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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112450
(43)【公開日】2022-08-02
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/40 20160101AFI20220726BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20220726BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20220726BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20220726BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20220726BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20220726BHJP
【FI】
B60W20/40
B60K6/48 ZHV
B60K6/54
B60W10/02 900
B60W10/06 900
B60W10/08 900
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008336
(22)【出願日】2021-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】松原 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正幸
(72)【発明者】
【氏名】稲吉 智也
(72)【発明者】
【氏名】貝吹 雅一
【テーマコード(参考)】
3D202
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB00
3D202BB05
3D202BB12
3D202BB37
3D202BB64
3D202CC42
3D202DD40
3D202DD41
3D202FF04
3D202FF13
(57)【要約】
【課題】エンジンと、電動機と、エンジンと電動機との間の連結を切り離し可能なクラッチと、を備えた車両において、エンジン始動時におけるクラッチの係合に関わる学習を速やかに進行させることができる制御装置を提供する。
【解決手段】学習制御部98は、複数種類の学習に予め優先順位を設定し、複数種類の学習のうち優先順位が上位の上位学習が未収束状態と判断される場合には、その上位学習が収束状態と判断される場合に比較して、上位学習よりも優先順位が下位の下位学習の学習結果の反映度合を小さくするため、上位学習が未収束の状態であっても、下位学習の学習結果の反映度合を小さくしつつ、下位学習の学習を進行させることで、上位学習が未収束の状態であることに起因する誤学習の影響を低減しつつ、速やかに全体の学習を進行させることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられた、油圧式のクラッチアクチュエータが制御されることによって制御状態が切り替えられるクラッチと、前記クラッチアクチュエータへ調圧された油圧を供給する油圧制御回路と、を備えた車両の、制御装置であって、
前記エンジンの始動に当たって、前記電動機の出力トルクを前記エンジンのクランキングに必要なトルクである必要クランキングトルク分増加するように前記電動機を制御すると共に前記エンジンが運転を開始するように前記エンジンを制御する始動制御部と、
前記エンジンの始動に当たって、前記クラッチの制御状態を解放状態から係合状態へ切り替える係合過渡中に、前記油圧を供給させる油圧指令値として、前記必要クランキングトルクを前記クラッチが伝達するように前記クラッチアクチュエータへの前記油圧を調圧するクランキング用油圧指令値を前記油圧制御回路へ出力するクラッチ制御部と、
前記クラッチの前記係合過渡中における前記油圧と前記油圧指令値との相関を表す関係を補正する複数種類の学習を行う学習制御部と、
を含んでおり、
前記学習制御部は、前記複数種類の学習に予め優先順位を設定し、前記複数種類の学習のうち優先順位が上位に位置する上位学習が未収束状態と判断される場合には、該上位学習が収束状態と判断される場合に比較して、前記上位学習よりも優先順位が下位に位置する下位学習の学習結果の反映度合を小さくする
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記学習制御部は、前記上位学習が未収束状態と判断される場合であって、且つ、前記下位学習の学習中に取得された前記クラッチの状態に応じて変動する変動量が予め設定されている所定範囲を超えた場合において、前記下位学習の学習結果を、前記油圧と前記油圧指令値との相関を表す関係に反映させる
ことを特徴とする請求項1の車両の制御装置。
【請求項3】
前記複数種類の学習は、それぞれ前記クラッチの前記係合過渡中に切り替わる制御状態に応じて区分された複数の進行段階に応じて実施され、
前記複数種類の学習は、学習可能な前記進行段階に切り替わった時点から該進行段階が完了した時点より所定時間経過した時点の間で取得された、前記クラッチの状態に応じて変動する変動量に基づいて、前記油圧と前記油圧指令値との相関を表す関係を補正する学習を含む
ことを特徴とする請求項1または2の車両の制御装置。
【請求項4】
前記複数種類の学習は、前記クラッチを速やかにパック詰め完了状態とするように前記クラッチアクチュエータへの前記油圧の応答性を向上させる為の急速充填用油圧指令値が出力される実行時間である急速充填時間を学習する急速充填時間学習を含み、
前記急速充填時間学習は、前記急速充填用油圧指令値が出力された時点から該急速充填用油圧指令値の出力が完了する時点より所定時間経過した時点の間に取得された前記変動量に基づいて、前記急速充填時間を学習するものである
ことを特徴とする請求項3の車両の制御装置。
【請求項5】
前記学習制御部は、前記複数種類の学習のそれぞれの学習結果による、前記油圧と前記油圧指令値との相関を表す関係の更新を、前記学習を行った前記エンジンの始動完了後であって、且つ、前記クラッチの前記クラッチアクチュエータに供給される前記油圧が所定値以下のとき又は前記油圧制御回路に前記油圧指令値が出力されない状態のときに行う
ことを特徴とする請求項1から4の何れか1に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと、電動機と、エンジンと電動機との間の連結を切り離し可能なクラッチと、を備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられた、油圧式のクラッチアクチュエータが制御されることによって制御状態が切り替えられるクラッチと、前記クラッチアクチュエータへ調圧された油圧を供給する油圧制御回路と、を備えた車両の制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された車両の制御装置がそれである。この特許文献1には、エンジンを始動するときに、クラッチを滑らせながら係合させてエンジンの回転速度を上昇させると共に、クラッチの係合により発生する減速トルクを打ち消すように電動機から補償トルクを出力させること、クラッチの伝達トルクと補償トルクとの発生タイミングのずれを補正するタイミング学習を行うこと、発生タイミングのずれが収束した後に、クラッチの伝達トルクと補償トルクとの大きさのずれを補正する大きさ学習を行うこと、大きさのずれが収束した後に、クラッチの係合開始時の油圧指令値を一時的に高めてクラッチのパック詰めを促進する為のファーストフィルの時間を補正するファーストフィル時間学習を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-79876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の技術では、タイミング学習、大きさ学習、ファーストフィル時間学習の順番に学習が行われるが、上記学習の収束が遅れた場合に下位学習の収束も連動して遅れが発生してしまうことで、油圧ばらつきの修正に過大な時間を要する可能性があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、エンジン始動時におけるクラッチの係合に関わる学習を速やかに進行させることができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、(a)エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機と、前記動力伝達経路における前記エンジンと前記電動機との間に設けられた、油圧式のクラッチアクチュエータが制御されることによって制御状態が切り替えられるクラッチと、前記クラッチアクチュエータへ調圧された油圧を供給する油圧制御回路と、を備えた車両の、制御装置であって、(b)前記エンジンの始動に当たって、前記電動機の出力トルクを前記エンジンのクランキングに必要なトルクである必要クランキングトルク分増加するように前記電動機を制御すると共に前記エンジンが運転を開始するように前記エンジンを制御する始動制御部と、(c)前記エンジンの始動に当たって、前記クラッチの制御状態を解放状態から係合状態へ切り替える係合過渡中に、前記油圧を供給させる油圧指令値として、前記必要クランキングトルクを前記クラッチが伝達するように前記クラッチアクチュエータへの前記油圧を調圧するクランキング用油圧指令値を前記油圧制御回路へ出力するクラッチ制御部と、(d)前記クラッチの前記係合過渡中における前記油圧と前記油圧指令値との相関を表す関係を補正する複数種類の学習を行う学習制御部と、を含んでおり、(e)前記学習制御部は、前記複数種類の学習に予め優先順位を設定し、前記複数種類の学習のうち優先順位が上位に位置する上位学習が未収束状態と判断される場合には、その上位学習が収束状態と判断される場合に比較して、前記上位学習よりも優先順位が下位に位置する下位学習の学習結果の反映度合を小さくすることを特徴とする。
【0007】
第2発明の要旨とするところは、第1発明において、前記学習制御部は、前記上位学習が未収束状態と判断される場合であって、且つ、前記下位学習の学習中に取得された前記クラッチの状態に応じて変化する変動量が予め設定されている所定範囲を超える場合において、前記下位学習における前記油圧と前記油圧指令値との相関を表す関係に反映させることを特徴とする。
【0008】
第3発明の要旨とするところは、第1発明または第2発明において、(a)前記複数種類の学習は、それぞれ前記クラッチの前記係合過渡中に切り替わる制御状態に応じて区分された複数の進行段階に応じて実施され、(b)前記複数種類の学習は、学習可能な前記進行段階に切り替わった時点からその進行段階が完了した時点より所定時間経過した時点の間で取得された、前記クラッチの状態に応じて変動する変動量に基づいて、前記油圧と前記油圧指令値との相関を表す関係を補正する学習を含むことを特徴とする。
【0009】
第4発明の要旨とするところは、第3発明において、(a)前記複数種類の学習は、前記クラッチを速やかにパック詰め完了状態とするように前記クラッチアクチュエータへの前記油圧の応答性を向上させる為の急速充填用油圧指令値が出力される実行時間である急速充填時間を学習する急速充填時間学習を含み、(b)前記急速充填時間学習は、前記急速充填用油圧指令値が出力された時点からその急速充填用油圧指令値の出力が完了する時点より所定時間経過した時点の間に取得された前記変動量に基づいて、前記急速充填時間を学習するものであることを特徴とする。
【0010】
第5発明の要旨とするところは、第1発明から第4発明の何れか1において、前記学習制御部は、前記複数種類の学習のそれぞれの学習結果による、前記油圧と前記油圧指令値との相関を表す関係の更新を、前記学習を行った前記エンジンの始動完了後であって、且つ、前記クラッチの前記クラッチアクチュエータに供給される前記油圧が所定値以下のとき又は前記油圧制御回路に前記油圧指令値が出力されない状態のときに行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、下位学習よりも上位に位置する上位学習が未収束の状態であっても、下位学習の学習結果の反映度合を小さくしつつ、下位学習の学習を進行させることで、上位学習が未収束の状態であることに起因する誤学習の影響を低減しつつ、速やかに全体の学習を進行させることができる。
【0012】
第2発明によれば、下位学習において取得された、クラッチの状態に応じて変動する変動量が所定範囲を超えた場合において、上位学習の収束を待たずに下位学習を進行させることができるため、上位学習が未収束の状態であることに起因する誤学習の影響を低減しつつ、速やかに全体の学習を進行させることができる。
【0013】
第3発明によれば、複数種類の学習は、クラッチの係合過渡中に切り替わる進行段階が切り替わった時点からその進行段階が完了した時点より所定時間経過するまでの間で取得された、クラッチの状態に応じて変動する変動量に基づいて油圧と油圧指令値との相関を表す関係を補正する学習を含むため、制御装置とクラッチアクチュエータの油圧を制御するリニアソレノイドバルブとの間の通信遅れやリニアソレノイドバルブの特性に起因する応答遅れが生じた場合であっても適切に学習することができる。
【0014】
第4発明によれば、急速充填時間学習が、急速充填用油圧指令値が出力された時点から出力が完了する時点より所定時間経過するまでの間で取得された変動量に基づいて急速充填時間を学習するものであるため、制御装置とクラッチアクチュエータへの油圧を制御するリニアソレノイドバルブとの間の通信遅れやリニアソレノイドバルブの特性に起因する応答遅れが生じた場合であっても、急速充填時間を適切に学習することができる。
【0015】
第5発明によれば、エンジンの始動完了後であって、且つ、クラッチのクラッチアクチュエータの油圧が所定値以下のとき又は油圧制御回路に油圧指令値が出力されない状態のときに、複数種類の学習のそれぞれの学習結果による、油圧と油圧指令値との相関を表す関係の更新が行われるため、制御装置にかかる演算による負荷が少ないときに油圧と油圧指令値との相関を表す関係が更新され、他の制御に影響が生じることが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図2】K0クラッチの一例を示す部分断面図である。
図3】K0制御用フェーズ定義における各フェーズの一例を説明する図表である。
図4】エンジンの始動制御が実行された場合のタイムチャートの一例を示す図である。
図5】タッチ点学習等において学習値を算出するために用いられるゲインの関係マップの一例である。
図6】タッチ点学習等において学習値を算出するために用いられるオフセット量の関係マップの一例である。
図7】電子制御装置の制御作動の要部、すなわちエンジンの始動過渡中にクラッチの指令値の学習を実行するに当たって、学習を速やかに進行させることができる制御作動を説明するためのフローチャートである。
図8】QA学習時間を学習するときの電子制御装置の制御作動を説明するフローチャートである。
図9】各学習制御で算出された各学習値を更新するときの電子制御装置の制御作動を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例0018】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、走行用の駆動力源である、エンジン12及び電動機MGを備えたハイブリッド車両である。又、車両10は、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備えている。
【0019】
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置90によって、車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0020】
電動機MGは、電力から機械的な動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。電動機MGは、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。電動機MGは、後述する電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、電動機MGの出力トルクであるMGトルクTmが制御される。MGトルクTmは、例えば電動機MGの回転方向がエンジン12の運転時と同じ回転方向である正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。具体的には、電動機MGは、エンジン12に替えて或いはエンジン12に加えて、インバータ52を介してバッテリ54から供給される電力により走行用の動力を発生する。又、電動機MGは、エンジン12の動力や駆動輪14側から入力される被駆動力により発電を行う。電動機MGの発電により発生させられた電力は、インバータ52を介してバッテリ54に蓄積される。バッテリ54は、電動機MGに対して電力を授受する蓄電装置である。前記電力は、特に区別しない場合には電気エネルギも同意である。前記動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。
【0021】
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース18内において、K0クラッチ20、トルクコンバータ22、自動変速機24等を備えている。K0クラッチ20は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路におけるエンジン12と電動機MGとの間に設けられたクラッチである。トルクコンバータ22は、K0クラッチ20を介してエンジン12に連結されている。自動変速機24は、トルクコンバータ22に連結されており、トルクコンバータ22と駆動輪14との間の動力伝達経路に介在させられている。トルクコンバータ22及び自動変速機24は、各々、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成している。又、動力伝達装置16は、自動変速機24の出力回転部材である変速機出力軸26に連結されたプロペラシャフト28、プロペラシャフト28に連結されたディファレンシャルギヤ30、ディファレンシャルギヤ30に連結された1対のドライブシャフト32等を備えている。又、動力伝達装置16は、エンジン12とK0クラッチ20とを連結するエンジン連結軸34、K0クラッチ20とトルクコンバータ22とを連結する電動機連結軸36等を備えている。
【0022】
電動機MGは、ケース18内において、電動機連結軸36に動力伝達可能に連結されている。電動機MGは、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路、特にはK0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結されている。つまり、電動機MGは、K0クラッチ20を介することなくトルクコンバータ22や自動変速機24と動力伝達可能に連結されている。見方を換えれば、トルクコンバータ22及び自動変速機24は、各々、電動機MGと駆動輪14との間の動力伝達経路の一部を構成している。トルクコンバータ22及び自動変速機24は、各々、エンジン12及び電動機MGの駆動力源の各々からの駆動力を駆動輪14へ伝達する。
【0023】
トルクコンバータ22は、電動機連結軸36と連結されたポンプ翼車22a、及び自動変速機24の入力回転部材である変速機入力軸38と連結されたタービン翼車22bを備えている。ポンプ翼車22aは、K0クラッチ20を介してエンジン12と連結されていると共に、直接的に電動機MGと連結されている。ポンプ翼車22aはトルクコンバータ22の入力部材であり、タービン翼車22bはトルクコンバータ22の出力部材である。電動機連結軸36は、トルクコンバータ22の入力回転部材でもある。変速機入力軸38は、タービン翼車22bによって回転駆動されるタービン軸と一体的に形成されたトルクコンバータ22の出力回転部材でもある。トルクコンバータ22は、駆動力源(エンジン12、電動機MG)の各々からの駆動力を流体を介して変速機入力軸38へ伝達する流体式伝動装置である。トルクコンバータ22は、ポンプ翼車22aとタービン翼車22bとを連結するLUクラッチ40を備えている。LUクラッチ40は、トルクコンバータ22の入出力回転部材を連結する直結クラッチ、すなわち公知のロックアップクラッチである。
【0024】
LUクラッチ40は、車両10に備えられた油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるLU油圧PRluによりLUクラッチ40のトルク容量であるLUトルクTluが変化させられることで、作動状態つまり制御状態が切り替えられる。LUクラッチ40の制御状態としては、LUクラッチ40が解放された状態である完全解放状態、LUクラッチ40が滑りを伴って係合された状態であるスリップ状態、及びLUクラッチ40が係合された状態である完全係合状態がある。LUクラッチ40が完全解放状態とされることにより、トルクコンバータ22はトルク増幅作用が得られるトルクコンバーター状態とされる。又、LUクラッチ40が完全係合状態とされることにより、トルクコンバータ22はポンプ翼車22a及びタービン翼車22bが一体回転させられるロックアップ状態とされる。
【0025】
自動変速機24は、例えば不図示の1組又は複数組の遊星歯車装置と、複数の係合装置CBと、を備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。係合装置CBは、例えば油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、各々、油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるCB油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量であるCBトルクTcbが変化させられることで、係合状態や解放状態などの制御状態が切り替えられる。
【0026】
自動変速機24は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置が係合されることによって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度Ni/AT出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。自動変速機24は、後述する電子制御装置90によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のギヤ段が選択的に形成される。AT入力回転速度Niは、変速機入力軸38の回転速度であり、自動変速機24の入力回転速度である。AT入力回転速度Niは、トルクコンバータ22の出力回転部材の回転速度でもあり、トルクコンバータ22の出力回転速度であるタービン回転速度Ntと同値である。AT入力回転速度Niは、タービン回転速度Ntで表すことができる。AT出力回転速度Noは、変速機出力軸26の回転速度であり、自動変速機24の出力回転速度である。
【0027】
K0クラッチ20は、例えば後述する油圧式のクラッチアクチュエータ120により押圧される多板式或いは単板式のクラッチにより構成される湿式又は乾式の摩擦係合装置である。K0クラッチ20は、後述する電子制御装置90によりクラッチアクチュエータ120が制御されることによって、係合状態や解放状態などの制御状態が切り替えられる。尚、K0クラッチ20が、本発明のクラッチに対応している。
【0028】
図2は、K0クラッチ20の一例を示す部分断面図である。図2において、K0クラッチ20は、クラッチドラム100と、クラッチハブ102と、セパレートプレート104と、摩擦プレート106と、ピストン108と、リターンスプリング110と、バネ受板112と、スナップリング114と、を含んでいる。クラッチドラム100とクラッチハブ102とは、同じ軸線CS上に設けられている。図2では、軸線CSの上半分におけるK0クラッチ20の径方向外周部分が示されている。軸線CSは、エンジン連結軸34、電動機連結軸36などの軸線である。
【0029】
クラッチドラム100は、例えばエンジン連結軸34と連結されており、エンジン連結軸34と一体的に回転させられる。クラッチハブ102は、例えば電動機連結軸36と連結されており、電動機連結軸36と一体的に回転させられる。セパレートプレート104は、複数枚の略円環板状の外周縁がクラッチドラム100の筒部100aの内周面に相対回転不能に嵌合されている、すなわちスプライン嵌合されている。摩擦プレート106は、複数枚のセパレートプレート104の間に介在させられて、複数枚の略円環板状の内周縁がクラッチハブ102の外周面に相対回転不能に嵌合されている、すなわちスプライン嵌合されている。ピストン108は、セパレートプレート104及び摩擦プレート106の方向に伸びる押圧部108aが外周縁に設けられている。リターンスプリング110は、ピストン108とバネ受板112との間に介在させられており、ピストン108の一部をクラッチドラム100の底板部100bに当接するように付勢する。つまり、リターンスプリング110は、セパレートプレート104と摩擦プレート106とを非係合側とするようにピストン108を付勢するバネ要素として機能する。スナップリング114は、ピストン108の押圧部108aとの間にセパレートプレート104及び摩擦プレート106を挟む位置において、クラッチドラム100の筒部100aに固定されている。
【0030】
K0クラッチ20には、ピストン108とクラッチドラム100の底板部100bとの間に油室116が形成されている。クラッチドラム100には、油室116に通じる油路118が形成されている。K0クラッチ20において、クラッチドラム100、ピストン108、リターンスプリング110、バネ受板112、油室116などによって油圧アクチュエータとしてのクラッチアクチュエータ120が構成されている。
【0031】
油圧制御回路56は、クラッチアクチュエータ120へ調圧された油圧であるK0油圧PRk0を供給する。K0クラッチ20において、油圧制御回路56からK0油圧PRk0が油路118を通って油室116に供給されると、K0油圧PRk0によってピストン108がリターンスプリング110の付勢力に抗してセパレートプレート104及び摩擦プレート106の方向に移動し、ピストン108の押圧部108aがセパレートプレート104及び摩擦プレート106を押圧する。K0クラッチ20は、セパレートプレート104及び摩擦プレート106が押圧されると、係合状態へ切り替えられる。K0クラッチ20は、K0油圧PRk0によりK0クラッチ20のトルク容量であるK0トルクTk0が変化させられることで、制御状態が切り替えられる。尚、LUトルクTlu、CBトルクTcb、K0トルクTk0などの係合装置のトルク容量は、係合装置が伝達できる最大のトルクすなわち最大伝達トルクに相当し、狭義には、係合装置が実際に伝達するトルクに相当する係合装置の伝達トルクとは異なるが、本実施例では、特に区別しない場合には、係合装置の伝達トルクも係合装置が伝達できる最大のトルクを表すものとする。例えば、K0トルクTk0は、K0クラッチ20の伝達トルクと同意である。
【0032】
K0トルクTk0は、例えば摩擦プレート106の摩擦材の摩擦係数やK0油圧PRk0等によって決まるものである。K0クラッチ20では、油室116に作動油OILが充填され、リターンスプリング110による付勢力に対抗するピストン108の押し付け力(=PRk0×ピストン受圧面積)によってセパレートプレート104と摩擦プレート106との間のクリアランスが詰められた状態、すなわちK0クラッチ20のパッククリアランスが詰められた状態とされると、所謂パック詰めが完了させられる。本実施例では、K0クラッチ20のパッククリアランスが詰められた状態をパック詰め完了状態と称する。K0クラッチ20は、パック詰め完了状態から更にK0油圧PRk0が増大させられることで、K0トルクTk0が発生させられる。つまり、K0クラッチ20のパック詰め完了状態は、そのパック詰め完了状態からK0油圧PRk0を増大させればK0クラッチ20がトルク容量を持ち始める状態すなわちK0トルクTk0が発生し始める状態である。K0クラッチ20のパック詰めの為のK0油圧PRk0は、ピストン108がストロークエンドに到達し、且つK0トルクTk0が発生していない状態とする為のK0油圧PRk0である。
【0033】
図1に戻り、K0クラッチ20の係合状態では、エンジン連結軸34を介してポンプ翼車22aとエンジン12とが一体的に回転させられる。すなわち、K0クラッチ20は、係合されることによってエンジン12と駆動輪14とが動力伝達可能に連結される。一方で、K0クラッチ20の解放状態では、エンジン12とポンプ翼車22aとの間の動力伝達が遮断される。すなわち、K0クラッチ20は、解放されることによってエンジン12と駆動輪14との間の連結が切り離される。電動機MGはポンプ翼車22aに連結されているので、K0クラッチ20は、エンジン12と電動機MGとの間の動力伝達経路に設けられて、その動力伝達経路を断接するクラッチ、すなわちエンジン12を電動機MGと断接するクラッチとして機能する。つまり、K0クラッチ20は、係合されることによってエンジン12と電動機MGとを連結する一方で、解放されることによってエンジン12と電動機MGとの間の連結を切り離す断接用クラッチである。
【0034】
動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、K0クラッチ20が係合された場合に、エンジン連結軸34から、K0クラッチ20、電動機連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。又、電動機MGから出力される動力は、K0クラッチ20の制御状態に拘わらず、電動機連結軸36から、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。
【0035】
車両10は、機械式のオイルポンプであるMOP58、電動式のオイルポンプであるEOP60、ポンプ用モータ62等を備えている。MOP58は、ポンプ翼車22aに連結されており、駆動力源(エンジン12、電動機MG)により回転駆動させられて動力伝達装置16にて用いられる作動油OILを吐出する。ポンプ用モータ62は、EOP60を回転駆動する為のEOP60専用のモータである。EOP60は、ポンプ用モータ62により回転駆動させられて作動油OILを吐出する。MOP58やEOP60が吐出した作動油OILは、油圧制御回路56へ供給される。油圧制御回路56は、MOP58及び/又はEOP60が吐出した作動油OILを元にして各々調圧した、CB油圧PRcb、K0油圧PRk0、LU油圧PRluなどを供給する。
【0036】
車両10は、更に、エンジン12の始動制御などに関連する車両10の制御装置を含む電子制御装置90を備えている。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、電動機制御用、油圧制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0037】
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ70、タービン回転速度センサ72、出力回転速度センサ74、MG回転速度センサ76、アクセル開度センサ78、スロットル弁開度センサ80、ブレーキスイッチ82、バッテリセンサ84、油温センサ86など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne、AT入力回転速度Niと同値であるタービン回転速度Nt、車速Vに対応するAT出力回転速度No、電動機MGの回転速度であるMG回転速度Nm、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、バッテリ54のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、油圧制御回路56内の作動油OILの温度である作動油温THoilなど)が、それぞれ供給される。
【0038】
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、ポンプ用モータ62など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、電動機MGを制御する為のMG制御指令信号Sm、係合装置CBを制御する為のCB油圧制御指令信号Scb、K0クラッチ20を制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0、LUクラッチ40を制御する為のLU油圧制御指令信号Slu、EOP60を制御する為のEOP制御指令信号Seopなど)が、それぞれ出力される。
【0039】
電子制御装置90は、車両10における各種制御を実現する為に、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部92、クラッチ制御手段すなわちクラッチ制御部94、及び変速制御手段すなわち変速制御部96を備えている。
【0040】
ハイブリッド制御部92は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部92aとしての機能と、インバータ52を介して電動機MGの作動を制御する電動機制御手段すなわち電動機制御部92bとしての機能と、を含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12及び電動機MGによるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0041】
ハイブリッド制御部92は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動要求量を算出する。前記駆動要求量マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である。前記駆動要求量は、例えば駆動輪14における要求駆動トルクTrdemである。要求駆動トルクTrdem[Nm]は、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPrdem[W]である。前記駆動要求量としては、駆動輪14における要求駆動力Frdem[N]、変速機出力軸26における要求AT出力トルク等を用いることもできる。前記駆動要求量の算出では、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良い。
【0042】
ハイブリッド制御部92は、伝達損失、補機負荷、自動変速機24の変速比γat、バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Wout等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御するエンジン制御指令信号Seと、電動機MGを制御するMG制御指令信号Smと、を出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン12のパワーであるエンジンパワーPeの指令値である。MG制御指令信号Smは、例えばそのときのMG回転速度NmにおけるMGトルクTmを出力する電動機MGの消費電力Wmの指令値である。
【0043】
バッテリ54の充電可能電力Winは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能な最大電力であり、バッテリ54の入力制限を示している。バッテリ54の放電可能電力Woutは、バッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能な最大電力であり、バッテリ54の出力制限を示している。バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Woutは、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ54の充電状態値SOC[%]に基づいて電子制御装置90により算出される。バッテリ54の充電状態値SOCは、バッテリ54の充電状態を示す値であり、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいて電子制御装置90により算出される。
【0044】
ハイブリッド制御部92は、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える場合には、走行モードをモータ走行(=EV走行)モードとする。ハイブリッド制御部92は、EV走行モードでは、K0クラッチ20の解放状態で電動機MGのみを駆動力源として走行するEV走行を行う。一方で、ハイブリッド制御部92は、少なくともエンジン12の出力を用いないと要求駆動トルクTrdemを賄えない場合には、走行モードをエンジン走行モードすなわちハイブリッド走行(=HV走行)モードとする。ハイブリッド制御部92は、HV走行モードでは、K0クラッチ20の係合状態で少なくともエンジン12を駆動力源として走行するエンジン走行すなわちHV走行を行う。他方で、ハイブリッド制御部92は、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える場合であっても、バッテリ54の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12等の暖機が必要な場合などには、HV走行モードを成立させる。前記エンジン始動閾値は、エンジン12を強制的に始動してバッテリ54を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。このように、ハイブリッド制御部92は、要求駆動トルクTrdem等に基づいて、HV走行中にエンジン12を自動停止したり、そのエンジン停止後にエンジン12を再始動したり、EV走行中にエンジン12を始動したりして、EV走行モードとHV走行モードとを切り替える。
【0045】
ハイブリッド制御部92は、始動制御手段すなわち始動制御部92cとしての機能と、停止制御手段すなわち停止制御部92dとしての機能と、を更に含んでいる。
【0046】
始動制御部92cは、エンジン12の始動要求の有無を判定する。例えば、始動制御部92cは、EV走行モード時に、要求駆動トルクTrdemが電動機MGの出力のみで賄える範囲よりも増大したか否か、又は、エンジン12等の暖機が必要であるか否か、又は、バッテリ54の充電状態値SOCが前記エンジン始動閾値未満であるか否かなどに基づいて、エンジン12の始動要求が有るか否かを判定する。又、始動制御部92cは、エンジン12の始動制御が完了したか否かを判定する。
【0047】
クラッチ制御部94は、エンジン12の始動制御を実行するようにK0クラッチ20を制御する。例えば、クラッチ制御部94は、始動制御部92cによりエンジン12の始動要求が有ると判定された場合には、エンジン回転速度Neを引き上げるトルクであるエンジン12のクランキングに必要なトルクをエンジン12側へ伝達する為のK0トルクTk0が得られるように、解放状態のK0クラッチ20を係合状態に向けて制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0を油圧制御回路56へ出力する。つまり、クラッチ制御部94は、エンジン12の始動に当たって、K0クラッチ20の制御状態を解放状態から係合状態へ切り替えるようにクラッチアクチュエータ120を制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0を油圧制御回路56へ出力する。本実施例では、エンジン12のクランキングに必要なトルクを必要クランキングトルクTcrnという。
【0048】
始動制御部92cは、エンジン12の始動制御を実行するようにエンジン12及び電動機MGを制御する。例えば、始動制御部92cは、エンジン12の始動要求が有ると判定した場合には、クラッチ制御部94によるK0クラッチ20の係合状態への切替えに合わせて、電動機MGが必要クランキングトルクTcrnを出力する為のMG制御指令信号Smをインバータ52へ出力する。つまり、始動制御部92cは、エンジン12の始動に当たって、必要クランキングトルクTcrnを電動機MGが出力するように、すなわちMGトルクTmを必要クランキングトルクTcrn分増加するように、電動機MGを制御する為のMG制御指令信号Smをインバータ52へ出力する。
【0049】
又、始動制御部92cは、エンジン12の始動要求が有ると判定した場合には、K0クラッチ20及び電動機MGによるエンジン12のクランキングに連動して、燃料供給やエンジン点火などを開始する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。つまり、始動制御部92cは、エンジン12の始動に当たって、エンジン12が運転を開始するようにエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。
【0050】
エンジン12のクランキング時には、K0クラッチ20の係合に伴う反力トルクであるクランキング反力トルクTrfcrが生じる。このクランキング反力トルクTrfcrは、EV走行時には、エンジン始動中のイナーシャによる車両10の引き込み感、つまり駆動トルクTrの落ち込みを生じさせる。その為、エンジン12を始動する際に必要クランキングトルクTcrnに向けて増加させられるMGトルクTmは、クランキング反力トルクTrfcrを打ち消す為のMGトルクTmであって、クランキング反力トルクTrfcrを補償するMGトルクTm分すなわちK0反力補償分のMGトルクTmである。必要クランキングトルクTcrnは、エンジン12のクランキングに必要なK0トルクTk0であり、電動機MG側からK0クラッチ20を介してエンジン12側へ流れる、エンジン12のクランキングに必要なMGトルクTmである。必要クランキングトルクTcrnは、例えばエンジン12の諸元、エンジン12の始動方法等に基づいて予め定められた例えば一定のクランキングトルクTcrである。
【0051】
始動制御部92cは、EV走行中のエンジン12の始動の際には、EV走行用のMGトルクTmつまり駆動トルクTrを生じさせるMGトルクTmに加えて、必要クランキングトルクTcrn分のMGトルクTmを電動機MGから出力させる。その為、EV走行中には、エンジン12の始動に備えて、必要クランキングトルクTcrn分を担保しておく必要がある。従って、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える範囲は、出力可能な電動機MGの最大トルクに対して、必要クランキングトルクTcrn分を減じたトルク範囲となる。出力可能な電動機MGの最大トルクは、バッテリ54の放電可能電力Woutによって出力可能な最大のMGトルクTmである。
【0052】
停止制御部92dは、エンジン12の停止要求の有無を判定する。例えば、停止制御部92dは、HV走行モード時に、要求駆動トルクTrdemが電動機MGの出力のみで賄える範囲内であって、エンジン12等の暖機が不要であり、バッテリ54の充電状態値SOCが前記エンジン始動閾値以上であるか否かなどに基づいて、エンジン12の停止要求が有るか否かを判定する。
【0053】
停止制御部92dは、エンジン12の停止制御を実行するようにエンジン12を制御する。例えば、停止制御部92dは、エンジン12の停止要求が有ると判定した場合には、エンジン12への燃料供給を停止する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。つまり、停止制御部92dは、エンジン12の停止に当たって、エンジン12が運転を停止するようにエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。
【0054】
クラッチ制御部94は、エンジン12の停止制御が行われる際に、K0クラッチ20を制御する。例えば、クラッチ制御部94は、停止制御部92dによりエンジン12の停止要求が有ると判定された場合には、係合状態のK0クラッチ20を解放状態に向けて制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0を油圧制御回路56へ出力する。つまり、クラッチ制御部94は、エンジン12の停止要求が有ると判定されたときであるエンジン12の停止要求時に、K0クラッチ20の制御状態を係合状態から解放状態へ切り替えるようにクラッチアクチュエータ120を制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0を油圧制御回路56へ出力する。
【0055】
変速制御部96は、例えば予め定められた関係である変速マップを用いて自動変速機24の変速判断を行い、必要に応じて自動変速機24の変速制御を実行する為のCB油圧制御指令信号Scbを油圧制御回路56へ出力する。前記変速マップは、例えば車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、自動変速機24の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。前記変速マップでは、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良いし、又、要求駆動トルクTrdemに替えて要求駆動力Frdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。
【0056】
ここで、エンジン12の始動に当たってK0クラッチ20の制御状態が精度良く制御される為に、エンジン12の始動過程中において切り替えられるK0クラッチ20の係合過渡中に切り替わる制御状態に応じて区分された複数の進行段階、すなわちクラッチアクチュエータ120の制御用に定義されたK0制御用フェーズ定義Dphk0が、予め定められている。
【0057】
図3は、K0制御用フェーズ定義Dphk0における各フェーズの一例を説明する図表である。図3において、K0制御用フェーズ定義Dphk0は、「K0待機」、「クイックアプライ」、「パック詰め時定圧待機」、「K0クランキング」、「クイックドレン」、「再係合前定圧待機」、「回転同期初期」、「回転同期中期」、「回転同期終期」、「係合移行スイープ」、「完全係合移行スイープ」、「完全係合」、「バックアップスイープ」、「算出停止」などのフェーズが定義されている。
【0058】
「K0待機」フェーズは、エンジン12の始動制御時に、K0クラッチ20の制御を開始させずに待機させるフェーズである。「K0待機」フェーズは、エンジン12の始動制御を開始するときにK0待機判定が有る場合に遷移させられる。
【0059】
「クイックアプライ」フェーズは、速やかにK0クラッチ20のパック詰めを完了させる為に、一時的に高いK0油圧PRk0の指令値を印加するクイックアプライを実行し、K0油圧PRk0の初期応答性を向上させるフェーズである。「クイックアプライ」フェーズは、エンジン12の始動制御を開始するときにK0待機判定が無い場合に遷移させられる。又は、「クイックアプライ」フェーズは、K0クラッチ20の制御開始の待機中にK0待機判定が取り下げられた場合に、「K0待機」フェーズから遷移させられる。
【0060】
K0油圧PRk0の指令値は、油圧制御回路56に調圧されたK0油圧PRk0を供給させる為の油圧指令値である。本実施例では、K0油圧PRk0の指令値をK0油圧指令値Spk0と称する。K0油圧指令値Spk0は、電子制御装置90に備えられた、K0クラッチ20用ソレノイドバルブを駆動するソレノイド用ドライバに対する指示電流に一意に変換される。K0クラッチ20用ソレノイドバルブは、油圧制御回路56に備えられたK0油圧PRk0を出力するソレノイドバルブである。K0油圧制御指令信号Sk0は、K0クラッチ20用ソレノイドバルブを駆動するソレノイド用ドライバに対する指示電流、又は、このソレノイド用ドライバが供給する駆動電流又は駆動電圧である。つまり、K0油圧指令値Spk0は、K0油圧制御指令信号Sk0に変換されて油圧制御回路56へ出力される。本実施例では、便宜上、K0油圧指令値Spk0とK0油圧制御指令信号Sk0とを同意に取り扱う。
【0061】
「パック詰め時定圧待機」フェーズは、K0クラッチ20のパック詰めを完了させる為に、一定圧で待機するフェーズである。「パック詰め時定圧待機」フェーズは、クイックアプライが完了した場合に、「クイックアプライ」フェーズから遷移させられる。
【0062】
「K0クランキング」フェーズは、K0クラッチ20によるエンジン12のクランキングを行うフェーズである。「K0クランキング」フェーズは、K0クラッチ20のパック詰めが完了させられた場合に、「パック詰め時定圧待機」フェーズから遷移させられる。
【0063】
「クイックドレン」フェーズは、次のフェーズである「再係合前定圧待機」フェーズにおいて速やかに所定のK0油圧PRk0例えばパックエンド圧PRk0pkで待機できるように、一時的に低いK0油圧指令値Spk0を出力するクイックドレンを実行し、K0油圧PRk0の初期応答性を向上させるフェーズである。「クイックドレン」フェーズは、エンジン12のクランキングが完了し、クイックドレン実施判定が有る場合に、「K0クランキング」フェーズから遷移させられる。
【0064】
「再係合前定圧待機」フェーズは、エンジン12の完爆の外乱とならないように、所定のK0トルクTk0で待機するフェーズである。エンジン12の完爆は、例えばエンジン12の点火が開始された初爆後にエンジン12の爆発による自立回転が安定した状態である。エンジン12の完爆の外乱とならないということとは、エンジン12の自立回転を妨げないということである。「再係合前定圧待機」フェーズは、エンジン12のクランキングが完了し、クイックドレン実施判定が無い場合に、「K0クランキング」フェーズから遷移させられる。又は、「再係合前定圧待機」フェーズは、クイックドレンが完了した場合に、「クイックドレン」フェーズから遷移させられる。
【0065】
「回転同期初期」フェーズは、速やかにエンジン回転速度NeとMG回転速度Nmとを同期させる為に、K0トルクTk0を制御してエンジン回転速度Neの上昇を補助するフェーズである。「回転同期初期」フェーズは、エンジン制御部92aからの完爆通知時に、「回転同期終期」フェーズへの遷移条件及び「回転同期中期」フェーズへの遷移条件が何れも不成立であった場合に、「再係合前定圧待機」フェーズから遷移させられる。尚、エンジン制御部92aは、例えばエンジン回転速度Neが予め定められたエンジン12の完爆回転速度に到達した時点からの経過時間が予め定められた完爆通知待機時間TMengを超えたときにエンジン12の完爆通知を出力する(後述の図4参照)。完爆通知待機時間TMengは、例えばエンジン12の排ガス要件が考慮されて予め定められている。
【0066】
「回転同期中期」フェーズは、エンジン12が適切な吹き量(=Ne-Nm)となるようにK0トルクTk0を制御するフェーズである。「回転同期中期」フェーズは、エンジン制御部92aからの完爆通知時に、「回転同期中期」フェーズへの遷移条件が成立した場合に、「再係合前定圧待機」フェーズから遷移させられる。又は、「回転同期中期」フェーズは、「回転同期初期」フェーズの実行中に、「回転同期中期」フェーズへの遷移条件が成立した場合に、「回転同期初期」フェーズから遷移させられる。
【0067】
「回転同期終期」フェーズは、K0トルクTk0を制御し、エンジン回転速度NeとMG回転速度Nmとを同期させるフェーズである。「回転同期終期」フェーズは、エンジン制御部92aからの完爆通知時に、「回転同期終期」フェーズへの遷移条件が成立した場合に、「再係合前定圧待機」フェーズから遷移させられる。又は、「回転同期終期」フェーズは、「回転同期初期」フェーズの実行中に、「回転同期終期」フェーズへの遷移条件が成立した場合に、「回転同期初期」フェーズから遷移させられる。又は、「回転同期終期」フェーズは、「回転同期中期」フェーズの実行中に、「回転同期終期」フェーズへの遷移条件が成立した場合に、「回転同期中期」フェーズから遷移させられる。又は、「回転同期終期」フェーズは、「回転同期中期」フェーズの実行中に、自動変速機24の変速制御中ではなく、且つ、エンジン回転速度NeとMG回転速度Nmとの同期が不可能であると予測された状態が強制回転同期移行判定時間以上連続して成立した場合に、「回転同期中期」フェーズから遷移させられる。
【0068】
「係合移行スイープ」フェーズは、K0トルクTk0を漸増してK0クラッチ20を係合状態にするフェーズである。「係合移行スイープ」フェーズは、「回転同期終期」フェーズの実行中に、回転同期判定が成立した場合に、「回転同期終期」フェーズから遷移させられる。
【0069】
「完全係合移行スイープ」フェーズは、K0トルクTk0を漸増してK0クラッチ20を完全係合状態にするフェーズである。K0クラッチ20を完全係合状態にするとは、例えばK0クラッチ20の係合保障ができる安全率を加えた状態までK0トルクTk0を上げることである。「完全係合移行スイープ」フェーズは、「係合移行スイープ」フェーズの実行中に、K0係合判定が成立した場合に、「係合移行スイープ」フェーズから遷移させられる。又は、「完全係合移行スイープ」フェーズは、「係合移行スイープ」フェーズの実行中に、K0クラッチ20の回転同期状態を維持できない場合に、「係合移行スイープ」フェーズから遷移させられる。又は、「完全係合移行スイープ」フェーズは、「係合移行スイープ」フェーズ開始からの経過時間が予め定められた強制係合移行判定時間を超え、且つ、K0差回転ΔNk0の絶対値が予め定められた完全係合移行スイープ強制移行判定差回転以上であると判定された場合に、「係合移行スイープ」フェーズから遷移させられる。K0差回転ΔNk0は、K0クラッチ20の差回転速度(=Nm-Ne)である。
【0070】
「完全係合」フェーズは、K0クラッチ20の完全係合状態を維持するフェーズである。「完全係合」フェーズは、「完全係合移行スイープ」フェーズの実行中に、完全係合判定が成立した場合に、「完全係合移行スイープ」フェーズから遷移させられる。又は、「完全係合」フェーズは、「完全係合移行スイープ」フェーズ開始からの経過時間が予め定められた強制完全係合移行判定時間以上となり、且つ、K0差回転ΔNk0の絶対値が予め定められた完全係合強制移行判定差回転以上であると判定された場合に、「完全係合移行スイープ」フェーズから遷移させられる。
【0071】
「完全係合」フェーズは、「バックアップスイープ」フェーズからも遷移させられる。「完全係合」フェーズは、「バックアップスイープ」フェーズの実行中に、完全係合判定が成立し、且つ、K0差回転ΔNk0の絶対値が予め定められたバックアップ時回転同期判定差回転以下であるとの判定が予め定められたバックアップ時回転同期判定回数以上連続して成立した場合に、「バックアップスイープ」フェーズから遷移させられる。又は、「完全係合」フェーズは、「バックアップスイープ」フェーズの実行中に、エンジン12の始動制御の開始後に「K0待機」フェーズ以外のフェーズに遷移してからの経過時間が予め定められたエンジン始動制御タイムアウト時間以上となり、且つ、K0差回転ΔNk0の絶対値が完全係合強制移行判定差回転以上であると判定された場合に、「バックアップスイープ」フェーズから遷移させられる。
【0072】
「バックアップスイープ」フェーズは、K0トルクTk0を漸増してK0クラッチ20を係合するバックアップ制御を行うフェーズである。「バックアップスイープ」フェーズは、例えば「K0クランキング」フェーズ、「再係合前定圧待機」フェーズ、「回転同期初期」フェーズ、「回転同期中期」フェーズ、及び「回転同期終期」フェーズの各フェーズのうちの何れかのフェーズの実行中に、制御スタックを防止する為、実行中のフェーズ開始からの経過時間が予め定められた実行中のフェーズ用のバックアップ移行判定時間を超え、且つ、K0差回転ΔNk0が予め定められた実行中のフェーズ用のバックアップ移行判定差回転以上であると判定された場合に、実行中のフェーズから遷移させられる。
【0073】
「算出停止」フェーズは、エンジン12の始動に当たって、フェールセーフ制御が実行されている間は、エンジン12の始動制御に用いられるK0油圧PRk0のベース補正圧や要求K0トルクTk0dの算出を停止するフェーズである。前記フェールセーフ制御は、例えばK0クラッチ20用ソレノイドバルブから調圧されたK0油圧PRk0が出力されないフェールが発生したときに、K0クラッチ20用ソレノイドバルブを介することなくK0クラッチ20の完全係合状態を維持することが可能なK0油圧PRk0をクラッチアクチュエータ120に供給するように油圧制御回路56内の油路を切り替える制御である。完全係合状態を維持することが可能なK0油圧PRk0は、例えばK0クラッチ20用ソレノイドバルブなどに供給されるライン圧などの元圧である。前記ベース補正圧は、エンジン12の始動制御に用いられるK0油圧PRk0のベース圧が作動油温THoilなどに基づいて補正された値である。要求K0トルクTk0dは、エンジン12の始動制御時にエンジン12のクランキングやK0クラッチ20を係合状態へ切り替える為に要求されるK0トルクTk0である。
【0074】
K0制御用フェーズ定義Dphk0は、例えばエンジン12の始動制御に用いられるK0油圧PRk0のベース補正圧や要求K0トルクTk0dの算出を目的に作成されている。K0制御用フェーズ定義Dphk0は、K0油圧PRk0やK0トルクTk0を制御したいという、K0クラッチ20に対する制御の要求状態に基づいて各フェーズが定義されている。つまり、K0制御用フェーズ定義Dphk0は、K0クラッチ20の制御状態を切り替える制御要求に基づいて定義されている。
【0075】
クラッチ制御部94は、エンジン12の始動に当たって、K0制御用フェーズ定義Dphk0に基づいて、K0クラッチ20の制御状態を解放状態から係合状態へ切り替えるようにクラッチアクチュエータ120を制御する。
【0076】
始動制御部92cは、エンジン12の始動の際には、K0クラッチ20の制御状態に合わせて電動機MG及びエンジン12を制御する。エンジン12の始動制御では、必要クランキングトルクTcrnを電動機MGが出力するように電動機MGを制御すれば良く、又、エンジン12が運転を開始するようにエンジン12を制御すれば良い。その為、エンジン12の始動の際、始動制御部92cは、K0制御用フェーズ定義Dphk0のうちの電動機MG及びエンジン12の制御に必要なフェーズに基づいて、電動機MG及びエンジン12を制御する。これにより、エンジン12の始動に当たって制御の簡素化を図ることができる。
【0077】
図4は、エンジン12の始動制御が実行された場合のタイムチャートの一例を示す図である。図4において、「K0制御フェーズ」は、K0制御用フェーズ定義Dphk0における各フェーズの遷移状態を示している。又、要求K0トルクTk0dをK0油圧PRk0に換算した油圧値をK0油圧PRk0のベース補正圧に加算した合計油圧値が、K0油圧指令値Spk0として出力される。
【0078】
図4のt1時点は、アイドル状態で停車しているEV走行モード時に、又は、EV走行中に、エンジン12の始動要求が為され、エンジン12の始動制御が開始された時点を示している。エンジン12の始動制御の開始後、「K0待機」フェーズ(t1時点-t2時点参照)、「クイックアプライ」フェーズ(t2時点-t3時点参照)、「パック詰め時定圧待機」フェーズ(t3時点-t4時点参照)が実行されている。K0クラッチ20のパック詰め制御に続いて、「K0クランキング」フェーズが実行される(t4時点-t5時点参照)。
【0079】
図4の実施態様では、「パック詰め時定圧待機」フェーズにおいて、「K0クランキング」フェーズで要求される必要クランキングトルクTcrnに相当するK0油圧PRk0が加えられている。「パック詰め時定圧待機」フェーズでは、実際のK0油圧PRk0はK0トルクTk0を生じさせる値以上には上昇させられていない。
【0080】
「K0クランキング」フェーズにおいて、実際のK0油圧PRk0はK0トルクTk0を生じさせる値以上に上昇させられる。尚、「パック詰め時定圧待機」フェーズでは、K0クラッチ20をパック詰め完了状態に維持する為のK0油圧PRk0が加えられても良い。「K0クランキング」フェーズでは、要求K0トルクTk0dつまり必要クランキングトルクTcrnに相当する大きさのMGトルクTmが電動機MGから出力させられる。「K0クランキング」フェーズにおいて、エンジン回転速度Neが引き上げられると、エンジン点火などが開始されてエンジン12が初爆させられる。尚、着火始動が行われる場合には、例えばエンジン回転速度Neの引き上げ開始と略同時にエンジン12が初爆させられる。
【0081】
エンジン12の初爆後、エンジン12の完爆の外乱とならないように、「K0クランキング」フェーズに続いて、「クイックドレン」フェーズ(t5時点-t6時点参照)、「再係合前定圧待機」フェーズ(t6時点-t7時点参照)が実行され、一時的に低いK0油圧指令値Spk0が出力される。エンジン制御部92aからエンジン完爆通知が出力されると(t7時点参照)、「回転同期初期」フェーズ(t7時点-t8時点参照)、「回転同期中期」フェーズ(t8時点-t9時点参照)、「回転同期終期」フェーズ(t9時点-t10時点参照)、「係合移行スイープ(図中の「係合移行SW」)」フェーズ(t10時点-t11時点参照)が実行され、エンジン12と電動機MGとの回転同期制御が行われる。「係合移行スイープ」フェーズに続いて、「完全係合移行スイープ(図中の「完全係合移行SW」)」フェーズが実行され(t11時点-t12時点参照)、K0クラッチ20の係合保障ができる安全率を加えた状態までK0トルクTk0が漸増させられる。K0トルクTk0がK0クラッチ20の係合保障ができる安全率を加えた状態まで上昇させられると、「完全係合」フェーズが実行され(t12時点-t13時点参照)、K0クラッチ20の完全係合状態が維持される。t13時点は、エンジン12の始動制御が完了させられた時点を示している。
【0082】
図3図4の「K0クランキング」フェーズを参照すれば、クラッチ制御部94は、エンジン12の始動に当たって、K0クラッチ20の制御状態を解放状態から係合状態へ切り替える過渡中である係合過渡中に、K0油圧指令値Spk0として、必要クランキングトルクTcrnをK0クラッチ20が伝達するようにクラッチアクチュエータ120へのK0油圧PRk0を調圧する為のクランキング用のK0油圧指令値Spk0を油圧制御回路56へ出力する。本実施例では、クランキング用のK0油圧指令値Spk0を、クランキング用油圧指令値Spk0crと称する。
【0083】
図3図4の「クイックアプライ」フェーズを参照すれば、クラッチ制御部94は、エンジン12の始動に当たって、「K0クランキング」フェーズにおけるクランキング用油圧指令値Spk0crの出力に先立って、K0油圧指令値Spk0として、K0クラッチ20を速やかにパック詰め完了状態とするようにクラッチアクチュエータ120へのK0油圧PRk0の応答性を向上させる為のクイックアプライ用のK0油圧指令値Spk0を油圧制御回路56へ出力する。「クイックアプライ」フェーズにおけるクイックアプライは、クラッチアクチュエータ120の油室116に作動油OILを速やかに充填させるファーストフィル(=急速充填)でもあるので、クイックアプライ用のK0油圧指令値Spk0は、急速充填用のK0油圧指令値Spk0でもある。本実施例では、急速充填用のK0油圧指令値Spk0を、急速充填用油圧指令値Spk0ffと称する。
【0084】
一方で、K0油圧PRk0やK0トルクTk0は、K0油圧指令値Spk0に対して種々の要因によってばらつきが発生する。そうすると、エンジン12の始動制御におけるK0クラッチ20の係合過渡中において、MG回転速度Nm等が狙いの回転速度からずれてしまうおそれがある。その為、エンジン始動時におけるK0クラッチ20の係合に関わる学習制御、例えばK0油圧PRk0とK0油圧指令値Spk0との相関を表す関係を補正する学習制御を行うことが望まれる。
【0085】
そこで、電子制御装置90は、エンジン12の始動に当たって、K0クラッチ20の係合制御を適切に行う為の制御作動を実現する為に、更に、学習制御手段すなわち学習制御部98を備えている。
【0086】
学習制御部98は、エンジン12の始動に関わるK0クラッチ20の係合過渡中におけるK0油圧PRk0とK0油圧指令値Spk0との相関を表す関係を補正する複数種類の学習制御を行う。K0油圧PRk0とK0油圧指令値Spk0との相関を表す関係は、例えばK0油圧PRk0の実際値である実K0油圧PRk0rとK0油圧指令値Spk0との相関関係、実K0油圧PRk0rと要求K0トルクTk0dとの相関関係、K0トルクTk0の実際値である実K0トルクTk0rとK0油圧指令値Spk0との相関関係、実K0トルクTk0rと要求K0トルクTk0dとの相関関係などである。K0油圧PRk0とK0油圧指令値Spk0との相関を表す関係を補正する学習制御は、例えばK0油圧指令値Spk0に対する実K0油圧PRk0rのばらつきを補正する学習制御である。見方を換えれば、K0油圧PRk0とK0油圧指令値Spk0との相関を表す関係を補正する学習制御は、実K0トルクTk0rを要求K0トルクTk0dとする為のK0油圧指令値Spk0のばらつきを補正する学習制御である。本実施例では、この学習制御をK0学習制御CTlrnk0と称する。尚、本実施例では、特に区別しない場合には、K0油圧PRk0やK0トルクTk0などは、各々の実際値を表しているものとする。又、K0油圧PRk0のばらつきとK0トルクTk0のばらつきとは、同意である。
【0087】
複数種類のK0学習制御CTlrnk0は、K0クラッチ20の係合過渡中に切り替わる制御状態に応じて区分されたフェーズ(進行段階)に応じて実施される。複数種類のK0学習制御CTlrnk0は、例えばK0トルクTk0の発生前となる「クイックアプライ」フェーズにおけるクイックアプライの実行期間であるクイックアプライ時間(=QA時間)TMqaを補正する学習制御、すなわちK0クラッチ20を速やかにパック詰め完了状態とするように、K0油圧指令値Spk0に対するクラッチアクチュエータ120のK0油圧PRk0の応答性を向上させるための急速充填用油圧指令値Spk0ffが出力される実行期間であるQA時間TMqa(急速充填時間)を補正する急速充填時間学習を含んでいる。急速充填時間は、QA時間TMqaと同意であり、本実施例では、急速充填時間学習をQA時間学習CTlrnqaと称する。
【0088】
又、複数種類のK0学習制御CTlrnk0は、例えばK0トルクTk0の発生直前となる、「クイックアプライ」フェーズ後の「パック詰め時定圧待機」フェーズにおける一定圧待機時のK0油圧PRk0であるパックエンド圧PRk0pkを補正する学習制御、つまりK0クラッチ20をパック詰め完了状態とする為のK0油圧PRk0であるパックエンド圧PRk0pkを補正するパック詰め完了油圧学習としてのタッチ点学習CTlrnpkを含んでいる。
【0089】
尚、本実施例では、「パック詰め時定圧待機」フェーズにおけるK0油圧指令値Spk0として、例えばクランキング用油圧指令値Spk0crとパック詰め用油圧指令値Spk0pkとが車両10の状況に応じて選択的に油圧制御回路56へ出力される。パック詰め用油圧指令値Spk0pkは、エンジン12の始動に当たって、「K0クランキング」フェーズにおけるクランキング用油圧指令値Spk0crの出力に先立って、K0クラッチ20をパック詰め完了状態に維持するようにつまりK0油圧PRk0をパックエンド圧PRk0pkに維持するようにクラッチアクチュエータ120へのK0油圧PRk0を調圧する為のパック詰め用のK0油圧指令値Spk0である。タッチ点学習CTlrnpkは、「パック詰め時定圧待機」フェーズにおいて、パック詰め用油圧指令値Spk0pkが出力される場合に実行可能とされ、クランキング用油圧指令値Spk0crが出力される場合には実行されない。パック詰め用油圧指令値Spk0pkは、車両10の状況が、例えばエンジン始動が遅くなっても運転者に違和感を生じさせ難い状況のとき、始動ショックが生じ易い状況のときなどに出力される。エンジン始動が遅くなっても運転者に違和感を生じさせ難い状況のときとは、例えばエンジン12等の暖機が必要なときなどの、運転者の運転操作に因らずエンジン12の始動が要求されたときである。始動ショックが生じ易い状況のときとは、例えば自動変速機24の変速制御などの、エンジン12の始動制御とは別の他制御と協調してエンジン12を始動するときである。
【0090】
クランキング用油圧指令値Spk0crは、車両10の状況が、例えばエンジン始動が遅くなると運転者に違和感を生じさせ易い状況のとき、始動ショックが生じ難い状況のときなどに出力される。エンジン始動が遅くなると運転者に違和感を生じさせ易い状況のときとは、例えば運転者による車両10に対する駆動要求量が増大したことによってエンジン12の始動が要求されたときである。始動ショックが生じ難い状況のときとは、例えばエンジン12の始動制御とは別の他制御と協調することなくエンジン12を始動するときである。「パック詰め時定圧待機」フェーズにおいて、「パック詰め時定圧待機」フェーズ開始時点から予め定められた定圧待機継続時間経過したことによってK0クラッチ20のパック詰めが完了させられたと判定された場合に、「K0クランキング」フェーズへ遷移させられる。パック詰め用油圧指令値Spk0pkが出力される状況時の定圧待機継続時間は、基本的には、クランキング用油圧指令値Spk0crが出力される状況時の定圧待機継続時間よりも長い値が設定される。
【0091】
又、複数種類のK0学習制御CTlrnk0は、例えば「パック詰め時定圧待機」フェーズ後の「K0クランキング」フェーズにおける、K0トルクTk0とK0反力補償分のMGトルクTmとの立ち上がりタイミングの誤差を補正する学習制御、つまりK0トルクTk0が必要クランキングトルクTcrnに向けて立ち上がる伝達トルク立ち上がり時点と電動機MGによる必要クランキングトルクTcrn分の増大が開始させられる電動機トルク立ち上がり時点とのずれを補正する立ち上がり時点学習を含んでいる。この立ち上がり時点学習は、「K0クランキング」フェーズ開始時点からクランキング用油圧指令値Spk0crに対してK0トルクTk0が立ち上がった時点までの無駄時間TMwtを補正する無駄時間学習CTlrntmでもある。
【0092】
又、複数種類のK0学習制御CTlrnk0は、例えばK0トルクTk0の発生後となる「K0クランキング」フェーズにおけるクランキング用油圧指令値Spk0crに対するK0トルクTk0のばらつきを補正する学習制御、つまり必要クランキングトルクTcrnとクランキング用油圧指令値Spk0crにより生じるK0トルクTk0とのずれを補正する伝達トルク学習CTlrntkを含んでいる。
【0093】
学習制御部98は、複数種類のK0学習制御CTlrnk0を各々行う為の各学習パラメータPAlrnを必要に応じて取得し、取得した学習パラメータPAlrnに基づいて学習値VALlrnを算出して更新するK0学習制御CTlrnkoを行う。学習パラメータPAlrnは、例えばK0学習制御CTlrnk0における学習値VALlrnが収束させられていないことによって生じる現象を表す数値である。QA時間学習CTlrnqaにおける学習値VALlrnは、例えばQA時間TMqaの補正値である。タッチ点学習CTlrnpkにおける学習値VALlrnは、例えばパックエンド圧PRk0pkの補正値である。無駄時間学習CTlrntmにおける学習値VALlrnは、例えば無駄時間TMwtの補正値である。伝達トルク学習CTlrntkにおける学習値VALlrnは、例えばクランキング用油圧指令値Spk0crにより生じるK0トルクTk0、K0トルクTk0を必要クランキングトルクTcrnとする為のクランキング用油圧指令値Spk0crの補正値などである。
【0094】
本来はK0トルクTk0の発生前となる「クイックアプライ」フェーズや「パック詰め時定圧待機」フェーズにおいてK0油圧PRk0がオーバーシュートしてK0トルクTk0が発生したり、「K0クランキング」フェーズにおいてK0トルクTk0の大きさや発生タイミングが狙いからずれてしまうなどの、学習値VALlrnが収束させられていないことによるK0油圧PRk0やK0トルクTk0のばらつきは、例えばMG回転速度Nmの吹き上がりや落ち込み等の変動として現れる。例えば、K0トルクTk0が狙いの値よりも小さかったり、K0トルクTk0の発生タイミングが狙いよりも遅いと、エンジン12側へ流れるMGトルクTmが狙いよりも小さくされ、狙いよりも相対的に大きくされたMGトルクTmによってつまりエンジン12側へ流れない余剰分のMGトルクTmによってMG回転速度Nmが吹き上げられ、K0トルクTk0のばらつきはMG回転速度Nmの吹き量として現れる。MG回転速度Nmの吹き量は、MG回転速度Nmの変動量であるMG回転変動量ΔNm(=Nm-Nmtgt)のうちの正の値である。上記「Nmtgt」は、MG回転速度Nmの目標回転速度すなわち目標MG回転速度である。一方で、本来はK0トルクTk0の発生前となるフェーズにおいてK0トルクTk0が発生したり、K0トルクTk0が狙いの値よりも大きかったり、K0トルクTk0の発生タイミングが狙いよりも早いと、駆動トルクTr分のMGトルクTmのうちの一部がエンジン12側へ流れることになり、狙いよりも相対的に小さくされたMGトルクTmによってつまり駆動トルクTr分のMGトルクTmの不足によってMG回転速度Nmが落ち込まされ、K0トルクTk0のばらつきはMG回転速度Nmの落ち込み量として現れる。MG回転速度Nmの落ち込み量は、MG回転変動量ΔNmのうちの負の値である。このように、K0クラッチ20の状態に応じてMG回転変動量ΔNmが変動することから、学習パラメータPAlrnの一例は、MG回転変動量ΔNmである。
【0095】
又は、例えばMG回転速度Nmが目標MG回転速度Nmtgtに維持されるようにフィードバック制御によってMGトルクTmの過不足を補償する制御であるMGフィードバック制御CTfbmが行われる場合がある。MGフィードバック制御CTfbmが行われる場合には、K0トルクTk0のばらつきは、例えばMGフィードバック制御CTfbmによって過不足が補償された後の補償後MGトルクTmfbの変動量であるMGトルク変動量ΔTm(=Tmfb-Tmb)として現れる。上記「Tmb」は、MG回転速度Nmが目標MG回転速度Nmtgtからずれていないときの基本MGトルクである。このように、K0クラッチ20の状態に応じてMGトルク変動量ΔTmが変動することから、MGトルク変動量ΔTmも学習パラメータPAlrnの一例である。尚、学習パラメータPALlrnは、例えば学習期間中における変動量(MG回転変動量ΔNm、MGトルク変動量ΔTm)の積算値又は最大値として取得される。
【0096】
例えば、QA時間学習CTlrnqaを実施する場合、「クイックアプライ」フェーズの開始時点から「クイックアプライ」フェーズの完了時点より所定時間α経過した時点の間における、電動機MGのMG回転変動量ΔNm又はMGトルク変動量ΔTmに相当する学習パラメータPAlrnが取得される。すなわち、学習制御部98は、急速充填用油圧指令値Spk0ffが出力された時点からその急速充填用油圧指令値Spk0ffの出力が完了する時点より所定時間α経過する時点までの間、学習パラメータPALlrnの取得を行う。ここで、所定時間αは、例えば電子制御装置90のソレノイド用ドライバとK0クラッチ20用ソレノイドバルブとの間の通信遅れやK0クラッチ用ソレノイドバルブの特性に起因する応答遅れを考慮した値である。このように、「クイックアプライ」フェーズの完了より所定時間α経過した時点までの間、QA時間学習CTlrnqaにおいて学習パラメータPALlrnの取得、すなわちQA時間TMqaの学習が行われることで、前記通信遅れや応答遅れが発生した場合であってもQA時間TMqaを算出するための学習パラメータPALlrnが適切に取得される。尚、所定時間αは、好適には作動油温THoilに応じて適宜変更される。具体的には、作動油温THoilが低油温になるほど油圧の応答性が低下することを考慮して、作動油温THoilが低油温になるほど所定時間αが長くされる。
【0097】
又、学習制御部98は、QA時間学習CTlrnqaの学習期間に取得されたMG回転変動量ΔNm又はMGトルク変動量ΔTmに相当する学習パラメータPAlrnに、ゲイン処理を行うことで学習値VALlrnを算出する。ゲイン処理によるゲインGは、作動油温THoilなどに基づいて設定され、QA時間学習CTlrnqaの学習期間に取得されたMG回転変動量ΔNm又はMGトルク変動量ΔTmに、ゲインGが乗算(G×ΔNm、G×ΔTm)されることで、QA時間学習CTlrnqaにおける学習値VALlrnが算出される。又、タッチ点学習CTlrnpk、伝達トルク学習CTlrntk、無駄時間学習CTlrntmについても同様に、各々の学習期間に取得されたMG回転変動量ΔNm又はMGトルク変動量ΔTmに、ゲイン処理が各々施されることで各々の学習値VALlrnが算出される。そして、学習値VALが新たな学習値VALlrnに更新(補正)されると、次回のK0クラッチ20の係合時には、ベースとなるK0油圧指令値Spk0に、各K0学習制御CTlrnk0によって求められた新たな学習値VALlrnが加味(加算又は減算)されることにより、K0油圧指令値Spk0が補正される。
【0098】
又、前記ゲイン処理に代わって、オフセット処理により各学習値VALlrnが算出されても構わない。オフセット処理は、各学習期間に取得されたMG回転変動量ΔNm又はMGトルク変動量ΔTmに相当する学習パラメータPALlrnに基づいて求められたオフセット量Mを、各K0学習制御CTlrnkoにおける学習値VALlrnとして求めるものである。そして、学習値VALlrnが新たな学習値VALlrnに更新(補正)されると、次回のK0クラッチ20の係合時には、ベースとなるK0油圧指令値Spk0に、各K0学習制御CTlrnkoによって求められた学習値VALlrnが加味(加算又は減算)されることにより、K0油圧指令値Spk0が補正される。その結果、各学習値VALlrnが更新されることにより、K0油圧PRk0とK0油圧指令値Spk0との相関を表す関係が新たなものに補正される。
【0099】
尚、K0クラッチ20の係合過渡期において「バックアップスイープ」フェーズに切り替えられ、バックアップ制御によってK0トルクTk0が漸増している場合、又は、「算出停止」フェーズに切り替えられた場合には、学習パラメータPALlrnにゲイン処置又はオフセット処置を施すことによる学習値VALlrnの算出は実行されない。
【0100】
ところで、エンジン12の始動過程において係合状態へ切り替えられるK0クラッチ20の制御では、先ず、「クイックアプライ」フェーズが実行されてK0油圧PRk0が発生させられるので、QA時間学習CTlrnqaによるQA時間TMqaの変更やQA時間TMqaが収束していないことによるK0油圧PRk0のオーバーシュートは、例えばパックエンド圧PRk0pkの特性に影響を与えてしまう可能性がある。又、パックエンド圧PRk0pkが収束していないと、例えばK0トルクTk0のゼロ点に対応するK0油圧PRk0が変動し、クランキング用油圧指令値Spk0crとK0トルクTk0との相関関係に影響を与えてしまう可能性がある。又、伝達トルク学習CTlrntkにおける学習値VALlrnが収束していないと、例えばクランキング用油圧指令値Spk0crが変動し、K0トルクTk0の応答特性つまり無駄時間TMwtに影響を与えてしまう可能性がある。その為、複数種類のK0学習制御CTlrnk0における個々のK0学習制御CTlrnk0の実行順によっては、例えば無駄時間学習CTlrntmによって無駄時間TMwtが一旦収束させられた後に、QA時間学習CTlrnqaによってQA時間TMqaが変更させられて無駄時間TMwtが再び収束させられず、結果的に、エンジン始動時におけるK0クラッチ20の係合に関わる複数種類のK0学習制御CTlrnk0の進行が遅れてしまうおそれがある。
【0101】
そこで、互いのばらつきが互いに影響を与えて誤学習することが抑制されるように、複数種類のK0学習制御CTlrnk0について、個々のK0学習制御CTlrnk0を実行する優先順位が予め定められている。又、優先順位が上位のK0学習制御CTlrnk0から順番に学習値VALlrnを収束させ、複数種類のK0学習制御CTlrnk0を進行させる。上述した、QA時間TMqaの変更がパックエンド圧PRk0pkの特性に影響を与えてしまうなどを考慮すると、K0学習制御CTlrnk0を実行する優先順位の最上位は、例えばQA時間学習CTlrnqaであり、学習値VALlrnを収束させる優先順位は、上位から順に、例えばQA時間学習CTlrnqa、タッチ点学習CTlrnpk、伝達トルク学習CTlrntk、無駄時間学習CTlrntmである。この優先順位は、K0クラッチ20の係合時に切り替わるフェーズの順番や係合過渡中におけるK0クラッチ20の制御状態などから決定される。尚、本実施例において、QA時間学習CTlrnqaを優先順位が上位となる上位学習とすると、タッチ点学習CTlrnpk、伝達トルク学習CTlrntk、及び無駄時間学習CTlrntmが、上位学習であるQA時間学習CTlrnqaよりも下位に位置する下位学習となる。又、QA時間学習CTlrnqa及びタッチ点学習CTlrnpkを上位学習とすると、伝達トルク学習CTlrntk及び無駄時間学習CTlrntmがこれら上位学習に対する下位学習となる。又、QA時間学習CTlrnqa、タッチ点学習CTlrnpk、及び伝達トルク学習CTlrntkを上位学習とすると、無駄時間学習CTlrntmがこれら上位学習よりも下位に位置する下位学習となる。
【0102】
ここで、学習値VALlrnを収束させる優先順位は、エンジン12の始動に伴うK0クラッチ20の係合制御において、一回のエンジン始動に当たって、二つ以上のK0学習制御CTlrnk0を実行することを排除するというものではない。つまり、優先順位が上位のK0学習制御CTlrnk0における学習値VALlrnが収束させられているか否かに拘わらず、下位のK0学習制御CTlrnk0が実行させられる。学習値VALlrnを収束させる優先順位は、自身のK0学習制御CTlrnk0よりも優先順位が高いK0学習制御CTlrnk0における学習値VALlrnが収束させられていない場合には、自身を含む優先順位が低いK0学習制御CTlrnk0における学習値VALlrnは収束していないとみなされるだけである。
【0103】
上述したように、優先順位が上位のK0学習制御CTlrnk0(上位学習)の学習値VALlrnが収束させられていない状態で、それよりも優先順位が下位のK0学習制御CTlrnk0(下位学習)が実行させられると、下位学習が誤学習を起こす可能性がある。従って、誤学習を回避するため、優先順位が上位の上位学習の学習値VALlrnの収束を待って下位学習が実行されるのが望ましい。しかしながら、上位学習の学習値VALlrnの収束を待つことで、下位学習が進行しにくくなってしまう。これに対して、上位学習の学習値VALlrnが収束させられているかに拘わらず、下位学習が実行させられることで、下位学習の進行を早めることができる。
【0104】
学習制御部98は、エンジン12の始動に伴うK0クラッチ20の係合制御が実行されると、複数種類のK0学習制御CTlrnk0のうちで優先順位の最も高いQA時間学習CTlrnqaを優先して実行する。又、学習制御部98は、QA時間学習CTlrnqaによって算出された学習値VALlrnであるQA時間TMqaが収束したか否かを判定する。次いで、学習制御部98は、QA時間学習CTlrnqaの判定結果に拘わらず、複数種類のK0学習制御CTlrnk0である、タッチ点学習CTlrnpk、伝達トルク学習CTlrntk、及び無駄時間学習CTlrntmにおける学習値VALlrnをそれぞれ算出し、さらにそれぞれの学習値VALlrnが収束したか否かを判定する。
【0105】
具体的には、学習制御部98は、始動制御部92cによりエンジン12の始動要求が有ると判定された場合には、今回のエンジン始動制御の際にK0学習制御CTlrnk0を実施するか否かを最初に判定する。学習制御部98は、例えば車両10が安定している状態であって、K0クラッチ20用ソレノイドバルブなどが故障していないと判定されている状態であるときには、K0学習制御CTlrnk0を実施すると判定する。学習制御部98は、例えば車速V、アクセル開度θacc、自動変速機24のギヤ段、MG回転速度Nm等に基づいて、車両10が安定している状態であるか否かを判断する。学習制御部98は、例えば車両10が安定していない状態、又は、K0クラッチ20用ソレノイドバルブなどが故障していると判定されている状態であるときには、K0学習制御CTlrnk0を実施しないと判定する。
【0106】
学習制御部98は、K0学習制御CTlrnk0を実施すると判定した場合には、優先順位が最上位のK0学習制御CTlrnk0例えばQA時間学習CTlrnqaを優先的に実行する。
【0107】
学習制御部98は、実行したK0学習制御CTlrnk0における学習値VALlrnが収束したか否かを判定する。例えば、学習制御部98は、実行したK0学習制御CTlrnk0において取得された学習パラメータPAlrnの値が、QA時間学習CTlrnqaの学習値VALlrnが収束したと判断する為の予め定められた所定変動量Kよりも小さいか否かに基づいて、QA時間学習CTlrnqaが収束状態にあるか否かを判定する。尚、所定変動量Kは、予め実験的又は設計的に設定され、学習パラメータPALlrnのばらつきが収束したと判断できる値に設定されている。
【0108】
又、学習制御部98は、実行したK0学習制御CTlrnk0における学習値VALlrnが収束していないと判定した場合であっても、実行したK0学習制御CTlrnk0よりも優先順位が下位のK0学習制御CTlrnk0(下位学習)についても実行する。すなわち、学習制御部98は、優先順位が上位に位置するK0学習制御CTlrnk0(上位学習)における学習値VALlrnが収束しているいないに拘わらず、エンジン12の始動に関わるK0クラッチ20の係合過渡中に実行される複数種類のK0学習制御CTlrnk0を全て実行する。
【0109】
上述したように、優先順位が上位に位置するK0学習制御CTlrnk0における学習値VALlrnが収束していないに拘わらず、複数種類のK0学習制御CTlrnkoがそれぞれ実行されることで、K0クラッチ20の各学習の進行が速くなるが、その背反として、誤学習される可能性も高くなる。それに対して、学習制御部98は、優先順位が上位に位置するK0学習制御CTlrnk0(上位学習)が未収束状態と判断される場合には、上位学習が収束状態と判断される場合に比較して、上位学習よりも優先順位が下位に位置するK0学習制御CTlrnk0(下位学習)の学習値VALlrnを算出するときに用いられるゲインG又はオフセット量Mを小さくする。言い換えれば、優先順位が上位のK0学習制御CTlrnko(上位学習)が未収束状態と判断される場合には、上位学習が収束状態と判断される場合に比較して、上位学習よりも優先順位が下位に位置する下位学習で取得された学習結果に相当する学習パラメータPALlrnの反映度合を小さくする。尚、K0学習制御CTlrnkoが収束状態又は未収束状態は、K0学習制御CTlrnkoにおける学習値VALlrnが収束状態又は未収束状態と同意である。なお、上記ゲインG又はオフセット量Mを小さくすることが、本発明の学習結果の反映度合を小さくすることに対応する。
【0110】
優先順位が上位に位置するK0学習制御CTlrnk0(上位学習)が未収束状態では、下位に位置するK0学習制御CTlrnk0(下位学習)が、上位学習が未収束状態であることによる影響を受ける可能性がある。従って、学習値VALlrnによる補正量は最小限であることが望ましい。これを考慮して、ゲイン処理によるゲインG又はオフセット処理によるオフセット量Mが、上位に位置するK0学習制御CTlrnk0が収束状態と判断される場合に比較して小さくされることにより、下位学習の学習値VALlrnの値が小さくなり、下位学習の学習結果の反映度合が小さくなる。
【0111】
学習制御部98は、本実施例において優先順位が最も上位に位置するQA時間学習CTlrnqaで取得された学習パラメータPALlrnにゲイン処理又はオフセット処理を施すことで、学習値VALlrnであるQA時間TMqaの補正値を算出する。尚、QA時間学習CTlrnqaは、優先順位が最も上位に位置しており、他のK0学習制御CTlrnk0の影響を受けないため、ゲイン処理によるゲインG及びオフセット処理によるオフセット量Mは収束状態に拘わらず同じ値とされている。又、学習制御部98は、QA時間学習CTlrnqaによって取得されたQA学習パラメータPALlrnqaの値が所定変動量Kよりも小さいか否かに基づいて、QA時間学習CTlrnqaが収束状態にあるかを判定する。
【0112】
次いで、学習制御部98は、QA時間学習CTlrnqaに次いで優先順位の高いタッチ点学習CTlrnpkで取得された学習パラメータPALlrnにゲイン処理又はオフセット処理を施すことで、学習値VALlrnであるパックエンド圧PRk0pkの補正値を算出する。ここで、学習制御部98は、ゲイン処理又はオフセット処理を施すに当たって、タッチ点学習CTlrnpkよりも優先順位の高いQA時間学習CTlrnqaが収束状態と判断されているか否かに応じて、ゲイン処理によるゲインG及びオフセット処理によるオフセット量Mを変更する。
【0113】
具体的には、QA時間学習CTlrnqaが未収束状態と判断される場合には、学習値VALlrnであるパックエンド圧PRk0pkの補正値を算出するときに用いられるゲインG(以下、ゲインGpkn)が、QA時間学習CTlrnqaが収束状態と判断される場合に用いられるゲインG(以下、ゲインGpkc)に比較して小さくされる。又は、QA時間学習CTlrnqaが未収束状態と判断される場合には、パックエンド圧PRk0pkの補正値を算出するときに用いられるオフセット量M(以下、オフセット量Mpkn)が、QA時間学習CTlrnqaが収束状態と判断される場合に用いられるオフセット量M(以下、オフセット量Mpkc)に比較して小さくされる。
【0114】
学習制御部98は、タッチ点学習CTlrnpkによって学習値VALlrnを算出するときに用いられるゲインGの関係マップを記憶しており、この関係マップに作動油温THoil等を適用することでゲインGを決定する。図5は、タッチ点学習CTlrnpkにおいて学習値VALlrnを算出するために用いられるゲインGpkc、Gpknの関係マップの一例である。図5において、横軸が作動油温THoilを示し、縦軸がゲインGを示している。又、図5において実線がQA時間学習CTlrnqaが収束状態の場合に用いられるゲインGpkcを示し、一点鎖線がQA時間学習CTlrnqaが未収束状態の場合に用いられるゲインGpknを示している。図5の関係マップからもわかるように、QA時間学習CTlrnqaが未収束状態の場合に用いられるゲインGpknが、QA時間学習CTlrnqaが収束状態の場合に用いられるゲインGpkcよりも小さい値に設定されている。このことから、QA時間学習CTlrnqaが未収束状態の場合には、QA時間学習CTlrnqaが収束状態の場合に比べて、算出される学習値VALlrnが小さくなる。すなわち、QA時間学習CTlrnqaが未収束状態の場合には、QA時間学習CTlrnqaが収束状態の場合に比べて、タッチ点学習CTlrnpkによる学習結果の反映度合が小さくなる。
【0115】
又は、学習制御部98は、タッチ点学習CTlrnpkによって学習値VALlrnを算出するときに用いられるオフセット量Mのマップを記憶しており、そのマップに作動油温THoil等を適用することでオフセット量Mを決定する。図6は、タッチ点学習CTlrnpkにおいて学習値VALlrnを算出するために用いられるオフセット量Mpkc、Mpknの関係マップの一例である。図6において、横軸が作動油温THoilを示し、縦軸がオフセット量Mを示している。又、図6において実線がQA時間学習CTlrnqaが収束状態の場合に用いられるオフセット量Mpkcを示し、一点鎖線がQA時間学習CTlrnqaが未収束状態の場合に用いられるオフセット量Mpknを示している。図6の関係マップからもわかるように、QA時間学習CTlrnqaが未収束状態の場合に用いられるオフセット量Mpknが、QA時間学習CTlrnqaが収束状態の場合に用いられるオフセット量Mpkcよりも小さい値に設定されている。このことから、QA時間学習CTlrnqaが未収束状態と判断される場合には、QA時間学習CTlrnqaが収束状態と判断される場合に比べて、算出される学習値VALlrnが小さくなる。すなわち、QA時間学習CTlrnqaが未収束状態と判断される場合には、QA時間学習CTlrnqaが収束状態と判断される場合に比べて、タッチ点学習CTlrnpkによる学習結果の反映度合が小さくなる。
【0116】
学習制御部98は、タッチ点学習CTlrnpkにおける学習値VALlrnを算出すると、タッチ点学習CTlrnpkで取得された学習パラメータPALlrnの値が、タッチ点学習CTlrnpkの学習値VALlrnが収束したと判断する為の予め定められた所定変動量Kよりも小さいか否かに基づいて、タッチ点学習CTlrnpkが収束状態にあるか否かを判定する。
【0117】
学習制御部98は、タッチ点学習CTlrnpkが収束状態にあるか否かを判定した後、タッチ点学習CTlrnpkよりも優先順位の低い伝達トルク学習CTlrntkにおける学習値VALlrnを算出する。学習制御部98は、伝達トルク学習CTlrntkで取得された学習パラメータPALlrnにゲイン処理又はオフセット処理を施すことで、学習値VALlrnであるクランキング用油圧指令値Spk0crの補正値を算出する。ここで、学習制御部98は、ゲイン処理又はオフセット処理を施すに当たって、伝達トルク学習CTlrntkよりも優先順位の高いQA時間学習CTlrnqa及びタッチ点学習CTlrnpkが収束状態にあるか否かに応じてゲイン処理によるゲインG及びオフセット処理によるオフセット量Mを変更する。
【0118】
具体的には、QA時間学習CTlrnqa及びタッチ点学習CTlrnpkの少なくとも一方が未収束状態と判断された場合には、学習値VALlrnであるクランキング用油圧指令値Spk0crの補正値を算出するときに用いられるゲインG(以下、ゲインGtkn)が、QA時間学習CTlrnqa及びタッチ点学習CTlrnpkがともに収束状態の場合に用いられるゲインG(以下、ゲインGtkc)に比較して小さくされる。又は、QA時間学習CTlrnqa及びタッチ点学習CTlrnpkの少なくとも一方が未収束状態と判断された場合には、学習値VALlrnであるクランキング用油圧指令値Spk0crの補正値を算出するときに用いられるオフセット量M(以下、オフセット量Mtkn)が、QA時間学習CTlrnqa及びタッチ点学習CTlrnpkがともに収束状態の場合に用いられるオフセット量M(以下、オフセット量Mtkcに比較して小さくされる。
【0119】
学習制御部98は、例えば伝達トルク学習CTlrntkにおける学習値VALlrnを算出するときに用いられるゲインGの関係マップを記憶しており、この関係マップに作動油温THoil等を適用することでゲインGを決定する。伝達トルク学習CTlrntkにおいて用いられるゲインGの関係マップについても、図5に示した関係マップと同じ傾向となっている。すなわち、QA時間学習CTlrnqa及びタッチ点学習CTlrnpkの少なくとも一方が未収束状態の場合に用いられるゲインGtknが、QA時間学習CTlrnqa及びタッチ点学習CTlrnpkがともに収束状態の場合に用いられるゲインGtkcに比較して小さい値に設定されている。このことから、QA時間学習CTlrnqa及びタッチ点学習CTlrnpkの少なくとも一方が未収束状態の場合には、QA時間学習CTlrnqa及びタッチ点学習CTlrnpkがともに収束状態の場合に比べて、算出される学習値VALlrnが小さくなる。すなわち、QA時間学習CTlrnqa及びタッチ点学習CTlrnpkの少なくとも一方が未収束状態の場合には、QA時間学習CTlrnqa及びタッチ点学習CTlrnpkがともに収束状態の場合に比べて、伝達トルク学習CTlrntkによる学習結果の反映度合が小さくなる。
【0120】
又は、学習制御部98は、例えば伝達トルク学習CTlrntkにおける学習値VALlrnを算出するときに用いられるオフセット量Mの関係マップを記憶しており、このオフセット量Mの関係マップに作動油温THoil等を適用することでオフセット量Mを決定する。伝達トルク学習CTlrntkにおいて用いられる関係マップについても、図6に示した関係マップと同じ傾向となっている。すなわち、QA時間学習CTlrnqa及びタッチ点学習CTlrnpkの少なくとも一方が未収束状態の場合に用いられるオフセット量Mtknが、QA時間学習CTlrnqa及びタッチ点学習CTlrnpkがともに収束状態の場合に用いられるオフセット量Mtkcに比較して小さい値に設定されている。このことから、QA時間学習CTlrnqa及びタッチ点学習CTlrnpkの少なくとも一方が未収束状態の場合には、QA時間学習CTlrnqa及びタッチ点学習CTlrnpkがともに収束状態の場合に比べて、算出される学習値VALlrnが小さくなる。すなわち、QA時間学習CTlrnqa及びタッチ点学習CTlrnpkの少なくとも一方が未収束状態の場合には、QA時間学習CTlrnqa及びタッチ点学習CTlrnpkがともに収束状態の場合に比べて、伝達トルク学習CTlrntkによる学習結果の反映度合が小さくなる。
【0121】
学習制御部98は、伝達トルク学習CTlrntkにおける学習値VALlrnを算出すると、伝達トルク学習CTlrntkで取得された学習パラメータPALlrnの値が、学習値VALlrnが収束したと判断する為の予め定められた所定変動量Kよりも小さいか否かに基づいて、伝達トルク学習CTlrntkが収束状態にあるか否かを判定する。
【0122】
学習制御部98は、伝達トルク学習CTlrntkが収束状態にあるか否かを判定した後、伝達トルク学習CTlrntkよりも優先順位の低い無駄時間学習CTlrntmにおける学習値VALlrnを算出する。学習制御部98は、無駄時間学習CTlrntmで取得された学習パラメータPALlrnにゲイン処理又はオフセット処理を施すことで、学習値VALlrnである無駄時間TMwtの補正値を算出する。ここで、学習制御部98は、ゲイン処理又はオフセット処理を施すに当たって、無駄時間学習CTlrntmよりも優先順位の高いQA時間学習CTlrnqa、タッチ点学習CTlrnpk、及び伝達トルク学習CTlrntkが収束状態にあるか否かに応じて、ゲイン処理によるゲインG及びオフセット処理によるオフセット量Mを変更する。
【0123】
具体的には、QA時間学習CTlrnqa、タッチ点学習CTlrnpk、及び伝達トルク学習CTlrntk(以下、これらをまとめて各上位学習と称す)の少なくとも1つが未収束状態と判断された場合には、学習値VALlrnである無駄時間TMwtの補正値を算出するときに用いられるゲインG(以下、ゲインGtmn)が、各上位学習が何れも収束状態のときに用いられるゲインG(以下、ゲインGtmc)に比較して小さくされる。又は、各上位学習の少なくとも1つが未収束状態と判断された場合には、学習値VALlrnである無駄時間TMwtの補正値を算出するときに用いられるオフセット量M(以下、オフセット量Mtmn)が、各上位学習が収束状態の場合に用いられるオフセット量M(以下、オフセット量Mtmc)に比較して小さくされる。
【0124】
学習制御部98は、無駄時間学習CTlrntmにおける学習値VALlrnを算出するときに用いられるゲインGの関係マップを記憶しており、この関係マップに作動油温THoil等を適用することでゲインGを決定する。無駄時間学習CTlrntmにおいて用いられる関係マップについても、図5に示したゲインGを求めるための関係マップと同じ傾向となっている。すなわち、各上位学習の少なくとも1つが未収束状態の場合に用いられるゲインGtmnが、各上位学習の何れもが収束状態にある場合に用いられるゲインGtmcに比較して小さい値に設定されている。このことから、各上位学習の少なくとも1つが未収束状態の場合には、各上位学習が何れも収束状態の場合に比べて、算出される学習値VALlrnが小さくなる。言い換えれば、各上位学習の少なくとも1つが未収束状態の場合には、各上位学習が何れも収束状態の場合に比べて、無駄時間学習CTlrntmによる学習結果の反映度合が小さくなる。
【0125】
又は、学習制御部98は、無駄時間学習CTlrntmにおける学習値VALlrnを算出するときに用いられるオフセット量Mの関係マップを記憶しており、この関係マップに作動油温THoil等を適用することでオフセット量Mを決定する。無駄時間学習CTlrntmにおいて用いられる関係マップについても、図6に示したオフセット量Mを求めるための関係マップと同じ傾向となっている。すなわち、各上位学習の少なくとも1つが未収束状態の場合に用いられるオフセット量Mtmnが、各上位学習の何れもが収束状態にある場合に用いられるオフセット量Mtmcに比較して小さい値に設定されている。このことから、各状態学習の少なくとも1つが未収束状態の場合には、各状態学習の何れも収束状態の場合に比べて、算出される学習値VALlrnが小さくなる。言い換えれば、各上位学習の少なくとも1つが未収束状態の場合には、各上位学習が何れも収束状態の場合に比べて、無駄時間学習CTlrntmによる学習結果の反映度合が小さくなる。
【0126】
学習制御部98は、無駄時間学習CTlrntmにおける学習値VALlrnを算出すると、無駄時間学習CTlrntmで取得された学習パラメータPALlrnの値が、学習値VALlrnが収束したと判断する為の予め定められた所定変動量Kよりも小さいか否かに基づいて、無駄時間学習CTlrntmが収束状態にあるか否かを判定する。
【0127】
次いで、学習制御部98は、複数種類のK0学習制御CTlrnk0によって算出された各学習値VALlrnを更新(補正)するに当たって、各学習値VALlrnの更新が可能な状態であるかを判定する。具体的には、学習制御部98は、各学習値VALlrnを更新するに当たって、K0学習制御CTlrnk0を行ったエンジン12の始動完了後であって、且つ、クラッチアクチュエータ120に供給されるK0油圧PRk0が予め設定されている所定値β以下、又は、油圧制御回路56にK0油圧指令値Spk0が出力されない状態(すなわちK0油圧指令値Spk0がゼロの状態)であるか否かに基づいて、各学習値VALlrnの更新が可能な状態であるか否かを判定する。学習制御部98は、K0学習制御CTlrnk0を行ったエンジン12の始動完了後であって、且つ、クラッチアクチュエータ120に供給されるK0油圧PRk0が予め設定されている所定値β以下、又は、油圧制御回路56にK0油圧指令値Spk0が出力されない状態であることを判断すると、各学習値VALlrnの更新を行う。すなわち、上記条件が成立したとき、K0油圧PRk0とK0油圧指令値Spk0との相関を表す関係の更新を行う。エンジン12の始動完了後、クラッチアクチュエータ120のK0油圧PRk0がゼロに近い所定値β以下、又は、K0油圧指令値Spk0が出力されない状態では、K0クラッチ20に関する油圧制御が実行されない。このとき、電子制御装置90にかかる負荷が小さいため、電子制御装置90にかかる負荷が多くなる学習値VALlrnの更新を適切に実行することが可能になる。すなわち、電子制御装置90のK0クラッチ20の油圧制御の実行中に、各学習値VALlrnの更新が併せて実行されることで、K0クラッチ20の油圧制御に影響が生じることが抑制される。
【0128】
学習制御部98は、学習対象の更新が可能な状態であると判定されると、優先順位の最も高いQA時間学習CTlrnqaにおける学習値VALlrnから順番に学習値VALlrnの更新を実行する。具体的には、学習制御部98は、K0学習制御CTlrnkoの実行前において例えば電子制御装置90のROMに記憶されていた各学習値VALlrnを、今回学習された新たな学習値VALlrnに書き替える。
【0129】
ここで、優先順位が上位に位置するK0学習制御CTlrnk0が未収束状態と判断された場合には、各K0学習制御CTlrnk0によって算出された各学習値VALlrnの信頼性が低い。そこで、学習制御部98は、優先順位が上位に位置するK0学習制御CTlrnk0が未収束状態と判断されている場合には、各K0学習制御CTlrnk0によって取得される変動量を示す学習パラメータPALlrnの値が予め設定されている所定範囲Rpを超える場合に、学習値VALlrnを更新する。すなわち、学習値VALlrnを新たな値に書き替えることで学習結果をK0油圧PRk0とK0油圧指令値Spk0との相関を表す関係に反映させる。変動量を示す学習パラメータPALlrnが大きい場合には油圧のばらつきの大きいことから、指令値に対する狙いの値とのずれが大きく、更新前の学習値VALlrnの信頼性が低いものと考えられる。このような場合には、優先順位が上位のK0学習制御CTlrnk0が未収束状態であっても、学習値VALlrnが更新されることで油圧のばらつきが低減されるとともに、全体の学習の進行を速めることができる。さらに、優先順位が上位のK0学習制御CTlrnk0が未収束状態の場合には、ゲインG及びオフセット量Mが小さくされるため、誤学習の影響も低減される。尚、所定範囲Rpは、予め実験的または設計的に求められて記憶され、例えば学習対象である指令値に対する狙いの値とのずれが顕著になる変動量の下限閾値に設定されている。又、所定範囲Rpは、K0学習制御CTlrnkoの学習対象に応じて適宜変更される。一方、学習パラメータPALlrnの値が所定範囲Rpを超えない場合には、その学習値VALlrnの更新が行われないことで、優先順位が上位のK0学習制御CTlrnkoが未収束状態であっても学習値VALlrnが更新されることによる誤学習の頻度を少なくすることができる。
【0130】
図7は、電子制御装置90の制御作動の要部、すなわちエンジン12の始動過渡中にK0クラッチ20の指令値の学習を行うに当たって、速やかに学習を進行させることができる制御作動を説明するためのフローチャートである。このフローチャートは、車両10の運転中において繰り返し実行される。
【0131】
図7において、先ず、始動制御部92cの制御機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、エンジン12の始動要求が有るか否かが判定される。つまりエンジン12の始動制御が開始されるか否かが判定される。このS10の判定が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS10の判定が肯定される場合は学習制御部98の制御機能に対応するS20において、今回のエンジン始動に当たってK0学習制御CTlrnk0を実施するかが判定される。このS20の判定が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS30の判定が肯定される場合は学習制御部98の制御機能に対応するS30において、優先順位が最上位のK0学習制御CTlrnk0すなわちQA時間学習CTlrnqaが優先的に実行される。
【0132】
S30のQA時間学習CTlrnqaについて図8のフローチャートを用いて説明する。図8のフローチャートは、QA時間学習CTlrnqaを実行する毎に実行される。
【0133】
図8において学習制御部98の制御機能に対応するS100では、エンジン12の始動に当たって、「クイックアプライ」フェーズが開始されたか否かが判定される。S100の判定が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS100の判定が肯定される場合は、学習制御部98の制御機能に対応するS110において、電動機MGのMG回転変動量ΔNm又はMGトルク変動量ΔTmに基づいて学習パラメータPALlrnが取得される。次いで、学習制御部98の制御機能に対応するS120において、「クイックアプライ」フェーズの完了時点から所定時間α経過したか否かが判定される。S120の判定が否定される場合は、S110に戻って学習パラメータPALlrnの取得が継続して行われる。S120の判定が肯定される場合は、学習制御部98の制御機能に対応するS130において、S110で取得された学習パラメータPALlrnにゲイン処理又はオフセット処理が施されることで学習値VALlrnが算出される。次いで、学習制御部98の制御機能に対応するS140において、S110で取得された学習パラメータPALlrnが所定変動量Kよりも小さいか否かが判定される。S140の判定が肯定される場合は、学習制御部98の制御機能に対応するS150において、QA時間学習CTlrnqaが収束状態にあると判断される。S140の判定が否定される場合は、学習制御部98の制御機能に対応するS160において、QA時間学習CTlrnqaが未収束状態と判断される。
【0134】
図7のS30に戻り、QA時間学習CTlrnqaによって学習値VALlrnが算出されると、次いで、QA時間学習CTlrnqaの次に優先順位の高いタッチ点学習CTlrnpkが実行される。学習制御部98の制御機能に対応するS40では、自身の学習よりも優先順位が上位の学習が収束状態にあるか否かが判断される。例えば、QA時間学習CTlrnのみが学習された状態では、タッチ点学習CTlrnpkが自身の学習となり、優先順位が上位の学習がQA時間学習CTlrnになる。この場合には、S40において、タッチ点学習CTlrnpkによる学習値VALlrnを算出するに当たって、QA時間学習CTlrnqaが収束状態にあるか否かが判断される。S40の判断が否定される場合、学習制御部98の制御機能に対応するS50において、優先順位が上位の学習が未収束状態の場合に設定されるゲインG又はオフセット量Mに基づいて、学習値VALlrnが算出される。例えば、タッチ点学習CTlrnpkの学習値VALlrnを学習するに当たって、QA時間学習CTlrnqaが未収束状態の場合に設定されるゲインGpkn又はオフセット量Mpknに基づいて、タッチ点学習CTlrnpkにおける学習値VALlrnが算出される。S40が肯定される場合、学習制御部98の制御機能に対応するS60において、優先順位が上位の学習が収束状態の場合に設定されるゲインGまたはオフセット量Mに基づいて、学習値VALlrnが算出される。例えば、タッチ点学習CTlrnpkの学習値VALlrnを学習するに当たって、QA時間学習CTlrnqaが収束状態の場合に設定されるゲインGpkc又はオフセット量Mpkcに基づいて、タッチ点学習CTlrnpkにおける学習値VALlrnが算出される。
【0135】
次いで、学習制御部98の制御機能に対応するS70において、全てのK0学習制御CTlrnkoにおける学習値VALlrnが算出されたか否かが判定される。例えば、タッチ点学習CTlrnpkまで学習値VALlrnが算出されたものの、伝達トルク学習CTlrntkおよび無駄時間学習CTlrntmの学習値VALlrnが算出されていない場合には、S70の判定が否定される。このとき、S40に戻り、優先順位が下位のK0学習制御CTlrnk0についても順番に学習値VALlrnが算出される。尚、K0学習制御CTlrnk0では、優先順位の高い学習から順番に学習値VALlrnが算出されるものとする。これより、タッチ点学習CTlrnにおける学習値VALlrnが算出されると、次いで、伝達トルク学習CTlrntkにおける学習値VALlrnの算出がS40~S60のステップで行われ、次いで、無駄時間学習CTlrntmにおける学習値VALlrnの算出がS40~S60のステップで行われる。そして、無駄時間学習CTlrntmによる学習値VALlrnの算出が完了した場合に、S70の判定が肯定される。
【0136】
学習制御部98の制御機能に対応するS80では、エンジン12の始動制御が完了した後、K0クラッチ20のK0油圧PRkoが所定値β以下、又は、油圧制御回路56に油圧指令値Spk0が出力されない状態であるか否かが判定される。S80の判定が否定される場合には、K0クラッチ20の油圧が所定値β以下、又は、油圧制御回路56に油圧指令値が出力されない状態になるまで各学習値VALlrnの更新が待機される。S80の判定が肯定された場合、学習制御部98の制御機能に対応するS90において、K0学習制御CTlrnk0の各学習によって算出された学習値VALlrnが更新される。すなわち、学習前に記憶されていた学習値VALlrnが、今回学習された新たな学習値VALlrnに書き替えられる。
【0137】
S90の制御作動について図9のフローチャートを用いて説明する。図9のフローチャートは、各K0学習制御CTlrnk0で算出された各学習値VALlrnを更新するときに実行される。尚、学習値VALlrnの更新についても、優先順位の高い学習から順番に行われるものとする。
【0138】
学習制御部98の制御機能に対応するS200では、自身の学習よりも優先順位が上位の学習が収束状態にあるか否かが判断される。S200の判断が肯定される場合、学習制御部98の制御機能に対応するS210において、算出された学習値VALlrnが新たな学習値VALlrnとして更新(補正)される。すなわち、電子制御装置90に記憶されている学習値VALlrnが今回学習された新たな学習値VALlrnに書き替えられる。S200の判断が否定される場合、学習制御部98の制御機能に対応するS220において、自身の学習において取得された変動量に相当する学習パラメータPALlrnの値が、予め設定されている所定範囲Rpを超えるか否かが判定される。S220の判定が肯定される場合、S210に進み、算出された学習値VALlrnが新たな学習値VALlrnとして更新(補正)される。S220の判定が否定される場合、学習制御部98の制御機能に対応するS230において、学習値VALの更新は行われない。学習制御部98の制御機能に対応するS240では、全ての学習値VALlrnの更新が完了したか否かが判定される。S240の判定が否定される場合、S200に戻り、優先順位が下位の学習である学習値VALlrnの更新が実行される。S240の判定が肯定される場合、全ての学習値VALlrnについて更新作業が完了したことから本ルーチンが終了させられる。このようにして各K0学習制御CTlrnkoによって各学習値VALlrnが更新されることで、次回のK0クラッチ20を係合するときには、K0クラッチ20のベースとなるK0油圧指令値Spk0に、更新された各学習値VALlrnが加味(加算又は減算)されることでK0油圧指令値Spk0が好適に補正される。
【0139】
上述のように、本実施例によれば、学習制御部98は、複数種類の学習に予め優先順位を設定し、複数種類の学習のうち優先順位が上位に位置する上位学習が未収束状態と判断される場合には、その上位学習が収束状態と判断される場合に比較して、上位学習よりも優先順位が下位に位置する下位学習の学習結果の反映度合を小さくするため、上位学習が未収束の状態であっても、下位学習の学習結果の反映度合を小さくしつつ、下位学習の学習を進行させることで、上位学習が未収束の状態であることに起因する誤学習の影響を低減しつつ、速やかに全体の学習を進行させることができる。
【0140】
又、本実施例によれば、下位学習において取得された変動量に対応する学習パラメータPALlrnが所定範囲Rpを超えた場合において、上位学習の収束を待たずに下位学習を進行させることができるため、上位学習が未収束の状態であることに起因する誤学習の影響を低減しつつ、速やかに全体の学習を進行させることができる。又、QA時間学習CTlrnqaが、急速充填用油圧指令値Spk0ffが出力された時点から出力が完了する時点より所定時間α経過するまでの間に行われるため、電子制御装置90とクラッチアクチュエータ120のK0油圧PRk0を制御するリニアソレノイドバルブとの間の通信遅れやリニアソレノイドバルブの特性に起因する応答遅れが生じた場合であっても、QA時間TMqaを適切に学習することができる。又、エンジン12の始動完了後であって、且つ、K0クラッチ20のクラッチアクチュエータ120のK0油圧PRk0が所定値β以下のとき又は油圧制御回路56に油圧指令値Spk0が出力されない状態のときに、K0学習制御CTlrnk0によって学習された各学習値VALlrnkoの更新が行われるため、電子制御装置90にかかる演算による負荷が少ないときに各学習値VALlrnが更新され、他の制御に影響が生じることが抑制される。
【0141】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0142】
例えば、前述の実施例では、エンジン12の始動過渡中に実行されるK0学習制御CTlrnk0として、QA時間学習CTlrnqa、タッチ点学習CTlrnpk、伝達トルク学習CTlrntk、及び無駄時間学習CTlrntmが実行されるものであったが、これらのK0学習制御CTlrnk0は一例であって、K0学習制御CTlrnk0による学習対象が適宜変更されても構わない。例えば、上記のK0学習制御CTlrnk0に加えて、更に他のK0学習制御CTlrnk0が追加されても構わない。又は、上記K0学習制御CTlrnk0に代わって、他のK0学習制御CTlrnk0が行われるものであっても構わない。
【0143】
又、前述の実施例では、優先順位が上位に位置するK0学習制御CTlrnk0が未収束状態の場合には、下位に位置するK0学習制御CTlrnk0の学習値VALlrnの更新が、学習パラメータPALlrnの値が所定範囲Rpを超える場合に実行されるとしたが、学習パラメータPALlrnの値が所定範囲Rpを超えるか否かに拘わらず、各学習値VALlrnが更新されるものであっても構わない。この場合であっても、学習値VALlrnを算出するときに用いられるゲインG及びオフセット量Mが、上位のK0学習制御CTlrnk0が収束状態にある場合に比べて小さくされるため、上位のK0学習制御CTlrnk0が未収束状態であっても、学習値VALlrnが更新されることによる影響が低減される。
【0144】
又、前述の実施例では、QA時間学習CTlrnqaが「クイックアプライ」フェーズの開始から完了時点より所定時間α経過した時点の間に取得される学習パラメータPALlrnに基づいて学習するものであったが、矛盾の生じない範囲において、他のK0学習制御CTlrnk0についても、学習可能なフェーズに切り替わった時点からそのフェーズが完了した時点より所定時間経過した時点の間で取得された変動量である学習パラメータPALlrnに基づいて学習を行い、K0油圧PRk0とK0油圧指令値Spk0との相関を表す関係を補正するものであっても構わない。
【0145】
又、前述の実施例において、学習パラメータPAlrnは、K0学習制御CTlrnk0における学習値VALlrnが収束させられていないことによって生じる現象を表す数値、又は、K0油圧指令値Spk0に対するK0油圧PRk0のばらつきによって生じる現象を表す数値であれば良く、MG回転変動量ΔNm又はMGトルク変動量ΔTmに限らない。
【0146】
又、前述の実施例では、エンジン12の始動方法として、K0クラッチ20が解放状態から係合状態へ切り替えられる過渡状態におけるエンジン12のクランキングに合わせてエンジン12を点火し、エンジン12自体でもエンジン回転速度Neを上昇させる始動方法を例示したが、この態様に限らない。例えば、エンジン12の始動方法は、K0クラッチ20が完全係合状態又は完全係合状態に近い状態とされるまでエンジン12をクランキングした後にエンジン12を点火する始動方法などであっても良い。
【0147】
又、前述の実施例では、学習制御部98は、実行したK0学習制御CTlrnk0における学習パラメータPAlrnの値が、学習値VALlrnが収束したと判断する為の予め定められた所定変動量Kよりも小さいか否かに基づいて、学習値VALlrnが収束したか否かを判断するものであったが、実行したK0学習制御CTlrnk0による学習値VALlrnが、学習値VALlrnが収束したと判断する為の予め定められた所定量よりも小さいか否かに基づいて、学習値VALlrnが収束したか否かが判断されるものであっても構わない。
【0148】
又、前述の実施例では、K0学習制御CTlrnkoによって算出された各学習値VALlrnをそれぞれ更新し、次回のK0クラッチ20の係合制御のときには、ベースとなるK0油圧指令値Spk0に各学習値VALlrnを加味(加算又は減算)することでK0油圧指令値Spk0を補正するものであったが、K0学習制御CTlrnkoによって各学習値VALlrnを算出すると、各学習値VALlrnに基づいてベースとなるK0油圧指令値Spk0自体を更新(補正)するものであっても構わない。
【0149】
又、前述の実施例では、優先順位が最も上位にあるQA時間学習CTlrnqaが収束状態及び未収束状態に拘わらず、ゲインG及びオフセット量Mが変わらないとしたが、QA時間学習CTlrnqaについても、自身の収束状態及び未収束状態に応じて、ゲインG及びオフセット量Mが変更されるものであっても構わない。具体的には、QA時間学習CTlrnqaが未収束状態の場合に設定されるゲインG及びオフセット量Mが、QA時間学習CTlrnqaが収束状態の場合に設定されるゲイン及びオフセット量Mに比べて小さくされる。
【0150】
又、前述の実施例では、自動変速機24として遊星歯車式の自動変速機を例示したが、この態様に限らない。自動変速機24は、公知のDCT(Dual Clutch Transmission)を含む同期噛合型平行2軸式自動変速機、公知のベルト式無段変速機などであっても良い。
【0151】
又、前述の実施例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ22が用いられたが、この態様に限らない。例えば、流体式伝動装置として、トルクコンバータ22に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられても良い。又は、流体式伝動装置は、必ずしも備えられている必要はなく、例えば発進用のクラッチに置き換えられても良い。
【0152】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0153】
10:車両
12:エンジン
14:駆動輪
20:K0クラッチ(クラッチ)
56:油圧制御回路
90:電子制御装置(制御装置)
92c:始動制御部
94:クラッチ制御部
98:学習制御部
120:クラッチアクチュエータ
MG:電動機
CTlrnk0:K0学習制御(学習)
CTlrnqa:QA時間学習(急速充填時間学習、上位学習、学習)
CTlrnpk:タッチ点学習(学習)
CTlrntk:伝達トルク学習(学習)
CTlrntm:無駄時間学習(学習)
PRk0:K0油圧(油圧)
Rp:所定範囲
Spk0:油圧指令値
Spk0ff:急速充填用油圧指令値
Spk0cr:クランキング用油圧指令値
Tcrn:必要クランキングトルク
TMqa:QA時間(急速充填時間)
VALlrn:学習値
α:所定時間
ΔNm:MG回転変動量(変動量)
ΔnTm:MGトルク変動量(変動量)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9