(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022112958
(43)【公開日】2022-08-03
(54)【発明の名称】X線モジュール
(51)【国際特許分類】
H01J 35/12 20060101AFI20220727BHJP
H05G 1/00 20060101ALI20220727BHJP
H01J 35/16 20060101ALI20220727BHJP
【FI】
H01J35/12
H05G1/00 G
H01J35/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009013
(22)【出願日】2021-01-22
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100177910
【弁理士】
【氏名又は名称】木津 正晴
(72)【発明者】
【氏名】石井 淳
(72)【発明者】
【氏名】小林 晃人
【テーマコード(参考)】
4C092
【Fターム(参考)】
4C092AA01
4C092AB19
4C092AB27
4C092BD04
4C092BD05
4C092BD12
4C092BD16
4C092BD17
(57)【要約】 (修正有)
【課題】FODが大きくなることを抑制しつつ、ターゲットで発生した熱を良好に放熱することができるX線モジュールを提供する。
【解決手段】X線モジュールは、開口部27が形成された筐体2と、電子ビームBを出射する電子銃3と、電子ビームBの入射により発生したX線XRを透過させて出射するターゲット4と、開口部27を封止すると共に、X線XRを透過させて軸方向Aにおける第1側S1に出射するX線出射窓5と、筐体2外に配置されたヒートシンク70と、を備える。筐体2は、第1側S1に突出した突出部26が形成された表面24aを有し、開口部27は、突出部26に形成されており、ターゲット4は、開口部27内に配置されている。ヒートシンク70は、表面24aに沿って延在し、表面24aに熱的に接続された第1部分71と、第1部分71から第1側S1とは反対側の第2側S2に延在する第2部分72と、を有する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部が形成された筐体と、
前記筐体内において電子ビームを出射する電子銃と、
電子入射面、及び前記電子入射面とは反対側のX線出射面を有し、前記電子入射面への前記電子ビームの入射により発生したX線を透過させて前記X線出射面から出射するターゲットと、
前記開口部を封止すると共に、前記ターゲットから出射された前記X線を透過させて軸方向における第1側に出射するX線出射窓と、
前記筐体外に配置された放熱部と、を備え、
前記筐体は、前記第1側に突出した突出部が形成された表面を有し、前記開口部は、前記突出部に形成されており、前記ターゲットは、前記開口部内に配置されており、
前記放熱部は、
前記表面に沿って延在し、前記表面に熱的に接続された第1部分と、
前記第1部分から前記第1側とは反対側の第2側に延在する第2部分と、を有する、X線モジュール。
【請求項2】
前記第2部分は、前記軸方向から見た場合に前記表面の外縁よりも外側に位置し、且つ前記軸方向において前記表面よりも前記第2側に位置している、請求項1に記載のX線モジュール。
【請求項3】
前記第1部分は、前記軸方向から見た場合に前記突出部を包囲している、請求項1又は2に記載のX線モジュール。
【請求項4】
前記放熱部は、前記突出部に対して前記第1側に突出していない、請求項1~3のいずれか一項に記載のX線モジュール。
【請求項5】
前記放熱部の前記第1側の表面は、前記突出部の前記第1側の表面と同一の平面上に位置している、請求項1~4のいずれか一項に記載のX線モジュール。
【請求項6】
前記X線出射窓の前記第1側の表面は、前記放熱部の前記第1側の表面と同一の平面上に位置している、請求項1~5のいずれか一項に記載のX線モジュール。
【請求項7】
前記第1部分と前記表面との間に配置された熱伝導部材を更に備える、請求項1~6のいずれか一項に記載のX線モジュール。
【請求項8】
前記第2部分は、複数のフィンを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のX線モジュール。
【請求項9】
前記第1部分及び前記第2部分は、管状に形成されている、請求項1~7のいずれか一項に記載のX線モジュール。
【請求項10】
前記第1部分及び前記第2部分の各々は、冷却媒体を流すための流路を前記筐体との間に画定する部材を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のX線モジュール。
【請求項11】
永久磁石を有し、前記永久磁石の磁力により前記電子ビームを偏向させる偏向部を更に備え、
前記第2部分は、前記偏向部に熱的に接続されている、請求項1~10のいずれか一項に記載のX線モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
X線モジュールとして、電子ビームを出射する電子銃、及び電子ビームの入射によりX線を発生させるターゲットが筐体内に配置され、筐体の開口部を塞ぐ出力窓からX線が出力されるものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなX線モジュールには、FOD(Focus to ObjectDistance)を小さくすることが求められる場合がある。例えば、X線モジュールが非破壊検査において用いられる場合、X線焦点(ターゲット上における電子ビームの照射点)から検査対象までの距離であるFODが小さいと、高拡大率での観察が可能となる。或いは、拡大率が等しいとすると、X線撮像素子をX線源の近くに配置することができるため、明るい画像を取得することが可能となる。
【0005】
また、上述したようなX線モジュールでは、ターゲットにおける電子ビームのX線への変換効率は1%程度であり、入射した電子ビームの約99%は熱となる。そのため、熱によりターゲットが損傷してX線出力が低下することを抑制すべく、ターゲットで発生した熱を良好に放熱することが求められる。
【0006】
そこで、本発明は、FODが大きくなることを抑制しつつ、ターゲットで発生した熱を良好に放熱することができるX線モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のX線モジュールは、開口部が形成された筐体と、筐体内において電子ビームを出射する電子銃と、電子入射面、及び電子入射面とは反対側のX線出射面を有し、電子入射面への電子ビームの入射により発生したX線を透過させてX線出射面から出射するターゲットと、開口部を封止すると共に、ターゲットから出射されたX線を透過させて軸方向における第1側に出射するX線出射窓と、筐体外に配置された放熱部と、を備え、筐体は、第1側に突出した突出部が形成された表面を有し、開口部は、突出部に形成されており、ターゲットは、開口部内に配置されており、放熱部は、表面に沿って延在し、表面に熱的に接続された第1部分と、第1部分から第1側とは反対側の第2側に延在する第2部分と、を有する。
【0008】
このX線モジュールでは、ターゲットが電子入射面及びX線出射面を有し、電子入射面への電子ビームの入射により発生したX線を透過させてX線出射面から出射する。このような透過型の構成では、電子入射面がX線出射面を兼ねる反射型の構成と比べて、ターゲットをX線出射窓の近くに配置し易く、FODを小さくすることができる。また、筐体の表面に第1側に突出した突出部が形成されており、当該突出部に形成された開口部内にターゲットが配置されている。そのため、FODを更に小さくすることができる。そして、放熱部が、当該表面に沿って延在し、当該表面に熱的に接続された第1部分を有する。これにより、放熱部を突出部の高さ分の空間を利用して配置することができ、FODが大きくなることを抑制しつつ、ターゲットで発生した熱を良好に放熱することができる。更に、放熱部が、第1部分から第1側とは反対側の第2側に延在する第2部分を有する。これにより、FODが大きくなることを抑制しつつ、放熱部による放熱性を高めることができる。よって、このX線モジュールによれば、FODが大きくなることを抑制しつつ、ターゲットで発生した熱を良好に放熱することができる。
【0009】
第2部分は、軸方向から見た場合に表面の外縁よりも外側に位置し、且つ軸方向において表面よりも第2側に位置していてもよい。この場合、FODが大きくなることを抑制しつつ、放熱部による放熱性を高めることができる。
【0010】
第1部分は、軸方向から見た場合に突出部を包囲していてもよい。この場合、ターゲットで発生した熱を一層良好に放熱することができる。
【0011】
放熱部は、突出部に対して第1側に突出していなくてもよい。この場合、FODを一層小さくすることができる。
【0012】
放熱部の第1側の表面は、突出部の第1側の表面と同一の平面上に位置していてもよい。この場合、FODが大きくなることを抑制しつつ、第1部分の厚さを確保して放熱部による放熱性を高めることができる。
【0013】
X線出射窓の第1側の表面は、放熱部の第1側の表面と同一の平面上に位置していてもよい。この場合、FODを一層小さくすることができる。
【0014】
本発明のX線モジュールは、第1部分と表面との間に配置された熱伝導部材を更に備えてもよい。この場合、ターゲットで発生した熱を一層良好に放熱することができる。
【0015】
第2部分は、複数のフィンを含んでいてもよい。この場合、放熱部による放熱性を一層高めることができる。
【0016】
第1部分及び第2部分は、管状に形成されていてもよい。この場合、例えば第1部分及び第2部分を冷却媒体に対する配管又はヒートパイプ等として用いることができ、放熱部による放熱性を一層高めることができる。
【0017】
第1部分及び第2部分の各々は、冷却媒体を流すための流路を筐体との間に画定していてもよい。この場合、放熱部による放熱性を一層高めることができる。
【0018】
本発明のX線モジュールは、永久磁石を有し、永久磁石の磁力により電子ビームを偏向させる偏向部を更に備え、第2部分は、偏向部に熱的に接続されていてもよい。この場合、偏向部によってX線焦点の位置を所望の位置とすることができる。また、ターゲットで発生した熱によって永久磁石が加熱されるのを抑制することができ、X線を安定的に出力することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、FODが大きくなることを抑制しつつ、ターゲットで発生した熱を良好に放熱することができるX線モジュールを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態に係るX線発生装置の断面図である。
【
図8】第1変形例に係るX線発生装置の断面図である。
【
図9】第2変形例に係るX線発生装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
[X線発生装置]
【0022】
図1に示されるX線発生装置(X線モジュール)100は、例えば検査対象の内部構造を観察するX線非破壊検査に用いられる微小焦点X線源である。X線発生装置100は、X線管1と、放熱部7と、ケース110と、電源部120と、を備える。
【0023】
図2に示されるように、X線管1は、電子銃3からの電子ビームBがターゲット4に入射することにより発生し且つターゲット4自身を透過したX線XRを、電子ビームBの入射方向に沿った方向においてX線出射窓5から出射する透過型のX線管である。X線管1は、真空の内部空間Rを有する筐体2を備えた、部品交換等が不要な真空封止型のX線管である。以下、X線管1の管軸AXに平行な方向を軸方向Aとし、軸方向Aにおける一方側(図中上側)を第1側S1とし、軸方向Aにおける他方側(第1側S1とは反対側)を第2側S2として説明する。X線管1では、電子ビームBの光軸はX線XRの光軸と一致している。
【0024】
筐体2は、略円柱状の外形を有する。筐体2は、金属材料により形成されたヘッド部21と、ガラス等の絶縁材料により形成された絶縁バルブ22と、を有する。ヘッド部21には、ターゲット4及びX線出射窓5が固定されている。
【0025】
絶縁バルブ22には、電子銃3が固定されている。
電子銃3は、内部空間Rにおいて電子ビームBを出射する。電子銃3は、例えば、ヒータ31、カソード32、第1グリッド電極33及び第2グリッド電極34が、第2側S2からこの順に並ぶように配置されることで構成されている。ヒータ31は、通電によって発熱するフィラメントにより構成されている。カソード32は、ヒータ31により加熱されて電子を放出する。第1グリッド電極33及び第2グリッド電極34は、筒状に形成されている。第1グリッド電極33は、カソード32から放出される電子の量を制御するために設けられており、第2グリッド電極34は、第1グリッド電極33を通過した電子をターゲット4に向けて集束させるために設けられている。ヒータ31、カソード32、第1グリッド電極33及び第2グリッド電極34は、絶縁バルブ22の底部22aを貫通するように設けられた複数のステムピンSPに電気的に接続されている。
【0026】
ケース110は、筒部材111と、電源部ケース112と、を有する。ケース110は、金属材料により形成されている。筒部材111は、略円筒状に形成されており、軸方向Aにおける両端に開口111a,開口111bを有する。開口111aには、開口111aからヘッド部21が突出するように、X線管1が挿入されている。筒部材111の第1側S1の端部には、X線管1の取付フランジ23cが固定されている。これにより、X線管1は開口111aを封止している。筒部材111内には、液状の絶縁性物質である絶縁油Kが封入されている。
【0027】
電源部120は、X線管1に電力を供給する。電源部120は、電源部ケース112内に収容されている。電源部120は、筒部材111の開口111bを封止している。電源部120は、円筒状のコネクタ121aを含む高圧給電部121を有する。高圧給電部121は、X線管1に電気的に接続されている。具体的には、コネクタ121aの先端部が絶縁バルブ22の底部22aから突出するステムピンSPに電気的に接続されている。この例では、ターゲット4(アノード)を接地電位として、マイナスの高電圧(例えば-10kV~-500kV)が電源部120から高圧給電部121を介して電子銃3に供給される。
[X線管]
【0028】
図1~
図7に示されるように、X線管1は、筐体2と、電子銃3と、ターゲット4と、X線出射窓5と、偏向部6と、を備える。上述したとおり、筐体2は、ヘッド部21及び絶縁バルブ22を有する。ヘッド部21は、電位的にX線管1のアノードに相当する。ヘッド部21は、本体部23及び蓋部24を含む。本体部23は、例えばステンレス鋼(例えばSUS304)、銅、鉄合金又は銅合金等により管軸AXと同軸の略円筒状に形成されており、軸方向Aにおける両端に開口23a,23bを有する。開口23aは、蓋部24により塞がれている。蓋部24は、開口23aの縁部に固定されている。本体部23は、開口23bにおいて管軸AXと同軸の略円筒状の絶縁バルブ22と連通している。本体部23の外周面には、本体部23と同心の略円環板状に形成された取付フランジ23cが設けられている。
【0029】
蓋部24は、例えばモリブデンにより管軸AXと同軸の略円板状に形成されており、本体部23の開口23aを塞いでいる。蓋部24の第1側S1の表面24aには、表面24aに対して第1側S1に突出した突出部26が形成されている。表面24aは円形状であり、突出部26は蓋部24と同心の円柱状に形成されている。突出部26には、軸方向Aに沿って蓋部24を貫通する開口部27が形成されている。
【0030】
図4~
図6に示されるように、開口部27は、突出部26の第1側S1の表面26aに開口する第1部分27aと、第1部分27aに連通し、蓋部24の第2側S2の表面24bに開口する第2部分27bと、を有する。第1部分27a及び第2部分27bの各々は、突出部26と同心の断面円形状に形成されている。第1部分27aの直径は第2部分27bの直径よりも広く、第1部分27aの深さは第2部分27bの深さよりも浅い。換言すれば、第1部分27aは、突出部26の表面26aに形成された凹部であり、第2部分27bは、第1部分27aの底面に形成された貫通孔である。第1部分27aは、ターゲット4及びX線出射窓5を配置するための配置部として機能する。第2部分27bは、ターゲット4に入射する電子ビームBが通過する電子ビーム通過孔として機能する。第2部分27bの第2側S2の端部には、第2側S2に向かうにつれて直径が拡大する拡幅部27baが設けられており、角部が形成されないように曲面状に面取りされている。
【0031】
ターゲット4及びX線出射窓5は、第1部分27aに配置されている。ターゲット4は、例えばタングステンにより形成されており、電子入射面4a、及び電子入射面4aとは反対側のX線出射面4bを有する。ターゲット4は、電子入射面4aへの電子ビームBの入射により発生したX線を透過させてX線出射面4bから出射する。この例では、ターゲット4は、X線出射窓5の第2側S2の表面の全面に膜状に形成されている。すなわち、ターゲット4はX線出射窓5と一体に形成されている。ターゲット4は、電子入射面4aが第2側S2を向き、且つX線出射面4bが第1側S1を向くように配置されている。ターゲット4の厚さは、例えば数μm程度である。
【0032】
X線出射窓5は、例えばダイヤモンド又はベリリウム等のX線透過性の高い材料により円板状に形成されている。X線出射窓5は、開口部27の第1部分27aの底面上に管軸AXと同軸に配置されて、図示しないロウ材等の接合部材によって当該底面に固定されており、開口部27を封止している。X線出射窓5は、ターゲット4を介して第1部分27aの底面に熱的に接触している。この例では、X線出射窓5の第1側S1の表面5aは、突出部26の第1側S1の表面26aと略同一の平面上に位置している。X線出射窓5は、軸方向Aにおいて電子銃3と向かい合っており、ターゲット4から出射されたX線XRを透過させて軸方向Aにおける第1側S1に出射する。
図5に示されるように、X線XRは、ターゲット4上における電子ビームBの照射点であるX線焦点Fにおいて発生し、X線焦点Fを中心として広がりながら出射される。なお、ターゲット4は、X線出射窓5の表面のうち第2部分27bに露出する領域のみに設けられてもよいし、その一部が第2部分27bの壁面上にも設けられていてもよい。また、ターゲット4とX線出射窓5とが離間して設けられていてもよい。
【0033】
図2及び
図7に示されるように、偏向部6は、複数の永久磁石61と、保持部材62と、断熱部材63と、を有する。偏向部6は、径方向において向かい合う一対の永久磁石61を含んでいる。一対の永久磁石61は、異なる極が径方向において互いに向かい合うように配置されている。永久磁石61は、例えばフェライト磁石、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、アルニコ磁石等からなる。
【0034】
保持部材62は、例えばアルミニウム等の金属材料により管軸AXと同軸の扁平な円筒状(円環状)に形成されており、永久磁石61を保持している。保持部材62は、筐体2の外部に配置されており、本体部23の取付フランジ23cの第1側S1の表面に接触した状態で取付フランジ23cに固定されている。保持部材62は、径方向において本体部23の一部と重なっており、本体部23の一部の外周面を覆うように本体部23に対して近接して配置されている。保持部材62は、径方向において本体部23から僅かに離間しているが、本体部23に接触していてもよい。また、保持部材62は円筒状(円環状)の一体部材ではなく、複数部材で構成されてもよい。
【0035】
断熱部材63は、例えばシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)等の樹脂材料により形成されている。断熱部材63の材料としては、断熱部材63を硬化させる際の加熱処理によって永久磁石61の磁力低下が生じることを抑制するため、常温硬化性を有するシリコーン樹脂、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂が好ましい。
【0036】
断熱部材63は、永久磁石61を内部に収容している。すなわち、永久磁石61は、断熱部材63の内部に、断熱部材63により包囲された状態で配置されている。断熱部材63は、例えば保持部材62に固定されており、保持部材62は、断熱部材63を介して永久磁石61を保持している。断熱部材63は、永久磁石61を保持部材62から隔てている。断熱部材63の第2側S2の表面63aは、本体部23の取付フランジ23cの第1側S1の表面に接触している。断熱部材63における表面63a以外の外表面は、保持部材62により覆われている。すなわち、断熱部材63は、保持部材62内に埋め込まれて表面63aのみが露出するように設けられている。このように、断熱部材63は、永久磁石61と本体部23の取付フランジ23cとの間に配置された部分を有している。なお、断熱部材63の構成は、永久磁石61を内部に収容する構成に限らず、例えば、永久磁石61を保持部材62で直接保持し、保持部材62と本体部23の取付フランジ23cの第1側S1の表面との間を仕切るように、板状の断熱部材63を挟み込むような構成であってもよい。
【0037】
偏向部6は、永久磁石61の磁力により電子ビームBを偏向させ、X線焦点Fの位置を変化させる。偏向部6は、電子銃3から出射された電子ビームBがターゲット4に進行する経路Pに垂直な方向(径方向)から見た場合に、経路Pと重なる部分を含んでいる。これにより、電子ビームBに永久磁石61の磁力を好適に作用させることができる。この例では、径方向から見た場合に、偏向部6の全体が経路Pと重なっている。偏向部6は、対向する一対の永久磁石61を結ぶ仮想線が、管軸AXと略直交するように取付フランジ23cに取り付けられている。偏向部6は、管軸AX周りに回転可能となっていてもよい。この場合、偏向部6を回転させることでX線焦点Fの位置を移動させることが可能となる。
【0038】
保持部材62の熱伝導率は、永久磁石61の熱伝導率よりも高い。断熱部材63の熱伝導率は、筐体2の本体部23(筐体2における偏向部6との接触部分)の熱伝導率よりも低い。すなわち、断熱部材63の断熱性は、本体部23の断熱性よりも高い。また、断熱部材63の熱伝導率は、永久磁石61及び保持部材62の各々の熱伝導率よりも低い。本体部23がSUS304により形成されている場合、本体部23の熱伝導率は例えば16.7W/m・Kである。永久磁石61の熱伝導率は例えば1~50W/m・K程度であり、保持部材62の熱伝導率は例えば100~400W/m・K程度であり、断熱部材63の熱伝導率は例えば0.1~0.5W/m・K程度である。熱伝導率は、一般的な測定方法、例えば熱流計法やレーザフラッシュ法、熱線法等により測定され得る。
【0039】
図1、
図3、
図4及び
図6に示されるように、放熱部7は、ターゲット4で発生した熱を放熱するためのヒートシンク70と、ヒートシンク70を冷却するための冷却部80とを含み、筐体2の外部に配置されている。ヒートシンク70は、例えばアルミニウム等の金属材料により形成されている。ヒートシンク70の熱伝導率は、本体部23及び永久磁石61の各々の熱伝導率よりも高い。ヒートシンク70の熱伝導率は、例えば100~400W/m・K程度である。ヒートシンク70は、第1部分71と、第2部分72と、を有する。
【0040】
第1部分71は、管軸AXと同軸の円板状に形成されており、中央部に開口71bを有する。第1部分71は、蓋部24の表面24aに沿って管軸AXと垂直に延在しており、開口71b内には、突出部26が配置されている。第1部分71は、軸方向Aから見た場合に突出部26を包囲している。第1部分71の第2側S2の表面は、シート状の熱伝導部材8を介して蓋部24の表面24aに接触している。これにより、第1部分71は、蓋部24の表面24aに熱的に接続されている。熱伝導部材8は、例えば熱伝導率の高いシリコーンにより円形シート状に形成されたシリコーンシートであり、表面24aの全面と第1部分71との間に配置され、表面24aと第1部分71とに密着している。熱伝導部材8が第1部分71と蓋部24との間に介在していることで、共に金属材料からなる第1部分71と蓋部24とが直接に接触する場合と比べて、第1部分71と蓋部24との間の熱伝導を促進することができる。
【0041】
図4に示されるように、第1部分71は、径方向において突出部26から僅かに離間している。径方向における第1部分71と突出部26との間の距離L1は、軸方向Aにおける蓋部24の表面24aからの突出部26の突出高さL2よりも小さく、また、突出部26の直径(径方向における突出部26の幅)L3よりも小さい。第1部分71は、突出部26に接触していてもよい。第1部分71は、突出部26に対して第1側S1に突出していない。換言すれば、第1部分71の第1側S1の表面71a及び突出部26の第1側S1の表面26aが平坦である場合、表面71aは、表面26aと同一の平面上に位置しているか、又は表面26aよりも第2側S2に位置している。この例では、表面71aは、表面26aと同一の平面上に位置している。また、表面71aは、X線出射窓5の第1側S1の表面5aと同一の平面上に位置している。
【0042】
第2部分72は、第1部分71と同心の略円筒状に形成されており、第1部分71の外縁から第2側S2に延在している。第2部分72は、軸方向Aから見た場合に蓋部24の表面24aの外縁よりも外側に位置し、且つ軸方向Aにおいて表面24aよりも第2側S2に位置している。この例では第2部分72の全体が表面24aよりも第2側S2に位置しているが、第2部分72の一部のみが表面24aよりも第2側S2に位置していてもよい。第2部分72は、径方向において本体部23の一部と重なっており、本体部23の一部の外周面を覆っている。第2部分72は、径方向において本体部23から僅かに離間しているが、本体部23に接触していてもよい。第2部分72の第2側S2の表面72bは、偏向部6の保持部材62の第1側S1の表面に接触しており、偏向部6に熱的に接続されている。
【0043】
第2部分72の外周面には、複数のフィン72aが形成されている。各フィン72aは、第2部分72と同心の略円板状に形成されている。複数のフィン72aは、軸方向Aに沿って等間隔で並ぶように、互いに平行に配置されている。フィン72aには、後述する冷却ファン84からの空気が供給される。
【0044】
冷却部80は、送風部81と、ヒートシンク70を包囲するように略円筒状に形成された包囲部82とを備える。送風部81は、フード部83と冷却ファン84とを備える。フード部83は、軸方向Aに垂直な方向における筒部材111の一方側を覆っており、空間83aを形成している。空間83aには、冷却ファン84が配置されている。フード部83には通気部83bとして複数の貫通孔が形成されている。冷却ファン84は、通気部83bから吸い込んだ外部の空気を冷却風として包囲部82に送り込む。
【0045】
包囲部82は、上壁部82aと側壁部82bとを有する。上壁部82aは、円環状に形成されており、包囲部82の第1側S1の開口82cを画定している。包囲部82は、開口82cから第1部分71の第1側S1の表面71aを露出させるように配置されている。側壁部82bは、円筒状に形成されており、上壁部82aと共に複数のフィン72aを包囲している。包囲部82は、送風部81との間の連通部から送り込まれた冷却風が、複数のフィン72aの間の空間を周方向に流れるように流通する流路を構成する。これにより、ヒートシンク70の放熱効率を向上させることができる。なお、冷却風は側壁部82bに設けられた通気部(図示せず)から排気される。これにより、排気された冷却風を検査対象側に流れ難くすることができ、撮像時における排気の影響を抑制することができる。また、冷却ファン84は、側壁部82bに設けられた通気部から外部の空気を吸い込み、フード部83に設けられた通気部83bから排出するように動作してもよい。
[作用及び効果]
【0046】
X線発生装置100では、ターゲット4が電子入射面4a及びX線出射面4bを有し、電子入射面4aへの電子ビームBの入射により発生したX線XRを透過させてX線出射面4bから出射する。このような透過型の構成では、電子入射面がX線出射面を兼ねる反射型の構成と比べて、ターゲット4をX線出射窓5の近くに配置し易く、FODを小さくすることができる。また、筐体2の表面24aに第1側S1に突出した突出部26が形成されており、突出部26に形成された開口部27内にターゲット4が配置されている。そのため、FODを更に小さくすることができる。そして、ヒートシンク70が、表面24aに沿って延在し、表面24aに熱的に接続された第1部分71を有する。これにより、ヒートシンク70を突出部26の高さ分の空間を利用して配置することができ、FODが大きくなることを抑制しつつ、ターゲット4で発生した熱を良好に放熱することができる。更に、ヒートシンク70が、第1部分71から第1側S1とは反対側の第2側S2に延在する第2部分72を有する。これにより、FODが大きくなることを抑制しつつ、ヒートシンク70による放熱性を高めることができる。よって、X線発生装置100によれば、FODが大きくなることを抑制しつつ、ターゲット4で発生した熱を良好に放熱することができる。
【0047】
図4~
図6を参照しつつ熱の移動経路を説明する。上述したとおり、ターゲット4では大きな熱が発生し得る。X線発生装置100では、
図4~
図6に矢印で示されるように、ターゲット4で発生した熱が筐体2の突出部26から蓋部24に伝わる。蓋部24に伝わった熱は、熱伝導部材8を介してヒートシンク70の第1部分71に伝わる。第1部分71に伝わった熱は、第2部分72に伝わる。これにより、ターゲット4で発生した熱をヒートシンク70によって効果的に放熱することができる。また、突出部26によって厚さが大きくなっているため、ターゲット4と熱的に接続された領域における熱容量を大きくすることができる。
【0048】
ここで、仮に、突出部26を備えない場合、ターゲット4の配置が第2側S2寄りとなるとともに、ヒートシンク70の第1部分71の厚さに相当する分だけFODが大きくなるため、透過型のX線管の利点が損なわれてしまうおそれがある。この場合ヒートシンク70の第1部分71を省略すれば、FODが大きくなることは抑制できるが、ターゲット4で発生した熱を効果的に放熱することができない。よって、突出部26を備えることで、ターゲット4の位置を検査対象に近づけ、その高さ分の空間を利用してヒートシンク70を配置することは、FODが大きくなることを抑制し、ターゲット4で発生した熱を良好に放熱するのに非常に有効である。
【0049】
また、仮に、ヒートシンク70が突出部26の第1側S1の表面26aよりも第1側S1に突出していると、FODが大きくなり、透過型のX線管の利点が損なわれてしまうおそれがある。検査対象がヒートシンク70に接触してしまい、検査対象をX線焦点Fに近づけられないためである。これに対し、X線発生装置100では、ヒートシンク70が突出部26に対して第1側S1に突出していない。これにより、FODを一層小さくすることができる。また、ヒートシンク70の第1部分71の第1側S1の表面71aが、突出部26の第1側S1の表面26aと同一の平面上に位置している。これにより、FODが大きくなることを抑制しつつ、第1部分71の厚さを確保して放熱部7による放熱性を高めることができる。また、発熱部(X線焦点F)から第1部分71までの距離が短くなることによっても、ヒートシンク70による放熱性を高めることができる。
【0050】
第2部分72が、軸方向Aから見た場合に筐体2の表面24aの外縁よりも外側に位置し、且つ軸方向Aにおいて表面24aよりも第2側S2に位置している。これにより、FODの増加を抑制しつつ、ヒートシンク70による放熱性を高めることができる。
【0051】
第1部分71が、軸方向Aから見た場合に突出部26を包囲している。これにより、ターゲット4で発生した熱を一層良好に放熱することができる。
【0052】
X線出射窓5の第1側S1の表面5aは、第1部分71の第1側S1側の表面71aと同一の平面上に位置している。これにより、FODを一層小さくすることができる。
【0053】
第1部分71と筐体2の表面24aとの間に熱伝導部材8が配置されている。これにより、ターゲット4で発生した熱を一層良好に放熱することができる。
【0054】
第2部分72が、複数のフィン72aを含んでいる。これにより、放熱部7による放熱性を一層高めることができる。
【0055】
永久磁石61の磁力により電子ビームBを偏向させる偏向部6が設けられており、第2部分72が偏向部6に熱的に接続されている。これにより、偏向部6によってX線焦点Fの位置を所望の位置に移動させることができる。また、ターゲット4で発生した熱が永久磁石61に伝わると、永久磁石61が加熱されて磁力が低下してしまうおそれがある。この場合、電子ビームBの偏向量が変化し、X線焦点の位置が変化してしまう。例えばCT(Computed Tomography)等における連続撮影の際にX線焦点の位置が変化すると、取得画像にぼけが生じるおそれがある。これに対し、このX線発生装置100では、ターゲット4で発生した熱が偏向部6に伝わったとしても、当該熱を放熱部7に逃がすことができる。その結果、ターゲット4で発生した熱によって永久磁石61が加熱されるのを抑制することができ、X線を安定的に出力することができる。
[変形例]
【0056】
図8に示される第1変形例では、放熱部7の第1部分71A及び第2部分72Aは、管状に形成されている。第1部分71Aは、蓋部24の表面24aに沿って管軸AXと垂直に直線状に延在し、表面24aに熱的に接続されている。なお、第1部分71Aは、蓋部24の表面24aにおいて、円環状(渦巻き状)や直線部を折り返すように配置されてもよい。この場合、熱的な接続面積を更に大きくすることができる。第2部分72Aは、第1部分71Aから第2側S2に延在している。この例では、第1部分71A及び第2部分72Aは、ヒートパイプを構成しており、内部に作動液が封入されている。
【0057】
第1変形例では、冷却ファン84は、電源部ケース112内に配置されている。第2部分72Aは、冷却ファン84と向かい合う対向部72Aaを有するように、冷却ファン84の近傍まで延在している。冷却ファン84は、電源部ケース112内に配置された制御基板130を冷却するためにも用いられる。すなわち、第1変形例では、ターゲット4で発生した熱を放熱するための冷却ファンと、制御基板130を冷却するための冷却ファンとが共通化されている。これにより、低コストを図ることができる。また、冷却ファン84がターゲット4(X線管1)から離れた位置に配置されているため、X線被爆による冷却ファン84の故障を抑制することができる。制御基板130は、例えば電源部120の動作を制御する。制御基板130は、対向部72Aaと向かい合っている。
【0058】
第1変形例によっても、上記実施形態と同様に、FODが大きくなることを抑制しつつ、ターゲット4で発生した熱を良好に放熱することができる。また、第1部分71A及び第2部分72Aが、管状に形成されているため、第1部分71A及び第2部分72Aをヒートパイプ等として用いることができ、放熱部7による放熱性を高めることができる。また、長距離の熱輸送が可能となるため、上述したように、冷却ファン84をターゲット4から離れた位置に配置することが可能となる。
【0059】
図9に示される第2変形例のように放熱部7が構成されてもよい。第2変形例では、放熱部7の第1部分71B及び第2部分72Bは、冷却媒体Cを流すための流路73,74を筐体2との間に画定する部材71Ba,72Baを含んでいる。部材71Baは、管軸AXと同軸の円環板状に形成されており、蓋部24の表面24aとの間に管軸AXと同軸の円環状の流路73を画定している。第1部分71Bは、部材71Baと流路73とによって構成されている。第1部分71Bは、蓋部24の表面24aに沿って延在し、表面24aに熱的に接続されている。第2部分72Bは、第1部分71Bと同心の円筒状に形成されており、本体部23の外周面との間に第1部分71Bと同心の円筒状の流路74を画定している。第2部分72Bは、部材72Baと流路74とによって構成されている。第2部分72Bは、第1部分71Bから第2側S2に軸方向Aに沿って延在している。
【0060】
第2変形例によっても、上記実施形態と同様に、FODが大きくなることを抑制しつつ、ターゲット4で発生した熱を良好に放熱することができる。また、第1部分71B及び第2部分72Bの各々が、冷却媒体Cを流すための流路73,74を筐体2との間に画定しているため、放熱部7による放熱性を一層高めることができる。
【0061】
本発明は、上記実施形態に限られない。各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。第1部分71は、軸方向Aから見た場合に突出部26を包囲していなくてもよく、環状以外の形状に形成されてもよい。ヒートシンク70は、突出部26の第1側S1の表面26aよりも第1側S1に突出していてもよい。偏向部6は省略されてもよい。熱伝導部材8は省略されてもよい。上記実施形態では冷却ファン84を用いて強制空冷が行われているが、冷却ファン84が省略されて自然空冷が行われてもよい。冷却ファン84は、フィン72aに隣接するように設けられてもよい。放熱部7は、上述した例以外の冷却機構であってもよい。第1変形例において、第1部分71A及び第2部分72Bは、冷却水を流すための冷却水配管を構成していてもよい。この場合でも、第1変形例と同様に放熱部7による放熱性を高めることができる。また、偏向部6や放熱部7の少なくとも一部が、X線管1と一体となっていてもよい。上記実施形態ではX線モジュールがX線発生装置100を構成していたが、X線モジュールは必ずしもX線発生装置を構成していなくてもよく、例えばX線管1及び放熱部7(ヒートシンク70)のみを備えていてもよい。
【符号の説明】
【0062】
100…X線発生装置(X線モジュール)、2…筐体、24a…表面、26…突出部、27…開口部、3…電子銃、4…ターゲット、4a…電子入射面、4b…X線出射面、5…X線出射窓、5a…表面、6…偏向部、61…永久磁石、7…放熱部、71,71A,71B…第1部分、71a…表面、72,72A,72B…第2部分、72a…フィン、71Ba,72Ba…部材、73,74…流路、8…熱伝導部材、A…軸方向、B…電子ビーム、C…冷却媒体、S1…第1側、S2…第2側、XR…X線。