(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112481
(43)【公開日】2022-08-02
(54)【発明の名称】ガイド体及び糸巻取機
(51)【国際特許分類】
B65H 57/14 20060101AFI20220726BHJP
【FI】
B65H57/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021198224
(22)【出願日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2021008239
(32)【優先日】2021-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 竣也
(72)【発明者】
【氏名】加賀田 翔
(72)【発明者】
【氏名】松井 崇倫
(72)【発明者】
【氏名】米倉 踏青
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀平
【テーマコード(参考)】
3F110
【Fターム(参考)】
3F110AA01
3F110BA00
3F110CA04
3F110DA09
3F110DB15
(57)【要約】
【課題】低コストで糸品質の変化を抑えることのできるガイド体を提供する。
【解決手段】糸を綾振りしながらボビンに巻き取る際の支点となる支点ガイド31を有するガイド体16であって、支点ガイド31は、円筒形状を有するとともに中心軸周りに回転可能であり、支点ガイド31が、支点ガイド31の外周面に接触しながら走行する糸から所定値以上のトルクを受けた場合に、糸の走行速度よりも遅い周速で従動回転するように、支点ガイド31に回転抵抗を付与する回転抵抗付与手段37が設けられている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を綾振りしながらボビンに巻き取る際の支点となる支点ガイドを有するガイド体であって、
前記支点ガイドは、円筒形状を有するとともに中心軸周りに回転可能であり、
前記支点ガイドが、前記支点ガイドの外周面に接触しながら走行する前記糸から所定値以上のトルクを受けた場合に、前記糸の走行速度よりも遅い周速で従動回転するように、前記支点ガイドに回転抵抗を付与する回転抵抗付与手段が設けられていることを特徴とするガイド体。
【請求項2】
前記回転抵抗付与手段は、前記支点ガイドの周速が前記糸の走行速度の5%以下となるように前記支点ガイドに回転抵抗を付与することを特徴とする請求項1に記載のガイド体。
【請求項3】
前記回転抵抗付与手段は、前記支点ガイドの周速が前記糸の走行速度の3.5%以下となるように前記支点ガイドに回転抵抗を付与することを特徴とする請求項2に記載のガイド体。
【請求項4】
前記回転抵抗付与手段は、前記支点ガイドの回転数が7400rpm以下となるように前記支点ガイドに回転抵抗を付与することを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のガイド体。
【請求項5】
前記回転抵抗付与手段は、前記支点ガイドの回転数が5000rpm以下となるように前記支点ガイドに回転抵抗を付与することを特徴とする請求項4に記載のガイド体。
【請求項6】
前記回転抵抗付与手段は、
前記支点ガイドの軸方向の一方側に配置される被押付部と、
前記支点ガイドを前記被押付部に向かって押し付ける押付部材と、
を有することを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載のガイド体。
【請求項7】
前記支点ガイドと前記被押付部との間、及び/又は、前記支点ガイドと前記押付部材との間に、介在部材が配置されていることを特徴とする請求項6に記載のガイド体。
【請求項8】
前記介在部材は、
前記支点ガイドの端面に当接するスラスト軸受部と、
前記支点ガイドの内周面に当接するラジアル軸受部と、
を有することを特徴とする請求項7に記載のガイド体。
【請求項9】
前記押付部材はばねであることを特徴とする請求項6~8の何れか1項に記載のガイド体。
【請求項10】
前記支点ガイドを回転可能に支持する軸部材に、前記被押付部が一体的に形成されていることを特徴とする請求項6~9の何れか1項に記載のガイド体。
【請求項11】
前記回転抵抗付与手段は、前記支点ガイドと接触する他の部材と前記支点ガイドとの間に形成された接触部であり、
前記接触部において、前記支点ガイドの周速が前記糸の走行速度よりも遅くなるように摩擦力が調整されていることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載のガイド体。
【請求項12】
前記回転抵抗付与手段としての前記接触部は、前記支点ガイドの内周面と、前記支点ガイドの内周面と接触する他の部材との間に形成されていることを特徴とする請求項11に記載のガイド体。
【請求項13】
前記支点ガイドを回転可能に支持する軸部材と前記支点ガイドとの間に介在部材が配置されており、
前記回転抵抗付与手段としての前記接触部は、前記支点ガイドの内周面と前記介在部材との間に形成されていることを特徴とする請求項12に記載のガイド体。
【請求項14】
巻取軸に装着された複数のボビンに複数の糸を巻き取る糸巻取機であって、
請求項1~13の何れか1項に記載のガイド体が、前記巻取軸の軸方向に複数並んでいることを特徴とする糸巻取機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸を綾振りしながらボビンに巻き取る際の支点となる支点ガイドを有するガイド体、及び、当該ガイド体を備える糸巻取機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、紡糸装置から紡出された糸を綾振りしながらボビンに巻き取る糸巻取機が知られている。このような糸巻取機には、糸を綾振りする際の支点となる支点ガイドが設けられている。例えば、特許文献1、2では、円筒形状の支点ガイド(特許文献2では案内ローラ)が設けられており、支点ガイドの外周面に糸が掛けられる。
【0003】
特許文献1では、支点ガイドが糸巻取時に中心軸周りに回転しないように構成されている。このため、高速走行する糸が支点ガイドの外周面の同じ部分に接触し続け、支点ガイドにおいて局所的な摩耗が進行しやすい。その結果、糸と支点ガイドの接触状態が変わってしまい、糸の品質低下をもたらすおそれがあった。そこで、特許文献1ではモータによって支点ガイドを回転できるように構成されており、糸との接触位置を変更することができる。しかしながら、特許文献1では、支点ガイドを回転させるためのモータ等の駆動部が必要なことから、コストが高くなるという問題があった。
【0004】
一方、特許文献2では、支点ガイドが中心軸周りに自由回転可能なローラとされている。このため、糸巻取時に糸との摩擦によって支点ガイドが常時回転し、局所的な摩耗を抑えることができる。また、自由回転可能なローラを用いることで、支点ガイドを回転させるための駆動部が不要となり、コストを抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-23787号公報
【特許文献2】特表2008-531438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2では、支点ガイドが高速回転に耐え得るように精密な軸受構造が必要となる。精密な軸受構造は劣化しやすく、その結果、糸の巻取中に支点ガイドの回転数が低下することで、糸品質が意図せず変化してしまうおそれがあった。
【0007】
以上の課題に鑑みて、本発明では、低コストで糸品質の変化を抑えることのできるガイド体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、糸を綾振りしながらボビンに巻き取る際の支点となる支点ガイドを有するガイド体であって、前記支点ガイドは、円筒形状を有するとともに中心軸周りに回転可能であり、前記支点ガイドが、前記支点ガイドの外周面に接触しながら走行する前記糸から所定値以上のトルクを受けた場合に、前記糸の走行速度よりも遅い周速で従動回転するように、前記支点ガイドに回転抵抗を付与する回転抵抗付与手段が設けられていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、支点ガイドは糸から所定値以上のトルクを受けた場合に従動回転するので、支点ガイドの外周面において糸が接触する部分を変化させることができ、支点ガイドの局所的な摩耗を抑えることができる。また、支点ガイドを回転させるためのモータ等の駆動部が不要なので、コストを抑えることができる。さらに、回転抵抗付与手段によって支点ガイドを糸の走行速度よりも遅い周速で回転させることで、支点ガイドと糸との摩擦特性が、支点ガイドを固定している場合とほとんど変わらずに略一定となる。このため、支点ガイドの回転数が多少変動しても、それによる糸品質の変化を抑えられる。以上のように、本発明によれば、低コストで糸品質の変化を抑えることが可能となる。
【0010】
本発明において、前記回転抵抗付与手段は、前記支点ガイドの周速が前記糸の走行速度の好ましくは5%以下、さらに好ましくは3.5%以下となるように前記支点ガイドに回転抵抗を付与するとよい。
【0011】
支点ガイドの周速が糸の走行速度の5%以下と十分に遅ければ、糸品質の変化をより効果的に抑えることができる。
【0012】
本発明において、前記回転抵抗付与手段は、前記支点ガイドの回転数が好ましくは7400rpm以下、さらに好ましくは5000rpm以下となるように前記支点ガイドに回転抵抗を付与するとよい。
【0013】
支点ガイドの回転数が大きいと、支点ガイド及び支点ガイドと接触している他の部材が損耗しやすく、支点ガイドの滑らかな回転に支障が生じるおそれがある。そこで、上述のように、支点ガイドの回転数を7400rpm以下と低くすることで、支点ガイド及び支点ガイドと接触している他の部材の損耗を抑えることができ、支点ガイドの滑らかな回転を持続することができる。
【0014】
本発明において、前記回転抵抗付与手段は、前記支点ガイドの軸方向の一方側に配置される被押付部と、前記支点ガイドを前記被押付部に向かって押し付ける押付部材と、を有するとよい。
【0015】
このような構成によれば、押付部材による押付力によって、支点ガイドに回転抵抗を付与することができる。
【0016】
本発明において、前記支点ガイドと前記被押付部との間、及び/又は、前記支点ガイドと前記押付部材との間に、介在部材が配置されているとよい。
【0017】
このような構成によれば、介在部材の形状、寸法、材質等によって支点ガイドに作用する押付力の調整が可能となり、支点ガイドの回転数及び周速を調整しやすくなる。
【0018】
本発明において、前記介在部材は、前記支点ガイドの端面に当接するスラスト軸受部と、前記支点ガイドの内周面に当接するラジアル軸受部と、を有するとよい。
【0019】
介在部材にスラスト軸受部及びラジアル軸受部を設けることで、支点ガイドをより円滑に回転させることができる。
【0020】
本発明において、前記押付部材はばねであるとよい。
【0021】
押付部材をばねとすることで、支点ガイドに作用する押付力を調整しやすくなり、支点ガイドの回転数及び周速を調整しやすくなる。
【0022】
本発明において、前記支点ガイドを回転可能に支持する軸部材に、前記被押付部が一体的に形成されているとよい。
【0023】
このような構成であれば、ガイド体を少ない部品点数で製造できる。
【0024】
本発明において、前記回転抵抗付与手段は、前記支点ガイドと接触する他の部材と前記支点ガイドとの間に形成された接触部であり、前記接触部において、前記支点ガイドの周速が前記糸の走行速度よりも遅くなるように摩擦力が調整されているとよい。
【0025】
このような構成であれば、上述の押付部材が不要となり、ガイド体を少ない部品点数で製造できる。
【0026】
本発明において、前記回転抵抗付与手段としての前記接触部は、前記支点ガイドの内周面と、前記支点ガイドの内周面と接触する他の部材との間に形成されているとよい。
【0027】
一般的に支点ガイドの内周面は端面より面積が広いので、支点ガイドの内周面を回転抵抗付与手段として利用することで摩擦力の調整が行いやすくなる。
【0028】
本発明において、前記支点ガイドを回転可能に支持する軸部材と前記支点ガイドとの間に介在部材が配置されており、前記回転抵抗付与手段としての前記接触部は、前記支点ガイドの内周面と前記介在部材との間に形成されているとよい。
【0029】
このような構成によれば、介在部材の形状、寸法、材質等によって接触部における摩擦力の調整が可能となり、支点ガイドの回転数及び周速を調整しやすくなる。
【0030】
本発明は、巻取軸に装着された複数のボビンに複数の糸を巻き取る糸巻取機であって、上記何れかのガイド体が、前記巻取軸の軸方向に複数並んでいることを特徴とする。
【0031】
このような糸巻取機によれば、低コストで糸品質の変化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本実施形態に係る紡糸引取装置の側面図である。
【
図6】変形例における検証実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るガイド体を有する糸巻取機を紡糸引取装置に適用した実施形態について説明する。
【0034】
(紡糸引取装置)
図1は、本実施形態に係る紡糸引取装置1の側面図である。本明細書では、
図1に示す前後左右上下の各方向を、紡糸引取装置1の前後左右上下と定義する。
【0035】
紡糸引取装置1は、紡糸装置2から紡出される複数(本実施形態では16本)の糸Yを引き取る装置であり、ゴデットローラ3、4及び糸巻取機10を備えている。紡糸装置2は、紡糸引取装置1の上方に配置されており、合成樹脂からなる複数の糸Yを紡出する。ゴデットローラ3、4は、紡糸装置2の下方に配置されており、不図示のモータによって回転駆動される。紡糸装置2から紡出された複数の糸Yは、ゴデットローラ3、4を経由して、糸巻取機10へ送られる。
【0036】
糸巻取機10は、ゴデットローラ3、4の下方に配置されている。糸巻取機10は、機台11に内蔵されたターレット12によって片持ち支持された2本のボビンホルダ13(本発明の巻取軸)を有する。ボビンホルダ13は前後方向に延びており、その後端部がターレット12によって支持されている。ボビンホルダ13には、前後方向に複数のボビンBを装着することができる。ボビンホルダ13は、不図示のモータによって軸周りに回転駆動される。
【0037】
ターレット12は、前後方向に平行な回転軸を有する円板状の部材であり、周方向に180度異なる上位置と下位置とのそれぞれにボビンホルダ13が取り付けられている。ターレット12を回転させることによって、2本のボビンホルダ13が上位置と下位置との間で移動する。上位置のボビンホルダ13では、複数の糸Yを複数のボビンBに巻き取って、複数のパッケージPを形成する。一方、下位置のボビンホルダ13では、複数のパッケージPの回収、及び、新しい複数のボビンBの装着が行われる。
【0038】
糸巻取機10は、機台11に片持ち支持された支持フレーム14を有する。支持フレーム14は、その後端部が機台11によって支持されている。支持フレーム14の上方には、ガイドユニット15が配置されている。ガイドユニット15には、糸Yの本数と同じ数のガイド体16が前後方向に並んで設けられている。支持フレーム14には、糸Yの本数と同じ数のトラバース装置17が前後方向に並んで設けられている。トラバース装置17は、対応するガイド体16を支点として糸Yを前後方向に綾振りさせる。
【0039】
支持フレーム14の下方には、支持フレーム14によって回転可能に支持されたコンタクトローラ18が配置されている。コンタクトローラ18は、上位置のボビンホルダ13に保持されている複数のパッケージPの外周面に接触する。糸巻取時に、コンタクトローラ18がパッケージPに所定の接圧を付与しながら回転することで、パッケージPの形状を整えることができる。
【0040】
(ガイドユニット)
ガイドユニット15の構成について説明する。
図2は、ガイドユニット15の側面図である。
図2のa図は、複数のガイド体16が巻取位置に位置する状態を示し、
図2のb図は、複数のガイド体16が糸掛位置に位置する状態を示す。巻取位置とは、複数のボビンBに複数の糸Yを巻き取るときの複数のガイド体16の位置である。糸掛位置とは、複数のガイド体16に複数の糸Yを掛けるときの複数のガイド体16の位置である。複数のガイド体16は、巻取位置と糸掛位置との間で移動可能に構成されている。
【0041】
ガイドユニット15は、複数のガイド体16、複数のスライダ21、案内レール22、及び、エアシリンダ23を有する。スライダ21はガイド体16と同じ数だけ設けられており、それぞれのガイド体16は対応するスライダ21に取り付けられている。案内レール22は、前後方向に延びる部材であり、不図示のブラケットを介して支持フレーム14に固定されている。案内レール22には、複数のスライダ21が前後方向に並んだ状態で摺動可能に取り付けられている。互いに隣り合うスライダ21同士は、不図示のベルトによって連結されている。エアシリンダ23は、複数のガイド体16を巻取位置と糸掛位置との間で移動させるための駆動装置である。エアシリンダ23のロッド23aが、最も後側のスライダ21に連結されている。なお、複数のガイド体16を移動させる駆動装置は、エアシリンダ23に限定されず、モータ等の他のアクチュエータであってもよい。
【0042】
図2のa図に示すように、エアシリンダ23のロッド23aが縮んでいるとき、複数のスライダ21は互いに離間した状態で前後方向に並んでいる。このときの複数のガイド体16の位置が巻取位置である。一方、
図2のb図に示すように、エアシリンダ23のロッド23aが伸長しているとき、複数のスライダ21が案内レール22の前端部に集合する。このときの複数のガイド体16の位置が糸掛位置である。
【0043】
図2のa図に示すように、ゴデットローラ4から巻取位置に位置する複数のガイド体16に分配される複数の糸Yの糸道は、前後方向において複数のガイド体16の中心を通る鉛直面に関して略対称になっている。前側半分の8本の糸Yは、ガイド体16の前側に掛けられるのに対し、後側半分の8本の糸Yは、ガイド体16の後側に掛けられる。また、複数のガイド体16のうち端に近いものほど糸Yとの接触角(巻き掛け角)が大きく、中央に近いものほど糸Yとの接触角(巻き掛け角)が小さくなっている。
【0044】
(ガイド体)
ガイド体16の詳細について説明する。
図3は、ガイド体16の断面図である。ガイド体16は、支点ガイド31、固定部材32、及び、軸部材33を有する。支点ガイド31は、左右方向に延びる円筒形状を有しており、軸部材33によって中心軸周りに回転可能に支持されている。糸Yは、支点ガイド31の外周面に掛けられ、糸巻取時には支点ガイド31の外周面に接触した状態で走行する。支点ガイド31は、支点ガイド31の外周面上を接触しながら走行する糸Yから所定値以上のトルクを受けると、糸Yの走行速度よりも遅い周速で従動回転する。
【0045】
固定部材32は、円筒形状の小径部32aと円筒形状の大径部32bとを有する。小径部32aは、スライダ21に形成された円形の取付穴21aに挿入される。大径部32bの右端部には、円環形状の凹部32cが形成されている。凹部32cには、ばね36(本発明の押付部材)が配置されている。固定部材32には、左右方向に貫通する雌ねじ部32dが形成されている。固定部材32は、小径部32aが取付穴21aの右側から挿入され、且つ、大径部32bのフランジ面がスライダ21に当接した状態で、不図示のボルトによってスライダ21に固定される。
【0046】
軸部材33は、軸部33aとフランジ部33b(本発明の被押付部)とが一体的に形成された部材である。軸部33aは、左右方向に延びる円筒形状を有する。軸部33aは、軸部33aに外嵌された支点ガイド31を回転可能に支持する。フランジ部33bは、軸部33aの右端部から軸部33aの径方向外側に広がった円環形状の部位である。軸部材33には、左右方向に貫通する貫通孔33cが形成されている。貫通孔33cの右端部は、右に向かうほど内径が大きくなっており、ボルト39の頭部が当接するテーパー面33dが形成されている。
【0047】
支点ガイド31の軸方向の両側には、樹脂製の介在部材34、35が支点ガイド31に隣接して配置されている。介在部材34、35は、L字形状の断面を有する円環部材であり、支点ガイド31の径方向に延びるスラスト軸受部34a、35aと、支点ガイド31の軸方向に延びるラジアル軸受部34b、35bとを有する。このような樹脂製の介在部材34、35を設けることで、支点ガイド31及び軸部材33の損耗を抑えることができる。なお、介在部材34、35には、例えばPOM(ポリアセタール)が使用される。
【0048】
右側の介在部材34のスラスト軸受部34aは、支点ガイド31の軸方向において支点ガイド31と軸部材33のフランジ部33bとの間に配置されており、支点ガイド31の右端面に当接している。左側の介在部材35のスラスト軸受部35aは、支点ガイド31の軸方向において支点ガイド31とばね36との間に配置されており、支点ガイド31の左端面に当接している。ラジアル軸受部34b、35bは、支点ガイド31の径方向において支点ガイド31と軸部材33の軸部33aとの間に配置されており、支点ガイド31の内周面に当接している。
【0049】
軸部材33に支点ガイド31を外嵌した状態で、貫通孔33cにボルト39を挿入し、そのボルト39を固定部材32の雌ねじ部32dに締め付けると、軸部材33が固定部材32に固定される。このとき、支点ガイド31は、固定部材32の凹部32cに配置されたばね36の付勢力によって、フランジ部33bに向かって押し付けられる。
【0050】
従来、糸が支点ガイドの外周面の同じ部分に接触し続けて、支点ガイドの局所的な摩耗が進行することを避けるために、自由回転可能、すなわち、糸の走行速度と略同じ周速で回転可能な支点ガイドを用いることが多かった。しかし、自由回転可能な支点ガイドを用いる場合、ボールベアリング等の精密な軸受構造が必要となり、軸受構造の劣化に伴って、糸の巻取中に支点ガイドの回転数が低下することがあった。その結果、糸品質が意図せず変化してしまうおそれがあった。
【0051】
このような糸品質の変化を避けるため、本実施形態では、支点ガイド31の周速が糸Yの走行速度よりも遅くなるように、支点ガイド31に回転抵抗を付与する回転抵抗付与手段37が設けられている。回転抵抗付与手段37は、支点ガイド31が糸Yから所定値以上のトルクを受けた場合に、支点ガイド31が糸Yの走行速度よりも遅い周速で従動回転するように調整されている。具体的には、回転抵抗付与手段37は、ばね36と軸部材33のフランジ部33bとによって構成されている。ばね36が支点ガイド31をフランジ部33bに向かって押し付けることで、支点ガイド31が回転する際の摩擦抵抗が大きくなり、回転抵抗を付与することができる。その結果、支点ガイド31の回転数を小さくすることができる。
【0052】
支点ガイド31に付与される回転抵抗の大きさは、介在部材34、35又はばね36を変更することによって調整することができる。あるいは、固定部材32の凹部32cと軸部材33のフランジ部33bとの間の適当な位置にスペーサを設けて、ばね36による付勢力を調整するようにしてもよい。回転抵抗付与手段37によって、支点ガイド31の周速が糸Yの走行速度の好ましくは5%以下、より好ましくは3.5%以下となるように調整される。あるいは、回転抵抗付与手段37によって、支点ガイド31の回転数が好ましくは7400rpm以下、より好ましくは5000rpm以下となるように調整される。
【0053】
支点ガイド31を低速でゆっくり回転させることで、支点ガイド31と糸Yとの摩擦特性が、支点ガイド31を固定している場合とほとんど変わらずに略一定となる。このため、糸Yの巻取中に支点ガイド31の回転数が多少変動しても、それによって糸品質が大きく変化することを避けられる。さらに、支点ガイド31の回転数が小さいと、ボールベアリング等の精密な軸受構造が不要となり、滑り軸受等の簡単な軸受構造で済ませられるので、コストをさらに低減できるという副次的な効果もある。
【0054】
なお、糸Yとの接触角(巻き掛け角)が大きいガイド体16(複数のガイド体16のうち端に近いもの、
図2参照)では、糸Yと支点ガイド31との間の摩擦力が大きい。このため、最初から支点ガイド31に作用するトルクが上記所定値を超えており、支点ガイド31が常に糸Yの走行速度よりも遅い周速で従動回転していることが多い。しかし、糸Yとの接触角(巻き掛け角)が小さいガイド体16(複数のガイド体16のうち中央に近いもの、
図2参照)では、糸Yと支点ガイド31との間の摩擦力が小さい。このため、支点ガイド31に作用するトルクが上記所定値を超えないこともある。しかしながら、これは特に問題とならない。
【0055】
仮に糸Yとの摩擦力によって支点ガイド31に作用するトルクが上記所定値に達しない場合、すなわち、糸Yの走行によって支点ガイド31が従動回転しない場合、糸Yは支点ガイド31の外周面の同じ部分に接触し続けて局所的な摩耗が生じる。支点ガイド31に摩耗が生じると、糸Yとの摩擦力が大きくなり、支点ガイド31に作用するトルクが上記所定値に達し、支点ガイド31はわずかに従動回転する。そして、糸Yが支点ガイド31の摩耗が生じていない部分と接触するようになると、再び支点ガイド31は回転しなくなる。このような支点ガイド31の挙動であっても、糸Yが支点ガイド31の摩耗した部分と接触し続けることによる糸品質の変化は抑えられる。
【0056】
(糸物性の検証実験)
本実施形態のガイド体16を用いて、糸品質の変化を実際に抑えられるかどうかを検証するための実験を行った。具体的には、回転抵抗付与手段37によって回転抵抗を付与した状態で糸Yの走行によって支点ガイド31を従動回転させた場合に、糸Yの張力、強度、伸度といった各物性値の変動が支点ガイド31を固定した場合と比べて大きくならないかを検証した。実験に用いた糸Yの太さは、83dtexであり、支点ガイド31の外径は10mmである。糸Yの走行速度を4600m/minとしたところ、支点ガイド31の回転数は120rpm、周速は3.8m/min(糸Yの走行速度の0.08%)となった。
【0057】
図4は、糸物性の検証実験結果を示す図である。各棒グラフに記載の数字は平均値を示しており、強度及び伸度に関しては棒グラフと一緒にばらつきも図示している。「回転なし」は、支点ガイド31を固定した場合、「回転あり」は、回転抵抗付与手段37によって回転抵抗を付与した状態で支点ガイド31を従動回転させた場合を示している。何れの糸物性も支点ガイド31を固定させた場合とほとんど差はなく、糸品質のばらつきも抑えられていた。この実験結果より、支点ガイド31に回転抵抗を付与して低速で回転させることで、糸巻取中に糸品質が変化することを抑えられることが実証されたと言える。なお、本発明の適用範囲は、本検証実験でその効果を検証した範囲に限定されるものではない。例えば、支点ガイド31の周速が糸Yの走行速度の5%以下程度なら、糸巻取中の糸品質の変化を十分に抑えることができる。なお、本検証実験の条件下では、支点ガイド31の周速が糸Yの走行速度の5%のとき、支点ガイド31の回転数は約7400rpmとなる。
【0058】
(効果)
本実施形態では、支点ガイド31は糸Yから所定値以上のトルクを受けた場合に従動回転するので、支点ガイド31の外周面において糸Yが接触する部分を変化させることができ、支点ガイド31の局所的な摩耗を抑えることができる。また、支点ガイド31を回転させるためのモータ等の駆動部が不要なので、コストを抑えることができる。さらに、回転抵抗付与手段37によって支点ガイド31を糸Yの走行速度よりも遅い周速で回転させることで、支点ガイド31と糸Yとの摩擦特性が、支点ガイド31を固定している場合とほとんど変わらずに略一定となる。このため、支点ガイド31の回転数が多少変動しても、それによる糸品質の変化を抑えられる。したがって、低コストで糸品質の変化を抑えることが可能となる。
【0059】
本実施形態では、回転抵抗付与手段37は、支点ガイド31の周速が糸Yの走行速度の好ましくは5%以下、さらに好ましくは3.5%以下となるように支点ガイド31に回転抵抗を付与している。支点ガイド31の周速が糸Yの走行速度の5%以下と十分に遅ければ、糸品質の変化をより効果的に抑えることができる。
【0060】
本実施形態では、回転抵抗付与手段37は、支点ガイド31の回転数が好ましくは7400rpm以下となるように支点ガイド31に回転抵抗を付与している。支点ガイド31の回転数が大きいと、支点ガイド31及び支点ガイド31と接触している他の部材が損耗しやすく、支点ガイド31の滑らかな回転に支障が生じるおそれがある。そこで、上述のように、支点ガイド31の回転数を7400rpm以下と低くすることで、支点ガイド31及び支点ガイド31と接触している他の部材の損耗を抑えることができ、支点ガイド31の滑らかな回転を持続することができる。
【0061】
本実施形態では、回転抵抗付与手段37は、支点ガイド31の軸方向の一方側に配置されるフランジ部33b(被押付部)と、支点ガイド31をフランジ部33bに向かって押し付けるばね36(押付部材)と、を有する。このような構成によれば、ばね36による押付力によって、支点ガイド31に回転抵抗を付与することができる。
【0062】
本実施形態では、支点ガイド31とフランジ部33bとの間、及び、支点ガイド31とばね36との間に、介在部材34、35が配置されている。このような構成によれば、介在部材34、35の形状、寸法、材質等によって支点ガイド31に作用する押付力の調整が可能となり、支点ガイド31の回転数及び周速を調整しやすくなる。
【0063】
本実施形態では、介在部材34、35は、支点ガイド31の端面に当接するスラスト軸受部34a、35aと、支点ガイド31の内周面に当接するラジアル軸受部34b、35bと、を有する。介在部材34、35にスラスト軸受部34a、35a及びラジアル軸受部34b、35bを設けることで、支点ガイド31をより円滑に回転させることができる。
【0064】
本実施形態では、押付部材はばね36である。押付部材をばね36とすることで、支点ガイド31に作用する押付力を調整しやすくなり、支点ガイド31の回転数及び周速を調整しやすくなる。
【0065】
本実施形態では、支点ガイド31を回転可能に支持する軸部材33に、フランジ部33bが一体的に形成されている。このような構成であれば、ガイド体16を少ない部品点数で製造できる。
【0066】
(他の実施形態)
上記実施形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。
【0067】
上記実施形態では、本発明の軸部材33に、軸部33aと、本発明の被押付部に相当するフランジ部33bが一体的に形成されているものとした。しかしながら、本発明の被押付部を、軸部33aとは別の部材として構成してもよい。また、軸部33aが、固定部材32と一体的に構成されていてもよい。この場合、固定部材32が本発明の軸部材に相当する。
【0068】
上記実施形態では、本発明の押付部材をばね36によって構成するものとした。しかしながら、押付部材をOリング等の弾性体によって構成することも可能である。
【0069】
上記実施形態では、ばね36を固定部材32の凹部に配置するものとした。しかしながら、ばね36の配置はこれに限定されるものではない。例えば、ばね36を支点ガイド31とフランジ部33bとの間に配置するようにしてもよい。この場合は、固定部材32が本発明の被押付部として機能する。
【0070】
上記実施形態では、介在部材34、35を設けるものとした。しかしながら、介在部材34、35を省略することも可能であるし、介在部材34、35のうちどちらか一方のみを設けてもよい。また、介在部材34、35の具体的な形状や材料は、上記実施形態のものに限定されることはない。
【0071】
上記実施形態では、複数のガイド体16が巻取位置と糸掛位置との間で移動可能であるものとした。しかしながら、複数のガイド体16を移動可能に構成することは必須ではない。
【0072】
上記実施形態では、回転抵抗付与手段37がばね36とフランジ部33bとによって構成されるものとした。しかしながら、回転抵抗付与手段の具体的な構成はこれに限定されるものではない。
図5は、変形例に係るガイド体16の断面図である。この変形例では、回転抵抗付与手段が、支点ガイド31と支点ガイド31と接触する介在部材34、35との間の接触部41、42によって構成されている。以下、詳細に説明する。
【0073】
接触部41、42は、支点ガイド31の内周面と介在部材34、35のラジアル軸受部34b、35bとの間に形成されている。接触部41、42における摩擦力は、糸Yの走行によって支点ガイド31が従動回転する際に、支点ガイド31の周速が糸Yの走行速度よりも遅くなるように調整されている。なお、支点ガイド31の両端面と介在部材34、35のスラスト軸受部34a、35aとは、ほとんど摩擦抵抗が生じない程度に緩く接触している。ただし、支点ガイド31の内周面とラジアル軸受部34b、35bとの間との接触部41、42ではなく、これに代わってあるいは加えて、支点ガイド31の端面とスラスト軸受部34a、35aとの間に形成された接触部を、回転抵抗付与手段として機能させてもよい。また、介在部材34、35を省略し、支点ガイド31と軸部材33との間の接触部を回転抵抗付与手段として機能させてもよい。
【0074】
本変形例のガイド体16を用いて、糸品質の変化を実際に抑えられるかどうかを検証するための実験を行った。具体的には、接触部41、42によって回転抵抗を付与した状態で糸Yの走行によって支点ガイド31を従動回転させた場合に、糸Yの張力、強度、伸度といった各物性値の変動が支点ガイド31を固定した場合と比べて大きくならないかを検証した。実験に用いた糸Yの太さは、33dtexであり、支点ガイド31の外径は10mmである。糸Yの走行速度を4500m/minとしたところ、支点ガイド31の回転数は3000~5000rpm、周速は94~157m/min(糸Yの走行速度の2.1~3.5%)となった。
【0075】
図6は、糸物性の検証実験結果を示す図である。各棒グラフに記載の数字は平均値を示しており、棒グラフと一緒にばらつきも図示している。「回転なし」は、支点ガイド31を固定した場合、「回転あり」は、回転抵抗付与手段37によって回転抵抗を付与した状態で支点ガイド31を従動回転させた場合を示している。上述のように、支点ガイド31の回転数及び周速に多少の変動は生じたものの、何れの糸物性も支点ガイド31を固定させた場合とほとんど差はなく、糸品質のばらつきも抑えられていた。この実験結果より、支点ガイド31に回転抵抗を付与して低速で回転させることで、糸巻取中に糸品質が変化することを抑えられることが実証されたと言える。なお、本検証実験の条件下では、支点ガイド31の周速が糸Yの走行速度の5%のとき、支点ガイド31の回転数は約7200rpmとなる。
【0076】
本変形例では、上記実施形態のばね36が不要となり、ガイド体16を少ない部品点数で製造できる。
【0077】
本変形例では、回転抵抗付与手段としての接触部41、42は、支点ガイド31の内周面と、支点ガイド31の内周面と接触する他の部材(介在部材34、35)との間に形成されている。一般的に支点ガイド31の内周面は端面より面積が広いので、支点ガイド31の内周面を回転抵抗付与手段として利用することで摩擦力の調整が行いやすくなる。
【0078】
本変形例では、支点ガイド31を回転可能に支持する軸部材33と支点ガイド31との間に介在部材34、35が配置されており、回転抵抗付与手段としての接触部41、42は、支点ガイド31の内周面と介在部材34、35との間に形成されている。このような構成によれば、介在部材34、35の形状、寸法、材質等によって接触部41、42における摩擦力の調整が可能となり、支点ガイド31の回転数及び周速を調整しやすくなる。
【符号の説明】
【0079】
10:糸巻取機
13:ボビンホルダ(巻取軸)
16:ガイド体
31:支点ガイド
33a:軸部
33b:フランジ部(被押付部)
34、35:介在部材
34a、35a:スラスト軸受部
34b、35b:ラジアル軸受部
36:ばね(押付部材)
37:回転抵抗付与手段
41、42:接触部(回転抵抗付与手段)
B:ボビン
Y:糸