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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113305
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】複層塗膜
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/20 20060101AFI20220728BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
B32B27/20 A
C09D5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009437
(22)【出願日】2021-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福傳 浩一
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AA07B
4F100AA21B
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10C
4F100CA23B
4F100CA23C
4F100DE02B
4F100DG10A
4F100EH46B
4F100EH46C
4F100EJ85B
4F100EJ86B
4F100EJ86C
4F100JL10
4F100JL10C
4F100JN01C
4F100JN24B
4J038HA236
4J038KA08
4J038NA01
4J038PA07
4J038PB05
4J038PB07
4J038PB09
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC04
4J038PC06
4J038PC08
4J038PC10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】どのような色相の塗膜であっても、フリップフロップ性を確保しつつ、明度や彩度を高度に維持可能とする複層塗膜を提供する。
【解決手段】板状チタン酸を含む光輝性ベース層と、前記光輝性ベース層の上に設けられ、有彩色顔料を含む着色透明層とで複層塗膜を構成する。前記着色透明層に含まれる有彩色顔料が黄色顔料であり、Lh色空間色度図における色相角度hが、a赤方向を0°とした場合に60°~110°の範囲の塗色を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状チタン酸を含む光輝性ベース層と、
前記光輝性ベース層の上に設けられ、有彩色顔料を含む着色透明層と、
を有する複層塗膜。
【請求項2】
前記光輝性ベース層に有彩色顔料を含む、
請求項1に記載の複層塗膜。
【請求項3】
前記着色透明層に含まれる前記有彩色顔料は黄色顔料である、
請求項1又は請求項2に記載の複層塗膜。
【請求項4】
h色空間色度図における色相角度hが、a赤方向を0°とした場合に60°~110°の範囲の塗色を有する、請求項1ないし請求項3の何れかに記載の複層塗膜。
【請求項5】
色空間色度図における前記塗膜の明度L110が50以上である、請求項1ないし請求項4の何れかに記載の複層塗膜。
【請求項6】
色空間色度図における前記塗膜の彩度C110が50以上である、請求項1ないし請求項5の何れかに複層塗膜。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の何れかに記載の複層塗膜を基材上に備える物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層塗膜に関し、詳細には、光輝性有彩色を呈する複層塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、色彩設計の多様化から、光輝性顔料(塗膜に光輝感を付与する顔料)を使用したメタリック塗料の開発が進められている。このような光輝性顔料の代表例としてアルミフレーク顔料が知られている。
【0003】
アルミフレーク顔料を用いた光輝性塗膜では、見る角度によって明度(色の明るさ)が変化するという特性(いわゆるフリップフロップ性)を得ることができる。
従来は、光輝性顔料と有彩色顔料とを含む塗料を基材に塗布したり、光輝性顔料を含む光輝性塗膜と有彩色顔料を含む着色透明塗膜とを積層したりすることによって、有彩色の光輝性塗膜を形成している。
【0004】
例えば、特許文献1、2には、アルミフレーク顔料を含む光輝性ベース塗膜と、着色透明塗膜(特に赤色の着色透明塗膜)とを積層した光輝性塗膜が記載されている。こうした従来技術では、塗膜構成を複層とし、光輝性ベース塗膜と着色透明塗膜とを分けることで、フリップフロップ性を確保しつつ、塗膜の明度(色の明るさ)や彩度(色の鮮やかさ)を維持しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/117280号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2019/088201号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
もっとも、上述した従来の複層塗膜では、色相によっては、フリップフロップ性の確保と、明度や彩度の維持との両立が困難になるという問題があった。すなわち、赤色や青色などの色相に上記のような複層の塗膜構成を適用した場合、フリップフロップ性と、明度や彩度の維持とを、ある程度、両立することができる。一方で、例えば黄色系の色相に上記の塗膜構成を適用した場合、フリップフロップ性は確保できるものの、明度や彩度の低下によって、黄色が本来有する色の明るさや鮮やかさを大きく損ねてしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、どのような色相の塗膜であっても、フリップフロップ性を確保しつつ、明度や彩度を高度に維持可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述のような従来技術の問題点に鑑み鋭意検討を行った。そして、光輝性ベース塗膜と着色透明塗膜とを積層した複層塗膜において、光輝性顔料として「板状チタン酸」を用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の発明を含む。
(1) 板状チタン酸を含む光輝性ベース層と、前記光輝性ベース層の上に設けられ、有彩色顔料を含む着色透明層と、を有する複層塗膜。
(2) 前記光輝性ベース層に有彩色顔料を含む、(1)に記載の複層塗膜。
(3) 前記着色透明層に含まれる前記有彩色顔料は黄色顔料である、(1)又は(2)に記載の複層塗膜。
(4) Lh色空間色度図における色相角度hが、a赤方向を0°とした場合に60°~110°の範囲の塗色を有する、(1)ないし(3)に記載の複層塗膜。
(5) L色空間色度図における前記塗膜の明度L110が50以上である、(1)ないし(4)の何れかに記載の複層塗膜。
(6) L色空間色度図における前記塗膜の彩度C110が50以上である、(1)ないし(5)の何れかに複層塗膜。
(7) (1)ないし(6)の何れかに記載の複層塗膜を基材上に備える物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複層塗膜では、どのような色相の塗膜であっても、フリップフロップ性を確保しつつ、明度や彩度を高度に維持することができる。特に、これらの両立が非常に困難な黄色系の塗膜において、独特の意匠感を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の複層塗膜の明度及び彩度の測定において、光源と受光角との関係を示した説明図である。
図2】実施例1及び比較例1の複層塗膜を見た様子を示したカラー写真である。
図3】実施例2及び比較例2の複層塗膜を見た様子を示したカラー写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の複層塗膜は、光輝性ベース層と、光輝性ベース層の上に設けられた着色透明層などから構成される。光輝性ベース層、着色透明層などの厚みは、適宜設定することができる。
【0013】
本発明の複層塗膜の光輝性ベース層は板状チタン酸を含む。光輝性ベース層に含まれる板状チタン酸の配合量は適宜設定することができ、光輝性ベース層の樹脂成分100質量部に対して板状チタン酸の配合量は5~300質量部が好ましく、10~250質量部がより好ましい。
本発明の板状チタン酸における「チタン酸」とは、TiとOとH原子から構成される化合物を意味する。チタン酸は種々の結晶構造を持つものが知られているが、層状の結晶構造を有するチタン酸を用いることが好ましい。
【0014】
層状の結晶構造を有するチタン酸には種々の結晶構造が存在する。その結晶構造は結晶学的にA型(アナタース型)やR型(ルチル型)の酸化チタンとは異なるものである。層状の結晶構造を有するチタン酸としては例えば、TiO6八面体が稜共有してa軸及びc軸方向に2次元的に広がったシートを作り、その間にカチオンを含んで積層した構造の、レピドクロサイト構造を有する層状の結晶構造を有するチタン酸を用いることができる。結晶構造は粉末X線回折により確認することができる。
【0015】
本発明の板状チタン酸における「板状」とは、チタン酸の粒子の形状に関し、薄片状、シート状、フレーク状、鱗片状と呼ばれるものを包含する概念であり、厚みに対する幅及び長さの比が比較的大きな形状を有するものである。
【0016】
本発明の板状チタン酸は、レーザー回折/散乱法で測定した体積粒度分布におけるメジアン径(D50)が10~40μmの範囲であると好ましく、10~30μmの範囲であるとより好ましい。このような範囲とすることで、複層塗膜のフリップフロップ性を十分に確保することができる。
【0017】
レーザー回折/散乱法による体積粒度分布の測定では、薄片状チタン酸の粉末を水などの分散媒に分散させた分散液を測定サンプルとする。レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA-950)を使用し、屈折率2.50にて測定する。
【0018】
板状チタン酸の平均厚みは0.05~0.4μmの範囲とすることが好ましく、0.05~0.3μmの範囲とするとより好ましい。平均厚みは、板状チタン酸を含む塗膜を作製し、その塗膜をミクロトームで切断し、その断面を電子顕微鏡により観察し、無作為に選択した50個以上の粒子の厚みを測定し、測定値を平均して求める。
【0019】
本発明の板状チタン酸は、例えば以下のようにして製造することができる。
まず、チタン酸金属塩を製造する。チタン酸金属塩は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどのアルカリ金属の炭酸塩又は水酸化物と、酸化チタンとを原料とする。アルカリ金属の炭酸塩又は水酸化物としては、2種類の異なるアルカリ金属(M及びM’)の炭酸塩又は水酸化物を用いる。2種類の異なるアルカリ金属(M及びM’)の炭酸塩又は水酸化物と酸化チタンとを、好ましくは、M/M’/Tiのモル比で3/1/5から3/1/11の割合で混合し、1050~1200℃程度で焼成する。その他の焼成条件、例えば、昇降温速度、焼成時間、焼成雰囲気等には特に制限はなく、適宜設定してよい。更に必要に応じて焼成後のものを解砕し、チタン酸金属塩を得る。
【0020】
得られたチタン酸金属塩は、ホスト骨格中のTi4+席の一部が、層間のアルカリ金属とは異なるアルカリ金属イオンで置換された、組成式M[M’x/3Ti2-x/3]O(式中のM,M’は各々相違するアルカリ金属であり、xは0.50~1.0である)で示される、斜方晶の層状構造(レピドクロサイト型の結晶構造)を有する化合物であると好ましい。組成式中のxは、出発原料の混合比を変化させることでコントロールできる。
【0021】
次に、チタン酸金属塩を水溶媒に懸濁した後、酸溶液を添加し、金属イオンを抽出(チタン酸金属塩中の金属イオンと、酸中の陽イオンとをイオン交換)することによって層状チタン酸を生成させる。酸水溶液としては、塩酸や硫酸等の無機酸、又は酢酸、しゅう酸等の有機酸の水溶液などを用いることができる。
【0022】
上記層状チタン酸として、層と層との間の金属イオンが水素イオンで置換され、かつ、ホスト骨格中のTi4+席の一部も置換された組成式H4x/3Ti2-x/3・nHO(式中xは0.50~1.0であり、nは0~2である)で示される、斜方晶の層状構造を有する化合物が好ましい。すべての金属イオンが水素イオンに置換されている必要はなく、本発明の効果が得られる範囲で金属イオンが残存していてもよい。
【0023】
次に、層状チタン酸と水性媒液(水を主成分とする媒液)とを混合してスラリーを調製し、これに水溶性の塩基性有機化合物を混合する。本発明において「水溶性」とは、水100gに対して10g以上溶ける性質を意味する。この工程により、層状チタン酸に含まれる水素イオンと塩基性有機化合物の交換反応により塩基性有機化合物が層間に挿入され、少なくとも一部の層を膨潤及び/又は剥離して板状チタン酸が得られる。
【0024】
水溶性の塩基性有機化合物には特に制限はなく、任意の塩基性有機化合物を1種又は2種以上適宜選択して用いることができる。具体例としては、
(1)水酸化4級アンモニウム化合物(水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等)、(2)炭素数5以下のアルキル基を有するアミン化合物(プロピルアミン、ジエチルアミン等)、(3)アルカノールアミン化合物(エタノールアミン、アミノメチルプロパノール等)等が挙げられる。中でもアルカノールアミン化合物が好ましく、アミノメチルプロパノールを用いるとより好ましい。
【0025】
層状チタン酸の剥離の程度は、用いる塩基性有機化合物の種類やその使用量、層状チタン酸のスラリー濃度、両者を接触させる際のスラリーの温度やpH、混合の速度や時間等、条件を適宜設定することによって制御できる。これにより、得られる板状チタン酸の厚みを所望の厚みに制御することができる。
【0026】
こうして得た板状チタン酸のスラリーについて、公知の方法によって固液分離し、更に必要に応じて洗浄と乾燥を行うことができる。例えば、板状チタン酸のスラリーを遠心分離して、沈降物と媒液を分取し、乾燥して固形分を得ることもできる。又は、板状チタン酸のスラリーを噴霧乾燥して、固形分を得ることもできる。複数の公知の固形分の分取及び洗浄方法を組み合わせて固形分を得ることもできる。
【0027】
得られた固形分に必要に応じて粉砕を行うことができる。粉砕には前述の公知の粉砕機を用いることができる。板状チタン酸の形状(薄片面の寸法、大きさ)維持の観点からは粉砕力は弱いほうが好ましい。そのような粉砕機としては、例えば、ハンマーミル、ピンミルが挙げられる。
【0028】
本発明の複層塗膜において、光輝性ベース層は、上記の板状チタン酸のほかに、適宜、樹脂成分などを含む。樹脂成分としては、例えば、アルキド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、アミノ系樹脂、フッ素系樹脂、変成シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、ビニル系樹脂等が挙げられ、適宜選択できる。これらの樹脂成分は、有機溶剤溶解型、水溶型、エマルジョン型等特に制限はなく、硬化方式も加熱硬化型、常温硬化型、紫外線硬化型、電子線硬化型等制限は受けない。
これらの樹脂成分としては、市販の塗料組成物に含まれている樹脂成分を用いることもできる。
【0029】
本発明の複層塗膜において、光輝性ベース層は、さらに有彩色顔料を含んでいてもよい。本発明における有彩色顔料とは、有彩色(色相、明度、彩度を併せ持つ色)を呈する顔料である。言い換えれば、黒色、灰色、及び白色以外の顔料であり、例えば赤色、橙色、黄色、緑色、青色、紫色などを呈する顔料である。有彩色顔料としては、公知の無機顔料、有機顔料のいずれも用いることができる。有彩色顔料の配合量は適宜設定することができる。
【0030】
赤色顔料としては、酸化鉄系顔料、アゾレーキ系顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ系顔料等のアゾ系顔料、アンサンスロン系顔料、アンスラキノン系顔料、ペリレン系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料などが挙げられる。
橙色顔料としては、アゾ系顔料、アンスラキノン系顔料、ペリノン、スレン系顔料、キナクリドン系顔料、インジゴイド系顔料などが挙げられる。
黄色顔料としては、イソインドリン系顔料、アゾメチン系顔料、アントロン系顔料、酸化鉄系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、キノキサリンジオン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾ系顔料などが挙げられる。
緑色顔料としては、フタロシアニン系顔料、アゾメチン系顔料などが挙げられる。
青色顔料としては、フタロシアニン系顔料、インジゴイド系顔料などが挙げられる。
紫色顔料としては、酸化鉄紫、紫群青、マンガン紫、コバルト紫、インジゴイド系顔料、キナクリドン系顔料、オキサジン系顔料、アントラキノン系顔料、カルボニウム系顔料、キサンテン系顔料などが挙げられる。
【0031】
本発明の光輝性ベース層に含まれる有彩色顔料としては、1種類の有彩色顔料のみを用いるだけでなく、複数種類の有彩色顔料を混ぜて用いることができる。また、市販の有彩色塗料に含まれている有彩色顔料を用いることもできる。
【0032】
本発明の複層塗膜において、光輝性ベース層は、その他にも、目的に応じて増量剤、界面活性剤、可塑剤、硬化助剤、ドライヤー、消泡剤、増粘剤、乳化剤、フロー調整剤、皮張り防止剤、色分れ防止剤、紫外線吸収剤、防カビ剤等の各種添加剤、充填剤などが含まれていてもよい。添加剤、充填材などの配合量は適宜調整することができる。
【0033】
本発明の複層塗膜は、上記の光輝性ベース層の上に着色透明層を有する。着色透明層は有彩色顔料を含む。着色透明層に含まれる有彩色顔料としては、上述した公知の有彩色顔料を用いることができる。もちろん、複数種類の有彩色顔料を混ぜて用いることができるし、市販の有彩色塗料に含まれている有彩色顔料を用いることもできる。
【0034】
光輝性ベース層にも有彩色顔料が含まれる場合、着色透明層に含まれる有彩色顔料の色相と、光輝性ベース層に含まれる有彩色顔料の色相とを異ならせてもよい。こうすることで、複層塗膜のフリップフロップ性をより大きくすることができる。光輝性ベース層の下に中塗り塗料やベース塗料を塗装して、中塗り層やベース層を形成してもよい。
【0035】
本発明の複層塗膜の着色透明層は、上記の有彩色顔料のほかに、適宜、樹脂成分などを含む。樹脂成分としては、透明な塗膜を形成可能な熱可塑性樹脂などが挙げられる。着色透明層とは、可視光透過性を有する塗膜であり、着色透明層を透過した光が光揮性ベース層で散乱して、光輝性有彩色を呈することになる。
このような熱可塑性樹脂としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、シラノール基、エポキシ基などの架橋性官能基を有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、シリコン含有樹脂などの樹脂と、これらの架橋性反応基に反応しうるメラミン樹脂、尿素樹脂、(ブロック)ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物又は樹脂、カルボキシル基含有化合物又は樹脂、酸無水物、アルコキシシラン基含有化合物又は樹脂などの架橋材とからなるものが挙げられる。
【0036】
着色透明層には、その透明性を損なわない範囲において、上記の有彩色顔料を配合することができる。着色透明層における有彩色顔料の配合量は、着色透明層を構成する樹脂成分100質量部に対して30質量部以下であることが好ましく、0.01~10質量部であることがより好ましい。着色透明層の上にトップクリヤー塗料を塗装して、トップクリヤー層を形成してもよい。
【0037】
本発明の複層塗膜は、例えば以下のようにして形成することができる。
上述の板状チタン酸、樹脂成分、各種添加剤、及び溶媒などを混合して、光輝性塗料を調製する。光輝性塗料には、適宜、上述の有彩色顔料を混合してもよい。溶媒としては、アルコール類、エステル類、エーテル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類等の有機溶剤、水溶剤又は水と前記の有機溶剤の混合溶剤などが挙げられる。溶媒種は樹脂成分との適性に応じて選択することができる。前記の各成分の配合量は、上記の光輝性ベース層の組成に応じて適宜設定することができる。
【0038】
また、上述の透明な塗膜を形成可能な熱可塑性樹脂などの樹脂成分と有彩色顔料、各種添加剤、及び溶媒などを混合して、着色透明塗料を調整する。前記の各成分の配合量は、上記の着色透明層の組成に応じて適宜設定することができる。
【0039】
光輝性塗料と着色透明塗料とを、公知の方法にて基材に順次塗布する。具体的には、スピンコート、スプレー塗装、ローラーコート、ディップコート、フローコート、ナイフコート、静電塗装、バーコート、ダイコート、ハケ塗り、液滴を滴下する方法等、一般的な方法を制限なく用いることができる。塗布に用いる器具は、スプレーガン、ローラー、刷毛、バーコーター、ドクターブレード等公知の器具から適宜選択できる。
【0040】
基材としては、例えば、鉄、アルミニウム、真鍮、銅、ブリキ、ステンレス鋼、亜鉛メッキ鋼、亜鉛合金(Zn-Al、Zn-Ni、Zn-Feなど)メッキ鋼などの金属材料;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂類、各種のFRPなどのプラスチック材料;ガラス、セメント、コンクリートなどの無機材料;木材;紙、布などの繊維材料などを挙げることができる。
【0041】
本発明の複層塗膜が適用される対象物としては、例えば、乗用車、トラック、オートバイ、バスなどの自動車車体や建設機械、鉄道車両などの外板部や部品;橋梁、建築物などの建築材料;携帯電話、オーディオ機器などの家庭電気製品や家具などの外板部、などを挙げることができる。
【0042】
本発明の複層塗膜は、有彩色顔料の種類の選択により様々な塗色の複層塗膜を実現することができる。特に、黄色系の塗色において、アルミフレーク顔料などの従来の光輝性顔料を用いた場合には表現できなかった独特の意匠感を実現できる。
本発明において「黄色系」の塗色とは、L色空間色度図を基にしたLh色空間色度図において、色相角度hが、a赤方向を0°とした場合に60°~110°の範囲内であることを意味する。
【0043】
「黄色系」のように、色の明るさ(明度)や鮮やかさ(彩度)が比較的高い塗色では、アルミフレーク顔料の適用によって、特にシェード領域において塗膜の明度や彩度が顕著に低下する。本発明の複層塗膜では、光輝性顔料として板状チタン酸を用いることで、「黄色系」の塗膜であっても塗膜の明度や彩度を十分に維持することができ、しかもフリップフロップ性が得られることで、フリップフロップ性と、明度や彩度の維持とを高度に両立することが可能となる。
【0044】
本発明の複層塗膜では、L色空間色度図における塗膜の明度L15が80以上であることが好ましく、明度L110が50以上であることが好ましい。
は、JIS Z 8781にて採用の表色系であるL色空間色度図における明度を示す。また、本発明におけるL15、L110は、多角度測色計(ビックガードナー社製、BYK-mac i)(登録商標)を用いて、光源を90°(塗膜の法線方向を45°とする)の方向から照射したときの、受光角15°、及び110°でのLの値(図1における15°及び110°でのLの計測値)を意味する。すなわち、L15はいわゆるハイライト領域での明度を意味し、L110はいわゆるシェード領域での明度を意味する。板状チタン酸を用いた複層塗膜では、シェード領域でも比較的高い明度(好ましくは、L110が50以上)を実現することができる。
【0045】
本発明の複層塗膜では、アスペクト比(粒子の厚みに対する幅及び長さの比)の大きな板状チタン酸を含むことで、入射光が正反射方向に強く反射し、散乱光が少ないため、ハイライト領域の明度(L15)とシェード領域の明度(L110)との明度差が十分に確保される。その結果、複層塗膜にフリップフロップ性が付与される。
ハイライト領域の明度(L15)とシェード領域の明度(L110)との明度差をL15/L110で表した場合に、L15/L110が1.3以上あれば、フリップフロップ性は十分に確保されるといえる。
【0046】
本発明の複層塗膜は、L色空間色度図における前記塗膜の彩度C15が70以上であることが好ましく、彩度C110が50以上であることが好ましい。
本発明におけるCは、JIS Z 8729に採用の表色系であるL色空間色度図における彩度を示す。彩度Cは、次式から求められる。
式 C=((a+(b1/2
また、本発明におけるC15、C110は、多角度測色計(ビックガードナー社製、BYK-mac i)(登録商標)を用いて、光源を90°(塗膜の法線方向を45°とする)の方向から照射したときの、受光角15°、及び110°でのCの値(図1における15°及び110°でのCの計測値)を意味する。すなわち、C15はいわゆるハイライト領域での彩度を意味し、C110はいわゆるシェード領域での彩度を意味する。板状チタン酸を用いた複層塗膜では、シェード領域でも比較的高い彩度(好ましくは、C110が50以上)を実現することができる。
【0047】
本発明の複層塗膜では、光輝性顔料として板状チタン酸を用いることで、フリップフロップ性を発現しつつ、シェード領域での明度及び彩度の低下が抑制される。このため、有彩色顔料と併用しても、シェード領域での色合いがグレーがかって濁りが生じることがない。本発明の複層塗膜では、黄色系を含めたあらゆる塗色において、シェード領域での色の濁りを抑制し、明るく、かつ鮮やかな有彩色系の光輝性塗膜を実現することができる。
【実施例0048】
以下の実施例、比較例により本発明をより詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されることはない。
【0049】
(板状チタン酸の作製)
実施例に用いる板状チタン酸は、以下のようにして製造した。
【0050】
酸化チタン(石原産業製酸化チタンA-100)、炭酸カリウム及び炭酸リチウム(ともに関東化学製試薬)を質量比100:40:9.2でメノウ乳鉢にて充分混合した後、大気中、1150℃で5時間焼成し斜方晶型レピドクロサイト構造のチタン酸リチウムカリウム(K0.8Li0.27Ti1.73)を合成した。得られたチタン酸リチウムカリウムをメノウ乳鉢にて解砕し、チタン酸リチウムカリウム粉末を得た。
【0051】
得られたチタン酸リチウムカリウム粉末と、その4倍質量の1.1規定硫酸水溶液とを混合し30分間撹拌してイオン交換を行い、層状チタン酸とした。得られた層状チタン酸固形物をろ過、洗浄し、層状チタン酸ケーキを得た。
【0052】
得られた層状チタン酸ケーキをTiO換算で8.5質量%となるように再度純水に分散させ、層状チタン酸分散液とした。当該層状チタン酸分散液とアンモニア水を混合し、pHを8.7に調整した後、TiO100gあたり21.4gの2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール90質量%水溶液(層状チタン酸に含まれる水素イオンに対して0.3中和当量)を添加し、室温で1時間、撹拌することにより、板状チタン酸分散液を得た。
【0053】
スラリースクリーナー(アコージャパン株式会社製 SS95×250)に目開き10μmのメッシュを取り付け、得られた板状チタン酸分散液を純水で2倍希釈した溶液を18L/時で流し、網上の板状チタン酸分散液を回収した。
【0054】
網上の板状チタン酸分散液を3倍希釈し、遠心分離機(三菱化工機製、SJ10F)で遠心分離した。得られた沈降物(板状チタン酸ケーキ)を、スプレードライヤー(大川原化工機株式会社製 L-8i)を用いて、入口温度190℃、出口温度85℃の条件で噴霧乾燥し、板状チタン酸粉末を得た。
【0055】
この板状チタン酸粉末の粒度を測定したところ、体積粒度分布におけるメジアン径(D50)は20.4μmであった。測定条件は下記の通りである。
測定装置:レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA-950)
屈折率:2.50
【0056】
(光輝性塗料及び着色透明塗料の調製)
実施例及び比較例の複層塗膜を形成するにあたり、表1に記載の配合にて、光輝性顔料を含む光輝性塗料(B-1~B-3)と、有彩色顔料を含む着色透明塗料(C-1~C-3)とをそれぞれ作製した。板状チタン酸以外の塗料原料としては下記のものを使用した。
【0057】
水性自動車補修用塗料(nax E-CUBEシステム)(登録商標)の280補正用クリヤ―、910Mバインダー、950メタルフィックス、023クリスタルシルバー中目、496シンカシャブラウン、及び541ファインイエロー(いずれも日本ペイント社製)
顔料分散液のNSP-WG375A、及びDWB-Z300A(いずれも日弘ビックス社製)
【0058】
表1のB-1とB-2については、板状チタン酸粉末以外の原料を秤量、ディスパーで事前混合し、継続撹拌しながら、記載の配合量の板状チタン酸粉末を徐々に添加し、全量添加後5分間撹拌することで光輝性塗料を作製した。B-3及び、C-1~C-3については、表1に記載の配合量で各塗料原料を秤量し、ディスパーで撹拌して光輝性塗料(B-3)と、着色透明塗料(C-1~C-3)とを得た。
【0059】
【表1】
【0060】
(複層塗膜の作製)
(実施例1)
光輝性塗料B-1 100質量部に対し純水30質量部を加えて希釈した。アネスト岩田製スプレーガン(W-101-138BGC)を使用し、手元エアー圧0.15MPa、吐出量開度1.5回転、パターン幅開度全開で希釈後塗料を白黒隠蔽率試験紙(レネタ製)に塗布した。室温で10分間以上セッティング後、40℃、30分間強制乾燥して光輝性ベース層を形成した。光輝性ベース層の膜厚は20μmであった。
着色透明塗料C-1 100質量部に対し純水30質量部を加えて希釈した。アネスト岩田製スプレーガン(W-101-138BGC)を使用し、手元エアー圧0.125MPa、吐出量開度1.2回転、パターン幅開度全開で希釈後塗料を前述で強制乾燥した光輝性ベース層の上に塗布した。10分間以上セッティング後、40℃、30分間強制乾燥して、黄色の着色透明層を形成した。着色透明層の膜厚は8.7μmであった。
レタン(登録商標)PG80III 026クリヤー 100質量部、レタン(登録商標)PG80硬化剤10質量部、レタン(登録商標)PGシンナー標準型40質量部(いずれも関西ペイント製)を混合し、上記と同じスプレーガンを用いて手元圧0.2MPa、吐出量開度2.5回転、パターン幅開度全開でクリヤー層を塗布した。10分間以上セッティング後、60℃、1時間強制乾燥し、実施例1の光輝性有彩色複層塗膜を作製した。
【0061】
(実施例2~4、比較例1~3)
表1に記載の光輝性塗料B-2、B-3及び着色透明塗料C-1~C-3を用いて、実施例1と同様にして、実施例2~4、及び比較例1~3の複層塗膜を作製した。
実施例及び比較例の複層塗膜において、光輝性ベース層の厚みは20μmとした。また、着色透明層ついては、実施例1~3及び比較例1~3については、同じ着色透明塗料を用いて形成したものは同じ厚みにした。具体的には、着色透明塗料C-1では膜厚を8.7μmとし、着色透明塗料C-2では膜厚を4.4μmとし、着色透明塗料C-3では膜厚を3.3μmとした。実施例4の着色透明層については、膜厚8.4μmとした。
【0062】
(複層塗膜の測色)
実施例1~4、比較例1~3で作製した白地上の塗膜を、多角度測色計(ビックガードナー社製、BYK-mac i)(登録商標)を用いて光源を90°(塗膜の法線方向を45°とする)の方向から照射し、受光角15°、110°でのL値、C値を測定した。また、受光角15°での色相角度hを測定した。更に、受光角15°、110°でのL値に基づいて、L15/L110を計算し、フリップフロップ性(FF性)の指標とした。測定結果の一覧を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
実施例1と比較例1とでは、着色透明層に含まれている有彩色顔料の種類(すなわち色相)は同じである。一方で、光輝性ベース層に含まれている光輝性顔料の種類が異なっており、実施例1では板状チタン酸であり、比較例1ではアルミフレーク顔料である。
【0065】
実施例1と比較例1とで複層塗膜の測色結果を比較すると、ハイライト領域での明度(L15)や彩度(C15)についてはほぼ同等である一方で、シェード領域での明度(L110)や彩度(C110)は実施例1の複層塗膜のほうが大きな値となっていることが分かる。
【0066】
また、実施例1において、フリップフロップ性の指標であるL15/L110に着目すると、十分に大きな値(1.8)を示しており、目視でもフリップフロップ性が発現していることが確認できた。
実施例2と比較例2、及び実施例3と比較例3との比較から明らかなように、着色透明層に含まれている有彩色顔料の種類(すなわち色相)を変更した場合でも、上記と同様の傾向が確認できた。
実施例1と比較例1の複層塗膜を図2に示し、実施例2と比較例2の複層塗膜を図3に示す。
【0067】
実施例4は、実施例3の複層塗膜に対して、光輝性ベース層にも有彩色顔料を含有させたものである。光輝性ベース層に含まれている有彩色顔料はブラウン系で、着色透明層に含まれている有彩色顔料は黄色系の顔料であり、顔料の種類の違いに起因して、色相の異なる複層膜が作製できる。
【0068】
実施例4は、実施例3の複層塗膜の測色結果を比較すると、光輝性ベース層に有彩色顔料を含有させた場合、含有させない場合に比べて明度や彩度は相対的に少し低くなることが分かる。その一方で、フリップフロップ性の指標であるL15/L110の値を大きくすることができ、見た目の陰影感も大きくすることができる。
従って、特にフリップフロップ性を重視して、陰影感を強く発現させたい場合には、光輝性ベース層にも有彩色顔料を含有させることが効果的であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、どのような色相の塗膜であっても、フリップフロップ性を確保しつつ、明度や彩度を高度に維持可能である。従って本発明の複層塗膜は、独特な意匠感が求められる自動車や家電製品などの物品の基材表面に形成される光輝性有彩色塗膜として、有用である。
図1
図2
図3