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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112339
(43)【公開日】2022-08-02
(54)【発明の名称】加工装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 27/06 20060101AFI20220726BHJP
   B23B 5/00 20060101ALI20220726BHJP
   B23H 7/02 20060101ALI20220726BHJP
   B23H 7/10 20060101ALI20220726BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
B24B27/06 Q
B23B5/00 Z
B23H7/02 Q
B23H7/10 Z
H01L21/304 611W
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008141
(22)【出願日】2021-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000139687
【氏名又は名称】株式会社安永
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】篠原 武宏
【テーマコード(参考)】
3C045
3C059
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C045BA01
3C045CA10
3C045DA06
3C059AA01
3C059AB05
3C059DA06
3C059FB04
3C158AA05
3C158AA09
3C158AB04
3C158CB01
5F057AA12
5F057BA01
5F057CA02
5F057DA15
5F057EB24
5F057FA43
(57)【要約】
【課題】メインローラの樹脂層の熱膨張に起因した溝の位置変化を抑制することにより、加工品の品質を向上することができるとともに、溝再生を効率的に行うことにより、加工品の生産効率を向上することができる加工装置を提供する。
【解決手段】加工装置2は、ワイヤ1が巻き掛けられる多数の溝26が周方向に沿って螺旋状に、且つ軸線方向Xに所定の間隔Pで形成されたメインローラ6を備え、メインローラ6は、軸部20と、軸部20の外周面20aを覆うとともに多数の溝26が形成される樹脂層22と、樹脂層22を軸線方向Xにて保持する保持部24とを有し、樹脂層22は、溝再生手段30によって、樹脂層22の表層をその外周に沿って剥離することにより多数の再生溝26を形成することが許容され、樹脂層22において多数の溝26及び再生溝26が形成される軸線方向Xにおける溝形成幅L1は、樹脂層22の軸線方向Xにおける樹脂形成幅Lよりも小さい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークをワイヤでスライス加工する加工装置であって、
前記ワイヤが巻き掛けられる多数の溝が周方向に沿って螺旋状に、且つ軸線方向に所定の間隔で形成されたメインローラを備え、
前記メインローラは、
軸部と、
前記軸部の外周面を覆うとともに前記多数の溝が形成される樹脂層と、
前記樹脂層を前記軸線方向にて保持する保持部と
を有し、
前記樹脂層は、溝再生手段によって、前記樹脂層の表層をその外周に沿って剥離することにより多数の再生溝を形成することが許容され、
前記樹脂層において前記多数の溝及び再生溝が形成される前記軸線方向における溝形成幅は、前記樹脂層の前記軸線方向における樹脂形成幅よりも小さい、加工装置。
【請求項2】
前記溝形成幅と前記樹脂形成幅との幅差は、前記溝再生手段が前記保持部に干渉しない大きさである、請求項1に記載の加工装置。
【請求項3】
前記溝再生手段は、前記メインローラを回転させる回転手段と、切削バイトを前記軸線方向に沿って移動させる水平移動手段と、前記樹脂層に向けて前記切削バイトを昇降させる昇降移動手段とが協働することにより前記多数の再生溝を形成し、
前記溝形成幅と前記樹脂形成幅との前記幅差は、前記溝再生手段による前記再生溝の形成に際し、前記切削バイトが前記保持部に非接触となる大きさである、請求項2に記載の加工装置。
【請求項4】
前記溝形成幅と前記樹脂形成幅との前記幅差は、前記切削バイトの刃の刃角、刃幅、及び前記切削バイトの降下角の少なくとも何れか1つに応じて設定される、請求項3に記載の加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工装置に関し、特にワークをワイヤでスライス加工するワイヤソーやワイヤ放電加工装置などの加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤソーやワイヤ放電加工装置は、ワークをワイヤでスライス加工する加工装置である。このような加工装置は、ワイヤが巻き掛けられる多数の溝が周方向に沿って螺旋状に、且つ軸線方向に所定の間隔で形成されたメインローラを備えている。メインローラは、軸部(芯材)と、軸部の外周面を覆うとともに前述した多数の溝が形成される樹脂層とを有している。
【0003】
特許文献1には、軸部の外周に樹脂層を被覆成形し、樹脂層の外周面にワイヤを掛装するための溝を多数形成したワイヤソーの加工用ローラが開示されている。この樹脂層の端面には、樹脂層の熱膨張変位を検出するための金属製の被検出リングが一体成形により固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-277399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
メインローラの樹脂層に形成された溝にワイヤが巻き掛けられて摺接することから、樹脂層は加工装置の稼働に伴う加工熱などによって膨張し易い。従って、樹脂層が熱膨張することにより、樹脂層における溝の位置が変化し、スライス加工された加工品であるウェハの厚みや反りが変化し、ウェハの品質に影響を及ぼすおそれがある。しかし、特許文献1においては、樹脂層の熱膨張変位を検出するための被検出リングが設けられているものの、被検出リングは樹脂層の熱膨張変位自体を抑制するものではない。
【0006】
また、メインローラの樹脂層に形成された溝にワイヤが巻き掛けられて摺接することから、樹脂層に形成された溝は加工装置の稼働に伴い摩耗して変形する。従って、溝再生手段により、樹脂層の表層をその外周に沿って剥離して溝を定期的に再生することが行われている。
【0007】
しかし、特許文献1においては、被検出リングが溝再生手段に干渉し、樹脂層の表層剥離が困難となるおそれがある。また、溝再生手段により樹脂層の表層の剥離工程を行うためには、被検出リングを取り外し、作業完了後に再び取り付ける必要があるため、ウェハの生産効率が低下する。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、メインローラの樹脂層の熱膨張に起因した溝の位置変化を抑制することにより、加工品の品質を向上することができるとともに、溝再生を効率的に行うことにより、加工品の生産効率を向上することができる加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するべく、請求項1記載の加工装置は、ワークをワイヤでスライス加工する加工装置であって、ワイヤが巻き掛けられる多数の溝が周方向に沿って螺旋状に、且つ軸線方向に所定の間隔で形成されたメインローラを備え、メインローラは、軸部と、軸部の外周面を覆うとともに多数の溝が形成される樹脂層と、樹脂層を軸線方向にて保持する保持部とを有し、樹脂層は、溝再生手段によって、樹脂層の表層をその外周に沿って剥離することにより多数の再生溝を形成することが許容され、樹脂層において多数の溝及び再生溝が形成される軸線方向における溝形成幅は、樹脂層の軸線方向における樹脂形成幅よりも小さいことを特徴としている。
【0010】
また、請求項2記載の発明は、請求項1において、溝形成幅と樹脂形成幅との幅差は、溝再生手段が保持部に干渉しない大きさであることを特徴としている。
また、請求項3記載の発明は、請求項2において、溝再生手段は、メインローラを回転させる回転手段と、切削バイトを軸線方向に沿って移動させる水平移動手段と、樹脂層に向けて切削バイトを昇降させる昇降移動手段とが協働することにより多数の再生溝を形成し、溝形成幅と樹脂形成幅との幅差は、溝再生手段による再生溝の形成に際し、切削バイトが保持部に非接触となる大きさであることを特徴としている。
【0011】
また、請求項4記載の発明は、請求項3において、溝形成幅と樹脂形成幅との幅差は、切削バイトの刃の刃角、刃幅、及び切削バイトの降下角の少なくとも何れか1つに応じて設定されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
従って、請求項1記載の加工装置によれば、メインローラの樹脂層の熱膨張に起因した溝の位置変化を抑制することにより、加工品の品質を向上することができるとともに、溝再生を効率的に行うことにより、加工品の生産効率を向上することができる。
また、請求項2記載の発明によれば、保持部によって樹脂層の熱膨張変位、ひいては溝の位置変化を抑制しつつ、保持部を取り外さないで所望の再生溝を確実に形成することができる。
【0013】
また、請求項3記載の発明によれば、保持部によって樹脂層の熱膨張変位、ひいては溝の位置変化を抑制しつつ、保持部を取り外さないで所望の再生された溝を切削バイトにより確実に形成することができる。
また、請求項4記載の発明によれば、メインローラに保持部を取り付けた状態で溝再生を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るワイヤソーの概略図である。
図2】メインローラの断面図である。
図3】樹脂層に形成される溝の拡大断面図である。
図4】溝加工装置の概略図である。
図5】(a)~(d):溝再生の工程を段階的に説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る加工装置について図面を参照して説明する。
図1は、ワークWをワイヤ1でスライス加工する加工装置の一例として、ワイヤソー2の概略図を示す。ワイヤソー2は、ローラユニット4を備え、ローラユニット4は一対のメインローラ6を有している。一対のメインローラ6は、ワイヤ経路8において互いに離間して配置され、ローラユニット4の図示しない回転軸にそれぞれ締結されている。これらの回転軸を図示しないモータで駆動することにより各メインローラ6をそれぞれ正逆回転可能である。
【0016】
ワイヤソー2は、一対のワイヤリール10と一対のガイドローラ12とを備えている。各ワイヤリール10は、ワイヤ経路8においてローラユニット4及び各ガイドローラ12を隔てた位置に互いに離間して配置され、図示しないモータによりそれぞれ正逆回転可能である。各ワイヤリール10は、回転方向に応じて繰り出しリール又は巻き取りリールとして使用される。
【0017】
繰り出しリールとして使用されるワイヤリール10は、その回転に伴ってワイヤ1を繰り出し、繰り出されたワイヤ1はワイヤ経路8に沿って一方のガイドローラ12を介してローラユニット4に向けて案内される。各ガイドローラ12は、方向変換ローラであって、ワイヤ経路8においてローラユニット4を隔てた位置に互いに離間して配置されている。
【0018】
ワイヤリール10から繰り出されたワイヤは、一方のガイドローラ12を経てローラユニット4に導かれる。ローラユニット4に導かれたワイヤ1は、一対のメインローラ6間に所定の回数巻き掛けられた後、ローラユニット4から導出され、他方のガイドローラ12を経て、巻き取りリールとして使用されるワイヤリール10に巻き取られる。
【0019】
各ワイヤリール10は、図示しないトラバース制御機構にそれぞれ連結され、各トラバース制御機構は、連結されたワイヤリール10をその軸線方向に往復動させる。これにより、ワイヤ経路8におけるワイヤ1の安定した繰り出し又は巻き取りが可能となる。ローラユニット4の上方の一対のメインローラ6間には昇降テーブル14が配置されている。昇降テーブル14の下面には接着部16が設けられ、接着部16にはスライス加工の対象となるワークWが取り付けられる。
【0020】
ワイヤ1がローラユニット4を通過して走行中、ワークWは、昇降テーブル14とともに徐々に降下され、一対のメインローラ6間に位置するワイヤ1によって複数のスライス品に切断される。この際、メインローラ6間に位置するワイヤにはクーラントが供給される。
【0021】
クーラントは、ワイヤ1及び各メインローラ6を冷却するための冷却液として使用され、クーラントに砥粒を含有する場合、ワークWを切断するための研削液としても使用される。クーラントが砥粒を含有しない場合、ワイヤ1自体に砥粒が固着される。クーラントは、メインローラ6間に位置するワイヤ1に供給された後、回収槽18にて回収されて再利用される。
【0022】
図2は、メインローラ6の断面図を示す。メインローラ6は、芯材である中空の軸部20と、軸部20の外周面20aを覆う樹脂層22と、樹脂層22を軸部20の軸線方向Xの両側にて保持する一対のリング状の保持部24とを備えている。軸部20の内周面20bにはローラユニット4の回転軸が嵌挿されて締結される。
【0023】
樹脂層22には、ワイヤ1が所定の回数巻き掛けられる多数の溝26が軸部20の周方向に沿って螺旋状に、且つ軸線方向Xに所定の間隔(溝ピッチ)で形成されている。樹脂層22にて多数の溝26が形成される軸線方向Xにおける溝形成幅L1は、樹脂層22の軸線方向Xにおける樹脂形成幅Lよりも小さい。また、樹脂層22の軸線方向Xにおける両端には、溝形成幅L1と樹脂形成幅Lとの幅差ΔLがそれぞれ確保されている。
【0024】
図3は、樹脂層に形成される溝26の拡大断面図を示す。個々の溝は、所定の溝深さD、所定の溝角度θ、所定の溝底幅Waを有する断面逆台形状に形成され、所定の溝ピッチP、所定の先端幅Wbを有して樹脂層22の外周面22aに多数形成されている。これらの所定値はメインローラ6の仕様に応じて適宜設定される。図2にも示すように、樹脂層22の軸線方向Xにて両側に位置する溝26の最外端(左右端)と、樹脂層22の外周面22aとの境界には角部28がそれぞれ形成されている。すなわち、溝形成幅L1は、軸線方向Xの溝26の最外端である各角部28間の距離として規定されている。
【0025】
メインローラ6の樹脂層22に形成された多数の溝26にワイヤ1が巻き掛けられて摺接することから、樹脂層22はワイヤソー2の稼働に伴う加工熱などによって膨張し易い。樹脂層22が熱膨張することにより、樹脂層22における溝26の位置が変化し、スライス加工された加工品であるウェハの厚みや反りが変化し、ウェハの品質に影響を及ぼすおそれがある。しかし、本実施形態においては、一対の保持部24によって、樹脂層22の特に軸線方向Xにおける熱膨張が抑制され、樹脂層22における溝26の位置変化が抑制されている。
【0026】
図4は、メインローラ6に溝26を形成する溝加工装置30の概略図を示す。溝加工装置30は、回転ユニット(回転手段)32、切削バイト34、固定台36、水平移動ユニット(水平移動手段)38、及び昇降移動ユニット(昇降移動手段)40などを備えている。回転ユニット32は、メインローラ6の軸部20を芯出しして回転可能に支持する。切削バイト34は、メインローラ6の樹脂層22に溝26を形成するための刃34aを先端に有する。
【0027】
固定台36には、切削バイト34の刃34aの刃先を下方に向けた状態で鉛直方向(軸径方向)Yを長手方向として固定される。水平移動ユニット38は、固定台36を水平方向(軸線方向X)に移動可能に支持するレール38aを有し、レール38aに沿って固定台36を移動することにより、切削バイト34を軸線方向Xに沿って移動する。昇降移動ユニット40は、固定台36ひいては切削バイト34をメインローラ6に対して昇降可能に支持している。回転ユニット32、水平移動ユニット38、及び昇降移動ユニット40が協働することにより、メインローラ6の樹脂層22に前述した多数の溝26を形成可能である。
【0028】
ここで、メインローラ6の樹脂層22に形成された溝26にワイヤ1が巻き掛けられて摺接することから、樹脂層22に形成された溝26はワイヤソー2の稼働に伴い摩耗して変形する。そこで、溝加工装置30を用いることにより、定期的に溝26を再生することが行われている。すなわち、本実施形態のワイヤソー2において、メインローラ6の樹脂層22は、一対の保持部24で熱膨張が抑制されつつ、溝加工装置30を用いた溝再生手段によって再生溝を形成することが許容されている。
【0029】
図5(a)~(d)は、メインローラ6の上部断面を用いて溝再生の工程を段階的に説明する概略図を示す。図5(a)は、溝再生前の段階を示す。樹脂層22の溝形成幅L1に形成された溝形成領域42の各溝26は摩耗して変形している。図5(b)は、溝再生工程の前段階である樹脂層22の剥離工程を示す。先ず、水平移動ユニット38を駆動することにより、一点鎖線で示すように、切削バイト34の刃34aの刃先を溝形成幅L1の一端側(図5(b)では左端側)の角部28の上側であって、角部28よりも軸線方向にて若干外側(図5(b)では若干左側)に位置付ける。
【0030】
次に、昇降移動ユニット40を駆動して切削バイト34を鉛直下方に下降させ、破線で示すように、切削バイト34の刃34aの刃先を樹脂層22の外周面22aにおいて樹脂層の剥離深さD1まで刃先を喰い込ませての剥離開始位置44に位置付ける。剥離開始位置44は、軸線方向Xにおいて幅差ΔLの範囲に位置し、切削バイト34が保持部24に非接触となる位置である。また、剥離深さD1は溝深さD以上の大きさである。
【0031】
次に、回転ユニット32及び水平移動ユニット38を駆動して、メインローラ6を回転させながら切削バイト34を水平に移動し、実線で示すように、切削バイト34の刃先を溝形成幅L1の他端側(図5(b)では右側)であって、角部28よりも軸線方向Xにて若干外側(図5(b)では若干右側)の剥離終了位置46に位置付ける。次に、昇降移動ユニット40を駆動し、二点鎖線で示すように、切削バイト34を鉛直上方に上昇させて退避させる。
【0032】
これにより、樹脂層22の多数の溝26が形成された表層がその外周に沿って剥離され、樹脂層22に剥離領域48が形成される。剥離領域48は、溝26のない剥離周面48aと、剥離領域48の軸線方向Xにおける両側に形成された剥離側面48bとから断面逆台形状に形成されている。
【0033】
剥離周面48aは、樹脂層22の全周に亘って樹脂層22の外周面22aから剥離深さD1の分だけ凹んだ形状となる。剥離側面48bは、剥離周面48aから外周面22aに亘って形成された傾斜面であり、その軸線方向Xを基準とした傾斜角αは、切削バイト34の刃34aの刃角βや刃幅Wcに応じた角度となる。
【0034】
また、剥離領域48が形成された後においても、樹脂層22の外周面22aには、樹脂層の軸線方向における両端に幅差ΔLがそれぞれ確保されている。幅差ΔLは、切削バイト34の刃34aの刃角β、刃幅Wc、及び切削バイト34の鉛直方向Yを基準とした降下角(図5(b)の場合は0°)などの要素の少なくとも何れか1つに応じて、溝加工装置30が保持部24に干渉しない大きさに設定され、すなわち、切削バイト34が保持部24に非接触となる大きさに設定される。
【0035】
詳しくは、切削バイト34を保持部24に接触させないようにして溝再生を行うためには、切削バイト34の刃34aの刃角βや刃幅Wcが比較的大きい場合、幅差ΔLを予め大きめに確保する必要がある。また、切削バイト34の鉛直方向を基準とした降下角が0°よりも大きくなる場合、すなわち、切削バイト34が剥離側面48bに沿って斜め下方に降下される場合には、幅差ΔLを予め大きめに確保する必要がある。
【0036】
次に、図5(c)は、剥離工程の後に行う溝再生工程を示す。回転ユニット32、水平移動ユニット38、及び昇降移動ユニット40を駆動することにより、メインローラ6を回転させながら切削バイト34を軸線方向Xに徐々に移動し、剥離領域48に多数の溝26を螺旋状に形成する。次に、昇降移動ユニット40を駆動し、切削バイト34を上昇させて退避させる。これにより、樹脂層22の剥離周面48aに溝形成領域42が形成される。
【0037】
剥離周面48aに形成される溝形成領域42の溝形成幅L1は、溝再生前の初期段階の溝形成幅L1と同一の大きさである。また、樹脂層22の軸線方向Xにおける両端には、溝形成幅L1と樹脂形成幅Lとの間に初期段階と同じ大きさの幅差ΔLがそれぞれ確保されている。また、再生された溝26は、摩耗前と同じ形状であり、同じ溝ピッチPで形成される。
【0038】
図5(d)は、3回の剥離工程及び溝再生工程が行われた状態を示す。剥離領域48において、剥離周面48aは、1回目の溝再生における剥離深さD1の3倍となる剥離深さD3に凹んで形成されている。2回目及び3回目の剥離工程においては、剥離開始位置44及び剥離終了位置46が軸線方向Xにおいて互いに近づく位置にずらされる。
【0039】
これにより、3回目の剥離工程で形成された剥離側面48bは、1回目の剥離工程で形成された剥離側面48bから傾斜角αを維持した連続した傾斜面として形成される。図5(b)に示した剥離工程、及び図5(c)に示した溝再生工程を繰り返すことにより、残された樹脂層22の厚みtが所定の厚み(例えば溝26の強度が確保可能な樹脂層の厚み)となったり、或いは、溝形成領域42において溝形成幅Lが確保できなくなったりするまでは、溝再生を定期的に繰り返し行うことができる。
【0040】
以上のように本実施形態のワイヤソー2は、メインローラ6の樹脂層22を軸線方向Xにて保持する保持部24を備える。さらに、樹脂層22において多数の溝26及び再生された溝26が形成される軸線方向Xにおける溝形成幅L1は、樹脂層22の軸線方向Xにおける樹脂形成幅Lよりも小さく設定されている。
【0041】
これにより、保持部24によって樹脂層22の熱膨張変位、ひいては溝26の位置変化を抑制しつつ、保持部24を取り外さなくとも、溝加工装置30を用いた溝再生手段によって溝再生が可能となる。従って、ワイヤソー2において、加工品であるウェハの品質を向上することができるとともに、溝再生を効率的に行うことにより、加工品であるウェハの生産効率を向上することができる。
【0042】
また、溝形成幅L1と樹脂形成幅Lとの幅差ΔLは、溝加工装置30を用いた溝再生手段が干渉しない大きさに設定される。これにより、保持部24によって樹脂層22の熱膨張変位、ひいては溝26の位置変化を抑制しつつ、保持部を取り外さないで所望の再生溝を確実に形成することができる。
【0043】
より詳しくは、溝加工装置30を用いた溝再生手段は、回転ユニット32、水平移動ユニット38、及び昇降移動ユニット40が協働することにより多数の再生された溝26を形成可能である。そして、溝形成幅L1と樹脂形成幅Lとの幅差ΔLは、溝加工装置30を用いた溝再生手段による溝26の形成に際し、切削バイト34が保持部24に非接触となる大きさに設定される。これにより、保持部24によって樹脂層22の熱膨張変位、ひいては溝26の位置変化を抑制しつつ、保持部24を取り外さないで所望の再生された溝26を切削バイト34により確実に形成することができる。
【0044】
また、溝形成幅L1と樹脂形成幅Lとの幅差ΔLは、切削バイト34の刃34aの刃角β、刃幅Wc、及び切削バイト34の降下角の少なくとも何れか1つに応じて設定される。これらの要素に応じて幅差ΔLを予め大きめに確保することにより、メインローラ6に保持部24を取り付けた状態で溝再生を確実に行うことができる。
【0045】
以上で本発明の一実施形態についての説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができるものである。例えば、樹脂層22の熱膨張変位、ひいては溝26の位置変化を抑制可能であれば、メインローラ6及びローラユニット4の構成に応じて保持部24を1つだけ設け、樹脂層22を軸線方向Xの片側のみにて保持するようにしても良い。
【0046】
また、溝形成幅L1と樹脂形成幅Lとの幅差ΔLは、溝再生に支障がないのであれば、樹脂層22の軸線方向Xの両端おいて異なる大きさであっても良い。また、保持部24に切削バイト34が接触しない適切な幅差ΔLが確保できるのであれば、ワイヤソー2やメインローラ6の仕様変更に応じて溝再生時に溝形成幅L1を変更することも可能である。
【0047】
また、本実施形態では、保持部24を取り外さなくとも溝再生が可能であるため、保持部24を軸部20と一体に形成しても良い。また、図2及び図5(a)~(d)に示すように、保持部24は樹脂層22よりも軸径が小さく形成されている。しかし、これに限らず、保持部24によって樹脂層22の熱膨張変位、ひいては溝26の位置変化を抑制しつつ溝再生が可能であれば、保持部24の軸径を樹脂層22の軸径よりも大きくしても良い。
【0048】
また、図5(d)に示す状態において、保持部24に切削バイト34が接触しない適切な幅差ΔLが確保できるのであれば、剥離工程を行うたびに剥離開始位置と剥離終了位置が軸線方向Xにおいて互いに近づく位置にずらさなくても良い。また、本発明は、上記実施形態で説明したワイヤソー2に限らず、ワイヤ放電加工装置なども含めたワークをワイヤでスライス加工する加工装置に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 ワイヤ
2 ワイヤソー(加工装置)
6 メインローラ
20 軸部
20a 外周面
22 樹脂層
24 保持部
26 溝(再生溝)
30 溝加工装置(溝再生手段)
32 回転ユニット(回転手段)
34 切削バイト
34a 刃
38 水平移動ユニット(水平移動手段)
40 昇降移動ユニット(昇降移動手段)
W ワーク
X 軸線方向
P 溝ピッチ(間隔)
L1 溝形成幅
L 樹脂形成幅
ΔL 幅差
β 刃角
Wc 刃幅
図1
図2
図3
図4
図5