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  • 特開-手術器具用カバー 図1
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  • 特開-手術器具用カバー 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112577
(43)【公開日】2022-08-03
(54)【発明の名称】手術器具用カバー
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/28 20060101AFI20220727BHJP
【FI】
A61B17/28
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008416
(22)【出願日】2021-01-22
(71)【出願人】
【識別番号】391047503
【氏名又は名称】白十字株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大幸 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】小池 一誓
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160GG03
4C160GG05
(57)【要約】
【課題】手術器具の先端部の挿嵌が容易となる手術器具用カバーを提供する。
【解決手段】手術器具の先端部Aに挿嵌可能な手術器具用カバー1であって、カバー本体部2と、その先端側に連設されたカバー先端部3とを備える。カバー本体部2及びカバー先端部3には、カバー本体部2の基端側の開口部8からカバー先端部3にわたって連続して手術器具の先端部Aが挿嵌される挿嵌部7が設けられている。挿嵌部7の開口部8は、その周縁の一部に、他部より張り出す張出部4を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
手術器具の先端部に挿嵌可能な手術器具用カバーであって、
カバー本体部と、該カバー本体部の先端側に連設されたカバー先端部とを備え、
前記カバー本体部及び前記カバー先端部には、前記カバー本体部の基端側の開口部から前記カバー先端部にわたって連続して手術器具の先端部が挿嵌される挿嵌部が設けられており、
前記挿嵌部の前記開口部は、その周縁の一部に、他部より張り出す張出部を備えることを特徴とする手術器具用カバー。
【請求項2】
前記開口部の前記張出部に重合する端縁は、素材の厚みによる段差が形成されていることを特徴とする請求項1記載の手術器具用カバー。
【請求項3】
前記開口部の前記張出部には、前記開口部の端縁に沿った方向に長手のX線造影糸が配設されていることを特徴とする請求項1又は2記載の手術器具用カバー。
【請求項4】
前記カバー先端部は、先端に向かって次第に小さくなるテーパ状に形成されていることを特徴とする請求項1~3の何れか1項記載の手術器具用カバー。
【請求項5】
前記カバー本体部及び前記カバー先端部は、第1の面を構成する第1面構成部と該第1面構成部の反対側で第2の面を構成する第2面構成部とが縫製により接合されていることを特徴とする請求項1~4の何れか1項記載の手術器具用カバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科手術等に用いられる手術器具の先端部に装着して用いる手術器具用カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉗子の先端部に装着して用いる鉗子カバーが知られている(例えば、特許文献1参照)。鉗子カバーは、鉗子の先端部に装着することにより、鉗子が把持した把持対象物の滑り等を防止することができ、鉗子による把持状態を確実に維持することができる。
【0003】
ところで、近年では、Intuitive Surgical社製ダビンチ等の手術支援ロボットを使用した遠隔操作による内視鏡外科手術が行われている。手術支援ロボットは、内視鏡外科手術に関する各種作業を行うための手術器具としてのアームを備え、各アームは、その先端部が操作により開閉する把持機構を備えている。
【0004】
手術時には、アーム先端部によって、手術臓器の圧排、組織保護、血液の吸収等も行われるが、これらの作業を行うためにアーム先端部に手術器具用カバーを装着する必要がある。アーム先端部への手術器具用カバーの装着は、患者の体内で行われる。そして、例えば、手術器具用カバーを装着したアーム先端部により、切除したい組織の周りの臓器等を押さえ、切除したい部分の術野を確保する(圧排)等の作業が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実登第3114592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この種の手術器具用カバーは製品化されておらず、例えば、手作業でガーゼ等をロール状に形成した手作りの手術器具用カバーが用いられている。これによると、手術器具用カバーの制作に手間がかかるだけでなく、ロール状ガーゼの大きさ等にばらつきが生じて一定の品質が得られない不都合があった。このため、ロール状ガーゼによる手作りの手術器具用カバーでは、アーム先端部を挿嵌させるための開口形状も一定ではなく、患者の体内での手術器具用カバーの装着作業が円滑に行えないおそれがあった。
【0007】
上記の点に鑑み、本発明は、手術器具の先端部の挿嵌が容易となる手術器具用カバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明は、手術器具の先端部に挿嵌可能な手術器具用カバーであって、カバー本体部と、該カバー本体部の先端側に連設されたカバー先端部とを備え、前記カバー本体部及び前記カバー先端部には、前記カバー本体部の基端側の開口部から前記カバー先端部にわたって連続して手術器具の先端部が挿嵌される挿嵌部が設けられており、前記挿嵌部の前記開口部は、その周縁の一部に、他部より張り出す張出部を備えることを特徴とする。
【0009】
前記開口部に前記張出部を備えることにより、前記挿嵌部への手術器具の先端部の挿嵌が容易となる。
【0010】
また、本発明において、前記開口部の前記張出部に重合する端縁は、素材の厚みによる段差が形成されていることを特徴とする。
【0011】
前記段差により、前記開口部を容易に確認することができ、手術器具の先端部の挿嵌が一層容易となる。
【0012】
また、本発明において、前記開口部の前記張出部には、前記開口部の端縁に沿った方向に長手のX線造影糸が配設されていることを特徴とする。
【0013】
前記張出部にX線造影糸を設けることにより、術後に当該手術器具用カバーの遺残を防止することができる。有色のX線造影糸を用いることで、前記開口部を容易に確認することができる。更に、比較的剛性の高いX線造影糸を用いることで、張出部に硬さを付与することができ、カバー本体部及びカバー先端部に柔らかい素材を用いても、張出部の案内によって挿嵌部への手術器具の先端部の挿嵌を確実に行うことができる。
【0014】
また、本発明において、前記カバー先端部は、先端に向かって次第に小さくなるテーパ状に形成されていることを特徴とする。
【0015】
カバー先端部をテーパ状に形成することにより、術者の視野(術野)を確保することができ、作業(操作)性を向上させることができる。
【0016】
また、前記カバー本体部及び前記カバー先端部は、第1の面を構成する第1面構成部と該第1面構成部の反対側で第2の面を構成する第2面構成部とが縫製により接合されていることを特徴とする。
【0017】
第1面構成部と第2面構成部とが縫製により接合されていることにより、例えば、熱融着や超音波接着等に比べて接合部分が固くなることがなく、カバー本体部及びカバー先端部の柔軟性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態の手術器具用カバーを示す平面図。
図2図1の手術器具用カバーのII-II線断面説明図。
図3】本実施形態の手術器具用カバーの使用状態を示す断面説明図。
図4】本実施形態の手術器具用カバーの製造工程を示す説明図。
図5図4に続く製造工程を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の手術器具用カバー1(以下、カバー1という)は、図1に示すように、カバー本体部2とカバー先端部3とを備えている。カバー先端部3はカバー本体部2の先端側に連続して設けられており、カバー本体部2の基端側には、張出部4が設けられている。
【0020】
カバー本体部2及びカバー先端部3は、図中上面側で第1の面を構成する第1面構成部5と、図中下面側で第2の面を構成する第2面構成部6とにより形成されている。張出部4は、第2面構成部6の基端側に設けられて、第1面構成部5よりも外方に張り出している。
【0021】
カバー先端部3は、先端側に向かって次第に幅寸法が小さくなるようにテーパ状に形成されていることが好ましい。
【0022】
図2に示すように、第1面構成部5と第2面構成部6との間となるカバー1の内部には、挿嵌部7が形成されている。挿嵌部7には、図3に示すように、手術器具である手術支援ロボットのアーム先端部Aが挿嵌される。
【0023】
図2に示すように、挿嵌部7は第1面構成部5の基端に位置する開口部8により開放される。開口部8を形成している第1面構成部5の基端には、その厚みによって第2面構成部6との間に段差9が形成されている。
【0024】
以上のように、張出部4が設けられていることにより、アーム先端部Aを開口部8に円滑に案内して挿嵌部7への挿嵌が容易に行われる。そして、このとき、段差9によって、開口部8の視認性が良く、アーム先端部Aの挿嵌作業が容易となる。
【0025】
カバー1の第1面構成部5と第2面構成部6とは、詳しくは後述するが、1枚のシート又は積層されたシート状素材から縫製及び裁断によって形成される。よって、カバー1の周縁には第1面構成部5と第2面構成部6とを接合する縫製部10(図1参照)が形成されている。
【0026】
カバー1の第1面構成部5と第2面構成部6との接合が縫製によることで、例えば、熱や超音波を用いた融着等に比べて高い柔軟性を得ることができる。
【0027】
本実施形態においては、カバー1の素材としてベンリーゼ(登録商標)等の長繊維不織布を用いたが、これに限るものではなく、血液や浸出液を吸収でき、臓器等への損傷が防止できるものを採用することが好ましい。
【0028】
また、本実施形態においては、縫製部10を構成する縫製糸として、綿糸(綿100%)を用いたが、これに限るものではなく、カバー1の素材と同等の性質を有する柔軟性の高いものを用いることが好ましい。
【0029】
段差9は、カバー1の素材となるシートに厚みを持たせることで形成することができる。そのために、シート素材自体を厚くすることが考えられるが、こうすると、カバー1の素材にしなやかさがなくなるため、複数のシート素材を重合して厚みを得るようにすることが好ましい。シート素材を重合することで、カバー1の柔軟性を損なうことなく段差9を形成することができる。
【0030】
また、張出部4には、その幅方向(開口部8の端縁に沿った方向)に長手のX線造影糸11が配設されている。これにより、手術後体内にカバー1が遺残することを防止することができる。張出部4にX線造影糸11を配設することにより、張出部4が他部より硬くなる。これによって、開口部8に剛性差を生じ、アーム先端部Aにカバー1を容易に挿嵌することが可能となる。また、図3に示すように、アーム先端部Aの一方側をカバー1に挿嵌する際には、第1面構成部5を挟む側に位置させることで、第2面構成部6から延びる張出部4がアーム先端部Aの外側に位置される。これにより、アーム先端部Aが張出部4を挟むことがないので、X線造影糸11の損傷や、X線造影糸11が切れて脱落することを防止することができる。
【0031】
X線造影糸11は、黒色等の有色のものを用いることにより、内視鏡による張出部4の視認性が増し、アーム先端部Aの挿嵌部7への挿嵌操作が一層容易となる。
【0032】
本実施形態においては、カバー1の張出部4に配設するX線造影糸11として、ポリスチレンに硫酸バリウムを混合させたモノフィラメントを採用したが、これに限るものではない。また、X線造影糸11は設けなくてもよい。
【0033】
カバー1の各部の具体的寸法の一例を示すと、幅20mm、長さ35mm、挿嵌部7の長さ30mm、開口部8の開口径14mmである。ただし、これらの寸法は、手術支援ロボットのアーム先端部Aの寸法や形状に応じて適宜変更して製造されることは言うまでもない。
【0034】
次に、本実施形態のカバー1の製造方法について図4及び図5を参照して説明する。先ず、図4Aに示すように、カバー1を形成する素材である所定の大きさ(本実施形態においては縦130mm、横200mm)の矩形状の基布Wの上端から所定距離(本実施形態においては約36mm)を存した位置に、図外のチドリミシンを用いてX線造影糸11をチドリ縫いし、熱溶着する(X線造影糸縫込み溶着工程)。
【0035】
X線造影糸11を本縫い等で縫い付けた場合には、縫い針でX線造影糸11を刺してしまい、X線造影糸11の断裂や切れカスが発生するおそれがある。それに対して、チドリ縫いを採用することにより、X線造影糸11の損傷を防止することができる。
【0036】
また、X線造影糸11をチドリ縫いによって設けただけでは、カバー1として使用したとき、カバー1が湿潤状態となった場合や、X線造影糸11の一部に大きな負荷がかかった場合等に、X線造影糸11が抜けてしまうおそれがある。そこで、X線造影糸11をチドリ縫いした後に熱溶着することにより、X線造影糸11の不用意な抜けを防止して確実に固定することができる。
【0037】
なお、チドリ縫いをせずに熱溶着のみで固定しても構わない。チドリ縫いをしないので1工程減らすことができる。また溶着する方法としては熱溶着に替わって超音波接着してもよい。
【0038】
次いで、X線造影糸11を設けた基布Wに他の同一形状の2枚の基布を重合させる。重合方法としてはX線造影糸11を設けた基布Wを上側、中側、下側に配置する方法がある。
【0039】
上側に配置した場合は、基布折り畳み工程でX線造影糸11が2枚の基布に覆われるので直接X造影糸11がむき出しになることがない。下側に配置した場合はX線造影糸11が外側に位置するので、X造影糸11の位置が分かりやすく、張出部4の視認性が増す。中側に配置した場合は上側に配置した場合と下側に配置した場合の両方の特徴を持つ。
【0040】
何れの配置方法でも構わないが、こうして3枚重合させた基布は、以降一体の基布Wとして扱う。なお、本実施形態の基布Wは3枚重合させたものであるが、重合させる枚数はこれに限らず、3枚以上でもよく、X線造影糸11を設けた基布Wを1枚のみとしてもよい。なお、図2及び図3の説明図においては、便宜上1枚構成として示している。
【0041】
図4A図4Cに示すように、基布Wを折り畳む(基布折り畳み工程)。即ち、図4Aにおいて仮想線である二点鎖線で示した所定の上下折り曲げ位置t,d(本実施形態においては上縁から35mmの位置と下縁から29mmの位置)で谷折りし、図4Bに示す形状とし、更に、上下から折り返した突合せ位置(本実施形態においては上縁から35mmの位置)で谷折りする。これにより、図4Cに示す横長形状とする。
【0042】
続いて、図5Aに示すように、個々のカバー1形状毎に縫製を行う(縫製工程)。このとき、カバー本体部2からカバー先端部3にかけての縦方向縫製部10aと開口部8に沿って張出部4を通る横方向縫製部10bとを連続して形成する。このうち、縦方向縫製部10aは、カバー先端部3の先端側で折返す返し縫いが行われて二重に縫製される。横方向縫製部10bは各縦方向縫製部10aを張出部4側で連続させるため一重で縫製される。
【0043】
その後、図5Bに示すように、カバー1形状に対応する所定の裁断位置c(仮想線である二点鎖線で示す)で打ち抜き裁断を行う(裁断工程)。これにより、図1に示すように個々のカバー1が複数製造される。
【0044】
以上の方法によれば、効率よく複数のカバー1が製造でき、しかも、一定した品質のカバー1を得ることができる。しかも、上記の方法によれば、縦方向縫製部10aを返し縫いにより二重に縫製することで、ほつれや緩みが防止され、アーム先端部Aに装着したカバー1が不用意に脱落することが防止できる。
【0045】
また、以上の方法によれば、縫製位置や裁断間隔を所望の形状に合わせて適宜設定することで、カバー1の設計の自由度も高いため、アーム先端部Aに形状に応じた設計変更も極めて容易となる。
【0046】
なお、以上の説明で示した各部の寸法や材質は、これに限るものではない。また、本発明のカバーは上記製造方法に限るものでなく、他の適宜の方法を用いて製造することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0047】
A…アーム先端部(手術器具の先端部)、1…手術器具用カバー、2…カバー本体部、3…カバー先端部、8…開口部、7…挿嵌部、4…張出部、9…段差、11…X線造影糸、5…第1面構成部、6…第2面構成部、10…縫製部。
図1
図2
図3
図4
図5