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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022011315
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】建設車両の障害物検知装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20220107BHJP
   E01C 19/26 20060101ALI20220107BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20220107BHJP
   B60T 17/02 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
B60T7/12 C
E01C19/26
G08G1/16 C
B60T17/02
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020112360
(22)【出願日】2020-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000182384
【氏名又は名称】酒井重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 涼平
(72)【発明者】
【氏名】森岡 則雄
(72)【発明者】
【氏名】扇谷 雅人
(72)【発明者】
【氏名】本川 伸正
【テーマコード(参考)】
2D052
3D049
3D246
5H181
【Fターム(参考)】
2D052BB05
2D052DA00
3D049AA03
3D049BB18
3D049HH12
3D049HH20
3D049HH47
3D049KK07
3D049RR01
3D049RR04
3D049RR09
3D246AA14
3D246EA01
3D246GB27
3D246GC16
3D246HA26A
3D246HA42A
3D246HA48A
3D246HA64A
3D246HB11A
3D246JB02
3D246JB05
3D246JB43
3D246LA12A
3D246LA33Z
3D246LA47Z
5H181AA07
5H181CC02
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC12
5H181CC14
5H181FF27
5H181LL01
5H181LL02
(57)【要約】
【課題】緊急ブレーキとして必要な制動力を発生させることができる建設車両の障害物検知装置を提供する。
【解決手段】建設車両の障害物検知装置であって、ブレーキ機構6は、斜板Sを備えエンジンにより駆動する走行用ポンプPと建設車両を走行させる走行用モータMとが直列に接続された油圧の第一閉回路U1と、走行用ポンプPの一方側Saに連通する第一油路T1と他方側Sbに連通する第二油路T2とで構成され斜板Sを作動させる油圧の第二閉回路U2と、第二閉回路U2に設けられ、走行用ポンプPと並列に配置された中立弁V1と、を有し、緊急ブレーキが作動した際に、傾斜している斜板Sの低圧側を加圧して斜板Sを中立に戻す加圧復元力及び斜板Sの高圧側を減圧して斜板Sを中立に戻す減圧復元力の少なくとも一方を発生させることを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサからのデータに基づいて障害物の有無を判定する判定部を備えた制御装置と、
前記判定部が前記障害物を検知した後、建設車両に緊急ブレーキを作動させるブレーキ機構と、を有する建設車両の障害物検知装置であって、
前記ブレーキ機構は、
斜板を備えエンジンにより駆動する走行用ポンプと前記建設車両を走行させる走行用モータとが直列に接続された油圧の第一閉回路と、
前記走行用ポンプの一方側に連通する第一油路と他方側に連通する第二油路とで構成され前記斜板を作動させる油圧の第二閉回路と、
前記第二閉回路に設けられ、前記走行用ポンプと並列に配置された中立弁と、を有し、
前記緊急ブレーキが作動した際に、
傾斜している前記斜板の低圧側を加圧して前記斜板を中立に戻す加圧復元力及び前記斜板の高圧側を減圧して前記斜板を中立に戻す減圧復元力の少なくとも一方を発生させることを特徴とする建設車両の障害物検知装置。
【請求項2】
前記加圧復元力及び前記減圧復元力の少なくとも一方を発生させた後、前記中立弁を連通させることを特徴とする請求項1に記載の建設車両の障害物検知装置。
【請求項3】
前記加圧復元力及び前記減圧復元力の少なくとも一方を発生させると同時に前記中立弁を連通させることを特徴とする請求項1に記載の建設車両の障害物検知装置。
【請求項4】
加圧側切替弁の切り替えによって前記斜板の低圧側に作動油が供給されて前記加圧復元力が発生し、
減圧側切替弁の切り替えによって前記斜板の高圧側の作動油が作動油タンクに戻されて前記減圧復元力が発生することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の建設車両の障害物検知装置。
【請求項5】
前記中立弁、前記加圧側切替弁及び前記減圧側切替弁の切り替えタイミングは、加圧復元力を発生させる時間、減圧復元力を発生させる時間、前記建設車両の車速、前記斜板の斜板角度、前記エンジンの回転数及び前後進レバーの位置の少なくとも一つに基づいて設定されていることを特徴とする請求項4に記載の建設車両の障害物検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設車両の障害物検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば転圧ローラ等の建設車両付近に存在する障害物を検知する障害物装置が知られている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の障害物検知装置は、センサからのデータに基づいて障害物の有無を判定する判定部を備えた制御装置と、判定部が障害物を検知した後、建設車両に緊急ブレーキを作動させるブレーキ機構と、を有する。
【0003】
ブレーキ機構は、第一閉回路と、第二閉回路と、第二閉回路に設けられた中立弁とを有している。第一閉回路は、斜板を備えたエンジンにより駆動する走行用ポンプと建設車両を走行させる走行用モータとが直列に接続して構成されている。第二閉回路は、走行用ポンプの一方側に連通する第一油路と他方側に連通する第二油路とで構成され斜板を作動させる回路である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-12394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
緊急ブレーキを作動させる際、中立弁の切り替えにより走行用ポンプの斜板を急激に中立に戻し、減速及び停止させている。しかし、走行用ポンプ、走行用モータ及び油圧回路の仕様によっては、応答性が悪く走行用ポンプの斜板が中立に戻る速度が遅い場合がある。この場合、斜板がゆっくり戻ることで急激な制動力が得られず、停止するまでに長い距離を要してしまい障害物を巻き込んでしまうおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、緊急ブレーキとして必要な制動力を発生させることができる建設車両の障害物検知装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の建設車両の障害物検知装置は、センサからのデータに基づいて障害物の有無を判定する判定部を備えた制御装置と、前記判定部が前記障害物を検知した後、建設車両に緊急ブレーキを作動させるブレーキ機構と、を有する建設車両の障害物検知装置であって、
前記ブレーキ機構は、斜板を備えエンジンにより駆動する走行用ポンプと前記建設車両を走行させる走行用モータとが直列に接続された油圧の第一閉回路と、前記走行用ポンプの一方側に連通する第一油路と他方側に連通する第二油路とで構成され前記斜板を作動させる油圧の第二閉回路と、前記第二閉回路に設けられ、前記走行用ポンプと並列に配置された中立弁と、を有し、前記緊急ブレーキが作動した際に、傾斜している前記斜板の低圧側を加圧して前記斜板を中立に戻す加圧復元力及び前記斜板の高圧側を減圧して前記斜板を中立に戻す減圧復元力の少なくとも一方を発生させることを特徴とする。
【0008】
かかる構成によれば、斜板の復元力がアシストされるため緊急ブレーキとして必要な制動力を発生させることができる。
【0009】
また、前記加圧復元力及び前記減圧復元力の少なくとも一方を発生させた後、前記中立弁を連通させることが好ましい。
また、前記加圧復元力及び前記減圧復元力の少なくとも一方を発生させると同時に前記中立弁を連通させることが好ましい。
【0010】
かかる構成によれば、より的確に斜板の復元力をアシストすることができる。
【0011】
また、加圧側切替弁の切り替えによって前記斜板の低圧側に作動油が供給されて前記加圧復元力が発生し、減圧側切替弁の切り替えによって前記斜板の高圧側の作動油が作動油タンクに戻されて前記減圧復元力が発生することが好ましい。
【0012】
かかる構成によれば、簡易な構成で斜板の復元力をアシストすることができる。
【0013】
また、前記中立弁、前記加圧側切替弁及び前記減圧側切替弁の切り替えタイミングは、加圧復元力を発生させる時間、減圧復元力を発生させる時間、前記建設車両の車速、前記斜板の斜板角度、前記エンジンの回転数及び前後進レバーの位置の少なくとも一つに基づいて設定されていることが好ましい。
【0014】
かかる構成によれば、斜板の慣性力による揺れ戻しを抑制することができるため、車両の挙動を安定させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、緊急ブレーキとして必要な制動力を発生させることができる建設車両の障害物検知装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る建設車両の障害物検知装置であって、(a)は平面図であり、(b)は側面図である。
図2】本実施形態に係る障害物検知装置のブロック図である。
図3】本実施形態に係る油圧回路の概略図である。
図4】本実施形態に係る走行用ポンプの模式図である。
図5】本実施形態に係る各切替弁のタイミングの一例である。
図6】制動距離の試験結果を示すグラフである。
図7】本発明の変形例に係る油圧回路の概略図である。
図8】各切替弁の切り替えタイミングの変形例であって、(a)は中速~高速時であり、(b)は低速時であり、(c)は極低速時である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(本実施形態)を説明する。ただし、本発明は以下の内容及び図示の内容になんら限定されず、本発明の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形して実施できる。以下の記載において、異なる実施形態において同じ部材については同じ符号を付し、重複する説明は省略する。また、同じ機能のものについては同じ名称を使用し、重複する説明は省略する。
【0018】
図1に示すように、本発明の建設車両の障害物検知装置1(以下、単に「障害物検知装置」という。)は、低速走行しながら作業を行う転圧ローラ等の建設車両に搭載される。図1は、タイヤ11でアスファルト路面等の転圧を行うタイヤローラ10に障害物検知装置1を搭載した場合を示している。タイヤローラ10はあくまで例示であって、他の建設車両に障害物検知装置1を搭載してもよい。
【0019】
図2において、障害物検知装置1は、投射光と反射光との時間差から距離を測定するTOF(Time Of Flight)方式の距離画像センサ(3D距離センサ)2と、距離画像センサ2の測定データに基づいて障害物Gの有無を判定する制御装置3と、を備えている。
【0020】
距離画像センサ2は、赤外線等の投射光を発光する発光部と、投射光が物体に当たった際の反射光を受光する受光部とを備えている。発光部から赤外線を送ってから反射光を受光部で受信するまでの時間を計測することで対象までの距離が測定される。距離画像センサ2からの投射角度は、例えば横方向角度が95°、縦方向角度(図1(b)に示す符号θ1)が32°であり、投射断面が横長矩形状を呈している。画像分解能は、例えば横方向に64ピクセル、縦方向に16ピクセルの計1024ピクセルである。距離画像センサ2は、タイヤローラ10の後部の車幅方向中央部に、投射光が後進方向斜め下に投射されるように取り付けられている。
【0021】
障害物Gの検知範囲に関して、投射光の投射範囲をそのまま検知範囲に設定すると、つまり車幅方向の寸法L1をタイヤローラ10の車幅寸法よりも広く設定すると、衝突のおそれがないにもかかわらず障害物Gがあると認識されて、車両が無駄に停止する事態が生じる。そのため、車幅方向に関する検知範囲(図1に斜線にて示す)4の寸法L1は、タイヤローラ10の車幅寸法と略同じに設定することが好ましい。距離画像センサ2は、障害物Gまでの距離を測定できるため、ピクセル毎の測定データ、具体的には距離画像センサ2と障害物Gとの車幅方向の距離から、車幅寸法に設定された検知範囲4に障害物Gが存在するか否かを制御装置3の判定部31(図2参照)で判定できる。このように距離画像センサ2を用いることにより、検知範囲4の寸法L1を車両前後方向にわたって一定に確保できる。つまり、検知範囲4を、図1(a)に示すように平面視で、1辺を寸法L1とした略矩形状の範囲に容易に設定することができる。検知範囲4の車両前後方向の寸法L2は、常用される走行速度に応じて適宜に設定され、本実施形態では例えば3メートル程度に設定される。
【0022】
また、距離画像センサ2の投射光が後進方向斜め下に投射されるので、平面視したときの投射光の横方向角度θ2は、95°よりも一層大きな範囲となる。したがって、タイヤローラ10の後部両端と検知範囲4との間に形成される非検知範囲5,5について、その車両前後方向の距離L3を小さく抑えることができる。つまり、車両後部の両脇に形成される非検知の死角を小さくできる。
【0023】
制御装置3は、検知範囲4に障害物Gがあると判定したとき、車両にブレーキをかけるブレーキ機構6を備えている。制御装置3は、例えば、運転席の操作パネルに設けられている。
【0024】
ブレーキ機構6の一例を説明する。図3において、図示しないエンジンにより駆動する走行用ポンプPと、タイヤ11(図1)を回転させる走行用モータMとは、直列に接続されて油圧の第一閉回路U1を構成している。走行用ポンプPは、斜板Sを備えた斜板式ポンプである。また、走行用ポンプPには、チャージポンプP1が設けられている。
【0025】
走行用ポンプPには、斜板Sを作動させるための第一油路T1と第二油路T2とが接続され油圧の第二閉回路U2が構成されている。第二閉回路U2には、走行用ポンプPと並列に2位置2ポートの中立弁(電磁バルブ)V1が設けられている。
【0026】
また、チャージポンプP1と第二閉回路U2上の中間点N1とをつなぐバイパス油路T3には、2位置2ポートの加圧側切替弁(電磁バルブ)V2が設けられている。第二油路T2と第二閉回路U2とが接続される点を中間点N3とすると、中間点N1は中間点N3と中立弁V1との間に設定されている。バイパス油路T3において、加圧側切替弁V2よりもチャージポンプP1側には第一オリフィスF1が設けられている。
【0027】
また、作動油タンクTと第二閉回路U2上の中間点N2とをつなぐ戻り油路T4には、2位置2ポートの減圧側切替弁(電磁バルブ)V3が設けられている。第一油路T1と第二閉回路U2とが接続される点を中間点N4とすると、中間点N2は中間点N4と中立弁V1との間に設定されている。戻り油路T4において、減圧側切替弁V3よりも作動油タンクT側には第二オリフィスF2が設けられている。
【0028】
図2に示すように、制御装置3の記憶部32には、中立弁V1、加圧側切替弁V2及び減圧側切替弁V3を切り替えるタイミングが規定されたデータファイル等が記憶されている。
【0029】
エンジンがかかっているとき、中立弁V1は図3における左位置にあり、第一油路T1と第二油路T2とが連通していない状態となる。したがって、エンジンがかかっているときに、運転席周りの前後進レバーを前進位置側に傾けると、第二油路T2側が高圧になり斜板Sが一方側に傾く。これにより、第一閉回路U1において圧油が一方向側に流れ、走行用モータMが一方向に回転して車両が前進する。前後進レバーを後進位置側に傾けると、第一油路T1側が高圧になり斜板Sが他方側に傾く。これにより、閉回路UIにおいて圧油が他方向側に流れ、走行用モータMが他方向に回転して車両が後進する。
【0030】
エンジンがかかっていないとき、中立弁V1は図3に示すように右位置にあり、第一油路T1と第二油路T2とは連通した状態となっている。これにより、第一油路T1と第二油路T2との間で差圧が生じないため、斜板Sは中立位置に位置する。これにより、第一閉回路U1においてHST(Hydro Static Transmission)ブレーキが作用する。
【0031】
ここで、例えば、従来のブレーキ機構は、後進中に障害物が検知されたとき、制御装置3は、ブレーキ信号を出力して中立弁V1を左位置から右位置に切り替える。これにより、エンジンがかかった状態でかつ前後進レバーが後進位置側に傾いたままであっても、斜板Sが中立位置に位置し、第一閉回路U1においてHSTブレーキが作用して、走行用モータMが停止する。
【0032】
ところが、従来の構成であると、中立弁V1で走行用ポンプPの斜板Sを連通させても応答性が悪く、走行用ポンプPの斜板が中立に戻る速度が遅い場合がある。この場合、斜板Sがゆっくり戻ることで急激な制動力が得られず、停止するまでに長い距離を要してしまい障害物を巻き込んでしまうおそれがある。
【0033】
これに対し、本実施形態のブレーキ機構6は、例えば、後進中に障害物が検知されたとき、斜板Sの低圧側を加圧して斜板Sを中立に押し戻す加圧復元力及び斜板Sの高圧側を減圧させて斜板Sを中立に戻す押し減圧復元力を発生させる。例えば、図4では、斜板Sが傾いており、駆動軸Scに対して下側が低圧側、上側が高圧側になっている。したがって、本実施形態では、斜板Sの一方側Saを加圧して加圧復元力を発生させるとともに、他方側Sbを減圧して減圧復元力を発生させる。なお、斜板Sの高圧側又は低圧側は走行用ポンプPに設けられた圧力計や斜板角センサなどで認識することができる。
【0034】
具体的には、制御装置3は、加圧信号を出力して加圧側切替弁V2を右位置から左位置に切り替えて加圧側切替弁V2を連通させる。これにより、チャージポンプP1によって補充された作動油が、走行用ポンプPの一方側の受圧部Paを介して斜板Sの一方側Saに供給されて低圧側が加圧される。これにより、斜板Sが中立になるのをアシストすることができる。
【0035】
また、制御装置3は、減圧信号を出力して減圧側切替弁V3を右位置から左位置に切り替えて減圧側切替弁V3を連通させる。これにより、走行用ポンプPの他方側の受圧部Pb及び戻り油路T4を介して斜板Sの他方側Sbの作動油が作動油タンクTに戻るため、斜板Sが中立になるのをアシストすることができる。
【0036】
制御装置3が障害物Gがあると判定してからブレーキ信号(加圧信号及び減圧信号)を出力するまでのタイミング、つまりブレーキ機構6のブレーキの開始タイミングは、車両の走行速度に応じて変化させることが好ましい。制御装置3は、走行速度に応じて予め設定したブレーキ開始距離と、距離画像センサ2で測定した検知範囲4に存在する障害物Gまでの距離とを比較し、障害物Gまでの距離がブレーキ開始距離以下になったとき、加圧側切替弁V2に加圧信号を、減圧側切替弁V3に減圧信号を出力する。
【0037】
ブレーキ開始距離は、例えば車両の実測の限界制動距離よりも若干余裕を持った距離に設定される。車両の走行速度を検出する車速センサ7(図2)としては、タイヤの回転数を検出するロータリエンコーダ等の近接センサが挙げられる。
【0038】
図5に示すように、例えば、車両が中速~高速で走行している場合において、制御装置3は、加圧信号及び減圧信号を出力してからt秒後に中立信号を出力して中立弁V1を左位置から右位置に切り替えて中立弁V1を連通させる。仮に、車両が中速~高速で走行している場合において、中立信号を出力した後に加圧信号を出力すると、加圧復元力によって斜板Sが反対側に倒れ、揺れ戻しが発生し車両の挙動が不安定になるおそれがある。この点、本実施形態では、加圧信号及び減圧信号を出力して、斜板Sが中立に戻った後(戻る直前)、中立弁V1を連通させて圧力差がないようにすることで、斜板Sが復元する際の慣性力を抑え、揺れ戻しを防ぐことができる。
【0039】
また、図5に示すように、車両が中速~高速で走行している場合において、制御装置3は、加圧信号及び減圧信号を出力してからt秒後に加圧側切替弁V2を右位置に切り替えて遮断し、加圧を終了する。一方、制御装置3は、減圧側切替弁V3の連通状態を維持する。仮に、車両が中速~高速で走行している場合において、加圧信号及び減圧信号を出力してからt秒後に加圧側切替弁V2及び減圧側切替弁V3の流路を両方とも遮断すると、圧力変動が大きくなり、斜板Sが波打ってしまうおそれがある。したがって、加圧信号及び減圧信号を出力してからt秒後に加圧側切替弁V2を遮断しつつ、減圧側切替弁V3は連通させて作動油を作動油タンクTに戻すことで圧力変動を抑えることができる。これにより、斜板Sが波打つのを防ぐことができ、安定して斜板Sを復元させることができる。
【0040】
また、本実施形態では、バイパス油路T3に第一オリフィスF1が設けられ、戻り油路T4に第二オリフィスF2が設けられている。第一オリフィスF1及び第二オリフィスF2を設けることで作動油の流量が絞られるため、加圧復元力及び減圧復元力の微調整を行うことができる。なお、第一オリフィスF1及び第二オリフィスF2は省略してもよいし、いずれか一つを設けるだけでもよい。
【0041】
図6は、制動距離の試験結果を示すグラフである。この試験では、建設車両を時速8.0km/hで後進させ各種ブレーキ手段を作動させてから停止するまでの制動距離を計測した。建設車両は酒井重工業株式会社製のタンデムローラSW504を用いた。
【0042】
図6に示すように、結果(実施例1)H1は、本実施形態に係る障害物検知装置1の制動距離を示している。なお、結果H1では、前記した実施形態において第一オリフィスF1を省略し、第二オリフィスF2のみを設けている。
【0043】
結果H2は、フットブレーキを操作した時の制動距離を示している。結果H3は、前後進レバーを人力で中立位置(ニュートラル)に戻した時の制動距離を示している。結果H4は、運転中にエンジンを強制的にOFFにした時の制動距離を示している。結果H5は、駐車ブレーキを作動させた時の制動距離を示している。
【0044】
また、結果(比較例1)H6は、従来の障害物検知装置の緊急ブレーキのように、ブレーキ信号により中立弁を切り替えて斜板を中立に戻し、走行用ポンプPの高圧側と低圧側を同圧にして停止させた時の制動距離を示している。
【0045】
比較例1の結果H6では制動距離が約7.0mであったのに対し、実施例1の結果H1では制動距離を約1.2mとすることができた。また、実施例1によれば、結果H2~H5に示すようにタンデムローラSW504が備えている他のブレーキ手段よりも制動距離を短くすることができる。
【0046】
以上説明した本実施形態に係る障害物検知装置1によれば、走行用ポンプPの斜板Sの低圧側を加圧して加圧復元力を発生させることで、斜板Sの復元力をアシストすることができる。また、走行用ポンプPの高圧側を減圧して減圧復元力を発生させることで、斜板Sの復元力をアシストすることができる。また、加圧側復元力及び減圧復元力はいずれか一方を備えるだけでも本発明の効果を奏するが、本実施形態のように、加圧復元力及び減圧側復元力の両方を発生させることで、より速やかにかつ安定して斜板Sを復元させることができる。
【0047】
また、本実施形態のように、加圧復元力及び減圧復元力の少なくとも一方を発生させた後(例えばt秒後)、中立弁V1を連通させて第二閉回路U2に作動油を流通させることが好ましい。かかる構成によれば、斜板Sが反対側に倒れて揺れ戻しが発生するのを防ぐことができる。これにより、車両の停止時に揺れ戻しが発生するのを防ぐことができ、舗装体の損傷を防ぐことができる。
【0048】
また、加圧側切替弁V2の切り替えによって斜板Sの低圧側に作動油が供給されて加圧復元力が発生し、減圧側切替弁V3の切り替えによって斜板Sの高圧側の作動油が作動油タンクに戻されて減圧復元力が発生するように構成した。これにより、簡易にブレーキ機構6を構成することができる。
【0049】
換言すると、既存の油圧回路にバイパス油路T3及び加圧側切替弁V2を設けるだけで加圧復元力を付与することができる。また、既存の回路に戻り油路T4及び減圧側切替弁V3を設けるだけで減圧復元力を付与することができる。このように、既存の油圧回路を利用して、簡易な機構を加えるだけで上記の効果を得ることができるとともに、既存の建設車両にも後から本発明を取り付けることができる。
【0050】
ここで、例えば、ブレーキ信号が出力されたら、前後進レバーを物理的に中立に戻して車両を停止させる方法もある。しかし、当該方法であると、運転者の操作に反して前後進レバーが急に中立に戻されるため、前後進レバーが運転者の手に接触し、損傷するおそれがある。また、運転者の意図しない動作であるため、運転者への負荷が大きくなる。
一方、例えば、ブレーキ信号が出力されたら、前後進レバーを物理的に中立に戻して車両を停止させる方法において、前後進レバーが破損していたり、異物が引っ掛かったりして前後進レバーがそもそも中立に戻らず、車両を停止させることができない場合もある。
【0051】
この点、本実施形態によれば、ブレーキ機構6を構成したことで、前後進レバーを物理的に中立に戻すことなく車両を停止させることができ、前後進レバーによって運転者が損傷するようなおそれは無い。また、本実施形態によれば、斜板Sの揺れ戻しや波打ちを抑制して安定して制動させることができ、運転者への負荷を小さくすることができる。
【0052】
<変形例>
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明の趣旨に反しない範囲で適宜設計変更が可能である。図7は、本発明の変形例に係る油圧回路の概略図である。前記した実施形態では、後進時のみに緊急ブレーキが作動する場合を例示したが、後進時及び前進時の両方で緊急ブレーキが作動するように構成してもよい。
【0053】
当該変形例では、図7に示すように、第二閉回路U2に前後進時切替弁(電磁弁)V4を設けている。前後進時切替弁V4は、第二閉回路U2の流れ方向を切り替える弁である。車両の進行方向の切り替えに応じて、制御装置3は、前後進時切替弁V4を右位置又は左位置に切り替える。前後進時切替弁V4は、車両の後進時及び前進時の両方で緊急ブレーキを作動させる場合、これに伴って第二閉回路U2作動油の流れ方向も切り替えることができる。これにより、加圧復元力及び減圧復元力を適切に発生させることができる。
【0054】
ここで、図8は、各切替弁の切り替えタイミングの変形例であって、(a)は中速~高速時であり、(b)は低速時であり、(c)は極低速時である。当該変形例のように、各切替弁の切り替えタイミングは、車両の速度に応じて変化させてもよい。
【0055】
車両の中速~高速時とは、第一閉回路U1の油量が、例えば40%以上である場合を言う。車両の低速時とは、第一閉回路U1の油量が、例えば、30%以上40%未満である場合を言う。車両の極低速時とは、第一閉回路U1の油量が、例えば30未満である場合を言う。なお、各速度の閾値はあくまで例示である。また、油量以外の要素で各切替弁の切り替えタイミングを変化させてもよい。
【0056】
図8(a)に示すように、車両が中速~高速で走行している場合、緊急ブレーキが作動して加圧側切替弁V2及び減圧側切替弁V3をいずれも連通させて加圧復元力及び減圧復元力を発生させた後、t秒後に中立弁V1を連通させつつ加圧側切替弁V2及び減圧側切替弁V3の連通状態をいずれも維持するように設定してもよい。つまり、前記した実施形態では、t秒後に加圧側切替弁V2を遮断したが、当該変形例のように加圧側切替弁V2の連通状態を維持してもよい。
【0057】
車両が中速~高速の場合、t秒後に加圧側切替弁V2を遮断すると、斜板Sの揺れ戻しが発生する場合がある。しかし、当該変形例によれば、加圧側復元力を維持しつつ、第二オリフィスF2から少しずつ作動油を作動油タンクTに戻すことで斜板Sの揺れ戻しの発生を防ぐことができる。
【0058】
図8(b)に示すように、車両が低速で走行している場合、緊急ブレーキが作動して加圧側切替弁V2及び減圧側切替弁V3をいずれも連通させて加圧復元力及び減圧復元力を発生させると同時に、中立弁V1を連通させつつ、t秒後に中立弁V1、加圧側切替弁V2及び減圧側切替弁V3の連通状態をいずれも維持するように設定してもよい。当該変形例によれば、車両が低速であるため、加圧復元力及び減圧復元力を発生させると同時に、中立弁V1を連通させても斜板Sの揺れ戻しは発生し難い状態にある。そこで、中立弁V1を、加圧側切替弁V2及び減圧側切替弁V3と同時に切り替えて連通させることで、斜板Sの揺れ戻しの発生を抑制しつつ、斜板Sを速やかに中立に戻すことができる。
【0059】
図8(c)に示すように、車両が極低速で走行している場合、緊急ブレーキが作動して減圧側切替弁V3を連通させて減圧復元力を発生させると同時に、中立弁V1を連通させつつt秒後に中立弁V1及び減圧側切替弁V3の連通状態をいずれも維持するように設定してもよい。この時、加圧側切替弁V2は遮断状態を維持する。当該変形例によれば、車両が極低速であり、第一閉回路U1を流れる作動油の油量が少ないため、減圧復元力を発生させるだけで揺れ戻しを発生させることなく斜板Sを中立に戻すことができる。
【0060】
なお、車両が極低速で走行している場合、緊急ブレーキが作動して加圧側切替弁V2を連通させて加圧復元力を発生させると同時に、中立弁V1を連通させつつt秒後に中立弁V1及び加圧側切替弁V2の連通状態をいずれも維持するように設定してもよい。この時、減圧側切替弁V3は遮断状態を維持する。
【0061】
これらのように、中立弁V1、加圧側切替弁V2及び減圧側切替弁V3の切り替えタイミングは、適宜設定すればよい。これらのタイミングは、車両の走行の慣性(第一閉回路U1の作動油の動き)、即ち斜板Sが傾き続けようとする力と、加圧及び/又は減圧によって斜板Sを中立に戻そうとする力のバランスを勘案して適宜設定すればよい。これらの変形例によれば、車両の車速に応じて各切替弁の切り替えタイミングを変化させることにより、斜板Sをより早く中立に戻すとともに、車両の停止直前の揺れ戻しをより小さくすることができる。
【0062】
また、前記した実施形態では、図5及び図8(a)、(b)、(c)に示すように緊急ブレーキが作動してから加圧側切替弁V2及び減圧側切替弁V3を切り替えるタイミングを「時間」で設定したがこれに限定するものではない。
【0063】
斜板Sの復元力は、走行ポンプ、走行モータ及び油圧回路の仕様によって異なるし、エンジンの回転数による作動油の流量や、斜板Sの傾き角度、斜板Sの負荷等によっても異なる。したがって、各切替弁の切り替えタイミングは、緊急ブレーキを作動させてからの時間、建設車両の車速、斜板Sの斜板角度、エンジンの回転数及び前後進レバーの位置の少なくとも一つに基づいて適宜設定すればよい。
【0064】
このとき、例えば、車速センサ7(図2参照)、斜板角センサ、エンジン回転数センサ、前後進レバーの位置センサから得られる測定データに基づいて、各切替弁の切り替えタイミングを設定することができる。これらのタイミングは、制御装置3の記憶部32にデータファイルとして記憶させることができる。これにより、車両の状況に応じて、より的確に安定して制動させることができる。
【0065】
また、緊急ブレーキが作動した際に、音や光などの警報装置を連動させて注意喚起を行ってもよい。また、物体検知センサとして投射及び反射を利用して物体までの距離を測定することができるTOF(Time Of Flight)方式の距離画像センサ(3D距離センサ)2を例示したが、これに限定されるものではない。物体検知センサとしては、例えば、所定範囲内における物体を検知可能な超音波方式、マイクロ波式、レーザー光方式、赤外線方式、レーダー方式、ライダー方式、ステレオカメラ方式、単眼カメラ方式等のセンサであってもよい。また、前記した方法とは別の方法で、加圧復元力及び減圧復元力を発生させてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 障害物検知装置
2 距離画像センサ(センサ)
3 制御装置
4 検知範囲
6 ブレーキ機構
7 車速センサ
10 タイヤローラ(建設車両)
V1 中立弁
V2 加圧側切替弁
V3 減圧側切替弁
V4 前後進時切替弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8