(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113304
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】嵩上げ防波堤
(51)【国際特許分類】
E02B 3/06 20060101AFI20220728BHJP
【FI】
E02B3/06 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009436
(22)【出願日】2021-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(72)【発明者】
【氏名】細井 英夫
【テーマコード(参考)】
2D118
【Fターム(参考)】
2D118AA11
2D118AA12
2D118BA04
2D118FB03
2D118JA01
2D118JA07
2D118JA11
(57)【要約】
【課題】防波堤の海側に出っ張ることなく施行ができ、波の衝撃耐性が強く、また陸側から見たときの意匠性が高い嵩上げ防波堤を提供することにある。
【解決手段】上記課題を解決するために本発明に係る嵩上げ防波堤1は、既存の防波堤Bの長さ方向に平行して、前記防波堤Bよりも海側に突出せずに、前記防波堤B上に設けられた波衝撃吸収板材2と、前記防波堤B上に設けられ、前記波衝撃吸収板材2を支持する複数の支柱3と、前記波衝撃吸収板材2を補強するために陸側から傾斜して前記支柱3に取り付けられる支柱補強斜材4と、前記波衝撃吸収板材2と前記支柱3とを覆い隠すように前記支柱補強斜材4に設けられた化粧材9と、を具備することを特徴としたことにある。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の防波堤の長さ方向に平行して、前記防波堤よりも海側に突出せずに、前記防波堤上に設けられた波衝撃吸収板材と、
前記防波堤上に設けられ、前記波衝撃吸収板材を支持する複数の支柱と、
前記波衝撃吸収板材を補強するために陸側から傾斜して前記支柱に取り付けられる支柱補強材と、
前記波衝撃吸収板材と前記支柱とを覆い隠すように前記支柱補強材に設けられた化粧材と、
を具備することを特徴とする嵩上げ防波堤。
【請求項2】
前記支柱補強材は、長手棒形状であり、前記防波堤の陸側法面に沿って前記支柱補強材の下部が前記防波堤に固定されており、前記支柱補強材の上端部が前記支柱に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の嵩上げ防波堤。
【請求項3】
複数の前記支柱間の一つには、前記化粧材及び前記波衝撃吸収板材が取り付けられておらず、海側と陸側を繋ぐ門扉が取り付けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の嵩上げ防波堤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
防波堤を超える波、波飛沫、海風、波音等を防ぐために、既存の防波堤上に設けられる嵩上げ防波堤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、津波、高潮等による越波被害を低減させる場合、護岸嵩上げとして、既存防波堤を通常工法で改修するしかなかった。
【0003】
そこで、特許文献1に記載の越波防止構造は、堤防の上端部に基端部が取り付けられており、沖側に向かって延設されるアルミニウム製の天板が設けられた波返しが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、コンクリート構造のブロックと金属製骨材の骨組み構造とからなり、骨組み構造でコンクリート構造を支持するとともに、骨組み構造同士を締結する防波構造物を既存の防波堤の海側に増設するものが知られている。
【0005】
また、特許文献3に記載の堤体には、堤防上に所定間隔で堤体連続方向に2列に設けられた鋼管杭に支持され所定の間隔をあけて並列されたフーチングの上方に壁パネルが配置された堤体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-108565
【特許文献2】特開2002-227167
【特許文献3】特開2014-159675
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1および特許文献2に記載の波返しは、防波堤よりも海側に出っ張っているため、防波堤が敷地境界線である場合、これを用いることができなかった。
【0008】
また、特許文献2に記載の防波構造物においては、金属製骨組構造でコンクリート構造を支持すると共に、骨組構造同士を締結する構造であるため、新規防波堤工事と同等の工事となり大掛かりな工事となり、既存の防波堤を改良するものではなく構造が複雑で施行が面倒であり、費用も高くつくものであった。
【0009】
また、特許文献3に記載の堤体においては、壁パネルであるH型鋼は下部のフーチングユニットでしか支持されておらず、また、パネル表面は凹凸のない平面であるため、直に波を受けたときの衝撃耐性は低いものであった。
【0010】
そこで本発明は、防波堤の海側に出っ張ることなく施行ができ、波の衝撃耐性が強く、また陸側から見たときの意匠性が高い嵩上げ防波堤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために既存の防波堤の長さ方向に平行して、前記防波堤よりも海側に突出せずに、前記防波堤上に設けられた波衝撃吸収板材と、前記防波堤上に設けられ、前記波衝撃吸収板材を支持する複数の支柱と、前記波衝撃吸収板材を補強するために陸側から傾斜して前記支柱に取り付けられる支柱補強材と、前記波衝撃吸収板材と前記支柱とを覆い隠すように前記支柱補強材に設けられた化粧材と、を具備することを特徴としたことにある。
【0012】
好ましくは、前記支柱補強斜材は、長手棒形状であり、前記防波堤の陸側法面に沿うように前記支柱補強斜材の上端部が前記支柱に取り付けられていることを特徴としたことにある。
【0013】
好ましくは、複数の前記支柱間の一つには、前記化粧材及び前記波衝撃吸収板材が取り付けられておらず、海側と陸側を繋ぐ門扉が取り付けられていることを特徴としたことにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る嵩上げ堤防は、既存の防波堤よりも海側に突出せずに、防波堤上に波衝撃吸収板材が設けられているため、防波堤が敷地境界線となっている場合でも、設置が可能になる。また、既存の防波堤に後付けの改修工事により設置され、既存の防波堤に手を加えるわけではないため煩雑な手続きをする必要がなくなる。さらに、支柱補強斜材を、波衝撃吸収板材を支える支柱に取り付けることで波の衝撃強度を高めることができる。そして、支柱、波衝撃吸収板材及びボルト等を隠すように化粧材を支柱補強板材に取り付けることで陸側から見た際の嵩上げ防波堤の意匠性を高めることができる。
【0015】
また、支柱補強斜材は長手棒形状であり、防波堤の陸側法面に沿うように設置されており、防波堤と支柱補強斜材の接触面積が増えることで、防波堤との支柱補強斜材の設置強度が高まると同時に、波衝撃吸収板材の強度を高めることができる。
【0016】
また、前記支柱間の一部が前記化粧材及び前記波衝撃吸収板材が取り付けられておらず、代わりに海側と陸側を繋ぐ門扉が取り付けられていることで、海と陸との出入りを容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る嵩上げ堤防が設置されている断面図。
【
図2】
図1の支柱補強斜材が堤防の陸側法面に沿って設置されている嵩上げ堤防の断面図。
【
図3】陸側から見た支柱補強斜材を取り付ける前の支柱及び波衝撃吸収板材の正面図。
【
図5】
図4の支柱間に門扉が取り付けられた正面図。
【
図8】
図7の支柱補強斜材に化粧材が取り付けられた嵩上げ堤防の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、この発明に係る嵩上げ防波堤1の実施形態について図面を用いて説明する。
【0019】
図1は既存の防波堤B及び本発明に係る嵩上げ防波堤1の断面図を示している。
【0020】
嵩上げ防波堤1は、主に海沿いの既存の防波堤Bに対して、防波堤Bを越える波、波飛沫、海風、波音等を防ぐために用いられ、防波堤B上の長さ方向に平行して設置されており、波衝撃吸収板材2と、波衝撃吸収板材2を支持する支柱3と、支柱3に取り付けられる支柱補強斜材4と、支柱補強斜材4上に設けられた化粧材と、を具備している。
【0021】
支柱3は、波衝撃吸収板材2を支持するために用いられており、主に、取り付け等が容易であるH型鋼とされる。支柱3は、防波堤B上に直立して一定間隔に配置され、防波堤Bに取付物5を溶接にて固定させた後に、アンカーボルト6を取付物5上から防波堤Bに固定させている。支柱3が防波堤Bに直立して設置されることで、防波堤Bが敷地境界線である場合でも、嵩上げ防波堤1が海側へ突出することなく用いることができる。
図6に示すように、防波堤B上における支柱3は、波衝撃吸収板材2の重なり合う箇所及び波衝撃吸収板材2の中心部に支柱3が設置されており、波衝撃吸収板材2の長さに応じて支柱3間同士は、0.5m~2.0mの間隔で防波堤B上に固定される。また、防波堤が一直線でなく、湾曲していたり曲がっていたりするとき、必要に応じて変曲点において支柱3間隔を狭めてもよい。支柱3の高さHは、1.0m~3.0mとされるが、防波堤Bの環境によって適宜変更可能である。低くとも支柱補強斜材4の頂点と接地できる程度の高さHを有していればよい。
【0022】
波衝撃吸収板材2は、波、波飛沫、海風、波音を防ぐほか、直射日光からも防ぐ役割を有している。材質はステンレス鋼、ニッケル合金またはアルミニウム合金といった錆びにくい材質で構成されている。波衝撃吸収板材2の長さは、1.0m~2.0mとされており、
図6に示すように、防波堤Bの長さ方向に平行して防波堤B上に複数設けられており、波衝撃吸収板材2の端部同士が10cm~20cm重なるようにして横方向に連続して設置されている。また、
図1,
図2に示すように、一枚の波衝撃吸収板材2の中心部が支柱3に複数箇所ボルト7によって固定されており、4枚の波衝撃吸収板材2が縦方向に並列して支柱3に固定されている。一番下方に設置される波衝撃吸収板材2は防波堤Bから5.0cm~20.0cmの隙間を空けて固定されており、これにより波等の力を全て受け止めず、この隙間へ逃がすことで嵩上げ防波堤1の強度を高めている。また、必要であれば、波衝撃吸収板材2同士の縦の間隔を少し空けてもよいし、縦に並べる波衝撃吸収板材2の枚数は支柱3の高さや波衝撃吸収板材2の高さに応じて適宜変えてもよい。
【0023】
波衝撃吸収板材2の構造は
図1及び
図7に示すように、ガードレールに用いられるような凹凸構造としている。凹凸構造とすることで、凹凸のない平面な構造よりも波の力を分散させることができ、嵩上げ防波堤1の強度を高めることができる。他にも、図面には示していないが、波衝撃吸収板材2の構造は通気間隙が設けられたガラリ構造としてもよい。例えば、ルーバー等の羽板状の部材を平行に斜めに複数並べたガラリ構造とすることで、波等を防ぐと同時に、適度に風通しをする効果を有する。部材は、羽板形状でなくとも、四角柱の形状、山型の形状、略Z型の形状等でもよい。
【0024】
支柱補強斜材4は、支柱3を補助するため斜材であり、主にアンカーボルト6等で固定させやすく取付もしやすい長手棒形状のH型鋼が用いられ、嵩上げ防波堤1の強度を大幅に向上させることができる。支柱補強斜材4は、防波堤Bおよび支柱3にもたれかかるように、取付物5とアンカーボルト6を用いてそれぞれ防波堤Bに固定されている。
図2に示すように、防波堤Bに法面Sが形成されているときは、法面Sに沿うように支柱補強斜材4が設置されることが望ましい。支柱補強斜材4を法面Sに沿わせることで、防波堤Bと支柱補強斜材4との接地面積が増えて、支柱補強斜材4を安定して設置することができ、支柱3を補助する強度を高めることができる。
図1のように法面Sがないときでも、防波堤Bにもたれかかるようにして支柱補強斜材4を設置させても嵩上げ防波堤1の強度を上げることができる。この場合、取付物5及びアンカーボルト6は地面に取り付ける。
【0025】
図7に示すように、波衝撃吸収板材2及び化粧材9がない嵩上げ防波堤1の一部に門扉8取り付けることができる。門扉8を取り付けることで陸と海との出入りを可能にするほか、海の様子を直接確認できたり、海の景観を楽しんだり、門扉8を開けることで風通しをよくしたりする効果を有する。門扉8は、主に、鉄板等で構成されており、門扉8の両端部に支柱3を設置することで、波等からの衝撃耐性を高めている。さらに、陸側に閂11が取り付けられており、波等の衝撃が加わっても門扉8は勝手に開かない構造となっている。また、防波堤Bに門扉8に繋がる階段10が設置されており、容易に出入りすることができる。
【0026】
化粧材9は、支柱補強斜材4上に設けられており、支柱3、波衝撃吸収板材2および支柱補強斜材4を隠すことで、陸側から嵩上げ防波堤1を見たときの意匠性を高めることができる。また、角張った支柱補強斜材4やアンカーボルト6等を隠すため、嵩上げ防波堤1付近を通行する者にとって安全性を高めることができる。
【0027】
実際に施行する際は、支柱3を防波堤Bに取付物5及びアンカーボルト6で固定させた後、波衝撃吸収板材2を支柱3に固定させ、その後、支柱補強斜材4を取り付ける。最後に支柱補強斜材4に化粧材9を取り付ける。従って、既存の防波堤Bを壊すことなく後付けの施行ができ、嵩上げ防波堤1を取り付ける際に煩雑な手続きを必要としない。また、通常工法で防波堤Bの嵩上げを行うよりも、大幅に費用を削減することができる。
【0028】
支柱3、波衝撃吸収板材2、支柱補強斜材4及び門扉8には、錆止め塗料が表面に塗られていたり、メッキ処理等を行ったりすることで錆を生じさせにくくするのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係る嵩上げ防波堤1は、既存の防波堤に後付け工事が可能であり、波、波飛沫、波音または海風等を防ぐために好適に用いられる。
【符号の説明】
【0030】
1 嵩上げ防波堤
2 波衝撃吸収板材
3 支柱
4 支柱補強斜材
5 取付物
6 アンカーボルト
7 ボルト
8 門扉
9 化粧材
10 階段
11 閂
B 防波堤
H 高さ
S 法面