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特開2022-112314ソイルセメントの強度推定方法および強度推定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112314
(43)【公開日】2022-08-02
(54)【発明の名称】ソイルセメントの強度推定方法および強度推定システム
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/30 20060101AFI20220726BHJP
   E02D 5/34 20060101ALI20220726BHJP
   E02D 1/04 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
E02D5/30 Z
E02D5/34 Z
E02D1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008094
(22)【出願日】2021-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】依田 侑也
(72)【発明者】
【氏名】浅香 美治
【テーマコード(参考)】
2D041
2D043
【Fターム(参考)】
2D041AA01
2D041AA03
2D041BA01
2D041BA13
2D041FA02
2D043AC05
2D043BA08
(57)【要約】
【課題】硬化を防ぐことで、任意の材齢で強度を精度良く推定することができるソイルセメントの強度推定方法および強度推定システムを提供する。
【解決手段】セメントと、水と、土質材料とからなるソイルセメントの未固結試料を採取し、採取したソイルセメントのセメント水比を取得するステップと、あらかじめ把握されているソイルセメントの固結試料の強度と、セメント水比との関係に、取得したソイルセメントの未固結試料のセメント水比を当てはめることで、このセメント水比に応じたソイルセメントの固結試料の強度を推定するステップとを有するソイルセメントの強度推定方法であって、ソイルセメントの未固結試料を採取した直後に、ソイルセメントの硬化を遅延させるための遅延成分を未固結試料に添加して未固結試料の硬化を遅延させるステップをさらに有し、遅延成分を添加した後の未固結試料のセメント水比を取得するようにする。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、水と、土質材料とからなるソイルセメントの未固結試料を採取し、採取したソイルセメントのセメント水比を取得するステップと、あらかじめ把握されているソイルセメントの固結試料の強度と、セメント水比との関係に、取得したソイルセメントの未固結試料のセメント水比を当てはめることで、このセメント水比に応じたソイルセメントの固結試料の強度を推定するステップとを有するソイルセメントの強度推定方法であって、
ソイルセメントの未固結試料を採取した直後に、ソイルセメントの硬化を遅延させるための遅延成分を未固結試料に添加して未固結試料の硬化を遅延させるステップをさらに有し、遅延成分を添加した後の未固結試料のセメント水比を取得することを特徴とするソイルセメントの強度推定方法。
【請求項2】
あらかじめ把握されている遅延成分の添加量と、ソイルセメントの硬化を遅延する遅延時間との関係に基づいて、目標とする遅延時間に対応する遅延成分の添加量を設定するステップをさらに有し、設定した添加量の遅延成分を未固結試料に添加して未固結試料の硬化を遅延させることを特徴とする請求項1に記載のソイルセメントの強度推定方法。
【請求項3】
セメントと、水と、土質材料とからなるソイルセメントの未固結試料を採取し、採取したソイルセメントのセメント水比を取得する手段と、あらかじめ把握されているソイルセメントの固結試料の強度と、セメント水比との関係に、取得したソイルセメントの未固結試料のセメント水比を当てはめることで、このセメント水比に応じたソイルセメントの固結試料の強度を推定する手段とを有するソイルセメントの強度推定システムであって、
ソイルセメントの未固結試料を採取した直後に、ソイルセメントの硬化を遅延させるための遅延成分を未固結試料に添加して未固結試料の硬化を遅延させる手段をさらに有し、遅延成分を添加した後の未固結試料のセメント水比を取得することを特徴とするソイルセメントの強度推定システム。
【請求項4】
あらかじめ把握されている遅延成分の添加量と、ソイルセメントの硬化を遅延する遅延時間との関係に基づいて、目標とする遅延時間に対応する遅延成分の添加量を設定する手段をさらに有し、設定した添加量の遅延成分を未固結試料に添加して未固結試料の硬化を遅延させることを特徴とする請求項3に記載のソイルセメントの強度推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソイルセメントの強度推定方法および強度推定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、既製杭工事や地盤改良工事では、ポルトランドセメント・石膏・高炉スラグ微粉末などで構成される水硬性粉体(以下、固化材という。)を使用し、原位置の土と固化材でソイルセメントを築造することで所定の強度を発揮させている。
【0003】
こうしたソイルセメントの強度推定方法として、本特許出願人は、既に特許文献1~7に示すような技術を提案しており、この中で以下の(1)~(3)の工程からなる強度推定方法を提示している。
【0004】
(1)ボーリング調査の際に採取した支持層材料を用いて、あらかじめセメント水比と圧縮強度の関係を求める関係式(例えば、図5に示すような関係式)を作成する工程。
【0005】
(2)実際に施工を行う根固め部や改良場所から、ソイルセメントの未固結試料を採取し、セメント水比を算出する工程。ここで、セメント水比は、未固結試料を篩(ふるい)等にかけて粗大な骨材を除去してから算出する。試料中の水分量の算出には、例えば赤外線水分計や電子レンジを用いて水分を逸散させる方法を使用する。また、試料中のセメント量の算出には、例えば水分量を算出した後の試料を所定量の塩酸に溶解させて水酸化ナトリウムで滴定を行う方法や、酸に溶解させた際の溶解熱の算出により求める方法を使用する。
【0006】
(3)セメント水比を求めたのち、図5に示すようなそれぞれの地盤材料の工学的分類によって分けられる回帰式(強度評価式)によって、強度を算定する工程。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-119337号公報
【特許文献2】特開2018-199935号公報
【特許文献3】特開2018-193716号公報
【特許文献4】特開2018-193729号公報
【特許文献5】特開2019-019449号公報
【特許文献6】特開2019-019471号公報
【特許文献7】特開2019-105112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、原位置の土質や使用する固化材によっては、原位置から未固結状態のソイルセメントを採取し、上記の特許文献1~7に記載の方法により強度の推定を実施しようとした際に、(1)既にセメントの水和反応が始まってしまい化学的な結合水により推定誤差が出る、(2)硬化により粗大な土粒子を除去するための篩(ふるい)を通らなくなる、等の問題がある。また、上記の従来の方法では、試験場所が現場から遠い、諸事情で次の日に強度を推定したいなどのニーズには応えられないといった問題もある。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、硬化を防ぐことで、任意の材齢で強度を精度良く推定することができるソイルセメントの強度推定方法および強度推定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るソイルセメントの強度推定方法は、セメントと、水と、土質材料とからなるソイルセメントの未固結試料を採取し、採取したソイルセメントのセメント水比を取得するステップと、あらかじめ把握されているソイルセメントの固結試料の強度と、セメント水比との関係に、取得したソイルセメントの未固結試料のセメント水比を当てはめることで、このセメント水比に応じたソイルセメントの固結試料の強度を推定するステップとを有するソイルセメントの強度推定方法であって、ソイルセメントの未固結試料を採取した直後に、ソイルセメントの硬化を遅延させるための遅延成分を未固結試料に添加して未固結試料の硬化を遅延させるステップをさらに有し、遅延成分を添加した後の未固結試料のセメント水比を取得することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る他のソイルセメントの強度推定方法は、上述した発明において、あらかじめ把握されている遅延成分の添加量と、ソイルセメントの硬化を遅延する遅延時間との関係に基づいて、目標とする遅延時間に対応する遅延成分の添加量を設定するステップをさらに有し、設定した添加量の遅延成分を未固結試料に添加して未固結試料の硬化を遅延させることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るソイルセメントの強度推定システムは、セメントと、水と、土質材料とからなるソイルセメントの未固結試料を採取し、採取したソイルセメントのセメント水比を取得する手段と、あらかじめ把握されているソイルセメントの固結試料の強度と、セメント水比との関係に、取得したソイルセメントの未固結試料のセメント水比を当てはめることで、このセメント水比に応じたソイルセメントの固結試料の強度を推定する手段とを有するソイルセメントの強度推定システムであって、ソイルセメントの未固結試料を採取した直後に、ソイルセメントの硬化を遅延させるための遅延成分を未固結試料に添加して未固結試料の硬化を遅延させる手段をさらに有し、遅延成分を添加した後の未固結試料のセメント水比を取得することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る他のソイルセメントの強度推定システムは、上述した発明において、あらかじめ把握されている遅延成分の添加量と、ソイルセメントの硬化を遅延する遅延時間との関係に基づいて、目標とする遅延時間に対応する遅延成分の添加量を設定する手段をさらに有し、設定した添加量の遅延成分を未固結試料に添加して未固結試料の硬化を遅延させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るソイルセメントの強度推定方法によれば、セメントと、水と、土質材料とからなるソイルセメントの未固結試料を採取し、採取したソイルセメントのセメント水比を取得するステップと、あらかじめ把握されているソイルセメントの固結試料の強度と、セメント水比との関係に、取得したソイルセメントの未固結試料のセメント水比を当てはめることで、このセメント水比に応じたソイルセメントの固結試料の強度を推定するステップとを有するソイルセメントの強度推定方法であって、ソイルセメントの未固結試料を採取した直後に、ソイルセメントの硬化を遅延させるための遅延成分を未固結試料に添加して未固結試料の硬化を遅延させるステップをさらに有し、遅延成分を添加した後の未固結試料のセメント水比を取得するので、硬化前の任意の材齢でソイルセメントの強度を精度良く推定することができるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係る他のソイルセメントの強度推定方法によれば、あらかじめ把握されている遅延成分の添加量と、ソイルセメントの硬化を遅延する遅延時間との関係に基づいて、目標とする遅延時間に対応する遅延成分の添加量を設定するステップをさらに有し、設定した添加量の遅延成分を未固結試料に添加して未固結試料の硬化を遅延させるので、目標とする遅延時間を添加量に応じて容易に実現することができる。このため、強度推定を行う試験場所が採取現場から遠く時間を要する場合や、強度推定作業を次の日以降に行いたい場合などに容易に対応することができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係るソイルセメントの強度推定システムによれば、セメントと、水と、土質材料とからなるソイルセメントの未固結試料を採取し、採取したソイルセメントのセメント水比を取得する手段と、あらかじめ把握されているソイルセメントの固結試料の強度と、セメント水比との関係に、取得したソイルセメントの未固結試料のセメント水比を当てはめることで、このセメント水比に応じたソイルセメントの固結試料の強度を推定する手段とを有するソイルセメントの強度推定システムであって、ソイルセメントの未固結試料を採取した直後に、ソイルセメントの硬化を遅延させるための遅延成分を未固結試料に添加して未固結試料の硬化を遅延させる手段をさらに有し、遅延成分を添加した後の未固結試料のセメント水比を取得するので、硬化前の任意の材齢でソイルセメントの強度を精度良く推定することができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る他のソイルセメントの強度推定システムによれば、あらかじめ把握されている遅延成分の添加量と、ソイルセメントの硬化を遅延する遅延時間との関係に基づいて、目標とする遅延時間に対応する遅延成分の添加量を設定する手段をさらに有し、設定した添加量の遅延成分を未固結試料に添加して未固結試料の硬化を遅延させるので、目標とする遅延時間を添加量に応じて容易に実現することができる。このため、強度推定を行う試験場所が採取現場から遠く時間を要する場合や、強度推定作業を次の日以降に行いたい場合などに容易に対応することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の実施の形態に適用する遅延剤の量と、土の種類をパラメータとした硬化時間を確認するための関係を例示する図である。
図2図2は、本発明の実施の形態に適用する伝導型熱量計による遅延剤の効果を確認するための関係を例示する図である。
図3図3は、材齢とセメントに化学的に結合する水量の関係を例示する図である。
図4図4は、原料土と遅延剤を添加したソイルセメントを酸溶解して得た土の粒度分布を例示する図である。
図5図5は、SG(礫質砂)の場合のセメント水比と圧縮強度の関係を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係るソイルセメントの強度推定方法および強度推定システムの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0020】
[ソイルセメントの強度推定方法]
本実施の形態に係るソイルセメントの強度推定方法について説明する。本実施の形態は、次の(1)~(6)の手順により行う。
【0021】
(1)まず、あらかじめ、ボーリング調査や地盤調査の際に採取した支持層材料(土質材料)とセメントと水を所定の配合で混合して、ソイルセメントの試料を作製し、セメント水比とソイルセメントの圧縮強度の関係を規定する関係式(強度評価式)を作成しておく。支持層材料がSG(礫質砂)の場合には、例えば図5に示すようなソイルセメントの圧縮強度(材齢28日の一軸圧縮強さ(y))とセメント水比(C/W:x)のプロットから回帰式(強度評価式)を作成することができる。
【0022】
(2)次に、実際に施工を行う根固め部や改良場所の原位置から、強度推定対象のソイルセメントの未固結試料を採取する。この場合、例えば、掘削ロッドの先端に取り付けた試料採取器を使用して、ソイルセメントの未固結試料を採取することができる。
【0023】
(3)次に、採取した直後の未固結試料に対して所定量の遅延剤を添加し、均一に入り込むように良く攪拌混合する。遅延剤は、ソイルセメントの硬化を遅延させるための遅延成分を主成分として含有する薬剤である。未固結試料に対して遅延剤を添加すると、試料の硬化が遅延する。遅延剤の添加量の設定方法については後述する。
【0024】
(4)次に、遅延剤を添加した未固結試料を適切な篩(ふるい)にかけ、粗大な骨材を除去する。続いて、粗大な骨材が除去された未固結試料に含まれる水の質量(W)を測定分析し、さらにセメントの質量(C)を測定分析する。ここで、未固結試料に含まれる水、セメントの質量は、上記の従来の強度推定方法の(2)の工程などにより測定することができる。より具体的には、試料中の水分量の算出には、例えば赤外線水分計や電子レンジを用いて水分を逸散させる方法を使用することができる。また、試料中のセメント量の算出には、例えば水分量を算出した後の試料を所定量の塩酸に溶解させて水酸化ナトリウムで滴定を行う方法や、酸に溶解させた際の溶解熱の算出により求める方法を使用することができる。これら以外にも種々の方法があるが、本発明にはいずれの方法を用いてもよい。
【0025】
(5)次に、測定した水の質量(W)、セメントの質量(C)から、未固結試料のセメント水比(C/W)を算定する。
【0026】
(6)(1)で作成した関係式(強度評価式)に、算定したセメント水比を当てはめることによって、ソイルセメントの強度を推定する。
【0027】
以上の手順により、任意の材齢で硬化後のソイルセメントの強度を精度良く推定することができる。これによって、試料採取の当日でなくとも試料の強度推定を実施することが可能となり、試料採取から強度推定まで時間がかかる場合に容易に対応可能である。例えば、強度推定を行う試験場所が採取現場から遠く時間を要する場合や、強度推定作業を次の日以降に行いたい場合などに容易に対応することができる。
【0028】
また、採取した未固結試料に遅延剤を添加することによって、未固結試料の未硬化状態を容易に維持することができる。
【0029】
また、通常の遅延剤は、施工時に改良土(ないし根固め部)に注入するセメントミルクにあらかじめ混入して用いられるのに対し、本実施の形態の遅延剤は、施工後に採取したソイルセメントの未固結試料に対して添加する。このため、本実施の形態によれば、施工部の品質を担保したまま、未固結試料を未硬化状態に維持することができる。
【0030】
(遅延剤の添加量の設定方法)
なお、上記(3)において、遅延剤の添加量は、例えば次のような方法で設定することができる。まず、あらかじめ原位置の土質材料と固化材(セメント)と水を使用してソイルセメントを少量作製し、遅延剤の添加量、土質材料の種類・量をパラメータとして適切な遅延剤の量を把握する。これには、例えば図1に示すように、実際の試験体の硬化状況を都度確認する方法を用いることができる。なお、図1においては、固化材量の0.25%を遅延剤の標準的な添加量に設定した場合の確認例を示している。また、図2に示すように、伝導型熱量計等により水和発熱量を取得することで、遅延効果を確認する方法などを使用することもできる。以上のような方法により、適切な量の遅延剤の選定を容易に行うことができる。
【0031】
また、上記の方法などで得られた添加量と、硬化を遅延する遅延時間との関係を利用して、目標とする遅延時間を満足させることのできる遅延剤の添加量を設定し、設定した添加量の遅延剤を採取直後のソイルセメントの未固結試料に添加してもよい。
【0032】
(効果に関する補足説明)
図3に示すように、材齢が経過するに従い、ソイルセメントの結合水量は増加するが、これは熱乾燥では水としてカウントされないため、強度の推定誤差が大きくなる。これに対し、本実施の形態によれば、遅延剤を添加することで、結合水量の増加が抑えられ、推定誤差を低減することができる。
【0033】
また、本実施の形態は、セメント水比から強度を推定する強度推定方法で有効な方法といえる。例えば、下記の参考資料1に記載の図-5のように、一般的に、硬化を防ぐほど遅延剤を添加すると、通常発現したはずの強度を発現しなくなる。したがって、通常の強度試験を行う方法で遅延剤を添加して硬化を遅らせると、強度の推定誤差が大きくなる。
【0034】
[参考資料1] 「コンクリートにおける遅延剤および減水剤の使用に関する基礎研究」、山本泰彦、土木学会論文報告集第265号、pp.91~106、1977年9月
【0035】
これに対し、本実施の形態では、未固結試料が硬化する前にセメント水比から強度を推定するので、遅延剤を添加して硬化を遅らせても強度を推定できる。なお、本発明者は、遅延剤をどれだけ添加しても、本実施の形態の方法による推定値に影響が生じないことを実験により確認済である。
【0036】
また、硬化を遅延させたソイルセメントを塩酸に溶解させることで、強度を推定するとともに混入している土の粒度分布を後から知ることができる。図4は、ソイルセメントとする前の砂の粒度分布と、ソイルセメントにしたのち遅延剤を添加し、1日経過後の硬化していない状態のものを塩酸に溶解させて求めた土の粒度分布を示している(レーザー回折・散乱法による)。この図から、元の砂と同様の粒度分布が得られていることがわかる。この情報をもとに、計画通りの施工ができているかを判断することが可能である。また、材料分離が激しい、固化しない等の不具合に対応することが可能となる。
【0037】
[ソイルセメントの強度推定システム]
次に、本実施の形態に係るソイルセメントの強度推定システムについて説明する。
【0038】
本実施の形態に係るソイルセメントの強度推定システムは、上述したソイルセメントの強度推定方法をシステムして具現化したものであり、例えば入力部、記憶部、演算部、出力部とからなる。この強度推定システムは、例えばCPUを有するコンピュータ、メモリ、ディスプレイ、キーボード等のハードウェア、これらハードウェアを用いて実行されるコンピュータプログラム等のソフトウェアにより構成することができる。
【0039】
入力部は、ソイルセメントの未固結試料のセメント水比(C/W)を入力するためのものであり、例えばキーボードなどで構成することができる。セメント水比(C/W)は、上述したソイルセメントの強度推定方法で説明した方法で取得する。
【0040】
記憶部は、ソイルセメントの強度(例えば材齢28日の一軸圧縮強さ)と、セメント水比(C/W)との関係(例えば、図5の関係)を強度評価式の形で記憶するものである。記憶部は、例えばメモリなどの記憶媒体で構成することができる。
【0041】
演算部は、入力部により入力されたセメント水比を記憶部の強度評価式に当てはめることで、このセメント水比に応じたソイルセメントの強度を求めるものである。演算部は、例えばコンピュータとソフトウェアなどで構成することができる。
【0042】
出力部は、演算部による演算処理結果を出力するものである。出力部は、例えばディスプレイやプリンタなどで構成することができる。
【0043】
このように構成したソイルセメントの強度推定システムによれば、任意の材齢で硬化後のソイルセメントの強度を精度良く推定することができる。これによって、試料採取の当日でなくとも試料の強度推定を実施することが可能となり、試料採取から強度推定まで時間がかかる場合に容易に対応可能である。例えば、強度推定を行う試験場所が採取現場から遠く時間を要する場合や、強度推定作業を次の日以降に行いたい場合などに容易に対応することができる。
【0044】
以上説明したように、本発明に係るソイルセメントの強度推定方法によれば、セメントと、水と、土質材料とからなるソイルセメントの未固結試料を採取し、採取したソイルセメントのセメント水比を取得するステップと、あらかじめ把握されているソイルセメントの固結試料の強度と、セメント水比との関係に、取得したソイルセメントの未固結試料のセメント水比を当てはめることで、このセメント水比に応じたソイルセメントの固結試料の強度を推定するステップとを有するソイルセメントの強度推定方法であって、ソイルセメントの未固結試料を採取した直後に、ソイルセメントの硬化を遅延させるための遅延成分を未固結試料に添加して未固結試料の硬化を遅延させるステップをさらに有し、遅延成分を添加した後の未固結試料のセメント水比を取得するので、硬化前の任意の材齢でソイルセメントの強度を精度良く推定することができる。
【0045】
また、本発明に係る他のソイルセメントの強度推定方法によれば、あらかじめ把握されている遅延成分の添加量と、ソイルセメントの硬化を遅延する遅延時間との関係に基づいて、目標とする遅延時間に対応する遅延成分の添加量を設定するステップをさらに有し、設定した添加量の遅延成分を未固結試料に添加して未固結試料の硬化を遅延させるので、目標とする遅延時間を添加量に応じて容易に実現することができる。このため、強度推定を行う試験場所が採取現場から遠く時間を要する場合や、強度推定作業を次の日以降に行いたい場合などに容易に対応することができる。
【0046】
また、本発明に係るソイルセメントの強度推定システムによれば、セメントと、水と、土質材料とからなるソイルセメントの未固結試料を採取し、採取したソイルセメントのセメント水比を取得する手段と、あらかじめ把握されているソイルセメントの固結試料の強度と、セメント水比との関係に、取得したソイルセメントの未固結試料のセメント水比を当てはめることで、このセメント水比に応じたソイルセメントの固結試料の強度を推定する手段とを有するソイルセメントの強度推定システムであって、ソイルセメントの未固結試料を採取した直後に、ソイルセメントの硬化を遅延させるための遅延成分を未固結試料に添加して未固結試料の硬化を遅延させる手段をさらに有し、遅延成分を添加した後の未固結試料のセメント水比を取得するので、硬化前の任意の材齢でソイルセメントの強度を精度良く推定することができる。
【0047】
また、本発明に係る他のソイルセメントの強度推定システムによれば、あらかじめ把握されている遅延成分の添加量と、ソイルセメントの硬化を遅延する遅延時間との関係に基づいて、目標とする遅延時間に対応する遅延成分の添加量を設定する手段をさらに有し、設定した添加量の遅延成分を未固結試料に添加して未固結試料の硬化を遅延させるので、目標とする遅延時間を添加量に応じて容易に実現することができる。このため、強度推定を行う試験場所が採取現場から遠く時間を要する場合や、強度推定作業を次の日以降に行いたい場合などに容易に対応することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上のように、本発明に係るソイルセメントの強度推定方法および強度推定システムは、既製杭工事や地盤改良工事などで施工されるソイルセメントの品質管理に有用であり、特に、任意の材齢で強度を精度良く推定するのに適している。
図1
図2
図3
図4
図5