IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 油化電子株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113226
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】光硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 265/06 20060101AFI20220728BHJP
【FI】
C08F265/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009297
(22)【出願日】2021-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】393032125
【氏名又は名称】MCCアドバンスドモールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 有恒
(72)【発明者】
【氏名】西川 学
【テーマコード(参考)】
4J026
【Fターム(参考)】
4J026AA45
4J026AA48
4J026AC23
4J026AC24
4J026AC33
4J026DB02
4J026DB06
4J026DB11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】現行材料組成物に比べて粘度を高めることができ、一方において、現行材料組成物と同等の屈折率を維持することができる、新たな光硬化性組成物を提供する。
【解決手段】所定構造の含脂環骨格を有するビス(メタ)アクリレートと、所定構造の含脂環骨格を有するモノ(メタ)アクリレートと、所定構造の脂環構造を有する、分子量2000~20000である含脂環骨格アクリレート系ポリマーとを含有する光硬化性組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される含脂環骨格ビス(メタ)アクリレート(「成分A」とも称する)と、下記式(2)で表される含脂環骨格モノ(メタ)アクリレート(「成分B」とも称する)と、下記式(3)で表される脂環構造を有し、分子量2000~20000である含脂環骨格アクリレート系ポリマー(「成分C」とも称する)とを含有する光硬化性組成物。
(式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を示し、mは1又は2を示し、nは0又は1を示し、k及びlは、それぞれ独立して0,1又は2を示す。)
(式(2)中、R3は水素原子又はメチル基を示し、R4は2価の炭化水素残基を示し、mは1又は2を示し、nは0又は1を示し、r及びsは、それぞれ独立して0、1又は2を示す。)
【請求項2】
前記含脂環骨格アクリレート系ポリマーは、下記式(4)で表される含脂環骨格アクリレート系ポリマーである、請求項1に記載の光硬化性組成物。

(式(4)中、R3は、それぞれ独立して水素原子またはメチル基または芳香環を示す。R4、R5、R7及びR8は、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を示す。R6は、下記式(R6-1)または下記式(R6-2)を示す。o、p、q及びrは、それぞれ独立して0~40の範囲内の値である。)
【請求項3】
前記成分A及びBの合計含有量100質量部に対して、前記成分Cを10~90質量部含有する、請求項1又は2に記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
前記成分A及びBの合計含有量100質量部に対して、前記成分Bを10~90質量部含有する、請求項1~3の何れかに記載の光硬化性組成物。
【請求項5】
光重合開始剤を含有する請求項1~4の何れかに記載の光硬化性組成物。
【請求項6】
連鎖移動剤を含有する請求項1~5の何れかに記載の光硬化性組成物。
【請求項7】
離型剤を含有する請求項1~6の何れかに記載の光硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用シート、光学用プラスチック部材等に適した光硬化性組成物に関する。詳細には、含脂環骨格ビス(メタ)アクリレートを含有してなる光硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光硬化性樹脂は、特定の波長の光乃至電磁波によって重合して硬化することができる樹脂であり、熱硬化性樹脂と比較して硬化時間の短縮および製造時間の短縮による生産性の向上や、光硬化性樹脂でしか成し得ない機能があるため、例えば光学用シートや光学用プラスチック部材等に適用されている。
【0003】
従来、光学用シート、光学用プラスチック部材等に適した光硬化性組成物として、例えば、特許文献1及び特許文献2には、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン骨格の3,8(又は3,9又は4,8)位置換ビス(メタ)アクリレート化合物とメルカプト化合物よりなる光硬化性組成物が開示されている。
【0004】
特許文献3には、成形工程において成形型から容易に離型できる硬化物が得られる光硬化性組成物として、含脂環骨格ビス(メタ)アクリレート:70~99質量部と、含脂環骨格モノ(メタ)アクリレート:1~30質量部と、少なくとも二官能性のメルカプト化合物:1~10質量部と、シリコーンオイル:0.1~5質量部とを含有してなる光硬化性組成物が開示されている。
【0005】
特許文献4には、例えばビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジメタクリレートなどの含脂環骨格ビス(メタ)アクリレートと、例えば、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=β-カルボキシルプロピオネートメタクリレートなどのカルボキシル基を有する含脂環骨格モノ(メタ)アクリレートとを含有してなる光硬化性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-152510号公報
【特許文献2】特開2001-342222号公報
【特許文献3】特開2002-121229号公報
【特許文献4】特開2003-335823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の光硬化性樹脂を光学用途に用いるには、光学特性の調整を施し、なおかつ生産方法に合わせた光硬化性樹脂の物性調整も要するため、性能面と生産面の両立が課題であった。特に金型成形する場合、樹脂組成物を計量して充填する装置を用いて成形用金型へ樹脂を充填する工程において、樹脂粘度が低い故に、充填口からの漏れによって充填量がバラつくといった問題点が指摘されていた。
かかる問題を解消するために、樹脂粘度の調整を施すと、組成の変化に伴い、粘度調整前の樹脂組成物に比べて、光学特性、特に屈折率が大きく変化してしまうことがあった。
【0008】
そこで本発明は、現行材料組成物に比べて、粘度を高めることができ、それでいて、現行材料組成物と同等の屈折率を維持することができる、新たな光硬化性組成物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記式(1)で表される含脂環骨格ビス(メタ)アクリレート(「成分A」とも称する)と、下記式(2)で表される含脂環骨格モノ(メタ)アクリレート(「成分B」とも称する)と、下記式(3)で表される脂環構造を有し、分子量2000~20000である含脂環骨格アクリレート系ポリマー(「成分C」とも称する)とを含有する光硬化性組成物を提案する。
【0010】
【0011】
式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を示し、mは1又は2を示し、nは0又は1を示し、k及びlは、それぞれ独立して0,1又は2を示す。
【0012】
【0013】
式(2)中、R3は水素原子又はメチル基を示し、R4は2価の炭化水素残基を示し、mは1又は2を示し、nは0又は1を示し、r及びsは、それぞれ独立して0、1又は2を示す。
【0014】
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、現行材料組成物、すなわち成分A及びBを含有し且つ成分Cを含有しない光硬化性組成物に比べて、粘度を高めることができ、それでいて、現行材料組成物と同等の屈折率を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。但し、本発明は、下記実施形態に限定されるものではない。
【0017】
<本光硬化性組成物>
本発明の実施形態の一例に係る光硬化性組成物(「本光硬化性組成物」と称する)は、下記成分A、成分B及び成分Cを含有してなるものである。
【0018】
(成分A)
成分Aは、式(1)で表される含脂環骨格ビス(メタ)アクリレート(以下、「ビス(メタ)アクリレート」と略すことがある)である。
【0019】
【0020】
式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を示し、mは1又は2を示し、nは0又は1を示し、k及びlは、それぞれ独立して0,1又は2を示す。
【0021】
ビス(メタ)アクリレートの具体例としては、例えばビス(ヒドロキシ)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジアクリレート、ビス(ヒドロキシ)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジメタクリレート、ビス(ヒドロキシ)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=アクリレートメタクリレート及びこれらの混合物、ビス(ヒドロキシ)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン=ジアクリレート、ビス(ヒドロキシ)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン=ジメタクリレート、ビス(ヒドロキシ)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン=アクリレートメタクリレート及びこれらの混合物等を挙げることができる。
【0022】
これらのうち、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン= ジアクリレート、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン= ジメタクリレート、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン= アクリレートメタクリレート及びこれらの混合物が好ましい。
これらのビス(メタ)アクリレートは、化合物を単独で使用することもできるし、また、これら2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0023】
前記成分Aの含有量は、成分Aと成分Bとの合計100質量部に対して10~90質量であるのが好ましく、中でも20質量部以上或いは80質量部以下、その中でも30質量部以上或いは70質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0024】
(成分B)
成分Bは、下記式(2)で表される含脂環骨格モノ(メタ)アクリレート(「成分B」とも称する)である。
【0025】
【0026】
式(2)中、R3は水素原子又はメチル基を示し、R4は2価の炭化水素残基を示し、mは1又は2を示し、nは0又は1を示し、r及びsは、それぞれ独立して0、1又は2を示す。
【0027】
上記R4で定義される2価の炭化水素残基としては、エチレン基、ビニレン基、トリメチレン基、o-フェニレン基、1,2-シクロヘキシレン基等を挙げることができ、炭素数が8以下のものが好ましい。また、かかる2価の炭化水素残基は、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホ基等の置換基を有していてもよい。
【0028】
成分Bを構成する式(2)で示される含脂環骨格モノ(メタ)アクリレート(以下、モノ(メタ)アクリレートと略記することがある)の具体例としては、ビス(ヒドロキシ)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=モノアクリレート、ビス(ヒドロキシ)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=モノメタクリレート、ビス(ヒドロキシ)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=アクリレートメタクリレート及びこれらの混合物、ビス(ヒドロキシ)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン=モノアクリレート、ビス(ヒドロキシ)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン=モノメタクリレート、ビス(ヒドロキシ)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン=アクリレートメタクリレート及びこれらの混合物、等の水酸基含有モノ(メタ)アクリレート化合物と、無水こはく酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水3-メチルグルタル酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸等のポリカルボン酸の分子内酸無水物との反応生成物を挙げることができる。
【0029】
これらのうち、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=モノアクリレート、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=モノメタクリレート及びこれらの混合物と無水こはく酸、無水グルタル酸との反応生成物が好ましい。これらのモノ(メタ)アクリレートは、化合物を単独で使用しても、複数を併用して用いてもよい。
【0030】
なお、前記含脂環骨格ビス(メタ)アクリレートを製造する際、前記含脂環骨格モノ(メタ)アクリレートが生成する場合がある。その場合は、成分A及び成分Bの混合物としてそのまま本光硬化性組成物の原料として使用することができる。
【0031】
前記成分Bの含有量は、成分Aと成分Bとの合計100質量部に対して10~90質量であるのが好ましく、中でも20質量部以上或いは80質量部以下、その中でも30質量部以上或いは70質量部以下であるのがさらに好ましい。モノ(メタ)アクリレートの割合が少なすぎると、接着性向上の改良効果が得られなくなるし、逆に多すぎると硬化樹脂の耐熱性が低下することがある。
【0032】
(成分C)
成分Cは、下記式(3)で表される脂環構造を有し、分子量2000~20000である含脂環骨格アクリレート系ポリマー(以下、「アクリレート系ポリマー」と略記することがある)である。
【0033】
【0034】
上記式(3)で表される脂環構造が、光学特性、特に屈折率に大きく影響し、成分Cが当該脂環構造を有していれば、成分A及び成分Bに対して成分Cを配合して光硬化性組成物を調製した際、成分Cを配合しない光硬化性組成物に比べて、屈折率を同等に維持することができる。そして、成分Cの分子量及び配合量を調整することで、光硬化性組成物の粘度を調整することができる。
【0035】
前記アクリレート系ポリマーの好ましい具体例として、下記式(4)で表される含脂環骨格アクリレート系ポリマーを挙げることができる。
【0036】
【0037】
式(4)中、R3は、それぞれ独立して水素原子またはメチル基または芳香環を示す。
この際、芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、及びテトラセン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環及びナフタレン環であり、より好ましくはベンゼン環である。
式(4)中、R4、R5、R7及びR8は、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を示し、o、p、q及びrはそれぞれ独立して0~40の範囲内の値である。
【0038】
【0039】
【0040】
成分Cの具体例としては、下記式(5)で表されるアクリレート系ポリマー、または、下記式(6)で表されるアクリレート系ポリマー、または、これらの混合物を挙げることができる。
【0041】

【0042】
【0043】
式(5)及び式(6)中、o、p、q及びrは、それぞれ独立して0,1又は2を示す。
【0044】
前記アクリレート系ポリマーの分子量は、粘度を高める観点から、2000以上であるのが好ましく、中でも3000以上、中でも4000以上、その中でも5000以上であるのがさらに好ましい。他方、溶解性の観点から、20000以下であるのが好ましく、中でも15000以下、中でも10000以下、その中でも7000以下であるのがさらに好ましい。
【0045】
成分Cすなわちアクリレート系ポリマーの含有割合は、粘度を高める観点から、前記成分A及びBの合計含有量100質量部に対して、10質量部以上の割合で含有するのが好ましく、中でも15質量部以上、その中でも20質量部以上、その中でも25質量部以上の割合で含有するのがさらに好ましい。他方、溶解性の観点から、90質量部以下の割合で含有するのが好ましく、中でも70質量部以下、その中でも50質量部以下、その中でも30質量部以下の割合で含有するのがさらに好ましい。
【0046】
(その他の成分)
本光硬化性組成物は、必要に応じて、成分A、B及びC以外の成分(「他の成分」とも称する)を含んでもよい。
当該他の成分としては、例えば、成分A、B及びC以外のラジカル重合可能な単量体、光重合開始剤、連鎖移動剤、離型剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、染顔料、充填剤、シランカップリング剤などを挙げることができる。
【0047】
成分A、B及びC以外のラジカル重合可能な単量体としては、例えばメチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、2,2-ビス[4-(β-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(β-メタクリロイルオキシエトキシ)シクロヘキシル]プロパン、1,4-ビス(メタクリロイルオキシメチル)シクロヘキサン、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどのメタクリレート化合物;スチレン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン、α-メチルスチレンなどのスチレン系化合物;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのアクリル酸誘導体等を挙げることができる。これらの中でも2,2-ビス[4-(β-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(β-メタクリロイルオキシエトキシ)シクロヘキシル]プロパン、1,4-ビス(メタクリロイルオキシメチル)シクロヘキサン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、およびこれらの混合物が特に好ましい。
ラジカル重合可能な単量体は、成分A、B及びCの合計100質量部に対して50質量部以下の割合で配合するのが好ましい。
【0048】
光重合開始剤の具体例としては、例えばベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,6-ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホシフィンオキシド等を挙げることができる。
これらの重合開始剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0049】
光重合開始剤は、成分A、B及びCの合計100質量部に対して、0.01~10質量部の割合で配合するのが好ましく、中でも0.1質量部以上或いは5質量部以下の割合で配合するのがさらに好ましい。
【0050】
連鎖移動剤としてしては、例えば、分子内に2個以上分子のチオール基を有する多官能メルカプタン化合物を用いてもよく、多官能メルカプタン化合物を併用することにより、硬化物に適度な靱性を付与することができる。
メルカプタン化合物としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(β-チオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(β-チオグリコレート)、トリメチロールプロパントリス(β-チオプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(β-チオグリコレート)、ジエチレングリコールビス(β-チオプロピオネート)、ジエチレングリコールビス(β-チオグリコレート、ジペンタエリスリトールヘキサキス(β-チオプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(β-チオグリコレート)等の2~6価のチオグリコール酸エステル又はチオプロピオン酸エステル;トリス[2-β-チオプロピオニルオキシ)エチル]トリイソシアヌレート、トリス[2-β-チオグリコニルオキシ)エチル]トリイソシアヌレート、トリス[2-(β-チオプロピオニルオキシエトキシ)エチル]トリイソシアヌレート、トリス[2-(β-チオグリコニルオキシエトキシ)エチル]トリイソシアヌレート、トリス[2-(β-チオプロピオニルオキシ)プロピル]トリイソシアヌレート、トリス[2-(β-チオグリコニルオキシ)プロピル]トリイソシアヌレート等のω-SH基含有トリイソシアヌレート;ベンゼンジメルカプタン、キシリレンジメルカプタン、4、4’-ジメルカプトジフェニルスルフィド等のα,ω-SH基含有化合物等を挙げることができる。これらの中でもペンタエリスリトールテトラキス(β-チオプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(β-チオプロピオネート)、トリス[2-(β-チオプロピオニルオキシエトキシ)エチル]トリイソシアヌレート、およびこれらの混合物が特に好ましい。
メルカプタン化合物は、成分A、B及びCの合計100質量部に対して、通常30質量部以下の割合で配合される。
【0051】
また、シランカップリング剤としては、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、β-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。中でも、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)メチルジメトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)メチルジエトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリエトキシシラン、γ-(アクリロキシプロピル)トリメトキシシラン等は分子中にメタクリル、ないしアクリル基を有しており、本発明の組成A及びBと共重合することができるため、好適に用いられる。
その質量比としては、成分A、B及びCの合計100質量部に対して、0.1~50質量部であるのが好ましく、中でも1質量部以上或いは20質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0052】
本光硬化性組成物は、公知の方法で重合硬化させて、硬化体とすることができる。
例えば、本光硬化性組成物に、紫外線等の活性エネルギー線を照射して重合させて硬化体を得ることができる。
【0053】
この際、照射する活性エネルギー線の量は、光重合開始剤がラジカルを発生させる範囲であれば任意である。極端に少ない場合は重合が不完全なため硬化物の耐熱性、機械特性が十分に発現されず、逆に極端に過剰な場合は硬化物の黄変等の光による劣化を生じるので、モノマーの組成および光重合開始剤の種類、量に合わせて200~400nmの紫外線を好ましくは0.1~200J/cm2の範囲で照射するのが好ましい。
活性エネルギー線を複数回に分割して照射してもよい。すなわち1回目に全照射量の1/20~1/3程度を照射し、2回目以降に必要残量を照射すると、複屈折のより小さな硬化物を得ることができる。
使用するランプの具体例としては、メタルハライドランプ、高圧水銀灯ランプ等を挙げることができる。
また、重合による硬化をすみやかに完了させる目的で、光重合と熱重合を同時に行ってもよい。具体的には、活性エネルギー線照射と同時に重合性組成物並びに型全体を30~300℃の範囲で加熱して硬化を行ってもよい。
【0054】
本光硬化性組成物は、接着剤、各種コーティング剤、インキ、塗料などとして使用することができる。また、本光硬化性組成物を、光によって重合して硬化させて得られる硬化体は、光学用シート、光学用プラスチック部材などに適した光硬化部材として用いることができる。
【0055】
<語句の説明>
本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)ト表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)ト表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例0056】
本発明は、以下の実施例により更に説明される。実施例はいかなる方法でも本発明を限定することを意図するものではない。
【0057】
<屈折率の測定方法>
測定環境は、温度20±5℃、湿度(65±20)%であった。島津製作所社製の屈折率測定機(KPR-2)を使用し、測定に用いた光源は、ナトリウムスペクトルのD線(5877nm)を用いて測定した。
【0058】
<粘度の測定方法>
測定環境は、温度20±5℃、湿度(65±20)%であった。東機産業社製の粘度測定機(TV-25)を使用し、LAUDA社製のチラー(E 100)にて設定水温25℃で測定した。
【0059】
<アッベ数の測定方法>
測定環境は、温度20±5℃、湿度(65±20)%であった。島津製作所社製の屈折率測定機(KPR-2)を使用し、測定に用いた光源は、ナトリウムスペクトルのD線(5877nm)を用いて測定した。
【0060】
<液だれ実験方法>
実施例・比較例で得られた光硬化性組成物(サンプル)3gを、ノズル(孔内径1mm、孔長25mm)を備えたディスペンサー(musashi社製「PSY-50E」)へ入れ、その後、1分間のうちに自重によりノズルから漏れ出した液量(質量)を測定した。
【0061】
<評価>
下記基準にて、評価した。
〇(good):液だれ量が比較例1よりも少ない場合。
×(poor):液だれ量が比較例1よりも少なくない場合。
【0062】
(実施例1)
成分Aとしての下記式(1)で表されるビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン= ジメタクリレートと、成分Bとしての下記式(2)で表されるビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=モノメタクリレートとの混合物85質量部と、成分Cとしての下記式(5)で表される共重合体である含脂環骨格アクリレート系ポリマー(質量平均分子量5400、固形分酸化6.0mgKOH/g、「アクリルポリマー」と称する)15質量部とを混合し、溶媒としてTHFを適量加え、室温にて均一になるまで撹拌した。これを「THF混合溶液」と称する。
【0063】
【0064】
当該式(1)中、R1はメチル基を示し、R2はメチル基を示し、mは1を示し、nは0を示し、k及びlは、それぞれ独立1を示す。
【0065】
【0066】
式(2)中、R3はメチル基を示し、R4は2価の炭化水素残基を示し、mは1を示し、nは0を示し、r及びsはそれぞれ独立して1を示す。
【0067】
【0068】
当該式(5)中、o、p、q及びrの各実数値は不明であるが、分子量から、それぞれ独立して0~40の範囲内の数値である。
【0069】
次に、該THF混合液を60℃で加熱しながらロータリーエバポレーターで溶媒留去して混合液(「光硬化性組成物(サンプル)」と称する)を得た。
得られた光硬化性組成物(サンプル)の粘度、屈折率及びアッベ数を測定すると共に、液だれ実験を実施した。その結果を表1に示す。
【0070】
(実施例2)
成分Aと成分Bの混合物80質量部と、成分Cとしてのアクリルポリマー20質量部とを混合し、溶媒としてTHFを適量加え、室温にて均一になるまで撹拌した。これを「THF混合液」と称する。
該THF混合液を60℃で加熱しながらロータリーエバポレーターで溶媒留去して混合液(「光硬化性組成物(サンプル)」と称する)を得た。
得られた光硬化性組成物(サンプル)の粘度、屈折率及びアッベ数を測定すると共に、液だれ実験を実施した。その結果を表1に示す。
【0071】
(実施例3)
成分Aと成分Bの混合物75質量部と、成分Cとしてのアクリルポリマー25質量部とを混合し溶媒としてTHFを適量加え、室温にて均一になるまで撹拌した。これを「THF混合液」と称する。
該THF混合液を60℃で加熱しながらロータリーエバポレーターで溶媒留去して混合液(「光硬化性組成物(サンプル)」と称する)を得た。
得られた光硬化性組成物(サンプル)の粘度、屈折率及びアッベ数を測定すると共に、液だれ実験を実施した。その結果を表1に示す。
【0072】
(実施例4)
成分Aと成分Bの混合物70質量部と、成分Cとしてのアクリルポリマー30質量部とを混合し溶媒としてTHFを適量加え、室温にて均一になるまで撹拌した。これを「THF混合液」と称する。
該THF混合液を60℃で加熱しながらロータリーエバポレーターで溶媒留去して混合液(「光硬化性組成物(サンプル)」と称する)を得た。
得られた光硬化性組成物(サンプル)の粘度、屈折率及びアッベ数を測定すると共に、液だれ実験を実施した。その結果を表1に示す。
【0073】
(実施例5)
成分Aと成分Bの混合物71.4質量部と、成分Cとしてのアクリルポリマー25.6質量部と、ペンタエリスリトールテトラ(3-メルカプトプロピオネート)3質量部と、光重合開始剤としてのジフェニル(2,4,6ートリメチルベンゾイル)フォスフィンオキシド2質量部と、オクタメチルシクロテトラシロキサン0.5質量部とを混合し、溶媒としてTHFを適量加え、室温にて均一になるまで撹拌した。これを「THF混合液」と称する。
該THF混合液を60℃で加熱しながらロータリーエバポレーターで溶媒留去して混合液(「光硬化性組成物(サンプル)」と称する)を得た。
得られた光硬化性組成物(サンプル)の粘度、屈折率及びアッベ数を測定すると共に、液だれ実験を実施した。その結果を表1に示す。
【0074】
(比較例1)
成分Aと成分Bの混合物95質量部と、ペンタエリスリトールテトラ(3-メルカプトプロピオネート)3質量部と、光重合開始剤としてのジフェニル(2,4,6ートリメチルベンゾイル)フォスフィンオキシド1質量部と、オクタメチルシクロテトラシロキサン1質量部とを混合し、室温にて均一になるまで撹拌し、混合液(「光硬化性組成物(サンプル)」と称する)を得た。
得られた光硬化性組成物(サンプル)の粘度、屈折率及びアッベ数を測定すると共に、液だれ実験を実施した。その結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
これまで本発明者が行ってきた各種試験の結果、すなわち、下記式(1)で表される含脂環骨格ビス(メタ)アクリレート(成分A)及び下記式(2)で表される含脂環骨格モノ(メタ)アクリレート(成分B)に対して、様々な化合物を加えて光硬化性組成物を調製し、その粘度と屈折率を測定した結果、下記式(3)で表される脂環構造が光学特性、特に屈折率に大きく影響することが判明し、且つ、当該脂環構造を有する化合物の分子量を調製することで、光硬化性組成物の粘度を調整することができることが判明した。
【0077】
【0078】
式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を示し、mは1又は2を示し、nは0又は1を示し、k及びlは、それぞれ独立して0,1又は2を示す。
【0079】
【0080】
式(2)中、R3は水素原子又はメチル基を示し、R4は2価の炭化水素残基を示し、mは1又は2を示し、nは0又は1を示し、r及びsは、それぞれ独立して0、1又は2を示す。
【0081】
【0082】
また、実施例1-5において、成分Cとして配合したものは、下記式(5)で示される化合物であったが、アクリル酸との反応により、下記式(6)で示される化合物に変化している場合も想定される。その場合でも、式(5)と同様の効果が得られることから、上記式(5)で示される化合物、上記式(6)で示される化合物およびこれらの混合物を、成分Cとして成分A及びBに配合しても、同様の効果を得ることができると想定される。
【0083】
また、これまで本発明者が行ってきた各種試験の結果から、光重合開始剤、連鎖移動剤、離型剤などの添加剤は、本光硬化性組成物の屈折率、粘度、アッベ数にはほとんど影響しないことを確認している。