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特開2022-112701CLT免震架台及びそれを有する建物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112701
(43)【公開日】2022-08-03
(54)【発明の名称】CLT免震架台及びそれを有する建物
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20220727BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
E04H9/02 331A
F16F15/04 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008597
(22)【出願日】2021-01-22
(71)【出願人】
【識別番号】505419198
【氏名又は名称】スターツCAM株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(72)【発明者】
【氏名】中西 力
(72)【発明者】
【氏名】栗原 努
(72)【発明者】
【氏名】中山 勝仁
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC22
2E139CA02
2E139CC02
3J048AA02
3J048AA03
3J048BA08
3J048BG04
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】鉄骨製の免震架台に比べてコストが安い木製免震架台を提供する。また、免震架台上の建物の設計に自由度を付加することができる免震架台を提供する。
【解決手段】免震架台5は、免震装置7上に保持され、建物本体3を支えるものである。免震架台5は、水平面に広がるCLT床版51と、免震装置7の支承要素71・73の配列に沿って帯状に延びるCLT補強版53を具備する。CLT補強版53の強軸は、CLT床版51の強軸と直交する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震装置(7)上に保持され、建物本体(3)を支える免震架台(5・105・205)であって、
水平面に広がるCLT床版(51・151・251)と、
前記免震装置(7)の支承要素(71・73・173・271)の配列に沿って帯状に延びる、前記CLT床版(51・151)と前記支承要素(71・73・173・271)との間に配設された、前記CLT床版(51・151・251)の強軸と異なる方向に強軸を有するCLT補強版(53・153・253)と、
を具備することを特徴とするCLT免震架台(5・105・205)。
【請求項2】
前記免震装置(7)の支承要素のうち、水平方向の復元作用を有する支承要素(71)が、積層ゴム層(71f)、並びに、それを上下から挟む上フランジ(71b)及び下フランジ(71j)を有しており、
前記上フランジ(71b)、前記CLT補強版(53)、及び、CLT床版(51)が、締結要素(55)により接合されていることを特徴とする請求項1記載のCLT免震架台(5)。
【請求項3】
前記免震装置(7)の支承要素のうち、水平方向の復元作用を有しない前記支承要素(173)と前記免震架台(105)との接合部において、前記支承要素(173)の上部の鋼板部材(174b)、前記CLT補強版(153)、及び、前記CLT床版(151)が、締結要素(155)により接合されていることを特徴とする請求項1又は2記載のCLT免震架台(105)。
【請求項4】
前記免震架台(205)にかかる鉛直荷重と、前記免震架台を支える免震要素(271)の中心軸とが、水平方向に偏心距離ELズレており、
前記床版(251)の端部(251b)、及び、前記補強版(253)の端部(253b)は、ともに前記鉛直荷重の作用点の下まで延びていることを特徴とする請求項1、2又は3記載の免震架台。
【請求項5】
基礎スラブ(9)と、
該基礎スラブ(9)上に配置された免震装置(7)と、
該免震装置(7)に支持された水平面で移動可能な免震架台(5)と、
該免震架台(5)上に支持された建物本体(3)と、
を備える免震建物(1)であって、
前記免震架台(5)が、請求項1~4いずれか1項記載のCLT免震架台。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直交集成板(Cross Laminated Timber、略称「CLT」)からなる免震架台に関する。特には、鉄骨製の免震架台に比べてコストが安い、あるいは、免震架台上の建物の設計に自由度を付加することができる、などの特性を有するCLT免震架台に関する。
【背景技術】
【0002】
CLTは、木材のひき板を、繊維方向を直交積層させて接着した木質系材料であり、壁や床等の面材に使用し易い建築用材料である。ウェブ資料「CLTとは」(日本CLT協会)によれば、日本国内で製造可能な最大のスギCLTパネルの寸法は、「3m×12m」とのことである。なお、CLTとは異なり、ひき板を、繊維方向を平行積層させて接着した集成材は、 柱や梁等の線材として使用し易い。
【0003】
CLTには、様々なメリット(下記(1)~(4))があり、近年、建築材としての使用を促進しようとする動きがある。上記ウェブ資料によれば、ヨーロッパでは、戸建て住宅はもちろん、中高層(例えば9階)の集合住宅でのCLTの利用も多いとのことである。
【0004】
(1)直交積層なので、木材特有の反り等による寸法誤差が小さい(寸法安定性に優れる)。
(2)ひき板の接着なので、版(板厚)が厚く、耐震性や断熱性が高い。
(3)工場製作により製造されるため、工業化が図れ、現場施工が容易となる。
(4)製材用に不向きな木材を活用できるため、木材使用量を多く出来る。
【0005】
特開2020-139323号公報(特許文献1)の段落0004には、以下の記載がある。
『そして、例えば、形鋼等の金属系材料を梁材として使用することによって建築物としての剛性を確保すると共に、CLT等のスラブ状の木系材料を床材として使用することによって建築物を軽量化することにより、当該建築物の耐震性能および免震性能等を格段に向上させることができる。』
【0006】
特許文献1には、CLTスラブ材の使用により建物を軽量化し、その結果として建物の耐震性能および免震性能を向上させることは記載されている。しかし、免震ゴムなどの免震装置とCLT部材とを組み合わせることや、免震架台(免震装置と建物本体との間の台)にCLT構造物を用いることに関する記載あるいは示唆は、存在しない。現状の免震架台は鉄骨製が一般的である。
【0007】
図10は、現状の一般的な鉄骨製の免震架台を備える建物801の構成を模式的に示す斜視図である(各部は上下に分離させて図示してある)。この免震建物801は、一番下の基礎スラブ809(鉄筋コンクリート製など)、同スラブ809上に配置された免震装置807、同装置807の上に支持された鉄骨製免震架台805、同架台805上に固定支持された建物本体803を備える。免震装置807は、復元積層ゴム(復元支承)871やすべり支承873、ダンパー875などを有する。
【0008】
鉄骨製免震架台805は、H型鋼やチャンネル型鋼などを組み合わせたものである。同鉄骨架台805は、その上に載る建物本体803の柱や壁の位置に応じて、建物本体毎に設計し、組み立てるもの(オーダーメード)であるため、コストが高くなる。また、建物本体のバリエーションに対応する融通性に劣る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2020-139323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、鉄骨製の免震架台に比べてコストが安い木製免震架台を提供することを目的とする。あるいは、免震架台上の建物の設計に自由度を付加することができる免震架台を提供することを目的とする。あるいは、水平方向のあらゆる方向に地震力がかかる免震架台として適した、木製免震架台を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この「課題を解決するための手段」、及び、「特許請求の範囲」においては、添付図各部の参照符号を括弧書きして示すが、これは単に参考のためであって、権利範囲を添付図のものに限定する意図はない。
【0012】
本発明の免震架台(5)は、 免震装置(7)上に保持され、建物本体(3)を支えるものであって、 水平面に広がるCLT床版(51)と、 前記免震装置(7)の支承要素(71・73)の配列に沿って帯状に延びる、前記CLT床版(51)と前記支承要素(71・73)との間に配設された、前記CLT床版(51)の強軸と異なる方向に強軸を有するCLT補強版(53)と、を具備することを特徴とする。
【0013】
現在規格化され量産されているCLTには、強軸・弱軸が存在する(異方性を有する)。例えば5層7プライのCLTの場合(図4参照)、長さ方向にひき板の繊維方向が延びる層(平行層)を5層と、幅方向にひき板の繊維方向が延びる層(直交層)を2層とを、平行層-平行層-直交層-平行層-直交層-平行層-平行層と重ねて接合接着したものである。
【0014】
免震架台は、地震時にあらゆる水平方向に可動であり、あらゆる水平方向に地震力がかかる。このあらゆる水平方向の地震力に対する耐久性を確保するため(CLT材の持つ異方性解消のため)、複数のCLT版の強軸方向を交差させて重ねて、強度・耐久性を有する免震架台を構成した。
【0015】
CLT免震架台は、鉄骨製の免震架台に比べてコストが安い(具体的な数値例については後述する)。また、本発明のCLT免震架台は、上の床版が平面版であるので、建物本体は、床版の上に載るものであれば、壁配置などバリエーションに対応する融通性がある。さらに、CLT建物を免震化することにより、建物の長寿命化や、平易な方法で計算できるCLT建物を実現できる。免震架台をCLTで構築し、一層の木質化を図れる。
【0016】
本発明の免震架台(5)においては、 水平方向の復元作用を有する前記支承要素(71)が、積層ゴム層(71f)、並びに、それを上下から挟む上フランジ(71b)及び下フランジ(71j)を有しており、 前記上フランジ(71b)、前記CLT補強版(53)、及び、CLT床版(51)が、締結要素(55)により接合されていることが好ましい。
【0017】
CLT補強版(53)とCLT床版(51)との接合、及び、CLT免震架台(5)と免震装置(7)との接合を、一式の接合構造で行うことができる。なお、本発明の免震架台(5)においては、 前記免震装置(7)の支承要素(71・73)のうち、水平方向の復元作用を有しない前記支承要素(73・173)と前記免震架台(5)との接合部において、前記支承要素(73・173)の上部の鋼板部材(174b)、前記CLT補強版(53・153)、及び、前記CLT床版(51・151)が、締結要素(155)により接合されていることが好ましい。さらに、CLT補強版(53)とCLT床版(51)とが重なる部位を、エポキシ系などの接着剤で接着することもできる。
【0018】
本発明の免震建物(1)は、 基礎スラブ(底版、9)と、 該基礎スラブ(9)上に配置された免震装置(7)と、 該免震装置(7)に支持された水平面で移動可能な免震架台(5)と、 該免震架台(5)上に支持された建物本体(3)と、 を備え、 前記免震架台(5)が、上記のCLT免震架台(5)であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態に係る建物の免震架台5及びそれを支える免震装置7の全体構成を示す斜視図である。
図2図1の免震架台5の平面図である。
図3図1の建物の基礎9や免震装置(積層ゴム71)、免震架台5、建物本体3の下部構造を模式的に示す断面図である。
図4】代表的なCLT(5層7プライ)の構造を模式的に示す斜視図である。
図5】免震装置71・CLT床版51・補強版53の詳細接合構造の具体例を示す断面図である。
図6】本発明の他の実施の形態に係る建物を示す図であって、(A)は免震架台105の平面図であり、(B)は架台を支える免震装置107の配置を示す平面図である。
図7図6の免震装置107のすべり支承173の周辺部構造を示す模式的断面図である。
図8】CLT免震架台205の偏心荷重試験の様子を示す一部断面図である。
図9】偏心荷重試験の結果の一例のグラフである。
図10】現状の一般的な鉄骨製の免震架台を備える建物801の構成を模式的に示す斜視図である(各部は上下に分離させて図示してある)。
【符号の説明】
【0020】
1;建物、3;建物本体、5;免震架台、7;免震装置、9;基礎スラブ(底版)
31;床(室内床)、33;壁、35;ベランダ床、37;端壁、 ;38
51;CLT床版、51x;座グリ、53;CLT補強版、55;締結要素(ボルト)、
56;ナットあるいはボルトヘッド、57;エポキシ系接着剤、58;上座板
71;支承要素(積層免震ゴム、積層ゴム)、71b;フランジ、71f;積層ゴム層、
71j;下フランジ
73;支承要素(すべり支承)
91;ベタ基礎、93;立ち上がり部(免震装置支持部)、95;外側立ち上がり部
99;アンカーボルト
105;免震架台、107;免震装置、109;ベタ基礎、
151;CLT床版、153;CLT補強版、155;締結要素(ボルト)
171;免震要素(積層ゴム)、173;支承要素(すべり支承)、
174;鉄骨束材、174b; 鋼板部材(フランジ)
193;立ち上がり部(免震装置支持部)
233;建物壁、251;床版、251b;端部、252;座板、253;補強版、253b;端部
258;座板、271;免震要素、
801;建物、803;建物本体、805;鉄骨製免震架台、807;免震装置、809;基礎スラブ
871;復元積層ゴム、873;すべり支承、875;ダンパー
【発明の実施の形態】
【0021】
以下、添付図を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。各図において矢印で示す各方向は、「上」・「下」は地球重力に沿う方向である。「手前」・「奥」・「左」・「右」は、各図において示す平面内の各方向である。
【0022】
図1には、下から上に見て、基礎スラブ9、免震装置7、CLT免震架台5が示されている。図1においては省略されているが、図3に示すように、免震架台5の上には、壁33や床31などを有する建物本体3が載っている。
基礎スラブ(底版)9は、この例では、いわゆるベタ基礎であって、面状の鉄筋コンクリート製構造物である。基礎スラブ9は、略長方形の平面形状を有する。
【0023】
基礎スラブ9の上には、免震装置7の各免震要素71・73が配列されている。四隅の要素71は、積層免震ゴムであり、水平方向の復元力を有する。その他の要素73は、すべり支承(図7参照)である。各免震要素71・73は、図の左右方向に4列に並んで配列されている。各要素の下部は、アンカーボルトで、基礎スラブ9に固定されている。各要素の上部は、後述する構造により、免震架台5に固定されている。
【0024】
免震要素71・73の左右方向の列の上には、補強版53が4枚、載っている。補強版53は、図の左右方向を強軸とするCLT帯板である。各補強版53の間は、開いている。補強版53と免震要素・床版51(上述)との間の接合構造は、図3図7を参照しつつ後述する。
補強版53の上には床版51が載っている。床版51は、図の奥手前方向を強軸とするCLT帯板を、奥手前方向にピッタリ付けて並べた平面状のものである。
【0025】
これらの床版51と補強版53が合わさって、図2の平面図に示すCLT免震架台5を構成する。このように、複数のCLT版を、強軸方向を直交(交差)させて重ねて、免震装置と接合する(接合の具体的方法は後述、免震装置要素と床版との間には必ず補強版が存在する)。免震建物は、地震時にあらゆる水平方向に可動であって、あらゆる水平方向に地震力がかかる。そこで、CLT材の持つ異方性を解消すべく、CLT版を「重ねて」用いることにより、CLT免震架台にあらゆる方向に強軸が存在するので、地震動に耐えられる免震架台を得られる。
【0026】
CLT免震架台は鉄骨製の免震架台に比べてコストが安い。2階戸建て建物の一例で、CLT免震架台の場合、14万円/m2程度になることが期待できる。
【0027】
また、本発明のCLT免震架台は、上の床版が平面版であるので、建物本体は、床版の上に載るものであれば、壁配置などバリエーションに対応する融通性がある。なお、免震装置の中心軸と鉛直荷重のかかる耐力壁や柱の中心軸とがズレている(偏心している)場合におけるCLT免震架台の強度確保については、図8・9を参照しつつ後述する。
【0028】
さらに、CLT建物を免震化することにより、建物の長寿命化や、平易な方法で計算できるCLT建物を実現できるとともに、免震架台をCLTで構築することにより一層の木質化を図れる。
【0029】
次に、図3の断面図を参照しつつ、図1の建物の基礎9や免震架台5、建物3の構造を説明する。この図に示す基礎スラブ9においては、平盤状のベタ基礎91の上に立ち上がり部(免震装置支持部)93が形成されており、同立ち上がり部93は、積層ゴム71を搭載する基台となる。また、基礎スラブ9の端には、外側立ち上がり部95が、低い壁状に形成されている。
【0030】
積層ゴム71は水平移動の復元能力を有する免震要素であり、図1・2に示すように、基礎スラブ9・免震架台5の四隅に設けられている。積層ゴム71は、下面の下フランジ71j、上面の上フランジ71b、両フランジの間の積層ゴム本体71fからなる。上下フランジは、鋼板製である。下フランジ71jは、免震装置支持部93に固定されたアンカーボルト99に固定されている。上フランジ71bは、ボルト55で、CLT免震架台5に接合されている。
【0031】
CLT免震架台5は、前述の床版51・補強版53を重ねて、ボルト55で締結したものである。この図3では、床版51の左端部は、補強版53から左方向に張り出している。
【0032】
建物本体3は、壁33や室内床31、ベランダ床35などを有する。この例では、壁33の中心軸は、ちょうど積層ゴム71の中心軸上に位置している。この場合、壁33に上からかかる鉛直荷重は、床版51・補強版53を介して、まっすぐ積層ゴム71にかかる。つまり、耐力壁直下に免震部材が設けられている。そのため、床版51・補強版53には、壁荷重による曲げモーメントはかからない。
【0033】
ただし、壁中心が免震要素中心からズレている場合(偏心荷重)も、後述のとおり対応可能である。したがって、免震装置配置と建物の壁・柱位置との関係の選択には自由度がある。すなわち、同じ形状・寸法のCLT免震架台を、多様な建物用に汎用できる。
【0034】
ベランダ床35の端部には、短い端壁37が上下に延びている。建物3の端壁37の下端37bと、外側立ち上がり部95の上端95bの間には隙間があり、同隙間には、柔軟な材料性の隙間閉鎖材38が設けられている。地震の時に、基礎9は水平面内で揺れるが、建物3は免震されるので、上記両者が干渉しないようになっている。
【0035】
次に、図5を参照しつつ、免震装置71・CLT床版51・補強版53の詳細接合構造の具体例を説明する。
図5(A)は、免震要素71・73の上フランジ71bの上に、補強版53・床版51を載せ、さらに床版51の上に、鋼板製上座板58を載せて、上フランジ71bと上座板58とを、ボルト55で締めたタイプである。
【0036】
図5(B)は、図5(A)と異なり、上座板58を無くし、床版51の上面に、座グリ51xを掘り込んだタイプである。座グリ51x内には、ナットあるいはボルトヘッド56、座金を収容している。
図5(C)は、図5(A)の構造と基本的に同じであるが、床版51・補強版53のボルト孔にエポキシ系接着剤57を充填したタイプである。
【0037】
上記3タイプの接合方式は、実物大試験(接合部要素試験(動的))の結果でも、妥当な部材寸法設計により、強度上の問題、あるいはCLT版表面への「めり込み」の問題は見られなかった。すなわち、免震部材とCLTの接合ディテールを検証し、上記3タイプのディテールでは免震部材の性能を低下させないことを確認した。なお、建物床31・35との取り合い上は、図5(B)の「座グリあり」が有利である。床版51の上に、建物床31・35がピッタリと載せられる。なお、免震部材単体での履歴性状に対し、CLTに接合した場合の履歴性状は、各周波数・振幅・面圧・重ね枚数・接合ディテールごとで大きな差異は無く、本試験で採用した接合ディテールは、免震部材の性能を低下させない方法であることを確認した。
【0038】
次に、図6及び図7を参照しつつ、本発明の他の実施の形態に係る建物の免震架台105について説明する。図6(A)は、CLT免震架台105の平面図であり、図6(B)は、それを支える免震装置107の配置を示す平面図である。図7は、図6のすべり支承173の周りの構造を示す模式的断面図である。
【0039】
図6(A)に示すように、この例では、奥手前方向及び左右方向に広がる略正方形の床版151の下に、5枚の帯状の補強版153-1~5が、左右方向に延びるように配設されている。床版151の強軸方向は奥手前方向であり、補強版153の強軸方向は左右方向である。免震装置107は、図6(B)に示すように、基礎スラブ109上に、配列されている。四隅の免震要素171が積層ゴムであり、その他の免震要素173がすべり支承である。
【0040】
図7の断面図を参照しつつ、図6の建物の基礎109や免震架台105、すべり支承173の構造を説明する。この図に示す基礎スラブは、平盤状のベタ基礎109の上に、すべり支承173を搭載する基台となる立ち上がり部(免震装置支持部)193が形成されている。
【0041】
すべり支承173は、低摩擦係数材(フッ素樹脂など)からなる水平な板と、鋼板とを対向密着させたものである。すべり支承173の上には、鉄骨束材174が立ち上がっている。同材174は、上広がり台形の板やリブ、上部のフランジ174bを有している。フランジ174b の上には、補強版153と床版151が載っている。補強版153の強軸方向は、図の紙面の奥手前方向であり、床版151の強軸は図の左右方向である。フランジ174b と、補強版153、及び、床版151とは、ボルト155で締結されている。床版151の上面にはボルト頭(又はナット)収容用の座グリが形成されている。
【0042】
次に、図8及び図9を参照しつつ、免震要素271の中心と建物本体の壁233の中心に偏心がある場合について説明する。図8は、偏心荷重試験の様子を示す一部断面図である。図9は、偏心荷重試験の結果を表すグラフの一例である。
【0043】
床版251の強軸方向は図の面の奥手前方向であり、補強版253の強軸方向は図の左右方向である。床版251の端部251b、及び、補強版253の端部253bは、ともに建物壁233の下まで延びている。床版251の上面の接合部周辺には、座板258が取り付けられている。補強版253の下面の接合部周辺には、座板252が取り付けられている。建物壁233の中心軸(壁にかかる鉛直荷重)と、免震要素271の中心軸との偏心距離は、符号ELで示されている。
【0044】
図9のグラフにおいて、横軸は上記偏心距離EL(単位mm)であり、縦軸は鉛直荷重(単位kN)である。グラフ中には計6本の右下がりの曲線が描かれている。これらは、グラフの右側に書かれているように、CLTの層数に応じた、鉛直荷重と偏心距離との関係を表している。このグラフを参考として、建物が高層となって鉛直荷重が大きくなるほど、偏心距離を小さくする、あるいはCLTの重ね層数を増やす必要がある。なお、グラフ中の実値の条件で、偏心荷重によるCLT免震架台の実大検証試験(CLT版の間の接着有無を含む)を行った。結果は、入力した応力に対しても,免震部材とCLTの接合部は健全であった。「接着有り」では、床版の撓みは改善されるが、微少である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10