(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112825
(43)【公開日】2022-08-03
(54)【発明の名称】水銀汚染土壌の浄化システム及び水銀汚染土壌の浄化方法
(51)【国際特許分類】
B09C 1/06 20060101AFI20220727BHJP
B09C 1/02 20060101ALI20220727BHJP
B01D 53/64 20060101ALI20220727BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20220727BHJP
B01D 53/79 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
B09C1/06 ZAB
B09B3/00 304K
B01D53/64 100
B01D53/78
B01D53/79
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008791
(22)【出願日】2021-01-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】青木 陽士
(72)【発明者】
【氏名】相澤 渉
(72)【発明者】
【氏名】小原 智剛
(72)【発明者】
【氏名】小松 大祐
【テーマコード(参考)】
4D002
4D004
【Fターム(参考)】
4D002AA21
4D002AA29
4D002AA33
4D002AC10
4D002BA02
4D002BA04
4D002BA06
4D002BA12
4D002BA13
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4D004CA37
4D004CA47
4D004CB05
4D004CB33
4D004CC11
4D004DA06
4D004DA07
4D004DA12
(57)【要約】
【課題】水銀汚染土壌を対象として熱脱着方法によって発生した水銀含有ガスから水銀を効率よく回収し、汚染土壌の処理量を減容できる水銀汚染土壌の浄化システム及び水銀汚染土壌の浄化方法。
【解決手段】水銀汚染土壌を加熱して、水銀を含む水銀含有ガスを得る加熱装置10と、前記水銀含有ガスを硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液に接触させ、前記水銀含有ガスに含まれる水銀を前記硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液に吸収させて水銀吸収溶液と排ガスとを得る湿式吸収装置20と、前記水銀吸収溶液に還元剤を加えて水銀を気化させる水銀還元装置30と、前記の気化した水銀を水銀用吸着剤と接触させて水銀を除去する除去装置40と、前記排ガスを吸着剤に接触させて、前記排ガスに含まれる水銀以外の汚染物質を除去する排ガス処理装置50と、を有する、水銀汚染土壌の浄化システム1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水銀汚染土壌を加熱して、水銀を含む水銀含有ガスを得る加熱装置と、
前記水銀含有ガスを硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液に接触させ、前記水銀含有ガスに含まれる水銀を前記硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液に吸収させて水銀吸収溶液と排ガスとを得る湿式吸収装置と、
前記水銀吸収溶液に還元剤を加えて水銀を気化させる水銀還元装置と、
前記の気化した水銀を水銀用吸着剤と接触させて水銀を除去する除去装置と、
前記排ガスを吸着剤に接触させて、前記排ガスに含まれる水銀以外の汚染物質を除去する排ガス処理装置と、を有する、水銀汚染土壌の浄化システム。
【請求項2】
水銀汚染土壌を加熱して、水銀を含む水銀含有ガスを得る加熱工程と、
前記水銀含有ガスを硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液に接触させ、前記水銀含有ガスに含まれる水銀を前記硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液に吸収させて水銀吸収溶液と排ガスとを得る湿式吸収工程と、
前記水銀吸収溶液に還元剤を加えて水銀を気化させる水銀還元工程と、
前記の気化した水銀を水銀用吸着剤と接触させて水銀を除去する除去工程と、
前記排ガスを吸着剤に接触させて、前記排ガスに含まれる水銀以外の汚染物質を除去する排ガス処理工程と、を有する、水銀汚染土壌の浄化方法。
【請求項3】
前記加熱工程を原位置で実施する、請求項2に記載の水銀汚染土壌の浄化方法。
【請求項4】
前記吸着剤が活性炭、ゼオライト及び活性アルミナから選ばれる1種以上である、請求項2又は3に記載の水銀汚染土壌の浄化方法。
【請求項5】
前記水銀用吸着剤が水銀吸着用活性炭である、請求項2~4のいずれか一項に記載の水銀汚染土壌の浄化方法。
【請求項6】
前記還元剤が塩化錫(II)溶液、水素化ホウ素ナトリウム溶液及び塩酸ヒドロキシルアミン溶液から選ばれる1種以上である、請求項2~5のいずれか一項に記載の水銀汚染土壌の浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水銀汚染土壌の浄化システム及び水銀汚染土壌の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、揮発性有機化合物(VOC)や重金属、パーフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物(PFAS)、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ダイオキシン、油等(以下、対象物質)で汚染された土壌は、例えば、原位置熱脱着法によって浄化されている。原位置熱脱着法は、汚染された土壌を掘削することなく地中にあるがままの原位置で対象物質を加熱することによって揮発させ、回収する浄化方法である。
【0003】
重金属のうち、砒素や鉛等と比較して水銀は加熱することにより容易に揮発することから原位置熱脱着法が適用可能である。水銀で汚染された水銀汚染土壌から揮発した水銀含有ガスを回収、処理する方法は、活性炭を用いた吸着によるものが殆どである。
しかし、水銀の吸着に必要な活性炭の量は膨大となり、コストも高いことから、水銀汚染土壌に対して原位置熱脱着法を適用した国内の事例はない。
【0004】
例えば、特許文献1には、水銀汚染土壌の熱脱着方法が提案されている。
しかしながら、特許文献1の技術では、水銀が気化する温度である360℃まで土壌を加熱する際に、土壌中の水分やVOC、油等が水銀の気化温度よりも低い温度で容易に気化して排出されてしまう。このため、地上の排ガス処理装置に付属した活性炭は、水銀を吸着する前に早期に破過してしまう虞がある。気化した水銀を活性炭で吸着させるためには、予め水銀以外のVOC等の含有量を見込んだ活性炭の量が必要となる。加えて、これらの活性炭は、水銀以外の物質が吸着しているため、水銀を選択的に回収する精度が低下する。
【0005】
また、特許文献2には、水銀で汚染された土壌を含む泥水と特殊加工された鉄粉とを混合し、該鉄粉に吸着された水銀を磁力によって鉄粉とともに回収する方法が提案されている。特許文献2の発明によれば、高濃度の水銀で汚染された土壌であっても浄化可能な方法の提供が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4344803号公報
【特許文献2】特開2018-143917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2の技術では、泥水中の鉄粉を磁力により回収するため、水銀を回収する効率が悪い。回収能力を向上するためには、磁力選別装置を大型化する必要があり、膨大なエネルギーを要する。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、水銀汚染土壌を対象として熱脱着方法によって発生した水銀含有ガスから水銀を効率よく回収し、汚染土壌の処理量を減容できる水銀汚染土壌の浄化システム及び水銀汚染土壌の浄化方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を有する。
[1]水銀汚染土壌を加熱して、水銀を含む水銀含有ガスを得る加熱装置と、
前記水銀含有ガスを硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液に接触させ、前記水銀含有ガスに含まれる水銀を前記硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液に吸収させて水銀吸収溶液と排ガスとを得る湿式吸収装置と、
前記水銀吸収溶液に還元剤を加えて水銀を気化させる水銀還元装置と、
前記の気化した水銀を水銀用吸着剤と接触させて水銀を除去する除去装置と、
前記排ガスを吸着剤に接触させて、前記排ガスに含まれる水銀以外の汚染物質を除去する排ガス処理装置と、を有する、水銀汚染土壌の浄化システム。
【0010】
[2]水銀汚染土壌を加熱して、水銀を含む水銀含有ガスを得る加熱工程と、
前記水銀含有ガスを硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液に接触させ、前記水銀含有ガスに含まれる水銀を前記硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液に吸収させて水銀吸収溶液と排ガスとを得る湿式吸収工程と、
前記水銀吸収溶液に還元剤を加えて水銀を気化させる水銀還元工程と、
前記の気化した水銀を水銀用吸着剤と接触させて水銀を除去する除去工程と、
前記排ガスを吸着剤に接触させて、前記排ガスに含まれる水銀以外の汚染物質を除去する排ガス処理工程と、を有する、水銀汚染土壌の浄化方法。
[3]前記加熱工程を原位置で実施する、[2]に記載の水銀汚染土壌の浄化方法。
[4]前記吸着剤が活性炭、ゼオライト及び活性アルミナから選ばれる1種以上である、[2]又は[3]に記載の水銀汚染土壌の浄化方法。
[5]前記水銀用吸着剤が水銀吸着用活性炭である、[2]~[4]のいずれかに記載の水銀汚染土壌の浄化方法。
[6]前記還元剤が塩化錫(II)溶液、水素化ホウ素ナトリウム溶液及び塩酸ヒドロキシルアミン溶液から選ばれる1種以上である、[2]~[5]のいずれかに記載の水銀汚染土壌の浄化方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水銀汚染土壌の浄化システム及び水銀汚染土壌の浄化方法によれば、水銀汚染土壌を対象として熱脱着方法によって発生した水銀含有ガスから水銀を効率よく回収し、汚染土壌の処理量を減容できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る水銀汚染土壌の浄化システムの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の水銀汚染土壌の浄化システム(以下、単に「浄化システム」ともいう。)は、加熱装置と、湿式吸収装置と、水銀還元装置と、除去装置と、排ガス処理装置とを有する。浄化システムは、水銀で汚染された水銀汚染土壌を加熱して気化した水銀を含む水銀含有ガスを発生させ、水銀を効率よく回収し、水銀汚染土壌を浄化するシステムである。以下、本発明の浄化システムの一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
[浄化システム]
図1の浄化システム1は、加熱装置10と、湿式吸収装置20と、水銀還元装置30と、除去装置40と、排ガス処理装置50と、を有する。加熱装置10と、湿式吸収装置20と、排ガス処理装置50とは、配管によりこの順で接続されている。水銀還元装置30と、除去装置40とは、配管により接続されている。
図中の矢印は、水銀含有ガス等の気体の移動方向を示す。
【0015】
加熱装置10は、水銀で汚染された水銀汚染土壌を加熱して、水銀を含む水銀含有ガスを得る装置である。
加熱装置10は、加熱用電源12と、回収井戸14と、水銀含有ガス集積装置16とを有する。水銀含有ガス集積装置16は、貯留部16aと、供給部16bとを有する。加熱用電源12は、複数の回収井戸14と、電気的に接続されている。複数の回収井戸14は、水銀含有ガス集積装置16と、配管を介して接続されている。
【0016】
加熱用電源12は、水銀汚染土壌を加熱するための電力を供給する装置である。加熱用電源12は、水銀汚染土壌を加熱するための充分な電力を供給できればよく、特に限定されない。
加熱用電源12としては、例えば、出力2kW~100kWの高周波誘導加熱用電源や、最大50kVまで充電可能な高電圧充電電源等が挙げられる。
【0017】
回収井戸14は、水銀汚染土壌を加熱し、気化した水銀を含む水銀含有ガスを回収するものである。回収井戸14は、複数設けられており、地表面から下方の深さ方向に延びるように配置されている。
回収井戸14は、水銀汚染土壌を加熱し、水銀含有ガスを回収できればよく、特に限定されない。回収井戸14としては、例えば、加熱具と吸引具とを有する筒状体等が挙げられる。加熱具としては、例えば、自身が発熱するヒーター、電熱線等が挙げられる。吸引具としては、例えば、吸引ポンプ、真空ポンプ等が挙げられる。
【0018】
水銀含有ガス集積装置16は、回収井戸14で回収された水銀含有ガスを集積する装置である。水銀含有ガス集積装置16は、水銀含有ガスを集積できればよく、特に限定されない。
水銀含有ガス集積装置16としては、例えば、貯留部16aと供給部16bとを有する容器等が挙げられる。貯留部16aとしては、例えば、密閉された金属製の容器等が挙げられる。供給部16bとしては、例えば、密閉されたガラス製の容器等が挙げられる。貯留部16aと供給部16bとは、外気が混入しないように接続されている。
【0019】
湿式吸収装置20は、水銀含有ガスを硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液に接触させ、水銀含有ガスに含まれる水銀を硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液に吸収させて、水銀吸収溶液と排ガスとを得る装置である。
湿式吸収装置20は、冷却槽22と、気液分離器24と、吸収器26とを有する。気液分離器24と、吸収器26とは、冷却槽22と接触して設けられている。気液分離器24と、吸収器26とは、配管を介して接続されている。気液分離器24は、水銀含有ガス集積装置16の供給部16bと、配管を介して接続されている。
【0020】
冷却槽22は、高温(例えば、360℃)の水銀含有ガスを冷却するためのものである。冷却槽22は、水銀含有ガスを冷却できればよく、特に限定されない。
冷却槽22としては、例えば、水又は氷を満たした浴槽、冷媒を通流できる配管等が挙げられる。
【0021】
気液分離器24は、冷却された水銀含有ガスを気体と液体とに分離する装置である。気液分離器24は、水銀含有ガスを気体と液体とに分離できればよく、特に限定されない。
気液分離器24としては、例えば、金属製又はガラス製の凝縮器等が挙げられる。
【0022】
吸収器26は、水銀含有ガスに接触させる硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液を貯留できる容器である。吸収器26は、硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液を貯留できればよく、特に限定されない。
吸収器26としては、例えば、ガラス製の容器等が挙げられる。
【0023】
水銀還元装置30は、湿式吸収装置20で得られた水銀吸収溶液に還元剤を加えて水銀を気化させる装置である。水銀還元装置30は、水銀吸収溶液に含まれる水銀を還元できればよく、特に限定されない。
水銀還元装置30としては、例えば、貯留タンク32と気化水銀回収部34とを有する装置が挙げられる。貯留タンク32としては、例えば、密閉されたガラス製の容器等が挙げられる。気化水銀回収部34としては、例えば、密閉されたガラス製の器具等が挙げられる。貯留タンク32と気化水銀回収部34とは、外気が混入しないように接続されている。
【0024】
除去装置40は、水銀還元装置30で得られた気化水銀を水銀用吸着剤と接触させて水銀を除去する装置である。除去装置40は、気化水銀から水銀を除去できればよく、特に限定されない。
除去装置40としては、例えば、水銀用吸着剤が充填された吸着槽42と、吸引ファン44とを有する装置等が挙げられる。吸着槽42としては、例えば、金属製又はガラス製の耐圧容器等が挙げられる。吸引ファン44としては、例えば、ポンプと羽根とを備える送風機等が挙げられる。吸着槽42と、吸引ファン44とは、配管を介して接続されている。吸着槽42と、水銀還元装置30の気化水銀回収部34とは、配管を介して接続されている。
【0025】
排ガス処理装置50は、湿式吸収装置20で得られた排ガスを吸着剤に接触させて、排ガスに含まれる水銀以外の汚染物質を除去する装置である。排ガス処理装置50は、排ガスに含まれる水銀以外の汚染物質を除去できればよく、特に限定されない。
排ガス処理装置50としては、例えば、吸着剤が充填された吸着槽52と、吸引ファン54とを有する装置等が挙げられる。吸着槽52としては、例えば、金属製又はガラス製の耐圧容器等が挙げられる。吸引ファン54としては、例えば、ポンプと羽根とを備える送風機等が挙げられる。吸着槽52と、吸引ファン54とは、配管を介して接続されている。吸着槽52と、湿式吸収装置20の吸収器26とは、配管を介して接続されている。
【0026】
各装置を接続する配管としては、例えば、軟質塩化ビニル製の樹脂管等が挙げられる。
【0027】
[水銀汚染土壌の浄化方法]
本発明の水銀汚染土壌の浄化方法(以下、単に「浄化方法」ともいう。)は、加熱工程と、湿式吸収工程と、水銀還元工程と、除去工程と、排ガス処理工程とを有する。
本実施形態の浄化方法について、浄化システム1を用いた浄化方法を例にして説明する。
【0028】
加熱工程は、水銀を含む水銀汚染土壌を加熱して、水銀を含む水銀含有ガスを得る工程である。
本実施形態の加熱工程は、加熱操作と、集積操作とを有する。
【0029】
まず、加熱用電源12をオンにして、回収井戸14を介して水銀汚染土壌を加熱する(加熱操作)。本実施形態の加熱操作は、
図1に示すように、原位置で実施する方法(原位置熱脱着法、ISTD)である。原位置熱脱着法を適用することで、水銀汚染土壌を掘削除去する必要がなく、土壌を運搬するエネルギーを節約でき、環境負荷を低減できる。加えて、原位置熱脱着法を適用することで、水銀汚染土壌の拡散を抑制できる。
【0030】
水銀汚染土壌に含まれる水銀としては、特に限定されず、金属水銀、無機水銀、有機水銀が挙げられる。無機水銀としては、例えば、酸化水銀、硫化水銀、塩化水銀(Hg2Cl2、HgCl2)、硝酸水銀等が挙げられる。有機水銀としては、例えば、アルキル水銀(例えば、メチル水銀、エチル水銀)、フェニル水銀(例えば、酢酸フェニル水銀)等が挙げられる。金属水銀、無機水銀、有機水銀は、加熱により気化して水銀含有ガスとなる。
【0031】
水銀含有ガスには、水銀以外の汚染物質が含まれる場合がある。水銀以外の汚染物質としては、例えば、揮発性有機化合物(VOC)、油分、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ダイオキシン類等が挙げられる。
VOCとしては、例えば、ベンゼン、トルエン、ハロゲン化炭化水素等が挙げられる。
油分としては、例えば、炭素数5~18の炭化水素等が挙げられる。これらの炭化水素は飽和炭化水素でもよく、不飽和炭化水素でもよい。これらの炭化水素は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよく、環状でもよい。これらの炭化水素の具体例としては、例えば、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。
PCBとしては、例えば、3,3’,4,4’-テトラクロロビフェニル、3,4,4’,5-テトラクロロビフェニル、3,3’,4,4’,5-ペンタクロロビフェニル、3,3’,4,4’,5,5’-ヘキサクロロビフェニル、2,3,3’,4,4’-ペンタクロロビフェニル、2,3,3’,4,4’,5-ヘキサクロロビフェニル、2,3,3’,4,4’,5,5’-ヘプタクロロビフェニル等が挙げられる。
ダイオキシン類としては、例えば、2,3,7,8-テトラクロロパラジオキシン、2,3,4,7,8-ペンタクロロジベンゾフラン等が挙げられる。
【0032】
これら水銀以外の汚染物質は、水銀含有ガス中に水銀よりも遥かに高い濃度で存在する(例えば、水銀は、土壌1Lに対して1.1~5.5μg。一方、例えば、VOCは、土壌1Lに対して1~1000mg)。このため、水銀含有ガスを水銀用吸着剤と接触させた場合、水銀以外の汚染物質が水銀用吸着剤に吸着されてしまい、水銀の選択的な吸着を阻害する。
本発明は、水銀含有ガスから予め水銀を除去して排ガスとし、排ガスに含まれる水銀以外の汚染物質と、水銀とを別々に吸着させることにより、水銀の回収効率を高めたものである。
【0033】
水銀汚染土壌を加熱する際の温度は、例えば、250~400℃が好ましく、270~380℃がより好ましく、290~360℃がさらに好ましい。水銀汚染土壌を加熱する際の温度が上記下限値以上であると、土壌中の水銀の気化をより促進できる。水銀汚染土壌を加熱する際の温度が上記上限値以下であると、気化した水銀が他の元素と化合することを抑制できる。加えて、水銀汚染土壌を加熱する際の温度が上記上限値以下であると、エネルギーを節約でき、環境負荷を低減できる。
水銀汚染土壌を加熱する際の温度は、例えば、土壌中に埋設した熱電対や温度センサーを用いて測定できる。
【0034】
水銀汚染土壌を加熱することにより、気化した水銀を含む水銀含有ガスが発生する。水銀含有ガスは、回収井戸14を通流して、水銀含有ガス集積装置16へと誘引される(集積操作)。
回収井戸14の内部圧力を陰圧とすることで、水銀含有ガスを容易に回収できる。水銀含有ガスを回収する際の回収井戸14の内部圧力は、例えば、1kPa以下が好ましく、0.1kPa以下がより好ましく、0.02kPa以下がさらに好ましい。回収井戸14の内部圧力が上記上限値以下であると、土壌中の水銀の気化が促進され、より多くの水銀を除去できる。回収井戸14の内部圧力の下限値は特に限定されず、例えば、0.1Paとされる。
【0035】
水銀含有ガス集積装置16へと誘引された水銀含有ガスは、貯留部16aに集積された後、供給部16bから湿式吸収装置20へと供給される。
【0036】
湿式吸収工程は、水銀含有ガスを硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液に接触させ、水銀含有ガスに含まれる水銀を硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液に吸収させて、水銀吸収溶液と排ガスとを得る工程である。
本実施形態の湿式吸収工程は、気液分離操作と吸収操作とを有する。
【0037】
湿式吸収装置20へと供給された水銀含有ガスは、気液分離器24へと通流する。
気液分離器24では、水銀含有ガスが冷却槽22で冷却され、気体と液体とに分離される(気液分離操作)。本実施形態の浄化方法は、気液分離操作を有することで、水銀含有ガスに含まれる水分を水として除去できる。水銀含有ガスから水分を除去することにより、後述する吸収操作で、水銀を硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液に吸収させる効率をより高められる。
【0038】
気液分離操作における冷却温度は、例えば、80℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、60℃以下がさらに好ましい。気液分離操作における冷却温度が上記上限値以下であると、水銀含有ガスからより多くの水分を除去できる。気液分離操作における冷却温度の下限値は特に限定されず、例えば、25℃とされる。
【0039】
気液分離操作で水分を除去された水銀含有ガスは、気液分離器24から配管を介して吸収器26へと通流する。
吸収器26では、水銀含有ガスが硫酸酸性過マンガン酸カリウム(H2SO4/KMnO4)溶液と接触する。水銀含有ガスに含まれる水銀は、硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液に吸収されて、水銀吸収溶液と排ガスとが得られる(吸収操作)。
【0040】
硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液に用いられる硫酸は、硫酸と水との容積比が1:10~1:20が好ましく、1:12~1:18がより好ましく、1:14~1:16がさらに好ましい。硫酸と水との容積比が上記数値範囲内であると、水銀の吸収効率をより高められる。
【0041】
硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液における過マンガン酸カリウム溶液の濃度は、例えば、0.5~10g/Lが好ましく、1~5g/Lがより好ましく、2~4g/Lがさらに好ましい。過マンガン酸カリウム溶液の濃度が上記下限値以上であると、充分な量の水銀を吸収できる。過マンガン酸カリウム溶液の濃度が上記上限値以下であると、水銀の吸収効率をより高められる。
【0042】
湿式吸収工程で得られた水銀吸収溶液は、水銀還元装置30へと供給される。
湿式吸収工程で得られた排ガスは、配管を介して排ガス処理装置50へと供給される。
【0043】
水銀還元工程は、湿式吸収工程で得られた水銀吸収溶液に還元剤を加えて水銀を気化させる工程である。
本実施形態の水銀還元工程は、貯留操作と還元操作とを有する。
【0044】
水銀還元装置30へと供給された水銀吸収溶液は、貯留タンク32に貯留される(貯留操作)。貯留操作は特に限定されず、所定量の水銀吸収溶液を貯留する。
【0045】
次いで、貯留タンク32に還元剤を添加して、水銀吸収溶液に含まれる水銀イオン(Hg+、Hg2+)を還元して気化させる(還元操作)。
還元剤としては、塩化錫(II)溶液、水素化ホウ素ナトリウム溶液、塩酸ヒドロキシルアミン溶液等が挙げられる。還元力に優れることから、還元剤としては、塩化錫(II)溶液、水素化ホウ素ナトリウム溶液が好ましく、水素の発生がないことから、塩化錫(II)溶液がより好ましい。
【0046】
還元操作における還元剤の濃度は、例えば、1~20質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましく、8~12質量%がさらに好ましい。還元操作における還元剤の濃度が上記下限値以上であると、充分な量の水銀を還元できる。還元操作における還元剤の濃度が上記上限値以下であると、還元剤の使用量を節約できる。
【0047】
還元操作においては、空気ポンプ(不図示)を作動させ、空気を通流させること(通流操作)が好ましい。空気を通流させることで、還元した水銀の気化を促進できる。
空気を通流させる際の流速は、例えば、0.1~1.5L/minが好ましく、0.3~1.2L/minがより好ましく、0.5~1.2L/minがさらに好ましい。空気を通流させる際の流速が上記下限値以上であると、充分な量の水銀を気化できる。空気を通流させる際の流速が上記上限値以下であると、水銀吸収溶液が吹きこぼれることを抑制できる。
【0048】
空気を通流させる時間は、例えば、150~250minが好ましく、120~220minがより好ましく、100~200minがさらに好ましい。空気を通流させる時間が上記下限値以上であると、充分な量の水銀を気化できる。空気を通流させる時間が上記上限値以下であると、気化水銀を得るための効率をより高められる。
【0049】
還元操作で得られた気化水銀は、気化水銀回収部34へと誘引される。気化水銀回収部34へと誘引された気化水銀は、配管を介して除去装置40へと供給される。
【0050】
除去工程は、気化した水銀(気化水銀)を水銀用吸着剤と接触させて水銀を除去する工程である。
本実施形態の除去工程は、吸着操作と吸引操作とを有する。
【0051】
除去装置40の吸着槽42へと供給された気化水銀は、吸着槽42に充填された水銀用吸着剤と接触して、水銀用吸着剤に吸着される(吸着操作)。
水銀用吸着剤としては、例えば、水銀の吸着能をより高めるための特殊加工がされた水銀吸着用活性炭が挙げられる。
【0052】
吸着操作における処理時間は、例えば、10~60minが好ましく、15~50minがより好ましく、20~40minがさらに好ましい。吸着操作における処理時間が上記下限値以上であると、充分な量の水銀を吸着できる。吸着操作における処理時間が上記上限値以下であると、吸着操作の時間効率をより高められる。
【0053】
気化水銀は、吸着操作により水銀が除去された処理済ガスとして、吸引ファン44によって吸引される(吸引操作)。
処理済ガスにおける水銀濃度は、例えば、有害大気汚染物質の指針値である40ngHg/m3以下が好ましい。処理済ガスにおける水銀濃度が上記上限値以下であると、環境基準に適合するガスとして大気中に排出できる。
処理済ガスにおける水銀濃度は、例えば、平成28年環境省告示第94号「排出ガス中の水銀測定法」に記載の方法に準じて測定できる。
【0054】
吸引ファン44によって吸引された処理済ガスは、水銀濃度を確認した後、配管を介して大気中に排出される。水銀濃度が40ngHg/m3超だった場合、処理済ガスは、吸着槽42に戻され、水銀濃度が40ngHg/m3以下になるまで吸着操作を繰り返す。
【0055】
排ガス処理工程は、湿式吸収工程で得られた排ガスを吸着剤に接触させて、排ガスに含まれる水銀以外の汚染物質を除去する工程である。
本実施形態の排ガス処理工程は、汚染物質吸着操作と、処理済排ガス吸引操作とを有する。
【0056】
排ガス処理装置50の吸着槽52へと供給された排ガスは、吸着槽52に充填された吸着剤と接触する。吸着剤と接触した排ガスに含まれる水銀以外の汚染物質は、吸着剤に吸着される(汚染物質吸着操作)。
吸着剤としては、特に限定されず、例えば、竹炭、ヤシ殻炭、粉末活性炭、粒状活性炭等の活性炭、ゼオライト、活性アルミナ等が挙げられる。吸着剤としては、水銀以外の汚染物質の吸着能に優れる観点から、活性炭が好ましく、その中でも浄化システム1の運転管理が容易な点から、粒状活性炭がより好ましい。
【0057】
汚染物質吸着操作における処理時間は、例えば、10~60minが好ましく、15~50minがより好ましく、20~40minがさらに好ましい。汚染物質吸着操作における処理時間が上記下限値以上であると、充分な量の汚染物質を吸着できる。汚染物質吸着操作における処理時間が上記上限値以下であると、汚染物質吸着操作の時間効率をより高められる。
【0058】
排ガスは、汚染物質吸着操作により、水銀以外の汚染物質が除去された処理済排ガスとして、吸引ファン54によって吸引される(処理済排ガス吸引操作)。
処理済排ガスにおける汚染物質濃度は、例えば、大気環境基準値以下が好ましい。処理済排ガスにおける汚染物質濃度が大気環境基準値以下であると、処理済排ガスを環境基準に適合したガスとできる。処理済排ガスにおける汚染物質濃度の下限値は特に限定されず、例えば、定量下限値とされる。
処理済排ガスにおける汚染物質濃度は、例えば、ガスクロマトグラフィーにより測定できる。
【0059】
吸引ファン54によって吸引された処理済排ガスは、配管を介して大気中に排出される。
【0060】
本実施形態の浄化システム1によれば、加熱装置10を有するため、水銀汚染土壌から水銀を含む水銀含有ガスを得ることができる。
本実施形態の浄化システム1によれば、湿式吸収装置20を有するため、水銀含有ガスに含まれる水銀を硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液に選択的に吸収させることができる。
本実施形態の浄化システム1によれば、水銀還元装置30を有するため、水銀を硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液に選択的に吸収させた水銀吸収溶液から、気化水銀を得ることができる。
本実施形態の浄化システム1によれば、除去装置40を有するため、気化水銀に含まれる水銀を水銀用吸着剤に吸着させ、回収できる。
本実施形態の浄化システム1によれば、排ガス処理装置50を有するため、排ガスに含まれる水銀以外の汚染物質を除去することができる。
本実施形態の浄化システム1によれば、水銀汚染土壌中に共存するVOC等の汚染物質の影響を受けずに、水銀のみを選択的に回収できる。このため、効率よく水銀汚染土壌を浄化できる。
本実施形態の浄化システム1によれば、効率よく水銀汚染土壌を浄化できるため、処理が必要な汚染土壌の量を減容できる。
【0061】
本実施形態の浄化方法によれば、水銀含有ガスから予め水銀を除去して排ガスとし、排ガスに含まれる水銀以外の汚染物質と、水銀とを別々に吸着させることにより、水銀の回収効率を高めることができる。
本実施形態の浄化方法によれば、原位置熱脱着法により、水銀汚染土壌から水銀を除去できる。このため、水銀汚染土壌を直接運搬して外部の処理施設で処理する必要がなくなり、運搬エネルギー及び処理にかかるコストを大幅に削減できる。
【0062】
以上、本発明の水銀汚染土壌の浄化システム及び水銀汚染土壌の浄化方法について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、浄化システム1は、水銀含有ガス集積装置16を有するが、浄化システムは、水銀含有ガス集積装置を有しなくてもよい。ただし、湿式吸収装置での水銀の吸収効率を高める観点から、浄化システムは、水銀含有ガス集積装置を有することが好ましい。
例えば、浄化システム1は、気液分離器24を有するが、浄化システムは、気液分離器を有しなくてもよい。ただし、水銀含有ガスから水分を除去し、水銀を硫酸酸性過マンガン酸カリウム溶液に吸収させる効率をより高める観点から、浄化システムは、気液分離器を有することが好ましい。
【0063】
例えば、本実施形態の浄化方法は、原位置熱脱着法を適用しているが、浄化方法は、原位置熱脱着法を適用せず、掘削除去法を適用してもよい。ただし、環境負荷を低減する観点から、浄化方法は、原位置熱脱着法を適用することが好ましい。
例えば、気液分離操作で水銀含有ガスの熱を得て、得られた熱を汚染物質吸着操作の熱源として利用してもよい。
【符号の説明】
【0064】
1…浄化システム、10…加熱装置、12…加熱用電源、14…回収井戸、16…水銀含有ガス集積装置、16a…貯留部、16b…供給部、20…湿式吸収装置、22…冷却槽、24…気液分離器、26…吸収器、30…水銀還元装置、32…貯留タンク、34…気化水銀回収部、40…除去装置、42,52…吸着槽、44,54…吸引ファン、50…排ガス処理装置