(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112631
(43)【公開日】2022-08-03
(54)【発明の名称】筒状部材の外周面の処理方法
(51)【国際特許分類】
B24C 1/00 20060101AFI20220727BHJP
A63B 53/10 20150101ALI20220727BHJP
B24C 3/32 20060101ALI20220727BHJP
B24C 5/02 20060101ALI20220727BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20220727BHJP
【FI】
B24C1/00 Z
A63B53/10 A
B24C3/32 Z
B24C5/02 B
A63B102:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008493
(22)【出願日】2021-01-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005175
【氏名又は名称】藤倉コンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100166408
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 邦陽
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】庄子 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】坂井 貴充
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀明
(72)【発明者】
【氏名】古川 義仁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 慶吾
【テーマコード(参考)】
2C002
【Fターム(参考)】
2C002AA05
2C002CS05
(57)【要約】
【課題】筒状部材の外周面をバラつきが少なくかつ高精度に処理して塗料の密着性を向上させることができる筒状部材の外周面の処理方法を得る。
【解決手段】本実施形態の筒状部材の外周面の処理方法は、筒状部材の外周面にブラスト処理を施すブラスト処理工程において、筒状部材の外周面の複数の異なる方向からブラスト処理を施すものである。ブラスト処理工程は、筒状部材の外周面の複数の異なる方向から、時間をずらして、あるいは同時に、ブラスト処理を施すことができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状部材の外周面にブラスト処理を施すブラスト処理工程において、前記筒状部材の前記外周面の複数の異なる方向から前記ブラスト処理を施す、
ことを特徴とする筒状部材の外周面の処理方法。
【請求項2】
前記ブラスト処理工程は、前記筒状部材の前記外周面の複数の異なる方向から時間をずらして前記ブラスト処理を施す、
ことを特徴とする請求項1に記載の筒状部材の外周面の処理方法。
【請求項3】
前記ブラスト処理工程は、前記筒状部材の前記外周面の複数の異なる方向から同時に前記ブラスト処理を施す、
ことを特徴とする請求項1に記載の筒状部材の外周面の処理方法。
【請求項4】
前記ブラスト処理工程は、前記筒状部材の前記外周面の略等角度間隔の複数の異なる方向から前記ブラスト処理を施す、
ことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載の筒状部材の外周面の処理方法。
【請求項5】
前記ブラスト処理工程は、前記筒状部材の回転を拘束した状態で実行される、
ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の筒状部材の外周面の処理方法。
【請求項6】
前記ブラスト処理工程に加えて、
前記筒状部材を搬送する搬送工程と、
前記筒状部材の前記外周面に洗浄処理を施す洗浄処理工程と、
前記筒状部材の前記外周面に乾燥処理を施す乾燥処理工程と、
を有することを特徴とする請求項1~請求項5のいずれかに記載の筒状部材の外周面の処理方法。
【請求項7】
前記ブラスト処理工程は、ウォーターブラスト処理工程である、
ことを特徴とする請求項1~請求項6のいずれかに記載の筒状部材の外周面の処理方法。
【請求項8】
前記筒状部材は少なくとも2層以上積層されたFRPであって、最外層がFRPである、
ことを特徴とする請求項1~請求項7のいずれかに記載の筒状部材の外周面の処理方法。
【請求項9】
前記筒状部材はテーパ形状であることを特徴とする請求項1~請求項8のいずれかに記載の筒状部材の外周面の処理方法。
【請求項10】
前記筒状部材はゴルフクラブシャフトである、
ことを特徴とする請求項1~請求項9のいずれかに記載の筒状部材の外周面の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状部材の外周面の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スポーツ用具等の本体の表面に意匠性を向上させる塗膜層を形成する場合には塗膜層を複数積層させる技術が開示されている。また、塗膜層間の密着性を向上させるために投錨効果などを期待した研磨処理を行うことが挙げられているが、塗膜層間の密着性が十分でないことや光輝材等を含んだ塗膜層の場合、光輝材が塗膜層間の密着性を阻害することが課題として挙げられている。特許文献1では塗料に密着付与材を添加することで塗膜を複数積層させた場合の塗膜層間の剥離等を防止する塗料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば、筒状部材の外周面をバラつきが少なくかつ高精度に処理して塗料の密着性を向上させるという観点において、従来技術はまだ不十分であり、改良の余地があった。
【0005】
本発明は、以上の問題意識に基づいてなされたものであり、筒状部材の外周面をバラつきが少なくかつ高精度に処理して塗料の密着性を向上させることができる筒状部材の外周面の処理方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態の筒状部材の外周面の処理方法は、筒状部材の外周面にブラスト処理を施すブラスト処理工程において、前記筒状部材の前記外周面の複数の異なる方向から前記ブラスト処理を施す、ことを特徴とする。
【0007】
前記ブラスト処理工程は、前記筒状部材の前記外周面の複数の異なる方向から時間をずらして前記ブラスト処理を施すことができる。
【0008】
前記ブラスト処理工程は、前記筒状部材の前記外周面の複数の異なる方向から同時に前記ブラスト処理を施すことができる。
【0009】
前記ブラスト処理工程は、前記筒状部材の前記外周面の略等角度間隔の複数の異なる方向から前記ブラスト処理を施すことができる。
【0010】
前記ブラスト処理工程は、前記筒状部材の回転を拘束した状態で実行することができる。
【0011】
本実施形態の筒状部材の外周面の処理方法は、前記ブラスト処理工程に加えて、前記筒状部材を搬送する搬送工程と、前記筒状部材の前記外周面に洗浄処理を施す洗浄処理工程と、前記筒状部材の前記外周面に乾燥処理を施す乾燥処理工程と、を有することができる。
【0012】
前記ブラスト処理工程は、ウォーターブラスト処理工程とすることができる。
【0013】
前記筒状部材は少なくとも2層以上積層されたFRPであって、最外層をFRPとすることができる。
【0014】
前記筒状部材はテーパ形状とすることができる。
【0015】
前記筒状部材はゴルフクラブシャフトとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本実施形態によれば、筒状部材の外周面をバラつきが少なくかつ高精度に処理して塗料の密着性を向上させることができる筒状部材の外周面の処理方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ゴルフクラブシャフト及びゴルフクラブの一例を示す図である。
【
図2】ゴルフクラブシャフトの外周面の処理方法を実行する装置概略図である。
【
図3】一次ブラスト処理工程と二次ブラスト処理工程の第1の例を示す図である。
【
図4】一次ブラスト処理工程と二次ブラスト処理工程の第2の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本実施形態に係る筒状部材の外周面の処理方法の適用対象の一例であるゴルフクラブシャフト(筒状部材)10及びゴルフクラブ20の一例を示す図である。ゴルフクラブシャフト10の先端側(チップ側)にヘッド30を装着し、ゴルフクラブシャフト10の基端側(バット側)にグリップ40を装着することで、ゴルフクラブ20が完成する。なお、
図1では、ヘッド30としてアイアンヘッドを用いたアイアンクラブを例示したが、ヘッド30としてドライバーヘッドを用いたドライバークラブ、ヘッド30としてパターヘッドを用いたパタークラブにも、本実施形態は適用可能である。
【0019】
ゴルフクラブシャフト10は、例えば、強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグを複数層巻回して熱硬化させてなるFRP(Fiber Reinforced Plastics:繊維強化プラスチック)製のゴルフクラブシャフトである。プリプレグとしては、例えば、繊維方向が所定方向に引き揃えられたプリプレグを用いることができる。また、プリプレグとして、強度や剛性に対応して角度層を設けてもよく、プリプレグ間または最内層に金属や樹脂などを設けてもよい。例えば、ゴルフクラブシャフト(筒状部材)10は、少なくとも2層以上積層されたFRPであって、最外層がFRPであってもよい。なお、ここで言う「最外層」は、本実施形態による筒状部材の外周面の処理方法を施す前の「筒状部材」及び「ゴルフクラブシャフト」の最外層を意味しており、より具体的には、後述する下塗り(下塗装)、上塗り(上塗装)、ウォーターブラスト処理および最終的な塗装を行う前の「筒状部材」及び「ゴルフクラブシャフト」の最外層を意味している。なお、使用するプリプレグの枚数、種類、巻回数(プライ数)には自由度があり、種々の設計変更が可能である。つまり、本実施形態に係る筒状部材の外周面の処理方法を適用する前のゴルフクラブシャフト10の構成は問わない(当業者が適宜選択可能である)。
【0020】
ゴルフクラブシャフト10は、基端側(バット側)から先端側(チップ側)に向かって徐々に縮径するテーパ形状を有している(
図1ではゴルフクラブシャフト10のテーパ形状を誇張して描いている)。
【0021】
本実施形態では、ゴルフクラブシャフト10の外周面をバラつきが少なくかつ高精度に処理して塗料の密着性を向上させるために、当該ゴルフクラブシャフト10の外周面にウォーターブラスト処理(ブラスト処理)が施される。ウォーターブラスト処理は、ウェットブラスト処理と読み替えられてもよい。
【0022】
具体的には、ゴルフクラブシャフト10の外周面に下塗り(下塗装)を施した後に、ウォーターブラスト処理を施して、上塗り(上塗装)を施す。上塗り(上塗装)は、複数回に分けて施すのが普通であり、その場合、1回目の上塗り(上塗装)を施した後にウォーターブラスト処理を施し、2回目の上塗り(上塗装)を施した後にウォーターブラスト処理を施すといった流れを繰り返す。なお、ゴルフクラブシャフト10の外周面に下塗り(下塗装)を施す前に、通常知られる研磨処理を施してもよい。
【0023】
ゴルフクラブシャフト10は、上述した下塗り(下塗装)と上塗り(上塗装)とウォーターブラスト処理を繰り返した後に最終的な塗装を行うことで完成品となるが、本明細書における「筒状部材」及び「ゴルフクラブシャフト」は、最終的な塗装を行っていない状態を前提としている。本実施形態のゴルフクラブシャフト10は、塗装不良を防止する(塗料の密着性を高める)ことを目的の1つとしているが、ここで言う塗装(塗料)は、最終的な塗装を意味するものではなく、ウォーターブラスト処理を介在させて行う下塗り(下塗装)と上塗り(上塗装)を意味している。
【0024】
ウォーターブラスト処理とは、粒子、液体、空気の3要素を使用した表面処理工法である。粒子は、処理対象の表面を削ったり、叩いたり、研掃したりする研磨材としての機能を担い、例えば、セラミック、樹脂、金属などの種類から選択することができる。液体は、粒子を処理対象まで送り込む機能、冷却機能、付着物や削りクズの除去機能を担うとともに、水膜効果を発揮するためのものである。空気は、粒子と液体を加速する機能、液体を霧状にする機能を担うものである。ウォーターブラスト処理は、例えば、粒子の大きさ、形、材質などの選択範囲が広い、流体制御のコントロール性が高い、粒子の残渣が少ない等の特長(技術的優位性)を有している。
【0025】
ウォーターブラスト処理によれば、投射された研磨材が処理対象の表面の薄皮一枚を異物ごとサブミクロンレベルで削り取ると同時に、水が処理対象の表面を洗い流すことで、付着した粒子の材質を問わずに、粒子の残渣が少なくなり通常知られる研磨処理等と比較して、除去(洗浄)処理を簡素化することができる。さらに、処理対象の表面に均一かつ微細な凹凸を付けて梨地(すりガラスの表面のような状態)を作り出す表面粗化効果により、処理対象の表面の密着性の向上(塗料の密着性の向上)を図ることができる。
【0026】
本実施形態のゴルフクラブシャフト(筒状部材)10の外周面の処理方法は、以下に述べるコンセプトに基づいて完成されたものである。
【0027】
例えば、従来技術では、筒状部材を回転させながら、やすり等の研磨を行う工具を直接筒状部材に接触させて表面処理を行っていた。この場合、筒状部材が回転しているため、らせん状に研磨痕がつくことや、筒状部材がテーパ形状である場合には、全長の表面粗さが均一でなく、その上に塗装などを行った際に、表面粗さの不均一に起因した塗装ムラや塗装不良等の塗装の不具合が発生していた。
【0028】
これに対して、本実施形態では、ブラスト処理を選択し、直接筒状部材に触れずに表面処理が行えること、筒状部材を固定(回転拘束)しているため、らせん状の研磨痕なく処理ができること、直接筒状部材に触れずに処理が行えるため、全長に対して表面粗さが従来と比較して均一であることで、前記課題を解決することができる。なお、上述したように、ブラスト処理の中でも、ウォーターブラストは研磨剤を水と空気と合わせて噴射するため、筒状部材の表面に研磨粉等が残存しにくく、その後の洗浄処理などが容易である。さらに、本実施形態では、対象となる筒状部材がテーパ形状であっても、長さ方向に対してバラつきが少なく表面処理を行うことができる。その結果、筒状部材全体に対して塗装の不具合を解消することができる。
【0029】
本実施形態では、上記のウォーターブラスト処理(ウェットブラスト処理)を含んだ各種処理工程を「ゴルフクラブシャフト10の外周面の処理方法」と総称する。
【0030】
図2は、ゴルフクラブシャフト10の外周面の処理方法を実行する装置概略図である。ゴルフクラブシャフト10は、
図2の右側から左側に搬送されながら、各種の処理工程が実行される。以下の説明では、ウォーターブラスト処理を単にブラスト処理と呼ぶ。
【0031】
図2に示すように、ゴルフクラブシャフト10の外周面の処理方法を実行する装置は、一次ブラスト処理工程を実行するための一次ブラスト処理領域(一次ブラスト処理室)100と、二次ブラスト処理工程を実行するための二次ブラスト処理領域(二次ブラスト処理室)200と、洗浄処理工程を実行するための洗浄処理領域(洗浄処理室)300と、乾燥処理工程を実行するための乾燥処理領域(乾燥処理室)400と、を有している。
【0032】
一次ブラスト処理領域100と二次ブラスト処理領域200と洗浄処理領域300と乾燥処理領域400は、密閉空間を画成するチャンバー(図示略)の内部に配置されている。また、一次ブラスト処理領域100と二次ブラスト処理領域200と洗浄処理領域300と乾燥処理領域400は、上記のチャンバーの内部において、仕切りによって区画されていてもよいし、区画されていなくてもよい。
【0033】
本明細書において、「処理領域」は、「チャンバー」及び「処理室」を包括した上位概念で使用する文言(特許請求の範囲の構成要件)である。すなわち、複数の処理領域は、各処理領域が区画されているか否かを問わない、当該処理が行われる領域の意味で使用される。これに対して、チャンバー及び処理室は、各処理領域が区画されている場合に限定して解釈されてもよい。また、チャンバー及び処理室は、互いに読替可能な文言(構成要件)であってもよい。
【0034】
ゴルフクラブシャフト10は、横向き(軸線を水平方向に向けた状態)又は縦向き(軸線を鉛直方向に向けた状態)の姿勢を維持しながら、搬送機構(図示略)によって、一次ブラスト処理領域100、二次ブラスト処理領域200、洗浄処理領域300、乾燥処理領域400の順に搬送される。すなわち、ブラスト処理工程(一次ブラスト処理工程、二次ブラスト処理工程)と洗浄処理工程と乾燥処理工程は、搬送工程の実行中に実行される。
【0035】
また、ゴルフクラブシャフト10は、回転拘束機構(図示略)によって、当該ゴルフクラブシャフト10の回転を拘束した状態で、一次ブラスト処理領域100、二次ブラスト処理領域200、洗浄処理領域300、乾燥処理領域400の順に搬送される。回転拘束機構は、図示を省略した搬送機構に設けられていてもよい。すなわち、搬送工程とブラスト処理工程(一次ブラスト処理工程、二次ブラスト処理工程)と洗浄処理工程と乾燥処理工程は、ゴルフクラブシャフト10の回転を拘束した状態で実行される。
【0036】
一次ブラスト処理領域100(一次ブラスト処理工程)では、ゴルフクラブシャフト10の外周面の一部分の領域にブラスト処理を施し、二次ブラスト処理領域200(二次ブラスト処理工程)では、ゴルフクラブシャフト10の外周面の他部分の領域にブラスト処理を施す。
【0037】
図3A、
図3Bは、一次ブラスト処理工程と二次ブラスト処理工程の第1の例を示す図であり、
図4A、
図4Bは、一次ブラスト処理工程と二次ブラスト処理工程の第2の例を示す図である。
図3A、
図3B、
図4A、
図4Bに示すように、ゴルフクラブシャフト10の外周面は、90°間隔(等角度間隔)の4つの異なる領域10A、10B、10C、10Dに区画されている。
【0038】
図3Aの一次ブラスト処理工程では、ゴルフクラブシャフト10の外周面の領域10Aの近傍に位置するノズル(図示略)を利用して、ゴルフクラブシャフト10の外周面の領域10Aにブラスト処理を施すとともに、ゴルフクラブシャフト10の外周面の領域10Cの近傍に位置するノズル(図示略)を利用して、ゴルフクラブシャフト10の外周面の領域10Cにブラスト処理を施す。
【0039】
図3Bの二次ブラスト処理工程では、ゴルフクラブシャフト10の外周面の領域10Bの近傍に位置するノズル(図示略)を利用して、ゴルフクラブシャフト10の外周面の領域10Bにブラスト処理を施すとともに、ゴルフクラブシャフト10の外周面の領域10Dの近傍に位置するノズル(図示略)を利用して、ゴルフクラブシャフト10の外周面の領域10Dにブラスト処理を施す。これにより、ゴルフクラブシャフト10の外周面の全域にブラスト処理が施される。
【0040】
図4Aの一次ブラスト処理工程では、ゴルフクラブシャフト10の外周面の領域10Aの近傍に位置するノズル(図示略)を利用して、ゴルフクラブシャフト10の外周面の領域10Aにブラスト処理を施すとともに、ゴルフクラブシャフト10の外周面の領域10Dの近傍に位置するノズル(図示略)を利用して、ゴルフクラブシャフト10の外周面の領域10Dにブラスト処理を施す。
【0041】
図4Bの二次ブラスト処理工程では、ゴルフクラブシャフト10の外周面の領域10Bの近傍に位置するノズル(図示略)を利用して、ゴルフクラブシャフト10の外周面の領域10Bにブラスト処理を施すとともに、ゴルフクラブシャフト10の外周面の領域10Cの近傍に位置するノズル(図示略)を利用して、ゴルフクラブシャフト10の外周面の領域10Cにブラスト処理を施す。これにより、ゴルフクラブシャフト10の外周面の全域にブラスト処理が施される。
【0042】
図3A、
図3B、
図4A、
図4Bでは、説明の便宜上の理由により、ゴルフクラブシャフト10の外周面のうちブラスト処理が施された部分を黒い太字の円弧で塗りつぶすように誇張して描いている。
【0043】
このように、ブラスト処理工程(一次ブラスト処理工程、二次ブラスト処理工程)では、ゴルフクラブシャフト10の外周面の複数の異なる方向からブラスト処理を施す。より具体的に、ブラスト処理工程(一次ブラスト処理工程、二次ブラスト処理工程)では、ゴルフクラブシャフト10の外周面の90°間隔の4つの異なる方向からブラスト処理を施す。
【0044】
その際、
図3Aの一次ブラスト処理工程における領域10A、10C、
図3Bの二次ブラスト処理工程における領域10B、10D、
図4Aの一次ブラスト処理工程における領域10A、10D、
図4Bの二次ブラスト処理工程における領域10B、10Cに注目すると、ブラスト処理工程は、ゴルフクラブシャフト10の外周面の複数の異なる方向から時間をずらしてブラスト処理を施している。
【0045】
さらに、
図3Aの一次ブラスト処理工程における領域10A、10Cと
図3Bの二次ブラスト処理工程における領域10B、10Dとの関係に注目すると、ブラスト処理工程は、ゴルフクラブシャフト10の外周面の複数の異なる方向から同時にブラスト処理を施している。同様に、
図4Aの一次ブラスト処理工程における領域10A、10Dと
図4Bの二次ブラスト処理工程における領域10B、10Cとの関係に注目すると、ブラスト処理工程は、ゴルフクラブシャフト10の外周面の複数の異なる方向から同時にブラスト処理を施している。
【0046】
このように、本実施形態では、ゴルフクラブシャフト10の外周面に対するブラスト処理を物理的/時間的の両方の観点から分割している。これに対し、ゴルフクラブシャフト10の外周面に対するブラスト処理を時間的に分割せずに物理的にだけ分割する変形例も可能である。すなわち、一次ブラスト処理工程と二次ブラスト処理工程を統合して単一のブラスト処理工程とした上で、当該単一のブラスト処理工程において、ゴルフクラブシャフト10の外周面の複数の異なる方向から時間をずらしてブラスト処理を施している。
【0047】
あるいは、ブラスト処理工程を一次ブラスト処理工程と二次ブラスト処理工程と三次ブラスト処理工程と四次ブラスト処理工程に分割して、各ブラスト処理工程において、ゴルフクラブシャフト10の外周面の領域10A~10Dに1つずつブラスト処理を施してもよい。あるいは、ブラスト処理工程を一次ブラスト処理工程と二次ブラスト処理工程と三次ブラスト処理工程に分割して、1つのブラスト処理工程で、ゴルフクラブシャフト10の外周面の領域10A~10Dのうちの2つにブラスト処理を施し、残りの2つのブラスト処理工程で、ゴルフクラブシャフト10の外周面の領域10A~10Dのうちの残りの2つに1つずつブラスト処理を施してもよい。
【0048】
図2に戻って、洗浄処理領域300(洗浄処理工程)では、ブラスト処理が施されたゴルフクラブシャフト10の外周面に洗浄処理を施す。
【0049】
乾燥処理領域400(乾燥処理工程)では、ゴルフクラブシャフト10の外周面に乾燥処理を施す。乾燥処理が終了したゴルフクラブシャフト10は、装置(チャンバー)から排出される。
【0050】
装置(チャンバー)から排出されたゴルフクラブシャフト10の外周面には塗装処理が実行される。ここで、ゴルフクラブシャフト10の外周面は、ブラスト処理(一次ブラスト処理工程、二次ブラスト処理)、洗浄処理、乾燥処理を含んだ円滑かつ高精度な処理が行われているので、ゴルフクラブシャフト10の外周面に対する塗料の密着性を向上させることができる。また、通常、塗装処理は1回で終わらず、複数回繰り返して行われるため、重ね塗りが必要なゴルフクラブシャフト10については、再び、装置(チャンバー)に導入して、上述した一連の処理工程を実行することになる。
【0051】
例えば、従来のベルト研磨による外周面処理では、ゴルフクラブシャフト(筒状部材)を回転させながらベルト表面に押し当てなければならないので、ワークであるゴルフクラブシャフトがガイド周辺に干渉(接触)して傷が発生するおそれがある。また、微細な研磨が難しいため、ワークであるゴルフクラブシャフトを過度に削り落として下地が露出するおそれがある。その点、本実施形態では、ゴルフクラブシャフトに非干渉(非接触)で傷を発生させることなく、ウォーターブラスト処理によって精密な処理を実現することができる。
【0052】
また、従来のベルト研磨による外周面処理では、ベルト研磨後のゴルフクラブシャフトを水洗いし、その後、有機溶剤を使用して残存した研磨粉を拭き取って乾燥させなければならなかった(作業者による手作業が必須であった)。その点、本実施形態では、密閉空間を画成するチャンバー内で、ブラスト処理(一次ブラスト処理工程、二次ブラスト処理)、洗浄処理、乾燥処理が自動的に実行されるので、作業者の負担が大幅に低減されるとともに、粉塵等の異物の付着を防止することができる。
【0053】
以上の実施形態では、筒状部材としてゴルフクラブシャフト10を適用した場合を例示して説明したが、筒状部材として釣竿などのその他の部材を適用することも可能である。つまり、筒状部材の適用対象はゴルフクラブシャフトに限定されることはなく、現在・将来のあらゆる種類の筒状部材に対して、本実施形態の外周面の処理方法を適用することができる。さらに、筒状部材として、円環状の筒状部材、その中でも、軸方向に一定径を有する筒状部材、又は、軸方向に縮径・拡径するテーパ形状を有する筒状部材を適用してもよい。
【0054】
以上の実施形態では、ゴルフクラブシャフト10の外周面にウォーターブラスト処理を施す場合を例示して説明したが、ウォーターブラスト処理以外のブラスト処理(例えば水を用いない乾式ブラスト処理)を適用することも可能である。つまり、粒子(研磨材、研磨粉)を吹き付けてワークの表面を荒らすブラスト処理全般に適用可能である。
【0055】
以上の実施形態では、ブラスト処理工程において、ゴルフクラブシャフト10の外周面の90°間隔の4つの異なる方向からブラスト処理を施す場合を例示して説明した。しかし、ゴルフクラブシャフト10の外周面の略等角度間隔の複数の異なる方向からブラスト処理を施せばよく、例えば、ゴルフクラブシャフト10の外周面の120°間隔の3つの異なる方向からブラスト処理を施してもよいし、ゴルフクラブシャフト10の外周面の72°間隔の5つの異なる方向からブラスト処理を施してもよい。あるいは、ゴルフクラブシャフト10の外周面の複数の異なる方向からブラスト処理を施せばよく、必ずしも等間隔でなくてもよい。
【0056】
以上の実施形態では、搬送処理(搬送工程)、ブラスト処理(一次ブラスト処理工程、二次ブラスト処理)、洗浄処理、乾燥処理をゴルフクラブシャフトの回転を拘束した状態で実行する場合を例示して説明したが、ゴルフクラブシャフトを回転させた状態で一連の処理を実行してもよい。
【0057】
以上の実施形態では、ブラスト処理工程と洗浄処理工程と乾燥処理工程を、搬送工程の実行中に実行する場合を例示して説明した。しかし、ブラスト処理工程と洗浄処理工程と乾燥処理工程の一部又は全部を、搬送工程の実行中以外に実行してもよい。
【0058】
以上の実施形態では、搬送工程とブラスト処理工程と洗浄処理工程と乾燥処理工程を、筒状部材の回転を拘束した状態で実行する場合を例示して説明した。しかし、ブラスト処理工程だけを、筒状部材の回転を拘束した状態で実行し、搬送工程と洗浄処理工程と乾燥処理工程を、筒状部材の回転を拘束しない状態で実行してもよい。すなわち、搬送工程とブラスト処理工程と洗浄処理工程と乾燥処理工程のうち、少なくともブラスト処理工程を、筒状部材の回転を拘束した状態で実行してもよい。
【符号の説明】
【0059】
10 ゴルフクラブシャフト(筒状部材)
10A 10B 10C 10D ゴルフクラブシャフトの外周面の領域
20 ゴルフクラブ
30 ヘッド
40 グリップ
100 一次ブラスト処理領域(一次ブラスト処理室)
200 二次ブラスト処理領域(二次ブラスト処理室)
300 洗浄処理領域(洗浄処理室)
400 乾燥処理領域(乾燥処理室)