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  • 特開-台風発生抑制装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112319
(43)【公開日】2022-08-02
(54)【発明の名称】台風発生抑制装置
(51)【国際特許分類】
   B63B 35/44 20060101AFI20220726BHJP
【FI】
B63B35/44 N
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008109
(22)【出願日】2021-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】591165355
【氏名又は名称】常田 幸
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】特許業務法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】常田 幸
(57)【要約】
【課題】深層海域の海水を利用して海面の水温を低下させることができ、かつ、実用性が高い海面水温低下装置を提案する。
【解決手段】海面水温低下装置1は、海に浮かぶように構成されたフロート部材2と、フロート部材2から延び、一端が深層海域まで沈むように構成された管状部材3と、を備える。海面水温低下装置1は更に、管状部材3を通じて前記深層海域の海水を吸い上げる吸い上げ装置4と、フロート部材2を、海中における船舶10の航行領域よりも深い所定の水深領域まで移動させる移動装置5と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海に浮かぶように構成されたフロート部材と、
前記フロート部材から延び、一端が深層海域まで沈むように構成された管状部材と、
前記管状部材を通じて前記深層海域の海水を吸い上げる吸い上げ装置と、
前記フロート部材を、海中における船舶の航行領域よりも深い所定の水深領域まで移動させる移動装置と、
を備えることを特徴とする海面水温低下装置。
【請求項2】
前記フロート部材は、内側に通水路を有する筒状であり、中空構造の壁を有し、
前記管状部材は、前記管状部材の内側の空間と前記フロート部材の前記通水路とがつながるように、前記フロート部材に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の海面水温低下装置。
【請求項3】
前記吸い上げ装置は、前記フロート部材の前記通水路に配置された回転羽根と、前記回転羽根を回転させるモーターと、を有し、
前記移動装置を兼ねていることを特徴とする請求項2に記載の海面水温低下装置。
【請求項4】
前記フロート部材を少なくとも水平方向に移動させる推進器を更に備え、
前記推進器は、前記吸い上げ装置によって吸い上げられた前記海水を受ける舵と、前記舵の向きを変更する変更装置と、を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の海面水温低下装置。
【請求項5】
前記所定の水深領域において外部との間で無線通信を行うことが可能な無線通信機を更に備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の海面水温低下装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、海面水温低下装置に関し、より詳しくは、深層海域の海水を利用して海面の水温を低下させる海面水温低下装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、海水面下100~500mの低温水を汲み上げて、海面下2m程度の位置へ放散させることで、海面の水温を低下させる海面水温低下装置が記載されている。この海面水温低下装置は、海面の水温を下げることによって、熱帯低気圧の発生又は発達等を抑制することを目的としている。
【0003】
この海面水温低下装置は、吸込み口が海水面下100~500mに位置するホースと、ホースを通じて海水面下100~500mの低温水を汲み上げる汲み上げ用ポンプと、汲み上げ用ポンプの運転用電源としての燃料電池及び蓄電池と、を備える。この海面水温低下装置は更に、蓄電池を充電するソーラーパネルと、人工衛星からの位置制御情報を受けるアンテナと、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-123809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した特許文献1に記載の海面水温低下装置では、ソーラーパネル、燃料電池、蓄電池、及びアンテナ等が、海面よりも上方に位置している。
【0006】
そのため、この海面水温低下装置は、風の影響を受けて破損等の不具合が生じやすく、また、船舶の航行の妨げとなりやすく、そのため、実用性の面において改善の余地があった。
【0007】
上記事情に鑑みて、本開示は、深層海域の海水を利用して海面の水温を低下させることができ、かつ、実用性が高い海面水温低下装置を提案することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る一態様の海面水温低下装置は、海に浮かぶように構成されたフロート部材と、前記フロート部材から延び、一端が深層海域まで沈むように構成された管状部材と、前記管状部材を通じて前記深層海域の海水を吸い上げる吸い上げ装置と、を備える。一態様の海面水温低下装置は更に、前記フロート部材を、海中における船舶の航行領域よりも深い所定の水深領域まで移動させる移動装置を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る一態様の海面水温低下装置によれば、深層海域の海水を利用して海面の水温を低下させることができ、かつ、実用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示に係る一実施形態の海面水温低下装置を概略的に示す一部破断した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(一実施形態)
1.概要
図1に示す一実施形態の海面水温低下装置1(以下、単に「装置1」という)は、海に浮かぶように構成されたフロート部材2と、フロート部材2から延び、一端が深層海域まで沈むように構成された管状部材3と、を備える。装置1は更に、管状部材3を通じて前記深層海域の海水を吸い上げる吸い上げ装置4と、フロート部材2を、海中における船舶10の航行領域よりも深い所定の水深領域まで移動させる移動装置5と、を備える。
【0012】
上記構成を備える一実施形態の装置1では、吸い上げ装置4によって管状部材3を通じて深層海域の海水を吸い上げて、海面近傍へと送ることができる。一実施形態の装置1では、海中における船舶の航行領域よりも深い所定の水深領域までフロート部材2が移動装置5によって移動されるため、装置1が船舶の航行を妨げにくく、また、装置1が風の影響を受けにくい。したがって、一実施形態の装置1では、深層海域の海水を利用して海面の水温を低下させることができ、かつ、実用性が高い。
【0013】
2.詳細
続いて、図1に示す一実施形態の装置1について更に詳しく説明する。以下では、図1に示す上下方向を用いて、装置1の各構成について詳しく説明する。なお、図1は、装置1を概略的に示しており、船舶10に対する装置1の大きさや、装置1が備える各構成の大きさ、形状、配置等は、実施品とは必ずしも一致しない。
【0014】
本実施形態の装置1は、フロート部材2、管状部材3、吸い上げ装置4、及び移動装置5に加えて、推進器6、無線通信機7、バッテリー8、及び制御装置9を備える。装置1は更に、現在地の位置データ、気圧、海水の温度等を測定するセンサー11を備える。
【0015】
2-1.管状部材
管状部材3は、フロート部材2から延び、長手方向の一端(下端)が深層海域まで沈むように構成されている。
【0016】
管状部材3の全長は、例えば、500m以上800m以下である。管状部材3は、内側に海水が流れる流路を有する管状の部材である。
【0017】
管状部材3は、例えば、互いに連結された複数の管である。複数の管は、隣接する一方の管の内側に他方の管が収納可能に連結される。これにより、装置1を船舶等の搬送手段によって搬送する際には、管状部材3を縮めることができて、装置1が搬送しやすい。なお、管状部材3は、例えば、伸縮可能な蛇腹状の1本の管や、折り曲げ可能な1本の管で構成されてもよい。
【0018】
管状部材3は、例えば、海水よりも比重の高い部材で形成される。または、管状部材3は、長手方向の一端部(下端部)に錘が取り付けられる。これにより、管状部材3は、長手方向の一端(下端)が深層海域まで沈むように構成される。
【0019】
管状部材3は、管状部材3の内側の空間とフロート部材2の内側の通水路20とがつながるように、管状部材3の長手方向の他端部(上端部)がフロート部材2に接続されている。
【0020】
2-2.フロート部材
フロート部材2は、内側に通水路20を有する筒状であり、かつ中空構造の壁21を有する。
【0021】
本実施形態では、フロート部材2は略円筒状である。壁21は、フロート部材2の内周面を構成する筒内壁210と、フロート部材2の外周面を構成する筒外壁211と、フロート部材2の下面を構成する筒下壁212と、を有する。
【0022】
筒外壁211は、上下方向にわたって径が一定の円筒状である。筒内壁210は、径が一定の本体部2100と、本体部2100の上端に連続する傾斜部2101と、を有する。傾斜部2101は、上側の部分ほど筒外壁211に近づくように傾斜しており、傾斜部2101の上端は筒外壁211の上端に連続している。これにより、フロート部材2の上端部は、上側の部分ほど通水路20が拡がっており、推進器6の後述する舵60が通水路20内に収まりやすくなっている。
【0023】
筒下壁212は、下方から見て円環状である。筒下壁212は、筒内壁210の下端と筒外壁211の下端との間に介在して、筒内壁210と筒外壁211の間の空間S1を密閉する。密閉された空間S1には空気が入っている。
【0024】
フロート部材2は、例えば、金属製であり、表面に防錆加工が施されている。フロート部材2は、例えば、直径が10m、上下方向の長さが20mである。なお、フロート部材2の大きさは、上述した大きさに限定されず、必要とされる吸い上げ機能等に応じて適宜設定可能であり、実験から求め得る。
【0025】
フロート部材2は、管状部材3の重さ又は管状部材3と錘の重さによって下方へ引っ張られることで、フロート部材2の中心軸が上下方向に対して略平行となるように、海面に浮かぶ。
【0026】
2-3.吸い上げ装置
吸い上げ装置4は、管状部材3を通じて深層海域の海水を吸い上げる装置である。本実施形態では、吸い上げ装置4は、フロート部材2の通水路20に配置された回転羽根40と、回転羽根40を回転させるモーター41と、を有する。モーター41は、本実施形態では、フロート部材2の壁21の内側の空間S1に配置されている。
【0027】
回転羽根40の回転軸400は、フロート部材2の中心軸に対して平行に配置されている。本実施形態では、回転軸400は、フロート部材2の中心軸上に位置している。回転羽根40が回転することで、フロート部材2の通水路20には、下端から上端へと向かう上向きの海水の流れが形成される。これにより、管状部材3の下端の吸込み口から深層海域の海水が吸い上げられ、フロート部材2の通水路20を通じて、海面近傍へ深層海域の海水が供給される。
【0028】
吸い上げ装置4は、制御装置9によってモーター41が制御されて、回転羽根40の回転数が調整される。吸い上げ装置4は、バッテリー8に対して電気的に接続されており、バッテリー8からの供給される電力によって駆動する。
【0029】
2-4.移動装置
移動装置5は、フロート部材2を、海中における船舶10の航行領域よりも深い所定の水深領域まで移動させる装置である。ここで、所定の水深領域とは、船舶10の満載喫水の長さよりも若干深い領域であり、例えば、水深25m~35mの領域である。
【0030】
移動装置5は、装置1にかかる浮力に抗する下向きの推進力をフロート部材2に加えることで、フロート部材2を、海面から海中のうち船舶10の航行領域よりも深い所定の水深領域まで移動させることができる。
【0031】
本実施形態では、移動装置5は、吸い上げ装置4によって構成されている。言い換えると、吸い上げ装置4は、移動装置5を兼ねている。吸い上げ装置4の回転羽根40を回転させてフロート部材2の通水路20に上向きの海水の流れを生じさせることで、フロート部材2には、下向きの推進力が加えられる。
【0032】
本実施形態の移動装置5では、制御装置9によって回転羽根40の回転数を調整することで、下向きの推進力の大きさを変化させることができる。
【0033】
詳しくは、制御装置9によって回転羽根40の回転数を所定値よりも大きくすることで、装置1にかかる浮力を越える下向きの推進力をフロート部材2に加えることができる。これにより、吸い上げ装置4(移動装置5)は、フロート部材2を海面から所定の水深領域まで移動させることができる。
【0034】
また、制御装置9によって回転羽根40の回転数を所定値とすることで、装置1にかかる浮力と下向きの推進力とを釣り合わせることができる。これにより、吸い上げ装置4(移動装置5)は、フロート部材2を所定の水深領域に留めることができる。
【0035】
また、制御装置9によって回転羽根40の回転数を所定値よりも小さくすることで、装置1にかかる浮力よりも下向きの推進力を小さくすることができる。これにより、吸い上げ装置4(移動装置5)は、フロート部材2を浮力によって所定の水深領域から海面へと移動させることができる。上記所定値は、実験により求め得る。
【0036】
本実施形態の移動装置5は、フロート部材2を、海中における船舶10の航行領域よりも深い所定の水深領域まで移動させる機能に加えて、フロート部材2を、所定の水深領域に留める機能を有する。
【0037】
移動装置5(吸い上げ装置4)は、バッテリー8に対して電気的に接続されており、バッテリー8からの供給される電力によって駆動する。
【0038】
2-5.推進器
推進器6は、フロート部材2を少なくとも水平方向に移動させる装置である。本実施形態では、推進器6は、吸い上げ装置4によって汲み上げられた海水を受ける舵60と、舵60の向きを変える変更装置61と、を有する。
【0039】
舵60は、1枚の板状である。舵60は、通水路20のうち、吸い上げ装置4の回転羽根40よりも下流側に位置する。本実施形態では、舵60は、舵60の一部(下部)が通水路20の下流端部に配置され、舵60の残りの部分(上部)がフロート部材2の外側に位置している。
【0040】
変更装置61は、舵60の向きを所望の角度に変更可能な装置である。本実施形態では、変更装置61は、舵60を水平方向に対して平行な軸周りに回転させる第一回転部610と、舵60を鉛直方向に対して平行な軸周りに回転させる第二回転部611とを有する。第一回転部610と第二回転部611によって舵60を回転させることで、舵60の向きを所望の角度に変えることができる。
【0041】
推進器6は、所望の向きにした舵60によって、吸い上げ装置4によって汲み上げられた海水を受けることで、この海水を推進力に変えて、フロート部材2を所望の方向に移動させることができる。
【0042】
推進器6は、制御装置9によって変更装置61が制御されて、舵60の向きが調整される。推進器6は、バッテリー8に対して電気的に接続されており、バッテリー8からの供給される電力によって駆動する。
【0043】
2-6.無線通信機
無線通信機7は、所定の水深領域(つまり水深25m~35mの領域)において外部との間で無線通信を行うことが可能な装置である。ここで、外部とは、例えば、装置1を地上から管制する施設である。
【0044】
無線通信機7は、外部の管制施設に対して、例えば、センサー11で測定した現在地のデータ、海水温度、気圧等の各種データを送信する。また、無線通信機7は、外部の管制施設から、所望の位置まで移動するための制御信号等の各種データを受信する。外部の管制施設では、装置1が位置する場所における海面の海水温度、気圧等を確認することができるため、装置1を状況に応じて効率良く機能させることができる。
【0045】
本実施形態では、無線通信機7は、フロート部材2の壁21の内側の空間S1に配置されている。無線通信機7は、バッテリー8に対して電気的に接続されており、バッテリー8からの供給される電力によって駆動する。
【0046】
2-7.バッテリー
バッテリー8は、吸い上げ装置4、移動装置5、推進器6、無線通信機7、制御装置9、及びセンサー11のそれぞれに電気的に接続されており、これらの電気機器に電力を供給する。
【0047】
バッテリー8は、本実施形態では、フロート部材2の壁21の内側の空間S1に配置されている。バッテリー8は、吸い上げ装置4、移動装置5、推進器6、無線通信機7、制御装置9、及びセンサー11のそれぞれにコード(図示せず)を介して機械的に接続されている。
【0048】
バッテリー8は、例えば、数か月や数年分の駆動電力を溜めることができる大容量の電池である。本実施形態では、装置1は、太陽光や潮流を利用して発電を行う発電装置を備えておらず、バッテリー8はこれらの発電装置からの電力によって充電されない。
【0049】
2-8.制御装置
制御装置9は、吸い上げ装置4のモーター41、移動装置5、推進器6の変更装置61、無線通信機7、及びセンサー11に、電気的に接続されている。
【0050】
制御装置9は、例えば、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)等のプロセッサ及びメモリを含むコンピュータ(マイクロコンピュータを含む)を有する。
【0051】
制御装置9は、無線通信機7を通じて受信した外部の管制施設から制御信号を受ける。制御装置9は、外部の管制施設から制御信号を基に、メモリに記憶された適宜のプログラムを実行することにより、吸い上げ装置4のモーター41と、推進器6の変更装置61とを制御する。なお、制御装置9は、センサー11の測定データを基に、吸い上げ装置4と推進器6をフィードバック制御するように構成してもよい。制御装置9のメモリには、センサー11で測定した各種データが記憶される。
【0052】
制御装置9は、本実施形態では、フロート部材2の壁21の内側の空間S1に配置されている。
【0053】
2-9.センサー
センサー11は、本実施形態では、現在地の位置データを測定するGPS(Global Positioning System)装置と、現在地の気圧を測定する気圧計と、現在地の海水の温度を測定する海水温度計と、を有する。なお、センサー11は、上記の各測定器のうちの一部だけを有してもよいし、更に他の測定器を有してもよい。
【0054】
センサー11で測定した各種データは、制御装置9のメモリに一旦記憶されて、無線通信機7を通じて、外部の管制施設に送信される。
【0055】
センサー11は、本実施形態では、フロート部材2の壁21の内側の空間S1に配置されている。センサー11は、バッテリー8に対して電気的に接続されており、バッテリー8からの供給される電力によって駆動する。
【0056】
2-10.海面水温低下装置の使用方法
続いて、上述した装置1の使用方法の一例について説明する。
【0057】
まず、船舶等の搬送手段を用いて、所定の海域まで複数の装置1を運び、複数の装置1を海に投入する。投入する装置1の数は、海面の温度状況や、各装置1の吸い上げ容量等に応じて、適宜設定される。
【0058】
各装置1は、海に投入されると、フロート部材2が海面に浮き、管状部材3の長手方向の一端が海中へと徐々に沈む。所定時間経過後、管状部材3の長手方向の一端が、海中の深層海域まで沈む。
【0059】
各装置1は、海に投入されてから所定時間経過後、吸い上げ装置4が駆動する。このとき、吸い上げ装置4は、制御装置9によって制御されて、回転羽根40の回転数が所定値よりも大きくなるように、回転される。すると、管状部材3を介して深海領域の海水が吸い上げられ、この海水がフロート部材2の通水路20内を上向きに流れる。これにより、フロート部材2に下向きの推進力が加えられて、各装置1の全体が、海中のうち船舶の航行領域よりも若干深い所定の水深領域まで移動する。
【0060】
各装置1は、所定の水深領域まで移動すると、吸い上げ装置4は、制御装置9によって制御されて、回転羽根40の回転数が所定値に変更される。これにより、各装置1は、所定の水深領域に留まる。
【0061】
なお、各装置1は、推進器6の舵60をフロート部材2の中心軸に対して平行に配置した状態で、吸い上げ装置4を駆動する。これにより、吸い上げ装置4によって吸い上げた海水が推進力に変換されて、装置1の位置がずれることを抑制することができる。
【0062】
各装置1は、例えば、所定の時間置きに、外部の管制施設に、現在地の位置データ、海水温度、気圧等の各種データを送信する。外部の管制施設は、各装置1から受信した各種データを基に、各装置1の動作を決め、各装置1に制御信号を送信する。
【0063】
各装置1は、外部の管制施設から送信された制御信号を無線通信機7によって受信して、動作を変更する。例えば、各装置1は、吸い上げ装置4の回転羽根40の回転数を所定値よりも上げて、時間当たりの海水の吸い上げ量を上げる。また、例えば、各装置1は、変更装置61によって舵60の向きを変えて、フロート部材2に水平方向の推進力を加えて、他の位置へと移動する。
【0064】
3.作用効果
以上説明した本実施形態の装置1では、吸い上げ装置4によって管状部材3を介して深層海域の低温の海水を吸い上げて、海面近傍に供給することができて、海面の水温を低下させることができる。そのため、本実施形態の装置1によれば、台風の発生しやすい季節において、海面の水温の上昇を抑えることができて、台風の発生や、台風の勢力の拡大を抑えることができる。
【0065】
また、本実施形態の装置1では、装置1の全体が、海中のうち船舶の航行領域よりも深い水深領域に位置することができるため、風の影響を受けて破損等の不具合が生じたり、船舶の航行の妨げとなることを防ぐことができて、実用性が高い。
【0066】
また、本実施形態の装置1は、深層海域の海水を吸い上げる吸い上げ装置4がフロート部材2に下向きの推進力を加える移動装置5を兼ねるため、装置1の構造の簡素化を図ることができる。
【0067】
また、本実施形態の装置1は、吸い上げ装置4で吸い上げた海水を、推進器6の舵60に当てて推進力に変えることができるため、専用のプロペラやモーターを有する場合に比べて、構造の簡素化が図れ、また、消費電力を抑えることができる。
【0068】
また、本実施形態の装置1では、所定の水深領域においても無線通信機7を介して外部の管制施設との間で通信できるため、装置1の機能を効果的に発揮しやすい。
【0069】
4.変形例
続いて、上述した装置1の変形例について説明する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせ可能である。
【0070】
移動装置5は、フロート部材2を、海中における船舶の航行領域よりも深い所定の水深領域に移動させる装置であればよく、吸い上げ装置4とは別の装置で構成されてもよい。例えば、移動装置5は、フロート部材2の外側に取付けられてもよく、プロペラと、プロペラを回転させるモーターと、プロペラの向きを変える変更装置とを有してもよい。
【0071】
フロート部材2は、筒状に限らず、その他の形状であってもよい。管状部材3を通じて吸い上げられた海水は、フロート部材2の外側において管状部材3から放出されてもよい。
【0072】
吸い上げ装置4は、フロート部材2の内側に回転羽根40が設置されるものに限らず、管状部材3に取り付けられて、管状部材3の内側に回転羽根40が設置されるものであってもよい。
【0073】
装置1は、フロート部材2を少なくとも水平方向に移動させる推進器6を含まなくてもよい。つまり、装置1は、所定の水深領域において漂流させてもよい。
【0074】
また、推進器6は、図1に示す舵60と変更装置61とを有するものに限らず、プロペラと、プロペラを回転させるモーターと、プロペラの向きを変える変更装置とを有してもよい。また、推進器6は、フロート部材2の外側に取り付けられてもよい。
【0075】
また、装置1は、無線通信機7を備えなくてもよい。装置1は、外部の管制姿勢によって遠隔操作されるのではなく、制御装置9のメモリに記憶したプログラムやセンサー11で測定した測定データに基づいて自動で駆動してもよい。
【0076】
また、装置1は、潮流を利用してバッテリー8の充電を行う発電装置を更に備えてもよい。
【0077】
(まとめ)
以上説明した一実施形態及びその変形例のように、第一態様の装置1は、下記の構成を備える。
【0078】
すなわち、第一態様の装置1は、海に浮かぶように構成されたフロート部材2と、フロート部材2から延び、一端が深層海域まで沈むように構成された管状部材3と、を備える。装置1は更に、管状部材3を通じて前記深層海域の海水を吸い上げる吸い上げ装置4と、フロート部材2を、海中における船舶10の航行領域よりも深い所定の水深領域まで移動させる移動装置5と、を備える。
【0079】
上記構成を備える第一態様の装置1では、吸い上げ装置4によって管状部材3を通じて深層海域の海水を吸い上げて、海面近傍へと送ることができる。第一態様の装置1では、海中における船舶の航行領域よりも深い所定の水深領域までフロート部材2が移動装置5によって移動されるため、装置1が船舶の航行を妨げにくく、また、装置1が風の影響を受けにくい。したがって、第一態様の装置1では、深層海域の海水を利用して海面の水温を低下させることができ、かつ、実用性が高い。
【0080】
また、上述した一実施形態及びその変形例のように、第二態様の装置1は、第一態様の構成に加えて、下記の構成を付加的に備える。
【0081】
すなわち、第二態様の装置1では、フロート部材2は、内側に通水路20を有する筒状であり、中空構造の壁21を有する。管状部材3は、管状部材3の内側の空間とフロート部材2の通水路20とがつながるように、フロート部材2に接続されている。
【0082】
上記構成を備える第二態様の装置1では、フロート部材2の通水路20や、フロート部材2の中空構造の壁21の中の空間を利用して、吸い上げ装置4を設置することができる。そのため、第二態様の装置1では、漂流物等との接触による吸い上げ装置4の破損を防ぎやすくて、実用性が高い。
【0083】
また、上述した一実施形態及びその変形例のように、第三態様の装置1は、第二態様の構成に加えて、下記の構成を付加的に備える。
【0084】
すなわち、第三態様の装置1では、吸い上げ装置4は、フロート部材2の通水路20に配置された回転羽根40と、回転羽根40を回転させるモーター41と、を有する。吸い上げ装置4は、移動装置5を兼ねている。
【0085】
上記構成を備える第三態様の装置1では、吸い上げ装置4の回転羽根40とモーター41とが破損しにくいうえ、移動装置5が吸い上げ装置4とは別の装置で構成される場合に比べて、装置1の構造の簡素化が図れる。
【0086】
また、上述した一実施形態及びその変形例のように、第四態様の装置1は、第二又は第三態様の構成に加えて、下記の構成を付加的に備える。
【0087】
すなわち、第四態様の装置1は、フロート部材2を少なくとも水平方向に移動させる推進器6を更に備える。推進器6は、吸い上げ装置4によって吸い上げられた海水を受ける舵60と、舵60の向きを変更する変更装置61と、を有する。
【0088】
上記構成を備える第四態様の装置1では、推進器6は、吸い上げ装置4によって吸い上げた海水を舵60で受けて推進力を得ることができる。そのため、第四態様の装置1では、専用のプロペラを回して推進力を得る場合に比べて、装置1の構造の簡素化が図れるうえ、推進器6の消費電力を抑えることができて、実用性が高い。
【0089】
また、上述した一実施形態及びその変形例のように、第五態様の装置1は、第一から第四のいずれか一つの態様の構成に加えて、下記の構成を付加的に備える。
【0090】
すなわち、第五態様の装置1は、所定の水深領域において外部との間で無線通信を行うことが可能な無線通信機7を更に備える。
【0091】
上記構成を備える第五態様の装置1では、所定の水深領域に沈んだ状態であっても、外部との間で各種データを無線通信機7によって通信することができるため、装置1を効果的に機能させやすい。
【0092】
以上、本開示を添付図面に示す形態に基づいて説明したが、本開示は上記の形態に限定されるものではなく、本開示の意図する範囲内であれば、適宜の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0093】
1 海面水温低下装置
2 フロート部材
3 管状部材
4 吸い上げ装置
40 回転羽根
41 モーター
5 移動装置
6 推進器
60 舵
61 変更装置
7 無線通信機
図1
【手続補正書】
【提出日】2022-04-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海に浮かぶように構成されたフロート部材と、
前記フロート部材から延び、一端が深層海域まで沈むように構成された管状部材と、
前記管状部材を通じて前記深層海域の海水を吸い上げる吸い上げ装置と、
前記フロート部材を、海中における船舶の航行領域よりも深い所定の水深領域まで移動させる移動装置と、
を備え
前記吸い上げ装置によって前記深層海域の前記海水を吸い上げることで、海面の水温の上昇を抑えて台風の発生を抑制することを特徴とする台風発生抑制装置。
【請求項2】
前記フロート部材は、内側に通水路を有する筒状であり、中空構造の壁を有し、
前記管状部材は、前記管状部材の内側の空間と前記フロート部材の前記通水路とがつながるように、前記フロート部材に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の台風発生抑制装置。
【請求項3】
前記吸い上げ装置は、前記フロート部材の前記通水路に配置された回転羽根と、前記回転羽根を回転させるモーターと、を有し、
前記移動装置を兼ねていることを特徴とする請求項2に記載の台風発生抑制装置。
【請求項4】
前記フロート部材を少なくとも水平方向に移動させる推進器を更に備え、
前記推進器は、前記吸い上げ装置によって吸い上げられた前記海水を受ける舵と、前記舵の向きを変更する変更装置と、を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の台風発生抑制装置。
【請求項5】
前記所定の水深領域において外部との間で無線通信を行うことが可能な無線通信機を更に備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の台風発生抑制装置。
【請求項6】
前記フロート部材に配置され、海水の温度を測定するセンサーと、
前記フロート部材に配置され、前記センサーの測定データを基に、前記吸い上げ装置をフィードバック制御する制御装置と、
を更に備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の台風発生抑制装置。
【請求項7】
前記フロート部材に配置され、前記吸い上げ装置と前記移動装置に電力を供給するバッテリーを更に備え、
太陽光を利用して発電を行う発電装置を備えないことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の台風発生抑制装置。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本開示は、台風発生抑制装置に関し、より詳しくは、深層海域の海水を利用して海面の水温を低下させて台風の発生を抑制する台風発生抑制装置に関する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
上記事情に鑑みて、本開示は、深層海域の海水を利用して海面の水温を低下させて台風の発生を抑制することができ、かつ、実用性が高い台風発生抑制装置を提案することを、目的とする。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本開示に係る一態様の台風発生抑制装置は、海に浮かぶように構成されたフロート部材と、前記フロート部材から延び、一端が深層海域まで沈むように構成された管状部材と、前記管状部材を通じて前記深層海域の海水を吸い上げる吸い上げ装置と、を備える。一態様の台風発生抑制装置は更に、前記フロート部材を、海中における船舶の航行領域よりも深い所定の水深領域まで移動させる移動装置を備える。一態様の台風発生抑制装置は、前記吸い上げ装置によって前記深層海域の前記海水を吸い上げることで、海面の水温の上昇を抑えて台風の発生を抑制する。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
本開示に係る一態様の台風発生抑制装置によれば、深層海域の海水を利用して海面の水温を低下させて台風の発生を抑制することができ、かつ、実用性が高い。