IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日油株式会社の特許一覧

特開2022-112369ポリカーボネート樹脂組成物及び成形品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112369
(43)【公開日】2022-08-02
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20220726BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20220726BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/20
B29C45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008187
(22)【出願日】2021-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】尾寅 瞬
(72)【発明者】
【氏名】巻口 琢郎
【テーマコード(参考)】
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
4F206AA28
4F206JA07
4F206JF01
4J002CG011
4J002EP017
4J002EP026
4J002GC00
4J002GL00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】広範囲の温度変化が繰り返される環境下で使用しても、優れた透明性、機械的物性、耐擦傷性を有するポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂組成物は、重量平均分子量が20,000以上、75,000以下の範囲内であるポリカーボネート樹脂(A)に対し、式(1)で表される飽和脂肪酸ビスアミド化合物(B)、
-CONH-(CH)-NHCO-R・・・(1) (RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数15~30の飽和の直鎖炭化水素基であり、nは1~6の整数である)および、下記一般式(2)で表される脂肪酸モノアミド化合物(C)、
-CONH-R・・・(2) (Rは、炭素数15~30の飽和または不飽和の直鎖炭化水素基を示し、Rは、水素原子、炭素数1~6の炭化水素アミノ基および炭化水素ヒドロキシル基からなる群より選択される)を含有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が20,000以上、75,000以下の範囲内であるポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、
下記一般式(1)で表される飽和脂肪酸ビスアミド化合物(B)を1.0~2.0質量部

-CONH-(CH)-NHCO-R・・・(1)

(式(1)中、
およびRは、それぞれ独立して、炭素数15~30の飽和の直鎖炭化水素基であり、
nは1~6の整数である)
および、下記一般式(2)で表される脂肪酸モノアミド化合物(C)を0.01~0.03質量部

-CONH-R・・・(2)

(式(2)中、
は、炭素数15~30の飽和または不飽和の直鎖炭化水素基を示し、
は、水素原子、炭素数1~6の炭化水素アミノ基および炭化水素ヒドロキシル基からなる群より選択される)
含有することを特徴とする、ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
前記飽和脂肪酸ビスアミド化合物(B)がエチレンビスステアリン酸アミドであることを特徴とする、請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記脂肪酸モノアミド化合物(C)が、N-(2-アミノエチル)ステアリン酸アミドであることを特徴とする、請求項1または2記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一つの請求項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られることを特徴とする、ポリカーボネート樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広範囲の温度変化が繰り返される環境下で使用しても、優れた透明性、機械的物性、耐擦傷性を有するポリカーボネート樹脂組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性、耐熱性、機械的物性等に優れた樹脂であることから、自動車、電気・電子機器、住宅材料、食器等の生活用品、その他の工業分野における部品等多くの産業分野において成形体の材料として利用されている。
【0003】
一方、ポリカーボネート樹脂は、非結晶(非晶)性樹脂であるため、表面硬度が低く、傷が付きやすいという問題がある。そこで、熱可塑性樹脂の耐擦傷性を改善する一般的な手法として、滑剤の添加により成形品表面に滑性を付与させる技術が提案されている。その中でも、特に滑性作用に特化したものが脂肪酸誘導体であり、滑剤の他にも可塑剤、潤滑剤、離型剤、消泡剤、撥水剤、増粘剤、艶消し剤、ブロッキング防止剤、化粧品配合剤、食品添加剤等、さまざまな用途で使用されている。
【0004】
脂肪酸誘導体によりポリカーボネート樹脂の耐擦傷性を向上させる技術として、特許文献1には、ポリカーボネート樹脂に飽和直鎖カルボン酸と飽和直鎖アルコールから形成された脂肪酸エステルを添加することで、透明性を維持しながら耐擦傷性や押出性を向上させる技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むポリカーボネート樹脂に官能基を有するアルキル末端を有する脂肪酸アミドを添加することで、透明性及び表面の親水性を保ったまま、耐摩耗性を向上させる技術が開示されている。
また、特許文献3には、ポリカーボネート樹脂に脂肪酸誘導体のアミド化合物としてエチレンビスステアリルアミドを添加することで、耐衝撃性、透明性、機械物性等を保持したまま流動性を改善し得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-73701号公報
【特許文献2】特開2019-131661号公報
【特許文献3】特開2006-37031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、ポリカーボネート樹脂成形品の使用用途上、広範囲の温度変化が繰り返される環境下で使用される場合が多く、その結果、ポリカーボネートの加水分解が促進され、機械的物性や透明性が大きく損なわれてしまう問題もある。また、耐擦傷性改良剤として脂肪酸誘導体を使用した場合、ポリカーボネートの加水分解に加えて、脂肪酸誘導体の成形品表面から樹脂中への再移行や、表面からの脱落が生じ、広範囲な温度環境下での使用後には耐擦傷性が低下してしまう。
【0008】
特許文献1では、優れた耐擦傷性効果を得る技術が開示されているが、広範囲の温度変化が繰り返される環境下で使用した後の耐擦傷性、機械的物性、透明性については検討されていない。
特許文献2では、透明性を維持しながら耐摩耗性を向上させる技術が開示されているが、ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含まないポリカーボネート樹脂の耐摩耗性、耐擦傷性については不十分である。
特許文献3では、脂肪酸ビスアミド化合物の添加により、流動性を改善する技術が開示されている。しかし、広範囲の温度変化が繰り返される環境下で使用した後の機械的物性については検討されていない。
【0009】
本発明の課題は、広範囲の温度変化が繰り返される環境下で使用しても、優れた透明性、機械的物性、耐擦傷性を有するポリカーボネート樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の(1)~(4)に係るものである。
(1) 重量平均分子量が20,000以上、75,000以下の範囲内であるポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、
下記一般式(1)で表される飽和脂肪酸ビスアミド化合物(B)を1.0~2.0質量部

-CONH-(CH)-NHCO-R・・・(1)

(式(1)中、
およびRは、それぞれ独立して、炭素数15~30の飽和の直鎖炭化水素基であり、
nは1~6の整数である)
および、下記一般式(2)で表される脂肪酸モノアミド化合物(C)を0.01~0.03質量部

-CONH-R・・・(2)

(式(2)中、
は、炭素数15~30の飽和または不飽和の直鎖炭化水素基を示し、
は、水素原子、炭素数1~6の炭化水素アミノ基および炭化水素ヒドロキシル基からなる群より選択される)
含有することを特徴とする、ポリカーボネート樹脂組成物。
(2) 前記飽和脂肪酸ビスアミド化合物(B)がエチレンビスステアリン酸アミドであることを特徴とする、(1)のポリカーボネート樹脂組成物。
(3) 前記脂肪酸モノアミド化合物(C)が、N-(2-アミノエチル)ステアリン酸アミドであることを特徴とする、(1)または(2)のポリカーボネート樹脂組成物。
(4) (1)から(3)のいずれかのポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られることを特徴とする、ポリカーボネート樹脂成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、広範囲の温度変化が繰り返される環境下で使用しても、優れた透明性、機械的物性、耐擦傷性を有するポリカーボネート樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を説明する。なお、本発明において数値範囲を示す「N1~N2」とは、特に明示しない限り「N1以上、N2以下」を意味するものとする。
【0013】
<ポリカーボネート樹脂(A)>
ポリカーボネート樹脂は、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体である。代表的なものとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられ、末端OH基を封止してあるもの、してないものどちらも使用可能である。
【0014】
また、本発明では、1種類のポリカーボネート樹脂を単独で用いてもよく、複数種類のポリカーボネート樹脂を組み合わせて用いてもよい。なお、ポリカーボネート樹脂は公知物質であり、市場において容易に入手することができるか、又は、調製可能である。
【0015】
前記ジヒドロキシジアリール化合物としては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-ブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルbg-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン、ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシジフェニル等が挙げられる。これらの化合物は単独または二種以上を混合して使用してもよい。
【0016】
本発明において、ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量は、東ソー(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC-8320GPCを用い、カラムとして東ソー(株)製TSKgel HZM-Mを用い、THFを溶離液とし、RI検出器により測定してポリスチレン換算により求めた。
【0017】
本発明におけるポリカーボネートの重量平均分子量は、20,000以上75,000以下とされる。これにより、成形品中の脂肪酸モノアミド(C)が均一に分散し、機械的物性を高めることができる。また、飽和脂肪酸ビスアミド化合物(B)が成形体表面へブリードアウトするのを抑制し、経時的に成形品表面へと移行するため、広範囲の温度変化が繰り返される環境下で使用した後においても、耐擦傷性効果を十分に高めることができる。こうした観点からは、ポリカーボネートの重量平均分子量は、25,000以上が好ましく、30,000以上が更に好ましく、35,000以上が特に好ましい。また、ポリカーボネートの重量平均分子量は、60,000以下が好ましく、55,000以下が更に好ましく、45,000以下が更に好ましく、40,000以下が特に好ましい。
【0018】
<飽和脂肪酸ビスアミド化合物(B)>
前記飽和脂肪酸ビスアミド化合物(B)は、下記一般式(1)で示される化合物であり、ポリカーボネート樹脂の耐擦傷性を向上させる機能を有する。
-CONH-(CH)-NHCO-R・・・(1)
ただし、RおよびRは飽和の直鎖炭化水素基であり、nは1~6の整数である。
【0019】
炭化水素基の炭素数が15以上であると、ポリカーボネート樹脂の成形体表面に均一な油膜を形成しやすく、耐擦傷性を向上することができる。この観点からは、炭化水素基の炭素数は16以上が好ましく、特に好ましくは17以上である。また、炭素数が30以下であると、飽和脂肪酸ビスアミド化合物(B)の凝集による白化現象を抑制することができる。この観点からは、炭化水素基の炭素数が21以下であることが好ましい。
【0020】
前記飽和脂肪酸ビスアミド化合物(B)として、例えば、メチレンビスパルミチン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスべへン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスべへン酸アミド等が挙げられ、とりわけエチレンビスステアリン酸アミドが好適に使用される。これらの飽和脂肪酸ビスアミド化合物(B)は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0021】
飽和脂肪酸ビスアミド化合物(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、1.0~2.0質量部とする。飽和脂肪酸ビスアミド化合物(B)の含有量を1.0質量部以上とすることにより、ポリカーボネート樹脂組成物の耐擦傷性に優れるので、1.0質量部以上とするが、1.2質量部以上が好ましく、1.5質量部以上が更に好ましい。飽和脂肪酸ビスアミド化合物(B)の含有量を2.0質量部以下に留めることによりポリカーボネート樹脂組成物の透明性が大きく損なわれることを抑制することができる。
【0022】
<脂肪酸モノアミド化合物(C)>
前記脂肪酸モノアミド化合物(C)は下記一般式(2)で示される化合物であり、ポリカーボネート樹脂の加水分解を抑制し、透明性と機械的物性が大きく損なわれることを抑制できる機能を有する。
-CONH-R・・・(2)
ただし、Rは飽和または不飽和の直鎖炭化水素基である。
【0023】
の炭化水素基の炭素数が15以上であると、ポリカーボネート樹脂へ配合したときに成形体表面へのブリードアウト現象を抑制することができる。この観点からは、Rの炭化水素基の炭素数を17以上とすることが好ましい。また、Rの炭化水素基の炭素数が30以下であると、脂肪酸モノアミド化合物(C)の凝集による白化現象を抑制することができる。この観点からは、Rの炭化水素基の炭素数は23以下が好ましく、21以下が更に好ましい。
【0024】
は水素原子、炭素数1~6の炭化水素アミノ基または炭化水素ヒドロキシル基からなる群より選択される。
脂肪酸モノアミド化合物(C)の鎖末端にヒドロキシル基や第一級アミノ基等の極性基を有することで、ポリカーボネート中の極性基と相互作用が生じると推測される。これにより脂肪酸モノアミド化合物(C)が均一に分散され、広範囲の温度変化が繰り返される環境下で使用した後においても、ポリカーボネートの加水分解を阻害し、樹脂成形体の透明性と機械的物性が大きく損なわれることを抑制することができる。
【0025】
前記脂肪酸モノアミド化合物(C)として、例えば、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、べへン酸アミド、モンタン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、N-(2-アミノエチル)パルミチン酸アミド、N-(2-アミノエチル)ステアリン酸アミド、N-(2-アミノエチル)べへン酸アミド、N-(2-アミノエチル)オレイン酸アミド、N-(2-アミノエチル)エルカ酸アミド、N-アミノメチルパルミチン酸アミド、N-アミノメチルステアリン酸アミド、N-アミノメチルべへン酸アミド、N-アミノメチルオレイン酸アミド、N-アミノメチルエルカ酸アミド、N-(2-ヒドロキシエチル)パルミチン酸アミド等、N-(2-ヒドロキシエチル)ステアリン酸アミド、N-(2-ヒドロキシエチル)べへン酸アミド、N-(2-ヒドロキシエチル)オレイン酸アミド、N-(2-ヒドロキシエチル)エルカ酸アミド、N-ヒドロキシメチルパルミチン酸アミド、N-ヒドロキシメチルステアリン酸アミド、N-ヒドロキシメチルべへン酸アミド、N-ヒドロキシメチルオレイン酸アミド、N-ヒドロキシメチルエルカ酸アミド、が挙げられるが、とりわけN-(2-アミノエチル)ステアリン酸アミドが好適に使用される。これらの脂肪酸モノアミド化合物(C)は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0026】
脂肪酸モノアミド化合物(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.01~0.03質量部とする。脂肪酸モノアミド化合物(C)の含有量を0.01質量部以上とすることにより、脂肪酸モノアミドが分子会合しながらポリカーボネート中で均一に分散し、透明性と機械的物性が大きく損なわれることを抑制することができる。この観点からは、脂肪酸モノアミド化合物(C)の含有量を0.015質量部以上とすることが好ましく、0.02質量部以上とすることが更に好ましい。また、脂肪酸モノアミド化合物(C)の含有量を0.03質量部以下に留めることにより、ポリカーボネート樹脂の成形体表面に飽和脂肪酸ビスアミド(B)の油膜を均一に形成することができる。
【0027】
<その他の添加物>
本実施形態に係るポリカーボネート樹脂組成物は、必要に応じ、上記以外の添加物を含有していてもよい。このような添加物としては、潤滑剤、無機難燃剤、有機難燃剤、無機充填剤、有機無機充填剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、分散剤、カップリング剤、発泡剤、着色剤、エンジニアリングプラスチックなどが挙げられる。
【0028】
より具体的には、潤滑剤としては、例えば、鉱油、炭化水素、脂肪酸、アルコール、脂肪酸エステル、金属石けん、天然ワックス、シリコーンなどが挙げられる。
無機難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。
有機難燃剤としては、例えば、ハロゲン系、リン系等の難燃剤などが挙げられる。
無機充填剤としては、例えば、金属粉、タルク、ガラス繊維などが挙げられる。
有機無機充填剤としては、例えば、カーボン繊維、木粉などが挙げられる。
エンジニアリングプラスチックとしては、例えば、ポリエステル、ポリアセタール、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテルなどが挙げられる。
【0029】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、前記ポリカーボネート樹脂(A)、飽和脂肪酸ビスアミド化合物(B)、脂肪酸モノアミド化合物(C)及び任意の前記各種配合剤を混合することによって得られる。混合の方法は、とくに制限はなく、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロール等の混練機を用いて、溶融して混練りする方法等が挙げられる。また、上記の各成分を、任意の順序で添加し混練りしてもよく、同時に添加して混練りしてもよい。混練りする回数は、1回または複数回であってもよい。混練りする時間は、使用する混練機の大きさ等によって異なるが、通常、3~10分程度とすればよい。また、混練機の排出(押出)温度は、200~300℃とすることが好ましく、230~270℃とすることがより好ましい。
【0030】
<樹脂成形品>
本実施形態に係るポリカーボネート樹脂組成物は、熱可塑性樹脂であるため、射出成形や押出し成形などにより、容易に様々な形状に成形することが可能である。本実施形態に係るポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形品は、広範囲の温度変化が繰り返される環境下での使用後において透明性、機械的物性、及び耐擦傷性に優れるため、電気部品、電子部品、機械部品、精密機器部品、生活用品、自動車部品等の広い分野で利用することができる。
【実施例0031】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
<ポリカーボネート樹脂組成物からなる評価材の作製>
実施例1~8及び比較例1~8について表1、表2に記載のポリカーボネート樹脂(A)または(A’)、脂肪酸ビスアミド化合物(B)または(B’)、および脂肪酸モノアミド化合物(C)または(C’)を用い、種類や量を変化させて評価材を作製した。具体的には、各成分を表3、表4に示す各組成でドライブレンドし、二軸押出機(PCM-30:池貝製)にて250℃の設定温度で混練造粒することにより、ポリカーボネート樹脂組成物を得た。得られたポリカーボネート樹脂組成物を射出成形機にてシリンダ温度290℃、金型温度90℃の設定で射出成形し、評価材(80mm×55mm×2mm)を作製した。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
表2中の各成分は以下のとおりである。
B-1:エチレンビスステアリン酸アミド(商品名「アルフロー(登録商標)H-50L」、日油株式会社製、透明融点:145℃);
B’-1:エチレンビスラウリン酸アミド(商品名「スリパックスL」、三菱ケミカル株式会社、融点:157℃);
B´-2:エチレンビスオレイン酸アミド(商品名「アルフロー(登録商標)AD-281F」、日油株式会社製、透明融点:約115℃)

C-1:N-(2-アミノエチル)ステアリン酸アミド
C-2:ステアリン酸アミド(商品名「アルフロー(登録商標)S-10」、日油株式会社製、透明融点:100~105℃)
C-3:エルカ酸アミド(商品名「アルフロー(登録商標)P-10」、日油株式会社製、透明融点:79~84℃)
C’-1:ラウリン酸アミド(商品名「ダイヤミッドY」、三菱ケミカル株式会社製、融点:87℃)
【0035】
各性能の評価方法は以下の通りである。
[評価方法]
<耐擦傷性(学振摩耗試験)の評価>
耐擦傷性(学振摩耗試験)の評価は、学振摩耗試験機((株)YASUDA製、製品名「NO416-TMI」)を用いて、垂直荷重700g、往復回数100回の条件で、上記で得られた評価材と軍手とを擦れ合わせる試験を行い、以下の基準により評価した。下記評価点の値が高いほど、耐擦傷性が良好であり、目標値は4以上とした。
1:傷がつき、摩耗粉が残る
2:傷の面積が75%以上100%未満
3:傷の面積が50%以上75%未満
4:傷の面積が25%以上50%未満
5:傷の面積が25%未満
6:傷が全く観察されない
【0036】
<耐擦傷性(クロスカット試験)の評価>
ERICHSEN製スクラッチテスター430P-2にて、評価材に、荷重2N、ピン形状1mmφ、引っ掻き速度1,000mm/minの条件で、1mm間隔で縦横40本ずつ碁盤目状に傷を付けた。日本電色工業製NDH5000にて、試験片の傷付き前後のHaze値をそれぞれ測定し、その差(ΔHaze)から次のようにランク付けした。
ΔHazeが小さいほど耐擦傷性が良好であり、目標値は〇以上とした。
◎:ΔHazeが0.3未満
〇:ΔHazeが0.3以上0.5未満
△:ΔHazeが0.5以上1.0未満
×:ΔHazeが1.0以上
【0037】
<機械的物性の評価(引張り強さの評価)>
JIS K-7113に準拠し、試験速度50mm/minとして行った。引張り強さの目標値は、50MPa以上とした。
【0038】
<機械的物性の評価(曲げ弾性率の評価)>
JIS K-7203に準拠し、試験速度2mm/minとして行った。曲げ弾性率の目標値は、1.5GPa以上とした。
【0039】
<表面外観の評価>
評価材の表面状態を目視により判定し、次のようにランク付けした。
〇:表面に荒れがなく、平滑で無色透明
×:表面に荒れがあり、非透明(白化、黄変等)
【0040】
<冷熱サイクル試験>
評価材に対して、-10℃で30分、昇温時間1時間、70℃で30分、降温時間1時間を1サイクルとしたものを10サイクル繰り返す条件における冷熱サイクル試験を行い、試験前後での評価材の耐擦傷性(学振摩耗試験、クロスカット試験)、機械的物性(引張り強さ、曲げ弾性率)、表面外観についてそれぞれ評価した。
【0041】
実施例1~8及び比較例1~8に係る評価材についての評価結果を表3、表4に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
[評価結果]
実施例1~8に係る評価材では、冷熱サイクル試験前後において、学振摩耗試験とクロスカット試験による耐擦傷性がいずれも良好であった。
また、実施例1~8に係る評価材では、冷熱サイクル試験前後において、引張り強さがいずれも50MPa以上の大きい値であり、曲げ弾性率もいずれも1.5GPa以上の大きい値であった。
更に、実施例1~8に係る評価材では、冷熱サイクル試験前後において、いずれも成形品表面の荒れがなく、平滑かつ無色透明であった。
【0045】
比較例1は、脂肪酸モノアミド化合物(C)を含まないポリカーボネート樹脂組成物であるため、冷熱サイクル試験後の機械的物性が劣っていた。
比較例2は、ポリカーボネート樹脂(A’)の重量平均分子量が過大なため、表面移行する飽和脂肪酸ビスアミド化合物(B)の量が減少し、冷熱サイクル試験前後の耐擦傷性に劣っていた。
比較例3は、ポリカーボネート樹脂(A’)の重量平均分子量が過小なため、冷熱サイクル試験後において、加水分解により成形体表面に低分子量体が生じ、表面外観の悪化と耐擦傷性の低下が見られた。
【0046】
比較例4は、飽和脂肪酸ビスアミド化合物(B)の含有量が過剰なため、成形体表面で白化が見られ、かつ冷熱サイクル試験後においては、機械的物性の低下も見られた。
比較例5は、飽和脂肪酸ビスアミド化合物(B)の含有量が過少なため、冷熱サイクル試験前後の耐擦傷性に劣っていた。
比較例6は、飽和脂肪酸ビスアミド化合物(B’)中の炭化水素基の炭素数が少ないため、冷熱サイクル試験前後の耐擦傷性に劣っていた。
【0047】
比較例7は、飽和脂肪酸ビスアミド化合物(B)の代わりに不飽和脂肪酸ビスアミド化合物を使用したため、ポリカーボネート樹脂の黄変による表面外観の悪化が見られた。
比較例8は、脂肪酸モノアミド化合物(C’)中の炭化水素基の炭素数が少ないため、ブリードアウトが生じ、表面外観の悪化が見られた。また、冷熱サイクル試験後の機械的物性も低下した。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることは勿論である。