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特開2022-11213粒子の分離回収方法及び粒子の分離回収装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022011213
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】粒子の分離回収方法及び粒子の分離回収装置
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/00 20060101AFI20220107BHJP
   C12M 3/06 20060101ALI20220107BHJP
   G01N 1/04 20060101ALI20220107BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20220107BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C12N5/00
C12M3/06
G01N1/04 H
G01N1/10 B
G01N1/10 V
G01N33/48 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020112203
(22)【出願日】2020-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】590005081
【氏名又は名称】株式会社同仁化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100139262
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 和昭
(72)【発明者】
【氏名】清野 涼
(72)【発明者】
【氏名】江副 公俊
(72)【発明者】
【氏名】石山 宗孝
【テーマコード(参考)】
2G045
2G052
4B065
【Fターム(参考)】
2G045BB04
2G045CB30
2G052AA29
2G052AD09
2G052BA22
2G052EA02
2G052GA09
2G052JA07
2G052JA16
4B065AA99X
4B065BD18
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】安価かつ簡便にエクソソーム等の大きさが30nm~10μmの粒子を試料溶液から分離回収することが可能な、高効率及び高スループットな粒子の分離回収方法及び同方法に好適に用いることができる粒子の分離回収装置を提供する。
【解決手段】粒子の分離回収方法は、エクソソームを含む試料溶液を準備する工程と、トラックエッチドメンブレンに試料溶液を通液させ、トラックエッチドメンブレン上に試料溶液中の粒子を捕集する工程とを含んでいる。また、粒子の分離回収装置10は、エクソソームを含む試料溶液を受け入れるための上流側チャンバー11と、上流側チャンバーと連通する下流側チャンバー12と、上流側チャンバー11と下流側チャンバー12の間に、上流側チャンバー11から下流側チャンバー12に試料溶液を通液させることが可能なように配置された、試料溶液中の粒子を捕集するためのトラックエッチドメンブレン13とを有している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大きさが30nm~10μmの粒子を含む試料溶液を準備する工程と、
トラックエッチドメンブレンに前記試料溶液を通液させ、該トラックエッチドメンブレン上に前記試料溶液中の前記粒子を捕集する工程とを含む粒子の分離回収方法。
【請求項2】
前記トラックエッチドメンブレンの細孔径が10nm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の粒子の分離回収方法。
【請求項3】
前記トラックエッチドメンブレンの材質が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、セルロース混合エステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエステル及びポリイミドのいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載の粒子の分離回収方法。
【請求項4】
前記トラックエッチドメンブレンの細孔径の最大値と最小値の差が、前記最大値の20%以内であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の粒子の分離回収方法。
【請求項5】
前記粒子が細胞外小胞であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の粒子の分離回収方法。
【請求項6】
前記粒子がエクソソームであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の粒子の分離回収方法。
【請求項7】
大きさが30nm~10μmの粒子を含む試料溶液を受け入れるための上流側チャンバーと、
前記上流側チャンバーと連通する下流側チャンバーと、
前記上流側チャンバーと前記下流側チャンバーの間に、前記上流側チャンバーから前記下流側チャンバーに前記試料溶液を通液させることが可能なように配置された、前記試料溶液中の前記粒子を捕集するためのトラックエッチドメンブレンとを有する粒子の分離回収装置。
【請求項8】
前記トラックエッチドメンブレンの細孔径が10nm以上10μm以下であることを特徴とする請求項7に記載の粒子の分離回収装置。
【請求項9】
前記トラックエッチドメンブレンの材質が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、セルロース混合エステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエステル及びポリイミドのいずれかであることを特徴とする請求項7又は8に記載の粒子の分離回収装置。
【請求項10】
前記トラックエッチドメンブレンの細孔径の最大値と最小値の差が、前記最大値の20%以内であることを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の粒子の分離回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞外小胞及びウイルス等の粒子を分離回収するための新規な方法及びそれを実施するために好適に用いることができる粒子の分離回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1983年に、脂質二分子膜からなる直径30nm~200nm程度の小胞が網状赤血球から分泌されることが発見され、エクソソーム(Exosome)と名付けられた(非特許文献1参照)。エクソソームの発見と前後して、様々な細胞が大きさ等の異なる膜小胞を分泌していることが発見され、様々な名称で呼称されているが、小胞の国際的な研究学会である国際細胞外小胞協会(International Society for Extracellular Vesicles(ISEV))は、これら細胞から分泌される小胞の総称として、細胞外小胞(extracellular vesicle)の使用を推奨している。エクソソームを始めとする細胞外小胞は、細胞間を移動しながら種々の生理活性物質を輸送していることが明らかにされつつある。多細胞生物において、細胞間の相互作用は多彩な生命活動に関与しており、その破綻は各種疾患につながることから、細胞外小胞の関与する細胞間相互作用の解明は、多彩な生命活動の背後に存在する分子機構の理解及び各種疾患の病態の理解、新たな診断法及び治療法の開発等につながることが期待されている。
【0003】
エクソソームに関する研究は、一般に、(i)血清、血漿、細胞培養上清、乳汁、尿、精液、脳脊髄液、唾液、涙等のエクソソームを含む試料の調製、(ii)試料からのエクソソームの回収及び精製、(iii)回収したエクソソームの確認(サイズ、形状等の確認、エクソソームマーカーの確認等)又は回収したエクソソームを用いた実験(エクソソームに含まれるバイオマーカーの探索及び解析、生理機能及び作用機序の解析等)という一連のステップを経て進行する。
【0004】
前記のステップのうち最も重要なのは、エクソソームの回収及び精製である。超遠心法は100nm程度のサイズのエクソソームが回収できることから、スタンダードな手法としてこれまで汎用されてきた。しかしながら、超遠心法は、1回あたりの生体試料の処理量が少ない。そのため、多量の生体試料からエクソソームを回収するためには、生体試料を小分けにして操作を複数回行う必要があり、多くの時間及びコストを要とするといった問題があった。さらに、高額な装置を必要とし、また、濃縮及び回収効率の再現性を満足させるためには熟練の技能を要するという問題もあった。超遠心法の欠点を補う手法として、これまでに、PEG、PVA等の体積排除ポリマーの添加により沈降させる方法、サイズ排除クロマトグラフィー法、限界ろ過法、磁性粒子の添加により分離する方法等が提案されている(特許文献1~3参照)。しかしながら、サイズ排除クロマトグラフィー法、限外濾過法やPEG等による沈殿法には、目的物であるエクソソーム以外の夾雑物(例えば、アポトーシス小体のような比較的大きな小胞及び高分子量のタンパク質等)の混入が避けられない、また、磁気粒子を用いた手法は超遠心法とは性質が異なるエクソソームが回収される等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/158203号パンフレット
【特許文献2】特開2013-188212号公報
【特許文献3】特表2012-533308号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Johnstone, R. M., Adam, M., Hammond, J. R. et al.: Vesicle formation during reticulocyte maturation. Association of plasma membrane activities with released vesicles (exosomes). J. Biol. Chem., 262, 9412-9420 (1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、超遠心分離法や磁性粒子を用いた手法では、1回あたりの生体試料の処理量が少ない。そのため、多量の生体試料からエクソソームを回収するためには、生体試料を小分けにして操作を複数回行う必要があり、多くの時間及びコストを要とするといった問題があった。特に、超遠心分離法は、高額な装置を必要とし、また、濃縮及び回収効率の再現性を満足させるためには熟練の技能を要する。また、限外濾過法やPEG等による沈殿法には、目的物であるエクソソーム以外の夾雑物(例えば高分子量のタンパク質等)の混入が避けられない等の問題があった。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、安価かつ簡便にエクソソーム等の大きさが30nm~10μmの粒子を試料溶液から分離回収することが可能な、高効率及び高スループットな粒子の分離回収方法及び同方法に好適に用いることができる粒子の分離回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的に沿う本発明の第1の態様は、大きさが30nm~10μmの粒子を含む試料溶液を準備する工程と、トラックエッチドメンブレンに前記試料溶液を通液させ、該トラックエッチドメンブレン上に前記試料溶液中の前記粒子を捕集する工程とを含む粒子の分離回収方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0010】
本発明の第2の態様は、大きさが30nm~10μmの粒子を含む試料溶液を受け入れるための上流側チャンバーと、
前記上流側チャンバーと連通する下流側チャンバーと、
前記上流側チャンバーと前記下流側チャンバーの間に、前記上流側チャンバーから前記下流側チャンバーに前記試料溶液を通液させることが可能なように配置された、前記試料溶液中の前記粒子を捕集するためのトラックエッチドメンブレンとを有する粒子の分離回収装置を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0011】
本発明の第1の態様に係る粒子の分離回収方法及び本発明の第2の態様に係る粒子の分離回収装置において、前記トラックエッチドメンブレンの細孔径が10nm以上10μm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の第1の態様に係る粒子の分離回収方法及び本発明の第2の態様に係る粒子の分離回収装置において、前記トラックエッチドメンブレンの材質が、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、セルロース混合エステル、ポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエステル及びポリイミドのいずれかであることが好ましい。
【0013】
本発明の第1の態様に係る粒子の分離回収方法及び本発明の第2の態様に係る粒子の分離回収装置において、前記トラックエッチドメンブレンの細孔径の最大値と最小値の差が、前記最大値の20%以内であることが好ましい。
【0014】
本発明の第1の態様に係る粒子の分離回収方法において、前記粒子が細胞外小胞であってもよい。
【0015】
本発明の第1の態様に係る粒子の分離回収方法において、前記粒子がエクソソームであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、安価かつ簡便にエクソソーム等の大きさが30nm~10μmの粒子を試料溶液から分離回収することが可能な高効率及び高スループットな粒子の分離回収方法及び同方法に好適に用いることができる粒子の分離回収装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施の形態に係る粒子の分離回収装置の概略図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る粒子の分離回収装置の概略構造図であり、(a)は上流側部材と下流側部材とが分離した状態を示し、(b)は両者を組み立てた状態を示し、(c)は下流側部材の上面を示す。
図3】本発明の一実施の形態に係る粒子の分離回収装置の概略構造図であり、(a)は上流側部材、遠心チューブ及び蓋が分離した状態を示し、(b)は三者を組み立てた状態を示し、(c)は上流側部材の変形例を示す。
図4】実施例1及び比較例により分離回収されたエクソソームのゼータ電位の測定結果を示すグラフである。
図5】実施例1及び比較例により分離回収されたエクソソームのCD63の定量結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1の実施の形態に係る粒子の分離回収方法(以下、「粒子の分離回収方法」、「分離回収方法」等と略称する場合がある)は、大きさが30nm~10μmの粒子を含む試料溶液を準備する工程と、トラックエッチドメンブレンに試料溶液を通液させ、トラックエッチドメンブレン上に試料溶液中の粒子を捕集する工程とを含んでいる。
【0019】
分離回収の対象となる粒子は、大きさが30nm~10μmの粒子であり、具体例としては、エクソソーム、アポトーシス小体、マイクロベシクル等の細胞外小胞、ウイルス、ナノ粒子等が挙げられる。
【0020】
上記の様な粒子を含む試料溶液としては、細胞外小胞、ウイルス等を含む細胞培養上清、体液(血清、血漿、乳汁、尿、精液、脳脊髄液、唾液、涙等)等の生体試料、ナノ粒子の合成反応の反応混合物等が挙げられる。これらの溶液は、そのまま試料溶液として用いてもよいが、必要に応じて、分離回収対象となる粒子以外の夾雑物(細胞等)を除去するために、メンブレンフィルター等を用いて前処理を行ってもよい。
【0021】
試料溶液からの粒子の分離回収に用いられるトラックエッチドメンブレンは、サイクロトロン等を利用して重イオンのイオンビームをポリマー膜に照射し、膜の片面側から反対側に向かって、膜を貫通するようにランダムに分布した重イオンの軌跡(トラック)を形成し、次いで、ウェット・ケミカル・エッチングと呼ばれる手法を用いてトラック部分を選択的に溶解させることにより形成され、孔径分布が狭い多数の細孔が、ほぼ平行に配置されるように形成された多孔質のポリマー膜をいう。従来精密ろ過膜等として用いられている網目状の構造を有する多孔質膜の場合、粒子が網目構造を形成するマトリックス内に捕集され、回収率が低下したり分離効率が低下したりするおそれがあるのに対し、トラックエッチドメンブレンの場合、マトリックスの内部に粒子が捕集されるおそれがない。また、重イオンビームの照射によるトラックの形成条件を制御することにより、メンブレン上に形成される細孔の孔径、細孔の分布、隣り合う細孔の間隔、開口率等を制御できるので、分離回収となる粒子に応じて、最適化を行うことが容易である。
【0022】
粒子の分離回収に用いられるトラックエッチドメンブレンの細孔径は、分離回収の対象となる粒子の大きさに応じて適宜選択されるが、10nm以上10μm以下の範囲で、粒子が細孔を通過しない細孔径が適宜選択される。細孔径の分布は、細孔径の最大値と最小値の差が、最大値の20%以内であることが好ましい。細孔径の分布(細孔径の最大値と最小値の差)が前述の範囲を超えると、粒子の回収効率が低下するので好ましくない。
【0023】
トラックエッチドメンブレンの材質の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、セルロース混合エステル(MCE)、ポリアミド(ナイロン等)、ポリエステル(PET、PBT等)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE:LDPE、HDPE等)、ポリカーボネート、ポリイミド等が挙げられる。
【0024】
トラックエッチドメンブレン上の細孔の分布、細孔の密度、細孔数(開口率)、トラックエッチドメンブレンの材質、面積及び厚さ等については、粒子の種類、大きさ、試料溶液の体積、溶媒の種類等の使用条件に応じて適宜選択される。
【0025】
トラックエッチドメンブレンを用いた試料溶液中の粒子の分離及び回収は、試料溶液をトラックエッチドメンブレンに通過させ、粒子をトラックエッチドメンブレン上に捕集することにより行われる。粒子の分離回収には、任意の公知の装置を用いることができるが、例えば、図1に示すような概略構造を有する、本発明の第2の実施の形態に係る粒子の分離回収装置(以下、「分離回収装置」と略称される場合がある。)10が好適に用いられる。粒子の分離回収装置10は、粒子を含む試料溶液を受け入れるための上流側チャンバー11と、上流側チャンバーと連通する下流側チャンバー12と、上流側チャンバーと下流側チャンバーの間に、上流側チャンバーから下流側チャンバーに試料溶液を通液させることが可能なように配置された、試料溶液中の粒子を捕集するためのトラックエッチドメンブレン13とを有している。
【0026】
分離回収装置の構造としては、トラックエッチドメンブレンを分離回収材として使用可能な限りにおいて、膜状のフィルターを含む分離回収装置、ろ過装置等の任意の公知の構造を特に制限なく適用することができる。例えば、分離回収装置20は、図2に示すように、両端に開口を有する円筒状の上流側部材21と、中空円筒状の下流側部材22とから構成されていてもよい(図2(b)参照)。上流側部材21の径は、下流側部材22の径よりも小さい。上流側部材21の可鍛側の開口には、ゴム等の弾性部材からなるパッキン24が設けられている。下流側部材22の上面側には、上流側部材21に係合し(図2(a)参照)、パッキン24を介して両者を液密に保持すると共に、トラックエッチドメンブレン23を保持するための係合用凸部26が形成されている。下流側部材22の係合用凸部26の上面には、窓部を有し、着脱可能なメンブレンホルダー蓋部25が取り付けられている。メンブレンホルダー蓋部25を取り外すと、トラックエッチドメンブレン23の一部が露出するように窓部が設けられた円盤状の凹部(図示しない)が形成されているので、円形のトラックエッチドメンブレン23を載置し、再びメンブレンホルダー蓋部25を取り付けることにより、下流側部材22の上面にトラックエッチドメンブレン23を保持することができる(図2(c)参照)。下流側部材22の側面には、減圧口27が設けられており、ここに減圧ポンプ等の減圧手段を取り付けることにより、下流側部材22の内部を減圧し、上流側部材21側との圧力差により、試料溶液の通液速度を増大させることができる。
【0027】
図2(b)に示すように、トラックエッチドメンブレン23を保持した下流側部材22に上流側部材21を取り付けることにより、エクソソーム等の粒子を含む試料溶液を受け入れるための上流側チャンバー(上流側部材21と係合用凸部26の上面により画定される空間)と、上流側チャンバーと連通する下流側部材(下流側チャンバー22)と、上流側チャンバーと下流側チャンバーの間に、上流側チャンバーから下流側チャンバーに試料溶液を通液させることが可能なように配置された、試料溶液中の粒子を捕集するためのトラックエッチドメンブレン23とを有する分離回収装置20が構成される。
【0028】
図2に示した下流側部材22において、係合用凸部26は一体成形されているが、本体部と蓋部として分離可能に構成されていてもよい。また、減圧口27を設ける代わりに、上流側部材21側に加圧手段を設けて、上流側チャンバーを加圧することにより試料溶液の通液速度を増大させてもよい。上流側チャンバーの加圧と下流側チャンバーの減圧の両者を組み合わせて適用してもよい。
【0029】
また、図3に示すように、分離回収装置30は、下流側チャンバーの構成要素として遠心チューブ32を用い、上流側チャンバーは、遠心用チューブ32の上端部に保持するためのフランジ34を有し、遠心チューブよりも小さな径を有する円筒状の部材で、下側にトラックエッチドメンブレン33が一体成形された上流側部材31として構成されていてもよい(図3(a)参照)。上流側部材31を遠心チューブ32の開口部から挿入し、フランジ34で遠心チューブ32の開口部の上端側に保持し蓋35を取り付けることにより、分離回収装置30が構成される(図3(b)参照)。蓋35を取り付ける前に、試料溶液を上流側部材31に注ぎ込み、蓋35を閉じて遠心分離を行うことにより、試料溶液中の粒子がトラックエッチドメンブレン33上に捕集される。
【0030】
なお、図3(a)及び図3(b)に示すように、トラックエッチドメンブレン33は、断面形状が下側に向かって凸となる円錐状に形成されていてもよいが、図3(c)に示すように、傾斜した楕円状、壁面に略垂直な円形状に形成されていてもよい。
【実施例0031】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
実施例1:トラックエッチドメンブレンを用いた細胞培養上清からのエクソソームの分離回収
図2に示すような装置を用い、直径90mmのトラックエッチドメンブレン(it4ip社、ポリカーボネート製、1000M25/911N101/A4-5、最大細孔径0.1μm)をメンブレン保持部にセットし、減圧条件下でPBS(リン酸緩衝生理食塩水)15mLを通液した。次いで、0.22μmのシリンジフィルターを通した細胞培養上清(無血清培地、HEK293s)を減圧条件下で50mL通液した。減圧条件下でPBS15mLを通液し、メンブレン上に残った粒子を少量のPBSで回収した。
【0032】
比較例:超遠心法を用いた細胞培養上清からのエクソソームの分離回収
比較のため、0.22μmのシリンジフィルターを通した細胞培養上清(上記のものと同一)について、100,000×gで2時間、超遠心処理を行った。沈殿物をPBSで洗浄後、再び100,000×gで2時間、超遠心処理を行った。遠心チューブの底に溜まった沈殿物を少量のPBSで回収した。
【0033】
分離回収されたエクソソームの評価
実施例1及び比較例において細胞培養上清より分離回収されたエクソソームについて、ζ電位の測定及びエクソソーム中のマーカータンパク質であるCD63量の定量を行った。
【0034】
ゼータ電位の測定は、タンパク質量換算で0.3μg分のエクソソームを50mL HEPESバッファー1mLに懸濁させ、ゼータ電位測定装置(Zetasizer)を用いて行った。CD63の定量は、富士フイルム和光純薬製のPS Capture Exosome ELISA Kitを用いた免疫染色法を用いて行った。実施例1及び比較例で分離回収されたエクソソームのゼータ電位の測定結果及びCD63の定量結果を、それぞれ図4及び図5に示す。図4及び図5において、「UC」は比較例(超遠心法を使用)、「TEM」は実施例1(トラックエッチドメンブレンを使用)により分離回収されたエクソソームについての測定結果を示す。図4及び図5において明らかなように、両者の結果はほぼ同等であった。体積排除ポリマーを用いた沈降法等により分離回収されたエクソソームについて観測される表面へのポリマーの付着等に起因するゼータ電位の変動が実施例1により分離回収されたエクソソームにおいては見られなかった。また、CD63の定量結果も両者は同等であり、トラックエッチドメンブレン上へのエクソソームの吸着等も見られなかった。これらの結果より、実施例1におけるエクソソームの分離回収により、簡便な操作で超遠心法に匹敵する高純度のエクソソームが得られることが確認された。
【符号の説明】
【0035】
10、20、30:粒子の分離回収装置
11:上流側チャンバー
12:下流側チャンバー
13、23、33、33a、33b:トラックエッチドメンブレン
21、31、31a、31b:上流側部材
22:下流側部材
24:パッキン
25:メンブレンホルダー蓋部
26:係合用凸部
27:減圧口
32:遠心用チューブ
34:フランジ
35:蓋
図1
図2
図3
図4
図5