(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112317
(43)【公開日】2022-08-02
(54)【発明の名称】床版吊り装置及びそれを用いた床版の吊上げ方法
(51)【国際特許分類】
E01D 21/00 20060101AFI20220726BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
E01D21/00
E01D22/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008101
(22)【出願日】2021-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【弁理士】
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀哉
(72)【発明者】
【氏名】高木 陽一
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059CC03
2D059DD02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】少ない人員により容易に短時間で作業ができ、且つ、床版に不要な応力が作用しない床版吊り装置及びそれを用いた床版の吊上げ方法を提供する。
【解決手段】床版P1を吊り上げるための床版吊り装置1において、鋼材が組み合わされた吊り天秤枠体2と、この吊り天秤枠体2に取り付けられた複数の定滑車3と、隣接する2つの前記定滑車3に挿通された前記床版P1を吊り上げるための複数の吊り材4と、を備え、前記複数の吊り材4の各吊り材4の両端を、前記床版P1に装着された複数の吊り金具Hbの異なる吊り金具Hbにそれぞれ連結する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
床版を吊り上げるための床版吊り装置であって、
鋼材が組み合わされた吊り天秤枠体と、この吊り天秤枠体に取り付けられた複数の定滑車と、隣接する2つの前記定滑車に挿通された前記床版を吊り上げるための複数の吊り材と、を備え、
前記複数の吊り材の各吊り材の両端が、前記床版に装着された複数の吊り金具の異なる吊り金具にそれぞれ連結されていること
を特徴とする床版吊り装置。
【請求項2】
前記複数の吊り材の各吊り材は、手動で動作する長さ調整治具で長さ調整可能となっていること
を特徴とする請求項1に記載の床版吊り装置。
【請求項3】
前記複数の吊り材の各吊り材は、荷重計が装着されて張力が計測可能となっていること
を特徴とする請求項1又は2に記載の床版吊り装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の床版吊り装置を用いて床版を吊り上げる床版の吊上げ方法であって、
前記吊り材を隣接する2つの前記定滑車に挿通し、前記吊り材の両端を、前記床版に装着された複数の吊り金具の異なる吊り金具にそれぞれ連結して前記床版を前記床版吊り装置を用いて吊り上げること
を特徴とする床版の吊上げ方法。
【請求項5】
請求項3に記載の床版吊り装置を用いて床版を吊り上げる床版の吊上げ方法であって、
前記吊り材を隣接する2つの前記定滑車に挿通し、前記吊り材の両端を、前記床版に装着された複数の吊り金具の異なる吊り金具にそれぞれ連結して前記床版を前記床版吊り装置を用いて吊り上げるとともに、
前記長さ調整治具で前記複数の吊り材の各吊り材の長さを調整して前記荷重計の各計測値がなるべく均等になるように調整すること
を特徴とする床版の吊上げ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床版架設工事の際に使用する床版吊り装置及びそれを用いた床版の吊上げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
床版を吊り上げて橋桁に設置する橋梁の床版架設工事において、橋桁上に床版を架設した後の床版の平坦性を確保するためには、不要な応力がかからないように架設時の床版の吊り上げ及び吊り降ろしの際の床版の変形を抑制する必要がある。
【0003】
従来は、プレキャストコンクリート床版(以下、PCa床版という)に多数の吊り金具を埋設し、多点吊りとし、なるべく曲げ応力が作用しないように鋼材が梯子状に組み付けられた吊り天秤を用い、吊り天秤から吊りワイヤーが鉛直に吊下がるようにしてPCa床版を吊り上げている。
【0004】
具体的には、
図2に示すように、プレテンション方式のプレストレストコンクリート床版P1(以下、PC床版という)の場合、吊り天秤を用いた8点吊りで吊り上げる場合が一般的である。しかし、その場合でも、チェーンブロック5で吊り上げワイヤーなどの吊り材の長さ調整を行って荷重計で各吊り材に掛かる張力を計測することにより、吊り上げ箇所の各吊り材(各ワイヤー)に均等に荷重がかかっているかを確認することが必要であった。
【0005】
このため、8カ所での荷重確認及び各地点間の連携が必要であり、作業の難度が高くなるとともに、配置する作業員の人数も8人必要となり、コストアップの要因となっていた。そこで、必要な作業員の人数を低減できるとともに、容易に短時間で架設作業が可能な床版吊り装置が求められていた。
【0006】
例えば、特許文献1には、天秤本体2と、天秤本体2の後端部に設けられたカウンターウェイト3と、天秤本体2の前端部に設けられたブラケット保持部4と、天秤本体2を吊るためのワイヤ61等の吊材と、を備え、チェーンブロック7で長さ調節可能な吊り天秤装置1が開示されている(特許文献1の明細書の段落[0017]~[0047]、図面の
図1,
図5,
図6等参照)。
【0007】
しかし、特許文献1に記載の吊り天秤装置1は、落橋防止用のブラケットを橋脚に取付ける際に使用される吊り天秤装置であり、床版の架設作業に適用できるものではなかった。また、特許文献1に記載の発明では、床版に曲げ応力が作用しないように吊り上げる際の前記課題も全く認識されていないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、少ない人員により容易に短時間で作業ができ、且つ、床版に不要な応力が作用しない床版吊り装置及びそれを用いた床版の吊上げ方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る床版吊り装置は、床版を吊り上げるための床版吊り装置であって、鋼材が組み合わされた吊り天秤枠体と、この吊り天秤枠体に取り付けられた複数の定滑車と、隣接する2つの前記定滑車に挿通された前記床版を吊り上げるための複数の吊り材と、を備え、前記複数の吊り材の各吊り材の両端が、前記床版に装着された複数の吊り金具の異なる吊り金具にそれぞれ連結されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る床版吊り装置は、請求項1に係る床版吊り装置において、前記複数の吊り材の各吊り材は、手動で動作する長さ調整治具で長さ調整可能となっていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る床版吊り装置は、請求項1又は2に係る床版吊り装置において、前記複数の吊り材の各吊り材は、荷重計が装着されて張力が計測可能となっていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る床版の吊上げ方法は、請求項1ないし3のいずれかに記載の床版吊り装置を用いて床版を吊り上げる床版の吊上げ方法であって、前記吊り材を隣接する2つの前記定滑車に挿通し、前記吊り材の両端を、前記床版に装着された複数の吊り金具の異なる吊り金具にそれぞれ連結して前記床版を前記床版吊り装置を用いて吊り上げることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る床版の吊上げ方法は、請求項3に記載の床版吊り装置を用いて床版を吊り上げる床版の吊上げ方法であって、前記吊り材を隣接する2つの前記定滑車に挿通し、前記吊り材の両端を、前記床版に装着された複数の吊り金具の異なる吊り金具にそれぞれ連結して前記床版を前記床版吊り装置を用いて吊り上げるとともに、前記長さ調整治具で前記複数の吊り材の各吊り材の長さを調整して前記荷重計の各計測値がなるべく均等になるように調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1~5に係る発明によれば、隣接する2つの定滑車に挿通された吊り材の両端部が、異なる吊り金具にそれぞれ連結されているので、異なる吊り金具を吊り上げる当該吊り材に掛かる張力が略等しくなり、床版に不要な応力が作用しないように吊り上げることが容易となる。また、各吊り金具ごとに必要だった人員を半減させることができ、少ない人員により容易に短時間で床版の架設作業を行うことができる。
【0016】
特に、請求項5に係る発明によれば、長さ調整治具で前前記複数の吊り材の各吊り材の長さを調整して前記荷重計の各計測値がなるべく均等になるように調整するので、床版を吊り上げた際にも不要な応力が作用せず、橋桁上に床版を架設した後の床版の平坦性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る床版吊り装置を用いて床版を吊り上げている状態を模式的に示す図であり、(a)が橋軸方向に見た正面図であり、(b)が橋軸直角方向に見た鉛直断面図である。
【
図2】
図2は、従来の床版吊り装置を用いて床版を吊り上げている状態を模式的に示す図であり、(a)が橋軸方向に見た正面図であり、(b)が橋軸直角方向に見た鉛直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る床版吊り装置及び床版の吊上げ方法の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
[床版吊り装置]
先ず、
図1を用いて、本発明の実施形態に係る床版吊り装置1について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る床版吊り装置1を用いて床版P1を吊り上げている状態を模式的に示す図であり、(a)が橋軸方向に見た正面図であり、(b)が橋軸直角方向に見た鉛直断面図である。なお、吊り上げる床版として、プレテンション方式のPC床版である床版P1を例示して説明する。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係る床版吊り装置1は、床版P1を吊り上げるための床版吊り装置である。この床版吊り装置1は、鋼材が組み合わされた吊り天秤枠体2と、この吊り天秤枠体2に取り付けられた複数の定滑車3と、床版P1を吊り上げるための複数の吊り材4など、から構成されている。
【0021】
(吊り天秤枠体)
吊り天秤枠体2は、H形鋼、I形鋼、溝形鋼なのどの上部主鋼材20と下部主鋼材21が井桁状に組み合わされた枠体を基体とし、下部主鋼材21の下端に剛性を高めるための複数の補助鋼材23が架け渡されて取り付けられて平面視で梯子状となっている。
【0022】
また、吊り天秤枠体2の上部主鋼材20の上端には、クレーンなどの揚重機で吊り上げるための吊上げプレート24が上方に向け突設されている。この吊上げプレート24には、吊上げ孔24aが形成されており、例えば、シャックルS1や丸環R1などの金具を介して揚重機に掛け止められた玉掛けワイヤーW1で吊り上げ可能となっている。
【0023】
そして、吊り天秤枠体2の下部主鋼材21下端には、定滑車3を吊り下げるための吊下げプレート25が下方に向け突設されている。この吊下げプレート25には、吊下げ孔25aが形成されており、シャックルS1などの金具を介して定滑車3が吊り下げ可能となっている。
【0024】
(定滑車)
定滑車3は、吊下げプレート25に連結されて揺動するだけで移動しないいわゆる定滑車であり、定滑車3に挿通された吊り材4の働く力の大きさは変えずに、力の向きだけ変える機能を有している。図示形態では、吊り天秤枠体2の吊下げプレート25の数に応じて4対の計8個の定滑車3が装着されている。
【0025】
(吊り材4)
吊り材4は、床版P1を吊り上げるための玉掛けワイヤーからなるワイヤロープであり、同一の下部主鋼材21の吊下げプレート25に装着された隣接する2つの定滑車3,3に挿通されている。勿論、吊り材4は、ワイヤロープに限られず、負担する床版P1の重量を吊り下げ可能な長尺な線材であればよいことは言うまでもない。この吊り材4の両端には、後述のチェーンブロック5や荷重計6を介して床版P1の異なる位置に装着された異なる2つの吊り金具Hbにそれぞれ連結されている。この吊り金具Hbは、埋め込みアンカーで床版P1に取り付けられている。
【0026】
また、この吊り材4の一端には、丸環R2を介して、チェーンブロック5が装着されており、チェーンブロック5により、長さ調整可能となっている。このチェーンブロック5は、チェーンブロックに限られず、レバーブロック(登録商標)など、手動で動作する長さ調整治具であればよい。
【0027】
そして、吊り材4の他端には、丸環R2を介して、ロードセルなどの吊り材4に作用する応力(張力)を計測可能な荷重計6が装着されている。このため、吊り材4に作用する応力(張力)を正確に把握することが可能となっている。但し、後述のように、従来では、床版P1の吊り金具Hbごとに必要であった荷重計6が半減しており、荷重(応力)を確認する手間や時間が半減することとなる。
【0028】
[床版の吊上げ方法]
次に、
図1,
図2を用いて、前述の床版吊り装置1を用いて床版P1を吊り上げる本発明の実施形態に係る床版の吊上げ方法について説明する。
図2に示す従来の床版吊り装置10を用いて床版P1を吊り上げる場合と比較して説明する。
図2は、従来の床版吊り装置を用いて床版を吊り上げている状態を模式的に示す図であり、(a)が橋軸方向に見た正面図であり、(b)が橋軸直角方向に見た鉛直断面図である。なお、同一符号は、前述の床版吊り装置1と同一構成を示すものとする。
【0029】
図2に示すように、従来の床版吊り装置10は、床版吊り装置1と同構成の吊り天秤枠体2を備え、吊り天秤枠体2の吊下げプレート25に直接チェーンブロック5が装着された上、その下端に荷重計6を介して吊り金具Hbに連結されている。このため、従来の床版吊り装置10は、床版P1を吊り上げるための吊り材として床版P1を吊り上げる吊り上げ箇所に相当する吊り金具Hb毎にチェーンブロック5を設けるとともに、各チェーンブロック5にそれぞれ荷重計6を設けていた。
【0030】
そして、従来の床版吊り装置10では、床版P1に不要な応力、特に、吊り上げ箇所である吊り金具Hbを持ち上げる応力にバラツキが生じ、床版P1に曲げ応力が発生しないように、吊り上げ箇所毎に作用する応力を荷重計6で確認していた。
【0031】
つまり、従来の床版吊り装置10では、荷重計6の計測値を確認しながらチェーンブロック5で長さを調整することを、床版P1の吊り上げ箇所である吊り金具Hb毎に行い、しかも、それらを作業員が連絡しながら行う必要があった。このため、従来の床版吊り装置10では、吊り金具Hb毎、即ち、
図2(a)に示す正面視で橋軸直角方向に沿って4カ所、
図2(b)に示す橋軸方向に沿って2列、計8か所の吊り金具Hb毎に作業員が必要であった。
【0032】
しかも、単に長さ調整をするだけではなく、1カ所のチェーンブロック5の長さを変えると隣接する箇所の荷重計6の計測値も変化するため、8か所の長さ調整を連携して行う必要があり、難度が高く、時間のかかる作業となっていた。
【0033】
これに対して、
図1に示すように、本発明の実施形態に係る床版吊り装置1では、前述のように、隣接する2つの定滑車3,3を経由して、1本の吊り材4がチェーンブロック5を介して、隣接する異なる2つの吊り金具Hbに連結されている。定滑車3は、力の大きさは変えずに、力の向きだけ変えるだけなので、1本の吊り材4で連結された異なる2つの吊り金具Hbは、略同じ力で吊り上げられることとなる。このため、これらの吊り金具Hbを持ち上げる力を均等に調整する必要がなくなる。
【0034】
つまり、従来の床版吊り装置10では、8か所の長さ調整を連携して行う必要があるのに対して、床版吊り装置1では、4か所の長さ調整を連携して行うだけでよくなる。このため、作業の難度は各段に低下するとともに、作業時間も半減どころかそれより遥かに短時間で行うことができる。
【0035】
また、床版吊り装置1では、作業の難度が低下するため、不要な応力が床版に作用するおそれも低減することができ、床版P1に不要な応力が作用しないように吊り上げることが容易となる。
【0036】
その上、床版吊り装置1では、荷重計6の計測値を確認しつつチェーンブロック5で長さ調整をする箇所自体が8か所から4か所に半減するため、各吊り金具Hbに必要だった人員を少なくとも半減させることができる。さらに、作業員の熟練度が増すと、作業の難度が低下しているので、隣接する2か所を掛け持ちして長さ調整を行うことも可能となり、床版P1の吊り上げに8人必要であった作業員を、2人に削減して安全に行うことが可能となる。
【0037】
要するに、以上説明した本実施形態に係る床版吊り装置1及び床版吊り装置1を用いた本発明の実施形態に係る床版の吊上げ方法によれば、少ない人員により容易に短時間で床版の架設作業を行うことができる。また、本実施形態に係る床版吊り装置1及び床版吊り装置1を用いた本発明の実施形態に係る床版の吊上げ方法によれば、作業の難度が低下するため、不要な応力が床版に作用するおそれも低減することができ、床版P1に不要な応力が作用しないように吊り上げることが容易となる。
【0038】
以上、本発明の実施形態に係る床版吊り装置1及びそれを用いた本発明の実施形態に係る床版の吊上げ方法について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0039】
1:床版吊り装置
10:従来の床版吊り装置
2:吊り天秤枠
20:上部主鋼材
21:下部主鋼材
23:補助鋼材
24:吊上げプレート
24a:吊上げ孔
25:吊下げプレート
25a:吊下げ孔
3:定滑車
4:吊り材
5:チェーンブロック(手動で動作する長さ調整治具)
6:荷重計
P1:PC床版(床版)
G1:地盤
Hb:吊り金具
R1,R2:丸環
S1:シャックル
W1:玉掛けワイヤー