(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112906
(43)【公開日】2022-08-03
(54)【発明の名称】耐火構造材及び赤熱抑制方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20220727BHJP
E04C 3/292 20060101ALI20220727BHJP
E04C 3/14 20060101ALI20220727BHJP
E04C 3/36 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
E04B1/94 R
E04C3/292
E04C3/14
E04C3/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021008933
(22)【出願日】2021-01-22
(71)【出願人】
【識別番号】000183428
【氏名又は名称】住友林業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 瑛一
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 友希子
(72)【発明者】
【氏名】西出 直樹
(72)【発明者】
【氏名】片岡 弘行
(72)【発明者】
【氏名】関 真理子
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 秀太
【テーマコード(参考)】
2E001
2E163
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001FA01
2E001FA02
2E001GA12
2E001GA52
2E001GA55
2E001GA59
2E001GA63
2E001GA66
2E001HB02
2E001HC01
2E001LA04
2E163FA02
2E163FA12
2E163FC03
2E163FC05
2E163FC22
2E163FF04
2E163FF05
2E163FF06
(57)【要約】
【課題】耐火構造材が赤熱することを抑制することができる、耐火構造材及び赤熱抑制方法を提供すること。
【解決手段】木製又は鋼製の荷重支持部11aと、前記荷重支持部11aを被覆する、純木からなる耐火被覆層12aと、前記耐火被覆層12aを被覆し、火炎に晒されたときに燃焼し焼失する、純木からなる厚みが25mm未満である焼失性被覆層13aとを備える耐火構造材1A。耐火構造材1A及び、該耐火構造材1Aの焼失性被覆層13aを耐火被覆層12aに置換した比較用構造材を対象として、ISO834-1に準拠した標準加熱による60分間の燃焼試験を行ったときに、加熱終了直後において、耐火構造材1Aの方が、比較用構造材よりも質量減少速度が大きく、加熱終了後180分以内に、前記耐火構造材の方が、前記比較用構造材よりも質量減少速度が小さくなることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木製又は鋼製の荷重支持部と、
前記荷重支持部を被覆する、純木からなる耐火被覆層と、
前記耐火被覆層を被覆し、火炎に晒されたときに燃焼し焼失する、純木からなる厚みが25mm未満である焼失性被覆層とを備える耐火構造材。
【請求項2】
前記耐火構造材、及び該耐火構造材の前記焼失性被覆層を前記耐火被覆層に置換した比較用構造材を対象として、ISO834-1に準拠した標準加熱による60分間の燃焼試験を行ったときに、
加熱終了直後においては、前記耐火構造材の方が、前記比較用構造材よりも質量減少速度が大きく、加熱終了後180分以内に、前記耐火構造材の方が、前記比較用構造材よりも質量減少速度が小さくなる、請求項1に記載の耐火構造材。
【請求項3】
前記耐火被覆層を構成する木材の樹種がカラマツであり、
前記焼失性被覆層を構成する木材の樹種がスギである、請求項1又は2に記載の耐火構造材。
【請求項4】
前記荷重支持部が角形鋼管である、請求項1~3のいずれか一項に記載の耐火構造材。
【請求項5】
木製又は鋼製の荷重支持部と、該荷重支持部を被覆し且つ純木からなる耐火被覆層とを有する構造材を、火炎に晒されたときに燃焼し焼失する、純木からなる焼失性被覆層により被覆することにより、
前記耐火被覆層の表面に割れが生じることを防ぎ、該耐火被覆層が赤熱することを抑制する赤熱抑制方法であり、
前記焼失性被覆層の厚みが25mm未満である、赤熱抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火構造材及び赤熱抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐火構造材として、日本集成材工業協同組合が1時間耐火構造柱の国土交通大臣認定を取得したハイブリッド集成材が知られている。ハイブリッド集成材は、鉄骨を無機材や薬剤含侵等を用いない純木の集成材で被覆した構成を有している。鉄骨としてはH型鋼が用いられている。集成材を構成する木材の樹種は、カラマツ又はベイマツである。ハイブリッド集成材においては、H型鋼の熱伝導性及び、熱容量の影響による熱吸収性を活かし、木材の燃え止まり効果を向上させることで、1時間耐火性能を実現している。
【0003】
また、木材や木材と他の材料との複合材の表面に燃えしろを設けて、耐火材の部材を得る技術が種々提案されており、例えば、特許文献1には、荷重支持層と、該荷重支持層の外側に配置され、該荷重支持層より熱慣性を低くした木材からなる燃えしろ層とを備える構造材が提案されている。また特許文献2には、荷重支持層と、該荷重支持層の外側に配置され、断熱材を有する燃え止まり層と、該燃え止まり層の外側に配置され、所定の厚さを有する木材からなる燃えしろ層とを備える構造材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-36457号公報
【特許文献2】特開2005-48585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、純木集成材においては、1時間耐火性能を安定的に実現することが困難である。具体的には、加熱終了後の放冷時に、純木集成材の表層に赤熱が残り、燃焼が続いてしまう場合がある。前記のハイブリッド集成材においては、該集成材を構成するカラマツ又はベイマツが、燃え止まりやすい樹種であることと、H型鋼を被覆する木材の温度上昇が、該H型鋼により抑制されていることとにより、1時間耐火性能を実現できていると考えられる。またH型鋼の形状も1時間耐火性能に寄与していると考えられる。具体的には、前記のハイブリッド集成材においては、該集成材の横断面の中央部にH型鋼のウェブ部が位置しており、該横断面の外周部に該H型鋼のフランジ部が位置しているので、フランジ部からウェブ部に熱が流れることで、外周部から、温度上昇がゆるやかな内部に熱が流れることになり、耐火性能がより向上していると考えられる。
【0006】
一方、ハイブリッド集成材の鉄骨として角形鋼管を用いた場合、角形鋼管は全面において温度上昇しやすい形状であるため、熱容量の効果をH型鋼ほど活かすことができず、1時間耐火性能を実現することはできていない。
特許文献1及び2においては、角形鋼管を用いた場合に1時間耐火性能を実現することについて何ら検討されておらず、耐火性能に改善の余地があった。
【0007】
本発明者らが、前述の純木集成材において赤熱が残る理由について鋭意検討したところ、該純木集成材においては、該純木集成材の表面が燃えて炭化層が形成されたあとに、該炭化層に亀裂が発生したり、該炭化層の一部が欠落したりして、該炭化層の表面に凹凸が形成される場合があり、このとき、該炭化層に生じた亀裂内等、該炭化層の内部に赤熱が残り、燃焼が続くことを知見した。
【0008】
本発明の目的は、耐火構造材の赤熱を抑制することができる、耐火構造材及び赤熱抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、木製又は鋼製の荷重支持部と、前記荷重支持部を被覆する、純木からなる耐火被覆層と、前記耐火被覆層を被覆し、火炎に晒されたときに燃焼し焼失する、純木からなる厚みが25mm未満である焼失性被覆層とを備える耐火構造材を提供するものである。
【0010】
また本発明は、木製又は鋼製の荷重支持部と、該荷重支持部を被覆し且つ純木からなる耐火被覆層とを有する構造材を、火炎に晒されたときに燃焼し焼失する、純木からなる焼失性被覆層により被覆することにより、前記耐火被覆層の表面に割れが生じることを防ぎ、該耐火被覆層が赤熱することを抑制する赤熱抑制方法であり、前記焼失性被覆層の厚みが25mm未満である、赤熱抑制方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐火構造材が赤熱することを抑制することができる、耐火構造材及び赤熱抑制方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の好ましい実施形態の耐火構造材を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1の耐火構造材について燃焼試験を行ったときの、温度変化の測定位置を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例2の耐火構造材について燃焼試験を行ったときの、温度変化の測定位置を示す図である。
【
図4】
図4は、比較例1の耐火構造材について燃焼試験を行ったときの、温度変化の測定位置を示す図である。
【
図5】
図5(a)~(c)は、実施例1の耐火構造材について燃焼試験を行い、該耐火構造材の温度を測定した結果を示すグラフである。
【
図6】
図6(a)~(d)は、実施例2の耐火構造材について燃焼試験を行い、該耐火構造材の温度を測定した結果を示すグラフである。
【
図7】
図7(a)~(c)は、比較例1の耐火構造材について燃焼試験を行い、該耐火構造材の温度を測定した結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例1の耐火構造材の燃焼試験後の状態を示す写真である。
【
図9】
図9は、実施例2の耐火構造材の燃焼試験後の状態を示す写真である。
【
図10】
図10は、比較例1の耐火構造材の燃焼試験後の状態を示す写真である。
【
図11】
図11は、実施例3及び比較例2について燃焼試験を行い、該耐火構造材の質量を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明の耐火構造材の好ましい一実施形態である耐火構造材1Aを
図1に示す。
図1には、耐火構造材1Aの軸方向に直交する断面が模式的に示されている。本実施形態の耐火構造材1Aは、建築物の梁や柱として使用される構造用の角材である。耐火構造材1Aは、
図1に示すように、木製又は鋼製の荷重支持部11aと、耐火被覆層12aと、焼失性被覆層13aとを備える。
【0014】
荷重支持部11aは、該荷重支持部11a単独で、固定荷重、積載荷重、積雪荷重の長期に生ずる荷重(長期荷重)に対して構造耐力上安全であるようにその断面設計がなされている。斯かる断面設計は公知である。荷重支持部11aの横断面形状は四角形状であり、耐火構造材1Aの横断面における、荷重支持部11aの縦方向の長さ及び横方向の長さは、梁や柱の形状、或いは大きさ等によって適宜に変更することができる。
【0015】
耐火被覆層12aは荷重支持部11aを被覆している。本実施形態において、耐火被覆層12aは荷重支持部11aの軸方向に沿う4側面を被覆している。耐火構造材1Aが梁である場合、耐火被覆層12aは荷重支持部11aの軸方向に沿う3側面を被覆していてもよい。耐火構造材1Aの耐火被覆層12aが形成されていない側面は、例えば床等を載せて荷重支持部11aの上側を被覆してもよい。
【0016】
焼失性被覆層13aは、耐火被覆層12aを被覆している。焼失性被覆層13aは、火炎に晒されたときに燃焼し焼失するようになっている。また焼失性被覆層13aは、その厚みが25mm未満である。焼失性被覆層13aの厚みが25mm未満であることにより、該焼失性被覆層13aは、確実に焼失するようになっている。焼失性被覆層13aがこのような構成を有することにより、本実施形態の耐火構造材1Aは、耐火被覆層12aが赤熱することを防ぐことができる。本実施形態の耐火構造材1Aにおいて、耐火被覆層12aが赤熱することを防ぐことができる理由は完全には明らかではないが、本発明者らは以下のように推測している。
【0017】
耐火構造材1Aの燃焼は、以下のような順で進むと考えられる。
耐火構造材1Aが火炎にさらされると、まず、焼失性被覆層13aでは主に熱分解反応が起こり、焼失性被覆層13aの炭化が起こる(第1段階)。第1段階において、耐火被覆層12aでは、その温度が上昇する。そして、焼失性被覆層13aの熱分解反応が終了し、該焼失性被覆層13aの酸化反応が主として起こり、該焼失性被覆層13aが灰となり焼失し始める(第2段階)。第2段階において、耐火被覆層12aでは、主に熱分解反応が起こり、耐火被覆層12aの炭化が起こる。そして、焼失性被覆層13aが完全に焼失する(第3段階)。第4段階において、耐火被覆層12aでは、熱分解反応とともに酸化反応が起こる。そして、耐火被覆層12aの熱分解反応が終了し、該耐火被覆層12aの酸化反応が主として起こるようになる(第4段階)。その後、耐火被覆層12aの酸化反応が終了し、耐火構造材1Aが燃え止まる(第5段階)。
このように、本実施形態の耐火構造材1Aにおいては、燃焼開始後しばらくしてから、耐火被覆層12aの熱分解反応が起きる。したがって、燃焼開始後しばらくの間、耐火被覆層12aの表面を平滑な状態に保つことができる。また、耐火構造材1Aが燃焼している時間のうち、耐火被覆層12aの熱分解反応や酸化反応が起こっている時間を短くすることもできる。これらのことに起因して、本実施形態の耐火構造材1Aは、耐火被覆層12aに亀裂等が生じにくく、赤熱し続けることを防ぐことができる。
【0018】
また、熱分解反応や酸化反応により、焼失性被覆層13aに亀裂等が生じ、該亀裂内に赤熱が発生した場合であっても、該焼失性被覆層13aは焼失するので、該焼失性被覆層13aが赤熱し続けることはない。したがって、焼失性被覆層13aの赤熱が耐火被覆層12aに伝わることも防ぐことができる。このことも、耐火被覆層12aの赤熱の抑制に寄与している。
【0019】
焼失性被覆層13aは、耐火構造材1Aが燃焼したときに該焼失性被覆層13aが一層焼失しやすくする観点から、その厚みが、好ましくは25mm未満、より好ましくは20mm未満である。ここで、25mm以上の場合については、焼失するまでの燃焼時間が長くなることから、部材自体の燃焼が長く続くため、好ましくない。また焼失性被覆層13aの厚みは、耐火被覆層12aの熱分解反応や酸化反応の開始の時間を遅らせる観点から、好ましくは10mm以上、より好ましくは15mm以上である。
【0020】
本実施形態の耐火構造材1Aは、該耐火構造材1A及び、該耐火構造材1Aの焼失性被覆層13aを耐火被覆層12aに置換した比較用構造材を対象として、ISO834-1に準拠した標準加熱による60分間の燃焼試験を行ったときに、以下の基準(1)及び基準(2)を満たすことが好ましい。
基準(1):加熱終了直後において、耐火構造材1Aの方が、比較用構造材よりも質量減少速度が大きい。
基準(2):加熱終了後180分以内に、耐火構造材1Aの方が、比較用構造材よりも質量減少速度が小さくなる。
耐火構造材1Aが基準(1)を満たすことは、火炎に晒らされたときに焼失性被覆層13aが一層焼失しやすいことを意味すると考えられる。また耐火構造材1Aが基準(2)を満たすことは、焼失性被覆層13aが焼失した後に、耐火被覆層12aの熱分解反応や酸化反応が、より早い段階で落ち着くことを意味すると考えられる。したがって、基準(1)及び(2)を満たす耐火構造材1Aは耐火被覆層12aの赤熱を一層抑制することができる。
【0021】
比較用構造材について詳述すると、該比較用構造材は、耐火構造材1Aにおける焼失性被覆層13aを耐火被覆層12aに置き換えた以外は、該耐火構造材1Aと同様の構成を有している。比較用構造材の横断面の寸法と、耐火構造材1Aの横断面の寸法とは同一である。比較用構造材は、耐火構造材1Aにおいて、焼失性被覆層13a及び耐火被覆層12aに代えて、焼失性被覆層13a及び耐火被覆層12aの合計厚みと同じ厚みを有する耐火被覆層12aを用いることにより製造することもできる。
【0022】
質量減少速度は、例えば以下のようにして測定することができる。
<質量減少速度の測定方法>
まず、耐火構造材1A及び比較用構造材を対象として、ISO834-1に準拠した標準加熱による60分間の燃焼試験を行う。その際、耐火構造材の質量変化を計測する。
そして、加熱開始時から、T分後の時間における構造材の質量をWとし、時間Tから1分後の時間TΔにおける構造材の質量をWΔとする。そして、下記式により質量減少速度を算出する。
質量減少速度(kg/min)=(W-WΔ)/(TΔ-T)
加熱終了直後の質量減少速度を算出する場合、Tを60(分)とすればよい。
【0023】
耐火被覆層12aの厚みは、耐火構造材1Aが燃焼したときに、該耐火被覆層12aを残存しやすくし、該耐火構造材1Aの耐火性能を向上させる観点から、好ましくは60mm以上、より好ましくは75mm以上である。また耐火被覆層12aの厚みは、荷重支持部11aが鋼製の場合に、熱伝導性及び、熱容量の影響による熱吸収性を活かし、木材の燃え止まり効果向上をさせる観点から、好ましくは90mm以下、より好ましくは75mm以下である。
【0024】
次に、耐火構造材1Aの構成材料について説明する。
荷重支持部11aは上述のように、木製又は鋼製である。荷重支持部11aが木製である場合、荷重支持部11aとしては、集成材、製材、直交集成板(CLT)、単板積層材(LVL)及び平行ストランド材(PSL)等を用いることができる。荷重支持部11aが木製である場合、荷重支持部11aは、一方向と直交する方向に複数本のラミナを積層接着した積層体を、該一方向に並べて配して横断面形状を四角形状としたものであってもよい。
荷重支持部11aが鋼製である場合、荷重支持部11aとしては、角形鋼管、H型鋼、角鋼、平鋼及び溝形鋼等を用いることができる。また、これら以外の形状のものであっても、耐火被覆層12aを周囲に構成できるものは、荷重支持部11aとして用いることができる。
【0025】
耐火被覆層12a及び焼失性被覆層13aは、純朴からなる木質材料により構成されている。本明細書において、純木とは、難燃薬剤や不燃材料、無機系材料等を含有していない木材を意味する。
【0026】
耐火被覆層12aを形成する純木としては、集成材、製材、直交集成板(CLT)、単板積層材(LVL)、平行ストランド材(PSL)及び合板等が挙げられる。CLTや集成材は、断面が長方形状のラミナを、該長方形の頂点どうしを重ねるようにして、短手方向に複数積層したものなどであってもよい。耐火被覆層12aを構成する純木の樹種としては、カラマツ、ベイマツ、アカマツ、エゾマツ、シラカバ、ヒノキ、ヒバ、ケヤキ、オウシュウアカマツ、ラジアータパイン等が挙げられ、これらの中でも、カラマツが好ましい。
【0027】
焼失性被覆層13aを構成する純木としては、集成材、製材、直交集成板(CLT)、単板積層材(LVL)、平行ストランド材(PSL)及び合板等が挙げられる。CLTや集成材は、断面が長方形状のラミナを、該長方形の頂点どうしを重ねるようにして、短手方向に複数積層したものなどであってもよい。焼失性被覆層13aを構成する純木の樹種としては、スギ、モミ、SPF及びバルサ等が挙げられ、これらの中でも、スギが好ましい。
【0028】
荷重支持部11aと耐火被覆層12aとの接合、耐火被覆層12aと焼失性被覆層13aの接合、並びに、荷重支持部11a、耐火被覆層12a及び焼失性被覆層13aそれぞれを構成するラミナどうしの接合は、耐火構造材の製造に従来用いられている各種公知の接着剤を用いることができ、例えば、レゾルシノール樹脂系接着剤、レゾルシノール・フェノール系樹脂接着剤、水性高分子イソシアネート樹脂系接着剤、ポリウレタン系接着剤及び酢酸ビニル系接着剤等が挙げられ、これらの中でも、赤熱を一層抑制できるようにする観点から、レゾルシノール・フェノール系樹脂接着剤が好ましい。
【0029】
次に、本発明の赤熱抑制方法について説明する。本発明の赤熱抑制方法の好ましい実施形態は、荷重支持部11aと、該荷重支持部11aを被覆する耐火被覆層12aとを有する構造材を、焼失性被覆層13aにより被覆する方法である。本実施形態の赤熱抑制方法によれば、好ましくは上述した耐火構造材1Aが得られる。本実施形態の赤熱抑制方法によれば、耐火被覆層12aの表面に割れが生じることを防ぎ、該耐火被覆層12aが赤熱することを抑制することができる。
【0030】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
【実施例0031】
(実施例1)
図1に示す耐火構造材1Aと同様の構成を有する耐火構造材を製造した。具体的には、木製の荷重支持部を有する耐火構造材を製造した。耐火構造材は、横断面の寸法が360mm×360mmであり、軸方向の長さが3500mmである。荷重支持部の横断面の寸法は180mm×180mmであり、耐火被覆層の厚みは75mmであり、燃焼性被覆層の厚みは15mmである。
荷重支持部及び耐火被覆層としては、カラマツ(密度:0.50g/cm
3、含水率:12.3%)の集成材を用いた。燃焼性被覆層としては、スギ(密度:0.40g/cm
3、含水率:11.22%)の集成材を用いた。耐火構造材の製造に用いる接着剤としては、レゾルシノール・フェノール系樹脂接着剤を用いた。
【0032】
(実施例2)
図1に示す耐火構造材1Aと同様の構成を有する耐火構造材を製造した。具体的には、荷重支持部として角形鋼管を有する耐火構造材を製造した。耐火構造材は、横断面の寸法が385mm×385mmであり、軸方向の長さが3300mmである。荷重支持部である角形鋼管は、横断面の寸法が200mm×200mmであり、厚みが9mmである。耐火被覆層の厚みは75mmであり、燃焼性被覆層の厚みは15mmである。実施例2においては、荷重支持部と耐火被覆層との間に厚み2.5mmのスペーサーを配置した。スペーサーは、荷重支持部の軸方向に沿う4側面それぞれに配置した。
角形鋼管としては、JIS G 3466に規定されるSTKR400を用いた。スペーサーとしては、スギからなる合板を用いた。耐火被覆層としては、カラマツ(密度:0.49g/cm
3、含水率:12.2%)の集成材を用いた。燃焼性被覆層としては、スギ(密度:0.36g/cm
3、含水率:10.0%)の集成材を用いた。
【0033】
(比較例1)
以下の点以外は、実施例1と同様にして耐火構造材を製造した。耐火被覆層の厚みを90mmとし、焼失性被覆層を設けなかった。カラマツは、密度が0.53g/cm3±10%、含水率が8~10%であった。また、接着剤として、フェール・レゾルシノール共縮合樹脂(PRF)系樹脂接着剤を用いた。
【0034】
(評価)
(燃焼試験)
実施例1、2及び比較例1の耐火構造材を、直立状態として試験炉内に配置し、4側面のそれぞれに対して、通常の火災を想定したISO834-1標準加熱により1時間加熱を行い、加熱終了後、実施例1及び比較例1は8時間、実施例2は11時間の炉内放冷を行った。その際、
図2~
図4に黒点で示す各位置における温度変化を計測し、各位置における温度の経時的変化を記録した。以下、
図2~
図4に黒点で示す各位置をそれぞれ、
図2~
図4に示す番号を用いて、位置1、位置2のように記載する。各位置における温度変化を計測した結果をそれぞれ、
図5~
図7に示す。また、実施例1、2及び比較例1の加熱面の状態を目視により確認した。実施例1、2及び比較例1の耐火構造材の燃焼試験後の状態をそれぞれ、
図8~
図10に示す。
【0035】
実施例1は、
図5(a)~(c)に示すように、温度変化を測定した全ての位置において、温度が下がった後は、試験終了まで再び温度が上昇することはなかった。
また、実施例1の耐火構造材は、加熱終了直後からしばらくの間、表面のスギ板の燃焼が続いたが、有炎燃焼が炉内温度に大きく影響を与えることはなかった。また、火炎がおさまるにつれて、炉内温度も下降する様子が観察された。また、加熱中に燃え切らないスギ板は、カラマツの表層にくっついた状態で赤熱燃焼が続いたものの、体積の減少と炭化に伴い、焼失し灰になる様子や、小さな炭及び灰の状態でぽろぽろと落ちていく様子が確認された。また、スギとカラマツとはレゾルシノール系樹脂接着剤で二次接着したため、スギが簡単に落ちることはなかった。赤熱したスギが炉床に落下することもあったが、落下したスギが長時間燃焼することはなかった。スギが燃え尽きたあとに、徐々にカラマツの炭化層が露出していった。実施例1においては、カラマツの炭化層の表層は、比較例1に比して深く炭化しきった堅固な炭の状態でなく、比較的浅く炭化している状態で、表層の赤熱部分が細かくほろほろと落ちていく様子が観察された。
【0036】
実施例2は、
図6(a)~(d)に示すように、温度変化を測定した全ての位置において、温度が下がった後は、試験終了まで再び温度が上昇することはなかった。
また、実施例2の耐火構造材は、燃焼試験開始後12時間経過した時点で、炉内温度及び構造材の内部温度ともに、十分に下降傾向に転じていた。また、実施例2の耐火構造材の表層には、大きな亀裂等が生じていなかった。また表層には、構造材の脱炉時点で、わずかに赤熱が残っていたが、再燃するほどのものでもなく、数時間後に焼失する程度のものであった。
【0037】
比較例1は、
図7(a)に示すように、位置5において、加熱終了後から試験終了まで温度が下がらず、燃焼が続いていることが分かる。また、位置3及び位置7においては、温度がピークに達し、その後下がった後に、再び温度が上昇している。このことから、位置3及び位置7においては、一度鎮火した後、別の部位に残っていた赤熱が位置3及び位置7に伝わり、再び燃焼が始まったと考えられる。また、
図7(b)に示すように、位置12、位置13及び位置14においても、温度が下がった後に上昇していることから、別の部位に残っていた赤熱が伝わり、再び燃焼が始まったと考えられる。
【0038】
また、比較例1の耐火構造材は、加熱開始後、表面に大きく割れが生じていた。また、加熱中から放冷開示初期に炭化層の脱落も多くみられた。また、加熱終了後も部材全般にわたり発生している割れ(凹凸部)の内部において赤熱燃焼が強く継続しており、耐火被覆層の大きな損傷が見られた。比較例1においては、カラマツの炭化層は比較的堅固に残り、亀裂が深く入っていた。
実施例1、2及び比較例1の結果から、本発明によれば、耐火構造材の赤熱を抑制することができることが分かる。
【0039】
また、実施例2は、
図6(b)に示すように、耐火構造材の角部に位置する位置10の温度がピークに達した後、下降に転じるのに追従して、該耐火構造材の角部と角部との間の部分(以下、「中央部」と言う。)に位置する位置6の温度もピークに達した後、下降に転じている。これに対し、実施例1は、
図5(b)に示すように、耐火構造材の中央部に位置する位置6の温度変化は、耐火構造材の角部に位置する位置9の温度変化に追従していない。この違いは、実施例1及び実施例2の荷重支持部の違いによるものだと考えられる。具体的には、実施例2は、耐火構造材が荷重支持部として角形鋼管を有しているので、該構造材の角部近傍、より具体的には、角形鋼管の角部における、耐火被覆層と対向する面(以下、角形鋼管の角部の外面という。)と、該耐火被覆層における角形鋼管と対向する面(以下、耐火被覆層の内面という。)とが略平行となる位置の熱が、熱伝導率が高い該角形鋼管を介して該構造材の中央部に伝わっていると考えられる。角形鋼管の角部の外面と耐火被覆層の内面とが略平行になるとは、角形鋼管の角部の外面における、耐火被覆層の内面と平行な方向の曲率が略0となることを意味する。実施例2によれば、耐火構造材の角部近傍に熱が集中することを抑制することができ、赤熱を一層抑制することができると考えられる。
【0040】
(実施例3)
図1に示す耐火構造材1Aと同様の構成を有する耐火構造材を製造した。具体的には、木製の荷重支持部を有する耐火構造材を製造した。耐火構造材は、横断面の寸法が330mm×330mmであり、軸方向の長さが1600mmである。荷重支持部の横断面の寸法は180mm×180mmであり、耐火被覆層の厚みは60mmであり、燃焼性被覆層の厚みは15mmである。
荷重支持部及び耐火被覆層としては、カラマツ(密度:0.49g/cm
3、含水率:9.5%)の集成材を用いた。燃焼性被覆層としては、スギ(密度:0.33g/cm
3、含水率:10.9%)の集成材を用いた。
【0041】
(比較例2)
以下の点以外は、実施例3と同様にして耐火構造材を製造した。耐火被覆層の厚みを75mmとし、焼失性被覆層を設けなかった。カラマツは、密度が0.50g/cm3、含水率が9.7%であった。
【0042】
(質量減少速度の評価)
実施例3及び比較例2の耐火構造材を、該耐火構造材の軸方向が鉛直方向と一致するように試験炉内の天井から吊るし、4側面のそれぞれに対して、通常の火災を想定したISO834-1標準加熱により1時間加熱を行い、加熱終了後、6時間の炉内放冷を行った。その際、各耐火構造材の質量変化を計測し、各構造材の質量の経時的変化を記録した。その結果を、
図11に示す。なお、加熱開始から30分までは、炉内温度を上昇させるために加熱バーナーの出力を強くしているので、炉内圧力がぶれやすく、質量の正確な測定が困難である。そのため、
図11においては、炉内圧力が安定した30分以降の測定結果を示している。
【0043】
図11に示すように、加熱終了直後、即ち加熱開始から60分後において、実施例3は、比較例2よりも質量減少速度が大きい。また加熱終了後180分以内、具体的には加熱終了時から30分の時点で、実施例3は、比較例2よりも質量減少速度が小さくなっている。加熱終了直後においては、実施例3の方が、比較例2よりも質量減少速度の変化率が大きいが、その後、実施例3の方が、比較例2よりも質量減少速度の変化率が小さくなっている。また燃焼試験後の、実施例3の耐火構造材と比較例2の耐火構造材とを比較すると、実施例3の耐火構造材は、大きな割れや亀裂等がなく、赤熱が残っていなかったのに対し、比較例3の耐火構造材は、大きな割れや亀裂等があり、赤熱が残っていた。したがって、実施例3の耐火構造材は、赤熱を抑制することができることが判る。