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特開2022-112544廃棄ハイドロジェンポリシロキサンの処理方法およびハイドロジェンポリシロキサン処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112544
(43)【公開日】2022-08-03
(54)【発明の名称】廃棄ハイドロジェンポリシロキサンの処理方法およびハイドロジェンポリシロキサン処理装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 23/54 20220101AFI20220727BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
B01F17/54
C08L83/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008365
(22)【出願日】2021-01-22
(71)【出願人】
【識別番号】500004955
【氏名又は名称】旭化成ワッカーシリコーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中田 湧也
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 憲二
【テーマコード(参考)】
4D077
4J002
【Fターム(参考)】
4D077AA03
4D077AA04
4D077AA09
4D077AB06
4D077AB11
4D077AC03
4D077BA13
4D077CA03
4D077CA12
4D077CA13
4D077CA15
4D077DC02Y
4D077DC55Y
4D077DD56Y
4J002CH022
4J002CP041
4J002DE167
4J002EA016
4J002EH028
4J002EH048
4J002EH148
4J002EP018
4J002EV188
4J002EV238
4J002EW118
4J002FD206
4J002FD207
4J002FD312
4J002FD318
4J002GB00
4J002GB01
4J002GC00
4J002GH01
4J002GK02
4J002HA07
(57)【要約】
【課題】本発明は水を含む廃棄ハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素‐水素結合残留量を安全かつ高効率で低減させる方法であって、安価な設備により実現可能な、処理工程における設備への負荷が少ない方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ハイドロジェンポリシロキサンを含有するエマルジョンを製造する工程で発生する、廃棄ハイドロジェンポリシロキサンを 炭素‐炭素二重結合を分子内に1つのみ有する炭化水素化合物のエマルジョンにより処理する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)と下記成分(B)含有乳化物と、を混合して、アルキル変性シリコーン乳化組成物を得る混合工程を含む、ハイドロジェンポリシロキサンを含有するエマルジョンを製造する工程で発生する、廃棄ハイドロジェンポリシロキサンの処理方法であって,
前記成分(A)は
(A) 水と、ケイ素原子に結合した水素原子を、1分子中に1個以上有するオルガノハイドロジェンシロキサンとを含む前記廃棄ハイドロジェンポリシロキサンであり、
前記成分(B)含有乳化物は
(B) 炭素―炭素二重結合を分子内に1つのみ有する炭化水素化合物と、
(C) 水(初期水、希釈水、温度調整水)と、
(D) 白金族触媒と
(E) 乳化剤とを含む、方法。
【請求項2】
前記成分(B)乳化工程は、
前記成分(A)に応じた量の前記成分(B)と、前記成分(E)と、初期水とをせん断作用によって混合してB成分含有初期分散物を形成する第一工程と、
任意で、前記第一工程で得られる混合物にオイル状の前記(D)成分を添加する第二工程と、
任意で、前記第一工程で得られる混合物を希釈するための希釈水を、前記第一工程または前記第二工程で得られる混合物に添加して成分(B)含有乳化物を形成する第三工程と、
任意で、前記第三工程で得られる成分(B)含有乳化物に乳化物である前記(D)成分を添加する第四工程と、を有し、
前記混合工程は、
前記成分(B)含有乳化物に前記成分(A)を配合する第五工程と、
任意で、温度調整水を、前記第五工程で得られる混合物に添加する第六工程と、
任意で、前記第五工程または前記第六工程で得られる混合物に前記成分(D)を添加する第七工程と、を有し、
前記成分(D)は、前記第二工程、前記第三工程、または前記第五工程の少なくともいずれか一工程で添加され、
前記第一工程と、前記第三工程と、前記第六工程で添加される水の合計量は、前記成分(A)中のケイ素-水素結合含有量と、任意に設定される目標反応温度に応じた量である、請求項2に記載の方法。
【請求項3】
前記第一工程と、前記第三工程と、前記第六工程で添加される水の合計量は、下記数式(1)で示される、請求項3に記載の方法。
【数1】
【請求項4】
前記第一工程における剪断力の大きさ、前記第一工程における前記成分(E)の配合量、前記第三工程における水の添加量、または、前記第一工程もしくは前記第二工程の終了時から、前記第三工程開始時までの時間の、少なくともいずれか1つを調整することにより、前記混合工程の所要時間を調整する、請求項3または請求項4に記載の方法。
【請求項5】
前記混合工程は、前記成分(B)含有乳化物を含む混合物の温度(混合物温度)を測定する第八工程をさらに含み、前記混合物温度が前記目標反応温度よりも高い場合には、前記第六工程を実施し、前記第八工程と前記第六工程とを、前記混合物温度が前記目標反応温度に到達するまで繰り返す、請求項3ないし請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記(E)成分は、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、または表面に疎水化された部分とシラノール基とを有するシリカ粒子の少なくともいずれか1つである、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記成分(A)が液晶状態である場合に、前記混合工程において多価アルコールを添加する工程をさらに含む、請求項2ないし請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記成分(B)は、二重結合を有する不飽和炭化水素である、請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記成分(B)は、末端に二重結合を有するαオレフィンである、請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記成分(B)は、炭素原子を10~14個有するαオレフィンである、請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記成分(B)に含まれるオレフィンの量は、前記成分(A)のケイ素‐水素結合残留量を0%~0.001%とするために必要となる量である、請求項1ないし請求項11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
水と、ケイ素原子に結合した水素原子を、1分子中に1個以上有するオルガノハイドロジェンシロキサンとを含む成分(a)を、炭素‐炭素二重結合を分子内に1つ有する化合物を含む成分(b)により処理するための装置であって、
前記成分(a)を貯留する成分(a)貯槽と、
前記成分(a)導出流量調整機構と、
前記成分(b)含有乳化物を製造する成分(b)含有乳化物製造装置と、
前記成分(b)流量調整機構と、
前記成分(a)と、前記成分(b)含有乳化物を受け入れる反応槽と、
前記反応槽に水を導入するための、流量調整機構を備える水ラインと、
前記反応槽の内部温度を測定する温度測定手段と、
前記温度測定手段により測定された温度に基づいて前記成分(a)、前記成分(b)含有乳化物、または水の少なくともいずれか1つの前記反応槽への導入量を制御する制御手段と、
前記反応槽内に貯留される生成物中のSiH残量を検知する検知手段とを備える、
ハイドロジェンポリシロキサン処理装置。
【請求項13】
前記成分(b)含有乳化物製造装置は、
少なくとも前記成分(b)と前記成分(e)とを受け入れる受入槽と、
前記受入槽から導出される混合物に初期水を導入する、流量調整機構を備える初期水導入ラインと、
前記受入槽から導出される混合物と前記初期水との混合物をせんだん力により混合する第一乳化器および第二乳化機と、
前記成分(b)含有初期分散体を前記成分(b)含有初期分散体貯槽から導出する、成分(b)含有初期分散体導出ラインと、
前記成分(b)含有初期分散体導出ライン上に接続される、1つ以上の、流量調整機構を備える水分添加ラインと、
を備える、請求項12に記載の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(以下、単にハイドロジェンポリシロキサンともいう)を含有するエマルジョンを製造する工程で発生する、廃棄ハイドロジェンポリシロキサンの処理方法およびハイドロジェンポリシロキサン処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロジェンポリシロキサンは、触媒存在下で、脂肪族不飽和結合を有する有機不飽和化合物との付加反応により種々の有機基が導入されたオルガノポリシロキサンを製造する工程に多く使用されている。得られたオルガノポリシロキサンは塗料、成形材料、医療用材料、各種コーティング材料、化粧料、パーソナルケア組成物、ホームケア組成物、離型剤、繊維処理剤等の分野で広く利用されている。
【0003】
ハイドロジェンポリシロキサンは、そのままのオイルの状態や、任意の溶媒などで希釈された状態だけでなく、近年では作業環境の安全性や環境負荷低減の観点から水系のエマルジョン状で使用されることが増えている。
【0004】
ハイドロジェンポリシロキサンは、水、またはアミノ基など、活性水素を持つ物質と触れ合うことで、分子間で脱水素し、水素ガスを放出する。水素ガスは引火・爆発の危険性があり、取り扱いに注意しなければならない。エマルジョン状のハイドロジェンポリシロキサンは活性水素源である水と共存下にあり、加水分解反応により時間とともに水素ガスを放出するため、貯蔵や取り扱いの面で安全性が求められている。その安全性は製品だけでなく、製造工程で発生する廃棄物にも同様に求められている。
【0005】
ハイドロジェンポリシロキサンのエマルジョン製造工程や、そのエマルジョンを使用するオルガノポリシロキサン製造工程等においては、プレカット、ポストカット、装置内の洗浄等の理由により、ハイドロジェンポリシロキサンの廃エマルジョンが発生する。こうした廃エマルジョンは一定の量となるまで貯留された後に、焼却設備へと運搬され、焼却処理により廃棄されることが通常である。
【0006】
しかし、貯留中の廃エマルジョンからは徐々に水素ガスが発生し、貯蔵容器が破裂したり、水素ガスに引火したりする危険性があった。
容器の破裂を防止するためにガス抜きキャップを取り付けるといった対処がされているが、容器から放出される水素ガスに引火する危険性がある。また、容器内に貯留するハイドロジェンポリシロキサン量を少なくして、容器内圧の上昇を抑制することも考えられるが、貯蔵量に対して容器体積が大きくなり、広大な保管場所が必要になるという問題がある。
そのため、水素発生の恐れがなく安定に貯留可能なオイル状または溶媒希釈のハイドロジェンポリシロキサンと異なり、ハイドロジェンポリシロキサン乳化物を廃棄処理までの間、安全に貯留することは困難であった。
【0007】
経時での水素発生を抑制するための対策として、活性水素源とハイドロジェンポリシロキサンを物理的に引き離すことが考えられる。
しかし、例えば水を含んだハイドロジェンポリシロキサンの場合、混合物から完全に水を除去することは難しい。
熱などの外部エネルギーを与える事による水の除去方法は、水素ガスの発生を促進、そして水素ガスへの引火の恐れもあり、安全面で懸念がある。
経時での水素発生を抑制する他の手段として、ハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素‐水素結合残留量を低減させる方法が考えられる。例えば、特許文献1はエチレンガスをハイドロジェンポリシロキサン中に吹き込む方法を開示する。しかし、この方法は気液界面での反応になるので反応効率を上昇させることが困難で、ハイドロジェンポリシロキサン中の水素残量を十分に低くすることができない。また圧力・温度管理が可能な高度な設備等が必要となる。
【0008】
また、触媒存在下における、ハイドロジェンポリシロキサンと、脂肪族不飽和結合を有する有機不飽和化合物との付加反応は発熱反応である為、付加反応熱による系の温度上昇に注意する必要があり、特殊な反応器等を必要とする場合もある。
【0009】
特許文献2は、両末端にアルケニル基を有するアルケニルシロキサンのエマルジョンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンのエマルジョンを混合して、シリコーンオイル乳化物を得る方法を開示する。この方法では、ハイドロジェンポリシロキサンの有する水素-ケイ素結合と、アルケニルシロキサンの有するケイ素原子に結合したビニル基が1:1の割合で架橋反応し、結果としてハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素‐水素結合残留量が低減することとなる。
この方法は、系に外部エネルギー(熱、圧力など)を与えない点で安全ではある。しかし、上述の通り(水素-ケイ素結合) : (ビニル基)=1:1の反応であるので、ハイドロジェンポリシロキサンに含まれる官能基の数(水素-ケイ素結合)が多いほど、対応させるアルケニルシロキサンも同様に多く必要になり、廃棄量が増えるという問題点がある。またシリコーン自体が高価である事、また1分子に複数のSi-Hを有するシロキサンの場合には、立体障害により反応率が不十分になるといった問題がある。したがって、この方法であっても安全なレベルにまでハイドロジェンポリシロキサン中の水素残量を減らすことは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001-114895号公報
【特許文献2】特開2020-12076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、廃棄されるハイドロジェンポリシロキサン中の水素残量が十分に低くなる処理方法が望まれていた。
本発明は上記事項を鑑みなされたもので、水を含む廃棄ハイドロジェンポリシロキサン中の水素残量を安全かつ高効率で低減させる方法であって、安価な設備により実現可能な、処理工程における設備への負荷が少ない方法を提供することを目的とする。ここで「安全」とは過度な発熱反応を起こさないことを、「高効率」とはハイドロジェンポリシロキサンに対し過剰量の化学物質を用いることなく(例えば、理論値量の化学物質を用いることで)水素残量が十分低くなること、「安価な設備」とは高温や高圧に対応する設備や、気密性の高い設備が不要であること、「設備への負荷が少ない」とは設備内の配管やバルブ等の部材に閉塞が生じにくいことをいう。
本発明はまた、水を含むハイドロジェンポリシロキサン中の水素残量を安全かつ安価な設備で、十分に低減させる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記目的を達成する為に鋭意検討した結果、炭素-炭素二重結合を分子内に1つ有する化合物の乳化物(以下、エマルジョンともいう)を用いることで、安価かつ安全なプロセスで、安全な範囲までSi-H量を低減できることを見出した。
また、バッチ式と連続式を組み合わせたハイブリッド装置によれば、一定の所要時間がかかるハイドロジェンポリシロキサン中の水素残量を低下させる工程を含んでいても、効率よく処理が可能であることを見出した。
【0013】
本発明に係る廃棄ハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素-水素結合残留量(水素残量ともいう)を低減させる方法は、
下記成分(A)と下記成分(B)含有乳化物と、を混合して、アルキル変性シリコーン乳化組成物を得る混合工程を含む、ハイドロジェンポリシロキサンを含有するエマルジョンを製造する工程で発生する、廃棄ハイドロジェンポリシロキサンの処理方法であって、
前記成分(A)は、
(A) 水と、ケイ素原子に結合した水素原子を、1分子中に1個以上有するオルガノハイドロジェンシロキサンとを含む前記廃棄ハイドロジェンポリシロキサンであり、
前記成分(B)含有乳化物は
(B) 炭素-炭素二重結合を分子内に1つのみ有する炭化水素化合物と、
(C) 水と、
(D) 白金族触媒と
(E) 乳化剤とを含む、方法。
ここで、成分(C)である水は、成分(B)を乳化するための水であり、乳化の初期段階で添加される水(以下、初期水ともいう)、成分(B)と初期水との混合物を希釈するために添加される水(以下、希釈水ともいう)、および成分(B)と初期水、希釈水を含む混合物の温度を調整するために添加される水(以下、温度調整水ともいう)を含む。
【0014】
ハイドロジェンポリシロキサンを含有するエマルジョンを製造する工程では、プレカット、ポストカット、装置内の洗浄等により、ハイドロジェンポリシロキサンと水を含む廃棄物(すなわち、廃棄ハイドロジェンポリシロキサン)が発生する。この廃棄ハイドロジェンポリシロキサンは通常、エマルジョンまたは液晶状態である。
廃棄ハイドロジェンポリシロキサン中に含まれるハイドロジェンポリシロキサンは、廃棄ハイドロジェンポリシロキサン中に含まれる水と徐々に反応し、水素ガスを発生する。
そこで本発明では、廃棄ハイドロジェンポリシロキサンと、炭素-炭素二重結合を分子内に1つのみ有する化合物(B)とを反応させることにより、廃棄ハイドロジェンポリシロキサン分子内のケイ素-水素結合の残量を低減させ、水素ガスの発生を抑制する。
【0015】
成分(B)がオイル状であると、エマルジョンである成分(A)と均一に混合させることができず、相分離する。結果として、反応効率が低下する。そこで本発明では、乳化剤である成分(E)と、成分(B)を乳化するための水である成分(C)の水とを、成分(B)と混合、乳化し、エマルジョンとする。エマルジョンの状態とした成分(B)は、同じくエマルジョンである成分(A)と均一に混合させることができるため、成分(A)に含まれるケイ素-水素結合の残量を高い効率で低減させることができる。
【0016】
分子内に1つのみの炭素‐炭素二重結合を有する成分(B)は、2以上の炭素‐炭素二重結合を有する場合と比較して、成分(A)との付加反応の際の立体障害が少ない。このため、より高い効率で成分(A)に含まれるケイ素-水素結合の残量を低減させることができる。
さらに、分子内に炭素-炭素二重結合が1つのみである場合には架橋反応を起こさないため、ゲル状または固形状の生成物が発生しない。したがって、処理設備での配管の閉塞等の設備への負荷が少なく、メンテナンスも容易である。
【0017】
なお、白金族触媒である成分(E)は、成分(A)と成分(B)の付加反応に必要な触媒である。この反応は常温、常圧下で実施され、高温高圧の条件は不要であるため、安全性が高く、簡易的な設備で実施可能である。
【0018】
本発明はまた、
水と、ケイ素原子に結合した水素原子を、1分子中に1個以上有するオルガノハイドロジェンシロキサンとを含む成分(a)を、炭素-炭素二重結合を分子内に1つのみ有する化合物を含む成分(b)により処理するための装置であって、
前記成分(a)を貯留する成分(a)貯槽と、
前記成分(a)導出流量調整機構と、
前記成分(b)含有乳化物を製造する成分(b)含有乳化物製造装置と、
前記成分(b)流量調整機構と、
前記成分(a)と、前記成分(b)含有乳化物を受け入れる反応槽と、
前記反応槽に水を導入するための、流量調整機構を備える水ラインと、
前記反応槽の内部温度を測定する温度測定手段と、
前記温度測定手段により測定された温度に基づいて前記成分(a)、前記成分(b)含有乳化物、または水の少なくともいずれか1つの前記反応槽への導入量を制御する制御手段と、
前記反応槽内に貯留される生成物中のSiH残量を検知する検知手段(不図示)とを備える、
ハイドロジェンポリシロキサン処理装置である。
【0019】
水とハイドロジェンポリシロキサンを含む成分(a)と、炭素-炭素二重結合を分子内に1つのみ有する化合物を含む成分(b)を付加反応させて処理するためには、きわめて簡単な設備を用いることができる。例えば、開口部を有する容器に、成分(a)と成分(b)とを手作業により導入することによっても処理可能である。しかし、処理量の増加や、人員削減や、処理工数削減の要請等の背景によっては、ある程度の自動化が必要となる。ところが、特に成分(a)と成分(b)との反応に時間がかかる場合には、連続的に両成分を投入するような全自動化は困難であるし、設備が大掛かりになってしまう。
そこで本発明は、処理の一部を連続的に実施したのちに、付加反応の終点検出と生成物の排出を、バッチプロセスで実施することで、簡易な装置でありながら効率よく処理を行う処理装置を提供する。
【0020】
本発明の処理装置では、成分(a)と、成分(b)は、それぞれ所定の流量で反応槽に導入される。反応槽には、所定の流量で水を導入することが可能である。成分(a)、成分(b)、水の流量は、反応槽内の温度に応じて調整される。これにより、急激な温度変化を抑制しつつ、自動で成分(a)、成分(b)を反応槽に投入しながら処理を行うことが可能となる。この自動工程は、所定量の成分(a)、成分(b)を反応槽に投入したところで終了する。
【0021】
反応槽はさらに成分(a)中のケイ素-水素結合残量を検知する手段を備える。これにより、成分(a)中のケイ素‐水素結合残量が十分に低減されたことを示す、成分(b)による付加反応の終点の検出が可能となる。反応の終点が検出された後には、反応槽から反応生成物が排出される。この終点検出と、反応生成物の排出はバッチ工程である。
【0022】
このように自動工程とバッチ工程とを組み合わせ可能な処理装置とすることで、常温・常圧下で、密閉性の低い装置でも処理を行うことが可能となる。したがって、高温に対応する耐熱部材や、高気密性を有する装置、圧力調整装置等は使用する必要がなく、安価で簡易的な処理装置により処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の、ハイドロジェンポリシロキサン処理装置の構成例を示す図である。
図2】本発明の、成分(b)含有乳化物製造装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明に係る、廃棄ハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素-水素結合残留量を低減させる方法およびハイドロジェンポリシロキサン処理装置の詳細を説明する。
【0025】
本発明に係る廃棄ハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素-水素結合残留量を低減させる方法は、
下記成分(A)と下記成分(B)含有乳化物と、を混合して、アルキル変性シリコーン乳化組成物を得る混合工程を含む、ハイドロジェンポリシロキサンを含有するエマルジョンを製造する工程で発生する、廃棄ハイドロジェンポリシロキサンの処理方法であって、
前記成分(A)は、
(A) 水と、ケイ素原子に結合した水素原子を、1分子中に1個以上有するオルガノハイドロジェンシロキサンとを含む前記廃棄ハイドロジェンポリシロキサンであり、
前記成分(B)含有乳化物は
(B) 炭素―炭素二重結合を分子内に1つのみ有する炭化水素化合物と、
(C) 水と、
(D) 白金族触媒と
(E) 乳化剤とを含む、方法である。
【0026】
(成分(A)について)
成分(A)は水と、ケイ素原子に結合した水素原子を、1分子中に1個以上有するオルガノハイドロジェンシロキサンとを含む廃棄ハイドロジェンポリシロキサンである。廃棄ハイドロジェンポリシロキサンは、ハイドロジェンポリシロキサンを含有するエマルジョンを製造する工程で発生する。
ケイ素原子に結合した水素原子を、1分子中に1個以上有する廃棄オルガノハイドロジェンシロキサンは、下記一般式(1)で表される。

R1 aSiO(4-a)/2 ・・・(1)

(式(1)中、R1は分子中で同一であっても異なっていてもよく、置換もしくは非置換の炭素数1~25の飽和一価炭化水素基、置換もしくは非置換の炭素数6~30の芳香族基、水酸基、炭素数1~6のアルコキシ基、または水素原子から選択される基である。aは1~3である。)
【0027】
上記のR1は、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、炭化水素基中の水素原子の一部または全部がハロゲン原子、シアノ基等によって置換されたクロロメチル基、2-ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-クロロプロピル基、クロロフェニル基、ジブロモフェニル基、テトラクロロフェニル基、ジフルオロフェニル基、β-シアノエチル基、γ-シアノプロピル基、β-シアノプロピル基等の置換炭化水素基等、メトキシ基、エトキシ基、プロピル基等のアルコキシ基、水酸基、水素が挙げられる。特に好ましくはメチル基である。
【0028】
上記のオルガノハイドロジェンシロキサンは、当業者に公知の方法で製造され、具体的には、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサンコポリマー、メチルフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサンコポリマー、などが例示される。これらは、単独であっても、複数の種類を混合したものであってもよい。オルガノハイドロジェンシロキサンの構造は、特に限定されないが、環状や、直鎖状、あるいは一部分岐した直鎖状であってもよい。オルガノハイドロジェンポリシロキサンに含まれる、水素原子は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子鎖の末端のケイ素原子にのみ結合していてもよく、分子鎖の末端、あるいは、分子鎖非末端のケイ素原子に結合してもよい。オルガノハイドロジェンポリシロキサン1分子当たりの水素原子数は特に限定されない。なお、オルガノハイドロジェンポリシロキサンについて、以下、単にハイドロジェンポリシロキサンとも称する。
【0029】
ハイドロジェンポリシロキサンを含有するエマルジョンを製造する工程とは、オイル状のハイドロジェンポリシロキサンから、乳化物であるハイドロジェンポリシロキサンのエマルジョンを製造する工程である。製造方法は特に限定されず、液晶乳化、機械乳化、転相乳化、転相温度乳化、D相乳化などの既知の方法であってもよい。得られる乳化物は、水中油型が好ましい。
【0030】
液晶乳化法は、界面活性剤が形成する液晶中に分散相(O/Wエマルジョンでは油相)を分散・保持させる微細な乳化粒子を生成させる技術である。
機械乳化法は、物理的対流を利用して行う乳化法で、ホモジナイザーや撹拌機を用いて行う。撹拌機は物質を勢いよく混ぜ合わせることで物理的な対流を起こし混ぜ合わせ、ホモジナイザーは超音波や高圧を利用して、物理的な対流を起こすことによって物質同士を混ぜ合わせる方法である。
転相乳化法は、油相中に界面活性剤を溶解し、その後、水相を添加しながら攪拌し、連続相を油相から水相へ反転させることにより、O/Wエマルジョンを生成する方法である。
転相温度乳化法は、ノニオン界面活性剤、油、水の3成分系において、ある温度において、ノニオン界面活性剤が無限に会合し、多量の油と水とを含んだ巨視的な相として分離し、さらに温度を上げると、ノニオン界面活性剤が油相中に溶解することで、逆ミセルを形成し、水が可溶化することから、この転相温度を利用して乳化する方法である。
D相乳化法は、界面活性剤、油、水に多価アルコールを第4成分として加え、微細なO/Wエマルジョンを生成する方法である。
【0031】
ハイドロジェンポリシロキサンを含有するエマルジョンを製造する工程で発生する、廃棄ハイドロジェンポリシロキサンとは、製造工程におけるプレカットやポストカットで廃棄されるものや、装置内の洗浄等の理由により洗い流されるもの、検査用に製造工程から抜き取られたもの等が含まれる。廃棄ハイドロジェンポリシロキサンの形態は、その発生工程や、発生後の保管状態によって異なる。エマルジョン状態、液晶状態、微量の水を含むオイル状態、あるいは油相と水相に相分離した状態等の形態がある。いずれの場合であっても、ハイドロジェンポリシロキサンと水とが共存する状態であるため、加水分解反応により徐々に水素ガスが発生する。
【0032】
成分(A)が液晶状態である場合に、成分(A)に多価アルコールを添加することができる。多価アルコールとしては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングルコール、グリセリン、1,3-ブタンジオール、D-ソルビトールなどが挙げられる。多価アルコールを添加することにより、界面活性剤の凝集力を緩和させ、流動性を得ることができる。固液共存の場合、均一性に劣り、成分(B)と混合して処理する際に処理ムラができ、ケイ素-水素結合部が残存する可能性がある。流動性(すべてが液状)がある場合、均一性に優れるため、処理ムラが起きにくい。
【0033】
これらの廃棄ハイドロジェンポリシロキサンは、発生後速やかに、または一定量貯留したのちに、水素ガスの発生が抑制される状態として保管する必要がある。水素ガスの発生が抑制される状態とは、すなわちハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素-水素結合残留量が少ない状態をいう。例えば0.001質量%以下であって、より好ましくは0.0001質量%以下である。0.001質量%以上のケイ素‐水素結合が残留する場合、短期間で水素ガスが多く発生することがあり、安全性が低下する。
【0034】
保管容器内圧上昇対策の為に、保管する容器の容量と、容器内に封入されるハイドロジェンポリシロキサンの量を限定する場合、ケイ素-水素結合残留量の許容量は上記の限りではない。
例えば、200L非耐圧容器内に廃棄ハイドロジェンポリシロキサン(a)が容器容量の30%まで封入されている場合は、ケイ素‐水素結合残留量上限値は0.02質量%が好ましく、容器容量の80%まで封入されている場合であれば0.001質量%以下が好ましい。シャルルの法則より、圧力一定の時、体積は温度に比例するので、保管する際の温度が高い場合には、上限値をさらに低くすることが好ましい。
廃棄ハイドロジェンポリシロキサンの質量部と、ケイ素-水素結合残留量(質量%)が分かれば、発生しうる水素の体積を、数式(2)によって推算することができる。
【数2】
保管後には、ケイ素-水素結合残留量が低下したハイドロジェンポリシロキサンは、他のポリシロキサン含有廃棄物と同様に廃棄物処理業者へ運搬され、処理される。
【0035】
成分(A)に含まれるハイドロジェンポリシロキサンの濃度は、特に限定されず、例えば成分(A)がエマルジョン状の場合、例えば、5 ~ 70質量%であり、好ましくは10 ~ 60質量%である。
【0036】
成分(A)に含まれる水分の濃度は、特に限定されず、例えば成分(A)がエマルジョン状の場合、例えば、30~95質量%程度であり、好ましくは40~90質量%である。
【0037】
成分(A)は、ハイドロジェンポリシロキサンと水以外の成分を含んでいてもよく、必要に応じて、他の任意成分(例えば、界面活性剤、安定剤、防腐剤である)が添加されていてもよい。
【0038】
(成分(B)について)
炭素-炭素二重結合を分子内に1つのみ有する炭化水素化合物は、アルケンまたはシクロアルケン、もしくはそれらの混合物であってもよい。好ましくはアルケンである。
【0039】
成分(B)が炭素-炭素二重結合を分子内に1つのみ有する不飽和炭化水素である場合、入手が容易であるという点で好適である。
【0040】
成分(B)が末端に二重結合を有するαオレフィンであれば、さらに好適である。なぜなら、反応時の立体障害が少なく、反応性が高い。ゆえに好ましくは直鎖型である。
【0041】
成分(B)が炭化水素である場合の炭素数は特に限定されず、例えば2以上20以下であってもよく、炭素数が小さいほど、反応性に富むという理由により好適である。炭素数が10以上14以下であれば、取り扱い(引火点、ハンドリング等)の理由により、さらにより好適である。本発明における( b ) 成分は、炭素数が10~14のα - オレフィンである。この炭素数が10~ 14のα - オレフィンは、直鎖状でも分岐状でも良く、好ましくは直鎖状である。具体的には1 - デセン、1 - ドデセン、1 - テトラデセン、が挙げられる。
【0042】
成分(B)の量は、成分(A)中のケイ素‐水素結合残留量に応じて添加する必要がある。
具体的には、成分(B)の量は、アルカリ滴定法で検出される成分(A)のケイ素‐水素結合残留量を0%以上0.001%以下とするために必要となる量である。反応効率を考慮すると、成分(A)全体に含まれるケイ素原子に結合した水素原子1 個あたり、( B ) 成分中のアルケニル基が1.0~2.0個となる量とすることが好ましい。
なお、成分(B)含有乳化物は、以下の成分(C)~(E)とともに乳化物としたのちに成分(A)と混合される。一般に乳化物は時間の経過とともに不安定化して、分離、沈降などの減少を起こす。このため、成分(B)は、乳化後は速やかに使用することがより好ましい。乳化後の経過時間は、成分(B)~(E)の特性、濃度等に応じて、例えば1日~10日とすることが好ましい。
【0043】
成分(C)は、特に限定されないが、イオン交換水を用いることが好ましい。イオン交換水のpHは、好ましくはpH3~10、特に好ましくはpH5~8である。鉱水を用いることは推奨されないが、用いる時は金属不活性化剤等と合わせて用いることが好ましい。
【0044】
成分(C)である水は、その役割に応じて、初期水と、希釈水と、温度調整水とに分けることができる。成分(B)の乳化の際に添加する水を初期水、成分(B)乳化物を希釈する際に添加する水を希釈水、成分(B)と成分(A)との反応により発生する熱により反応系の温度が上昇する場合において、反応系の温度を一定以下に維持する媒体としての水を、ここでは温度調整水と呼称する。
【0045】
成分(B)の乳化に使用する、初期水および希釈水も、系の温度コントロールとしての機能を有する。よって、反応系の温度を一定以下に維持するために必要な温度調整水の量は、成分(B)の乳化に必要な初期水と希釈水の量を、数式(3)から導出される総量から引いた量である。
【0046】
反応系の温度を維持するために必要な温度調整水の量は、成分(B)または成分(A)の物質量(g/mol)と、温度上昇上限値(任意の温度)に応じて、下記数式(3)およびパラメータを用いて求めることができる。
【数3】

cwater :水の比熱 (kJ/kg)
ΔT :
(℃)
ΔrH :付加反応熱(kJ/mol)
c :比熱(kJ/kg・℃)
w :質量(kg)
:水以外の成分の熱容量の総和(kJ/kg)
【0047】
例えば、成分(B)としてn-オクテンの乳化物(50%固形分量)を10質量部、成分(A)として、旭化成ワッカーシリコーン社製 CROSSLINKER V 72 JPを7質量部(40%固形分量)、許容される温度上昇幅を25℃より、20℃(上限温度45℃)とした場合、必要となる成分(C)の量は、水、n-オクテン、シリコーンの比熱をそれぞれ4.18 [kJ/kg・℃]、2.18[kJ/kg・℃]、1.51[kJ/kg・℃]、付加反応熱を168 kJ/mol、として計算する。反応物質量=水素含有量であり、CROSSLINKER V 72 JP7質量部(40%固形分量)中の水素含有量は20.22molなので、
【数4】
と、成分(C)の必要最低限量は計算で導かれる。
【0048】
つまり上記数式4の結果を例にすると、反応系の温度を維持・管理するために必要な成分(C)の総量は、25.7質量部であるが、成分(B)の乳化に5質量部使用している為、追加で混合系に添加すべき成分(C)の量は、20.7質量部である。
【0049】
(成分(D)について)
成分Dは成分(A)と成分(B)を反応させるための触媒であり、白金族触媒であれば特に限定されず、公知の付加反応触媒が使用できる。例えば白金系、パラジウム系、ロジウム系、ルテニウム系等の触媒が挙げられ、これらの中で特に白金系触媒が好ましく用いられる。この白金系触媒としては、例えば塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液又はアルデヒド溶液、塩化白金酸の各種オレフィン又はビニルシロキサンとの錯体等が挙げられる。これら白金族金属系触媒の添加量は触媒量であるが、白金系金属量として1~50 ppm の範囲とすればよく、3~20 ppm とすることがより好ましい。分散状態は特に限定されず、有機溶媒分散や、高分子化合物との混合、またそれらを乳化したエマルジョン状であってもよい。
【0050】
(成分(E)について)
成分(E)は、成分(B)を乳化する乳化剤である。乳化剤の種類は、成分(B)を乳化し得るものであれば特に限定されず、例えばアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤等のイオン性界面活性剤であってもよく、非イオン性界面活性剤であってもよい。アミンを含む化合物は前記の白金族触媒の働きを阻害する恐れがあるため、ノニオン系界面活性剤、及びアニオン系界面活性剤の使用がより好ましい。
例えば、ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル; ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル; ポリオキシエチレンアルキルエステル; ポリオキシエチレンソルビタンエステル; グリセリンエステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の多価アルコール脂肪酸エステル; エトキシ化脂肪酸; エトキシ化脂肪酸アミドなどが挙げられ、中でもポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルが好ましい。使用する非イオン性界面活性剤のH L B ( 親水基・親油基バランス) の合計は8~17の範囲内にあることが好ましく、特に10 ~16の範囲内であることがより好ましい。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムや、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸アルキロールアミドの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸エステル塩、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、N-アシルタウリン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、モノアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホコハク酸塩、脂肪酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、N-アシルアミノ酸塩、モノアルキルリン酸エステル塩、ジアルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0051】
(E)成分の配合量は、(B)成分を100質量部とした場合、1~10質量部である。1質量部未満では分散が困難であり、10質量部を超えると、組成物の粘度が高くなり取り扱い性が悪くなる。より好ましくは3~6質量部である。
【0052】
成分(E)は、成分(B)と水との界面に配向し、分散状態をつくる無機粒子であってもよい。特に表面に疎水化された部分とシラノール基とを有するシリカ粒子であれば、油相、水相のどちらとも適度の親和性を有するため、油相/水相界面に配置し、水相を連続相とした水中油型エマルジョンを与えることができる。
【0053】
上記シリカ粒子は、表面に疎水化された部分とシラノール基とを有し、エマルジョン水相中の成分(A)オルガノポリシロキサン油滴の油相/水相界面に配置することができるものである。このようなシリカ粒子は、その表面には、親水基であるシラノール基と疎水化処理されたシラノール基が所定の割合内で存在することにより、該粒子の親水性と疎水性のバランスがコントロールされ、成分(A)のオルガノポリシロキサンで構成される油相/水相界面に配置して、従来の有機系界面活性剤が有するような乳化機能を発揮する。
【0054】
前記シリカ粒子は、合成法によって製造される二酸化ケイ素の粒子であって、珪藻土や結晶石英のような鉱物系のシリカは含まれない。合成法によって製造される二酸化ケイ素として、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、溶融シリカ等の乾式法による微紛、湿式法による沈降シリカまたはコロイダルシリカをあげることができる。これらは当業者には公知のものである。これらの中では、焼成シリカ、沈降性シリカあるいはコロイダルシリカを用いることが好ましい。シリカ粒子は、表面のシラノール基が残留した親水性シリカであっても、表面のシラノール基をシリル化した疎水性シリカであってもよい。疎水性シリカは、親水性シリカを、メチルトリクロロシランのようなハロゲン化有機ケイ素やジメチルジアルコキシシランのようなアルコキシシラン類、シラザン、低分子量のメチルポリシロキサンで処理する公知の方法によって製造することができる。
【0055】
前記シリカ粒子は、表面に疎水化された部分とシラノール基とを有するシリカを用いると、シリカ粒子の表面張力が界面活性に必要な領域に設定されるため、通常の界面活性剤が存在しなくても油滴の油相/水相界面に配置して安定化させることができる。シリル化前のシラノール基に対するシリル化後に残留するシラノールの率は50~95%の範囲内が好ましい。シラノールの残留率が50%未満または95%を超えると、油相/水相界面での界面活性剤に相当する機能を発揮できない。シリル化、あるいはシラノールの残留率は、元素分析による炭素含有量の測定、またはシリカ表面の反応性シラノール基の残量の測定により決定できる。調製のために用いるシリカ粒子は、表面全体がシリル化された粒子または、表面全体がシリル化されていない粒子を含んでいても構わない。ただし、全体としてのシリル化の率が上記の範囲内にあり、かつ必要な乳化の機能を発現出来れば使用することができる。
【0056】
成分(E)として好適に使用される、疎水化された部分とシラノール基とを有するシリカ粒子の炭素含有量は、界面活性剤として機能するという目的が達せられるものであれば限定されないが、0.1~10%の範囲内が好ましい。0.1%未満でも10%を超えても安定的な乳化物を得ることができない。より好ましくは0.1~10%の範囲内である。
【0057】
成分(A)~成分(E)を混合する、廃棄ハイドロジェンポリシロキサンの処理方法は、
成分(B)に、成分(E)および初期水、希釈水を配合し、成分(B)含有乳化物を得るB乳化工程と、
前記成分(B)含有乳化物と、乳化状態の前記成分(A)を混合して、アルキル変性シリコーン乳化組成物を得る混合工程とを含む。
【0058】
成分(B)乳化工程は、オイル状の成分(B)を乳化物とする工程であり、製造方法は特に限定されず、機械乳化、転相乳化、D相乳化、転相温度乳化、ゲル乳化、液晶乳化などの既知の方法であってもよい。特に水中油型であれば好適である。
【0059】
成分(B)乳化工程は、成分(B)の乳化物(エマルジョンともいう)が得られれば、既知の方法で実施することができる。例えば、ホモジナイザー、コロイドミル、ホモミキサ―、高速ステーターローター攪拌装置等を用いて、成分を混合、乳化する方法を採用することができる。具体的に、成分(B)、(E)に対して初期水を添加し攪拌して、油中水型とした後、更に希釈水を添加し水中油型とすれば、成分(B)の分散が容易となり、エマルジョンの安定性が向上する。また、粒子径の制御(小粒子径化)の為には、以下の工程を設けることが好ましい。
成分(B)乳化工程は、成分(A)に応じた量の成分(B)と、成分(E)と、所定量の水(初期水)とをせん断作用によって混合してB成分含有初期分散物を形成する第一工程と、
任意で、第一工程で得られる混合物にオイル状の成分(D)を添加する第二工程と、
任意で、希釈水を第一工程または第二工程で得られる混合物に添加して成分(B)含有乳化物を形成する第三工程と、
任意で、第三工程で得られる成分(B)含有乳化物に乳化物である成分(D)を添加する第四工程と、を有することができる。
【0060】
第一工程は、成分(B)の乳化工程の一部である。成分(E)の界面活性剤と初期水との混合系へ、油相である成分(B)を添加し、撹拌装置、例えば、ホモジナイザー、コロイドミル、ホモミキサ―、高速ステーターローター攪拌装置等を用いて、油中水型の分散系を作製する。この第一工程を経ることにより、粒子径の小径化が望める。成分(E)の配合量は、(B)成分を100質量部とした場合、3~6質量部が好ましい。
初期水は、この共存相を作製するのに必要十分な量である必要があり、成分(E)の乳化剤の量によって決まる。乳化剤100重量部に対して、1~100重量部、好ましくは40~70重量部となるように添加する。
添加順序は、乳化剤3~15部に初期水を0.5~3部入れ、次いでそこに油相を添加することが好ましい。
【0061】
第二工程は、成分(B)の乳化工程の際に、任意で成分(D)を添加し、同時に乳化する工程である。
成分(D)がオイル状である場合にこの工程は好適である。成分(B)と一緒に乳化することで、水への分散が容易となる。エマルジョン状など、すでに乳化されていて、水への分散が容易である場合には、この工程は省略可能である。成分(D)の添加量は、白金が1~100 ppmとなる量、好ましくは2~20 ppmである。
【0062】
第三工程は、成分(B)の乳化工程の一部であり、第一工程および第二工程で得られた混合物に希釈水を添加し、水へ分散、希釈する工程である。第三工程において添加する希釈水は、分散媒としての水(連続相となる水)である。添加量は任意の量を設定することができ、得ようとする乳化物の固形分に応じて量を調節することができる。例えば、得られた混合物100質量部に対して、0~10000質量部としてもよい。好ましくは50~150質量部である。
【0063】
第四工程は、成分(B)を含有する乳化物に、任意で成分(D)を添加する工程である。成分(D)がエマルジョン状などの水溶性である場合にこの工程を実施してもよく、また、第二工程で成分(D)を添加している場合、この工程を省略してもよい。
【0064】
混合工程は、成分(B)含有乳化物と、乳化状態の成分(A)を混合して、アルキル変性シリコーン乳化組成物を得る工程であり、
成分(B)含有乳化物に成分(A)を配合する第五工程と、
任意で、温度調整水を、第五工程で得られる混合物に添加する第六工程と、
任意で、第五工程または第六工程で得られる混合物に成分(D)を添加する第七工程と、を有することができる。
【0065】
混合工程は、乳化粒子中で付加反応が起きることでアルキル変性シリコーン乳化物を得るプロセスである。ゆえに、混合工程で得られるアルキル変性シリコーン乳化組成物は、成分(A)と成分(B)の付加反応物の乳化物を含む組成物である。
【0066】
第五工程は、成分(A)と成分(B)を混合し、付加反応物を得る工程の一部である。添加順序は問わない。混合する際の容器材質は一般的に使用されている材質であれば特に限定されなく、プラスチック、金属などが使用できる。特にPTFEが好ましい。
【0067】
第六工程は、成分(A)と成分(B)を混合する際に発生する反応熱を抑える目的で、任意で水を添加する工程である。本工程で適用可能な物質は、反応熱を抑える(吸収できる)物質であれば特に指定は無いが、高い比熱容量であること、分散媒が水である事、廃棄を目的としている事などをふまえると、水は最も好適である。適用する水の温度は常温以下、好ましくは4~20℃であればなお良い。
反応熱を考慮しない場合、この工程は省略することができる。
【0068】
第七工程は、成分(A)と成分(B)を混合成分(B)の混合物に、任意で成分(D)を添加する工程である。成分(D)がエマルジョン状などの水溶性である場合にこの工程を実施してもよく、また、第二工程または第四工程で成分(D)を添加している場合、この工程を省略してもよい。
【0069】
白金族成分(D)は、第二工程、第四工程、または第七工程の少なくともいずれか一工程で添加される。
成分(D)は、成分(A)と成分(B)の付加反応を促進する触媒としての機能を有し、どの工程で添加しても触媒としての機能は変わらない為、添加工程はいずれでもよい。
【0070】
第一工程と、第三工程と、第六工程で添加される水の合計量は、成分(A)中のケイ素-水素結合含有量と、任意に設定される目標反応温度に応じた量とすることができる。任意に設定される目標反応温度とは、工程の安全性、設備の耐熱性等を考慮して定められる温度であり、例えば0℃以上80℃以下であればなお良い。0℃以下である場合には、水の融点以下となり、工程不具合を起こすことが予想され、また、80℃以上であると、取り扱いに支障が出る。より好ましくは10℃以上60℃以下である。
【0071】
第一工程と、前記第三工程と、前記第六工程で添加される水の合計量は下記の手順にて導出することができる。導出過程は記載の方法の限りではない。
反応熱がすべて、系の温度変化に使われると仮定すると、下記数式(5)が成り立つ。
【数5】
【0072】
ここでは反応物質量は成分(A)のケイ素‐水素結合残留量と同値である。反応後の目標温度を設定し、必要な水の添加量を求める数式(6)は上記数式(5)より導くことができる。
【数6】

cwater:水の比熱
ΔT :
ΔrH :付加反応熱
c : 比熱
w : 質量
: 各成分(水以外)の熱容量の総和

パラメータは付加反応熱ΔrH: [kJ/mol]、成分(B)の比熱colefine [kJ/kg・℃]、シリコーンオイルの比熱csilicone[kJ/kg・℃]、水の比熱cwater [kJ/kg・℃]、成分(A)の重量[kg]、成分(B)の重量[kg]、成分(A)のケイ素‐水素結合残留量[mol]である。
【0073】
第一工程における水の添加量(初期水)を調整することにより、前記混合工程の所要時間を調整してもよい。
ここで、混合工程の所要時間とは、成分(A)と成分(B)を混合してから、水素濃度が所定値以下になるまでの時間である。所定値以下とは、安全性を考慮すると、0.001%以下とすることが好ましい。
【0074】
所要時間は、反応速度に依存する。反応速度をコントロール(調整)するには、成分(A)と成分(B)の接触面積を増やせばよい。つまり、乳化粒子径を小さくすることで、比表面積を増やすことができ、接触面積が増
【0075】
乳化粒子径は乳化時のせんだん力の大きさで調整してもよいが、不十分なせんだん力により作成されたエマルジョンは、安定性が悪くなる傾向にあるため、水(初期水)の量で調整することが好ましい。
【0076】
混合工程は、前記成分(B)含有乳化物を含む混合物の温度(混合物温度)を測定する第八工程をさらに含むことができる。第一工程と、第三工程と、第六工程で添加される水の合計量は上記数式6で記載した、計算式を使用しない場合に、温度測定により成分(C)の添加量を制御し、温度制御することができる。
例えば、第八工程で検出された温度が目標温度よりも高い場合には、第六工程を再度実施する。第八工程と第六工程とを、混合物温度が前記目標反応温度に到達するまで繰り返してもよい。繰り返し行うことで、系の温度制御をし、工程の安全化が達成できる。繰り返しの終点は目標温度を下回り、温度降下が起き始めた点とする。
【0077】
上記の廃棄ハイドロジェンポリシロキサンの処理方法により生成するアルキル変性シリコーン乳化組成物は、廃棄してもよいが、離型剤、消泡剤、カーポリッシュ、繊維処理剤、または帯電防止剤として利用することも可能である。
【0078】
次に、水と、ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に1個以上有するオルガノハイドロジェンシロキサンとを含む成分(a)を、炭素‐炭素二重結合を分子内に1つのみ有する化合物を含む成分(b)により処理するための装置について、説明する。
以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0079】
図1に示す本発明のハイドロジェンポリシロキサン処理装置1は、
水と、ケイ素原子に結合した水素原子を、1分子中に1個以上有するオルガノハイドロジェンシロキサンとを含む成分(a)を、炭素‐炭素二重結合を分子内に1つのみ有する化合物を含む成分(b)により処理するための装置であって、
前記成分(a)を貯留する成分(a)貯槽110と、
前記成分(a)導出流量調整機構111と、
前記成分(b)含有乳化物を製造する成分(b)含有乳化物製造装置200と、
前記成分(b)流量調整機構121と、
前記成分(a)と、前記成分(b)含有乳化物を受け入れる反応槽140と、
前記反応槽140に水を導入するための、水流量調整機構132を備える水ライン131と、
前記反応槽140の内部温度を測定する温度測定手段150と、
前記温度測定手段150により測定された温度に基づいて前記成分(a)、前記成分(b)含有乳化物、または水の少なくともいずれか1つの前記反応槽への導入量を制御する制御手段160と、
前記反応槽内に貯留される生成物中のSiH残量を検知する検知手段170(不図示)とを備える、
ハイドロジェンポリシロキサン処理装置である。
【0080】
成分(a)は、上記成分(A)と同等の組成であり、水とハイドロジェンポリシロキサンを含む混合物であればよく、必ずしも廃棄ハイドロジェンポリシロキサンでなくてもよい。ケイ素原子に結合した水素原子を、1分子中に1個以上有するオルガノハイドロジェンシロキサンは、下記一般式(1)で表される。
R1 aSiO(4-a)/2・・・(1)
(式(1)中、R1は分子中で同一であっても異なっていてもよく、置換もしくは非置換の炭素数1~25の飽和一価炭化水素基、置換もしくは非置換の炭素数6~30の芳香族基、水酸基、炭素数1~6のアルコキシ基、または水素原子から選択される基である。aは1~3である。)
成分(a)は、エマルジョン状態であっても液晶状態であってもよく、ハイドロジェンポリシロキサンと水とが分離した状態であってもよい。
成分(a)は、予め調整された組成物であってもよく、ハイドロジェンポリシロキサンを含有するエマルジョンを製造する工程において排出された廃棄物を、廃棄物容器に集めた状態の物であってもよい。
【0081】
成分(a)貯槽110は、水と、ケイ素原子に結合した水素原子を、1分子中に1個以上有するオルガノハイドロジェンシロキサンとを含む成分(a)を貯留することができる容器であればよく、密閉可能な容器であってもよいが、解放状態の貯槽であってもよい。
【0082】
流量調整機構111は、成分(a)の流量を調整可能な手段であれば特に限定されず、手動開閉弁であってもよく、流量計と開度調整可能な弁との組み合わせであってもよく、あらかじめ定めた流量に自動で流量を制御する流量制御弁であってもよい。例えば流量は0.01m/h以上1m/h以下とすることができる。
【0083】
成分(b)は上記成分(B)と同等である。流量調整機構121は、成分(b)の流量を調整可能な手段であれば特に限定されず、手動開閉弁であってもよく、流量計と開度調整可能な弁との組み合わせであってもよく、あらかじめ定めた流量に自動で流量を制御する流量制御弁であってもよい。例えば流量は0.01m/h以上1m/h以下とすることができる。
【0084】
成分(c)は上記の成分(C)と同等である。成分(c)を、反応槽140へと導出するための成分(c)導出ライン131は、成分(c)の流量を調整するための流量調整機構132を備える。流量調整機構132は、成分(c)の流量を調整可能な手段であれば特に限定されず、手動開閉弁であってもよく、流量計と開度調整可能な弁との組み合わせであってもよく、あらかじめ定めた流量に自動で流量を制御する流量制御弁であってもよい。例えば流量は0.01m/h以上1m/h以下とすることができる。
【0085】
成分(a)、成分(b)含有乳化物および成分(c)を、各導出ラインより受ける反応槽140は、温度測定手段150およびSiH残量を検知する検知手段170とを備えることができる。なお、検知手段170は、反応槽140とは独立した外部(例えば、ハイドロジェンポリシロキサン処理装置とは別室に設置された分析装置)に設けることもできる。この場合は、検知手段170に供するサンプルを反応槽140内から抜き取ることとなる。また、温度測定手段150で測定した結果を、制御装置160に伝達、測定結果に基づいて各成分流量調節機構(111、121、132)を制御するフィードバック制御機構を備える。反応槽140内部の温度が任意に設定された目標温度よりも高いまたは低い場合にこのフィードバック制御は適用され、任意の設定した温度での運転が可能である。
例えば、目標温度よりも反応槽内の温度が高い時、流量調節機構111および121において、流量を減少させ、流量調節機構132において、成分(c)の流量を増加させる。温度測定手段150で測定し、目標反応温度以下となるまでこの制御は継続される。
【0086】
図2に示す成分(b)含有乳化物製造装置200は、成分(b)受入槽210および、第一乳化機211および第二乳化機212を備える。また、成分(c)導出ラインを2つ備え、それぞれ、所定量の水の導出ライン221と乳化物希釈水導出ライン222を備える。それぞれの導出ライン上には流量制御機構231および232を備える。流量調整機構231および232は、成分(c)の流量を調整可能な手段であれば特に限定されず、手動開閉弁であってもよく、流量計と開度調整可能な弁との組み合わせであってもよく、あらかじめ定めた流量に自動で流量を制御する流量制御弁であってもよい。
また、成分(a)の量に応じた量の成分(b)乳化物が供給できれば、成分(b)含有乳化物製造装置200は単一で稼働して、成分(b)含有乳化物貯槽120に作り溜めしてもよく、または反応槽140の稼働と連動していてもよい。
第一乳化機211および第二乳化機212はそれぞれ役割が異なり、第一乳化機211は乳化、第二乳化機212は分散媒(水)への希釈補助の役割を担う。第一乳化機211および第二乳化機212は同時に稼働し、単一で稼働することはない。
【実施例0087】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。また、下記実施例において、表中の物性は、下記の試験方法により測定されたものである。
【0088】
<成分(B)の乳化>
(乳化実施例1)
成分(E)として、東邦化学工業株式会社製のアルスコープLS-25B(ラウリル硫酸アンモニウム 22%)を8重量部、成分(C)として、所定量の水4.2部に、成分(B)として、出光興産株式会社製のリニアレン12(1-ドデセン>95%、比重が20℃において0.759である)を50重量部とを混合し、初期分散体を得る。
そこへ成分(D)として、Wacker Chemie AG社製のWacker(登録商標) Catalyst OL (ポリオルガノシロキサンに白金錯体が分散した混合物)を0.05重量部いれ、IKA社製 ULTRA-TURRAX(登録商標)T50ベーシックシャフトジェネレーターG45Mを用い、2000 rpmで攪拌・混合する。均一に混ぜたのち、水37.8重量部を段階的に添加し、乳化物を得る。
【0089】
(乳化実施例2)
成分(E)として、東邦化学工業株式会社製のアルスコープLS-25B(ラウリル硫酸アンモニウム 22%)を8重量部、成分(C)として、所定量の水21部に、成分(B)として、出光興産株式会社製のリニアレン12(1-ドデセン>95%、比重が20℃において0.759である)を50重量部とを混合し、初期分散体を得る。
そこへ成分(D)として、Wacker Chemie AG社製のWacker(登録商標) Catalyst OL (ポリオルガノシロキサンに白金錯体が分散した混合物)を0.05重量部いれ、IKA社製 ULTRA-TURRAX(登録商標)T50ベーシックシャフトジェネレーターG45Mを用い、2000 rpmで攪拌・混合する。均一に混ぜたのち、水21重量部を段階的に添加し、乳化物を得る。
【0090】
(乳化実施例3)
成分(E)として、東邦化学工業株式会社製のアルスコープLS-25B(ラウリル硫酸アンモニウム 22%)を8重量部、成分(C)として、所定量の水42部に、成分(B)として、出光興産株式会社製のリニアレン12(1-ドデセン>95%、比重が20℃において0.759である)を50重量部とを混合し、初期分散体を得る。
そこへ成分(D)として、Wacker Chemie AG社製のWacker(登録商標) Catalyst OL (ポリオルガノシロキサンに白金錯体が分散した混合物)を0.05重量部いれ、IKA社製 ULTRA-TURRAX(登録商標)T50ベーシックシャフトジェネレーターG45Mを用い、2000 rpmで攪拌・混合する。均一に混ぜたのち、水21重量部を段階的に添加し、乳化物を得る。
【0091】
(乳化実施例4)
成分(E)として、Wacker Chemie AG社製のシリカ粒子を5重量部、成分(C)として、水44.95部を入れ、IKA社製 ULTRA-TURRAX(登録商標)T50ベーシックシャフトジェネレーターG45Mを用い、2000 rpmで攪拌・混合し、シリカ分散液を得る。
そこへ成分(B)として、出光興産株式会社製のリニアレン12(1-ドデセン>95%、比重が20℃において0.759である)を50重量部、成分(D)として、Wacker Chemie AG社製のWacker(登録商標) Catalyst OL (ポリオルガノシロキサンに白金錯体が分散した混合物)を0.05重量部いれ、IKA社製 ULTRA-TURRAX(登録商標)T50ベーシックシャフトジェネレーターG45Mを用い、2000 rpmで攪拌・混合し、乳化物を得る。
【0092】
<混合工程>
混合工程での目標上限温度は60℃とした。反応開始時の温度は25℃である。
【0093】
(実施例1)
成分(A)として、旭化成ワッカーシリコーン社製 Wacker(登録商標) CROSSLINKER V 72 JP 10重量部、成分(B)の乳化物として、乳化実施例1で作製したリニアレン12の乳化物を11.1重量部、成分(C)として、水を20重量部添加し、手撹拌で10分間混合する。
この成分(C)の量は、下記計算結果より設定した。
【数7】
よって、成分(C)20重量部は、目標反応温度以下となるのに十分な量である。
以下実施例2~6、比較例1~3も同様に、目標反応温度以下となるのに十分な成分(C)の量を添加している。
【0094】
(実施例2)
成分(A)として、旭化成ワッカーシリコーン社製 Wacker(登録商標) CROSSLINKER V 72 JP 10重量部、成分(B)の乳化物として、乳化実施例1で作製したリニアレン12の乳化物を22.2重量部、水を20重量部添加し、手撹拌で10分間混合する。
【0095】
(実施例3)
成分(A)として、旭化成ワッカーシリコーン社製 Wacker(登録商標) CROSSLINKER V 72 JP 10重量部、成分(B)の乳化物として、乳化実施例2で作製したリニアレン12の乳化物を11.1重量部、水を20重量部添加し、手撹拌で10分間混合する。
【0096】
(実施例4)
成分(A)として、旭化成ワッカーシリコーン社製 Wacker(登録商標) CROSSLINKER V 72 JP 10重量部、成分(B)の乳化物として、乳化実施例3で作製したリニアレン12の乳化物を11.1重量部、水を20重量部添加し、手撹拌で10分間混合する。
【0097】
(実施例5)
成分(A)として、旭化成ワッカーシリコーン社製 Wacker(登録商標) CROSSLINKER V 72 JP 10質量部、成分(B)の乳化物として、乳化実施例4で作製したリニアレン12の乳化物を11.1質量部、水を20質量部添加し、手撹拌で10分間混合する。
【0098】
(実施例6)
成分(A)として、旭化成ワッカーシリコーン社製 Wacker(登録商標) CROSSLINKER V 72 JP の製造過程で生成される、水素シロキサン含有廃棄物(固体)を10質量部、添加剤として、東邦社製 PEG400を2質量部、成分(B)の乳化物として、乳化実施例1で作製したリニアレン12の乳化物を29.1質量部、水を20質量部添加し、手撹拌で10分間混合する。
【比較例】
【0099】
(比較例1)
成分(A)として、旭化成ワッカーシリコーン社製 Wacker(登録商標) CROSSLINKER V 72 JP 10質量部、成分(B)としてリニアレン12を5.5質量部、水を25質量部添加し、手撹拌で10分間混合する。
【0100】
(比較例2)
成分(A)として、旭化成ワッカーシリコーン社製 Wacker(登録商標) CROSSLINKER V 72 JP 10質量部、成分(B)の乳化物として、乳化実施例1で作製したリニアレン12の乳化物を3.3質量部、水を20質量部添加し、手撹拌で10分間混合する。
【0101】
(比較例3)
成分(A)として、旭化成ワッカーシリコーン社製 Wacker(登録商標) CROSSLINKER V 72 JP 10質量部、成分(B)の乳化物として、乳化実施例1で作製したリニアレン12の乳化物を5.5質量部、水を20質量部添加し、手撹拌で10分間混合する。
【0102】
<ケイ素‐水素結合残留量の測定>
成分(A)と成分(B)の混合物中のケイ素‐水素結合残留量は、アルカリ滴定法により測定した。双又フラスコの片側に、測定対象物質を0.1~15質量部、溶媒として関東化学社製エタノール(95) 特級を5質量部、もう一方に同じく関東化学社製エタノール(95) 特級を5質量部、関東化学社製水酸化ナトリウム2質量部を入れた双又フラスコを、水で満たされたガラス管へつないだのち、溶液を混合することで加水分解反応を開始、発生した気体の体積をガラス管の水位より決定し、ケイ素‐水素結合残留量を下記式により算出する。
【数8】
【0103】
上記 P はエタノールの蒸気圧であり、Antoine式(logP = A-(B/(C+T))より算出される。
ここで、A=8.21337、B=1652.05、C=231.48、T=室温[℃]である。

例として、室温が18~26℃の場合のエタノール蒸気圧Pの計算結果を下記表1に示す。
【表1】
【0104】
<ケイ素‐水素結合残留量評価基準>
ケイ素‐水素結合残留量が0.001%以下である場合、ケイ素‐水素結合残留量は有効に減少していると判断した。
【0105】
<粒子径測定(中位径D50の測定)>
粒子径測定は、スペクトリス株式会社製Mastersizer3000を用いて測定し、D50を測定試料の粒子径として採用した。結果は表2、表3に示すとおりである。
【0106】
【表2】
【表3】
【0107】
実施例1および実施例2は、組成物全体中のケイ素原子に結合した水素原子1 個あたりの( B ) 成分のリニアレン12の乳化物中のアルケニル基がそれぞれ、1.0個、2.0個となる量を添加した例である。
【0108】
実施例1および実施例2は、混合後90日後に、ケイ素‐水素結合残留量残存率は0.0001%以下であり、ケイ素‐水素結合残留量は有効に減少していた。得られた組成物は、下記一般式(5)で表される。
R1 aSiO(4-a)/2・・・(5)
(式(5)中、R1は分子中で同一であっても異なっていてもよく、置換もしくは非置換の炭素数1~25の飽和一価炭化水素基、置換もしくは非置換の炭素数6~30の芳香族基、水酸基、炭素数1~6のアルコキシ基から選択される基である。aは1~3である。)
【0109】
実施例3および実施例4は、組成物全体中のケイ素原子に結合した水素原子1 個あたりの( B ) 成分のリニアレン12乳化物中のアルケニル基がそれぞれ1.0個となる量を添加した例である。
【0110】
実施例3および実施例4は、混合後90日後に、ケイ素‐水素結合残留量残存率は0.0001%以下であり、ケイ素‐水素結合残留量は有効に減少していた。得られた組成物は、下記一般式(5)で表される。
R1 aSiO(4-a)/2・・・(5)
(式(5)中、R1は分子中で同一であっても異なっていてもよく、置換もしくは非置換の炭素数1~25の飽和一価炭化水素基、置換もしくは非置換の炭素数6~30の芳香族基、水酸基、炭素数1~6のアルコキシ基から選択される基である。aは1~3である。)
【0111】
また、実施例1、実施例3、および実施例4は、成分(B)としてそれぞれ乳化実施例1、2、3で作製した物を添加した。粒子径が小さいほど単位時間当たりのケイ素‐水素結合残留量の減少割合が大きかった。つまり、粒子径が小さいほど、反応速度が速いことが示唆された。
【0112】
実施例5は、組成物全体中のケイ素原子に結合した水素原子1 個あたりの成分( B )のリニアレン12乳化物中のアルケニル基が1.0個となる量を添加した例であり、成分( B )の乳化にシリカ粒子を用いた例である。
【0113】
実施例5は、混合後90日後に、ケイ素‐水素結合残留量残存率は0.0001質量%以下であり、ケイ素‐水素結合残留量は有効に減少していた。得られた組成物は、一般式(5)で表される。
【0114】
実施例6は、組成物全体中のケイ素原子に結合した水素原子1 個あたりの成分( B )のリニアレン12乳化物中のアルケニル基が1.0個となる量を添加した例であり、添加剤として多価アルコールを添加した例である。
【0115】
実施例6は、混合後90日後に、ケイ素‐水素結合残留量残存率は0.0001質量%以下であり、ケイ素‐水素結合残留量は有効に減少していた。得られた組成物は、一般式(5)で表される。
【0116】
比較例1は、成分(B)としてリニアレン12を乳化せずに使用した。
【0117】
比較例1は混合後90日後に、ケイ素‐水素結合残留量残存率は0.17質量%であり、ケイ素‐水素結合残留量は許容値まで減少していなかった。
【0118】
比較例2は、組成物全体中のケイ素原子に結合した水素原子1 個あたりの( B ) 成分のリニアレン12乳化物中のアルケニル基が0.3個となる量を添加した例である。
【0119】
比較例2は混合後90日後に、ケイ素‐水素結合残留量残存率は0.11質量%であり、ケイ素‐水素結合残留量は許容値まで減少していなかった。
【0120】
比較例3は、組成物全体中のケイ素原子に結合した水素原子1 個あたりの( B ) 成分のリニアレン12乳化物中のアルケニル基が0.5個となる量を添加した例である。
【0121】
比較例3は混合後90日後に、ケイ素‐水素結合残留量残存率は0.04質量%であり、ケイ素‐水素結合残留量は許容値まで減少していなかった。
【符号の説明】
【0122】
1. ハイドロジェンポリシロキサン処理装置
110. 成分(a)貯槽
121. 成分(b)流量調整機構
131. 水ライン
132. 水流量調整機構
140. 反応槽
150. 温度測定手段
160. 制御手段
200. 成分(b)含有乳化物製造装置
210. 受入槽
211. 第一乳化器
212. 第二乳化器
図1
図2