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特開2022-112496一時的クラウンおよびブリッジを生成するための歯科用材料
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  • 特開-一時的クラウンおよびブリッジを生成するための歯科用材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112496
(43)【公開日】2022-08-02
(54)【発明の名称】一時的クラウンおよびブリッジを生成するための歯科用材料
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/887 20200101AFI20220726BHJP
   A61K 6/61 20200101ALI20220726BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022005475
(22)【出願日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】21152826
(32)【優先日】2021-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】501151539
【氏名又は名称】イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL-9494 Schaan Liechtenstein
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス シェートリヒ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ケーラー
(72)【発明者】
【氏名】イェルク アンゲルマン
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA02
4C089AA06
4C089AA09
4C089BA05
4C089BA06
4C089BA07
4C089BA10
4C089BA13
4C089BA20
4C089BC03
4C089BC06
4C089BC07
4C089BC10
4C089BD01
4C089BD02
4C089BD05
4C089CA03
4C089CA07
(57)【要約】
【課題】一時的クラウンおよびブリッジを生成するための歯科用材料を提供すること。
【解決手段】ラジカル重合のための開始剤系として、少なくとも3種のチオウレア誘導体、ヒドロペルオキシドおよび好ましくは遷移金属化合物の組合せ物を含有する、ラジカル重合可能な歯科用材料。本発明の目的は、歯科目的に好適な加工時間および高い保管安定性を有する、歯科用材料であって、硬化中に長い弾性相を経由し、完全な硬化後に、良好な機械特性を有する、歯科用材料を提供することである。本材料は、特に、クラウンおよびブリッジなどの一時的な歯科修復物を生成するのに好適となる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3種の異なるチオウレア誘導体を含有することを特徴とする、ラジカル重合のための開始剤系としてチオウレア誘導体とヒドロペルオキシドとの組合せ物を含有する、ラジカル重合可能な歯科用材料。
【請求項2】
少なくとも1種の環式チオウレア誘導体および少なくとも1種の非環式チオウレア誘導体を含有する、請求項1に記載の歯科用材料。
【請求項3】
式(I)の少なくとも1種の環式チオウレア誘導体:
【化12】
(式中、
、Rは、各場合において、HまたはC~Cアルキルラジカルであり、これらのラジカルの少なくとも1つはHであり、
、Rは、互いに独立して、各場合において、H、C~CアルキルラジカルもしくはC~Cアルコキシラジカルであるか、またはそれらが結合している炭素原子および間に存在する炭素原子と一緒になって、1つもしくはそれより多くの、好ましくは1つもしくは2つのC~Cアルキルラジカルおよび/またはC~Cアルコキシラジカルによって置換され得る、6員の炭素環式、脂肪族または芳香族環を形成し、
nは、0、1、2または3、好ましくは0または1である)
を含有する、請求項2に記載の歯科用材料。
【請求項4】
式(II)の少なくとも1種の非環式チオウレア誘導体:
【化13】
(式中、
Xは、HまたはYであり、
Yは、1~8個の炭素原子を有するアルキルラジカル、5個または6個の炭素原子を有するシクロアルキルラジカル、1~8個の炭素原子を有する塩素-、ヒドロキシ-もしくはメルカプト-置換アルキルラジカル、3~4個の炭素原子を有するアルケニルラジカル、6~8個の炭素原子を有するアリールラジカル、塩素-、ヒドロキシ-、メトキシ-もしくはスルホニル-置換フェニルラジカル、2~8個の炭素原子を有するアシルラジカル、塩素-もしくはメトキシ-置換アシルラジカル、7~8個の炭素原子を有するアラルキルラジカル、または塩素-もしくはメトキシ-置換アラルキルラジカルであり、
Zは、NH、NHXまたはNXである)、および/または
式(III)の少なくとも1種の非環式チオウレア誘導体:
【化14】
(式中、
は、C~C12アルキルラジカル、好ましくはC~C10アルキルラジカル、特に好ましくはC~Cアルキルラジカル、非常に特に好ましくはC~Cアルキルラジカル、
~C12アルケンラジカル、好ましくはC~C10アルケンラジカル、特に好ましくはC~Cアルケンラジカル、非常に特に好ましくはC~Cアルケンラジカル、
~C12アシルラジカル、好ましくはC~C10アシルラジカル、特に好ましくはC~Cアシルラジカル、非常に特に好ましくはC~Cアシルラジカル、
ピリジルまたはフェニルラジカルである)
を含有する、請求項2または3に記載の歯科用材料。
【請求項5】
環式チオウレア誘導体として3,4,5,6-テトラヒドロ-2-ピリミジンチオール、2-イミダゾリジンチオン、2-メルカプトベンゾイミダゾール、1-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-2-チオールおよび/または2-メルカプト-5-メトキシベンゾイミダゾール、ならびに非環式チオウレア誘導体としてヘキサノイルチオウレアを含有する、前記請求項の一項に記載の歯科用材料。
【請求項6】
いくつかの環式チオウレア誘導体および1種またはそれより多種の非環式チオウレア誘導体を含有する、請求項2から5の一項に記載の歯科用材料。
【請求項7】
ヒドロペルオキシドとして、式R-(OOH)(式中、Rは、脂肪族または芳香族炭化水素ラジカルであり、mは、1または2である)の化合物、および/または
式(IV)の化合物
【化15】
(式中、可変基は、以下の意味を有する:
は、p価の、芳香族、脂肪族、直鎖状または分岐状C~C14炭化水素ラジカルであり、これらは、1個もしくはそれより多くのS原子および/またはO原子によって分断され得、さらには置換され得ないか、または-OH、-OR、-Clおよび-Brから好ましくは選択される1つまたはそれより多くの置換基によって置換され得、Rは、脂肪族、直鎖状または分岐状C~C10炭化水素ラジカルであり、
X、Yは、互いに独立して、各場合において、存在しない、-O-、-COO-;-CONR-または-O-CO-NR-であり、RおよびRは、互いに独立して、HまたはC~Cアルキルラジカル、好ましくはH、メチルおよび/またはエチル、特に好ましくはHを表し、XおよびYは、好ましくは、同時に存在しないことはなく、
は、存在しない、脂肪族、直鎖状または分岐状C~C14アルキレンラジカルであり、これらは、S原子および/またはO原子によって分断され得、さらには置換され得ないか、または-OH、-OR10、-Clおよび/もしくは-Brによって置換され得、R10は、脂肪族、直鎖状または分岐状C~C10炭化水素ラジカルであり、
は、C~Cアルキレン基であるか、または存在せず、好ましくは-CH-であるか、または存在せず、Qが存在しない場合、Xおよび/またはYは、存在せず、
pは、1、2、3または4であり、
芳香族化合物上の置換は、クメンヒドロペルオキシド基に対して、2、3または4位で起きている)
を含有する、請求項1から6の一項に記載の歯科用材料。
【請求項8】
ヒドロペルオキシドとして、t-アミルヒドロペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、t-ヘキシルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ヒドロペルオキシ)ヘキサン、ジイソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド、パラメンタンヒドロペルオキシド、p-イソプロピルクメンヒドロペルオキシド、4-(2-ヒドロペルオキシプロパン-2-イル)フェニルプロピオネートまたはそれらの混合物、好ましくはクメンヒドロペルオキシド(CHP)および/または4-(2-ヒドロペルオキシプロパン-2-イル)フェニルプロピオネートを含有する、請求項7に記載の歯科用材料。
【請求項9】
遷移金属化合物、好ましくは、鉄、コバルト、ニッケル、マンガンの化合物またはそれらの混合物、特に好ましくは銅、および非常に特に好ましくはCu(I)の化合物をさらに含有する、前記請求項の一項に記載の歯科用材料。
【請求項10】
2種の構成成分を含む、前記請求項の一項に記載の歯科用材料であって、第1の構成成分が、第1の構成成分の質量に対して、0.01~5重量%、好ましくは0.05~4.0重量%、特に好ましくは0.1~3.75重量%のヒドロペルオキシドを含有し、第2の構成成分が、第1の構成成分中のヒドロペルオキシドのモル質量に対して、50~400mol%、好ましくは75~300mol%、特に好ましくは100~200mol%のチオウレア誘導体を含有する、歯科用材料。
【請求項11】
少なくとも1種のラジカル重合可能なモノマー、好ましくは少なくとも1種の一官能性または多官能性(メタ)アクリレート、特に好ましくは少なくとも1種のジメタクリレート、またはモノメタクリレートとジメタクリレートとの混合物をさらに含有する、前記請求項の一項に記載の歯科用材料。
【請求項12】
ラジカル重合可能なモノマーとして、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルまたは(メタ)アクリル酸イソボルニル、p-クミルフェノキシエチレングリコールメタクリレート(CMP-1E)、2-(2-ビフェニルオキシ)エチルメタクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、ビス-GMA(メタクリル酸とビスフェノールAジグリシジルエーテルとの付加生成物)、エトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシエトキシ)フェニル]-2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン(SR-348c)、2,2-ビス[4-(2-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、UDMA(メタクリル酸2-ヒドロキシエチルと2,2,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートとの付加生成物)、V-380(0.7molのメタクリル酸2-ヒドロキシエチルおよび0.3molのメタクリル酸2-ヒドロキシプロピルの混合物と1molのα,α,α’,α’-テトラメチル-m-キシリレンジイソシアネートとの付加生成物)、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸トリエチレングリコールまたはジメタクリル酸テトラエチレングリコール、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、テトラメタクリル酸ペンタエリスリトール、ジメタクリル酸グリセロールおよびトリメタクリル酸グリセロール、ジメタクリル酸1,4-ブタンジオール、ジメタクリル酸1,10-デカンジオール(DMA)、ビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ-[5.2.1.02,6]デカン(DCP)、ジメタクリル酸ポリエチレングリコールまたはジメタクリル酸ポリプロピレングリコール、ジメタクリル酸ポリエチレングリコール200、ジメタクリル酸ポリエチレングリコール400(PEG200DMAまたはPEG400DMA)、ジメタクリル酸1,12-ドデカンジオール、またはそれらの混合物を含有する、請求項11に記載の歯科用材料。
【請求項13】
少なくとも1種の有機フィラーまたは無機フィラー、好ましくはSiO、ZrOおよびTiOなどの酸化物またはSiO、ZrO、ZnOおよび/もしくはTiOの酸化物混合物、焼成シリカもしくは沈降シリカなどのナノ粒子または超微粒フィラー、石英、ガラスセラミックまたはX線不透過性ガラス粉末、好ましくはバリウムまたはストロンチウムアルミニウムシリケートガラス粉末などのガラス粉末、三フッ化イッテルビウム、酸化タンタル(V)、硫酸バリウム、SiOと酸化イッテルビウム(III)または酸化タンタル(V)との酸化物混合物などのX線不透過性フィラー、細砕プレポリマーまたはパールポリマーをさらに含有する、前記請求項の一項に記載の歯科用材料。
【請求項14】
各場合において、組成物の合計質量に対して
(a)0.005~3重量%、好ましくは0.025~2.5重量%、特に好ましくは0.05~2.0重量%の少なくとも1種のヒドロペルオキシド、好ましくはクメンヒドロペルオキシドおよび/または4-(2-ヒドロペルオキシプロパン-2-イル)フェニルプロピオネート、
(b)0.005~3.0重量%、好ましくは0.015~2.125重量%、特に好ましくは0.025~1.5重量%のチオウレア誘導体、
(c)0.00005~0.5重量%、好ましくは0.00025~0.25重量%、特に好ましくは0.00035~0.01重量%の少なくとも1種の遷移金属化合物、
(d)5~95重量%、好ましくは10~95重量%、特に好ましくは10~90重量%の少なくとも1種のラジカル重合可能なモノマー、
(e)0~85重量%の少なくとも1種のフィラー、および
(f)必要に応じて0.01~5重量%、好ましくは0.1~3重量%、特に好ましくは0.1~2重量%の1種またはそれより多種の添加物
を含有する、前記請求項の一項に記載の歯科用材料。
【請求項15】
好ましくは、歯科用セメント、充填コンポジット、被覆材料として、または一時的クラウンもしくはブリッジを生成するための材料として、治療用途のための、前記請求項の一項に記載の歯科用材料。
【請求項16】
補綴物、義歯、インレー、オンレー、クラウン、ブリッジおよび総義歯などの、歯科修復物の生成または矯正のための、請求項1から14の一項に記載の歯科用材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[分野]
本発明は、一時的クラウンおよびブリッジを生成するための、歯科用材料として、特に補綴物材料として特に好適な、改善された硬化挙動を有するラジカル重合可能組成物に関する。本組成物は、ラジカル重合用の開始剤としてレドックス系を含有し、この組成物は、ヒドロペルオキシドおよび少なくとも2種の異なるチオウレア誘導体を含有する。
【背景技術】
【0002】
[背景情報]
歯科修復物を生成するため、および特に、例えば一時的クラウンおよびブリッジなどの一時的修復物を生成するため、ラジカル重合可能なモノマーに基づく重合可能組成物が、通常、使用される。一官能性および多官能性(メタ)アクリレートの混合物は、モノマーとして通常、使用される。多くの場合に使用されるジメタクリレートは、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]プロパン(ビス-GMA)および1,6-ビス-[2-メタクリロイルオキシエトキシカルボニルアミノ]-2,2,4-トリメチルヘキサン(UDMA)であり、これらは、高い粘度を有しており、非常に良好な機械特性を有する重合体をもたらす。これらは、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、1,10-デカンジオールジメタクリレート(D3MA)およびビス(3-メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ-[5.2.1.02.6]デカン(DCP)などの低粘度モノマーにより希釈される。硬化させる場合、好適な開始剤が添加され、この場合、光開始剤、熱開始剤、レドックス開始剤系またはそれらの組合せ物が、使用分野に応じて使用される。一時的クラウンおよびブリッジを生成するための材料は、通常、レドックス系を含有する。
【0003】
材料の十分な保管安定性を保証するために、レドックス開始剤に基づく材料は、通常、いわゆる2構成成分系(2C系)として使用され、この場合、酸化剤(過酸化物またはヒドロペルオキシド)および還元剤(アミン、スルフィン酸、バルビツレート、チオウレアなど)がそれぞれ、個々の構成成分に配合される。これらの構成成分は、使用直前に互いに混合される。これらの構成成分は、互いに均一に容易に混合されて、取り扱いが容易になり得るよう、適合しなければならない。さらに、歯科目的に十分な加工時間がなければならない。加工時間とは、構成成分のブレンドと混合した材料の硬化の開始との間の時間を意味する。
【0004】
一時的クラウンまたはブリッジの生成については、処置される歯(単数または複数)の印象が作製される。次に、歯(単数または複数)が削られ、次に、印象に自己硬化性修復材料が充填されて、調製した歯の表面に押圧される。硬化の後、この材料は印象から取り出され、外科用メスもしくはハサミを使用してトリミングによって、またはミル粉砕によって手直しが行われる。これは、材料が依然として弾性である場合に最良に達成される。硬化の進行が遅すぎる場合、この材料は硬質で脆く、後加工が困難になり、一時的補綴物に亀裂が入り、縁部が鋭くなる恐れがある。したがって、一時的修復物を生成するための材料は、硬化中、出来る限り長い弾性相を有さなければならない。
【0005】
自己硬化性修復材料は、ジベンゾイルペルオキシド(DBPO)と、例えばN,N-ジエタノール-p-トルイジン(DEPT)、N,N-ジメチル-sym.-キシリジン(DMSX)またはN,N-ジエチル-3,5-ジ-tert.-ブチルアニリン(DABA)などの三級芳香族アミンとの混合物に基づいた、レドックス開始剤系を多くの場合、含む。このようなレドックス開始剤系を用いた場合、加工時間および硬化時間は、フェノール性阻止剤と組み合わせて、比較的に十分に設定することができる。DBPO/アミン系の欠点は、アミンがゆっくりと酸化されることによって引き起こされる変色である。
【0006】
アミンは還元剤として必要ではないので、ヒドロペルオキシドレドックス開始剤系は、この欠点を有さない。さらに、ヒドロペルオキシドは、過酸化物よりも熱的に安定である。DE2635595C2は、開始剤系としての酸化剤としてヒドロペルオキシドと組み合わせた、置換チオウレア還元剤を含有する、重合可能な歯科用充填化合物を開示している。この材料は、改善された色安定性、優れた硬化速度および改善された保管安定性を有すると述べられている。
【0007】
EP1693046B1は、(2-ピリジル)-2-チオウレア誘導体を、ヒドロペルオキシド基が三級炭素原子に結合しているヒドロペルオキシドと組み合わせて含む、歯科用セメントおよびコア構築材料を開示している。
【0008】
WO2007/016508A1は、ヒドロペルオキシドを、開始剤系としてチオウレア誘導体および2-メルカプト-1-メチルイミダゾールと組み合わせて含む重合可能な歯科用組成物を開示している。この材料は、酸基含有構成成分を含有しないということを特徴としている。
【0009】
EP1754465B1によれば、クメンヒドロペルオキシド/アセチルチオウレア系は、使用に適さない程度に遅い硬化速度を有すると述べられている。この問題を克服するため、可溶性銅化合物の添加が提案されている。
【0010】
US7,275,932B2は、促進剤として酸化合物と組み合わせて、ヒドロペルオキシドおよびチオウレア誘導体を使用することを提案している。好ましい酸化合物は、例えばメタクリル酸などの酸基を有するアクリレートおよびメタクリレートである。
【0011】
EP2233544A1およびEP2258336A1は、ヒドロペルオキシドおよびチオウレア誘導体を、促進剤としてバナジウム化合物と組み合わせて含有する歯科用材料を開示している。
【0012】
有機過酸化物および三級アミンに関連する欠点を回避するため、US6,815,470B2は、アリールボレートを、開始剤系として酸化合物および過酸化物と組み合わせて使用することを提案している。酸化合物との反応とは、アリールボレートが、アリールボランを形成し、これは、酸素と反応すると、重合可能なラジカルを放出すると述べられている。酸基を有する重合可能なモノマーは、酸化合物として使用することができる。
【0013】
EP3692975A1は、ラジカル重合のための開始剤系として、チオウレア誘導体、ヒドロペルオキシドおよび過酸化物の組合せ物を含有する、ラジカル重合可能な歯科用材料を開示している。ヒドロペルオキシドおよびチオウレア誘導体に基づいた開始剤系の反応性は、少量の過酸化物の添加によって、かなり加速され得る。
【0014】
EP3692974A1は、ラジカル重合のための開始剤系を含むラジカル重合可能な歯科用材料であって、チオウレア誘導体、ヒドロペルオキシドおよび過酸化物に加えて、少なくとも1種の遷移金属化合物をさらに含有する、ラジカル重合可能な歯科用材料を開示している。硬化後の材料の機械特性は、遷移金属化合物の添加によって、実質的に改善され得る。
【0015】
ラジカル重合可能な歯科用材料のための開始剤として、チオウレア誘導体と組み合わせて好適な低臭ヒドロペルオキシドが、EP3692976A1から公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1693046号明細書
【特許文献2】国際公開第2007/016508号
【特許文献3】欧州特許第1754465号明細書
【特許文献4】米国特許第7,275,932号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第2233544号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第2258336号明細書
【特許文献7】米国特許第6,815,470号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第3692975号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第3692974号明細書
【特許文献10】欧州特許出願公開第3692976号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の目的は、歯科目的に好適な加工時間および高い保管安定性を有する歯科用材料であって、硬化中に長い弾性相を経由し、完全な硬化後に、良好な機械特性を有する、歯科用材料を提供することである。本材料は、特に、クラウンおよびブリッジなどの一時的な歯科修復物を生成するのに好適となろう。
【0018】
本発明によれば、本目的は、ヒドロペルオキシドを、開始剤系として少なくとも3種の異なるチオウレア誘導体と組み合わせて含むラジカル重合可能な歯科用材料によって実現される。
【0019】
本発明による歯科用材料は、少なくとも1種の環式チオウレア誘導体および少なくとも1種の非環式チオウレア誘導体を好ましくは含有する。本発明により使用される環式チオウレア誘導体は、比較的高い反応性を有しており、重合の迅速な開始をもたらすことが見出された。しかし、この重合は急速に停止する。対照的に、非環式チオウレア誘導体は、一層ゆっくりと反応するが、一層長い間、反応性であることが見出された。迅速反応性チオウレア誘導体と遅延反応性チオウレア誘導体とを組み合わせることによって、この反応の迅速な開始が一方で引き起こされ、もう一方で、この材料は全体が完全に硬化して、硬化後に良好な機械特性を有することが確実になり得る。
【0020】
この反応の迅速な開始によって、患者の口内から迅速に材料を取り出し、こうして、患者に対するストレスを低く維持することが可能となる。印象トレイは、硬化の間、手によって保持されなければならないので、処置を行うスタッフの面倒がやはりかなり軽減される。環式チオウレア誘導体によって開始される重合が、一旦、おさまると、この材料は、全体が完全に硬化しておらず、弾性状態にあり、このことは、例えば、トリミングまたは研磨によって、容易な後加工が可能となる。非環式チオウレア誘導体によって開始される最終的な硬化は、かなり一層ゆっくりと進行するので、弾性相は、慣用的な材料と比べるとかなり長くなり、修復物の後加工がかなり容易になる。
【0021】
長い弾性相は、反応性の異なるチオウレア誘導体を組み合わせることによって得られることが見出された。保管安定性は、第3のチオウレア誘導体を添加することによって実質的に改善され得ることは、特に驚くべきことである。
対象となる用途は、例えば、以下を提供する:
(リクレーム)
[項目1]
少なくとも3種の異なるチオウレア誘導体を含有することを特徴とする、ラジカル重合のための開始剤系としてチオウレア誘導体とヒドロペルオキシドとの組合せ物を含有する、ラジカル重合可能な歯科用材料。
[項目2]
少なくとも1種の環式チオウレア誘導体および少なくとも1種の非環式チオウレア誘導体を含有する、上述の項目のいずれか1つに記載の歯科用材料。
[項目3]
式(I)の少なくとも1種の環式チオウレア誘導体:
【化1】
(式中、
、Rは、各場合において、HまたはC~Cアルキルラジカルであり、これらのラジカルの少なくとも1つはHであり、
、Rは、互いに独立して、各場合において、H、C~CアルキルラジカルもしくはC~Cアルコキシラジカルであるか、またはそれらが結合している炭素原子および間に存在する炭素原子と一緒になって、1つもしくはそれより多くの、好ましくは1つもしくは2つのC~Cアルキルラジカルおよび/またはC~Cアルコキシラジカルによって置換され得る、6員の炭素環式、脂肪族または芳香族環を形成し、
nは、0、1、2または3、好ましくは0または1である)
を含有する、上述の項目のいずれか1つに記載の歯科用材料。
[項目4]
式(II)の少なくとも1種の非環式チオウレア誘導体:
【化2】
(式中、
Xは、HまたはYであり、
Yは、1~8個の炭素原子を有するアルキルラジカル、5個または6個の炭素原子を有するシクロアルキルラジカル、1~8個の炭素原子を有する塩素-、ヒドロキシ-もしくはメルカプト-置換アルキルラジカル、3~4個の炭素原子を有するアルケニルラジカル、6~8個の炭素原子を有するアリールラジカル、塩素-、ヒドロキシ-、メトキシ-もしくはスルホニル-置換フェニルラジカル、2~8個の炭素原子を有するアシルラジカル、塩素-もしくはメトキシ-置換アシルラジカル、7~8個の炭素原子を有するアラルキルラジカル、または塩素-もしくはメトキシ-置換アラルキルラジカルであり、
Zは、NH、NHXまたはNXである)、および/または
式(III)の少なくとも1種の非環式チオウレア誘導体:
【化3】
(式中、
は、C~C12アルキルラジカル、好ましくはC~C10アルキルラジカル、特に好ましくはC~Cアルキルラジカル、非常に特に好ましくはC~Cアルキルラジカル、
~C12アルケンラジカル、好ましくはC~C10アルケンラジカル、特に好ましくはC~Cアルケンラジカル、非常に特に好ましくはC~Cアルケンラジカル、
~C12アシルラジカル、好ましくはC~C10アシルラジカル、特に好ましくはC~Cアシルラジカル、非常に特に好ましくはC~Cアシルラジカル、
ピリジルまたはフェニルラジカルである)
を含有する、上述の項目のいずれか1つに記載の歯科用材料。
[項目5]
環式チオウレア誘導体として3,4,5,6-テトラヒドロ-2-ピリミジンチオール、2-イミダゾリジンチオン、2-メルカプトベンゾイミダゾール、1-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-2-チオールおよび/または2-メルカプト-5-メトキシベンゾイミダゾール、ならびに非環式チオウレア誘導体としてヘキサノイルチオウレアを含有する、上述の項目の1つに記載の歯科用材料。
[項目6]
いくつかの環式チオウレア誘導体、および1種またはそれより多種の非環式チオウレア誘導体を含有する、上述の項目のいずれか1つに記載の歯科用材料。
[項目7]
ヒドロペルオキシドとして、式R-(OOH)(式中、Rは、脂肪族または芳香族炭化水素ラジカルであり、mは、1または2である)の化合物、および/または
式(IV)の化合物、
【化4】
(式中、可変基は、以下の意味を有する:
は、p価の、芳香族、脂肪族、直鎖状または分岐状C~C14炭化水素ラジカルであり、これらは、1個もしくはそれより多くのS原子および/またはO原子によって分断され得、さらには置換され得ないか、または-OH、-OR、-Clおよび-Brから好ましくは選択される1つまたはそれより多くの置換基によって置換され得、Rは、脂肪族、直鎖状または分岐状C~C10炭化水素ラジカルであり、
X、Yは、互いに独立して、各場合において、存在しない、-O-、-COO-;-CONR-または-O-CO-NR-であり、RおよびRは、互いに独立して、HまたはC~Cアルキルラジカル、好ましくはH、メチルおよび/またはエチル、特に好ましくはHを表し、XおよびYは、好ましくは、同時に存在しないことはなく、
は、存在しない、脂肪族、直鎖状または分岐状C~C14アルキレンラジカルであり、これらは、S原子および/またはO原子によって分断され得、さらには置換され得ないか、または-OH、-OR10、-Clおよび/もしくは-Brによって置換され得、R10は、脂肪族、直鎖状または分岐状C~C10炭化水素ラジカルであり、
は、C~Cアルキレン基であるか、または存在せず、好ましくは-CH-であるか、または存在せず、Qが存在しない場合、Xおよび/またはYは、存在せず、
pは、1、2、3または4であり、
芳香族化合物上の置換は、クメンヒドロペルオキシド基に対して、2、3または4位で起きている)
を含有する、上述の項目のいずれか1つに記載の歯科用材料。
[項目8]
ヒドロペルオキシドとして、t-アミルヒドロペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、t-ヘキシルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ヒドロペルオキシ)ヘキサン、ジイソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド、パラメンタンヒドロペルオキシド、p-イソプロピルクメンヒドロペルオキシド、4-(2-ヒドロペルオキシプロパン-2-イル)フェニルプロピオネートまたはそれらの混合物、好ましくはクメンヒドロペルオキシド(CHP)および/または4-(2-ヒドロペルオキシプロパン-2-イル)フェニルプロピオネートを含有する、上述の項目のいずれか1つに記載の歯科用材料。
[項目9]
遷移金属化合物、好ましくは、鉄、コバルト、ニッケル、マンガンの化合物またはそれらの混合物、特に好ましくは、銅、非常に特に好ましくはCu(I)の化合物をさらに含有する、上述の項目のいずれか1つに記載の歯科用材料。
[項目10]
2種の構成成分を含む、上述の項目のいずれか1つに記載の歯科用材料であって、第1の構成成分が、第1の構成成分の質量に対して、0.01~5重量%、好ましくは0.05~4.0重量%、特に好ましくは0.1~3.75重量%のヒドロペルオキシドを含有し、第2の構成成分が、第1の構成成分中のヒドロペルオキシドのモル質量に対して、50~400mol%、好ましくは75~300mol%、特に好ましくは100~200mol%のチオウレア誘導体を含有する、歯科用材料。
[項目11]
少なくとも1種のラジカル重合可能なモノマー、好ましくは少なくとも1種の一官能性または多官能性(メタ)アクリレート、特に好ましくは少なくとも1種のジメタクリレート、またはモノメタクリレートとジメタクリレートとの混合物をさらに含有する、上述の項目のいずれか1つに記載の歯科用材料。
[項目12]
ラジカル重合可能なモノマーとして、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルまたは(メタ)アクリル酸イソボルニル、p-クミルフェノキシエチレングリコールメタクリレート(CMP-1E)、2-(2-ビフェニルオキシ)エチルメタクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、ビス-GMA(メタクリル酸とビスフェノールAジグリシジルエーテルとの付加生成物)、エトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシエトキシ)フェニル]-2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン(SR-348c)、2,2-ビス[4-(2-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、UDMA(メタクリル酸2-ヒドロキシエチルと2,2,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートとの付加生成物)、V-380(0.7molのメタクリル酸2-ヒドロキシエチルおよび0.3molのメタクリル酸2-ヒドロキシプロピルの混合物と1molのα,α,α’,α’-テトラメチル-m-キシリレンジイソシアネートとの付加生成物)、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸トリエチレングリコールまたはジメタクリル酸テトラエチレングリコール、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、テトラメタクリル酸ペンタエリスリトール、ジメタクリル酸グリセロールおよびトリメタクリル酸グリセロール、ジメタクリル酸1,4-ブタンジオール、ジメタクリル酸1,10-デカンジオール(DMA)、ビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ-[5.2.1.02,6]デカン(DCP)、ジメタクリル酸ポリエチレングリコールまたはジメタクリル酸ポリプロピレングリコール、ジメタクリル酸ポリエチレングリコール200、ジメタクリル酸ポリエチレングリコール400(PEG200DMAまたはPEG400DMA)、ジメタクリル酸1,12-ドデカンジオール、またはそれらの混合物を含有する、上述の項目のいずれか1つに記載の歯科用材料。
[項目13]
少なくとも1種の有機フィラーまたは無機フィラー、好ましくはSiO、ZrOおよびTiOなどの酸化物またはSiO、ZrO、ZnOおよび/もしくはTiOの酸化物混合物、焼成シリカもしくは沈降シリカなどのナノ粒子または超微粒フィラー、石英、ガラスセラミックまたはX線不透過性ガラス粉末、好ましくはバリウムまたはストロンチウムアルミニウムシリケートガラス粉末などのガラス粉末、三フッ化イッテルビウム、酸化タンタル(V)、硫酸バリウム、SiOと酸化イッテルビウム(III)または酸化タンタル(V)との酸化物混合物などのX線不透過性フィラー、細砕プレポリマーまたはパールポリマーをさらに含有する、上述の項目のいずれか1つに記載の歯科用材料。
[項目14]
各場合において、本組成物の合計質量に対して
(a)0.005~3重量%、好ましくは0.025~2.5重量%、特に好ましくは0.05~2.0重量%の少なくとも1種のヒドロペルオキシド、好ましくはクメンヒドロペルオキシドおよび/または4-(2-ヒドロペルオキシプロパン-2-イル)フェニルプロピオネート、
(b)0.005~3.0重量%、好ましくは0.015~2.125重量%、特に好ましくは0.025~1.5重量%のチオウレア誘導体、
(c)0.00005~0.5重量%、好ましくは0.00025~0.25重量%、特に好ましくは0.00035~0.01重量%の少なくとも1種の遷移金属化合物、
(d)5~95重量%、好ましくは10~95重量%、特に好ましくは10~90重量%の少なくとも1種のラジカル重合可能なモノマー、
(e)0~85重量%の少なくとも1種のフィラー、および
(f)必要に応じて0.01~5重量%、好ましくは0.1~3重量%、特に好ましくは0.1~2重量%の1種またはそれより多種の添加物
を含有する、上述の項目のいずれか1つに記載の歯科用材料。
[項目15]
好ましくは、歯科用セメント、充填コンポジット、被覆材料として、または一時的クラウンもしくはブリッジを生成するための材料として、治療用途のための、上述の項目のいずれか1つに記載の歯科用材料。
[項目16]
補綴物、義歯、インレー、オンレー、クラウン、ブリッジおよび総義歯などの、歯科修復物の生成または矯正のための、上述の項目のいずれか1つに記載の歯科用材料の使用。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、2種の異なるチオウレア誘導体を有するペーストの保管安定性を示す。ペーストの加工時間は、不安定性の指標である、保管期間と共に増加する。このペーストは、37℃において約3か月間、安定である。
図2図2は、3種の異なるチオウレア誘導体を有するペーストの保管安定性を示す。このペーストは、50℃でさえ、5か月間、安定である。その後だけに、加工時間の低下が観察され得る。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施形態の説明]
ラジカル重合のための開始剤系として、少なくとも3種のチオウレア誘導体、ヒドロペルオキシドおよび好ましくは遷移金属化合物の組合せ物を含有する、ラジカル重合可能な歯科用材料。
【0024】
環式チオウレア誘導体とは、ここでは、チオウレア基の窒素原子が、間に存在する炭素原子およびさらなる炭素原子と一緒になって複素環式環系を形成する、化合物を意味する。式(I)の環式チオウレア誘導体:
【化5】
(式中、
、Rは、各場合において、HまたはC~Cアルキルラジカルであり、これらのラジカルの少なくとも1つはHであり、
、Rは、互いに独立して、各場合において、H、C~CアルキルラジカルもしくはC~Cアルコキシラジカルであるか、またはそれらが結合している炭素原子および間に存在する炭素原子と一緒になって、1つもしくはそれより多くの、好ましくは1つもしくは2つのC~Cアルキルラジカルおよび/またはC~Cアルコキシラジカルによって置換され得る、6員の炭素環式、脂肪族または芳香族環を形成し、
nは、0、1、2または3、好ましくは0または1である)
が、好ましい。
【0025】
式Iの可変基は、好ましくは、以下の意味を有する:
、Rは、各場合において、HまたはC~Cアルキルラジカル、好ましくはHまたはメチルであり、これらのラジカルの少なくとも1つはHであり、
、Rは、各場合において、H、C~Cアルキルラジカル、好ましくはメチル、C~Cアルコキシラジカル、好ましくはメトキシであるか、またはそれらが結合している炭素原子および間に存在する炭素原子と一緒になって、C~Cアルキルラジカル、好ましくはメチル、またはC~Cアルコキシラジカル、好ましくはメトキシによって置換され得るベンゼン環を形成し、
nは、0または1である。
【0026】
式Iの可変基は、特に好ましくは、以下の意味を有する:
、Rは、各場合において、Hまたはメチルであり、これらのラジカルの少なくとも1つはHであり、
、Rは、各場合において、H、C~Cアルキルラジカル、好ましくはメチルまたはC~Cアルコキシラジカル、好ましくはメトキシであり、
nは、1であるか、または
、Rは、各場合において、Hまたはメチルであり、これらのラジカルの少なくとも1つはHであり、
、Rは、それらが結合している炭素原子および間に存在する炭素原子と一緒になって、C~Cアルキルラジカル、好ましくはメチル、またはC~Cアルコキシラジカル、好ましくはメトキシによって置換され得る、ベンゼン環を形成し、
nは、0である。
【0027】
すべての場合において、式Iはまた、対応するイソチオウレア誘導体を含む。3,4,5,6-テトラヒドロ-2-ピリミジンチオール(1)、2-イミダゾリジンチオン(2)、2-メルカプトベンゾイミダゾール(4)、1-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-2-チオールおよび2-メルカプト-5-メトキシベンゾイミダゾールが、特に好ましい。
【化6】
【0028】
非環式チオウレア誘導体とは、ここでは、チオウレア基の窒素原子が環系に組み込まれていない、化合物を意味する。しかし、非環式チオウレア誘導体は、それでもやはり、環式基を含有することができる。
【0029】
式(II)の非環式チオウレア誘導体
【化7】
(式中、
Xは、HまたはYであり、
Yは、1~8個の炭素原子を有するアルキルラジカル、5個または6個の炭素原子を有するシクロアルキルラジカル、1~8個の炭素原子を有する塩素-、ヒドロキシ-もしくはメルカプト-置換アルキルラジカル、3~4個の炭素原子を有するアルケニルラジカル、6~8個の炭素原子を有するアリールラジカル、塩素-、ヒドロキシ-、メトキシ-もしくはスルホニル-置換フェニルラジカル、2~8個の炭素原子を有するアシルラジカル、塩素-もしくはメトキシ-置換アシルラジカル、7~8個の炭素原子を有するアラルキルラジカル、または塩素-もしくはメトキシ-置換アラルキルラジカルであり、
Zは、NH、NHXまたはNXである)
が、好ましい。
【0030】
さらに、好ましいチオウレア誘導体は、EP1754465A1中の段落[0009]に列挙されている化合物である。
【0031】
式(III)の非環式チオウレア誘導体:
【化8】
(式中、
は、C~C12アルキルラジカル、好ましくはC~C10アルキルラジカル、特に好ましくはC~Cアルキルラジカル、非常に特に好ましくはC~Cアルキルラジカル、
~C12アルケンラジカル、好ましくはC~C10アルケンラジカル、特に好ましくはC~Cアルケンラジカル、非常に特に好ましくはC~Cアルケンラジカル、
~C12アシルラジカル、好ましくはC~C10アシルラジカル、特に好ましくはC~Cアシルラジカル、非常に特に好ましくはC~Cアシルラジカル、
ピリジルまたはフェニルラジカルである)
が、特に好ましい。
【0032】
非常に特に好ましい非環式チオウレア誘導体は、アセチル、アリル、ピリジルおよびフェニルチオウレア、ヘキサノイルチオウレア(3)およびそれらの混合物である。ヘキサノイルチオウレア(3)が、最も好ましい。
【化9】
【0033】
本発明による組成物は、少なくとも3種、好ましくは3~6種、特に好ましくは3種または4種、および非常に特に好ましくは3種の異なるチオウレア誘導体を含有する。本組成物は、いくつかの非環式および1種もしくはそれより多種の環式チオウレア誘導体、または好ましくはいくつかの環式および1種もしくはそれより多種の非環式チオウレア誘導体を含有することができる。2~4種、好ましくは2種の環式チオウレア誘導体および1種の非環式チオウレア誘導体を含有する組成物が好ましい。
【0034】
非環式チオウレア誘導体としてヘキサノイルチオウレア、および少なくとも2種の、好ましくはちょうど2種の環式チオウレア誘導体を含有する組合せ物が好ましい。ヘキサノイルチオウレア、2-メルカプトベンゾイミダゾールまたは2-イミダゾリンチオンおよび少なくとも1種の、好ましくはちょうど1種のさらなる環式チオウレア誘導体(1)を含有する組成物が特に好ましい。ヘキサノイルチオウレア、2-メルカプトベンゾイミダゾールまたは2-イミダゾリンチオンおよび3,4,5,6-テトラヒドロ-2-ピリミジンチオールを含有する組成物が、非常に特に好ましい。3種のチオウレア誘導体の特に好ましい組合せ物は、3,4,5,6-テトラヒドロ-2-ピリミジンチオール(1)、2-イミダゾリジンチオン(2)およびヘキサノイルチオウレア(3)の混合物である。
【0035】
本発明により好ましいヒドロペルオキシドは、式R-(OOH)(式中、Rは、脂肪族または芳香族炭化水素ラジカルであり、mは、1または2である)の化合物である。好ましいラジカルRは、アルキル基およびアリール基である。アルキル基は、直鎖状、分岐状または環式とすることができる。環式アルキルラジカルは、脂肪族アルキル基によって置換され得る。4~10個の炭素原子を有するアルキル基が好ましい。アリール基は、置換され得ないか、またはアルキル基によって置換され得る。好ましい芳香族炭化水素ラジカルは、1つまたは2つのアルキル基により置換されているベンゼンラジカルである。芳香族炭化水素ラジカルは、好ましくは、6~12個の炭素原子を含有する。特に好ましいヒドロペルオキシドは、t-アミルヒドロペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、t-ヘキシルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ヒドロペルオキシ)ヘキサン、ジイソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド(DIHP)、パラメンタンヒドロペルオキシド、p-イソプロピルクメンヒドロペルオキシドおよびそれらの混合物である。DIHPおよびクメンヒドロペルオキシド(CHP)が、非常に特に好ましい。
【0036】
さらに、以下の式(IV)によるヒドロペルオキシド
【化10】
(式中、可変基は、以下の意味を有する:
は、p価の、芳香族、脂肪族、直鎖状または分岐状C~C14炭化水素ラジカルであり、これらは、1個もしくはそれより多くのS原子および/またはO原子によって分断され得、さらには置換され得ないか、または-OH、-OR、-Clおよび-Brから好ましくは選択される1つまたはそれより多くの置換基によって置換され得、Rは、脂肪族、直鎖状または分岐状C~C10炭化水素ラジカルであり、
X、Yは、互いに独立して、各場合において、存在しない、-O-、-COO-;-CONR-または-O-CO-NR-であり、RおよびRは、互いに独立して、HまたはC~C-アルキルラジカル、好ましくはH、メチルおよび/またはエチル、特に好ましくはHを表し、XおよびYは、好ましくは、同時に存在しないことはなく、
は、存在しない、脂肪族、直鎖状または分岐状C~C14アルキレンラジカルであり、これらは、S原子および/またはO原子によって分断され得、さらには置換され得ないか、または-OH、-OR10、-Clおよび/もしくは-Brによって置換され得、R10は、脂肪族、直鎖状または分岐状C~C10炭化水素ラジカルであり、
は、C~Cアルキレン基であるか、または存在せず、好ましくは-CH-であるか、または存在せず、
が存在しない場合、Xおよび/またはYは、存在せず、
pは、1、2、3または4であり、
芳香族化合物上の置換は、クメンヒドロペルオキシド基に対して、2、3または4位で起きている)
が、本発明により好ましい。
【0037】
可変基は、好ましくは、以下の意味を有する:
は、一価または二価の、脂肪族、直鎖状または分岐状C~C10炭化水素ラジカルであり、これらは、1個もしくはそれより多くのO原子、好ましくは1個のO原子によって分断され得、さらに-OHおよび-ORから選択される1つまたはそれより多くの、好ましくは1つの置換基によって置換され得るか、または好ましくは置換されておらず、Rは、脂肪族、直鎖状または分岐状C~C炭化水素ラジカルであり、
X、Yは、互いに独立して、各場合において、存在しない、-O-、-COO-または-O-CO-NR-であり、Rは、HまたはC~Cアルキルラジカル、好ましくはH、メチルおよび/またはエチル、非常に特に好ましくはHを表し、XおよびYは、好ましくは、同時に存在しないことはなく、
は、存在しない、直鎖状または分岐状のC~C10アルキレンラジカルであり、これらは、1個もしくはそれより多くのO原子、好ましくは1個のO原子によって分断され得、さらに-OHおよび-OR10から選択される1つまたはそれより多くの、好ましくは1つの置換基によって置換され得るか、または好ましくは置換されておらず、R10は、脂肪族、直鎖状または分岐状C~C炭化水素ラジカルであり、
pは、1または2であり、
芳香族化合物上の置換は、3位、好ましくは4位で起きている。
【0038】
可変基は、特に好ましくは、以下の意味を有する:
は、一価または二価の脂肪族、直鎖状または分岐状C~C炭化水素ラジカルであり、これらは、1個のO原子によって分断され得、さらに1つのOH基によって置換され得、
Xは、-COO-であり、
Yは、存在せず、
は、存在しないか、または直鎖状C~Cアルキレンラジカルであり、
pは、1または2であり、芳香族化合物上の置換は、4位で起きている。
【0039】
可変基は、非常に特に好ましくは、以下の意味を有する:
は、一価または二価の脂肪族、分岐状の、好ましくは直鎖状のC~C炭化水素ラジカルであり、
Xは、-COO-であり、
Yは、存在せず、
は、存在しない、またはメチレンラジカルであり、
pは、1または2であり、芳香族化合物上の置換は、4位で起きている。
【0040】
式(IV)のヒドロペルオキシドおよびその調製は、EP3692976A1に一層詳細に記載されている。それらは、特に、不快な臭気を有さないことを特徴とする。非常に特に好ましい式(IV)のヒドロペルオキシドは、4-(2-ヒドロペルオキシプロパン-2-イル)フェニルプロピオネート(K220):
【化11】
である。
【0041】
EP3692976A1の段落[0025]において具体的に指定されているヒドロペルオキシドが、さらに好ましい。
【0042】
好ましい実施形態によれば、本発明による材料は、遷移金属化合物をさらに含有する。
【0043】
本発明により好ましい遷移金属化合物は、少なくとも2つの安定な酸化状態を有する遷移金属から誘導される化合物である。銅、鉄、コバルト、ニッケルおよびマンガン元素の化合物が、特に好ましい。これらの金属は、以下の安定な酸化状態:Cu(I)/Cu(II)、Fe(II)/Fe(III)、Co(II)/Co(III)、Ni(II)/Ni(III)、Mn(II)/Mn(III)を有する。少なくとも1種の銅化合物を含有する材料が、特に好ましい。
【0044】
遷移金属は、それらの塩の形態で好ましくは使用される。好ましい塩は、硝酸塩、酢酸塩、2-エチルヘキサン酸塩およびハロゲン化物であり、塩化物が、特に好ましい。
【0045】
遷移金属は、さらに有利には、錯体形態で使用することができ、キレート形成性配位子との錯体が、特に好ましい。遷移金属と錯体を形成する好ましい単一配位子は、2-エチルヘキサノエートおよびTHFである。好ましいキレート形成性配位子は、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、脂肪族アミン、特に好ましくは1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン(HMTETA)、N,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン(MeTREN)、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、1,4,8,11-テトラアザ-1,4,8,11-テトラメチルシクロテトラデカン(Me4CYCLAM)、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)および1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン(CYCLAM);ピリジン含有配位子、特に好ましくはN,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン(TPEN)、N,N-ビス(2-ピリジルメチル)アミン(BPMA)、N,N-ビス(2-ピリジルメチル)オクチルアミン(BPMOA)、2,2’-ビピリジンおよび8-ヒドロキシキノリンである。非常に特に好ましい配位子は、アセチルアセトン、ジメチルグリオキシムおよび1,10-フェナントロリンである。
【0046】
電気的に中性の配位子の場合、遷移金属イオンの電荷は、好適な対イオンによってバランスがとられていなければならない。このため、塩を形成するために使用される上で指定したイオンが好ましく、酢酸イオンまたは塩化物イオンが特に好ましい。塩化物および錯体は、歯科用材料を調製するために使用される、モノマーにおいて、溶解度が比較的良好であることを特徴とする。
【0047】
遷移金属錯体の代わりに、錯体を形成する有機化合物と組み合わせた遷移金属の非錯体塩を使用して、歯科用材料を調製することができ、上で指定したキレート形成性化合物が好ましい。有機配位子は、遷移金属塩と混合されると、触媒的に活性な錯体を形成する。遷移金属塩および有機配位子のこのような組合せを使用することが好ましい。
【0048】
金属銅、鉄、コバルトおよびニッケルの遷移金属化合物が好ましい。
【0049】
好ましい銅塩は、カルボン酸(例えば、酢酸または2-エチルヘキサン酸)Cu(II)、CuCl、CuBr、CuI、特に好ましくはCuBr、非常に特に好ましくはCuClである。好ましい銅錯体は、配位子であるアセチルアセトン、フェナントロリン(例えば、1,10-フェナントロリン(phen))、脂肪族アミン(例えば、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン(HMTETA)、N,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン(MeTREN)など)との錯体である。
【0050】
好ましい鉄塩は、FeCl、FeBrおよびFeClである。好ましい鉄錯体は、配位子であるアセチルアセトン、トリフェニルホスフィン、4,4’-ジ(5-ノニル)-2,2’-ビピリジン(dNbpy)または1,3-ジイソプロピル-4,5-ジメチルイミダゾール-2-イリデン(PriIm)との錯体である。錯体Fe(acac)およびFeCl(PPhが、非常に特に好ましい。
【0051】
好ましいニッケル塩は、NiBrおよびNiClであり、好ましいニッケル錯体は、ニッケルアセチルアセトネートおよびNiBr(PPhである。
【0052】
本発明によれば、銅化合物、銅錯体、特に、銅塩と錯体形成性有機配位子との混合物が特に好ましい。一価の銅(Cu)の塩および錯体が、非常に特に好ましく、塩化銅(I)(CuCl)が最も好ましい。一価の銅の塩、特にCuClを含有する組成物は、特に良好な保管安定性を特徴とする。
【0053】
本発明による開始剤系は、ラジカル重合可能組成物の硬化に特に好適である。
【0054】
本発明による組成物は、開始剤系に加え、少なくとも1種のラジカル重合可能なモノマーを好ましくは含有する。ラジカル重合可能なモノマーとして、少なくとも1種の一官能性または多官能性(メタ)アクリレートを含有する組成物が特に好ましい。一官能性(メタ)アクリレートとは、1つのラジカル重合可能な基を有する化合物を意味し、多官能性(メタ)アクリレートとは、2つまたはそれより多い、好ましくは2~4つのラジカル重合可能な基を有する化合物を意味する。非常に特に好ましい実施形態によれば、本発明による組成物は、少なくとも1つのジメタクリレート、またはモノメタクリレートとジメタクリレートとの混合物を含有する。口腔内で硬化することになる材料は、ラジカル重合可能なモノマーとして、一官能性および/または多官能性メタクリレートを好ましくは含有する。
【0055】
好ましい一官能性または多官能性(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルまたは(メタ)アクリル酸イソボルニル、p-クミルフェノキシエチレングリコールメタクリレート(CMP-1E)、2-(2-ビフェニルオキシ)エチルメタクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、ビス-GMA(メタクリル酸とビスフェノールAジグリシジルエーテルとの付加生成物)、エトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(例えば、2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシエトキシ)フェニル]-2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン)(Sartomer製のSR-348c;3つのエトキシ基を含有)、および2,2-ビス[4-(2-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパンなど)、UDMA(メタクリル酸2-ヒドロキシエチルと2,2,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートとの付加生成物)、V-380(0.7molのメタクリル酸2-ヒドロキシエチルおよび0.3molのメタクリル酸2-ヒドロキシプロピルの混合物と1molのα,α,α’,α’-テトラメチル-m-キシリレンジイソシアネートとの付加生成物)、ジメタクリル酸ジエチレングリコール、ジメタクリル酸トリエチレングリコールまたはジメタクリル酸テトラエチレングリコール、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、テトラメタクリル酸ペンタエリスリトール、ならびにジメタクリル酸グリセロールおよびトリメタクリル酸グリセロール、ジメタクリル酸1,4-ブタンジオール、ジメタクリル酸1,10-デカンジオール(DMA)、ビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ-[5.2.1.02,6]デカン(DCP)、ジメタクリル酸ポリエチレングリコールまたはジメタクリル酸ポリプロピレングリコール(例えば、ジメタクリル酸ポリエチレングリコール200、またはジメタクリル酸ポリエチレングリコール400(PEG200DMAまたはPEG400DMA)など)もしくはジメタクリル酸1,12-ドデカンジオール、またはそれらの混合物である。
【0056】
本発明による組成物は、本発明による開始剤系に加え、ラジカル光重合用の開始剤を有利なことにさらに含有することができる。このような組成物は、二重硬化性である、すなわちそれらは、化学的におよび光によっての両方で硬化することができる。好ましい光開始剤は、ベンゾフェノン、ベンゾインおよびそれらの誘導体、α-ジケトンおよびその誘導体(9,10-フェナントレンキノン、1-フェニル-プロパン-1,2-ジオン、ジアセチルおよび4,4’-ジクロロベンジルなど)である。樟脳キノン(CQ)および2,2-ジメトキシ-2-フェニル-アセトフェノンが、還元剤として、例えば4-(ジメチルアミノ)-安息香酸エチルエステル(EDMAB)またはN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレートなどのアミンと組み合わせて好ましくは使用される。
【0057】
本発明によれば、アミンを含有しない組成物が好ましい。したがって、Norrish I型の光開始剤が特に好ましい。Norrish I型の光開始剤は、アミン構成成分を必要としない。
【0058】
好ましいNorrish I型の光開始剤は、アシルホスフィンオキシドまたはビスアシルホスフィンオキシドである。例えば、ベンゾイルトリメチルゲルマン、ジベンゾイルジエチルゲルマン、ビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマン(Ivocerin(登録商標))、テトラベンゾイルゲルマンおよびテトラキス(o-メチルベンゾイル)ゲルマンなどのモノアシルトリアルキルゲルマン、ジアシルジアルキルゲルマンおよびテトラアシルゲルマン化合物が、特に好ましい。さらに、例えば、ビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマンまたはテトラキス(o-メチルベンゾイル)ゲルマンなどの異なる光開始剤の混合物を、樟脳キノンおよび4-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルと組み合わせて使用することができる。
【0059】
本発明による組成物は、1種もしくはそれより多種の有機または無機フィラーをさらに有利なことに含有することができる。微粒子フィラーが好ましい。歯科用固定セメントまたは充填コンポジットとして、ならびに一時的クラウンおよびブリッジの生成のため、フィラー含有組成物が特に好適である。
【0060】
好ましい無機フィラーは、SiO、ZrOおよびTiOなどの酸化物またはSiO、ZrO、ZnOおよび/もしくはTiOの酸化物混合物、焼成シリカもしくは沈降シリカなどのナノ粒子または超微粒フィラー、石英、ガラスセラミック、ボロシリケートまたはX線不透過性ガラス粉末、好ましくはバリウムまたはストロンチウムアルミニウムシリケートガラスなどのガラス粉末、および三フッ化イッテルビウム、酸化タンタル(V)、硫酸バリウム、またはSiOと酸化イッテルビウム(III)もしくは酸化タンタル(V)との酸化物混合物などのX線不透過性フィラーである。本発明による歯科用材料は、繊維フィラー、ナノ繊維、ウィスカ、またはそれらの混合物をさらに含有することができる。
【0061】
好ましくは、酸化物は、0.010~15μmの粒子サイズを有しており、ナノ微粒子または微細フィラーは、10~300nmの粒子サイズを有しており、ガラス粉末は、0.01~15μm、好ましくは0.2~1.5μmの粒子サイズを有しており、X線不透過性フィラーは、0.2~5μmの粒子サイズを有する。
【0062】
特に好ましいフィラーは、10~300nmの粒子サイズを有するSiOおよびZrOの酸化物混合物、0.2~1.5μmの粒子サイズを有するガラス粉末、特に、例えば、バリウムまたはストロンチウムアルミニウムシリケートガラスのX線不透過性ガラス粉末、および0.2~5μmの粒子サイズを有するX線不透過性フィラー、特に、三フッ化イッテルビウムおよび/またはSiOと酸化イッテルビウム(III)との酸化物混合物である。
【0063】
さらに、細砕プレポリマーまたはパールポリマー(イソフィラー(isofiller))が、フィラーとして好適である。これらは、有機ポリマー、またはX線不透過性ガラス粉末および三フッ化イッテルビウムなどの無機フィラーがそれ自体に充填されている有機ポリマーからもっぱらなることができる。上で定義したモノマーおよびフィラーは、細砕プレポリマーおよびパールポリマーの調製に好適である。総義歯を生成するための組成物は、フィラーとして、もっぱら有機フィラー、特に好ましくはポリメタクリル酸メチル(PMMA)に基づく細砕ポリマーまたはパールポリマー、非常に特に好ましくはPMMAに基づくパールポリマーを好ましくは含有する。
【0064】
特に明記しない限り、粒子サイズはすべて、重量平均粒子サイズであり、0.1μm~1000μmの範囲の粒子サイズの決定は、好ましくはLA-960静的レーザー散乱粒子サイズ分析器(堀場製作所、日本)を使用する静的光散乱法によって行われる。ここでは、655nmの波長を有するレーザーダイオードおよび405nmの波長を有するLEDが光源として使用される。異なる波長を有する2種の光源を使用すると、わずか1回の測定回数(measurement ass)で試料の全粒子サイズ分布を測定することが可能となり、この場合、この測定は湿式測定として行われる。この場合、フィラーの0.1~0.5%水性分散液を調製し、その散乱光をフローセル中で測定する。粒子サイズおよび粒子-サイズ分布を計算するための散乱光分析は、DIN/ISO13320に準拠したMie理論に従って行われる。
【0065】
0.1μm未満の粒子サイズは、好ましくは、動的光散乱法(DLS)によって決定される。5nm~0.1μmの範囲にある粒子サイズの測定は、25℃において90°の散乱角で、好ましくは、633nmの波長を有するHe-Neレーザーを有するMalvern Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments、Malvern、UK)を用いて、水性粒子分散液の動的光散乱法(DLS)によって行われる。
【0066】
0.1μm未満の粒子サイズもまた、SEMまたはTEM分光法によって決定することができる。透過型電子顕微鏡(TEM)は、300kVの加速電圧で、Philips CM30 TEMを用いて好ましくは行われる。試料の調製に関しては、数滴の粒子分散液を、炭素でコーティングされている50Åの厚い銅グリッド(メッシュサイズ300)に塗布し、次に、溶媒を蒸発させる。
【0067】
粒子サイズが低下すると、光散乱が低下するが、小さな粒子サイズを有するフィラーは、一層大きな増粘作用を有する。フィラーは、その粒子サイズに従って、マクロフィラーおよびマイクロフィラーに分類され、0.2~10μmの平均粒子サイズを有するフィラーは、マクロフィラーと呼ばれ、約5~100nmの平均粒子サイズを有するフィラーは、マイクロフィラーと呼ばれる。マクロフィラーは、例えば、石英、X線不透過性ガラス、ボロシリケートまたはセラミックを例えば、研磨することによって得られ、通常、砕けやすい部分からなる。酸化物混合物などのマイクロフィラーは、例えば、金属アルコキシドの加水分解による共縮合によって調製することができる。
【0068】
充填粒子と架橋化重合マトリックスとの間の結合を改善するため、フィラーは、特に好ましくはシラン化によって、非常に特に好ましくは、特に3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを用いるラジカル重合可能なシランによって、好ましくは表面修飾される。例えば、ZrOまたはTiOの非シリケートフィラーの表面修飾の場合、例えば、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシルなどの官能基化されている酸性ホスフェートもまた使用することができる。
【0069】
さらに、本発明による組成物は、1種またはそれより多種のさらなる添加物、上記のすべての安定剤、着色剤、殺菌性活性成分、フッ化物イオン放出性添加物、発泡剤、光学的美白剤、可塑剤および/またはUV吸収剤を含有することができる。
【0070】
本発明による材料は、使用するために互いに混合される、2つの物理的に個別の構成成分を好ましくは含む。第1の構成成分(触媒ペースト)は、ヒドロペルオキシド(単数または複数)を含み、第2の構成成分(ベースペースト)は、チオウレア誘導体および必要に応じて遷移金属化合物を含有する。ベースペーストおよび触媒ペーストは、1:1の体積比で互いに好ましくは混合される。硬化反応は、ベースペーストと触媒ペーストとを混合することによって開始される。
【0071】
ベースペーストは、0.07~3.50重量%、特に好ましくは0.07~3.3重量%、非常に特に好ましくは0.20~2.50重量%、最も好ましくは0.35~2.10重量%の少なくとも1種の環式チオウレア誘導体、および0.04~2.3重量%、特に好ましくは0.04~2.00重量%、特に好ましくは0.10~1.5重量%、最も好ましくは0.20~1.2重量%の少なくとも1種の非環式チオウレア誘導体を好ましくは含有する。
【0072】
好ましい実施形態によれば、ベースペーストは、0.03~2.50重量%、特に好ましくは0.10~2.00重量%、最も好ましくは0.15~1.50重量%の3,4,5,6-テトラヒドロ-2-ピリミジンチオール、および/または0.04~1.30重量%、特に好ましくは0.10~1.00重量%、最も好ましくは0.15~0.60重量%の2-メルカプトベンゾイミダゾール、および/または0.04~2.00重量%、特に好ましくは0.10~1.50重量%、最も好ましくは0.25~1.20重量%のヘキサノイルチオウレアを含有し、ここでは、各場合において、列挙された量で3種すべての指定されている環式チオウレア誘導体を含有する材料が、特に有利である。
【0073】
個々のチオウレア誘導体の量は、ここでは、2-メルカプトベンゾイミダゾールに対する3,4,5,6-テトラヒドロ-2-ピリミジンチオールの重量比が、0.15~4.00、特に好ましくは0.20~3.50、最も好ましくは0.25~3.00の範囲にあるよう、好ましくは選択される。ヘキサノイルチオウレアに対する3,4,5,6-テトラヒドロ-2-ピリミジンチオールの重量比は、0.04~3.50、特に好ましくは0.40~3.00、最も好ましくは0.60~2.70の範囲に好ましくはある。ヘキサノイルチオウレアに対する2-メルカプトベンゾイミダゾールの重量比は、0.05~2.50、特に好ましくは0.10~1.2、最も好ましくは0.20~0.90の範囲に好ましくはある。
【0074】
ベースペーストは、合計が0.10~4.00重量%、特に好ましくは0.50~2.50重量%、最も好ましくは1.00~2.00重量%のチオウレア誘導体を好ましくは含有する。
【0075】
チオウレア誘導体は、触媒ペースト中のヒドロペルオキシドのモル量に対して、50~400mol%、好ましくは75~300mol%、非常に特に好ましくは100~200mol%の合計モル量で好ましくは使用される。
【0076】
好ましくは、ベースペーストは、0.0001~1重量%、好ましくは0.0005~0.500重量%、特に好ましくは0.0007~0.020重量%の1種またはそれより多種の遷移金属化合物をさらに含有する。ベースペーストの質量に対する遷移金属化合物の合計質量が、指定される。
【0077】
ベースペーストは、以下の組成:
- 0.10~5.00重量%、好ましくは0.50~4.00重量%、特に好ましくは1.00~2.00重量%のチオウレア誘導体、
- 0.0001~1重量%、好ましくは0.0005~0.5重量%、特に好ましくは0.0007~0.02重量%の少なくとも1種の遷移金属化合物、
- 5~95重量%、好ましくは10~95重量%、特に好ましくは10~90重量%の少なくとも1種のラジカル重合可能なモノマー、
- 0~85重量%の少なくとも1種のフィラー、および
- 必要に応じて0.01~5重量%、好ましくは0.1~3重量%、特に好ましくは0.1~2重量%の1種またはそれより多種の添加物
を好ましくは有する。
【0078】
すべての場合における上記のデータは、ベースペーストの質量に関する。
【0079】
触媒ペーストは、触媒ペーストの質量に対して、好ましくは合計量が0.01~5.0重量%、特に好ましくは0.05~4.0重量%、非常に特に好ましくは0.1~3.75重量%で、1種またはそれより多種のヒドロペルオキシドを好ましくは含有する。
【0080】
触媒ペーストは、各場合において、触媒ペーストの質量に対して、以下の組成:
- 0.01~6重量%、好ましくは0.05~5.0重量%、特に好ましくは0.1~4.0重量%の少なくとも1種のヒドロペルオキシド、好ましくはCHPおよび/またはK220、
- 5~95重量%、好ましくは10~95重量%、特に好ましくは10~90重量%の少なくとも1種のラジカル重合可能なモノマー、
- 0~85重量%の少なくとも1種のフィラー、および
- 必要に応じて0.01~5重量%、好ましくは0.1~3重量%、特に好ましくは0.1~2重量%の1種またはそれより多種の添加物
を好ましくは有する。
【0081】
触媒ペーストおよびベースペーストを混合した後、本発明による材料は、各場合において、本組成物の合計質量に対して、以下の全組成:
(a)0.005~3重量%、好ましくは0.025~2.5重量%、特に好ましくは0.05~2.0重量%の少なくとも1種のヒドロペルオキシド、好ましくはCHPおよび/またはK220、
(b)0.005~3.0重量%、好ましくは0.015~2.125重量%、特に好ましくは0.025~1.5重量%のチオウレア誘導体、
(c)0.00005~0.5重量%、好ましくは0.00025~0.25重量%、特に好ましくは0.00035~0.01重量%の少なくとも1種の遷移金属化合物、
(d)5~95重量%、好ましくは10~95重量%、特に好ましくは10~90重量%の少なくとも1種のラジカル重合可能なモノマー、
(e)0~85重量%の少なくとも1種のフィラー、および
(f)必要に応じて0.01~5重量%、好ましくは0.1~3重量%、特に好ましくは0.1~2重量%の1種またはそれより多種の添加物
を好ましくは有する。
【0082】
フィラー含有量は、材料の所望の所期の使用に適合させる。充填コンポジットは、50~85重量%、特に好ましくは70~80重量%のフィラー含有量を好ましくは有する。一時的クラウンおよびブリッジを生成するための材料は、40~70重量%、特に好ましくは45~60重量%のフィラー含有量を好ましくは有しており、歯科用セメントは、10~70重量%、特に好ましくは60~70重量%のフィラー含有量を好ましくは有する。データは、材料の合計質量に関する。
【0083】
指定された物質からなる組成物が特に好ましい。さらに、個々の構成成分が、各場合において、上で指定した好ましい物質、特に好ましい材料から選択される組成物が好ましい。すべての場合において、個々の構成成分、またはいくつかの構成成分の混合物、例えばモノマーの混合物が、各場合において使用され得る。
【0084】
本発明による組成物は、歯科用材料として、特に、歯科用セメント、充填コンポジットおよび被覆材料として、ならびに補綴物、義歯、インレー、オンレー、クラウンおよびブリッジを生成するため、非常に特に一時的クラウンおよびブリッジを生成するための材料として特に好適である。本組成物は、損傷した歯の修復のために、すなわち例えば、歯科用セメント、充填コンポジットおよび被覆材料として治療用途のために、歯科医によって口内に施用するのに好適である。しかし、本組成物はまた、例えば、補綴物、義歯、インレー、オンレー、クラウンおよびブリッジなどの歯科修復物を生成または矯正する際に、非治療的に(口腔外に)使用することができる。
【0085】
本発明による組成物は、歯科向けだけではなく、非歯科目的のための形状にされた本体の生成にさらに好適であり、これは、例えば、キャスト形成、圧縮成形によって、特に3D印刷などの追加プロセスによって生成することができる。
【0086】
一時的クラウンおよびブリッジの生成に関しては、最初に、処置される歯(単数または複数)の印象が作製される。次に、歯(単数または複数)が削られ、次に、印象に自己硬化性修復材料が充填される。ブレンド済み材料が、印象に直接軽い圧力または深絞り用フィルムを使用して、混合先端部から施用される。印象の気泡不含充填を実現するため、充填している間に、先端部を材料中に浸けるべきである。必要に応じて、調製された歯は、調製マージンの気泡不含形成物用の修復材料により取り囲まれ得る。
【0087】
材料を充填した印象を、次に、調製済み歯に押し込む。約1~2分後、この材料は、硬弾性の、部分的硬化状態にあり、印象と一緒に口から取り出すことができる。
【0088】
一時的なプラスチック製補綴物が、解剖学的印象から、可能性としてコアから取り出され、過剰の材料は、さらに硬化させた後(約4~5分間)に、回転機器を使用して、例えば、クロスカットタングステンカーバイドバーを使用して、または外科用メスを使用して取り出される。阻止層は、アルコールを用いて、または研磨によって好ましくは除かれる。次に、修復物を完全に硬化させる。
【0089】
本発明は、以下の実施形態の例および図を参照しながら一層詳細に説明される。
【0090】
図1は、2種の異なるチオウレア誘導体を有するペーストの保管安定性を示す。ペーストの加工時間は、不安定性の指標である、保管期間と共に増加する。このペーストは、37℃において約3か月間、安定である。
【0091】
図2は、3種の異なるチオウレア誘導体を有するペーストの保管安定性を示す。このペーストは、50℃でさえ、5か月間、安定である。その後だけに、加工時間の低下が観察され得る。
【実施例0092】
実施形態の例
以下の材料を、実施形態の例において使用する:
DCP ビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ-[5.2.1.02,6]-デカン(CAS番号43048-08-4)
RM3 UDMA(CAS番号72869-86-4)
SR348C 2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシエトキシ)-フェニル]-2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)-フェニル]-プロパン(Sartomer製のSR-348c;3つのエトキシ基を含有する;CAS番号41637-38-1)
CHP クメンヒドロペルオキシド(CAS番号80-15-9)
K220 4-(2-ヒドロペルオキシプロパン-2-イル)フェニルプロピオネート(CAS番号2515246-70-3)
2-MBI 2-メルカプトベンゾイミダゾール(CAS番号583-39-1)
1-メチル-MBI 1-メチル-1H-ベンゾイミダゾール-2-チオール(CAS番号2360-22-7)
THPT 3,4,5,6-テトラヒドロ-2-ピリミジンチオール(CAS番号2055-46-1)
K107 ヘキサノイルチオウレア(CAS番号41510-13-8)
CuCl 塩化銅(I)(CAS番号7758-89-6)
HDK2000 トリメチルシラン処理した焼成シリカ、BET表面積は約200m/g(Wacker Chemie AG)
SG-SO100NCMP8 メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランでコーティングされているSiO(CAS番号7631-86-9)
BHT ブチルヒドロキシトルエン(CAS番号128-37-0)
Optamint(登録商標) フレーバー(Symrise AG製)
(実施例1)
保管安定性に及ぼすチオウレア誘導体の数の影響の判定
【0093】
表1に列挙されている材料は、表中に指定されている構成成分を均一に混合することによって調製した。各場合において、ベースペースト(ベース)および触媒ペースト(触媒)を調製した。ペーストを調製するため、個々の開始剤構成物および添加物をモノマーに加え、次に、この混合物を、固体が完全に溶解するまで数時間、撹拌した。その後に、遠心ミキサ(SpeedMixer(登録商標)、Hauschild製)中で、フィラーを加えて、均一にブレンドした。ペーストを真空処理した後、それらを二重プッシュ式シリンジに個々に注ぎ込んだ。次に、ベースペーストおよび触媒ペーストを、各場合において、体積比1:1で互いにブレンドし、EN ISO-4049規格に準拠して、加工時間(processing time:PT)を測定した。材料の機械特性を決定するため、試験片を生成し、EN ISO-4049規格(歯科-ポリマーをベースとする充填材料、修復材料および合着材料)に準拠して、その屈曲強度および曲げ弾性率を決定した。弾性相の長さを決定するために、触媒ペーストとベースペーストを体積比1:1でブレンドした。硬化が始まった後(試験片に押し込むことによって確立した)に、ストップウォッチを始動し、試験片がもはや外科用メスを使用して裁断できなくなると、ストップウォッチを停止した。結果を、表3に記載する。
【0094】
保管安定性を決定するために、ペーストを37℃または50℃で5か月間、保管した。加工時間を定期的に測定した。これらの結果が、図1および2に再現されている。図1は、2種の異なるチオウレア誘導体を含むペーストの保管安定性を示しており、図2は、3種の異なるチオウレア誘導体を含むペーストの保管安定性を示している。図1は、ペーストの加工時間が、不安定性の指標である、保管期間と共に増加することを示している。2種の異なるチオウレア誘導体を含むペーストは、37℃において約3か月間、安定である。図2は、3種の異なるチオウレア誘導体を含むペーストは、50℃でさえ、5か月間、安定であったことを示している。
【表1】
(実施例2)
修復材料の機械特性の決定
【0095】
表2に記載されている材料は、実施例1と同様に調製した。次に、加工時間、弾性相の長さおよび機械特性を、実施例1に記載されている方法で決定した。結果を表3に記載する。材料1番および2番は、各場合において、2種のチオウレア誘導体しか含有していない。これらの材料は、良好な屈曲強度、良好な曲げ弾性率、および十分に長い弾性相を有する。しかし、加工時間は比較的短く、保管安定性は、不満足である(図1)。残りの材料は、各場合において、3種の異なるチオウレア誘導体を含む。これらの材料は、同等の機械特性および同等の弾性相の長さと共に、延長された加工時間を特徴とする。


【表2】
【表3】
図1
図2
【外国語明細書】