(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112092
(43)【公開日】2022-08-02
(54)【発明の名称】肥効調節型肥料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C05G 5/30 20200101AFI20220726BHJP
B01J 2/00 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
C05G5/30
B01J2/00 B
B01J2/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021007739
(22)【出願日】2021-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】591148613
【氏名又は名称】エムシー・ファーティコム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水上 敦仁
(72)【発明者】
【氏名】金谷 佑介
(72)【発明者】
【氏名】相内 淳
【テーマコード(参考)】
4G004
4H061
【Fターム(参考)】
4G004BA00
4H061AA01
4H061AA02
4H061CC16
4H061EE22
4H061EE35
4H061EE61
4H061FF08
4H061FF15
4H061GG41
4H061HH03
(57)【要約】
【課題】硫酸苦土肥料に特有な加熱による結晶水の変化に由来する被覆粒状肥料製造上の課題を解決し、任意のタイミングで肥効を発現する被覆粒状硫酸苦土肥料を製造する。
【解決手段】粒状硫酸苦土肥料の表面に被覆膜が形成された被覆粒状硫酸苦土肥料の製造方法であって、粒状硫酸苦土肥料に融点50℃未満の疎水性物質及び熱硬化性樹脂原料を50℃未満で添加後、肥料表面温度が常温から70℃を超えない範囲において、前記融点50℃未満の疎水性物質及び熱硬化性樹脂による一次被覆を施した後、更にその上から疎水性物質及び熱硬化性樹脂による二次被覆を施す被覆粒状硫酸苦土肥料の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状硫酸苦土肥料の表面に被覆膜が形成された被覆粒状硫酸苦土肥料の製造方法であって、粒状硫酸苦土肥料に融点50℃未満の疎水性物質及び熱硬化性樹脂原料を50℃未満で添加後、肥料表面温度が常温から70℃を超えない範囲において、前記融点50℃未満の疎水性物質及び熱硬化性樹脂による一次被覆を施した後、更にその上から疎水性物質及び熱硬化性樹脂による二次被覆を施す被覆粒状硫酸苦土肥料の製造方法。
【請求項2】
前記粒状硫酸苦土肥料が含マグネシウム鉱物の粉砕品と硫酸を反応させた生成物を造粒することで得られる粒状硫酸苦土肥料である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記粒状硫酸苦土肥料における硫酸マグネシウム含水塩の比率が、硫酸マグネシウム・1水和物1モルに対し、硫酸マグネシウム・6水和物0.2モル以上である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂がポリイソシアネート化合物及びポリオール化合物を粒状肥料表面上で反応させることで得られるウレタン樹脂である請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記一次被覆工程における融点50℃未満の疎水性物質が植物性油脂から選ばれる1又は2以上の物質である請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記二次被覆工程における疎水性物質がワックス類から選ばれる1又は2以上の物質である請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記一次及び二次被覆工程において、転動状態の粒状硫酸苦土肥料に疎水性物質を添加した後、(i)熱硬化性樹脂原料を添加する工程、及び(ii)転動状態を維持し、熱硬化反応により被膜形成する工程を含み、かつ前記(i)及び(ii)の工程を計2回以上繰り返す請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶出を高度に制御した被覆粒状硫酸苦土肥料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、農業就労者の高年齢化に伴う省力化のニーズから追肥の労力を削減することができる溶出調節型肥料が提案され、様々な形態の商品が実用化されている。その中でも粒状肥料の表面に有機系樹脂による被膜を施すことで内部成分の溶出を制御した被覆粒状肥料が最も汎用的に普及し、主流となっている。被覆材料となる有機系樹脂は熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂が広く使われている。
【0003】
熱可塑性樹脂を使用する例としては、特許文献1に示すようにオレフィン系樹脂とエチレン-酢酸ビニル共重合体との混合物を主成分とする被覆材料で被覆した肥料があり、被覆方法は噴流層装置により流動状態にした粒状肥料を予熱し、そこへ有機溶剤に溶解した樹脂を噴霧しつつ熱風で瞬時に乾燥させ、被膜を形成する手法が用いられる。
【0004】
一方、熱硬化性樹脂を使用する例としては、特許文献2に示すようにウレタン樹脂を主成分とする被覆材料で被覆した肥料があり、被覆方法は糖衣機、コンクリートミキサーといった回転装置により転動状態にした粒状肥料を予熱し、そこへ未硬化のウレタン樹脂を添加、熱硬化を保温しながら繰り返し、被膜を形成する手法が用いられる。
【0005】
前記ウレタン樹脂を主成分とする被覆材料で被覆した肥料については、その効率的な製造方法について種々検討がなされており、例えば特許文献3に示すように、被膜形成の際に未硬化熱硬化樹脂原料とワックス等の疎水性物質を併用することでポリウレタン被膜の疎水性を高め、水の透過性を低下させることで、より少ない樹脂量で溶出を制御することが可能となることが知られている。
【0006】
被覆粒状肥料の被覆対象となる肥料としては粒状尿素が最も多く使われている。その理由としては、その窒素成分の高さに対し比較的安価であり、一般的な窒素、リン酸、加里を含む化成肥料とのバルクブレンド肥料として高成分な肥料を製造しやすい点、窒素成分は追肥を行わずに適正な時期に作物へ供給されなかった場合の生育及び収量への悪影響が最も大きいため、肥効調節型肥料を利用する価値が高い点が挙げられる。
【0007】
一方で追肥としての利用価値が高い肥料として硫酸苦土肥料がある。硫酸苦土肥料は水溶性のマグネシウムを主成分として含むために速効的に肥料効果が得られる反面、熔成りん肥といったクエン酸溶解性のマグネシウムを主成分とする資材と比較して流亡しやすい性質も持つため、作物への肥料効果を最大限に高めるためには適正な時期に施すことが重要となる。例えば水稲栽培においては幼穂形成期前に追肥で施用することで、稲の同化作用を促進し、根張りの強化、登熟歩合の向上、倒伏軽減といった効果が表れ、収量性の向上につながることが知られている。
【0008】
一般に市販されている硫酸苦土肥料は製法から2種類に大別され、海水から製塩する際に副製される硫酸マグネシウムから得られる苦土含有量として25%程度の物と、橄欖岩、蛇紋岩といった含マグネシウム鉱物の粉砕品と硫酸を反応させることで得られる苦土含有量として14~17%程度の物がある。それぞれの硫酸苦土肥料は含有する硫酸マグネシウムの含水塩の組成や副成分に違いがあり、前者は含有する苦土分のほとんどを硫酸マグネシウム・7水和物として含み、副成分をほとんど含まないのに対し、後者は硫酸マグネシウム・1水和物を主成分とし、硫酸マグネシウム・6水和物、硫酸マグネシウム・7水和物、更に副成分としてケイ素、鉄、カルシウム、ホウ素等植物の生育に有用な元素を含む。
【0009】
前記含マグネシウム鉱物の粉砕品と硫酸の反応で得られる硫酸苦土肥料の粒状品の製造方法については、特許文献4に示されるように鉱物粉末と硫酸との反応生成物の品温が60℃以上の時に水を添加し、造粒する方法が製造に必要なエネルギーの少なさや、製造された粒状品の硬度の高さの点から工業的に極めて有利な製造方法である。この製造方法で得られる製品中には反応生成物を冷却後に造粒して得られる粒状品と比較して、硫酸マグネシウム・6水和物及び硫酸マグネシウム・7水和物からなる多水塩硫酸マグネシウムが多く含まれることが知られている(含有比率として硫酸マグネシウム・1水和物1モルに対し、硫酸マグネシウム・6水和物を0.2モル以上)。
【0010】
硫酸苦土肥料の樹脂被覆品は海水由来の苦土含有量25%の粒状硫酸苦土肥料に被覆を施した苦土含有量21~23%の物が商品化されている。しかしながら、その流通量は極めて少なく、一般に普及していない。その理由としては現在流通している被覆粒状硫酸苦土肥料は無被覆の物と比較して非常に高価であるために、施用効果により収量が増大しても必ずしも収益の改善につながらないことが挙げられる。
【0011】
被覆粒状硫酸苦土肥料を安価に提供することができていない背景には、硫酸苦土肥料特有の被覆工程における生産性の低さがある。非特許文献1に示されるように、硫酸苦土肥料の主成分である、硫酸マグネシウム・7水和物や硫酸マグネシウム・6水和物といった多水塩硫酸マグネシウムは開放系において50℃以上に加熱すると結晶水の解離と蒸発が起こり、無水塩へ順次変成していくこと知られている。前記特許文献1~3に示される通り、一般的な被覆製造工程においては被覆対象の粒状肥料の予熱が必要であるため、硫酸苦土肥料においてはその際に結晶水の解離と蒸発により吸熱し、目標品温まで昇温するためにより多くの熱エネルギーが必要であった。更に、結晶水の変化に伴って粒子の形状が崩れ、一部が粉化して装置へ固着する問題や、表面の吸油性が増大し、樹脂原料中の疎水性物質(例えば、熱可塑性樹脂原料やそれを溶解している有機溶剤、熱硬化性樹脂原料のポリイソシアネート類、潤滑剤・溶出調整剤としての動植物性油脂類、ワックス類、パラフィン類等)が粒子表面から内部へ取り込まれることで、樹脂原料が均一に被覆されなくなり、結果として形成される被膜に欠陥が生じる問題があった。被膜の欠陥を補うためには被覆工程を繰り返し行うことで被膜を厚くする必要があり、樹脂原料、製造時間ともに増大し、高コスト化が避けられなかった。
【0012】
これらの問題点に関連する先行技術として、特許文献5では被覆工程中の熱処理による肥料成分の揮散、変質を問題視し、常温でポリウレタン硬化反応を利用した被膜形成を行う技術が開示されている。しかしながら、常温での硬化反応速度は非常に遅いため、1回の被覆工程に2時間を要し、実用的なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公昭60-21952号公報
【特許文献2】特開平9-202683号公報
【特許文献3】特開2003-104787号公報
【特許文献4】特公平4-70273号公報
【特許文献5】特公昭54-39298号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】伊佐公男、野川正弘著、「自生雰囲気下での硫酸マグネシウム水和物の熱分解」、熱測定、日本熱測定学会、1983年1月、第10巻、第1号、p.2-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
現在商業的に行われている生産性の高い被覆肥料の製造方法は被覆対象肥料粒子の加熱が必須であるが、多水塩硫酸マグネシウムを含む硫酸苦土肥料においては、加熱することで結晶水に変化が生じ、品温上昇に必要なエネルギーの増大と、被膜の均一性が損なわれることが、生産性を向上させる上での障害となっている。したがって、本発明は粒状硫酸苦土肥料の被覆工程における加熱に伴う結晶水の変化を抑制することでこの問題を解決し、生産性の高い製造方法を提供し、経済的に利用価値の高い被覆粒状硫酸苦土肥料を提供することを目的とする。
【0016】
本発明者らは、硫酸苦土肥料成分中の結晶水の変化が生じ始める50℃より低温域で未硬化熱硬化性樹脂を添加し、被膜形成を行うことで、その後50℃以上の高温域に加熱した際の結晶水の解離や蒸発が抑制されることを見出し、その知見に基づいて更に検討を加えることで本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち、本発明は以下の内容を包含するものである。
(1)粒状硫酸苦土肥料の表面に被覆膜が形成された被覆粒状硫酸苦土肥料の製造方法であって、粒状硫酸苦土肥料に融点50℃未満の疎水性物質及び熱硬化性樹脂原料を50℃未満で添加後、肥料表面温度が常温から70℃を超えない範囲において、前記融点50℃未満の疎水性物質及び熱硬化性樹脂による一次被覆を施した後、更にその上から疎水性物質及び熱硬化性樹脂による二次被覆を施す被覆粒状硫酸苦土肥料の製造方法。
(2)前記粒状硫酸苦土肥料が含マグネシウム鉱物の粉砕品と硫酸を反応させた生成物を造粒することで得られる粒状硫酸苦土肥料である前記(1)に記載の製造方法。
(3)前記粒状硫酸苦土肥料における硫酸マグネシウム含水塩の比率が、硫酸マグネシウム・1水和物1モルに対し、硫酸マグネシウム・6水和物0.2モル以上である前記(2)に記載の製造方法。
(4)前記熱硬化性樹脂がポリイソシアネート化合物及びポリオール化合物を粒状肥料表面上で反応させることで得られるウレタン樹脂である前記(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)前記一次被覆工程における融点50℃未満の疎水性物質が植物性油脂から選ばれる1又は2以上の物質である前記(1)~(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)前記二次被覆工程における疎水性物質がワックス類から選ばれる1又は2以上の物質である前記(1)~(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7)前記一次及び二次被覆工程において、転動状態の粒状硫酸苦土肥料に疎水性物質を添加した後、(i)熱硬化性樹脂原料を添加する工程、及び(ii)転動状態を維持し、熱硬化反応により被膜形成する工程を含み、かつ前記(i)及び(ii)の工程を計2回以上繰り返す前記(1)~(6)のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明における一次被覆工程により、硫酸苦土肥料に含まれる多水塩硫酸マグネシウム中の結晶水の加熱による変化により生じる問題を抑えることで、溶出制御を目的とした二次被覆工程を常法に従った生産性の高い温度帯で実施することができる。該二次被覆工程においては高い溶出制御性能を付与できる疎水性物質を添加することができ、なおかつ被膜の均一性も一次被覆を施さなかった場合より高くなるため、被膜の薄膜化が可能となり、結果として経済的に利用価値の高い被覆粒状硫酸苦土肥料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の製造方法では、硫酸苦土肥料成分中の結晶水の加熱による変化(解離及び蒸発)を防ぐ目的の一次被覆を効率的に実施することが重要となる。一次被覆は熱硬化性樹脂原料を1回のみ添加、熱硬化することによる被覆であっても効果が得られるが、複数回実施し被膜を積層することでより密閉性の高い被膜が得られ、より高い効果が得られる。1回に添加する樹脂量は被覆対象肥料の形状や粒径分布によって適宜調整されるものであるが、被覆対象肥料に対し、熱硬化性樹脂原料が通常0.1~1重量%の範囲であり、好ましくは0.3~0.7重量%の範囲である。0.1重量%より少ない場合は樹脂量不足により被膜が不均一となり、1重量%より多い場合は熱硬化の際に粒子同士の粘着が強くなり、被膜の欠損を生じることがある。被膜の積層回数は多いほど密閉性は高まるが、使用樹脂量や製造時間の増大につながるため、生産性の向上を目的とする本発明の趣旨から2~10回の範囲が好ましい。
【0020】
本発明における一次被覆工程の好ましい手順は、まず転動状態にした粒状肥料に疎水性物質を添加し、粒子表面に均一に分散させた後、熱硬化性樹脂原料を添加する。この工程は結晶水の変化が生じない50℃未満の温度であれば任意の温度で行うことができ、常温で行うことも可能である。そして転動状態を維持したまま加熱を開始し、適宜昇温速度を調節し、50℃未満の温度において熱硬化反応が生じたことを確認する。熱硬化反応の確認は転動中の粒子の流動性が熱硬化性樹脂のゲル化により一時的に下がり、その後の硬化反応の進行により再び流動性が回復することを目視で観察することで確認することができる。この状態で一次被覆工程を終えて二次被覆工程へ移行することもできるが、被膜を積層する場合は1回目の被覆を終えた転動状態の粒子に樹脂原料を添加、転動を維持、熱硬化する工程を繰り返し行うことで実施することができる。その際の品温は必ずしも50℃未満の温度を維持する必要はなく、50℃を超えて70℃以内の範囲で昇温しながら実施することが可能である。
【0021】
続く二次被覆工程は、一次被覆を施した肥料粒子に溶出抑制効果の高い被膜を形成し、溶出をコントロールすることを目的とする被覆工程である。二次被覆工程は、肥料粒子を被覆温度まで予熱する工程、疎水性物質を添加し、粒子表面に均一に分散させる工程、熱硬化性樹脂原料を添加し、温度を維持し、熱硬化させる工程からなり、熱硬化性樹脂原料の添加、熱硬化の工程を繰り返し行うことで最終的な製品の被膜の厚さを調節し、任意の溶出速度の製品を得ることができる。二次被覆工程時の肥料粒子表面温度は通常60℃~90℃の範囲で行うことができ、中でも70℃~80℃の範囲が熱硬化反応の速度や製造の安定性の面から好ましい。二次被覆工程における1回に添加する樹脂量は一次被覆工程と同様、被覆対象肥料に対し、熱硬化性樹脂原料が通常0.1~1重量%の範囲で、好ましくは0.3~0.7重量%の範囲である。被膜の積層回数は目的の溶出を示す厚さになるまで任意の回数繰り返すことができるが、一般的には2~40回の範囲である。
【0022】
一次被覆工程、二次被覆工程において使用される疎水性物質は転動中の肥料粒子間の付着や肥料粒子と転動装置壁面の付着を防ぐ潤滑剤としての役割と、樹脂膜の構造の間に入り込み、膜の疎水性を変化させ溶出をコントロールする役割を持つ。すなわち、一次被覆工程においては該付着により起因する被膜不良を防ぎ、被膜の密閉性を高める効果があり、二次被覆工程においては被膜の均一性を高めるとともに膜の疎水性を高めることで少量の樹脂量で効率的に溶出を制御する効果がある。一次被覆工程及び二次被覆工程における疎水性物質の添加量は被覆対象肥料に対し、通常0.1~2重量%の範囲で、好ましくは0.2~1重量%の範囲である。また、疎水性物質は各被覆工程の1回目の熱硬化性樹脂原料の添加の前に一度に全量添加するか、もしくは分割して複数回に分けて添加することができる。
【0023】
一次被覆工程において使用される疎水性物質は、50℃未満の温度で潤滑剤として転動中の粒子表面全体に均一に広げる必要があるため、動植物性油脂、脂肪酸、ワックス、炭化水素、シリコーン等に分類される物質の内、融点が50℃未満である物質が該当する。具体例としては、動物性油脂として牛脂、豚脂、鶏脂、馬脂、魚油、バター;植物性油脂としてパーム油、大豆油、菜種油、ひまわり油、パーム核油、綿実油、ピーナッツオイル、オリーブオイル、ヤシ油、コーン油、ごま油、アマニ油、紅花油、米油、えごま油;脂肪酸としてカプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸;ワックスとして一部の低融点のパラフィンワックス;炭化水素として流動パラフィン;シリコーンとしてジメチルポリシロキサン等のシリコーンオイル、等が挙げられ、これらから選ばれる1つ又は2つ以上の混合物を使用することができる。これらの疎水性物質の中でも菜種油等の植物性油脂が特に好ましい。
【0024】
二次被覆工程において使用される疎水性物質は、前記一次被覆工程で使用される疎水性物質に加え、融点50℃以上の疎水性物質も使用することができる。具体例としては、カルナバワックス、蜜蝋、ライスワックス等の天然ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス等の合成ワックス等が挙げられ、これらから選ばれる1つ又は2つ以上の混合物を使用することができる。これらの疎水性物質の中でもパラフィンワックスが特に好ましい。二次被覆工程に用いられる疎水性物質は転動中の肥料粒子全体に均一に拡散させる必要があるため、使用する疎水性物質の融点を上回る温度に加熱し、液体の状態で添加することが好ましく、更に転動中に固化することを防ぐために肥料粒子表面温度を疎水性物質の融点以上の温度に維持することが好ましい。
【0025】
本発明に使用される熱硬化性樹脂は公知のものを使用することができる。例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられ、これらから選ばれる1つ又は2つ以上の混合物を使用することができる。これらの熱硬化性樹脂の中でもウレタン樹脂が取扱い易く、製品の品質の面からも好ましい。ウレタン樹脂はポリイソシアネート化合物とポリオール化合物を反応して得られる樹脂であり、これらの原料を転動中の肥料粒子に添加することで粒子表面に被膜を形成することが可能である。ポリイソシアネート化合物及びポリオール化合物は同時又は別々に添加することができ、あるいは予め混合した後に添加することでも被膜を形成することができる。ポリイソシアネート化合物については特に制限はなく、例えばトルエンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられ、必要に応じてこれら混合物を用いることもできる。これらの中でもMDI、ポリメリックMDI等が特に好適に用いられる。ポリオール化合物についても特に制限はなく、例えばポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ひまし油、ひまし油の変性物等が挙げられる。また、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物の反応時に触媒を添加し、硬化反応を促進することもでき、製造効率上有用な技術である。触媒としては公知の物を使用することができ、例えばトリエチレンジアミン、N-メチルモルフォリン、N,N-ジメチルモルフォリン、ジアザビシクロウンデセン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等のアミン触媒が好適に用いられる。触媒の添加の方法は他の樹脂原料と分けて単独で添加するか、又はポリオール化合物に予め分散させて添加することができる。
【0026】
粒状肥料を転動状態とする装置は特に制限はなく、公知の装置、例えば回転パン、回転ドラム、糖衣機、コンクリートミキサー等を使用することができる。また当該転動装置に付帯して加熱設備を取り付けた物が粒状肥料の品温の制御、更には製品の品質の安定化の面から好ましい。加熱設備に特に制限はなく、公知の設備、例えば重油ボイラーや灯油ヒーターによる熱風を通気する設備や、赤外線ヒーター、遠赤外線ヒーター等を使用することができる。
【0027】
本発明において被覆対象となる粒状硫酸苦土肥料は、肥料登録上の硫酸苦土肥料を含有する肥料の粒状品であれば特に限定されず、製造方法、苦土成分量に関わらず使用することができる。その例としては、海水の製塩過程で副製される硫酸マグネシウムを原料とする硫酸苦土肥料、橄欖岩、蛇紋岩といった含マグネシウム鉱物の粉砕品と硫酸を反応させることで得られる硫酸苦土肥料、水酸化マグネシウム、軽焼マグネシアといった化成品の粉砕品に硫酸を反応させることで得られる硫酸苦土肥料、又はそれらから選ばれた1種類ないし2種類以上を含有する複合肥料の粒状品が挙げられる。造粒の方法についても特に限定されることはなく、公知の造粒装置で造粒した粒状品であり、造粒バインダーの種類や添加の有無についても限定されない。これらの中でも、製造コストの増大を抑えるという目的上、含マグネシウム鉱物の粉砕品と硫酸の反応生成物の品温が60℃以上の時に水のみを添加して造粒する製造方法による物が製造コストや粒硬度の高さから特に好ましい。
【0028】
被覆対象となる粒状硫酸苦土肥料の粒径は特に制限はないが、粒径1~5mmの範囲の物が製造上好ましく、更には1.7~4mmの範囲の物が製品を機械散布する際の適用性から特に好ましい。
【実施例0029】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
粒状硫酸苦土肥料(エムシー・ファーティコム製、商品名:サンメイト)10kgをコンクリートミキサー(内径480mm)に仕込み、27rpmで回転させ、肥料を転動状態にした。疎水性物質として菜種油(キャノーラ油)を100g、樹脂原料としてポリメリックMDI(住化コベストロウレタン製、商品名:スミジュール44V20L)を47.2g、ポリエーテルポリオール(住化コベストロウレタン製、商品名:スミフェンTM)を52.8g、アミン触媒として2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールを1.2g添加し、転動状態を維持しながらヒートガン(石崎電機製作所、商品名:プラジェット PJ-216A)による熱風を通気し、加熱を開始した。加熱開始から8分後、肥料表面温度が約47℃になった時点で一時的に転動状態の肥料粒子の流動性が下がり、ウレタン樹脂の熱硬化反応が確認された。その3分後、流動性が回復したことを確認した後、再びポリメリックMDIを23.6g、ポリエーテルポリオールを26.4g、アミン触媒を0.6g添加し、転動しながら加熱を続け熱硬化させた。肥料表面温度が70℃に達するまでの間に更にもう一度同量のウレタン樹脂原料の添加及び熱硬化を行い、被覆対象肥料に対しウレタン樹脂原料として合計2重量%添加して一次被覆工程を完了した。この時加熱開始から肥料表面温度が70℃に達するまでに35分を要した。続く二次被覆工程においては、まずパラフィンワックス(日本精蝋製、商品名:Paraffin Wax-155、融点:69℃)を60g添加し均一に分散させた後、ポリメリックMDIを23.6g、ポリエーテルポリオールを26.4g、アミン触媒を0.6g添加し、肥料温度を70~75℃に維持しながら熱硬化を行った。該温度条件においては樹脂原料添加完了から3分後に熱硬化反応が概ね完了し次の樹脂原料を添加可能な状態となったことから、肥料温度を維持したまま3分毎に同量の樹脂原料を添加する工程を合計12回繰り返し、被覆対象肥料に対しウレタン樹脂原料として合計6重量%添加し二次被覆工程における樹脂添加を完了した。最後の樹脂添加から肥料温度を70~75℃にした状態で10分間維持し、樹脂を完全に硬化することで被覆粒状硫酸苦土肥料を作成した。
【0031】
(比較例1)
粒状硫酸苦土肥料(エムシー・ファーティコム製、商品名:サンメイト)10kgをコンクリートミキサー(内径480mm)に仕込み、27rpmで回転させ、肥料を転動状態にした。そしてヒートガン(石崎電機製作所、商品名:プラジェット PJ-216A)による熱風を通気し、肥料表面温度が70℃になるまで加熱した。この時加熱開始から肥料表面温度が70℃に達するまでに100分を要した。次にパラフィンワックス(日本精蝋製、商品名:Paraffin Wax-155、融点:69℃)を60g添加し均一に分散させた後、ポリメリックMDI(住化コベストロウレタン製、商品名:スミジュール44V20L)を23.6g、ポリエーテルポリオール(住化コベストロウレタン製、商品名:スミフェンTM)を26.4g、アミン触媒(2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール)を0.6g添加し、肥料温度を70~75℃に維持しながら熱硬化を行った。肥料温度を維持したまま3分毎に同量の樹脂原料を添加する工程を合計16回繰り返し、被覆対象肥料に対しウレタン樹脂原料として合計8重量%添加し樹脂添加を完了した。最後の樹脂添加から、肥料温度を70~75℃にした状態で10分間維持し、樹脂を完全に硬化することで被覆粒状硫酸苦土肥料を作成した。
【0032】
(比較例2)
一次被覆工程において疎水性物質を添加しない以外は実施例1と同様にして、サンプルを作成した。この時、加熱開始から肥料表面温度が70℃に達するまでに32分を要した。
【0033】
(実施例2)
粒状硫酸苦土肥料(エムシー・ファーティコム製、商品名:サンメイト)100kgをコンクリートミキサー(内径1000mm)に仕込み、18rpmで回転させ、肥料を転動状態にした。疎水性物質として菜種油(キャノーラ油)を1000g、樹脂原料としてポリメリックMDI(住化コベストロウレタン製、商品名:スミジュール44V20L)を472g、ポリエーテルポリオール(住化コベストロウレタン製、商品名:スミフェンTM)を528g、アミン触媒として2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールを12g添加し、転動状態を維持しながら装置外壁にジェットヒーターの熱風を当てることで加熱を開始した。加熱開始から29分後、肥料表面温度が約46℃になった時点で一時的に転動状態の肥料粒子の流動性が下がり、ウレタン樹脂の熱硬化反応が確認された。その5分後、流動性が回復したことを確認した後、再びポリメリックMDIを236g、ポリエーテルポリオールを264g、アミン触媒を6g添加し、転動しながら加熱を続け熱硬化させた。肥料品温が70℃に達するまでの間に更に2回同量のウレタン樹脂原料の添加及び熱硬化を行い、被覆対象肥料に対しウレタン樹脂原料として合計2.5重量%添加して一次被覆工程を完了した。続く二次被覆工程においては、まずパラフィンワックス(日本精蝋製、商品名:Paraffin Wax-155、融点:69℃)を600g添加し均一に分散させた後、ポリメリックMDIを236g、ポリエーテルポリオールを264g、アミン触媒を6g添加し、肥料温度を70~75℃に維持しながら熱硬化を行った。該温度条件においては樹脂原料添加完了から3分後に熱硬化反応が概ね完了し次の樹脂原料を添加可能な状態となったことから、肥料温度を維持したまま3分毎に同量の樹脂原料を添加する工程を合計11回繰り返し、被覆対象肥料に対しウレタン樹脂原料として合計5.5重量%添加し二次被覆工程における樹脂添加を完了した。最後の樹脂添加から肥料温度を70~75℃にした状態で10分間維持し、樹脂を完全に硬化することで被覆粒状硫酸苦土肥料を作成した。
【0034】
(比較例3)
一次被覆工程において疎水性物質を添加せず、一次被覆樹脂添加総量を3.5重量%、二次被覆樹脂添加総量を4.5%とした以外は実施例2と同様にして、サンプルを作成した。
【0035】
各実施例及び比較例で作成した被覆肥料は水中に浸漬して25℃に保温し、経時的にサンプリングして溶出したマグネシウム量を測定し、溶出率を算出した。また、被覆前の粒状硫酸苦土肥料、並びに各実施例及び比較例で作成したサンプルの水分率を100℃、5時間乾燥後の重量変化から測定した。
【0036】
実施例1~2、及び比較例1~3における実施の概要を表1に、被覆前後の水分の測定結果を表2に、マグネシウム溶出率の推移の結果を表3にまとめた。
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
表2に示した水分率の比較の結果、一次被覆を施した実施例1、比較例2は一次被覆を施していない比較例1と比較して水分率の減少が抑えられていることが示された。この結果は被覆温度に達するまでの昇温時間が実施例1で35分、比較例2で32分であったのに対し、比較例1で100分であったことと対応しており、一次被覆により結晶水の蒸発が抑制され、生産性が著しく改善されることを示すものである。また、表3に示したマグネシウム溶出率の推移から、実施例1、2において長期間にわたり安定して溶出していることが分かった。一次被覆工程において疎水性物質を添加しなかった比較例2においては最終的な溶出率は実施例1と同等になるが、前半の溶出が急激であり、肥効の緩効化の目的からすると好ましくない。この結果は一次被覆工程において疎水性物質することで被膜の均一性が向上し、溶出を安定化させる効果があることを示すものである。