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特開2022-112736酸素及び水素の水分解による製造方法
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  • 特開-酸素及び水素の水分解による製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112736
(43)【公開日】2022-08-03
(54)【発明の名称】酸素及び水素の水分解による製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/02 20060101AFI20220727BHJP
   C01B 13/02 20060101ALI20220727BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20220727BHJP
   B01J 31/06 20060101ALI20220727BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
C01B3/02
C01B13/02 B
C01B3/04 A
B01J31/06 M
B01J35/02 J
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008650
(22)【出願日】2021-01-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-05-23
(71)【出願人】
【識別番号】305061771
【氏名又は名称】国際先端技術総合研究所株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西出 宏之
(72)【発明者】
【氏名】岡 弘樹
【テーマコード(参考)】
4G042
4G140
4G169
【Fターム(参考)】
4G042BA07
4G042BA08
4G042BA09
4G042BB04
4G140BA03
4G140BB03
4G169AA03
4G169BA08B
4G169BA22A
4G169BA22B
4G169BA48A
4G169BE02A
4G169BE02B
4G169BE05B
4G169BE06A
4G169BE06B
4G169BE07A
4G169BE10A
4G169BE14A
4G169BE14B
4G169BE16A
4G169BE20A
4G169BE20B
4G169BE21A
4G169BE33A
4G169BE35A
4G169BE37A
4G169BE37B
4G169CB81
4G169DA05
4G169EA08
4G169FA01
4G169FB23
4G169FB27
4G169FB29
4G169FB31
4G169HA02
4G169HB10
4G169HC32
4G169HE09
(57)【要約】
【課題】新規で簡便かつ環境適合で水の分解速度が高い酸素及び水素の製造技術を提供すること。
【解決手段】芳香族アミン高分子が水から酸素を発生する酸化触媒として、及び、ポリアリーレンビニレンが水から水素発生する還元触媒として作動するという発見を基とし、両触媒とも過電圧が極めて低く作動するため、平衡電位に対してわずかな過電圧の印加によって、酸素と水素を高い速度で発生させた。さらに水酸化・酸素発生触媒に太陽光含む光照射することにより、酸素と水素の製造速度は増大した。芳香族アミン高分子及びポリアリーレンビニレンは、芳香族高分子で廉価かつ広いpH範囲の水中での耐久性も極めて高く、かつ電極触媒に適した親疎水性、界面積、形状などを供し得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族アミン高分子を水の酸化による酸素発生触媒(以下、「水酸化・酸素発生触媒」と記載)として、及び、ポリアリーレンビニレン又はその誘導体を水の還元による水素発生触媒(以下、「水還元・水素発生触媒」と記載)として、これらを水に浸漬し、前記水酸化・酸素発生触媒と前記水還元・水素発生触媒とを導電線で連結し、電圧印加及び/又は水酸化・酸素発生触媒への光照射により、水から酸素と水素を製造する方法。
【請求項2】
前記芳香族アミン高分子が、下記式(I)で表されることを特徴とする、請求項1に記載の酸素と水素を製造する方法:
【化1】
(式中、
nは整数を表し、
R1は、-H、アルキル基、フェニル基、ハロゲン基、エーテル基、カルバゾール基、トリフェニルアミン基、ニトロ基、アセチレニル基、チエニル基、アミノ基、ホルミル基又はボロン基を表し、
R2及びR3は、それぞれ同一又は異なって、-H又はアルキル基を表し、
Xは、無いか、又はフルオレン基を表す)。
【請求項3】
前記ポリアリーレンビニレンが下記式(II)で表わされるポリ(フェニレンビニレン)類であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の酸素と水素を製造する方法:
【化2】
(式中、
nは、整数を表し、
R1及びR2は、それぞれ同一又は異なって、アルキル基を表す)。
【請求項4】
芳香族アミン高分子を水の酸化による酸素発生触媒(以下、「水酸化酸素発生触媒」と記載)として水に浸漬し、電圧印加及び/又は光照射により、酸素を製造する方法。
【請求項5】
請求項1~3に記載の酸素と水素を製造する方法及び請求項4に記載の酸素を製造する方法で使用される水酸化・酸素発生触媒であって、前記芳香族アミン高分子が、下記式(III)で表されるポリ(トリフェニルアミン)類であることを特徴とする水酸化・酸素発生触媒:
【化3】
(式中、
nは整数を表し、
R1は、-H、アルキル基、フェニル基、ハロゲン基、エーテル基、カルバゾール基、トリフェニルアミン基、ニトロ基、アセチレニル基、チエニル基、アミノ基、ホルミル基又はボロン基を表し、
R2及びR3は、それぞれ同一又は異なって、-H又はアルキル基を表し、
Xは、無いか、又はフルオレン基を表す)。
【請求項6】
請求項5に記載の水酸化・酸素発生触媒の製造方法であって、下記式(IV)で表されるトリフェニルアミン類を導電薄板や導電不織布上に塗布して、ヨウ素蒸気に曝す、又はトリフェニルアミン類の溶液にヨウ素を加える、酸化重合反応で前記ポリ(トリフェニルアミン)類を得ることを特徴とする、製造方法:
【化4】
(式中、
R1は、-H、アルキル基、フェニル基、ハロゲン基、エーテル基、カルバゾール基、トリフェニルアミン基、ニトロ基、アセチレニル基、チエニル基、アミノ基、ホルミル基又はボロン基を表し、
R2及びR3は、それぞれ同一又は異なって、-H又はアルキル基を表し、
Xは、-H、又はフルオレン基を表す)。
【請求項7】
芳香族アミン高分子の薄層を導電薄板や導電不織布上に形成、又は、芳香族アミン高分子と導電助剤から成る薄板として形成することを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
ポリアリーレンビニレン又はその誘導体を、水の還元による水素発生触媒(以下、「水還元・水素発生触媒」と記載)として、水に浸漬し、電圧印加により、水素を製造する方法。
【請求項9】
請求項1~3に記載の酸素と水素を製造する方法及び請求項8に記載の水素を製造する方法で使用される水還元・水素発生触媒であって、前記ポリアリーレンビニレンが下記式(V)で表わされるポリ(フェニレンビニレン)類であることを特徴とする、水還元・水素発生触媒:
【化5】
(式中、
nは、整数を表し、
R1及びR2は、それぞれ同一又は異なって、アルキル基を表す)。
【請求項10】
請求項9に記載の水還元・水素発生触媒の製造方法であって、ポリアリーレンビニレン若しくはその誘導体の薄層を導電薄板や導電不織布上に形成、又は、ポリアリーレンビニレン若しくはその誘導体と導電助剤から成る薄板として形成することを特徴とする、水還元・水素発生触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を分解して分子状の酸素と水素を製造する方法等に関する。より具体的には、芳香族アミン高分子を水から酸素を発生する酸化触媒(以下、「水酸化・酸素発生触媒」と記載)として、該芳香族アミン高分子から成る導電薄板や導電不織布を形成し、これを電極として水酸化物イオン含有水に浸漬し、電圧を印加及び/又は光照射することにより酸素を製造する方法、並びに、ポリアリーレンビニレンを水から水素を発生する還元触媒(以下、「水還元・水素発生触媒」と記載)として、該ポリアリーレンビニレンから成る導電薄板や導電不織布を形成し、これを電極として水素イオン含有水に浸漬し、電圧印加により水素を製造する方法、並びに、上記水酸化・酸素発生触媒と、水還元・水素発生触媒を組み合せ、電解質水溶液に浸漬し、電圧印加及び/又は水酸化・酸素発生触媒に光照射により、酸素と水素を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子状の酸素は、エポキシ化など石油化学品の酸化製造工程、燃焼効率の向上、好気微生物による廃水処理、養魚など水産業、また呼吸不全の医療など、幅広く利用され、不可欠かつ、最も生産・使用量の多い汎用化学品である。分子状酸素は、大規模には空気の深冷蒸留法、中・小規模には空気の圧力スウィング分離法や膜分離法により、製造されている。一方、分子状の水素はアンモニア合成、石油精製、製鉄などにおいて幅広く工業利用されるばかりでなく、燃焼しても水しか排出しないことから、クリーンなエネルギー源や燃料電池の燃料としても実用されている。分子状水素は現在主にメタンの水蒸気改質、石炭ガス化など大規模設備で製造されているが、近い将来には化石資源に依存しない、二酸化炭素排出無い水素製造法が求められている。すなわち環境適合し、かつ使用現場オン・サイトでの製造法として、水の分解による効率高い酸素及び水素の製造法に強い要望がある。
【0003】
このような酸素及び水素の製造法の一つとして、水の電気分解法がある。特に風力や太陽光発電による余剰電力を、水分解による水素の燃料としての貯蔵・平準化利用と、同時発生する酸素のその場活用は要請高い技術である。水電解法にはプロトン交換高分子膜を用いた酸性での水電解とアルカリ水分解が実施されているが、いずれにおいても電解に要する過電圧が低いとはいえず、電力消費がより少なく、かつより安価で耐久性の高い電極触媒のさらなる開発が産業上強く望まれている。なお、水還元・水素発生に用いる触媒及びその電極は、白金及び白金族触媒、ニッケルや遷移金属触媒をはじめ実用・開発研究は極めて多いが、同反応を補完する水酸化・酸素発生触媒及びその電極は、最近開発著しい金属空気電池の電極触媒とあわせ開発は極めて重要である。
【0004】
水電解に供する水酸化・酸素発生触媒として現在は、酸化ルテリウム、酸化イリジウムなど貴金族酸化物が代表例であり、さらに、酸化マンガン、酸化コバルト、鉄ニッケル酸化物などスピネル型、ペロブスカイト型や岩塩型構造の金属酸化物などが開発され(非特許文献1)、また天然の光合成反応における酸素発生触媒であるマンガンの多核錯体での基礎研究(非特許文献2)とあわせ、数多くの金属酸化物・錯体が開発研究されている。これらは水2分子の4電子酸化によって、酸素1分子と4プロトンが生成する反応の触媒として作用するが、水中、特に酸性又はアルカリ性の水溶液中で既知の触媒の安定性は必ずしも高くない。
【0005】
しかも、これら触媒から成る電極に電圧を印加して水を電解するに要する過電圧は0.3ないし0.6Vと低くはなく、また酸素発生速度は電極形状の工夫により面積当たり増大が計られているものの、触媒そのものによる電流密度は0.1ないし数mA/cm2であり、より高い触媒性能が求められている。なお、金属を含まない同触媒としては、グラフェン、窒素ドープカーボン、窒化カーボンなどの炭素系材料が検討されているが、高い触媒活性また電極としての成形・安定性には到っていない(非特許文献3)。
【0006】
これに対して、「有機高分子を酸化触媒として水から酸素を発生する方法」は、未知の触媒機能や成形能及び耐久性が期待されるものの、その報告は少ない。カーボン不織布に含浸し形成したポリイミドを電極として、pH13水溶液に浸漬し、1.7V(対、可逆水素電極)の印加により、電流密度数mA/cm2での酸素発生が報告されているのが、数少ない例である(非特許文献4)。
【0007】
一方、水電解に供する水還元・水素発生電極として従来は、白金を代表として、他にパラジウム、イリジウムなどの貴金属や、性能劣るものの比較的安価なニッケル又はニッケル/コバルト/鉄合金などが実用されている。酸性電解による腐食、酸蒸気を回避できるアルカリ電解に適用しうる遷移金属触媒の開発研究も多い(非特許文献5)。なお、金属を含まない同触媒としては、窒素ドープカーボンなど炭素系材料が検討されているが、触媒活性は高くない(非特許文献6)。そこで、資源の制約が無くより廉価で耐久性の高い触媒材料が望まれている。
【0008】
本発明者らは永年に亘り、酸化還元能もつ有機芳香族高分子とその機能について研究を積み重ねてきている(非特許文献7、8)。また最近、導電板上に形成したチオフェン高分子の薄層が、水の光電気化学的分解と水素発生に作用することを報告した(非特許文献9、10、及び特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】西出宏之、他、「水素の製造方法」、特願2020-065878.
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Suen, N-T., et al. Chem. Soc. Rev. 46, 337-365(2017).
【非特許文献2】Park, S., et al. Energy Environ. Sci. 13, 2310-2340 (2020).
【非特許文献3】Zhao, Y. et al. Nat. Commun. 4, 2390(2013).
【非特許文献4】Lin, Y. et al. Angew. Chem. 57, 12563-12566(2018).
【非特許文献5】Mahmood, N., et al. Adv. Sci. 5, 1700464(2018).
【非特許文献6】Hu, C., et al. Energy Environ. Sci. (2019).
【非特許文献7】Oyaizu, K., Nishide, H. Handbook of Conjugated Polymers, CRC Press, 587-594(2019).
【非特許文献8】Oka, K., Nishide, H. Redox Polymer for Energy and Nanomedicine, Royal Soc. Chem. 137-165(2020).
【非特許文献9】Oka, K. et al. Energy Environ. Sci. 11, 1335-1342(2018).
【非特許文献10】Oka, K. et al. Adv. Energy Mater. 9, 1803286(2019).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
耐久性高く、廉価で、薄層塗布はじめ多様な成形性がある特定の芳香族高分子を、水酸化及び水還元の触媒として電極を作製し、水に浸漬し、極めて低い過電圧の印加により、及び水酸化触媒電極への光照射によりさらに、生成速度高く水から酸素又は水素を各々、或いは両者を製造することができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の本発明者らが国内外で先駆ける、酸化還元能もつ有機芳香族高分子、光電気化学、及び水分解の化学の知見と実験手法をもとに(非特許文献8~10)、一連の芳香族高分子を幅広く探索し、水から効率高い分子状の酸素と水素の簡便な製造方法の開発に向け鋭意研究を重ねた。その結果、芳香族アミン高分子が水から酸素を発生する酸化触媒として、ポリアリーレンビニレンが水から水素を発生する還元触媒として作動するという本発明者らの発見を基に、両触媒から作製した導電薄板や導電不織布を電極として、わずかな過電圧の印加及び/又は水酸化・酸素発生電極に光照射することにより、酸素と水素を各々、及び両者共に、生成速度高く製造できる本発明を完成させた。芳香族アミン高分子及びポリアリーレンビニレンは有機高分子として、(1)資源制約なしに廉価で入手でき、(2)広いpH範囲の水中での化学的な耐久性も極めて高い、(3)各種集電基板の表面に薄層で触媒として接着性高く被覆でき、機械的にも強靭であり、(4)電極をフィルム状、蛇腹状、ファイバー状に成形でき、また(5)生成してくる酸素および水素気泡の付着による反応停止を、高分子層の親疎水性や表面凸凹など分子設計により制御しうる、など独特の利点も供する。
【0013】
具体的には、本発明は、芳香族アミン高分子を水から分子状の酸素を発生する酸化触媒として成る電極、及び/又はポリアリーレンビニレンを水から水素を発生する還元触媒として成る電極を用いることを特徴とし、これら電極を対となる既存の水素発生電極又は酸素発生電極と組み合せ、又は、これらの電極同士を組み合せて、水酸化イオン含有水に浸漬し、電圧印加及び/又は酸素発生触媒電極に光照射することも特徴とする、分子状の酸素及び水素の製造方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、芳香族アミン高分子の代表例であるポリ(トリフェニルアミン)類を得るに際し、出発物であるトリフェニルアミン類を導電薄板や導電不織布上に塗布し、ヨウ素蒸気に曝す、又はトリフェニルアミン類の溶液にヨウ素を加える、酸化重合反応である、ポリ(トリフェニルアミン)類の合成方法も提供する。
【0015】
より具体的には、本発明は、芳香族アミン高分子を水の酸化による酸素発生触媒(以下、「水酸化・酸素発生触媒」と記載)として、及び、ポリアリーレンビニレン又はその誘導体を水の還元による水素発生触媒(以下、「水還元・水素発生触媒」と記載)として、これらを水に浸漬し、前記水酸化・酸素発生触媒と前記水還元・水素発生触媒とを導電線で連結し、電圧印加及び/又は水酸化・酸素発生触媒への光照射により、水から酸素と水素を製造する方法を提供する。
【0016】
本発明の水から酸素と水素を製造する方法において、前記芳香族アミン高分子が、下記式(I)で表される酸素と水素を製造する方法である場合がある:
【化1】
(式中、
nは整数を表し、
R1は、-H、アルキル基、フェニル基、ハロゲン基、エーテル基、カルバゾール基、トリフェニルアミン基、ニトロ基、アセチレニル基、チエニル基、アミノ基、ホルミル基又はボロン基を表し、
R2及びR3は、それぞれ同一又は異なって、-H又はアルキル基を表し、
Xは、無いか、又はフルオレン基を表す)。
【0017】
本発明の水から酸素と水素を製造する方法において、前記ポリアリーレンビニレンが下記式(II)で表わされるポリ(フェニレンビニレン)類である酸素と水素を製造する方法である場合がある:
【化2】
(式中、
nは、整数を表し、
R1及びR2は、それぞれ同一又は異なって、アルキル基を表す)。
【0018】
また、本発明は、芳香族アミン高分子を水の酸化による酸素発生触媒(以下、「水酸化酸素発生触媒」と記載)として水に浸漬し、電圧印加及び/又は光照射により、酸素を製造する方法を提供する。
【0019】
また、本発明は、前記酸素と水素を製造する方法及び前記酸素を製造する方法で使用される水酸化・酸素発生触媒であって、前記芳香族アミン高分子が、下記式(III)で表されるポリ(トリフェニルアミン)類である水酸化・酸素発生触媒を提供する:
【化3】
(式中、
nは整数を表し、
R1は、-H、アルキル基、フェニル基、ハロゲン基、エーテル基、カルバゾール基、トリフェニルアミン基、ニトロ基、アセチレニル基、チエニル基、アミノ基、ホルミル基又はボロン基を表し、
R2及びR3は、それぞれ同一又は異なって、-H又はアルキル基を表し、
Xは、無いか、又はフルオレン基を表す)。
【0020】
また、本発明は、前記水酸化・酸素発生触媒の製造方法であって、下記式(IV)で表されるトリフェニルアミン類を導電薄板や導電不織布上に塗布して、ヨウ素蒸気に曝す、又はトリフェニルアミン類の溶液にヨウ素を加える、酸化重合反応で前記ポリ(トリフェニルアミン)類を得る製造方法を提供する:
【化4】
(式中、
R1は、-H、アルキル基、フェニル基、ハロゲン基、エーテル基、カルバゾール基、トリフェニルアミン基、ニトロ基、アセチレニル基、チエニル基、アミノ基、ホルミル基又はボロン基を表し、
R2及びR3は、それぞれ同一又は異なって、-H又はアルキル基を表し、
Xは、-H、又はフルオレン基を表す)。
【0021】
本発明の水酸化・酸素発生触媒の製造方法において、芳香族アミン高分子の薄層を導電薄板や導電不織布上に形成、又は芳香族アミン高分子と導電助剤から成る薄板として形成する場合がある。
【0022】
さらに、本発明は、ポリアリーレンビニレン又はその誘導体を、水の還元による水素発生触媒(以下、「水還元・水素発生触媒」と記載)として、水に浸漬し、電圧印加により、水素を製造する方法を提供する。
【0023】
また、本発明は、前記酸素と水素を製造する方法及び前記水素を製造する方法で使用される水還元・水素発生触媒であって、前記ポリアリーレンビニレンが下記式(V)で表わされるポリ(フェニレンビニレン)類であることを特徴とする、水還元・水素発生触媒を提供する:
【化5】
(式中、
nは、整数を表し、
R1及びR2は、それぞれ同一又は異なって、アルキル基を表す)。
【0024】
また、本発明は、前記水還元・水素発生触媒の製造方法であって、ポリアリーレンビニレン若しくはその誘導体の薄層を導電薄板や導電不織布上に形成、又は、ポリアリーレンビニレン若しくはその誘導体と導電助剤から成る薄板として形成する水還元・水素発生触媒の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、新規で簡便、環境適合かつ水の分解速度が高い、酸素及び/又は水素の製造技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】水酸化・酸素発生触媒から形成される導電板と、水還元・水素発生触媒から形成される導電板を、水中に設置し、両者を導線で連結して構成される簡便な反応槽を表す(片方を白金コイルなどで実施する場合も含まれる)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
1.酸素及び/又は水素の製造方法
本発明の実施形態の1つは、水を分解して酸素及び/又は水素を製造する方法である。
【0028】
より具体的には、酸素及び水素を製造する方法は、芳香族アミン高分子に代表される水酸化・酸素発生触媒と、水から水素を発生するポリアリーレンビニレンに代表される水還元触媒を導電線で連結するなど組み合せ、電圧印加及び/又は水酸化・酸素発生触媒への光照射により、水から酸素と水素を製造する方法である。
【0029】
図1を参照しながら酸素及び水素を製造する方法を説明する。水酸化・酸素発生触媒から成る導電板を設置した左区画の分室で酸素ガスが発生し、水還元・水素発生触媒から成る導電板を設置した右区画の分室では水素ガスが発生する。両分室は下部で互に開口しており、供せられた水は共通で使用される。水酸化と水還元の両反応は互に補償しており、必要に応じた電圧が印加される。また水酸化・酸素発生触媒板への光照射により、電圧印加は軽減される。
【0030】
また、酸素を製造する方法は、芳香族アミン高分子に代表される水酸化・酸素発生触媒を用い、電圧印加及び/又は水酸化・酸素発生触媒への光照射により、水から酸素を製造する方法である。
【0031】
また、水素を製造する方法は、水から水素を発生するポリアリーレンビニレンに代表される水還元触媒を用い、電圧印加により、水から水素を製造する方法である。
【0032】
以下に、より詳細に説明する。
【0033】
(1) 水酸化・酸素発生触媒となる芳香族アミン高分子
ホール輸送能をもつ高分子材料として知られ、かつ一部は有機EL、有機トランジスタ、光電変換素子にホール輸送層・フィルムとして実用されている芳香族アミン高分子が、これら乾式素子・デバイスでのホール輸送材としての適用ではなく、湿式で水と接し、水分子を酸化して酸素ガスを発生する触媒として働く、発明者らの発見が本発明の起点となっている。
【0034】
水酸化・酸素発生触媒となる芳香族アミン高分子としては、下記式Iで表される。
【化6】
(式中、
nは整数を表し、
R1は、-H、アルキル基、フェニル基、ハロゲン基、エーテル基、カルバゾール基、トリフェニルアミン基、ニトロ基、アセチレニル基、チエニル基、アミノ基、ホルミル基又はボロン基を表し、
R2及びR3は、それぞれ同一又は異なって、-H又はアルキル基を表し、
Xは、無いか、又はフルオレン基を表す)。
【0035】
式(I)において、「アルキル基」は、C1~C6のアルキル基が好ましく、C1~C3のアルキル基がより好ましく、メチルが最も好ましい。
【0036】
この芳香族第三級アミンから成る高分子では、第三級アミン自身と、1電子酸化された第四級アンモニウムカチオンラジカル(ホールに相当)が共に、3個の芳香環の共鳴効果と立体保護により化学的に安定であり、カチオンラジカルの電位(0.32V対Ag/AgCl電極)は同条件下の水の酸化電位(0.2-0.3 V)より正(貴)にあり、水の酸化に働くとともに、それ自身は第三級アミンに戻り、繰り返し触媒的に水の酸化に効き得ると考えられる。高分子アミンでは同アミン/アンモニウムカチオンラジカル触媒点が多数密集して存在するため、水の酸化・酸素生成反応に必要な4電子酸化(式1)が可能となると考えられる。
2H2O → O2 + 4H+ + 4e- (1)
【0037】
さらに芳香族アミン高分子として光吸収係数が高ければ、光照射支援の水分解が可能となる。
【0038】
(2) 水還元・水素発生触媒となるポリアリーレンビニレン及びその誘導体
水還元・水素発生触媒となるポリアリーレンビニレン及びその誘導体としては、下記式(II)で表されるポリマーが挙げられる。
【化7】
(式中、
nは、整数を表し、
R1及びR2は、それぞれ同一又は異なって、アルキル基を表す)。
【0039】
式(II)中、アルキル基は、分子状又は直鎖状のC1~C12アルキル基が好ましく、R1が下記式(IIa)又は(IIb)で表される置換基、R2がメチル基がより好ましい。
【化8】

【化9】
【0040】
本発明の第2の起点となる発明者らによる発見は、上記のポリアリーレンビニレンのビニレン基が水分子又はプロトンを還元して水素ガスを発生する触媒として働くことにある。ビニレン基は脱水素してエチニレン基に変換され、両者間の変換により2電子還元触媒として働くと考えられる。
【0041】
(3) 導電基板の作製方法
水酸化・酸素発生触媒は、上記の芳香族アミン高分子の薄層を導電薄板や不織布上に形成し、又は、芳香族アミン高分子と導電助剤から成る薄板として形成される。さらにトリフェニルアミン類を導電薄板や不織布上に塗布して、ヨウ素蒸気に曝す酸化重合反応によってポリ(トリフェニルアミン)類の薄層を得ることによっても形成される。
【0042】
また、水還元・水素発生触媒は、ポリアリーレンビニレンの若しくはその誘導体薄層を導電薄板や不織布上に形成、又は、ポリアリーレンビニレン若しくはその誘導体と導電助剤から成る薄板として形成される。
【0043】
導電薄板としてはグラッシーカーボン、カーボンペーパー、導電性ガラスや導電性プラスチックフィルム、また導電不織布としてはカーボンフェルトなど、導電助剤としてはカーボンファイバー、カーボンナノチューブなどが利用できる。
【0044】
2.水酸化・酸素発生触媒及びその製造方法
本発明の他の実施形態は、芳香族アミン高分子で形成される水酸化・酸素発生触媒及びその製造方法である。
【0045】
より具体的には、前記芳香族アミン高分子が、下記式(III)で表されるポリ(トリフェニルアミン)類である水酸化・酸素発生触媒である:
【化10】
(式中、
nは整数を表し、
R1は、-H、アルキル基、フェニル基、ハロゲン基、エーテル基、カルバゾール基、トリフェニルアミン基、ニトロ基、アセチレニル基、チエニル基、アミノ基、ホルミル基又はボロン基を表し、
R2及びR3は、それぞれ同一又は異なって、-H又はアルキル基を表し、
Xは、無いか、又はフルオレン基を表す)。
【0046】
水酸化・酸素発生触媒の製造方法は、下記式(IV)で表されるトリフェニルアミン類を導電薄板や導電不織布上に塗布して、ヨウ素蒸気に曝す、又はトリフェニルアミン類の溶液にヨウ素を加える、酸化重合反応で前記ポリ(トリフェニルアミン)類を得ることによって製造できる:
【化11】
(式中、
R1は、-H、アルキル基、フェニル基、ハロゲン基、エーテル基、カルバゾール基、トリフェニルアミン基、ニトロ基、アセチレニル基、チエニル基、アミノ基、ホルミル基又はボロン基を表し、
R2及びR3は、それぞれ同一又は異なって、-H又はアルキル基を表し、
Xは、-H、又はフルオレン基を表す)。
【0047】
本発明の水酸化・酸素発生触媒の製造方法において、芳香族アミン高分子の薄層を導電薄板や導電不織布上に形成、又は、芳香族アミン高分子と導電助剤から成る薄板として形成することによって、水酸化・酸素発生触媒を製造することができる。
【0048】
導電薄板としてはグラッシーカーボン、カーボンペーパー、導電性ガラスや導電性プラスチックフィルム、また導電不織布としてはカーボンフェルトなど、導電助剤としてはカーボンファイバー、カーボンナノチューブなどが利用できる。
【0049】
本発明の水酸化・酸素発生触媒を用い、水に浸漬し、電圧印加及び/又は水酸化・酸素発生触媒への光照射により、水から酸素を製造することができる。
【0050】
3.水還元・水素発生触媒及びその製造方法
本発明の他の実施形態は、水還元・水素発生触媒及びその製造方法である。
【0051】
本発明の水還元・水素発生触媒は、上記の酸素及び/又は水素を製造する方法で使用される水還元・水素発生触媒であって、前記ポリアリーレンビニレンが下記式(V)で表わされるポリ(フェニレンビニレン)類である水還元・水素発生触媒である:
【化12】
(式中、
nは、整数を表し、
R1及びR2は、それぞれ同一又は異なって、アルキル基を表す)。
【0052】
本発明の水還元・水素発生触媒の製造方法は、ポリアリーレンビニレン若しくはその誘導体の薄層を導電薄板や導電不織布上に形成、又は、ポリアリーレンビニレン若しくはその誘導体と導電助剤から成る薄板として形成することによって、製造することができる。
【0053】
導電薄板としてはグラッシーカーボン、カーボンペーパー、導電性ガラスや導電性プラスチックフィルム、また導電不織布としてはカーボンフェルトなど、導電助剤としてはカーボンファイバー、カーボンナノチューブなどが利用できる。
【0054】
本発明の水還元触媒を水中に浸漬し、電圧印加することにより、水から水素を製造するができる。
【0055】
以下、実施例で詳細に説明する。なお、本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。ここに記述される実施例は本発明の実施形態を例示するものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例0056】
<4-ニトロトリフェニルアミン重合体を使用した酸素ガスの製造>
(1) グラッシーカーボン薄板上での4-ニトロトリフェニルアミンのヨウ素蒸気による重合
4-ニトロトリフェニルアミン(東京化成工業株式会社、製品コード:N0831) 100 mgをクロロベンゼン 10 mLに溶解させ、同溶液4 mLを、グラッシーカーボン薄板(ALLIANCE Biosystems Inc.製)5 cm角にスピンコート(3秒間、3000 回転毎分、次いで30秒、3秒間)した。これをベルジャー内に設置し、同じく別シャーレ上に置いたヨウ素 0.5 gとともに密閉して70℃、2時間加熱した。薄板の4-ニトロトリフェニルアミン塗布面を加熱乾燥器内で120℃、2時間アニーリング後、クロロベンゼン50 mLで3回洗浄した。
【化13】
【0057】
塗布層の紫外可視赤外吸収は、300~600 nmの光波長域に強い吸収帯をもった。近赤外域での吸収は無く、ドープされていない純粋なトリフェニルアミン重合体であることを示した。
【0058】
また、4-ニトロトリフェニルアミン(東京化成工業株式会社、製品コード:N0831) 100 mg、ヨウ素0.5 gをクロロベンゼン 10 mLに溶解させ、70℃、2時間加熱攪拌した。この溶液重合により合成した同重合体の溶媒可溶部のゲル浸透クロマトグラフィーによる質量分析では、最大分子量3,200であった。ラマン分光測定(励起波長785 nm)では、852cm-1に強い吸収があり、直鎖状高分子の生成が支持された。汎用多機能X線回折装置(RINT-Ultima III型、株式会社リガク製)による測定(斜入射平行法での4°からの測定)で
は、幅広スペクトルで非晶質な高分子の生成が示された。
【0059】
薄層の大気中光電子収量分光測定から、最高被占軌道の準位が-5.4 eVと算出された。さらに紫外吸収スペクトルより算出したバンドギャップから最低空軌道の準位が-3.2 eVと算出された。
【0060】
(2) 光照射、電圧印加による酸素の製造
前記4-ニトロトリフェニルアミンのヨウ素蒸気による重合によって得られたトリフェニルアミン重合体の薄層で被覆されたグラッシーカーボン5 cm角薄板と白金コイル電極の両者を銅線でつなぎ、図1に示すような2区画の水槽に設置し、pH14の水酸化カリウム水溶液60mLで満たし、+0.80 V vs. Ag/AgCl(参照電極使用、過電圧として0.4 V)の電圧を印加し、光照射(疑似太陽光、放射照度量として1000 W/m2、朝日分光株式会社製)により酸素を製造した。
【0061】
製造した酸素の量は、ガスクロマトグラフィー、酸素濃度計(PreSens社、製品番号pH-1 SMA LG1)によって定量した。
【0062】
電圧印加と光照射開始から2、5、10時間後に、酸素ガス10.4、26.0、51.5 mLが生成した。
【実施例0063】
<ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン](市販品)を使用した酸素ガスの製造>
【0064】
ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン] (Sigma Aldrich株式会社、製品コード:702471) 100 mgをクロロベンゼン 10 mLに溶解させ、同溶液2 mLを、グラッシーカーボン薄板(ALLIANCE Biosystems Inc.製)5 cm角にスピンコート(3秒間、3000 回転毎分、次いで30秒、3秒間)した。薄板を加熱乾燥器内で120℃、2時間アニーリングした。
【0065】
実施例1と同様に酸素を製造したところ、電圧印加と光照射開始から5時間後に、酸素ガス22.3 mLが生成した。
【実施例0066】
<4-ニトロトリフェニルアミンの重合体を使用した電圧印加のみによる酸素製造>
実施例1と同様に4-ニトロトリフェニルアミンの重合体を使用し、電圧印加のみで酸素を製造したところ、電圧印加開始から5時間後に、酸素ガス14.5 mLが生成した。
【実施例0067】
<ポリ[2-メトキシ-5-(3',7'-ジメチルオクチルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]による水素ガスの製造>
ポリ[2-メトキシ-5-(3',7'-ジメチルオクチルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン] (Sigma Aldrich株式会社、製品コード:546461) 50 mgをクロロベンゼン 10 mLに溶解させ、同溶液を、カーボンフェルト(イーシーフロンティア製)5 cm角にしみこませ、加熱乾燥器内で120℃、2時間アニーリングした。
【0068】
このポリ(フェニレンビニレン)シートと白金コイル電極の両者を銅線でつなぎ、図1に示すよう2区画の水槽に設置し、pH1の硫酸水溶液60 mLで満たし、-0.4 V vs. Ag/AgCl(参照電極使用、過電圧として0.35 V)の電圧を印加により水素製造した。製造した水素の量は、ガスクロマトグラフィーによって定量した。電圧印加開始から1時間後に水素ガス104 mLが生成した。
【実施例0069】
<ポリ[2-メトキシ-5-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]を使用した水素ガスの製造>
ポリ[2-メトキシ-5-(3',7'-ジメチルオクチルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]の代わりに、ポリ[2-メトキシ-5-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン] (Sigma Aldrich株式会社、製品コード:541443)を使用した以外は実施例4と同様の方法で水素を製造した。その結果、電圧印加開始から5時間後に、水素ガス97.2 mLが生成した。
【実施例0070】
実施例1のトリフェニルアミン重合体の薄層で被覆されたグラッシーカーボン5 cm角薄板と実施例5のポリ(フェニレンビニレン)シートの両者を銅線でつなぎ、図1に示すよう2区画の水槽に設置し、pH14の水酸化カリウム水溶液60mLで満たし、2.1 Vの電圧を印加することにより酸素ガス及び水素ガスを製造した。製造した水素ガスの量は、ガスクロマトグラフィーによって定量した。電圧印加開始から2時間後に酸素ガス9.6 mL及び水素ガス18.8 mLが生成した。
図1