(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112425
(43)【公開日】2022-08-02
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/10 20120101AFI20220726BHJP
B60K 6/445 20071001ALI20220726BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20220726BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20220726BHJP
B60W 20/30 20160101ALI20220726BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20220726BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20220726BHJP
【FI】
B60W10/10 900
B60K6/445 ZHV
B60K6/52
B60W10/02 900
B60W20/30
B60L15/20 K
B60L15/20 S
B60L50/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008289
(22)【出願日】2021-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】特許業務法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】草部 圭一朗
(72)【発明者】
【氏名】中矢 文平
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA02
3D202AA03
3D202AA05
3D202BB00
3D202BB30
3D202BB32
3D202BB35
3D202BB37
3D202CC06
3D202CC07
3D202CC08
3D202CC09
3D202CC10
3D202CC11
3D202DD05
3D202DD09
3D202DD11
3D202DD12
3D202DD13
3D202DD50
3D202FF02
3D202FF13
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA05
5H125BE05
5H125CA02
5H125CA08
(57)【要約】
【課題】噛合いクラッチによって変速を行う駆動ユニットを備えたものにあっても、車両全体における駆動力の変動が生じることの低減を図ることが可能な車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】車両用駆動装置は、モータを有する前輪駆動ユニットと、それらを制御する制御部とを備えている。また、前輪駆動ユニットは、モータと、出力ギヤとモータとの間に介在されたLoクラッチ及びHiクラッチを備える変速機と、を有している。制御部は、車両の走行モードが車両の加減速を自動で行う特定の走行モードに設定されたとき(S1のYes)、前輪駆動ユニットの変速機においてHi状態を維持するHi固定モードを実行する(S3)。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機と、出力部材と、前記出力部材と前記回転電機との間に介在され、第1速段を形成する噛合いクラッチからなる第1係合要素、及び前記第1速段よりもギヤ比が小さい第2速段を形成する噛合いクラッチからなる第2係合要素を備える変速機と、を有し、車輪に駆動連結される駆動ユニットと、
前記駆動ユニットを制御可能な制御部と、を備え、
前記制御部は、車両の走行モードが車両の加減速を自動で行うモードに設定されたとき、前記駆動ユニットの変速機において前記第2速段を形成した状態を維持する第2速段固定モードを実行する、
車両用駆動装置。
【請求項2】
前記駆動ユニットは、前輪と後輪との一方に駆動連結される第1駆動ユニットであり、
前記回転電機は、第1回転電機であり、
第2回転電機を有し、前記前輪と前記後輪との他方に駆動連結される第2駆動ユニットを備え、
前記制御部は、前記第2速段固定モードの実行中において、駆動力の出力要求がある際に、前記第1駆動ユニット及び前記第2駆動ユニットの両方から駆動力を出力する、
請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記第1駆動ユニットの変速機は、エンジンに駆動連結される第1回転要素、前記第1回転電機に駆動連結される第2回転要素、及び前記第1回転要素と前記第2回転要素との回転に基づき回転される第3回転要素、を備えるプラネタリギヤと、前記第1回転要素、前記第2回転要素、前記第3回転要素のうちの何れか2つを係合可能な第3係合要素と、前記第3回転要素の回転速度を減速する減速ギヤと、を有し、
前記第1係合要素は、前記減速ギヤと前記出力部材とを係合可能であり、
前記第2係合要素は、前記第2回転要素と前記出力部材とを係合可能である、
請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1速段と前記第2速段との間で変速可能な変速可能モードを実行可能であり、
前記第2速段固定モードを解除する条件が成立した際に、前記変速可能モードに移行する、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記車両の加減速を自動で行うモードは、要求駆動力が車両の最大出力性能よりも低い範囲である、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、前輪を駆動する前輪側駆動ユニットと、後輪を駆動する後輪側駆動ユニットとをそれぞれ独立して駆動できるよう備えており、それら両方の駆動ユニットから駆動力を出力することで四輪駆動を可能とするものがある(例えば特許文献1参照)。この特許文献1のものは、後輪側駆動ユニットとして、リヤモータやインホイールモータを有しており、また、前輪側駆動ユニットとして、エンジン、ジェネレータ、及びフロントモータと、それらの駆動力の伝達経路を変更する複数の噛合いクラッチを有する変速機構とを有して構成されている。そして、この特許文献1のものは、特に駆動力が大きく必要なとき(全力加速モード)では、両方の駆動ユニットから駆動力を出力して四輪駆動で走行することが可能となっている。なお、前輪側駆動ユニットにおいては、噛合いクラッチによるLo状態とHi状態との2段変速が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のように一方の駆動ユニットにおいて、噛合いクラッチによって変速を行うものにあっては、その変速中にその駆動ユニットから駆動力が出力できなくなるという問題がある。例えばその駆動ユニットから駆動力を出力する二輪駆動の状態では、変速中にあって駆動ユニットから駆動力が出力できないため、一時的に駆動力の減少が生じ、車両の乗り心地に影響を生じる虞がある。また、例えば両方の駆動ユニットから駆動力を出力する四輪駆動の状態では、一方の駆動ユニットにおける変速中にあって、その駆動ユニットから駆動力が出力できない分、他方の駆動ユニットによって駆動力を補充することも考えられる。しかしながら、その場合でも、前後輪の駆動力配分が変動したり、或いは他方の駆動ユニットにおける駆動力出力性能の限界によって車両全体の駆動力の出力として一時的に減少する駆動力の変動が生じたりする問題が生じ、車両の乗り心地に影響を生じる虞がある。
【0005】
そこで本発明は、噛合いクラッチによって変速を行う駆動ユニットを備えたものにあって、車両全体における駆動力の変動が生じることの低減を図ることが可能な車両用駆動装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
車両用駆動装置の一実施形態として、
回転電機と、出力部材と、前記出力部材と前記回転電機との間に介在され、第1速段を形成する噛合いクラッチからなる第1係合要素、及び前記第1速段よりもギヤ比が小さい第2速段を形成する噛合いクラッチからなる第2係合要素を備える変速機と、を有し、車輪に駆動連結される駆動ユニットと、
前記駆動ユニットを制御可能な制御部と、を備え、
前記制御部は、車両の走行モードが車両の加減速を自動で行うモードに設定されたとき、前記駆動ユニットの変速機において前記第2速段を形成した状態を維持する第2速段固定モードを実行する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、噛合いクラッチによって変速を行う駆動ユニットを備えたものにあっても、車両の走行モードが車両の加減速を自動で行うモードに設定されたときに、車両全体における駆動力の変動が生じる状況を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施の形態に係る車両の構成を模式的に示すブロック図。
【
図2】(A)は本実施の形態に係る前輪駆動ユニットを示すスケルトン図、(B)は前輪駆動ユニットの係合表。
【
図3】本実施の形態に係る車両用駆動装置の変速モード設定制御を示すフローチャート。
【
図4】本実施の形態に係るHi固定モードの開始制御を示すフローチャート。
【
図5】本実施の形態に係るHi固定モードの終了制御を示すフローチャート。
【
図6】(A)は通常変速モードにおける変速線を示す速度線図、(B)はHi固定モードにおける変速線を示す速度線図。
【
図7】Hi固定モードの発進時の走行例を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施の形態に係る車両用駆動装置1について
図1乃至
図7を用いて説明する。
【0010】
[車両の概略構成]
まず、本車両用駆動装置1が搭載される車両100の構成について
図1に沿って説明する。
図1に示すように、車両用駆動装置1が搭載されるハイブリッド自動車である車両100は、図中上方を前進の走行方向としており、大まかに、車両用駆動装置1の各部を制御可能な制御部(ECU)2と、エンジン20と、ハイブリッド駆動装置であり前輪側の駆動ユニットである前輪駆動ユニット10と、その前輪駆動ユニット10に左右のドライブシャフト112L,112Rを介して駆動連結される左右の車輪である前輪110L,110Rと、後輪側の駆動ユニットである後輪駆動ユニット90と、その後輪駆動ユニット90に左右のドライブシャフト113L,113Rを介して駆動連結される左右の車輪である後輪111L,111Rと、車両用駆動装置1の電力を蓄電可能なハイブリッドバッテリユニット(以下、単に「バッテリ」という)101と、を備えている。また、後輪駆動ユニット90は、第2回転電機としてのモータ・ジェネレータ(MG2)であるリヤモータ91と、不図示のディファレンシャル装置とを備えて、後輪111L,111Rの回転を力行又は回生可能に構成されている。
【0011】
[前輪駆動ユニットの構成]
前輪駆動ユニット10は、
図2(A)に示すように、エンジン20に駆動連結される変速機30と、第1回転電機としてのモータ・ジェネレータ(MG1)であるフロントモータ(以下、単に「モータ」という)40と、を備えている。モータ40は、不図示のケースに固定されたステータ41と、ステータ41により力行又は回生されるロータ42とを備えており、ロータ42のロータ軸42aは、変速機30のモータギヤ列45に駆動連結されている。モータギヤ列45は、ロータ軸42aに固定された出力ギヤ43と、その出力ギヤ43に噛合したアイドラギヤ44とを有しており、アイドラギヤ44は後述のプラネタリギヤPRのリングギヤRに駆動連結された第2カウンタギヤ35に噛合している。
【0012】
変速機30は、エンジン20の出力軸と同軸上に、大まかに、ダンパ装置31、エンジン切離しクラッチK-0、第1クラッチC-1、プラネタリギヤPRを備えており、それらと平行な別軸上に、上記モータギヤ列45、カウンタギヤ部50、ディファレンシャル装置60を備えて構成されている。
【0013】
ダンパ装置31は、エンジン20の出力軸11に駆動連結され、エンジン20の爆発振動を吸収しつつ入力軸32にエンジン20の回転を伝達する。エンジン切離しクラッチK-0は、係合することで入力軸32と中間軸33とを駆動連結してエンジン20の回転を中間軸33に伝達し、解放されることで中間軸33からエンジン20の駆動連結を切離す。中間軸33は、プラネタリギヤPRのサンギヤSに駆動連結されている。
【0014】
プラネタリギヤPRは、サンギヤS(第1回転要素)と、リングギヤR(第2回転要素)と、これらサンギヤS及びリングギヤRに噛合するピニオンPを回転自在に支持するキャリヤCR(第3回転要素)と、を有するシングルピニオンプラネタリギヤで構成されている。このうちのサンギヤSは、上述したように中間軸33、エンジン切離しクラッチK-0、ダンパ装置31を介してエンジン20に駆動連結される。また、リングギヤRは、第2カウンタギヤ35に駆動連結されており、上記モータギヤ列45を介してモータ40に駆動連結される。さらに、キャリヤCRは、第2カウンタギヤ35よりも小径な第1カウンタギヤ34に駆動連結されている。そして、第1クラッチC-1(第3係合要素)は、噛合いクラッチからなり、キャリヤCRに駆動連結されたギヤCRGの外周を軸方向にスライド移動することで、リングギヤRに駆動連結されたギヤRGに噛合可能に構成されており、つまりキャリヤCRとリングギヤRとを係合可能に構成されている。なお、第1クラッチC-1は、リングギヤRとキャリヤCRとを係合するものに限らず、サンギヤS、キャリヤCR、リングギヤRの何れか2つを係合可能に構成されていればよい。
【0015】
カウンタギヤ部50は、カウンタ軸53と、固定ギヤ51と、第1カウンタドリブンギヤ36と、第1カウンタドリブンギヤ37と、スリーブ52を含む第2クラッチC-2と、出力ギヤ55とを有して構成されている。固定ギヤ51は、カウンタ軸53に回転不能にかつ軸方向移動不能に固定されて駆動連結されており、スリーブ52が軸方向にスライド移動自在に噛合されている。また、第1カウンタドリブンギヤ36は、カウンタ軸53に対して回転自在に支持され、上記第1カウンタギヤ34に噛合され、つまりキャリヤCRの回転を減速する減速ギヤを構成している。第2カウンタドリブンギヤ37は、同様に、カウンタ軸53に対して回転自在に支持され、第1カウンタドリブンギヤ36よりも小径に形成されて上記第2カウンタギヤ35に噛合される。一方、出力部材としての出力ギヤ55は、カウンタ軸53に駆動連結されており、後述のディファレンシャル装置60のデフリングギヤ61に噛合している。そして、上記第2クラッチC-2は、図示を省略した駆動モータ等によってスリーブ52を軸方向にスライド移動させ、第1カウンタドリブンギヤ36に駆動連結されたLoギヤ38に噛合う位置に移動することでLo状態(第1速段)を形成するLoクラッチL(第1係合要素)を構成し、第2カウンタドリブンギヤ37に駆動連結されたHiギヤ39に噛合う位置に移動することでHi状態(第2速段)を形成するHiクラッチH(第2係合要素)を構成している。なお、これらLoクラッチLとHiクラッチHとは、モータ40と出力ギヤ55との間に介在していると言える。
【0016】
ディファレンシャル装置60は、デフリングギヤ61と、そのデフリングギヤ61に駆動連結されたピニオンギヤ62P1,62P2と、それらピニオンギヤ62P1,62P2に噛合され、それぞれ左右のドライブシャフト112L,112Rに駆動連結されたサイドギヤ62SL,62SRと、を有しており、サイドギヤ62SL,62SRの差回転を吸収しつつデフリングギヤ61の回転を左右のドライブシャフト112L,112R(前輪110L,110R)に伝達するように構成されている。
【0017】
[車両用駆動装置の動作]
ついで、車両用駆動装置1の動作について、
図1を参照しつつ
図2(A)及び
図2(B)を用いて説明する。本車両用駆動装置1は、後述するシリーズモード以外、基本的に制御部2から駆動力の出力要求がある場合は前輪駆動ユニット10と後輪駆動ユニット90とによって駆動力を出力し、或いは減速要求がある場合は前輪駆動ユニット10と後輪駆動ユニット90とによって駆動力を回生し、つまり四輪駆動で車両100を走行させるものである。また、後輪駆動ユニット90において、リヤモータ91の出力可能な駆動力性能が高いため、前輪駆動ユニット10において、エンジン20の回転又はモータ40の回転を減速するLo状態で走行する必要性は、勾配が大きい登坂路、全開に近い急加速等の限られた状態となるものである。以下、後輪駆動ユニット90(リヤモータ91)は要求駆動力に応じて適宜に駆動力が制御されているものとして、前輪駆動ユニット10の各モードの動作について説明する。
【0018】
(電気トルクコンバータモード)
例えば運転者によりアクセルが大きく踏まれ、つまり要求駆動力が大きい状態で車両100を発進させる際は、制御部2は、電気トルクコンバータモード(eT/C)を選択し、エンジン20を駆動すると共に、エンジン切離しクラッチK-0を係合し、第2クラッチC-2をLo状態にする。これにより、エンジン20の駆動回転がプラネタリギヤPRのサンギヤSに入力され、一方、モータ40で回生してリングギヤRに反力を付与しつつトルク制御又は回転数制御でリングギヤRの回転速度を制御することで、キャリヤCRの回転速度が停止状態から回転状態となるように制御され、第1カウンタギヤ34からカウンタギヤ部50、ディファレンシャル装置60に減速回転が伝達されて前輪110L,110Rに出力される。なお、このようにエンジン20の回転を伝達しつつキャリヤCRの回転を停止状態から回転状態となるまでモータ40とプラネタリギヤPRとによってトルクコンバータ(流体伝動装置)のように制御可能であるので、このモードを電気トルクコンバータモードという。
【0019】
(ハイブリッド1速モード)
続いて、例えば要求駆動力が大きい状態でバッテリ101の充電残量が少ない場合等では、制御部2は、ハイブリッド1速モード(HV 1st)を選択し、エンジン20を駆動すると共に、エンジン切離しクラッチK-0を係合し、かつ第1クラッチC-1を係合し、第2クラッチC-2をLo状態にする。第1クラッチC-1が係合されると、プラネタリギヤPRのキャリヤCRとリングギヤRとが係合されてプラネタリギヤPRは直結状態となって一体回転する。これにより、エンジン20の駆動力はモータ40によってアシスト又は回生されながら、エンジン20の回転がそのままキャリヤCRから出力され、第1カウンタギヤ34からカウンタギヤ部50、ディファレンシャル装置60にLo状態の減速回転が伝達されて前輪110L,110Rに出力される。
【0020】
(ハイブリッド2速モード)
次に、例えば要求駆動力が小さい状態となりバッテリ101の充電残量が少ない場合等では、制御部2は、ハイブリッド2速モード(HV 2nd)を選択し、エンジン20を駆動すると共に、エンジン切離しクラッチK-0を係合し、かつ第1クラッチC-1を係合し、第2クラッチC-2をHi状態にする。上述したように第1クラッチC-1が係合されると、プラネタリギヤPRのキャリヤCRとリングギヤRとが係合されてプラネタリギヤPRは直結状態となって一体回転する。これにより、エンジン20の駆動力はモータ40によってアシスト又は回生されながら、エンジン20の回転がそのままリングギヤRから出力され、第2カウンタギヤ35からカウンタギヤ部50、ディファレンシャル装置60にHi状態の回転が伝達されて前輪110L,110Rに出力される。
【0021】
(EV1速モード)
ついで、例えば要求駆動力が大きい状態でバッテリ101の充電残量が十分にある場合等では、制御部2は、EV1速モード(EV 1st)を選択し、エンジン20を停止すると共に、エンジン切離しクラッチK-0を解放し、かつ第1クラッチC-1を係合し、第2クラッチC-2をLo状態にする。上述したように第1クラッチC-1が係合されると、プラネタリギヤPRのキャリヤCRとリングギヤRとが係合されてプラネタリギヤPRは直結状態となって一体回転する。これにより、モータ40の回転がそのままキャリヤCRから出力され、第1カウンタギヤ34からカウンタギヤ部50、ディファレンシャル装置60にLo状態の減速回転が伝達されて前輪110L,110Rに出力される。
【0022】
(EV2速モード)
そして、例えば要求駆動力が小さい状態でバッテリ101の充電残量が十分にある場合等では、制御部2は、EV2速モード(EV 2nd)を選択し、エンジン20を停止すると共に、エンジン切離しクラッチK-0を解放し、かつ第1クラッチC-1を係合し、第2クラッチC-2をHi状態にする。上述したように第1クラッチC-1が係合されると、プラネタリギヤPRのキャリヤCRとリングギヤRとが係合されてプラネタリギヤPRは直結状態となって一体回転する。これにより、モータ40の回転がそのままリングギヤRから出力され、第2カウンタギヤ35からカウンタギヤ部50、ディファレンシャル装置60にLo状態の減速回転が伝達されて前輪110L,110Rに出力される。
【0023】
(シリーズモード)
なお、例えば要求駆動力が小さい状態でバッテリ101の充電残量が少ない場合等では、制御部2は、シリーズモード(Series)を選択することもできる。シリーズモードでは、エンジン20を駆動すると共に、エンジン切離しクラッチK-0を係合し、かつ第1クラッチC-1を係合し、第2クラッチC-2をニュートラル状態(N)にする。上述したように第1クラッチC-1が係合されると、プラネタリギヤPRのキャリヤCRとリングギヤRとが係合されてプラネタリギヤPRは直結状態となって一体回転する。これにより、エンジン20の回転がそのままリングギヤRからモータ40に伝達され、モータ40を発電機としてバッテリ101の充電が行われる。なお、第2クラッチC-2がニュートラル状態であるので、エンジン20又はモータ40の回転は前輪110L,110Rに伝達されることはない。車両100の走行は、バッテリ101に充電された電力でリヤモータ91が駆動されることで後輪111L,111Rが駆動されることで行われ、所謂シリーズハイブリッド形式の走行が可能となる。
【0024】
[車両用駆動装置の変速モード設定制御]
ついで、車両用駆動装置1において変速モードを設定する変速モード設定制御について
図3を用いて説明する。制御部2は、例えば車両100の電源(スタートスイッチ)がONとなると、本変速モード設定制御を開始し、
図3に示すように、まず、車両100のモードが特定の走行モードであるか否かを判定する(S1)。ここで、車両100のモードとは、車両100の走行に関して運転者により選択されるモードであり、例えば不図示の車両制御部において車両100に対して設定されるモードであって、車両用駆動装置1の制御部2に不図示の車両制御部からモードに関する信号が送信されてくるものである。
【0025】
また、車両100のモードの具体例としては、「車両100の燃費(電費)低減を優先するエコモード」、「前輪110L,110R及び後輪111L,111Rのスリップ発生の低減を優先するスノーモード」、「前方車両がある場合に車速を前方車両に合わせることが可能なクルーズコントロールモード」、「車両制御部が運転者に代わって車両100の運転を行う自動運転モード」等が挙げられる。
【0026】
このうち、「クルーズコントロールモード」や「自動運転モード」は、車両の加減速を車両制御部からの信号で制御部2が要求駆動力(要求減速度)を自動的に行うモードであり、本実施の形態において、車両100のモードのうちの特定の走行モードは、これら「クルーズコントロールモード」や「自動運転モード」を指す。この特定の走行モードは、不図示の車両制御部から車両用駆動装置1に要求される最大駆動力が最大出力性能よりも低い範囲に設定されるモードであり、上述した車両用駆動装置1のモードとして、ハイブリッド2速モード又はEV2速モードだけが選択される状態となっても十分に制御部2やドライバの要求通りの駆動力を出力できるモードである。
【0027】
制御部2は、不図示の車両制御部において車両のモードが上記特定の走行モードに設定されていないと判断した場合(S1のNo)、車両用駆動装置1のモードを、変速機30においてLo状態とHi状態との間で変速可能な変速可能モードである通常変速モードに設定する(S2)。この通常変速モードにおいては、上記前輪駆動ユニット10のモードとして、
図2(B)に示す全てのモードの中から、要求駆動力(アクセル開度)、車速、バッテリ101の残量等に基づき自動的に選択して切換えつつ車両100の走行を行う。
【0028】
この通常変速モードでは、Lo状態とHi状態との切換え、即ち、エンジン20の駆動中においてハイブリッド1速モードとハイブリッド2速モードとの切換えと、エンジン20の停止中においてEV1速モードとEV2速モードとの切換えは、
図6(A)の変速マップに基づき行われる。即ち、
図6(A)に示すように、要求駆動力と車速との関係において、現在の要求駆動力及び車速が、アップ変速線CHHを低速側から高速側に越えるとLo状態からHi状態へのアップシフト変速を判断し、第2クラッチC-2のスリーブ52が、Loギヤ38からニュートラル状態を経てHiギヤ39に噛合するようにスライド移動され、Lo状態からHi状態に切換えられる。反対に、現在の要求駆動力及び車速が、ダウン変速線CHLを高速側から低速側に越えるとHi状態からLo状態へのダウンシフト変速を判断し、第2クラッチC-2が、Hi状態からニュートラル状態を経てLo状態に切換えられる。
【0029】
一方、
図3に示すように、不図示の車両制御部において車両のモードが上記特定の走行モードに設定されたと判断した場合(S1のYes)、車両用駆動装置1のモードを第2速段固定モードであるHi固定モードに設定して実行する(S3)。このHi固定モードにおいては、上記前輪駆動ユニット10のモードとして、
図2(B)に示す全てのモードのうちの、ハイブリッド2速モードとEV2速モードとの中から、要求駆動力(アクセル開度)、車速、バッテリ101の残量等に基づき自動的に選択して切換えつつ車両100の走行を行う。
【0030】
このHi固定モードでは、
図6(B)の変速マップが用いられることで、Lo状態とHi状態との切換えが禁止され、即ち、エンジン20の駆動中においてはハイブリッド2速モードに、エンジン20の停止中においてはEV2速モードに固定される。即ち、
図6(B)に示すように、要求駆動力と車速との関係において、アップ変速線CHH及びダウン変速線CHLは車速が0となるように設定され、現在の要求駆動力及び車速がどの値であっても、アップ変速線CHH及びダウン変速線CHLを越えることがなく、第2クラッチC-2がHiギヤのまま固定される。このように、車両用駆動装置1において、変速機30の第2クラッチC-2は、Hi状態に固定された状態となり、換言すると、HiクラッチH(第2係合要素)の係合状態に固定して、Hi状態(第2変速段を形成した状態)を維持することになる。
【0031】
そして、不図示の車両制御部において車両のモードが上記特定の走行モードに設定されている状態から、上記特定の走行モードに設定されていない状態になったと判断した場合(S1のNo)、つまりHi固定モードを解除する条件が成立したものとして、車両用駆動装置1のモードを上記通常変速モードに移行し、つまり通常変速モードに戻す。
【0032】
[Hi固定モードの開始制御]
上述した変速モード設定制御において、通常変速モードが設定された状態(S2)からHi固定モードが選択された状態(S3)となると、
図4に示すHi固定モードの開始制御が実行される。すると、まず、制御部2は、Hi固定モードの開始要求(要求フラグ)を設定した状態とし(S11)、変速機30の第2クラッチC-2がHi状態であるか否かを判定する(S12)。第2クラッチC-2がHi状態であった場合は(S12のYes)、開始要求状態(要求フラグ)を解除して、そのままHi固定モードを開始する(S17)。
【0033】
一方、第2クラッチC-2がHi状態でない場合、即ちLo状態であった場合は(S12のNo)、Lo状態で前輪駆動ユニット10から前輪110L,110Rに出力している駆動力が、Hi状態に変速した場合の駆動力を越えていると、アップシフト変速した際に駆動力の落差があり、変速ショックが生じるため、ハイブリッド1速モードである場合はエンジン20が出力する駆動力を下げ(或いはモータ40の回生力を大きくしてもいい)、EV1速モードである場合はモータ40が出力する駆動力を下げるために要求駆動力を下げる駆動力制限制御を開始する(S13)。なお、ここで言う要求駆動力を下げるという現象は、アクセル開度に応じて要求駆動力を決定していた状態から、クルーズコントロール或いは自動運転によって決定される要求駆動力に切換えて、その要求駆動力を下げる制御を行う場合や、エコモードやスノーモードによってアクセル開度(アクセルペダルの踏込み量)よりも一定量或いは一定の割合で要求駆動力を制限するように下げる制御を行う場合を指している。
【0034】
続いて、駆動力制限制御の開始によって要求駆動力がHi状態に変速した場合の駆動力に下がるまで待機し(S14のNo)、要求駆動力がHi状態に変速した場合の駆動力まで下がると(S14のYes)、実際にアップシフト変速の制御を開始し(S15)、第2クラッチC-2のスリーブ52が、Loギヤ38からニュートラル状態を経てHiギヤ39に噛合するようにスライド移動され、Lo状態からニュートラル状態を経てHi状態に切換えられていく。そして、スリーブ52のスライド移動が完了するまで、つまりアップシフト変速が完了するまで待機し(S16のNo)、アップシフト変速が完了すると(S16のYes)、Hi固定モードを開始する(S17)。
【0035】
[Hi固定モードの終了制御]
上述した変速モード設定制御において、Hi固定変速モードが設定された状態(S3)から通常変速モードが選択された状態(S2)となると、
図5に示すHi固定モードの終了制御が実行される。すると、まず、制御部2は、Hi固定モードの終了要求(要求フラグ)を設定した状態とし(S21)、現在の要求駆動力がHi状態の駆動力よりも小さいか否かを判定する(S22)。なお、ここで言う要求駆動力は、運転者により要求される本来の駆動力を指し、このステップS22では、例えば車両の走行モードがクルーズコントロールモードや自動運転モードであった場合に制御部が自動的に決定していた要求駆動力から、或いは車両の走行モードがエコモードやスノーモードであった場合に制御部が駆動力を制限するように制御していた要求駆動力から、アクセル開度に基づく要求駆動力に切換えたことによって、Hi状態の駆動力よりも大きくなったか否かを判定している。
【0036】
現在の要求駆動力がHi状態の駆動力よりも小さい場合は(S22のYes)、そのままHi状態であっても運転者の要求駆動力通りの駆動力を出力することができるので、そのままHi固定モードを終了する(S23)。一方、現在の要求駆動力がHi状態の駆動力よりも小さくない場合、つまり現在の要求駆動力がHi状態で出力可能な最大駆動力よりも大きい場合は(S22のNo)、ダウンシフト変速を開始し(S24)、第2クラッチC-2のスリーブ52が、Hiギヤ39からニュートラル状態を経てLoギヤ38に噛合するようにスライド移動され、Hi状態からニュートラル状態を経てLo状態に切換えられていく。そして、スリーブ52のスライド移動が完了するまで、つまりダウンシフト変速が完了するまで待機し(S25のNo)、ダウンシフト変速が完了すると(S25のYes)、Hi固定モードを終了する(S23)。
【0037】
[Hi固定モードの発進時の走行例]
ついで、上述したように車両用駆動装置1がHi固定モードに設定された状態で、車両100を発進させる際の走行例を
図7に沿って説明する。なお、本走行例では、例えば車両のモードが自動運転モードに設定されたものとして説明する。また、前輪駆動ユニット10のモードは、EV2速モードに設定されているものとして説明する。
【0038】
車両用駆動装置1がHi固定モードに設定されている状態では、前輪駆動ユニット10の変速段(ギヤ)としてHi状態に固定されて第2クラッチC-2がHi状態に切換えられており、その状態で車両100が停車している場合は、前輪駆動ユニット10の出力回転速度Nout10(つまり前輪110L,110Rの回転速度)は0であり、後輪駆動ユニット90の出力回転速度Nout90(つまり後輪111L,111Rの回転速度)も0である。
【0039】
例えば時点t1に不図示の車両制御部が車両の発進を判断し、制御部2に要求駆動力の上昇を指令すると、前輪駆動ユニット10の駆動力T10と後輪駆動ユニット90の駆動力T90との合力が時点t2までに要求駆動力となるように上昇される。このように前輪駆動ユニット10の駆動力T10と後輪駆動ユニット90の駆動力T90とが上昇されると、車両100の加速度Acc100も上昇し、車両100が発進されて、前輪駆動ユニット10の出力回転速度Nout10及び後輪駆動ユニット90の出力回転速度Nout90も上昇される。なお、
図7において、これら出力回転速度Nout10と出力回転速度Nout90とは、ディファレンシャル装置のギヤ比の違いや車輪の外径の大きさの違い等により僅かに差が生じているが、これらに差が無い場合は同じ値となる。
【0040】
車両100が発進された後、時点t2に、要求駆動力が下降勾配に設定されると、前輪駆動ユニット10の駆動力T10と後輪駆動ユニット90の駆動力T90とは徐々に下降し、車両100の加速度Acc100も下降するが、駆動力が出力されているので、車両100の車速は僅かに上昇していき、前輪駆動ユニット10の出力回転速度Nout10及び後輪駆動ユニット90の出力回転速度Nout90が上昇されていく。このように、Hi状態で車両100が発進されるので、Lo状態からHi状態への変速は生じず、前輪駆動ユニット10の駆動力T10に変動が生じることはなく、従って、前後輪の駆動力配分が変動したり、車両100の加速度Acc100が変速によって変動したりすることがなく、車両の乗り心地に影響が生じることがない。
【0041】
[本実施の形態のまとめ]
以上説明したように、本車両用駆動装置1は、車両が車両の加減速を自動で行うモードである特定の走行モードに設定されたとき、前輪駆動ユニット10の変速機30においてHi状態を維持するHi固定モードを実行するので、前輪駆動ユニット10の駆動力T10に変速による変動が生じることがなく、前後輪の駆動力配分が変動したり、車両100の加速度Acc100が変速によって変動したりする状況を低減することができ、変速によって車両の乗り心地に影響が生じることの低減を図ることができる。
【0042】
また、本車両用駆動装置1は、Hi固定モードの実行中において、駆動力の出力要求がある際には、前輪駆動ユニット10及び後輪駆動ユニット90の両方から駆動力を出力する四輪駆動で走行するので、仮に前輪駆動ユニット10で変速を実行すると、前後輪の駆動力配分の変動や駆動力の変動が生じてしまうが、前輪駆動ユニット10で変速が生じないので、前後輪の駆動力配分の変動や駆動力の変動の発生を低減することができる。
【0043】
[他の実施の形態の可能性]
以上説明した本実施の形態においては、前輪駆動ユニット10がLo状態とHi状態との2段変速を行うもので、後輪駆動ユニット90が変速を行わないものとして説明したが、反対に、後輪駆動ユニット90が2段変速を行うもので、前輪駆動ユニット10が変速を行わないものでもよい。換言すると、第1駆動ユニットが前輪と後輪の一方に駆動連結され、第2駆動ユニットが前輪と後輪の他方に駆動連結されていればよい。
【0044】
また、本実施の形態においては、変速機30がLo状態とHi状態との2段変速を行うものとして説明したが、これに限らず、3段以上に変速するものであっても構わない。この場合、車両の停車中から発進が可能で、かつある程度の車速で走行可能な変速段であれば、2速段以上のどの変速段に固定しても構わない。
【0045】
また、本実施の形態においては、車両用駆動装置1が常時四輪駆動(所謂フルタイム四輪駆動)を行うものとして説明したが、一時的に四輪駆動となるもの(所謂パートタイム四輪駆動)であっても構わない。特に、駆動力を出力する際に四輪駆動となり回生時には二輪駆動となるものや、急加速時に四輪駆動となり緩加速時には二輪駆動となるものであっても構わない。
【0046】
また、本実施の形態においては、前輪駆動ユニット10がエンジン20とモータ40とを駆動源とするハイブリッド駆動装置であるものを説明したが、エンジン20を搭載せず、モータ40だけを駆動源とする、所謂四輪駆動の電気自動車であっても構わない。また、本実施の形態で説明したハイブリッド駆動装置としての車両用駆動装置1は2段変速を行う車両用駆動装置の一例であり、例えばスプリットタイプ、パラレルタイプ、それらの混合タイプなど、ハイブリッドシステムのタイプはどのようなものであってもよい。
【0047】
また、本実施の形態において車両の走行モードとして説明したモードは一例であり、変速機30の変速段を固定することが可能で、かつ要求駆動力の出力に応じられることが可能なモードであれば、どのようなモードであってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…車両用駆動装置/2…制御部/10…前輪駆動ユニット(第1駆動ユニット)/20…エンジン/30…変速機/36…第1カウンタドリブンギヤ(減速ギヤ)/40…モータ(第1回転電機)/55…出力ギヤ(出力部材)/90…後輪駆動ユニット(第2駆動ユニット)/91…リヤモータ(第2回転電機)/110L,110R…前輪/111L,111R…後輪/L…Loクラッチ(第1係合要素)/H…Hiクラッチ(第2係合要素)/S…サンギヤ(第1回転要素)/R…リングギヤ(第2回転要素)/CR…キャリヤ(第3回転要素)/PR…プラネタリギヤ/C-1…第1クラッチ(第3係合要素)