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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112858
(43)【公開日】2022-08-03
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20220727BHJP
   F04C 29/02 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
F04C18/02 311Y
F04C18/02 311E
F04C29/02 311K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008859
(22)【出願日】2021-01-22
(71)【出願人】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】桑原 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 明紀
(72)【発明者】
【氏名】池▲高▼ 剛士
(72)【発明者】
【氏名】竹内 真実
【テーマコード(参考)】
3H039
3H129
【Fターム(参考)】
3H039AA03
3H039AA12
3H039BB11
3H039CC02
3H039CC17
3H039CC27
3H039CC33
3H129AA02
3H129AA17
3H129AB03
3H129BB01
3H129CC05
3H129CC08
3H129CC09
(57)【要約】
【課題】凹部とリングとの接触に起因する騒音を抑制することを目的とする。
【解決手段】電動圧縮機は、外殻を為すハウジングと、ハウジングに収容されハウジング側に固定される固定スクロールと、固定スクロールと噛み合い固定スクロールに対して旋回する旋回スクロールと、旋回スクロールの自転を阻止する自転阻止機構30と、自転阻止機構30へ潤滑油を供給する潤滑油供給部と、を備えている。自転阻止機構30は、旋回スクロールに形成されるリング穴32と、リング穴32内に配置され外周面33bがリング穴32の内周面32aと対向するリング33と、ハウジングに設けられリング33の内周面33aと係合するピン34と、を有する。リング穴32の内周面32aとリング33の外周面33bとの間に形成される隙間Gが0.1mm以上であって、0.6mm以下とされている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外殻を為す筐体と、
前記筐体に収容され、前記筐体側に固定される固定スクロールと、
前記固定スクロールと噛み合い、前記固定スクロールに対して旋回する旋回スクロールと、
前記旋回スクロールの自転を阻止する自転阻止機構と、
前記自転阻止機構へ潤滑油を供給する潤滑油供給部と、を備え、
前記自転阻止機構は、前記旋回スクロール側または前記筐体側の一方に形成される凹部と、前記凹部内に配置され外周面が前記凹部の内周面と対向するリングと、前記旋回スクロール側または前記筐体側の他方に設けられ前記リングの内周面と係合するピンと、を有し、
前記凹部の前記内周面と前記リングの前記外周面との間に形成される隙間が0.1mm以上であって、0.6mm以下とされている圧縮機。
【請求項2】
前記リングの外径は、13mm以上であって、15.5mm以下である請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記凹部は、円筒面である前記内周面に半径方向外側に凹む貯留部が形成されている請求項1または請求項2に記載の圧縮機。
【請求項4】
外殻を為す筐体と、
前記筐体に収容され、前記筐体側に固定される固定スクロールと、
前記固定スクロールと噛み合い、前記固定スクロールに対して旋回する旋回スクロールと、
前記旋回スクロールの自転を阻止する自転阻止機構と、
前記自転阻止機構へ潤滑油を供給する潤滑油供給部と、を備え、
前記自転阻止機構は、前記旋回スクロール側または前記筐体側の一方に形成される凹部と、前記凹部内に配置され外周面が前記凹部の内周面と対向するリングと、前記旋回スクロール側または前記筐体側の他方に設けられ前記リングの内周面と係合するピンと、を有し、
前記凹部は、円筒面である前記内周面に半径方向外側に凹む貯留部が形成されている圧縮機。
【請求項5】
前記自転阻止機構は、前記凹部、前記リング及び前記ピンの組み合わせである自転阻止構造を複数有し、
複数の前記自転阻止構造は、前記旋回スクロールの旋回運動に伴って、順番に荷重を受けるように配置されており、
各自転阻止構造の前記凹部の前記内周面は、前記旋回スクロールの旋回運動に伴って前記ピンから荷重を受ける所定の角度範囲に亘る荷重領域を有しており、
前記貯留部は、前記凹部の前記内周面のうち、前記荷重領域以外の領域に設けられている請求項3または請求項4に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記貯留部は、前記荷重領域以外の領域の周方向の中点よりも、前記旋回スクロールの旋回方向における前方に設けられている請求項5に記載の圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
互いに噛合されて圧縮室を形成する一対の固定スクロールおよび旋回スクロールを備えたスクロール圧縮機が知られている。旋回スクロールは、固定スクロールに対して、公転旋回運動することにより、圧縮室内の冷媒ガスを圧縮する。
【0003】
スクロール圧縮機は、旋回スクロールの自転を阻止するために、自転阻止機構が設けられている。自転阻止機構の例として、オルダムリンク式自転阻止機構や、ピンリング式の自転阻止機構が挙げられる。例えば、特許文献1には、ピンリング式の自転阻止機構を備えたスクロール圧縮機が開示されている。
【0004】
特許文献1には、可動渦巻体とフロントハウジングの端面との間にピンアンドリングカップリングが配設されたスクロール型圧縮機が記載されている。このピンアンドリングカップリングは、可動渦巻体に固定された可動側ピンと、フロントハウジングに固定された固定側ピンと、可動側ピンと固定側ピンとが挿入されたリングとを有している。リングは、ハウジングに形成された凹部内に収容されており、凹部の底面に摺接しつつ可動渦巻体の公転運動に伴って運動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-132670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
凹部内に収容されるリング及びリングと係合するピンを有する自転阻止機構において、従来は凹部の内周面とリングの外周面との間に形成される隙間を小さくしていた。これは、隙間を小さくすることでヘルツ応力を低減し、凹部の損傷を抑制するためである。一方で、凹部の内周面とリングの外周面との間に隙間が存在する以上、旋回スクロールが旋回することで生じる荷重によって、凹部の内周面とリングの外周面とが衝突する。このリングが凹部へ衝突する際に発生する騒音が問題となっていた。
【0007】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、凹部とリングとの接触に起因する騒音を抑制できる圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示の圧縮機は以下の手段を採用する。
本開示の一態様に係る圧縮機は、外殻を為す筐体と、前記筐体に収容され、前記筐体側に固定される固定スクロールと、前記固定スクロールと噛み合い、前記固定スクロールに対して旋回する旋回スクロールと、前記旋回スクロールの自転を阻止する自転阻止機構と、前記自転阻止機構へ潤滑油を供給する潤滑油供給部と、を備え、前記自転阻止機構は、前記旋回スクロール側または前記筐体側の一方に形成される凹部と、前記凹部内に配置され外周面が前記凹部の内周面と対向するリングと、前記旋回スクロール側または前記筐体側の他方に設けられ前記リングの内周面と係合するピンと、を有し、前記凹部の前記内周面と前記リングの前記外周面との間に形成される隙間が0.1mm以上であって、0.6mm以下とされている。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、凹部とリングとの接触に起因する騒音を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の実施形態に係る電動圧縮機の縦断面図である。
図2】本開示の実施形態に係るピンリング構造の平面図である。
図3】本開示の実施形態に係る各リング穴に荷重が作用する領域を示す模式的な図である。
図4】リングとリング穴との間の隙間の大きさと騒音レベルとの関係を示すグラフである。
図5】本開示の第2実施形態に係るリング穴を示す模式的な平面図である。
図6図5の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本開示に係る圧縮機の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
〔第1実施形態〕
以下、本開示の第1実施形態について、図1から図4を用いて説明する。
図1には、本実施形態に係る電動圧縮機1の縦断面図が示されている。
本実施形態に係る電動圧縮機1は、モータ17を駆動するインバータ(図示省略)が一体に組み込まれているインバータ一体型電動圧縮機とされている。
【0013】
電動圧縮機1は、外殻を為すハウジング(筐体)2と、ハウジング2に収容されるスクロール圧縮機構7と、スクロール圧縮機構7を駆動するモータ17と、を備えている。
【0014】
ハウジング2は、中心軸線に沿って延在する円筒状の第1ハウジング3と、第1ハウジング3の中心軸線方向の一端側(図1では、下端側)を閉鎖する第2ハウジング4を有している。
【0015】
スクロール圧縮機構7は、ハウジング2の一端側に組み込まれている。スクロール圧縮機構7は、一対の固定スクロール5および旋回スクロール6を有する。スクロール圧縮機構7は、冷媒ガスを圧縮する。スクロール圧縮機構7により圧縮された高圧の冷媒ガスは、吐出口8を介して吐出チャンバー10内に吐出される。吐出口8は、固定スクロール5の中心に形成されている。吐出チャンバー10内に吐出された冷媒ガスは、ハウジング2に設けられている吐出ポート(図示省略)を経て、電動圧縮機1の外部へと吐出される。
【0016】
固定スクロール5は、ボルト等の締結具(図示省略)によって、第2ハウジング4に固定されている。旋回スクロール6は、スラスト軸受12に自転阻止機構30を介して旋回可能に支持されている。自転阻止機構30の詳細については、後述する。旋回スクロール6は、固定スクロール5に対して旋回する。固定スクロール5及び旋回スクロール6は、例えば、アルミニウムで形成されている。なお、固定スクロール5及び旋回スクロール6の原料は、アルミニウムに限定されない。
【0017】
固定スクロール5と旋回スクロール6とは、噛み合わされるように係合している。固定スクロール5と旋回スクロール6との間には、圧縮室14が形成されている。スクロール圧縮機構7は、外周側から中心側へ向かうにしたがって圧縮室14の容積が減少するように旋回スクロール6が旋回(公転)することで、圧縮室14内の冷媒を圧縮する。
【0018】
モータ17は、円筒状のハウジング2の他端側に組み込まれている。モータ17は、ステータ15と、ロータ16を有している。ロータ16には、駆動軸18が結合されている。駆動軸18は、ハウジング2内の中央部付近に設置された軸受20と、ハウジング2内の他端部付近に設置された軸受21により回転自在に支持されている。駆動軸18は、一端にクランクピン19が設けられている。駆動軸18とクランクピン19とは、中心軸線が偏心している。クランクピン19は、旋回スクロール6に連結されている。すなわち、駆動軸18は、モータ17とスクロール圧縮機構7とを接続している。モータ17は、駆動軸18を介して、旋回スクロール6を旋回させる。
また、クランクピン19と旋回スクロール6との間には、従動クランク機構(図示省略)が設けられている。従動クランク機構は、旋回スクロール6の旋回半径を可変とする。従動クランク機構の例として、例えば、スイングリンク方式の従動クランク機構が挙げられる。
【0019】
ハウジング2の他端部側には、冷凍サイクルからの低圧冷媒ガスを吸入するための吸入ポート(図示省略)が設けられている。吸入ポートから吸入された冷媒ガスは、第1ハウジング3とモータ17の一端間の空間部24に流入する。空間部24に流入した低圧冷媒ガスは、ハウジング2内を充満する。具体的には、空間部24に流入した低圧冷媒ガスは、スクロール圧縮機構7側に流通し、スクロール圧縮機構7に吸い込まれて圧縮されるようになっている。冷媒ガスには、潤滑油が含まれている。冷媒ガスに含まれる潤滑油は、冷媒ガスとともにスクロール圧縮機構7や自転阻止機構30に供給され、各機構を潤滑している。すなわち、吸入ポートが自転阻止機構30へ潤滑油を供給する潤滑油供給部としての機能を有している。
【0020】
ハウジング2の中心軸線に沿う方向の他端側(図1では、上端側)には、インバータ収容部25が設けられている。第1ハウジング3の他端側は、インバータ収容部25によって閉鎖されている。インバータ収容部25の内部には、モータ17を駆動するインバータ(図示省略)が収容されている。インバータは、外部のバッテリ等から給電される直流電力を所要周波数の三相交流電力に変換し、端子(図示省略)を介してモータ17に印加することにより、モータ17を駆動する。
【0021】
次に、自転阻止機構30の詳細について説明する。
本実施形態に係る自転阻止機構30は、いわゆるピンリング式自転阻止機構である。自転阻止機構30は、旋回スクロール6の自転を阻止する。自転阻止機構30は、複数(本実施形態では、一例として6つ)のピンリング構造(自転阻止構造)31を有している(図3参照)。複数のピンリング構造31は、駆動軸18、または、旋回スクロール6の中心軸線を中心として、周方向に等間隔に設けられている。すなわち、本実施形態では、ピンリング構造31が6つ設けられているので、6つのピンリング構造31は周方向に60度間隔に設けられている。
【0022】
複数のピンリング構造31は、各々同一の構造であるので、原則として、以下では代表として一つのピンリング構造31について説明する。
ピンリング構造31は、図1及び図2に示すように、旋回スクロール6に形成されるリング穴(凹部)32と、リング穴32に収容されるリング33と、リング33の内周面33aと係合するピン34と、を備えている。
【0023】
複数のリング穴32は、図3に示すように、旋回スクロール6の端板6aに所定間隔で並んで配置されている。詳細には、複数のリング穴32は、旋回スクロール6の中心点を中心として、周方向に並んで配置されている。リング穴32は、旋回スクロール6の端板6aの圧縮室14を形成する面とは反対側の面(以下、「背面6b」と称する)に形成されている。リング穴32は、旋回スクロール6の背面6bから所定の深さ凹んでいる。リング穴32は、有底状の凹部である。リング穴32は、平面視で真円形状とされている。すなわち、リング穴32の内周面32aは、円筒面とされている。
【0024】
リング33は、所定の厚さを有する円筒状の部材である。リング33の中心軸線方向の長さは、リング穴32の深さと略同一とされている。リング33は、リング穴32内に配置されている。リング33は、外周面33bがリング穴32の内周面32aと対向するように配置されている。リング33は、例えば、高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)で形成される。なお、リング33の原料は、高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)に限定されない。本実施形態では、リング33の外径は、13mm以上であって、15.5mm以下とされている。なお、リング33の外径の値は一例であり、この値に限定されてない。
【0025】
リング穴32の内周面32aとリング33の外周面33bとの間には、隙間Gが形成されている。隙間Gの長さは、リング穴32の内周面32aにリング33の外周面33bの一部が接触している状態において、最も長い部分の長さ(以下、単に「隙間Gの長さ」と称する。)が0.1mm以上であって、0.6mm以下とされている。すなわち、リング33の外径は、リング穴32の直径よりも小さい。詳細には、リング33の外径は、隙間Gの長さ分、リング穴32の直径よりも小さい。
【0026】
複数のピン34は、各リング穴32に配置されるリング33と対応するように配置されている。詳細には、複数のピン34は、駆動軸18の中心軸線を中心として、周方向に等間隔となるように、並んで配置されている。ピン34は、図1に示すように、第1ハウジング3に固定されている。ピン34は、図2に示すように、リング33の内周面33aと係合する。ピン34の先端は、リング穴32の底面と離間している。
【0027】
複数のピンリング構造31は、旋回スクロール6の旋回運動に伴って、順番に荷重を受けるように配置されている。すなわち、自転阻止機構30は、旋回スクロール6の旋回運動に伴って、複数のピンリング構造31間で自転阻止機能を順番に受け渡す(換言すれば、自転阻止機構30を担うピンリング構造31を切り換える)ことで、旋回スクロール6の自転を阻止している。
【0028】
また、各ピンリング構造31のリング穴32の内周面32aは、旋回スクロール6の旋回運動に伴って、ピン34から荷重を受ける所定の角度範囲に亘る荷重領域A1を有している。詳細には、リング穴32の荷重領域A1は、リング33を介してピン34からの荷重を受ける。各リング穴32における荷重領域A1は、図3に示すように、旋回スクロール6の端板6aの背面6bを平面視した際に、60度ずつずれるように設けられている。各リング穴32の荷重領域A1は、旋回スクロール6の端板6aの背面6bを平面視した際に、角度θ(本実施形態では60度)の円弧となるように設けられている。
【0029】
次に、自転阻止機構30の挙動について説明する。
自転阻止機構30は、旋回スクロール6の旋回に伴って、ピン34とリング33とが相対移動することで、ピン34とリング33とが接触し、当該接触によって旋回スクロール6の自転を阻止する。本実施形態では、ハウジング2に固定されているピン34は移動せずに、旋回スクロール6に設けられているリング33が移動する。
次に、各ピンリング構造31の挙動について説明する。旋回スクロール6が旋回すると、まず6つのピンリング構造31のうちの1つのピンリング構造31が自転阻止機能を発揮する。詳細には、ピン34に対してリング33が相対移動することで、1つのピンリング構造31に備えられるリング33の内周面33aがピン34から荷重を受ける。このようにリング穴32およびリング33の移動がピン34によって規制されることで、旋回スクロール6の自転が阻止される。リング33は、ピン34の外周面に沿って、荷重を受けながら、所定の角度範囲(本実施形態では60度)分、移動する。これにより、リング33を介して、リング穴32の荷重領域A1も荷重を受ける。リング33およびリング穴32が所定の角度範囲分移動すると、自転阻止機構30は、自転阻止機能を担うピンリング構造31を切り換える。詳細には、旋回スクロール6の旋回方向の前方側に位置するピンリング構造31へ切り換える。このピンリング構造31でも、同様にして旋回スクロール6の自転を阻止する。このように、自転阻止機構30は、複数のピンリング構造31間で自転阻止機能の受け渡しを繰り返すことで、旋回スクロール6の自転を阻止する。
【0030】
本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
本実施形態では、リング穴32とリング33との間に形成される隙間Gの長さが0.1mm以上であって、0.6mm以下とされている。これにより、自転阻止機構30へ供給された潤滑油が、隙間Gに流入し易い。隙間Gに流入した潤滑油は、リング穴32とリング33とが接触する際の衝撃を緩和する。したがって、リング穴32とリング33との接触に起因する騒音を抑制できる。
なお、リング穴32とリング33とが接触することによる騒音とは、例えば、自転阻止機能を担うピン34及びリング33が切り替わる際に発生する騒音が挙げられる。
【0031】
次に、本実施形態に係る自転阻止機構30による騒音低減効果について、図4のグラフを用いて説明する。図4では、隙間Gの長さと騒音レベルとの関係を調べた実験結果を示している。図4は、横軸が隙間Gの長さを示し、縦軸が騒音レベルを示している。
図4に示すように、隙間Gの長さが0.1mmよりも小さい場合には、騒音レベルが比較的大きくなっている。これは、隙間Gの長さが0.1mm未満の場合には、隙間Gに潤滑油が流入し難いことによるものと考えられる。隙間Gの長さが0.1mmでは、0.1mm未満の場合と比較して、騒音レベルが急激に小さくなっている。これは、隙間Gの長さが0.1mmとすることで、好適に隙間Gに潤滑油が流入することによる。
隙間Gの長さが0.1mm以上であって、0.5mm未満の範囲では、隙間Gの長さを大きくするほど騒音レベルが低下していることがわかる。隙間Gの長さが0.5mm以上となると、騒音レベルが徐々に増加していく。ただし、隙間Gの長さが0.6mm以下では、十分に騒音レベルが低いことがわかる。
このように、図4からも隙間Gの長さが0.1mm以上であって、0.6mm以下の場合には、騒音を抑制することができることが理解できる。
なお、図4のグラフは、リング33の外径が13mm以上であって、15.5mm以下の場合に、好適に妥当する。
【0032】
〔第2実施形態〕
次に、本開示の第2実施形態について、図5を用いて説明する。
本実施形態は、リング穴32に貯留部が形成されている点で上記第1実施形態と異なっている。貯留部が形成される点以外は、上記第1実施形態と同様であるので、同一の構成については同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0033】
図5に示すように、本実施形態に係るリング穴42の内周面42aには、半径方向外側に凹む貯留部41が形成されている。貯留部41は、平面視で矩形状に形成されている。また、貯留部41は、荷重領域A1以外の領域(以下、「反荷重領域A2」と称する。)に形成されている。本実施形態では、貯留部41は、反荷重領域A2の周方向の中点Cを含むように配置されている。すなわち、荷重領域A1から最も離れた位置に貯留部41が設けられている。
なお、貯留部41は、全てのリング穴32に形成されていてもよく、一部のリング穴32にのみ形成されていてもよい。
【0034】
本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
本実施形態では、自転阻止機構30へ供給された潤滑油が、貯留部41に貯留される。貯留部41はリング穴42の内周面42aに形成されているので、リング穴42の内周面42aとリング33の外周面33bとの間の隙間Gに保持される潤滑油が少なくなった場合に、貯留部41に貯留された潤滑油が当該隙間Gへ導かれる。したがって、隙間Gに、より好適に潤滑油が保持される。よって、リング穴42とリング33とが接触することによる騒音をより抑制することができる。
【0035】
また、荷重領域A1に貯留部が形成されている場合には、旋回スクロール6の旋回運動によるピン34からの荷重によって、リング33が貯留部41へ押し込まれるように変形する可能性がある。また、貯留部41自体もピン34からの荷重によって損傷する可能性がある。一方、本実施形態では、反荷重領域A2に貯留部41が形成されている。これにより、リング33の変形及び損傷を抑制することができる。また、ピン34からの荷重による、貯留部41の損傷を抑制することができる。
【0036】
〔変形例〕
なお、図6に示すリング穴52のように、リング穴52の内周面52aにおいて、反荷重領域A2の周方向の中点Cよりも、旋回スクロール6の旋回方向における前方に貯留部51の全部が設けられるようにしてもよい。
貯留部に貯留されている潤滑油は、旋回する旋回スクロール6に随伴するように、荷重領域A1へ導かれる。よって、本変形例では、中点Cよりも旋回方向における後方に貯留部が設けられている場合と比較して、潤滑油が移動する距離が短くなる。したがって、好適に荷重領域A1へ潤滑油を導くことができる。よって、荷重領域A1において、リング穴52とリング33とが接触する際の衝撃を好適に緩和することができる。よって、リング穴52とリング33とが接触することによる騒音をより好適に抑制することができる。
【0037】
なお、本開示は、上記各実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。
例えば、上記各実施形態では、電動圧縮機1がインバータ一体型電動圧縮機である例について説明したが、本開示はこれに限定されない。例えば、電動圧縮機1は、インバータを備えていない電動圧縮機であってもよい。また、電動圧縮機1は、インバータが別置きとされている電動圧縮機でもよい。
【0038】
また、貯留部41,51の形状は、上記説明の形状に限定されない。例えば、平面視で、長円形状であってもよく、楕円形状であってもよい。
【0039】
また、上記各実施形態では、旋回スクロール6にリング穴32が形成され、第1ハウジング3にピン34が固定される例について説明したが、本開示はこれに限定されない。例えば、第1ハウジング3にリング穴32が形成され、旋回スクロール6にピン34が固定されていてもよい。
【0040】
以上説明した実施形態に記載の圧縮機は、例えば以下のように把握される。
本開示の一態様に係る圧縮機は、外殻を為す筐体(2)と、前記筐体に収容され、前記筐体側に固定される固定スクロール(5)と、前記固定スクロールと噛み合い、前記固定スクロールに対して旋回する旋回スクロール(6)と、前記旋回スクロールの自転を阻止する自転阻止機構(30)と、前記自転阻止機構へ潤滑油を供給する潤滑油供給部と、を備え、前記自転阻止機構は、前記旋回スクロール側または前記筐体側の一方に形成される凹部(32)と、前記凹部内に配置され外周面(33b)が前記凹部の内周面(32a)と対向するリング(33)と、前記旋回スクロール側または前記筐体側の他方に設けられ前記リングの内周面(33a)と係合するピン(34)と、を有し、前記凹部の前記内周面と前記リングの前記外周面との間に形成される隙間が0.1mm以上であって、0.6mm以下とされている。
【0041】
上記構成では、凹部とリングとの間に形成される隙間が0.1mm以上であって、0.6mm以下とされている。これにより、潤滑油供給部から自転阻止機構へ供給された潤滑油が、凹部とリングとの間に形成された隙間に流入し易い。隙間に流入した潤滑油は、凹部とリングとが接触する際の衝撃を緩和する。したがって、凹部とリングとの接触に起因する騒音を抑制できる。
凹部とリングとが接触することによる騒音とは、例えば、ピン及びリングの組み合わせが複数あり、あるピン及びリングの組み合わせから、他のピン及びリングの組み合わせへ自転阻止機能を受け渡す際(自転阻止機能を担うピン及びリングが切り替わる際)に発生する騒音が挙げられる。
【0042】
また、本開示の一態様に係る圧縮機は、前記リングの外径は、13mm以上であって、15.5mm以下である。
【0043】
また、本開示の一態様に係る圧縮機は、前記凹部は、円筒面である前記内周面に半径方向外側に凹む貯留部(41,51)が形成されている。
【0044】
上記構成では、潤滑油供給部から自転阻止機構へ供給された潤滑油が、貯油部に貯留される。これにより、貯留部は凹部の内周面に形成されているので、凹部の内周面とリングの外周面との間の隙間に保持される潤滑油が少なくなった場合に、貯留部に貯留された潤滑油が当該隙間へ導かれる。したがって、凹部の内周面とリングの外周面との間の隙間に、より好適に潤滑油が保持される。よって、凹部とリングとが接触することによる騒音をより抑制することができる。
【0045】
また、本開示の一態様に係る圧縮機は、外殻を為す筐体(2)と、前記筐体に収容され、前記筐体側に固定される固定スクロール(5)と、前記固定スクロールと噛み合い、前記固定スクロールに対して旋回する旋回スクロール(6)と、前記旋回スクロールの自転を阻止する自転阻止機構(30)と、前記自転阻止機構へ潤滑油を供給する潤滑油供給部と、を備え、前記自転阻止機構は、前記旋回スクロール側または前記筐体側の一方に形成される凹部(32)と、前記凹部内に配置され外周面(33b)が前記凹部の内周面(32a)と対向するリング(33)と、前記旋回スクロール側または前記筐体側の他方に設けられ前記リングの内周面(33a)と係合するピン(34)と、を有し、前記凹部は、円筒面である前記内周面に半径方向外側に凹む貯留部(41,51)が形成されている。
【0046】
上記構成では、潤滑油供給部から自転阻止機構へ供給された潤滑油が、貯油部に貯留される。これにより、貯留部は凹部の内周面に形成されているので、凹部の内周面とリングの外周面との間の隙間に保持される潤滑油が少なくなった場合に、貯留部に貯留された潤滑油が当該隙間へ導かれる。したがって、凹部の内周面とリングの外周面との間の隙間に、潤滑油が保持され易くすることができる。隙間に流入した潤滑油は、凹部とリングとが接触する際の衝撃を緩和する。よって、凹部とリングとが接触することによる騒音を抑制することができる。
【0047】
また、本開示の一態様に係る圧縮機は、前記自転阻止機構は、前記凹部、前記リング及び前記ピンの組み合わせである自転阻止構造を複数有し、複数の前記自転阻止構造は、前記旋回スクロールの旋回運動に伴って、順番に荷重を受けるように配置されており、各自転阻止構造の前記凹部の前記内周面は、前記旋回スクロールの旋回運動に伴って前記ピンから荷重を受ける所定の角度範囲に亘る荷重領域(A1)を有しており、前記貯留部は、前記凹部の前記内周面のうち、前記荷重領域以外の領域(A2)に設けられている。
【0048】
荷重領域に貯留部が形成されている場合には、旋回スクロールの旋回運動によるピンからの荷重によって、リングが貯留部へ押し込まれるように変形する可能性がある。また、貯留部自体もピンからの荷重によって損傷する可能性がある。一方、上記構成では、荷重領域以外の領域に貯留部が形成されている。これにより、リングの変形及び損傷を抑制することができる。また、貯留部の損傷を抑制することができる。
【0049】
また、本開示の一態様に係る圧縮機は、前記貯留部は、前記荷重領域以外の領域の周方向の中点(C)よりも、前記旋回スクロールの旋回方向における前方に設けられている。
【0050】
貯留部に貯留されている潤滑油は、旋回する旋回スクロールに随伴するように、荷重領域へ導かれる。上記構成では、貯留部が、荷重領域以外の領域の周方向の中点よりも、旋回スクロールの旋回方向における前方に設けられている。これにより、中点よりも旋回方向における後方に貯留部が設けられている場合と比較して、潤滑油が移動する距離が短くなる。したがって、好適に荷重領域へ潤滑油を導くことができる。よって、荷重領域において、凹部とリングとが接触する際の衝撃を好適に緩和することができる。よって、凹部とリングとが接触することによる騒音を抑制することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 :電動圧縮機(圧縮機)
2 :ハウジング(筐体)
3 :第1ハウジング
4 :第2ハウジング
5 :固定スクロール
6 :旋回スクロール
6a :端板
6b :背面
7 :スクロール圧縮機構
8 :吐出口
10 :吐出チャンバー
12 :スラスト軸受
14 :圧縮室
15 :ステータ
16 :ロータ
17 :モータ
18 :駆動軸
19 :クランクピン
20 :軸受
21 :軸受
24 :空間部
25 :インバータ収容部
30 :自転阻止機構
31 :ピンリング構造(自転阻止構造)
32 :リング穴(凹部)
32a :内周面
33 :リング
33a :内周面
33b :外周面
34 :ピン
41 :貯留部
42 :リング穴
42a :内周面
51 :貯留部
52 :リング穴
A1 :荷重領域
A2 :反荷重領域
C :中点
G :隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6