(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112557
(43)【公開日】2022-08-03
(54)【発明の名称】3相電流検出部の故障検出装置および故障検出方法
(51)【国際特許分類】
H02P 29/024 20160101AFI20220727BHJP
【FI】
H02P29/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008381
(22)【出願日】2021-01-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】米山 嵩人
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501CC04
5H501DD04
5H501GG05
5H501HB07
5H501LL01
5H501LL22
5H501LL54
5H501MM09
(57)【要約】
【課題】モータ回転時の3相電流検出ゲインずれ時の故障検出精度を向上させる。
【解決手段】インバータによって駆動される3相交流モータに流れる電流を制御する電流制御系において、前記モータに流れる3相電流を検出する電流センサ101と、検出された3相電流の各相の電流差分を演算する減算器102と、前記電流差分のいずれかがゼロとなったタイミングでゼロクロストリガ信号を出力するゼロクロス検出部103と、前記モータの回転数を回転数センサ104で検出した回転数検出値ωから演算した、電流検出のゲインずれがない場合のゼロクロストリガ信号間の時間間隔に相当する基準値Trefと、設定した余裕時間ΔTと、前記出力されたゼロクロストリガ信号間の時間間隔Tdetとに基づいて、Tdet<Tref-ΔT、又はTdet>Tref+ΔTであるときに電流検出のゲインずれが発生していると判定する異常判定部105と、を備えた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータによって駆動される3相交流モータに流れる電流を制御する電流制御系において、
前記3相交流モータに流れる3相電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部により検出された3相電流の各相の電流差分を演算する電流差分演算部と、
前記電流差分演算部により演算された電流差分のいずれかがゼロとなったタイミングでゼロクロストリガ信号を出力するゼロクロス検出部と、
前記3相交流モータの回転数を検出した回転数検出値又はモータの回転数指令値から演算した、電流検出のゲインずれがない場合のゼロクロストリガ信号間の時間間隔に相当する基準値Trefと、設定した余裕時間ΔTと、前記ゼロクロス検出部により出力されたゼロクロストリガ信号間の時間間隔Tdetとに基づいて、Tdet<Tref-ΔT、又はTdet>Tref+ΔTであるときに電流検出のゲインずれが発生していると判定する異常判定部と、
を備えたことを特徴とする3相電流検出部の故障検出装置。
【請求項2】
前記電流検出部は、3相のうち、いずれか2相の電流を各々検出する2つの電流センサと、残りの1相の電流を前記2つの電流センサの検出電流から計算して求める機能とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の3相電流検出部の故障検出装置。
【請求項3】
インバータによって駆動される3相交流モータに流れる電流を制御する電流制御系において、
電流検出部が、前記3相交流モータに流れる3相電流を検出するステップと、
電流差分演算部が、前記電流検出部により検出された3相電流の各相の電流差分を演算するステップと、
ゼロクロス検出部が、前記電流差分演算部により演算された電流差分のいずれかがゼロとなったタイミングでゼロクロストリガ信号を出力するステップと、
異常判定部が、前記3相交流モータの回転数を検出した回転数検出値又はモータの回転数指令値から、電流検出のゲインずれがない場合のゼロクロストリガ信号間の時間間隔に相当する基準値Trefを演算するステップと、
異常判定部が、前記演算した基準値Trefと、設定した余裕時間ΔTと、前記ゼロクロス検出部により出力されたゼロクロストリガ信号間の時間間隔Tdetとに基づいて、Tdet<Tref-ΔT、又はTdet>Tref+ΔTであるときに電流検出のゲインずれが発生していると判定するステップと、
を備えたことを特徴とする3相電流検出部の故障検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータによって駆動される3相交流モータ、例えば車載用モータ制御の3相電流検出部の故障検出に関する。
【背景技術】
【0002】
3相交流モータをインバータによってドライブする従来の構成例を
図2に示す。
図2は特許文献1の
図1に記載されたモータ制御装置であり、モータの電流制御用として3相電流を検出し、モータの回転数制御用として回転数ωを検出し、インバータ内のスイッチング素子のオン、オフ動作によってモータに流れる電流を制御することによって、モータの回転数やトルクを制御している。
【0003】
図2において、50はモータ制御装置であり、インバータ50aと制御部50bとを有している。モータ制御装置50の直流側には蓄電池51が接続され、交流側にはモータ52(例えば、PMモータ(Permenent Magnet Motor))が接続されている。
【0004】
また、インバータ50aの直流母線には直流電圧検出値を検出する直流電圧検出センサ53、インバータ50aの交流母線のU相、V相、W相には交流電流検出値(Iu,Iv,Iw)を検出する交流電流検出センサ54a,54b,54c、モータ52にはモータ52の回転数検出値(ω)を検出する磁極位置センサ55(例えばレゾルバ)が設けられている。
【0005】
制御部50bは、装置外部から回転数指令値、直流電圧検出センサ53から直流電圧検出値、交流電流検出センサ54a,54b,54cから交流電流検出値、磁極位置センサ55から回転数検出値を各々入力する。
【0006】
制御部50bは、これら回転数指令値と各種センサ(直流電圧検出センサ53と交流電流検出センサ54a,54b,54cと磁極位置センサ55)からの検出値に基づいたベクトル制御によって所望の電圧指令値を図示しないゲート駆動回路に出力している。
【0007】
ゲート駆動回路では、入力した電圧指令値に基づいたゲート信号をインバータ50aに出力してスイッチング素子(例えばIGBT)をオン、オフ制御する。
【0008】
そして、モータ制御装置50は、スイッチング素子を有するインバータ50aにより、蓄電池51の直流電圧を所望の交流電圧に変換しモータ52に出力することでモータ制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2018-174655号公報
【特許文献2】特開2013-055796号公報
【特許文献3】特開2011-050214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図2のような3相交流モータの電流制御部(50b)において、電流検出器の異常による3相電流検出値の実電流との乖離を見抜く(検出する)ために、従来、3相電流の総和値を監視し故障の検出を行う故障検出方法が実施されていた。
【0011】
この故障検出方法は、3相電流の総和値が0から乖離する時間が一定時間継続したら故障であると検出するものであるが、1相(例えばU相)の検出ゲインのみがずれている場合、3相電流Iu,Iv,Iwと総和値の電流波形を示す
図3のように、故障相(U相電流Iu)のゼロクロス付近では3相電流検出の総和値(図示「I総和」)が0に近くなってしまうため、「総和値が0からの乖離を一定時間継続で故障検出」とするゼロクロス付近で時間がリセットされ故障検出が不可能となる。
【0012】
そのため、この故障検出方法でゲインのずれを見抜くためには累積時間での故障検出を行う必要があり、電流リプルで誤検出しないために閾値を上げる必要があり精度が低下する、累積時間での検出のため故障発生から検出まで時間がかかってしまう、等の問題があった。
【0013】
また、3相電流値でなく電流実効値によって電流値の乖離を検出している場合、前記累積時間により故障検出を行う手段においても電流自体の異常は検出が可能である。ただし、制御等のためには3相電流検出値が必要であり、その検出値に異常が生じていないかを確認する必要があった。
【0014】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、モータ回転時の3相電流検出ゲインずれ時の故障検出の精度を向上させた3相電流検出部の故障検出装置および故障検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための請求項1に記載の3相電流検出部の故障検出装置は、
インバータによって駆動される3相交流モータに流れる電流を制御する電流制御系において、
前記3相交流モータに流れる3相電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部により検出された3相電流の各相の電流差分を演算する電流差分演算部と、
前記電流差分演算部により演算された電流差分のいずれかがゼロとなったタイミングでゼロクロストリガ信号を出力するゼロクロス検出部と、
前記3相交流モータの回転数を検出した回転数検出値又はモータの回転数指令値から演算した、電流検出のゲインずれがない場合のゼロクロストリガ信号間の時間間隔に相当する基準値Trefと、設定した余裕時間ΔTと、前記ゼロクロス検出部により出力されたゼロクロストリガ信号間の時間間隔Tdetとに基づいて、Tdet<Tref-ΔT、又はTdet>Tref+ΔTであるときに電流検出のゲインずれが発生していると判定する異常判定部と、
を備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の3相電流検出部の故障検出装置は、請求項1において、
前記電流検出部は、3相のうち、いずれか2相の電流を各々検出する2つの電流センサと、残りの1相の電流を前記2つの電流センサの検出電流から計算して求める機能とを備えていることを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の3相電流検出部の故障検出方法は、
インバータによって駆動される3相交流モータに流れる電流を制御する電流制御系において、
電流検出部が、前記3相交流モータに流れる3相電流を検出するステップと、
電流差分演算部が、前記電流検出部により検出された3相電流の各相の電流差分を演算するステップと、
ゼロクロス検出部が、前記電流差分演算部により演算された電流差分のいずれかがゼロとなったタイミングでゼロクロストリガ信号を出力するステップと、
異常判定部が、前記3相交流モータの回転数を検出した回転数検出値又はモータの回転数指令値から、電流検出のゲインずれがない場合のゼロクロストリガ信号間の時間間隔に相当する基準値Trefを演算するステップと、
異常判定部が、前記演算した基準値Trefと、設定した余裕時間ΔTと、前記ゼロクロス検出部により出力されたゼロクロストリガ信号間の時間間隔Tdetとに基づいて、Tdet<Tref-ΔT、又はTdet>Tref+ΔTであるときに電流検出のゲインずれが発生していると判定するステップと、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
(1)請求項1~3に記載の発明によれば、3相電流検出のゲインずれによる3相電流のアンバランスを検出することができ、モータ回転時の3相電流検出ゲインずれ時の故障検出の精度が向上する。
【0019】
また、電流差分のいずれかがゼロとなったタイミングを利用して、電流検出のゲインずれ発生を判定しているので、ゼロクロスタイミングでの検出電流のノイズ、リプルによる誤検出に強い。
(2)請求項2に記載の発明によれば、電流センサが3相中2相のみ設けられる場合でも電流検出のゲインずれ発生を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態例による故障検出装置のブロック図。
【
図2】従来のインバータによるモータドライブ構成の一例を示す構成図。
【
図3】従来の3相電流の総和値を監視して故障検出を行う方法における電流波形図。
【
図4】本発明の実施形態例を説明するための3相電流のゲインずれがないときの電流波形図。
【
図5】本発明の実施形態例を説明するためのU相電流のゲインずれがあるときの電流波形図。
【
図6】従来の3相電流の総和値を監視して故障検出を行う方法における、オフセットずれ発生時の電流波形図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。本実施形態例では、回転時に電流検出のゲインずれを見抜くため、3相電流の交差ポイントと回転数の比較により電流制御系の故障の検出を行う。
【0022】
例えば
図2のモータドライブ装置において、ゲインずれがないときの3相電流波形を
図4に示し、U相電流のゲインずれがあるときの3相電流波形を
図5に示す。
図4、
図5の電流波形は、3相電流値のうち1相(V相)に他2相の検出値を用いて導出した値を使用しており、3相各相の電流値を、Iu,Iw,Iv(計算)と表記している。
【0023】
正常駆動時は、
図4の交差時刻t1,t2,t3,t4,t5,t6に示すように1/6周期毎に3相電流が交差するが、3相電流のうち1相がゲインずれでアンバランスになっていると、
図5の交差時刻t1’,t2’,t3’,t4’,t5’,t6’に示すように交差点の間隔が1/6周期からずれていく。
【0024】
そこで、3相電流の偏差(Iu-Iv,Iv-Iw,Iw-Iu)を計算し、3相電流偏差の符号反転(ゼロクロス)ポイント(=3相電流の交差点)の間隔と、回転数から導出した1/6周期の比較を行う。
【0025】
そして、1/6周期(
図4、
図5の電流交差点の間隔)Tdetと、回転数によって導出される基準値Trefが、Tdet<Tref-ΔT、又はTdet>Tref+ΔT(ΔT:余裕時間)のときに、電流検出のゲインずれが発生していると判断し、警報の発生、又はモータを制御するインバータの故障停止を行う。
【0026】
図1は、本実施形態例による異常検出の制御ブロックを示し、例えば
図2のモータドライブ装置に適用される。101は、インバータ(50a)-モータ(52)間を接続する各相のケーブルに各々設けられ、各相の電流Iu,Iw,Ivを検出する電流センサ(電流検出部)である。
【0027】
尚電流センサ101は、3相のうち、いずれか2相の電流を各々検出する2つの電流センサを備え、残りの1相の電流は前記2つの電流センサの検出電流から計算して求めるように構成してもよい。
【0028】
102は、電流センサ101により検出された3相電流の各相の電流差分(Iu-Iv,Iv-Iw,Iw-Iu)を各々演算する減算器(電流差分演算部)である。
【0029】
103は、減算器102により演算された各電流差分(Iu-Iv,Iv-Iw,Iw-Iu)のいずれかがゼロとなったタイミングでゼロクロストリガ信号を出力するゼロクロス検出部である。
【0030】
104はモータ(52)の回転数ωを検出する回転数センサである。
【0031】
105は、ゼロクロス検出部103から出力されたゼロクロストリガ信号間の時間間隔Tdetと、回転数センサ104により検出された回転数検出値ωに基づいて基準値Trefを各々演算する機能と、余裕時間ΔTを設定する機能と、前記時間間隔Tdetと基準値Tref、余裕時間ΔTを比較して、電流検出のゲインずれが発生しているか否かを判定する異常判定機能とを備えた異常判定部である。
【0032】
前記基準値Trefは、電流検出のゲインずれがない場合のゼロクロストリガ信号間の時間間隔に相当する値であり、前記異常判定機能は、比較結果がTdet<Tref-ΔT、又はTdet>Tref+ΔTであるときに電流検出のゲインずれが発生していると判定し、警報(異常信号)の発生、又はモータを制御するインバータの故障停止を行う機能を有している。
【0033】
尚、前記基準値Trefを導出するための回転数検出値ωはインバータへ入力する回転数指令値に置き換えてもよい。
【0034】
図1の構成によれば、モータの正常駆動時は3相電流が等間隔(1/6周期毎)に交差するため、3相電流の交差点のズレから電流検出のゲインずれによる3相電流のアンバランスを検出することが可能となる。
【0035】
また、3相電流検出のうち1相がオフセットずれにより実電流と乖離した場合は、
図6のようにゼロクロス付近で3相総和値が0とならないため、「総和値が0からの乖離を一定時間継続で故障検出とする」従来の故障検出方法で検出可能である。
【0036】
そのため、本発明を、従来の3相電流の総和値を監視する方法と併せて使用することで、電流検出値のゲインずれとオフセットすれの場合の両方の故障状態をより高精度に見抜くことができる。
【0037】
尚、実際の電流の異常は、電流実効値を検出する別手段による検出も可能であるため、前記別手段において異常なしとされた場合は、3相電流ゲインずれであることを特定可能である。
【0038】
尚、本実施形態例は、電流センサが2相しかなく残りの1相での電流を計算で求める構成(例:電流センサではIuとIvを検出し、Iw=-Iu-Ivで演算する構成)に対しても、適用できる。
【0039】
本実施形態例によれば、従来の例えば特許文献2、3の故障診断方法に比べて次のような利点がある。
【0040】
すなわち、特許文献2では電流ゼロクロス時の他2相の電流を比較し故障診断を行っているが、本実施形態例ではゼロクロス検出タイミングでの故障診断であり、且つ(電流検出系故障の観点からは)3相電流のうち2相を検出し残り1相を計算した値としても検出可能である。
【0041】
また、ゼロクロスタイミングの各検出値ではなく、検出タイミング自体を比較しているためゼロクロスタイミングでのノイズ、リプルによる誤検出に強いといった特徴もある。さらに、電流検出系故障の診断の観点からは、電流検出が3相中2相のみでも検出可能といった利点がある。
【0042】
また、特許文献3ではdq変換後の電流値を利用しているが、dq変換後の電流は位相(回転角)検出の故障時にも異常が発生するところ、本実施形態例ではdq変換後の電流値ではなく位相(回転角)を用いない相電流値によるものであることから、位相検出部の故障の影響を受けない。
【符号の説明】
【0043】
50…モータ制御装置
50a…インバータ
50b…制御部
51…蓄電池
52…モータ
53…直流電圧検出センサ
54a~54c…交流電流検出センサ
55…磁極位置センサ
101…電流センサ
102…減算器
103…ゼロクロス検出部
104…回転数センサ
105…異常判定部