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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113182
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】段差移動装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 57/02 20060101AFI20220728BHJP
【FI】
B62D57/02 P
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009231
(22)【出願日】2021-01-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】521035358
【氏名又は名称】株式会社クフウシヤ
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 威一郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 純
(72)【発明者】
【氏名】土屋 雄一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 克幸
(57)【要約】
【課題】安定して段差を昇降して移動することができる段差移動装置及びその制御方法を提供する。
【解決手段】 床面移動機構を含んで成る走行モジュールと、走行モジュールの前方側の端部に配置された昇降モジュールと、構造モジュールと、上部モジュールを備える。構造モジュールは、上部モジュールと構造モジュールとを前後方向に相対的に移動自在に連結する上部移動機構と、昇降モジュール及び走行モジュールと構造モジュールとを前後方向に相対的に移動自在に連結する下部移動機構とを含んで成る。昇降モジュールは構造モジュールと走行モジュールとを垂直方向に相対的に移動自在に連結する。段差の有無及び該段差の状態を示す情報を取得する情報取得部と、床面移動機構、昇降モジュール、上部移動機構、及び下部移動機構の動作を制御する動作制御部を備える、段差移動装置及びその制御方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方又は後方にある段差の高低間を昇降して移動する段差移動装置であって、
前記段差移動装置を床面上で移動させる床面移動機構を含んで成る走行モジュールと、
前記走行モジュールの前方側の端部から上方向に延びるように配置された昇降モジュールと、
前記昇降モジュールの上端部に支持されて前記走行モジュールの上方に配置されており、その上面を構成する上面部材と、該上面部材の平面視において前記段差移動装置の前後方向に直交する方向の両端部から下方向に向かって、前記走行モジュールが接地する接地対象との間に所定の隙間を形成する高さまで延在する側方部材と、を含んで成る構造モジュールと、
前記上面部材の上面に配置されており、その底面を構成する底面部材を含んで成る上部モジュールと、を備え、
前記構造モジュールは、
前記上部モジュールの底面と前記構造モジュールの上面との間に配置されて、該上部モジュールと該構造モジュールとを、前記段差移動装置の前後方向に相対的に移動自在に連結する上部移動機構と、
前記昇降モジュールの上端部と前記構造モジュールの上面部材の下面との間に配置されて、該昇降モジュール及び前記走行モジュールと該構造モジュールとを、前記段差移動装置の前後方向に相対的に移動自在に連結する下部移動機構と、を含んで成り、
前記昇降モジュールは、前記構造モジュールと前記走行モジュールとを垂直方向に相対的に移動自在に連結しており、
前記下部移動機構は、前記構造モジュールの前記上面部材の下面の前後方向の両略端部にわたって配置されて、前記昇降モジュールの上端部が該上面部材の後方側の略端部の位置よりも後方に移動することを規制するように構成されており、
前記段差移動装置の前方又は後方の段差の有無及び該段差の状態を示す情報を含む情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部が取得した情報に応じて、前記段差移動装置が移動先の段差に移動する際の、前記床面移動機構、前記昇降モジュール、前記上部移動機構、及び前記下部移動機構それぞれの相互に独立した動作を制御する動作制御部と、を備えることを特徴とする段差移動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の段差移動装置において、
前記情報取得部及び前記動作制御部は、前記上部モジュール、前記構造モジュール、前記昇降モジュール及び前記走行モジュールの何れかに備えられており、
前記段差移動装置を構成する各モジュールの重量は、下記式1及び2を満たすように調整されていることを特徴とする段差移動装置。
A+B>C+D…(1)
A+C+D>B…(2)
ただし、Aは、前記上部モジュールの重量であり、
Bは、前記上面部材と、前記側方部材と、前記上部移動機構と、下部移動機構と、を含む前記構造モジュールの重量であり、
Cは、昇降モジュールの重量であり、
Dは、走行モジュールの重量であって、
A、B、C、Dは、前記各モジュールが前記情報取得部又は前記動作制御部を備えている場合の、該情報取得部及び該動作制御部の重量を含む。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の段差移動装置において、
前記構造モジュールは、
前記側方部材それぞれの下端部の後方側に配置された脚部と、
前記脚部の底部の高さが最も前記側方部材の下端部に近い第1位置と、該底部の高さが該第1位置よりも下方にせり出した第2位置と、の間で該底部の位置を変化させるせり出し機構と、を含んで成り、
前記動作制御部は、前記情報取得部が取得した情報に基づいて、前記脚部を前記第1位置から前記第2位置の方向にせり出させて、該脚部の接地対象の上面を該脚部の前記底部を介して押圧させ、前記構造モジュールが前方側に所定程度傾くように、前記せり出し機構の動作を制御する傾き制御を行うように構成されていることを特徴とする段差移動装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の段差移動装置において、
前記走行モジュール又は前記昇降モジュールは、
前記走行モジュールの前方側の端部の位置において、該走行モジュールを、その接地対象の上面に対して平行な状態と、該走行モジュールの後方側の端部を下方に向けた状態との間で回転可能に支持する回転軸と、
前記動作制御部による制御に応じて、前記走行モジュールの前記回転軸を回転中心とした回転を規制して該走行モジュールをその接地対象の上面に対して平行な状態で維持するロック状態と、該走行モジュールの該回転軸を回転中心とした回転を規制しないロック解除状態とを切り替えるロック機構と、を備えることを特徴とする段差移動装置。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載の段差移動装置を制御する方法であって、
前記段差移動装置の前方又は後方の段差の有無及び該段差の状態を示す情報を取得して、該取得した情報に基づいて、段差の有無を判定する判定工程と、
前記判定工程において上りの段差が前記段差移動装置の前方にあると判定された場合には、
前記段差移動装置の前方の端部を移動先の段差の蹴上面の近傍の位置まで移動させるように前記床面移動機構を制御する工程と、
前記構造モジュールを前記上部モジュールと共に、前記側方部材の下端部が前記移動先の段差の高さを超える高さまで上方向に移動させるように前記昇降モジュールを制御する第1工程と、
前記構造モジュールを、その略全体が前記移動先の段差の上方に位置する位置まで水平移動させるように前記上部移動機構及び前記下部移動機構を制御する第2工程と、
前記上部モジュールを、その全体が前記移動先の段差の上方に位置する位置まで水平移動させるように前記上部移動機構を制御する第3工程と、
前記走行モジュールを、その下端部が前記移動先の段差の高さを超える高さまで上方向に移動させるように前記昇降モジュールを制御する第4工程と、
前記走行モジュールを、その全体が前記移動先の段差の上方に位置する位置まで水平移動させるように前記下部移動機構を制御する第5工程と、をさらに含み、
又は、
前記判定工程において下りの段差が前記段差移動装置の後方にあると判定された場合には、
前記昇降モジュールの前後方向の長さの分、前記上面部材の後方側の端部が移動先の段差の上方側にせり出す位置まで前記段差移動装置を移動するように前記床面移動機構を制御する工程と、
前記構造モジュールを、その下端部が前記走行モジュールの接地対象に接地する位置まで下方向に移動させるように前記昇降モジュールを制御する工程と、
前記走行モジュールを、その全体が前記移動先の段差の上方に位置する位置まで水平移動させるように前記下部移動機構を制御する第6工程と、
前記走行モジュールを、その下端部が前記移動先の段差の上面に接する高さまで下方向に移動させるように前記昇降モジュールを制御する第7工程と、
前記上部モジュールを、その全体が前記移動先の段差の上方に位置する位置まで水平移動させるように前記上部移動機構を制御する第8工程と、
前記構造モジュールを、その全体が前記移動先の段差の上方に位置する位置まで水平移動させるように前記上部移動機構及び前記下部移動機構を制御する第9工程と、
前記構造モジュールを前記上部モジュールと共に下方向に移動させるように、前記昇降モジュールを制御する第10工程と、をさらに含むことを特徴とする段差移動装置の制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載の制御方法において、
前記構造モジュールは、
前記側方部材それぞれの下端部の後方側に配置された脚部と、
前記脚部の底部の高さが最も前記側方部材の下端部に近い第1位置と、該底部の高さが該第1位置よりも下方にせり出した第2位置と、の間で該底部の位置を変化させるせり出し機構と、を含んで成り、
前記動作制御部は、前記脚部を前記第1位置から前記第2位置の方向にせり出させて、該脚部の接地対象の上面を該脚部の前記底部を介して押圧させ、前記構造モジュールが前方側に所定程度傾くように、前記せり出し機構の動作を制御する傾き制御を行うように構成されており、
前記第3工程と前記第4工程との間に、前記傾き制御を行う工程を含み、
又は、
前記第6工程の前に、前記傾き制御を行う工程を含むことを特徴とする制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載の制御方法において、
前記情報取得部は、前記構造モジュールの傾きの大きさを示す傾き情報及び前記脚部が接地する接地対象の上面のうち該脚部が接地する接地部分から該情報取得部までの距離を示す上面情報の一方又は両方を取得するように構成されており、
前記傾き制御を行う工程は、
前記傾き情報及び前記上面情報の一方又は両方を取得する工程と、
前記傾き情報及び前記上面情報の一方又は両方に基づいて、前記構造モジュールを前方方向に前記所定程度傾かせるための、前記脚部の前記底部の前記第2位置の方向へのせり出し量を取得する工程と、
前記取得されたせり出し量に応じて前記脚部の前記底部を前記第2位置の方向にせり出させるように、前記せり出し機構の動作を制御する工程と、を含むことを特徴とする制御方法。
【請求項8】
請求項5~7の何れかに記載の制御方法において、
前記走行モジュール又は前記昇降モジュールは、
前記走行モジュールの前方側の端部の位置において、該走行モジュールを、その接地対象の上面に対して平行な状態と、該走行モジュールの後方側の端部を下方に向けた状態との間で回転可能に支持する回転軸と、
前記動作制御部による制御に応じて、前記走行モジュールの前記回転軸を回転中心とした回転を規制して該走行モジュールをその接地対象の上面に対して平行な状態で維持するロック状態と、該走行モジュールの該回転軸を回転中心とした回転を規制しないロック解除状態とを切り替えるロック機構と、を含んで成り、
前記第4工程の前に、前記ロック機構を前記ロック解除状態にさせる工程を含み、
前記第5工程は、前記走行モジュールの下端部を前記移動先の段差の上面にあてて、該走行モジュールの水平移動に伴って該走行モジュールを押し上げさせて、該走行モジュールを該移動先の段差の上面に対して平行な状態とする工程を含み、
前記第5工程の後に、前記ロック機構を前記ロック状態にさせるように制御する工程を含み、
又は、
前記第6工程の前に、前記ロック機構を前記ロック解除状態にさせる工程を含み、
前記第7工程は、前記走行モジュールの下端部を前記移動先の段差の上面にあてて、該走行モジュールの下方向への移動に伴って該走行モジュールを押し上げさせて、該走行モジュールを該移動先の段差の上面に対して平行な状態とする工程を含み、
前記第7工程の後に、前記ロック機構を前記ロック状態にさせるように制御する工程を含むことを特徴とする制御方法。
【請求項9】
請求項5~7の何れかに記載の制御方法において、
前記走行モジュールは、その平面視において前記段差移動装置の前後方向に直交する方向である左右方向の両側部の前方側の端部に、該走行モジュールの該左右方向に突出するように設けられて、該走行モジュールを、その接地対象の上面に対して平行な状態と、該走行モジュールの後方側の端部を下方に向けた状態との間で回転可能に支持する回転軸として機能する支持部材を含んで成り、
前記走行モジュール又は前記昇降モジュールは、
前記走行モジュールをその前方側の端部の位置で前記左右方向から挟み込み、該位置から上方向に延びるように対向して設けられており、該支持部材の先端部が差し込まれて該走行モジュールの前方側の端部の上下方向の移動を案内する溝部を有するガイドレールと、
前記溝部に案内される範囲で前記支持部材を上下方向に移動させることにより、前記走行モジュールの前方側の端部を上下方向に移動させる上下移動機構と、を含んで成り、
前記動作制御部による制御に応じて、前記走行モジュールの前記支持部材を回転中心とした回転と前記ガイドレールに沿った移動とを規制して該走行モジュールをその接地対象の上面に対して平行な状態であって該走行モジュールの前方側の端部が前記ガイドレールの下端部の位置にある状態で維持するロック状態と、該走行モジュールの該回転軸を回転中心とした回転と該ガイドレールに沿った移動とを規制しないロック解除状態とを切り替えるロック機構と、を含んで成り、
前記第4工程の前に前記ロック機構を前記ロック解除状態にさせて、前記走行モジュールが後方側の端部を下方に向けた状態になるまで該走行モジュールの前方側の端部を上方に移動させるように上下移動機構を制御する工程を含み、
前記第5工程は、該走行モジュールの前方側の端部を下方に移動させるように上下移動機構を制御して、該走行モジュールを前記移動先の段差の上面にあてて、該走行モジュールの下方向への移動に伴って該走行モジュールを押し上げさせて、該走行モジュールを該移動先の段差の上面に対して平行な状態とする工程を含み、
前記第5工程の後に、前記ロック機構を前記ロック状態にさせるように制御する工程を含み、
又は、
前記第6工程の前に前記ロック機構を前記ロック解除状態にさせて、前記走行モジュールが後方側の端部を下方に向けた状態になるまで該走行モジュールの前方側の端部を上方に移動させるように上下移動機構を制御する工程を含み、
前記第7工程は、該走行モジュールの前方側の端部を下方に移動させるように上下移動機構を制御して、該走行モジュールを前記移動先の段差の上面にあてて、該走行モジュールの下方向への移動に伴って該走行モジュールを押し上げさせて、該走行モジュールを該移動先の段差の上面に対して平行な状態とする工程を含み、
前記第7工程の後に、前記ロック機構を前記ロック状態にさせるように制御する工程を含むことを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前方又は後方にある段差の高低間を昇降して移動する段差移動装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、階段昇降装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平成10-236349
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発明では、たとえば段差を昇る場合には、まず本体1と、本体1に格納された上脚3及びスライダ5を上方へ移動させた後に、スライダ5を昇る先の段差の上方側に水平移動させ、さらに本体1を、スライダ5上をスライドさせて当該段差の上方側に水平移動させる。これにより、階段昇降装置は、昇る先の段差の上面に移動した本体1と、段差の手前側に残っている下脚4とが同時に接地している状態になる。
【0005】
そしてその状態から、段差の手前側に残っている下脚4を、同じく段差の手前側に残っている上脚3の位置まで引き上げて、すなわち昇る先の段差に移動した本体1が接地して階段昇降装置を支持している状態に移行して、上脚3及び下脚4を一体的に段差の上方側に水平移動させることで、昇る先の段差へ移動することができる。又は、段差を降りる場合には、これら一連の動作の逆の動作を実行することで、降りる先の段差へと移動することができる。
【0006】
ところで、このような動作により段差を昇降する装置においては、移動先の段差に先に移動した部分が接地して装置全体を支持して、移動元に残っている部分を移動先の段差に移動させる動作を行っている間が、最も不安定な状態となる。なぜならば、段差を昇る場合には段差の手前側に、段差を降りる場合には降り先の段差の側に、装置を倒そうとする回転モーメントがかかり、装置が落下してしまう可能性があるためである。
【0007】
しかしながら特許文献1の発明においては、上脚3と下脚4とを連結して下脚4を垂直方向に移動させるシリンダ等の部材が階段昇降装置の側面視において下脚4の中央部から上に延びるように配置されている。
【0008】
そのため、下脚4及び上脚3の重心が段差の蹴上面から離れているので、例えば下脚4を上脚3の位置まで上方に引き上げる際に、装置を倒そうとする大きな回転モーメントがかかってしまう。その結果、段差を昇降する動作を行う際に、装置が不安定になり、装置が段差から又は段差に落下してしまうおそれがある。
【0009】
そこで本発明は、安定して段差を昇降して移動することができる段差移動装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の段差移動装置は、
前方又は後方にある段差の高低間を昇降して移動する段差移動装置であって、
前記段差移動装置を床面上で移動させる床面移動機構を含んで成る走行モジュールと、
前記走行モジュールの前方側の端部から上方向に延びるように配置された昇降モジュールと、
前記昇降モジュールの上端部に支持されて前記走行モジュールの上方に配置されており、その上面を構成する上面部材と、該上面部材の平面視において前記段差移動装置の前後方向に直交する方向の両端部から下方向に向かって、前記走行モジュールが接地する接地対象との間に所定の隙間を形成する高さまで延在する側方部材と、を含んで成る構造モジュールと、
前記上面部材の上面に配置されており、その底面を構成する底面部材を含んで成る上部モジュールと、を備え、
前記構造モジュールは、
前記上部モジュールの底面と前記構造モジュールの上面との間に配置されて、該上部モジュールと該構造モジュールとを、前記段差移動装置の前後方向に相対的に移動自在に連結する上部移動機構と、
前記昇降モジュールの上端部と前記構造モジュールの上面部材の下面との間に配置されて、該昇降モジュール及び前記走行モジュールと該構造モジュールとを、前記段差移動装置の前後方向に相対的に移動自在に連結する下部移動機構と、を含んで成り、
前記昇降モジュールは、前記構造モジュールと前記走行モジュールとを垂直方向に相対的に移動自在に連結しており、
前記下部移動機構は、前記構造モジュールの前記上面部材の下面の前後方向の両略端部にわたって配置されて、前記昇降モジュールの上端部が該上面部材の後方側の略端部の位置よりも後方に移動することを規制するように構成されており、
前記段差移動装置の前方又は後方の段差の有無及び該段差の状態を示す情報を含む情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部が取得した情報に応じて、前記段差移動装置が移動先の段差に移動する際の、前記床面移動機構、前記昇降モジュール、前記上部移動機構、及び前記下部移動機構それぞれの相互に独立した動作を制御する動作制御部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば動作制御部により、昇降モジュールが制御されて、構造モジュールと、構造モジュールの上に配置された上部モジュールとは、走行モジュールに対して相対的に上方向(離れる方向)に移動でき、その状態から、上部移動機構と、下部移動機構とが制御されて、構造モジュール、上部モジュールの順で前方側に移動できる。すなわち段差移動装置の前方に上りの段差がある場合に、昇る先の段差の上面に移動した構造モジュールと、段差の手前側に残っている走行モジュールとが同時に接地している状態とすることができる。
【0012】
さらにこの状態から、動作制御部により昇降モジュールが制御されて、走行モジュールは構造モジュールに対して相対的に上方向(近づく方向)に移動でき、その状態から、下部移動機構が制御されて、走行モジュールを前方側に移動できる。すなわち段差移動装置の前方にある上りの段差の上面へと、段差移動装置全体を移動させることができる。
【0013】
また段差移動装置の後方に下りの段差がある場合には例えば、これら一連の動作の逆の動作をするように制御することで、下りの段差の上面へと移動することができる。
【0014】
そして昇降モジュールは走行モジュールの前方側の端部に配置されている。また、昇降モジュールの上端部は構造モジュールの上面部材の下面の前後方向の両略端部にわたって配置された下部移動機構によって、構造モジュールの上面部材の下面をその前後方向の両略端部の間で移動できかつ、上面部材の後方側の略端部の位置よりも後方に移動することを規制されている。
【0015】
そのため、前方にある上りの段差の蹴上面に対して昇降モジュールを接近させた状態で走行モジュールを段差の上面側に移動させることができ、また後方にある下りの段差の蹴上面にも昇降モジュールを接近させた状態で走行モジュールを段差の上面側に移動させることができる。
【0016】
これにより、上りの段差、下りの段差のいずれの場合においても、走行モジュールを段差の上面側に移動させる際に、段差移動装置にかかる回転モーメントを軽減することができ、段差移動装置が段差から又は段差に落下してしまうおそれも軽減できる。このように本発明によれば、安定して段差を昇降して移動することができる。
【0017】
本発明の段差移動装置において、
前記情報取得部及び前記動作制御部は、前記上部モジュール、前記構造モジュール、前記昇降モジュール及び前記走行モジュールの何れかに備えられており、
前記段差移動装置を構成する各モジュールの重量は、下記式1及び2を満たすように調整されていることが好ましい。
【0018】
A+B>C+D…(1)
A+C+D>B…(2)
ただし、Aは、前記上部モジュールの重量であり、
Bは、前記上面部材と、前記側方部材と、前記上部移動機構と、下部移動機構と、を含む前記構造モジュールの重量であり、
Cは、昇降モジュールの重量であり、
Dは、走行モジュールの重量であって、
A、B、C、Dは、前記各モジュールが前記情報取得部又は前記動作制御部を備えている場合の、該情報取得部及び該動作制御部の重量を含む。
【0019】
本発明によれば、走行モジュールを段差の上面側に移動させる際には、上部モジュールと構造モジュールとが走行モジュールと昇降モジュールに対するカウンターウェイトとして機能できて、かつ、構造モジュールを段差の上面側に移動させる際には上部モジュールと、走行モジュールと、昇降モジュールとが構造モジュールに対するカウンターウェイトとして機能できるように各モジュールの重量が調整されているので、より安定性が高い。また、カウンターウェイト用の部材を改めて備える必要がなくなるので、結果的に段差移動装置の小型化、軽量化にもつながる。
【0020】
本発明の段差移動装置において、
前記構造モジュールは、
前記側方部材それぞれの下端部の後方側に配置された脚部と、
前記脚部の底部の高さが最も前記側方部材の下端部に近い第1位置と、該底部の高さが該第1位置よりも下方にせり出した第2位置と、の間で該底部の位置を変化させるせり出し機構と、を含んで成り、
前記動作制御部は、前記情報取得部が取得した情報に基づいて、前記脚部を前記第1位置から前記第2位置の方向にせり出させて、該脚部の接地対象の上面を該脚部の前記底部を介して押圧させ、前記構造モジュールが前方側に所定程度傾くように、前記せり出し機構の動作を制御する傾き制御を行うように構成されていることが好ましい。
【0021】
本発明によれば、動作制御部により、側方部材それぞれの下端部の後方側に配置された脚部を接地対象の上面側にせり出させて、構造モジュールを前方側に所定程度傾かせる傾き制御が行われる。
【0022】
これにより、例えば走行モジュールを段差の上面側に移動させる際などの、装置が不安定になるときに、構造モジュールを前方側に所定程度傾かせることができるので、段差移動装置が段差から又は段差に落下してしまうおそれが効果的に軽減できる。
【0023】
本発明の段差移動装置において、
前記走行モジュール又は前記昇降モジュールは、
前記走行モジュールの前方側の端部の位置において、該走行モジュールを、その接地対象の上面に対して平行な状態と、該走行モジュールの後方側の端部を下方に向けた状態との間で回転可能に支持する回転軸と、
前記動作制御部による制御に応じて、前記走行モジュールの前記回転軸を回転中心とした回転を規制して該走行モジュールをその接地対象の上面に対して平行な状態で維持するロック状態と、該走行モジュールの該回転軸を回転中心とした回転を規制しないロック解除状態とを切り替えるロック機構と、を備えることが好ましい。
【0024】
本発明によれば回転軸によって、走行モジュールの前方側の端部の位置において、走行モジュールが、その接地対象の上面に対して平行な状態と、走行モジュールの後方側の端部を下方に向けた状態との間で回転可能に支持される。
【0025】
また、ロック機構により、走行モジュールの回転を規制するロック状態と、回転を規制しないロック解除状態とを切り替えて、走行モジュールの後方側の端部を下方に向けた状態まで回転させるか、あるいは回転させずにその接地対象の上面に平行な状態で維持するように、必要に応じて随時に制御することができる。
【0026】
これにより例えば走行モジュールを段差の上面側に移動させる際にはロック解除状態として走行モジュールの後方側の端部を下方に向けた状態まで回転させて、昇降モジュールだけでなく、走行モジュール全体をも、段差の蹴上面に接近させた状態で走行モジュールを段差の上面側に移動させることができる。また、走行モジュールが接地対象に接地して段差移動装置を支持している間はロック状態とすることができるので、安定的に段差移動装置を支持させる機能も損なわれない。
【0027】
本発明の制御方法は、上記に記載の段差移動装置を制御する方法であって、
前記段差移動装置の前方又は後方の段差の有無及び該段差の状態を示す情報を取得して、該取得した情報に基づいて、段差の有無を判定する判定工程と、
前記判定工程において上りの段差が前記段差移動装置の前方にあると判定された場合には、
前記段差移動装置の前方の端部を移動先の段差の蹴上面の近傍の位置まで移動させるように前記床面移動機構を制御する工程と、
前記構造モジュールを前記上部モジュールと共に、前記側方部材の下端部が前記移動先の段差の高さを超える高さまで上方向に移動させるように前記昇降モジュールを制御する第1工程と、
前記構造モジュールを、その略全体が前記移動先の段差の上方に位置する位置まで水平移動させるように前記上部移動機構及び前記下部移動機構を制御する第2工程と、
前記上部モジュールを、その全体が前記移動先の段差の上方に位置する位置まで水平移動させるように前記上部移動機構を制御する第3工程と、
前記走行モジュールを、その下端部が前記移動先の段差の高さを超える高さまで上方向に移動させるように前記昇降モジュールを制御する第4工程と、
前記走行モジュールを、その全体が前記移動先の段差の上方に位置する位置まで水平移動させるように前記下部移動機構を制御する第5工程と、をさらに含み、
又は、
前記判定工程において下りの段差が前記段差移動装置の後方にあると判定された場合には、
前記昇降モジュールの前後方向の長さの分、前記上面部材の後方側の端部が移動先の段差の上方側にせり出す位置まで前記段差移動装置を移動するように前記床面移動機構を制御する工程と、
前記構造モジュールを、その下端部が前記走行モジュールの接地対象に接地する位置まで下方向に移動させるように前記昇降モジュールを制御する工程と、
前記走行モジュールを、その全体が前記移動先の段差の上方に位置する位置まで水平移動させるように前記下部移動機構を制御する第6工程と、
前記走行モジュールを、その下端部が前記移動先の段差の上面に接する高さまで下方向に移動させるように前記昇降モジュールを制御する第7工程と、
前記上部モジュールを、その全体が前記移動先の段差の上方に位置する位置まで水平移動させるように前記上部移動機構を制御する第8工程と、
前記構造モジュールを、その全体が前記移動先の段差の上方に位置する位置まで水平移動させるように前記上部移動機構及び前記下部移動機構を制御する第9工程と、
前記構造モジュールを前記上部モジュールと共に下方向に移動させるように、前記昇降モジュールを制御する第10工程と、をさらに含むことを特徴とする。
【0028】
本発明によれば、上りの段差に対しては、まず段差移動装置の前方の端部が移動先の段差の蹴上面の近傍の位置まで移動されて、その後第2工程において構造モジュールの略全体が段差の上方に位置する位置まで水平移動され、第3工程において上部モジュールの全体が段差の上方に位置する位置まで水平移動された後に、第4、5工程において走行モジュールが段差の上面側に移動される。
【0029】
そのため、走行モジュールと昇降モジュールとが移動先の段差の蹴上面に接近した状態でありかつ構造モジュールと上部モジュールの大部分は段差の上面側に移動している状態で、走行モジュールを段差の上面側に移動させる工程が行われるので、当該工程を安定した状態で行うことができる。
【0030】
又は、下りの段差に対しては第6、7工程において走行モジュールを移動先の段差の上面側に移動させる際に、昇降モジュールの前後方向の長さの分上面部材の後方側の端部が段差の上方側にせり出している状態であるので、上りの段差の場合と同様に、走行モジュールと昇降モジュールとが段差の蹴上面に接近した状態でありかつ構造モジュールと上部モジュールの大部分は段差の上面側に移動している状態で、走行モジュールを段差の上面側に移動させる工程を安定した状態で行うことができる。
【0031】
本発明の制御方法において、
前記構造モジュールは、
前記側方部材それぞれの下端部の後方側に配置された脚部と、
前記脚部の底部の高さが最も前記側方部材の下端部に近い第1位置と、該底部の高さが該第1位置よりも下方にせり出した第2位置と、の間で該底部の位置を変化させるせり出し機構と、を含んで成り、
前記動作制御部は、前記脚部を前記第1位置から前記第2位置の方向にせり出させて、該脚部の接地対象の上面を該脚部の前記底部を介して押圧させ、前記構造モジュールが前方側に所定程度傾くように、前記せり出し機構の動作を制御する傾き制御を行うように構成されており、
前記第3工程と前記第4工程との間に、前記傾き制御を行う工程を含み、
又は、
前記第6工程の前に、前記傾き制御を行う工程を含むことが好ましい。
【0032】
本発明によれば、上りの段差に対しては、第3工程の後に構造モジュールを前方側に所定程度傾かせる傾き制御が行われた後に、すなわち段差移動装置の重心がより前方側に移動された後に、走行モジュールが移動先の段差の上面側に移動される第4、5工程が行われる。又は、下りの段差に対しては、構造モジュールを前方側に所定程度傾かせる傾き制御が行われた後に、走行モジュールが段差の上面側に移動される第6、7工程が行われる。
【0033】
これにより、走行モジュールを段差の上面側に移動させる際に、上部モジュールと構造モジュールとが、走行モジュールと昇降モジュールに対するカウンターウェイトとしてより機能できるので、より安定性が高い。
【0034】
本発明の制御方法において、
前記情報取得部は、前記構造モジュールの傾きの大きさを示す傾き情報及び前記脚部が接地する接地対象の上面のうち該脚部が接地する接地部分から該情報取得部までの距離を示す上面情報の一方又は両方を取得するように構成されており、
前記傾き制御を行う工程は、
前記傾き情報及び前記上面情報の一方又は両方を取得する工程と、
前記傾き情報及び前記上面情報の一方又は両方に基づいて、前記構造モジュールを前方方向に前記所定程度傾かせるための、前記脚部の前記底部の前記第2位置の方向へのせり出し量を取得する工程と、
前記取得されたせり出し量に応じて前記脚部の前記底部を前記第2位置の方向にせり出させるように、前記せり出し機構の動作を制御する工程と、を含むことが好ましい。
【0035】
たとえば段差の縁に滑り止めの細工がされている場合など、脚部が接地する接地対象の上面のうち脚部が接地する部分(接地部分)の高さが、他の部分の高さと異なることが考えられる。そのような接地対象の上面に構造モジュールが接地した場合、構造モジュールが不特定の方向に傾いてしまう。前方側への傾きが小さ過ぎるとカウンターウェイトとしての効果が損なわれ、逆に傾きが大きすぎると前方側に転倒してしまうおそれがあるので、精度よく傾きを制御することが求められる。
【0036】
本発明によれば、構造モジュールの傾きの大きさ、又は脚部が接地する部分までの距離に応じて脚部のせり出し量が変更されてせり出し制御が行われるので、脚部が接地する部分の高さが他の部分の高さと異なることなどにより構造モジュールが接地対象上で傾いてしまう場合においても、構造モジュールを前方方向に所定程度、精度よく傾けることができる。そのため、走行モジュールを段差側に移動させる際の安定性がより高まる。
【0037】
本発明の制御方法において、
前記走行モジュール又は前記昇降モジュールは、
前記走行モジュールの前方側の端部の位置において、該走行モジュールを、その接地対象の上面に対して平行な状態と、該走行モジュールの後方側の端部を下方に向けた状態との間で回転可能に支持する回転軸と、
前記動作制御部による制御に応じて、前記走行モジュールの前記回転軸を回転中心とした回転を規制して該走行モジュールをその接地対象の上面に対して平行な状態で維持するロック状態と、該走行モジュールの該回転軸を回転中心とした回転を規制しないロック解除状態とを切り替えるロック機構と、を含んで成り、
前記第4工程の前に、前記ロック機構を前記ロック解除状態にさせる工程を含み、
前記第5工程は、前記走行モジュールの下端部を前記移動先の段差の上面にあてて、該走行モジュールの水平移動に伴って該走行モジュールを押し上げさせて、該走行モジュールを該移動先の段差の上面に対して平行な状態とする工程を含み、
前記第5工程の後に、前記ロック機構を前記ロック状態にさせるように制御する工程を含み、
又は、
前記第6工程の前に、前記ロック機構を前記ロック解除状態にさせる工程を含み、
前記第7工程は、前記走行モジュールの下端部を前記移動先の段差の上面にあてて、該走行モジュールの下方向への移動に伴って該走行モジュールを押し上げさせて、該走行モジュールを該移動先の段差の上面に対して平行な状態とする工程を含み、
前記第7工程の後に、前記ロック機構を前記ロック状態にさせるように制御する工程を含むことが好ましい。
【0038】
本発明によれば、ロック機構が走行モジュールの回転を規制しないロック解除状態となった後に、走行モジュールが移動先の段差の上面側に移動される第4、5工程又は第6、7工程が行われる。これにより、第4工程又は第6工程において、走行モジュールは自重により後方側の端部を下方に向けた状態まで回転されるので、昇降モジュールだけでなく、走行モジュール全体をも、移動先の段差の蹴上面に接近させた状態で走行モジュールを段差の上面側に移動させることができる。
【0039】
また第5工程又は第7工程においてもロック解除状態であるので、走行モジュールが前方側に水平移動される動作又は下方向に移動される動作に伴って、走行モジュールが移動先の段差の上面にあたって押し上げられて、自然に段差の上面に対して平行な状態まで戻る。
【0040】
また、走行モジュールを、後方側の端部を下方に向けた状態まで回転させ、又は段差の上面に対して平行な状態に戻すための特別な動力はなくともよい。そして、走行モジュールが段差の上面に対して平行な状態となった後に、ロック機構を再びロック状態にさせるように制御するので、その後の工程において、走行モジュールが安定的に段差移動装置を支持させる機能も損なわれない。
【0041】
本発明の制御方法において、
前記走行モジュールは、その平面視において前記段差移動装置の前後方向に直交する方向である左右方向の両側部の前方側の端部に、該走行モジュールの該左右方向に突出するように設けられて、該走行モジュールを、その接地対象の上面に対して平行な状態と、該走行モジュールの後方側の端部を下方に向けた状態との間で回転可能に支持する回転軸として機能する支持部材を含んで成り、
前記走行モジュール又は前記昇降モジュールは、
前記走行モジュールをその前方側の端部の位置で前記左右方向から挟み込み、該位置から上方向に延びるように対向して設けられており、該支持部材の先端部が差し込まれて該走行モジュールの前方側の端部の上下方向の移動を案内する溝部を有するガイドレールと、
前記溝部に案内される範囲で前記支持部材を上下方向に移動させることにより、前記走行モジュールの前方側の端部を上下方向に移動させる上下移動機構と、を含んで成り、
前記動作制御部による制御に応じて、前記走行モジュールの前記支持部材を回転中心とした回転と前記ガイドレールに沿った移動とを規制して該走行モジュールをその接地対象の上面に対して平行な状態であって該走行モジュールの前方側の端部が前記ガイドレールの下端部の位置にある状態で維持するロック状態と、該走行モジュールの該回転軸を回転中心とした回転と該ガイドレールに沿った移動とを規制しないロック解除状態とを切り替えるロック機構と、を含んで成り、
前記第4工程の前に前記ロック機構を前記ロック解除状態にさせて、前記走行モジュールが後方側の端部を下方に向けた状態になるまで該走行モジュールの前方側の端部を上方に移動させるように上下移動機構を制御する工程を含み、
前記第5工程は、該走行モジュールの前方側の端部を下方に移動させるように上下移動機構を制御して、該走行モジュールを前記移動先の段差の上面にあてて、該走行モジュールの下方向への移動に伴って該走行モジュールを押し上げさせて、該走行モジュールを該移動先の段差の上面に対して平行な状態とする工程を含み、
前記第5工程の後に、前記ロック機構を前記ロック状態にさせるように制御する工程を含み、
又は、
前記第6工程の前に前記ロック機構を前記ロック解除状態にさせて、前記走行モジュールが後方側の端部を下方に向けた状態になるまで該走行モジュールの前方側の端部を上方に移動させるように上下移動機構を制御する工程を含み、
前記第7工程は、該走行モジュールの前方側の端部を下方に移動させるように上下移動機構を制御して、該走行モジュールを前記移動先の段差の上面にあてて、該走行モジュールの下方向への移動に伴って該走行モジュールを押し上げさせて、該走行モジュールを該移動先の段差の上面に対して平行な状態とする工程を含み、
前記第7工程の後に、前記ロック機構を前記ロック状態にさせるように制御する工程を含むことが好ましい。
【0042】
本発明によれば、上りの段差に対しては、ロック機構が走行モジュールの回転を規制しないロック解除状態とされて、走行モジュールが自重で回転して後方側の端部を下方に向けた状態になるまで上方に移動された後に、走行モジュールが移動先の段差の上面側に移動される第4、5工程又は第6、7が行われる。これにより第4工程又は第6工程において、昇降モジュールだけでなく走行モジュール全体をも、移動先の段差の蹴上面に接近させた状態で走行モジュールを段差の上面側に移動させることができる。
【0043】
また第5工程又は第7工程においては、走行モジュールが移動先の段差の上面側に向かって下方向に移動される動作に伴って走行モジュールが段差の上面にあたって押し上げられて、段差の上面に対して平行な状態まで戻る。
【0044】
これにより、走行モジュールを段差の上面側に移動させる際に、段差移動装置にかかる回転モーメントをより確実に軽減することができ、段差移動装置が移動先の段差から又は移動先の段差に落下してしまうおそれも軽減できる。そして、走行モジュールが移動先の段差の上面に対して平行な状態となった後に、ロック機構を再びロック状態にさせるように制御するので、その後の工程で、走行モジュールが安定的に段差移動装置を支持させる機能も損なわれない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明の段差移動装置の全体像の一例を示す図(側面図)。
図2】本発明の段差移動装置の全体像の一例を示す図(背面図)。
図3A】本発明の制御方法に含まれる工程を示すフローチャート。
図3B】本発明の制御方法に含まれる工程を示すフローチャート。
図4A】本発明の段差移動装置の上りの段差に対する制御の工程を示す図。
図4B】本発明の段差移動装置の上りの段差に対する制御の工程を示す図。
図5A】本発明の段差移動装置の下りの段差に対する制御の工程を示す図。
図5B】本発明の段差移動装置の下りの段差に対する制御の工程を示す図。
図6】本発明の制御方法に含まれる工程を示すフローチャート。
図7】本発明の第1変更実施形態の段差移動装置の一例を示す図。
図8A】本発明の第1変更実施形態の制御方法に含まれる工程を示すフローチャート。
図8B】本発明の第1変更実施形態の制御方法に含まれる工程を示すフローチャート。
図9A】本発明の第2変更実施形態の段差移動装置の一例を示す図。
図9B】本発明の第2変更実施形態の段差移動装置の一例を示す図。
図10A】本発明の第2変更実施形態の制御方法に含まれる工程を示すフローチャート。
図10B】本発明の第2変更実施形態の制御方法に含まれる工程を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0046】
<段差移動装置の構成>
まず図1図2を用いて、本実施形態の段差移動装置の構成について説明する。なお同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略することがある。なお図1は、手前側にある側方部材530及び上部モジュール70の側部、前方部材590、通電又は通信用のケーブル、駆動用のモータ等を説明のために取り除いた状態を記載している。
【0047】
本実施形態の段差移動装置1は、前方又は後方にある段差の高低間を昇降して移動する装置であり、走行モジュール10と、昇降モジュール30と、構造モジュール50と、上部モジュール70と、複数の情報取得部90(90a、90b…)と、を含んで構成される。なお本実施形態の段差移動装置1の大きさは、前後方向の長さが250mm、前後方向に直交する方向である左右方向の長さが350mm、高さが300mmであるが、これに限定されない。
【0048】
走行モジュール10は、段差移動装置1を床面Gr上で移動させる床面移動機構110を含んで成る。走行モジュール10は、床面移動機構110を介してその接地対象に接地している間は、段差移動装置1を支持する。なお「床面」とは、段差移動装置1がその上面上を十分に走行等して移動できる程度の広がりを持つ面を意味し、例えば、路面、地面、階段等の段差の踏み面(すなわち上面)等も含む。
【0049】
床面移動機構110は、床面Gr上において、段差移動装置1を例えば前後左右方向を含む全方向に移動させる例えばタイヤであって、好ましくはメカナムホイールが用いられるが、オムニホイールその他の車輪、クローラ、又は脚状の機構のほか、段差移動装置1を床面上で移動させることができるあらゆる機構が用いられてよい。本実施形態においては、走行モジュール10の四隅の下面に各1つ、合計4つのメカナムホイールが、メカナムホイールを駆動させるモータとともに備えられている。
【0050】
昇降モジュール30は、走行モジュール10の前方側の端部から上方向に延びるように配置されており、構造モジュール50と走行モジュール10とを垂直方向に相対的に移動自在に連結している。昇降モジュール30としては、周知の種々の機構が用いられてよい。例えば本実施形態において昇降モジュール30は、側方部材530の下端部の高さから下部移動機構570の下面の高さまでの長さと同程度の長さの一対のリニアガイド301と、一対のリニアガイドが配置される縦長のロの字形状のフレーム部材303と、リニアガイド上のスライダ(図示せず)と、スライダと走行モジュール10とを固定する固定部材305と、図示しないタイミングベルト、プーリからなる直動機構と、モータ等のアクチュエータとで構成される。なお、モータ等のアクチュエータは、走行モジュール10に配置されていてもよい。
【0051】
固定部材305は、走行モジュール10の前方側の端部から上方向に延びるように、その下端部が走行モジュール10に固定されている。フレーム部材303の上端部は、下部移動機構570のスライダの下面に固定されている。リニアガイド301上のスライダは固定部材305に固定されており、アクチュエータにより上下方向に移動される。
【0052】
構造モジュール50は昇降モジュール30の上端部に支持された状態で走行モジュール10の上方に配置されており、構造モジュール50の上面を構成する、例えば方形状の板状の部材である上面部材510と、上面部材510の平面視において段差移動装置1の前後方向に直交する方向、すなわち左右の両端部から下方向に向かって延在する例えば台形状の薄板状の部材である側方部材530と、を含んで構成される。なお側方部材530の上下方向の長さは、たとえば段差の高低間を昇降して移動する動作を開始する前の通常の状態において、走行モジュール10が接地する床面Grとの間に所定の隙間Gaを形成する高さまで延在する長さに調整されているので、段差移動装置1が床面Gr上を移動する際の妨げとはならない。
【0053】
本実施形態において構造モジュール50はさらに、前方側に方形状の薄板状の部材である前方部材590を有しており、上面部材510、左右の側方部材530及び前方部材590で囲まれた空間Spを内側に形成している。また、側方部材530、前方部材590には、情報取得部90のセンシングを妨げないために十分な大きさの穴Ha(Ha1、Ha2、Ha3)が設けられている。
【0054】
そして側方部材530は、例えば空間Sp側に配置された4本の柱部材535を含んで構成されており、柱部材535により支えられている。なお、上面部材510の左右方向の幅は、走行モジュール10の左右方向の幅よりも広く調整されているので、走行モジュール10が空間Sp内を移動する際に、側方部材530が当該移動の妨げとはならない。
【0055】
そして、側方部材530は、例えば柱部材535それぞれの下方側の先端部に設けられた脚部531と、せり出し機構533と、を含んで構成される。せり出し機構533としては、例えば側方部材530の下端部と脚部531との間に配置されたラックギヤ及びラックピニオン、台型ネジ及びナット、ボールネジ及びナットとアクチュエータとにより構成される送り機構若しくはカムとそのアクチュエータにより構成されるカム機構などの周知の種々の機構が用いられてよい。動作制御部730の制御に応じてアクチュエータが作動して脚部531を上下動させることにより、後方側の脚部531の底部の高さが最も側方部材530の下端部に近い第1位置と、該底部の高さが該第1位置よりも下方にせり出した第2位置と、の間で該底部の位置を変化させる。
【0056】
上部移動機構550は、上部モジュール70の底面と構造モジュール50の上面との間に配置されて、上部モジュール70と構造モジュール50とを、段差移動装置1の前後方向に相対的に移動自在に連結している。
【0057】
上部移動機構550としては、種々の機構が用いられてよい。例えば本実施形態においては、構造モジュール50の上面部材510の上面の前後方向の両略端部にわたって配置された一対のリニアガイド上のスライダが、アクチュエータにより前後方向に移動される。スライダの上面が上部モジュール70の底面に固定されている。
【0058】
下部移動機構570は、昇降モジュール30の上端部と構造モジュール50の上面部材510の下面との間に配置されて、昇降モジュール30及び走行モジュール10と構造モジュール50とを、段差移動装置1の前後方向に相対的に移動自在に連結している。
【0059】
下部移動機構570としては、種々の機構が用いられてよい。例えば本実施形態においては、構造モジュール50の上面部材510の下面の前後方向の両略端部にわたって配置された一対のリニアガイド上のスライダがアクチュエータにより前後方向に移動される。スライダの下面が昇降モジュール30の上端部に固定されている。下部移動機構570は、昇降モジュール30の上端部が該上面部材510の後方側の略端部の位置よりも後方に移動することを規制している。
【0060】
上部モジュール70は、構造モジュール50の上面部材510の上面に乗るように配置されており、上部モジュール70の底面を構成する方形状の板状の部材である底面部材710を有する例えばトレー状の部材であるが、箱状であってもよい。
【0061】
なお図1に示すように、上部モジュール70及び上面部材510の後方側の端部は、走行モジュール10が、構造モジュール50が有する空間Sp内で最も前方側に移動した際の走行モジュール10の後方側の端部の位置よりも所定程度後方側に位置するように調整されている。
【0062】
また本実施形態においては、底面部材710の上面上に、動作制御部730が配置されている。動作制御部730は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置、メモリ、及びI/O(Input/Output)デバイス、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置及びバッテリーなどの電源により構成されている、例えばコンピューターである。
【0063】
動作制御部730は、情報取得部90が取得した情報に応じて、記憶装置から所定のプログラムを読み込んで実行することにより、段差移動装置1が段差を昇降する際の、床面移動機構110、昇降モジュール30、上部移動機構550、及び下部移動機構570のそれぞれ相互に独立した動作を制御する。
【0064】
情報取得部90は、段差移動装置1の前方又は後方の段差の有無及び状態を示す情報を含む情報を取得する、例えば赤外線センサーであるが、LiDAR(Light detection and ranging)、PSD(Position Sensitive Detector)センサー、超音波センサーなどの周知のセンサーが用いられてよい。また、情報取得部90のうち段差移動装置1の傾きの大きさを示す情報を取得するセンサーは、例えばIMU(Inertial Measurement Unit)、加速度センサー、ジャイロセンサー等である。
【0065】
情報取得部90の配置位置、向き、数は適宜変更されてよい。例えば本実施形態においては、前方の段差の上面の高さを認識するための上段認識センサー90aと、前方の段差の蹴上面との距離を認識するための前方壁認識センサー90bと、後方の段差の有無、高さ及び段差の奥行を認識するための下段認識センサー90cと、左右方向の壁との距離を認識するための側方壁認識センサー90dと、段差移動装置1の傾きの大きさを認識するための傾きセンサー90eと、移動先の段差の上面Su(又は床面Grの上面)の部分のうち脚部531が接地する部分までの距離を認識する脚部センサー90fが備えられている。
【0066】
上段認識センサー90aは、例えば昇降モジュール30の略下端部から左右方向にせり出すように配置されたバー状の部材の両端部に、前方側に向けられて左右ひとつずつ備えられており、構造モジュール50の垂直方向の移動に伴って垂直方向に移動する。上段認識センサー90aは、前方側にある壁との距離を上方に移動する際に計測する。
【0067】
前方壁認識センサー90bは、例えば昇降モジュール30の略上端部から左右方向にせり出すように配置されたバー状の部材の両端部に、前方側に向けられて左右ひとつずつ備えられている。前方壁認識センサー90bは、前方側にある壁との距離を常時計測する。
【0068】
下段認識センサー90cは、走行モジュール10の後方側の端部に下向きに向けられて左右ひとつずつ備えられている。下段認識センサー90cは、床面Grの上方に位置している間は床面Grとの距離を計測し、移動先の段差の上面Suの上方に位置している間は段差の上面Suとの距離を計測する。
【0069】
側方壁認識センサー90dは、走行モジュール10の左右の両側部に一つずつ、それぞれが一方の側方に向けられて備えられている。側方壁認識センサー90dは、左右の側方にある壁との距離を常時計測する。
【0070】
傾きセンサー90eは、例えば上部モジュール70の底面部材710の上面の略中央部に備えられており、段差移動装置1の傾きの大きさを必要に応じて計測する。脚部センサー90fは、後方側の左右の脚部531の下端部の近傍に一つずつ、下向きに備えられており、床面Grの上方に位置している間は床面Grとの距離を計測し、段差の上面Suの上方に位置している間は段差の上面Suとの距離を計測する。
【0071】
また、段差移動装置1を構成する各モジュールの重量は、下記式1及び2を満たすように調整されている。
【0072】
A+B>C+D…(1)
A+C+D>B…(2)
ただし、Aは、上部モジュール70(動作制御部730を含む)の重量であり、Bは、上面部材510と、側方部材530と、上部移動機構550と、下部移動機構570と、を含む構造モジュール50の重量であり、Cは、昇降モジュール30の重量であり、Dは、走行モジュール10の重量であって、A、B、C、Dは、各モジュールが備える情報取得部90の重量を含む。また、動作制御部730が構造モジュール50、昇降モジュール30又は走行モジュール10に配置されている場合には、B、C又はDは、動作制御部730の重量を含む。
【0073】
<制御方法の概要>
次に、本実施形態の段差移動装置1の制御方法について説明する。まず図3A図4Bを参照して、前方の上りの段差を上る際の一連の工程について説明する。
【0074】
<前方の上りの段差を上る際の一連の工程>
まず、情報取得部90が段差移動装置1の前方又は後方の段差の有無及び段差の状態を示す情報を取得する(図3A/S11)。
【0075】
そして動作制御部730は、前方壁認識センサー90bが取得した、前方側にある壁との距離に基づいて、前方に上りの段差があるか否かを判定する(判定工程)。例えば動作制御部730は、前方側にある壁との距離が所定未満(例えば5cm未満など)であると認識した場合に、前方に上りの段差があると判定して(図3A/S13:Yes)、段差移動装置1の前方の端部を移動先の段差の蹴上面Riの近傍の位置(例えば蹴上面Riとの距離が1~10mm程度など)まで移動させ、かつ段差移動装置1が段差の蹴上面Riに正対するように床面移動機構110を制御する(図3A/S31)。
【0076】
その後、動作制御部730は、構造モジュール50を上部モジュール70と共に、側方部材530の下端部(本実施形態においては脚部531)が移動先の段差の上面Suの高さを所定程度(例えば1~2cmなど。)超える高さまで上方向に移動させるように昇降モジュール30を制御する第1工程を行う(図3A/S33)。
【0077】
より具体的には、動作制御部730は上段認識センサー90aからの計測値に基づいて、上方向に移動する途中で壁との距離が長くなる変わり目の高さが、移動先の段差の上面Suの高さであると認識して、当該高さを超える高さまで構造モジュール50と上部モジュール70とを上方向に移動させたところで、昇降モジュール30を停止するように制御する。図4Aの左図は、第1工程を行った後の状態を示している。
【0078】
そして動作制御部730は、構造モジュール50を、その略全体が移動先の段差の上面Suの上方に位置する位置まで水平移動させるように上部移動機構550及び下部移動機構570を制御する第2工程を行う(図3A/S35)。
【0079】
なお動作制御部730は第2工程においてさらに、構造モジュール50を下方向に移動させて側方部材530の下端部が移動先の段差の上面Suに接地するように、昇降モジュール30を制御する。図4Aの右図は、第2工程を行った後の状態を示している。
【0080】
次に、動作制御部730は、上部モジュール70を、その全体が段差の上面Suの上方に位置する位置まで水平移動させるように上部移動機構550を制御する第3工程を行う(図3A/S37)。なおこのとき動作制御部730は、上部モジュール70の前方側の端部が、上面部材510の前方側の端部よりも前方側に所定程度(例えば3cmなど。)突出する位置まで水平移動させるように、上部移動機構550の動作を制御する。図4Bの左図は、第3工程を行った後の状態を示している。
【0081】
続いて、動作制御部730は傾き制御を行って(図3A/S100)、構造モジュール50が前方側に所定程度(たとえば1度~10度など。)傾くように、せり出し機構533の動作を制御する。当該工程の内容については後述する。
【0082】
そして動作制御部730は、走行モジュール10を、その下端部(本実施形態においては床面移動機構110)が移動先の段差の上面Suの高さを所定程度(例えば1~2cmなど。)超える高さまで上方向に移動させるように昇降モジュール30を制御する第4工程を行う(図3A/S39)。図4Bの中央図は、傾き制御及び第4工程を行った後の状態を示している。
【0083】
続いて動作制御部730は、走行モジュール10を、その全体が移動先の段差の上面Suの上方に位置する位置まで水平移動させるように下部移動機構570を制御する第5工程を行う(図3A/S41)。なお動作制御部730は第5工程において、走行モジュール10の全体を移動させた後に、走行モジュール10の下端部(床面移動機構110)が移動先の段差の上面Suに接地する位置まで走行モジュール10を下方向に移動させるように、昇降モジュール30を制御する。
【0084】
その後、動作制御部730は構造モジュール50の傾きを元に戻すようにせり出し機構533を制御し(図3A/S110)、上部モジュール70を構造モジュール50の直上の位置に戻して、前方の上りの段差を上る際の一連の工程を終了する。図4Bの右図は、第5工程を行い、かつ構造モジュール50の傾きと上部モジュール70の位置とを元に戻した後の状態を示している。
【0085】
<後方の下りの段差を下る際の一連の工程>
次に、図3A図3B図5A図5Bを参照して、後方の下りの段差を下る際の一連の工程について説明する。まず、情報取得部90が段差移動装置1の前方又は後方の段差の有無及び段差の状態を示す情報を取得する(図3A/S11)。
【0086】
そして動作制御部730は、下段認識センサー90cが取得した、床面Grとの距離に基づいて、後方に下りの段差があるか否かを判定する。すなわち例えば動作制御部730は、床面Grとの距離が、下段認識センサー90cが配置されている高さを所定程度(例えば1~10cmなど)超えていると認識した場合に、後方に下りの段差があると判定して(図3A/S15:Yes)、昇降モジュール30の前後方向の長さの分、上面部材510の後方側の端部が段差の上面Suの上方側にせり出す位置まで段差移動装置1を移動させ、かつその後方側が段差の床面Grの縁に正対するように床面移動機構110を制御する(図3A/S51)。
【0087】
その後、動作制御部730は、構造モジュール50を、その下端部が床面Grに接地する位置まで下方向に移動させ、かつ床面移動機構110と床面Grとが若干離れるように昇降モジュール30を制御する(図3A/S53)。なおこのとき動作制御部730は、上部モジュール70の前方側の端部が、上面部材510の前方側の端部よりも前方側に所定程度突出する位置まで水平移動させるように、上部移動機構550の動作を制御する。
【0088】
続いて、動作制御部730は傾き制御を行う(図3A/S100’)が、当該工程の内容については後述する。図5Aの左図は、ここまでの工程を行った後の状態を示している。
【0089】
そして動作制御部730は、走行モジュール10を、その全体が移動先の段差の上面Suの上方に位置する位置まで水平移動させるように下部移動機構570を制御する第6工程を行い(図3A/S55)、走行モジュール10を、その下端部(床面移動機構110)が移動先の段差の上面Suに接する高さまで下方向に移動させるように昇降モジュール30を制御する第7工程を行う(図3A/S57)。その後に動作制御部730は、構造モジュール50の傾きを元に戻し(図3A/S110’)、上部モジュール70を、その全体が移動先の段差の上面Suの上方に位置する位置まで水平移動させるように上部移動機構550を制御する第8工程を行い(図3A/S61)、構造モジュール50を、その全体が移動先の段差の上面Suの上方に位置する位置まで水平移動させるように上部移動機構550及び下部移動機構570を制御する第9工程を行い(図3B/S63)、構造モジュール50を上部モジュール70と共に、例えば側方部材530の下端部が移動先の段差の上面Suとの間に所定の隙間Gaを形成する高さまで下方向に移動させるように、昇降モジュール30を制御する第10工程(図3B/S65)を行って後方の下りの段差を下る際の一連の工程を終了する。図5Aの中央図、右図、及び図5Bの左図、中央図、右図は、それぞれ第6工程~第10工程の各工程を行った後の状態を示している。
【0090】
なお、動作制御部730は第6工程において、例えば下りの段差を下るために十分な位置(例えば走行モジュール10の全体が移動先の段差の上面Suの上方に位置し、かつ第10工程を行う際に床面Grが構造モジュール50の下方向への移動の妨げにならない位置)まで走行モジュール10を移動させる間に、下段認識センサー90cの計測値に基づいて、移動先の段差の上面Suとの距離を認識する。そして当該距離が長くなる変わり目が検出されなかった場合に、動作制御部730は、下りの段差を下るために十分な奥行を移動先の段差の上面Suが有していると判定して、後続の工程を実行するように構成される。
【0091】
動作制御部730は、これらの一連の工程を繰り返し実行することで、複数の上りの段差を上り、又は複数の下りの段差を下るように、段差移動装置1を動作させる。
【0092】
<傾き制御の工程>
図4B及び図6を参照して、構造モジュール50が前方側に所定程度傾くように、せり出し機構533の動作を制御する傾き制御について説明する。傾き制御の工程を開始すると、まず動作制御部730は、構造モジュール50の傾きの大きさを示す傾き情報及び脚部531が接地する接地対象の上面(上りの段差を上る場合は移動先の段差の上面Su、下りの段差を下る場合は図5Aの床面Grの上面。以下同じ。)の部分のうち脚部531が接地する接地部分までの距離を示す上面情報の一方又は両方を取得する工程を行う(図6/S101)。
【0093】
より具体的には、傾き情報を取得する場合に動作制御部730は、例えば後方側の脚部531の底部の高さが最も側方部材530の下端部に近い第1位置にある状態(図4Bの左図の下の図)で傾きセンサー90eを介して、構造モジュールの傾きの大きさを示す傾き情報を取得する。
【0094】
あるいは上面情報を取得する場合に動作制御部730は、例えば第1位置にある状態で脚部センサー90fを介して、左右それぞれの脚部センサー90fの位置から左右それぞれの脚部531の接地対象の上面の部分のうち後方側の脚部531が接地する部分を含む周辺の部分までの距離を取得する。
【0095】
続いて動作制御部730は、当該傾き情報及び上面情報の一方又は両方に基づいて、構造モジュール50を前方方向に所定程度傾かせるための、後方側の脚部531の底部の第2位置の方向へのせり出し量を取得する工程を行う(図6/S103)。
【0096】
すなわち傾き情報に基づいてせり出し量を取得する場合に動作制御部730は、例えば傾きセンサー90eが計測した構造モジュール50の傾きの大きさを示す情報に基づいて、現在の構造モジュール50の傾きの大きさと、構造モジュール50を傾かせるべき所定の傾き度合と、の角度の差を認識する。そして動作制御部730は、例えば当該角度の差と左右それぞれの脚部531の底部の第2位置の方向へのせり出し量との関係式を用いて、構造モジュール50を前方方向に所定程度傾いた状態とするための左右それぞれの脚部531のせり出し量を取得する。
【0097】
あるいは上面情報に基づいてせり出し量を取得する場合に動作制御部730は、例えば左右それぞれの脚部センサー90fが計測した情報に基づいて、左右それぞれの脚部531が接地する部分までの距離からその周辺の部分までの距離を差し引いた値(距離の差)を認識し、構造モジュール50を所定程度傾かせるために必要な左右それぞれの脚部531の底部のせり出し量の初期値に当該距離の差を足し合わせた値を左右それぞれの脚部531の今回のせり出し量として取得する。
【0098】
そして動作制御部730は、取得されたせり出し量に応じて後方側の左右それぞれの脚部531の底部を第2位置の方向にせり出させるように、せり出し機構533の動作を制御する工程を行って、脚部531の接地対象を脚部531の底部を介して押圧させることで、構造モジュール50を所定程度前方側に傾けて(図6/S105)、傾き制御の一連の工程を終了する。図4Bの中央図の下の図は、後方側の脚部531を第2位置の方向にせり出させた状態を示している。
【0099】
以上説明したように、本発明によれば、安定して段差を昇降して移動することができる段差移動装置及びその制御方法を提供できる。
【0100】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これに限定されない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【0101】
<変更実施形態>
例えば第1変更実施形態の段差移動装置1の昇降モジュール30は、図7に示すように、蝶番350と、ロック機構370と、を含んで構成される。
【0102】
蝶番350は、例えばその一方の羽が昇降モジュール30の下端部に固定されており、他方の羽が走行モジュール10の前方側の端部に固定されている。そして、蝶番350の芯棒351が、走行モジュール10を、その接地対象の上面(上りの段差を上る場合は移動先の段差の上面Su、下りの段差を下る場合は床面Grの上面。以下同じ。)に対して平行な状態と、走行モジュール10の後方側の端部を下に向けた状態との間で回転可能に支持する回転軸として機能する。
【0103】
そして、ロック機構370は、動作制御部730による制御に応じて、走行モジュール10の、蝶番350の芯棒351を回転中心とした回転を規制して走行モジュール10をその接地対象の上面に対して平行な状態で維持するロック状態と、走行モジュール10の回転を規制しないロック解除状態とを切り替える。
【0104】
ロック機構370としては、種々の機構が用いられてよい。例えば本実施形態においてロック機構370は、昇降モジュール30の下端部の後方側の位置に配置されており、走行モジュール10がその接地対象の上面に対して平行な状態にあるときに、ロック機構370の底部が、走行モジュール10の前方側の端部に固定された方の羽の上面に当接するようにその位置が調整されている。
【0105】
そして、走行モジュール10の前方側の端部に固定された方の羽の上面の、ロック機構370の底部に当接する部分には、例えば先端に爪状の係止部を有するアーチ状の部材が設けられている。そしてロック機構370の内部には、当該アーチ状の部材の全体がロック機構370の内部に差し込まれた状態(すなわち走行モジュール10がその接地対象の上面に対して平行な状態)の係止部に対応する部分に、係止部をひっかけることができる被係止部が備えられている。ロック機構370は例えば、動作制御部730による制御に応じて、被係合部をロック機構370内部で動かすことで、ロック状態とロック解除状態とを切り替える。
【0106】
なお本実施形態においてロック機構370は、ロック解除状態としたときに蝶番350が所定角度以上開かないように規制するストッパーを有している。これによりロック解除状態において、走行モジュール10の後方側の端部が真下に向かった状態となることが規制されるので、第4工程、第5工程、又は第6工程、第7工程において、下段認識センサー90cが床面Gr又は移動先の段差の上面Suに接触して、走行モジュール10の移動を妨げることが防止される。
【0107】
本変更実施形態の段差移動装置の制御方法の一連の工程を図8A図8Bに示す。本制御方法においては、上りの段差を上る場合には第4工程(図8A/S39)の前にロック機構370をロック解除状態とする工程(図8A/S210)が含まれる。これにより走行モジュール10が、上方側に移動されるのに伴って、自重により回転して後方側の端部を下方に向けた状態となる。図9の左図は当該状態を示している。そして第5工程(図8A/S41)において走行モジュール10が移動先の段差の上面Suにあたって押し上げられて(図9の中央図)、走行モジュール10が移動先の段差の上面Suに対して平行な状態となったあとに、動作制御部730はロック機構370をロック状態とする(図8A/S230、図9の右図)。
【0108】
あるいは下りの段差を下る場合には、第6工程(図8A/S55)の前にロック機構370をロック解除状態とする工程(図8A/S210’)が含まれ、第7工程(図8A/S57)において走行モジュールが移動先の段差の上面Suにあたって押し上げられて、走行モジュール10が移動先の段差の上面Suに対して平行な状態となったあとに、動作制御部730はロック機構370をロック状態とする(図8A/S230’)。
【0109】
また例えば第2変更実施形態の段差移動装置の走行モジュール10は、図9に示すように、支持部材130と、ガイドレール150と、上下移動機構170と、を含んで構成される。また昇降モジュール30は、ロック機構370を含んで構成される。
【0110】
支持部材130は、走行モジュール10の平面視において段差移動装置1の前後方向に直交する方向である左右方向の両側部の前方側の端部に、走行モジュール10の左右方向に突出するように設けられている、例えば棒状、ピン状の部材である。そして支持部材130は、走行モジュール10を、その接地対象の上面に対して平行な状態と、走行モジュール10の後方側の端部を下に向けた状態との間で回転可能に支持する回転軸として機能する。
【0111】
ガイドレール150は、走行モジュール10をその前方側の端部の位置(すなわち支持部材130の位置)で左右方向から挟み込み、該位置から上方向に、例えば上面部材510の下面の位置まで延びるように対向して一対が設けられている。またガイドレール150は、支持部材130の先端部が差し込まれて走行モジュール10の前方側の端部の上下方向の移動を案内する溝部151を有している。上下移動機構170は、溝部151に案内される範囲で支持部材130を上下方向に移動させることにより、走行モジュール10の前方側の端部を上下方向に移動させる。上下移動機構170としては、種々の機構が用いられてよい。例えば本実施形態においては、ガイドレール150の上下方向の両略端部にわたって配置されたリニアガイド上のスライダがアクチュエータにより上下方向に移動される。スライダは例えば支持部材130を挿通する挿通孔を有しており、当該挿通孔により支持部材130を回転可能に支持している。
【0112】
本実施形態のロック機構370は、動作制御部730による制御に応じて、走行モジュール10の支持部材130を回転中心とした回転とガイドレール150に沿った移動とを規制して走行モジュール10をその接地対象の上面に対して平行な状態であって走行モジュール10の前方側の端部がガイドレール150の下端部の位置にある状態で維持するロック状態と、走行モジュール10の回転軸である支持部材130を回転中心とした回転とガイドレール150に沿った移動とを規制しないロック解除状態とを切り替える。なおロック機構370の構造は、例えば第1変更実施形態と同様であってよい。
【0113】
本変更実施形態の段差移動装置の制御方法の一連の工程を図10A図10Bに示す。本制御方法においては、上りの段差を上る場合には第4工程(図10A/S39)の前にロック機構370をロック解除状態とする工程(図10A/S210)が含まれる。その後、走行モジュール10の前方側の端部を上方に移動する(図10A/S220)。これにより走行モジュール10が、上方側に移動されるのに伴って、自重により回転して後方側の端部を下方に向けて、一対のガイドレールの間にその一部が格納された状態となる。図9Aの右図は当該状態を示している。なお本実施形態においてもロック機構370は、ロック解除状態において、走行モジュール10の後方側の端部が所定角度以上回転しないように規制するストッパーを有しているので、第4工程、第5工程、又は第6工程、第7工程において、下段認識センサー90cが床面Gr又は移動先の段差の上面Suに接触して、走行モジュール10の移動を妨げることが防止される。
【0114】
そして第4工程(図10B/S43)において走行モジュール10が移動先の段差の上面Suを超える高さまで走行モジュール10を上方向に移動して(図9Bの左図)、第5工程において走行モジュール10を前方側に引き込みながら、動作制御部730は走行モジュール10の前方側の端部を下方に移動させるように上下移動機構170を制御する。それに伴って移動先の段差の上面Suに走行モジュール10を押し上げられるので、徐々に走行モジュール10が移動先の段差の上面Suに対して平行な状態となる(図9Bの中央図)。そして動作制御部730は、走行モジュール10が移動先の段差の上面Suに対して平行な状態となった後に、動作制御部730はロック機構370をロック状態とする(図6/S230、図9Bの右図)。
【0115】
あるいは下りの段差を下る場合には、第6工程(図10A/S55)の前にロック機構370をロック解除状態とする工程(図10A/S210’)と走行モジュール10の前方側の端部を上方に移動する工程(図10A/S220’)とが実行され、第7工程(図10A/S59)において走行モジュール10を移動先の段差の上面Suに接する高さまで下方向に移動し、かつ走行モジュール10の前方側の端部を下方に移動させて、それに伴って移動先の段差の上面Suに走行モジュール10を押し上げられるように上下移動機構170を制御した後に、動作制御部730はロック機構370をロック状態とする(図10B/S230’)。
【0116】
あるいはたとえば構造モジュール50の側方部材530は、薄板状の部材を有さずに、柱部材535で構成されていてもよい。
【0117】
あるいは例えば、上部モジュール70は省略されてもよい。この場合、上部移動機構550も併せて省略される。また段差移動装置1の制御方法においては、上部移動機構550を制御する工程も併せて省略される。
【符号の説明】
【0118】
10…走行モジュール、30…昇降モジュール、50…構造モジュール、70…上部モジュール、90…情報取得部、110…床面移動機構、130…支持部材、150…ガイドレール、170…上下移動機構、351…芯棒、370…ロック機構、510…上面部材、530…側方部材、531…脚部、533…せり出し機構、550…上部移動機構、570…下部移動機構、710…底面部材、730…動作制御部、Gr…床面、Su…段差の上面、Ri…蹴上面。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B