(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112158
(43)【公開日】2022-08-02
(54)【発明の名称】インバータ装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20220726BHJP
【FI】
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021007851
(22)【出願日】2021-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】荒木 雄志
(72)【発明者】
【氏名】柏原 辰樹
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA05
5H770BA05
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA02Y
5H770HA07Z
5H770JA09X
5H770JA11W
(57)【要約】
【課題】相電圧の変化を他の相電圧の変化で打ち消すことでモータの中性点電位の変動を抑制する場合に、デッドタイムの影響と、スイッチング時の相電流の極性誤判定に伴うコモンモードノイズの発生を効果的に解消するインバータ装置を提供する。
【解決手段】制御装置の相電圧指令演算部33は、各相のスイッチングタイミングにおける相電流を予測する相電流予測部41と、相電流予測部41が予測したスイッチングタイミングにおける各相の相電流に基づき、モータに印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すようスイッチング動作を補正する補正制御部42を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上アーム電源ライン及び下アーム電源ライン間に、各相毎に上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子を直列接続し、これら各相の上下アームスイッチング素子の接続点の電圧を三相交流出力としてモータに印加するインバータ回路と、
デッドタイムを設けて前記各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備えたインバータ装置において、
前記制御装置は、
前記各相のスイッチングタイミングにおける相電流を予測する相電流予測部と、
該相電流予測部が予測したスイッチングタイミングにおける各相の相電流に基づき、前記モータに印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すようスイッチング動作を補正する補正制御部と、
を有することを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記各相の電圧指令値を算出する電圧指令算出部を備え、
前記相電流予測部は、前記電圧指令算出部が算出した前記各相の電圧指令値によりON状態となる前記上アームスイッチング素子又は下アームスイッチング素子をOFFするスイッチングタイミングにおける相電流を予測すると共に、
前記補正制御部は、前記相電流予測部が予測したスイッチングタイミングにおける各相の相電流に基づき、前記電圧指令算出部が算出した前記各相の電圧指令値を補正して前記各相のスイッチングタイミングを同期させることにより、前記モータに印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すことを特徴とする請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記各相の相電流をサンプリングする相電流検出部を備え、
前記相電流予測部は、前記相電流検出部がサンプリングした相電流と、サンプリングタイミングからスイッチングタイミングまでの当該相電流の増減量から、前記スイッチングタイミングにおける各相の相電流を予測することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインバータ装置。
【請求項4】
前記相電流予測部は、前記相電流検出部がサンプリングした相電流、前記各相の上アームスイッチング素子又は下アームスイッチング素子のON時間、前記モータの各相の逆起電圧、前記モータの中性点電位、及び、前記モータの各相のインダクタンスに基づいて前記スイッチングタイミングにおける各相の相電流を予測することを特徴とする請求項3に記載のインバータ装置。
【請求項5】
前記相電流予測部は、下記数式(I)を用いて前記スイッチングタイミングにおける各相の相電流を予測することを特徴とする請求項4に記載のインバータ装置。
【数14】
但し、i
uvw(t+t
uvw)は前記スイッチングタイミングにおけるU相、V相、W相の相電流、t
uvwはU相、V相、W相の前記上アームスイッチング素子又は下アームスイッチング素子のON時間、i
uvw(t)は前記サンプリングしたU相、V相、W相の相電流、L
uvwは前記モータのU相、V相、W相のインダクタンス、V
dcは直流リンク電圧、e
uvwは前記モータのU相、V相、W相の逆起電圧、V
npは前記モータの中性点電位、sgn(V
uvw)は相電圧の符号関数であり、相電圧がV
dcのときは1、相電圧が0のときは-1となる。
【請求項6】
前記補正制御部は、スイッチングにより変化する相電圧と、当該相電圧の変化を打ち消すために立ち上がり、又は、立ち下がる他の相電圧とが、直流リンク電圧Vdc/2で交差するようにスイッチングタイミングをシフトすることを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちの何れかに記載のインバータ装置。
【請求項7】
前記補正制御部は、相電流の絶対値が大きい方の相のスイッチングタイミングをシフトすることを特徴とする請求項6に記載のインバータ装置。
【請求項8】
前記補正制御部は、相電流の絶対値の大きさが最も小さい相については前記スイッチングタイミングのシフトを行わないことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ回路により三相交流電圧をモータに印加して駆動するインバータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題から、例えば自動車業界においてもハイブリッド自動車や電気自動車が普及するに至っており、これら自動車の室内を空調するための車両用空気調和装置においては、従来のベルト駆動では無く、モータにより駆動される電動コンプレッサが使用される。この場合、電動コンプレッサは従来のベルト駆動によるコンプレッサと同等の寸法が求められるため、モータやそれを駆動するインバータ装置については、小型化が必要になる。
【0003】
このインバータ装置の小型化を目的として、受動部品の一つであるノイズフィルタの小型化と、EMI性能の両立が求められており、これを達成するために従来より伝導ノイズの低減が種々模索されている。伝導ノイズの主要因としては、PWM動作に起因するモータの中性点電位(コモンモード電圧)の変動によるコモンモードノイズがある。
【0004】
そこで、各相の電圧指令値に補正を加えてインバータ回路を構成するU、V、W各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングタイミングを同期させ、モータに印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すことで、モータの中性点電位が変動しないようにする制御が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、モータの中性点電位の変動タイミングは、デッドタイムを設けた上下アームスイッチング素子の動作の何れかにより発生することになるが、このタイミングは相電流の極性によって変化する。即ち、相電流の向きがモータに流入する方向(正)である場合は、上アームスイッチング素子がOFFするタイミングで相電圧が変化するが、相電流の向きがモータから流出する方向(負)である場合には、下アームスイッチング素子がOFFするタイミングで相電圧が変化することになる。
【0007】
一方、相電流が零A(アンペア)付近にある場合は、リプル(振動)の影響でその極性は変化し続けるため、サンプリングタイミングでの相電流と、スイッチングタイミングにおける相電流の極性が異なった場合、相電圧の変化を他の相電圧の変化で打ち消すタイミングがデッドタイム(実際にはデッドタイムにスイッチング素子の遅延時間も加算される。以下、同じ)分ずれてしまい、中性点電位が変動して、コモンモードノイズを抑制できなくなると云う問題があった。
【0008】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するためになされたものであり、相電圧の変化を他の相電圧の変化で打ち消すことでモータの中性点電位の変動を抑制する場合に、デッドタイムの影響と、スイッチング時の相電流の極性誤判定に伴うコモンモードノイズの発生を効果的に解消、若しくは、抑制することができるインバータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のインバータ装置は、上アーム電源ライン及び下アーム電源ライン間に、各相毎に上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子を直列接続し、これら各相の上下アームスイッチング素子の接続点の電圧を三相交流出力としてモータに印加するインバータ回路と、デッドタイムを設けて各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備えたものであって、制御装置は、各相のスイッチングタイミングにおける相電流を予測する相電流予測部と、この相電流予測部が予測したスイッチングタイミングにおける各相の相電流に基づき、モータに印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すようスイッチング動作を補正する補正制御部を有することを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明のインバータ装置は、上記発明において制御装置は、各相の電圧指令値を算出する電圧指令算出部を備え、相電流予測部は、電圧指令算出部が算出した各相の電圧指令値によりON状態となる上アームスイッチング素子又は下アームスイッチング素子をOFFするスイッチングタイミングにおける相電流を予測すると共に、補正制御部は、相電流予測部が予測したスイッチングタイミングにおける各相の相電流に基づき、電圧指令算出部が算出した各相の電圧指令値を補正して各相のスイッチングタイミングを同期させることにより、モータに印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すことを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明のインバータ装置は、上記各発明において制御装置は、各相の相電流をサンプリングする相電流検出部を備え、相電流予測部は、相電流検出部がサンプリングした相電流と、サンプリングタイミングからスイッチングタイミングまでの当該相電流の増減量から、スイッチングタイミングにおける各相の相電流を予測することを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明のインバータ装置は、上記発明において相電流予測部は、相電流検出部がサンプリングした相電流、各相の上アームスイッチング素子又は下アームスイッチング素子のON時間、モータの各相の逆起電圧、モータの中性点電位、及び、モータの各相のインダクタンスに基づいてスイッチングタイミングにおける各相の相電流を予測することを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明のインバータ装置は、上記発明において相電流予測部は、下記数式(I)を用いてスイッチングタイミングにおける各相の相電流を予測することを特徴とする。
【0014】
【数1】
但し、i
uvw(t+t
uvw)はスイッチングタイミングにおけるU相、V相、W相の相電流、t
uvwはU相、V相、W相の上アームスイッチング素子又は下アームスイッチング素子のON時間、i
uvw(t)はサンプリングしたU相、V相、W相の相電流、L
uvwはモータのU相、V相、W相のインダクタンス、V
dcは直流リンク電圧、e
uvwはモータのU相、V相、W相の逆起電圧、V
npはモータの中性点電位、sgn(V
uvw)は相電圧の符号関数であり、相電圧がV
dcのときは1、相電圧が0のときは-1となる。
【0015】
請求項6の発明のインバータ装置は、上記各発明において補正制御部は、スイッチングにより変化する相電圧と、当該相電圧の変化を打ち消すために立ち上がり、又は、立ち下がる他の相電圧とが、直流リンク電圧Vdc/2で交差するようにスイッチングタイミングをシフトすることを特徴とする。
【0016】
請求項7の発明のインバータ装置は、上記発明において補正制御部は、相電流の絶対値が大きい方の相のスイッチングタイミングをシフトすることを特徴とする。
【0017】
請求項8の発明のインバータ装置は、請求項6又は請求項7の発明において補正制御部は、相電流の絶対値の大きさが最も小さい相についてはスイッチングタイミングのシフトを行わないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、上アーム電源ライン及び下アーム電源ライン間に、各相毎に上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子を直列接続し、これら各相の上下アームスイッチング素子の接続点の電圧を三相交流出力としてモータに印加するインバータ回路と、デッドタイムを設けて各相の上下アームスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置を備えたインバータ装置において、制御装置は、各相のスイッチングタイミングにおける相電流を予測する相電流予測部と、この相電流予測部が予測したスイッチングタイミングにおける各相の相電流に基づき、モータに印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すようスイッチング動作を補正する補正制御部を有しているので、スイッチングタイミングにおける相電流の極性に基づき、より正確なスイッチング動作の補正を行うことができるようになる。
【0019】
これにより、デッドタイムの影響を排除して、的確に相電圧の変化を他の相電圧の変化で打ち消すことができるようになり、中性点電位の変動に伴うコモンモードノイズの発生を極めて効果的に解消、若しくは、抑制することが可能となる。
【0020】
より具体的には、請求項2の発明の如く制御装置は、各相の電圧指令値を算出する電圧指令算出部を備えており、相電流予測部は、電圧指令算出部が算出した各相の電圧指令値によりON状態となる上アームスイッチング素子又は下アームスイッチング素子をOFFするスイッチングタイミングにおける相電流を予測すると共に、補正制御部は、相電流予測部が予測したスイッチングタイミングにおける各相の相電流に基づき、電圧指令算出部が算出した各相の電圧指令値を補正して各相のスイッチングタイミングを同期させることにより、モータに印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すようにする。
【0021】
また、請求項3の発明の如く制御装置は、各相の相電流をサンプリングする相電流検出部を備えており、相電流予測部は、相電流検出部がサンプリングした相電流と、サンプリングタイミングからスイッチングタイミングまでの当該相電流の増減量から、スイッチングタイミングにおける各相の相電流を予測するものとする。
【0022】
この場合、請求項4の発明の如く相電流予測部が、相電流検出部がサンプリングした相電流、各相の上アームスイッチング素子又は下アームスイッチング素子のON時間、モータの各相の逆起電圧、モータの中性点電位、及び、モータの各相のインダクタンスに基づいてスイッチングタイミングにおける各相の相電流を予測するようにすれば、サンプリングした相電流から、正確にスイッチングタイミングにおける相電流を予測することができるようになる。
【0023】
具体的には、請求項5の発明の如く相電流予測部は、前述した数式(I)を用いてスイッチングタイミングにおける相電流を予測する。これにより、一層正確にスイッチングタイミングにおける相電流を予測することが可能となる。
【0024】
尚、相電圧の変化は、実際には相電流の極性や大きさにより傾きが変化するので、請求項6の発明の如く補正制御部が、スイッチングにより変化する相電圧と、当該相電圧の変化を打ち消すために立ち上がり、又は、立ち下がる他の相電圧とが、直流リンク電圧Vdc/2で交差するようにスイッチングタイミングをシフトするようにすれば、相電圧の変化を他の相電圧の変化でより的確に打ち消して、中性点電位の変動をより効果的に抑制することが可能となる。
【0025】
この場合、より絶対値が大きい相電流の方が、シフトしても相電圧の変化の傾きが変わり難いので、請求項7の発明の如く補正制御部が、相電流の絶対値が大きい方の相のスイッチングタイミングをシフトするようにすることで、より正確に直流リンク電圧Vdc/2で交差させることができるようになる。
【0026】
逆に相電流が零A(アンペア)に近い相は、シフトにより相電圧の変化の仕方が変わる可能性が高いので、請求項8の発明の如く補正制御部が、相電流の絶対値の大きさが最も小さい相についてはスイッチングタイミングのシフトを行わないようにするとよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施例のインバータ装置の電気回路図である。
【
図2】
図1の相電圧指令演算部の機能を示すブロック図である。
【
図3】
図1のモータに流れる相電流(i
u、i
v、i
w)を示す図である。
【
図4】従来の一般的な三相変調方式の電圧指令値とキャリア三角波、PWM波形、相電圧、モータの中性点電位、U相電流を示す図である。
【
図5】相電圧の変化を他の相電圧の変化で打ち消す従来の制御を説明するための電圧指令値とキャリア三角波、PWM波形、相電圧、モータの中性点電位、U相電流を示す図である。
【
図6】サンプリングタイミングとスイッチングタイミングでU相電流の極性が異なる場合の電圧指令値とキャリア三角波、PWM波形、相電圧、モータの中性点電位、U相電流を示す図である。
【
図7】
図6の場合における相電圧の変化を他の相電圧の変化で打ち消す従来の制御を説明するための電圧指令値とキャリア三角波、PWM波形、相電圧、モータの中性点電位、U相電流を示す図である。
【
図8】
図6の場合における
図1の制御装置の補正制御を説明するための補正された電圧指令値とキャリア三角波、PWM波形、相電圧、モータの中性点電位、U相電流を示す図である。
【
図9】相電圧が立ち下がる際の実際の変化を示す図である。
【
図10】相電圧が立ち上がる際の実際の変化を示す図である。
【
図11】
図1の制御装置によるスイッチングタイミングのシフト制御を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。実施例のインバータ装置1は、モータ8により圧縮機構を駆動する所謂インバータ一体型の電動コンプレッサに搭載されるものであり、電動コンプレッサは例えば電気自動車やハイブリッド自動車の室内を空調する車両用空気調和装置の冷媒回路を構成するものとする。
【0029】
(1)インバータ装置1の構成
図1においてインバータ装置1は、三相のインバータ回路28と、制御装置21を備えている。インバータ回路28は、直流電源(車両のバッテリ:例えば、300V)29の直流電圧を三相交流電圧に変換してモータ8に印加する回路である。このインバータ回路28は、U相ハーフブリッジ回路19U、V相ハーフブリッジ回路19V、W相ハーフブリッジ回路19Wを有しており、各相のハーフブリッジ回路19U~19Wは、それぞれ上アームスイッチング素子18A~18Cと、下アームスイッチング素子18D~18Fを個別に有している。更に、各スイッチング素子18A~18Fには、それぞれフライホイールダイオード31が逆並列に接続されている。
【0030】
尚、各スイッチング素子18A~18Fは、実施例ではMOS構造をゲート部に組み込んだ絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等から構成されている。
【0031】
そして、インバータ回路28の上アームスイッチング素子18A~18Cのコレクタは、直流電源29及び平滑コンデンサ32の上アーム電源ライン(正極側母線)10に接続されている。一方、インバータ回路28の下アームスイッチング素子18D~18Fのエミッタは、直流電源29及び平滑コンデンサ32の下アーム電源ライン(負極側母線)15に接続され、平滑コンデンサ32で平滑された直流リンク電圧Vdcがインバータ回路28に印加される構成とされている。
【0032】
この場合、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dが直列に接続され、上アームスイッチング素子18Aのエミッタ端子に下アームスイッチング素子18Dのコレクタ端子が接続されている。また、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eが直列に接続され、上アームスイッチング素子18Bのエミッタ端子と下アームスイッチング素子18Eのコレクタ端子が接続されている。更に、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fが直列に接続され、上アームスイッチング素子18Cのエミッタ端子と下アームスイッチング素子18Fのコレクタ端子が接続されている。
【0033】
そして、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dの接続点は、モータ8のU相の電機子コイル2に接続され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eの接続点は、モータ8のV相の電機子コイル3に接続され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fの接続点は、モータ8のW相の電機子コイル4に接続されている。
【0034】
(2)制御装置21の構成
制御装置21はプロセッサを有するマイクロコンピュータから構成されており、実施例では車両ECUから回転数指令値を入力し、モータ8から相電流(モータ電流)を入力して、これらに基づき、インバータ回路28の各上下アームスイッチング素子18A~18FのON/OFF状態(スイッチング動作)を制御する。具体的には、各上下アームスイッチング素子18A~18Fのゲート端子に印加するゲート電圧を制御する。
【0035】
実施例の制御装置21は、相電圧指令演算部33と、PWM信号生成部36と、ゲートドライバ37と、モータ8に流れる各相の相電流であるU相電流iu、V相電流iv、W相電流iwを測定するためのカレントトランスから成る電流センサ26A、26Bを有しており、各電流センサ26A、26Bは相電圧指令演算部33に接続されている。
【0036】
(2-1)相電圧指令演算部33
図2は上記制御装置21の相電圧指令演算部33の構成を示す。相電圧指令演算部33はプログラムにより構成される機能として、電圧指令算出部38と、相電流検出部39と、相電流予測部41と、補正制御部42を備えている。
【0037】
(2-1-1)電圧指令算出部38
上記電圧指令算出部38は、下記数式(II)、(III)を用いてV相及びW相の電圧指令値Cv、Cwを算出する。尚、U相の電圧指令値Cuは、PWMを反転して出力するため、V相、W相の各電圧指令値Cv、Cwを反転したスイッチングパターンが算出される。これらCu、Cv、Cwがモータ8の各相の電機子コイル2~4に印加するU相電圧Vu、V相電圧Vv、W相電圧Vwを生成するための三相変調電圧指令値である。尚、電圧指令算出部38は、キャリア周期(谷)で各相の電圧指令値Cu、Cv、Cwを更新する。
【0038】
【0039】
【0040】
ここで、各相の電圧指令値Cu、Cv、Cwはキャリアカウントで正規化した値である。また、Vdcは前述した直流リング電圧、Vmは電圧ベクトル指令値の大きさであり、下記数式(IV)で求められる。また、θmは電圧ベクトル指令値の位相であり、下記数式(V)で求められる。更に、θreはモータ電気角、CAはキャリアカウント(三角波キャリア)のピーク値、Vd
refはd軸電圧指令値、Vq
refはq軸電圧指令値である。
【0041】
【0042】
【0043】
(2-1-2)相電流検出部39
前記相電流検出部39は、前述した電流センサ26AによりU相電流iuをサンプリングし、電流センサ26BによりV相電流ivをサンプリングする。そして、W相電流iwはこれらから計算により求める。この場合、相電流検出部39は三角波キャリアの山と谷のタイミングで相電流をサンプリングする。
【0044】
尚、各相の相電流を検出する方法については、実施例のように電流センサ26A、26Bで測定する以外に、例えば単一のシャント抵抗を用いて下アーム電源ライン15の電流値を検出し、その電流値とモータ8の運転状態から電流を推定する所謂ワンシャント電流検出方式などがあることから、各相電流を検出・推定する方法に関しては、特に限定しない。
【0045】
(2-1-3)相電流予測部41
前記相電流予測部41は、前述した電圧指令算出部38が算出したU相、V相、W相の電圧指令値Cu、Cv、Cwと三角波キャリアとを比較してスイッチングした場合に、ON状態となっている各相の上アームスイッチング素子18A~18C、又は、下アームスイッチング素子18D~18Fが、OFFされるスイッチングタイミングにおける相電流を予測する。この相電流予測部41による相電流の予測制御については後に詳述する。
【0046】
(2-1-4)補正制御部42
前記補正制御部42は、相電流予測部41が予測したスイッチングタイミングにおける各相の相電流に基づき、モータ8に印加される相電圧Vu、Vv、Vwの変化を、他の相電圧の変化で打ち消すようなスイッチング動作となるよう、電圧指令算出部38により算出された各相の電圧指令値Cu、Cv、Cwを補正する。この補正制御部42による補正制御についても後に詳述する。
【0047】
(2-2)PWM信号生成部36
前記PWM信号生成部36は、相電圧指令演算部33の補正制御部42により補正された各相の電圧指令値Cu、Cv、Cwを入力し、これら電圧指令値Cu、Cv、Cwと、三角波キャリアとの大小を比較することによって、インバータ回路28のU相ハーフブリッジ回路19U、V相ハーフブリッジ回路19V、W相ハーフブリッジ回路19Wの駆動指令信号となるPWM信号を生成し、出力する。
【0048】
尚、実施例では相電流予測部41と補正制御部42の機能を相電圧指令演算部33に設けているが、それに限らず、PWM信号生成部36にそれらを設けて、相電圧指令演算部33が出力する各相の電圧指令値Cu、Cv、CwをPWM信号生成部36にて補正し、補正後の各値と三角波キャリアを比較するようにしてもよい。
【0049】
(2-3)ゲートドライバ37
前記ゲートドライバ37は、PWM信号生成部36から出力されるPWM信号に基づき、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18A、下アームスイッチング素子18Dのゲート電圧と、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18B、下アームスイッチング素子18Eのゲート電圧と、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18C、下アームスイッチング素子18Fのゲート電圧を発生させる。
【0050】
そして、インバータ回路28の各上下アームスイッチング素子18A~18Fは、ゲートドライバ37から出力されるゲート電圧に基づき、ON/OFF駆動される。即ち、ゲート電圧がON状態(所定の電圧値)となるとスイッチング素子がON動作し、ゲート電圧がOFF状態(零)となるとスイッチング素子がOFF動作する。このゲートドライバ37は、上下アームスイッチング素子18A~18Fが前述したIGBTである場合には、PWM信号に基づいてゲート電圧をIGBTに印加するための回路であり、フォトカプラやロジックIC、トランジスタ等から構成される。
【0051】
そして、U相ハーフブリッジ回路19Uの上アームスイッチング素子18Aと下アームスイッチング素子18Dの接続点の電圧がU相電圧Vu(相電圧)としてモータ8のU相の電機子コイル2に印加(出力)され、V相ハーフブリッジ回路19Vの上アームスイッチング素子18Bと下アームスイッチング素子18Eの接続点の電圧がV相電圧Vv(相電圧)としてモータ8のV相の電機子コイル3に印加(出力)され、W相ハーフブリッジ回路19Wの上アームスイッチング素子18Cと下アームスイッチング素子18Fの接続点の電圧がW相電圧Vw(相電圧)としてモータ8のW相の電機子コイル4に印加(出力)される。
【0052】
(3)制御装置21の動作
次に、
図3~
図11を参照しながら、制御装置21の実際の制御動作について説明する。最初に、
図3はモータ8のU相、V相、W相の電機子コイル2、3、4に流れる相電流i
u、i
v、i
wを示している。この図から明らかなように、各相電流i
u、i
v、i
wはリプル(振動)を含んでおり、特に、零A(アンペア)付近にある相電流(例えば2ms付近ではU相電流i
u)に着目すると、当該U相電流i
uは零A(アンペア)を上下し続けて、極性が細かく変化していることが分かる。
【0053】
(3-1)従来一般的な三相変調方式
次に、
図4に従来一般的な三相変調方式を示す。この図において、最上段からX1は前述した三角波キャリア、C
u、C
v、C
wはキャリアカウントで正規化したU相、V相、W相の電圧指令値、U上相はU相の上アームスイッチング素子18AのON/OFF状態、U下相はU相の下アームスイッチング素子18DのON/OFF状態、V上相はV相の上アームスイッチング素子18BのON/OFF状態、V下相はV相の下アームスイッチング素子18EのON/OFF状態、W上相はW相の上アームスイッチング素子18CのON/OFF状態、W下相はW相の下アームスイッチング素子18FのON/OFF状態(何れもPWM波形)、U相V
uはU相電圧V
u、V相V
vはV相電圧V
v、V
wはW相電圧V
w、V
npはモータ8の中性点電位、最下段はU相電流i
uを示している。
【0054】
尚、この
図4ではU相電流i
uの極性は正(モータ8に流入する方向:i
u>0)であり、V相電流i
v及びW相電流i
wの極性は負(モータ8から流出する方向:i
v<0、i
w<0)であるものとする。
【0055】
この図において、電圧指令値Cuが三角波キャリアX1より小さい区間で上アームスイッチング素子18AがONし、電圧指令値Cuが三角波キャリアX1より大きい区間で下アームスイッチング素子18DがONする。また、電圧指令値Cvが三角波キャリアX1より大きい区間で上アームスイッチング素子18BがONし、電圧指令値Cvが三角波キャリアX1より小さい区間で下アームスイッチング素子18EがONする。更に、電圧指令値Cwが三角波キャリアX1より大きい区間で上アームスイッチング素子18CがONし、電圧指令値Cwが三角波キャリアX1より小さい区間で下アームスイッチング素子18FがONするものであるが、各相の上下アームスイッチング素子18Aと18D、18Bと18E、18Cと18Fが同時にONしないようにするためのデッドタイムTdが設けられ、ONしている方のスイッチング素子がOFFしてからこのデッドタイムTdが経過した後に、OFFしているスイッチング素子がONされる。
【0056】
また、t
u、t
v、t
wはU相、V相、W相の上アームスイッチング素子18A~18C、下アームスイッチング素子18D~18FのON時間である。相電流のサンプリングタイミングは前述同様に三角波キャリアX1の山(ピーク値CAとなるタイミング)と谷(三角波キャリアX1が0となるタイミング)のタイミングであるので、
図4の場合、上アームスイッチング素子18A~18CのON時間t
u、t
v、t
wは、三角波キャリアX1が0となったタイミングからのON時間、下アームスイッチング素子18D~18FのON時間t
u、t
v、t
wは、三角波キャリアX1がピーク値CAとなったタイミングからのON時間となる。
【0057】
この
図4のように各相の上下アームスイッチング素子18A~18Fがスイッチングされた場合、各相電圧V
u、V
v、V
wは
図4のようにそれぞれ変化するため、各相電圧の総和(V
u+V
v+V
w)であるモータ8の中性点電位V
npは大きく変動している。そのため、コモンモードノイズが大きく発生することになる。
【0058】
(3-2)中性点電位V
npの変動を抑制する従来の補正制御
(3-2-1)中性点電位V
npの変動を抑制できる場合
そこで、上記中性点電位V
npの変動を抑制する制御として、
図5に示す制御(従来の制御)が提案されている。この制御では、相電圧の変化を他の相電圧の変化で打ち消すように電圧指令値が補正される。尚、この場合もU相電流i
uの極性は正(モータ8に流入する方向:i
u>0)であり、V相電流i
v及びW相電流i
wの極性は負(モータ8から流出する方向:i
v<0、i
w<0)である。また、U相電流i
uは零A(アンペア)より十分大きいものとする。
【0059】
この例では、1キャリア周期の全区間においてW相の電圧指令値Cwはキャリア三角波X1のピーク値CAであり、U相の電圧指令値CuとV相の電圧指令値Cvは同じ値とされている(前述した如くU相の電圧指令値Cuは、V相の各電圧指令値Cvを反転したスイッチングパターンとなる)。
【0060】
図4の各相の電圧指令値C
u、C
v、C
wを、
図5のような電圧指令値C
u、C
v、C
wに補正することで、W相の上アームスイッチング素子18Cは1キャリア周期内でONしたまま、下アームスイッチング素子18FはOFFしたままで、W相電圧V
wは変化せず、U相の上アームスイッチング素子18AがONするタイミングが、V相の下アームスイッチング素子18EがONするタイミングに同期され、U相の上アームスイッチング素子18AがOFFするタイミングが、V相の下アームスイッチング素子18EがOFFするタイミングに同期されるため、V相電圧V
vが立ち下がるタイミングとU相電圧V
uが立ち上がるタイミング、及び、V相電圧V
vが立ち上がるタイミングとU相電圧V
uが立ち下がるタイミングが同期され、V相電圧V
vの変化が、U相電圧V
uの変化で打ち消されるようになり、モータ8の中性点電位V
npは
図5に示すように変動しなくなる。これにより、コモンモードノイズの発生が抑制される。
【0061】
(3-2-2)中性点電位V
npの変動を抑制できない場合
しかしながら、前述した
図3の2ms付近の場合のように、U相電流i
uがほぼ零A(アンペア)であるときは、U相電流i
uが零Aを上下し続けて(リプル)、その極性が細かく変化するため、サンプリングしたU相電流i
uと、実際にU相の下アームスイッチング素子18DをスイッチングするタイミングでのU相電流i
uの極性が異なってくる場合がある。
【0062】
このような場合を
図6に示す。尚、この図においてV相電流i
vの極性は負(モータ8から流出する方向:i
v<0)、W相電流i
wの極性は正(モータ8に流入する方向:i
w>0)であるものとする。また、図中の黒丸は各相電流i
u、i
v、i
wのサンプリングタイミング(三角波キャリアX1の山と谷のタイミング)、黒四角はU相の下アームスイッチング素子18D及びV相の上アームスイッチング素子18B(前半)と、U相の上アームスイッチング素子18A及びV相の下アームスイッチング素子18E(後半)のスイッチングタイミング(補正する前の各相の電圧指令値C
u、C
v、C
wによりON状態となるU相の下アームスイッチング素子18D及びV相の上アームスイッチング素子18B(前半)と、U相の上アームスイッチング素子18A及びV相の下アームスイッチング素子18E(後半)がOFFするスイッチングタイミング)である。また、
図6中の実線L1はモータ8に実際に流れるU相電流i
uの変化を示している。
【0063】
この
図6では電圧指令値C
u、C
v、C
wの補正を行っていないため、キャリア周期の前半でモータ8の中性点電位V
npが変動している。そこで、サンプリングタイミング(黒丸)ではU相電流i
uの極性が正(モータ8に流入する方向:i
u>0)であるので、
図5の場合と同様に各相の電圧指令値C
u、C
v、C
wを補正した場合を
図7に示す。尚、
図7ではサンプリングしたU相電流i
uの極性が正(モータ8に流入する方向:i
u>0)であるので、
図5の場合と同様に、U相の上アームスイッチング素子18AがONするタイミングと、V相の下アームスイッチング素子18EがONするタイミングを同期させるために、
図6におけるU相の電圧指令値C
uと、V相の電圧指令値C
vをキャリア周期の前半では下げる方向で補正している。尚、
図7中の太い破線L2はサンプリングしたU相電流i
uの値である。
【0064】
図7の場合、サンプリングタイミング(黒丸)ではU相電流i
uの極性は正(モータ8に流入する方向:i
u>0)であったが、実際のスイッチングタイミング(
図6の左側の黒四角)では、U相電流i
uの極性は負(モータ8から流出する方向:i
u<0)に変わっているため、U相電流i
uの極性誤判定となり、
図5の場合と同様にU相とV相の電圧指令値C
u、C
vを補正してしまうと、U相電圧V
uは実際には下アームスイッチング素子18DがOFFするタイミングで立ち上がることになる。
【0065】
一方、V相電流i
vの極性は負(モータ8から流出する方向:i
v<0)であり、V相電圧V
vは下アームスイッチング素子18EがONするタイミングで立ち下がるので、
図5の場合に比較して、
図7に示すようにU相電圧V
uが立ち上がるタイミングが、V相電圧V
vが立ち下がるタイミングよりデッドタイムT
d分早くなってしまい、この幅(デッドタイムT
dの幅)で中性点電位V
npがパルス状に立ち上がる方向で変動している。これでは、コモンモードノイズの発生を抑制することができない(
図7のキャリア周期の前半参照)。
【0066】
(3-3)中性点電位V
npの変動を抑制する本発明の補正制御
そこで、本発明では前述した相電流予測部41がスイッチングタイミングにおける各相の相電流を予測し、予測した相電流に基づき、電圧指令算出部38が算出した各相の電圧指令値C
u、C
v、C
wを、補正制御部42が補正する。以下、
図8を参照しながら、本発明の補正制御について説明する。
【0067】
(3-3-1)スイッチングタイミングにおける相電流の予測(相電流予測部41)
先ず、相電流予測部41によるスイッチングタイミングにおける相電流の予測制御について説明する。相電流予測部41は、下記数式(I)を用いてスイッチングタイミングにおける各相の相電流iuvw(t+tuvw)を予測する。
【0068】
【0069】
但し、iuvw(t+tuvw)は、電圧指令算出部38が算出した各相の電圧指令値Cu、Cv、Cw(補正前の電圧指令値)によりON状態となる上アームスイッチング素子18A~18C、或いは、下アームスイッチング素子18D~18FがOFFするスイッチングタイミングにおけるU相、V相、W相の相電流、tuvwはU相、V相、W相の上アームスイッチング素子18A~18C、又は、下アームスイッチング素子18D~18FのON時間、iuvw(t)は相電流検出部39がサンプリングタイミングでサンプリングしたU相、V相、W相の相電流、Luvwはモータ8のU相、V相、W相のインダクタンス、Vdcは前述した直流リンク電圧、euvwはモータ8のU相、V相、W相の逆起電圧、Vnpはモータ8の前述した中性点電位、sgn(Vuvw)は相電圧Vu、Vv、Vwの符号関数であり、相電圧Vu、Vv、VwがVdcのときは1、相電圧Vu、Vv、Vwが0のときは-1となる。
【0070】
尚、上記数式(I)をU相、V相、W相の各相を合わせて示したものであるため、分かり易くするために、各相に分離した数式を下記数式(VI)~(XI)で示す。
【0071】
【0072】
【0073】
上記数式(VI)、(VII)におけるiu(t+tu)は電圧指令算出部38が算出したU相の電圧指令値Cu(補正前の電圧指令値)によりON状態となる上アームスイッチング素子18A、又は、下アームスイッチング素子18DがOFFするスイッチングタイミングにおけるU相の相電流、tuはU相の上アームスイッチング素子18A、又は、下アームスイッチング素子18DのON時間、iu(t)は相電流検出部39がサンプリングタイミングでサンプリングしたU相の相電流、Luはモータ8のU相のインダクタンス、euはモータ8のU相の逆起電圧、sgn(Vu)はU相電圧Vuの符号関数であり、U相電圧VuがVdcのときは1、U相電圧Vuが0のときは-1となる。
【0074】
【0075】
【0076】
上記数式(VIII)、(IX)におけるiv(t+tv)は電圧指令算出部38が算出したV相の電圧指令値Cv(補正前の電圧指令値)によりON状態となる上アームスイッチング素子18B、又は、下アームスイッチング素子18EがOFFするスイッチングタイミングにおけるV相の相電流、tvはV相の上アームスイッチング素子18B、又は、下アームスイッチング素子18EのON時間、iv(t)は相電流検出部39がサンプリングタイミングでサンプリングしたV相の相電流、Lvはモータ8のV相のインダクタンス、evはモータ8のV相の逆起電圧、sgn(Vv)はV相電圧Vvの符号関数であり、V相電圧VvがVdcのときは1、V相電圧Vvが0のときは-1となる。
【0077】
【0078】
【0079】
上記数式(X)、(XI)におけるiw(t+tw)は電圧指令算出部38が算出したW相の電圧指令値Cw(補正前の電圧指令値)によりON状態となる上アームスイッチング素子18C、又は、下アームスイッチング素子18FがOFFするスイッチングタイミングにおけるW相の相電流、twはW相の上アームスイッチング素子18C、又は、下アームスイッチング素子18FのON時間、iw(t)は相電流検出部39がサンプリングタイミングでサンプリング(実際は前述したように計算で求める算出)したW相の相電流、Lwはモータ8のW相のインダクタンス、ewはモータ8のW相の逆起電圧、sgn(Vw)はW相電圧Vwの符号関数であり、W相電圧VwがVdcのときは1、W相電圧Vwが0のときは-1となる。
【0080】
前記数式(VI)の中括弧内は、モータ8のU相の電機子コイル2に印加される電圧であり、これに1/Luを掛けた値はU相電流iuの傾き[A/s]を意味している。従って、数式(VI)の右辺の第2項はU相電流iuの増減量を示しているので、相電流予測部41は、相電流検出部39がサンプリングしたU相電流iu(t)に、サンプリングタイミングからスイッチングタイミングまでのU相電流iuの増減量を加算することで、スイッチングタイミングにおけるU相電流iu(t+tu)を予測していることになる。
【0081】
同様に数式(VIII)の中括弧内は、モータ8のV相の電機子コイル3に印加される電圧であり、これに1/Lvを掛けた値はV相電流ivの傾き[A/s]を意味している。従って、数式(VIII)の右辺の第2項はV相電流ivの増減量を示しているので、相電流予測部41は、相電流検出部39がサンプリングしたV相電流iv(t)に、サンプリングタイミングからスイッチングタイミングまでのV相電流ivの増減量を加算することで、スイッチングタイミングにおけるV相電流iv(t+tv)を予測していることになる。
【0082】
数式(X)の中括弧内も、モータ8のW相の電機子コイル4に印加される電圧であり、これに1/Lwを掛けた値はW相電流iwの傾き[A/s]を意味している。従って、数式(X)の右辺の第2項はW相電流iwの増減量を示しているので、相電流予測部41は、相電流検出部39がサンプリング(実際は計算)したW相電流iw(t)に、サンプリングタイミングからスイッチングタイミングまでのW相電流iwの増減量を加算することで、スイッチングタイミングにおけるW相電流iw(t+tw)を予測していることになる。
【0083】
(3-3-2)電圧指令値C
u、C
v、C
wの補正制御(補正制御部42)
実施例では、サンプリングタイミングとスイッチングタイミングとで相電流の極性が変化し易い相(
図3の2ms付近では絶対値が最小となるU相)に着目し、上述した如く相電流予測部41が予測したスイッチングタイミングにおけるU相電流i
u(t+t
u)に基づいて、電圧指令算出部38が算出した各相の電圧指令値C
u、C
v、C
wを補正する。
図8の例では補正制御部42がV相の電圧指令値C
v(
図6に示した補正前の値)を補正する。
【0084】
尚、相電流の絶対値が最小となる相(
図3の2ms付近ではU相)のみで無く、スイッチングタイミングにおける三相全ての相電流を相電流予測部41が予測するようにしてもよい。また、
図8でも黒丸は各相電流i
u、i
v、i
w、のサンプリングタイミング、黒四角は
図6と同様のスイッチングタイミング(電圧指令算出部38が算出した各相の電圧指令値C
u、C
v、C
wによりON状態となるU相の下アームスイッチング素子18D及びV相の上アームスイッチング素子18B(前半)と、U相の上アームスイッチング素子18A及びV相の下アームスイッチング素子18E(後半)がOFFするスイッチングタイミング:補正する前のスイッチングタイミング)、黒三角は本発明の補正制御で補正した後のV相の上アームスイッチング素子18B(前半)がOFFするスイッチングタイミングを示している(後半は補正しないので、黒四角と黒三角は同じ位置にある)。また、最下段の実線L1は前述同様にモータ8に実際に流れるU相電流i
uの変化を示し、太い破線L3は相電流予測部41が予測したU相電流i
u(t+t
u)を示している。
【0085】
図8の例の場合、左端のサンプリングタイミング(黒丸)でサンプリングしたU相電流i
uの極性は正(モータ8に流入する方向:i
u>0)であったが、相電流予測部41が予測したスイッチングタイミング(黒四角)におけるU相電流i
u(t+t
u)の極性は負(モータ8から流出する方向:i
u<0)であるので(V相電流i
vの極性も負)、補正制御部42は、キャリア周期の前半では、V相の下アームスイッチング素子18EがONするタイミングを、U相の下アームスイッチング素子18DがOFFするタイミングに同期させるために、V相の電圧指令値C
vのみを、CAT
d/T
sだけ下げる方向で補正する(
図8の前半に白抜き矢印で示す)。尚、T
sは1キャリア周期である。
【0086】
これにより、V相の上アームスイッチング素子18BがOFFするスイッチングタイミングのみが、黒四角から黒三角に移動するので(スイッチング動作の補正)、それからデッドタイムT
d分遅れてV相電圧V
vが立ち下がるタイミング(V相の下アームスイッチング素子18EがONするタイミング)と、U相の下アームスイッチング素子18DがOFFされてU相電圧V
uが立ち上がるタイミングとが同期し、中性点電位V
npが変動しなくなる(
図8の前半)。
【0087】
このように本発明では、制御装置21が、各相のスイッチングタイミングにおける相電流を予測する相電流予測部41と、この相電流予測部41が予測したスイッチングタイミングにおける各相の相電流に基づき、モータ8に印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すようスイッチング動作を補正する補正制御部42を有しているので、スイッチングタイミングにおける相電流の極性に基づき、より正確なスイッチング動作の補正を行うことができるようになる。
【0088】
これにより、デッドタイムの影響を排除して、的確に相電圧の変化を他の相電圧の変化で打ち消すことができるようになり、中性点電位の変動に伴うコモンモードノイズの発生を極めて効果的に解消、若しくは、抑制することが可能となる。
【0089】
この場合、実施例では制御装置21が、各相の電圧指令値を算出する電圧指令算出部38を備え、相電流予測部41が、電圧指令算出部38が算出した各相の電圧指令値によりON状態となる上アームスイッチング素子18A~18C又は下アームスイッチング素子18D~18FをOFFするスイッチングタイミングにおける相電流を予測すると共に、補正制御部42が、相電流予測部41が予測したスイッチングタイミングにおける各相の相電流に基づき、電圧指令算出部38が算出した各相の電圧指令値を補正して各相のスイッチングタイミングを同期させることにより、モータ8に印加される相電圧の変化を、他の相電圧の変化で打ち消すようにしている。
【0090】
また、実施例では制御装置21が、各相の相電流をサンプリングする相電流検出部39を備え、相電流予測部41が、相電流検出部39がサンプリングした相電流と、サンプリングタイミングからスイッチングタイミングまでの当該相電流の増減量から、スイッチングタイミングにおける各相の相電流を予測している。
【0091】
この場合、実施例では相電流予測部41が、相電流検出部39がサンプリングした相電流、各相の上アームスイッチング素子18A~18C又は下アームスイッチング素子18D~18FのON時間、及び、モータ8の各相の逆起電圧に基づいてスイッチングタイミングにおける各相の相電流を予測するようにしているので、サンプリングした相電流から、正確にスイッチングタイミングにおける相電流を予測することができるようになる。
【0092】
具体的には、相電流予測部41は、前述した数式(I)(数式(VI)~(XI))を用いてスイッチングタイミングにおける相電流を予測するようにしたので、一層正確にスイッチングタイミングにおける相電流を予測することが可能となる。
【0093】
(3-4)スイッチングタイミングのシフト
次に、
図9~
図11を参照しながら補正制御部42が更に行うシフト制御について説明する。
(3-4-1)スイッチング時の相電圧の変化
ここで、相電圧V
u、V
v、V
wの変化は、実際には相電流i
u、i
v、i
wの極性や大きさにより傾きが変化する。即ち、上下アームスイッチング素子18A~18Fのゲート電圧が変化した後、一定期間後に相電圧の変化が開始し、相電流の極性や大きさにより立ち下がり、及び、立ち上がりの形状が変化する。
【0094】
この様子を
図9と
図10に示す。尚、
図9は相電圧の立ち下がり時の動作(上アームスイッチング素子がOFFして、下アームスイッチング素子がON)、
図10は相電圧の立ち上がり時の動作(下アームスイッチング素子がOFFして、上アームスイッチング素子がON)を示している。
【0095】
また、各図においてiは各相電流を総称したものであり、icは上下アームスイッチング素子の出力容量の放電電流である。この放電電流icは、下記数式(XII)により算出される。尚、Cpは上下アームスイッチング素子の出力容量(半導体特有の寄生容量)である。
【0096】
【0097】
図9の上段は相電流iの極性が負(i<0)の場合であり、上アームスイッチング素子がOFFした後、下アームスイッチング素子がONするタイミングで相電圧は直流リンク電圧V
dcから0に向けてほぼ垂直に立ち下がっている。
図9の中段は0≦i≦i
cの場合であり、上アームスイッチング素子がOFFしてから相電圧は徐々に降下し、デッドタイムT
d後に下アームスイッチング素子がONするタイミングでほぼ垂直に0に向けて立ち下がっている。
図9の下段はi
c<iの場合であり、上アームスイッチング素子がOFFしてから相電圧は所定の角度で降下し、デッドタイムT
dが経過する以前に0になっている。
【0098】
また、
図10の上段は相電流iの極性が正(0<i)の場合であり、下アームスイッチング素子がOFFした後、上アームスイッチング素子がONするタイミングで相電圧は0から直流リンク電圧V
dcに向けてほぼ垂直に立ち上がっている。
図10の中段は-i
c≦i≦0の場合であり、下アームスイッチング素子がOFFしてから相電圧は徐々に上昇し、デッドタイムT
d後に上アームスイッチング素子がONするタイミングでほぼ垂直に直流リンク電圧V
dcに向けて立ち上がっている。
図10の下段はi<-i
cの場合であり、下アームスイッチング素子がOFFしてから相電圧は所定の角度で上昇し、デッドタイムT
dが経過する以前に直流リンク電圧V
dcになっている。
【0099】
このため、例えば
図11の左側に示すように、スイッチングにより立ち下がる相の相電流iの大きさが
図9の中段(0≦i≦i
c)のような場合で、相電圧(
図11にL4で示す)の変化が、上アームスイッチング素子がOFFしてから徐々に降下し、デッドタイムT
d後に下アームスイッチング素子がONするタイミングでほぼ垂直に0に向けて立ち下がるときに、その変化を打ち消すために相電圧が立ち上がる相の相電流iが
図10の下段(i<-i
c)のような大きさであった場合は、相電圧(
図11にL5で示す)の変化が、下アームスイッチング素子がOFFしてから所定の角度で上昇し、デッドタイムT
dが経過する以前に直流リンク電圧V
dcになるため、相電圧L4と相電圧L5はV
dc/2より大きい状態で交差するようになる。そのため、中性点電位が変動し易くなる。
【0100】
(3-4-2)補正制御部42によるシフト制御
そこで、制御装置21の補正制御部42は、
図11の右側に示すように、相電圧L4と相電圧L5とが、直流リンク電圧V
dc/2で交差するように、相電圧L5の相のスイッチングタイミングを、ΔTだけシフトする(遅らせる)。これにより、降下する相電圧L4変化に、上昇する相電圧L5の変化が近づき、相電圧L4の変化を相電圧L5の変化でより効果的に打ち消すことが可能となって、中性点電位の変動が抑えられるようになる。
【0101】
特に、補正制御部42は、相電流iの絶対値が大きい相電圧L5の相のスイッチングタイミングをシフトする。その理由は、より絶対値が大きい相電流iの相の方が、シフトしても相電圧の変化の傾きが変わり難いからである。それにより、相電圧L4と相電圧L5をより正確に直流リンク電圧Vdc/2で交差させることができるようになる。
【0102】
また、補正制御部42は、相電流iの絶対値の大きさが最も小さい相についてはスイッチングタイミングのシフトを行わない。その理由は、三相の相電流のうち、絶対値の大きさが最も小さい相は、相電流iが零A(アンペア)に近い相であり、
図9や
図10の中段のように相電圧が変化するため、シフトにより相電圧の変化の仕方が変わる可能性が高いからである。一方、相電流iの絶対値が比較的大きい相(中間の相以外の相)は、
図9や
図10の上段や下段のように相電圧が変化するため、シフトしても相電圧の傾きが変化し難い。これにより、補正制御部42は、相電流iの絶対値が最も大きい相のスイッチングタイミングをシフトすることになる。
【0103】
尚、
図11の例では相電圧が立ち上がる相のスイッチングタイミングをシフトするようにしたが、相電流iの絶対値が最も大きい相が、相電圧が立ち下がる相である場合は、立ち下がる方の相のスイッチングタイミングをシフトすることになる。
【0104】
また、実施例では三角波キャリアを用いた左右対称型PWM動作における打ち消し動作の例を示したが、本発明の効果は使用するコントローラ(制御装置)により決定されるPWMキャリアの形状には依存せず、鋸波キャリアなど如何なるキャリア信号を用いた場合でも有効である。更に、実施例では三角波キャリアの山、及び、谷のタイミングで電流検出を行う場合について本発明を適用したが、電流検出方法、及び、タイミングに関して本発明は実施例に限られるものではない。例えば、単一のシャント抵抗を用いてPWM動作タイミングにより電流読み取りを行う前述したワンシャント電流検出方式においても、本出願に記載した通りに逐次電流推定、及び、スイッチングタイミング補正を行うことにより、効果が得られるものである。
【0105】
更にまた、実施例では電動コンプレッサのモータを駆動制御するインバータ装置に本発明を適用したが、それに限らず、各種機器のモータの駆動制御に本発明は有効である。
【符号の説明】
【0106】
1 インバータ装置
8 モータ
10 上アーム電源ライン
15 下アーム電源ライン
18A~18F 上下アームスイッチング素子
19U U相ハーフブリッジ回路
19V V相ハーフブリッジ回路
19W W相ハーフブリッジ回路
21 制御装置
26A、26B 電流センサ
28 インバータ回路
33 相電圧指令演算部
36 PWM信号生成部
37 ゲートドライバ
38 電圧指令算出部
39 相電流検出部
41 相電流予測部
42 補正制御部