSS衛星からの信号を5分ごとに受信し、GNSS時刻の5分ごとのタイミングで、6個のGNSS衛星からの搬送波位相をサンプリングして搬送位相の瞬時値(瞬時位相)を取得してパーソナルコンピュータ(PC)に伝送した。そして、PC上において、各GNSS衛星ごとの瞬時位相に関して2重位相差、差分方向ベクトルを求め、求められた二重位相差に最もよく合致する相対位置(R,α,β)を探索して求めた。ここで、RはアンテナA1とアンテナB1との相対距離、αは南北線L1に対する水平方位角(図12(b)参照。)であり、βは水平面L2に対する上下方向の角度β(図12(a)参照。)である。ここでは、R=1.6m(巻き尺による実測値)、α=19度(地図上から求められた角度)、βは0度とした(図12参照。)。なお、各GNSS衛星ごとに求められた2重位相差についての図示は省略する。
【0078】
図13は、実験により得られた相対距離Rの計測結果を示す図である。ここでは、実験時刻として、2021年10月1日の18時00分(18:00)から5分ごとに18時40分(18:40)まで9回の計測を行った結果が示されている。なお、この計測を行うに当たっては、相対距離Rは1m~2mの範囲であるとし、水平方位角αは±30度の範囲にあるとし、上下方向の角度βは±15度の範囲にあるとして当該範囲内において探索を行った。
【0079】
図13に示す相対距離Rの計測結果によれば、18:00から5分ごとに18:40までの平均値は1.591mであり、当該平均値に対する最大誤差は18:05の1.02cmであった。この結果、実測値1.6mに対して高い精度で一致する結果が得られた。
【0080】
図14は、実験により得られた南北線L1に対する水平方位角α及び水平面L2に対する上下方向の角度βの測定結果を示す図である。図13に示すように、南北線L1に対する水平方位角αは、18:00から5分ごとに18:40までの平均値は20度であった。この結果、南北線L1に対する水平方位角αの実測値19度に対して高い精度で一致する結果が得られた。一方、水平面Lに対する上下方向の角度βも、多少の誤差はあるものの、18:00から5分ごとに18:40までの平均値は2.5度であった。この結果、水平面L2に対する上下方向の角度βの実測値0度に対して比較的高い精度で一致する結果が得られた。
【0081】
以上の実験結果から搬送波位相の瞬時値を用いた相対位置検出は実現可能であることが確かめられた。このように、搬送波位相の瞬時値を用いた相対位置検出を行うことにより、LPWAのような無線伝送システムを用いて搬送波位相の瞬時値を伝送することが可能となる。このため、搬送波位相を用いた高精度位置検出を極めて低消費電力で行うことが可能となり、例えば、電池で動作させることも可能となる。従って、位置情報送信装置を、従来の携帯電話が圏外となるような山中に設置して、山中での崖崩れを検出することが可能となり、しかも、電池で長期間の動作が可能で、かつ、数cm程度の位置精度を実現することができる。
【0082】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能となるものである。例えば、下記に示すような変形実施も可能である。
【0083】
(1)上述の実施形態においては、GNSS衛星から送られる搬送波周波数が約1.5GHzであるとして説明したが、1.5GHzだけでなく、1.2GHzなどの搬送波を使うGNSS衛星も存在するので、1.5GHzと1.2GHzの2種類の搬送波を用いて本発明を適用することにより、さらに高精度の計測が可能になる。
【0084】
(2)上述の各実施形態においては、衛星軌道情報(エフェメリス)を取得するための衛星情報取得手段4として、GNSS受信機4を設置した場合を例示したが、衛星軌道情報(エフェメリス)は、例えば、インターネット上のWebサーバから取得することもできる。従って、衛星軌道情報(エフェメリス)を取得するには、GNSS受信機4だけではなく、インターネット回線に接続されたWebサーバを含めた衛星情報取得手段を用いることができる。このため、「衛星情報取得手段4」にはGNSS受信機及びインターネット回線に接続されたWebサーバが含まれるものである。
【符号の説明】
【0085】
1・・・相対位置検出システム、2(2A,2B)・・・位置情報送信装置(計測地点)、3(3A,3B,3C)・・・GNSS衛星、4・・・GNSS受信機(衛星情報取得手段)、5・・・受信基地局、6・・・演算サーバ(演算手段)、7・・・ スマートフォン、20・・・受信アンテナ、21・・・フロントエンド、22・・・衛星信号処理部、23・・・演算部、25・・ラッチ(サンプリング手段)、26・・・無線送信部、27・・LPWA送信アンテナ、221・・・衛星信号受信部、φ1,φ2,・・・,φM・・・搬送波位相、φ(1),φ(2),・・・,φ(M)・・・搬送波位相の瞬時値(瞬時位相)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14