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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112953
(43)【公開日】2022-08-03
(54)【発明の名称】物体検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 15/931 20200101AFI20220727BHJP
   G01S 7/526 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
G01S15/931
G01S7/526 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009007
(22)【出願日】2021-01-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西野 咲子
(72)【発明者】
【氏名】小山 優
(72)【発明者】
【氏名】野村 卓也
【テーマコード(参考)】
5J083
【Fターム(参考)】
5J083AA02
5J083AB12
5J083AB13
5J083AC17
5J083AC29
5J083AD04
5J083AD13
5J083AE06
5J083AF06
5J083BA01
5J083BE08
5J083CA01
5J083CA03
5J083CB01
(57)【要約】
【課題】物体判定精度を向上させることができる物体検知装置を提供する。
【解決手段】超音波の送受信によって物体を検知する物体検知装置であって、超音波を送信する送信部20Aと、超音波を受信して、該受信した超音波に応じた受信信号を出力する複数の受信部20Bと、複数の受信部20Bから出力された複数の受信信号を比較して、該複数の受信信号の類似度を算出する比較部25と、類似度に基づいて、検知対象の物体があるか否かを判定する判定部26と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波の送受信によって物体を検知する物体検知装置であって、
超音波を送信する送信部(20A)と、
超音波を受信して、該受信した超音波に応じた受信信号を出力する複数の受信部(20B)と、
前記複数の受信部から出力された複数の受信信号を比較して、該複数の受信信号の類似度を算出する比較部(25)と、
前記類似度に基づいて、検知対象の物体があるか否かを判定する判定部(26)と、を備える物体検知装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記類似度の最大値に基づいて判定を行う請求項1に記載の物体検知装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記類似度の変化量を加味して判定を行う請求項1または2に記載の物体検知装置。
【請求項4】
前記比較部は、前記複数の受信信号の相関に基づいて前記類似度を算出する請求項1ないし3のいずれか1つに記載の物体検知装置。
【請求項5】
前記比較部は、前記複数の受信部の位置と、前記複数の受信部の検知範囲とに応じて、前記複数の受信信号を比較する時間範囲を設定する請求項1ないし4のいずれか1つに記載の物体検知装置。
【請求項6】
前記比較部は、前記複数の受信信号のピークに基づいて、前記複数の受信信号を比較する時間範囲を設定する請求項1ないし5のいずれか1つに記載の物体検知装置。
【請求項7】
前記判定部は、前記複数の受信信号における強度の最大値を加味して判定を行う請求項1ないし6のいずれか1つに記載の物体検知装置。
【請求項8】
前記判定部は、前記複数の受信信号における立ち上がり時間の一致度を加味して判定を行う請求項1ないし7のいずれか1つに記載の物体検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波の送受信により物体を検知する物体検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の物体検知装置を用いて自動駐車等を行う技術が提案されている。このような技術において、障害物の検知精度を向上させるためには、検知された物体の地面からの高さを判別する必要がある。
【0003】
例えば特許文献1では、ソナーの反射信号におけるピークの数に基づいて障害物の種類を判定する技術が提案されている。具体的には、背の高い壁等の障害物からは2つの反射波が返り、背の低い縁石等の障害物からは1つの反射波が返ることから、ピークの数が2つであれば障害物が壁であると判定し、ピークの数が1つであれば縁石であると判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5846316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、粗いアスファルトやグレーチング等の凹凸の大きい路面では、背の高い物体と同様に反射信号から複数のピークが検出されることがある。したがって、ピークの数に基づいて障害物の種類を判定する方法では、検出の対象外である路面からの反射波を背の高い物体からの反射波と誤判定するおそれがある。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、物体判定精度を向上させることができる物体検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、超音波の送受信によって物体を検知する物体検知装置であって、超音波を送信する送信部(20A)と、超音波を受信して、該受信した超音波に応じた受信信号を出力する複数の受信部(20B)と、複数の受信部から出力された複数の受信信号を比較して、該複数の受信信号の類似度を算出する比較部(25)と、類似度に基づいて、検知対象の物体があるか否かを判定する判定部(26)と、を備える。
【0008】
本発明者らは、様々な物体からの反射波を解析し、以下のことを見出した。すなわち、ある程度背の高い物体からの反射波の波形は、受信部の位置の違いによって強度差や時間差はあるものの、複数の受信部で類似した形状となる。一方、凹凸のある複雑な形状の路面からの反射波の波形は、受信部ごとに大きく異なった形状となる。これは、複雑な形状により多数の反射経路が生じるためと考えられる。したがって、複数の受信信号の類似度に基づいて検知対象の物体があるか否かを判定することで、物体判定精度を向上させることができる。
【0009】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態にかかる物体検知装置のブロック図である。
図2】トランスデューサの配置を示す図である。
図3】直接波の振幅波形の一例を示す図である。
図4】間接波の振幅波形の一例を示す図である。
図5】類似度の算出方法について説明するための図である。
図6】物体検知処理のフローチャートである。
図7】背の高い壁からの反射波を示す図である。
図8】背の高い壁からの反射波の振幅波形を示す図である。
図9】背の低い段差からの反射波を示す図である。
図10】背の低い段差からの反射波の振幅波形を示す図である。
図11】凹凸の小さい路面からの反射波を示す図である。
図12】凹凸の小さい路面からの反射波の振幅波形を示す図である。
図13】グレーチングからの反射波を示す図である。
図14】グレーチングからの反射波の振幅波形を示す図である。
図15】第2実施形態における類似度算出の時間範囲について説明するための図である。
図16】第3実施形態における物体検知処理のフローチャートである。
図17】類似度補正処理のフローチャートである。
図18】凹凸のある路面からの反射波における時間差と類似度との関係を示す図である。
図19】物体からの反射波における時間差と類似度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0012】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。図1に示す本実施形態の物体検知装置1は、超音波の送受信によって物体を検知するものである。物体検知装置1は、不図示の車両に搭載されていて、当該車両の周囲の物体Bを検知するように構成されている。物体検知装置1を搭載する車両を、以下「自車両」と称する。不図示の車両は、例えば、自動車である。物体検知装置1は、超音波センサ2と、超音波センサ2の動作を制御する制御部3とを備えている。
【0013】
超音波センサ2は、超音波である探査波を送信するとともに探査波の物体Bによる反射波を受信することで、物体Bを検知するように構成されている。具体的には、超音波センサ2は、送信部20Aと受信部20Bとを有している。送信部20Aは、探査波を外部に向けて送信可能に設けられている。受信部20Bは、送信部20Aから送信された探査波の物体Bによる反射波を含む超音波を受信可能に設けられている。
【0014】
超音波センサ2は、送受信器としてのトランスデューサ21と、送信回路22と、受信回路23と、駆動信号生成部24と、比較部25と、判定部26とを備えている。送信部20Aは、トランスデューサ21と送信回路22とによって構成されている。受信部20Bは、トランスデューサ21と受信回路23とによって構成されている。
【0015】
超音波センサ2は、トランスデューサ21と受信回路23とをそれぞれ複数備えており、複数の受信部20Bが構成されている。複数のトランスデューサ21のうちの1つは、探査波を外部に向けて送信する送信器としての機能と、反射波を受信する受信器としての機能とを有していて、送信回路22および受信回路23と電気接続されている。すなわち、送信部20Aと、複数の受信部20Bのうちの1つは、このトランスデューサ21を共用して、送信機能および受信機能を実現するように構成されている。このトランスデューサ21をトランスデューサ21Aとし、他のトランスデューサ21をトランスデューサ21Bとする。トランスデューサ21Bは、反射波を受信する受信器としての機能とを有していて、受信回路23と電気接続されている。
【0016】
トランスデューサ21は、圧電素子等の電気-機械エネルギー変換素子を内蔵した、超音波マイクロフォンとして構成されている。トランスデューサ21Aは、探査波を自車両の外部に送信可能および反射波を自車両の外部から受信可能なように、自車両の外表面に面する位置に配置されている。トランスデューサ21Bは、反射波を自車両の外部から受信可能なように、自車両の外表面に面する位置に配置されている。
【0017】
例えば、図2に示すように、トランスデューサ21Aとトランスデューサ21Bは、車両100の前側の外表面に面して、車両左右方向に沿って並べられている。超音波センサ2では、図2に示すように直接波と間接波が受信される。直接波は、同じトランスデューサ21で送受信された探査波である。すなわち、直接波は、トランスデューサ21Aから送信され、車外の物体で反射してトランスデューサ21Aで受信された探査波である。間接波は、送信と受信とが別々のトランスデューサ21で行われた探査波である。すなわち、間接波は、トランスデューサ21Aから送信され、車外の物体で反射してトランスデューサ21Bで受信された探査波である。
【0018】
送信回路22は、入力された駆動信号に基づいてトランスデューサ21Aを駆動することで、トランスデューサ21Aにて探査波を発信させるように設けられている。具体的には、送信回路22は、デジタル/アナログ変換回路等を有している。すなわち、送信回路22は、駆動信号生成部24から出力された駆動信号に対してデジタル/アナログ変換等の信号処理を施すことで、素子入力信号を生成するように構成されている。素子入力信号は、トランスデューサ21Aを駆動するための交流電圧信号である。そして、送信回路22は、生成した素子入力信号をトランスデューサ21Aに印加してトランスデューサ21Aにおける電気-機械エネルギー変換素子を励振することで、探査波を発生させるように構成されている。
【0019】
受信回路23は、トランスデューサ21による超音波の受信結果に対応する受信信号を生成して比較部25に出力するように設けられている。具体的には、受信回路23は、増幅回路およびアナログ/デジタル変換回路等を有している。すなわち、受信回路23は、トランスデューサ21が出力した素子出力信号に対して、増幅およびアナログ/デジタル変換等の信号処理を施すことで、受信波の振幅および周波数に関する情報を含む受信信号を生成するように構成されている。素子出力信号は、超音波の受信により、トランスデューサ21に設けられた電気-機械エネルギー変換素子が発生する交流電圧信号である。
【0020】
駆動信号生成部24は、駆動信号を生成して送信回路22に出力するように設けられている。駆動信号は、トランスデューサ21Aを駆動してトランスデューサ21Aから探査波を発信させるための信号である。
【0021】
比較部25は、複数の受信回路3から出力された複数の受信信号を比較して、該複数の受信信号の類似度を算出するものである。ここで、類似度とは、複数の受信信号の振幅波形の形状がどの程度一致しているかの度合いである。本実施形態では、直接波と間接波の振幅波形を比較して類似度を算出する場合について説明する。
【0022】
比較部25には、複数の受信回路23から受信信号がそれぞれ入力されるようになっている。比較部25は、トランスデューサ21Aを備える受信部20Bの受信回路23から出力された受信信号と、トランスデューサ21Bを備える受信部20Bの受信回路23から出力された受信信号とを比較し、類似度を算出する。比較部25は、類似度の算出結果を判定部26に出力する。
【0023】
比較部25は、各受信部20Bの受信信号における複数の計測点を比較して、受信信号間の類似度を算出する。図3図4は、それぞれ、直接波、間接波の振幅波形の一例である。比較部25は、このような直接波と間接波の振幅波形の類似度を算出する。
【0024】
比較部25は、相互相関によって類似度を算出する。すなわち、比較部25は、直接波の1つの計測点における振幅と、この計測点の時刻に対応した間接波の計測点の振幅とを乗算する。比較部25は、このような乗算を直接波の各計測点について行い、乗算結果の和を類似度とする。
【0025】
なお、直接波と間接波は伝播経路が異なるため、反射波が受信される時刻が異なる。比較部25は、このことを加味して類似度を算出する。
【0026】
図5は、図3図4に示す2つの振幅波形を重ねたものである。図5において、実線は直接波の受信信号を示し、一点鎖線は間接波の受信信号を示す。図5の上図は、図3図4の2つの波形をそのまま重ねたものである。図5の中図は、図4の波形を時間軸に沿ってシフトさせて図3の波形に重ねたものである。図5の下図は、図4の波形を時間軸に沿ってさらにシフトさせて図3の波形に重ねたものである。
【0027】
図5に示すように、2つの振幅波形は、図4の振幅波形をシフトさせる量、つまり、元の波形とシフト後の波形との時間差によって、形状の重なりの度合いが変化する。すなわち、図5の上図と下図では、2つの波形の計測点の差が大きくなっているため、類似度が小さくなる。一方、図5の中図では、2つの波形の計測点の差が小さくなっているため、類似度が大きくなる。比較部25は、このように間接波の振幅波形をシフトさせながら類似度を算出し、算出結果のうちの最大値を判定部26に出力する。
【0028】
上記の時間差を変化させる範囲は、以下のように設定される。超音波は距離によって減衰するため、各受信部20Bが検知できる距離には限界がある。比較部25は、この距離の限界、すなわち、各受信部20Bの検知範囲に基づいて、類似度を算出する時間範囲を設定する。
【0029】
比較部25は、音速と各受信部20Bの位置関係とに基づいて、各受信部20Bの検知範囲を直接波と間接波の時間差に換算する。そして、比較部25は、換算によって得られた時間差を基準として、時間差を変化させる範囲を設定する。例えば、比較部25は、基準よりも所定量短い時間差から、基準よりも所定量長い時間差までの範囲で、間接波の振幅波形をシフトさせる。
【0030】
判定部26は、比較部25が算出した類似度に基づいて、検知対象の物体があるか否かを判定するものである。ここでは、検知対象の物体は、路面から突出した高さのある物体とされる。例えば、路面からの高さが所定値以上である物体が検知対象とされる。
【0031】
また、判定部26は、検知対象の物体については、さらに、その物体が障害物であるか否かを判定する。障害物であるか否かは、物体と車体との接触の可能性等に基づいて設定される。例えば、地面からの高さが所定値よりも大きければ障害物と判定され、地面からの高さが所定値以下であれば障害物ではないと判定される。
【0032】
また、判定部26は、自車両と物体との距離の算出等を行う。判定部26は、物体についての判定結果と距離の算出結果等を制御部3に送信する。
【0033】
駆動信号生成部24、比較部25、判定部26は、例えば、前述した駆動信号の生成、類似度の算出、物体検知判定、物体の高さ判定、物体距離算出等の機能がプログラムされたDSPで構成されている。DSPはDigital Signal Processorの略である。
【0034】
制御部3は、車載通信回線を介して超音波センサ2と情報通信可能に接続されており、超音波センサ2の送受信動作を制御するように構成されている。
【0035】
制御部3は、いわゆるソナーECUとして設けられていて、図示しないCPU、ROM、RAM、不揮発性リライタブルメモリ、等を有する車載マイクロコンピュータを備えている。ECUはElectronic Control Unitの略である。不揮発性リライタブルメモリは、例えば、EEPROM、フラッシュROM、等である。EEPROMはElectronically Erasable and Programmable Read Only Memoryの略である。
【0036】
物体検知装置1の動作について説明する。物体検知装置1は、図6に示す物体検知処理を繰り返し実行する。
【0037】
まず、ステップS101にて、制御部3から駆動信号生成部24に送信指示が出され、駆動信号生成部24が生成した駆動信号に応じて送信部20Aから探査波が送信される。
【0038】
続くステップS102にて、比較部25は、複数の受信部20Bで反射波が受信されたか否かを判定する。具体的には、比較部25は、トランスデューサ21Aを備える受信部20Bと、トランスデューサ21Bを備える他の受信部20Bのいずれか1つで反射波が受信されたか否かを判定する。例えば、受信回路23から出力された受信信号の振幅が所定値よりも大きいときに、この受信回路23を備える受信部20Bで反射波が受信されたと判定される。
【0039】
ステップS102にて複数の受信部20Bで反射波が受信されたと判定されると、処理はステップS103に移行する。一方、ステップS102にて複数の受信部20Bで反射波が受信されていないと判定されると、すなわち、反射波を受信した受信部20Bの数が0または1であるとき、処理は終了する。
【0040】
ステップS103にて、比較部25は、受信信号の振幅波形を時間軸に沿ってシフトさせる範囲を設定する。続くステップS104にて、比較部25は、複数の受信部20Bから出力された受信信号を比較し、類似度の最大値を算出する。比較部25は、ステップS103で設定された範囲において、一方の受信信号の振幅波形を時間軸に沿ってシフトさせながら類似度を算出する。比較部25は、算出された類似度の最大値を判定部26に送信する。
【0041】
続くステップS105にて、判定部26は、比較部25が算出した類似度を所定の閾値と比較し、類似度が閾値以下であるか否かを判定する。前述したように、ステップS104で比較部25は類似度の最大値を算出しており、ステップS105では、判定部26は、この最大値を閾値と比較する。類似度が閾値以下であると判定されると、処理はステップS106に移行する。一方、類似度が閾値より大きいと判定されると、処理はステップS107に移行する。
【0042】
ステップS106にて、判定部26は、反射波を返したのが路面の凹凸等であると判定する。ステップS107にて、判定部26は、反射波を返したのが高さのある物体であると判定する。なお、この高さのある物体には、車体と接触する可能性のある背の高い物体のみでなく、路面の段差等の背の低い物体も含まれる。ステップS106、ステップS107の後、処理は終了する。
【0043】
図6の処理が終了すると、超音波センサ2による物体の検知結果が制御部3に送信される。この検知結果には、ステップS106、S107の判定結果が含まれる。また、ステップS107によって物体が検知されると、判定部26は、検知された物体が車体と接触する可能性のある背の高い物体であるか否かを判定し、この判定結果を制御部3に送信する。また、制御部3に送信される検知結果には、例えばTOF方式で測定された自車両と物体との距離が含まれる。TOFはTime of Flightの略である。制御部3は、超音波センサ2から送信された検知結果に基づいて、衝突回避動作の制御等を行う。
【0044】
図7に示すように、壁のような背の高い物体に向かって探査波を送信した場合を想定する。この場合、二点鎖線矢印で示すように、物体のうち超音波センサ2の正面に位置する部分と、根元とから反射波が返ってくる。これにより、図8に示すように、受信信号の振幅波形は、ピークの数が2つとなる。なお、図8、および、後述する図10図12図14において、実線は直接波の受信信号の振幅波形を示し、一点鎖線は間接波の受信信号の振幅波形を示す。
【0045】
図9に示すように、路面の段差のような背の低い物体に向かって探査波を送信した場合を想定する。この場合、物体の根元から反射波が返ってくる。これにより、図10に示すように、受信信号の振幅波形は、ピークの数が1つとなる。
【0046】
図11に示すように、路面に向かって探査波を送信した場合を想定する。この場合、路面の凹凸が小さければ、強度の高い反射波を返す反射点がない。これにより、図12に示すように、受信信号の振幅波形は、明確なピークがなく、全体的に強度の低いものとなる。
【0047】
これらのことから、受信信号のピークの数によって物体の高さを判別できるようにも思われる。すなわち、受信信号のピークの数が2つであれば背の高い物体と判定し、ピークの数が1つであれば背の低い物体であると判定し、ピークがなければ路面からの反射であると判定する。
【0048】
しかしながら、実際には、図13に示す場合も起こり得る。図13では、グレーチングのような大きな凹凸のある路面に向かって探査波が送信されている。この場合、路面の凹凸によって、強度の高い複数の反射波が返ってくる。これにより、図14に示すように、受信信号の振幅波形は、ピークの数が複数となる。したがって、前述したピークの数によって物体の高さを判別する方法では、大きな凹凸のある路面からの反射波を、背の高い物体からの反射波と誤判定するおそれがある。
【0049】
これに対して、本実施形態では、直接波と間接波の類似度に基づいて物体の高さを判定している。高さのある物体からの反射波は、強度が高く、かつ、直接波と間接波の類似度が高い。一方、路面からの反射波は、路面の凹凸によって物体からの反射波と同様に強度が高くなることがあるものの、直接波と間接波の類似度は低い。これは、反射経路が複雑であることから、計測位置により振幅波形の形状に大きく差が生じるためである。したがって、類似度に基づいて物体検知判定を行うことで、誤判定を抑制することができる。なお、高さのある物体からの反射波では類似度が高く、地面からの反射波では類似度が低いことは、本発明者らの鋭意検討によって見出されたものである。
【0050】
以上説明したように、本実施形態では、複数の受信信号を比較して、該複数の受信信号の類似度を算出し、この類似度に基づいて、検知対象の物体があるか否かを判定している。これにより、物体検知判定において、誤判定を抑制し、判定精度を向上させることができる。また、振幅波形を2つ取得できれば判定が可能であるため、少ない計算量で物体を検知できる。また、1回の探査波の送信で振幅波形の比較ができ、物体検知のために自車両の移動を必要としないため、自車両が停止中であっても物体検知判定が可能である。
【0051】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0052】
(1)振幅波形を時間軸に沿ってシフトさせ、類似度の最大値を算出し、この最大値に基づいて判定を行っている。したがって、直接波と間接波の伝播時間の差の影響が低減し、判定精度が向上する。
【0053】
(2)複数の受信部20Bの位置と、複数の受信部20Bの検知範囲とに応じて、複数の受信信号を比較する時間範囲を設定している。これにより、誤検知の低減および計算量の削減が可能となる。
【0054】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して時間範囲の設定方法を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0055】
第1実施形態では、各受信部20Bの検知範囲に基づいて、類似度を算出する時間範囲を設定したが、他の方法でこの時間範囲を設定してもよい。例えば、比較部25が、複数の受信信号のピークに基づいて、上記の時間範囲を設定してもよい。すなわち、比較部25は、複数の受信信号からピークを検出し、図15に示すように、直接波と間接波のピークをとる時刻が一致するときの時間差を算出する。そして、比較部25は、この時間差を基準として、間接波の振幅波形をシフトさせる範囲を設定する。なお、図15において、実線は直接波の受信信号の振幅波形を示し、一点鎖線は間接波の受信信号の振幅波形を示す。
【0056】
壁や段差等の高さのある物体からの反射波は、直接波と間接波の両方でピークが得られる。そして、直接波と間接波の振幅波形が最も一致するとき、この2つの振幅波形がピークをとる時刻は、空気揺らぎ等によりずれる場合もあるが、ほぼ一致する。したがって、ピークをとる時刻が一致するときの時間差を基準として時間範囲を設定することで、誤検知の低減および計算量の削減が可能となる。
【0057】
本実施形態は、第1実施形態と同様の構成および作動からは第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0058】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0059】
(1)複数の受信信号のピークに基づいて、類似度を算出する時間範囲を設定する。これにより、誤検知の低減および計算量の削減が可能となる。
【0060】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して類似度補正処理を追加したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0061】
本実施形態では、判定部26は、類似度の変化量、複数の受信信号における強度の最大値、複数の受信信号における立ち上がり時間の一致度を加味して判定を行う。具体的には、図16に示すように、ステップS104の後、処理はステップS108に移行し、比較部25は、ステップS104で算出した類似度を補正する。図17に示されたサブルーチンは、図16に示されたステップS108の類似度の補正処理に対応する。
【0062】
本サブルーチンにおいては、まずステップS201にて、比較部25は、ステップS104で算出した類似度の変化量が所定値以上であるか否かを判定する。比較部25は、ステップS104で類似度を算出する際に、類似度の変化量も算出する。類似度の変化量は、例えば以下のように算出される。
【0063】
すなわち、比較部25は、間接波の振幅波形を時間軸に沿ってシフトさせながら類似度を算出し、時間差と類似度との関係を記憶する。つぎに、比較部25は、類似度が最大値をとるときの時間差を基準として、時間差が所定量大きいかまたは小さいときの類似度を比較対象として選択する。そして、比較部25は、類似度の最大値と、比較対象の類似度との差を、類似度の変化量として算出する。あるいは、比較部25は、類似度の最大値と比較対象の類似度との比、具体的には、類似度の最大値を比較対象の類似度で除算した結果を類似度の変化量とする。
【0064】
ステップS201にて変化量が所定値以上であると判定されると、処理はステップS202に移行する。変化量が所定値よりも小さいと判定されると、処理はステップS203に移行する。
【0065】
ステップS202にて、比較部25は、ステップS105で判定に用いられる類似度を増加させる。これにより、ステップS105にて、類似度が閾値より大きいと判定されやすくなる。ステップS202の後、処理はステップS203に移行する。
【0066】
ステップS203にて、比較部25は、複数の受信部20Bから出力された受信信号の強度の最大値が所定値以上であるか否かを判定する。具体的には、比較部25は、直接波と間接波の両方において、受信信号の振幅の最大値が所定値以上であるか否かを判定する。
【0067】
ステップS203にて振幅の最大値が所定値以上であると判定されると、処理はステップS204に移行する。振幅の最大値が所定値よりも小さいと判定されると、処理はステップS205に移行する。
【0068】
ステップS204にて、比較部25は、ステップS105で判定に用いられる類似度を増加させる。これにより、ステップS105にて、類似度が閾値より大きいと判定されやすくなる。ステップS204の後、処理はステップS205に移行する。
【0069】
ステップS205にて、比較部25は、複数の受信部20Bから出力された複数の受信信号における振幅の立ち上がり時間の一致度が所定値以上であるか否かを判定する。例えば、比較部25は、直接波と間接波における振幅立ち上がり時の受信信号の傾きを比較し、傾きの差の逆数を一致度として、この一致度が所定値以上であるか否かを判定する。
【0070】
ステップS205にて一致度が所定値以上であると判定されると、処理はステップS206に移行する。一致度が所定値よりも小さいと判定されると、本サブルーチンは終了する。
【0071】
ステップS206にて、比較部25は、ステップS105で判定に用いられる類似度を増加させる。これにより、ステップS105にて、類似度が閾値より大きいと判定されやすくなる。ステップS206の後、本サブルーチンは終了する。
【0072】
図17のサブルーチンが終了すると、処理は図16のステップS105に移行する。ステップS105では、判定部26は、類似度の変化量、複数の受信信号における強度の最大値、複数の受信信号における立ち上がり時間の一致度に応じて補正された類似度を用いて、類似度が閾値以下であるか否かを判定する。
【0073】
図18は、グレーチングのような大きな凹凸のある路面に向かって探査波を送信したときの、時間差と類似度との関係を示す。図19は、壁や段差等の高さのある物体に向かって探査波を送信したときの、時間差と類似度との関係を示す。図18図19に示すように、グレーチング等の路面の凹凸では類似度の変化量が小さくなり、壁や段差等のように反射波に明確なピークがある物体では類似度の最大値が突出して高くなる傾向にある。したがって、ステップS201、S202のように、類似度の変化量が大きいときに高さのある物体と判定しやすくすることで、物体検知精度を向上させることができる。なお、このような物体の種類と類似度の変化量との関係は、本発明者らの鋭意検討によって見出されたものである。
【0074】
また、壁等の物体が遠方にある場合には、超音波センサ2と物体との位置関係によっては、物体のうち超音波センサ2の正面に位置する部分からの反射波と、根元からの反射波とが重なり、算出される類似度が低下することがある。これに対して、ステップS203、S204のように、受信信号の強度の最大値が所定値以上であるときに高さのある物体と判定しやすくすることで、物体検知精度を向上させることができる。また、ステップS205、S206のように、立ち上がり時間の一致度が所定値以上であるときに高さのある物体と判定しやすくすることで、物体検知精度を向上させることができる。
【0075】
本実施形態は、第1実施形態と同様の構成および作動からは第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0076】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0077】
(1)類似度の変化量を加味して判定を行っている。これにより、物体検知精度を向上させることができる。
【0078】
(2)複数の受信信号における強度の最大値を加味して判定を行っている。これにより、物体検知精度を向上させることができる。
【0079】
(3)複数の受信信号における立ち上がり時間の一致度を加味して判定を行っている。これにより、物体検知精度を向上させることができる。
【0080】
(他の実施形態)
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0081】
例えば、第1~第3実施形態では、直接波と間接波の振幅波形を比較して類似度を算出する場合について説明したが、2つのトランスデューサ21Bで受信した間接波の振幅波形を比較して類似度を算出し、この類似度に基づいて物体検知判定を行ってもよい。
【0082】
また、第1~第3実施形態では、地面に置かれた物体を検知する場合について説明したが、通路の天井や壁から突出した物体を検知してもよい。通路の天井や壁から突出した物体については、突出の大きさによって障害物であるか否かが判定される。
【0083】
また、比較部25が、同じ時刻における直接波の計測点と間接波の計測点との差の絶対値を算出し、このような演算を直接波の各計測点について行い、演算結果の和の逆数を類似度としてもよい。また、上記の差の絶対値の代わりに、差の2乗を用いて類似度を算出してもよい。
【0084】
また、直接波と間接波の計測点のうち、振幅が閾値よりも小さいものをノイズとし、類似度の算出から除外してもよい。
【0085】
また、第1~第3実施形態では間接波の振幅波形を時間軸に沿ってシフトさせたが、直接波の振幅波形を時間軸に沿ってシフトさせながら類似度を算出してもよい。
【0086】
また、間接波の振幅波形を時間軸に沿ってシフトさせる範囲を、第1、第2実施形態とは異なる方法で設定してもよい。例えば、この範囲の上限と下限を一定値としてもよい。
【0087】
また、第2実施形態において、第3実施形態のように類似度を補正してもよい。
【0088】
また、第3実施形態において、類似度の変化量、複数の受信信号における強度の最大値、複数の受信信号における立ち上がり時間の一致度のうち、いずれか1つまたは2つのみを加味して判定を行ってもよい。
【0089】
また、2つの受信信号でピークが複数検出された場合には、ピーク間の時間の一致度に応じて類似度を補正してもよい。例えば、一方の受信信号におけるピーク間の時間と、他方の受信信号におけるピーク間の時間との差が所定値以下の場合に、ステップS105での判定に用いる類似度を増加させてもよい。
【0090】
また、2つの受信信号におけるピーク幅の一致度に応じて類似度を補正してもよい。例えば、受信信号から閾値よりも大きい部分を抽出し、この部分の時間の幅をピーク幅とし、2つの受信信号のピーク幅の差を算出して、この差が所定値以下の場合に、ステップS105での判定に用いる類似度を増加させてもよい。
【0091】
また、類似度が最大となるときの時間差を用いて、物体の横幅を判定してもよい。例えば、図2に示すように、壁のような物体が車両100の正面にある場合を想定する。この場合には、直接波の受信信号がピークをとる時刻に基づいて、TOF方式等で物体との距離を測定することができる。そして、この測定した距離と、トランスデューサ21A、21Bの位置関係とに基づいて、直接波を返した反射点と、トランスデューサ21Bとの距離を算出することができる。また、間接波の伝播距離は、直接波の伝播距離に、類似度が最大となるときの時間差を距離に換算したものを加算することで、例えば受信信号の振幅と閾値との比較によって反射波を検知する方法に比べて、精度よく算出することができる。
【0092】
例えば物体が細いポール等であれば、直接波と間接波の反射点の位置が近くなる。そのため、間接波の伝播距離から、直接波に基づいて測定した物体との距離を引いて得られた距離は、上記のようにトランスデューサ21A、21Bの位置関係等に基づいて算出した距離とほぼ一致する。一方、物体が横幅のある壁等である場合には、直接波と間接波の反射点が離れる。そのため、この2つの距離は相違する。
【0093】
したがって、この2つの距離が一致するか否かに基づいて、物体の横幅が大きいか否かを判定することができる。例えば、判定部26は、この2つの距離の差が閾値以下であるときには、物体の横幅が所定値以下であると判定し、この2つの距離の差が閾値より大きいときには、物体の横幅が所定値よりも大きいと判定する。
【0094】
本開示に記載の比較部、判定部、制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の比較部、判定部、制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の比較部、判定部、制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0095】
20A 送信部
20B 受信部
25 比較部
26 判定部
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