(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112170
(43)【公開日】2022-08-02
(54)【発明の名称】ふっ素樹脂複層チューブ
(51)【国際特許分類】
F16L 11/04 20060101AFI20220726BHJP
C08J 9/00 20060101ALI20220726BHJP
B32B 1/08 20060101ALI20220726BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20220726BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220726BHJP
A61L 29/04 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
F16L11/04
C08J9/00 A CEW
B32B1/08 B
B32B5/18
B32B27/30 D
A61L29/04 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021007865
(22)【出願日】2021-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000211156
【氏名又は名称】中興化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】岩田 恵介
(72)【発明者】
【氏名】濱田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】島田 肇
【テーマコード(参考)】
3H111
4C081
4F074
4F100
【Fターム(参考)】
3H111BA15
3H111CB03
3H111CB23
3H111DA26
3H111DB21
4C081AC08
4C081BB02
4C081BB07
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4F074CC04Y
4F074CC04Z
4F074CC22X
4F074DA08
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4F074DA53
4F100AK18A
4F100AK18B
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
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4F100DJ00B
4F100GB66
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】長手方向への伸びに対する耐性と曲げに対する柔軟性とを両立し、且つ、耐浸透性および気密性に優れるふっ素樹脂複層チューブを提供すること。
【解決手段】ふっ素樹脂複層チューブは、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を含み充実構造を有する内層と、内層と接し、且つ、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を含み多孔質構造を有する外層とを含む。内層の内層厚みは、外層の外層厚みより薄い。内層厚みは、2μm以上30μm以下の範囲内にある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン樹脂を含み充実構造を有する内層と、
前記内層と接し、且つ、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を含み多孔質構造を有する外層とを含み、前記内層の内層厚みは前記外層の外層厚みより薄く、前記内層厚みは2μm以上30μm以下の範囲内にある、ふっ素樹脂複層チューブ。
【請求項2】
前記外層厚みは10μm以上100μm以下の範囲内にある、請求項1に記載のふっ素樹脂複層チューブ。
【請求項3】
前記外層厚みは前記内層厚みの2倍より大きく9倍以下である、請求項1又は2に記載のふっ素樹脂複層チューブ。
【請求項4】
0.5mm以上3mm以下の外径を有する、請求項1乃至3の何れか1項に記載のふっ素樹脂複層チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ふっ素樹脂複層チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂チューブは、潤滑性、耐薬品性、及び耐熱性等に優れていることから、幅広い分野で応用されている。また、PTFEには摩擦係数が低いという特長があり、摺動目的で使用されることが多い。例えば、カテーテル治療の際には、治療用冶具をカテーテル内をスムーズに通すために、カテーテルの内装材としてPTFE樹脂チューブが使用される。
【0003】
血管内を通すカテーテルには、血管を傷つけないように柔らかいチューブが好まれる。特に、カテーテルの先端部分は、非常に柔軟であることが求められる。しかしながら、柔らかいチューブを使用しチューブ内に処置具を通す際にチューブが製品長手方向に伸び、処置具が通りずらい欠点があった。PTFEチューブの製品長手方向の伸び応力は、PTFEの応力によるところが大きい。変形を抑えるためにPTFEの厚さを増し応力を大きくすることは可能であるが、厚くなると硬くなってしまうという問題があった。これら課題を解決するためにPTFEの厚さを増しても柔らかい、フィブリルと呼ばれる繊維から構成される多孔質状のPTFEを用いることが出来るが、連泡状のチューブ壁を有するため、薬液搬送の圧力に耐えられず孔への浸透、又は孔からの気泡巻き込みの懸念があった。
【0004】
変形応力を多くするために延伸PTFEを用いる方法が報告されている。例えば、特許文献1(特表2016-528966号公報)には、延伸PTFEライナーを含ませることでマイクロカテーテルを強化することが開示されている。しかし、PTFEの延伸により強度向上を図っているため、長手方向の分子配向が強くなるので裂けやすい。カテーテル経由で体内へ造影剤を導入することがあるが、造影剤を流す際には高い圧力がかかるため、延伸PTFEチューブでは裂けてしまう危険性がある。
【0005】
また、充実層と多孔質層とを含んだ多層PTFEチューブが報告されている。
【0006】
例えば、特許文献2(特開平7-1630号公報)には、充実構造のポリテトラフルオロエチレンからなる第1層と、その外周面に積層された多孔質構造のポリテトラフルオロエチレンからなる第2層とからなり、これら第1層と第2層とが熱融着により一体化されている可撓性多層チューブが記載されている。第1層および第2層、つまり充実層および多孔質層ともにPTFEフィルムを巻成固定化してなるチューブ成形体であるため、段差が発生する。そのため、内視鏡等の比較的大きいチューブが使用される用途には適用可能であっても、径サイズの精度が要求されるカテーテル用途には向いていない。
【0007】
特許文献3(特開2001-46314号公報)には、内層と外層とを有する多孔質構造のPTFEチューブで形成した管路を内部に延設した内視鏡が記載されている。特許文献3には、内層と外層とを同時に押出し成形した後、外層のみを延伸発泡させて多孔質化させることで多孔質構造を形成することが記載されている。しかしその具体的な手段が記載されてなく、如何にして外層のみ延伸発泡できるかが不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2016-528966号公報
【特許文献2】特開平7-1630号公報
【特許文献3】特開2001-46314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
長手方向への伸びに対する耐性と曲げに対する柔軟性とを両立し、且つ、耐浸透性および気密性に優れるふっ素樹脂複層チューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ふっ素樹脂複層チューブは、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を含み充実構造を有する内層と、内層と接し、且つ、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を含み多孔質構造を有する外層とを含む。内層の内層厚みは、外層の外層厚みより薄い。内層厚みは、2μm以上30μm以下の範囲内にある。
【発明の効果】
【0011】
上記ふっ素樹脂複層チューブは、長手方向への伸びに対する耐性と曲げに対する柔軟性とを両立するとともに、耐浸透性および気密性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一例のふっ素樹脂複層チューブを概略的に示す斜視図。
【
図2】
図2に示す仮想面II-II’に沿った断面図。
【
図3】ふっ素樹脂複層チューブの内層の押出成形法による形成の一例を概略的に示す断面図。
【
図4】ふっ素樹脂複層チューブの内層のディップコーティング法による形成の一例を概略的に示す断面図。
【
図5】ふっ素樹脂複層チューブの外層を形成する押出成形の一例を概略的に示す断面図。
【
図6】実施例に係るふっ素樹脂複層チューブに対する柔軟性の評価方法を説明するための概念図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の実施形態に係るふっ素樹脂複層チューブは、充実構造を有する内層と、内層と接し多孔質構造を有する外層とを含む。内層および外層は、それぞれポリテトラフルオロエチレン樹脂を含む。内層の内層厚みは、外層の外層厚みより薄く、且つ、2μm以上30μm以下の範囲内にある。
【0014】
上記ふっ素樹脂複層チューブでは、内層および外層を含んだ複層構造を有しているため、それぞれの単一層よりも厚さが増しているので長手方向への変形が抑制されている。尚且つ、外層が多孔質構造を有していることで、複層チューブ全体としては厚さが増しているものの、横曲げの柔軟性に優れている。つまり、複層チューブは柔らかいので、曲げ半径が小さく、キンク(折れ)が生じにくい。また、ふっ素樹脂複層チューブは充実構造、つまり非多孔質構造の内層を有しているため、気泡の発生や薬液の浸透の懸念がない。
【0015】
ふっ素樹脂複層チューブの例を、
図1及び
図2に示す。
【0016】
図1は、一例のふっ素樹脂複層チューブを概略的に示す斜視図であり、
図2は、
図1に示す仮想面II-II’に沿った断面図である。
図2は、ふっ素樹脂複層チューブの長手方向、つまり管軸方向と直交する断面を示す。
【0017】
図1及び
図2に示す複層チューブ1は、円管形状を有する。複層チューブ1は、円管の放射方向へ内層2及び外層3が積層されている2層構造を有する。内層2及び外層3の何れについても、円形断面を有することが望ましい。
【0018】
内層2は、充実構造のPTFEチューブから成る。つまり、内層2は、PTFEを含んだ内層チューブである。内層2の内層厚みTINは、外層3の外層厚みTEXより薄い。内層厚みTINは、2μm以上30μm以下の範囲内にある。
【0019】
外層3は、フィブリルからなる多孔質構造のPTFEチューブから成る。つまり、外層3は、PTFEを含んだ外層チューブである。外層3の外層厚みTEXは、例えば、10μm以上100μm以下の範囲内にあり得る。外層厚みTEXは、内層2の内層厚みTINより厚い。また、外層厚みTEXは、内層厚みTINの2倍より大きく9倍以下であることが望ましい。
【0020】
複層チューブ1は、例えば、0.5mm以上3mm以下の外径DEXを有し得る。複層チューブ1の外径DEXは、外層3の外径直径に対応し得る。複層チューブ1は、例えば、0.4mm以上2.8mm以下の内径DINを有し得る。複層チューブ1の内径DINは、内層2の内径直径に対応し得る。
【0021】
係る複層チューブは、例えば、下記製造方法により得ることができる。具体的には、複層チューブの製造方法は、ポリテトラフルオロエチレンファインパウダーを含む第1混和物を用いた第1押出成形によりチューブ状の第1押出成形品を得ることと、第1押出成形品に対し第1焼成を行い充実構造の第1チューブ状前駆体を得ることと、ポリテトラフルオロエチレンファインパウダーを含む第2混和物を用いた第2押出成形により第1チューブ状前駆体の外面に第2押出成形品を形成して第2チューブ状前駆体を得ることと、該第2チューブ状前駆体に対し第2焼成を行なって充実構造の内層と多孔質構造の外層とを含んだふっ素樹脂複層チューブを得ることとを含む。複層チューブの他の製造方法は、ポリテトラフルオロエチレンディスパージョンを芯線の外表面に塗布して第1被膜を得ることと、ポリテトラフルオロエチレンの被膜に対し第1焼成を行い充実構造の第1チューブ状前駆体を得ることと、ポリテトラフルオロエチレンファインパウダーを含む混和物の押出成形により第1チューブ状前駆体の外面に第2被膜を形成して第2チューブ状前駆体を得ることと、該第2チューブ状前駆体に対し第2焼成を行なって充実構造の内層と多孔質構造の外層とを含んだふっ素樹脂複層チューブを得ることとを含む。
【0022】
即ち、複層チューブの製造方法は、チューブ状押出成形品の押出および焼成またはディップコーティング法等のPTFE分散液の塗布および焼成により、薄肉の充実PTFEチューブを形成し、得られた薄肉チューブの外面に対し押出成形による被覆および焼成を行って多孔質PTFE層を形成することを含む。
【0023】
先ず、内層となる充実PTFEチューブを、押出成形(第1押出成形)により得る方法を説明する。
【0024】
PTFEファインパウダーとして、PTFE成形品の押出成形に汎用されている材料を用いることができる。ファインパウダーとは、乳化重合で得られた水性分散液を凝析・乾燥して得られるものである。ファインパウダーは、例えば、重合により生成した1次粒子が凝集して粒径500μmとなったものを主体とし得る。
【0025】
PTFEファインパウダーとして、充填剤や添加剤等を含まない、PTFEのみの粉末、例えば、バージンPTFEパウダー用いることができる。このようなPTFEファインパウダーは、PTFEから成る。内層の形成には、バージンPTFEパウダー用いることが望ましい。
【0026】
或いは、PTFE粉末と充填剤とを含んだ複合材料を含む充填剤入りPTFEファインパウダーを用いてもよい。充填剤として、例えば、イミド樹脂の粉末をPTFE粉末に混合することができる。PTFE粉末とイミド樹脂粉末との混合粉末を用いて外層を形成することで、チューブ外面の耐摩耗性を向上させることができる。また、充填剤として、例えば、炭素材料等の導電性を有する材料を含ませることで、電気的性質をチューブに付与することができる。
【0027】
例えば、PTFEファインパウダーに潤滑剤等の押出助剤を混合することで、ペースト状の混和物(第1混和物)を得ることができる。PTFEファインパウダーを含んだ混和物をチューブ形状に押出成形(第1押出成形)することで、チューブ状の第1押出成形品を得ることができる。例えば、芯線の外面上にPTFEの混和物を押出成形することで、第1被膜を形成することができる。得られた第1押出成形品に対し焼成(第1焼成)を実施することで、第1チューブ状前駆体として充実構造のPTFEチューブが得られる。
【0028】
押出助剤としては、例えば、汎用されているソルベントナフサ(例えば、登録商標:Isoper E、エクソン化学社製)、ホワイトオイル、炭素数6乃至12の流動パラフィン(例えば、登録商標:カクタスノルマルパラフィンN-10、(株)ジャパンエナジー製)を挙げることができる。
【0029】
PTFEファインパウダーと押出助剤とを混合して得られる混和物は、押出成形に供する前に熟成してもよい。また、熟成させた混和物を圧縮して、圧縮成型体(ビレット)を造ってもよい。圧縮することにより、PTFEファインパウダーにおける空気を除き、押出成形品の均一性を向上させることができる。圧縮成型体の形状は特に限定されないが、例えば、円柱形状であり得る。圧縮成型体を押出機に入れ、押出成形を行う。
【0030】
第1押出成形品の押出成形(第1押出成形)の際、例えば、PTFEファインパウダーを含んだ混和物または圧縮成型体の押出速度と芯線の引取速度を同程度にすることが望ましい。速度を揃えることにより、芯線を被覆する第1押出成形品(第1被膜)の肉厚を長手方向に沿って均一に保ちやすくなる。
【0031】
押出成形の際、加熱を行ってもよい。例えば、押出成形機の金型(例えば、ダイ又はダイス)の温度を40℃以上120℃以下に設定することで、加熱しながら押出成形を行ってもよい。金型を50℃以上60℃以下に加熱することが好ましい。
【0032】
第1押出成形において、芯線を用いてもよい。PTFEファインパウダーを含んだ混和物により芯線の外周を被覆するように押出成形を行うことで、芯線上にチューブ状の第1押出成形品、即ち、第1被膜を形成できる。また、芯線上の第1押出成形品(第1被膜)をそのまま焼成(第1焼成)に供することで、芯線を被覆した形態の第1チューブ状前駆体を得ることができる。芯線を採用することにより、製造時およびその後のハンドリング性が向上する。
【0033】
芯線としては、例えば、銅、アルミニウム等の金属から成る金属線、又は樹脂から成る芯材を用いることができる。芯線の径は、所望のチューブ内径に応じて適宜変更することができる。
【0034】
第1押出成形品、例えば、芯線上に被覆させた第1被膜を焼成(第1焼成)する。こうして、ふっ素樹脂複層チューブの内層となる第1チューブ状前駆体が得られる。
【0035】
第1押出成形品(例えば、芯線上の第1被膜)の焼成(第1焼成)における焼成温度は、特に限定されるものではない。PTFEの融点345℃を超える温度、例えば、400℃以上の温度で焼成することが望ましい。
【0036】
焼成に先駆けて、例えば、押出助剤を除去するために押出成形品を乾燥させてもよい。一方で、典型的な押出助剤は200℃程度で揮発するため、予め除去しなくても焼成時に揮発する。そのため、乾燥は省略してもよい。
【0037】
第1押出成形品に対しては、延伸を実施しないことが望ましい。複層チューブの内層を充実構造として耐浸透性および気密性を良くするためには、内層の前駆体たる第1押出成形品の延伸を行わないことが望ましい。
【0038】
次に、内層となる充実PTFEチューブを、PTFE分散液(PTFEディスパージョン)の塗布により形成して得る方法を説明する。
【0039】
PTFEディスパージョンは、分散媒と、この分散媒中のPTFE粉末とを含む。PTFEディスパージョンとして、ディップコーティング法等の、被覆により樹脂チューブを成形する手法にて汎用されている材料を用いることができる。例えば、PTFEディスパージョンは、乳化重合によりPTFE粉末を水性分散媒に分散させた水性分散液である。PTFEディスパージョンは、PTFE粉末を含んだ懸濁液(サスペンション)であり得る。
【0040】
分散媒は、例えば、水等であり得る。PTFEディスパージョンの組成は特に限定されるものではなく、例えば、ディップコーティング法等の手法において汎用されている組成の分散液や懸濁液を用いることができる。
【0041】
PTFEディスパージョンに含まれているPTFE粉末は、充填剤や添加剤等を含まない、PTFEのみの粉末であることが望ましい。即ち、PTFEディスパージョンは、PTFEから成る粉末が分散媒中に分散しているものであることが望ましい。PTFEディスパージョンは、バージンPTFEのディスパージョンであることが好ましい。
【0042】
PTFEディスパージョンを芯線の外表面に塗布することで、第1被膜、つまり分散PTFE被膜を得る。PTFEディスパージョンを塗布するには、例えば、芯線をPTFEディスパージョンに浸漬させることができる。具体的には、ディップコーティング方式を採用することが好ましい。ディップコーティング方式では、芯線をPTFEディスパージョン中に通して、一定速度で引き上げることにより、均一なコーティング厚を形成できる。
【0043】
芯線としては、上述した第1押出成形で用いることのできる芯線と同様のものを用いることができる。
【0044】
芯線上にPTFEディスパージョンを塗布して得られた第1被膜を焼成(第1焼成)する。こうして、ふっ素樹脂複層チューブの内層となる第1チューブ状前駆体が得られる。
【0045】
PTFEディスパージョンを一度塗布し、その後の焼成を行った後、得られたチューブの外面にPTFEディスパージョンをさらに塗布し、焼成を行ってもよい。分散液の塗布および焼成を交互に繰り返すことで、チューブの肉厚を所望の厚みに調整することもできる。
【0046】
或いは、PTFEディスパージョンの塗布および焼成を行った後、PTFE粉末と充填剤とを含んだ複合材料を含んだ充填剤入り分散液を塗布し、焼成を行ってもよい。充填剤として、例えば、炭素材料等の導電性を有する材料を含ませることで、電気的性質をチューブに付与することができる。但し、芯線の外表面に直接塗布する分散液は、充填剤を含まないPTFEディスパージョンとすることが好ましい。
【0047】
芯線上の第1被膜の焼成(第1焼成)における焼成温度は、特に限定されるものではない。PTFEの融点345℃を超える温度、例えば、400℃以上の温度で焼成することが望ましい。
【0048】
続いて、多孔質の外層を押出成形により充実PTFEチューブ上に形成して、複層チューブを得る方法を説明する。
【0049】
PTFEファインパウダーとして、上述した第1押出成形に用いることができるPTFEファインパウダーと同様の材料を用いることができる。PTFEファインパウダーは、バージンPTFEパウダー及び充填剤入りPTFEファインパウダーの何れでもあり得る。
【0050】
第1押出成形に用いる混和物(第1混和物)の調製と同様に、例えば、PTFEファインパウダーに潤滑剤等の押出助剤を混合することで、ペースト状の混和物(第2混和物)を得ることができる。PTFEファインパウダーを含んだ混和物を、第1チューブ状前駆体の外面上に押出成形することで、第2被膜を形成することができる。こうして得られる第1チューブ状前駆体と第2被膜とを含んだ第2チューブ状前駆体に対し焼成(第2焼成)を実施することで、複層構造のPTFEチューブ、即ちふっ素樹脂複層チューブが得られる。
【0051】
つまり、複層チューブの内層の前駆体たる第1チューブ状前駆体を芯線として用いて押出成形を行って、第1チューブ状前駆体をPTFE樹脂の第2被膜で被覆して、第2チューブ状前駆体を得る。第2チューブ状前駆体を焼成することで第2被膜をチューブ状PTFE層に変換することで、チューブ形状の内層とチューブ形状の外層とが重なったふっ素樹脂複層チューブが得られる。
【0052】
第2被膜の押出成形(第2押出成形)に用いる芯線としての第1チューブ状前駆体は、上述した第1押出成形により得られた充実PTFEチューブであってもよく、或いは、上述したPTFE分散液を塗布する方法により得られた充実PTFEチューブであってもよい。
【0053】
第1押出成形に用いる混和物(第1混和物)と同様に、第2被膜の押出成形(第2押出成形)に用いる混和物(第2混和物)を、押出成形に供する前に熟成したり、圧縮成型体(ビレット)を造ったりしてもよい。
【0054】
第2被膜の押出成形(第2押出成形)の際、例えば、PTFEファインパウダーを含んだ混和物または圧縮成型体の押出速度よりも速い速度で芯線としての第1チューブ状前駆体を引き取る。引取速度を押出速度よりも速くすることで、多孔質構造の第2被膜、ひいては多孔質構造の外層を得ることができる。第1チューブ状前駆体の引取速度の方が速いことで、その表面に付着するPTFE樹脂が長手方向に引き延ばされるため、第2被膜が密にならず、多孔質な層が形成される。
【0055】
押出成形の際、加熱を行ってもよい。例えば、押出成形機の金型(例えば、ダイ又はダイス)の温度を40℃以上120℃以下に設定することで、加熱しながら押出成形を行ってもよい。金型を50℃以上60℃以下に加熱することが好ましい。
【0056】
第2チューブ状前駆体の焼成(第2焼成)における焼成温度は、特に限定されるものではない。PTFEの融点345℃を超える温度、例えば、400℃以上の温度で焼成することが望ましい。
【0057】
焼成に先駆けて、乾燥により助剤を除去してもよい。上述したとおり、典型的な押出助剤は200℃程度で揮発するため、予め除去しなくても焼成時に揮発する。そのため、乾燥は省略してもよい。
【0058】
ふっ素樹脂チューブの製造方法の具体例を、図面を参照しながら説明する。
図3は、押出成形法により、ふっ素樹脂複層チューブの内層となる第1チューブ状前駆体を形成する方法の一例を概略的に示す断面図である。つまり
図3は、第1押出成形の一例を示す。
図4は、ディップコーティング法により、ふっ素樹脂複層チューブの内層となる第1チューブ状前駆体を形成する方法の一例を概略的に示す断面図である。
図5は、押出成形により、ふっ素樹脂複層チューブの外層となる第2チューブ状前駆体を形成してふっ素樹脂チューブを製造する方法の一例を概略的に示す断面図である。
図5に示す例は、第2押出成形の一例であり得る。
【0059】
先ず、
図3を参照しながら、押出成形による内層の前駆体を形成する方法、つまり第1押出成形の一例を説明する。
【0060】
押出成形機50が備える押出金型51にPTFEファインパウダーを含む混和物20が充填される。混和物20は、PTFEファインパウダーと押出助剤等の他の材料との混合物である。混和物20は、例えば、PTFEファインパウダーを含んだペーストであり得る。或いは、混和物20は、PTFEファインパウダーを含んだ圧縮成型体(ビレット)であり得る。
【0061】
押出金型51の内部に、供給ロール90から巻き出された芯線40が供給されている。芯線40は、押出金型51の内側を通り抜けて、押出金型51の吐出口52から外部へ引き出されている。
【0062】
押出用ラム53が吐出口52へ向かって動かされることにより、混和物20が圧縮されながら芯線40の外面に付着し、第1被膜21として芯線40とともに吐出口52から押し出される。ここで、第1被膜21が吐出口52から押し出される速度が芯線40の引取速度と同程度となるように、押出用ラム53の動きと芯線40の引き取りとを同調させることが望ましい。こうして、芯線40の外周がチューブ状の第1被膜21(第1押出成形品)により被覆される。
【0063】
芯線40上の第1被膜21は、乾燥炉61に供給されて、そこで乾燥(第1乾燥)に供される。続いて、第1被膜21は加熱炉62に供給され、そこで第1焼成に供される。第1焼成により、芯線40を被覆した形態で充実構造の第1チューブ状前駆体22が得られる。
【0064】
芯線40上の第1チューブ状前駆体22は、冷却装置63を経由して、巻取りロール93へ供給される。冷却装置63による冷却の手段は特に限定されず、例えば、空冷および水冷等を含み得る。冷却装置63を省略して、その代わりに加熱炉62から巻取りロール93までの距離が長くなるようにガイドローラー92の配置や数を設定し、放熱時間を稼いでもよい。また、ガイドローラー92の配置及び数は、図示するものに限られない。第1チューブ状前駆体22は、芯線40を含んだまま、巻取りロール93に巻き取られる。
【0065】
押出成形機50の前後に配したテンションプーリ91及びガイドローラー92により芯線40及びその被覆物に張力を加え、たるみを防止することが望ましい。テンションプーリ91の数および位置は図示する例に限られず、増減してもよい。また、テンションプーリ91を省略してもよい。
【0066】
次に、
図4を参照しながら、ディップコーティング法による内層の前駆体を形成する方法の一例を説明する。
【0067】
芯線40が供給ロール90から巻き出されて、浴槽70内の分散液23に供給される。分散液23は、PTFEディスパージョンである。芯線40は、分散液23に浸漬された後、引き上げられる。当該ディップコーティングを経由して分散液23が芯線40の外表面に塗布され、第1被膜21が得られる。
【0068】
芯線40とその外周を被覆している第1被膜21は、乾燥炉61に供給されて、そこで乾燥(第1乾燥)に供される。続いて、芯線40上と第1被膜21は、加熱炉62に供給され、そこで第1焼成に供される。第1焼成により、芯線40を被覆した形態で充実構造の第1チューブ状前駆体22が得られる。
【0069】
芯線40上の第1チューブ状前駆体22は、冷却装置63を経由して、巻取りロール93へ供給される。冷却装置63による冷却の手段は特に限定されず、例えば、空冷および水冷等を含み得る。冷却装置63を省略して、その代わりに加熱炉62から巻取りロール93までの距離が長くなるようにガイドローラー92の配置や数を設定し、放熱時間を稼いでもよい。また、ガイドローラー92の配置及び数は、図示するものに限られない。
【0070】
さらに、第1チューブ状前駆体22が巻取りロール93に供給される前に、浴槽70、乾燥炉61、加熱炉62、及び任意に冷却装置63に順次再供給されてもよい。浴槽70、乾燥炉61、加熱炉62、及び任意に冷却装置63への第1チューブ状前駆体22の再供給は、所望の内層2の厚さに応じて複数回繰り返してもよい。
【0071】
浴槽70の前後に配したテンションプーリ91及びガイドローラー92により芯線40及びその被覆物に張力を加え、たるみを防止することが望ましい。テンションプーリ91の数および位置は図示する例に限られず、増減してもよい。また、テンションプーリ91を省略してもよい。第1チューブ状前駆体22は、芯線40を含んだまま、巻取りロール93に巻き取られる。
【0072】
続いて、
図5を参照しながら、押出成形により外層を形成する方法の一例を説明する。
図5に示す例は、第2押出成形であり得る。
【0073】
押出成形機50が備える押出金型51にPTFEファインパウダーを含む混和物30が充填される。混和物30は、PTFEファインパウダーと押出助剤等の他の材料との混合物である。混和物30は、例えば、PTFEファインパウダーを含んだペーストであり得る。或いは、混和物30は、PTFEファインパウダーを含んだ圧縮成型体(ビレット)であり得る。
【0074】
押出金型51の内部に、供給ロール90から送り出された第1チューブ状前駆体22が供給されている。第1チューブ状前駆体22は、芯線40の外周を被覆しており、芯線40ごと第1チューブ状前駆体22が供給される。芯線40上の第1チューブ状前駆体22は、押出金型51の内側を通り抜けて、押出金型51の吐出口52から外部へ引き出されている。
【0075】
第1チューブ状前駆体22は、
図3にて例示した第1押出成形によって得られたものであり得る。或いは、第1チューブ状前駆体22は、
図4にて例示したディップコーティング法によって得られたものであり得る。
【0076】
押出用ラム53が吐出口52へ向かって動かされることにより、混和物30が圧縮されながら第1チューブ状前駆体の外面に付着し、第2被膜31として第1チューブ状前駆体22及び芯線40とともに吐出口52から押し出される。第2被膜31が吐出口52から押し出される速度よりも速い速度で第1チューブ状前駆体22及び芯線40が引き取られる。こうして、第1チューブ状前駆体22の外周がチューブ状の第2被膜31により被覆され、第2チューブ状前駆体10が得られる。
【0077】
第2チューブ状前駆体10は、乾燥炉61に供給されて、そこで乾燥(第2乾燥)に供される。続いて、第2被膜31は加熱炉62に供給され、そこで第2焼成に供される。第2焼成を経由して、充実層である内層2と多孔質層である外層3とを含んだ2層構造の複層チューブ1が得られる。なお、内層2は、第1チューブ状前駆体22が第2焼成により再度加熱されたものに対応する。
【0078】
芯線40上の複層チューブ1は、冷却装置63を経由して、巻取りロール93へ供給される。冷却装置63による冷却の手段は特に限定されず、例えば、空冷および水冷等を含み得る。冷却装置63を省略して、その代わりに加熱炉62から巻取りロール93までの距離が長くなるようにガイドローラー92の配置や数を設定し、放熱時間を稼いでもよい。また、ガイドローラー92の配置及び数は、図示するものに限られない。複層チューブ1は、芯線40を含んだまま、巻取りロール93に巻き取られる。
【0079】
押出成形機50の前後に配したテンションプーリ91及びガイドローラー92により芯線40及びその被覆物に張力を加え、たるみを防止することが望ましい。テンションプーリ91の数および位置は図示する例に限られず、増減してもよい。また、テンションプーリ91を省略してもよい。
【0080】
使用時に芯線40を抜去することで、中空構造の複層チューブ1を使用できる。例えば、カテーテルを製造する際に、芯線40を抜き取り、複層チューブ1をカテーテルの部材として用いる。
【0081】
上記例は、係るふっ素樹脂複層チューブの製造の一例であるが、製造方法は上記の例に限定されるものではない。例えば、第1焼成を行った後、芯線40と第1チューブ状前駆体22とを巻取りロール93に巻き取らずに、そのまま押出成形機50へ供給し、芯線40の供給から複層チューブ1の完成および巻取りまでを連続して行ってもよい。
【0082】
以下のとおり、内層と外層とを含んだふっ素樹脂複層チューブが得られていることを確認できる。ふっ素樹脂複層チューブの主軸を交差する切断面にて該チューブを切断することで、断面を露出させる。得られた断面を光学顕微鏡により観察する。充実構造の内層と多孔質構造の外層との間で見た目の違いが視認され得る。その場合に、断面観察により内層と外層とを区別することができる。また、断面にて内層および外層のそれぞれの寸法を測定できる。
【0083】
ふっ素樹脂複層チューブの各部位を形成する樹脂材料は、次のようにして確認できる。示差走査熱量計(DSC)を用い、融点を測定することで樹脂材料がPTFEであることを確認することが可能である。
【0084】
[実施例]
(実施例1)
図3及び
図5を参照しながら説明した製造方法と同様の方法により、PTFE樹脂チューブを製造した。つまり、第1押出成形により内層を形成し、第2押出成形により外層を形成して、PTFE複層チューブを製造した。詳細には、次のとおりである。
【0085】
内層の押出成形用のPTFEファインパウダーとしては、三井・ケマーズフロロプロダクツ株式会社製のテフロン(登録商標)PTFEファインパウダー 641-Jを用いた。外層の押出成形用のPTFEファインパウダーとしては、ダイキン工業株式会社製のPTFEファインパウダー ポリフロン(登録商標)F201を用いた。
【0086】
次の手順により、内層チューブ(第1チューブ状前駆体)を得た。内層用のPTFEファインパウダー(641-J)100質量部に対してナフサ(押出助剤)21質量部を加えた後、ターブラーミキサーを用いて常温にて混合して、混和物を調製した。続いて、得られた混和物を予備成形機により円筒状に成形した。得られた予備成形品を肉厚が20μmになるサイズのダイスおよびガイドチューブを取り付けた押出機に投入した。次いで、芯線としての外径φ0.49(mm)の銀メッキした銅線を、予備成形品の円筒形状の中空部およびガイドチューブを通るようにペースト押出機内に設置した。押出成形(第1押出成形)を、押出と同調させて芯線を引っ張りながら行い、得られた第1押出成形品を180℃~200℃での第1乾燥および380℃~400℃での第1焼成に供した。得られた充実構造のポリテトラフルオロエチレン樹脂チューブ(第1チューブ状前駆体)を、冷却後、ロールに巻き取った。
【0087】
次の手順により、内層チューブ外面に多孔質構造の外層を形成し、2層構造のPTFEチューブを得た。
【0088】
外層用のPTFEファインパウダー(F201)100質量部に対してナフサ(押出助剤)21質量部を加えた後、ターブラーミキサーを用いて常温にて混合して、混和物を調製した。続いて、得られた混和物を予備成形機により円筒状に成形した。得られた予備成形品を2層分のPTFEの厚さが100μmになるサイズのダイスおよびガイドチューブを取り付けた押出機に投入した。次いで、芯線として上述のとおり得られた銅線上の内層チューブを、予備成形品の円筒形状の中空部およびガイドチューブを通るようにペースト押出機内に設置した。押出成形(第2押出成形)を、押出速度よりも速い速度で芯線を引っ張りながら行い、得られた押出成形品(第2チューブ状前駆体)を180℃~200℃での第2乾燥および380℃~400℃での第2焼成に供した。得られた2層構造のポリテトラフルオロエチレン樹脂チューブを、冷却後、ロールに巻き取った。
【0089】
(実施例2)
下記変更点を除き、実施例1と同様の手順で2層構造のポリテトラフルオロエチレン樹脂チューブを製造した。内層用のPTFEファインパウダーを、ダイキン工業株式会社製のPTFEファインパウダー ポリフロン(登録商標)F208に変更した。第1押出成形の際に用いたダイスを肉厚が30μmになるサイズのものに変更した。
【0090】
(比較例1)
下記変更点を除き、実施例1と同様の手順で2層構造のポリテトラフルオロエチレン樹脂チューブを製造した。内層用のPTFEファインパウダーを、ダイキン工業株式会社製のPTFEファインパウダー ポリフロン(登録商標)F201に変更した。第1押出成形の際に用いたダイスを肉厚が50μmになるサイズのものに変更した。
【0091】
(比較例2)
下記のとおり、一度の押出成形のみ行い、充実構造の単層チューブを形成した。
【0092】
次の変更点を除き、実施例1における第1押出成形と同様の手順により、充実PTFEチューブを製造した。PTFEファインパウダーを、ダイキン工業株式会社製のPTFEファインパウダー ポリフロン(登録商標)F201に変更した。押出成形(第1押出成形に対応)の際に用いたダイスを肉厚が100μmになるサイズのものに変更した。
【0093】
得られたPTFEチューブ上に、外層を形成しなかった。こうして、充実構造を有する単層チューブを得た。
【0094】
(比較例3)
下記のとおり、一度の押出成形法のみ採用し、多孔質構造の単層チューブを形成した。
【0095】
次の変更点を除き、実施例1における第2押出成形と同様の手順により、多孔質構造のPTFEチューブを製造した。PTFEファインパウダーを、ダイキン工業株式会社製のPTFEファインパウダー ポリフロン(登録商標)F201に変更した。芯線として、内層チューブではなく、外径φ0.49(mm)の銀メッキした銅線を単体で用いた。
【0096】
こうして、多孔質構造を有する壁厚100μmの単層チューブを得た。
【0097】
<評価>
(チューブの肉厚の確認)
実施例1-2及び比較例1-3にて製造した各チューブに対し、先に説明した方法により寸法測定を行い、内層および外層のそれぞれについての肉厚を求めた。測定結果を下記表1に示す。
【0098】
(10%ひずみ応力の測定)
各チューブについての伸びに対する強度を、下記のとおり評価した。
【0099】
実施例1-2及び比較例1-3で得られた各チューブからそれぞれ切り出した一定長さのチューブ節の各々を、長手方向の両端にて万能試験機のチャックで固定し、引張試験を行った。引っ張る強さを徐々に上昇させ、チューブのひずみにより長さが10%増した時点の応力を、10%ひずみ応力として記録した。
【0100】
(チューブ柔軟性の評価)
各チューブについての柔軟性を、下記のとおり評価した。
【0101】
各チューブの一端および他端を保持し、チューブの長手方向が重力の方向に対し平行になるよう、垂直に保持した。上側で保持している箇所を徐々に下ろしていき、チューブが自重により曲がることで垂れ下がった上側端部と上側の保持位置とを結ぶ線が、上側の保持位置を交差点として、垂直に保持されたままの上側の保持位置から下側の保持位置までのチューブ残部とともに成している角度が90度になった時点の、曲がった部分のチューブ長さを測定した。
【0102】
自重によりチューブが曲がって上記角度が90度になった状態を、
図6を参照しながら説明する。なお、
図6では、複層チューブ1を例として図示しているが、比較例2及び3で得られたチューブのような単層チューブについても同様に評価できる。
【0103】
図6に示す複層チューブ1は、一方の端部とチューブの中程との二か所で垂直に保持されており、チューブ中程より先の上部に延び出た保持されていない部分が自重により曲がり、チューブ他端側が垂れ下がっている。チューブの垂直に保持されている部分は、その下側に位置する端部を下側保持位置11とし、チューブ中程で保持されている箇所を上側保持位置12として垂直に支えられているため、曲がっていない。垂れ下がっている部分の端部(上記他端)にあたる上側端部13と上側保持位置12とを結ぶ仮想線を破線14で示す。上側保持位置12及び下側保持位置11の間の上下で保持されている部分と破線14とが、上側保持位置12にて交差しており、両者の間の角度θが90度である。この状態で、上側端部13から上側保持位置12までの複層チューブ1に沿った長さを測定した。この長さの値が大きい程、自重を支える力が強く、より剛直であることを示す。つまり、この長さの値が小さい方が、柔らかであることを意味する。
【0104】
各チューブに対する測定結果を下記表1にまとめる。具体的は、表1には、各チューブについての充実構造を有する内層の厚さ(内層厚み)、多孔質構造を有する外層の厚さ(外層厚み)、チューブの最外径(外径DEX)、10%ひずみ応力、及び自重に屈服して90度の位置まで曲がる長さを示す。なお、比較例2及び比較例3では、単層チューブを製造したものの、該当の単一層が充実構造であったか多孔質構造であったかに応じて“内層”又は“外層”として便宜上表記する。
【0105】
【0106】
表1に示すとおり、内層および外層を併せた総厚みが100μmである実施例1-2及び比較例1-3の何れのチューブについても、充実構造および多孔質構造の割合や有無に関わらず、長手方向への伸びに対するひずみ応力が同程度だった。その一方で、実施例1-2及び比較例3では、比較例1-2と比較してより柔軟なチューブが得られた。このとおり、実施例1-2および比較例3では、伸びにくさを維持しつつ柔らかいチューブを得ることができた。但し、比較例3のチューブは、単層の多孔質構造を有していたため、浸透を忌避する用途や気密性を要する用途には不適であった。
【0107】
以上説明した実施形態によれば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を含んだ内層と、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を含んだ外層とを含むふっ素樹脂複層チューブが提供される。内層は、充実構造を有する。外層は、内層と接し、且つ、多孔質構造を有する。内層の内層厚みは、外層の外層厚みより薄い。内層厚みは、2μm以上30μm以下の範囲内にある。当該ふっ素樹脂複層チューブは、長手方向への伸びに対する耐性と曲げに対する柔軟性とを両立しており、且つ、耐浸透性および気密性に優れる。
【0108】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0109】
1…複層チューブ、2…内層、3…外層、10…第2チューブ状前駆体、11…下側保持位置、12…上側保持位置、13…上側端部、20…混和物、21…第1被膜、22…第1チューブ状前駆体、23…分散液、30…混和物、31…第2被膜、40…芯線、50…押出成形機、51…押出金型、52…吐出口、53…押出用ラム、61…乾燥炉、62…加熱炉、63…冷却装置、70…浴槽、90…供給ロール、91…テンションプーリ、92…ガイドローラー、93…巻取りロール。