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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112336
(43)【公開日】2022-08-02
(54)【発明の名称】発光装置のリッド
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/48 20100101AFI20220726BHJP
【FI】
H01L33/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008136
(22)【出願日】2021-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000149734
【氏名又は名称】株式会社大真空
(72)【発明者】
【氏名】丸本 学
【テーマコード(参考)】
5F142
【Fターム(参考)】
5F142AA42
5F142AA58
5F142AA67
5F142AA72
5F142BA02
5F142BA32
5F142CA01
5F142CA11
5F142CD01
5F142CD02
5F142CD16
5F142CD32
5F142CD44
5F142CD47
5F142CD49
5F142DB02
5F142DB03
5F142FA03
5F142FA31
(57)【要約】
【課題】接合材となる金属ろう材の接合性能を低下させず、発光装置の透光性を有するリッド本体を用いる場合、リッド剥離や気密不良を生じさせない好適な下地膜を有するリッドを得る。
【解決手段】発光装置Aは基板1と断面形状が逆凹形状のリッド2および発光素子となるLED素子3により構成され、基板とリッドが金属ろう材で接合される。リッド2には下地層が設けられ、下地層の第2群層にはNi合金膜、Ni拡散抑制膜およびAu膜を含む積層構造を有している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LEDをパッケージ内に金属ろう材により封止してなる発光装置のリッドであって、
透光性を有するリッド本体と、前記リッド本体の封止面に形成される下地膜とを含み、
前記下地膜は、前記リッド本体の上に直接形成される第1群層と、前記第1群層の上に形成される第2群層とを含んでおり、
前記第1群層は、膜厚20~700nmのTi膜を含む構造を有し、
前記第2群層は、前記第1群層に近い側から順に積層されたNi合金膜、Ni拡散抑制膜およびAu膜を含む積層構造を有していることを特徴とする発光装置のリッド。
【請求項2】
前記Au膜の上面に金属ろう材が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の発光装置のリッド。
【請求項3】
前記第2群層のNi拡散抑制膜の上部に前記Au膜と金属ろう材の合金膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の発光装置のリッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED(Light Emitting Diode)を備えた発光装置に使用されるリッドに関する。
【背景技術】
【0002】
LEDを用いる発光装置においては、LEDをパッケージの内部に封止して信頼性を高めた構造が一般的に知られている。具体的な構造例としては、LEDをパッケージ基台(例えばセラミックパッケージ)のキャビティ内に格納し、パッケージ基台のキャビティ開口をリッドによって封止する構造が挙げられる。
【0003】
このような構造では、リッドはLEDの照射光に対して透過性を有する必要がある。LEDが深紫外線を照射する深紫外用LEDである場合、従来、リッドには石英ガラスの使用が好適とされていた。また、リッドに水晶を使用するものに関して本出願人から提案されていた。(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】PCT/JP2020/026073
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献においては、発光装置のリッドに水晶などを用いる場合に、リッドの剥離や気密不良を生じさせない、好適な下地膜を有するリッドを得ることができた。しかしながら、Ni合金膜におけるNiが発光装置の使用環境によっては上層のAu膜に拡散し、Au膜表面にNi酸化物を形成することがあった。
【0006】
このような場合、パッケージとリッドを接合する金属ろう材、例えばAu-Sn合金の濡れ性が低下し、リッドの封止性能を低下させることがあった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、接合材となる金属ろう材の接合性能を低下させず、かつ発光装置の透光性を有するリッド本体を用いる場合に、リッド剥離や気密不良を生じさせない好適な下地膜を有するリッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様である発光装置のリッドは、LEDをパッケージ内に金属ろう材により封止してなる発光装置に用いられるリッドであって、透光性を有するリッド本体と、前記リッド本体の封止面に形成される下地膜とを含み、前記下地膜は、前記リッド本体の上に直接形成される第1群層と、前記第1群層の上に形成される第2群層とを含んでおり、前記第1群層は、膜厚20~700nmのTi膜を含む構造を有し、前記第2群層は、前記第1群層に近い側から順に積層されたNi合金膜、Ni拡散抑制膜およびAu膜を含む積層構造を有していることを特徴としている。
【0009】
上記の構成によれば、Ni合金膜と最上層のAu膜の間にNi拡散抑制膜が介在しているため、Niが最上層のAu膜に拡散することが抑制され、最上層であるAu膜表面にNi酸化物を形成されることがなくなる。結果として、接合材となる金属ろう材の接合性能を低下させず、発光装置の透光性を有するリッド本体を用いる場合に、リッド剥離や気密不良を生じさせない好適な下地膜を有するリッドを得ることができる。
【0010】
また、上記リッドにおいて、前記第1群層に含まれる前記Ti膜は、膜厚200~300nmのTi膜である構成とすることができる。
【0011】
本構成によれば、発光装置におけるリッドの剥離や気密性不良の発生を低減することができ、リッドによる気密封止の信頼性を向上させることができる。
【0012】
また、前記Au膜の上面に金属ろう材が形成されている構成とすることができる。
【0013】
本構成によれば、Au膜と金属ろう材の接合性が向上した金属ろう材の設けられたリッドを得ることができる。
【0014】
また、前記金属ろう材がAu―Sn合金からなる構成とすることができる。
【0015】
本構成によれば、Au膜とAu―Sn合金の接合性が向上したリッドを得ることができる。
【0016】
また、前記第2群層のNi拡散抑制膜の上部に前記Au膜と前記金属ろう材の合金膜が形成されている構成とすることができる。
【0017】
本構成によれば、金属ろう材の接合性が向上した合金膜が形成されたリッドを得ることができる。
【0018】
また、前記第2群層のNi拡散抑制膜はTi膜とすることができる。
【0019】
本構成によれば、Ti材は効率的にNiの拡散を抑制するので、気密封止性能を向上させたリッドを得ることができる。
【0020】
また、前記第2群層のNi拡散抑制膜はTi膜からなり、その表面に酸化チタンからなる酸化被膜を有している構成とすることができる。
【0021】
本構成によれば、酸化チタンからなる酸化被膜がより効率的にNiの拡散を抑制するので、気密封止性能を向上させたリッドを得ることができる。
【0022】
また、前記第1群層は、水晶板に接して、前記Ti膜、Au膜、および他のTi膜からなる構成とすることができる。
【0023】
本構成によれば、気密封止時に前記第1群層が層構成として確保されるので、安定した気密封止を行うことのできるリッドを得ることができる。
【0024】
また、前記第2群層の最上層である前記Au膜は、前記Au膜の内周縁が前記Ni合金膜の内周縁よりも外側に引き下げられ、前記Au膜の外周縁が前記Ni合金膜の外周縁よりも内側に引き下げられた引き下がり構造を有している構成とすることができる。
【0025】
本構成によれば、気密封止時に合金材料が他の層に及ぶことを抑制し、安定した気密封止を行うことのできるリッドを得ることができる。
【0026】
また、前記Au膜の引き下がり構造における内周縁側の引き下がり幅が外周縁側の引き下がり幅よりも小さくされている構成とすることができる。
【0027】
また、前記Au膜の引き下がり構造における内周縁側の引き下がり幅が25μm以上である構成とすることができる。
【0028】
また、上記の課題を解決するために、本発明の第2の態様であるリッドの製造方法は、LEDをパッケージ内に封止してなる発光装置に用いられるリッドの製造方法で
あって、透光性を有するリッド本体の封止面に膜厚20~700nmのTi膜を含む第1群層を形成する第1工程と、前記第1工程で形成された前記第1群層の最上層にあるTi膜を酸化させて、表面に酸化チタンからなる酸化皮膜を形成する第2工程と、前記第2工程後の前記第1群層の上に、前記第1群層に近い側から順に積層されるNi合金膜、Ni拡散抑制膜およびAu膜を含む第2群層を形成する第3工程とを有することを特徴としている。
【0029】
上記リッドの製造方法によれば、接合材となる金属ろう材の接合性能を低下させず、発光装置の透光性を有するリッド本体を用いる場合に、リッド剥離や気密不良を生じさせない好適な下地膜を有するリッドを得ることができる。
【0030】
また、上記リッドの製造方法において、前記第1工程で形成される前記Ti膜は、200~300nmの膜厚を有する構成とすることができる。
【0031】
本構成によれば、発光装置におけるリッドの剥離や気密性不良の発生を低減することができ、リッドによる気密封止の信頼性を向上させることができる。
【0032】
また、上記リッドの製造方法は、前記第1工程では、前記Ti膜の上に、前記Ti膜に近い側から順に積層されるAu膜および他のTi膜からなる緩衝膜を形成する構成とすることができる。
【0033】
本構成によれば、気密封止時に前記第1群層が層構成として確保されるので、安定した気密封止を行うことのできるリッドを得ることができる。
【0034】
また、上記リッドの製造方法では、前記第2群層の最上層である前記Au膜は、前記Au膜の内周縁が前記Ni合金膜の内周縁よりも内側に引き下げられ、前記Au膜の外周縁が前記Ni合金膜の外周縁よりも外側に引き下げられて形成される構成とすることができる。
【0035】
本構成によれば、気密封止時に合金材料が他の層に及ぶことを抑制し、安定した気密封止を行うことのできるリッドを得ることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、接合材となる金属ろう材の接合性能を低下させず、発光装置の透光性を有するリッド本体を用いる場合に、リッド剥離や気密不良を生じさせない好適な下地膜を有するリッドを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明が適用される発光装置の構成例を示す断面図である。
図2】リッドの下面図(接合面)である。
図3】実施の形態1のリッドにおける下地膜の構成を示す部分断面図である。
図4】実施の形態1の下地膜に金属ろう材を設けた構成を示す断面図である。
図5】実施の形態1の下地膜に金属ろう材を設けた膜状態の一部の断面を撮影したSEM写真である。
図6】実施の形態2のリッド構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
[第1の実施形態]
以下、本発明による第1の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0039】
〔発光装置の基本構造〕
本発明が適用される発光装置Aの構成例を、図1を参照して説明する。図1に示すように、発光装置Aは、基板1と断面形状が逆凹形状のリッド2および発光素子となるLED素子3により構成されている。
【0040】
基板1は平面視矩形上の平板構成であり、構成材料はアルミナ(Al2O3)あるいは窒化アルミニウム(AlN)等からなる。基板1の上面にはリッドとされる金属層11とLED素子3が搭載される内部端子12が設けられ、基板1の下面には外部端子14が設けられている。前記内部端子12と前記外部端子14とは基板を貫通する金属ビア13で電気的に接続されている。なお、基板1は、LED素子3の動作時に発生する熱を逃がすことができるように、熱伝導性の高い材料で形成されることが好ましく、上述の窒化アルミニウムは好適である。
【0041】
リッド2は、平面視で基板1とほぼ同サイズの水晶(透光性を有するリッド本体)からなり、少なくともリッド本体20と下地膜23を有している。リッド本体20は複数の水晶からなり、平面視で矩形形状の平板上の水晶板21と、平面視で矩形枠状の水晶枠板22が接合された構成である。この接合は、水晶板21と水晶枠体22に各々の接合面にAu膜を形成し、これらを金属間接合することにより行われている。具体的には水晶板21の一主面に前記水晶枠板の周状形状に対応したAu膜(厚さ300nm)を形成し、水晶枠板にも前記水晶板との接合面にAu膜(厚さ300nm)を形成し、両Au膜を加熱加圧環境にて金属間接合を行う。
【0042】
なおリッド本体の構成は、断面が逆凹形状になる構成であればよく、例えば、水晶板と水晶枠板を直接接合した構成であってもよい。直接接合は、親水処理によって、それぞれ水晶板の基板表面に付着した水酸基や水素などの分子間力によって基板同士が吸着し、その後の熱処理によって、それぞれの水晶の構成元素である珪素と酸素の結合を促進する接合方法である。
【0043】
また断面が逆凹形状になる構成として、水晶板の外周部分のみ厚肉部とし、キャビティを形成する中央部分を厚み方向にハーフエッチングした構成であってもよい。このハーフエッチングはフォトリソグラフィ技術を用いて、選択した部分のみをエッチングして、薄肉化する技術である。
【0044】
図1において、水晶枠板22の水晶板21との接合部分の反対面には下地膜23が形成されている。下地膜23の構成については後述するが、リッド2と下地膜23を含めて、リッドを構成している。この実施の形態では、下地膜23の表面にろう材24が形成された例を示しており、ろう材24の例としてAu-Sn材が合金材料として用いられている。なお、ろう材形成構成についても後述する。
【0045】
図2はリッドの下面図(接合面)を示している。水晶板21に水晶枠板22が接合され、水晶枠板上に下地膜23が周状に形成され、下地膜23上にろう材24が形成されている。図2から明らかなとおり、水晶枠板の幅d1に対して、内側に引き下がった構成の下地膜が形成されている。また下地膜23の幅d2に対して、内側に引き下がった構成で幅d3を有する金属ろう材24が形成されている。このような引き下がり構成により、LED素子を気密封止した際、下地膜および/または金属ろう材がリッドや基板からのはみ出しを抑制する効果がある。
【0046】
図1に示すように、発光装置Aでは、LED素子3は、基板の内部端子上にFCB(Flip Chip Bonding)によって電気的機械的に接合されている。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、LED素子3は、基板1に対してダイボンディングし、ワイヤボンディングにより、内部端子と電気的接続を行ってもよい。
【0047】
LED素子3は、例えば深紫外線を照射する深紫外用LEDである。深紫外線は、紫外線の中でも比較的波長が短いものを指し、主に殺菌・消毒などの用途に使用される。水晶は深紫外線に対して良好な透過性を有するため、LED素子3が深紫外線用のLEDである場合、リッドを水晶で構成すると好適である。
【0048】
また、深紫外線に対して透過性を有する材料としては、従来使用されていた石英ガラスもあるが、石英ガラスを発光装置Aのリッドとして使用すると、気密試験における試験
工程数が増加する場合がある。発光装置Aにおけるリッド2に水晶を使用する場合、気密試験を行う場合に試験工程数が少なくなり、気密試験をより簡単に行えるといった利点がある。
【0049】
〔リッドの構成〕
続いて、リッドの構成について説明する。
上述したように、リッド2は、平面視で基板1とほぼ同サイズの水晶で構成されている。リッド本体20は、複数の水晶からなり、平面視で矩形平板状の水晶板21と、平面視で矩形枠状の水晶枠板22が接合された構成である。この接合は、水晶板21と水晶枠体22の接合面に予め形成されたAu膜を金属間接合することにより行われている。
【0050】
図3に示すように、リッド2の水晶枠体22の表面(基板1との接合面側)には、下地膜23が形成されている。下地膜23は、水晶枠体22に接して第1群層231が形成され、第1群層の上面に第2群層232が積層形成されている。
【0051】
水晶枠体22上に直接形成される第1群層231は、水晶枠体22に接して、Ti膜2311が水晶枠体22の全周にわたって周状に形成されている。Ti膜2311の上面全面にはAu膜2312が形成されている。Au膜2312の上面全面にはさらにTi膜2313が形成されている。これら各金属膜は例えば真空蒸着法またはスパッタリング法により形成されているが、他の成膜法を用いてもよい。なお、Ti膜2313の膜厚は、薄すぎても厚すぎても、発光装置Aにおいて確実な気密が得られなくなることを確認しており、20~700nmの範囲とすることが好ましく、200~300nmの範囲とすることがさらに好ましい。
【0052】
第2群層232は、第1群層231の上に形成されており、Ni合金膜2321、Ni拡散抑制膜2322、Au膜2323の順に形成されている。第1群層231のTi膜2313の上面全面にNi合金層として、例えばNi-Ti(ニッケル-チタン)膜などが形成されている。Ni合金膜2321の上面全面にはNi拡散抑制膜2322として、例えばTi膜が形成されている。Ni拡散抑制膜2322の上面にはAu膜2323が形成されている。これら各金属膜は例えば真空蒸着法またはスパッタリング法により形成されているが、他の成膜法を用いてもよい。
【0053】
なお、Ti膜(Ni拡散抑制膜2322)の厚さは、約10nmとしている。この膜厚は最終的に完全な成膜状態でなくてもよい。例えばTi分子が島状に形成された状態でもNiの拡散を抑制することを確認しており、8~50nm程度であればNiの拡散を抑制することができる。
【0054】
また、Ti膜(Ni拡散抑制膜2322)はその表面に酸化させ、Ti膜の表面には酸化チタン(TiO2)からなる酸化皮膜を形成してもよい。例えば、本形態ではTi膜(Ni拡散抑制膜2322)のうち上面にAu膜2323が形成されていない端部領域にのみ酸化チタン(TiO2)からなる酸化皮膜を形成されている。この構成によれば、気密封止時にろう材24などとともに形成される合金材料が他の層(Ti膜2311、Au膜2312、Ti膜2313、Ni合金膜2321など)に及ぶことを抑制し、安定した気密封止を行うことのできるリッドを得ることができる。
【0055】
なお、Au膜2323はNi拡散抑制膜222の幅方向の両端部から引き下がった構成となっており、Ni拡散抑制膜2322の幅よりAu膜2323の幅が小さい構成となっている。このようにAu膜2323の引き下がり構成上に金属ろう材が配されることにより、金属ろう材の共晶接合によって形成される合金が側面から回り込んで第1群層231に達することを防止でき、その結果、リッド剥離や気密不良を防止することができる。
【0056】
なお、第2群層232におけるNi合金層(NiTi膜)2321は、その膜厚を50~1000nmの範囲とすることが好ましい。また、Ni合金層(NiTi膜)2321は、他のNi合金膜に置き換えることも可能である。
【0057】
また、Ni拡散抑制膜2322として、Ti膜を例示したが、例えば、Al膜等Niの拡散を抑制できる金属膜であってもよい。
【0058】
以上、基板1の内部端子にLED素子3が電気的機械的に接合され、基板の金属層11とリッド本体の下地膜23とを金属ろう材24にて接合することにより、LED素子が気密封止された発光装置を得ることができる。
【0059】
本発明の構成により、Ni合金層に含まれるNi材がAu膜に拡散し、Au膜表面にまで及ぶことを抑制する。これにより従来構成では気密封止に用いる金属ろう材の濡れ性低下が抑制され、金属ろう材がAu膜と合金化して好適な気密封止性を保つことができる。
【0060】
本発明は上記金属ろう材を予め下地膜に接合形成した構成としてもよい。
図4はリッドにろう材を形成した構成を示している。基本的な下地膜構成は、図3で説明した構成と同様であるが、図3における最上層のAu膜2323上に金属ろう材を形成しており、当該Au膜2323と金属ろう材によるろう材合金膜24が形成されている。金属ろう材はAu-Sn合金ろう材であり、図3における最上層のAu膜2323と同じ幅で厚肉に形成されており、加熱融着することでろう材合金膜24として形成されている。Au-Sn合金の組成比は発光装置が使用される温度環境によって調整し、融点を上下させることも可能である。なお、図5は、この様に形成された膜状態の一部の断面を撮影したSEM写真である。
【0061】
本発明によれば、Au膜2323の表面にはNiが析出しないので、Au-Sn合金ろう材等の金属ろう材は濡れ性が良好な状態で接合させることができる。
【0062】
〔リッドの製造方法〕
リッドの製造方法をウェハレベルで、多数個のリッドを一括生産する製造方法を例により説明する。矩形平板状の水晶ウェハを用意する。また当該水晶ウェハと同じ外形形状でマトリクス状に貫通孔が形成された多数個枠体水晶ウェハを用意する。この多数個枠体水晶ウェハの各貫通孔はフォトリソグラフィ技術を用いて形成する。
【0063】
その後、多数個枠体水晶ウェハ側に真空蒸着法またはスパッタリング等の物理的気相成長法よって前記Ti膜2311を形成する。Ti膜2311の厚さは例えば250nm程度である。その後同様の手法によりTi膜2311の上部にAu膜2312を形成する。Au膜2312の厚さは例えば500nm程度である。その後同様の手法によりTi膜2313を形成する。Ti膜2313の厚さは例えば50nm程度である。以上により下地膜における第1群層が形成される。
【0064】
なお、Ti膜2313形成後、これら水晶ウェハを成膜装置から一旦取り出し、Ti膜の表面を空気に曝し、これによりTi膜の表面には酸化チタン(TiO2)からなる酸化皮膜が形成してもよい。このような構成とすることにより第2群層232のみが溶融して封止するろう材(接合材)との共晶接合を形成し、第1群層231は共晶接合を形成しない。
【0065】
なお、Ti膜を酸化させてその表面に酸化皮膜を形成する方法は、上述したTi膜の表面を空気に曝す方法に限定されるものではない。例えば、スパッタリングによってTi膜を形成するときに酸素を導入して酸化Ti膜(TiO2)として成膜する方法や、成膜されたTi膜の表面を酸素プラズマによって酸化促進させる方法も可能である。
【0066】
その後、第1群層231の最上層であるTi膜2313(あるいはTiO2膜)上に真空蒸着法またはスパッタリング等の物理的気相成長によってNi-Ti膜を約300nmの厚さで形成する。これによりNi合金層2321が形成される。そして、このNi-Ti膜の上に真空蒸着法またはスパッタリング等の物理的気相成長法によってTi膜2322を約10nmの厚さで形成する。
【0067】
その後、Ti膜2322上にAu膜2323を約300nmの厚さで形成する。なお、このAu膜2323は下層のTi膜の幅より小さく形成されているが、これはフォトリソグラフィ技術により膜幅を小さくしている。なお、このAu膜2323の幅を下層のTi膜2322の幅と同じにしてもよい。このようにして下地膜23における第2群層232が形成される。
【0068】
その後、これら両ウェハをAu膜を介して金属間接合する。具体的には水晶ウェハにおいては少なくとも多数個枠体水晶ウェハとの接合面にAu膜を形成する。また、多数個枠体水晶ウェハの全面にAu膜を形成する。これらAu膜の膜厚は各主面において100~400nmで形成する。
【0069】
次の両ウェハのAu膜の表面を活性化した状態で、両貼り合わせ面を加熱圧着する。これにより、凹部を有するリッド本体が多数個形成された水晶ウェハを得ることができる。
【0070】
以上により、下地層が形成されたリッド本体を多数個形成された水晶ウェハを得ることができる。その後、水晶ウェハをダイシング等の手段により個別切断をし、個々のリッドを得る。
【0071】
[その他の実施形態]
LED素子を収納する構成として、上記実施の形態ではリッドに凹部を形成し、この凹部領域をLED素子を収納するキャビティとしたが、基板側に凹部を設けたパッケージを採用し、リッドを平板構成としてもよい、この場合もリッドに形成される下地膜構成は上述した構成を適用する。なお、封止に用いるろう材はリッド側に形成してもよいし、パッケージ側に形成してもよい。
【0072】
図6に示すように、断面が凹状のパッケージ4に発光素子6を搭載し、水晶からなるリッド5で気密封止する構成であってもよい。具体的には、パッケージ4は例えば窒化アルミニウムからなるセラミックスからなり、パッケージ周囲の側壁上部には金属膜41が形成されている。そしてパッケージ内底部に複数の内部端子42と、当該内部端子42をパッケージ外底面に導出する金属ビア43と、金属ビアに接続されパッケージ外底面に設けられた外部端子44が設けられている。発光素子6は前記内部端子上に金属ろう材または金属バンプにより電気的機械的に接続されている。
【0073】
リッド5の外周部には周状に下地膜53が形成されている。下地膜53は、リッドの水晶に接して第1群層が形成され、第1群層の上面に第2群層が積層形成されている。
【0074】
第1群層の構成は水晶に接して、Ti膜、Au膜、Ti膜が形成されている。これら各金属膜は例えば真空蒸着法またはスパッタリング法により形成されているが、他の成膜法を用いてもよい。
【0075】
第2群層の構成は、第1群層の上に形成されており、Ni合金膜、Ni拡散抑制膜、Au膜の順に形成されている。Ni合金膜として、例えばNi-Ti(ニッケル-チタン)膜をあげることができる。また、Ni拡散抑制膜として、例えばTi膜をあげることができる。これら各金属膜は例えば真空蒸着法またはスパッタリング法により形成されているが、他の成膜法を用いてもよい。
【0076】
パッケージ4の金属層41とリッド5の下地膜53が金属ろう材で接合され、気密封止された発光装置を得ることができる。
【0077】
上記実施例では、リッド2,5として水晶とする場合について開示しているが、これに限定されるものではなく、石英ガラスを用いるものであってもよい。
【0078】
今回開示した実施形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0079】
A 発光装置
1 基板
11 金属膜
12 内部端子
14 外部端子
2、5 リッド
20 リッド本体
21 水晶板
22 水晶枠板
23 下地膜
24 ろう材合金膜
3、6 LED素子
14 接合層
4 パッケージ
図1
図2
図3
図4
図5
図6