(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113049
(43)【公開日】2022-08-03
(54)【発明の名称】塩センサ装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/41 20060101AFI20220727BHJP
【FI】
G01N21/41 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009149
(22)【出願日】2021-01-22
(71)【出願人】
【識別番号】598123138
【氏名又は名称】学校法人 創価大学
(71)【出願人】
【識別番号】515117682
【氏名又は名称】株式会社コアシステムジャパン
(71)【出願人】
【識別番号】515124255
【氏名又は名称】アイセイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関 篤志
(72)【発明者】
【氏名】西山 道子
(72)【発明者】
【氏名】山崎 大志
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 一弘
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 博幸
(72)【発明者】
【氏名】近 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 宏一
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB04
2G059BB08
2G059CC01
2G059EE02
2G059FF06
2G059FF07
2G059HH02
2G059JJ17
2G059KK01
(57)【要約】
【課題】塩化ナトリウム等の塩の量をInSituで長期に亘って観測することができ、しかも塩の濃度に対する感度をさらに増加させることができる塩センサ装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】塩センサ装置1は、コア5a及びクラッド6aを有する光伝送部2と、コア5b及びクラッド6bを有するヘテロコア部3とを備え、コア5bがコア5aよりも小径である光ファイバ4を備える。ヘテロコア部3のクラッド6bの外周面に複数の金属ナノ粒子層と、該金属ナノ粒子層を被覆する複数のポリイオン層とが交互に積層してなる無機-有機複合積層膜7を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア及びクラッドを有する光伝送部と、該光伝送部のコア及びクラッドに各々連なるコア及びクラッドを有するヘテロコア部とを備え、該ヘテロコア部のコアが該光伝送部のコアよりも小径である光ファイバを備える塩センサ装置であって、
該ヘテロコア部のクラッドの外周面に、複数の金属ナノ粒子層と、該金属ナノ粒子層を被覆する複数のポリイオン層とが交互に積層してなる無機-有機複合積層膜を備えることを特徴とする塩センサ装置。
【請求項2】
請求項1記載の塩センサ装置において、前記無機-有機複合積層膜は2~2000層の前記金属ナノ粒子層と前記ポリイオン層とが交互に積層してなることを特徴とする塩センサ装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の塩センサ装置において、前記金属ナノ粒子層を構成する金属ナノ粒子は5~100nmの範囲の粒子径を備えることを特徴とする塩センサ装置。
【請求項4】
請求項3記載の塩センサ装置において、前記金属ナノ粒子は金ナノ粒子であることを特徴とする塩センサ装置。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項記載の塩センサ装置において、前記ポリイオン層はポリカチオン層又はポリアニオン層であることを特徴とする塩センサ装置。
【請求項6】
コア及びクラッドを有する光伝送部と、該光伝送部のコア及びクラッドに各々連なるコア及びクラッドを有するヘテロコア部とを備え、該ヘテロコア部のコアが該光伝送部のコアよりも小径である光ファイバの該ヘテロコア部の外周面に、金属ナノ粒子層を形成した後、該金属ナノ粒子層上にポリイオン層を形成する操作を少なくとも2回繰り返し、複数の金属ナノ粒子層と、該金属ナノ粒子層を被覆するポリイオン層とが交互に積層してなる無機-有機複合積層膜を形成する工程を備えることを特徴とする塩センサ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩センサ装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバを用いるセンサ装置として、例えば、光ファイバのヘテロコア部のクラッド外周面に金ナノ粒子が固着された光ファイバ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1記載の光ファイバ装置は、光伝送部から前記ヘテロコア部を介して前記光ファイバで光の伝送を行った場合に、前記ヘテロコア部での近赤外域の所定波長の光の吸収度合が該ヘテロコア部の周囲の物質の屈折率に応じて変化するように構成されている。この結果、前記光ファイバ装置によれば、光ファイバでの近赤外域の波長の光の伝搬強度の減衰度合を測定することで、ヘテロコア部の周囲の物質の屈折率や濃度等の特性を高感度に測定することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、橋梁、トンネル等の公共インフラストラクチャーや、ビル等の建築施設では、海水や凍結防止剤等に含まれる塩化ナトリウムにより、コンクリートや鉄骨が劣化することが知られており、その管理のために塩化ナトリウムの付着量の経時的変化を捉える必要がある。
【0006】
従来、塩化ナトリウムの検出方法としては、塩化ナトリウム溶液の電気伝導度を測定する方法、光学的分光法、炎色反応法、原子吸光法等が知られている。
【0007】
しかし、前記検出方法はいずれも塩化ナトリウムを含む試料を対象物からサンプリングする必要があり、既存のインフラストラクチャーや、ビル等における塩化ナトリウムの付着量の経時的変化をその場(InSitu)で長期に亘って観測することができないという問題がある。
【0008】
前記問題を解決するために、本発明者らは、塩化ナトリウム等の塩の量をInSituで長期に亘って観測することができる塩センサ装置を提案している(特願2019-149024号明細書参照)。
【0009】
前記塩センサ装置は、コア及びクラッドを有する光伝送部と、該光伝送部のコア及びクラッドに各々連なるコア及びクラッドを有するヘテロコア部とを備え、該ヘテロコア部のコアが該光伝送部のコアよりも小径である光ファイバを備え、該ヘテロコア部のクラッドの外周面に分散して固着された金属ナノ粒子層と、該金属ナノ粒子層を被覆する交互積層膜層とを備えている。前記塩センサ装置では、前記金属ナノ粒子層は1層のみであり、前記交互積層膜層は少なくとも各1層のポリカチオン膜とポリアニオン膜とが交互に積層している。
【0010】
前記塩センサ装置では、前記光伝送部のコアを介して光を伝送すると、前記ヘテロコア部でクラッドに漏れ出た光が該クラッドと外界との界面で全反射するときに、外界側にエバネッセント光がしみ出す。ここで、前記エバネッセント光が前記金属ナノ粒子層の金属ナノ粒子内の電子の集団振動と共鳴すると該エバネッセント光が吸収され、前記界面で全反射する反射光が減少するが、その減少の度合いは前記ポリイオン層の屈折率に依存する。
【0011】
そこで、前記塩センサ装置によれば、前記ヘテロコア部のクラッドと外界との界面で全反射した光の減少の度合いを検出することにより、該ヘテロコア部の外界に存在する塩の濃度を知ることができる。
【0012】
しかしながら、塩の濃度に対する感度をさらに増加させることができる塩センサ装置の開発が望まれる。
【0013】
本発明は、かかる事情に鑑み、塩化ナトリウム等の塩の量をInSituで長期に亘って観測することができ、しかも塩の濃度に対する感度をさらに増加させることができる塩センサ装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる目的を達成するために、本発明の塩センサ装置は、コア及びクラッドを有する光伝送部と、該光伝送部のコア及びクラッドに各々連なるコア及びクラッドを有するヘテロコア部とを備え、該ヘテロコア部のコアが該光伝送部のコアよりも小径である光ファイバを備える塩センサ装置であって、該ヘテロコア部のクラッドの外周面に、複数の金属ナノ粒子層と、該金属ナノ粒子層を被覆する複数のポリイオン層とが交互に積層してなる無機-有機複合積層膜を備えることを特徴とする。
【0015】
尚、本発明の塩センサの検出対象となる「塩」とは、陽イオンと陰イオンとがイオン結合することにより生じた化合物を意味する。前記陽イオンの例としては、水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン等を挙げることができ、前記陰イオンの例としては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン等を挙げることができる。また、前記陽イオンと前記陰イオンとがイオン結合することにより生じた化合物としての「塩」の例としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等を挙げることができる。
【0016】
本発明の塩センサ装置では、特願2019-149024号明細書記載の塩センサ装置と同様に、前記光伝送部のコアを介して光を伝送すると、前記ヘテロコア部でクラッドに漏れ出た光が該クラッドと外界との界面で全反射するときに、外界側にしみ出したエバネッセント光が前記金属ナノ粒子層の金属ナノ粒子内の電子の集団振動と共鳴して該エバネッセント光が吸収され、前記界面で全反射する反射光が減少する。ここで、前記反射光の減少の度合いは前記ポリイオン層の屈折率に依存し、該ポリイオン層の屈折率は前記ヘテロコア部の外界に存在する塩の濃度により変化するので、本発明の塩センサ装置及び特願2019-149024号明細書記載の塩センサ装置は、いずれも、前記ヘテロコア部のクラッドと外界との界面で全反射した光の減少の度合いを検出することにより、該ヘテロコア部の外界に存在する塩の濃度を知ることができる。
【0017】
このとき、特願2019-149024号明細書記載の塩センサ装置では、前記ヘテロコア部のクラッドの外周面に1層の前記金属ナノ粒子層を備えるのみであるのに対し、本発明の塩センサ装置では、前記無機-有機複合積層膜として垂直方向に積層された複数の前記金属ナノ粒子層を備えており、特願2019-149024号明細書記載の塩センサ装置に比較して前記金属ナノ粒子の量が著しく増加している。そこで、本発明の塩センサ装置によれば、特願2019-149024号明細書記載の塩センサ装置に比較して、塩の濃度に対する感度をさらに増加させることができる。
【0018】
本発明の塩センサ装置において、前記無機-有機複合積層膜は、特願2019-149024号明細書記載の塩センサ装置に比較して、塩の濃度に対する感度をさらに増加させるために2~2000層の前記金属ナノ粒子層と前記ポリイオン層とが交互に積層してなることが好ましい。
【0019】
また、本発明の塩センサ装置において、前記金属ナノ粒子層を構成する金属ナノ粒子は、例えば、5~100nmの範囲の粒子径を備えることが好ましく、該金属ナノ粒子は金ナノ粒子であることが好ましい。
【0020】
また、本発明の塩センサ装置において、前記ポリイオン層はポリカチオン層又はポリアニオン層であることが好ましい。
【0021】
本発明の塩センサ装置において、前記ポリイオン層がポリカチオン層である場合、該ポリカチオン層はプラスに荷電しており、対イオンとして陰イオンを有している。そこで、前記ヘテロコア部の外界に塩が存在すると、該塩を構成する陰イオンが前記ポリカチオン層に含まれる陰イオンとイオン交換し、また、塩の濃度によっては、該塩を構成する陰イオンが前記ポリカチオン層に浸透する。この結果、前記ポリカチオン層は、膨潤又は収縮して屈折率が変化する。
【0022】
一方、本発明の塩センサ装置において、前記ポリイオン層がポリアニオン層である場合、該ポリアニオン層はマイナスに荷電しており、対イオンとして陽イオンを有している。そこで、前記ヘテロコア部の外界に塩が存在すると、該塩を構成する陽イオンが前記ポリカチオン層に含まれる陽イオンとイオン交換し、また、塩の濃度によっては、該塩を構成する陽イオンが前記ポリアニオン層に浸透する。この結果、前記ポリアニオン層は、膨潤又は収縮して屈折率が変化する。
【0023】
本発明の塩センサ装置は、コア及びクラッドを有する光伝送部と、該光伝送部のコア及びクラッドに各々連なるコア及びクラッドを有するヘテロコア部とを備え、該ヘテロコア部のコアが該光伝送部のコアよりも小径である光ファイバの該ヘテロコア部の外周面に、金属ナノ粒子層を形成した後、該金属ナノ粒子層上にポリイオン層を形成する操作を少なくとも2回繰り返し、複数の金属ナノ粒子層と、該金属ナノ粒子層を被覆するポリイオン層とが交互に積層してなる無機-有機複合積層膜を形成する工程を備える製造方法により、製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の塩センサ装置のセンサ部の構成を示す説明的断面図。
【
図2】本発明の塩センサ装置の装置構成を示す説明図。
【
図3】本発明の塩センサ装置により塩化ナトリウム溶液の濃度を測定する方法を示す説明的断面図。
【
図4】蒸留水に所定濃度の塩化ナトリウム水溶液を添加してから5分後における伝搬光(反射光)の強度(損失)と塩化ナトリウム水溶液の濃度との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0026】
図1に示すように、本実施形態の塩センサ装置1は、光伝送部2,2の間に挟まれた所定長のヘテロコア部3を備える光ファイバ4を備える。光伝送部2は、コア5aと、コア5aの外周面を被覆するクラッド6aとからなるマルチモード光ファイバであり、ヘテロコア部3は、コア5aより小径のコア5bと、コア5bの外周面を被覆するクラッド6bとからなるシングルモード光ファイバである。
【0027】
塩センサ装置1は、ヘテロコア部3のクラッド6bの外周面に形成された無機-有機複合積層膜7を備えている。本実施形態では、無機-有機複合積層膜7は、複数の金属ナノ粒子層、例えば2~2000層の金属ナノ粒子層と、複数のポリイオン層、例えば2~2000層のポリイオン層とが交互に積層してなり、前記金属ナノ粒子層は5~100nmの範囲の粒子径を備える金属ナノ粒子からなる。前記ポリイオン層は、プラスに荷電したポリカチオン層であってもよく、マイナスに荷電したポリアニオン層であってもよい。
【0028】
本実施形態の塩センサ装置1では、光伝送部2のコア5aを介して光を伝送すると、ヘテロコア部3でクラッド6bに漏れ出た光がクラッド6bと外界との界面で全反射するときに、外界側にエバネッセント光がしみ出し、該エバネッセント光が無機-有機複合積層膜7を構成する前記金属ナノ粒子層の金属ナノ粒子内の電子の集団振動と共鳴すると該エバネッセント光が吸収され、前記界面で全反射する反射光が減少する。ここで、前記反射光の減少の度合いは無機-有機複合積層膜7を構成するポリイオン層の屈折率に依存し、該屈折率はヘテロコア部の外界に存在する塩の濃度に対応して変化する。
【0029】
そこで、塩センサ装置1によれば、ヘテロコア部3のクラッド6bと外界との界面で全反射した光の減少の度合いを検出することにより、ヘテロコア部3の外界に存在する塩の濃度を知ることができる。
【0030】
図2に示すように、本実施形態の塩センサ装置1は、例えば、橋梁、トンネル、ビル等のコンクリート21の内部に光ファイバ4のヘテロコア部3を埋設したときに、光ファイバ4の一方の端部にLED等の光源22を接続し、光ファイバ4の一方の端部に例えばスペクトルアナライザ等の検出装置23を接続する。また、検出装置23には、検出装置23で検出された反射光の減少度合いを解析するパソコン等の解析装置24を接続する。光源22、検出装置23、解析装置24は、ヘテロコア部3が埋設されている場所から離れた場所に配置することができる。
【0031】
図2に示す塩センサ装置1によれば、光源22から照射される300~1000nmの範囲の波長、例えば425nmの波長の光が光伝送部2のコア5aに入射され、ヘテロコア部3のクラッド6bと外界との界面で全反射された反射光が光伝送部2のコア5aから出射し、検出装置23で受光される。
図2に示す塩センサ装置1では、検出装置23で受光された反射光を解析装置24で解析することにより、その減少度合いからコンクリート21中の塩の濃度を検出することができる。
【0032】
コンクリートやその内部の鉄骨は海水に含まれる塩化ナトリウムや、凍結防止剤に含まれる塩化カルシウムにより劣化することが知られているが、
図2に示す塩センサ装置1によれば、コンクリート21中の塩化ナトリウムや塩化カルシウム等の塩の濃度をInSutiで検出することができるので、コンクリートやその内部の鉄骨の劣化を適切に管理することができる。
【0033】
塩センサ装置1は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0034】
まず、光ファイバ4のヘテロコア部3のクラッド6bを3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤を用いて処理して、クラッド6bの表面にアミノ基を導入する。次に、クラッド6bの表面にアミノ基が導入されたヘテロコア部3を純水中に浸漬し、アミノ基をプロトン化する。
【0035】
次に、クラッド6bの表面に導入されたアミノ基がプロトン化されたヘテロコア部3を金属ナノ粒子懸濁液に浸漬する。このようにすると、プロトン化されたアミノ基の正電荷と、前記金属ナノ粒子表面の負電荷との相互作用により、クラッド6bの外周面に該金属ナノ粒子からなる金属ナノ粒子層を形成することができる。前記金属ナノ粒子懸濁液は、例えば、前記金属ナノ粒子が金ナノ粒子である場合には沸騰水中に所定濃度のクエン酸、クエン酸ナトリウム又はクエン酸カリウムと、所定濃度のテトラクロリド金(III)とを所定量ずつ添加し、撹拌することにより調製することができる。
【0036】
次に、クラッド6bの外周面に前記金属ナノ粒子層が形成されたヘテロコア部3を、所定濃度のポリイオン水溶液に所定時間浸漬した後、引き上げて洗浄することにより、前記金属ナノ粒子層の上に前記ポリイオン層を形成することができる。ヘテロコア部3を前記ポリイオン水溶液に浸漬した後の洗浄は、ヘテロコア部3を純水中に浸漬し、穏やかに動かすことにより行うことができる。尚、前記ポリイオン層がポリカチオン層である場合には前記ポリイオン水溶液はポリカチオン水溶液であり、前記ポリイオン層がポリアニオン層である場合には前記ポリイオン水溶液はポリアニオン水溶液である。
【0037】
前記ポリカチオン水溶液に用いるポリカチオンとしては、例えば、一級アンモニウム及びその塩、二級アンモニウム及びその塩、三級アンモニウム及びその塩、四級アンモニウム及びその塩を有する重合体を挙げることができ、具体的には、ポリアリルアミン、ポリアリルアミン塩酸塩、ビニルピロリドン-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリル酸共重合体ジエチル硫酸塩、キトサン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリリシン、ジエチルアミノエチルデキストラン、ジアリルアミン塩酸塩重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジエチルアミノエチルセルロース、デキストラン塩化ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムエーテル等を挙げることができる。
【0038】
前記ポリカチオン水溶液により形成される前記ポリカチオン層は、対イオンとして陰イオンを有しており、ヘテロコア部3の外界に塩が存在すると、該塩を構成する陰イオンが該ポリカチオン層に含まれる陰イオンとイオン交換し、また、塩の濃度によっては、該塩を構成する陰イオンが前記ポリカチオン層に浸透して、該ポリカチオン層が膨潤又は収縮することによりその屈折率が変化する。従って、本実施形態の塩センサ装置1を塩化ナトリウムの検出に用いる場合、前記対イオンの陰イオンは塩化物イオン以外であることが好ましく、前記ポリカチオン層は、該対イオンとして塩化物イオンを含まないことが好ましい。
【0039】
一方、前記ポリアニオン水溶液に用いるポリアニオンとしては、例えば、ポリアクリル酸及びその塩、ポリグルタミン酸及びその塩、ポリビニル硫酸及びその塩、カルボキシメチルデキストラン、カルボキシメチルセルロース、デキストラン硫酸及びその塩、ヒアルロン酸及びその塩、コンドロイチン硫酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、ポリスチレンスルホン酸及びその塩等を挙げることができる。
【0040】
前記ポリアニオン水溶液により形成される前記ポリアニオン層は、対イオンとして陽イオンを有しており、ヘテロコア部3の外界に塩が存在すると、該塩を構成する陽イオンが該ポリアニオン層に含まれる陽イオンとイオン交換し、また、塩の濃度によっては、該塩を構成する陽イオンが前記ポリアニオン層に浸透して、該ポリアニオン層が膨潤又は収縮することによりその屈折率が変化する。従って、本実施形態の塩センサ装置1を塩化ナトリウムの検出に用いる場合、前記対イオンの陽イオンはナトリウムイオン以外であることが好ましく、前記ポリアニオン層は、該対イオンとしてナトリウムイオンを含まないことが好ましい。
本実施形態の塩センサ装置1の製造方法では、前記金属ナノ粒子層を形成する操作と、前記ポリイオン層を形成する操作とを、2~2000回繰り返すことにより、2~2000層の金属ナノ粒子層と、2~2000層のポリイオン層とが1層ずつ交互に積層してなる前記無機-有機複合積層膜7を形成することができる。
【0041】
次に実施例及び比較例を示す。
【実施例0042】
〔実施例〕
本実施例では、まず、蒸留水100ミリリットルを沸騰させ、これに1質量%のクエン酸水溶液1ミリリットルと、1質量%のテトラクロリド金(III)酸水溶液1ミリリットルとを加え、沸騰状態のまま15分間撹拌することにより、金ナノ粒子懸濁液を調製した。前記金ナノ粒子懸濁液は、5~100nmの範囲の粒子径で表面に負電荷を有する金ナノ粒子を含んでいる。
【0043】
次に、1質量%の酢酸水溶液50ミリリットルを40℃の温度に加熱し、シランカップリング剤としての3-アミノプロピルトリメトキシシラン0.5ミリリットルを加え、ゆるやかに撹拌しながら、光ファイバ4の該ヘテロコア部を2分間浸漬した。次に、前記ヘテロコア部3を110℃の温度で2時間加熱し、該ヘテロコア部3のクラッド6bの表面にアミノ基を導入した。
【0044】
次に、クラッド6bの表面にアミノ基が導入されたヘテロコア部3を純水中に浸漬し、アミノ基をプロトン化した。
【0045】
次に、クラッド6bの表面に導入されたアミノ基がプロトン化されたヘテロコア部3を、本実施例で調製した前記金ナノ粒子懸濁液に浸漬し、クラッド6bの外周面に金ナノ粒子層を形成した。
【0046】
次に、クラッド6bの外周面に前記金ナノ粒子層が形成されたヘテロコア部3を、ポリカチオン水溶液としての20ミリモル/リットルの範囲の濃度のビニルピロリドン-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリル酸共重合体ジエチル硫酸塩水溶液に浸漬し、引き上げて純水で洗浄して、前記金ナノ粒子層上にポリカチオン層を形成した。
【0047】
本実施例では、前記金ナノ粒子層を形成する操作と、前記ポリカチオン層を形成する操作とを、5回繰り返すことにより、5層の金ナノ粒子層と、5層のポリカチオン層とが1層ずつ交互に積層してなる無機-有機複合積層膜7を形成し、
図1に示す塩センサ装置1を得た。
【0048】
次に、
図1に示す塩センサ装置1において、クラッド6bの外周面に無機-有機複合積層膜7を備えるヘテロコア部3を、
図2に示すコンクリート29に埋設する代わりに、
図3に示すように容器25に収容された蒸留水26中に浸漬した。次に、蒸留水26に順次所定濃度の塩化ナトリウム水溶液を添加して蒸留水26を塩化ナトリウム水溶液とする一方、その濃度を変量した。
【0049】
次に、所定濃度の塩化ナトリウム水溶液を添加してから5分後の各濃度の前記塩化ナトリウム水溶液に浸漬されているヘテロコア部3に対し、光源22から照射される425nmの波長の光を光伝送部2のコア5aに入射し、ヘテロコア部3のクラッド6bと外界との界面で全反射された反射光を光伝送部2のコア5aから出射させ、検出装置23で受光された反射光を解析装置24で解析した。
【0050】
次に、前記塩化ナトリウム水溶液の濃度ごとの、ヘテロコア部3が空気中にある場合の伝搬光(反射光)強度に対する、ヘテロコア部3が塩化ナトリウム水溶液に浸漬されているときの伝搬光(反射光)強度の損失(以下、「伝搬光強度の損失」と略記する)を次式(1)により算出した。結果を表1及び
図4に示す。
【0051】
尚、表1において、実施例及び比較例の数値は、伝搬光強度の損失(dB)である。また、
図4では、前記伝搬光強度の損失を、「NaCl添加から5分後の伝搬光強度(dB)として示す。
【0052】
伝搬光強度の損失(dB)=10×log10(ヘテロコア部3が塩化ナトリウム水溶液26に浸漬されているときの伝播光強度/ヘテロコア部3が空気中にある場合の伝播光強度) ・・・(1)
〔比較例〕
本比較例では、まず、蒸留水100ミリリットルを沸騰させ、これに1質量%のクエン酸水溶液1ミリリットルと、1質量%のテトラクロリド金(III)酸水溶液1ミリリットルとを加え、沸騰状態のまま15分間撹拌することにより、金ナノ粒子懸濁液を調製した。前記金ナノ粒子懸濁液は、5~100nmの範囲の粒子径で表面に負電荷を有する金ナノ粒子を含んでいる。
【0053】
次に、1質量%の酢酸水溶液50ミリリットルを40℃の温度に加熱し、シランカップリング剤としての3-アミノプロピルトリメトキシシラン0.5ミリリットルを加え、ゆるやかに撹拌しながら、光ファイバ4の該ヘテロコア部を2分間浸漬した。次に、前記ヘテロコア部3を110℃の温度で2時間加熱し、該ヘテロコア部3のクラッド6bの表面にアミノ基を導入した。
【0054】
次に、クラッド6bの表面にアミノ基が導入されたヘテロコア部3を純水中に浸漬し、アミノ基をプロトン化した。
【0055】
次に、クラッド6bの表面に導入されたアミノ基がプロトン化されたヘテロコア部3を、本比較例で調製した前記金ナノ粒子懸濁液に浸漬し、クラッド6bの外周面に金ナノ粒子層を形成した。
【0056】
次に、クラッド6bの外周面に金ナノ粒子層が形成されたヘテロコア部3を、ポリカチオン水溶液としての20ミリモル/リットルの範囲の濃度のビニルピロリドン-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリル酸共重合体ジエチル硫酸塩水溶液に浸漬し、引き上げて純水で洗浄した後、ポリアニオン水溶液としての20ミリモル/リットルの範囲の濃度のポリビニル硫酸カリウム水溶液に浸漬し、引き上げて純水で洗浄する操作を20回繰り返し、20層のポリカチオン層と、20層のポリアニオン層とが交互に積層してなる交互積層膜を形成した。この結果、クラッド6bの外周面に1層のみの金ナノ粒子層と、該金ナノ粒子層を被覆する前記交互積層膜とを備える塩センサ装置を得た。
【0057】
次に、本比較例で得られた前記塩センサ装置を用いた以外は、前記実施例と全く同一にして、前記塩化ナトリウム水溶液の濃度ごとの伝搬光強度の損失を算出した。結果を表1及び
図4に示す。
【0058】
【表1】
表1に示す数値から、伝搬光強度の損失の最大値と最小値との差で示される変化幅を算出した。前記変化幅は、実施例では、
(-2.214)-(-2.6286)=0.4146(dB)
であり、比較例では、
(-2.0395)-(-2.3113)=0.2718(dB)
である。
【0059】
従って、実施例の塩センサ装置1は、比較例の塩センサ装置に対し、感度が0.4146/0.2718=1.53(倍)に増加していることが明らかである。
1…塩センサ装置、 2…光伝送部、 3…ヘテロコア部、 4…光ファイバ、 5a、5b…コア、 6a、6b…クラッド、 7…無機-有機複合積層膜。