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特開2022-112712多孔層構成体及び多孔層構成体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112712
(43)【公開日】2022-08-03
(54)【発明の名称】多孔層構成体及び多孔層構成体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/24 20060101AFI20220727BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20220727BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20220727BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20220727BHJP
   D06N 3/14 20060101ALI20220727BHJP
   C08G 101/00 20060101ALN20220727BHJP
【FI】
B32B5/24 101
C08G18/00 F
C08G18/00 C
C08G18/10
B32B27/40
D06N3/14 101
C08G101:00
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008615
(22)【出願日】2021-01-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】河村 亮
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一弥
【テーマコード(参考)】
4F055
4F100
4J034
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055AA03
4F055AA18
4F055AA21
4F055AA27
4F055BA13
4F055CA05
4F055DA08
4F055DA10
4F055EA01
4F055EA04
4F055EA21
4F055EA23
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4F055GA02
4F055GA03
4F055GA11
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4F100AK51C
4F100AK51D
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4F100EJ42
4F100EJ42D
4F100EJ86D
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4J034DF12
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4J034DP18
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4J034HB17
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4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
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4J034HC71
4J034JA13
4J034JA15
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4J034JA42
4J034QA03
4J034RA03
4J034RA05
4J034RA12
4J034RA15
(57)【要約】
【課題】発泡層として実現できる密度範囲をより低い領域(発泡層としてより柔らかくなる領域)まで拡げても、基材とウレタンプレポリマーを発泡してなる発泡層との良好な密着性を発揮し、かつ、優れた風合い(柔軟性)を発揮することが可能な多孔層構成体及び多孔層構成体の製造方法を提供する。
【解決手段】基材10と、基材10上に設けられた水性ポリウレタン樹脂を含む配合液により形成される下地層20と、下地層20上に設けられた末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを発泡してなる発泡層30とを備え、下地層20の目付量が3~60g/m・dryであり、下地層20の皮膜破断強度が5MPa以上である、多孔層構成体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に設けられた水性ポリウレタン樹脂を含む配合液により形成される下地層と、
前記下地層上に設けられた末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを発泡してなる発泡層とを備え、
前記下地層の目付量が3~60g/m・dryであり、
前記下地層の皮膜破断強度が5MPa以上である、多孔層構成体。
【請求項2】
前記水性ポリウレタン樹脂を含む配合液の粘度が25℃において500~50,000mPa・sである、請求項1に記載の多孔層構成体。
【請求項3】
前記下地層と前記基材との厚み比が、1:10~1:1,000である、請求項1又は2に記載の多孔層構成体。
【請求項4】
前記発泡層の前記下地層が積層された面の反対面に表皮層を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の多孔層構成体。
【請求項5】
基材上に水性ポリウレタン樹脂を含む配合液を塗工し、前記基材上に湿潤状態の下地層を形成する下地層積層工程と、
前記湿潤状態の下地層上に末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを配設し、前記ウレタンプレポリマーが前記下地層の水分によって発泡して発泡層を形成する発泡層積層工程とを含み、
前記下地層の目付量が3~60g/m・dryであり、
前記下地層の乾燥後の皮膜破断強度が5MPa以上である、多孔層構成体の製造方法。
【請求項6】
前記発泡層の前記下地層が積層された面の反対面に表皮層を積層する表皮層積層工程をさらに含む、請求項5に記載の多孔層構成体の製造方法。
【請求項7】
前記発泡層積層工程の後に、前記発泡層の発泡を促すエージング処理を施すエージング工程をさらに含む、請求項5又は6に記載の多孔層構成体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔層構成体及び多孔層構成体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン系樹脂製の合成擬革の製造方法は、湿式法及び乾式法に大別される。中でも、湿式法を用いたポリウレタン系樹脂製の合成擬革は、乾式法のものと比べて触感が柔らかく高級感のあるものに仕上がることを特徴とする。
湿式法で用いるポリウレタン系樹脂は、一般的に有機溶剤としてN,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)やN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を使用することが多く、近年においては人体に対する有害性や環境問題からDMF等の使用が規制又は禁止されつつあり、代替品としてDMF等の有機溶剤を使用しない環境対応型合成擬革が要望されている。
【0003】
有機溶剤を使用しない環境対応型合成擬革としては、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーである反応型ホットメルト系接着剤(RHM)を使用して、基材と表皮層とを接着したものがある。
ウレタンプレポリマー末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーは、空気中の水分(湿気)と反応し、架橋反応が進むことで湿気硬化型接着剤としての機能を発現する。したがって、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーからなる反応型ホットメルト系接着剤(RHM)は、有機溶剤を使用しない、固形分100%の接着剤であり、環境対応型接着剤として現在需要が増加している。
【0004】
また、合成擬革において、基材と接着層との接着性を高めるために、基材に水性ポリウレタン樹脂(PUD)を含む配合液を塗工又は含浸させ、配合液を乾燥させた後に、基材と接着層との間にPUDを含む層を設けることが提案されている(例えば、特許文献1,2)。
特許文献1,2では、PUDを含む層を設けることで、基材と接着層間の接着強度を高めることはできるが、該PUD層の水分が発泡に寄与することは一切ないばかりか、一般的に柔らかいと評価されているDMF使用の湿式法で作製された合成擬革(発泡層密度:0.05g/cm~0.4g/cm程度)と同程度の風合い(柔軟性)を兼ね備えることはできなかった。
加えて、一般に、発泡層の発泡密度を下げることで、柔らかさを向上させようとすると、基材との接着強度が低下しやすく、結果、レザーとしての実用性に欠けるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4123418号公報
【特許文献2】特開2005-206970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる問題点を解決するためになされたもので、発泡層として実現できる密度範囲をより低い領域(発泡層としてより柔らかくなる領域)まで拡げても、基材とウレタンプレポリマーを発泡してなる発泡層との良好な密着性を発揮し、かつ、優れた風合い(柔軟性)を発揮することが可能な多孔層構成体及び多孔層構成体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは、基材上に水性ポリウレタン樹脂(PUD)を含む特定量の配合液による下地層を形成することで、この下地層が基材とのアンカー作用を良好に発現しつつ、しかも下地層上に設けられるウレタンプレポリマーを配合液の水分によって万遍なく十分に発泡させられ得るので、発泡層の発泡形状を均一かつ安定にすることができ、当該課題を解決できることを見出し、本発明に想到した。すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0008】
[1]基材と、前記基材上に設けられた水性ポリウレタン樹脂を含む配合液により形成される下地層と、前記下地層上に設けられた末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを発泡してなる発泡層とを備え、前記下地層の目付量が3~60g/m・dryであり、前記下地層の皮膜破断強度が5MPa以上である、多孔層構成体。
[2]前記水性ポリウレタン樹脂を含む配合液の粘度が25℃において500~50,000mPa・sである、[1]に記載の多孔層構成体。
[3]前記下地層と前記基材との厚み比が、1:10~1:1,000である、[1]又は[2]に記載の多孔層構成体。
[4]前記発泡層の前記下地層が積層された面の反対面に表皮層を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の多孔層構成体。
[5]基材上に水性ポリウレタン樹脂を含む配合液を塗工し、前記基材上に湿潤状態の下地層を形成する下地層積層工程と、前記湿潤状態の下地層上に末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを配設し、前記ウレタンプレポリマーが前記下地層の水分によって発泡して発泡層を形成する発泡層積層工程とを含み、前記下地層の目付量が3~60g/m・dryであり、前記下地層の乾燥後の皮膜破断強度が5MPa以上である、多孔層構成体の製造方法。
[6]前記発泡層の前記下地層が積層された面の反対面に表皮層を積層する表皮層積層工程をさらに含む、[5]に記載の多孔層構成体の製造方法。
[7]前記発泡層積層工程の後に、前記発泡層の発泡を促すエージング処理を施すエージング工程をさらに含む、[5]又は[6]に記載の多孔層構成体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発泡層として実現できる密度範囲をより低い領域(発泡層としてより柔らかくなる領域)まで拡げても、基材とウレタンプレポリマーを発泡してなる発泡層との良好な密着性を発揮し、かつ、優れた風合い(柔軟性)を発揮することが可能な多孔層構成体及び多孔層構成体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る多孔層構成体を示す模式的な断面図(その1)である。
図2】本実施形態に係る多孔層構成体の走査電子顕微鏡(SEM)による断面写真である。
図3】本実施形態に係る多孔層構成体を示す模式的な断面図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態(本実施形態)を詳細に説明するが、本発明は当該実施形態に限定されるものではない。
【0012】
[多孔層構成体]
本実施形態に係る多孔層構成体は、図1に示すように、基材10と、基材10上に設けられた水性ポリウレタン樹脂を含む配合液により形成される下地層20と、下地層20上に設けられた末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを発泡してなる発泡層30とを備える。
【0013】
(基材)
基材10としては、従来公知の合成擬革の基材が使用でき、例えば、綾織り、平織り等からなる織物、当該織物の綿生地を機械的に起毛して得られる起毛布、レーヨン布、ナイロン布、ポリエステル布、ケブラー布、不織布(ポリエステル、ナイロン、各種ラテックス)、各種フィルム、シート等が挙げられる。
【0014】
基材10は、水性ポリウレタン樹脂を含む配合液により下地層20を形成し得るものであればよく、厚みについては特に限定されないが、多孔層構成体の機械的強度を保持する観点から、0.01~2.0mmであることが好ましく、0.02~1.5mmであることがより好ましい。
【0015】
(下地層)
下地層20は、水性ポリウレタン樹脂を含む配合液を基材10上に塗工し、基材10上に特定の塗工量(目付量)にて略均一の厚みで設けられる。下地層20は、図1及び図2に示すように、一部が基材10に含浸した状態であってもよい。
下地層20は、基材10上全体に亘り、後述の目付量にて略均一かつ万遍なく設けられることで、下地層20上に設けられる発泡層30との接触が一様となり、発泡層30へ供給される水分量が平面(界面)方向に一定となる。
下地層20から供給される単位面積当たりの水分量の分布が一定であることで、湿気硬化型ウレタンプレポリマーにより形成される発泡層20の発泡形状が均一かつ安定する(すなわち、発泡が過剰となる部位が発生したり、発泡形状・サイズのバラツキが発生したりすることを確実に防止できる)ことになり、優れた風合い(柔軟性)を発揮することができるとともに、基材と発泡層間の接着性が向上する。
【0016】
下地層20の目付量は、3~60g/m・dryである。
下地層20の目付量が3g/m・dry未満であると、下地層20上に設けられる発泡層30の発泡が不十分となりやすいうえ、基材10と発泡層30との密着性が不良となる。また、下地層20の目付量が60g/m・dry超であると、発泡層30の発泡が過剰となり、発泡形状やサイズを均一かつ安定にすることが困難となること、下地層20の皮膜物性が合成擬革の触感に悪影響を与えやすくなること等から、優れた風合い(柔軟性)を発揮することができない。
下地層20の目付量は、下地層20上に設けられる発泡層30の発泡を均一かつ十分に生じさせ、発泡形状を均一かつ安定にする観点から、5~50g/m・dryであることが好ましく、6~45g/m・dryであることがより好ましく、7~40g/m・dryであることがさらに好ましい。
【0017】
下地層20の皮膜破断強度は乾燥後のものであって、5MPa以上である。
下地層20の皮膜破断強度が5MPa未満であると、基材10及び発泡層30との剥離強度が不十分となり、基材10と発泡層30との密着性が不良となる。
下地層20の皮膜破断強度は、基材10及び発泡層30との剥離強度を良好にする観点から、8MPa以上であることが好ましく、10MPa以上であることがより好ましく、12MPa以上であることがさらに好ましい。下地層20の皮膜破断強度の上限は特に限定はない。
なお、下地層20の皮膜破断強度は、オートグラフを用いた手法により測定することができる。具体的な下地層20の皮膜破断強度の測定としては、実施例の「皮膜破断強度試験」に記載の方法で測定することができる。
【0018】
下地層20と基材10との厚み比は、多孔層構成体の優れた風合い(柔軟性)を発揮する観点から、1:10~1:1,000であることが好ましく、1:30~1:750であることがより好ましく、1:70~1:500であることがさらに好ましい。
なお、下地層20と基材10との厚み比は、下地層20の厚みtと基材10の厚みTとの比率であるが、図1に示すように、基材10へ含浸している場合、下地層20の厚みtは基材10へ含浸している部位の厚みも含み、基材10の厚みTは下地層20が含浸している部位の厚みを除したものとする。
【0019】
上記下地層20の厚みtは、SEMによる断面画像(図2参照)から10点平均で計測し算出することができる。
一方、下地層20がSEMによる断面画像で確認できない場合には、離型紙(大日本印刷株式会社製の「DNTP-FL」)上に、下地層20の乾燥時の目付量と同等となるように、計測対象の水性ポリウレタン樹脂を含む配合液を塗工し、乾燥工程として、60℃で4分、100℃で3分、120℃で3分の各工程を順に経た後に、離型紙に形成された下地層の厚みを、計測対象の下地層20の厚みtとみなす。
離型紙に形成された下地層の厚みを、計測対象の下地層20の厚みtとする根拠として、水性ポリウレタン樹脂(大日精化工業株式会社製の「レザミン D-6065NP」)を含む配合液の乾燥時の目付量、配合液粘度及び上記離型紙上に形成された下地層20の厚みの具体的な関係を表1に示す。表1に示すように、下地層20の目付量は、粘度の変化には大きく関係せず、離型紙上に形成された下地層の厚みと相関することが分かる。
【0020】
【表1】
【0021】
<水性ポリウレタン樹脂を含む配合液>
本発明の下地層20を形成する水性ポリウレタン樹脂を含む配合液は、水中に水性ポリウレタン樹脂が分散してなる配合液である。水性ポリウレタン樹脂は、ポリオール成分にポリイソシアネート化合物を反応させることにより製造される。下地層20を形成するものであれば特に限定はないが、水への分散性を向上させるために、ポリウレタン樹脂の分子内に親水性基を導入したもの等が挙げられる。この親水性基としては、アニオン、カチオン及びノニオンのいずれでもよく、例えば、(α)分子内に1個以上の活性水素基を有し、かつカルボキシル基、スルホン酸基及びその塩を有するアニオン性の化合物や、(β)分子内に1個以上の活性水素基を有し、かつエチレンオキシドの繰り返し単位からなる基、又はエチレンオキシドの繰り返し単位とその他のアルキレンオキシドの繰り返し単位からなる基を含有するノニオン性の化合物などが挙げられる。
なお、配合液全体に対する水性ポリウレタン樹脂の含有量(塗料固形分)は、特に限定されるものではないが、少なすぎると増粘剤を入れた場合に効果が発現しにくいので、一般には、5~60質量%とすればよく、10~50質量%であることが好ましく、15~40質量%であることがより好ましい。
【0022】
《水性ポリウレタン樹脂》
本発明に係る水性ポリウレタン樹脂を構成するポリウレタン樹脂は主に、ポリオール成分、イソシアネート成分を含むものである。
【0023】
〈ポリオール成分〉
本発明におけるポリオール成分となるポリオールとしては、特に限定されないが、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリラクトンポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリメタクリレートジオール等が挙げられる。
【0024】
ポリオールの数平均分子量は500以上であれば特に制限はないが、500~4,000程度が好ましく、さらに好ましくは1,000~3,000程度である。これらのポリオールは単独或いは2種類以上を組み合わせて使用することができるが、長期耐久性の観点からポリカーボネートジオールを含むことが好ましい。
なお、数平均分子量は、ポリスチレン換算の数平均分子量であり、通常ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定により求めることができる。
【0025】
〈イソシアネート成分〉
本発明におけるイソシアネート成分となるイソシアネートとしては、特に限定されないが、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート等の2官能のポリイソシアネートが好ましい。
ポリイソシアネートの具体例としては、トリレンジイソシアネート、4-メトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-イソプロピル-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-クロル-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-ブトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、2,4-ジイソシアネート-ジフェニルエーテル、メシチレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ジュリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、ベンジジンジイソシアネート、o-ニトロベンジジンジイソシアネート、4,4-ジイソシアネートジベンジル、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,10-デカメチレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,5-テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート等である。
なお、多孔層構造体が柔軟性、機械物性及び耐変色性が必要とされる用途に採用される場合は、脂肪族ジイソシアネートや脂環族ジイソシアネートを主として使用することが好ましい。
【0026】
全成分の水酸基当量に対するポリイソシアネート成分のイソシアネート基当量の比が0.8~1.9であることが好ましく、0.9~1.5あることがより好ましい。NCO/OHが上記範囲内であると、柔軟性及び耐久性がともにより良好となる。
【0027】
〈添加剤〉
本発明の水性ポリウレタン樹脂を含む配合液は、必要に応じて添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、増粘剤、架橋剤、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系等)、光安定剤(ヒンダードアミン系等)、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系等)、ガス変色安定剤(ヒドラジン系等)、金属不活性剤等が挙げられる。
【0028】
〈架橋剤〉
架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤及びエポキシ系架橋剤からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、イソシアネート系、カルボジイミド系及びオキサゾリン系架橋剤からなる群から選択される少なくとも一種を含むことがより好ましい。
架橋剤の使用量が多すぎると、下地層20の脆化や、未反応の架橋剤による可塑化等の不具合を引き起こす場合があるため、架橋剤の使用量は、水性ポリウレタン樹脂(水分散体)100質量部に対して、架橋剤固形分換算値として10質量部以下とすることが好ましく、0.5~8.0質量部とすることがさらに好ましい。
【0029】
《水性ポリウレタン樹脂を含む配合液の粘度》
水性ポリウレタン樹脂を含む配合液の25℃における粘度は、増粘剤などを添加すること等で適宜調整することができる。具体的には、500~50,000mPa・sであることが好ましく、550~45,000mPa・sであることがより好ましく、600~40,000mPa・sであることがさらに好ましい。
水性ポリウレタン樹脂を含む配合液の25℃における粘度が上記下限値以上であることで、基材10上に配合液を塗工した際に、基材10への含浸を抑制しつつ、下地層20の塗膜を形成することができる。また、水性ポリウレタン樹脂を含む配合液の25℃における粘度が上記上限値以下であることで、基材10上に配合液を塗工した際に、下地層20の塗膜が斑状になることを防ぐことができる。つまり、水性ポリウレタン樹脂を含む配合液の25℃における粘度が上記範囲内であることで、塗工性が良好となり、基材10上に均一かつ万遍なく下地層20の塗膜を形成することができる。
【0030】
《水性ポリウレタン樹脂を含む配合液の製造方法》
本発明における水性ポリウレタン樹脂を含む配合液の製造方法としては、例えば、
(1)ポリオール、アニオン性の親水性基を有する化合物(α)や親水性アルキレンオキサイド成分となる化合物(β)、イソシアネートとを反応させる反応工程と、反応後に界面活性剤等を添加し、イオン交換水とジアミン等の混合液を添加して乳化しつつ、高分子化する乳化及び高分子量化工程を経る方法で、乳化及び高分子量化工程における界面活性剤等を添加した際の撹拌を100~300rpm程度の緩やか撹拌とし、イオン交換水とジアミン等の混合液を添加した際の撹拌を4,000~6,000rpm程度の強撹拌とする方法、及び
(2)槽内循環用の撹拌翼と、剪断力付与用の撹拌翼とを有する撹拌槽中で、少なくともポリオールとイソシアネートと親水性アルキレンオキサイド成分となる化合物とを反応及び乳化させる方法などが挙げられる。
当該製造方法により、既述の高い不揮発性成分濃度で、既述の体積平均粒子径を有する水性ポリウレタン樹脂を効率よく製造することができる。また、所望の粘度とすることができる。
【0031】
(発泡層)
発泡層30は、下地層20上に設けられ、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを発泡してなる層である。すなわち、発泡層30は、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの発泡物からなる層となっている。
【0032】
発泡層30の密度は、多孔層構成体の優れた風合い(柔軟性)及び剥離強度を両立させる観点から、0.03~0.30g/cmであることが好ましく、0.05~0.25g/cmであることがより好ましく、0.07~0.20g/cmであることがさらに好ましい。なお、発泡層30の密度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0033】
発泡層30の厚みは、塗工するポリウレタンプレポリマーの厚みや作成するレザー種により変化させるものなので、特に限定されない。例えば、多孔層構成体の優れた風合い(柔軟性)及び剥離強度を両立させる観点から、0.05~1.0mm程度とすればよく、好ましくは0.1~1.0mm程度である。
【0034】
発泡層30は、基材10上に下地層20を介して積層されていることで、基材10、下地層20及び発泡層30の密着性が向上し、これらが剥離することなく、優れた耐久性が発揮される。また、多孔層構造体は、発泡層30が、発泡が過剰となる部分や、発泡の形状及びサイズのバラツキなどが生ずることなく、低い密度で発泡しているため、優れた剥離強度及び耐久性を維持しながらも良好な風合い(柔軟性)を有することになる。
【0035】
基材10から発泡層30を剥離するための剥離力は、1.0kgf/inch以上であることが好ましく、1.2kgf/inch以上であることがより好ましく、1.5kgf/inch以上であることがさらに好ましい。基材10から発泡層30を剥離するための剥離力が上記下限値以上であることで、例えば、発泡合成擬革として実用上問題のない水準を超える基材10との密着性(剥離強度)を得ることができる。基材10から発泡層30を剥離するための剥離力の上限は特に限定はない。
なお、基材10から発泡層30を剥離するための剥離力の測定は、実施例の「剥離強度試験」に記載の方法で測定することができる。
【0036】
また、本実施形態に係るウレタンプレポリマーは実質的に揮発成分を含まない。すなわち、有機溶剤を使用することなく多孔質構成体が製造されるため、有害性の問題や環境問題が生じることはない。
ここで、本発明において、「実質的に揮発成分を含まない」とは、意図的に有機溶剤等の揮発成分が含有されないことを意味し、より具体的には有機溶剤が存在しないことをいう。
【0037】
<ウレタンプレポリマー>
ウレタンプレポリマーは、ポリオール成分と、イソシアネート成分と、適宜その他の成分とから構成される。すなわち、本実施形態の末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーは、ポリオール成分とポリイソシアネート成分から得られるウレタンプレポリマーである。特に、当該ウレタンプレポリマーは、湿気硬化型ウレタンプレポリマーであり、下地層20の水分による湿気硬化の際に発泡すること利用して、本発明の多孔層構成体が得られる。
【0038】
〈ポリオール成分〉
ウレタンプレポリマーのポリオール成分となるポリオールとしては、特に限定されないが、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリラクトンポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリメタクリレートジオール等が挙げられる。
【0039】
ポリオール成分としては、耐加水分解性を向上させてより良好な耐久性を得るために、ポリカーボネートポリオール成分を含有させてもよい。ポリカーボネートポリオール成分を含有させる場合、全ポリオール成分中、50質量%以上含むことが好ましく、70~90質量%含むことがより好ましい。
【0040】
ポリオールの数平均分子量は500以上であれば特に制限はないが、500~4,000程度が好ましく、さらに好ましくは1,000~3,000程度である。これらのポリオールは単独或いは2種類以上を組み合わせて使用することができるが、長期耐久性の観点からポリカーボネートジオールを含むことが好ましい。
なお、数平均分子量は、ポリスチレン換算の数平均分子量であり、通常ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定により求めることができる。
【0041】
〈イソシアネート成分〉
本実施形態に係るウレタンプレポリマーの合成成分として使用するイソシアネートは特に限定されないが、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート等の2官能のポリイソシアネートが好ましい。
イソシアネート成分となるポリイソシアネートの具体例としては、トリレンジイソシアネート、4-メトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-イソプロピル-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-クロル-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-ブトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、2,4-ジイソシアネート-ジフェニルエーテル、メシチレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ジュリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、ベンジジンジイソシアネート、o-ニトロベンジジンジイソシアネート、4,4-ジイソシアネートジベンジル、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,10-デカメチレンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,5-テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート等である。なかでも、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を少なくとも含むことが好ましい。
【0042】
車両用途や淡色系用途等のように耐光性が必要される場合は、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートとともに、脂肪族ジイソシアネートや脂環族ジイソシアネートを併用することが好ましい。
【0043】
本実施形態に係るウレタンプレポリマーとする際のポリオールとポリイソシアネートの比率は、全ポリオール成分の水酸基当量に対するポリイソシアネート成分のイソシアネート基当量の比が1.33~5.0であることが好ましく、1.5~3.0あることがより好ましい。NCO/OHが上記範囲内であると、柔軟性及び基材10との剥離強度がともにより良好となる。
【0044】
本実施形態に係るウレタンプレポリマーの製造方法は、特に限定されない。例えば、既述のポリオールにポリイソシアネートを、NCO/OHが1.33~5.0となるように混合し、80~120℃で60~120分間程度反応させて製造することができる。
【0045】
なお、ウレタンプレポリマーにおいては、必要に応じて、多官能基ポリイソシアネート、熱可塑性ポリマー、粘着付与樹脂等を適量配合してもよい。
【0046】
(表皮層)
本実施形態に係る多孔層構成体は、図3に示すように、発泡層30の下地層20が積層された面の反対面に表皮層40を有してもよい。
表皮層40は、特に限定されず、例えば、溶剤系ポリウレタン、水系ポリウレタン、TPU等の表皮層形成用塗料で形成されたものが挙げられる。
【0047】
以上のように、本実施形態に係る多孔層構成体は、合成擬革及び人工皮革として好適に用いることができ、靴、衣料、鞄、家具、車両内装材(例えば、インパネ、ドア、コンソール、座席シート)、断熱材、吸音材、衝撃吸収材等に好適である。
【0048】
[多孔層構成体の製造方法]
本実施形態の多孔層構成体の製造方法は、基材10上に水性ポリウレタン樹脂を含む配合液を塗工し、基材10上に下地層20を形成する下地層積層工程と、下地層20上に末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを配設し、ウレタンプレポリマーが下地層20の水分によって発泡して発泡層30を形成する発泡層積層工程とを含む。
以下、各工程について説明する。
【0049】
(下地層積層工程)
まず、用意した基材10の一面に、塗工機に収容した水性ポリウレタン樹脂を含む配合液を塗工し、基材10上に湿潤状態の下地層20を形成する。なお、水性ポリウレタン樹脂を含む配合液による下地層20の目付量は、配合液の塗工量及び粘度に依存し、下地層20の目付量が3~60g/m・dryとなるように配合液を塗工する。
【0050】
(発泡層積層工程)
次に、湿潤状態の下地層20上に、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを配設する。ウレタンプレポリマーを配設する方法としては、例えば、下地層20上に、メルター等の塗工機に収容したウレタンプレポリマーを塗工する方法が挙げられる。
なお、発泡層30を水発泡させるために、下地層20が乾燥する前にウレタンプレポリマーを下地層20と接触するように配設することが重要である。これにより、下地層20上に配設されたウレタンプレポリマーは、下地層20の水分によって発泡して発泡層30を形成する。
【0051】
ウレタンプレポリマー塗膜の厚さ(塗工直後、すなわち発泡前の厚み)は、ウレタンプレポリマーの粘度や組成にもよるが、50~500μmとすることが好ましく、60~400μmとすることがより好ましく、70~300μmとすることがより好ましい。
【0052】
(表皮層積層工程)
本実施形態の多孔層構成体の製造方法は、発泡層30の下地層20が積層された面の反対面に表皮層40を積層する表皮層積層工程をさらに含んでもよい。なお、表皮層40を発泡層30に密着させて積層するために、発泡層30の発泡が完了する前、つまり下地層20が乾燥する前に表皮層40を発泡層30と接触するように配設する。
【0053】
表皮層積層工程を含む場合、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを表皮層40の一面に塗工し、ウレタンプレポリマー塗膜を配設することが好ましい。そして、表皮層40に設けたウレタンプレポリマー塗膜と、基材10に設けた下地層20とを、ラミネート等により張り合わせることで、下地層20上に末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを配設することができる。このとき、発泡層30を良好に発泡させるために、下地層20が乾燥する前、即ち、下地層20が湿潤状態のうちに、発泡層30を下地層20と接触するように配設することが重要である。
【0054】
(エージング工程)
本実施形態の多孔層構成体の製造方法は、発泡層積層工程の後に、発泡層30の発泡を促すエージング処理を施すエージング工程をさらに含んでもよい。エージング工程では、発泡層積層工程の後の多孔層構成体が15~80℃で40~95%RHの状態で、48~120時間保持されて、エージング処理がなされる。このエージング処理により、発泡が促されて起こり、本実施形態の多孔層構成体が作製される。
【0055】
(水蒸気接触工程)
また、本製造方法においては、発泡層積層工程とエージング工程との間に、発泡層積層工程の後の多孔層構成体へ水蒸気を接触させる水蒸気接触工程を含むこともできる。水蒸気接触工程では、雰囲気を30~60℃(好ましくは35~55℃)で、80%RH以上(好ましくは85%RH以上)とし、当該雰囲気での時間を、温度条件や湿度条件にもよるが、20秒以上(好ましくは25~60秒)とすることが好ましい。
水蒸気接触工程により、多孔層構成体の含水率を向上させることができるため、その後のエージング処理工程で良好な発泡倍率が得られやすくなる。すなわち、発泡度合いを良好に制御することができる。
【0056】
以上のような工程によって、下地層20が基材10上に均一かつ万遍なく設けられ、下地層20上に配設されたウレタンプレポリマーは、下地層20との接触が一様となることで、下地層20から供給する水分量が一定となり、発泡形状が均一かつ安定の発泡層20を形成することができる。発泡形状が均一かつ安定の発泡層20が形成されることによって、高い密着性を維持しながら、優れた風合い(柔軟性)を発揮する多孔層構成体を得ることができる。
【0057】
なお、多孔層構成体はそのままの状態で合成擬革として利用することができるが、例えば、表面処理剤の塗工や他基材との貼り合わせ等の処理を適宜行ってもよい。
【実施例0058】
次に、本発明を実施例及び比較例にさらに詳細に説明する。もっとも、本発明は実施例等によって限定されるものではない。
【0059】
(下地層用配合液の調製)
下地層を施す配合液の主剤として、レザミンD-6065NP、レザミンDN-0445、レザミンD-1063(水性ポリウレタン樹脂、大日精化工業株式会社製)を選択し、キサンタンガム(DSP五協フード&ケミカル株式会社製)2%水溶液(増粘液A)又はD-87(大日精化工業株式会社製、増粘液B)を、実施例/比較例それぞれ表2,3に記載の粘度になるまで少量ずつ配合し増粘させ、下地層用配合液(B-1)を得た。
架橋剤を使用した配合液(実施例5,6)に関しては、得られた下地層用配合液(B-1)へさらにレザミンD-52(カルボジイミド系架橋剤(固形分40%)、大日精化工業株式会社製)又はレザミンD-65(イソシアネート系架橋剤(固形分70%)、大日精化工業株式会社製)をそれぞれ表2に記載の量ずつ配合し下地層用配合液(B-2)とした。なお、実施例5におけるカルボジイミド系架橋剤の質量部は、水性ポリウレタン樹脂の固形分が50%である水分散体100質量部に対する質量部である。また、実施例6におけるイソシアネート系架橋剤の質量部は、水性ポリウレタン樹脂の固形分が43%である水分散体100質量部に対する質量部である。
各下地層用配合液(B-1,B-2)の固形分濃度(質量%)については、表2,3に示すとおりである。
【0060】
(表皮の作製)
合成擬革用として溶剤型ウレタン樹脂であるレザミンNE-8875-30M(大日精化工業株式会社)と、合成擬革用着色剤であるセイカセブンBS-780(大日精化工業株式会社)と、希釈溶剤としてメチルエチルケトン及びジメチルホルムアミドとを混合しバーコーターで250μm/wetの塗布量を離型紙上に均一に塗工した後、120℃で5分乾燥させ膜厚40~50μmの表皮層40を備える表皮付きフィルムを得た。
【0061】
(合成擬革の作製)
[実施例1~10、比較例2~4]
上記表皮付きフィルムの表皮層40に、100℃に熱したレザミンF-916(ウレタンプレポリマー、湿気硬化型接着剤、大日精化工業株式会社製)を塗布膜厚150μmのウレタンプレポリマー塗膜を形成するように塗工した。
また、ポリエステルの丸編みである厚さ1.0mmのポリエステル基布(基材10)に、湿潤状態の下地層用配合液(B-1)又は下地層用配合液(B-2)からなる層(下地層20)を、実施例/比較例それぞれに記載の重量(g/m・dry)にて形成されるように塗工した。
そして、表皮層40に形成されたウレタンプレポリマーの塗膜を、基材10に形成された下地層20と接するように配設し、ラミネートロール温度40℃にて直ちに加圧圧着することで、ウレタンプレポリマーが発泡し、発泡層30を形成した。
エージング工程として、温度35℃、相対湿度65%の環境下で5日間エージングした後、離型紙から剥離し合成擬革を得た。
【0062】
[比較例1]
上記表皮付きフィルムの表皮層40に、100℃に熱したレザミンF-916(ウレタンプレポリマー、湿気硬化型接着剤、大日精化工業株式会社製)を塗布膜厚150μmのウレタンプレポリマー塗膜を形成するように塗工した。
また、ポリエステルの丸編みである厚さ1.0mmのポリエステル基布(基材10)に、ポリエステル基布の重量に対して50%量の水を含浸させた。
そして、表皮層40に形成されたウレタンプレポリマーの塗膜を、水を含浸させた基材10と接するように配設し、ラミネートロール温度40℃にて直ちに加圧圧着することで、ウレタンプレポリマーが発泡し、発泡層30を形成した。
エージング工程として、温度35℃、相対湿度65%の環境下で5日間エージングした後、離型紙から剥離し合成擬革を得た。
【0063】
(下地層用配合液の塗工性)
ポリエステルの丸編みである厚さ1.0mmのポリエステル基布(基材10)に、湿潤状態の下地層用配合液(B-1)又は下地層用配合液(B-2)からなる層(下地層20)を、実施例/比較例それぞれに記載の重量(g/m・dry)にて形成されるように塗工した際の塗工性を評価した。基材10上に均一かつ万遍なく下地層20の塗膜を形成することができたものを「Good」とし、均一かつ万遍なく下地層20の塗膜を形成することができなかったものを「Bad」として判定した。
【0064】
(皮膜破断強度試験)
得られた各合成擬革に使用している下地層20については、以下の手法で皮膜破断強度を測定した。
各下地層用配合液(B-1,B-2)を、離型紙(大日本印刷株式会社製の「DNTP-FL」)上に、実施例/比較例それぞれに記載の重量(g/m・dry)にて形成されるように塗工し、乾燥して得られたフィルムを、ダンベルを用いて幅1.5cm,長さ5.0cmに打ち抜き、試料を作製した。
そして、試料の両端からそれぞれ1.5cmの部分にセロテープ(ニチバン社製の「CT-12S」)を貼り付け、島津製作所製オートグラフAGS-Jの掴み具に固定し、200mm/minの速度で引っ張り、試料が破断した引っ張り強度を試料の断面積で除した値を、皮膜破断強度とした。
【0065】
(剥離強度試験)
得られた各合成擬革に幅17mmのウレタン系HMテープを熱圧着した後25mm巾の短冊状の測定試料を作製し、AGS-J(島津製作所)にて200mm/minの速度で引張り接着強度を測定した。
一般に、1.5kgf/inch以上であることで、発泡合成擬革として実用上問題のない水準を超える基材10との密着性(剥離強度)を得ていると判断される。
【0066】
(発泡度合い評価:発泡層の密度)
得られた各合成擬革を10cm×10cm角に切り取って重量を測定した。別途、10cm×10cmの下地層用配合液(B-1)又は下地層用配合液(B-2)からなる下地層20を形成した基材10、表皮付きフィルムから離型紙を剥離した表皮層40の重量を測定し、下記式にて発泡層30の密度を算出した。
(1)合成擬革の重量測定・計算:
合成擬革全体の重さ:イ、基材10の重さ:ロ、表皮層40の重さ:ハ、下地層20の重さ:ニから、下記式により発泡層30の重さを求めた。
発泡層30の重さ:ホ=イ-ロ-ハ-ニ
(2)合成擬革の厚み測定・計算:
合成擬革全体の厚み:ヘ、基材10の厚み:ト、表皮層40の厚み:リ、下地層20の厚み:ヌから、下記式により発泡層30の厚みを求めた。
発泡層30の厚み:ル=ヘ-ト-リ-ヌ
(3)発泡層30の密度計算:下記式により発泡層30の密度を求めた。
発泡層30の密度=ホ÷(ル×10×10)(g/cm
なお、発泡層30の密度が0.03g/cm~0.30g/cmであることで良好な柔軟性と大きな剥離強度を両立させることができると判断できる。
【0067】
(風合い(柔軟性)評価)
得られた各合成擬革の柔軟性について、標準合成擬革を基準とし、手で触った感触で比較し、評価指標は下記のとおりとした。なお、評価がA~Cであれば合格である。
A:標準合成擬革よりも柔らかい
B:標準合成擬革と同程度に柔らかい
C:標準合成擬革よりも少し硬い
D:標準合成擬革よりも大幅に硬い
【0068】
《標準合成擬革の作製》
上記離型紙上に形成された膜厚45μmの表皮層40を備える表皮付きフィルムに、レザミンUD-8351NT(ポリウレタン樹脂接着剤、大日精化工業株式会社製)100質量部、C-50架橋剤(イソシアネート系架橋剤、大日精化工業株式会社製)10質量部の配合で調整した接着剤を厚み100μmの接着剤層を形成するように塗工した。
その後、80℃/2分の予備乾燥を行い、得られた接着剤層をポリエステルの丸編みである厚さ1.0mmのポリエステル基布(基材10)に接するように配設し、ラミネートロール温度40℃にて加圧圧着した。その後、50℃/48時間での条件でエージングを行い風合い(柔軟性)評価のための標準合成擬革(MEKを使用した一般的な乾式レザー)を得た。
【0069】
[合否判定について]
各表中には、剥離強度が1.5kgf/inch以上であり、かつ風合い(柔軟性)評価がA~Cであるものを「Pass」とし、この基準に合致しないものを「Fail」として判定した。
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
なお、表2,3中の下地層用配合液の塗工膜厚は、バーコーターと表記している以外のものについては、ダイスロットから一定の間隔を開けて下地層用配合液を塗工するダイコーティングによるものであるので、ダイスロットと基材との間隔を塗工した直後のウェット状態の塗工膜厚の参考値とした。
そして、表2,3中の下地層用配合液の塗工膜厚として、バーコーターと表記しているものについては、記載されている番手のバーコーターで塗工したことを示し、該バーコーターのメーカー資料(第一理化株式会社)より引用したウェット状態の目安膜厚を、ウェット状態の塗工膜厚の参考値として括弧内に併記した。
【0073】
表2,3中の下地層(乾燥)厚みは、実施例3、8、10、比較例3についてはSEMによる断面画像から10点平均で計測し算出した。
一方、実施例1、2、4~7、9、比較例2、4については下地層20がSEMによる断面画像で確認できなかったため、離型紙(大日本印刷株式会社製の「DNTP-FL」)上に、下地層20の乾燥時の目付量と同等となるように、計測対象の水性ポリウレタン樹脂を含む配合液を塗工し、乾燥工程として、60℃で4分、100℃で3分、120℃で3分の各工程を順に経た後に、離型紙に形成された下地層の厚みを、計測対象の下地層20の厚みとした。
【0074】
表2,3より、本実施例は、発泡密度を0.3g/cm未満に下げ、従来のレザー、例えば、DMF使用の湿式法で作製された合成擬革と同程度の優れた風合い(柔軟性)を発現させても、良好な密着性を発揮することがわかった。
また、本実施例は、比較例1のように基材に水を含浸させた場合に比べて高い剥離強度が得られた。これは、比較例1では、マングル使用による脱水などで単位面積当たりの水分量の分布にバラツキが生じやすく、発泡層となりうる湿気硬化型接着剤が局所的に過剰発泡したり、過剰に基布含浸したりしたためと推察される。
【符号の説明】
【0075】
10 基材
20 下地層
30 発泡層
40 表皮層
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2021-05-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に設けられた水性ポリウレタン樹脂を含む配合液により形成される下地層と、
前記下地層上に設けられた末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを発泡してなる発泡層とを備え、
前記下地層の目付量が3~60g/m・dryであり、
前記下地層の乾燥後の皮膜破断強度が5MPa以上である、多孔層構成体。