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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112714
(43)【公開日】2022-08-03
(54)【発明の名称】車両運動制御装置および車両
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/00 20060101AFI20220727BHJP
【FI】
B60G17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008618
(22)【出願日】2021-01-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391022614
【氏名又は名称】学校法人幾徳学園
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】平田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】中野 勇大
(72)【発明者】
【氏名】山門 誠
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA04
3D301EA14
3D301EA21
3D301EA35
3D301EA43
3D301EB02
3D301EB04
3D301EB05
3D301EB09
3D301EB20
3D301EC01
3D301EC05
(57)【要約】
【課題】乗り心地を改善することができる車両運動制御装置を提供する。
【解決手段】旋回中の車両1の横加速度に基づいてロールモーメント指令値を出力するロールモーメント指令値演算器110と、該車両に搭載され車体にロールモーメントを発生可能なアクチュエータ400を前記ロールモーメント指令値によって制御するアクチュエータ制御手段130を有し、前記車両に搭載される車両運動制御装置100であって、前記ロールモーメント指令値演算器が出力する前記ロールモーメント指令値がロールモーメント目標値とロールモーメント基準値との差であり、前記ロールモーメント基準値が車両の横加速度によって車両に作用するロールモーメントであり、前記ロールモーメント目標値が前記ロールモーメント基準値と入力信号の位相を変化させる伝達関数との積で定まる、車両運動制御装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回中の車両の横加速度に基づいてロールモーメント指令値を出力するロールモーメント指令値演算器と、該車両に搭載され車体にロールモーメントを発生可能なアクチュエータを前記ロールモーメント指令値によって制御するアクチュエータ制御手段を有し、前記車両に搭載される車両運動制御装置であって、
前記ロールモーメント指令値演算器が出力する前記ロールモーメント指令値がロールモーメント目標値とロールモーメント基準値との差であり、前記ロールモーメント基準値が車両の横加速度によって車両に作用するロールモーメントであり、前記ロールモーメント目標値が前記ロールモーメント基準値と入力信号の位相を変化させる伝達関数との積で定まる、
車両運動制御装置。
【請求項2】
請求項1の車両運動制御装置において、
前記ロールモーメント指令値演算器は、操舵角センサが出力する操舵角情報から操舵角の周波数を演算する操舵角周波数演算部と、前記伝達関数の時定数を設定する時定数設定部とを備え、前記操舵角周波数演算部が出力する操舵角の周波数と前記時定数設定部が出力する時定数を用いて前記ロールモーメント指令値を演算する車両運動制御装置。
【請求項3】
請求項1または2の車両運動制御装置において、
前記ロールモーメント指令値演算器は、遅れ進み選択部を備え、車速センサが出力する車速に基づいて、前記遅れ進み選択部が前記伝達関数による入力信号の位相変化として位相を遅らせる、位相を進める、もしくは位相不変のいずれかを選択し、選択結果を出力する車両運動制御装置。
【請求項4】
請求項3の車両運動制御装置において、
前記遅れ進み選択部は、前記車速が予め設定された第1の閾値以下の場合に、前記伝達関数によって入力信号の位相を遅らせると選択し、選択結果を出力する車両運動制御装置。
【請求項5】
請求項4の車両運動制御装置において、
前記ロールモーメント指令値演算器は、前記伝達関数の時定数を設定する時定数設定部を備え、前記時定数設定部は、前記車速が小さいほど前記時定数を大きく設定する車両運動制御装置。
【請求項6】
請求項3の車両運動制御装置において、
前記遅れ進み選択部は、前記車速が予め設定された第2の閾値以上の場合に、前記伝達関数によって入力信号の位相を進めると選択し、選択結果を出力する車両運動制御装置。
【請求項7】
請求項6の車両運動制御装置において、
前記ロールモーメント指令値演算器は、前記伝達関数の時定数を設定する時定数設定部を備え、前記時定数設定部は、前記車速が大きいほど前記時定数を大きく設定する車両運動制御装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の車両運動制御装置を搭載した車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋回中の車両におけるロール運動を制御する車両運動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
旋回中の車両に生じるロール運動(適宜、ロール角または単にロールとも呼ぶ)を制御することで、車両の乗り心地や運転し易さを向上させる技術の開発が進められてきている。当該技術として、例えば、以下の従来技術1および従来技術2が知られている。
【0003】
従来技術1は、アクティブスタビライザや減衰力を変更可能なダンパを備えた車両においてロール角を制御する技術であり、検出した車速と舵角から車体に発生しているロール角を推定し、目標となるロール角との偏差に基づいてサスペンションの減衰特性またはばね特性を変更することで、横加速度に応じて発生するロールを抑制し、横加速度の発生とロールの発生との時間差を小さくする、もしくは一定に保つ制御を行う。(特許文献1)
【0004】
従来技術2は、アクチュエータでサスペンションのダンパの減衰力を変更することで、横加速度によって生じるロール角や前後加速度によって生じるピッチ角を制御する技術であり、横加速度の微分値や前後加速度の微分値とダンパ速度に基づいてダンパの減衰力を変更することで、ロール角またはピッチ角を制御する場合の乗り心地悪化を抑制する。(特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-106257号公報
【特許文献2】特開2006-69527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術1は、旋回中の車両に生じる横加速度に対してロールの発生量や発生までの時間差を、サスペンションのばね定数や減衰特性を変化させることで調整するが、凹凸のある路面を走行する場合に乗り心地が悪化する可能性がある。従来技術2は、横加速度の微分値や前後加速度の微分値とダンパ速度に基づいてダンパの減衰力を変更することで、ロール角やピッチ角を制御する場合の乗り心地悪化を抑制するが、ダンパの減衰力を緻密に制御する必要があり、ダンパの減衰力の調整に遅れが生じると乗り心地が悪化する可能性がある。
【0007】
この発明の目的は、以上の従来技術の課題を解決すべく、乗り心地を改善することができる車両運動制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る車両運動制御装置は、
旋回中の車両の横加速度に基づいてロールモーメント指令値を出力するロールモーメント指令値演算器と、該車両に搭載され車体にロールモーメントを発生可能なアクチュエータを前記ロールモーメント指令値によって制御するアクチュエータ制御手段を有し、前記車両に搭載される車両運動制御装置であって、
前記ロールモーメント指令値演算器が出力する前記ロールモーメント指令値がロールモーメント目標値とロールモーメント基準値との差であり、前記ロールモーメント基準値が車両の横加速度によって車両に作用するロールモーメントであり、前記ロールモーメント目標値が前記ロールモーメント基準値と入力信号の位相を変化させる伝達関数との積で定まる。
【0009】
上記構成によると、本発明に係る車両運動制御装置は、旋回中の車両の横加速度に基づいてロールモーメント指令値を出力する上記ロールモーメント指令値演算器を有し、該車両に搭載された上記アクチュエータにより車体にロールモーメントを発生可能であり、車両の横加速度によって車両に作用するロールモーメントである前記ロールモーメント基準値と、前記ロールモーメント基準値と入力信号の位相を変化させる伝達関数との積で定まる前記ロールモーメント目標値との差が、前記ロールモーメント指令値であるので、該アクチュエータを制御し車両にロールモーメントを発生させることで旋回中の車両に作用しているロールモーメントの位相を直接制御するため、サスペンションのばね定数やダンパの減衰力を変更することなく、ロール運動の位相を変化させることができる。この結果、サスペンションの特性を変えることなく、運転者の操舵に対するロール運動の発生を適切なタイミングに変えることができるので、車両の乗り心地や運転し易さを改善することができる。
【0010】
上記構成において、前記ロールモーメント指令値演算器は、操舵角センサが出力する操舵角情報から操舵角の周波数を演算する操舵角周波数演算部と、前記伝達関数の時定数を設定する時定数設定部とを備え、前記操舵角周波数演算部が出力する操舵角の周波数と前記時定数設定部が出力する時定数を用いて前記ロールモーメント指令値を演算してもよい。これにより、運転者の操舵に対してロール運動の大きさと発生タイミングを適切に変えることができるため、運転者に違和感を与えることなく車両の乗り心地や運転し易さを改善することができる。
【0011】
上記構成において、前記ロールモーメント指令値演算器は、遅れ進み選択部を備え、車速センサが出力する車速に基づいて、前記遅れ進み選択部が前記伝達関数による入力信号の位相変化として位相を遅らせる、位相を進める、もしくは位相不変のいずれかを選択し、選択結果を出力してもよい。これにより、車速に応じて変化する操舵に対する横加速度の発生タイミングに合わせて位相の遅れ進みを選択するため、車両の乗り心地や運転し易さを改善することができる。
【0012】
上記構成において、前記遅れ進み選択部は、前記車速が予め設定された第1の閾値以下の場合に、前記伝達関数によって入力信号の位相を遅らせると選択し、選択結果を出力してもよい。これにより、車速が小さい場合に操舵に対するロール運動の位相を遅らせることで車両の乗り心地を改善することができる。
【0013】
上記構成において、前記ロールモーメント指令値演算器は、前記伝達関数の時定数を設定する時定数設定部を備え、前記時定数設定部は、前記車速が小さいほど前記時定数を大きく設定してもよい。これにより、車速が小さい場合に車速の大きさに合わせて操舵に対するロール運動の位相を遅らせることで車両の乗り心地を更に改善することができる。
【0014】
上記構成において、前記遅れ進み選択部は、前記車速が予め設定された第2の閾値以上の場合に、前記伝達関数によって入力信号の位相を進めると選択し、選択結果を出力してもよい。これにより、車速が大きい場合に操舵に対するロール運動の位相を進めることで車両の運転し易さを改善することができる。なお、上記第1の閾値と上記第2の閾値とは、等しい値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0015】
上記構成において、前記ロールモーメント指令値演算器は、前記伝達関数の時定数を設定する時定数設定部を備え、前記時定数設定部は、前記車速が大きいほど前記時定数を大きく設定してもよい。これにより、車速が大きい場合に車速の大きさに合わせて操舵に対するロール運動の位相を進めることで車両の運転し易さを更に改善することができる。
【0016】
本発明にかかる車両は、上記のいずれかに記載の構成の車両運動制御装置を搭載している。
【0017】
上記構成によると、本発明にかかる車両は、上に記載の各車両運動制御装置を搭載しているため、上述の各効果を奏しうると共に、少なくとも、アクチュエータを制御し車両にロールモーメントを発生させることで旋回中の本車両に作用しているロールモーメントの位相を直接制御するため、サスペンションのばね定数やダンパの減衰力を変更することなく、ロール運動の位相を変化させることができる。この結果、サスペンションの特性を変えることなく、運転者の操舵に対するロール運動の発生を適切なタイミングに変えることができるので、車両の乗り心地や運転し易さを改善することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる車両運動制御装置は、乗り心地を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の一の実施形態に係る車両運動制御装置を搭載した車両がシングルレーンチェンジを行った場合のロール角、ロールモーメント等の各波形図である[遅れ位相]。
図2】上記ロール角の振幅調整を行う同車両運動制御装置を搭載した車両がシングルレーンチェンジを行った場合のロール角、ロールモーメント等の各波形図である[遅れ位相]。
図3図1の場合の車両運動制御装置を搭載した車両がシングルレーンチェンジを行った場合のロール角、ロールモーメント等の各波形図である[進み位相]。
図4】上記ロール角の振幅調整を行う同車両運動制御装置を搭載した車両がシングルレーンチェンジを行った場合のロール角、ロールモーメント等の各波形図である[進み位相]。
図5】上記の各車両運動制御装置を搭載する車両の構成を示す概略図である。
図6】同車両運動制御装置の構成を示すブロック図である。
図7】遅れ進み選択部の出力と時定数設定部の出力の例を示す図である。
図8】遅れ進み選択部の出力と時定数設定部の出力の他の例を示す図である。
図9】この発明の他の実施形態に係る車両運動制御装置を搭載する車両の構成を示す概略図である。
図10】同車両運動制御装置の構成を示すブロック図である。
図11】上記車両に発生する上下力およびサスペンションのリンク配置等を示す概要図である。
図12】この発明の更に他の実施形態に係る車両運動制御装置を搭載する車両の構成を示す概略図である。
図13】同車両運動制御装置の構成を示すブロック図である。
図14】上記車両に発生する上下力およびサスペンションのリンク配置等を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態に係る車両運動制御装置100(100A[図6]、100B[図10]、100C[図13])は、ロールモーメントを発生させるアクチュエータ400(例えば、アクティブスタビライザ410、430[図5]、アクティブサスペンション(登録商標)17[図9]、インホイールモータ19[図12])を有する車両1(1A[図5]、1B[図9]、1C[図12])に搭載される。車両運動制御装置100は、図6図10図13のロールモーメント指令値演算器110とアクチュエータ制御手段130(130A[図6]、130B[図10]、130C[図13])を有する。
【0021】
車両運動制御装置100は、旋回中の車両1に作用しているロールモーメントの位相を直接制御し、ロールモーメントの位相を遅らせるもしくは進めることでロール運動の位相を変化させる。具体的には、ロールモーメントの位相を変化させるために、車両運動制御装置100に含まれるロールモーメント指令値演算器110は、車両1に作用する横加速度と時定数を有する伝達関数から、車両1に作用しているロールモーメントの位相を遅らせるもしくは進めるために必要なロールモーメントを計算し、ロールモーメント指令値として出力する。アクチュエータ制御手段130は、前記ロールモーメント指令値に従ってアクチュエータ400を制御して車両1にロールモーメントを発生させ、車両1のロール運動を変化させる。
【0022】
ロールモーメント指令値演算器110が出力するロールモーメント指令値について説明する。旋回中の車両1には、横加速度(実横加速度)a(s)が車両の横方向に作用し、該横加速度によって式(1)のロールモーメントMφ(s)が生じる。sはラプラス演算子である。
【数1】
ここで、msは車両1のばね上質量、hs図11の車両重心点Gとロール軸(フロントのロールセンタA1とリヤのロールセンタA2とを結んだ軸線)lsとの間の距離である。このロールモーメントによって、車両1にロール角φが生じる。ロール角φは、車両1のロール剛性をKφ、ロール減衰係数をCφ、ロール慣性モーメントをIφ(s)とすれば、式(2)になる。
【数2】
車両1のロール剛性Kφとロール減衰係数Cφは、それぞれサスペンションのばね定数とダンパ減衰力によって決まる値である。ロール運動の位相を変化させるために、本実施形態では、従来のようなサスペンションのばね定数とダンパ減衰力を調整するのではなく、車両1に作用するロールモーメントMφ(s)の位相をアクチュエータ400により直接制御する。
【0023】
ここで、旋回中の横加速度a(s)によって生じる式(1)のロールモーメントをロールモーメント基準値MS(s)とする(下式(3))。つまりロールモーメント基準値MS(s)は、アクチュエータ400でロールモーメントを発生していない場合に車両1に作用しているロールモーメントである(図1~4の(d)の実線)。
【数3】
【0024】
旋回中の各数値の具体例として、シングルレーンチェンジを行った場合のグラフを図1に示す。図1の(a)~(c)における実線は本実施形態の車両運動制御装置100を動作させていない場合の各値の変化を示したものである。操舵角δ(同図(a))に対して横加速度a(同図(b))が遅れて生じ、さらに遅れてロール角φ(同図(c))が生じる。(以上、図2~4でも同じ。)
【0025】
次にアクチュエータ400でロールモーメントを発生させることで実現したい位相を変化させた後のロールモーメントをロールモーメント目標値MT(s)とし、式(4)で表す(図1~4の(d)の点線)。
【数4】
G(s)は位相を変化させるための伝達関数である。
【0026】
位相を遅らせる場合、例えば式(5)の1次遅れの伝達関数を用いることで入力信号の位相を遅らせることができる。Tは時定数である。
【数5】
式(5)の伝達関数を用いた場合、式(4)よりロールモーメント目標値MTは式(6)になる。
【数6】
【0027】
旋回中の車両1には、横加速度aによってロールモーメント基準値MS(s)に相当するロールモーメントが既に作用しているため、アクチュエータ400を制御しロールモーメントを発生することでロールモーメント目標値MT(s)に相当するロールモーメントを車両1に作用させるには、ロールモーメント目標値MT(s)とロールモーメント基準値MS(s)の差をロールモーメント指令値MO(s)としアクチュエータ400を制御すればよい。つまり、ロールモーメント指令値MO(s)は式(7)になる(図1の(d)の一点鎖線)。
【数7】
【0028】
上記シングルレーンチェンジの例におけるロールモーメント目標値MTおよびロールモーメント指令値MOを図1の(d)に示す。アクチュエータ制御手段130によりロールモーメント指令値MOとなるロールモーメントをアクチュエータ400で発生させることで、車両1に作用するロールモーメントはロールモーメント目標値MTに等しくなり、ロールモーメントの位相が遅れる。これにより車両1のロール角φは点線で示した波形となり、ロール角の位相を遅らせることができる。当該点線波形は、立ち上がった後に、ピーク値の時刻や、ゼロクロス点の時刻が、実線波形に対してΔ1だけ位相が遅れた波形となっている。
【0029】
このとき点線で示したロール角φは、伝達関数G(s)の時定数Tと操舵角δの周波数ωにより式(8)で計算されるADだけ振幅の大きさが小さくなる。これは、ロールモーメント目標値MTの振幅が伝達関数により小さくなるためである。
【数8】
【0030】
車両運動制御装置100によってアクチュエータ400でロールモーメントを発生させた場合と発生させない場合とでロール角の大きさがおおよそ等しくなるようにするためには、式(6)のロールモーメント目標値MT(s)を1/AD倍すればよい。ADの逆数をαD(=1/AD)とすれば、ロールモーメント目標値MT(s)は式(6)から式(10)になる。
【数9】
【数10】
このときロールモーメント指令値MO(s)は式(11)になる(図2の(d)の一点鎖線)。
【数11】
【0031】
図1のシングルレーンチェンジの例において、車両運動制御装置100によって式(11)で計算されるロールモーメント指令値MO(s)を発生させた場合のグラフを図2に示す。ロールモーメント指令値MO(s)によりアクチュエータ400でロールモーメントを発生させることで、ロール角の位相が遅くなるとともに、アクチュエータ400によるロールモーメントの発生有無に依らずロール角の大きさが、実線波形と点線波形とで、おおよそ等しくなる(図2の(c))。
【0032】
同様に、車両運動制御装置100によりロールモーメントの位相を進める場合、例えば式(12)の一次進みの伝達関数を用いることで入力信号の位相を進めることができる。Tは時定数である。
【数12】
式(12)の伝達関数を用いた場合、式(4)よりロールモーメント目標値MTは式(13)になる。
【数13】
【0033】
位相を遅らせる場合と同様にロールモーメント指令値MO(s)はロールモーメント目標値MT(s)とロールモーメント基準値MS(s)の差であるから、ロールモーメント指令値MO(s)は式(14)になる(図3の(d)の一点鎖線)。
【数14】
【0034】
図1と同様のシングルレーンチェンジの例で、式(13)のロールモーメント目標値MTおよび式(14)のロールモーメント指令値MOのグラフを図3の(d)に示す。アクチュエータ制御手段130によりロールモーメント指令値MOとなるロールモーメントをアクチュエータ400で発生させることで、車両1に作用するロールモーメントはロールモーメント目標値MTに等しくなり、ロールモーメントの位相が進む。これにより車両1のロール角φは点線で示した波形となり、ロール角の位相を進めることができる。当該点線波形は、立ち上がった後に、ピーク値の時刻や、ゼロクロス点の時刻が、実線波形に対してΔ2だけ位相が進んだ波形となっている。
【0035】
このとき点線で示したロール角φは、位相を遅らせた場合と同様に、伝達関数G(s)の時定数Tと操舵角δの周波数ωにより式(15)で計算されるAAだけ振幅の大きさが大きくなる。これは、ロールモーメント目標値MTの振幅が伝達関数により大きくなるためである。
【数15】
【0036】
車両運動制御装置100によってアクチュエータ400でロールモーメントを発生させた場合と発生させない場合とでロール角の大きさがおおよそ等しくなるようにするためには、式(13)のロールモーメント目標値MT(s)を1/AA倍すればよい。AAの逆数をαA(=1/AA)とすれば、ロールモーメント目標値MT(s)は式(13)から式(17)になる。
【数16】
【数17】
このときロールモーメント指令値MO(s)は式(18)になる(図4の(d)の一点鎖線)。
【数18】
【0037】
図3のシングルレーンチェンジの例において、車両運動制御装置100によって式(18)で計算されるロールモーメント指令値MO(s)を発生させた場合のグラフを図4に示す。ロールモーメント指令値MO(s)によりアクチュエータ400でロールモーメントを発生させることで、ロール角の位相が進むとともに、アクチュエータ400によるロールモーメントの発生有無に依らずロール角の大きさが、実線波形と点線波形とで、おおよそ等しくなる(図4の(c))。
【0038】
以上のロール角の位相変化は、サスペンションのばね定数や減衰特性を変更することなく行うことができるため、ロール運動制御時に車両1が凹凸路面を走行しても乗り心地の悪化は生じない。
【0039】
なお、上で述べたようなロール角の大きさを調整しない場合には、遅れの場合は、式(11)ではなくて、式(7)を使用してもよいし、進みの場合は、式(18)ではなくて、式(14)使用してもよい。この場合、操舵角の周波数ωは使用しないため、後述の操舵角周波数演算部115の実装を不要とできる。
【0040】
本実施形態の実施例を図5に示す。上記車両1(本実施形態では、1A)は、ロールモーメントを発生可能なアクチュエータ400として、前輪側および後輪側に、各々、モータ450(451(前輪用),453(後輪用))を含むアクティブスタビライザ410,430を備えている。また車両1Aには、運転者の操舵を検出し、前記操舵角を含む操舵角情報を出力する操舵角センサ250、車速を検出する車速センサ271、車両1Aの前後左右方向の加速度を検出する加速度センサ230、車両1Aのヨーレートを検出するヨーレートセンサ210、車両1Aの基本動作を制御するECU270、車両1Aのロール運動を制御する車両運動制御装置100(本実施形態では、100A)、前輪および後輪のアクティブスタビライザに搭載されるモータを制御するインバータ311(前輪用),インバータ313(後輪用)を含むスタビライザ制御装置310を備えている。車両1Aの前後左右の各車輪10は、ナックル11、ばねおよびダンパ13、およびサスペンションアーム15を介して車両1Aの車体に取り付けられている。
【0041】
図6に車両運動制御装置100Aのブロック図を示す。車両運動制御装置100Aは、ロールモーメント指令値演算器110とアクチュエータ制御手段130(本実施形態では、130A)を備える。ロールモーメント指令値演算器110は、遅れ進み選択部111、時定数設定部113、操舵角周波数演算部115、演算方法選択部117を備える。遅れ進み選択部111は、車速センサ271が検出してECU270を介して出力する車速に基づきロールモーメントの位相を遅らせるか進めるかを選択する。車速が低い場合は、運転者の操舵に対する横加速度の発生の遅れは小さいため、ロールモーメントの位相を遅らせる(上述の式(7)もしくは式(11)を選択)。車速が高い場合は、運転者の操舵に対する横加速度の発生の遅れが大きいため、ロールモーメントの位相を進める(上述の式(14)もしくは式(18)を選択)。なお、本車両の出荷時に、実験結果やシミュレーション結果等から、式(7)、(11)、(14)もしくは式(18)のうちから選択した式を確定してもよい。
【0042】
時定数設定部113は、前記車速に基づきロールモーメント指令値の演算に用いる時定数Tを設定する。時定数は、位相を遅らせる場合と位相を進める場合で異なる値としてもよいし、同じ値としてもよい。また時定数を一定値としてもよいし、車速に応じて変化するようにしてもよい。例えば、車速が低いほどロールモーメントの位相が遅れるように時定数を大きく設定する。これにより操舵に対してロール運動の応答が穏やかになるため乗り心地が良くなる。また車速が高くほどロールモーメントの位相が進むように時定数を大きく設定する。これにより操舵に対するロール運動の応答が改善し運転者の運転し易さを向上する。
【0043】
遅れ進み選択部111の出力と時定数設定部113の出力(時定数)の例を図7図8に示す。図7のように、常にロールモーメントの位相を変更させるべく車速に応じて、閾値V1を境に、遅らせるもしくは進めることで、運転者の操舵に対するロール運動の応答を一定にすることもできる。図8のようにある車速域(閾値V2~閾値V3間)のときに、「位相を変えない」ケースを選択できるようにしてもよい。ロール運動の位相を変化させたときに効果が高くなる低速域もしくは高速域のみで制御を実施し、上記のような車速域は効果が低いため「位相を変えない」すなわち制御をしないことで、アクチュエータ400によるエネルギー消費を抑制することができる。図7および図8では遅れ進み選択部111が「位相を遅らせる」「位相を進める」の両方を出力する例を示したが、車両1Aの特性に合わせて「位相を遅らせる」もしくは「位相を進める」の一方のみを出力するようにしてもよい。
【0044】
操舵角周波数演算部115は、操舵角を用いて操舵角の周波数ωを演算する。操舵角周波数演算部115は、例えば、車両1Aが走行する道路情報を事前に取得し、道路の曲率もしくは旋回半径と車速とから道路を走行するために必要な操舵角を推定してもよい。また操舵角周波数演算部115は、例えば、操舵角から操舵角速度を計算し、操舵角速度に基づいて予め定めた操舵角の周波数ωを出力するようにしてもよい。
【0045】
演算方法選択部117は、前記車速、前記操舵角、もしくは前記操舵角の周波数ωに基づいて演算に用いる計算式を選択する。位相を遅らせる場合には、上述の式(7)もしくは式(11)を用いる。例えば車速が高い場合、操舵角が大きい場合、横加速度が大きい場合、または操舵角の周波数が高い場合は、車両運動制御装置100Aによりロール運動の位相を変化させた場合のロール運動の大きさの変化が大きくなるため、式(11)を用いる。例えば車速が低い場合、操舵角が小さい場合、横加速度が小さい場合、または操舵角の周波数が低い場合は、車両運動制御装置100Aによりロール運動の位相を変化させた場合のロール運動の大きさの変化が小さいため、式(7)を用いる。これにより計算負荷を抑制することができる。
【0046】
位相を進める場合には、上述の式(14)もしくは式(18)を用いる。例えば車速が高い場合、操舵角が大きい場合、横加速度が大きい場合、または操舵角の周波数が高い場合は、車両運動制御装置100Aによりロール運動の位相を変化させた場合のロール運動の大きさの変化が大きくなるため、式(18)を用いる。例えば車速が低い場合、操舵角が小さい場合、横加速度が小さい場合、または操舵角の周波数が低い場合は車両運動制御装置100Aによりロール運動の位相を変化させた場合のロール運動の大きさの変化が小さいため、式(14)を用いる。これにより計算負荷を抑制することができる。
【0047】
車両運動制御装置100(100A)は、式(7)もしくは式(11)を用いて演算したロールモーメント指令値を、または、式(14)もしくは式(18)を用いて演算したロールモーメント指令値を、アクチュエータ制御手段130(130A)に出力する。
【0048】
なお、ロールモーメント指令値の演算において、加速度センサが出力する実横加速度の代わりに、操舵角センサが出力する操舵角とECU270が出力する車速を用いて推定した推定横加速度推定値を用いてもよい。例えば、線形タイヤモデルを用いた次の式(19)の二輪モデルの応答関数を用いてもよい。
【数19】
Gδ ay(0)は横加速度ゲイン定数、ωnは操舵に対する車両1Aのヨー応答の固有振動数、ζは操舵に対する車両1Aのヨー応答の減衰比、Ty1およびTy2は車速および車両パラメータで決まる定数である。操舵角δは、ステアリング部に設けた操舵角センサの出力からの演算値の他に、ステアリングラックに設けたセンサの出力である歯車等の回転角やラック移動量等から演算した操舵角を用いることができる。
【0049】
また上記の式(19)の代わりに、非線形タイヤモデルを用いた次の式(20)を用いてもよい。
【数20】
ただし、添え字のTは、前輪(f)もしくは後輪(r)のいずれかを示す添え字であり、Kはタイヤのコーナリングパワー、βは前輪もしくは後輪位置での横滑り角、μは路面摩擦係数、Wはタイヤの垂直荷重、Xはタイヤの前後力である。式(20)で計算したタイヤ横力Yから、式(21)で横加速度ayを推定する。なお、式(20)のヨーレートrは、ヨーレートセンサが出力した実ヨーレートである。
【数21】
式(20)の非線形タイヤモデルは、タイヤ横力の飽和やタイヤの垂直荷重を考慮しているため、タイヤ横力の推定値の精度が向上する。従って、式(21)を用いれば車載センサで計測したヨーレートrから横加速度ayを精度よく推定することができる。
【0050】
アクチュエータ制御手段130Aは、入力されたロールモーメント指令値を、前輪側と後輪側の各アクティブスタビライザ410,430で発生させるロールモーメントとして、前輪ロールモーメント指令値と後輪ロールモーメント指令値に配分する。前後の配分割合は、例えば前後輪のロール剛性比と等しくしてもよい。さらにアクチュエータ制御手段130Aは、前輪ロールモーメント指令値と後輪ロールモーメント指令値を前後輪用の各アクティブスタビライザ410,430に内蔵されるモータ450(前方を451、後方を453とする)のモータトルク指令値に変換し、スタビライザ制御装置310へ出力する。
【0051】
スタビライザ制御装置310は、モータトルク指令値に従い、スタビライザ制御装置310内の前方用および後方用の各インバータ311、313でアクティブスタビライザ410,430内のモータ451,453に流れる電流を制御する。前後輪用の各アクティブスタビライザ410,430で、ロールモーメント指令値MOを実現するロールモーメントを発生させることで、車両1Aにはロールモーメント目標値MTに相当するロールモーメントが作用し、ロール運動の位相が変化する。
【0052】
他の実施形態を、図9に示す。図9の車両1(本実施形態では、1B)は、図5の前輪側および後輪側のアクティブスタビライザ410、430の代わりに、ロールモーメントを発生可能なアクチュエータ400として、四輪に各々アクティブサスペンション17を備えている。また車両1Bは、四輪のアクティブサスペンション17,17,17,17の上下力を制御するサスペンション制御装置330を備えている。
【0053】
図10に車両運動制御装置100(本実施形態では、100B)のブロック図を示す。車両運動制御装置100Bの構成は図6の車両運動制御装置100Aと同様であるが、アクチュエータ制御手段130(本実施形態では、130B)の出力が異なる。アクチュエータ制御手段130Bは、車両運動制御装置100Bのロールモーメント指令値演算器110が出力したロールモーメント指令値MOを上下力指令値FSi(iは、1~4の整数)に変換し、サスペンション制御装置330へ出力する。添え字のiは、四輪車のサスペンション位置を示しており、i=1で左前輪、i=2で右前輪、i=3で左後輪、i=4で右後輪を示す(後述の実施形態においても同様)。
【0054】
図11に示すように、説明を簡単にするため、ばねとダンパが同一軸上に配置されており、また、アクティブサスペンション17が発生する上下力FSiもばねおよびダンパと同一位置で車体に作用する、と仮定する。また図11に示すように、前輪のアクティブサスペンション17、17におけるばねとダンパの支持点の左右間距離をdsf、後輪のアクティブサスペンション17、17におけるばねとダンパの支持点の左右間距離をdsrとする。ここで、前輪のアクティブサスペンション17、17で発生させるロールモーメントと後輪のアクティブサスペンション17、17で発生させるロールモーメントとの比を仮に1:1とすれば、ロールモーメント指令値MOを上下力指令値FSiに変換するための関係式は式(22)~式(25)となる。
【数22】
【数23】
【数24】
【数25】
【0055】
図10の車両運動制御装置100Bのアクチュエータ制御手段130Bは、変換した上記上下力指令値FSiをサスペンション制御装置330に出力して、サスペンション制御装置330が四輪の各アクティブサスペンション17,17,17,17の上下力を各々制御する。四輪の各アクティブサスペンション17,17,17,17の各上下力により、ロールモーメント指令値MOを実現するロールモーメントが発生することで、車両1Bにはロールモーメント目標値MTに相当するロールモーメントが作用し、ロール運動の位相が変化する。
【0056】
更に他の実施形態を、図12に示す。図12の車両1(本実施形態では、1C)は、四輪に、ロールモーメントを発生可能なアクチュエータ400としても機能する、インホイールモータ19を各々備えている。また車両1Cは、4つの各車輪10に対応したインバータ351,353,355,357を含み、4つの車輪10の各インホイールモータ19の前後力を制御するモータ制御装置350、運転者のアクセルペダル操作を検出するアクセルペダルセンサ273、ブレーキペダル操作を検出するブレーキペダルセンサ275を備えている。ECU270は、車速センサ271が検出した車速に加えて、アクセルペダルセンサ273の出力に基づいたアクセル指令値、ブレーキペダルセンサ275の出力に基づいたブレーキ指令値を車両運動制御装置100(本実施形態では、100C)に向けて出力する。モータ制御装置350は、アクセル指令値およびブレーキ指令値に対応する通常の走行および制動の制御に加え、車両運動制御装置100Cの指令によるロール制御のため、4つのインホイールモータ19,19,19,19の各制御を行う。
【0057】
図13に車両運動制御装置100Cのブロック図を示す。車両運動制御装置100Cの構成は図6の車両運動制御装置100Aと同様であるが、アクチュエータ制御手段130(本実施形態では、130C)の出力が異なる。アクチュエータ制御手段130Cは、車両運動制御装置100Cのロールモーメント指令値演算器110が出力したロールモーメント指令値MOを前後力指令値FXi(iは、1~4の整数)に変換しモータ制御装置へ出力する。
【0058】
この実施形態の作用を図14で具体的に説明する。サスペンションアームSAに支持されたサスペンションSPのリンク配置にアンチダイブ角θfとアンチスクワット角θrが設けてある場合、タイヤに制駆動力(前後力)を与えることで、それぞれの角度に応じた上下力(アンチダイブ力やアンチスクワット力)-FXi tanθfまたはFXi tanθrが発生する(上方の力の向きを正とする)。これらの知見を利用すれば、新たな装置を追加することなく、四輪におけるインホイールモータ19,19,19,19によってロールモーメントを発生できる。特に、ブレーキ力やインホイールモータの制駆動力は、前後力がタイヤ接地点で作用するため、アンチダイブ角やアンチスクワット角が大きくなって同じ制駆動力で大きな上下力を発生できる。エンジン車やオンボードタイプのモータ駆動車のように車軸を介して制駆動力を伝える場合は、前後力が車軸位置で作用するため、インホイールモータ19を備えた車両1Cに比べてアンチダイブ角やアンチスクワット角が小さくなるが、同様に上下力を発生させることができる。サスペンションSPを介すことで、前後力指令値FXiにより発生する上下力FSiは以下になる。
【数26】
【数27】
【数28】
【数29】
【0059】
ここで、タイヤの前後力を用いる場合、車両の平面運動への影響を考慮する必要がある。運転者へ制御による違和感を与えないためには、制御による前後加速度およびヨーレートの変化を発生させない方がよい。そのため、以下の条件を追加する。
【数30】
【数31】
式(26)~(31)により、ロールモーメント指令値MOを前後力指令値FXiに変換するための関係式は以下になる。
【数32】
【数33】
【数34】
【数35】
【0060】
車両運動制御装置100Cのアクチュエータ制御手段130Cは前後力指令値FXiをモータ制御装置350に出力し、モータ制御装置350が四輪の各インホイールモータ19,19,19,19の前後力を制御する。四輪のインホイールモータ19,19,19,19の各前後力によりロールモーメント指令値MOを実現するロールモーメントが発生することで、車両1Cにはロールモーメント目標値MTに相当するロールモーメントが作用し、ロール運動の位相が変化する。
【0061】
上記の各実施形態の車両運動制御装置100(100A,100B,100C)は、アクチュエータ400を制御し車両1(1A,1B,1C)にロールモーメントを発生させることで、旋回中の車両1に作用しているロールモーメントの位相を直接制御するため、サスペンションのばね定数やダンパの減衰力を変更することなく、ロール運動の位相を変化させることができる。この結果、サスペンションの特性を変えることなく、運転者の操舵に対するロール運動の発生を適切なタイミングに変えることができるので、車両の乗り心地や運転し易さを改善することができる。
【0062】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
1、1A、1B、1C 車両
17 アクティブサスペンション(アクチュエータ)
19 インホイールモータ(アクチュエータ)
100、100A、100B、100C 車両運動制御装置
110 ロールモーメント指令値演算器
111 遅れ進み選択部
113 時定数設定部
115 操舵角周波数演算部
130、130A、130B、130C アクチュエータ制御手段
250 操舵角センサ
271 車速センサ
400 アクチュエータ
410 アクティブスタビライザ(アクチュエータ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14