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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112117
(43)【公開日】2022-08-02
(54)【発明の名称】魚介類の陸上養殖装置と養殖方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/00 20170101AFI20220726BHJP
   A01K 61/51 20170101ALI20220726BHJP
   A01K 63/04 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
A01K61/00
A01K61/51
A01K63/04 F
A01K63/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021007781
(22)【出願日】2021-01-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行日:令和2年11月27日 刊行物:徳島新聞[令和2年11月27日 朝刊] 第8面 発行者名:一般社団法人徳島新聞社 発行日:令和2年12月4日 刊行物:徳島新聞[令和2年12月4日 朝刊] 第3面 発行者名:一般社団法人徳島新聞社 開催日 :令和2年12月24日 集会名 :徳島ニュービジネス支援賞 開催場所:一般社団法人徳島ニュービジネス協議会(徳島県徳島市東船場町2-21-2 阿波銀住友生命ビル 3F) 発行日:令和2年12月25日 刊行物:日本経済新聞[令和2年12月25日 朝刊] 第 39面 発行者名:株式会社日本経済新聞社
(71)【出願人】
【識別番号】509034432
【氏名又は名称】有限会社イシズチコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石槌 幸宏
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA01
2B104AA22
2B104AA27
2B104CA01
2B104CB12
2B104CB30
2B104CG14
2B104DD01
2B104EA01
2B104EB05
2B104EB27
2B104ED08
2B104ED12
2B104ED16
2B104ED19
2B104ED26
2B104ED36
2B104EF03
(57)【要約】
【課題】魚介類を養殖する海水をスジアオノリで効率よく浄化できる魚介類の陸上養殖装置と養殖方法を提供する
【解決手段】魚介類の養殖槽1と、養殖槽1に連結され、かつ海藻で海水を浄化する海藻の生育槽3と、養殖槽1と生育槽3との間に海水を供給するポンプ7とを備える魚介類の陸上養殖装置100であって、生育槽3が、海水を浄化する海藻にスジアオノリを生育してなる水槽で、生育槽3のスジアオノリが、養殖槽1から供給される海水に含まれる魚介類の排出物を肥料として生育し、生育するスジアオノリが海水中の二酸化炭素を吸収して酸素を放出して浄化し、養殖槽1が生育槽3のスジアオノリで浄化された海水で魚介類を養殖する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介類の養殖槽と、
前記養殖槽に連結され、かつ海藻で海水を浄化する海藻の生育槽と、
前記養殖槽と前記生育槽との間に海水を供給するポンプとを備える魚介類の陸上養殖装置であって、
前記生育槽が、海水を浄化する海藻にスジアオノリを生育してなる水槽で、
前記生育槽のスジアオノリが、前記養殖槽から供給される海水に含まれる魚介類の排出物を肥料として生育し、
生育するスジアオノリが海水中の二酸化炭素を吸収して酸素を放出して浄化し、
前記養殖槽が前記生育槽のスジアオノリで浄化された海水で魚介類を養殖する魚介類の陸上養殖装置。
【請求項2】
請求項1に記載の魚介類の陸上養殖装置であって、
さらに、海水中の排出物の一部を泡沫で分離する泡沫分離槽を備え、
前記泡沫分離槽が、
前記泡沫分離槽の海水中に気泡を供給するバブリング器と、
前記バブリング器に空気を供給する空気ポンプとを備える魚介類の陸上養殖装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の魚介類の陸上養殖装置であって、
前記生育槽が、
前記生育槽の海水を浮上する気泡で攪拌する攪拌機構を備え、
前記攪拌機構が、
前記生育槽の海水中に気泡を供給する排気口を開口してなる放出器と、
前記放出器に空気を供給するブロワーとを備える魚介類の陸上養殖装置。
【請求項4】
請求項3に記載の魚介類の陸上養殖装置であって、
前記攪拌機構の放出器に開口する排気口の開口面積が10mm以上である魚介類の陸上養殖装置。
【請求項5】
請求項3に記載の魚介類の陸上養殖装置であって、
前記攪拌機構の放出器に開口する排気口の開口面積が100mm以上である魚介類の陸上養殖装置。
【請求項6】
請求項3ないし5のいずれか一項に記載の魚介類の陸上養殖装置であって、
前記攪拌機構が、
前記ブロワーを前記放出器に連結してなる空気の搬送パイプを有し、
前記搬送パイプの開口された先端が前記放出器の排気口である魚介類の陸上養殖装置。
【請求項7】
請求項6に記載の魚介類の陸上養殖装置であって、
前記搬送パイプが、
内径を13mmφ~21mmφとする水道配管用のプラスチックパイプである魚介類の陸上養殖装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載の魚介類の陸上養殖装置であって、
前記養殖槽が、
海水に酸素を補給するエアレーション機構を備え、
前記エアレーション機構が、
前記養殖槽の海水中に微細気泡を噴射する無数の噴射開口を有する噴出器と、
前記噴出器に加圧空気を供給する空気ポンプとを備え、
前記噴出器が、前記攪拌機構の放出器が海水中に噴出する気泡よりも微細な気泡を噴出する魚介類の陸上養殖装置。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載の魚介類の陸上養殖装置であって、
前記養殖槽が、
貝の養殖槽であることを特徴とする魚介類の陸上養殖装置。
【請求項10】
請求項9に記載の魚介類の陸上養殖装置であって、
前記養殖槽が、
アワビの養殖槽であることを特徴とする魚介類の陸上養殖装置。
【請求項11】
魚介類を養殖する養殖槽の海水を海藻の生育槽に循環して、魚介類を養殖する方法であって、
前記生育槽でスジアオノリを生育させると共に、
前記生育槽の海水を、
浮上する気泡で攪拌してスジアオノリを海水中で分散し、
海水中に分散されたスジアオノリが、養殖槽から供給される海水に含まれる魚介類の排出物を肥料として生育し、
スジアオノリで海水中の二酸化炭素を吸収して酸素を供給して浄化し、
前記生育槽で浄化した海水を前記養殖槽に供給する魚介類の養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類を飼育する養殖槽の海水を海藻で浄化する陸上養殖装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚介類の養殖槽の海水を海藻で浄化する装置と方法は開発されている(特許文献1、2参照)。以上の特許文献は、養殖槽の海水を海藻で浄化するアワビの養殖方法とシステムを開示する。これらの養殖システムは、アワビを養殖する水槽である飼育槽に藻類培養装置を連結している。藻類栽培装置は、主としてアオサなどの緑藻類を人工的に栽培し養殖するための装置である。この藻類栽培装置は、緑藻類の培養を太陽光等で行い、雨天、曇天時に太陽光の光が弱いときは、人工的なLED光照射灯で行う。ここで培養される緑藻類はアオサ等が使用される。藻類栽培装置のアオサは、二酸化炭素、硝酸態窒素、リン酸態リン吸収し、さらに光合成で酸素を発生して、飼育海水に供給する。
【0003】
この公報は、アオサを繁殖させて海水を浄化する技術を開示するが、この方法では魚介類を養殖する海水を効率よく浄化できず、浄化に大容量の生育槽を必要とする。養殖槽での魚介類の養殖は、高い密度で効率よく魚介類を養殖することから、魚介類の排出物による海水の汚れが甚だしく、浄化が十分でないと病気による弊害を防止して安定な養殖を実現できない。さらに、陸上養殖装置は、限られた敷地で養殖槽と生育槽を設けるので、できる限り小さい生育槽で効率よく生育槽の海水を浄化する特性が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-208890号公報
【特許文献2】特開2015-89348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の欠点を解消することを目的に開発されたもので、本発明の一目的は、魚介類を養殖する海水をスジアオノリで効率よく浄化できる魚介類の陸上養殖装置と養殖方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
本発明の一実施態様の魚介類の陸上養殖装置は、魚介類の養殖槽と、養殖槽に連結され、かつ海藻で海水を浄化する海藻の生育槽と、養殖槽と生育槽との間に海水を供給するポンプとを備えている。生育槽が、海水を浄化する海藻にスジアオノリを生育してなる水槽で、生育槽のスジアオノリが、養殖槽から供給される海水に含まれる魚介類の排出物を肥料として生育し、生育するスジアオノリが海水中の二酸化炭素を吸収して酸素を放出して浄化し、養殖槽が前記生育槽のスジアオノリで浄化された海水で魚介類を養殖する。
【0007】
以上の装置は、生育槽に生育して繁殖するスジアオノリが、魚介類の排出物である有機物を肥料として吸収して浄化する。海水中のスジアオノリは、魚介類の排出有機物を肥料として吸収して成長する。成長するスジアオノリは光合成して二酸化炭素を吸収して酸素を放出して海水に供給する。スジアオノリで魚介類の有機物濃度が低下して酸素濃度が向上した海水は、魚介類の生息に快適な状態に浄化される。とくに、スジアオノリは海水の浄化に理想的な形態をしているので、効率よく海水を浄化し、しかも増殖したスジアオノリは、極めて高額で商品価値の高い海藻として、魚介類に加えて追加の商品として販売できるという、極めて高い経済効果がある。それは、スジアオノリが、アオサのように平面状の海藻ではなく、無数の細い筋が放射状に連結された形状であって、さらに筋の表面には無数の微細な毛根状の凹凸があるので、海水との接触面積が極めて大きいからある。また、海水中では細長い筋がユラユラと揺動して海水と相対運動するからである。海水との接触面積が大きく、しかも海水との相対運動の大きいスジアオノリは、魚介類の排出物である有機物を効率よく吸収して生育し、さらに海水中に効率よく酸素を放出して海水を浄化する。さらに、以上の装置は、スジアオノリを使用することで、アオサと異なり、立体的飼育が可能で、水槽内の空間を効率的に利用でき、小スペースでの生産力を向上できる利点もある。アオサが水槽の底面や壁面の平面に付着して成長する平面状の海藻であるのに対し、スジアオノリは底面や壁面に付着することなく浮遊飼育することで立体的に水槽を有効利用でき、単位容積当たりの生産量を増加させ、小スペース化にも資するからである。
【0008】
以上の特長に加えて、生育して繁殖したスジアオノリが、生育槽から取り出して高価な製品として販売できることが、養殖経営において極めて高い経済効果を実現する。スジアオノリは淡水と海水が混じり合う汽水~海水でみられ、上品な磯の香りと溶けるような口当たりが特徴で、2016年以来収穫量が激減し、高級品として取り扱われている。これに対し、アオサは、香り風味が劣り、葉が厚く食感も口に残り、例えばお好み焼きなどに使用される。スジアオノリは、アオサに対して、約10倍近い高額な販売価格で販売されている。また、スジアオノリは養殖している魚介類よりも短期間で繁殖するので、魚介類よりも頻繁に採集して販売できることも高い経済効果を実現する。魚介類の養殖は、販売できる大きさに成長するまでの期間が長く、短期間では商品化できない。たとえば、アワビの養殖にあっては、養殖を開始して1年ないし3年は商品として出荷できないので、この間のキャシュフローが極めて難しく、このことは養殖産業の経営を難しくする原因となる。水温管理が可能な陸上養殖において、短期間で繁殖するスジアオノリは成長期間が短く、魚介類が成長するまでの間に何回も高額な商品として販売できるので、魚介類が成長するまでの間に、スジアオノリを販売できることは、好ましいキャシュフローの実現に最適である。さらに好ましいことに、生育槽で繁殖するスジアオノリは、魚介類の排出物を肥料として成長するので、陸上繁殖しながらスジアオノリの生産コストを著しく低減できる。このことは、スジアオノリの販売価格が高額なこととの相乗効果で極めて高い経済効果を実現する。
【0009】
本発明の他の実施態様の魚介類の陸上養殖装置は、さらに、海水中の排出物の一部を泡沫で分離する泡沫分離槽を備えている。泡沫分離槽が、泡沫分離槽の海水中に気泡を供給するバブリング器と、バブリング器に空気を供給する空気ポンプとを備えている。
【0010】
以上の装置は、泡沫分離槽のバブリングにより上昇する気泡で養殖槽からの海水中に浮遊している魚介類の排出物を均等に分散できる。均等に分散された魚介類の排出物が肥料として生育槽全体に供給されてスジアオノリが効率良く繁殖して海水を浄化できる。また、泡沫分離槽は魚介類の排出物を液面に浮上させて、排出物の一部を除去廃棄できる。養殖槽において高い密度で魚介類が養殖され、魚介類の排出物による海水の汚れが甚だしく、浄化が十分でないと病気による弊害を招き、安定的な養殖を阻害する。そこで生育槽のスジアオノリによる海水の浄化に加えて、泡沫分離槽でさらに海水を浄化でき、効率よく安定的な養殖を実現できる。また、小型の泡沫分離槽で海水の浄化に寄与できることは、陸上養殖装置全体の小スペース化につながり養殖の効率化及びコスト低減に資する。
【0011】
本発明の他の実施態様の魚介類の陸上養殖装置は、生育槽が、生育槽の海水を浮上する気泡で攪拌する攪拌機構を備えている。攪拌機構が、生育槽の海水中に気泡を供給する排気口を開口してなる放出器と、放出器に空気を供給するブロワーとを備えている。
【0012】
以上の装置は、生育槽の海水中において、スジアオノリの絡まりと、攪拌機構への付着を抑制して、海水にスジアオノリを均一に分散し、さらに海水を攪拌して、スジアオノリと海水とを相対運動させて、スジアオノリでもって極めて効率よく海水を浄化できる特長がある。それは、海水中を浮上する気泡が、生育槽の海水を攪拌するからである。
【0013】
本発明の他の実施態様の魚介類の陸上養殖装置は、攪拌機構の放出器に開口する排気口の開口面積が10mm以上である。
【0014】
以上の陸上養殖装置の生育槽に気泡を供給する放出器は、攪拌機構の排気口から大きな気泡を海水中に放出できる。大きな気泡は浮力が大きく、海水中を速やかに浮上して、生育槽の海水を効率よく攪拌する。大粒の気泡で効率よく攪拌される海水は、浮遊するスジアオノリを絡ませることなく、海水中に均一に分散でき、さらに気泡で効果的に攪拌される海水は、スジアオノリと接触状態が向上して、効率よく海水を浄化する。このことは、生育槽のスジアオノリの生育と海水の浄化に極めて大切である。それは、スジアオノリは、海水との接触面積が大きい特長はあるが、無数の筋状の海藻が放射状に連結された形態が極めて絡まりやすく、また、スジアオノリは海水中では岩などに付着して成長することから、生育槽で接触物に付着しやすい特性かあるからである。さらに、以上の装置は、放出器の排気口の開口面積を大きくして、空気をスムーズに通過できる構造とするので、放出器の圧力損失が小さく、ブロワーの排出圧力を低くして多量の気泡を海水中に供給して、消費電力の小さいブロワーで効率よく生育槽の海水を浄化できる。
【0015】
本発明の他の実施態様の魚介類の陸上養殖装置は、攪拌機構の放出器に開口する排気口の開口面積が100mm以上である。
【0016】
以上の陸上養殖装置は、さらに大きな気泡を海水中に放出して、生育槽の海水をさらに効率よく攪拌して、浮遊するスジアオノリを絡ませることなく海水中に分散し、海水とスジアオノリと接触状態をさらに向上して、海水をより効果的に浄化できる。さらに、以上の装置は、放出器の排気口をさらに大きく開口して、空気をよりスムーズに通過して、放出器の圧力損失を小さできる。このため、放出器に空気を供給するブロワーで効率よく多量の空気を送風して大きな気泡を無数に海水中に供給して、効率よく生育槽の海水を攪拌してスジアオノリで有効に浄化できる。
【0017】
本発明の他の実施態様の魚介類の陸上養殖装置は、攪拌機構が、ブロワーを放出器に連結してなる空気の搬送パイプを有し、搬送パイプの開口された先端が放出器の排気口である。
【0018】
以上の陸上養殖装置は、搬送パイプの先端から空気を排気して生育槽の海水に大きな気泡を供給するので、生育槽の海水を大きな気泡で効率よく攪拌して速やかに浄化しながら、放出器にスジアオノリが付着するのを防止できる特長がある。生育槽は、複数の排気口を設けている放出器を配置すると表面にスジアオノリが付着して、付着するスジアオノリによる海水の浄化作用が低下する。表面に付着するスジアオノリは、平面状に配置されるので、海水中を遊泳するスジアオノリに比較して、海水との接触効果が低下して、海水の浄化作用が低下するからである。
【0019】
本発明の他の実施態様の魚介類の陸上養殖装置は、搬送パイプが、内径を13mmφ~21mmφとする水道配管用のプラスチックパイプである。
【0020】
以上の装置は、塩ビパイプ(硬質ポリ塩化ビニル管)やポリエチレンパイプなどの水道用のプラスチックパイプを使用して攪拌機構を制作できるので、プラスチックパイプを所定の長さに切断し、エルボやチーズなどの市販部品を使用して攪拌機構を最適形状とし、さらに、プラスチックパイプの先端から、あるいはプラスチックパイプに連結している、エルボやチーズの開口部から海水中に空気を排出して大きな気泡を供給して、海水を効率よく攪拌してスジアオノリで浄化でき、さらに製造コストと加工手間を低減して、海水を効率よく攪拌できる攪拌機構を安価に制作できる特長がある。
【0021】
本発明の他の実施態様の魚介類の陸上養殖装置は、養殖槽が海水に酸素を補給するエアレーション機構を備えている。エアレーション機構が、養殖槽の海水中に微細気泡を噴射する無数の噴射開口を有する噴出器と、噴出器に加圧空気を供給する空気ポンプとを備え、噴出器が、攪拌機構の放出器が海水中に噴出する気泡よりも微細な気泡を噴出する。
【0022】
以上の装置は、養殖槽には微細な気泡を噴出し、空気をエアレーションして海水中の酸素濃度を高くして、魚介類を養殖できる。
【0023】
本発明の他の実施態様の魚介類の陸上養殖装置は、養殖槽が貝の養殖槽である。
【0024】
本発明の他の実施態様の魚介類の陸上養殖装置は、養殖槽がアワビの養殖槽である。
【0025】
本発明の他の実施態様の魚介類の養殖方法は、魚介類を養殖する養殖槽の海水を海藻の生育槽に循環して、魚介類を養殖する方法であって、生育槽でスジアオノリを生育させると共に、生育槽の海水を浮上する気泡で攪拌してスジアオノリを海水中で分散し、海水中に分散されたスジアオノリが、養殖槽から供給される海水に含まれる魚介類の排出物を肥料として生育し、スジアオノリで海水中の二酸化炭素を吸収して酸素を供給して浄化し、生育槽で浄化した海水を養殖槽に供給する。
【0026】
以上の陸上養殖方法は、生育槽に生育するスジアオノリでもって、魚介類から排出される有機物を吸収して浄化する。海水中のスジアオノリは、魚介類の排出有機物を肥料として吸収して成長する。成長するスジアオノリは光合成して二酸化炭素を吸収して酸素を放出して海水に供給する。スジアオノリで魚介類の有機物濃度が低下して酸素濃度が向上した海水は、魚介類の生息に快適な状態に浄化される。とくに、スジアオノリはアオサなどに比較して海水との接触面積が極めて大きいことに加えて、筋状の海藻が海水中でユラユラと揺動して海水と相対運動する。海水との接触面積が大きく、しかも海水と相対運動するスジアオノリは、海水中の有機物を効率よく吸収して生育し、さらに海水中に効率よく酸素を放出して効果的に海水を浄化する。生育して繁殖したスジアオノリは、生育槽から取り出して高価な製品として販売できる特長もある。さらに、生育槽で生育するスジアオノリは、肥料を供給することなく繁殖できるので、スジアオノリの製造コストを著しく低減しながら、商品価値の高いスジアオノリを多量に生産できる特長も実現する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る陸上養殖装置を示す概略斜視図である。
図2図2は、養殖槽を示す概略垂直断面図である。
図3図3は、泡沫分離槽を示す概略垂直断面図である。
図4図4は、生育槽を示す概略水平断面図である。
図5図5は、生育槽を示す概略垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一もしくは同等の部分又は部材を示す。
さらに以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体例を示するものであって、本発明を以下に限定するものではない。また、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また、一の実施の形態、実施例において説明する内容は、他の実施の形態、実施例にも適用可能である。また、図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
【0029】
本発明の陸上養殖装置100は、陸上に設置されて魚介類を養殖する。陸上養殖装置100は、魚介類の養殖に使用できる。水産動物の総称を示す魚介類は、例えばアワビやカキなどを貝類とし、あるいは海水で養殖する全ての魚、例えばタイ、ハマチ、ブリ、サンマなどを魚類とし、さらにエビ、カニなど甲殻類、ウニ、ナマコなど棘皮動物、タコ、イカなど軟体類、スッポンなどを広く含むものとする。以下の明細書及び図面において、代表例として主にアワビについて記載するが、陸上養殖装置100は広く魚介類を対象とし、アワビに限定されるものではない。
【0030】
本発明の一実施形態に係る陸上養殖装置100を図1図5に示す。図1は陸上養殖装置100の概略斜視図を、図2は養殖槽1の概略垂直断面図を、図3は泡沫分離槽2の概略垂直断面図を、図4は生育槽3の概略水平断面図を、図5は生育槽3の概略垂直断面図を、それぞれ示している。
【0031】
(陸上養殖装置100)
図1の陸上養殖装置100は、海水を充填して魚介類を養殖する養殖槽1と、養殖槽1に連結されて養殖槽1の海水を浄化する生育槽3と、養殖槽1と生育槽3に海水を送るポンプ7とを備えている。さらに、図1の陸上養殖装置100は、養殖槽1と生育槽3の間にバブリングして気泡で海水中の排出物の一部を分離する泡沫分離槽2を設け、さらにまた、海水を一時的に蓄える複数のクッションタンク4を設けている。図1において、養殖槽1と生育槽3と泡沫分離槽2は、上方開口部を細長い長方形として平行に配置している。複数のクッションタンク4は、細長い長方形の海水槽の長手方向に離して配置している。
【0032】
(養殖槽1)
図1及び図2に示す養殖槽1は、魚介類を養殖する水槽である。養殖槽1は、上方を開口している箱形で、アワビの養殖槽1は、好ましくは上方開口部を細長い長方形、ないしは両端の周壁をアーチ状に湾曲している上方開口の細長い箱形である。図示しないが、遊泳する魚類の養殖槽1は魚が遊泳できるように、好ましくは上方開口部を円形や楕円形とする。
【0033】
図1及び図2の養殖槽1は、海水に酸素を供給するエアレーション機構11を備えている。図2に示すエアレーション機構11は、養殖槽1の海水中に微細気泡を噴射する無数の噴射開口12aを有する噴出器12と、噴出器12に加圧空気を供給する空気ポンプ13とを備える。エアレーション機構11は、気泡を小さくすることで、海水との接触面積を大きくして酸素を効率よく海水に補給し、さらに、微細な気泡として浮上速度を遅くして、海水中の滞在時間を長くして、海水との接触時間を長くして酸素を効率よく海水に補給する。噴出器12は、海水中に放出する気泡を小さくするために、微細な空隙から空気を海水中に噴出して微細な気泡とする。噴出器12は、好ましくは気泡をナノバルブとして海水中に噴出する。エアレーション機構11は海水に酸素を補給することを目的として養殖槽1に設けられるので、できる限り微細な気泡の状態で海水中に噴出する。噴出された気泡は、海水中を浮上するが、できる限り浮上速度を遅くして、停滞時間を長くしているので、エアレーションによる海水の攪拌は局所的に限られ、養殖槽1全体の海水が均一に攪拌されることはない。とくに、アワビは魚のように遊泳して多くのエネルギーを消費することがないので、エアレーションによる酸素の補給量は、魚の養殖槽1のようには要求されない。エアレーションによる酸素補給を少なくできることから、アワビの養殖槽1は気泡による海水の攪拌はさらに少なくできる。
【0034】
図1及び図2に示すように、養殖槽1でアワビを養殖する場合、複数の棚を設けることで養殖槽1内の立体的空間を効率よく利用できる。複数の棚を設けて棚にアワビを付着させて養殖できるからである。棚は、水槽に対して垂直方向または水平方向、あるいは斜め方向などに間隔をもって複数設置できる。棚の枚数及び間隔はアワビの量、生育状況などに応じて調整できる。また、棚を水槽に対して垂直方向に設ける場合、棚が水槽の長手方向または短手方向に伸びるように配置できる。図1及び図2に示すように、複数の棚を垂直方向に間隔をもって設置することで、糞尿、餌の残渣など魚介類の排出物を棚上に溜めることなく、下方に落とすことができ、排出口14から排出物を排出し易くできる。
【0035】
(排出口14、ポンプ7)
魚介類が養殖されることで魚介類の排出物などが生じ、養殖槽1内の海水の汚れの原因となる。魚介類の排出物は、例えば、糞尿など排泄物、よだれ(唾液)、粘液、餌の残渣などが挙げられる。図2の養殖槽1は、底に沈む魚介類の排出物をスムーズに排出するために、底部の複数カ所に排出口14を設けている。図2の排出口14は、養殖槽1の両端部と中間部の複数カ所に開口する。排出口14は、排出弁14aを介してポンプ7を連結している。ポンプ7は、養殖槽1の海水を底部から吸入して、泡沫分離槽2を介して生育槽3に供給する。ポンプ7は、各々の排出口14に連結して吸入する海水を泡沫分離槽2に供給し、あるいは複数の複数の排出口14を集合配管で連結して、ひとつのポンプ7で養殖槽1の海水を吸入して泡沫分離槽2に供給する。泡沫分離槽2は、複数の流入口21を設けている。ひとつのポンプ7で養殖槽1の海水を泡沫分離槽2に供給する装置は、複数の流入口21を集合配管でひとつの配管に集合して、ポンプ7に連結する。複数の排出口14の養殖槽1と、複数の流入口21のある泡沫分離槽2は、養殖槽1の各々の排出口14を別々の配管で泡沫分離槽2の各流入口21に連結することができる。この装置は、各々の配管にポンプ7を連結している。ただ、陸上養殖装置100は養殖槽1の液面を泡沫分離槽2よりも高くして、養殖槽1と泡沫分離槽2に落差を設けて、ポンプ7を使用することなく養殖槽1から泡沫分離槽2に自然に海水を流入することもできる。
【0036】
(泡沫分離槽2)
泡沫分離槽2は、微細な気泡を多量に発生させて泡沫とし、養殖槽1からの海水中の排出物を均等に分散し、また一部の排出物を除去する水槽である。図1の陸上養殖装置100は、養殖槽1と、生育槽3と、泡沫分離槽2と、複数のクッションタンク4とを備える。図1の陸上養殖装置100は、養殖槽1の海水を泡沫分離槽2を介して生育槽3に供給する。この装置は、養殖槽1の海水を直接には生育槽3に流入することなく、泡沫分離槽2で海水に含まれる排出物を均等に分散して生育槽3に供給する。泡沫分離槽2から生育槽3に流入される海水は、生育槽3のスジアオノリに均等に分散した排出物を肥料として供給して、スジアオノリを均等に好ましい環境で培養させる。ただし、図示しないが、陸上養殖装置100は、養殖槽1→生育槽3→泡沫分離槽2の順で海水を循環させることもできる。
【0037】
図1の陸上養殖装置100は、養殖槽1と生育槽3との間に泡沫分離槽2を設けてなる。この装置は、養殖槽1の海水を泡沫分離槽2を介して生育槽3に供給する。さらに、図3の泡沫分離槽2は、バブリングして、底部に噴射する微細な気泡を多量に発生させて泡沫ができ、上昇する泡沫で海水中を浮遊している魚介類の排出物の一部、例えばよだれ、粘液などアミン質を液面に浮上させる。浮上した排出物は、手作業で除去し、あるいは液面の近傍に開口した廃棄口25から外部に廃棄する。魚介類の排出物の一部であるよだれ、粘液などアミン質は、海水に粘性を与え、アワビなど魚介類やスジアオノリの生育に悪影響を及ぼすためである。泡沫分離槽2は、底部に配置されて海水中に微細な気泡を噴出するバブリング器22と、このバブリング器22に加圧空気を供給する空気ポンプ23とを備える。バブリング器22は、微細な空隙のある多孔質材や小さい噴射口のノズルで、空気ポンプ23から供給される加圧空気を海水中に噴射して微細な気泡を海水中に噴出する。空気ポンプ23は外気を吸入し、加圧してバブリング器22に供給する。
【0038】
泡沫分離槽2は、複数の配管を介して生育槽3に連結している。細長い泡沫分離槽2は、縦方向に離して複数の流入口21と、複数の排出口24を開口している。図3において複数の排出口24は、泡沫分離槽2の両端部及び中間部の底部に開口している。泡沫分離槽2は、一方の端部に設けた流入口21に養殖槽1からの海水を供給して、他方の端部に設けた排出口24から生育槽3に供給することもできる。この泡沫分離槽2は、養殖槽1から供給される海水を長手方向に流しながらバブリングして排出物の一部を除去して海藻の生育槽3に供給する。ただ、複数の流入口21と複数の排出口24は、対向しない位置に開口して、流入口21から流入する海水を対向しない位置に配置している排出口24から排出して養殖槽1の海水を攪拌して生育槽3に供給することもできる。
【0039】
(生育槽3)
生育槽3は、スジアオノリを生育させ、かつ、スジアオノリで養殖槽1から供給される海水を浄化させる水槽である。図1の生育槽3は、泡沫分離槽2を介して養殖槽1に連結されている。生育槽3は、繁殖するスジアオノリで養殖槽1から供給される海水を浄化できる容積とする。生育槽3のスジアオノリは、養殖槽1から供給される海水に含まれる、魚介類の排出物を肥料として繁殖して海水を浄化し、海水の二酸化炭素を吸収して酸素を放出して、海水の酸素濃度を高くするので、生育槽3は、養殖槽1から供給される海水を浄化できる量のスジアオノリを栽培できる容積に設定される。養殖槽1から生育槽3に供給される海水中に含まれる魚介類からの排出物量は、養殖槽1で養殖する魚介類の種類と量と生育状態とで特定される。生育槽3は、生育するスジアオノリを多くして、海水の排出物の吸収量を大きくできるので、生育槽3の容積は、養殖槽1から供給される海水を浄化して養殖槽1に供給できるように、養殖槽1の容積に比例して大きくする。好ましいことに、スジアオノリの繁殖量は供給される肥料の量で変化するので、生育槽3に多量の排出物が供給されると、スジアオノリの繁殖量が増加して排出物の吸収能力が増加し、供給される排出物が減少すると、スジアオノリの繁殖力は低下して、スジアオノリによる海水の浄化量はコントロールされる。生育槽3の容積は、養殖する魚介類の種類や大きさによって最適容積に調整する必要はあるが、たとえば、アワビの養殖装置においては、生育槽3の容積を養殖槽1の容積の約50%~200%として、養殖槽1の海水を浄化できる。
【0040】
以上の陸上養殖装置100は、魚介類に加えて、極めて商品価値の高いスジアオノリも生産するので、生育槽3を養殖槽1よりも大容量として、高価なスジアオノリの栽培量を多くして、スジアオノリの経済効果を大きくすることもできる。この装置は、多量のスジアオノリで養殖槽1の海水を常に清澄な状態に浄化できる特長もある。大容量の生育槽3は、生育槽3から供給される魚介類の排出物に加えて、肥料を追加することで、常にスジアオノリを生産できる。
【0041】
(攪拌機構30)
生育槽3は、底部の海水中に大きな気泡を排出して、海水を局所的に強制的に上昇流として攪拌する攪拌機構30を設けている。攪拌機構30から海水中に供給される気泡は、養殖槽1や泡沫分離槽2の海水中に噴出される気泡とは比較にならない程大きい。攪拌機構30が海水中に供給する気泡と、養殖槽1や泡沫分離槽2に噴射される気泡は海水中に供給されるのは同じであっても、気泡の目的が全く異なる。養殖槽1のエアレーション機構11で海水中に噴射される気泡は、海水に酸素を供給することを目的とし、できる限り微細な気泡として海水との接触面積を大きくして酸素濃度を高くする。泡沫分離槽2のバブリング器22はバブリングして海水の排出物を均等に分散し、また排出物の一部を除去することを目的とし、海水中に極めて微細な無数の気泡を噴出して、海水中を浮遊している魚介類の排出物に接触し、これを付着して浮上させる。これに対し、生育槽3の海水中に噴出される気泡は、大きな気泡で速やかに海水中を浮上して、海水の上昇流の流速を早くして海水を効率よく攪拌することを目的とする。
【0042】
以上の目的で生育槽3の海水を局所的に上昇流とする攪拌機構30は、生育槽3の海水中に気泡を供給する大きい排気口31aを開口している放出器31と、放出器31に空気を供給するブロワー32とを備える。放出器31は、排気口31aの開口面積を、例えば10mm以上、さらに好ましくは100mmとして、海水中に大きな気泡を供給する。図5の攪拌機構30は、ブロワー32と放出器31を搬送パイプ33で連結して、搬送パイプ33の先端を開口して放出器31の排気口31aとしている。この構造の攪拌機構30は、搬送パイプ33に、内径を13mmφ~21mmφとする水道配管用のプラスチックパイプを使用することで、微細な気泡を噴出するエアレーションやバブリングに比較して、部品コストと、制作コストの両方を著しく安くできる。
【0043】
図4の平面図と、図5の断面図に示す攪拌機構30は、細長い生育槽3の両側の側壁に、各々複数の搬送パイプ33を配置して、搬送パイプ33の先端を側壁の内面に開口している。図示しないが、搬送パイプ33の先端を底面の内面に開口することもできる。複数の搬送パイプ33は、生育槽3の両側部に設けられて、生育槽3全体の海水を攪拌する。各々の搬送パイプ33は開度を調整して流量を調整する調整弁34を介してブロワー32に連結している。この攪拌機構30は、調整弁34の開度を調整して、各々の搬送パイプ33から均一に空気を排出できる。搬送パイプ33から生育槽3の底部に排出された空気は、気泡となって海水中を浮上して海水を攪拌する。複数の搬送パイプ33は、生育槽3の片側、もしくは中央部に設けることもできる。
【0044】
以上の攪拌機構30は、排気口31aの開口面積が大きいので、ブロワー32の排出圧が低く、海水中に排出する空気の流量を多く、すなわち大きな気泡を多量に排出して海水を効率よく攪拌できる特長も実現する。それは、エアレーションやバブリングのように、水中に微細な気泡を噴射しないので、微細な無数の空隙の放出器31を使用する必要がなく、また放出器31の圧力損失を低くして、海水中に大きな気泡を多量に排出できるからである。
【0045】
生育槽3の攪拌機構30は、前述したように、海水に酸素を補給することを目的とするものでなく、大きな気泡の浮上作用で海水を局所的に上昇流として全体的には対流状態に流動して攪拌し、スジアオノリの絡まりを防止して海水中に均一に分散させることができる。スジアオノリは、細長く糸状の藻体で、長いものは1mにもなり、多数の側枝を出し、さらにその枝からも分岐することが多く、葉状のアオサに比べ絡まりやすい。気泡の浮上作用で局所的に上昇流ができる海水は、図5に示すように、気泡が上昇する領域で上昇流となる。この断面図に示す生育槽3は、両側部に気泡を排出して、海水を両側の側壁に沿う上昇流とするので、生育槽3の中央部では下降流となって対流して、生育槽3内において海水全体が攪拌される。図5の生育槽3は、両側の底部から気泡を供給し、例えば、生育槽3は両側の側壁または両側の底面から気泡を供給できる。またさらに、生育槽3の片側の底部から気泡を供給し、あるいは生育槽3の中央部の底部から気泡を供給して海水を対流させることもできる。生育槽3の片側の底部から気泡を排出する攪拌機構30は、気泡が供給される一方の側壁に沿って海水は上昇流となり、反対側の側壁の内側で下降流となって海水全体が攪拌される。生育槽3の中央部の底部から気泡を供給する攪拌機構30は、生育槽3の中央部で上昇流となり、両側で下降流となって海水全体が攪拌される。
【0046】
上昇流と下降流とに対流させて海水を攪拌する生育槽3は、上昇流と下降流とで海水を上下反対方向に流動させるので、この領域においてスジアオノリは、損傷されることなく絡まりが解消される。スジアオノリは、海水を攪拌して絡まりを解消できるので、たとえば、海水中でスクリューなどの羽根を回転する攪拌機構30によっても絡まりは解消できる。しかしながら、羽根を回転する攪拌機構30は、羽根にスジアオノリが付着して、継続的に安定して使用できない。また、スジアオノリが羽根に接触して損傷される弊害もある。大きな気泡の浮上作用で海水を上昇流と、他の領域で下降流として対流させて攪拌する攪拌機構30は、スジアオノリが付着することがなく、またスジアオノリを損傷することもなく、速やかに絡まりを防止して、海水中に均一に分散させることができる。スジアオノリは、細長い筋が放射状に伸びる形態で、絡まりやすい形状をしているが、上昇流と下降流との間で上下逆方向に流動する海水で攪拌して絡まりを防止する攪拌機構30は、スジアオノリの絡まりを有効に解消できる。
【0047】
以上の陸上養殖装置100は、ポンプ7で、海水を以下のように養殖槽1と泡沫分離槽2と生育槽3とクッションタンク4とに移送して生育槽3で魚介類を養殖する。養殖槽1は魚介類を養殖し、生育槽3は養殖槽1の海水をスジアオノリで浄化し、泡沫分離槽2は気泡分離で魚介類の排出物をバブリングして海面に浮上させて分離し、クッションタンク4は各々の水槽に移送する海水を一時的に蓄える。海水はポンプ7を介して、ひとつの水槽から他の水槽に移送できるが、海水を移送する水槽を上下に配置して、上の水槽から下の水槽に自然に海水を流して供給することもできるので、図示しないが全ての水槽の間にポンプ7を連結することなく、海水を移送することもできる。
【0048】
(クッションタンク4)
クッションタンク4は各々の水槽に移送する海水を一時的に蓄える。図1において、海水は、養殖槽1→泡沫分離槽2→生育槽3→クッションタンク4→養殖槽1に循環されるが、クッションタンク4を介することなく、生育槽3から直接に養殖槽1に移送することもできる。生育槽3の海水をクッションタンク4に一時的に蓄えて養殖槽1に供給する装置は、クッションタンク4に常に浄化された海水を蓄えて、養殖槽1の海水が汚染された状態では、速やかに浄化された海水を供給して養殖槽1の海水を清澄な状態にできる。
【0049】
養殖槽1の海水は、魚介類の排出物で海水が汚れると、海水中の亜硝酸や二酸化炭素の濃度が高くなるので、亜硝酸や二酸化炭素の汚染濃度を検出して、汚染濃度が検出値が閾値よりも高くなると、海水を泡沫分離槽2に排出して、クッションタンク4や生育槽3から浄化された海水を供給する。この工程は、養殖槽1の一方の端部から海水を泡沫分離槽2に排出しながら、他方の端部にクッションタンク4の海水を供給して養殖槽1の汚染濃度を低下することもできる。養殖槽1の海水は、汚染濃度が閾値を超える期間、たとえば、1~数日に1回の割合で海水を泡沫分離槽2に排出して、クッションタンク4や生育槽3から浄化された海水を供給して海水を入れ替える。養殖槽1の海水の入れ替えは、一度に全体の海水の1/10~1/2を泡沫分離槽2に排出して、クッションタンク4や生育槽3からは排出した量の海水を養殖槽1に供給する工程を複数回繰り返して、養殖槽1の海水を浄化された海水に入れ替える。ただ、養殖槽1は、海水を連続的に排出しながら、排出量の海水をクッションタンク4や生育槽3から供給して、連続的に浄化された海水に入れ替えることもできる。この方法は、養殖槽1の汚染濃度が設定値を超えないように、海水の入れ替える海水量をコントロールする。
【0050】
さらに、クッションタンク4は、スジアオノリの出荷調整用の水槽としても利用できる。出荷状況や必要に応じて、成長したスジアオノリをクッションタンク4に貯蔵保管できる。スジアオノリは腐ったり臭い匂いを出さない限り、クッションタンク4内の浄化された海水への水質悪化の影響がほとんどないからである。したがって、クッションタンク4をスジアオノリの出荷調整用の水槽として利用しつつ、クッションタンク4から養殖槽1など各水槽に浄化された海水を供給することができる。
【0051】
以上の陸上養殖装置100は、バブリングして海水中の排出物の一部を分離する泡沫分離槽2と、浄化された海水を一時的に蓄えるクッションタンク4を備えて、海水を理想的に浄化して養殖槽1に供給できるが、本発明の陸上養殖装置100は、泡沫分離槽2を設けることなく、養殖槽1にバブリングして排出物の一部を気泡分離することができ、また、クッションタンク4を設けることなく、生育槽3で浄化された海水を生育槽3から養殖槽1に供給することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の魚介類の陸上養殖装置と養殖方法は、陸上に設置して海水を海藻の清澄作用で浄化して魚介類を養殖する装置と方法として有効に利用できる。
【符号の説明】
【0053】
100…陸上養殖装置
1…養殖槽
2…泡沫分離槽
3…生育槽
4…クッションタンク
7…ポンプ
11…エアレーション機構
12…噴出器
12a…噴射開口
13…空気ポンプ
14…排出口
14a…排出弁
21…流入口
22…バブリング器
23…空気ポンプ
24…排出口
25…廃棄口
30…攪拌機構
31…放出器
31a…排気口
32…ブロワー
33…搬送パイプ
34…調整弁
図1
図2
図3
図4
図5