(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112623
(43)【公開日】2022-08-03
(54)【発明の名称】検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/07 20060101AFI20220727BHJP
G01N 29/44 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
G01N29/07
G01N29/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008479
(22)【出願日】2021-01-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 友宏
(72)【発明者】
【氏名】井原 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】小川 曜史
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047AA06
2G047AC05
2G047BA03
2G047BB01
2G047BC02
2G047BC19
2G047CB01
2G047CB02
2G047GE01
2G047GG30
(57)【要約】
【課題】超音波を用いた検査方法において、検査対象に関する複数の情報を効率良く取得することができる技術を提供する。
【解決手段】超音波を用いた検査方法は、内部に物体を充填することができる検査対象に縦波超音波を発信し、検査対象からの縦波超音波の反射波である縦波反射波を検出して、縦波反射波の波形の変化と、縦波超音波の発信から縦波反射波の受信までの縦波超音波の伝搬時間とのうち少なくともいずれか一方を取得し、取得した波形の変化と、縦波超音波の伝搬時間の変化とのうち少なくともいずれか一方を用いて、検査対象の内壁に当接する物体の有無を含む第一情報を決定し、横波超音波を検査対象に発信し、検査対象からの横波超音波の反射波である横波反射波を検出して、横波超音波の発信から横波反射波の受信までの横波超音波の伝搬時間を取得し、取得した横波超音波の伝搬時間を用いて、検査対象の温度情報を含む第二情報を決定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を用いた検査方法であって、
内部に物体を充填することができる検査対象に縦波超音波を発信し、前記検査対象からの前記縦波超音波の反射波である縦波反射波を検出して、前記縦波反射波の波形の変化と、前記縦波超音波の発信から前記縦波反射波の受信までの前記縦波超音波の伝搬時間とのうち少なくともいずれか一方を取得し、
取得した前記波形の変化と、前記縦波超音波の伝搬時間の変化とのうち少なくともいずれか一方を用いて、前記検査対象の内壁に当接する前記物体の有無を含む第一情報を決定し、
横波超音波を前記検査対象に発信し、前記検査対象からの前記横波超音波の反射波である横波反射波を検出して、前記横波超音波の発信から前記横波反射波の受信までの前記横波超音波の伝搬時間を取得し、
取得した前記横波超音波の伝搬時間を用いて、前記検査対象の温度情報を含む第二情報を決定する、
検査方法。
【請求項2】
前記検査対象は、成形品を形成するための内部空間を有する金型と、前記内部空間に流入される成形材料とを含む、請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記第一情報には、さらに、前記金型の内壁に塗布されている離型剤の塗布分布が含まれる、請求項2に記載の検査方法。
【請求項4】
さらに、前記第一情報を用いて、前記内部空間における前記成形材料の流れを観察する、請求項2または請求項3に記載の検査方法。
【請求項5】
さらに、前記第一情報および前記第二情報を用いて、前記成形品の製造条件を変更する、請求項2から請求項4までのいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項6】
超音波を用いた超音波検査装置であって、
内部に材料を充填することができる検査対象に縦波超音波を発信し、前記検査対象からの縦波反射波を受信するための縦波超音波センサと、
横波超音波を前記検査対象に発信し、前記検査対象からの横波反射波を受信するための横波超音波センサと、
前記縦波反射波の波形の変化と、前記縦波超音波の発信から前記縦波超音波に対応する前記縦波反射波を受信するまでの伝搬時間とのうち少なくともいずれか一方を用いて、前記検査対象の内壁に当接する物体の有無を含む第一情報を決定するとともに、前記横波超音波の発信から前記横波超音波に対応する前記横波反射波を受信するまでの伝搬時間を用いて、前記検査対象の温度情報を含む第二情報を決定する制御装置と、を備える、
超音波検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波を用いた検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キャビティ内部に溶湯が充填された金型の外部からキャビティ内へ向かって超音波を発信し、検出した複数の反射波を用いて算出される超音波速度に基づいて溶湯の温度や固相率を算出する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超音波を用いた検査方法では、検査対象に関するより多くの種類の情報を検査対象の外部から取得することができる技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、超音波を用いた検査方法が提供される。この検査方法は、内部に物体を充填することができる検査対象に縦波超音波を発信し、前記検査対象からの前記縦波超音波の反射波である縦波反射波を検出して、前記縦波反射波の波形の変化と、前記縦波超音波の発信から前記縦波反射波の受信までの前記縦波超音波の伝搬時間とのうち少なくともいずれか一方を取得し、取得した前記波形の変化と、前記縦波超音波の伝搬時間の変化とのうち少なくともいずれか一方を用いて、前記検査対象の内壁に当接する前記物体の有無を含む第一情報を決定し、横波超音波を前記検査対象に発信し、前記検査対象からの前記横波超音波の反射波である横波反射波を検出して、前記横波超音波の発信から前記横波反射波の受信までの前記横波超音波の伝搬時間を取得し、取得した前記横波超音波の伝搬時間を用いて、前記検査対象の温度情報を含む第二情報を決定する。
この形態の検査方法によれば、横波超音波の伝搬時間と、縦波反射波の波形の変化と縦波超音波の伝搬時間との少なくともいずれか一方とを取得することにより、検査対象の内壁に当接する前記物体の有無を含む第一情報と、検査対象の温度情報を含む第二情報とを取得することができる。したがって、検査対象の外部から検査対象に関する複数の種類の情報を取得することができる。
(2)上記形態の検査方法において、前記検査対象は、成形品を形成するための内部空間を有する金型と、前記内部空間に流入される成形材料とを含んでよい。
この形態の検査方法によれば、成形機に用いられる金型内の成形材料の状態に関する複数の種類の情報を取得することできる。
(3)上記形態の検査方法において、前記第一情報には、さらに、前記金型の内壁に塗布されている離型剤の塗布分布が含まれてよい。
この形態の検査方法によれば、成形品の製造時における離型剤の塗布分布の状態に基づいて、離型剤の塗布条件を変更することができる。
(4)上記形態の検査方法において、前記第一情報を用いて、前記内部空間における前記成形材料の流れを観察してもよい。
この形態の検査方法によれば、成形品が製造される際に、成形材料が金型内で流動する状態を金型の外部から把握することができる。
(5)上記形態の検査方法において、さらに、前記第一情報および前記第二情報を用いて、前記成形品の製造条件を変更してもよい。
この形態の検査方法によれば、製造中に取得した金型内での成形材料の状態に基づいて製造条件を設定することができ、成形品の製造条件をより適正化することができる。
本開示は、超音波を用いた検査方法以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、成形品の製造方法、成形品の製造装置、超音波検査装置、超音波検査装置や成形品の製造装置の制御方法、その制御方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】超音波検査装置を用いた第一の実験の概要を示す説明図。
【
図3】第一の実験により得られた縦波超音波および横波超音波の伝搬時間の変化の結果を示すグラフ。
【
図4】第一の実験により取得されたワークの温度分布の結果を示す説明図。
【
図6】超音波検査装置を用いた第二の実験の概要を示す説明図。
【
図7】第二の実験によって得られた縦波超音波および横波超音波の伝搬時間の変化の結果を示すグラフ。
【
図8】第二の実験により取得されたワークの温度分布の結果を示す説明図。
【
図9】液水が付着していない状態のワークの底面からの横波反射波の波形を示す説明図。
【
図10】液水が付着している状態のワークの底面からの横波反射波の波形を示す説明図。
【
図11】液水が付着していない状態のワークの底面からの縦波反射波の波形を示す説明図。
【
図12】液水が付着している状態のワークの底面からの縦波反射波の波形を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、本開示の第1実施形態としての超音波検査装置100の構成を示す説明図である。超音波検査装置100は、超音波送受信装置80と、制御装置90とを備えている。超音波検査装置100は、例えば、成形機に備えられる金型に超音波送受信装置80を装着することにより用いられる。成形機とは、成形材料を金型内に射出し、成形材料を金型内で凝固させることにより、成形品を製造する装置である。本実施形態では、超音波検査装置100は、成形機としてのダイカストマシン200に取り付けられている。成形材料とは、例えば、液状または固液共存状態である凝固前の金属材料である。凝固前の金属材料は、溶湯とも呼ばれる。金属材料には、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金、亜鉛合金やマグネシウム合金、銅合金などの種々の材料が含まれる。成形機は、ダイカストマシンのほかに、例えば、樹脂材料を成形材料とする射出成形機などの種々の成形機が含まれてよい。
【0009】
ダイカストマシン200は、金型50を含む図示しない型締装置と、離型剤射出部60と、射出装置70と、を備えている。金型50は、超音波検査装置100の超音波送受信装置80を装着するための外壁と、内部空間CVを規定する金型50の内壁とを備えている。型締装置は、制御装置90による制御のもとで、金型50の型開き、型閉じ、ならびに型締めを行う。型締装置が型締めすることによって、金型50内に成形品と略同一形状の内部空間CVが形成される。内部空間CVは、キャビティとも呼ばれる。離型剤射出部60は、制御装置90による制御のもとで、金型50の内壁面に離型剤62を塗布する。
【0010】
射出装置70は、制御装置90による制御のもとで、金型50の内部空間CVへ凝固前の金属材料を射出し、充填する。射出装置70は、金型50内に通じるスリーブ74と、スリーブ74内を摺動可能なプランジャ76と、プランジャ76を駆動する射出駆動部72とを有している。型締装置による金型50の型締めが完了すると、図示しない供給装置が1ショット分の成形材料PDを、スリーブ74の上面の供給口からスリーブ74内へと供給する。プランジャ76がスリーブ74内を内部空間CV側へ摺動することにより、スリーブ74内の成形材料PDが金型50の内部空間CVに押し出される。内部空間CVに充填された凝固前の成形材料PDは、金型50に熱を奪われることにより冷却され、凝固する。この結果、成形品が形成される。
【0011】
超音波送受信装置80は、縦波超音波の発信および受信を行う縦波超音波センサ82と、横波超音波の発信および受信を行う横波超音波センサ84と、接触媒質81,83と、高速AD変換器86とを備えている。接触媒質81,83は、金型50と、縦波超音波センサ82および横波超音波センサ84との接触面での超音波透過性を向上させる。接触媒質81,83としては、例えば、水やグリセリン等を適用することができる。
【0012】
図1には、横波超音波および縦波超音波の伝搬方向DWが模式的に示されている。伝搬方向DWは、例えば、縦波超音波センサ82および横波超音波センサ84が装着される金型50の外壁の表面に対して略垂直方向である。縦波超音波とは、伝搬方向DWと同じ方向に媒体が振動する超音波であり、横波超音波とは、伝搬方向DWと垂直方向に媒体が振動する超音波である。本実施形態の超音波検査装置100による検査対象には、後述するように、金型50と、金型50の内部空間CVに存在する成形材料PDと、金型50の内部空間CVに存在する離型剤62とが含まれる。超音波検査装置100は、例えば、シリンダブロックの内部のオイルや燃料の温度等の情報を取得するために用いられてもよく、内部に物体を充填することができる種々の検査対象に用いられてもよい。
【0013】
縦波超音波センサ82および横波超音波センサ84は、金型50の外壁の同一の面上に取り付けられている。超音波検査装置100は、縦波超音波センサ82および横波超音波センサ84をそれぞれ一つずつ備えてもよく、複数で備えられてもよい。本実施形態では、検査範囲をより広くする観点から、縦波超音波センサ82および横波超音波センサ84は、それぞれ複数で金型50の外壁の同一の面上に取り付けられている。縦波超音波センサ82は、縦波超音波を、金型50の内部空間CVへ向けて発信する。縦波超音波センサ82は、例えば、金型50の内部空間CVの内壁面のうち縦波超音波センサ82が取り付けられた位置に近い端面E1で反射して戻ってきた反射波である縦波反射波や、内部空間CVに充填された成形材料PD内を伝搬して内部空間CVにおける端面E1とは反対側に位置する底面E2で反射して戻ってきた縦波反射波を受信する。
【0014】
横波超音波センサ84は、横波超音波を、金型50の内部空間CVへ向けて発信する。横波超音波センサ84は、金型50の内部空間CVにおける内壁面のうち横波超音波センサ84が取り付けられた位置に近い端面E1で反射して戻ってきた反射波である横波反射波や、底面E2で反射して戻ってきた横波反射波を受信する。
【0015】
高速AD変換器86には、横波反射波および縦波反射波の波形のアナログ電圧信号が、縦波超音波センサ82および横波超音波センサ84から入力される。高速AD変換器86は、入力されたアナログ電圧信号をデジタル信号へと変換し、制御装置90に出力する。高速AD変換器86は、縦波超音波センサ82や横波超音波センサ84、制御装置90に備えられてもよい。
【0016】
制御装置90は、論理演算を実行するマイクロプロセッサと、ROM、RAM等のメモリとを備えるマイクロコンピュータである。マイクロプロセッサは、メモリに予め格納されるプログラムを実行することでダイカストマシン200の型締装置や射出装置70、ならびに離型剤射出部60などの各部の動作を制御する。本実施形態では、マイクロプロセッサは、メモリに格納されたプログラムを実行することによって、伝搬時間取得部94と、第二情報取得部96と、第一情報取得部98として機能する。なお、ダイカストマシン200の各部の機能、伝搬時間取得部94、第二情報取得部96、ならびに第一情報取得部98の機能の一部又は全部は、ハードウェア回路で実現されてもよい。
【0017】
伝搬時間取得部94は、縦波超音波センサ82が縦波超音波を発信してから縦波反射波を検出するまでの縦波超音波の伝搬時間と、横波超音波センサ84が横波超音波を発信してから第一横波反射波を検出するまでの横波超音波の伝搬時間とを算出する。伝搬時間取得部94は、縦波超音波センサ82や横波超音波センサ84に備えられてもよい。
【0018】
第二情報取得部96は、伝搬時間取得部94により取得される横波超音波の伝搬時間を用いて、検査対象に関する情報を決定する。横波超音波の伝搬時間を用いて得られる検査対象に関する情報を、「第二情報」とも呼ぶ。本実施形態では、第二情報取得部96は、横波超音波の伝搬時間と、検査対象の温度伝導率などを含む検査対象に関する既知のデータとを用いて、理論式に基づき検査対象の温度分布を第二情報として決定する。温度分布を算出するための理論式としては、例えば、特開2008-70340号公報に公開されている理論式を用いることができる。第二情報取得部96は、横波超音波の伝搬時間と、検査対象の温度との関係を示すデータテーブルを用いてもよい。第二情報は、検査対象の温度分布には限定されず、検査対象の任意の位置の温度などの種々の温度情報であってもよい。第二情報には、検査対象の内部の材料の凝固の進行状況が含まれてもよい。
【0019】
第一情報取得部98は、伝搬時間取得部94により取得される縦波超音波の伝搬時間を用いて、検査対象の状態を決定する。縦波超音波の伝搬時間の変化を用いて得られる情報を、「第一情報」とも呼ぶ。第一情報には、例えば、内部空間CVを規定する金型50の内壁に当接する物体の有無が含まれる。第一情報には、後述するように、内部空間CVでのライデンフロスト現象の発生の有無が含まれてよい。ライデンフロスト現象とは、液滴が、その飽和温度以上の固体面上で蒸発する現象を意味する。なお、第一情報取得部98は、第二情報取得部96と同様に、縦波超音波の伝搬時間と、検査対象の温度伝導率などを含む検査対象に関する既知のデータとを用いて、理論式に基づき検査対象の温度分布を算出することができる。
【0020】
図2から
図4を用いて、本実施形態の超音波検査装置100が縦波超音波を用いて第一情報を決定するメカニズムについて説明する。
図2は、超音波検査装置100を用いた第一の実験の概要を示す説明図である。第一の実験において、超音波検査装置100は、ワークWKの表面E4に取り付けられている。ワークWKは、金型50の材料としても用いられるSKD鋼である。ワークWKは、伝搬方向DWに厚さ30mmを有する略矩形の外観形状を有している。ワークWKは、表面E4とは逆側に底面E3を有している。ワークWKの底面E3に対向する位置には、液体を噴射する噴射器SYが配置されている。噴射器SYは、任意のタイミングで液水WT1を底面E3に噴射することができる。
【0021】
図2に示すように、ワークWKには、温度検出器40が取り付けられている。温度検出器40は、8つの熱電対T1~T8を有する温度センサである。温度検出器40による温度の検出結果は、制御装置90に出力される。第一の実験において、温度検出器40による温度の検出結果は、超音波検査装置100による超音波を利用した温度分布の検出結果との比較例として用いられる。熱電対T1~T5は、ワークWKの底面E3から順に約1mm間隔で配置され、熱電対T6~T8は、底面E3から順に約10mm間隔で配置される。熱電対T8は、表面E4に配置されている。
【0022】
図3は、第一の実験により得られた縦波超音波および横波超音波の伝搬時間の変化の結果を示すグラフである。第一の実験では、超音波検査装置100は、例えば、30秒などの一定期間において、縦波超音波センサ82および横波超音波センサ84に、縦波超音波および横波超音波を定常的に発信させる。制御装置90は、この一定期間において、底面E3からの縦波反射波および横波反射波を検出し、縦波超音波の伝搬時間と、横波超音波の伝搬時間とを取得する。第一の実験では、ワークWKの底面E3には、後述するように、噴射器SYからの液水WT1が複数回に分けて間欠的に吹き付けられる。
【0023】
図3のグラフ中に示される破線TTL1は、縦波超音波の伝搬時間の変化を示している。実線TTS1は、横波超音波の伝搬時間の変化を示している。実線TT1は、熱電対T1によって得られた底面E3近傍の温度の変化を示している。
図3のグラフの横軸は、時間軸である。
図3のグラフの左側に示される2つの縦軸は、それぞれ、縦波超音波の伝搬時間と、横波超音波の伝搬時間とを示している。
図3では、縦波超音波の伝搬時間と、横波超音波の伝搬時間との比較を容易にする観点から、縦波超音波の伝搬時間のスケールと、横波超音波の伝搬時間のスケールとを個別に設定することで、破線TTL1と、実線TTS1とを互いに近い位置に配置している。グラフの右側の縦軸は、熱電対T1の温度を示している。
【0024】
グラフ中には、ワークWKの底面E3に噴射器SYからの液水WT1が吹き付けられるタイミングが、矢印SP1~SP7によって模式的に示されている。横波超音波の伝搬時間は、
図3の実線TTS1が示すように、略一定値である。このことから、横波超音波の伝搬時間は、ワークWKの底面E3への液水WT1の付着による影響をあまり受けないことが理解できる。縦波超音波の伝搬時間は、
図3の破線TTL1が示すように、矢印SP1~SP7のタイミングで、ノイズが発生し、横波超音波の伝搬時間と比較して大きく変化する。このことから、縦波超音波の伝搬時間は、ワークWKの底面E3への液水WT1の付着による影響を受けることが理解できる。
【0025】
図4は、第一の実験により取得されたワークWKの温度分布の結果を示す説明図である。グラフの縦軸は、温度を示し、横軸は、伝搬方向DWに沿ったワークWKの底面E3からの距離を示している。距離が30mmとなる位置は、表面E4に相当する。
図4に示す一点鎖線TPS1は、横波超音波の伝搬時間を用いて得られたワークWKの温度分布の結果を示している。二点鎖線TPL1は、縦波超音波の伝搬時間を用いて得られたワークWKの温度分布を示している。
図4に示すプロットTP1は、熱電対T1~T8から得られたワークWKの各位置での温度を示している。
【0026】
図4の一点鎖線TPS1およびプロットTP1が示すように、横波超音波を用いて得られた温度分布と、熱電対T1~T8から得られた温度分布とは互いに略一致している。この結果は、横波超音波を用いて得られた温度分布が、ワークWKの底面E3への液水WT1の付着による影響をあまり受けず、安定していることを示している。二点鎖線TPL1で示すように、縦波超音波の伝搬時間を用いて得られた温度分布は、底面E3近傍においてノイズが発生し、横波超音波の伝搬時間を用いて得られた温度分布と比較して大きく変化している。この結果は、縦波超音波の伝搬時間が横波超音波の伝搬時間と比較して、ワークWKの底面E3への液水WT1の付着による影響を受けやすいことを示している。
【0027】
図3および
図4で示すように、第一の実験の結果から、縦波超音波は、物体の裏面、すなわち縦波超音波の反射位置における他の物体の付着に対する感度が高いことが分かる。これは、横波超音波が液体中を伝搬しにくい特徴を有しているのに対して、縦波超音波は液体中を伝搬しやすい特徴を有していることに起因していると考えられる。具体的には、ワークWKの底面E3に到達した縦波超音波の一部が、底面E3に付着した液水WT1へ透過することにより、縦波反射波の振幅が低下することや、底面E3に付着した液水WT1内で複数回の反射を繰り返すことにより、縦波反射波の波形に歪みを生じさせることに起因すると考えられる。
【0028】
図5は、超音波検査装置100が実行する超音波を用いた検査処理を示すフロー図である。本フローは、例えば、ダイカストマシン200が成形品の製造を開始することによって開始される。本フローは、成形品の製造ごとに繰り返し実行されてよい。
【0029】
ステップS10では、制御装置90は、型締装置や射出装置70を制御して、型締めが完了した金型50の内部空間CVに1ショット分の成形材料PDを射出する。ステップS20では、成形材料PDの充填を完了した金型50の内部空間CVに向かって、縦波超音波センサ82から縦波超音波が発信され、横波超音波センサ84から横波超音波が発信される。本実施形態では、ステップS20において、縦波超音波と横波超音波とが同時に発信される。
【0030】
ステップS30では、縦波超音波センサ82は、金型50の端面E1で反射して戻ってきた縦波反射波を受信し、横波超音波センサ84は、横波反射波を受信する。高速AD変換器86は、縦波超音波センサ82および横波超音波センサ84から入力された縦波反射波および横波反射波のアナログ電圧信号をデジタル信号へと変換し、制御装置90に出力する。伝搬時間取得部94は、入力されたデジタル信号を用いて、縦波超音波の伝搬時間および横波超音波の伝搬時間を取得する。
【0031】
ステップS40では、第一情報取得部98は第一情報を決定し、第二情報取得部96は第二情報を決定する。具体的には、第一情報取得部98は、縦波超音波の伝搬時間の変化(ノイズ)を検出して、第一情報を決定する。第一情報取得部98は、例えば、縦波超音波の伝搬時間の微分値が、予め定められた閾値より大きいか否かによって、縦波超音波の伝搬時間の変化(ノイズ)の有無を判定することができる。第一情報取得部98は、第一の実験の結果で示したように、縦波超音波が物体FEの端面E1に対する物体FEの付着の有無に対する感度が高いことを利用している。本実施形態では、第一情報取得部98は、金型50の内壁に当接する物体の有無として、例えば、エアギャップとも呼ばれる成形材料PDと金型50との間の空隙の有無を決定する。第一情報取得部98は、金型50に成形材料PDが充填される前に、金型50の内壁に付着する離型剤62の塗布分布を取得してもよい。
【0032】
第二情報取得部96は、横波超音波の伝搬時間を用いて、第二情報を取得する。第二情報取得部96は、第一の実験の結果で示したように、横波超音波が安定して検査対象の温度分布を取得できることを利用している。本実施形態では、第二情報取得部96は、横波超音波の伝搬時間と、検査対象の温度伝導率などを含む検査対象に関する既知のデータとを用いて、理論式に基づき検査対象の温度分布を算出し、第二情報として決定する。ステップS20~S40における縦波超音波の発信から第一情報の決定までのフローと、横波超音波の発信から第二情報の決定までのフローとは、同時には限らず、例えば、縦波超音波の発信から第一情報の決定までのフローを実行した後に、横波超音波の発信から第二情報の決定までのフローを実行してもよく、またはその逆の順序などの任意の順序で行ってよく、両方のフローは、任意の順序で開始された後に並行して実行されてもよい。
【0033】
ステップS50では、制御装置90は、第一情報取得部98が決定した第一情報、および第二情報取得部96が決定した第二情報を用いて、ダイカストマシン200の各部を制御し、成形品の製造条件を変更する。具体的には、制御装置90は、例えば、第二情報取得部96が取得した成形材料PDの温度分布に基づいて、金型50の型締期間の短縮または延長することにより成形材料PDの冷却期間を調整する。制御装置90は、金型50内の冷媒の流量や温度を調節してもよい。制御装置90は、例えば、成形材料PDの温度分布から成形材料PDの凝固の進行状況を取得して、金型50内の押出ピンの動作や金型50の型開きタイミングの調節などを行ってもよい。
【0034】
制御装置90は、さらに、第一情報取得部98が決定した第一情報に基づいて、金型50の内部空間CVを規定する端面E1に当接する物体の有無を検出する。具体的には、制御装置90は、上述したように、第一情報を用いて、例えば、成形材料PDと金型50との間のエアギャップを検出する。エアギャップが多い場合には、制御装置90は、射出装置70を制御して、プランジャ76による射出の圧力の増加や成形材料PDの充填速度を調節して、内部空間CVへの成形材料PDの充填率を向上させる。制御装置90が、第一情報を用いて、端面E1上に塗布された離型剤62の塗布分布を取得する場合には、離型剤射出部60を制御して、金型50の内部空間CVへの離型剤62の塗布量を調整してもよい。例えば、離型剤の塗布量が不足する場合には、制御装置90は、金型50が型開きされている状態において、離型剤射出部60を制御して、離型剤の塗布量や離型剤の噴射方向などを調整する。
【0035】
制御装置90は、さらに、第一情報取得部98から得られた第一情報を用いて、いわゆる湯流れとも呼ばれる内部空間CVにおける成形材料PDの流れを観察する。具体的には、制御装置90は、金型50の外壁の同一の面上に取り付けられている複数の縦波超音波センサ82から得られた複数の第一情報を利用する。成形材料PDが金型50内に射出される際に、制御装置90は、異なる位置に配置される複数の縦波超音波センサ82のそれぞれから、内部空間CVに当接する成形材料PDの有無を取得する。制御装置90は、縦波超音波センサ82の配置位置に基づいて成形材料PDの有無がマッピングされた結果を、湯流れの観察結果として取得する。制御装置90は、予め定められる単位時間ごとに湯流れの観察結果を取得し、湯流れの観察結果に基づいて、射出装置70を制御して、プランジャ76による射出の圧力や成形材料PDの充填速度を調節して、内部空間CVへの成形材料PDの充填率を調節する。
【0036】
図6から
図8を用いて、本実施形態の超音波検査装置100が取得する第一情報の他の形態について説明する。
図6は、超音波検査装置100を用いた第二の実験の概要を示す説明図である。検査対象としてのワークWKは、
図2に示す第一の実験で用いたワークWKと同一のものである。ワークWKには、第一の実験と同様に、温度検出器40が取り付けられている。第二の実験は、ワークWKの底面E3に液水WT2を付着させた後に、高温の物体FEを、液水WT2を付着させた状態の底面E3に接触させる点において、第一の実験とは相違する。第二の実験では、物体FEには、約500℃に昇温された矩形状の鉄を用いた。
【0037】
図7は、第二の実験によって得られた縦波超音波および横波超音波の伝搬時間の変化の結果を示すグラフである。第二の実験では超音波検査装置100は、例えば、80秒などの一定期間において、縦波超音波センサ82および横波超音波センサ84に、縦波超音波および横波超音波を定常的に発信させる。制御装置90は、この一定期間において、底面E3からの縦波反射波および横波反射波を検出し、縦波超音波の伝搬時間と、横波超音波の伝搬時間とを取得する。第二の実験では、さらに、ワークWKの底面E3に、矢印SP8,SP9で示す実験開始後の約10秒後のタイミングで液水WT2を付着させる。実験開始後の45秒後のタイミングTHでは、ワークWKの底面E3に、物体FEを接触させる。
【0038】
図7のグラフ中に示される破線TTL2は、縦波超音波の伝搬時間の変化を示している。実線TTS2は、横波超音波の伝搬時間の変化を示している。実線TT2は、熱電対T1によって得られた底面E3近傍の温度の変化を示している。グラフの横軸は、時間軸である。グラフの左側の縦軸は、縦波超音波の伝搬時間と、横波超音波の伝搬時間とを示している。
図7のグラフの左側に示される2つの縦軸は、それぞれ、縦波超音波の伝搬時間と、横波超音波の伝搬時間とを示している。
図7では、縦波超音波の伝搬時間と、横波超音波の伝搬時間との比較を容易にする観点から、縦波超音波の伝搬時間のスケールと、横波超音波の伝搬時間のスケールとを個別に設定することで、破線TTL2と、実線TTS2とを互いに近い位置に配置している。グラフの右側の縦軸は、熱電対T1の温度を示している。
【0039】
グラフ中には、ワークWKの底面E3に液水WT2を付着させるタイミングが、矢印SP8,SP9によって模式的に示されている。横波超音波の伝搬時間は、
図7の実線TTS2が示すように、略一定であり、ワークWKの底面E3への液水WT2の付着による影響は見られないことが分かる。破線TTL2で示すように、縦波超音波の伝搬時間は、矢印SP8,SP9のタイミングで、大きく変化する。
【0040】
図7の実線TTS2で示すように、横波超音波の伝搬時間は、物体FEが底面E3に接触するタイミングTHから、単調に増加している。破線TTL2が示すように、縦波超音波の伝搬時間は、タイミングTHから増加する。ここで、縦波超音波の伝搬時間は、矢印LF1,LF2で示すように、不連続な値を含む大きな変化(ノイズ)が発生している。矢印LF1,LF2で示す縦波超音波の伝搬時間のノイズは、高温の物体FEが液水WT2に接触することによって、液水WT2が瞬時に蒸発されるライデンフロスト現象の影響を受けて発生していると考えられる。この結果は、縦波超音波が、ライデンフロスト現象に対して横波超音波よりも高い感度を有することを示している。第一情報取得部98は、例えば、縦波超音波の伝搬時間の微分値と、予め定められた閾値との対比によって、縦波超音波の伝搬時間のノイズを検出し、金型50の端面E1でのライデンフロスト現象の発生の有無を判定することができる。
【0041】
図8は、第二の実験により取得されたワークWKの温度分布の結果を示す説明図である。グラフの縦軸は、温度を示し、横軸は、ワークWKの底面E3からの距離を示している。
図8に示す一点鎖線TPS2は、横波超音波の伝搬時間を用いて得られたワークWKの温度分布の結果を示している。二点鎖線TPL2は、縦波超音波の伝搬時間を用いて得られたワークWKの温度分布を示している。
図8に示すプロットTP2は、熱電対T1~T8から得られたワークWKの各位置での温度を示している。
【0042】
図8の一点鎖線TPS2およびプロットTP2が示すように、横波超音波を用いて得られた温度分布と、熱電対T1~T8から得られた温度分布とは互いに略一致している。この結果は、横波超音波を用いて得られた温度分布が、ワークWKの底面E3でのライデンフロスト現象による影響をあまり受けず、安定していることを示している。二点鎖線TPL2で示すように、縦波超音波の伝搬時間を用いて得られた温度分布はノイズが発生し、底面E3近傍での温度分布が大きく変化している。この結果は、縦波超音波が、ライデンフロスト現象に対して横波超音波よりも高い感度を有することを示している。
【0043】
超音波検査装置100は、第二の実験の結果が示すように、縦波超音波が端面E1でのライデンフロスト現象の発生有無に対する感度が高いことを利用している。ライデンフロスト現象の発生の有無を検出することにより、例えば、金型50の内部空間CVに離型剤62を塗布する際の離型剤62の蒸発の有無を検出することができる。離型剤62の蒸発は、例えば、成形品を製造した後の金型50の余熱が高温であることによって発生する。離型剤62の蒸発が確認される場合には、制御装置90は、離型剤射出部60を制御し、離型剤の塗布量や離型剤の噴射位置を調整して、内部空間CVでの離型剤62の塗布量が低下することを抑制する。離型剤の蒸発が検出される場合には、沸点の高い離型剤に変更してもよい。
【0044】
以上、説明したように、本実施形態の超音波検査装置100によれば、縦波反射波の伝搬時間を用いて、金型50の端面E1に当接する離型剤や成形材料PDなどの物体の有無やライデンフロスト現象の発生有無を含む第一情報を取得するとともに、横波超音波の伝搬時間を用いて、金型50の内部空間CVの成形材料PDの温度分布や成形材料PDの凝固の進行状況を含む第二情報を取得する。したがって、金型50の外部から金型50内の成形材料PDに関する複数の種類の情報を取得することができる。
【0045】
本実施形態の超音波検査装置100によれば、検査対象は、金型50と、金型50の内部空間CVに流入される成形材料PDを含んでいる。したがって、ダイカストマシン200などの成形機に用いられる金型50内の成形材料PDに関する複数の種類の情報を外部から取得することできる超音波検査装置100を得ることできる。
【0046】
本実施形態の超音波検査装置100によれば、第一情報には、金型50の内部空間CVを規定する端面E1に塗布される離型剤62の塗布分布が含まれる。金型50の外部から離型剤62の塗布分布を取得することにより、ダイカストマシン200による成形品の製造中に、離型剤62の塗布条件を変更し、離型剤62の塗布分布のばらつきを低減することができる。
【0047】
本実施形態の超音波検査装置100は、さらに、第一情報を用いて、内部空間CVにおける成形材料PDの流れを観察する。したがって、ダイカストマシン200によって成形品が製造される際に、成形材料PDが金型50内で流動する状態を外部から把握することができる。したがって、成形材料PDが金型50内で流動する状態を流体シミュレーションよりも精度良く把握することができる。
【0048】
本実施形態の超音波検査装置100によれば、さらに、取得した第一情報および第二情報を用いて、ダイカストマシン200による成形品の製造条件を変更する。製造中に取得した金型50内での成形材料PDの状態に基づいて製造条件を設定することができ、成形品の製造条件をより適正化することができる。
【0049】
B.他の実施形態:
(B1)上記実施形態では、
図3および
図4で示したように、超音波検査装置100は、縦波超音波の伝搬時間のノイズや、縦波超音波の伝搬時間を用いて得られた温度分布のノイズを検出することにより、金型50の内部空間CVを規定する端面E1に当接する物体の有無を判定する。また、
図7および
図8で示したように、超音波検査装置100は、縦波超音波の伝搬時間のノイズや、縦波超音波の伝搬時間を用いて得られた温度分布のノイズを検出することにより、金型50の端面E1でのライデンフロスト現象の発生の有無を判定する。これに対して、超音波検査装置100は、縦波反射波の波形の変化を検出することにより、金型50の内部空間CVを規定する端面E1に当接する物体の有無やライデンフロスト現象の発生の有無を判定してもよい。
【0050】
図9は、第一の実験において、液水WT1が付着していない状態のワークWKの底面E3からの横波反射波の波形を示す説明図である。
図10は、第一の実験において、液水WT1が付着している状態のワークWKの底面E3からの横波反射波の波形を示す説明図である。
図9および
図10に示す波形は、横波超音波センサ84によって検出された結果である。
図9および
図10において、横軸は時間軸であり、縦軸は振幅を示している。
【0051】
図9および
図10には、横波反射波における振幅の最大値と最小値との差SA1および差SA2が示されている。
図9および
図10に示すように、差SA1と差SA2とは略等しく、横波反射波の波形は略同一である。これは、横波超音波がワークWKの底面E3への液水WT1の付着による影響をあまり受けていないことを示している。
【0052】
図11は、第一の実験において、液水WT1が付着していない状態のワークWKの底面E3からの縦波反射波の波形を示す説明図である。
図12は、第一の実験において、液水WT1が付着している状態のワークWKの底面E3からの縦波反射波の波形を示す説明図である。
図11および
図12に示す波形は、縦波超音波センサ82によって検出された結果である。
図11および
図12において、横軸は時間軸であり、縦軸は振幅を示している。
【0053】
図11に示すように、液水WT1が付着していない状態のワークWKの底面E3からの縦波反射波は、第一波形LN11と、第一波形LN11の後に検出され、第一波形LN11よりも振幅の小さい第二波形LN12とを有している。
図11には、第一波形LN11における振幅の最大値と最小値との差LA1が示されている。
図12に示すように、液水WT1が付着している状態のワークWKの底面E3からの縦波反射波は、第一波形LN21と、第一波形LN21の後に検出され、第一波形LN21よりも振幅の小さい第二波形LN22とを有している。
図12には、縦波反射波の波形における振幅の最大値と最小値との差LA2が示されている。
【0054】
図12に示す第一波形LN21での差LA2は、
図11に示す第一波形LN11での差LA1よりも小さい。すなわち、縦波反射波の第一波形での振幅は、ワークWKの底面E3への液水WT1の付着による影響を受けて、小さくなることが分かる。これは、上述したように、ワークWKの底面E3に到達した縦波超音波の一部が、底面E3に付着した液水WT1へ透過することに起因していると考えられる。
【0055】
図12に示す第二波形LN22の振幅は、
図11に示す第二波形LN12の振幅よりも大きい。すなわち、ワークWKの底面E3への液水WT1の付着による影響を受けて、縦波反射波の第二波形に歪みを生じさせていることが分かる。これは、上述したように、縦波超音波の一部が、底面E3に付着した液水WT1内で複数回の反射を繰り返すことに起因していると考えられる。以上のように、金型50の内部空間CVを規定する端面E1に当接する物体の有無やライデンフロスト現象の発生の有無は、縦波反射波の伝搬時間に代えて、またはそれとともに、縦波反射波の第一波形LN11が有する振幅の最大値と最小値と、縦波反射波の第一波形LN21が有する振幅の最大値と最小値との差や、第二波形LN22の有無といった、縦波反射波の波形の変化を用いて判定することもできる。
【0056】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
40…温度検出器、50…金型、60…離型剤射出部、62…離型剤、70…射出装置、72…射出駆動部、74…スリーブ、76…プランジャ、80…超音波送受信装置、81,83…接触媒質、82…縦波超音波センサ、84…横波超音波センサ、86…高速AD変換器、90…制御装置、94…伝搬時間取得部、96…第二情報取得部、98…第一情報取得部、100…超音波検査装置、200…ダイカストマシン、CV…内部空間、DW…伝搬方向、FE…物体、PD…成形材料、SY…噴射器、T1~T8…熱電対、WK…ワーク、WT1,WT2…液水