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特開2022-112333切断方法およびその切断方法に用いられる装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112333
(43)【公開日】2022-08-02
(54)【発明の名称】切断方法およびその切断方法に用いられる装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 28/00 20060101AFI20220726BHJP
   B23K 9/29 20060101ALN20220726BHJP
【FI】
B23K28/00 A
B23K9/29 B
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008132
(22)【出願日】2021-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】508200078
【氏名又は名称】オオノ開發株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】神野 浩
(72)【発明者】
【氏名】神野 太郎
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001LD20
4E001QA10
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、スラグの飛散および粉塵の発生を抑制することができる切断方法およびこのような切断方法を用いられる装置を得ることである。
【解決手段】本発明の切断方法は、TIGトーチ10を用いて金属材料Mを切断する方法であって、トーチ10は、アークKを発生させる電極11と、不活性ガスを吐出するためのガスノズル12とを含み、アークを発生させるための電流が約400A以上、ガスノズル12から吐出される不活性ガスGaの圧力が、約5kg/cm以上で金属材料を切断する方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TIGトーチを用いて金属部材を切断する方法であって、
前記TIGトーチは、アークを発生させる電極と、不活性ガスを吐出するためのガスノズルとを含み、
前記アークを発生させるための電流が約400A以上、前記ガスノズルから吐出される前記不活性ガスの圧力が約5kg/cmで以上である、切断方法。
【請求項2】
前記TIGトーチの構造は、前記電極の先端が前記ガスノズルの先端より突出する、または前記電極の先端が前記ガスノズルの先端に略一致する構造である、請求項1に記載の切断方法。
【請求項3】
前記不活性ガスの流量は、約20L/min以上である、請求項1または2に記載の切断方法。
【請求項4】
前記電流が約500A以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の切断方法。
【請求項5】
前記電流はパルス電流である、請求項1~4のいずれか一項に記載の切断方法。
【請求項6】
前記電極の直径は、約2mm~約10mmであり、前記ガスノズルの内径は、約4mm~約18mmである、請求項1~5のいずれか一項に切断方法。
【請求項7】
前記ガスノズルはセラミックを含む、請求項1~6のいずれか一項に切断方法。
【請求項8】
前記電極の先端の角度は約60°~約90°である、請求項1~7のいずれか一項に記載の切断方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の切断方法に用いられる装置であって、
前記TIGトーチと、
前記TIGトーチの電極に前記電流を供給する電源装置と、
前記TIGトーチに不活性ガスを供給するガス供給装置と
を備えた、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク放電を発生するトーチを用いて金属材料を切断する方法およびこの切断方法に用いられる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属材料を切断する技術としてアーク放電を用いて金属材料の切断を行う技術があり、例えば、特許文献1には、プラズマアークにより被切断材料を溶断するプラズマトーチが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-88657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来のプラズマトーチによる溶断では、スラグ(溶接の際に金属から出てくるカス)が飛散したり、多量の粉塵が発生したりするという問題がある。
【0005】
本発明は、スラグの飛散および粉塵の発生を抑制することができる切断方法およびこのような切断方法に用いられる装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の項目を提供する。
(項目1)
TIGトーチを用いて金属部材を切断する方法であって、
前記TIGトーチは、アークを発生させる電極と、不活性ガスを吐出するためのガスノズルとを含み、
前記アークを発生させるための電流が約400A以上、前記ガスノズルから吐出される前記不活性ガスの圧力が約5kg/cmで以上である、切断方法。
(項目2)
前記TIGトーチの構造は、前記電極の先端が前記ガスノズルの先端より突出する、または前記電極の先端が前記ガスノズルの先端に略一致する構造である、項目1に記載の切断方法。
(項目3)
前記不活性ガスの流量は、約20L/min以上である、項目1または2に記載の切断方法。
(項目4)
前記電流が約500A以下である、項目1~3のいずれか一項に記載の切断方法。
(項目5)
前記電流はパルス電流である、項目1~4のいずれか一項に記載の切断方法。
(項目6)
前記電極の直径は、約2mm~約10mmであり、前記ガスノズルの内径は、約4mm~約18mmである、項目1~5のいずれか一項に切断方法。
(項目7)
前記ガスノズルはセラミックを含む、項目1~6のいずれか一項に切断方法。
(項目8)
前記電極の先端の角度は約60°~約90°である、項目1~7のいずれか一項に記載の切断方法。
(項目9)
項目1~8のいずれかに記載の切断方法に用いられる装置であって、
前記TIGトーチと、
前記TIGトーチの電極に前記電流を供給する電源装置と、
前記TIGトーチに不活性ガスを供給するガス供給装置と
を備えた、装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スラグの飛散および粉塵の発生を抑制することができる切断方法およびこのような切断方法に用いられる装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施形態1による切断方法を説明するための図である。
図1A図1Aは、本発明の実施形態1による切断方法におけるアーク発生のための電流を説明するための図である。
図2図2は、本発明の実施例1を説明するための図であり、本発明の切断方法による厚さ約30mmのステンレス鋼板M1を切断した結果を示す。
図3図3は、本発明の実施例2を説明するための図であり、本発明の切断方法による厚さ約12mmのステンレス鋼板(SUS304)M2の切断した結果を示す。
図4図4は、比較例1を説明するための図であり、アーク電流約350Aで厚さ約30mmのステンレス鋼板M1’の切断を試みた状況を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0010】
本明細書において、「約」とは、後に続く数字の±10%の範囲内をいう。
【0011】
本発明書において、電極の先端がガスノズルの先端に略一致するにおける「略一致する」とは、電極の先端とガスノズルの先端との軸方向の位置が同じであるか、電極の先端がガスノズルの先端の位置に対して約2mmまでの距離で後退する位置にあることを意味する。
【0012】
本発明は、スラグの飛散および粉塵の発生を抑制することができる切断方法を得ることを課題とし、
TIGトーチを用いて金属材料を切断する方法であって、
TIGトーチは、アークを発生させる電極と、不活性ガスを吐出するためのガスノズルとを含み、
金属材料の切断工程では、アークを発生させるための電流が約400A以上、ガスノズルから吐出される不活性ガスの圧力が、約5kg/cm以上である、方法を提供することにより、上記の課題を解決したものである。
【0013】
(トーチの構成)
従って、本発明の切断方法は、TIGトーチを用い、アークを発生させるための電流を約400A以上とし、ガスノズルから吐出される不活性ガスの圧力を約5kg/cm以上とするものであれば、その他の構成は任意であり得る。
【0014】
TIGトーチは、電極から金属材料に移行するアークが金属材料に近づくほど広がるのをガスノズルが制限しない構造となっている。このようなTIGトーチの構造は、プラズマトーチにおけるような、電極から金属材料に移行するアークが金属材料側で広がらないようにガスノズルにより制限する構造(具体的には、絞り込む構造)を有するものとは異なるものである。
【0015】
具体的には、電極から金属部材に移行するアークが金属材料に近いほど広がるのをガスノズルが制限しない構造は、電極の先端がガスノズルの先端より突出する構造であってもよいし、あるいは電極の先端がガスノズルの先端に略一致する構造であってもよい。
【0016】
このようなTIGトーチは、従来より、溶接作業において広く使用されるものとして周知のものであるが、これまで切断作業に用いることは一切検討されてこなかった。
【0017】
しかしながら、本発明者は、TIGトーチの加工条件を調整することにより、従来溶接作業にしか用いられなかったTIGトーチを切断作業に使用でき、従来のプラズマトーチによる切断における課題を解決できることを、予想外に発見した。
【0018】
本発明の切断方法における被切断材料は、導電性を有する金属材料であれば任意の材料であり得る。例えば、SUS304などの機械材料に使用されるステンレス材料であってもよいし、アルミ合金などの非鉄金属であってもよい。
【0019】
また、本発明において、TIGトーチの電極は、タングステンを含んでいる。タングステン単体であってもよいし、他の材料との複合であってもよい。
【0020】
また、電極のサイズは、切断条件(切断箇所の大きさなど)によって任意に選択し得る。例えば、電極の直径は、約2mm以上、好ましくは約2mm~約10mmである。1つの実施形態において、約3mmであるが、本発明はこれに限定されない。電極の直径が小さすぎると、アークを発生させる電流により電極が加熱されて破損する恐れがあり、電極の直径が大きすぎると、トーチの不必要な材料コストの増大あるいは構造の大型化を招くこととなる。
【0021】
また、ガスノズルの内径サイズは、切断条件(電極のサイズ、切断箇所の大きさ、切断速度など)によって任意に選択し得る。好ましくは、電極の外径とガスノズルの内径との間の隙間が約1mm~約4mm(すなわち直径で約2mm~約8mm)、さらに好ましくは約2mm~約3mm(すなわち直径で約4mm~約6mm)であり得る。例えば、約2mm~約10mmの直径の電極に対して、ガスノズルの内径サイズは、約4mm~18mmである。1つの実施形態において、約3mmの直径の電極に対して、ガスノズルの内径は約8mmである。
【0022】
電極の先端の角度は任意であり得、好ましくは、約60°~約90°である。先端の角度を鋭角にすることでアークが細くなり、精密な切断が可能となるが、約60°よりも鋭角になると、電極先端部の損傷が速くなり得る。先端の角度を鈍角にすることによりアークが広がり、効率的に広範囲な加工を行うことが可能となるが、約90°よりも鈍角になると、熱が周辺に分散してしまうことにより精密な切断が難しくなり得る。
【0023】
本発明において、ガスノズルの構成材料は任意であり得る。ガスノズルは、セラミックなどの絶縁性材料で構成されていてもよいし、あるいは、耐腐食性に富んだ導電性材料で構成されていてもよい。1つの実施形態において、ガスノズルはセラミックである。
【0024】
本発明において、不活性ガスの種類は任意であり得る。例えば、不活性ガスはアルゴンガスであってもよいし、ヘリウムガスであってもよい、1つの実施形態において、不活性ガスはアルゴンガスである。
【0025】
本発明の切断方法では、TIGトーチの電極に入力する電流を約400A以上、ガスノズルから吐出される不活性ガスの吐出圧力を約5kg/cm以上とすることを特徴としている。従来より行われているTIGトーチによる溶接作業においては電流が約150A~約300A、ガス吐出圧力が約2kg/cm~約3kg/cmであるのに対して、本発明者は試行錯誤を何度も繰り返した後、溶接時よりも一定程度大きい電流および高いガス吐出圧力とすることで、TIGトーチにおいて効果的に切断可能であることを予想外にはじめて発見した。
【0026】
(電流および不活性ガスの圧力)
本発明の切断方法は、アークを発生させるための電流が約400A以上であり、ガスノズルから吐出される不活性ガスの圧力は、約5kg/cm以上である。
【0027】
理論に拘束されることを意図しないが、電流が400W未満であると、被切断材料に対してアーク入熱で溶断しようとする作用よりも被切断材料内での熱拡散が勝り、局所的には溶けるが被切断材料を切断することは困難である。それに対して400A以上とすることで、瞬発的に局所加熱が発生し、被切断材料内での熱拡散よりも勝ることで、切断することが可能となる。
【0028】
電流および不活性ガスの圧力についての上限は当業者が適宜設定し得るが、典型的には、電流は約500A以下、および/または不活性ガスの吐出圧力は、約10kg/cm以下であり得る。電流および/または不活性ガスの供給圧力が大きすぎると、エネルギー密度が大きくなってスラグの飛散および粉塵の発生が促進される恐れが生じる。好ましくは、電流は、約400A以上約500A以下であり得る。また、ガス吐出圧力は約5kg/cm以上約10kg/cm以下であり得る。
【0029】
また、アークを発生させて被切断材料を溶断するための電力(溶断電力)の形態は任意であり得る。例えば、直流電力(直流電流W1)であってもよいし(図1A(a)参照)、交流電力(交流電流W2)でもあってもよい(図1A(b)参照)。
【0030】
一つの実施形態においては、アークの発生を直流電力で行う。アークの発生を直流電力で行うことは、アークの安定性の観点から好ましくあり得る。
【0031】
一つの実施形態において、アークの発生を交流電力で行う。アークの発生を交流電力で行うことは、電力を発生する電源の構成が簡略になるため好ましくあり得る。
【0032】
さらに、アークの発生を低周波数(例えば、約5Hz~約50Hz、より具体的には約20Hz~約40Hz)または中周波数(例えば、約50Hz~約300Hz、より具体的には約100Hz~約200Hz)のパルス電力(パルス電流)を含む条件(つまり、図1A(c)に示す溶断電力(溶断電流Wc3))で行ってもよい。この場合、被切断材料のうちの溶融した金属が溶融池からはじき出されることで、被切断材料の切断効率が高まることが期待できる。
【0033】
なお、溶断電流Wc3は、図1A(c)に示すように、直流成分としてのベース電流Bcと、パルス電流Pcとを重ね合わせたものであり、この場合の溶断電流Wc3のピーク値は、パルス電流Pcのパルス高さPhとベース電流Bcの電流値A1aとを加えた電流値となる。パルス電流Pcの具体的なパルス高さPhは、ベース電流Bcの電流値A1aの約30%~約80%の範囲、より具体的には、ベース電流Bcの電流値A1aの約40%~約70%の範囲に含まれる。
【0034】
さらに、不活性ガスの吐出量も限定されるものではないが、約10L/min以上であり、好ましくは約20L/min以上であることが好ましい。不活性ガスの吐出量を約10L/min以上とすることにより、被切断部材の酸化を防止することが可能となる。さらに不活性ガスの吐出量を約20L/min以上にすることで、溶融だまりを飛ばす(移動させる)効果および/または溶融だまり周辺を効率的に冷却する効果を得ることが可能となる。
【0035】
このように、本発明の切断方法は、TIGトーチを用いて金属材料を切断する工程を含み、トーチは、電極と、ガスノズルとを含み、アークを発生させるための電流が約400A以上、ガスノズルから吐出される不活性ガスの吐出圧力が、約5kg/cm以上であるものであれば、特に限定されるものではない。
【0036】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0037】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1による切断方法を説明するための図であり、図1(a)は、TIG溶接装置を用いて金属材料(高圧配管)Mを切断している様子を示し、図1(b)は、図1(a)のX-X線断面図である。図1Aは、本発明の実施形態1による切断方法におけるアーク発生のための溶断電力(溶断電流)の形態を説明するための図であり、図1A(a)は、直流である溶断電流Wc1、図1A(b)は交流である溶断電流Wc2、図1A(c)はパルス電流を含む溶断電流Wc3を示す。
【0038】
以下の説明では、TIGトーチ10を用いて高圧配管からなる金属部材Mを外周方向に沿って切断する方法を示す。
【0039】
ここで、TIGトーチ10は、トーチ本体10aと、トーチ本体10aの先端に取り付けられたガスノズル12と、ガスノズル12内に収容されるようにトーチ本体10aに取り付けられた電極11とを有している。
【0040】
TIGトーチ10は、電極11から金属部材Mに移行するアークAが金属材料Mに近づくほど広がるのをガスノズル12が制限しないTIGトーチ独自の構造を有する。具体的には、このTIGトーチ独自の構造は、電極11の先端を、ガスノズル12の先端と略一致させることにより実現されている(図1(b)参照)。なお、このTIGトーチ独自の構造は、上述した電極11とガスノズル12との配置に限定されず、電極11の先端を、ガスノズル12の先端に一致させることにより実現することも可能である。
【0041】
また、電極11は、タングステンで構成された直径約2mm~約10mm(例えば、約3mm)のタングステン電極であり、また、ガスノズル12はセラミック材料で構成された筒状体であり、その内径は約8mm~約10mmの範囲の値(例えば、約8mm)となっている。
【0042】
このTIGトーチ10を用いて高圧配管Mの切断を行う場合、まず、電源装置20の負端子をTIGトーチ10のタングステン電極11に接続し、電源装置20の正端子を高圧配管Mに接続する。このとき、電源装置20は、電源装置20から所定の電流(例えば、約400A~約500Aの範囲の直流電流Wc1(図1A(a)参照))がTIGトーチ10のタングステン電極11に供給されるように調整される。また、ガス供給装置30は、ガス供給装置30からTIGトーチ10のガスノズル12に所定量(例えば、約20L/min)の不活性ガス(例えば、アルゴン)Gaが供給され、ガスノズル12から吐出される不活性ガスGaの圧力が所定の圧力(例えば、約5Kg/cm)となるように調整される。
【0043】
このような条件で、作業者は、TIGトーチ10をそのタングステン電極11の先端が高圧配管Mの切断部分に近づくように操作してアーク放電を開始する。
【0044】
TIGトーチ10でアーク放電が開始すると、高圧配管Mの切断部分にアークが照射され、また、ガス供給装置30からTIGトーチ10のガスノズル12に供給された不活性ガスGaは、ガスノズル12とタングステン電極11との隙間を通ってガスノズル12の先端から高圧配管Mの切断部分に向けて吐出される。
【0045】
アークが照射されている部分では、アークの熱により高圧配管Mの構成材料の溶融が表面側から肉厚の深さ方向に徐々に進行する。この状態では、不活性ガスGaがアークを囲むようにガスノズル12から吐出されているので、アークの照射により溶融した金属が空気に触れるのが妨げられる。その結果、溶融した金属が空気中の酸素と結合して酸化物が形成されるのが抑制される。また、TIGトーチ10は、上述したように、電極11の先端がガスノズル12の先端に対して略一致しているので、プラズマトーチとは異なり、アークの照射状態では、電極11から移行するアークAは、電極端部から何ら邪魔されることなく金属材料Mに近づくほど広がるようになっている。その後、溶融池(溶融領域)が高圧配管Mの厚さに相当する深さまで拡大すると、高圧配管Mのアークの照射部分に穴があき、溶融した高圧配管Mの材料が落ちる。
【0046】
その後、作業者は、アークが高圧配管Mの外周方向に沿って切断方向(矢印Cd)に移動するようにTIGトーチ10を操作して、高圧配管Mの外壁を切断していく。このようにして、TIGトーチ10のアークによる高圧配管Mの切断を高圧配管Mの外壁の1周に渡って行うことにより、高圧配管Mの切断部分の全体を切断することが可能である。
【0047】
この実施形態1の切断方法では、TIGトーチ10によるアークを高圧配管Mの切断部分に照射することにより、高圧配管Mの切断部分が溶融して落ちるので、切断部分が溶融してできたスラグは、溶け落ちた金属塊として簡単に回収することができ、このため、飛散も防ぐことが可能となる。また、ガスノズル12から吐出される不活性ガスにより、溶融した金属が空気中の酸素と結合して酸化物が形成されるのが抑制されることで粉塵の発生も抑制できる。
【実施例0048】
(実施例1)
実施例1では、厚さ(肉厚)約30mmのSUS304のステンレス鋼板M1を本発明の方法によって切断した。TIGトーチ10のタングステン電極11に供給される直流電流Wc1(図1A(a)参照)を約400A、ガスノズル12から吐出されるアルゴンガスからなる不活性ガスGaの圧力は約5Kg/cmとした。また、タングステン電極11としては、直径が約3mmのものを用い、ガスノズル12として内径が約10mmのセラミック製のものを用いた。そして、ガスノズル12に供給する不活性ガスGaの供給量は、約20L/minとした。
【0049】
図2は、本件発明の切断方法によってステンレス鋼板M1の切断した結果を示す写真である。図2に示すように、TIGトーチ10を用いて上記の条件でSUS304のステンレス鋼板M1の切断を行った場合、アークの照射部分には十分な大きさの溶融池ができ、良好に切断できているのがわかる。
【0050】
図2をみてわかるとおり、TIGトーチ10で、厚さ約30mmのSUS304のステンレス鋼板M1が良好に2つに溶断されて貫通部分S1になっているのが確認できる。
【0051】
(実施例2)
本発明の切断方法によって、厚さ約12mmのSUS304のステンレス鋼板M2を切断した。TIGトーチ10のタングステン電極11に供給される直流電流Wc1(図1A(a)参照)を約400A、ガスノズル12から吐出されるアルゴンガスからなる不活性ガスGaの圧力は約5Kg/cmとした。また、タングステン電極11としては、直径が約3mmのものを用い、ガスノズル12として内径が約10mmのセラミック製のものを用いた。そして、ガスノズル12に供給する不活性ガスGaの供給量は、約20L/minとした。図3は、本発明の実施例2を説明するための図であり、本発明の切断方法による厚さ約12mmのステンレス鋼板(SUS304)M2を切断した結果を示す写真である。図3に示すように、厚さ約12mmのSUS304のステンレス鋼板M2の場合、TIGトーチ10で、簡単に切断箇所の部分が貫通し(S2)、切断加工が良好に行われ得ることが確認できた。
【0052】
(比較例1)
比較例1では、TIGトーチ10のタングステン電極11に供給される電流が約350Aである点を除いて実施例1と同一の条件で、ステンレス鋼板の切断を行った。
【0053】
比較例1では、図4に示すように、厚さ約30mmのステンレス鋼板M1’をアークによる熱で溶かそうとしてもステンレス鋼板M1’の内部での熱拡散がアークによる加熱に勝り、アークの照射部分が局所的に溶けるものの、十分な大きさの溶融池はできず、加工によって形成される凹部S3の深さが深くならず、良好に切断することはできなかった。
【0054】
(比較例2)
比較例2では、不活性ガスGaの圧力が約4Kg/cmである点を除いて実施例1と同一の条件で、ステンレス鋼板の切断を行った。
【0055】
この場合も、上記比較例1と同様に、ステンレス鋼板M1を良好に切断できなかった。
【0056】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、スラグの飛散および粉塵の発生を抑制することができるアーク切断方法およびこのような切断方法を用いられる装置を得ることができるものとして有用である。
【符号の説明】
【0058】
10 TIGトーチ
11 放電電極
12 ガスノズル
20 電源装置
30 ガス供給装置
100 TIG溶接装置
図1
図1A
図2
図3
図4