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特開2022-112387ミトコンドリアの機能低下の抑制用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112387
(43)【公開日】2022-08-02
(54)【発明の名称】ミトコンドリアの機能低下の抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/744 20150101AFI20220726BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20220726BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220726BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
A61K35/744
A23L33/135
A61P43/00 105
A61P25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008217
(22)【出願日】2021-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100207907
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 桃子
(72)【発明者】
【氏名】山崎 雄大
(72)【発明者】
【氏名】森田 悠治
【テーマコード(参考)】
4B018
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD86
4B018ME14
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZB21
(57)【要約】
【課題】ミトコンドリアの機能低下を抑制し、ミトコンドリアの機能低下を伴う疾患を治療等する新規な組成物の提供。
【解決手段】本発明によれば、ラクトバチラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌を有効成分として含んでなる、ミトコンドリアの機能低下抑制用組成物と、ミトコンドリアの機能低下を伴う疾患の治療、予防または改善用組成物が提供される。本発明においてミトコンドリアの機能は、膜電位、酸化ストレス、酸素消費速度、基礎呼吸、ATP代謝回転および形態を指標として評価することができる。本発明の組成物は食品組成物およびサプリメントとして提供することができる。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌を有効成分として含んでなる、ミトコンドリアの機能低下の抑制用組成物。
【請求項2】
ミトコンドリアの機能が、細胞呼吸および/またはATP産生である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ミトコンドリアの機能が、膜電位、酸化ストレス、酸素消費速度、基礎呼吸、ATP代謝回転および形態からなる群から選択される1種または2種以上を指標とするものである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
ミトコンドリアが、マクロファージ、樹状細胞、リンパ球およびミクログリアからなる群から選択される1種または2種以上の細胞中のミトコンドリアである、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
ラクトバチラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌を有効成分として含んでなる、ミトコンドリアの機能低下を伴う疾患の治療、予防および/または改善用組成物。
【請求項6】
ミトコンドリアの機能低下を伴う疾患が、神経変性疾患である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
ラクトバチラス・パラカゼイが、ラクトバチラス・パラカゼイKW3110株(FERM BP-08634)である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
食品組成物または医薬組成物である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
食品が、飲料、乳製品、発酵食品、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、保健機能食品または病者用食品である、請求項8に記載の組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミトコンドリアの機能低下の抑制用組成物に関する。本発明はまた、ミトコンドリアの機能低下を伴う疾患の治療、予防または改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリアは、旺盛に酸素を消費しながらアデノシン三リン酸(ATP)を合成するため細胞の呼吸装置とも称される、真核細胞におけるATPの大部分を産生する細胞内小器官である。また、ミトコンドリアは、細胞内カルシウム濃度の調節及びアポトーシスの制御等の多様な機能を持ち、細胞の生存に欠かせない器官である。正常な細胞において、ミトコンドリアは融合と分裂とを絶えず繰り返すことで恒常性を維持している。ミトコンドリアの機能低下は、神経疾患の典型的な特徴の一つであり、神経変性疾患の発症と進行における主要な危険因子であることが報告されている(非特許文献1および2)。
【0003】
これまでに、乳酸菌発酵物を有効成分とする神経変性疾患の治療剤(特許文献1)や、新規乳酸菌の神経変性疾患治療用医薬における使用(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-222601号公報
【特許文献2】特表2020-505031号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sarkar S et al., NPJ Parkinsons Dis., 3:30 (2017)
【非特許文献2】Yuanbo Wu et. Al., Mitochondrion, 49:35-45 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ミトコンドリアの機能低下の抑制に用いるための新規組成物と、ミトコンドリアの機能低下を伴う疾患の治療、予防または改善に用いるための新規組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは今般、マウス由来マクロファージ細胞株においてラクトバチラス・パラカゼイを添加した後、該細胞において炎症を誘導し、細胞内のミトコンドリアの膜電位、酸化ストレスおよび細胞呼吸を評価したところ、ラクトバチラス・パラカゼイを添加しない群と比較して膜電位の低下、酸化ストレスの増加および細胞呼吸の低下がそれぞれ抑制されることを見出した。本発明者らはまた、ラクトバチラス・パラカゼイを添加した後、炎症を誘導したマウス由来マクロファージ細胞株においてミトコンドリアの形態を評価したところ、ラクトバチラス・パラカゼイを添加しない群と比較してミトコンドリアの形態異常が改善されることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0008】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]ラクトバチラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌を有効成分として含んでなる、ミトコンドリアの機能低下の抑制用組成物およびミトコンドリアの機能低下抑制剤。
[2]ミトコンドリアの機能が、細胞呼吸および/またはATP産生である、上記[1]に記載の組成物および剤。
[3]ミトコンドリアの機能が、膜電位、酸化ストレス、酸素消費速度、基礎呼吸、ATP代謝回転および形態からなる群から選択される1種または2種以上を指標とするものである、上記[1]または[2]に記載の組成物および剤。
[4]ミトコンドリアが、マクロファージ、樹状細胞、リンパ球およびミクログリアからなる群から選択される1種または2種以上の細胞中のミトコンドリアである、上記[1]~[3]のいずれかに記載の組成物および剤。
[5]ラクトバチラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌を有効成分として含んでなる、ミトコンドリアの機能低下を伴う疾患の治療、予防および/または改善用組成物並びにミトコンドリアの機能低下を伴う疾患の治療、予防および/または改善剤。
[6]ミトコンドリアの機能低下を伴う疾患が、神経変性疾患である、上記[5]に記載の組成物および剤。
[7]ラクトバチラス・パラカゼイが、ラクトバチラス・パラカゼイKW3110株(FERM BP-08634)である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の組成物および剤。
[8]食品組成物または医薬組成物である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の組成物および剤。
[9]食品が、飲料、乳製品、発酵食品、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、保健機能食品または病者用食品である、上記[8]に記載の組成物および剤。
[10]ラクトバチラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌を有効成分として含んでなる、ミトコンドリアの機能低下の発生および進展のリスクの低減用組成物並びにミトコンドリアの機能低下の発生および進展のリスクの低減剤。
[11]ラクトバチラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌を有効成分として含んでなる、ミトコンドリアの機能低下に起因する疾患の発症リスクの低減用組成物およびミトコンドリアの機能低下に起因する疾患の発症リスクの低減剤。
【0009】
上記[1]~[11]の組成物および剤を本明細書において「本発明の組成物」、「本発明の剤」とそれぞれいうことがある。
【0010】
本発明の組成物および剤は、ミトコンドリアの機能低下の抑制や、神経変性疾患の治療等に有用な機能性食品として利用できるとともに、ヒトを含む哺乳類に安全な機能性食品として利用できる点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、KW3110株がマウス由来マクロファージ細胞株のミトコンドリア膜電位に与える影響を評価した結果を示す(実施例1)。図1Aは、対照群(コントロール)、LPS処理群(LPS)およびLPS処理+KW3110群(LPS+KW3110)の各細胞におけるMitoTracker(登録商標)RedCMXRosの蛍光強度を縦軸(MitoTracker Red)に、MitoTracker(登録商標)Green FMの蛍光強度を横軸(MitoTracker Green)に示した場合の各細胞のプロット図である。折れ線で囲まれた細胞集団は相対的に低膜電位のミトコンドリアを含む細胞を示す。図1Bは、対照群、LPS処理群およびLPS処理+KW3110群の、低膜電位のミトコンドリアを含む細胞(図1Aの折れ線で囲まれた細胞)の全細胞に対する割合を示すグラフである。*は有意差あり(p<0.05)、**は有意差あり(p<0.01)を示す。
図2図2は、KW3110株がマウス由来マクロファージ細胞株のミトコンドリアにおける酸化ストレスに与える影響を評価した結果を示す(実施例2)。図2Aは、対照群(コントロール)、LPS処理群(LPS)およびLPS処理+KW3110群(LPS+KW3110)の各細胞におけるMitoSOX(登録商標)Redの蛍光強度を縦軸(MitoSOX)に、MitoTracker(登録商標)Green FMの蛍光強度を横軸(MitoTracker Green)に示した場合の各細胞のプロット図である。折れ線で囲まれた細胞集団は相対的にミトコンドリアにおける酸化ストレスの度合いが高い細胞を示す。図2Bは、酸化ストレスの度合いが高い細胞の全細胞に対する割合を示すグラフである。**は有意差あり(p<0.01)を示す。
図3図3は、KW3110株がマウス由来マクロファージ細胞株の酸素消費速度変化、基礎呼吸およびATP代謝回転に与える影響を対照群(コントロール)、LPS処理群(LPS)およびLPS処理+KW3110群(LPS+KW3110)において評価した結果を示す(実施例3)。図3Aは酸素消費速度変化への影響、図3Bは基礎呼吸への影響、図3CはATP代謝回転への影響をそれぞれ示す。いずれのグラフも縦軸は対照群におけるステージIの平均酸素消費速度を1とした場合の相対値を示す。**は有意差あり(p<0.01)を示す。
図4図4は、KW3110株がマウス由来マクロファージ細胞株のミトコンドリア形態に与える影響を対照群(コントロール)、LPS処理群(LPS)およびLPS処理+KW3110群(LPS+KW3110)において評価した結果を示す(実施例4)。各図の右下の白線はスケールバー(全長400nm)を示す。
【発明の具体的説明】
【0012】
本発明において有効成分として用いられる乳酸菌は、ラクトバチラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)に属する乳酸菌(以下、「本発明の乳酸菌」ということがある)であり、好ましくは、ラクトバチラス・パラカゼイKW3110株(Lactobacillus paracasei、FERM BP-08634)(以下、単に「KW3110株」ということがある)を用いることができる。
【0013】
本発明に使用される乳酸菌としては、ラクトバチラス・パラカゼイKW3110株と同等の菌株を用いてもよい。ここで、同等の菌株とは、ラクトバチラス・パラカゼイKW3110株から派生する菌株あるいはラクトバチラス・パラカゼイKW3110株が由来する菌株若しくはその菌株の子孫菌株をいう。
【0014】
上記のラクトバチラス・パラカゼイKW3110株は、特許微生物の寄託のためのブダペスト条約に基づく国際寄託当局である、独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に、FERM BP-08634として寄託されている(寄託日:2004年2月20日)。また、ラクトバチラス・パラカゼイKW3110の派生株は、FERM BP-08635として同特許生物寄託センターに寄託されている(寄託日:2004年2月20日)。
【0015】
本発明の組成物および剤は好ましくは、ラクトバチラス・パラカゼイ菌体およびその処理物のいずれかまたは両方を有効成分として含むものである。ラクトバチラス・パラカゼイ菌体は単離形態であっても、培養物の形態であってもよい。
【0016】
ラクトバチラス・パラカゼイの生菌は、培地で培養することにより調製することができる。ラクトバチラス・パラカゼイの培養は、公知の培地を用いた公知の方法で行うことができる。培地としては、M.R.S.培地、GAM培地、LM17培地を用いることができ、適宜無機塩類、ビタミン、アミノ酸、抗生物質、血清等を添加して用いればよい。培養は、25~40℃で数時間~数日行えばよい。培養後、ラクトバチラス・パラカゼイ菌体を遠心分離やろ過により集菌する。
【0017】
ラクトバチラス・パラカゼイの菌体処理物としては、生菌体または死菌体の破砕物(例えば、超音波破砕物)、生菌体または死菌体の乾燥物(例えば、凍結乾燥物)、該乾燥物の破砕物、生菌体または死菌体の酵素処理物等が挙げられる。死菌体は、例えば、加熱処理、抗生物質等の薬物による処理、ホルマリン等の化学物質による処理、紫外線による処理、γ線等の放射線による処理により得ることができる。また、酵素処理物には、乳酸菌の細胞壁を酵素若しくは機械的手段により除去した処理物も含まれる。さらに、ラクトバチラス・パラカゼイの核酸含有画分(例えば、DNA、RNA)もラクトバチラス・パラカゼイの菌体処理物に含まれ、ラクトバチラス・パラカゼイ菌体を界面活性剤等によって溶解した後、エタノール等によって沈殿させて得ることができる。本明細書において「本発明の乳酸菌」は、ラクトバチラス・パラカゼイ菌体およびその処理物を含む意味で用いられるものとする。
【0018】
本発明の組成物および剤は、本発明の乳酸菌単独で提供することができ、あるいは、本発明の乳酸菌と他の成分(例えば、食品原料、食品添加物、サプリメントの原料、製剤添加物)とを混合して提供することもできる。本発明の組成物および剤における本発明の乳酸菌の配合量は、その目的、用途、形態、剤型、症状、体重等に応じて任意に定めることができ、本発明はこれに限定されないが、その含量としては、全体量に対して、0.01~90質量%の含量で配合することができ、さらに好ましくは0.1~50質量%の含量で配合することができる。
【0019】
本発明の第一の面によれば、ラクトバチラス・パラカゼイを有効成分として含有する、ミトコンドリアの機能低下の抑制用組成物(以下、「本発明の抑制用組成物」ということがある)と、ラクトバチラス・パラカゼイを有効成分とする、ミトコンドリアの機能低下抑制剤(以下、「本発明の抑制剤」ということがある)が提供される。
【0020】
ミトコンドリアは、外膜と内膜からなる二重膜構造を有する、真核生物の細胞小器官である。正常細胞において、ミトコンドリアは融合と分裂とを絶えず繰り返すことで恒常性を維持している。細胞内におけるミトコンドリアの主な機能としては、外膜と内膜の電位差を利用したATPの産生が挙げられる。ATP産生においては、細胞が取り込んだ酸素が用いられ、またその過程において二酸化炭素を産生し、ミトコンドリアは細胞における呼吸機能を有している。ミトコンドリアの機能を果たす主要部分はマトリックス空間部分および内膜である。内膜は折りたたまれてクリステ(ひだ状構造)を形成し、この構造により内膜の表面積を増やすことがミトコンドリアの機能(細胞呼吸およびATP産生)において特に重要である。
【0021】
ミトコンドリアの機能低下と、ミトコンドリアの機能低下の抑制は、公知のイン・ビトロまたはイン・ビボでの直接的または間接的な測定方法により評価することができ、例えば、ミトコンドリアの膜電位、酸化ストレス、酸素消費速度、基礎呼吸およびATP代謝回転を測定するか、あるいはミトコンドリアの形態ないし構造を観察することにより評価することができる。ミトコンドリアの機能低下と、ミトコンドリアの機能低下の抑制はまた、細胞内ATP量、電子伝達系酵素複合体若しくは呼吸鎖複合体、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の損傷、変異若しくはコピー数、マイトファジー、または金属イオン代謝等を指標にして評価することができる。
【0022】
ミトコンドリアの形態は後記実施例に記載するように、電子顕微鏡により観察することで評価することができ、その際にはミトコンドリアに特徴的なクリステ構造やミトコンドリアの大きさを指標にして形態ないし構造が正常であるか異常であるかを評価することができる。ミトコンドリアの構造はまた、ミトコンドリアの融合と分裂とのバランスをミトコンドリアの断片化の割合を測定することで評価することができる。例えば、MitoTracker(登録商標)、CellLight(登録商標)またはマウス抗Complex V d-サブユニットモノクローナル抗体の蛍光コンジュゲート(以上、ThermoFisher Scientific社)、Mito Bright LT(同仁化学研究所)等の蛍光試薬を用いて、ミトコンドリアを特異的に染色し、得られた染色像の長さ、面積または蛍光強度等を測定することで、評価することができる。
【0023】
ミトコンドリアの膜電位は、ATPの産生に使用されるミトコンドリアの外膜と内膜の電位差を測定することで評価できる。膜電位は、公知のミトコンドリアの膜電位を検出する試薬等を用いて測定できる。試薬としては、例えば、MitoTracker(登録商標)RedCMXRos(ThermoFisher Scientific社)、MitoTracker(登録商標)Green FM(ThermoFisher Scientific社)、JC-1(同仁化学研究所)を用いることができる。検出方法としては、蛍光顕微鏡(BZ-X;キーエンス社)、ハイコンテント共焦点イメージングシステム(Operetta CLS;Perkinelmer社、Cell Voyger CV8000;横河電機社)、フローサイトメトリー(FACS(登録商標);BD Bioscience社)等を用いることができる。
【0024】
ミトコンドリアにおける酸化ストレスは、公知のスーパーオキシド、ペルオキシルラジカル、過酸化水素、ヒドロキシラジカル若しくはペルオキシナイトライトの原因物質を直接検出する試薬または、酸化型/還元型グルタチオン、一酸化窒素若しくは脂質過酸化化合物等の原因物質の結果生じる物質を検出する試薬等を用いて測定できる。試薬としては、蛍光試薬または比色試薬等が挙げられ、例えば、MitoSOX(登録商標)Red、CellROX(登録商標)Reagents/Kit、Image-iT(登録商標)Lipid Peroxidation Kit、Dihydroethidium、DAF-FM Diacetate、Premo(登録商標)Cellular Hydrogen Peroxide (H2O2) Sensor、ThiolTracker(登録商標)Violet、Monochloro-bimane、Monobromo-bimane、Premo(登録商標)Cellular Redox Sensor, Grx-1-roGFP(以上、ThermoFisher Scientific社)、Cell Meter(登録商標)細胞内トータルROS蛍光測定キット、トータル ROS/Superoxide検出キット、Amplite(登録商標)細胞内過酸化水素蛍光測定キット、Amplite(登録商標)蛍光過酸化水素アッセイキット、Cell Meter(登録商標)細胞内蛍光過酸化水素アッセイキット、過酸化水素検出キット、CELLestial(登録商標)Red 過酸化水素定量キット、OxiSelect(登録商標)過酸化水素/ペルオキシダーゼアッセイキット、OxiSelect(登録商標)TBARSアッセイ、OxiSelect(登録商標)プロテインラジカル測定ELISAキット、一酸化窒素(Nitric Oxide:NO)検出キット(以上、コスモ・バイオ社)、ROS-Glo(登録商標)H2O2 Assay、GSH/GSSG-Glo(登録商標)Assay、GSH-Glo(登録商標)Glutathione AssayまたはGriess Reagent System(以上、Promega社)、MitoPeDPP、Si-DMA(以上、同仁化学研究所)を用いることができる。
【0025】
酸素消費速度ないし酸素消費量は、公知の細胞外フラックスアナライザーを用いた測定方法または細胞外Oセンター等の試薬等を用いた測定方法等により評価することができる。細胞外フラックスアナライザーとしては、例えば、XFe24/XFe96(Agilent Technologies社)を用いることができる。試薬としては、例えば、Oxygen Consumption Rate Assay Kit/MitoXpress-Xtra(フナコシ社)、Mito-ID(登録商標)細胞外Oセンターキット(コスモ・バイオ社)またはExtracellular Oxygen Consumption Assay(Abcam社)を用いることができる。基礎呼吸およびATP代謝回転は、実施例3に記載されるように、平均酸素消費速度を元にして算出することができる。
【0026】
細胞内ATP量は、公知の化学発光法、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法または蛍光プローブを用いたATPイメージング等により測定することで評価することができる。化学発光法としては、例えば、ルシフェリンおよびATPが、ルシフェラーゼにより、オキシルシフェリンに変換されると共に発する光を測定する方法が挙げられる。試薬としては、例えば、Luminescent ATP Detection Assay Kit(abcam社)、Intracellular ATP 測定キット Ver.2、Rhodamine 123(コスモ・バイオ社)またはMitochondrial ToxGlo(登録商標)Assay(プロメガ社)等を用いることができる。
【0027】
電子伝達経酵素複合体または呼吸鎖複合体は、ミトコンドリアに存在するATP産生に関与する複合体、例えば、Complex I(NADHオキシダーゼ/Co-enzyme Qレダクターゼ)、Complex II(コハク酸/Co-enzyme Q レダクターゼ)、Complex III(CoQ シトクロムC オキシドレダクターゼ)、Complex IV(シトクロムC オキシダーゼ)またはComplex V(F1FoATP シンターゼ)等について、酵素活性を測定することで評価できる。試薬としては、例えば、MitoCheck Complex Activity Assay Kit(フナコシ社)等を用いることができる。
【0028】
ミトコンドリアDNA(mtDNA)の損傷、変異またはコピー数は、公知のDNAの測定方法により、評価できる。例えば、リアルタイムPCR法等が挙げられる。試薬としては、例えば、ミトコンドリアDNA損傷解析キット(コスモ・バイオ社)等を用いることができる。
【0029】
マイトファジーは、ミトコンドリアに集積しリソソームと融合して酸性条件下となった際に発色する蛍光試薬を用いることで評価できる。試薬としては、Mitophagy detection kit(同仁化学研究所)、Keima-Red(MBLライフサイエンス社)等を用いることができる。検出方法としては、蛍光顕微鏡(BZ-X;キーエンス社)、ハイコンテント共焦点イメージングシステム(Operetta CLS;Perkinelmer社、Cell Voyger CV8000;横河電機社)、フローサイトメトリー(FACS(登録商標);BD Bioscience社)等を用いることができる。
【0030】
金属イオン代謝は、ミトコンドリアまたは細胞内に取り込まれるカルシウムイオン、鉄(II)イオン等の定量により評価できる。試薬としては、Rhod 2-AM、Mito-FerroGreen、Calcium Kit - Fluo 4、Fura 2(以上、同仁化学研究所)、Calcium Assay Kit (Colorimetric)(Abcam社)等を用いることができる。
【0031】
ミトコンドリアの機能低下は、細菌、ウイルス、寄生虫等の病原体;神経変性疾患等の疾患;加齢;環境中刺激物等のストレスに起因することが知られている。このため、本発明において「ミトコンドリアの機能低下」は、上記ストレスに起因する機能低下を含む意味で用いられるものとする。細菌としては、特に限定されるものではないが、例えば、グラム陰性菌が挙げられ、菌体の全部または一部であってもよく、菌体の一部としては例えばリポ多糖(LPS)が挙げられる。
【0032】
本発明において「ミトコンドリアの機能低下の抑制」は、ミトコンドリアの機能低下の進行を抑制することのみならず、ミトコンドリアの機能の維持や改善を含む意味で用いられるものとする。
【0033】
本発明において「ミトコンドリア」は、例えば、マクロファージ、樹状細胞、リンパ球、ミクログリア等の細胞中のミトコンドリアである。
【0034】
本発明の抑制用組成物および抑制剤は、ミトコンドリアの機能低下が認められる対象に摂取させ、或いは、投与することができる。対象は、例えば、60歳以上、65歳以上あるいは70歳以上の高齢者とすることができる。また、本発明の抑制用組成物および抑制剤の摂取または投与の前に、対象におけるミトコンドリアの機能低下の程度を評価できる。ミトコンドリアの機能低下の程度の評価は上述の方法に従って実施できる。本発明において、ミトコンドリアの機能低下は、マクロファージにおけるミトコンドリアの機能低下とすることができる。
【0035】
本発明の第二の面によれば、ラクトバチラス・パラカゼイを有効成分として含有する、神経変性疾患の治療、予防または改善用組成物(以下、「本発明の治療用組成物」ということがある)と、ラクトバチラス・パラカゼイを有効成分とする、神経変性疾患の治療、予防または改善剤(以下、「本発明の治療剤」ということがある)が提供される。
【0036】
後記実施例に記載されるように、ラクトバチラス・パラカゼイはマクロファージ細胞におけるミトコンドリアの機能低下を抑制する効果を有する。ここで、脳内の免疫細胞でありマクロファージ様の機能も有するミクログリアにおけるミトコンドリアの機能低下により脳内炎症が惹起され、神経変性疾患等が発症ないし進行することが知られている。すなわちミトコンドリアの機能低下は、神経変性疾患における典型的な特徴の一つであり、神経変性疾患等の発症と進行における主要な危険因子であることが報告されている(非特許文献1および2)。したがって、ミトコンドリアの機能低下を抑制することにより神経変性疾患を治療等することができる。また、神経変性疾患以外には、ミトコンドリアの機能低下によりミトコンドリア病が発症することが知られている。ミトコンドリア病は、ミトコンドリアの機能低下を原因とする病気の総称であり、ミトコンドリアの機能低下を抑制することにより治療等することができる。よって、本発明の乳酸菌はミトコンドリアの機能低下を伴う疾患の治療、予防または改善のための有効成分として使用することができる。
【0037】
本発明において「ミトコンドリアの機能低下を伴う疾患」としては神経変性疾患、ミトコンドリア病等が挙げられる。神経変性疾患としては、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体型認知症が挙げられる。ミトコンドリア病としては、例えば、レーベル遺伝性視神経症、リー症候群、ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群が挙げられる。
【0038】
本発明において「ミトコンドリアの機能低下を伴う疾患の治療」は、該疾患またはその症状の進行を抑制することのみならず、該疾患またはその症状の緩和や回復を含む意味で用いられるものとする。
【0039】
本発明の治療用組成物および治療剤は、ミトコンドリアの機能低下を伴う疾患が認められる対象に摂取させ、或いは、投与することができる。対象は、例えば、60歳以上、65歳以上あるいは70歳以上の高齢者とすることができる。また、本発明の治療用組成物および治療剤の摂取または投与の前に、対象におけるミトコンドリアの機能低下の程度を評価できる。ミトコンドリアの機能低下の程度の評価は上述の方法に従って実施できる。本発明において、ミトコンドリアの機能低下は、マクロファージにおけるミトコンドリアの機能低下とすることができる。
【0040】
後記実施例に示される通り、本発明の乳酸菌は、ミトコンドリアの機能低下を抑制する効果を有する。したがって、本発明の組成物および剤は、ミトコンドリアの機能低下の発生および進展のリスクがある対象や、ミトコンドリアの機能低下に起因する疾患の発症リスクがある対象に摂取させ、或いは投与することができ、それにより、ミトコンドリアの機能低下の発生および進展のリスクや、ミトコンドリアの機能低下に起因する疾患の発症リスクを低減することができる。ここで、「ミトコンドリアの機能低下の発生および進展のリスクがある対象」および「ミトコンドリアの機能低下に起因する疾患の発症リスクがある対象」は、ミトコンドリアの機能低下の発生および進展や、ミトコンドリアの機能低下に起因する疾患の自覚症状はないが、将来においてミトコンドリアの機能低下が生じ、進展する恐れがある対象や、ミトコンドリアの機能低下に起因する疾患の発症の恐れがある対象を意味し、例えば、60歳以上、65歳以上あるいは70歳以上の高齢者のような対象が挙げられる。また、「ミトコンドリアの機能低下の発生および進展のリスクの低減」は、ミトコンドリアの機能低下が生ずる確率やミトコンドリアの機能低下が進展する確率が低減されることを意味し、「ミトコンドリアの機能低下に起因する疾患の発症リスクの低減」は、ミトコンドリアの機能低下に起因する疾患の発症確率が低減されることを意味する。すなわち、本発明の第三の面によれば、本発明の乳酸菌を有効成分として含んでなる、ミトコンドリアの機能低下の発生および進展のリスクの低減用組成物およびミトコンドリアの機能低下の発生および進展のリスクの低減剤が提供される。本発明の第三の面によればまた、本発明の乳酸菌を有効成分として含んでなる、ミトコンドリアの機能低下に起因する疾患の発症リスクの低減用組成物およびミトコンドリアの機能低下に起因する疾患の発症リスクの低減剤が提供される。本発明の第三の面の組成物および剤は本発明の第一の面および第二の面の記載に従って実施することができる。
【0041】
本発明の組成物および剤は、医薬品(例えば、医薬組成物)、医薬部外品、食品(例えば、食品組成物)、飼料(ペットフード含む)等の形態で提供することができ、下記の記載に従って実施することができる。
【0042】
本発明の有効成分は、ヒトおよび非ヒト動物に経口投与することができる。経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤が挙げられる。これらの製剤は、当分野で通常行われている手法により、薬学上許容される担体を用いて製剤化することができる。薬学上許容される担体としては、賦形剤、結合剤、希釈剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。
【0043】
本発明の有効成分は、ヒトおよび非ヒト動物に経口摂取させることができ、代表的な摂取形態は食品である。本発明の有効成分を食品として提供する場合には、有効成分をそのまま食品として提供するか、あるいはそれを食品に含有させて提供することができる。このようにして提供された食品は本発明の有効成分を有効量含有した食品である。本明細書において、本発明の有効成分を「有効量含有した」とは、個々の食品において通常喫食される量を摂取した場合に後述するような範囲で本発明の有効成分が摂取されるような含有量をいう。また「食品」とは、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、保健機能食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、特別用途食品(例えば、幼児用食品、妊産婦用食品、病者用食品)およびサプリメントを含む意味で用いられる。また、保険機能食品は、疾病リスク低減表示を付した食品を含む。なお、本発明の有効成分をヒト以外の動物に摂取させる場合には、本発明でいう食品が飼料として使用されることはいうまでもない。
【0044】
本発明の有効成分は、上記のようなミトコンドリアの機能低下の抑制効果や、ミトコンドリアの機能低下を伴う疾患に対する治療等の効果を有するため、日常摂取する食品に含有させることができ、あるいは、サプリメントとして提供することができる。この場合、本発明の組成物および剤は1食当たりに摂取する量が予め定められた単位包装形態で提供することができる。1食当たりの単位包装形態としては、例えば、パック、包装、缶、ボトル等で一定量を規定する形態が挙げられる。本発明の組成物および剤の各種作用をよりよく発揮させるためには、後述する、本発明の有効成分の1日当たりの摂取量に従って1食当たりの摂取量を決定できる。本発明の食品は、摂取量に関する説明事項が包装に表示されるか、あるいは説明事項が記載された文書等と一緒に提供されてもよい。
【0045】
単位包装形態においてあらかじめ定められた1食当たりの摂取量は、1日当たりの有効摂取量であっても、1日当たりの有効摂取量を2回またはそれ以上(好ましくは2または3回)に分けた摂取量であってもよい。従って、本発明の組成物および剤の単位包装形態には、後述のヒト1日当たりの摂取量で本発明の有効成分を含有させることができ、あるいは、後述のヒト1日当たりの摂取量の2分の1から6分の1の量で本発明の有効成分を含有させることができる。本発明の組成物および剤は、摂取の便宜上、1食当たりの摂取量が1日当たりの有効摂取量である、1食当たりの単位包装形態(すなわち、1日当たりの単位包装形態)で提供することが好ましい。
【0046】
「食品」の形態は特に限定されるものではなく、例えば、飲料の形態であっても、半液体やゲル状の形態であっても、固形状や粉末状の形態であってもよい。また、「サプリメント」としては、本発明の有効成分に賦形剤、結合剤等を加え練り合わせた後に打錠して製造した錠剤、本発明の有効成分に賦形剤、結合剤等を加えて造粒化して製造した顆粒剤や口腔内崩壊錠、本発明の有効成分をカプセル等に封入したカプセル剤が挙げられる。サプリメントとして提供するときは、上述の1食当たりあるいは1日当たりの単位包装形態とするほか、1週間当たり、2週間当たり、1ヶ月当たり、あるいは2ヵ月当たりの単位包装形態として提供することも好適である。なお、後者の単位包装形態には、例えば、1食当たりまたは1日当たりの摂取量を表示し、摂取者自身がその表示に従って本発明の有効成分を有効量摂取できるようにすることが望ましい。
【0047】
本発明で提供される食品は、本発明の有効成分を含有する限り、特に限定されるものではないが、例えば、清涼飲料水、炭酸飲料、果汁入り飲料、野菜汁入り飲料、果汁および野菜汁入り飲料、牛乳等の畜乳、豆乳、乳飲料、ドリンクタイプのヨーグルト、ドリンクタイプやスティックタイプのゼリー、コーヒー、ココア、茶飲料、栄養ドリンク、エナジー飲料、スポーツドリンク、ミネラルウォーター、ニア・ウォーター、ノンアルコールのビールテイスト飲料等の非アルコール飲料;飯類、麺類、パン類およびパスタ類等炭水化物含有飲食品;チーズ類、ハードタイプまたはソフトタイプのヨーグルト、畜乳その他の油脂原料による生クリーム、アイスクリーム等の乳製品;クッキー、ケーキ、チョコレート等の洋菓子類、饅頭や羊羹等の和菓子類、ラムネ等のタブレット菓子(清涼菓子)、キャンディー類、ガム類、グミ類、ゼリーやプリン等の冷菓や氷菓、スナック菓子等の各種菓子類;ウイスキー、バーボン、スピリッツ、リキュール、ワイン、果実酒、日本酒、中国酒、焼酎、ビール、アルコール度数1%以下のノンアルコールビール、発泡酒、その他雑酒、酎ハイ等のアルコール飲料;卵を用いた加工食品、魚介類や畜肉(レバー等の臓物を含む)の加工食品(珍味を含む)、味噌汁等のスープ類等の加工食品;みそ、しょうゆ、ふりかけ、その他シーズニング調味料等の調味料;濃厚流動食等の流動食等を例示することができる。なお、ミネラルウォーターは、発泡性および非発泡性のミネラルウォーターのいずれもが包含される。また、本発明で提供される食品には、食品製造原料および食品添加物のいずれもが含まれる。
【0048】
茶飲料としては、発酵茶、半発酵茶および不発酵茶のいずれもが包含され、例えば、紅茶、緑茶、麦茶、玄米茶、煎茶、玉露茶、ほうじ茶、ウーロン茶、ウコン茶、プーアル茶、ルイボスティー、ローズ茶、キク茶、イチョウ葉茶、ハーブ茶(例えば、ミント茶、ジャスミン茶)が挙げられる。
【0049】
果汁入り飲料や果汁および野菜汁入り飲料に用いられる果物としては、例えば、リンゴ、ミカン、ブドウ、バナナ、ナシ、モモ、マンゴー、アサイー、ブルーベリーおよびウメが挙げられる。また、野菜汁入り飲料や果汁および野菜汁入り飲料に用いられる野菜としては、例えば、トマト、ニンジン、セロリ、カボチャ、キュウリおよびスイカが挙げられる。
【0050】
本発明の有効成分の摂取量は、受容者の性別、年齢および体重、症状、摂取時間、剤形、摂取経路並びに組み合わせる薬剤等に依存して決定できる。本発明の有効成分の成人1日当たりの摂取量は、例えば、菌数により特定することができ、その下限値は1×10個、1×10個、1×10個とすることができ、その上限値は1×1011個、1×1012個、1×1013個とすることができる。これらの上限値および下限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記摂取量の範囲は、例えば、1×10~1×1013個、1×10~1×1012個、1×10~1×1011個とすることができる。乳酸菌の菌数は、例えば、蛍光染色法、フローサイトメトリー、培養法により測定することができる。
【0051】
本発明の有効成分の成人1日当たりの摂取量はまた、乾燥菌体質量により特定することができ、その下限値は1mg、10mg、25mgとすることができ、その上限値は1000mg、500mg、100mgとすることができる。これらの上限値および下限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記摂取量の範囲は、例えば、1~1000mg、10~500mg、25~100mgとすることができる。
【0052】
上記の本発明の有効成分の摂取量および下記摂取タイミングおよび摂取期間は、本発明の有効成分を非治療目的および治療目的のいずれで使用する場合にも適用があり、治療目的の場合には摂取は投与に読み替えることができる。なお、本発明の組成物および剤は、ヒト以外の哺乳動物(例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコ等)に対しても摂取させることができ、摂取量、摂取タイミングおよび摂取期間はヒトに関する記載を参考にして決定することができる。
【0053】
本発明の有効成分は、ミトコンドリアの機能低下の抑制効果や、ミトコンドリアの機能低下を伴う疾患に対する治療等の効果を期待する期間内は摂取を継続することが好ましい。本発明の有効成分の摂取期間は、ミトコンドリアの機能低下の抑制効果や、ミトコンドリアの機能低下を伴う疾患に対する治療等の効果をよりよく発揮させる観点から、例えば、上記1日量での摂取を1週間以上、2週間以上、3週間以上、好ましくは1カ月以上(4週間以上)とすることができる。本発明の有効成分の摂取間隔は、上記1日量での摂取を3日に1回、2日に1回または1日1回とすることができ、好ましくは1日1回である。
【0054】
本発明の組成物および剤並びに食品および医薬品には、ミトコンドリアの機能低下の抑制効果や、ミトコンドリアの機能低下を伴う疾患に対する治療等の効果に関する表示が付されてもよい。この場合、消費者に理解しやすい表示とすることができる。これらの飲食品の表示例として以下のようなものの全部または一部が挙げられるが、これに限定されない。
・記憶力を持続する、高める、向上させる、改善する、増強する、サポートする、維持する
・認知機能を持続する、高める、向上させる、改善する、増強する、サポートする、維持する
・注意力を持続する、高める、向上させる、改善する、増強する、サポートする、維持する
・集中力を持続する、高める、向上させる、改善する、増強する、サポートする、維持する
・記憶力の維持に役立つ、低下を防止する
・うっかりを防止する、物忘れを防止する
・記憶の定着を向上させる、記憶の精度を高める
・加齢に伴う記憶の低下を抑制する
【0055】
本発明の別の面によれば、有効量のラクトバチラス・パラカゼイに属する乳酸菌またはそれを含んでなる組成物を、それを必要としている対象に摂取させるか、あるいは投与することを含んでなる、ミトコンドリアの機能低下の抑制方法が提供される。本発明によればまた、有効量のラクトバチラス・パラカゼイに属する乳酸菌またはそれを含んでなる組成物を、それを必要としている対象に摂取させるか、あるいは投与することを含んでなる、ミトコンドリアの機能低下を伴う疾患の治療、予防および/または改善方法が提供される。本発明によればまた、有効量のラクトバチラス・パラカゼイに属する乳酸菌またはそれを含んでなる組成物を、それを必要としている対象に摂取させるか、あるいは投与することを含んでなる、ミトコンドリアの機能低下に起因する疾患の発症リスクの低減方法が提供される。本発明の方法は、本発明の組成物および剤に関する記載に従って実施することができる。
【0056】
本発明の別の面によればまた、ミトコンドリアの機能低下の抑制剤の製造のための、ミトコンドリアの機能低下の抑制剤としての、あるいはミトコンドリアの機能低下の抑制方法における、ラクトバチラス・パラカゼイに属する乳酸菌またはそれを含んでなる組成物の使用が提供される。本発明によればまた、ミトコンドリアの機能低下を伴う疾患の治療、予防および/または改善剤の製造のための、ミトコンドリアの機能低下を伴う疾患の治療、予防および/または改善剤としての、あるいはミトコンドリアの機能低下を伴う疾患の治療、予防および/または改善方法における、ラクトバチラス・パラカゼイに属する乳酸菌またはそれを含んでなる組成物の使用が提供される。本発明によればまた、ミトコンドリアの機能低下に起因する疾患の発症リスクの低減剤の製造のための、ミトコンドリアの機能低下に起因する疾患の発症リスクの低減剤としての、あるいはミトコンドリアの機能低下に起因する疾患の発症リスクの低減方法における、ラクトバチラス・パラカゼイに属する乳酸菌またはそれを含んでなる組成物の使用が提供される。本発明の使用は、本発明の組成物および剤並びに本発明の方法に関する記載に従って実施することができる。
【0057】
本発明のさらに別の面によれば、ミトコンドリアの機能低下の抑制に用いるための、ミトコンドリアの機能低下を伴う疾患の治療、予防および/または改善に用いるための、あるいはミトコンドリアの機能低下に起因する疾患の発症リスクの低減に用いるための、ラクトバチラス・パラカゼイに属する乳酸菌が提供される。上記のラクトバチラス・パラカゼイに属する乳酸菌は、本発明の組成物および剤に関する記載に従って実施することができる。
【0058】
本発明の方法および本発明の使用はヒトを含む哺乳動物における使用であってもよく、治療的使用と非治療的使用のいずれもが意図される。本明細書において、「非治療的」とはヒトを手術、治療または診断する行為(すなわち、ヒトに対する医療行為)を含まないことを意味し、具体的には、医師または医師の指示を受けた者がヒトに対して手術、治療または診断を行う方法を含まないことを意味する。
【実施例0059】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0060】
実施例1:KW3110株がミトコンドリア膜電位に及ぼす効果の確認試験
本実施例では、炎症性刺激を受けたマウス由来マクロファージ細胞株のミトコンドリア膜電位に及ぼすKW3110株の影響を評価した。
【0061】
(1)試験方法および評価方法
(i)ミトコンドリア膜電位の検出方法
ミトコンドリアは外膜と内膜からなる二重膜構造を有しており、外膜と内膜の電位差を利用してエネルギー産生(ATP合成)を行う。正常なミトコンドリアは膜電位が高い状態でありエネルギーを産生する一方、機能が低下したミトコンドリアは膜電位が低下した状態でありエネルギー産生量が減少する。生細胞のミトコンドリアをMitoTracker(登録商標)RedCMXRosおよびMitoTracker(登録商標)Green FM(ThermoFisher Scientific社)を用いて染色した。MitoTracker(登録商標)RedCMXRosは、膜電位に依存して蓄積する度合が変化する赤色蛍光試薬(励起波長:579nm、蛍光波長:599nm)であり、MitoTracker(登録商標)Green FMは膜電位に依存せず集積する緑色蛍光試薬(励起波長:490nm、蛍光波長:516nm)であり、両蛍光試薬の蛍光強度の比によりミトコンドリア膜電位を評価することができる。
【0062】
(ii)試験方法
本試験ではマウス由来マクロファージ細胞株J774A.1(ATCC(American Type Culture Collection)から入手(カタログ番号:TIB-67)、以下同様)を用いた。細胞を培地(Dulbecco’s modified Eagle medium(DMEM)(10% ウシ胎児血清、100U/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシン含有))(GIBCO社)中に細胞数2.5×10個/ウェルで24ウェルプレートに播種し、37℃で1日培養した。これを「対照群」(コントロール)とした。次いで、ウェルプレート中の培養細胞にラクトバチラス・パラカゼイKW3110株加熱死菌体(FERM BP-08634)を1μg/mLとなるように添加し、さらに24時間後にリポ多糖(LPS)(Invivogen社)を0.1μg/mLとなるように添加して24時間培養した。これを「LPS処理+KW3110群」(LPS+KW3110)とした。また、ウェルプレート中の培養細胞にKW3110株を添加せず、上記と同様の手順でLPSを添加して24時間培養した。これを「LPS処理群」(LPS)とした。次いで、すべての群において培地を除去し、MitoTracker(登録商標)Green FM(100nM)およびMitoTracker(登録商標)RedCMXRos(100nM)を含む培地(FluoroBrite DMEM(GIBCO社))を添加し、37℃で15分間培養した。次いで、培地を2種の蛍光試薬を含まないFluoroBrite DMEM培地に交換して、FACS Canto II(BD Biosciences社)を用いてフローサイトメトリー解析を行った。解析ソフトにはFlowJo software(BD Biosciences社)を用いた。本試験では、2種類の蛍光試薬による蛍光強度をもとに細胞集団のプロット図を作成し、膜電位が相対的に低い細胞集団を特定するとともに、膜電位が相対的に低い細胞集団の全細胞に対する割合(%)を算出した。
【0063】
(iii)統計解析
測定値は平均値±標準誤差で表した。一元配置分散分析を行った後にTukeyの検定を行い、p<0.05であった場合に群間に有意差ありとした。
【0064】
(2)結果
結果は、図1に示した通りであった。無添加の細胞群(対照群)と比較して、LPS処理群で低膜電位のミトコンドリアを含む細胞の割合が有意に増加した。一方、LPS処理+KW3110群ではLPS処理群と比較して低膜電位のミトコンドリアを含む細胞の割合が有意に減少した。これらの結果から、マクロファージ細胞においてLPS添加によるミトコンドリアの膜電位の低下はKW3110株の添加により改善されることが明らかとなった。
【0065】
実施例2:KW3110株がミトコンドリア酸化ストレスに及ぼす効果の確認試験
本実施例では、炎症性刺激を受けたマウス由来マクロファージ細胞のミトコンドリアにおける酸化ストレスに及ぼすKW3110株の影響を評価した。
【0066】
(1)試験方法および評価方法
(i)ミトコンドリア酸化ストレスの検出方法
スーパーオキシド、ペルオキシルラジカル、過酸化水素、ヒドロキシラジカルおよびペルオキシナイトライトは、細胞内の核酸、タンパク質および脂質と反応し組織に損傷を与える酸化ストレスである。MitoSOX(登録商標)Red(ThermoFisher Scientific社)は細胞内で速やかにミトコンドリアに局在化し、活性酸素に応じて赤色の蛍光(励起波長:510nm、蛍光波長:580nm)を発する試薬である。以下の試験では、細胞のミトコンドリアをMitoSOX(登録商標)Red(ThermoFisher Scientific社)を用いて染色した。MitoSOX(登録商標)Redの蛍光強度と実施例1記載のMitoTracker(登録商標)Green FMの蛍光強度の比により酸化ストレスを評価することができる。
【0067】
(ii)試験方法
本試験では実施例1と同様のマウス由来マクロファージ細胞株を用いた。実施例1と同様に細胞を24ウェルプレートに播種し、培養した。これを「対照群」(コントロール)とした。次いで、ウェルプレート中の培養細胞にラクトバチラス・パラカゼイKW3110株加熱死菌体(FERM BP-08634)を1μg/mLとなるように添加し、さらに24時間後にLPSを0.1μg/mLとなるように添加して24時間培養した。これを「LPS処理+KW3110群」(LPS+KW3110)とした。また、ウェルプレート中の培養細胞にKW3110株を添加せず、上記と同様の手順でLPSを添加して24時間培養した。これを「LPS処理群」(LPS)とした。次いで、すべての群において培地を除去し、MitoTracker(登録商標)Green FM(100nM)およびMitoSOX(登録商標)Red(5μM)を含む培地を添加し、37℃で15分間培養した。次いで、培地を2種の蛍光試薬を含まないFluoroBrite DMEM培地に交換して、FACS Canto II(BD Biosciences社)を用いてフローサイトメトリー解析を行った。解析ソフトにはFlowJo software(BD Biosciences社)を用いた。本試験では、2種類の蛍光試薬による蛍光強度をもとに細胞集団のプロット図を作成し、酸化ストレスが相対的に高い細胞集団を特定するとともに、酸化ストレスが相対的に高い細胞集団の全細胞に対する割合(%)を算出した。
【0068】
(iii)統計解析
測定値は平均値±標準誤差で表した。一元配置分散分析を行った後にTukeyの検定を行い、p<0.05であった場合に群間に有意差ありとした。
【0069】
(2)結果
結果は、図2に示した通りであった。無添加の細胞群(対照群)と比較して、LPS処理群で酸化ストレスの度合いが高い細胞の割合が有意に増加した。一方、LPS処理+KW3110群ではLPS処理群と比較して酸化ストレスの度合いが高い細胞の割合が有意に減少した。これらの結果から、マクロファージ細胞においてLPS添加によるミトコンドリアの酸化ストレスの増加はKW3110株の添加により改善されることが明らかとなった。
【0070】
実施例3:KW3110株が細胞呼吸に及ぼすの効果の確認試験
本実施例では、炎症性刺激を受けたマウス由来マクロファージ細胞の細胞呼吸に及ぼすKW3110株の影響を評価した。
【0071】
(1)試験方法および評価方法
(i)細胞外フラックスアナライザーを用いた細胞呼吸の評価方法
細胞外フラックスアナライザーは、培養細胞周辺の微小空間における酸素濃度やpHを経時的に測定することで細胞による培地の酸素消費速度、すなわち細胞呼吸を評価する機器である。また、ATP合成酵素阻害剤であるオリゴマイシン、脱共役剤であるカルボニルシアニド-p-トリフルオロメトキシフェニルヒドラゾン(FCCP)並びに呼吸鎖複合体阻害剤であるロテノンおよびアンチマイシンAの混合溶液を順に培地中に添加しながら継続的に酸素消費速度を測定することで、呼吸に関わるミトコンドリアのさまざまな機能を評価することができる。
【0072】
(ii)試験方法
本試験では、実施例1と同様のマウス由来マクロファージ細胞株を用いた。細胞をXFe24細胞培養プレート(Agilent Technologies社)に細胞数1.5×10個/ウェルとなるように播種し、37℃で1日培養した。これを「対照群」(コントロール)とした。次いで、プレート中の培養細胞にラクトバチラス・パラカゼイKW3110株加熱死菌体(FERM BP-08634)を1μg/mLとなるように添加し、さらに24時間後にLPSを0.1μg/mLとなるように添加して24時間培養した。これを「LPS処理+KW3110群」(LPS+KW3110)とした。また、プレート中の培養細胞にKW3110株を添加せず、上記と同様の手順でLPSを添加して24時間培養した。これを「LPS処理群」(LPS)とした。次いで、すべての群において培地を10mMグルコース、1mMピルビン酸、2mMグルタミン含有XF用DMEM培地(Agilent Technologies社)に置換し、37℃、COコントロールなしのインキュベータで1時間培養したのち、酸素消費速度を測定した。測定開始20分後にオリゴマイシン(1μM)、測定開始45分後にFCCP(1μM)、測定開始70分後にロテノン/アンチマイシンA混合溶液(0.5μM)(Agilent Technologies社)を順に添加した。測定開始後0分後、10分後および18分後(ステージI)、27分後、35分後および44分後(ステージII)、52分後、61分後および69分後(ステージIII)並びに78分後、86分後および95分後(ステージIV)に、フラックスアナライザー(XFe24、Agilent Technologies社)にて培地中の細胞の酸素消費速度をそれぞれ測定した。各ステージにつき酸素消費速度を3回測定し3回の測定値の平均値を各ステージの平均酸素消費速度として算出した。基礎呼吸およびATP代謝回転をそれぞれ以下の計算式(I)および(II)にて算出した。
【0073】
[計算式]
基礎呼吸=ステージIの平均酸素消費速度 - ステージIVの平均酸素消費速度・・・(I)
ATP代謝回転=ステージIの平均酸素消費速度 - ステージIIの平均酸素消費速度・・・(II)
【0074】
(2)結果
結果は、図3に示した通りであった。無添加の細胞群(対照群)と比較して、LPS処理群ではいずれの測定時点での酸素消費速度も低下しており、基礎呼吸およびATP代謝回転における酸素消費速度が有意な低下を示した。一方、LPS処理+KW3110群ではLPS処理群と比較していずれの測定時点でも酸素消費速度が増加しており、基礎呼吸およびATP代謝回転における酸素消費速度に増加傾向が認められた。以上の結果から、LPS添加によるマクロファージ細胞の細胞呼吸の低下がKW3110株添加により改善されることが明らかとなった。
【0075】
実施例4:KW3110株がミトコンドリア形態に及ぼす効果の確認試験
本実施例では、炎症性刺激を受けたマウス由来マクロファージ細胞の形態に及ぼすKW3110株の影響を評価した。
【0076】
(1)試験方法および評価方法
(i)透過型電子顕微鏡撮影によるミトコンドリア形態の評価方法
ミトコンドリアの形態評価として透過型電子顕微鏡により細胞内のミトコンドリアを観察した。観察に供するサンプルの調製として化学固定法を用いた。化学固定法は生物試料に対する一般的な固定法の一つであり、細胞や組織中のタンパク質や脂質を、グルタルアルデヒドやパラホルムアルデヒド、四酸化オスミウムなどの固定剤を使って凝固させ、安定にする固定法である。
【0077】
(ii)試験方法
本試験には、実施例1と同様のマウス由来マクロファージ細胞株を用いた。細胞を35mmディッシュに細胞数5.0×10個となるように播種し、37℃で1日培養した。これを「対照群」(コントロール)とした。次いで、ディッシュ中の培養細胞にラクトバチラス・パラカゼイKW3110株加熱死菌体(FERM BP-08634)を1μg/mLとなるように添加し、さらに24時間後にLPSを0.1μg/mLとなるように添加して24時間培養した。これを「LPS処理+KW3110群」(LPS+KW3110)とした。また、ディッシュ中の培養細胞にKW3110株を添加せず、上記と同様の手順でLPSを添加して24時間培養した。これを「LPS処理群」(LPS)とした。次いで、すべての群において培地を除去した後、2%グルタルアルデヒドおよび2%パラホルムアルデヒドを含む0.1Mリン酸緩衝液を添加して4℃で1日培養した。次いで、培地を除去し、2%四酸化オスミウムを含む0.1Mリン酸緩衝液を添加して4℃で1時間培養した。試料をエタノール処理で脱水し、包理剤Quetol-812に移して60℃、48時間反応させた。反応後の試料からダイアモンドナイフで70nm厚の切片を作製し、銅製グリッドにマウントした後、2%酢酸ウラニルで室温15分間染色し、滅菌水で洗浄後に鉛染色液(Sigma社)で室温にて3分間2次染色した。試料は透過型電子顕微鏡JEM-1400Plus(JEOL社)で加速電圧100kVにて観察し、画像はCCDカメラEM-14830RUBY2(JEOL社)で撮影した。
【0078】
(2)結果
マクロファージ細胞のミトコンドリアを撮影した結果は、図4に示した通りであった。対照群のミトコンドリアは楕円形で正常なクリステ構造を有していたが、LPS処理群ではミトコンドリアの形態異常やクリステ構造の崩壊が認められた。一方、LPS処理+KW3110群ではLPS処理群で観察された異常は認められなかった。これらの結果から、マクロファージ細胞においてLPS添加によるミトコンドリアの形態異常がKW3110株の添加により改善されることが明らかとなった。

図1
図2
図3
図4