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特開2022-11208グラフェン同士が重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストを製造する方法
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  • 特開-グラフェン同士が重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストを製造する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022011208
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】グラフェン同士が重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/194 20170101AFI20220107BHJP
   C01B 32/225 20170101ALI20220107BHJP
   C01B 32/19 20170101ALI20220107BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220107BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20220107BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20220107BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20220107BHJP
【FI】
C01B32/194
C01B32/225
C01B32/19
B05D7/24 301E
B05D7/24 303J
B05D7/24 302A
C09D5/24
C09D1/00
C09D7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020112197
(22)【出願日】2020-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】512150358
【氏名又は名称】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
【テーマコード(参考)】
4D075
4G146
4J038
【Fターム(参考)】
4D075CA22
4D075DB31
4D075DC21
4D075EA10
4D075EB01
4D075EC23
4D075EC30
4G146AA01
4G146AA02
4G146AB07
4G146AC03B
4G146AD20
4G146AD22
4G146BA02
4G146CB02
4G146CB05
4G146CB10
4G146CB16
4G146CB19
4G146CB26
4G146CB35
4G146DA07
4J038AA011
4J038HA021
4J038JA19
4J038JA27
4J038KA06
4J038MA07
4J038NA13
4J038NA20
4J038PB09
4J038PC08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】莫大な数のグラフェンを安価に製造して、グラフェン同士を安価な手法で重ね合わせ、基材ないしは部品に、重ね合わさったグラフェンの集まりからなる塗膜ないしは印刷膜を形成する方法、及びグラフェンを高密度に分散したペーストを製造し、グラフェンの性質に近い性質を持つ膜を形成する方法を提供する。
【解決手段】最初に、メタノールの粘度の30倍の粘度を持つ有機化合物をメタノールで希釈し、メタノールの粘度の4-6倍の粘度を持つ希釈液を作成し、容器に充填する。次に、容器内で、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶の層間結合を破壊し、有機化合物のメタノール希釈液中にグラフェンの集まりを分散する。さらに、グラフェン同士が有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストを容器内に製造する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン同士が有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストを製造する方法は、
最初に、メタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、メタノールの粘度の30倍より高い粘度を持つ第二の性質と、融点が10℃より低い第三の性質と、沸点が180℃より高い第四の性質と、絶縁性である第五の性質とからなる5つの性質を兼備する有機化合物をメタノールで希釈し、メタノールの粘度の4-6倍の粘度を持つ希釈液を作成し、該有機化合物のメタノール希釈液を容器に充填する、
次に、2枚の平行平板電極のうちの一方の平行平板電極の表面に、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを平坦に引き詰め、該一方の平行平板電極を、前記容器に充填された前記有機化合物のメタノール希釈液中に浸漬させ、さらに、他方の平行平板電極を前記一方の平行平板電極の上に重ね合わせ、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりを介して、前記2枚の平行平板電極を離間させ、該離間させた2枚の平行平板電極を前記有機化合物のメタノール希釈液に浸漬させる、この後、該2枚の平行平板電極の間隙に、予め決めた大きさからなる直流の電位差を印加する、これによって、該電位差の大きさを前記2枚の平行平板電極の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりに印加され、該電界の印加によって、前記鱗片状黒鉛粒子ないしは前記塊状黒鉛粒子を形成する基底面の層間結合の全てが同時に破壊され、前記2枚の平行平板電極の間隙に、前記基底面に相当するグラフェンの集まりが製造される、この後、該2枚の平行平板電極の間隙を拡大し、該2枚の平行平板電極を前記有機化合物のメタノール希釈液中で傾斜させ、さらに、前記容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記グラフェンの集まりを、前記2枚の平行平板電極の間隙から前記有機化合物のメタノール希釈液中に移動させる、この後、前記容器から前記2枚の平行平板電極を取り出し、前記容器内に前記有機化合物のメタノール希釈液中に分散した前記グラフェンの集まりを製造する、
さらに、前記容器内にある前記有機化合物のメタノール希釈液中に分散した前記グラフェンの集まりを新たな容器に移し、この後、該新たな容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記グラフェン同士を前記有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合わせ、該グラフェン同士が前記有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストを前記容器内に製造する、グラフェン同士が有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストを製造する方法。
【請求項2】
請求項1に記載したグラフェン同士が有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストを用い、グラフェンに粘着した有機化合物を介して該グラフェン同士が積層した該グラフェンの集まりからなる膜を、基材ないしは部品に形成する方法は、
請求項1に記載した方法で製造したグラフェンの集まりからなるペーストを、基材ないしは部品に塗布ないしは印刷し、該基材ないしは該部品に、前記ペーストからなる塗膜ないしは印刷膜を形成し、この後、該基材ないしは該部品をメタノールの沸点に昇温し、前記塗膜ないしは前記印刷膜からメタノールを気化させる、これによって、該基材ないしは該部品に、グラフェンに粘着した有機化合物を介して該グラフェン同士が積層した該グラフェンの集まりからなる膜が形成される、請求項1に記載した方法で製造したグラフェンの集まりからなるペーストを用い、グラフェンに粘着した有機化合物を介して該グラフェン同士が積層した該グラフェンの集まりからなる膜を基材ないしは部品に形成する方法。
【請求項3】
請求項1に記載したグラフェン同士が有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストの製造方法は、前記有機化合物がグリコール類に属するいずれか1種類の有機化合物であり、該有機化合物を請求項1に記載した5つの性質を兼備する有機化合物として用い、請求項1に記載したグラフェンの集まりからなるペーストの製造方法に従って該ペーストを製造する、請求項1に記載したグラフェン同士が有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン同士がメタノールの粘度の4-6倍の粘度を持つ有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストを製造する。さらに、該ペーストを基材ないしは部品に塗布ないしは印刷し、塗膜ないしは印刷膜からメタノールを気化させ、高粘度の有機化合物がグラフェンに吸着するとともに、該有機化合物を介してグラフェン同士が互いに粘着した該グラフェンの集まりからなる膜を、基材ないしは部品に形成する。
【背景技術】
【0002】
導電性で熱伝導性のペーストとして、金属粒子が分散された導電性ペーストがある。従来の導電性ペーストは、樹脂系バインダーと溶媒からなる有機ビヒクル中に、金属粒子からなる導電性フィラーを混合した流動性物質で構成され、電気回路の形成、積層セラミックチップ電子部品の内部電極の形成、電磁波シールド材など、様々な用途に用いられている。なお、導電性ペーストを印刷する際に、導電性フィラーが液状物質と共に印刷面に印刷されるため、樹脂系バインダーと溶媒とからなる液状物質が、導電性フィラーを印刷面に運ぶ役割を担うので、有機物質からなる液状物質を有機ビヒクルと呼ぶ。
従来の導電性ペーストは、樹脂硬化型と焼成型とに二分される。
樹脂硬化型導電性ペーストは、金属粒子からなる導電性フィラーと、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の溶解液を溶剤で希釈した有機ビヒクルとからなる。印刷された導電性ペーストに熱を加えると、溶剤が気化した後に、熱硬化型樹脂が導電フィラーとともに硬化収縮し、合成樹脂を介して導電フィラー同士が圧着されて結合し、導電通路が形成される。この樹脂硬化型導電性ペーストは、200℃程度の比較的低い温度で熱処理されるため、プリント配線基板などの熱に弱い基材に使用されている。
一方、焼成型導電性ペーストは、金属粒子からなる導電フィラーとガラスフリットを、有機ビヒクル中に分散させたペーストであり、900℃程度の高温で焼成し、有機ビヒクルを揮発させ、さらに、ガラスフリットを融解させ、この後、金属粒子を焼結させる。これによって、固化したガラスフリットを介して焼結した金属粒子が結合し、導電通路を形成する。焼成型導電性ペーストは焼成温度が高いが、金属粒子の焼結によって、樹脂硬化型より低抵抗化が図られるため、例えば、積層セラミックチップ電子部品の内部電極など熱に強い基材に使用されている。
【0003】
従来の導電性ペーストは、導電性フィラーとして金属粒子を有機ビヒクルに分散させた構成であるため、有機ビヒクルの存在で金属粒子を高密度に分散させることが困難になり、これによって、次の4つの原理的な課題をもたらす。従って、金属粒子を高密度に分散させることができない限り、これらの課題は根本的に解決できない。
第一の課題は、熱処理後に抵抗値が増大する。すなわち、樹脂硬化型導電性ペーストでは、熱硬化した樹脂が金属粒子同士の接触を妨げる。また、焼成型導電性ペーストでは、固化したガラスが金属粒子同士の焼結の妨げになる。こうした課題を解決するため、様々な提案がなされている。例えば、導電性ペースト材料にカーボンナノチューブを充填させる試みがある(特許文献1を参照)。カーボンナノチューブは、アスペクト比が大きいため、カーボンナノチューブ同士がバンドルを組む、また互いに絡み合う。この結果、有機ビヒクルへの分散性が悪化し、導電性ペースト中に均一に分散することができず、高い導電性が得られない。また、カーボンナノチューブは、金属微粒子より著しく高価な材料であるため、カーボンナノチューブの充填割合を高くするほど、導電性ペーストの製造費が増大する。さらに、カーボンナノチューブは金属微粒子より2桁近く導電率が低いため、充填割合を高くしても、金属に近い導電率は得られない。これらの課題はいずれも、カーボンナノチューブを用いることことに依る原理的な課題であり、解決は困難である。
【0004】
第二の課題は金属粒子の分散性にある。つまり、金属粒子の有機ビヒクルへの分散性が悪いと、熱処理後に金属粒子が偏在する。この結果、加熱後に電気抵抗が増大する。このため有機ビヒクル中への金属粒子の分散性を向上させる様々な提案がなされている。例えば、孤立電子対を有する有機化合物を、金属粒子の表面に結合させる試みがある(特許文献2を参照)。しかし孤立電子対を有する有機化合物と金属粒子との結合力は弱く、金属粒子をビヒクル中に分散させる際に有機化合物は金属粒子から分離する。あるいは、有機化合物に加わる応力を低減させると、金属粒子の分散性が悪化する。また、金属粒子の分散性を高めるために、金属粒子に吸着する有機化合物の量を増やすほど、ペーストの導電率が低下する。これらの課題はいずれも、孤立電子対を有する有機化合物を用いることに依る原理的な課題であり、解決は困難である。
【0005】
第三の課題は、金属粒子が焼結する際に金属粒子が収縮する。つまり、金属粒子が収縮すると、積層セラミックスチップ部品の内部電極では、電極とセラミック誘電体との層間剥離や電極層にクラックが発生などの構造欠陥が起きる。こうした構造欠陥を改善させるために様々な提案がなされている。例えば、金属粒子をビヒクル中に加熱して混合撹拌した後に、オリフィスを備えるノズルを通過させる分散処理する前処理分散工程と高圧ホモジナイザーにより分散処理する分散工程とフィルターによる濾過する濾過工程とを加えることで、金属粒子の分散性を維持し、ペースト材の粘度安定性を向上させる試みがある(特許文献3を参照)。しかしながら、構造欠陥の要因は、金属粒子の焼結温度とセラミック誘電体の焼結温度とに大きなかい離があり、また、ガラスフリットの融解点と金属粒子の焼結温度とにかい離があることに依る。従って特許文献3に記載された方法では、層間剥離とクラックの発生とを根本的に解決することができない。
【0006】
第四の課題は、金属粒子同士の凝集にある。金属粒子が微細になるほど凝集しやすい。金属粒子の凝集が起こると、有機ビヒクル中への金属粒子の分散性が悪化し、結果として、4段落で説明した問題と同様の問題が起こる。このため、金属粒子同士の凝集を解除させる様々な提案がなされている。例えば、12-ヒドロキシステアリン酸のホモポリマーを溶剤に溶解し、この溶解液中で金属粒子の分散させる試みがある(特許文献4を参照)。しかし、金属粒子が微細になるほど、分散剤である12-ヒドロキシステアリン酸のホモポリマーの量を増やす必要がある。分散剤の量を増やすほど、熱処理した後に絶縁性の残渣物が増大し、抵抗値が増大する原理的な課題が発生し、この原理的課題は解決できない。
【0007】
いっぽう、金属酸化物粒子が分散されたペーストとして、最も身近な工業製品に熱伝導性ペーストがある。従来の熱伝導性ペーストは、金属酸化物からなる熱伝導性微粒子を熱伝導の担い手として有機ビヒクルに分散させる構成からなる。従って、熱伝導性微粒子が連続した熱伝導経路を形成することで熱伝導性が高まる。このため、熱伝導性微粒子の充填率を高める必要がある。しかし、有機ビヒクルの存在で、熱伝導性微粒子の充填割合には限度があり、金属酸化物粒子を高密度に分散させることができない。従って、金属酸化物粒子を高密度に分散させることができない限り、これらの課題は解決できない。
【0008】
例えば、特許文献5には、酸化アルミニウムや窒化アルミニウムなどの絶縁性で熱伝導性の球状微粒子を有機結着剤で凝集させた凝集体の製造技術が記載されている。つまり熱伝導性微粒子同士を有機結着剤を介して凝集させた凝集体を熱伝導の担い手とする。
しかしながら、本技術は、次の2つの原理的な問題点を持つ。溶剤によって有機結着剤を溶解させ、溶解した有機結着剤に熱伝導性微粒子の集まりを分散させた後に、溶剤を気化させて易変形性凝集体を作成する。この易変形性凝集体における熱伝導性の大きさは、熱伝導性微粒子が互いに接近することに依る。熱伝導性微粒子同士を接近させるには、有機結着剤に対する熱伝導粒子の混合割合を高める必要があるが、熱伝導粒子の混合割合を高めるほど、易変形性凝集体における有機結着剤の割合が減少し、有機結着剤を介して球状の熱伝導粒子を結合させることが困難になる。また、易変形性凝集体を熱伝導性に劣るバインダー樹脂と混合し、この混合物を圧縮することで、熱硬化性のシートを製作する。なぜならば、易変形性凝集体のみでは熱伝導性シートが製造できないからである。しかしながら、バインダー樹脂は非熱伝導性であるため、バインダー樹脂の混合割合を低下させなければ、易変形性凝集体の熱伝導性が熱伝導シートに反映されない。いっぽう、バインダー樹脂の混合割合を低下させるほど、易変形性凝集体同士の結合が困難になり、熱伝導シートの製作ができない。これらの原理的な問題点は、解決することはできない。
【0009】
また、特許文献6には、熱伝導性、制振性、緩衝性を兼備したエラストマー材料の製造技術が記載されている。つまり、熱可塑性エラストマーの重量に対し、3-5倍の軟化剤を加えることで、制振性と緩衝性とを確保し、また、熱伝導性の担い手としてピッチ系炭素繊維を用い、成形体の体積の10-40%の体積割合でピッチ系炭素繊維を充填することで、制振性と緩衝性とを犠牲にすることなく熱伝導性を確保する、としている。
しかしながら、本技術も原理的に次の問題点を持つ。ピッチ系炭素繊維の体積割合に応じて、エラストマー材料における熱伝導性が増大するが、非常に高価なピッチ系炭素繊維を50%体積割合まで増大させても、熱伝導率は8.21W/mKであり、製造費用が極めて高くなる割には熱伝導率が低い。これは、ピッチ系炭素繊維の熱伝導率が異方性を持ち、繊維軸方向の熱伝導率が500W/mKという大きな熱伝導率を持つが、ピッチ系炭素繊維を繊維軸方向に配向させてエラストマー材料に充填することが困難であることに依る。さらにピッチ系炭素繊維は、体積抵抗率が2×10-5cmからなる導電性を持ち、ピッチ系炭素繊維の充填率を高めるほどエラストマー材料は導電性を示す。このため、エラストマー材料が電気絶縁性を保って他の部品と組み合わせる場合は、電気絶縁性で非熱伝導性の接着剤を用いることになり、エラストマー材料の熱伝導性が非熱伝導性の接着層によって損なわれる。また、ピッチ系炭素繊維の体積割合が増えるほど、エラストマー材料の硬度が増大し、制振性と緩衝性が低下する。これらの原理的な問題点は、解決することはできない。
【0010】
ところで、金属より熱伝導性と導電性との双方に優れた素材に、最近発明されたグラフェンがある。すなわち、2004年に英国マンチェスター大学の物理学者が、セロハンテープを使用して、グラファイトから1枚の結晶子、すなわち、炭素原子が六角形からなる網目構造を二次元的に形成する基底面を引きはがし、炭素原子の大きさを厚みとする平面状の物質を取り出すことに初めて成功した。この新たな物質をグラフェンと呼んだ。この研究成果に対して、2010年のノーベル物理学書が授与されている。
グラフェンは、厚みが炭素原子の大きさに相当する極めて薄い物質で、かつ、質量をほとんど持たない全く新しい炭素材料である。このため、従来の物質とは大きくかけ離れた物性を持ち、幅広い用途に応用できる材料として注目されている。
例えば、厚みが0.332nmからなる最も薄い材料である。また、単位質量当たりの表面積が3000m/gである最も広い表面積を持つ。さらに、ヤング率が1020GPaと大きな値を持ち、最も伸長でき、折り曲げができる材料である。また、せん断弾性率が440GPaという大きな数値を持つ最も強靭な物質である。さらに、熱伝導率は19.5W/Cmで、金属の中で最も熱伝導率が高い銀の熱伝導率の4.5倍に相当する。また、体積固有抵抗率は1.3μΩcmで、金属の中で最も体積固有抵抗率が小さい銀の体積固有抵抗率である1.6μΩcmよりさらに小さい。このため、導電性と共に、電磁波のシールド性も金属より優れる。電流密度は銅の1000倍を超える。さらに、電子移動度が15000cm/ボルト・秒であり、シリコーンの移動度の1400cm/ボルト・秒より一桁高い値を持つ。さらに、融点が3000℃を超える単結晶材料で、耐熱性が極めて高い材料である。
従って、グラフェン同士を重ね合わせ、グラフェンの集まりからなるペーストが製造できれば、導電性と熱伝導性と磁波シールド性を兼ね備えた膜が実現できる。しかしながら、グラフェンの集まりからなるペーストを製造する試みは現在までにない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006-120665号公報
【特許文献2】特開2013-145699号公報
【特許文献3】特開2011-228106号公報
【特許文献4】特開2005-042174号公報
【特許文献5】特開2014-03261号公報
【特許文献6】特開2011-63716号公報
【特許文献7】特許第6166860号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
グラフェン同士を重ね合わせ、グラフェンの集まりからなるペーストを製造するには、多くの課題がある。
第一に、莫大な数のグラフェンを製造する方法がある。つまり、マンチェスター大学の物理学者が、セロハンテープを使用して、グラファイトから1枚の結晶子を取り出した方法では、ペーストを構成する莫大な数のグラフェンを製造することは困難である。このため、莫大な数のグラフェンを製造する方法を見出す必要がある。
第二に、莫大な数のグラフェンを安価に製造する方法である。つまり、グラフェンの集まりからなるペーストの製造費用が、金属粒子を有機ビヒクルに分散させた導電性ペーストの製造費用より高価になれば、グラフェンの集まりからなるペーストを製造する価値がない。このため、莫大な数のグラフェンを安価に製造する方法を見出す必要がある。
第三に、グラフェン同士を安価に重ね合わせる方法である。つまり、グラフェンの集まりをペーストにする際に、微細な素材であるグラフェン同士を重ね合わせ、一定の面を持つグラフェンの集まりを作成する必要がある。このため、グラフェン同士を安価に重ね合わせる方法を見出す必要がある。
第四に、重ね合わせたグラフェンの集まりからなるペーストを、基材ないしは部品に塗布ないしは印刷した際に、基材ないしは部品に、重ね合わさったグラフェンの集まりからなる塗膜ないしは印刷膜が形成されることである。これによって、グラフェンの性質に近い性質を持つ膜が、基材ないしは部品に形成される。
第五に、グラフェンを高密度に分散したペーストが製造できることである。つまり、3-6段落に記載したように、従来の導電性ペーストは、有機ビヒクルの存在が障害になり、金属粒子を高密度に分散させることが困難になった。従って、ペーストを用い、グラフェンを高密度に分散した膜が形成できることが必要になる。
第六に、グラフェンの性質に近い性質を持つ膜が形成できる。つまり、グラフェンは、金属より優れた導電性と熱伝導性と電磁波のシールド性とを兼ね備える。従って、グラフェンを重ね合わせたグラフェンの集まりからなるペーストを用い、グラフェンの性質に近い性質を持つ膜の形成ができれば、従来のペーストでは実現できなかった金属より優れた導電性と熱伝導性と電磁波のシールド性とを兼ね備えた膜の形成が可能になる。
本発明が解決しようとする課題は、6つの課題を解決する技術を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明におけるグラフェン同士が有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストを製造する方法は、
最初に、メタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、メタノールの粘度の30倍より高い粘度を持つ第二の性質と、融点が10℃より低い第三の性質と、沸点が180℃より高い第四の性質と、絶縁性である第五の性質とからなる5つの性質を兼備する有機化合物をメタノールで希釈し、メタノールの粘度の4-6倍の粘度を持つ希釈液を作成し、該有機化合物のメタノール希釈液を容器に充填する、
次に、2枚の平行平板電極のうちの一方の平行平板電極の表面に、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを平坦に引き詰め、該一方の平行平板電極を、前記容器に充填された前記有機化合物のメタノール希釈液中に浸漬させ、さらに、他方の平行平板電極を前記一方の平行平板電極の上に重ね合わせ、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりを介して、前記2枚の平行平板電極を離間させ、該離間させた2枚の平行平板電極を前記有機化合物のメタノール希釈液に浸漬させる、この後、該2枚の平行平板電極の間隙に、予め決めた大きさからなる直流の電位差を印加する、これによって、該電位差の大きさを前記2枚の平行平板電極の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりに印加され、該電界の印加によって、前記鱗片状黒鉛粒子ないしは前記塊状黒鉛粒子を形成する基底面の層間結合の全てが同時に破壊され、前記2枚の平行平板電極の間隙に、前記基底面に相当するグラフェンの集まりが製造される、この後、該2枚の平行平板電極の間隙を拡大し、該2枚の平行平板電極を前記有機化合物のメタノール希釈液中で傾斜させ、さらに、前記容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記グラフェンの集まりを、前記2枚の平行平板電極の間隙から前記有機化合物のメタノール希釈液中に移動させる、この後、前記容器から前記2枚の平行平板電極を取り出し、前記容器内に前記有機化合物のメタノール希釈液中に分散した前記グラフェンの集まりを製造する、
さらに、前記容器内にある前記有機化合物のメタノール希釈液中に分散した前記グラフェンの集まりを新たな容器に移し、この後、該新たな容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記グラフェン同士を前記有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合わせ、該グラフェン同士が前記有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストを前記容器内に製造する、グラフェン同士が有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストを製造する方法である。
【0014】
つまり、黒鉛粒子は、1-300ミクロンの分布を持つ微細な粒子の集まりで、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶の層間結合を破壊して得られる基底面からなるグラフェンは、1-300ミクロンの大きさからなる。いっぽう、グラフェンの厚みは0.332nmからなり、グラフェンは殆ど質量を持たない。例えば、グラフェンが直径100μmで、厚みが0.332nmからなる円板とすると、グラフェンの重量は僅かに3.82×10-17gになる。さらに、グラフェンは、厚みに対する面積の比率であるアスペクト比は極めて大きい。従って、有機化合物のメタノール希釈液を介して、グラフェン同士を重ね合わせると、有機化合物のメタノール希釈液が、希釈液の粘度に応じた吸着力でグラフェンに吸着する。つまり、有機化合物のメタノール希釈液の粘度は、メタノールの粘度の4-6倍と低いが、グラフェンが殆ど質量を持たないため、有機化合物のメタノール希釈液が、僅かな吸着力でアスペクト比が極めて大きいグラフェンに吸着する。これによって、重なり合ったグラフェンは、有機化合物のメタノール希釈液を介して吸着する。また、有機化合物の分子はグラフェンの厚みより十分に大きく、グラフェンの表面に有機化合物のメタノール希釈液が常時吸着する。これによって、グラフェンは有機化合物のメタノール希釈液で常時覆われる。従って、ペーストを基材ないしは部品に塗布ないしは印刷する際に、重なり合ったグラフェンの一部がいったん解離するが、全てのグラフェンの表面に有機化合物のメタノール希釈液が吸着しているため、塗膜ないしは印刷膜を形成する際に、再度グラフェンが有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合う。このため、基材ないしは部品に形成される塗膜ないしは印刷膜は、グラフェン同士が有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合った該グラフェンの集まりからなる。これによって、12段落に記載した第四の課題が解決される。
ここで、グラフェンの集まりからなるペーストを製造する方法を説明する。
最初に、有機化合物のメタノール希釈を、メタノールの粘度の4-6倍の粘度を持つ溶解液として作成する。なお、ペーストを塗布ないしは印刷した塗膜ないしは印刷膜に、180℃より高い耐熱性を持たせるため、有機化合物の沸点は180℃より高い。また、有機化合物がペーストを構成するため、有機化合物の融点は10℃より低い。さらに、有機化合物のメタノール希釈を作成するため、有機化合物はメタノールに溶解ないしは混和する。また、2枚の平行平板電極間に直流の電位差を印加させ、電位差を2枚の平行平板電極の間隙の大きさで割った値に相当する電界を、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりが存在する電極間隙に発生させるため、有機化合物は絶縁体である。メタノールも比抵抗が3MΩcm以上で、誘電率が33の絶縁体であり、有機化合物のメタノール希釈液は絶縁体になる。ちなみに、有機化合物は、イオン液体のような特殊な物質を除くと、殆どが絶縁体である。さらに、ペーストを塗布ないしは印刷した塗膜ないしは印刷膜からメタノールを気化させると、グラフェン同士が、有機化合物を介して粘着するため、有機化合物の粘度は、メタノールの粘度の30倍より高い粘度を持つ。また、メタノールを気化させた膜は、有機化合物の粘度の大きさに応じた粘着力で、基材ないしは部品に粘着する。こうした理由から、有機化合物は5つの性質を兼備する。
次に、有機化合物のメタノール希釈液中に分散したグラフェンの集まりを製造する。すなわち、2枚の平行平板電極の間隙に引き詰められた鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを、絶縁体である有機化合物のメタノール希釈液中に浸漬させ、2枚の平行平板電極間に予め決めた大きさからなる直流の電位差を印加させる。これによって、電位差を2枚の平行平板電極の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりが存在する電極間隙に発生する。この電界は、前記した黒鉛粒子の全てに対し、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を破壊させるのに十分なクーロン力を、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子に同時に与える。これによって、π電子はπ軌道上の拘束から解放され、全てのπ電子がπ軌道から離れて自由電子となる。つまり、π電子に作用するクーロン力が、π軌道の相互作用より大きな力としてπ電子に与えられると、π電子はπ軌道の拘束から解放されて自由電子になる。この結果、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子が、π軌道上に存在しなくなり、黒鉛粒子の全てについて、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊される。この結果、2枚の平行平板電極の間隙に、基底面の集まり、すなわちグラフェンの集まりが瞬時に製造される。製造されたグラフェンは、不純物がなく、黒鉛結晶のみからなる真性な物質である。なお、2枚の平行平板電極が有機化合物のメタノール希釈液中に浸漬しているため、2枚の平行平板電極の間隙に析出したグラフェンの集まりは飛散しない。これによって、黒鉛粒子の集まりから、莫大な数のグラフェンが製造され、12段落に記載した第一の課題が解決された。また、安価な素材である黒鉛粒子の集まりに、電界を印加するだけで、莫大な数のグラフェンが安価に製造できるため、12段落に記載した第二の課題も解決された。
次に、グラフェンの集まりを、2枚の平行平板電極の間隙から有機化合物のメタノール希釈液中に移動させる。このため、2枚の平行平板電極の間隙を、有機化合物のメタノール希釈液中で拡大させ、さらに、有機化合物のメタノール希釈液中で傾斜させ、この後、容器に3方向の振動加速度を加える。これによって、グラフェンの集まりが、2枚の平行平板電極の間隙から有機化合物のメタノール希釈液中に移動する。この後、2枚の平行平板電極を容器から取り出す。
さらに、容器内にあるグラフェンの集まりを、有機化合物のメタノール希釈液と共に新たな容器に移す。この後、新たな容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加える。これによって、グラフェン同士が有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合い、該グラフェンの集まりからなるペーストが容器内に製造される。つまり、新たな容器に3方向の振動加速度を加えると、容器内の有機化合物のメタノール希釈液が振動加速度の方向に移動する。この際、グラフェンが、厚みに対する面積の比率であるアスペクト比が極めて大きく、また、極めて軽量であるため、有機化合物のメタノール希釈液の移動に伴って、面を上にしてグラフェンが有機化合物のメタノール希釈液中を移動し、容器全体にグラフェンが拡散するとともに、グラフェン同士が有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合う。つまり、0.2G程度の3方向の振動加速度を新たな容器に繰り返し加え、最後に上下方向の振動加速度を加え、新たな容器への振動加速度を停止すると、グラフェン同士が有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合った該グラフェンの集まりが、新たな容器の底面に該底面の形状として形成される。この結果、12段落に記載した第三の課題は解決された。
なお、グラフェン同士が有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストを、基材ないしは部品に塗布ないしは印刷する際に、重なり合ったグラフェンの一部が解離するが、全てのグラフェンの表面に有機化合物のメタノール希釈液が常時吸着しているため、塗膜ないしは印刷膜を形成する際に、再度グラフェンが有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合う。このため、基材ないしは部品に形成される塗膜ないしは印刷膜は、グラフェン同士が有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合った該グラフェンの集まりからなる。この結果、12段落に記載した第四の課題は解決される。12段落に記載した残された課題は、第五と第六の課題である。
【0015】
ここで、2枚の平行平板電極対の間隙に印加した電界によって、2枚の平行平板電極対の間隙に引き詰められた黒鉛粒子において、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが、同時に破壊される現象を説明する。
黒鉛粒子における黒鉛結晶からなる基底面を形成する炭素原子は4つの価電子を持つ。このうちの3つの価電子は、黒鉛結晶からなる基底面、すなわち、グラフェンを形成するσ電子である。このσ電子は、基底面上で隣り合う3つの炭素原子が持つσ電子と互いに120度の角度をなして共有結合し、六角形の強固な網目構造を2次元的に形成する。残り一つの価電子はπ電子であり、基底面に垂直な方向に伸びるπ軌道上に存在する。このπ電子は、基底面に垂直な上下方向で隣り合う炭素原子が持つπ電子と弱い結合力で結合し、この弱い結合力に基づいて基底面同士が層状に積層される。つまり、基底面、すなわち、グラフェンは、弱い結合力であるπ軌道の相互作用によって互いに層状に結合されている。このため、黒鉛粒子は、黒鉛結晶からなる基底面で剥がれ易い性質、すなわち、機械的な異方性を持つ。この機械的な異方性は、黒鉛粒子の潤滑性として知られている。
こうした黒鉛粒子に電界を印加させると、全てのπ電子に電界によるクーロン力が作用する。π電子に作用するクーロン力が、π電子に作用しているπ軌道の相互作用より大きな力としてπ電子に作用すると、π電子はπ軌道上の拘束から解放される。この結果、全てのπ電子がπ軌道から離れて自由電子となる。これによって、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子がπ軌道上にいなくなるため、全ての基底面の層間結合は同時に破壊される。すなわち、π電子がクーロン力Fによって黒鉛結晶の層間距離bの距離を動く際に、π電子は仕事W(W=b・F)を行う。この仕事Wが、π電子に作用する1原子当たりのπ軌道の相互作用の大きさである35ミリエレクトロンボルト (エレクトロンボルトは電子が持つエネルギーの大きさを表す単位で、1エレクトロンボルトは1.62×10-19ジュールに相当する)を超えると、π電子はπ軌道の相互作用の拘束から解放されて自由電子になる。例えば、2枚の平行平板電極対の間隙を100μmで離間させ、この電極間に10.6キロボルト以上の直流の電位差を印加させると、黒鉛結晶からなる全ての基底面の層間結合が瞬時に破壊される。このように、安価な黒鉛粒子の集まりに電界を印加するという極めて簡単な手段によって、大量のグラフェンが安価に製造できる。また、全ての基底面の層間結合が同時に破壊するため、得られる微細な物質は、確実に黒鉛結晶からなる基底面、すなわち、グラフェンである。
なお、ここで言う黒鉛粒子の集まりとは、1gから100g程度の比較的少量の黒鉛粒子の集まりを言う。つまり、鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子は、嵩密度が0.2-0.5g/cmで、粒子の大きさが1-300ミクロンの分布を持つ微細な粒子である。従って、黒鉛粒子の集まりを2枚の平行平板電極対の間隙に引き詰めることは容易で、2枚の平行平板電極対に電位差を印加することも容易である。2枚の平行平板電極対の間隙に電位差を印加すると、黒鉛粒子が引きつめられた全ての領域に電界が発生する。この電界が、π軌道の相互作用より大きなクーロン力としてπ電子に作用し、π電子はπ軌道上の拘束から解放され、自由電子になる。この結果、黒鉛粒子における黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊され、2枚の平行平板電極対の間隙に、黒鉛結晶からなる基底面、すなわち、グラフェンの集まりが製造される。
ここで、製造されるグラフェンの数を算術で求める。ここでは、全ての黒鉛粒子が、直径が25ミクロンの球から構成されると仮定し、黒鉛の真密度が2.25×10kg/mであるから、黒鉛粒子の1個の重さは僅かに1.84×10-8gになる。また、黒鉛粒子の厚みの平均値が10ミクロンと仮定すると、層間距離が3.354オングストロームであるので、10ミクロンの厚みを持つ鱗片状黒鉛粒子には297,265個の基底面、すなわち、グラフェンが積層されている。従って、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を全て破壊することで、僅か1個の球状の黒鉛粒子から297,265個のグラフェンの集まりが得られる。このため、球状の黒鉛粒子の僅か1gの集まりについて、基底面の層間結合の全てを破壊した際に、1.62×1013個からなるグラフェンの集まりが得られる。従って、僅かな量の黒鉛粒子の集まりから、莫大な数からなるグラフェンの集まりが得られる。これによって、12段落に記載した第一の課題が解決された。また、安価な素材である黒鉛粒子の集まりに、電界を印加するだけで、莫大な数のグラフェンが安価に製造できるため、12段落に記載した第二の課題も解決された。以上に説明した黒鉛粒子の集まりからグラフェンの集まりを製造する方法は、本発明者による特許文献7に記載されている。
【0016】
13段落に記載したグラフェン同士が有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストを用い、グラフェンに粘着した有機化合物を介して該グラフェン同士が積層した該グラフェンの集まりからなる膜を、基材ないしは部品に形成する方法は、
13段落に記載した方法で製造したグラフェンの集まりからなるペーストを、基材ないしは部品に塗布ないしは印刷し、該基材ないしは該部品に、前記ペーストからなる塗膜ないしは印刷膜を形成し、この後、該基材ないしは該部品をメタノールの沸点に昇温し、前記塗膜ないしは前記印刷膜からメタノールを気化させる、これによって、該基材ないしは該部品に、グラフェンに粘着した有機化合物を介して該グラフェン同士が積層した該グラフェンの集まりからなる膜が形成される、13段落に記載した方法で製造したグラフェンの集まりからなるペーストを用い、グラフェンに粘着した有機化合物を介して該グラフェン同士が積層した該グラフェンの集まりからなる膜を基材ないしは部品に形成する方法である。
【0017】
つまり、有機化合物のメタノール希釈液における粘度が近ければ、有機化合物の粘度を高めるほど、有機化合物のメタノール希釈液における希釈率が高まる。希釈率が高いペーストからメタノールを気化させると、グラフェンに粘着する有機化合物の厚みは薄くなる。この結果、グラフェンに粘着した有機化合物を介して該グラフェン同士が積層した該グラフェンの集まりからなる膜は、グラフェンの性質に近づく。これによって、12段落に記載した第五と第六の課題が解決し、全ての課題が解決する。
すなわち、有機化合物は、メタノールの粘度の30倍より高い粘度を持つ粘着性の液体であるが、有機化合物のメタノール希釈液は、メタノールの粘度の僅か4-6倍の粘度である。つまり、有機化合物を大量のメタノールで希釈する。いっぽう、有機化合物のメタノール希釈液は、低粘度の液体である。従って、低粘度の液体からなるペーストを、塗布ないしは印刷した塗膜ないしは印刷膜の膜厚は、数ミクロンと薄い。こうした塗膜ないしは印刷膜からメタノールを気化させると、膜の体積は著しく縮小し、膜厚は、サブミクロンの厚みに低減する。この結果、サブミクロンよりさらに薄い厚みからなる有機化合物が、グラフェンに粘着する。すなわち、塗布ないしは印刷した塗膜ないしは印刷膜の膜厚が、3μmであるとする。この塗膜ないしは印刷膜からメタノールを気化すると、膜厚が0.5μmになったとする。さらに、膜は、20枚のグラフェンが重なり合って膜を構成されるとする。グラフェンの厚みは無視できるので、僅か25nmの厚みからなる有機化合物が、グラフェンに粘着する。このように、有機化合物の粘度が高くなるほど、有機化合物のメタノール希釈液における希釈率が高まる。希釈率が高いペーストからメタノールを気化させると、グラフェンに粘着する有機化合物の厚みは薄くなる。この結果、基材ないしは部品に形成された膜は、グラフェンに粘着した有機化合物を介して該グラフェン同士が積層した該グラフェンの集まりから構成されるため、膜はグラフェンの性質に近づく。また、質量を殆ど持たないグラフェンは、有機化合物の粘着力で拘束され、膜から解離できない。また、有機化合物の粘度に応じた粘着力で、膜が基材ないしは部品に粘着する。
なお、グラフェンの熱伝導率は、銀の4.5倍の19.5W/Cmで、グラフェンの体積固有抵抗率は、銀の体積固有抵抗率である1.6μΩcmよりさらに小さい1.3μΩcmである。この結果、基材ないしは部品に形成される膜は、導電性と熱伝導性と電磁波のシールド性とに優れる。また、基材ないしは部品に形成する膜の形状と大きさに制約はない。このため、基材ないしは部品に、様々な機能を持つ膜が形成される。
【0018】
13段落に記載したグラフェン同士が有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストを製造する方法は、前記有機化合物がグリコール類に属するいずれか1種類の有機化合物であり、該有機化合物を13段落に記載した5つの性質を兼備する有機化合物として用い、13段落に記載したグラフェンの集まりからなるペーストの製造方法に従って該ペーストを製造する、13段落に記載したグラフェン同士が有機化合物のメタノール希釈液を介して重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストの製造方法である。
【0019】
つまり、グリコール類に属する有機化合物に、メタノールに溶解ないしは混和する第一の性質と、メタノールの粘度の30倍より高い粘度を持つ第二の性質と、融点が10℃より低い第三の性質と、沸点が180℃より高い第四の性質と、絶縁性である第五の性質とからなる5つの性質を兼備する有機化合物が存在する。
すなわち、エチレングリコールは、メタノールに溶解し、粘度が21mPa・sでメタノールの粘度の35倍で、融点が-13℃で、沸点が197℃の絶縁体である。ジエチレングリコールは、メタノールに溶解し、粘度が36mPa・sでメタノールの粘度の61倍で、融点が-10℃で、沸点が244℃の絶縁体である。トリエチレングリコールは、メタノールに溶解し、粘度が48mPa・sでメタノールの粘度の81倍で、融点が-7℃で、沸点が288℃の絶縁体である。テトラエチレングリコールは、メタノールに溶解し、粘度が55mPa・sでメタノールの粘度の93倍で、融点が-6℃で、沸点が329℃の絶縁体である。プロピレングリコールは、メタノールに溶解し、粘度が49mPa・sでメタノールの粘度の82倍で、融点が-59℃で、沸点が188℃の絶縁体である。ジプロピレングリコールは、メタノールに混和し、粘度が116mPa・sでメタノールの粘度の193倍で、融点が-20℃で、沸点が227℃の絶縁体である。従って、これら6種類のグリコール類は、前記した5つの性質を兼備する粘着性の液体である。また、これらグリコール類は、いずれも汎用的な工業用薬品である。
従って、5つの性質を兼備する有機化合物として、グリコール類に属するいずれか1種類の有機化合物を選択し、該有機化合物をメタノールで希釈した希釈液の粘度が、メタノールの粘度の4-6倍の粘度になるように、該有機化合物をメタノールに希釈して、有機化合物のメタノール希釈液を作成する。
次に、有機化合物のメタノール希釈液を容器に充填する。さらに、2枚の平行平板電極の間隙に黒鉛粒子の集まりを配列させた該2枚の平行平板電極対を、有機化合物のメタノール希釈液に浸漬し、2枚の平行平板電極対に電界を発生し、黒鉛粒子を形成する基底面の層間結合の全てを破壊し、グラフェンの集まりを製造する。グラフェンの集まりを、有機化合物のメタノール希釈液と共に、新たな容器に移し、容器に3方向の振動加速度を繰り返し加えると、容器内にグラフェン同士がグリコール類のメタノール希釈液を介して重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストが製造される。
従って、グリコール類に属する有機化合物の中で、前記5つの性質を兼備する有機化合物は、13段落に記載したグラフェンの集まりからなるペーストを製造する際に、ペーストの原料になる。
さらに、作成したペーストを基材ないしは部品に塗布ないしは印刷し、塗膜ないしは印刷膜からメタノールを気化させると、極めて厚みが薄いグリコール類がグラフェンに粘着するとともに、極めて厚みが薄いグリコール類を介してグラフェンが積層した構成からなる膜が、基材ないしは部品に形成される。従って、質量を殆ど持たないグラフェンは、有機化合物の粘着力で膜に拘束される。また、膜は、グリコール類の粘度に応じた粘着力で、基材ないしは部品に粘着する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】エチレングリコールが粘着したグラフェンが、互いに重なり合って粘着したグラフェンの集まりからなる膜の側面を、拡大して模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施例1
本実施例は、有機化合物としてエチレングリコール(例えば、三菱ケミカル株式会社の製品)を用い、エチレングリコールのメタノール希釈液を介してグラフェンが重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストを作成する。さらに、作成したペーストを合成樹脂の基板に印刷し、メタノールを気化させ、基板に膜を形成した。
最初に、1.8リットルのメタノールに、0.2リットルのエチレングリコールを溶解させ、エチレングリコールのメタノール希釈液を作成した。このメタノール希釈液の粘度は2.64mPa・sで、メタノールの粘度の4.4倍である。このメタノール希釈液を、1.2m×1.2mの底面をもち、底が浅い容器に充填した。
次に、2枚の平行平板電極の間隙に電界が発生する電極の有効面積が、1m×1mである平行平板電極を用意し、2枚の平行平板電極を100μmの間隙で重ね合わせ、この間隙に黒鉛粒子を満遍なく引き詰め、エチレングリコールのメタノール希釈液中に浸漬する。なお、黒鉛粒子を粒径が25μmの球と仮定し、2枚の平行平板電極で作られる100μmの間隙に、黒鉛粒子を満遍なく引き詰めた場合、6.4×10個の黒鉛粒子が存在する。この黒鉛粒子の集まりに、10.6キロボルト以上の直流電圧を印加すると、全ての黒鉛粒子の基底面の層間結合が同時に破壊される。この際、1.9×1013個のグラフェンの集まりが得られ、用いる黒鉛粒子の集まりは、僅かに1.18gである。
このため、電界が発生する電極の有効面積が1m×1mである平行平板電極の表面に、鱗片状黒鉛粒子(例えば、伊藤黒鉛工業株式会社のXD100)の8gを重ねて引き詰めた。この平行平板電極を、エチレングリコールのメタノール希釈液が充填された容器に浸漬し、さらに、もう一方の平行平板電極を前記の平行平板電極の上に重ね合わせ、2枚の平行平板電極を100μmの間隙で離間させ、12キロボルトの直流電圧を電極間に加えた。次に、2枚の平行平板電極の間隙を拡大し、さらに、2枚の平行平板電極をエチレングリコールのメタノール希釈液中で傾斜させ、0.2Gからなる3方向の振動加速度を容器に繰り返し加え、この後、容器から2枚の平行平板電極を取り出した。
次に、容器内のグラフェンの集まりをエチレングリコールのメタノール希釈液と共に、底面の形状が50cm×50cmで、底が浅い容器に移した。この後、0.2Gからなる3方向の振動加速度を、容器に繰り返し加え、エチレングリコールのメタノール希釈液を介して重なり合ったグラフェンの集まりからなるペーストを容器内に形成した。
さらに、ペーストを、合成樹脂の基板の全面に印刷し、基板を65℃に昇温し、メタノールを気化させ、基板の全面に膜を形成した。なお、ペーストの印刷には、手動印刷機(例えば、ミタニ・マイクロニクス株式会社の製品MEC4000)を用いた。
次に、基板の表面と側面とを、電子顕微鏡を用いて観察と分析を行なった。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100ボルトからの極低加速電圧による表面観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料の表面が観察できる特徴を持つ。
最初に、基板表面からの反射電子線の900-1000ボルトの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。基板表面に、極めて厚みが薄い段差が確認できた。次に、基板の側面からの反射電子線の900-1000ボルトの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。有機物質が40nm前後の厚みを形成し、厚みが極めて薄い物質が、有機物質を介して20層前後重なり合っていた。さらに、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理した結果、厚みが極めて薄い物質は炭素原子のみが存在した。この結果、膜は、グラフェンにエチレングリコールが粘着し、粘着したエチレングリコールを介してグラフェンが積層したグラフェンの集まりであることが分かった。膜の側面を拡大し、図1に模式的に示した。1はグラフェンで、2はエチレングリコールである。
次に、印刷膜が形成された基板に、0.2Gからなる振動加速度を加えたが、印刷膜は基板から剥がれなかったため、膜はエチレングリコールの粘度に応じた粘着力で基板に粘着していることが分かった。また、四探針法で膜の表面の導電率を測定した。銅に近い導電率を持った。従って、膜は、銅に近い電磁波のシールド効果を持つ。また、レーザフラッシュ法で膜の熱伝導率を測定した。銀に近い熱伝導率を持った。従って、膜は、導電性と熱伝導性と電磁波シールド性に優れる膜であることが分かった。
【0022】
実施例2
本実施例は、有機化合物としてジエチレングリコール(例えば、三菱ケミカル株式会社の製品)を用い、ジエチレングリコールのメタノール希釈液を介してグラフェンが重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストを作成する。さらに、作成したペーストを合成樹脂の基板に印刷し、メタノールを気化させ、基板に膜を形成した。
最初に、1.88リットルのメタノールに、0.12リットルのジエチレングリコールを溶解させ、ジエチレングリコールのメタノール希釈液を作成した。このメタノール希釈液の粘度は2.72mPa・sで、メタノールの粘度の4.5倍である。このメタノール希釈液を、1.2m×1.2mの底面をもち、底が浅い容器に充填した。
実施例1と同様に、電界が発生する電極の有効面積が1m×1mである平行平板電極の表面に、鱗片状黒鉛粒子の8gを重ねて引き詰め、平行平板電極をジエチレングリコールのメタノール希釈液が充填された容器に浸漬し、もう一方の平行平板電極を重ね合わせ、2枚の平行平板電極を100μmの間隙で離間させ、12キロボルトの直流電圧を電極間に加えた。次に、2枚の平行平板電極の間隙を拡大し、2枚の平行平板電極をジエチレングリコールのメタノール希釈液中で傾斜させ、0.2Gからなる3方向の振動加速度を容器に繰り返し加え、この後、容器から2枚の平行平板電極を取り出した。
次に、実施例1と同様に、容器内のグラフェンの集まりをジエチレングリコールのメタノール希釈液と共に、底が浅い容器に移し、0.2Gからなる3方向の振動加速度を繰り返し加え、ジエチレングリコールのメタノール希釈液を介して重なり合ったグラフェンの集まりからなるペーストを容器内に形成した。
さらに、実施例1と同様に、ペーストを合成樹脂の基板の全面に印刷し、メタノールを気化させ、基板の全面に膜を形成した。次に、実施例1と同様に、基板の表面と側面とを、電子顕微鏡を用いて観察と分析を行なった。有機物質が24nm前後の厚みを形成し、厚みが極めて薄い物質が、有機物質を介して20層前後重なり合っていた。厚みが極めて薄い物質は、炭素原子のみからなるグラフェンであった。
次に、膜が形成された基板に、0.3Gからなる振動加速度を加えたが、膜は基板から剥がれなかったため、膜はジエチレングリコールの粘度に応じた粘着力で基板に粘着していることが分かった。また、四探針法で膜の表面の導電率を測定した。銀に近い導電率を持った。従って、銀に近い電磁波シールド効果が得られる。また、レーザフラッシュ法で膜の熱伝導率を測定した。銀より高い熱伝導率を持った。従って、実施例1より、導電性と熱伝導性と電磁波シールド性に優れる膜であることが分かった。
【0023】
実施例3
本実施例は、有機化合物としてジプロピレングリコール(例えば、住友化学株式会社の製品)を用い、ジプロピレングリコールのメタノール希釈液を介してグラフェンが重なり合った該グラフェンの集まりからなるペーストを作成する。さらに、作成したペーストを合成樹脂の基板に印刷し、メタノールを気化させ、基板に膜を形成した。
最初に、1.96リットルのメタノールに、0.04リットルのジプロピレングリコールを混和させ、ジプロピレングリコールのメタノール希釈液を作成した。このメタノール希釈液の粘度は2.91mPa・sで、メタノールの粘度の4.8倍である。このメタノール希釈液を、1.2m×1.2mの底面をもち、底が浅い容器に充填した。
実施例1と同様に、電界が発生する電極の有効面積が1m×1mである平行平板電極の表面に、鱗片状黒鉛粒子の8gを重ねて引き詰め、平行平板電極をジプロピレングリコールのメタノール希釈液が充填された容器に浸漬し、もう一方の平行平板電極を重ね合わせ、2枚の平行平板電極を100μmの間隙で離間させ、12キロボルトの直流電圧を電極間に加えた。次に、2枚の平行平板電極の間隙を拡大し、2枚の平行平板電極をジプロピレングリコールのメタノール希釈液中で傾斜させ、0.2Gからなる3方向の振動加速度を容器に繰り返し加え、この後、容器から2枚の平行平板電極を取り出した。
次に、実施例1と同様に、容器内のグラフェンの集まりをジプロピレングリコールのメタノール希釈液と共に、底が浅い容器に移し、0.2Gからなる3方向の振動加速度を繰り返し加え、ジプロピレングリコールのメタノール希釈液を介して重なり合ったグラフェンの集まりからなるペーストを容器内に形成した。
さらに、実施例1と同様に、ペーストを合成樹脂の基板の全面に印刷し、メタノールを気化させ、基板の全面に膜を形成した。次に、実施例1と同様に、基板の表面と側面とを、電子顕微鏡を用いて観察と分析を行なった。有機物質が8nm前後の厚みをなし、厚みが極めて薄い物質が、有機物質を介して20層前後重なり合っていた。厚みが極めて薄い物質は、炭素原子のみからなるグラフェンであった。
次に、膜が形成された基板に、0.4Gからなる振動加速度を加えたが、膜は基板から剥がれなかったため、膜はジプロピレングリコールの粘度に応じた粘着力で基板に粘着していることが分かった。また、四探針法で膜の表面の導電率を測定した。銀より高い導電率を持った。従って、銀より高い電磁波のシールド効果が得られる。また、レーザフラッシュ法で膜の熱伝導率を測定した。銀の熱伝導率の2倍を超える熱伝導率を持った。従って、実施例2より、導電性と熱伝導性との双方に優れる膜であることが分かった。
【0024】
実施例1-3において、ペーストを構成するグラフェンの量は同じで、グリコール類のメタノール希釈液の粘度は、略同じである。このため、基板に印刷したペーストの膜厚は略同じになる。いっぽう、用いたグリコール類の粘度が大きく異なるため、ペーストに占めるグリコール類の体積割合は大きく異なり、実施例1ではエチレングリコールが10%で、実施例2ではジエチレングリコールが6%で、実施例3ではジプロピレングリコールが僅か2%である。つまり、ジエチレングリコールの粘度がエチレングリコールの粘度の1.7倍で、ジプロピレングリコールの粘度はエチレングリコールの粘度の5.5倍と高い。従って、メタノールを気化した後の膜におけるグリコール類の体積割合は大きく異なる。この結果、実施例1では、グラフェン同士を粘着させるエチレングリコールの厚みが40nm前後で、実施例2では、グラフェン同士を粘着させるジエチレングリコールの厚みが24nm前後で、実施例3では、グラフェン同士を粘着させるジプロピレングリコールの厚みが8nm前後になった。この結果、実施例2における膜は実施例1における膜より、実施例3における膜は実施例2における膜より、導電性と熱伝導性と電磁波シールド性に優れた。つまり、ペーストに占めるグリコール類の体積割合が少ないほど、膜に占めるグリコール類の体積割合が少なくなり、グラフェンを粘着するグリコール類の厚みが薄くなり、膜の性質はグラフェンの性質に近づく。従って、用いるグリコール類の粘度が高いほど、グリコール類のメタノール希釈液の粘度が同程度でも、ペーストに占めるグリコール類の体積割合が少なくなり、メタノールを気化すると、膜に占めるグリコール類の体積割合が少なくなり、膜の性質はグラフェンの性質に近づく。しかし、ペーストを塗布ないしは印刷し、塗膜ないしは印刷膜を形成するのに、ペーストの粘度がメタノールの粘度の4倍以上が必要になるため、膜の性質をグラフェンの性質に近づける限界はある。
3つの実施例によって、グラフェン同士を粘着性の液体であるグリコール類で重ね合わせて結合したグラフェンの集まりからなる膜の製造事例を示した。これによって、これまで困難であった金属より導電性と熱伝導性と電磁波シールド性に優れた膜が形成できた。また、ペーストを製造する際に用いる原料は安価で、製造方法も極めて簡単な処理からなり、金属より導電性と熱伝導性と電磁波シールド性に優れた膜が安価に形成できる。
【符号の説明】
【0025】
1 グラフェン 2 エチレングリコール
図1