(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112426
(43)【公開日】2022-08-02
(54)【発明の名称】金または金合金エッチング液組成物およびエッチング方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/308 20060101AFI20220726BHJP
C23F 1/14 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
H01L21/308 F
C23F1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008291
(22)【出願日】2021-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】591045677
【氏名又は名称】関東化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柏木 一樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 勇喜
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩一
(72)【発明者】
【氏名】川島 伊織
【テーマコード(参考)】
4K057
5F043
【Fターム(参考)】
4K057WA11
4K057WA20
4K057WB01
4K057WE30
4K057WG10
4K057WN01
5F043AA25
5F043BB17
5F043DD13
5F043EE07
5F043EE08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】金膜および金合金膜を有する基板に対する濡れ性および微細加工性に優れ、また液寿命が長いN-メチル-2-ピロリジノン(NMP)を含有しない、金または金合金エッチング液およびエッチング方法を提供することである。
【解決手段】ヨウ素、ヨウ化物、有機溶媒および水を含む金または金合金のエッチング液であって、有機溶剤が、3‐メトキシ‐N,N‐ジメチルプロパンアミド、3‐ブトキシ‐N,N‐ジメチルプロパンアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,2‐エタンジオール、1,4‐ブタンジオールおよび2,3‐ブタンジオールからなる群から1種または2種以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素、ヨウ化物、有機溶媒および水を含むこと特徴とする金または金合金のエッチング液であって、有機溶剤が、3‐メトキシ‐N,N‐ジメチルプロパンアミド、3‐ブトキシ‐N,N‐ジメチルプロパンアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,2‐エタンジオール、1,4‐ブタンジオールおよび2,3‐ブタンジオールからなる群から1種または2種以上であることを特徴とする、前記エッチング液。
【請求項2】
有機溶剤が、3‐メトキシ‐N,N‐ジメチルプロパンアミドであることを特徴とする、請求項1に記載のエッチング液。
【請求項3】
N-メチル-2-ピロリジノンを含有しない、請求項1または2に記載のエッチング液。
【請求項4】
ヨウ化物がヨウ化カリウムであることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のエッチング液。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のエッチング液に基板を浸漬することを特徴とする、基板上に形成された金膜をエッチングする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の基板上に形成された金または金合金エッチング液およびエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、集積回路およびプリント基板等における導電体として金膜が用いられている。金膜は導電性が高く、膜形成が容易でしかも化学的に安定であるが、エッチングが難しい。
金膜のエッチング方法はウエットエッチングにより行われており、通常、石英やテフロン(登録商標)などでできたエッチング槽内にエッチング液を貯め、そこにウエハを浸漬するディップ方式と、ウエハを支持台に真空吸引あるいは機械的にチャッキングし、回転させながらエッチング液をスプレーしてエッチングを行うスピン方式がある。
【0003】
金膜のエッチング液の例として、「シアン系」と、「王水系」と、「ヨウ素系」がある。
「シアン系」は、水酸化ナトリウムとシアン化ナトリウムを成分とし、金はシアンイオンと錯体を形成し易いためエッチングが容易であるが、強アルカリ性であるために扱いにくく、また刺激が強く、毒性を有する等の欠点がある。従って、電子工業の用途では、電解めっき後にリードパターンの完全な除去に用いた例があるほか使用例は少ない(特許文献1)。
「王水系」は、塩酸と硝酸の混酸であり、半導体基板における金膜の処理においてもよく使用されるが、エッチング速度が遅く、また強酸性のため扱い難いという欠点がある(特許文献2)。
これに対し、「ヨウ素系」は、ヨウ化カリウムとヨウ素からなり、液性は中性で扱い易いため、半導体基板における金膜のエッチング液として多用されてきた(特許文献3、特許文献4)。
【0004】
また、「ヨウ素系」エッチング液の基板に対する濡れ性および微細加工性、並びに液寿命などを向上させるために有機溶剤を含有させることが知られており、中でもN‐メチル‐ピロリジノン(NMP)が有用である旨が知られている(特許文献5、特許文献6)。
【0005】
しかしながら、近年人間の健康へ悪影響を及ぼすとの観点から、NMPに対する規制が厳しくなってきており、NMPを含有するエッチング液の使用が困難となってきている状況により、NMPを含有しない金または金合金エッチング液の需要が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-148810号
【特許文献2】特開平5-136152号
【特許文献3】特開平5-251425号
【特許文献4】米国特許第5221421号
【特許文献5】特開2004‐211142号
【特許文献6】特開2006‐291341号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、金膜および金合金膜を有する基板に対する濡れ性および微細加工性に優れ、また液寿命が長いNMPを含有しない、金または金合金エッチング液およびエッチング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
金膜および金合金膜を有する基板に対する濡れ性および微細加工性に優れ、また液寿命が長いNMPを含有しない、金または金合金エッチング液およびエッチング方法について鋭意検討する中で、特定の有機溶剤を含有するヨウ素系エッチング液が、NMPを含有しない場合であっても、金膜および金合金膜を有する基板に対する濡れ性および微細加工性に優れ、また液寿命が長いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1]ヨウ素、ヨウ化物、有機溶媒および水を含むこと特徴とする金または金合金のエッチング液であって、有機溶剤が、3‐メトキシ‐N,N‐ジメチルプロパンアミド、3‐ブトキシ‐N,N‐ジメチルプロパンアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,2‐エタンジオール、1,4‐ブタンジオールおよび2,3‐ブタンジオールからなる群から1種または2種以上であることを特徴とする、前記エッチング液に関する。
【0010】
[2]有機溶剤が、3‐メトキシ‐N,N‐ジメチルプロパンアミドであることを特徴とする、[1]に記載のエッチング液に関する。
【0011】
[3]N-メチル-2-ピロリジノンを含有しない、[1]または[2]に記載のエッチング液に関する。
【0012】
[4]ヨウ化物がヨウ化カリウムであることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載のエッチング液に関する。
【0013】
[1]~[4]のいずれかに記載のエッチング液に基板を浸漬することを特徴とする、基板上に形成された金膜をエッチングする方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、金または金合金エッチング液において、その組成および性能が変化することなく、精度の高い微細加工技術が必要とされる場合であっても、NMPを使用することなく、十分に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、NMPまたは3‐メトキシ‐N,N‐ジメチルプロパンアミドを含有させたエッチング液の金膜のエッチングレートを示す図である。
【
図2】
図2は、NMPまたは3‐メトキシ‐N,N‐ジメチルプロパンアミドを含有させた溶液のベアシリコン基板上の接触角を示す図である。
【
図3】
図3は、NMPまたは3‐メトキシ‐N,N‐ジメチルプロパンアミドを含有させたエッチング液に金バンプ基板を浸漬した場合の金バンプの表面状態を示した図である。
【
図4】
図4は、3‐メトキシ‐N,N‐ジメチルプロパンアミド、1、4-ブタンジオールまたはジエチレングリコールを含有させたエッチング液に金バンプ基板を浸漬した場合の金バンプの外観を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施形態について詳述する。
【0017】
本発明の金または金合金エッチング液は、ヨウ素、ヨウ化物、有機溶剤および水からなるエッチング液である。
【0018】
ヨウ化物としては、特に限定されず、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化ルビジウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化ストロンチウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化カドミウム、ヨウ化水銀(II)、ヨウ化鉛(II)等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。特に、ヨウ化物としては、水への溶解度、価格、取り扱い易さ、及び毒性等の観点から、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化アンモニウムが好ましい。
【0019】
ヨウ素系エッチング液中におけるヨウ素の含有量は、特には限定されないが、例えば、1~1000mMとすることができる。好ましくは、10~200mMである。
ヨウ素系エッチング液中におけるヨウ化物の含有量は、特には限定されないが、例えば、1~3000mMとすることができる。好ましくは、150~1500mMである。
また、ヨウ素とヨウ化物との含有量の比率(モル濃度比、ヨウ素:ヨウ化物)は特に限定されないが、好ましくは1:3~1:10、さらに好ましくは1:5~1:10である。
【0020】
本発明に用いられる有機溶剤は、金または金合金膜のエッチングレートの抑制が可能であり、濡れ性に優れており、金表面の平滑能を有し、サイドエッチング量の抑制効果を有し、ヨウ素の揮発を抑制するものである。具体的には、3‐メトキシ‐N,N‐ジメチルプロパンアミド、3‐ブトキシ‐N,N‐ジメチルプロパンアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,2‐エタンジオール、1,4‐ブタンジオールおよび2,3‐ブタンジオールであり、1,4‐ブタンジオール、エチレングリコール、3‐メトキシ‐N,N‐ジメチルプロパンアミドが好ましく、3‐メトキシ‐N,N‐ジメチルプロパンアミドがより好ましい。
【0021】
エッチング液中における有機溶剤の含有量は、特に限定されず、使用する有機溶剤の種類に応じて適宜使用量を調整するのが好ましい。一般に1~99容量%の範囲で使用可能であり、好ましくは5~50容量%、より好ましくは10~40容量%で使用する。例えば、添加剤がN,N‐ジメチルプロパンアミドの場合、使用量は好ましくは10~30容量%、より好ましくは15~25容量%である。
【0022】
また、エッチング液は、水を含む。エッチング液中における水の含有量は、特に限定されず、例えば、他の成分の残余部分とすることができる。例えば、水の含有量は、1~99容量%、好ましくは、60~90容量%とすることができる。
【0023】
上述した本発明のエッチング液は、金と金合金をエッチングするために用いられる。
金合金としては、例えば、金とパラジウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、白金、銀、銅等との金合金が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせたものに対し、エッチング液を適用可能である。
なお、金合金中、金の含有量は、60重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましい。
【0024】
本発明のエッチング液を用いたエッチング条件は、特に限定されず、例えば、公知のエッチング方法の条件に準じて行うことができる。
エッチング対象物とエッチング液との接触方法としては、例えば、容器にヨウ素系エッチング液を満たしてエッチング対象物を浸漬するディップ方式等が挙げられる。その際、当該エッチング対象物を揺動するまたは容器内のヨウ素系エッチング液を強制循環させることが好ましい。これにより、エッチング対象物が均一にエッチングされる。
また、ヨウ素系エッチング液を噴霧により、エッチング対象物へ付着させるスプレー方式や、回転するエッチング対象物にノズルよりヨウ素系エッチング液を吐出するスピン方式等を用いてもよい。また、これらとディップ方式とを併用してもよい。
エッチングの時間は、特に限定されず、例えば、1~60分間とすることができる。
また、エッチング温度(ディップ方式においてはヨウ素系エッチング液の温度、スプレー方式、スピン方式においては、ヨウ素系エッチング液の温度またはエッチング対象物の温度)は、特に限定されず、例えば、20~50℃とすることができる。この際、必要に応じて、ヒーター等の加熱手段や、冷却手段によって、ヨウ素系エッチング液、エッチング対象物等の温度調節を行ってもよい。
【0025】
また、本発明は、上述したエッチング液を用いて金膜または金合金膜をエッチングする方法、並びに当該方法により形成された半導体材料の製造方法に関する。前記方法により形成された半導体材料としては、配線材料、バンプなどが挙げられる。
以上、本発明について好適な実施態様に基づき詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成を付加することもできる。
【実施例0026】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0027】
[比較例1~6および実施例1~7]
ヨウ素0.079M、ヨウ化カリウム0.60Mの水溶液を標準液とし、この標準液に有機溶剤を添加したエッチング液を調整した。
つぎに、2×2cmのNi試片に厚さ3μmの電解金めっきを施し、約200rpmで撹拌した液温30℃の前記エッチング液に1分間浸漬させてエッチングした。
試片を超純水で洗浄、窒素ガスにて乾燥して重量法にてエッチングレートを算出した。その結果を表1と
図1に示す。
【0028】
(表1)
[表1] 金膜のエッチングレート
表1と
図1の結果より、NMPを用いることなく、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールおよび3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドによりエッチングレートを制御できること、さらには、これらの有機溶剤がNMPと比較して優れたエッチング制御性を有することが認められた。
【0029】
[比較例7~12および実施例8~14]
ヨウ素0.079M、ヨウ化カリウム0.60Mの水溶液を標準液とし、この標準液に有機溶剤を添加した溶液を調整した。また、1%希フッ酸溶液で1分間処理した後、超純水で洗浄、窒素ガスにて乾燥したベアシリコン基板を用意した。
つぎに、上記溶液1μlのベアシリコン基板上での接触角を、接触角計(共和界面科学株式会社製CA-X150型)を用いて測定した。その結果を表2と
図2に示す。
【0030】
(表2)
[表2] 接触角
表2と
図2の結果より、NMPを用いることなく、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールおよび3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドにより50℃以下の接触角を達成できること、すなわち、優れた濡れ性を有することが認められた。
【0031】
[比較例13~18および実施例15~21]
ヨウ素0.079M、ヨウ化カリウム0.60Mの水溶液を標準液とし、この標準液に有機溶剤を添加したエッチング液を調整した。
つぎに、1×1cmの金バンプ基板(金バンプ(15μm)/金スパッタ層(210nm)/TiW層/Si層)を約200rpmで撹拌した液温30℃の前記エッチング液に金スパッタ層のジャストエッチング時間浸漬させてエッチングした。
金バンプ基板を超純水で洗浄、窒素ガスにて乾燥して、走査電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立ハイテクSU8200series)を用いて金バンプの表面平滑化能と外観を観察した。その結果を表3と
図3および
図4に示す。
なお、
図4の金バンプ外観は、金バンプ基板を約350rpmで撹拌した液温25℃の比較例13と実施例15、16および18のエッチング液のエッチング液に金スパッタ層のジャストエッチング時間浸漬させて得られたものである。
【0032】
(表3)
[表3] 表面平滑化能
表3と
図3の結果より、NMPを用いることなく、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールおよび3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドにより、NMPと同等の金バンプ表面平滑化能を有することが確認できた。
【0033】
[比較例19~21および実施例22~26]
ヨウ素0.027M、ヨウ化カリウム0.11Mの水溶液を標準液とし、この標準液に有機溶剤を添加したエッチング液を調整した。
つぎに、2×1cmのスパッタ金基板(レジスト/金スパッタ層(50nm)/Ti層/Si層)を約200rpmで撹拌した液温25℃の前記エッチング液に金スパッタ層のジャストエッチング時間×1.5浸漬させてエッチングした。
スパッタ金基板を超純水で洗浄、窒素ガスにて乾燥して、走査電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立ハイテクSU8200series)を用いてサイドエッチング量を観察した。その結果を表4に示す。
【0034】
(表4)
[表4]サイドエッチング量
表4の結果より、NMPを用いることなく、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールおよび3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドにより、サイドエッチング量抑制効果を奏することが確認できた。
【0035】
[比較例22~23および実施例27~28]
ヨウ素0.079M、ヨウ化カリウム0.60Mの水溶液を標準液とし、この標準液に有機溶剤を添加した溶液を調整し、一定時間経過毎にチオ硫酸ナトリウム溶液を用いた酸化還元滴定により、ヨウ素揮発抑制能を評価した。その結果を表5に示す。
【0036】
(表5)
[表5] ヨウ素揮発抑制能
表5と
図5の結果より、NMPを用いることなく、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコールおよび3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドにより、ヨウ素揮発抑制効果を奏することが確認できた。