(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112522
(43)【公開日】2022-08-03
(54)【発明の名称】標的遺伝子を編集する蛋白質を細胞特異的に制御する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20220727BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20220727BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/113 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019102749
(22)【出願日】2019-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 博英
(72)【発明者】
【氏名】弘澤 萌
(57)【要約】 (修正有)
【課題】miRNAの活性を指標として、細胞特異的にゲノムを編集することができる、より特異的かつ安全な方法の提供。
【解決手段】標的遺伝子の編集を細胞特異的に制御する方法であって、(a)標的遺伝子を編集する第1蛋白質をコードするmRNAと、(b)前記第1蛋白質を不活性化する第2蛋白質をコードするmiRNA応答性mRNAと、(c)前記標的遺伝子によって特異的に認識されるガイド配列を備えるsgRNAとを、細胞に導入する工程を含み、前記miRNA応答性mRNAが下記:(i)miRNAによって特異的に認識される核酸配列、および(ii)前記第2蛋白質のコード領域に対応する核酸配列を含み、前記miRNAが、前記細胞において特異的に活性が高いmiRNAである、方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的遺伝子の編集を細胞特異的に制御する方法であって、
(a)標的遺伝子を編集する第1蛋白質をコードするmRNAと、
(b)前記第1蛋白質を不活性化する第2蛋白質をコードするmiRNA応答性mRNAと、
(c)前記標的遺伝子によって特異的に認識されるガイド配列を備えるsgRNAと
を、細胞に導入する工程を含み、前記miRNA応答性mRNAが下記:
(i)miRNAによって特異的に認識される核酸配列、および
(ii)前記第2蛋白質のコード領域に対応する核酸配列
を含み、
前記miRNAが、前記細胞において特異的に活性が高いmiRNAである、方法。
【請求項2】
前記第1蛋白質が、Cas9蛋白質またはその類似体であり、
前記第2蛋白質が、AcrllA4またはその類似体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1蛋白質が、dCas9-VPR蛋白質またはその類似体であり、
前記第2蛋白質が、AcrllA4またはその類似体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記(a)、(b)及び/または(c)が、DNAベクターまたはウイルスベクターを使用することなく、合成RNA分子の形態で細胞に導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記(i)miRNAによって特異的に認識される核酸配列が、前記miRNA応答性mRNAの非翻訳領域に複数含まれる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2蛋白質が、N末端側に核移行シグナルを融合したAcrllA4である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項7】
標的遺伝子の編集を細胞特異的に制御するキットであって、
(a)標的遺伝子を編集する第1蛋白質をコードするmRNAと、
(b)前記第1蛋白質を不活性化する第2蛋白質をコードするmiRNA応答性mRNAと、
(c)前記標的遺伝子によって特異的に認識されるガイド配列を備えるsgRNAと
を含み、当該miRNA応答性mRNAが下記:
(i)miRNAによって特異的に認識される核酸配列、および
(ii)前記第2蛋白質のコード領域に対応する核酸配列
を含み、
前記miRNAが、前記細胞において特異的に活性が高いmiRNAである、キット。
【請求項8】
前記第1蛋白質が、Cas9蛋白質またはその類似体であり、
前記第2蛋白質が、AcrllA4またはその類似体である、請求項7に記載のキット。
【請求項9】
前記第1蛋白質が、dCas9-VPR蛋白質またはその類似体であり、
前記第2蛋白質が、AcrllA4またはその類似体である、請求項7に記載のキット。
【請求項10】
前記(i)miRNAによって特異的に認識される核酸配列が、5’-UTRに複数含まれる、請求項7~9のいずれか1項に記載のキット。
【請求項11】
前記第2蛋白質が、N末端側に核移行シグナルを融合したAcrllA4である、請求項8または9に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的遺伝子を編集する蛋白質を細胞特異的に制御する方法、並びに当該方法に用いることができるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゲノム編集において、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats and CRISPR-associated(CRISPR/Cas)Systemが広く用いられている。CRISPR/Cas9 Systemは、ヌクレアーゼであるCas9蛋白質(Cas9)と標的配列に相補的な20塩基を組み込んだシングルガイドRNA(sgRNA)により、目的遺伝子を切断するものである。しかし、ゲノム編集において、意図しない配列を切断してしまうことや、標的でない細胞のゲノムを編集してしまうことは思わぬ結果をもたらす危険性がある。そのため、ゲノム編集を行うツールを制御することは重要である。
【0003】
細胞を識別するための指標となる対象として、マイクロRNA(以下、miRNAと指称する)が、着目されている(例えば、特許文献1を参照)。このmiRNAを利用して、細胞特異的にCas9などのヌクレアーゼを制御する方法が考案されてきた(例えば、非特許文献1、2、及び特許文献1を参照)。また、本発明者らにより、RNA結合蛋白質を利用し、標的miRNAの活性が高いときにゲノムを編集する試みもなされてきた(例えば、非特許文献2及び特許文献2を参照)。
【0004】
近年、Streptococcus pyogenesのCas9の活性を阻害するAcrllA4が発見された。このAcrllA4をmiRNAで制御することで、標的miRNAの活性が高いときにゲノムを編集することが試みられた(非特許文献3を参照)。この方法は、DNAデリバリーであり、導入遺伝子がゲノムに組み込まれる危険性がある。また、プラスミドDNAを用いたレポーター(ルシフェラーゼ)により遺伝子活性化を評価している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2015/105172
【特許文献2】国際公開WO2018/003339
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Biotechnol J. 2014 Nov;9(11):1402-1412
【非特許文献2】Nucleic Acids Res(2017) 45:e118
【非特許文献3】Nucleic Acids Res(2019) 1,doi:10.1093/nar/gkz271
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1、2、及び特許文献2に開示されたヌクレアーゼの制御方法は、標的となるmiRNAの活性が高いときにゲノムが編集されなくなるシステムである。このようなシステムを、本明細書において、OFFシステムともいう。OFFシステムを用いて標的細胞特異的にゲノムを編集するためには、特定の標的細胞で特異的に活性の低いmiRNAを探す必要があり、煩雑である。一方、非特許文献2及び特許文献2に開示されたRNA結合蛋白質を使用する方法では、Cas9発現を抑えたい場合において、Cas9発現のリークがみられた。より特異性を上げるためには、このリークを抑える必要性がある。
【0008】
また、非特許文献3に開示された方法では、内在性の遺伝子、すなわち標的細胞のゲノム上にある遺伝子を実際に活性化できるかは不明である。さらにこの方法はウイルスベクターの使用を必須とする方法であり、細胞の臨床使用における安全性が懸念される。
【0009】
miRNAの活性を指標として、意図しない遺伝子や細胞に作用することなく、細胞特異的に、かつより精密に、標的遺伝子を編集することができる、安全な方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討の結果、標的遺伝子を編集する蛋白質を不活性化する蛋白質の発現を、miRNAの活性を指標として制御することにより、標的細胞特異的にゲノムを編集することができることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
[1] 標的遺伝子の編集を細胞特異的に制御する方法であって、
(a)標的遺伝子を編集する第1蛋白質をコードするmRNAと、
(b)前記第1蛋白質を不活性化する第2蛋白質をコードするmiRNA応答性mRNAと、
(c)前記標的遺伝子によって特異的に認識されるガイド配列を備えるsgRNAと
を、細胞に導入する工程を含み、前記miRNA応答性mRNAが下記:
(i)miRNAによって特異的に認識される核酸配列、および
(ii)前記第2蛋白質のコード領域に対応する核酸配列
を含み、
前記miRNAが、前記細胞において特異的に活性が高いmiRNAである、方法。
[2] 前記第1蛋白質が、Cas9蛋白質またはその類似体であり、
前記第2蛋白質が、AcrllA4またはその類似体である、[1]に記載の方法。
[3] 前記第1蛋白質が、dCas9-VPR蛋白質またはその類似体であり、
前記第2蛋白質が、AcrllA4またはその類似体である、[1]に記載の方法。
[4] 前記(a)、(b)及び/または(c)が、DNAベクターまたはウイルスベ
クターを使用することなく、合成RNA分子の形態で細胞に導入される、[1]に記載の方法。
[5] 前記(i)miRNAによって特異的に認識される核酸配列が、前記miRNA応答性mRNAの非翻訳領域に複数含まれる、[1]~[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6] 前記第2蛋白質が、N末端側に核移行シグナルを融合したAcrllA4である、[2]または[3]に記載の方法。
[7] 標的遺伝子の編集を細胞特異的に制御するキットであって、
(a)標的遺伝子を編集する第1蛋白質をコードするmRNAと、
(b)前記第1蛋白質を不活性化する第2蛋白質をコードするmiRNA応答性mRNAと、
(c)前記標的遺伝子によって特異的に認識されるガイド配列を備えるsgRNAと
を含み、当該miRNA応答性mRNAが下記:
(i)miRNAによって特異的に認識される核酸配列、および
(ii)前記第2蛋白質のコード領域に対応する核酸配列
を含み、
前記miRNAが、前記細胞において特異的に活性が高いmiRNAである、キット。
[8] 前記第1蛋白質が、Cas9蛋白質またはその類似体であり、
前記第2蛋白質が、AcrllA4またはその類似体である、[7]に記載のキット。
[9] 前記第1蛋白質が、dCas9-VPR蛋白質またはその類似体であり、
前記第2蛋白質が、AcrllA4またはその類似体である、[7]に記載のキット。
[10] 前記(i)miRNAによって特異的に認識される核酸配列が、5’-UTRに複数含まれる、[7]~[9]のいずれか1項に記載のキット。
[11] 前記第2蛋白質が、N末端側に核移行シグナルを融合したAcrllA4である、[8]または[9]に記載のキット。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る方法によれば、miR-AcrllA4のようなmiRNA応答性mRNAスイッチ、すなわち、miRNAに応答して特定の蛋白質を発現するmRNA分子を用いることにより、特定の細胞種において発現される標的miRNAを検出し、細胞特異的にゲノム編集を実現することができた。この方法をCRISPR-Cas9システムなどの遺伝子編集システムと組み合わせることにより、細胞工学や臨床治療を含む種々の研究分野への応用が可能となる。
【0013】
本発明は、標的となるmiRNAの活性が高いときにゲノムが編集されるシステム、すなわち、ONシステムを実現することができる。かかる方法では、miR-AcrllA4スイッチなどのmiRNA応答性mRNAにより、遺伝子を編集する蛋白質を不活性化する蛋白質の発現を制御することができ、以下の理由により、標的細胞のゲノムを設計するための有用なツールとなりうる。
[1] OFFシステムと比較して、ONシステムは容易にかつ選択的に標的細胞において遺伝子を編集する蛋白質(ヌクレアーゼなど)を活性化することができる。
[2] モデル生命体における遺伝子機能を同定するために、miRNA応答性mRNAスイッチは細胞特異的なゲノム編集や、組織特異的なゲノム編集、すなわちゲノムノックアウトによる機能の喪失またはCRISPRaによる機能の獲得を可能にする。
[3] miR-AcrllA4スイッチなどのmiRNA応答性mRNAスイッチは、RNA送達方法により実施することができる。これにより、DNA送達方法において懸念されるゲノム組み込みやオフターゲット効果を避けることができる。
[4] miR-AcrllA4スイッチなどのmiRNA応答性mRNAスイッチは、非標的細胞におけるゲノム編集を最低限にすることができる。これは、臨床応用において重要であり、例えば、がん治療において、正常細胞におけるゲノム編集を回避し、副作用を低減することができる。
[5] miR-AcrllA4スイッチなどのmiRNA応答性mRNAスイッチは内在性miRNAのみならず、合成オリゴヌクレオチド、例えばmiR-mimicにも応答するため、誘導可能なゲノム編集または一時的なゲノム編集にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、miRNA応答性CRISPR-Cas9 ONスイッチのスキームを表す概念図である。AcrllA4は、Cas9の活性を阻害するキープレイヤーであり、このAcrllA4の発現は、miRNAの標的部位をAcrllA4 mRNAの5’-UTRに挿入することで内在性のmiRNAにより制御される。つまり、標的miRNAの活性が高い時はAcrllA4の発現が抑制されるため、Cas9により遺伝子の編集が、dCas9-VPRにより遺伝子の活性化が行われる。
【
図2A】
図2Aは、AcrllA4によるCas9活性阻害を、EGFP遺伝子のノックアウトにより評価した場合の代表的な細胞の写真である。
【
図2B】
図2Bは、AcrllA4によるCas9活性阻害を、EGFP遺伝子のノックアウトにより評価した場合の代表的なヒストグラムである。
【
図2C】
図2Cは、AcrllA4によるCas9活性阻害を、EGFP遺伝子のノックアウトにより評価した実験を3回実施した結果の棒グラフである。結果は、mean±SDで表示した。
【
図3A】
図3Aは、miR-AcrllA4スイッチによりmiRNAをセンシングしゲノム編集を制御する、miRNA応答性CRISPR-Cas9 ONシステムの概念図である。Cas9 mRNA、sgRNA、miRNA応答性AcrllA4 switchを細胞に導入する。標的miRNAの活性が低い場合は、AcrllA4蛋白質が発現しCas9-sgRNA複合体に結合し、Cas9のDNA結合を阻害するためゲノムが編集されない(左)。標的miRNAの活性が高い場合は、AcrllA4蛋白質が発現しない。そのため、Cas9がDNAに結合しゲノムが編集される(右)。
【
図3B】
図3Bは、Cas9の活性をEGFP遺伝子のノックアウトにより評価した場合の代表的な細胞の写真である。
【
図3C】
図3Cは、Cas9の活性をEGFP遺伝子のノックアウトにより評価した場合の代表的なヒストグラムである。
【
図3D】
図3Dは、Cas9の活性をEGFP遺伝子のノックアウトにより評価した実験を3回実施した結果の棒グラフを示す。結果は、mean±SDで表示し、***P < 0.001(Student’s t test)を示す。
【
図4A】
図4Aは、miR-AcrllA4スイッチが内在性miRNAを介しCRISPRaを制御する、miRNA応答性CRISPRa ONシステムの概念図である。dCas9-VPR plasmid(a)、sgRNA plasmid(c)、miR-AcrllA4 plasmid(b)をTRE-P
miniCMV-hmAG1がゲノムに組まれたHeLa細胞に導入する。AcrllA4はdCas9-VPR-sgRNA複合体のDNA結合を阻害し、hmAG1発現を抑制する。標的miRNA活性が高い場合、dCas9-VPR-sgRNA複合体が標的サイトに結合するので、hmAG1が発現する。下図の下線部は標的配列、四角で囲んだ配列はprotospacer adjacent motif(PAM)を示す。
【
図4B】
図4Bは、dCas9-VPRの活性をhmAG1発現により評価した場合の代表的な細胞の写真である。
【
図4C】
図4Cは、dCas9-VPRの活性をhmAG1発現により評価した場合の代表的なドットプロットである。
【
図4D】
図4Dは、dCas9-VPRの活性をhmAG1発現により評価した実験を3回実施した結果の棒グラフを示す。結果は、mean±SDで表示し、***P < 0.001(Student’s t test)を示す。
【
図5A】
図5は、Cas9 mRNA及び5 ng のmiRNA応答性AcrllA4 mRNAを、EGFP遺伝子をゲノム上に組み込んであるiPS細胞であるiPS-EGFP細胞に導入し、miRNAをセンシングしゲノム編集を制御し、Cas9の活性をEGFP遺伝子のノックアウトにより評価した実験の結果を示す。
図5Aは、miRNA応答性AcrllA4 mRNAを用いないコントロール実験(左パネルはAcrllA4を添加せず、右パネルは標的遺伝子に認識されるsgRNA
EGFPを添加せず)の結果、得られた細胞の写真である。
【
図5B】
図5Bは、miRNA応答性AcrllA4 mRNAを用いないコントロール実験(左パネルはAcrllA4を添加、中パネルは不活性化したAcrllA4変異体を添加、右パネルは未処理)の結果、得られた細胞の写真である。
【
図5C】
図5Cは、標的部位にmiR-302aにより特異的に認識される配列を1つ用いた、miR-302a応答性AcrllA4 mRNAを用いてmiRNAをセンシングし、Cas9の活性をEGFP遺伝子のノックアウトにより評価した実験の結果を示す写真である。
【
図5D】
図5Dは、標的部位にmiR-302aにより特異的に認識される配列を4つ用いた、4×mi-302a応答性AcrllA4 mRNAを用いてmiRNAをセンシングし、Cas9の活性をEGFP遺伝子のノックアウトにより評価した実験の結果を示す写真である
【
図6】
図6は、
図5に示す実験結果をドットプロットにより表した図である。
【
図7】
図7は、
図5に示す実験の結果、各操作を行った細胞におけるEGFP陰性細胞集団の割合(%)を示すグラフである。
【
図8A】
図8A~Dは、Cas9 mRNA及び10 ngのmiRNA応答性AcrllA4 mRNAを、EGFP遺伝子をゲノム上に組み込んであるiPS細胞であるiPS-EGFP細胞に導入し、miRNAをセンシングしゲノム編集を制御し、Cas9の活性をEGFP遺伝子のノックアウトにより評価した実験の結果を示す。
図8Aは、miRNA応答性AcrllA4 mRNAを用いないコントロール実験(左パネルはAcrllA4を添加せず、右パネルは標的遺伝子に認識されるsgRNA
EGFPを添加せず)の結果、得られた細胞の写真である。
【
図8B】
図8Bは、miRNA応答性AcrllA4 mRNAを用いないコントロール実験(左パネルはAcrllA4を添加、中パネルは不活性化したAcrllA4変異体を添加、右パネルは未処理)の結果、得られた細胞の写真である。
【
図8C】
図8Cは、標的部位にmiR-302aにより特異的に認識される配列を1つ用いた、miR-302a応答性AcrllA4 mRNAを用いてmiRNAをセンシングし、Cas9の活性をEGFP遺伝子のノックアウトにより評価した実験の結果を示す写真である。
【
図8D】
図8Dは、標的部位にmiR-302aにより特異的に認識される配列を4つ用いた、4×miR-302a応答性AcrllA4 mRNAを用いてmiRNAをセンシングし、Cas9の活性をEGFP遺伝子のノックアウトにより評価した実験の結果を示す写真である
【
図9】
図9は、
図8に示す実験結果をドットプロットにより表した図である。
【
図10】
図10は、
図8に示す実験の結果、各操作を行った細胞におけるEGFP陰性細胞集団の割合(%)を示すグラフである。
【
図11】
図11は、コンストラクトの概略図を示す。(A)は5’-UTRにmiRNA標的部位を有し、本発明の第2蛋白質として機能するAnti-CRISPRをコードする、miRNA応答性mRNAの構造概念図を示す。(B)は、miRNA応答性mRNAのmiRNA標的配列の一例を示す概念図であり、miRNA target siteを1リピートまたは4リピート組み込むことができることを示す。(C)は、miRNA応答性mRNAの第2蛋白質の概念図を示しており、上図は野生型のAcrllA4蛋白質をコードする配列を、下図はN末端に核移行シグナルであるM9を融合させたM9_AcrllA4をコードする配列を概念的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0016】
本発明は、一実施形態によれば、標的遺伝子の編集を細胞特異的に制御する方法であって、
(a)標的遺伝子を編集する第1蛋白質をコードするmRNAと、
(b)前記第1蛋白質を不活性化する第2蛋白質をコードするmiRNA応答性mRNAと、
(c)前記標的遺伝子によって特異的に認識されるガイド配列を備えるsgRNAと
を、細胞に導入する工程を含み、前記miRNA応答性mRNAが下記:
(i)miRNAによって特異的に認識される核酸配列、および
(ii)前記第2蛋白質のコード領域に対応する核酸配列
を含み、
前記miRNAが、前記細胞において特異的に活性が高いmiRNAである、方法に関する。
【0017】
本発明における、「細胞」とは、特に限定されるものではなく任意の細胞であってよい。例えば、多細胞生物種から採取した細胞であってもよく、単離された細胞を培養することによって得られる細胞であってもよい。当該細胞は、特には、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、サル、ブタ、ラット等)採取した細胞、若しくは哺乳動物より単離された細胞又は哺乳動物細胞株を培養することによって得られる細胞である。体細胞としては、例えば、角質化する上皮細胞(例、角質化表皮細胞)、粘膜上皮細胞(例、舌表層の上皮細胞)、外分泌腺上皮細胞(例、乳腺細胞)、ホルモン分泌細胞(例、副腎髄質細胞)、代謝・貯蔵用の細胞(例、肝細胞)、境界面を構成する内腔上皮細胞(例、I型肺胞細胞)、内鎖管の内腔上皮細胞(例、血管内皮細胞)、運搬能をもつ繊毛のある細胞(例、気道上皮細胞)、細胞外マトリックス分泌用細胞(例、線維芽細胞)、収縮性細胞(例、平滑筋細胞)、血液と免疫系の細胞(例、Tリンパ球)、感覚に関する細胞(例、桿細胞)、自律神経系ニューロン(例、コリン作動性ニューロン)、感覚器と末梢ニューロンの支持細胞(例、随伴細胞)、中枢神経系の神経細胞とグリア細胞(例、星状グリア細胞)、色素細胞(例、網膜色素上皮細胞)、およびそれらの前駆細胞(組織前駆細胞)等が挙げられる。細胞の分化の程度や細胞を採取する動物の齢などに特に制限はなく、未分化な前駆細胞(体性幹細胞も含む)であっても、最終分化した成熟細胞であっても、同様に本発明における細胞として用いることができる。ここで未分化な前駆細胞としては、たとえば神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)が挙げられる。
【0018】
本発明における細胞は、前期体細胞を採取後に人為的な操作を加えた細胞であってよい。例えば、前記体細胞から調製した多能性幹細胞を含んでなる細胞群であり、あるいは多能性幹細胞を分化させた後に得られる細胞群であって、所望する細胞以外に分化された細胞を含み得る細胞群であってもよい。本発明で使用可能な多能性幹細胞とは、生体に存在するすべての細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞である。それらの多能性幹細胞の具体例は、以下のものに限定されないが、胚性幹(ES)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、精子幹細胞(「GS細胞」)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)、人工多能性幹(iPS)細胞などが含まれる。好ましい多能性幹細胞は、ES細胞、ntES細胞、およびiPS細胞である。より好ましい多能性幹細胞は、ヒト多能性幹細胞であり、特に好ましくはヒトES細胞、およびヒトiPS細胞である。さらに、本発明で使用可能な細胞は、多能性幹細胞だけでなく、多能性幹細胞を経ることなく直接所望の細胞に分化誘導させた、いわゆる「ダイレクトリプログラミング」により誘導された細胞群であってもよい。その他には、本発明における細胞は、がん細胞と正常細胞を含み得る細胞群など、遺伝子の編集が所望される細胞と、遺伝子の編集が所望されない細胞を含み得る細胞群であってもよい。
【0019】
本発明における細胞は、特には生存状態にあることが好ましい。本発明において、細胞が生存状態にあるとは、代謝能を維持した状態の細胞を意味する。本発明においては、細胞に、先の(a)、(b)、(c)のRNAを導入した後にも、その生来の特性を失うことなく、生存状態のまま、特に分裂能を維持したまま、続く用途に用いることができる細胞であってよい。
【0020】
本発明における「標的遺伝子」とは、標的となる特定の細胞のゲノム上にある遺伝子である。遺伝子の種類は特には限定されず、後述するsgRNAの設計により、任意の所望の遺伝子を標的遺伝子とすることができる。
【0021】
本発明において、標的遺伝子の「編集」とは、標的遺伝子に作用して、遺伝子の機能を変更することをいい、例えば遺伝子の機能を低下させ、損失させ、獲得し、または増強することが含まれる。さらに具体的には、「編集」とは、遺伝子を切断し、遺伝子の発現を活性化し、抑制化し、塩基編集し、ラベリング(ゲノム標識)し、DNAメチル化・脱メチル化やヒストンのアセチル化などのエピゲノム編集を行うことを含むものとする。
【0022】
また、本発明において、本発明において、「制御する」とは、第2蛋白質をコードするmiRNA応答性mRNAの翻訳を抑制し、これにより、標的遺伝子の編集を行う第1蛋白質が機能しない状態(OFF状態)から、機能することができる状態(ON状態)とすることをいう。
【0023】
また、「細胞特異的に制御する」とは、特定の細胞において、特異的に活性が高いmiRNAを指標として、当該細胞において標的遺伝子の編集を制御することをいう。miRNAを指標とした編集制御は、上記(b)のmiRNA応答性mRNAを用いて実施することができる。以下、各RNAの構造及び機能について説明する。
【0024】
(a)標的遺伝子を編集する第1蛋白質をコードするmRNA
(a)のmRNAは、標的遺伝子を編集する第1蛋白質をコードし、細胞内で翻訳されて第1蛋白質を発現するmRNAである。標的遺伝子を編集する第1蛋白質とは、一般的には、標的遺伝子を編集することができる酵素活性を有する蛋白質である。第1蛋白質としては、標的遺伝子を切断することができるヌクレアーゼや、標的遺伝子を活性化することができる不活性化型ヌクレアーゼが含まれるが、これらには限定されない。
【0025】
ヌクレアーゼとしては、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats-Associated Proteins 9(Cas9)転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ホーミングエンドヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼを含むが、これらに限定されない。なお、いずれのヌクレアーゼについても、同様の機能、すなわち標的遺伝子の切断活性を備える類似体や、同等の活性を有するその誘導体を用いることもできる。例えば、Cas9蛋白質の類似体には、Cas9ファミリー蛋白質が含まれ、具体的なCas9ファミリー蛋白質としては、Streptococcus pyogenes Cas9(SpCas9)、Staphylococcus aureus Cas9 (SaCas9)、Francisella novicida Cas9(FnCas9)、Campylobacter jejuni(CjCas9)、Neisseria meningitidis Cas9(NmCas9,もしくは NmeCas9)、Geobacillus stearothermophilus Cas9(GeoCas9)、Streptococcus thermophilus CRISPR1-Cas9(St1Cas9)が挙げられるが、これらには限定されない。Cas9蛋白質、類似体もしくは誘導体に他の蛋白質が融合した融合蛋白質もヌクレアーゼに含まれる。
【0026】
不活性化型ヌクレアーゼとしては、転写活性因子に融合した不活性化型ヌクレアーゼを挙げることができ、転写活性化因子VP64に融合した不活性化型Cas9(dCas9)ヌクレアーゼであるdCas9-VP64、dCas9-VPR、dCas9-SunTag、dCas9-VP16、dCas9-VP160、dCas9-P300を用いることができるが、これらには限定されない。なお、dCas9-VP64とともに、MS2-P65-HSF1融合蛋白質と、ガイド鎖にMS2結合配列を有する(c)のsgRNAとを用いたSAMシステムや、dCas9-SunTagとともにVPRを用いるTreeシステムもまた、用いることができる。これらのシステムに用いるタンパク質は、第1蛋白質をコードするmRNAとは別のmRNAによりコードすることもでき、第1蛋白質をコードするmRNA上にコードすることもできる。また、これらの不活性化型ヌクレアーゼと同様の機能を備える類似体や誘導体を用いることもできる。
【0027】
(a)のmRNAは、好ましくは、5’末端から、5’から3’の向きに、Cap構造(7メチルグアノシン5’リン酸)またはAmbion製のAnti-Reverse Cap Analog(ARCA)などのCap類似体を含む5’-UTR、開始コドン、第1蛋白質をコードするオープンリーディングフレーム並びに、ポリAテイルを含む3’-UTRを備えている。5’-UTR及び3’-UTRの設計は任意であってよい。(a)のmRNAは、5’-UTR、オープンリーディングフレーム、及び3’-UTRのいずれにも、miRNAによって特異的に認識される核酸配列を含まない。これにより、(a)の第1蛋白質をコードするmRNAは、細胞内に導入されて、miRNA活性の影響を受けることなく翻訳され、第1蛋白質を発現することができる。
【0028】
(b)前記第1蛋白質を不活性化する第2蛋白質をコードするmiRNA応答性mRNA
(b)のmiRNA応答性mRNAは、第2蛋白質をコードし、細胞内でmiRNAによる翻訳制御下で第2蛋白質を発現することができるmRNAである。第2蛋白質は、第1蛋白質を不活性化することができる蛋白質である。第2蛋白質は、(a)のmRNAについて説明した第1蛋白質との関係で決定することができる。第2蛋白質は、第1蛋白質を不活性化する蛋白質の融合体であってもよい。
【0029】
例えば、第1蛋白質が、Cas9ヌクレアーゼや、不活性化型Cas9ヌクレアーゼ、またはこれらの類似体の場合には、第2蛋白質としては、これらのヌクレアーゼを不活性化することができるanti-CRISPRを用いることができる。特には、Streptococcus pyogenesのCas9(spCas9)を不活性化することができるanti-CRISPRは、AcrllA2、AcrllA4、AcrllA5、AcrllA7、AcrllA8、AcrllA9、AcrllA10が挙げられるが、これらには限定されない。第2蛋白質は、例示したanti-CRISPRと同様の機能を有する、すなわちヌクレアーゼを不活性化することができるanti-CRISPRの類似体であってもよい。なお、先に例示したCas9ファミリー蛋白質のNmCas9を不活性化するanti-CRISPRとしては、AcrllC1、AcrllC2、AcrllC3、AcrllC4、AcrllA5が挙げられ、CjCas9を不活性化するanti-CRISPRとしては、AcrllC1が挙げられ、GeoCas9を不活性化するanti-CRISPRとしては、AcrllC1が挙げられ、St1Cas9を不活性化するanti-CRISPRとしてはAcrllA5、AcrllA6が挙げられ、SaCas9を不活性化するanti-CRISPRとしては、AcrllA5が挙げられる。第2蛋白質は、anti-CRISPRまたはその類似体を含む蛋白質融合体であってもよく、例えば、AcrllA4などのanti-CRISPRの好ましくはN末端側に核移行シグナルM9を融合した融合蛋白質であってもよい。AcrllA4に核移行シグナルM9を融合した融合蛋白質を用いると、第1蛋白質が編集する標的遺伝子における切断もしくは活性化を増強することができる。
【0030】
好ましい第1蛋白質と第2蛋白質の組み合わせとしては、例えば、AsCas12aとAcrVA1、LbCas12aとAcrVA4もしくはAcrVA5(AcrVA1)、NmeCas9とAcrllC1もしくはAcrllC3等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0031】
miRNA応答性mRNAとは、miRNAの活性に応答してコードする蛋白質の翻訳が制御されるメッセンジャーRNAであり、本明細書において、miRNAスイッチとも指称する。miRNA応答性mRNAの一般的な構造は、引用することにより本明細書の一部をなすものとする特許文献1(WO2015/105172)に詳述されている。本発明に用いる(b)のmiRNA応答性mRNAは、(i)miRNAによって特異的に認識される核酸配列、および(ii)第2蛋白質のコード領域に対応する核酸配列を含み、(i)miRNAによって特異的に認識される核酸配列と(ii)第2蛋白質のコード領域に対応する核酸配列が機能的に連結されている。
【0032】
(i)のmiRNAは、ある特定の細胞において、第1蛋白質により特定の標的遺伝子を編集することを目的として、その細胞で特異的に活性が高いmiRNAを適宜選択することができる。本明細書において、i)のmiRNAは、miRNAの「標的配列」と指称する場合があり、このようなmiRNAを、標的miRNAと指称する場合がある。特定の細胞で特異的に活性が高いmiRNAとは、当該細胞における発現が、他の細胞における発現よりも多いmiRNAをいうものとする。miRNAの「発現」とは、成熟miRNAが、所定の複数の蛋白質と相互作用して、RNA-induced silencing complex(RISC)を形成した状態にあるmiRNAが存在していることをいうものとする。「成熟miRNA」は、一本鎖RNA(20~25塩基)であり、核外でDicerによる切断によってpre-miRNAから生じ、「pre-miRNA」は、Droshaと呼ばれる核内酵素による部分切断によって、DNAから転写された一本鎖RNAであるpri-mRNAから生じる。本発明におけるmiRNAとは、少なくとも10,000種類以上のmiRNAから適宜選択される。詳細には、データベースの情報(例えば、http://www.mirbase.org/又はhttp://www.microrna.org/)に登録されたmiRNA、及び/または当該データベースに記載されている文献情報に記載されたmiRNAより適宜選択される。すなわち、本発明においては、(i)のmiRNAは特定の配列から構成されるmiRNAに限定されるものではない。このような、(i)のmiRNAは、本出願時において特定されているmiRNAには限定されず、今後、その存在及び機能が特定されるあらゆるmiRNAを含むものとする。特定の細胞において発現が多いmiRNAとは、他の細胞における発現と比較して、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上あるいはそれ以上の割合で高く発現しているmiRNAが例示される。このような特定の細胞において発現が多いmiRNAも、上記データベースの情報に基づき適宜選択することができる。
【0033】
本発明において、miRNAの標的配列は、例えば、当該miRNAに完全に相補的な配列であることが好ましい。あるいは、当該miRNAにおいて認識され得る限り、完全に相補的な配列との不一致(ミスマッチ)を有していても良い。当該miRNAに完全に相補的な配列からの不一致は、所望の細胞において、通常にmiRNAが認識し得る不一致であれば良く、生体内における細胞内の本来の機能では、40~50%程度の不一致があっても良い。このような不一致は、特に限定されないが、1塩基、2塩基、3塩基、4塩基、5塩基、6塩基、7塩基、8塩基、9塩基、若しくは10塩基又は全認識配列の1%、5%、10%、20%、30%、若しくは40%の不一致が例示される。また、特には、細胞が備えているmRNA上のmiRNA標的配列のように、特に、シード領域以外の部分に、すなわち、miRNAの3’側の16塩基程度に対応する、標的配列内の5’側の領域に、多数の不一致を含んでもよく、シード領域の部分は、不一致を含まないか、1塩基、2塩基、若しくは3塩基の不一致を含んでもよい。このような配列は、RISCが特異的に結合する塩基数を含む塩基長であればよく、長さは別段限定されないが、好ましくは、18塩基以上、24塩基未満の配列、より好ましくは、20塩基以上、22塩基未満の配列である。本発明において、miRNAによって特異的に認識される核酸配列は、所望の細胞および他の細胞へ当該標的配列を有し、視認可能な蛍光蛋白質などのマーカー蛋白質をコードするmiRNA応答性mRNAを導入し、所望の細胞においてのみ対応するマーカー蛋白質の発現が抑制されることを確認することによって、適宜決定して用いることができる。
【0034】
本発明において、miRNAによって特異的に認識される核酸配列(i)と第2蛋白質のコード領域に対応する核酸配列(ii)が機能的に連結されるとは、第2蛋白質をコードするオープンリーディングフレーム(ただし、開始コドンを含む。)の5’-UTR内、3’-UTR内、及び/または当該オープンリーディングフレーム内に、少なくとも1つのmiRNAの標的配列を備えることを意味する。miRNA応答性mRNAは、好ましくは、5’末端から、5’から3’の向きに、Cap構造(7メチルグアノシン5’リン酸)またはARCAなどのCap類似体、第2蛋白質をコードするオープンリーディングフレーム並びに、ポリAテイルを備え、5’-UTR内、3’-UTR内、及び/またはオープンリーディングフレーム内に少なくとも1つのmiRNAの標的配列を備える。以下、Cap構造と指称する場合は、Capアナログも含むものとする。mRNAにおけるmiRNAの標的配列の位置は、非翻訳領域にあってよく、5’-UTRであっても、3’-UTRであってもよい。あるいはmiRNAの標的配列の位置は、オープンリーディングフレーム内(開始コドンの3’側)であってもよい。非翻訳領域並びにオープンリーディングフレーム内のすべてにmiRNAの標的配列を備えていてもよい。したがって、miRNA標的配列の数は、1つであってもよく、複数であってもよく、例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つあるいはそれ以上であっても良い。例えば、5’-UTRに、4つあるいはそれ以上のmiRNA標的配列を組み込むことが好ましい。
【0035】
図11は、(b)のmiRNA応答性mRNAの設計例を概念的に示す図である。
図11(A)は、miRNA応答性mRNAの全体の構造の一例を概念的に示す。図中、miRNA target siteは上記(i)の核酸配列を示し、Anti-CRISPRは(ii)の核酸配列を示す。左側の白丸は、5’末端のCap構造を表し、右側のPoly(A)は3’末端のポリAテイルを表す。なお、
図11における(i)の核酸配列と、(ii)の核酸配列との結合態様は一例であり、本発明を限定するものではない。
図11(B)は、上記(i)の核酸配列を示し、上図はmiRNA標的配列を1リピート有する(i)の核酸配列、下図はmiRNA標的配列を4リピート有する(i)の核酸配列を例示する。
図11(C)は、(ii)の核酸配列の一例を示す概念図であり、上図は第2蛋白質がAcrllA4である場合、下図は第2蛋白質が、核移行シグナルM9とAcrllA4の融合蛋白質である場合の概念図である。
【0036】
好ましくは、miRNA応答性mRNAは、(i)および(ii)の核酸配列が、5’から3’の方向にこの順序で連結されている。このとき、Cap構造とmiRNAの標的配列との間の塩基数及び塩基の種類は、ステム構造や立体構造を構成しない限り、任意であってよい。例えば、Cap構造とmiRNA標的配列との間の塩基数は、0~50塩基、好ましくは、10~30塩基となるように設計することができる。また、miRNA標的配列と開始コドンとの間の塩基数及び塩基の種類は、miRNAと、miRNA応答性mRNAとの結合を阻害するなど、これらの相互作用に影響を与えないことが好ましい。一例としては、miRNA標的配列と開始コドンと間の塩基数は、0~50塩基、好ましくは、10~30塩基となるような配置にて設計することができる。
【0037】
本発明において、(i)のmiRNA標的配列内には、開始コドンとなるAUGが存在しないことが好ましい。例えば、miRNAの標的配列が5’-UTRに存在し、かつ、当該標的配列内にAUGを含む場合には、3’側に連結されるマーカー遺伝子との関係上でインフレームとなるように設計されることが好ましい。あるいは、標的配列内にAUGを含む場合、標的配列内のAUGをGUGに変換して使用することも可能である。また、標的配列内のAUGの影響を最小限に留めるために、5’-UTR内における標的配列の配置場所を適宜変更することができる。例えば、Cap構造と標的配列内のAUG配列との間の塩基数が、0~60塩基、例えば、0~15塩基、10~20塩基、20~30塩基、30~40塩基、40~50塩基、50~60塩基となるような配置にて設計され得る。なお、(b)のmiRNA応答性mRNAの5’-UTR及び3’-UTRの塩基数は、(a)のmRNAの5’-UTR及び3’-UTRの塩基数とそれぞれ、概ね同程度になるように設計することができる。
【0038】
(b)のmiRNA応答性mRNAは、通常のウリジン、シチジンに替えて、シュードウリジン、5-メチルシチジンなどの修飾塩基を含んでいることが好ましい。細胞毒性を低減させるためである。修飾塩基の位置は、ウリジン、シチジンいずれの場合も、独立に、全てあるいは一部とすることができ、一部である場合には、任意の割合でランダムな位置とすることができる。
【0039】
(b)のmiRNA応答性mRNAは、細胞内に導入され、miRNAに応答して第2蛋白質の翻訳が制御される。導入された細胞において、上記の標的配列に特異的に結合する特定のmiRNAの活性が高い場合は、第2蛋白質の翻訳が抑制される。一方、導入された細胞において、上記の標的配列に特異的に結合する特定のmiRNAの活性が低い場合には、第2蛋白質が翻訳され、当該細胞内で第2蛋白質が発現される。
【0040】
(c)前記標的遺伝子によって特異的に認識されるガイド配列を備えるsgRNA
(c)のsgRNAは、第1蛋白質が編集する標的となる遺伝子によって特異的に認識されるガイド配列を備えるRNAである。sgRNA(c)は、標的遺伝子を特異的に認識する、20程度、例えば、18~22の程度の塩基配列を5’末端近傍に組み込むように設計することができる。標的遺伝子を特異的に認識する塩基配列は、標的となる遺伝子に完全に相補的な配列であることが好ましい。あるいは、当該標的となる遺伝子において認識され得る限り、完全に相補的な配列との不一致(ミスマッチ)を有していても良い。当該標的となる遺伝子に完全に相補的な配列からの不一致については、(b)のmiRNA応答性mRNAの設計において、miRNAとその標的配列について定義したのと同様であってよい。また、この第1蛋白質による編集の標的となる遺伝子を特異的に認識する塩基配列の5’側に、1~5塩基程度の配列があってもよく、約80塩基程度の配列があってもよい。このような配列を設けることにより、標的配列に結合しゲノムの編集を制御することができる可能性がある。配列さらに、標的遺伝子を特異的に認識する塩基配列の3’側以降の配列は、CRISPR/Cas9 System等の遺伝子編集システムのsgRNAとして機能することが知られているsgRNAの配列であってよく、Tetra loop、stem loop2、3’末端を改変した例やsgRNAを構成するRNAに化学修飾を加えた例が知られている。使用するCRISPR/Cas9 Systemによっては、sgRNAのtetraloop及び/またはstem loopに、関連する蛋白質との結合配列を付加することもできる。が、第1蛋白質と複合体を形成して、標的遺伝子の目的の部位での編集、例えば切断や活性化を可能とする配列であれば、特定の配列には限定されない。
【0041】
(c)のsgRNAは、第1蛋白質が活性な状態で存在する場合、第1蛋白質と複合体を形成して、標的遺伝子を編集する、例えば標的遺伝子を所望の部位で切断し、あるいは標的遺伝子の所望の部位を活性化することができる。
【0042】
(a)のmRNA、(b)のmiRNA応答性mRNA、(c)のsgRNAは、上記に従って設計され、配列が決定されれば、遺伝子工学的に既知の任意の方法により当業者が合成することができる。特には、プロモーター配列を含むテンプレートDNAを鋳型として用いたin vitro転写合成法により、得ることができるが、合成方法は特には限定されない。
【0043】
本発明の一実施態様において、(a)のmRNA、(b)のmiRNA応答性mRNA、(c)のsgRNAを細胞に導入する方法としては、合成RNA分子の形態で細胞に導入することが挙げられる。例えばリポフェクション、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入しても良い。あるいは、(a)、(b)、(c)のRNAは、ウイルスベクターやプラスミドベクター、エピソーマルベクター等などのDNAの形態で導入することもでき、導入法は、上記と同様のものを用いることができる。(a)、(b)、(c)の三種のRNAは同じ方法で導入することが好ましい。
【0044】
なお、本発明の方法において、細胞に導入する(b)のmiRNA応答性mRNAは、1種類であってもよく、2種、3種、4種、5種、6種、7種、あるいは8種類以上であってもよい。2種以上のmiRNA応答性mRNAを導入する場合には、例えば、(i)のmiRNA標的部位の配列が異なり、異なるmiRNAに応答するmRNAを用いることができる。(i)の配列が異なる複数のmiRNA応答性mRNAを用いることにより、例えば、miRNA応答性mRNAが導入される細胞群に含まれうる複数種の細胞に対して、第2蛋白質の活性を制御することが可能になる。
【0045】
(a)、(b)及び(c)のRNAを細胞に導入する場合、(a)及び(b)のmRNAを細胞群に共導入することが好ましい。共導入した2種以上のmRNAの細胞内での割合は個々の細胞で維持されるため、これらのmRNAから発現する蛋白質の活性比は、細胞集団内において一定となるためである。この時の導入量は、導入される細胞群、導入するmRNA、導入方法および導入試薬の種類により異なり、所望の翻訳量の第1の蛋白質、及び第2の蛋白質を得るために当業者は適宜これらを選択することができる。(c)のsgRNAは、(a)及び(b)のmRNAと共導入することが好ましいが、必ずしも共導入しなくとも適切なタイミングで、独立に導入することもできる。
【0046】
より具体的な例として、第1蛋白質としてCas9蛋白質を用い、第2蛋白質としてAcrllA4を用いる場合の本発明の第1態様による方法を説明する。本発明は、一実施態様によれば、(a)のCas9蛋白質をコードするmRNAと、(b)のAcrllA4をコードするmiRNA応答性mRNAと、(c)のsgRNAを細胞に導入する工程を含む。以下の説明において、(a)のCas9蛋白質をコードするmRNAを、Cas9 mRNAとも指称し、(b)のAcrllA4をコードするmiRNA応答性mRNAを、miRNA-responsive AcrllA4 mRNAとも指称する。
【0047】
図1の左側は、(a)のCas9 mRNAと、(b)のmiRNA-responsive AcrllA4 mRNAと、(c)のsgRNAとを細胞に導入した場合の、細胞内での作用を模式的に示す図である。miRNA-responsive AcrllA4 mRNAの標的配列に認識されるmiRNAの活性が高い場合、miRNA-responsive AcrllA4 mRNAからのAcrllA4蛋白質の翻訳が抑制され、あるいは、miRNA-responsive AcrllA4 mRNA分子の分解が生じ、AcrllA4蛋白質が発現されない。一方、Cas9 mRNAは、miRNA活性に関わらずCas9蛋白質を発現する。Cas9蛋白質は、AcrllA4蛋白質により不活性化されることがないため、sgRNAとCas9蛋白質が複合体を形成し、ゲノム編集、具体的には標的遺伝子の切断が行われる。
【0048】
次に、miRNA-responsive AcrllA4 mRNAの標的配列に認識されるmiRNAの活性が低い場合は、miRNA-responsive AcrllA4 mRNAからのAcrllA4蛋白質の翻訳が行われ、AcrllA4蛋白質が発現する。AcrllA4蛋白質は、Cas9 mRNAから発現されるCas9蛋白質を不活性化する。
【0049】
別の具体的な例として、第1蛋白質としてdCas9-VPR蛋白質を用い、第2蛋白質としてAcrllA4を用いる場合の本発明の第1態様による方法を説明する。本発明は、一実施態様によれば、(a)のdCas9-VPR蛋白質をコードするmRNAと、(b)のAcrllA4をコードするmiRNA応答性mRNAと、(c)のsgRNAを細胞に導入する工程を含む。以下の説明において、dCas9-VPR蛋白質をコードするmRNA(a)を、dCas9-VPR mRNA(a)とも指称する。
【0050】
図1の右側は、dCas9-VPR mRNAと、miRNA-responsive AcrllA4 mRNAと、sgRNAとを細胞に導入した場合の、細胞内での作用を模式的に示す図である。miRNA-responsive AcrllA4 mRNAの標的配列に認識されるmiRNAの活性が高い場合、miRNA-responsive AcrllA4 mRNAからのAcrllA4蛋白質の翻訳が抑制され、あるいは、miRNA-responsive AcrllA4 mRNA分子の分解が生じ、AcrllA4蛋白質が発現されない。一方、dCas9-VPR mRNAは、miRNA活性に関わらずdCas9-VPR蛋白質を発現する。dCas9-VPR蛋白質は、AcrllA4蛋白質により不活性化されることがないため、sgRNAとdCas9-VPR蛋白質が複合体を形成し、ゲノム編集、具体的には標的遺伝子の活性化が行われる。
【0051】
miRNA-responsive AcrllA4 mRNAの標的配列に認識されるmiRNAの活性が低い場合は、miRNA-responsive AcrllA4 mRNAからのAcrllA4蛋白質の翻訳が行われ、AcrllA4蛋白質が発現する。AcrllA4蛋白質は、dCas9-VPR mRNAから発現されるCas9蛋白質を不活性化する。
【0052】
本発明に係る方法によれば、標的遺伝子の編集を可能とする蛋白質の活性を、miRNAの活性を指標として細胞特異的に制御することが可能となる。このため、特定の細胞において活性の高いmiRNAに応答して、標的遺伝子の編集を実行するONシステムを構築することが可能となった。
【実施例0053】
以下に、本発明を実施例を用いてより詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0054】
(1)AcrllA4によるCas9活性の阻害
はじめに、AcrllA4をコードするmRNA(AcrllA4 mRNA)から作製されたAcrllA4蛋白質が、Cas9活性を抑制することができるかを検証した。本発明者らは、EGFP遺伝子がゲノムに組み込まれたHeLa細胞(HeLa-EGFP)を用いてCas9活性を評価した結果を報告している(Hirosawa M,et al.(2017)、非特許文献2)。本実験では、AcrllA4 mRNA、Cas9をコードするmRNA(Cas9 mRNA)、及びEGFP遺伝子を標的とするsgRNAEGFPを、HeLa-EGFPにトランスフェクトした。Cas9活性は、EGFP陰性細胞集団をフローサイトメトリーにより定量することで評価した。詳細は、方法の欄に示す。
【0055】
Cas9 mRNAの活性は、AcrllA4 mRNAをトランスフェクションした場合と、しない場合について評価した。結果を
図2A、
図2B、及び
図2Cに示す。AcrllA4 mRNAが存在しなかった場合、およそ70%の細胞がEGFP陰性であり、Cas9 mRNAとsgRNA
EGFPにより、EGFP遺伝子の編集が効率的に行われたことを示す。これに対し、AcrllA4 mRNAを添加した場合は、EGFP陰性細胞の数が減少した。この結果は、AcrllA4 mRNA(10~50ng)が、標的化していない細胞および未処理の細胞と同程度にまで、Cas9活性を効率的に抑制したことを示す。Cas9結合活性のないdefective AcrllA4 mutant(E70R)(Dong D, et al.(2017) Structural basis of CRISPR-SpyCas9 inhibition by an anti-CRISPR protein. Nature 546:436-439.)は、EGFP陰性細胞集団に影響を与えなかった。このことは、Cas9活性の効率的な抑制が、Cas9とAcrllA4の相互作用によるものであることを示唆している。このように、AcrllA4は、ゲノム編集を確実に制御する。すなわち、OFF状態におけるオフターゲットを最低限にする。以下の実験(
図3)においては、10ngのAcrllA4 mRNAを用いた。
【0056】
(2)miR-AcrllA4スイッチによるmiRNAのセンシングとゲノム編集制御
任意のmiRNA に応答してCas9活性を誘導するために、miRNA 応答性AcrllA4 mRNA(miR-AcrllA4スイッチとも指称する、
図3A)の5’-UTRにmiRNA標的部位(miRNAのアンチセンス配列)を挿入した。特定のmiRNA活性が低い場合に、AcrllA4がAcrllA4 mRNAから発現されてCas9-sgRNA複合体に結合し、Cas9が二本鎖DNA(dsDNA)に結合するのを抑制して、ゲノム編集を中断する(
図3A、左側)。一方、特定のmiRNA活性が高い場合には、AcrllA4 mRNAはAcrllA4を発現せず、Cas9-sgRNA-dsDNA複合体を形成しゲノム編集が促進される(
図3A、右側)。このように、miRNAにより駆動されるCas9-ONシステムが得られた。
【0057】
miR-AcrllA4スイッチが、miRNA活性を感知してCas9を活性化できるか否かを調べた。HeLa cellsではmiR-21活性が高いため、我々は、miR-21応答性AcrllA4 mRNA(T21_AcrllA4)を構築し、T21_AcrllA4 mRNA、Cas9 mRNA、及びsgRNA
EGFPをHeLa-EGFPにトランスフェクトした。トランスフェクションの3日後、EGFP陰性細胞集団はCas9活性に基づいて増加した。結果を、
図3B、
図3C、
図3Dに示す。このことは、T21_AcrllA4 mRNAからのAcrllA4蛋白質の発現がmiR-21により抑制されたことを示す。
【0058】
内在性のmiR-21がゲノム編集を引き起こすことができるか確認した。miR-21 inhibitorは、EGFP陰性細胞集団のサイズを、Cas9で処理していない細胞と同程度まで減少させた(Cas9-OFF)。miRNAに干渉しないネガティブコントロール(inhibitor N.C.)は、EGFP陰性細胞集団に何の効果も及ぼさなかった(Cas9-ON)。これらの結果から、T21_AcrllA4スイッチは内在性のmiR-21によりCas9活性を制御することを示しており、miR-21 inhibitorの存在下でのOFF状態でのCas9活性のバックグラウンドレベルを明らかにした。すなわち、OFF状態ではCas9活性を効率的に抑制し、標的miRNA を検知することによりCas9を活性化した。また、AcrllA4 mRNAの5’-UTRに複数のmiRNA標的配列を直列に挿入することで、OFF状態に影響を与えることなくON状態を改善した(
図3D、4xT21_AcrllA4vs.T21_AcrllA4)。inhibitor N.C.を用いた場合に、4xT21_AcrllA4 mRNAをトランスフェクトした場合のEGFP陰性細胞集団は、T21_AcrllA4 mRNAをトランスフェクトした場合のEGFP陰性細胞集団と比較して高く、前者が41.1%、後者が31.7%であった。しかし、miR-21 inhibitorを用いると、4xT21_AcrllA4 mRNAをトランスフェクトした場合のEGFP陰性細胞集団は15.6%、T21_AcrllA4 mRNAをトランスフェクトした場合のEGFP陰性細胞集団は15.9%で、同程度の数値であった。このことは、標的としない細胞に対するオフターゲット効果を避けながら、標的miRNAに対する感度を改善したことを示す。
【0059】
このストラテジーの一般性を確認するために、上記とは異なるmiRNAであるmiR-302a-5p(miR-302a)を標的とした。miR-302aは、ヒト多能性幹細胞(hPSCs)のマーカーとして知られている。HeLa細胞では、miR-302aの活性が低いため、miR-302a mimicを用いてCas9活性化を引き起こした。Cas9 mRNA、sgRNA
EGFP、及びT302a-AcrllA4 mRNAを、miR-302a mimicまたはmiR-302aネガティブコントロール(mimic N.C.)とともに、コトランスフェクションした。予測どおり、EGFP陰性細胞集団は、miR-302a mimicの存在下では増加したが、miR-302a mimic N.Cの存在下では増加せず、Cas9活性のバックグラウンドレベルをOFF状態に保持した(
図3B、
図3C、
図3D)。これは、miR-AcrllA4スイッチがモジュラーであることを示す。このように、AcrllA4を制御することで、合成RNAにより送達され、miRNAに応答するCas9-ONシステムを設計することに成功した。
【0060】
(3)miR-AcrllA4スイッチによるmiRNAのセンシングとCRISPRaの制御
次に、このようなmiR-AcrllA4スイッチと、CRISPR活性化(CRISPRa)システムを組み合わせて標的遺伝子の発現を上方制御することができるかどうかを探った。そのために、レポーター細胞として、テトラサイクリン応答因子(TRE)により制御可能なhumanized monomeric Azami-Green1(hmAG1)遺伝子をゲノムに組み込んだHeLa細胞(HeLa-TRE
hmAG1)(
図4A)を構築した。hmAG1の活性化には、dCas9-VPR systemを用いた(Chavez A, et al.(2015)Highly efficient Cas9-mediated transcriptional programming. Nat Methods 12:326-328.)。はじめに、AcrllAを用いない場合、hmAG1の効率的な発現がなされることを観察した(
図4D、Without AcrllA4)。miR-AcrllA4スイッチを用いたCRISPRaシステムの制御を調べるために、dCas9-VPR、 sgRNA
TRE、 T21-AcrllA4 mRNAのそれぞれをコードするプラスミドを、miR-21 inhibitorまたはmiR-21 inhibitor N.C.とともに、HeLa-TRE
hmAG1にコトランスフェクションした。その結果、miR-21 inhibitor の添加は、選択的かつ顕著にhmAG1陽性細胞集団を減少させたが、miR-21 inhibitor N.C.を添加してもhmAG1陽性細胞集団を減少させず、hmAG1の発現はmiR-21の活性に依存することがわかった(
図4B、
図4C、
図4D、T21_AcrllA4)。この結果から、miR-AcrllA4スイッチは、miRNA活性に応答してゲノムにコードされる遺伝子を活性化できることがわかった。また、AcrllA4のN末端を核移行シグナル(NSL)であるM9に融合することにより、Cas9抑制効率を犠牲にすることなく、hmAG1発現レベルを向上させることができた。(
図4B、
図4C、
図4D、T21-M9_AcrllA4(配列番号55)。さらに、AcrllA4のレベルを変えることにより、miR-21によりトリガーされるhmAG1遺伝子の発現レベルを最適化することができた(図示せず)。さらに、スイッチを、miR-302aを標的とするスイッチに変えても同様の結果が得られることを実験的に確認し、このストラテジーの一般性を確認した(詳細は図示せず)。これらの結果から、AcrllA4の発現レベルを変化させることで、miRNAを入力信号として用いるCRISPR-Cas9 ONシステムの最適なON/OFF状態を達成することができると考えられる。
【0061】
(4)miR-AcrllA4スイッチ(5ng)によるmiRNAのセンシングとゲノム編集制御
先の(1)と同様の実験を、EGFP遺伝子がゲノムに組み込まれたiPS細胞であるiPS-EGFP細胞において行い、EGFP遺伝子のノックアウトによりCas9の活性を評価した。iPS-EGFP細胞は、トランスフェクションの17-24時間前に、24 well plateに 5x10
4cells/wellで播種した。StemFect RNA Transfection Reagentをプロトコルに従って使用し、AcrllA4-mRNA(5ng)、Cas9をコードするmRNA(Cas9 mRNA)、及びEGFP遺伝子を標的とするsgRNA
EGFPを、iPS-EGFP細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションから3日後、フローサイトメトリー分析の前に細胞をCytell Cell Imaging System(GE Healthcare Life Sciences)によりキャプチャーした。細胞をPBSで洗浄し、100μL、Accumaxで、37℃、5% CO
2の条件下にて10分間処理した。次いで、200μLのPBSを添加し、剥離した細胞を懸濁した。細胞をフローサイトメーターにより測定した。フローサイトメーターの測定条件は、実験方法、EGFPノックアウトアッセイに記載した。
図5Aは、miRNA応答性AcrllA4 mRNAを用いないコントロール実験の結果、得られた細胞の写真であり、左パネルはAcrllA4の添加なし、右パネルは標的遺伝子に認識されるsgRNA
EGFPの添加なしの結果を示す。
図5Bもコントロール実験の結果、得られた細胞の写真であり、左パネルはAcrllA4を添加、中パネルは不活性化したAcrllA4変異体を添加、右パネルは未処理)の結果である。
図6はドットプロット結果を示し、
図7は、各操作を行った細胞におけるEGFP陰性細胞集団の割合(%)を示す。
図5A、B、
図6、7の結果は、
図2により得られた結果と概ね同様の傾向を示した。
【0062】
次いで、(2)と同様の実験を、iPS-EGFP細胞において行った。スイッチには、miR-302aの相補配列を標的配列として1リピート、または4リピート有するT302a-AcrllA4スイッチまたは4xT302a-AcrllA4スイッチ(いずれも5ng)を用いた。細胞の播種並びにトランスフェクションは、iPS-EGFP細胞へのAcrllA4 mRNAのトランスフェクションと同様にして行った。T302a-AcrllA4スイッチ、4xT302a-AcrllA4スイッチのトランスフェクションでは、いずれもスイッチに加え、H
2O、miR-302 inhibitor、miR-302 inhibitor N.C.を添加した。Cas9の活性はEGFP遺伝子のノックアウトにより評価した。
図5Cは、T302a-AcrllA4スイッチをトランスフェクションした結果、得られた細胞の写真であり、
図5Dは、4xT302a-AcrllA4スイッチをトランスフェクションした結果、得られた細胞の写真である。
図6はドットプロット結果を示し、
図7は、各操作を行った細胞におけるEGFP陰性細胞集団の割合(%)を示す。
図5C、D、
図6、7の結果は、
図3により得られた結果と概ね同様の傾向を示した。
【0063】
(5)miR-AcrllA4スイッチ(10ng)によるmiRNAのセンシングとゲノム編集制御
AcrllA4 mRNAまたはmiR-AcrllA4スイッチの添加量を10ngとした以外は、(4)と同様にして、iPS-EGFP細胞へのトランスフェクションを行った。結果を
図8A~D、
図9、及び
図10に示す。導入するmiR-AcrllA4スイッチの量を変化させても、(4)の実験と同様の結果を示した。
【0064】
この研究では、Cas9レギュレータとしてのmiR-AcrllA4スイッチを構築し、活性が高いmiRNAに応答して標的遺伝子を切断し、または活性化した。mRNAとして送達されるAcrllA4はCas9活性を効率的に抑制したため(
図2A~C)、miRNAによるAcrllA4の制御は細胞状態に応じたゲノムの編集及び活性化のための魅力的な手段となりうる。入力miRNAが存在しない場合、miR-AcrllA4スイッチはAcrllA4を発現してCas9またはdCas9-VPRの活性を効率的に抑制し、OFF状態とした。一方、標的miRNAが存在すると、AcrllA4の発現を抑制し、Cas9または dCas9-VPRの活性を上方制御するON状態を形成した。Hirosawa M, et al.(非特許文献2)に開示された従来のCas9-ONスイッチシステムは、Cas9 mRNAと、Cas9の翻訳を抑制するL7Ae mRNAの二種類のmRNAを用いるものであった。この従来のシステムと比較して、本発明のmiR-AcrllA4スイッチは、OFF状態におけるCas9のリーク発現を減少させた。AcrllA4とCas9の相互作用がCas9活性を効率的にブロックしたと考えられる。一方、従来のL7Aeを用いた制御システムでは、Cas9 mRNAとL7Ae mRNAの二種類のmRNAをコトランスフェクションしたため、Cas9の翻訳を完全にはシャットダウンすることができなかったと考えられる。さらに、入力AcrllA4の量及び安定性を変化させることによるAcrllA4の制御は、ON状態のパフォーマンスを向上させることができた。
【0065】
[実験方法]
[プラスミドの構築]
全ての PCR 反応は、KOD-Plus-Neo(TOYOBO)を用いて実施し、全てのPCR産物は、Min Elute PCR purification kit(QIAGEN)を用いて精製した。ライゲーションには、Ligation high ver.2(TOYOBO)を用いた。全てのプラスミド DNAはE. coli strain DH5α中で増殖し、Jetstar plasmide Midiprep Kit(Genomed)またはQIAGEN plasmide Midi Kit(QIAGEN)を用いて製造者の指示に従い精製した。プライマーとオリゴヌクレオチドの番号は、以下の表1に示す。
【0066】
【0067】
[pUC19-AcrllA4]
AcrllA4の合成は、gBlocks(登録商標)Gene Fragments(IDT)に委託した。このフラグメントは、制限酵素SmaIで消化することによりpUC19ベクターに直接ライゲートした。
【0068】
[pHL-EF1α-AcrllA4-iP-A]
AcrllA4 を含むDNAフラグメントは、pUC19-AcrllA4から、forward primer No.1及びreverse primer No.2を用いてPCRにより増幅した。フラグメントは、pHL-EF1α-SphcCas9-iP-A(堀田秋津博士より提供を受けた)のEcoRIサイトと、SalIサイトの間に挿入し、pHL-EFα-AcrllA4-iP-Aを生成した。
【0069】
[pHL-EF1α-AcrllA4_E70R-iP-A]
pHL-EF1α-AcrllA4_E70R-iP-Aは、pHL-EF1α-AcrllA4-iP-Aから、KOD-Plus-Mutagenesis Kitを用い、製造者(TOYOBO)のプロトコルに従って構築した。変異を導入するために、iPCR forward primer No.3及びiPCR reverse primer No.4を用いた。
【0070】
[pHL-EF1α-miR_AcrllA4-iP-A:miR=T21、T302a、4xT21]
miRNA標的部位を含むそれぞれのDNAフラグメントは、forward primer No.5、 reverse primer No.6、及びoligo DNA template Nos.7、8、9を用いて、PCRにより増幅した。oligo DNA template No.7はT21、oligo DNA template No.8はT302a、oligo DNA template No.9は、4xT21に対応する。
pHL-EF1α-AcrllA4-iP-Aは、forward primer No.10、及びreverse primer No.11を用いて、インバースPCRにより線状化した。得られたインサートおよび線状化したベクターは、In-Fusion(登録商標)HD Cloning Kitを用いて、製造者(Clontech)のプロトコルに従って融合した。
【0071】
[pHL-EF1α-M9_AcrllA4-iP-A 及び pHL-EF1α-T21_M9_AcrllA4-iP-A]
M9を含むDNAフラグメントは、pAptamerCassette-tagBFP-M9(unpublished)から、forward primer No.12及びreverse primer No.13を用いて、PCRにより増幅した。pHL-EF1α-AcrllA4-iP-A及びpHL-EF1α-T21_AcrllA4-iP-Aは、forward primer No.14、及びreverse primer No.15を用いて、インバースPCRにより線状化した。M9 fragmentおよび線状化したベクターは、In-Fusion(登録商標) HD Cloning Kitを用いて、製造者(Clontech)のプロトコルに従って融合した。
【0072】
[pHL-gRNA[EGFP]-mEF1α-mRFP-RiH]
標的遺伝子であるEGFPを含むDNAフラグメントは、forward primer No.16及びreverse primer No.18を用いて、PCRにより増幅した。DNAフラグメントは、pHL-gRNA[DMD]-mEF1α-mRFP-RiH(堀田秋津博士より提供を受けた)のBamHIサイトとEcoRIサイトの間に挿入し、pHL-gRNA[EGFP]-mEF1α-mRFP-RiHを生成した。
【0073】
[pHL-gRNA[TRE]-mEF1α-mRFP-RiH]
標的遺伝子であるTREを含むDNAフラグメントは、forward primer No.17及びreverse primer No.18を用いて、PCRにより増幅した。DNAフラグメントは、pHL-gRNA[EGFP]-mEF1α-mRFP-RiHのBamHIサイトとEcoRIサイトの間に挿入し、pHL-gRNA[TRE]-mEF1α-mRFP-RiHを生成した。
【0074】
[pHL-gRNA[Target]-mEF1α-iRFP670-RiH:Target=TRE及びEGFP]
iRFP670を含むDNAフラグメントは、piRFP670-N1(Addgene, plasmid #45457,Shcherbakova DM,Verkhusha VV.(2013)Near-infrared fluorescent proteins for multicolor in vivo imaging. Nat Methods 10:751-754)から、forward primer No.19及びreverse primer No.20を用いて、PCRにより増幅した。DNAフラグメントは、pHL-gRNA[TRE]-mEF1α-mRFP-RiH 及び pHL-gRNA[EGFP]-mEF1α-mRFP-RiHのEcoRVサイトとAvrIIサイトの間に挿入し、iRFP670をmRFPに置き換えた。
【0075】
[pTRE-Tight-hmAG1]
hmAG1を含むDNAフラグメントは、p5’RTM-hmAG1(deltapA)-ABHD12Bexon13(unpublished)から、forward primer No.21及びreverse primer No.22を用いて、PCRにより増幅した。DNAフラグメントは、pTRE-Tight(Clontech)のEcoRIサイトとEcoRVサイトの間に挿入し、pTRE-Tight-hmAG1を生成した。
【0076】
[PB-TRE_hmAG1]
TRE-AG1含むDNAフラグメントは、pTRE-Tight-hmAG1から、forward primer No.23及びreverse primer No.24を用いて、PCRにより増幅した。PB-TRE-IRES-AG(Nakanishi H, et al.(2017) Monitoring and visualizing microRNA dynamics during live cell differentiation using microRNA-responsive non-viral reporter vectors. Biomaterials 128:121-135.)は、forward primer No.25及びreverse primer No.26を用いて、インバースPCRにより線状化した。得られたDNAフラグメントおよび線状化したベクターは、In-Fusion(登録商標) HD Cloning Kitを用いて、製造者(Clontech)のプロトコルに従って融合した。
【0077】
[インヴィトロトランスフェクション(IVT)のためのDNAテンプレート]
miRNA標的部位を持たない5’-UTR(コントロール5’-UTR)及び3’-UTRは、合成オリゴDNAをハイブリダイズすることにより伸長した。Cas9蛋白質及びAcrllA4蛋白質コード領域は、それぞれ、pHL-EF1α-SphcCas9-iP-A(Addgene, plasmid #60599)及びpHL-EF1α-AcrllA4-iP-Aから、適切なプライマーを用いてPCRにより増幅した。AcrllA4_E70R蛋白質コード領域は、pHL-EF1α-AcrllA4_E70R-iP-Aから増幅した。プラスミドDNAは、DpnIにより除去した。5’-UTR、蛋白質コード領域、及び3’-UTRを融合して、IVTのためのCas9 mRNA及びAcrllA4 mRNAのテンプレートをさらなるPCR反応により構築した。sgRNAテンプレートは、Hirosawa M, et al.(非特許文献2)に記載の方法により構築した。全てのPCR反応は、KOD-Plus-Neo(TOYOBO)を用いて実施し、全てのPCR産物は、Min Elute PCR purification kit(QIAGEN)を用いて精製した。PCR反応のためのプライマーとテンプレートの組み合わせは、以下の表2、3に示す。
【0078】
【0079】
【0080】
[Cas9-mRNA、AcrllA4-mRNA及びsgRNAの合成及び精製]
全てのmRNAは、MEGAscript(商標)T7 Transcription Kit(Ambion)を用いて生成した。長いRNAにより引き起こされるインターフェロン応答を減少するために、天然のウリジン三リン酸及びシチジン三リン酸に代えて、それぞれ、pseudouridine-5’-triphosphate及び5-methylcytidine-5’-triphosphate(TriLink Bio Technologies)を用いた。グアノシン5’三リン酸は、IVT反応の前に、Anti-Reverse Cap Analog(TriLink Bio Technologies)で5倍希釈した。sgRNAは、MEGAshortscript(商標)T7 Transcription Kit(Ambion)を用いて構築した。sgRNAの調整には天然の塩基、例えば、rNTP等を使用した。DNAテンプレートを除去するために、サンプルをTURBO DNase(Ambion)を用いて、37℃で30分処理した。次いで、FavorPrep Blood/Cultured Cells total RNA extraction column(Favorgen Biotech)を用いて生成し、Antarctic Phosphatase(New England Biolabs)で37℃で30分インキュベートし、RNeasy MinElute Cleanup Kit(QIAGEN)を用いて再び精製した。sgRNAは、さらに精製するために電気泳動し、8.3Mのウレアを含む10%ポリアクリルアミドゲルから抽出し、エタノール沈殿した。
【0081】
[mRNA及びsgRNAの配列]
使用したmRNA及びsgRNAの配列の配列は以下表4のとおりである。表4中、オープンリーディングフレームはボールド体で表し、開始コドン及び終始コドンは四角で囲った。mRNA上のmiRNA標的配列並びにsgRNA上の標的遺伝子に認識される配列は、下線を付した。
【0082】
【0083】
[HeLa-TREhmAG1細胞株の生成]
HeLa CCL2 細胞(ATCC)は、24ウェルプレートに播種した(2.5x104 cells/well)。250ngの PB-TRE_hmAG1(配列番号56)及び250ngのpCAG-PBaseは、Lipofectamine(商標)3000トランスフェクション試薬を用い、製造者(ThermoFisher)のプロトコルに従って、細胞にコトランスフェクションした。細胞は6ウェルプレートで継代し、培養し、ピューロマイシン(Invivogen)により選択した。
【0084】
[細胞培養]
HeLa-EGFP細胞は、10% FBS(JBS)を添加したDMEM High glucose(nakalai tesque)で培養した。HeLa-TREhmAG1細胞は、10% FBS(JBS)、0.1mM MEM-non-essential amino acids(Life technologies)、2mM L-glutamine(Life technologies),及び1mMのピルビン酸ナトリウムを添加したDMEM High glucose(nakalai tesque)で培養した。iPS_EGFP(AAVS1-CAG::GFP iPS cells,Woltjen Lab(CiRA, Kyoto University,Japan)はStemFit(Ajinomoto)培地を用いてラミニンコート{laminin-511 E8(iMatrix-511 silk,nippi)}したプレートで培養した。全ての細胞株は、37℃、5% CO2の条件下で培養した。
【0085】
[Cas9活性アッセイ(EGFPノックアウトアッセイ)]
HeLa-EGFP細胞は、24ウェルプレートに播種した(5x104 cells/well)。Cas9 mRNA、sgRNA、AcrllA4 mRNA、ヒト miRNA-21-5p inhibitor/ネガティブコントロール(ThermoFisher, optional)、及びヒトmiRNA-302a-5p mimic/ネガティブコントロール(ThermoFisher,optional)は、Lipofectamine(商標) MessengerMAX(商標)トランスフェクション試薬を用い、 製造者(ThermoFisher)のプロトコルに従って、細胞にトランスフェクションした。フローサイトメトリー分析の前に細胞を、CCDカメラを備えたIX 81 microscope(Olympus)によりキャプチャーした。トランスフェクションの72時間後に、細胞をPBSで洗浄し、100μL、0.25%のトリプシンEDTAで、37℃、5% CO2の条件下にて5分間処理した。次いで、100μLの培地を添加し、剥離した細胞を懸濁した。サンプルはAccuri(商標)C6(BD Bioscience)フローサイトメーターで、FL-1(530/30nm)フィルターを用いて分析した。ヒストグラム(HeLa-EGFP)またはドットプロット(iPS-EGFP)から、EGFP陰性及び陽性細胞集団をゲーティングした。EGFP陰性細胞集団は、Cas9によるEGF遺伝子ノックアウトが成功したものに対応し、EGFP陽性細胞集団は、Cas9によるEGF遺伝子ノックアウトが失敗したものに対応する。
【0086】
[dCas9-VPR活性化アッセイ(hmAG1活性化アッセイ)]
HeLa-TREhmAG1細胞は、24ウェルプレートに播種した(5x104 cells/well)。dCas9-VPR プラスミド、sgRNA プラスミド、AcrllA4プラスミド、ヒトmiR-21-5p inhibitor/ネガティブコントロール(optional)、及びヒトmiR-302a-5p mimic/ネガティブコントロール(optional)はLipofectamine(商標)3000 トランスフェクション試薬を用い、製造者(ThermoFisher)の指示に従って、細胞にトランスフェクションした。フローサイトメトリー分析の前に細胞をCytell Cell Imaging System(GE Healthcare Life Sciences)によりキャプチャーした。トランスフェクションの48時間後に、細胞をPBSで洗浄し、100μL、0.25%のトリプシンEDTAで、37℃、5% CO2の条件下にて5分間処理した。次いで、100μLの培地を添加し、剥離した細胞を懸濁した。サンプルはAccuri(商標)C6フローサイトメーターで、99% attenuationのFL-1(530/30nm)及びFL-4(675/25 nm)フィルターを用いて分析した。トランスフェクトされた細胞を決定するために、iRFP670陽性細胞集団をゲーティングした。次いで、hmAG1陽性及び陰性細胞集団をゲーティングした。hmAG1陽性細胞集団は、dCas9-VPRによるhmAG1遺伝子活性化が成功したものに対応し、hmAG1陰性細胞集団は、dCas9-VPRによるhmAG1遺伝子活性化が失敗したものに対応する。
【0087】
[統計分析]
統計分析には、Student’s t検定及びWelch’s t検定を用いた。有意性のレベルは、以下のように示した。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。 Student’s t検定及びWelch’s t検定は、Excel(Microsoft)を用いて実施した。