(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113174
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】サイクロイド系歯車及び歯車機構
(51)【国際特許分類】
F16H 55/08 20060101AFI20220728BHJP
F16H 1/32 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
F16H55/08 A
F16H1/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009218
(22)【出願日】2021-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】592246392
【氏名又は名称】株式会社サイベックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100100055
【弁理士】
【氏名又は名称】三枝 弘明
(72)【発明者】
【氏名】平林 巧造
(72)【発明者】
【氏名】加藏 新之輔
【テーマコード(参考)】
3J027
3J030
【Fターム(参考)】
3J027FC05
3J027GA01
3J027GB03
3J027GC03
3J027GC24
3J027GD02
3J027GD04
3J027GD08
3J027GD12
3J027GD14
3J030BA01
3J030BB11
(57)【要約】
【課題】歯形に対する荷重や接触応力の低減を図ることにより、剛性や耐久性を向上させることの可能なサイクロイド系歯車を実現する。
【解決手段】サイクロイド歯車の歯形形状を備える歯形を基本歯形101とし、該基本歯形の1ピッチの単位歯形に対応する中心角をθとしたとき、基本歯形を正逆両方向にΔθだけそれぞれ回転させてなる正転基本歯形102と逆転基本歯形103を設け、基本歯形の歯元側部分と、基本歯形の歯末側部分との間のピッチ点101tを中心として、中心角θの両側のΔθの部分を除いた修正後中心角φ=θ/Nの範囲内に存在する基本歯形、正転基本歯形及び逆転基本歯形の各歯形部分のうち、基本歯形のピッチ点側にある歯元側基本歯形部分及び歯末側基本歯形部分と、正転基本歯形及び逆転基本歯形のピッチ点とは逆側の正転基本歯形部分及び逆転基本歯形部分とを有する合成単位歯形を1ピッチの単位歯形とする修正歯形を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイクロイド曲線若しくはサイクロイド曲線を歯形補正したサイクロイド歯車の歯形を基本歯形とし、該基本歯形の1ピッチの単位歯形に対応する中心角をθとしたとき、前記基本歯形を正逆両方向にΔθ=(1-1/N)・θ/2(Nは2以上の自然数)だけそれぞれ回転させてなる正転基本歯形と逆転基本歯形を設け、前記基本歯形の歯元側部分と、前記基本歯形の歯末側部分との間のピッチ点を中心として、前記中心角θの両側のΔθの部分を除いた修正後中心角φ=θ/Nの範囲内に存在する前記基本歯形、前記正転基本歯形及び前記逆転基本歯形の各歯形部分のうち、前記基本歯形の前記ピッチ点の側にある歯元側基本歯形部分及び歯末側基本歯形部分と、前記正転基本歯形及び前記逆転基本歯形の前記ピッチ点とは逆側の両端部にそれぞれ存在する正転基本歯形部分及び逆転基本歯形部分とを有する合成単位歯形を1ピッチの単位歯形とする修正歯形を備えるサイクロイド系歯車。
【請求項2】
前記合成単位歯形は、前記歯元側基本歯形部分と前記逆転基本歯形部分との間、若しくは、前記歯末側基本歯形部分と前記正転基本歯形部分との間、の少なくともいずれか一方に、両側の歯形部分とは異なる歯形形状を備える接続領域を有する、
請求項1に記載のサイクロイド系歯車。
【請求項3】
前記接続領域は、前記両側の歯形部分に対して滑らかに接続される曲線状に構成される、
請求項2に記載のサイクロイド系歯車。
【請求項4】
相互に噛合する第1の歯車と第2の歯車とを有し、前記第1の歯車と前記第2の歯車の少なくとも一方が請求項1-3の何れか一項に記載の前記サイクロイド系歯車からなる歯車機構。
【請求項5】
前記第1の歯車と前記第2の歯車は、相互に噛合可能な第1の前記基本歯形と第2の前記基本歯形にそれぞれ基づき、共に同じNの値を用いて形成される修正歯形を備える、
請求項4に記載の歯車機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサイクロイド系歯車及び歯車機構に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、サイクロイド歯車は、ピッチ円上でエピサイクロイド曲線とハイポサイクロイド曲線が正接の条件で繋がり、ピッチ円上では必ず圧力角が0になるため、高い効率が得られることで知られている。このサイクロイド歯車を用いた歯車機構としては、外歯歯車と内歯歯車とが噛合した内接噛合遊星歯車機構が知られ、これは、高い減速比を得ることのできるサイクロイド減速機として用いられている。
【0003】
従来のサイクロイド歯車を用いた内接噛合遊星歯車機構としては、以下の特許文献1および特許文献2に開示された機構が知られている。例えば、特許文献1には、第1軸と、この第1軸に対して偏心回転可能な状態で取り付けられた外歯歯車と、この外歯歯車が内接噛合する内歯歯車と、前記外歯歯車に対してその自転成分のみを伝達する手段を介して連結された第2軸と、を具備する内接噛合遊星歯車機構が記載されている。また、特許文献2には、上記機構において、外歯歯車と内歯歯車をサイクロイド歯車で構成し、外歯のハイポサイクロイド曲線の転円径を外歯のエピサイクロイド曲線の転円径よりも大きく、 内歯のハイポサイクロイド曲線の転円径を内歯のエピサイクロイド曲線の転円径よりも小さくするとともに、外歯のハイポサイクロイド曲線の転円径と内歯のエピサイクロイド曲線の転円径を等しく、外歯のエピサイクロイド曲線の転円径を内歯のハイポサイクロイド曲線の転円径と等しくすることにより、外歯歯車と内歯歯車の双方の歯形を補正してクリアランスを設定し、両歯車の干渉を回避している。
【0004】
しかしながら、上記従来の内接噛合遊星歯車機構においては、外歯と内歯の間のエピサイクロイド曲線間とハイポサイクロイド曲線間のそれぞれの転円径差によってクリアランスを設定しているため、歯先と歯底のクリアランスをピッチ円上のクリアランスと独立に設定することができない。その結果、内接噛合遊星歯車機構の設計自由度が狭められるため、伝達効率や耐久性などの性能改善や歯車の材質などの状況に応じた強度設計などを阻害するという問題点がある。
【0005】
そこで、特許文献3に記載のサイクロイド歯車では、エピサイクロイド曲線とハイポサイクロイド曲線の少なくとも一方が転円の半径を回転角γに応じて変化させたときに形成される変形サイクロイド曲線であることにより、転円半径の変動態様を変えることが可能になるとともに、転円周と頂点位置の歯先高さ又は歯底深さとの間に従来と異なる新たな相関関係が導入されることから、転円周と頂点位置の歯先高さ又は歯底深さとを独立して設定することが可能になるので、サイクロイド歯車においてり基準歯形からの歯形補正を行う際に、ピッチ円上の公差と歯先又は歯底における公差とを別々に設定したり、実質的に転円径を変えずに歯先や歯底の補正量を調整したりすることが可能になるため、最適設計が容易になるとともに、設計自由度を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-243486号公報
【特許文献2】特開2004-44685号公報
【特許文献3】特許第5970650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述のように、サイクロイド歯車では、理論的には高い効率が得られるものの、実際には、製造を容易化するために、また、製造時の加工誤差による干渉を防止する目的で歯先や歯底を逃がすために、歯形補正が必要とされる。しかし、これらの歯形補正により、かみ合い率が低下するとともに、かみ合いが生ずる領域は曲率半径の小さいピッチ円付近に制限される。したがって、かみ合い率の低下により負荷が加わる歯の数が低下し、かみ合い領域も制限されるため、一つの歯に対する荷重が増大し、接触応力(ヘルツ応力)が増大するという問題がある。
【0008】
上記の状況を回避するための一つの手段として、転円径を小さくすることによって歯数を多くし、負荷が加わる歯の数を増大させるという方法が考えられる。しかし、この方法では、かみ合い部分の曲率半径がさらに小さくなってしまうため、接触応力を低減することができないという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は上記問題を解決するものであり、その課題は、歯形に対する荷重や接触応力の低減を図ることにより、剛性や耐久性を向上させることの可能なサイクロイド系歯車を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のサイクロイド系歯車は、サイクロイド曲線若しくはサイクロイド曲線を歯形補正したサイクロイド歯車の歯形を基本歯形とし、該基本歯形の1ピッチの単位歯形に対応する中心角をθとしたとき、前記基本歯形を正逆両方向にΔθ=(1-1/N)・θ/2(Nは2以上の自然数)だけそれぞれ回転させてなる正転基本歯形と逆転基本歯形を設け、前記基本歯形の歯元側部分と、前記基本歯形の歯末側部分との間のピッチ点を中心として、前記中心角θの両側のΔθの部分を除いた修正後中心角φ=θ/Nの範囲内に存在する前記基本歯形、前記正転基本歯形及び前記逆転基本歯形の各歯形部分のうち、前記基本歯形の前記ピッチ点の側にある歯元側基本歯形部分及び歯末側基本歯形部分と、前記正転基本歯形及び前記逆転基本歯形の前記ピッチ点とは逆側の両端部にそれぞれ存在する正転基本歯形部分及び逆転基本歯形部分とを有する合成単位歯形を1ピッチの単位歯形とする修正歯形を備える。
【0011】
本発明において、前記合成単位歯形は、前記歯元側基本歯形部分と前記逆転基本歯形部分との間、若しくは、前記歯末側基本歯形部分と前記正転基本歯形部分との間、の少なくともいずれか一方に、両側の歯形部分とは異なる歯形形状を備える接続領域を有することが望ましい。この場合において、前記歯元側基本歯形部分と前記逆転基本歯形部分の間と、前記歯末側基本歯形部分と前記正転基本歯形部分の間の双方に前記接続領域を有することがより望ましい。ただし、前記合成単位歯形は、前記歯元側基本歯形部分と前記逆転基本歯形部分との交点からなる第1の接続点と、前記歯末側基本歯形部分と前記正転基本歯形部分との交点からなる第2の接続点とを備えていてもよい。また、上記接続領域は、両側の上記歯形部分に対して滑らかに接続されることが好ましい。さらに、上記接続領域の前記歯形形状は曲線状であることが特に望ましい。さらに、上記合成単位歯形のうちの上記歯元側基本歯形部分及び(又は)上記逆転基本歯形部分のピッチ円上からの半径方向の範囲と、上記合成単位歯形の歯元側深さとの比率、並びに、上記合成単位歯形のうちの上記歯末側基本歯形部分及び(又は)上記正転基本歯形部分のピッチ円上からの半径方向の範囲と、上記合成単位歯形の歯末側高さとの比率は、それぞれ、50%~95%の範囲内であることが好ましく、60%~85%の範囲内であることが望ましい。
【0012】
本発明に係る歯車機構は、相互に噛合する第1の歯車と第2の歯車とを有し、前記第1の歯車と前記第2の歯車の少なくとも一方が前記サイクロイド系歯車からなる。この場合に、前記第1の歯車と前記第2の歯車の双方が前記サイクロイド系歯車からなることが好ましい。特に、前記第1の歯車と前記第2の歯車は、相互に噛合可能な第1の前記基本歯形と第2の前記基本歯形にそれぞれ基づき、共に同じNの値を用いて形成される修正歯形を備えることが望ましい。また、外歯を備えた第1の歯車と、前記外歯と噛合する内歯を備えた第2の歯車と、を具備する歯車機構であって、前記外歯と前記内歯の少なくとも一方が前記サイクロイド系歯車を構成することが好ましい。この場合において、前記外歯と前記内歯の双方が前記サイクロイド系歯車を構成することが望ましい。特に、前記外歯と前記内歯は、相互に噛合可能な第1の前記基本歯形と第2の前記基本歯形にそれぞれ基づき、共に同じNの値を用いて形成される修正歯形を備えることが望ましい。
【0013】
本発明において、前記第1の歯車と前記第2の歯車のうちの一方の歯車と偏心して回転可能な状態で取付けられた第1軸と、前記第1の歯車と前記第2の歯車のうちの他方の歯車に対してその自転成分のみを伝達する手段を介して連結された第2軸と、を具備することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、歯形に対する荷重や接触応力の低減を図ることにより、剛性や耐久性を向上させることの可能なサイクロイド系歯車を実現することができる。特に、歯数を増大させることにより、歯車の剛性向上、バックラッシの低減、コストの低減を図ることが可能になる。また、これにより、歯車の薄型化も可能になるので、成形加工の容易化や高精度化とともに、歯車機構のコンパクト化や低コスト化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係るサイクロイド系歯車の実施形態の構造(N=3)を説明するための説明図(a)~(c)である。
【
図2】同実施形態の構造(N=3)を説明するための説明図(a)~(c)である。
【
図3】同実施形態の歯形を拡大して示す図(a)及び(b)である。
【
図4】同実施形態を適用した外歯歯車と内歯歯車からなる歯車機構の第1の設計例である基本歯形を示す図(a)と実施例の歯車機構を示す図(b)、並びに、第2の設計例である基本歯形を示す図(c)と実施例の歯車機構を示す図(d)である。
【
図5】同実施形態において用いることの可能な、サイクロイド歯形に対して転円補正値J、歯底補正値K、歯先補正値Lを用いて歯形補正を行った基本歯形の例を示す説明図(a)及び(b)である。
【
図6】同実施形態において用いる基本歯形(点線)と、これに基づいてN=2で修正を行ったサイクロイド系歯車の修正歯形(実線)とを示す説明図(a)~(c)である。
【
図7】同実施形態のベースとなる各基本歯形例において用いる外歯歯車1と内歯歯車2の噛合状態を模式的に示す図である。
【
図8】同実施形態の歯車を備えた遊星歯車機構を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、添付図面を参照して本発明に係るサイクロイド系歯車及びこれを用いた歯車機構の実施形態について詳細に説明する。最初に、
図1、
図2、
図3を参照して、本発明に係るサイクロイド系歯車の構造について説明する。
【0017】
図1及び
図2は、本実施形態のサイクロイド系歯車の構造及び設計方法を説明するための説明図である。
図1(a)は、一般的なサイクロイド歯車100の構成例を模式的に示す。このサイクロイド歯車100は、本実施形態のサイクロイド系歯車の歯形のベースとなる基本歯形101を備える。この基本歯形101は、ピッチ円101pの内側においてピッチ円101p上を転動する転円上の定点の軌跡で表わされるハイポサイクロイド曲線を基本とする歯元基本歯形範囲101hと、ピッチ円101pの外側においてピッチ円101p上を転動する転円上の定点の軌跡で表わされるエピサイクロイド曲線を基本とする歯末基本歯形範囲101eとを1ピッチとする歯形形状を備える。なお、この基本歯形101は、理論的なサイクロイド曲線に限らず、このサイクロイド曲線に対して適宜の歯形補正(上記特許文献1~3に記載されているものを含む。)がなされたものも含まれる。これらの基本歯形101における1ピッチの歯形形状に対応する中心角をθとする。
【0018】
次に、
図1(b)に示すように、上記基本歯形101を、以下のΔθだけ、正逆両方向に回転させる。ここでは、一例として、図示時計周りに回転させる場合を正回転とし、反時計回りに回転させる場合を逆回転とする。基本歯形101をΔθだけ正回転させて得られる歯形を正転基本歯形102とし、Δθだけ逆回転させて得られる歯形を逆転基本歯形103とする。ここで、上記Δθは以下の式(1)のように設定される。Nは2以上の自然数である。なお、
図1及び
図2に示す例ではN=3となっている。
Δθ=(1-1/N)θ/2 (1)
【0019】
次に、
図1(c)に示すように、中心角θの範囲のうち、正逆両側のΔθを除いた中央の修正後中心角φの範囲内において、ピッチ点101tの両側に配置されている歯元側基本歯形部分101a及び歯末側基本歯形部分101bと、これらに対してピッチ点101tとは逆側に配置されている正転基本歯形部分102b及び逆転基本歯形部分103aとを有する、
図2(a)に示す合成単位歯形104を形成する。ここで、合成単位歯形104においては、歯元側基本歯形部分101aと逆転基本歯形部分103aとが接続点104aで接続され、歯末側基本歯形部分101bと正転基本歯形部分102bとが接続点104bで接続されている。
【0020】
次に、
図2(a)に示す、合成単位歯形104における歯元側基本歯形部分101aと逆転基本歯形部分103aとの接続点104aと、歯末側基本歯形部分101bと正転基本歯形部分102bとの接続点104bのそれぞれの近傍を、両側のいずれの歯形部分の輪郭線形状とも異なる適宜の曲線105aと105bに置き換えることによって、
図2(b)に示すように、合成単位歯形105に修正する。なお、上記の接続点104a、104bの近傍を接続領域105a,105bに修正する様子は、
図3(a)と(b)に拡大して示してある。接続領域105a,105bは、その両側の歯形部分と同じ湾曲の向きを有する曲線であることが好ましく、特に、両側の歯形部分と滑らかに接続されていることが望ましい。通常、接続領域105a,105bは、円弧状、若しくは、楕円弧状や長円状に構成される。また。接続領域105a,105bは、図示例のように、接続点104a,104bに対してピッチ円101pの側を通過するように構成されることが望ましい。なお、上記の湾曲の向きとは、外歯であれば、歯元側範囲で外周側に凹、歯先側範囲で外周側に凸であることを示す。また、上記の滑らかに接続とは、接続箇所の一階微分が連続であることが好ましく、二階微分が連続であることがさらに望ましい。
【0021】
最後に、
図2(c)に示すように、上記合成単位歯形104又は105を全周にわたり形成することによって、本実施形態のサイクロイド系歯車106が形成される。ここで、上記式(1)の自然数Nは、元の基本歯形101の1ピッチ分の中心角θと、合成単位歯形104,105の修正中心角φ(=θ/N)との比に相当する。したがって、N=2であれば、1ピッチの中心角θの半分が修正中心角φとなり、N=3であれば1/3となる。
【0022】
図3(b)に示すように、合成単位歯形105のうち、歯元側基本歯形部分101a及び(又は)逆転基本歯形部分103aのピッチ円101pからの半径方向の範囲R105aと、合成単位歯形105の歯元側深さR105Aとの比率、並びに、歯末側基本歯形部分101b及び(又は)正転基本歯形部分102bのピッチ円101pからの半径方向の範囲R105bと、合成単位歯形105の歯末側高さR105Bとの比率は、それぞれ、50%~95%の範囲内であることが好ましく、60%~85%の範囲内であることが望ましい。これは、上記比率が高すぎると、曲線状の接続領域105a,105bを設ける意義が薄くなり、歯元の応力集中による剛性の低下や、加圧時における歯先の当接などによる騒音の増大などを招く虞が大きくなる。一方、上記の比率が低すぎると、本来のサイクロイド曲線若しくはその補正曲線からなるサイクロイド形状に基づく基本歯形の領域が小さくなり過ぎて、サイクロイド形状のメリットを生かせない場合が考えられるからである。なお、範囲R105a及びR105bは、接続領域105a,105bとの歯形の境界の半径方向の位置101q,101rが、歯元側と歯末側のそれぞれにおいて、図示の左と右の歯形部分において互いに異なる場合も考えられるが、それぞれについて、また、特に双方において、上記範囲内であることが望ましい。
【0023】
図4(a)には、基本歯形を備える元のサイクロイド歯車の外歯(歯車)111と内歯(歯車)112とがかみ合う歯車機構110の例を示し、
図4(b)には、この歯車機構110のサイクロイド歯車である外歯(歯車)111の基本歯形をベースとし、N=5としたときの本実施形態のサイクロイド系歯車である第1の(外歯)歯車121と、サイクロイド歯車である内歯(歯車)112の基本歯形をベースとし、N=5としたときの本実施形態のサイクロイド系歯車である第2の(内歯)歯車122とからなる歯車機構120の例を示す。上記歯車機構110のサイクロイド歯車である外歯(歯車)111と内歯(歯車)112は、一般的には、理論的なサイクロイド歯形に歯形補正を施したもの(N=1)であり、外歯(歯車)111と内歯(歯車)112が相互に支障なくかみ合うように構成される。一方、上記歯車機構120のサイクロイド系歯車である第1の(外歯)歯車121と第2の(内歯)歯車122とは、上記式(1)の自然数N=5を相互に同じくする方法で、外歯(歯車)111と内歯(歯車)112の基本歯形をそれぞれベースとして修正されたものである。
【0024】
上記と同様に、
図4(c)には、基本歯形を備えるサイクロイド歯車である外歯(歯車)131と内歯(歯車)132が噛合してなる歯車機構130の例を示し、
図4(d)には、本実施形態のサイクロイド系歯車である第1の(外歯)歯車141と第2の(内歯)歯車142からなる歯車機構140の例を示す。この場合でも、上記歯車機構130のサイクロイド歯車である外歯(歯車)131と内歯(歯車)132は、一般的には、理論的なサイクロイド歯形に歯形補正を施したもの(N=1)であり、外歯(歯車)131と内歯(歯車)132が相互に支障なくかみ合うように構成される。一方、上記歯車機構140のサイクロイド系歯車である第1の(外歯)歯車141と第2の(内歯)歯車142とは、上記式(1)の自然数N=2を同じくする方法で、内歯(歯車)131と外歯(歯車)132の基本歯形をそれぞれベースとして修正されたものである。
【0025】
上記の各例においては、相互に噛合する基本歯形をベースにするとともに、モジュールに影響を与える自然数Nが共通であり、また、歯形形状自体は、いずれも、ピッチ点を中心としたかみ合い領域の歯形部分が対応していることから、基本的には、相互に支障のないかみ合いを備える歯車機構が構成できる。もっとも、上記合成単位歯形104の接続点104a,104bを接続領域105a,105bへ変更し、合成単位歯形105に修正した場合において、第1の歯車121,141と第2の歯車122,142のかみ合い部分で支障が出たときには、第1の歯車121,141の接続領域105a、105bと、第2の歯車122,142の接続領域105a、105bとの干渉性やその他の特性(騒音など)など、相互にかみ合い時のその他の問題を生じないかどうかを確認し、必要に応じて、両歯車の各接続領域の少なくとも一つを修正すればよい。
【0026】
以上説明した本実施形態のサイクロイド系歯車106、並びに、本実施形態のサイクロイド系歯車である第1の歯車121,141及び第2の歯車122,142からなる歯車機構120,140によれば、元のサイクロイド歯車100の基本歯形101と比較すると、ピッチ円101pや転円の直径を変更することなく、歯数を2倍以上とすることができ、かみ合い率を増大させることができる。このため、歯数が増大することにより、相互にかみ合う歯の数を増加することができるため、歯車の接触応力を低減でき、剛性を高めることができる。また、転円の直径に依存しないので、歯形の曲率半径を小さくする必要もないから、接触応力を増大させる恐れもない。したがって、歯車の剛性確保のための板厚を低減することができるため、特に、サイクロイド歯車において好適に用いられる製法であるプレス加工を用いる場合の加工負荷を軽減できるという利点がある。また、歯車機構120,140においてかみ合い箇所を増加させることができるため、かみ合い時のバックラッシを低減する設計が容易に行えるという利点もある。
【0027】
次に、本実施形態のサイクロイド系歯車及び歯車機構において用いる基本歯形101の例の詳細を
図5~
図7を参照して説明する。転円を、固定された半径を有する真円とした場合のサイクロイド歯車の歯形のエピサイクロイド曲線とハイポサイクロイド曲線は、x座標およびy座標を示す以下の数1の式により表される。ここで、rcはピッチ円の半径、beはエピサイクロイド曲線の転円の半径、bhはハイポサイクロイド曲線の転円の半径、θeはエピサイクロイド曲線におけるピッチ円の中心角、θhはハイポサイクロイド曲線におけるピッチ円の中心角である。各式の第1項と第2項に見られるように、各曲線は、転円の中心が描く軌跡(第1項)と転円上の定点が転円の中心を基準として描く軌跡(第2項)を重ね合わせることで導くことができる。
【0028】
【0029】
次に、上記数1の式に基づいて変形サイクロイド曲線の式を導く。すなわち、この例では、上記数1の式の中の真円からなる転円の半径を転円の回転角γに応じて変える。他の例では転円の半径を転円径=bで回転角γに依存せずに一定とする場合がある。しかし、この基本歯形では、転円半径を回転角γの関数f(γ)=b+Δb(γ)とし、元となる半径bを基準とする転円(真円)の半径の変化量Δbを回転角γにより変化させる。なお、Δbは正でも負でもよい。このことにより、転円を真円ではなく変形された変形円にした場合と実質的に等価なサイクロイド曲線を形成することができる。すなわち、真円からなる転円の半径を回転角γに応じて変化させることは、転円を真円が変形されてなる変形円とした場合と実質的に等価であると考えることができる。このとき、上記変形円は、滑らかで閉じた形状の、外側に凸の曲線で構成される。後述する具体例の場合には、上記変形円は、定点を通過する長軸若しくは短軸を備えるとともにこの長軸若しくは短軸に対して線対称な形状を有する。また、この変形円の形状は2回対称の回転対称性をも有する。すなわち、この変形円の形状は、真円を、その中心を通過する或る軸の両側へ対称に引き伸ばした形状、或いは、両側から対称に押しつぶした形状である。
【0030】
上記具体例の変形サイクロイド曲線の場合には、例えば、Δb(γ)=Asin[γ/2]とし、転円半径を以下の回転角γの関数とする。
f(γ)=b+Asin[γ/2](Aは定数) (2)
すなわち、γ=0°および360°のときの転円半径はb、γ=180°のときの転円半径はb+Aとなる。基本歯形では、上記数1の式において転円中心の描く軌跡(第1項)中の転円半径be、bhを上記式(2)で示される回転角γの関数とすればよい。ここで、上記の定数Aが正の値を持つならば上記変形円は定点を通過する長軸を備えるとともに、この長軸に対して対称な形状及び2回対称の回転対称性を有する形状を有し、定数Aが負の値を持つならば上記変形円は定点を通過する短軸を備えるとともに、この短軸に対して対称な形状及び2回対称の回転対称性を有する形状を有すると考えることができる。
【0031】
ここで、上記の定数Aとして、歯車の歯底引っ張り長さの補正値(以下、単に「歯底補正値」という。)K、歯先引っ張り長さの補正値(以下、単に「歯先補正値」という。)Lを用いる。外歯歯車の場合には、エピサイクロイド曲線の転円半径は、元の転円半径をbeとすると、be-Lsin[γ/2]、ハイポサイクロイド曲線の転円半径は、元の転円半径をbhとすると、bh+Ksin[γ/2]となり、内歯歯車の場合には、エピサイクロイド曲線の転円半径はbe+Ksin[γ/2]、ハイポサイクロイド曲線の転円半径はbh-Lsin[γ/2]となる。このとき、例えば、転円中心の軌跡を上記転円半径の関数f(γ)で置き換えることとすると、例えば、上記数1の第1項のbe、bhに上記転円半径の補正式を代入することにより、この具体例の場合のエピサイクロイド曲線とハイポサイクロイド曲線の式が得られる。
【0032】
上記のように歯先補正値Lおよび歯底補正値Kを用いると、上記変形サイクロイド曲線からなるエピサイクロイド曲線とハイポサイクロイド曲線を求めることができる。すなわち、エピサイクロイド曲線とハイポサイクロイド曲線において歯先補正値Lと歯底補正値Kによりそれぞれピッチ円との交差位置とは独立して歯先と歯底の高さを設定することができる。
【0033】
ここで、さらにエピサイクロイド曲線の転円半径とハイポサイクロイド曲線の転円半径との関係を示す転円補正値Jを用いると、例えば、be=b-J/2、bh=b+J/2のように設定して、両曲線を半径方向内側にそれぞれ補正したり、be=b+J/2、bh=b-J/2のように設定して、両曲線を半径方向外側にそれぞれ補正したりすることができる。すなわち、この基本歯形では、元の転円径自体をさらに補正することも可能である。また、この基本歯形では、変形サイクロイド曲線を用いる補正をも行うことができるので、一般的には、転円補正値J、歯先補正値L、歯底補正値Kを適宜に設定することによって歯形を補正することができる。このとき、上記の補正値のいずれか少なくとも一つを0としても構わない。
【0034】
ここで、歯先と歯底の関係により、
図5(a)には、上記のようにして得られる外歯歯車の歯形形状を示す式から導出した、共通の転円径Cの転円を用いた補正前の元歯形の形状と、転円補正値J、歯底補正値K、歯先補正値Lを用いた補正後の基本歯形の形状とを示す。一方、内歯歯車の歯形形状については、
図5(b)において、上記の歯先と歯底の関係を逆にすることで内歯歯車の歯形形状を示す式から導出した、共通の転円径(直径)Cの転円を用いた補正前の元歯形の形状と、転円補正値J、歯底補正値Kおよび歯先補正値Lを用いた補正後の基本歯形の形状とを示す。なお、
図5(a)及び(b)に示す例はエピサイクロイド曲線とハイポサイクロイド曲線の双方の転円のベースとなる直径を共にCとした場合の一例を示すものに過ぎず、何ら基本歯形を限定するものではない。したがって、基本歯形において、エピサイクロイド曲線とハイポサイクロイド曲線の転円のベースとなる直径を相互に異なるものとしても構わない。
【0035】
ここで、元のサイクロイド歯車を形成するためには、ピッチ円の直径がD、歯数がZ、エピサイクロイド曲線の転円周をCFe、ハイポサイクロイド曲線の転円周をCFhとすれば、
(CFe+CFh)=πD/Z (3)
が成立する必要がある。ここで、エピサイクロイド曲線とハイポサイクロイド曲線の転円の半径が共に一定の場合には、転円周CFe、CFhは転円半径be、bhと比例する(1対1に対応する)ため、一方の曲線の転円径をJだけ大きくしたとき、上記式(3)の関係を維持するには、他方の曲線の転円径を同じ値Jだけ小さくする必要がある。
【0036】
これに対して、この基本歯形の場合には、上記転円周CFe、CFhは、歯先補正値Lおよび歯底補正値Kとは比例せず、転円半径の変化態様が変われば1対1にも対応しないので、補正値L及びKを転円周の長さとは独立して設定することができ、これによって歯形形状の自由度を高めることができる。例えば、上記式(2)の具体例の場合においては、外歯歯車のとき、CFe=π(C-J)-4L、CFh=π(C+J)+4Kであり、また、内歯歯車のとき、CFe=π(C+J)+4K、CFh=π(C-J)-4Lとなる。したがって、上記式(3)から以下の式が成立する。
2πC+4(K-L)=πD/Z (4)
したがって、補正値についてK=Lが成立するのであれば、上記式(3)の関係は常に成立するため、歯形の1ピッチを変えずに歯先の高さ及び歯底の深さを任意に設計することができる。
【0037】
また、元のサイクロイド歯車が外歯歯車である場合において、歯形全体にわたり半径方向内側へ補正を行う(すなわち、歯底補正値K(若しくはJ+K)と歯先補正値L(若しくはJ+L)が共に正の補正を行う)ときには、CFe<CFhが成立する。逆に、元のサイクロイド歯車が内歯歯車である場合において、歯形全体にわたり半径方向外側へ補正を行う(すなわち、歯底補正値K(若しくはJ+K)と歯先補正値L(若しくはJ+L)が正の補正を行う)ときには、CFe>CFhが成立する。ただし、後述するように、この基本歯形の場合には、各補正値が正となる補正を行う場合に限らず、各補正値が負となる補正を行うことも可能である。
【0038】
本実施形態の基本歯形の例を示す上記変形サイクロイド曲線は、前述のように、上記の具体例に限られないだけでなく、回転角により転円半径を変化させた場合に描かれるサイクロイド曲線にも限定されない。また、上記変形サイクロイド曲線は、上記具体例の式(2)に示す態様に限らず、転円半径が回転角γの任意の関数、すなわちf(γ)で変化するときに得られる形状であればよい。ただし、この関数f(γ)は、f(γ=0°)=f(γ=360°)が成立する関数である。この場合、転円半径を元の真円の半径bを用いてf(γ)=b+Δb(γ)とすれば、転円半径の変化量Δb(γ)は回転角γの任意の関数でよく、Δb(γ)、f(γ)は変曲点(屈折点)を有する関数であってもよい。ただし、伝達特性等を考慮すると回転角γについて滑らかな関数であることが好適である。なお、この曲線(関数f(γ))の変化態様に応じて、上述の転円周CFe、CFhと補正値L、Kとの対応関係が変化する。したがって、サイクロイド曲線間で転円半径の変化態様を個々に変更することにより、上記式(4)においてK=Lが成立しなくても、歯形の1ピッチを変えずに設計することが可能になる。
【0039】
このような歯形補正は、後述するように、特に内接式の歯車機構において歯形間のクリアランスを設定する上で有効であるが、この基本歯形の補正方法は、このような場合に限らず、外歯歯車同士の噛合構造を有する歯車機構など、種々の状況に合わせたサイクロイド歯車の歯車形状を得るために用いることができる。すなわち、歯車の材質、伝達トルク、回転特性などの種々の条件に合わせて、高性能の歯車機構を得る目的で、サイクロイド歯車の歯形形状を改善するために用いることができる。
【0040】
上記変形サイクロイド曲線を用いる場合には、相互に噛合するサイクロイド歯車である第1の歯車と第2の歯車を有する歯車機構において、第1の歯車と第2の歯車の歯形形状を設定する場合に、上記の基本歯形の歯形補正を用いることができる。例えば、第1の歯車のエピサイクロイド曲線とハイポサイクロイド曲線、並びに、第2の歯車のエピサイクロイド曲線とハイポサイクロイド曲線の合計4つの曲線のうちのいずれか一つを上記変形サイクロイド曲線とすることができる。
【0041】
この場合に、第1の歯車の上記いずれか一つの曲線と、噛合領域においてこの曲線に対向する第2の歯車の曲線とが共に上記変形サイクロイド曲線であることが好適な噛合態様を実現する上で好ましい。例えば、第1の歯車と第2の歯車が共に外歯歯車である場合には、第1の歯車のエピサイクロイド曲線と第2の歯車のハイポサイクロイド曲線の双方を上記変形サイクロイド曲線とするか、或いは、第1の歯車のハイポサイクロイド曲線と第2の歯車のエピサイクロイド曲線の双方を上記変形サイクロイド曲線とする。また、後述するように第1の歯車が外歯歯車であり、第2の歯車が内歯歯車であれば、第1の歯車のエピサイクロイド曲線と第2の歯車のエピサイクロイド曲線の双方を上記変形サイクロイド曲線とするか、或いは、第1の歯車のハイポサイクロイド曲線と第2の歯車のハイポサイクロイド曲線の双方を上記変形サイクロイド曲線とする。このようにすると、噛合し合う、相互に対向する曲線同士を共に上述のように補正できるため、好適な噛合態様を設計することができる。また、この観点からみれば、上記4つの曲線の全てが上記変形サイクロイド曲線であることがより望ましいことはもちろんである。
【0042】
次に、上記サイクロイド歯車の歯形形状を基本歯形として用いた外歯歯車(第1の歯車)と内歯歯車(第2の歯車)が噛合してなる内接式の歯車機構の例について説明する。
図7は、各基本歯形例において用いる第1の(外歯)歯車1と第2の(内歯)歯車2の噛合状態を模式的に示す図である。第1の歯車1のピッチ円1pの中心点1xは、第2の歯車2のピッチ円2pの中心点2xに対して図示上方の噛合部分の側に偏心した位置にある。この状態で、当該噛合部分において歯形1aは歯形2aと噛合している。なお、図中において、X方向およびY方向は上記各式のx、yに対応する方向を示し、ピッチ円の中心角θは上記各式のθe、θhに対応するものである。
【0043】
ここで、ピッチ円1pの直径がD
1、歯数がZ
1、エピサイクロイド曲線の転円周がCFe
1、ハイポサイクロイド曲線の転円周がCFh
1の外歯歯車1においては、
(CFe
1+CFh
1)=πD
1/Z
1 (5)
が成立しなければならない。ここで、
図5(a)及び(b)の場合において上記式(2)に示す関数を採用すると、上記式(4)により、
2πC+4(K
1-L
1)=πD
1/Z
1 (6)
となる。ここで、K
1、L
1は外歯歯車1の歯形1aの補正値、K
2、L
2は内歯歯車2の歯形2aの補正値である。
【0044】
また、ピッチ円2pの直径がD
2、歯数がZ
2、エピサイクロイド曲線の転円周がCFe
2、ハイポサイクロイド曲線の転円周がCFh
2の内歯歯車2においては、
(CFe
2+CFh
2)=πD
2/Z
2 (7)
が成立しなければならない。ここで、
図5(a)及び(b)の場合において上記式(2)に示す関数を採用すると、上記式(4)により、
2πC+4(K
2-L
2)=πD
2/Z
2 (8)
となる。
【0045】
さらに、噛合する歯車間では、歯形の1ピッチ分の中心角が一致する必要があるため、
D1/Z1=D2/Z2 (9)
が成立する。したがって、上記式(5)、(7)及び(9)により、
(CFe1+CFh1)=(CFe2+CFh2) (10)
が成立する。この条件は、上記式(6)及び(8)の場合には、
K1-L1=K2-L2 (11)
となる。
【0046】
この内接式の歯車機構において、上記噛合領域、すなわち、両歯車が半径方向に最も近接する部分(
図7の上部)で第1の歯車1の歯形1aと第2の歯車2の歯形2aが干渉しないようにするには、少なくとも以下の二条件を満たす必要がある。第1の条件としては、相互に対向する二組の曲線間(エピサイクロイド曲線同士、および、ハイポサイクロイド曲線同士)で、転円周CFe
1、CFe
2、CFh
1、CFh
2について、
CFe
1<CFe
2 (12)
CFh
1>CFh
2 (13)
が成立しなければならない。ここで、
図5(a)及び(b)の場合において上記式(2)に示す関数を採用すると、外歯歯車のとき、CFe
1=π(C-J
1)-4L
1、CFh
1=π(C+J
1)+4K
1であり、また、内歯歯車のとき、CFe
2=π(C+J
2)+4K
2、CFh
2=π(C-J
2)-4L
2である。ここで、J
1は外歯歯車1の歯形1aの補正値、J
2は内歯歯車2の歯形2aの補正値である。したがって、上記式(12)及び(13)は、
-(J
1+4L
1)<(J
2+4K
2) (14)
(J
1+4K
1)>-(J
2+4L
2) (15)
となる。
【0047】
また、第2の条件では、外歯歯車1の歯形1aにおいて、ピッチ円1p上から半径方向外側へ最も離反した歯先とピッチ円1p上との間の半径方向の離隔距離である歯先高さLLe
1と、ピッチ円1p上から半径方向内側へ最も離反した歯底とピッチ円1p上との間の半径方向の離隔距離である歯底深さLLh
1、内歯歯車2の歯形2aにおいて、ピッチ円2p上から半径方向外側へ最も離反した歯底とピッチ円2p上との間の半径方向の離隔距離である歯底深さLLe
2と、ピッチ円2p上から半径方向内側へ最も離反した歯先とピッチ円2p上との間の半径方向の離隔距離である歯先高さLLh
2について、
LLe
1<LLe
2 (16)
LLh
1>LLh
2 (17)
が成立しなければならない。ここで、
図5(a)及び(b)の場合において上記式(2)に示す関数を採用すると、外歯歯車1の歯形1aでは、LLe
1=C-(J
1+L
1)、LLh
1=C+(J
1+K
1)であり、内歯歯車2の歯形2aでは、LLe
2=C+(J
2+K
2)、LLh
2=C-(J
2+L
2)である。したがって、上記式(16)及び(17)は、
-(J
1+L
1)<(J
2+K
2) (18)
(J
1+K
1)>-(J
2+L
2) (19)
となる。
以上のように、この基本歯形では、式(10)、(12)、(13)、(16)、(17)がいずれも成立する条件で歯形1a及び2aを設計する。特に、
図5(a)及び(b)に示す具体例では、後述するように、式(11)、(14)、(15)、(18)、(19)を満たす補正値を設定する。
【0048】
この場合に、本発明においては特に限定されるものではないが、外歯歯車1の歯先の回転角γe1、内歯歯車2の歯底の回転角γe2、外歯歯車1の歯底の回転角γh1、内歯歯車2の歯先の回転角γh2について、歯車設計をさらに容易にする上では、
γe1=γe2 (20)
γh1=γh2 (21)
が成立することが望ましい。上記具体例においては、これらの各頂点位置の角度は全てγe1=γe2=γh1=γh2=180°である。
【0049】
この歯車機構において、外歯歯車1の歯数Z
1と内歯歯車2の歯数Z
2は異なり、Z
1<Z
2が成立する。例えば、歯数の差が最小の場合はZ
2-Z
1=1となる。この歯車機構における外歯歯車1と内歯歯車2の偏心量ET(
図7の中心点1xと2xの距離)を、上記噛合領域(
図7の上部)においてピッチ円1pと2pが重なる条件で求めることにより、
ET=(D
2-D
1)/2={D
1(Z
2-Z
1)}/(2Z
1)=α
とすれば、上記噛合領域(
図7の上部)における外歯歯車1と内歯歯車2のクリアランスは、
図5(a)に示す外歯歯車1の歯先補正値L
1(若しくはJ
1+L
1)と、
図5(b)に示す内歯歯車2の歯底補正値K
2(若しくはJ
2+K
2)との関係、並びに、
図5(a)に示す外歯歯車の歯底補正値K
1(若しくはJ
1+K
1)と、
図5(b)に示す内歯歯車2の歯先補正値L
2(若しくはJ
2+L
2)との関係によって定まる。
【0050】
例えば、元となる真円の径Cが共通であれば、いずれの歯車も各補正値LとKが共に正となるように、外歯歯車1の歯形1aを半径方向内側に補正し、内歯歯車2の歯形2aを半径方向外側に補正することにより、両歯形間には必ずクリアランスを設けることができる。特に、転円補正値Jをさらに設けることによってクリアランスを確実に得ることができる。ただし、基本歯形では、歯先補正値Lと歯底補正値Kを共に正の値にする必要はなく、一方の歯車における2つの曲線のうちの少なくとも一方の曲線に対する補正値を負に設定した場合でも、後述するように、当該少なくとも一方の曲線に対向する他方の歯車の曲線に対する補正値をその分だけ大きく設定すればよい。
【0051】
外歯歯車1と内歯歯車2で元となる真円径Cを共通とする
図5(a)及び(b)の場合には、クリアランスCRe(エピサイクロイド曲線間)とCRh(ハイポサイクロイド曲線間)は以下の式に示すようになる。
CRe=(J
1+L
1)+(J
2+K
2)
CRh=(J
1+K
1)+(J
2+L
2)
この場合には、第1の歯車1と第2の歯車2の偏心量ETは、ET<α+CRe=α+J
1+J
2+L
1+K
2、並びに、ET<α+CRh=α+J
1+J
2+L
2+K
1の双方を満たす必要がある。
【0052】
一方、例えば、上記噛合領域の反対側にある離隔領域(
図7の下部)では、ピッチ円1pと2pの間に以下の間隔DT=α+ETが生ずる。ここで、偏心量ET=αのとき、DT=2α=D
2-D
1=D
1(Z
2-Z
1)/Z
1である。この離隔領域では、外歯歯車1と内歯歯車2が半径方向に最も離隔した状態で、外歯歯車1の歯先が内歯歯車2の歯先の内側を通過するように構成する必要がある。したがって、外歯歯車1のエピサイクロイド曲線におけるピッチ円1pから半径方向外側への突出量の最大値である頂点位置の歯先高さLLe
1と、内歯歯車2のハイポサイクロイド曲線におけるピッチ円2pから半径方向内側への突出量の最大値である頂点位置の歯先高さLLh
2との関係により、
DT>LLe
1+LLh
2
が成立すれば、上記離隔領域において外歯歯車1の歯形1aと内歯歯車2の歯形2aとが干渉することはない。したがって、偏心量ETは、
ET=DT-α>(LLe
1+LLh
2)-α
を満たす必要がある。
図5(a)及び(b)の場合には、LLe
1=C-(J
1+L
1)、LLh
2=C-(J
2+L
2)であるから以下の条件になる。
ET>2C+J
1+J
2+L
1+L
2-α
【0053】
したがって、偏心量ETは、上記の上限と下限の間の範囲で設定することができる。ただし、偏心量ETをαよりも小さくすると噛合領域における噛み合い率が低下するため、偏心量ETの下限はαであることが好ましい。
【0054】
このような歯形1aと歯形2aの噛合部分を備えた内接噛合遊星歯車機構としては
図8に示すものが例示される。この内接噛合遊星歯車機構10は、一例としての2K-H型の歯車機構であり、外装部材10Aと外装部材10Bがシール材10d等を介して密接して構成されたハウジングの内部に構成されている。上記外装部材10Aは玉軸受等よりなる軸受10aを介して第1軸材11を軸線10x周りに回転可能に軸支している。この第1軸材11には外装部材10Aによる軸支部分以外の部位に上記軸線10xに対して偏心した偏心部11aを備えている。この偏心部11aは二段歯車12を偏心回転可能な状態で軸支している。図示例では、偏心部11aの外周面と二段歯車12の内周面とはころ軸受等よりなる軸受11bを介して相互に回転可能に構成されている。上記二段歯車12は、第1軸材11の回転に応じた偏心部11aの偏心動作に伴う偏心軌道(公転軌道)を描きながら、第1軸材11に対して自転可能に接続される。この二段歯車12は、軸線方向の一方(図示例では第1軸材11の側)に外歯12aを備えるとともに、軸線方向の他方(後述する第2軸材15の側)に内歯12bを備えている。二段歯車12は、上記外歯12aと上記内歯12bを軸線方向にずらして構成するための段付形状の断面を有している。
【0055】
二段歯車12(第1の歯車)の外歯12aは、外装部材10Aに固定された内歯歯車13(第2の歯車)に設けられた内歯13aと噛合している。ここで、外歯12aと内歯13aはいずれも上述のサイクロイド歯形を備えている。そして、内歯歯車13の内側で内歯13aに対して外歯12aが偏心した状態で内接噛合している。図示例では偏心部11aが軸線10xに対して図示上方に偏心した位置にあり、これによって二段歯車12も図示上方の偏心位置に配置されている。第1軸材11が軸線10x周りに回転すると、偏心部11aが偏心回転することにより二段歯車12の偏心方向も回転し、これによって外歯12aが内歯13aに噛合する領域も回転するので、外歯12aと内歯13aの歯数の関係に応じて二段歯車12が自転する。
【0056】
二段歯車12の内歯12bは伝達歯車14の外歯14aに噛合している。この伝達歯車14は外装部材10Bに軸受10cを介して回転可能に軸支された第2軸材15に固定されている。なお、二段歯車12の内歯12bと伝達歯車14の外歯14aは、二段歯車12の偏心動作(公転動作)に応じて噛合領域が円周周りに旋回しながら軸線10x周りの回転動作(自転動作)のみを伝達する。第2軸材15の先端部には軸線10xに沿って形成された円筒状の内周面を備えた凹端部15aが形成され、この凹端部15a内に第1軸材11の先端部11cが挿入されている。この先端部11cは軸受10bを介して凹端部15aの内周面に対し回転可能に軸支されている。
【0057】
以上の内接噛合遊星歯車機構10では、第1軸材11がキャリア軸として機能し、二段歯車12が外歯12aと内歯12bにより一体型の遊星歯車として機能し、内歯歯車13が内歯車として機能し、伝達歯車14が太陽歯車として機能する。したがって、例えば、キャリア軸である第1軸材11を入力とすれば、第2軸材15が出力となる。なお、二段歯車12の代わりに、外歯12aを備えた単なる外歯歯車を用い、この外歯歯車が第2軸材15との間に設けられた偏心噛合構造などの自転成分のみを伝達する手段と直接に接続される構成であってもよい。また、第1軸材11と外歯12aとを偏心して回転可能に構成する取付構造は、上記のような偏心部11aと軸受11bを介した軸支構造に限らず、単なる摺動可能な滑り構造、偏心カムを用いた構造、クランク機構を介した構造など、種々の構造を用いることができる。さらに、上述の自転成分のみを伝達する手段としては、上述の偏心噛合構造に限らず、内ピンとこの内ピンに偏心方向に遊びを持って嵌合するピン嵌合部とを備えた遊嵌係合構造などの他の伝達機構を用いることができる。
【0058】
上記元のサイクロイド歯車の例として、特に、内接噛合遊星歯車機構等の歯車機構において用いられる第1の歯車(外歯歯車)と第2の歯車(内歯歯車)のベースとなる基本歯形として、すなわち、
図7に示す上記外歯歯車1と内歯歯車2、或いは、
図8に示す上記二段歯車12の外歯12aと内歯歯車13の内歯13aとして、以下の基本歯形例1~3を設計した。ここで、いずれの基本歯形例においても、上記式(8)の関係を満たすように、内歯歯車の歯数を31、外歯歯車の歯数を30とし、また、内歯歯車のピッチ円直径を62(mm)、外歯歯車のピッチ円直径を60(mm)とした。以下の各基本歯形例では、上記式(11)、(14)、(15)、(18)、(19)がいずれも満たされるように、それぞれ上記具体例の各補正値を設定した。
【0059】
まず、上記の歯先補正値Lと歯底補正値Kが内歯と外歯の噛合時に相互に対向する二組の曲線間においてそれぞれ共通に用いられる態様で、表1および
図6(a)に点線で示すように、歯形2aの半径方向外側への補正量と歯形1aの半径方向内側への補正量を均等とした基本歯形例1を構成することができる。基本歯形例1では、歯形2aと歯形1aのそれぞれのエピサイクロイド曲線とハイポサイクロイド曲線の合計4つの転円1e、1h、2e、2hがいずれも上記具体例の変形サイクロイド曲線とされている。
【0060】
表1には、この変形サイクロイド曲線に対応する転円半径の変化態様と実質的に等価な、固定された転円形状を有する上記変形円を考えた場合において、当該変形円の形状寸法を歯数とピッチ円径とともに示す。ここで、上記変形円の転円形状を示す値として、回転角γが基準角度(180°)であるときのピッチ円の半径方向に沿った上記変形円の径を軸方向楕円径(厳密には楕円ではないが、ここでは楕円を上記変形円の具体例に相当する用語として用いる。)とし、ピッチ円の円周に沿った接線方向の径を円周方向楕円径としている。軸方向楕円径は、変形サイクロイド曲線において頂点位置(定点がピッチ円から最も離隔する位置)の歯先高さ若しくは歯底深さを示す値である。いずれの転円形状も、転円上の定点1cpe、1cph、2cpe、2cphが歯底又は歯先の頂点位置の角度(回転角γ=180°)と一致したときの姿勢、すなわち、当該定点1cpe、1cph、2cpe、2cphを通過する長軸若しくは短軸が図示二点鎖線で示される半径方向に沿ったときの姿勢により示される。このとき、外歯歯車1のエピサイクロイド曲線に対応する上記変形円の軸方向楕円径はC-J1-L1、円周方向楕円径はC-J1、ハイポサイクロイド曲線に対応する上記変形円の軸方向楕円径はC+J1+K1、円周方向楕円径はC+J1である。また、内歯歯車2のエピサイクロイド曲線に対応する上記変形円の軸方向楕円径はC+J2+K2、円周方向楕円径はC+J2、ハイポサイクロイド曲線に対応する上記変形円の軸方向楕円径はC-J2-L2、円周方向楕円径はC-J2である。なお、後述する表2および表3についても同様である。
【0061】
ここで、
図6(a)において二点鎖線で示す転円OeとOhを共に固定された同じ直径N=1(mm)を有するものとし、転円Oeに対応するエピサイクロイド曲線と転円Ohに対応するハイポサイクロイド曲線からなる歯形を基準歯形Oa(図示一点鎖線)とする。この基準歯形Oaと比べると、基本歯形例1の回転角γに応じて変化する半径を有する転円2eに対応する変形エピサイクロイド曲線と、回転角γに応じて変化する半径を有する転円2hに対応する変形ハイポサイクロイド曲線からなる歯形2aは、ピッチ円2pの半径方向外側へ補正される。また、上記基準歯形Oaに対して、基本歯形例1の回転角γに応じて変化する半径を有する転円1eに対応する変形エピサイクロイド曲線と、回転角γに応じて変化する半径を有する転円1hに対応する変形ハイポサイクロイド曲線からなる歯形1aはピッチ円1pの半径方向内側へ補正される。このとき基準歯形Oaに対する歯形2aの補正量と歯形1aの補正量は、全体(1ピッチの歯形全体)でみると均等である。なお、
図6(a)では、各転円1e(外歯のエピサイクロイド曲線に対応するもの)、2e(内歯のエピサイクロイド曲線に対応するもの)、1h(外歯のハイポサイクロイド曲線に対応するもの)、2h(内歯のハイポサイクロイド曲線に対応するもの)の上記変形円の形状をそれぞれ模式的に描いてある。
【0062】
ここで、本基本歯形例の各補正値(N=1)は、転円補正値J1=0.05、J2=0.05、歯先補正値L1=0.05、L2=0.05、歯底補正値K1=0.1、K2=0.1である。このとき、補正値K1=K2及びL1=L2により式(10)が成立し、また、各補正値が全て正の値であることにより式(13)、(14)、(17)、(18)が成立する。
【0063】
【0064】
基本歯形例1では、噛合時に相互に対向する歯形同士が共に上記変形サイクロイド曲線で構成されるため、歯先と歯底のクリアランスの設定自由度が高くなるという利点がある。すなわち、転円1eに基づく歯形1aのエピサイクロイド曲線と、転円2hに基づく歯形2aのハイポサイクロイド曲線とがいずれも補正可能である。また、転円1hに基づく歯形1aのハイポサイクロイド曲線と、転円2eに基づく歯形2aのエピサイクロイド曲線とがいずれも補正可能である。したがって、相互に対向する二つの曲線の双方をそれぞれの転円半径の変化態様(例えば、上記変形円で表現すれば転円の変形度合)により補正できるため、両曲線間のクリアランスの最適化を図ることができるとともに、当該クリアランスを得るための設計の自由度を広げることができる。また、この例では、歯形1aと歯形2aのそれぞれ二つの曲線の合計4つの曲線の全てが上記変形サイクロイド曲線で構成される。このような手法ではクリアランス設定の自由度がさらに高いものとなる。
【0065】
図6(a)に点線で示す上記外歯歯車と内歯歯車の基本歯形1aと2aは、本実施形態の前述の方法により、歯数を増大させた図示実線で示すサイクロイド系歯車を構成する第1の歯車の外歯201と第2の歯車の内歯202に修正される。ここで、上記式(1)において、N=2としている。図示のように、相互に適切なかみ合いを生ずる基本歯形1aと2aをベースとして求めた本実施形態の第1の歯車の外歯201と第2の歯車の内歯202は、相互に支障のないかみ合い状態を実現し得る。ただし、
図2(b)と同様に、第1の歯車の外歯201と第2の歯車の内歯202の接続点1c,2cの近傍を、基本歯形1aと2aの一部からなる他の部分とは異なる曲線からなる領域に変更することにより、荷重変形時の歯先の相手側の歯元へのくい込みや油膜切れ等による騒音の増大を回避したり、歯元の応力集中を回避したりすることにより、歯車機構の高品位化や歯形全般の剛性向上を図ることができる。
【0066】
一方、以下の表2および
図6(b)に点線で示すように、歯形2aを基準歯形Oaとし、歯形1aのみを補正した基本歯形例2を構成することも可能である。ここで、歯形2aは、転円2e、2hが固定された半径を備えた真円である基準歯形Oaそのものである。一方、歯形1aは、補正値J、L、Kによって転円1e,1hの半径が回転角γに応じて変化する。すなわち、この基本歯形例2では、歯形2aのエピサイクロイド曲線とハイポサイクロイド曲線の2つの転円2e、2hがいずれも固定された半径を有する転円Oe,Ohとされ、歯形1aの変形エピサイクロイド曲線と変形ハイポサイクロイド曲線の2つの転円1e,1hがいずれも回転角γにより変化する半径を有する円とされている。このため、歯形1aの変形エピサイクロイド曲線(歯先)と変形ハイポサイクロイド曲線(歯底)の部分でそれぞれ対向する歯形2aのエピサイクロイド曲線(歯底)とハイポサイクロイド曲線(歯先)に対するクリアランスをそれぞれ適宜に設定することができる。なお、基本歯形例2では歯形2aを基準歯形Oaとする一方で歯形1aを補正しているが、逆に歯形1aを基準歯形Oaとする一方で歯形2aを補正するようにしてもよい。また、
図6(b)でも、転円1eと1hの上記変形円の形状をそれぞれ模式的に描いてある。
【0067】
ここで、本基本歯形例の各補正値(N=1)は、転円補正値J1=0.1、J2=0、歯先補正値L1=0.15、L2=0、歯底補正値K1=0.15、K2=0である。この場合には内歯歯車2の歯形2aが基準歯形Oaであるが、外歯歯車1の歯形1aの歯先補正値L1と歯底補正値K1が同じ値であるため、上記式(11)が成立し、同歯形1aの補正値が全て正の値を持つことで式(14)、(15)、(18)、(19)も成立するようになっている。
【0068】
【0069】
基本歯形例2では、一方の(内歯)歯車2の歯形2aは通常の真円に基づくサイクロイド曲線からなる基準歯形で構成できるため、他方の(外歯)歯車1の歯形1aのみを上記変形サイクロイド曲線とすればよい。このような一方の歯形のみの補正によるクリアランスの設定は、従来の転円径を補正する手法(補正値Jのみを用いる手法)では不可能である。この基本歯形のように、上記変形サイクロイド曲線では、上記基本歯形例1のような均等補正に限らず、本基本歯形例のような、均等補正以外の補正も行うことが可能になる。
【0070】
この基本歯形例2においても、前述と同様に、基本歯形1aと2aを、N=2で修正することによって、歯数を増加させたサイクロイド系歯車を構成する第1の歯車の外歯301と第2の歯車の内歯302を形成できる。この場合でも、相互に適切なかみ合いを生ずる基本歯形1aと2aをベースとして求めた本実施形態の第1の歯車の外歯301と第2の歯車の内歯302は、相互に支障のないかみ合い状態を実現し得る。ただし、外歯301と内歯302の接続点1c,2cの近傍を、基本歯形1a,2aの一部である他の部分とは異なる曲線からなる領域に変更することが、より好適である点は基本歯形例1と同様である。
【0071】
また、以下の表3および
図6(c)に点線で示すように、歯形2aと歯形1aを共に補正するものの、相互に異なる補正量として、補正態様をオフセットした基本歯形例3を構成することも可能である。この場合、歯形2aについては、エピサイクロイド曲線とハイポサイクロイド曲線の双方に対して回転角γにより半径が変化する転円2e,2hにより上記補正が施されるが、歯形1aについては、エピサイクロイド曲線に回転角γにより半径が変化する転円1eにより上記補正が施されるものの、ハイポサイクロイド曲線には転円径を変えた補正が施されるだけで、当該ハイポサイクロイド曲線の転円1h自体は固定された半径を有するもの(ただし、その半径は0.9N=0.9)となっている。なお、
図6(c)に示す各転円の上記変形円の形状が模式的なものである点は上記と同様である。
【0072】
ここで、本基本歯形例の各補正値(N=1)は、転円補正値J1=-0.1、J2=0.2、歯先補正値L1=-0.05、L2=0.15、歯底補正値K1=0、K2=0.2である。このとき、式(11)が成立するように歯形1aと2aの各補正値KとLが設定されるとともに、J1とL1はいずれも負の値を持つ分、J2とK2が大きいことで、上記式(14)、(15)、(18)、(19)も成立するようになっている。
【0073】
【0074】
基本歯形例3では、歯形1aのサイクロイド曲線をマイナス方向(歯底補正値Kや歯先補正値Lが負の値になる態様)に補正することで基準歯形Oaよりも半径方向外側に配置し、このように配置された歯形1aに対して所定のクリアランスが確保できるように、歯形2aのサイクロイド曲線をプラス方向に大きく補正している。このため、歯形1aと歯形2aが基準歯形に対して半径方向外側にオフセットされた態様となっている。ただし、上記とは逆に、歯形1aと歯形2aが基準歯形に対して半径方向内側にオフセットされた態様とすることも可能である。
【0075】
この基本歯形例3においても、前述と同様に、基本歯形1aと2aを、N=2で修正することによって、歯数を増加させたサイクロイド系歯車を構成する第1の歯車の外歯401と第2の歯車の内歯402を形成できる。この場合でも、相互に適切なかみ合いを生ずる基本歯形1aと2aをベースとして求めた本実施形態の第1の歯車の外歯401と第2の歯車の内歯402は、相互に支障のないかみ合い状態を実現し得る。ただし、外歯401と内歯402の接続点1c,2cの近傍を、基本歯形1a,2aの一部からなる他の部分とは異なる曲線からなる領域に変更することが、より好適である点は基本歯形例1と同様である。
【0076】
上記の基本歯形例1~3のいずれにおいても、相互に噛合する歯形2aと歯形1aのエピサイクロイド曲線とハイポサイクロイド曲線の合計4つの曲線のうち少なくとも一つを上記変形サイクロイド曲線とする歯形補正が施されているので、これにより、サイクロイド歯車同士の内歯と外歯の噛合部におけるピッチ円上のクリアランスと、歯先と歯底の間のクリアランスとを相互に独立して設定することが可能になる。このため、最も力が伝達される箇所のピッチ円上のクリアランスを管理し(例えば最適な値に設定し)、その上で、歯先と歯底の間のクリアランスを相互干渉が生じないようにピッチ円上のクリアランスとは別に設定することができる。したがって、種々の状況に応じたサイクロイド歯形の最適設計が容易になる。また、設計自由度が向上するため、例えば、歯車の材質に応じた設計を実施する場合や、内歯と外歯で材質が異なる場合において両歯の強度差をコントロールするためにアンバランスなギャップを付けること(特に基本歯形例3の場合)なども可能になる。
【0077】
より具体的に述べると、転円半径が一定である場合には転円径と転円周とが1対1に対応するため、歯先と歯底の補正量は、エピサイクロイド曲線又はハイポサイクロイド曲線のピッチ円周に沿った長さによって限定される。しかし、基本歯形の場合には、ピッチ円1p、2p上のエピサイクロイド曲線とハイポサイクロイド曲線の角度範囲に対応する転円周CFe(上述のCFe1又はCFe2)やCFh(上述のCFh1又はCFh2)は、歯先と歯底の補正量だけでは定まらず、転円1e,1h,2e,2hの半径の変形態様(例えば、上記変形円で言えば変形度合)によっても変化する。したがって、上記変形サイクロイド曲線を用いることでその曲線形状自体の自由度が増大する。また、歯先と歯底の補正量による転円周への影響は、従来の転円径の補正量による転円周への影響とは異なり、比例関係にはない。したがって、補正量と転円周との間に従来とは異なる新たな相関関係を持ちこむことができることによっても、歯形設計の自由度が高められる。
【0078】
そして、上記の基本歯形の特性がそのまま、これらの基本歯形をベースとする本実施形態のサイクロイド系歯車にも反映される。特に、この変形サイクロイド曲線を用いた歯形補正を施した基本歯形をベースとした修正歯形においては、ピッチ点近傍のクリアランスに影響を与えずに、歯先や歯底のクリアランスを設定できる点で、本発明に適用する基本歯形として極めて効果的である。
【0079】
しかしながら、本実施形態において用いられる基本歯形は上記のようなものに限定されず、上記変形サイクロイド曲線を用いる歯形補正以外の任意の歯形補正を行うことができる。そして、このような任意の歯形補正を施した、或いは、歯形補正を施さない、基本歯形をベースとして、上述の方法によって歯数を増加させたサイクロイド系歯車を構成することにより、歯車(歯形)の応力集中の緩和や剛性向上を図ることができるので、高品位の歯車及び歯車機構を低コストで製造することができる。特に、歯車機構において互いにかみ合う歯数を増加させることができるとともに、接触面圧も低減できることから、設計も容易になる。さらに、上記の剛性の向上により、歯車の厚みも低減可能になるため、サイクロイド歯車の製造に適したプレス加工において特に加工精度の向上やコストの低減を図ることができる。
【0080】
なお、本発明のサイクロイド系歯車及び歯車機構は、上述の図示例のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記各実施形態では、歯車機構として外歯(歯車)と内歯(歯車)とが噛合したものを例示したが、本発明に係る歯車機構としては、外歯(歯車)同士が噛合するものであっても構わない。
【符号の説明】
【0081】
1…外歯歯車、1a…基本歯形、1p…ピッチ円、1x…中心点、1e…エピサイクロイド曲線の転円、1h…ハイポサイクロイド曲線の転円、2…内歯歯車 2a…基本歯形、2p…ピッチ円、2x…中心点、2e…エピサイクロイド曲線の転円、2h…ハイポサイクロイド曲線の転円、10…歯車機構、11…第1軸材、12…二段歯車、12a…外歯、13…内歯歯車、13a…内歯、14…外歯歯車、14a…外歯、15…第2軸材、100…サイクロイド歯車、101…基本歯形、101h…歯元基本歯形範囲、101e…歯末基本歯形範囲、101a…歯元側基本歯形部分、101b…歯末側基本歯形部分、102…正転基本歯形、102b…正転基本歯形部分、103…逆転基本歯形、103a…逆転基本歯形部分、θ…中心角、φ…修正中心角、PC…ピッチ円、104,105…合成単位歯形、104a,104b…接続領域(変形前)、105a,105b…接続領域(変形後)、106,107…サイクロイド系歯車