IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 日立パワーデバイスの特許一覧

特開2022-112689半導体装置の製造方法、半導体装置、半導体モジュールおよび電力変換装置
<>
  • 特開-半導体装置の製造方法、半導体装置、半導体モジュールおよび電力変換装置 図1
  • 特開-半導体装置の製造方法、半導体装置、半導体モジュールおよび電力変換装置 図2
  • 特開-半導体装置の製造方法、半導体装置、半導体モジュールおよび電力変換装置 図3
  • 特開-半導体装置の製造方法、半導体装置、半導体モジュールおよび電力変換装置 図4
  • 特開-半導体装置の製造方法、半導体装置、半導体モジュールおよび電力変換装置 図5
  • 特開-半導体装置の製造方法、半導体装置、半導体モジュールおよび電力変換装置 図6
  • 特開-半導体装置の製造方法、半導体装置、半導体モジュールおよび電力変換装置 図7
  • 特開-半導体装置の製造方法、半導体装置、半導体モジュールおよび電力変換装置 図8
  • 特開-半導体装置の製造方法、半導体装置、半導体モジュールおよび電力変換装置 図9
  • 特開-半導体装置の製造方法、半導体装置、半導体モジュールおよび電力変換装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112689
(43)【公開日】2022-08-03
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法、半導体装置、半導体モジュールおよび電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/329 20060101AFI20220727BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20220727BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20220727BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
H01L29/91 B
H01L29/91 D
H01L29/06 301D
H01L29/06 301V
H01L29/91 J
H01L21/265 W
H01L21/265 602B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008581
(22)【出願日】2021-01-22
(71)【出願人】
【識別番号】000233273
【氏名又は名称】株式会社 日立パワーデバイス
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】古川 智康
(72)【発明者】
【氏名】森塚 翼
(57)【要約】
【課題】大口径(8inch以上)ウェハを用いることが可能なIGBT及びPINダイオード等の縦型半導体装置のフィールドストップ層(nバッファー層)の製造性を改善できる半導体装置、及び、それを用いた電力変換装置を提供する。
【解決手段】
本発明の半導体装置の製造方法は、第1導電型のドリフト層(101)の主面側のパターンを形成後、第2主面側から所定の深さにイオンを照射する工程と、イオン照射後、300℃~450℃、60秒以下で加熱するアニール処理によってイオンをドナー化してフィールドストップ層(108)を形成する工程と、イオンを照射する工程で発生した結晶欠陥を除去するよう第2主面側から半導体基板の厚さを所定の値まで低減する工程を特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、前記半導体基板の第1主面に形成された第2導電型層と、前記半導体基板の前記第1主面と反対側の第2主面に形成された第1導電型ドリフト層と、前記第1導電型ドリフト層の前記第2主面側の面に形成され、前記第1導電型ドリフト層よりも不純物濃度が高い第1導電型のフィールドストップ層とを有する半導体装置の製造方法であって、
前記第2主面側から所定の深さにイオンを照射する工程と、
イオン照射後、300℃~450℃、60秒以下で加熱するアニール処理によって前記イオンをドナー化して前記フィールドストップ層を形成する工程と、
前記イオンを照射する工程で発生した結晶欠陥を除去するよう前記第2主面側から前記半導体基板の厚さを所定の値まで低減する工程とを有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記半導体基板の厚さを所定の値まで低減する工程後において、前記第1導電型ドリフト層から前記第2主面側に向かって、前記フィールドストップ層のキャリア濃度が正の傾きをもって増加することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、前記フィールドストップ層を形成する工程における前記アニール処理は、1秒以上であることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1において、前記半導体基板の厚さを所定の値まで低減する工程後の前記フィールドストップ層のキャリア濃度が1×1015cm-3以下であることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1において、前記半導体基板の厚さを所定の値まで低減する工程後の前記フィールドストップ層の厚みが10μm以上であることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1において、前記半導体基板の厚さを所定の値まで低減する工程後の前記フィールドストップ層のキャリア濃度とイオン濃度との比であるドナー活性化率が、0.5%以上であることを特徴する半導体装置の製造方法。
【請求項7】
請求項1において、前記半導体基板のサイズが8インチ以上であることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項を用いて製造した半導体装置。
【請求項9】
請求項8に記載の前記半導体装置を用いた半導体モジュール。
【請求項10】
一対の直流端子と、
交流出力の相数と同数の交流端子と、
前記一対の直流端子間に接続され、スイッチング素子と前記スイッチング素子に逆並列に接続されたダイオードとで構成された並列回路が2個直列に接続された、交流出力の相数と同数のスイッチングレッグと、
前記スイッチング素子を制御するゲート回路と、を有する電力変換装置であって、
前記スイッチング素子および前記ダイオードの少なくとも一方は、請求項1から7のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法で製造された半導体装置であることを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法、半導体装置、半導体モジュールおよび電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)及びPINダイオード(p-Intrinsic-n Diode)等の半導体装置は、縦構造を有している。IGBTでは、N型のドリフト層、N型のバッファ層およびP型のコレクタ層を含む領域が縦構造となり、ダイオードでは、N型のドリフト層、N型のバッファ層およびNカソード層を含む領域が縦構造となる。
【0003】
縦構造領域を有するIGBTまたはダイオード等の縦型の半導体装置では、半導体装置を製造するSiウェハとして、低コスト化のため、エピタキシャル成長で製造されるウェハに代えて、FZ(Floating-Zone)法で製造されるウェハが用いられている。また、近年、Siウェハが大口径化している。上記半導体装置の低オン電圧化、低スイッチチング損失化のために、n型のドリフト層を薄くすることが検討されている。
【0004】
上記半導体装置の低オン電圧化、低スイッチチング損失化のために、半導体装置を構成するn型のドリフト層を薄くすることが有効であるが、スイッチングノイズに関しては、スイッチング時の電流降下が急速で、特にテイル電流と呼ばれる蓄積キャリアの自然消滅期間が確保されないと、急峻に電流消滅し、主回路内の寄生インダクタンスに比例するサージ電圧(L・d/d)が発生し、数MHz以上の振動数で発振する課題があった。これらノイズは、モータ絶縁や過電圧素子破壊、素子誤動作などの悪影響が懸念される。
【0005】
これら低スイッチング損失化と低スイッチングノイズ化の課題解決には、例えば以下のような従来技術が開示されている。
【0006】
特許文献1には、n型層に隣接して厚さ30μm以上の領域にわたって連続して酸素サーマルドナーからなる深いnバッファ層を形成し、テイル電流の急激な減小による発振現象を抑制する技術が掲載されている。また、特許文献2には、深いnバッファ層を形成する技術として、深いnバッファ層のドーパントにリン(P)を適用するものがあった。特許文献3には、深いnバッファ層を形成する技術として、水素(プロトン)イオン照射とその後アニール処理を適用するものもあった。特許文献4には、深いnバッファ層を形成する技術として、複数回のプロトン照射によりnバッファ層を数層形成するものがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-56220号公報
【特許文献2】特開2014-146721号公報
【特許文献3】特表2003-533047号公報
【特許文献4】国際公開第2017/146148号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では酸素サーマルドナー生成のため、ウェハ製造初期工程でSi中に酸素元素を1000℃以上の高温長時間で導入する必要があり、ウェハ製造工程の経済性悪化や、大口径(8inch以上)ウェハ適用時ウェハでは、ウェハの自重増加に伴うスリップの発生によるIGBT、ダイオード素子の信頼性劣化が懸念される。さらに、IGBTゲート構造、アノード構造形成後の薄ウェハ加工により、酸素サーマルドナーが削り取られ、生産性が低下するという課題がある。
【0009】
また、特許文献2に記載されているように、nバッファ層のドーパントにリン(P)を適用した場合、特許文献1と同様に長時間の高温アニールが必要であり、生産性低下、スリップの発生による信頼性劣化が懸念される。また、特許文献3および4のように、水素(プロトン)イオン照射とその後の300℃~500℃、30分から5時間のアニール処理による深いnバッファ層を形成する場合、大口径ウェハ適用時にウェハ面内の均熱性の悪化による特性ばらつきや、スループットの低下が課題となる。本発明者の検討によると、生産性向上のためアニール処理を短時間化すると、プロトン照射領域に多量の結晶欠陥が発生し、キャリアのライフタイムを低下させるライフタイムキラーが過剰に発生し、スイッチングノイズの悪化や、耐圧保持時のリーク電流が増大する課題があることがわかった。
【0010】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、大口径(8inch以上)ウェハを用いることが可能なIGBT及びPINダイオード等の縦型半導体装置のフィールドストップ層(nバッファー層)の製造性を改善できる半導体装置の製造方法、半導体装置、及び、それを用いた電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、半導体基板と、半導体基板の第1主面に形成された第2導電型層と、半導体基板の第1主面と反対側の第2主面に形成された第1導電型ドリフト層と、第1導電型ドリフト層の第2主面側の面に形成され、第1導電型ドリフト層よりも不純物濃度が高い第1導電型のフィールドストップ層とを有する半導体装置の製造方法であって、第2主面側から所定の深さにイオンを照射する工程と、イオン照射後、300℃~450℃、60秒以下で加熱するアニール処理によってイオンをドナー化してフィールドストップ層を形成する工程と、イオンを照射する工程で発生した結晶欠陥を除去するよう第2主面側から半導体基板の厚さを所定の値まで低減する工程とを有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記半導体装置の製造方法を用いて製造した半導体装置、半導体モジュールおよび電力変換装置を提供する。
【0013】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、大口径(8inch以上)ウェハを用いることが可能なIGBT及びPINダイオード等の縦型半導体装置のフィールドストップ層(nバッファー層)の製造性を改善できる半導体装置の製造方法と、該性製造方法によって製造した半導体装置、モジュールおよび電力変換装置を提供することができる。
【0015】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の半導体装置の製造方法の1例を示すフロー図
図2図1の(h)工程終了後の半導体装置の断面模式図とn型キャリア濃度および軽イオン濃度を示すグラフ
図3図1の(f)工程のB-B´線断面におけるn型キャリヤ濃度および水素濃度の分布を示すグラフ
図4】リカバリー波形を示すグラフ
図5】リーク電流波形を示すグラフ
図6】キャリアライフタイムとn型キャリア濃度との関係を示すグラフ
図7】リーク電流不良率とn型フィールドストップ層深さとの関係を示すグラフ
図8】60秒アニール時のドナー活性化率と温度との関係を示すグラフ
図9】300℃アニール時のドナー活性化率とアニール時間との関係を示すグラフ
図10】本発明の電力変換装置の概略構成を示す回路図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について図面を用いて詳細に説明する。
【0018】
図1は本発明の半導体装置の製造方法の1例を示すフロー図である。図1は半導体装置として、パワー半導体チップのフリーホイールダイオードを製造する工程の一部であり、半導体装置の断面構造とともに製造フローを図示している。なお、半導体装置として、縦方向に電流を流すIGBT及びMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)等においても、同様に適用することができる。
【0019】
図1(a)において、ダイオードを作製するための半導体基板としてSiウェハ101を準備する。本発明は、後述する通り、8inch以上のウェハサイズの半導体装置を製造するのに好適であるが、それより小さいウェハサイズの半導体装置を製造するのに適用することもできる。ウェハサイズは、例えば8inch、Siウェハ厚725μmおよび12inch、Siウェハ厚775μmとすることができる。ここで、Siウェハには、耐圧に応じた比抵抗を有するウェハを用いることができる。例えば、1200Vの耐圧をもつダイオードでは55Ωcm程度、3.3kVの耐圧をもつダイオードでは250Ωcm程度とすることができる。以下、図1(a)~(h)において、Siウェハ101に各層を形成した構造を「半導体基板」と称することもある。図1において、Siウェハ101の上面側を第1主面、下面側を第2主面と呼ぶこととする。
【0020】
図1(a)に図示しない最初の工程で、Siウェハ101(第1導電型のn-ドリフト層)の表面全体を熱酸化することにより酸化膜を形成する。次に、アノードp型(第2導電型)半導体層102を設ける領域を形成するためのフォトリソグラフィ工程を行う。このフォトリソグラフィ工程では、Siウェハ101の表面にレジスト材料を塗布、露光及び現像することで、アノードp型半導体層102領域が開口したレジストを形成する。その後、p型不純物をイオン注入する。p型不純物としては、例えば、B(ボロン)が挙げられる。その後、レジストを除去し、不純物を活性化するためのアニール処理を施すことにより、図1(a)に示すようにアノードp型半導体層102が形成される。
【0021】
図1(b)において、Siウェハ101に熱酸化による酸化膜形成し、化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法により、絶縁酸化膜103を堆積し、アノードp型半導体層102とアノード電極を接続するコンタクト部を形成するためのフォトリソグラフィ工程を行う。レジスト材料を塗布、露光、現像して、形成されたレジストをマスクに、絶縁酸化膜103をエッチングすることにより、アノードp型半導体層102とアノード電極とを接続するコンタクト部が形成される。
【0022】
図1(c)において、アルミニウム(Al)またはAl合金からなるアノード電極をスパッタリング法により成膜し、フォトリソグラフィ工程によりレジストをパターニングし、エッチングすることにより、アノード電極104が形成される。このようにして、Siウェハ101の第1主面側に、アノードp型半導体層102およびアノード電極104が形成される。
【0023】
図1(d)において、表面保護膜105を形成する。表面保護膜105の形成法としては、例えば、ポリイミドの前駆体材料と感光材料とを含有する溶液を塗布し、ターミネーション領域を露光して前駆体をポリイミド化することで、表面保護膜105を形成することができる。
【0024】
図1(e)において、Siウェハ101の第2主面側からイオンを照射し、イオン注入層106を形成する。ここで、イオンの照射位置(Siウェハ101の第2主面からの深さ)は、後述するn型(第1導電型)フィールドストップ層(nバッファー層)の厚さを決定するものとなり、耐圧保持時に空乏層到達の十分な防止をする必要があるため、半導体装置の耐圧クラス毎に対応した位置とする。例えば、1200Vの耐圧をもつダイオードでは第2主面から100μm程度の深さが好ましく、3.3kVの耐圧をもつダイオードは400μm程度の深さ位置に照射することが好ましい。
【0025】
なお、イオンの照射の深さは、図示しないが、照射エネルギーの調整またはアブソーバで調整可能である。アブゾーバとして、例えばアルミニウム部材を用いることができる。また、大口径化に伴う自重によるウェハ割れや、過大な反りが発生しない範囲(例えば600μm厚さ)において、Siウェハ101のイオン照射面を予備研磨し、その後イオン照射してもよい。
【0026】
イオンとしては、軽イオンが好ましく、プロトンまたはヘリウムが好ましいが、軽イオンでないイオンとしてもよい。
【0027】
図1(f)において、図1(e)のイオン注入層106にアニール処理を行うことで、照射注入されたイオン原子がドナー化し、n型フィールドストップ層(nバッファー層)108を形成する。ここで、イオン注入層106のアニールは、従来、加熱炉によって300℃~500℃で30分から5時間の処理が必要であり、またウェハの大口径化に伴い、ウェハ面内の均一加熱を十分に行うことが困難であった。本発明では、アニール処理の短時間化およびウェハ面内の均一加熱のため、ウェハを一枚ずつ処理する枚葉式のランプアニール装置で300℃~450℃、60秒以下、N雰囲気中、H雰囲気中またはN/H混合ガス雰囲気中でアニール処理を行い、イオン注入層のドナー化を行う。
【0028】
図3図1の(f)工程のB-B´線断面におけるn型キャリア濃度および水素濃度の分布を示すグラフであり、B-B´線断面のドナー化の様子を示している。イオンとしてプロトン(水素)を注入し、H雰囲気中で400℃のアニール処理している。なお、図3において、10min以上のアニール時間(10min:破線、120min:一点鎖線)は、従来のバッチ式の縦型の熱処理装置で熱処理をした結果である。図3に示すように、アニール時間が10min以上である従来の加熱炉によって熱処理した場合よりも、アニール時間が60sec以下である本発明のランプアニールによって熱処理した場合の方が、n型キャリア濃度の勾配が急になる。
【0029】
図4はリカバリー波形を示すグラフであり、図5はリーク電流波形を示すグラフである。図4および図5中、実線は図1に図示した本発明の実施例に係る製造方法で製造した半導体装置であり、破線は比較例の製造方法で製造した半導体装置である。比較例は、多量のライフタイムキラーが結晶欠陥領域109として残っている場合である。n型フィールドストップ層(nバッファー層)108の形成の過程において、イオン注入方向に対し、ピーク濃度(n型キャリア濃度が最も高くなる濃度)より浅い領域では、ドナー活性率が低下し、多量の結晶欠陥が発生して、キャリアのライフタイムを低下させる多量のライフタイムキラーが存在する結晶欠陥領域109が発生する。図4および図5の破線に示すように、比較例のように多量のライフタイムキラーが結晶欠陥領域109として残っていると、スイッチングノイズの悪化(図4)や、耐圧保持時のリーク電流が増大する課題(図5)があることがわかった。一方、図4および図5の実線で示す本発明の実施例に係る製造方法で製造した半導体装置は、スイッチングノイズの悪化を低減し(図4)、耐圧保持時のリーク電流の増大も防止できていることがわかる(図5)。
【0030】
その後、図示しないが、スイッチング損失低減のため、アノードp型半導体層102が形成されたSiウェハ101の主面側、n型フィールドストップ層108、またはその両方に、個別ライフタイム制御用のイオン注入を、n型フィールドストップ層108の形成とは別に行うことも可能である。
【0031】
図1(g)において、ピーク濃度より浅い領域に形成された結晶欠陥領域109を除去する。例えばバックグラインド及びフッ酸と硝酸の混合液によって削り取ることができる。
【0032】
図6はキャリアライフタイムとn型キャリア濃度との関係を示すグラフである。ここで、最終的なn型フィールドストップ層(nバッファー層、ドナー化層)108は、キャリア濃度が、1×1015cm-3以下で形成することが望ましい。これは、図6に示すように、キャリア濃度が1×1015cm-3を超えると、キャリア濃度が高いほどキャリアライフタイムは急激に短くなる。キャリア濃度を1×1015cm-3以下とすることで、ダイオードの逆回復スイッチング時のnバッファ層内での過剰なキャリアの消滅を防ぎ、テイル電流領域を確保できることでリンギングノイズ発生を抑止可能となる。
【0033】
また、n型フィールドストップ層108の厚みは、発明者の検討によると、10μm以上の深さとすることが好ましい。図7はリーク電流不良率とn型フィールドストップ層深さとの関係を示すグラフ図である。図7に示すように、深さが7μm以下となると、次工程以降の製造プロセスや、検査工程で発生する裏面キズによる耐圧保持時のリーク電流増大が発生し、また、バックグラインド及びフッ酸および硝酸の混合液の加工精度は概ね±3μmであることから、加工バラツキを考慮して10μm以上の深さとすることが好ましい。
【0034】
したがって、図2および図3に示すように、結晶欠陥領域109がなく、n-ドリフト層(Siウェハ101の層)から、第2主面側に向かって、キャリア濃度(n型キャリア濃度)が正の傾きをもって増加するように第2主面側から結晶欠陥領域109と、n型フィールドストップ層108の一部(n型キャリア濃度のピークが除去されるところまで)を所定の値まで除去する必要がある。
【0035】
図8は60秒アニール時のドナー活性化率と温度との関係を示すグラフである。図8は最終的なn型フィールドストップ層108のn型キャリア濃度nとイオン(プロトン)濃度nとの比(n/n)であるドナー活性化率のアニール処理温度依存性を示す。図8に示すように、300℃から450℃の範囲で、活性化率が0.5%以上となっており、特に350℃から400℃の範囲で活性化率が1%以上となり最も活性化率高く、安定している。したがって、アニール処理温度は、300℃から450℃が好ましく、350℃から400℃がより好ましい。アニール処理温度を300℃から450℃とすることで、安定したn型キャリア濃度を有し、また活性化率が高いことからイオン注入量も低減可能で、バラツキが小さく、安価な製造コストで半導体装置を製造可能となる。
【0036】
図9は300℃アニール時のドナー活性化率とアニール時間との関係を示すグラフである。図9に示すように、アニール時間が70sec以下で活性化率が0.5%以上となっている。
【0037】
以上のことから、アニール処理は、300℃から450℃の範囲で、60sec以下で実施することが好ましい。また、時間は1sec以上が好ましい。
【0038】
図1(h)において、半導体基板の第2主面側からn型不純物のイオン注入を行う。n型不純物は、例えばリン(P)やヒ素(As)等が挙げられる。その後、イオン注入したn型不純物を活性化させるためにレーザーアニールを行い、n型半導体層110が形成される。カソード電極111は、スパッタリングにより例えばAlSi合金/チタン(Ti)/ニッケル(Ni)/金(Au)の積層構造で形成する。
【0039】
図2図1の(h)工程終了後の半導体装置の断面模式図とn型キャリア濃度およびイオン濃度を示すグラフである。以上の構成によって、図2に示すn型フィールドストップ層(nバッファー層)108のキャリア濃度は1×1015cm-3以下であって、n型フィールドストップ層厚みが10μm以上、かつ、結晶欠陥領域109がなく、n-ドリフト層(Siウェハ101の層)から第2主面側に向かって、キャリア濃度が正の傾きをもって増加するダイオードが製造可能である。
【0040】
上述した本発明の半導体装置の製造方法によれば、n型フィールドストップ層108に注入したイオンのドナー化をランプアニール熱処理によって行うことで、特に大口径ウェハにおいて、面内を均一に加熱することができる。
【0041】
上述した本発明の半導体装置の製造方法によれば、半導体装置の低オン電圧化、低スイッチング損失化の改善及びスイッチング時のノイズによる高周波発振を抑制し、また素子破壊や劣化要因となる耐圧保持時のリーク電流を低減した半導体装置を提供することができる。
【0042】
なお、図1で説明した工程に加え、大口径ウェハを基材に搭載した状態で半導体装置を製造し、完成後に基材と半導体装置を切り離す工程を追加する場合もあるが、その場合は、この工程を、上述したn型フィールドストップ層108の一部および結晶欠陥領域109を除去する工程と兼ねることができ、製造プロセスを簡略化することができる。
【0043】
図10は本発明の電力変換装置の概略構成を示す回路図である。図10を参照して、本発明の半導体装置を電力変換装置に適用した第2の実施形態について説明する。図10は、本実施形態の電力変換装置500の回路構成の一例と直流電源と三相交流モータ(交流負荷)との接続の関係を示す。
【0044】
本実施形態の電力変換装置500では、上述した本発明の半導体装置の製造方法で製造した半導体装置を、電力スイッチング素子501~506およびダイオード521~526のいずれかまたは全部として用いている。電力スイッチング素子501~506は、例えばIGBTであり、素子521~526はダイオードである。
【0045】
図10に示すように、本実施形態の電力変換装置500は、一対の直流端子であるP端子531、N端子532と、交流出力の相数と同数の交流端子であるU端子533、V端子534、W端子535とを備えている。
【0046】
また、一対の電力スイッチング素子501および502の直列接続からなり、その直列接続点に接続されるU端子533を出力とするスイッチングレッグを備える。また、それと同じ構成の電力スイッチング素子503および504の直列接続からなり、その直列接続点に接続されるV端子534を出力とするスイッチングレッグを備える。また、それと同じ構成の電力スイッチング素子505および506の直列接続からなり、その直列接続点に接続されるW端子535を出力とするスイッチングレッグを備える。
【0047】
電力スイッチング素子501~506からなる3相分のスイッチングレッグは、P端子531、N端子532の直流端子間に接続されて、図示しない直流電源から直流電力が供給される。電力変換装置500の3相の交流端子であるU端子533、V端子534、W端子535は図示しない三相交流モータに三相交流電源として接続されている。
【0048】
電力スイッチング素子501と、電力スイッチング素子501に逆並列に接続されたダイオード521とが並列回路を構成するように接続されている。同様に、電力スイッチング素子502とダイオード522、電力スイッチング素子503とダイオード523、電力スイッチング素子504とダイオード524、電力スイッチング素子505とダイオード525および電力スイッチング素子506とダイオード526とが並列回路を構成するように接続されている。電力スイッチング素子501を含む並列回路と電力スイッチング素子502を含む並列回路とが直列に接続されている。同様に、電力スイッチング素子503を含む並列回路と電力スイッチング素子504を含む並列回路とが直列に接続されており、電力スイッチング素子505を含む並列回路と電力スイッチング素子506を含む並列回路とが直列に接続されている。
【0049】
IGBTからなる電力スイッチング素子501~506のそれぞれのゲートの入力端子には、ゲート回路511~516が接続されており、電力スイッチング素子501~506はゲート回路511~516によりそれぞれ制御される。なお、ゲート回路511~516は統括制御回路(図示せず)によって統括的に制御されている。
【0050】
ゲート回路511~516によって、電力スイッチング素子501~506を統括的に適切に制御して、直流電源の直流電力は、三相交流電力に変換され、U端子533、V端子534、W端子535から出力される。
【0051】
上述した本発明の半導体装置の製造方法を電力変換装置500に適用することで、低オン電圧化、低スイッチチング損失化の改善及びスイッチング時のノイズによる高周波発振を抑制し、また素子破壊や劣化要因となる耐圧保持時のリーク電流を低減した電力変換装置を提供可能である。
【0052】
以上、説明したように、本発明によれば、大口径(8inch以上)ウェハを用いることが可能なIGBT及びPINダイオード等の縦型半導体装置において、フィールドストップ層(nバッファー層)の製造性を改善しつつ、低オン電圧化、低スイッチチング損失化及びスイッチング時のノイズによる高周波発振を抑制し、素子破壊や劣化要因となる耐圧保持時のリーク電流を低減できる半導体装置の製造方法と、該方法を用いて製造した半導体装置、及び、それを用いた電力変換装置を提供することができることが示された。
【0053】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0054】
例えば、本明細書における「第1導電型」を「n型」、「第2導電型」を「p型」として説明したが、「第1導電型」を「p型」、「第2導電型」を「n型」としても良い。
【符号の説明】
【0055】
101…Siウェハ(n-ドリフト層)、102…p型層、103…絶縁酸化膜、104…アノード電極、105…表面保護膜、106…軽イオン注入層、108…n型フィールドストップ層(nバッファー層)、109…結晶欠陥領域、110…n型半導体層、111…カソード電極、500…電力変換装置、501~506…電力スイッチング素子、511~516…ゲート回路、521~526…ダイオード、531…P端子、532…N端子、533…U端子、534…V端子、535…W端子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10