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特開2022-113320分析装置、分析方法、及び、分析プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113320
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】分析装置、分析方法、及び、分析プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/083 20180101AFI20220728BHJP
   G01N 23/046 20180101ALI20220728BHJP
【FI】
G01N23/083
G01N23/046
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009472
(22)【出願日】2021-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100131428
【弁理士】
【氏名又は名称】若山 剛
(72)【発明者】
【氏名】日高 將文
(72)【発明者】
【氏名】藤井 智幸
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA11
2G001CA01
2G001FA06
2G001KA01
2G001LA01
(57)【要約】
【課題】画像情報が表す線吸収係数の分布を適切に認識できる分析装置を提供すること。
【解決手段】分析装置20は、対象物の断面内の画像領域における画素位置毎の線吸収係数を表す画像情報に基づいて対象物を分析する。分析装置は、成分情報受付部201と線吸収係数推定部206とを備える。成分情報受付部は、対象物に含まれるJ個の成分のそれぞれの質量比を表す成分情報を受け付ける。線吸収係数推定部は、画像情報に基づいて、画像領域における線吸収係数の頻度分布を取得し、互いに異なる成分群がそれぞれ存在するI個の成分群存在領域のそれぞれの、画像領域に対する成分群存在割合を取得された頻度分布に基づいて推定し、推定されたI個の成分群存在割合と、受け付けられた成分情報と、J個の成分のそれぞれの質量吸収係数と、に基づいて、I個の成分群存在領域の少なくとも1つにおける線吸収係数を推定する。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の波長を有するX線を対象物に照射することにより取得されるとともに、前記対象物の断面内の画像領域における画素位置毎の線吸収係数を表す画像情報に基づいて前記対象物を分析する分析装置であって、
前記対象物の質量に対する、前記対象物に含まれるJ(Jは、2以上の整数を表す)個の成分のそれぞれの質量の比である質量比を表す成分情報を受け付ける成分情報受付部と、
前記画像情報に基づいて、前記画像領域における前記線吸収係数の頻度分布を取得し、前記画像領域を構成するとともに互いに異なる成分群がそれぞれ存在するI(Iは、2以上の整数を表す)個の成分群存在領域のそれぞれの、前記画像領域に対する割合である成分群存在割合を前記取得された頻度分布に基づいて推定し、前記I個の成分群存在領域のそれぞれに存在する成分群が前記J個の成分のうちの、少なくとも1つを含み、前記推定されたI個の成分群存在割合と、前記受け付けられた成分情報と、前記J個の成分のそれぞれの質量吸収係数と、に基づいて、前記I個の成分群存在領域の少なくとも1つにおける線吸収係数を推定する線吸収係数推定部と、
を備える、分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の分析装置であって、
前記線吸収係数推定部は、前記取得された頻度分布を、数式1により表される近似関数f(x)が近似するように、前記近似関数f(x)を特定する、第i(iは、1乃至Iの整数を表す)係数a、第i極大位置パラメータb、及び、第i分散パラメータcを取得し、前記取得された第i係数aに基づいて、前記I個の成分群存在割合を推定する、分析装置。
【数1】
【請求項3】
請求項2に記載の分析装置であって、
第i極大位置パラメータbと、前記推定された線吸収係数と、を出力する線吸収係数出力部を備える、分析装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の分析装置であって、
前記I個の成分群存在領域のうちの第1成分群存在領域に存在する成分群は、原子番号が1番乃至10番である元素から構成される成分を含み、
前記I個の成分群存在領域のうちの第2成分群存在領域に存在する成分群は、原子番号が11番乃至20番である元素から構成される成分を含み、
前記波長は、0.05nm以上である、分析装置。
【請求項5】
所定の波長を有するX線を対象物に照射することにより取得されるとともに、前記対象物の断面内の画像領域における画素位置毎の線吸収係数を表す画像情報に基づいて前記対象物を分析する分析方法であって、
前記対象物の質量に対する、前記対象物に含まれるJ(Jは、2以上の整数を表す)個の成分のそれぞれの質量の比である質量比を表す成分情報を受け付け、
前記画像情報に基づいて、前記画像領域における前記線吸収係数の頻度分布を取得し、
前記画像領域を構成するとともに互いに異なる成分群がそれぞれ存在するI(Iは、2以上の整数を表す)個の成分群存在領域のそれぞれの、前記画像領域に対する割合である成分群存在割合を前記取得された頻度分布に基づいて推定し、前記I個の成分群存在領域のそれぞれに存在する成分群が前記J個の成分のうちの、少なくとも1つを含み、
前記推定されたI個の成分群存在割合と、前記受け付けられた成分情報と、前記J個の成分のそれぞれの質量吸収係数と、に基づいて、前記I個の成分群存在領域の少なくとも1つにおける線吸収係数を推定する、
ことを含む、分析方法。
【請求項6】
所定の波長を有するX線を対象物に照射することにより取得されるとともに、前記対象物の断面内の画像領域における画素位置毎の線吸収係数を表す画像情報に基づいて前記対象物を分析するための処理をコンピュータに実行させる分析プログラムであって、
前記処理は、
前記対象物の質量に対する、前記対象物に含まれるJ(Jは、2以上の整数を表す)個の成分のそれぞれの質量の比である質量比を表す成分情報を受け付け、
前記画像情報に基づいて、前記画像領域における前記線吸収係数の頻度分布を取得し、
前記画像領域を構成するとともに互いに異なる成分群がそれぞれ存在するI(Iは、2以上の整数を表す)個の成分群存在領域のそれぞれの、前記画像領域に対する割合である成分群存在割合を前記取得された頻度分布に基づいて推定し、前記I個の成分群存在領域のそれぞれに存在する成分群が前記J個の成分のうちの、少なくとも1つを含み、
前記推定されたI個の成分群存在割合と、前記受け付けられた成分情報と、前記J個の成分のそれぞれの質量吸収係数と、に基づいて、前記I個の成分群存在領域の少なくとも1つにおける線吸収係数を推定する、
ことを含む、分析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置、分析方法、及び、分析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
所定の波長を有するX線を対象物に照射することにより取得される画像情報に基づいて対象物を分析する分析装置が知られている。例えば、非特許文献1に記載の分析装置は、対象物の断面内の画像領域における画素位置毎の線吸収係数を表す画像情報に基づいて対象物を分析する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】佐藤眞直、外2名、「放射光を用いたX線CTによる冷凍食品中の氷結晶組織3次元非破壊観察」、日本食品工学会誌、一般社団法人日本食品工学会、2016年9月、第17巻、第3号、p.83-89
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、対象物に含まれる複数の成分のうちの、一部の成分群(換言すると、偏在成分群)が偏在することがある。しかしながら、上記分析装置においては、偏在成分群を特定することができない。このため、画像情報が表す線吸収係数の分布を適切に認識できない虞があった。
【0005】
本発明の目的の一つは、画像情報が表す線吸収係数の分布を適切に認識することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一つの側面では、分析装置は、所定の波長を有するX線を対象物に照射することにより取得されるとともに、対象物の断面内の画像領域における画素位置毎の線吸収係数を表す画像情報に基づいて対象物を分析する。
【0007】
分析装置は、成分情報受付部と、線吸収係数推定部と、を備える。
成分情報受付部は、対象物の質量に対する、対象物に含まれるJ(Jは、2以上の整数を表す)個の成分のそれぞれの質量の比である質量比を表す成分情報を受け付ける。
線吸収係数推定部は、画像情報に基づいて、画像領域における線吸収係数の頻度分布を取得し、画像領域を構成するとともに互いに異なる成分群がそれぞれ存在するI(Iは、2以上の整数を表す)個の成分群存在領域のそれぞれの、画像領域に対する割合である成分群存在割合を取得された頻度分布に基づいて推定し、I個の成分群存在領域のそれぞれに存在する成分群がJ個の成分のうちの、少なくとも1つを含み、推定されたI個の成分群存在割合と、受け付けられた成分情報と、J個の成分のそれぞれの質量吸収係数と、に基づいて、I個の成分群存在領域の少なくとも1つにおける線吸収係数を推定する。
【0008】
他の一つの側面では、分析方法は、所定の波長を有するX線を対象物に照射することにより取得されるとともに、対象物の断面内の画像領域における画素位置毎の線吸収係数を表す画像情報に基づいて対象物を分析する。
【0009】
分析方法は、
対象物の質量に対する、対象物に含まれるJ(Jは、2以上の整数を表す)個の成分のそれぞれの質量の比である質量比を表す成分情報を受け付け、
画像情報に基づいて、画像領域における線吸収係数の頻度分布を取得し、
画像領域を構成するとともに互いに異なる成分群がそれぞれ存在するI(Iは、2以上の整数を表す)個の成分群存在領域のそれぞれの、画像領域に対する割合である成分群存在割合を取得された頻度分布に基づいて推定し、I個の成分群存在領域のそれぞれに存在する成分群がJ個の成分のうちの、少なくとも1つを含み、
推定されたI個の成分群存在割合と、受け付けられた成分情報と、J個の成分のそれぞれの質量吸収係数と、に基づいて、I個の成分群存在領域の少なくとも1つにおける線吸収係数を推定する、
ことを含む。
【0010】
他の一つの側面では、分析プログラムは、所定の波長を有するX線を対象物に照射することにより取得されるとともに、対象物の断面内の画像領域における画素位置毎の線吸収係数を表す画像情報に基づいて対象物を分析するための処理をコンピュータに実行させる。
【0011】
上記処理は、
対象物の質量に対する、対象物に含まれるJ(Jは、2以上の整数を表す)個の成分のそれぞれの質量の比である質量比を表す成分情報を受け付け、
画像情報に基づいて、画像領域における線吸収係数の頻度分布を取得し、
画像領域を構成するとともに互いに異なる成分群がそれぞれ存在するI(Iは、2以上の整数を表す)個の成分群存在領域のそれぞれの、画像領域に対する割合である成分群存在割合を取得された頻度分布に基づいて推定し、I個の成分群存在領域のそれぞれに存在する成分群がJ個の成分のうちの、少なくとも1つを含み、
推定されたI個の成分群存在割合と、受け付けられた成分情報と、J個の成分のそれぞれの質量吸収係数と、に基づいて、I個の成分群存在領域の少なくとも1つにおける線吸収係数を推定する、
ことを含む。
【発明の効果】
【0012】
画像情報が表す線吸収係数の分布を適切に認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の分析システムの構成を表すブロック図である。
図2】第1実施形態の分析装置の構成を表すブロック図である。
図3】第1実施形態の分析装置の機能を表すブロック図である。
図4】第1実施形態の分析装置が実行する処理を表すフローチャートである。
図5】対象物に含まれる成分、質量吸収係数、質量比、及び、線吸収係数を表す表である。
図6】対象物にX線を照射することにより取得された画像情報である。
図7】第1実施形態の分析装置が出力する情報を表す説明図である。
図8】第1実施形態の分析装置により推定される、欠落領域質量比、及び、欠落領域線吸収係数を表す表である。
図9】第1実施形態の分析装置により推定される、存在領域質量比、及び、存在領域線吸収係数を表す表である。
図10】線吸収係数の波長に対する変化の一例を表すグラフである。
図11】参考例の対象物にX線を照射することにより取得された画像情報である。
図12】参考例の画像情報に基づいて取得される頻度分布を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の、分析装置、分析方法、及び、分析プログラムに関する各実施形態について図1乃至図12を参照しながら説明する。
【0015】
<第1実施形態>
(概要)
第1実施形態の分析装置は、所定の波長を有するX線を対象物に照射することにより取得されるとともに、対象物の断面内の画像領域における画素位置毎の線吸収係数を表す画像情報に基づいて対象物を分析する。
【0016】
分析装置は、成分情報受付部と、線吸収係数推定部と、を備える。
成分情報受付部は、対象物の質量に対する、対象物に含まれるJ(Jは、2以上の整数を表す)個の成分のそれぞれの質量の比である質量比を表す成分情報を受け付ける。
線吸収係数推定部は、画像情報に基づいて、画像領域における線吸収係数の頻度分布を取得し、画像領域を構成するとともに互いに異なる成分群がそれぞれ存在するI(Iは、2以上の整数を表す)個の成分群存在領域のそれぞれの、画像領域に対する割合である成分群存在割合を取得された頻度分布に基づいて推定し、I個の成分群存在領域のそれぞれに存在する成分群がJ個の成分のうちの、少なくとも1つを含み、推定されたI個の成分群存在割合と、受け付けられた成分情報と、J個の成分のそれぞれの質量吸収係数と、に基づいて、I個の成分群存在領域の少なくとも1つにおける線吸収係数を推定する。
【0017】
これによれば、推定された線吸収係数と、画像情報が表す線吸収係数の頻度分布、又は、当該頻度分布にて極大値を有する線吸収係数と、を比較することにより、互いに異なる成分群がI個の成分群存在領域にそれぞれ存在する、という仮定の尤もらしさを知ることができる。これにより、各成分群を特定できる。この結果、画像情報が表す線吸収係数の分布を適切に認識できる。
【0018】
(構成)
図1に表されるように、分析システム1は、X線CT(Computed Tomography)装置10と、分析装置20と、を備える。
【0019】
X線CT装置10は、所定の波長を有するX線(換言すると、単色X線)を対象物に照射することにより画像情報を取得する。画像情報は、対象物の断面内の画像領域における画素位置毎の線吸収係数を表す。本例では、波長は、0.05nm以上である。具体的には、波長は、0.1nmである。例えば、波長は、0.05nm乃至0.20nmの長さである。本例では、X線CT装置10は、X線ビームライン(例えば、偏向電磁石ビームライン等)を含む。
【0020】
対象物は、コロイド(換言すると、コロイド分散体、又は、コロイド分散系)に電解質が添加されることにより製造される。本例では、対象物は、食品である。例えば、食品は、凍結された食品(本例では、凍結された蒲鉾)である。なお、対象物は、凍結されていない食品(例えば、常温の食品、又は、冷蔵された食品等)であってもよい。また、対象物は、食品以外の物であってもよい。例えば、対象物は、ポリマー、合成樹脂、又は、イオンが注入された材料(例えば、半導体材料等)であってもよい。
【0021】
図2に表されるように、分析装置20は、バスBU1を介して互いに接続された、処理装置21、記憶装置22、入力装置23、及び、出力装置24を備える。例えば、分析装置20は、コンピュータ(換言すると、情報処理装置)により構成される。なお、コンピュータは、サーバ型コンピュータ、デスクトップ型コンピュータ、ラップトップ型コンピュータ、又は、タブレット型コンピュータであってよい。また、コンピュータは、スマートフォン等の少なくとも一部であってよい。また、分析装置20は、互いに通信可能に接続された複数の装置により構成されてもよい。
【0022】
処理装置21は、記憶装置22に記憶されているプログラムを実行することにより、記憶装置22、入力装置23、及び、出力装置24を制御する。これにより、処理装置21は、後述の機能を実現する。
【0023】
本例では、処理装置21は、CPU(Central Processing Unit)である。なお、処理装置21は、CPUに代えて、又は、CPUに加えて、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、又は、DSP(Digital Signal Processor)を含んでもよい。
【0024】
本例では、記憶装置22は、揮発性メモリと不揮発性メモリとを含む。例えば、記憶装置22は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、半導体メモリ、有機メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、及び、SSD(Solid State Drive)の少なくとも1つを含む。
【0025】
入力装置23は、分析装置20の外部から情報を入力する。本例では、入力装置23は、記憶媒体又は記録媒体(例えば、半導体メモリ、光ディスク、光磁気ディスク、又は、磁器ディスク等)から情報を読み取り可能な読取装置、キーボード、及び、マウスを備える。なお、入力装置23は、マイクロフォンを備えてもよい。
【0026】
出力装置24は、分析装置20の外部に情報を出力する。本例では、出力装置24は、ディスプレイを備える。なお、出力装置24は、スピーカを備えてもよい。
なお、分析装置20は、入力装置23及び出力装置24の両方を構成するタッチパネル式のディスプレイを備えてもよい。
【0027】
(機能)
図3に表されるように、分析装置20の機能は、成分情報受付部201と、画像情報受付部202と、質量吸収係数記憶部203と、成分群情報受付部204と、密度情報受付部205と、線吸収係数推定部206と、線吸収係数出力部207と、を含む。
【0028】
成分情報受付部201は、成分情報を受け付ける。成分情報は、対象物に含まれるJ個の成分のそれぞれに対して、当該成分と、当該成分の質量比(換言すると、構成質量比)と、が対応付けられた情報を含む。Jは、2以上の整数を表す。各成分の質量比は、対象物の質量に対する、当該成分の質量の比である。本例では、対象物に含まれるJ個の成分は、互いに異なるJ個の元素からそれぞれ構成される。従って、本例では、対象物に含まれるJ個の成分のそれぞれは、元素成分と表されてもよい。
【0029】
本例では、成分情報は、元素分析装置を用いて取得される。本例では、成分情報は、分析装置20のユーザにより入力装置23を介して入力される。なお、分析システム1は、元素分析装置等の成分情報を取得するための装置を備えるとともに、当該装置を用いて成分情報を取得してもよい。
【0030】
画像情報受付部202は、画像情報を受け付ける。画像情報は、対象物の断面内の画像領域における画素位置毎の線吸収係数を表す。本例では、上述のように、画像情報は、X線CT装置10により取得される。本例では、画像情報は、記憶媒体又は記録媒体を介してX線CT装置10から分析装置20へ伝達される。なお、画像情報は、X線CT装置10と分析装置20とが通信することにより伝達されてもよい。
【0031】
質量吸収係数記憶部203は、画像情報の取得に用いられた波長に対する、成分毎の質量吸収係数を予め記憶装置22に記憶させている。なお、分析装置20は、成分毎の質量吸収係数を受け付けてもよい。この場合、成分毎の質量吸収係数は、分析装置20のユーザにより入力装置23を介して入力されてよい。
【0032】
なお、質量吸収係数記憶部203は、互いに異なる複数の波長のそれぞれに対する、成分毎の質量吸収係数を予め記憶装置22に記憶させていてもよい。この場合、分析装置20は、画像情報の取得に用いられた波長を表す波長情報を受け付け、受け付けられた波長情報が表す波長に対する質量吸収係数を用いて、後述の線吸収係数の推定を行うことが好適である。波長情報は、分析装置20のユーザにより入力装置23を介して入力されてよい。また、この場合、分析装置20は、画像情報の取得に用いられた波長と、記憶されている複数の質量吸収係数と、に基づいて補間された値を用いて、後述の線吸収係数の推定を行ってもよい。
【0033】
成分群情報受付部204は、成分群情報を受け付ける。成分群情報は、成分群存在領域の数である成分群存在領域数Iと、I個の成分群存在領域のそれぞれに存在する成分群と、を表す。Iは、2以上の整数を表す。I個の成分群存在領域は、画像情報受付部202により受け付けられた画像情報が表す画像領域を構成するとともに、互いに異なる成分群がそれぞれ存在する。I個の成分群存在領域のそれぞれに存在する成分群は、対象物に含まれるJ個の成分のうちの、少なくとも1つを含む。本例では、各成分群は、対象物に含まれるJ個の成分のうちの、少なくとも1つからなる。
【0034】
本例では、I個の成分群存在領域のうちの第1成分群存在領域に存在する成分群は、原子番号が1番乃至10番である元素から構成される成分(換言すると、軽元素成分)を含む。また、本例では、I個の成分群存在領域のうちの第2成分群存在領域に存在する成分群は、原子番号が11番乃至20番である元素から構成される成分(換言すると、中元素成分)を含む。なお、第2成分群存在領域に存在する成分群は、原子番号が11番乃至20番である元素以外の元素から構成される成分を含んでいてもよい。
【0035】
本例では、成分群情報は、分析装置20のユーザにより入力装置23を介して入力される。なお、成分群情報受付部204は、互いに異なる複数の成分群を表す成分群候補情報を予め記憶装置22に記憶させるとともに、当該複数の成分群候補情報の中からI個の成分群候補情報を選択する選択情報を受け付けるとともに、受け付けられた選択情報により選択されたI個の成分群候補情報に基づいて成分群情報を受け付けてもよい。
【0036】
また、成分群情報は、成分群存在領域数Iを表す情報を含まなくてもよい。この場合、分析装置20は、後述の頻度分布を用いて、成分群存在領域数Iを表す情報を取得してもよい。この場合、分析装置20は、頻度分布の二次微分が負の極小値を有する数を成分群存在領域数Iとして取得することが好適である。
【0037】
密度情報受付部205は、I個の成分群存在領域のそれぞれに対して、当該成分群存在領域における対象物の密度を表す密度情報を受け付ける。ところで、I個の成分群存在領域における対象物の密度が略同一の値を有することがある。この場合、密度情報受付部205は、対象物の全体の密度を表す密度情報を受け付け、受け付けられた密度情報を、各成分群存在領域に対する密度情報として用いてよい。
【0038】
本例では、密度情報は、分析装置20のユーザにより入力装置23を介して入力される。例えば、密度情報は、対象物の質量に対する各食品成分の質量比に基づいて取得される。本例では、対象物に含まれる各食品成分は、水分、タンパク質、脂質、炭水化物、又は、灰分である。食品成分は、食品の一般成分と表されてもよい。各食品成分の質量比は、対象物の質量に対する、当該食品成分の質量の比である。本例では、密度情報は、非特許文献2に記載の、食品成分毎に温度と密度との関係を表す数式に基づいて取得される。
(非特許文献2) Dennis R. Heldman、Daryl B. Lund、Cristina Sabliov著、「Handbook of Food Engineering」、第2版、CRC Press、2006年、p.439
【0039】
線吸収係数推定部206は、画像情報受付部202により受け付けられた画像情報に基づいて、対象物の断面内の画像領域における線吸収係数の頻度分布を取得する。本例では、頻度分布は、互いに異なる複数の範囲のそれぞれに含まれる線吸収係数を有する画素位置の数(換言すると、画像領域において線吸収係数が出現する頻度)の、線吸収係数に対する変化を表す。本例では、複数の範囲の大きさは、同一である。
【0040】
線吸収係数推定部206は、取得された頻度分布を、数式1により表される近似関数f(x)が近似するように、近似関数f(x)を特定する近似関数特定情報群を取得する。xは、線吸収係数を表す変数を表す。fは、頻度を表す。本例では、近似関数特定情報群は、第i係数a、第i極大位置パラメータb、及び、第i分散パラメータcからなる。iは、1乃至Iの整数を表す。本例では、第i’極大位置パラメータbi’は、第i’+1極大位置パラメータbi’+1よりも小さい。i’は、1乃至I-1の整数を表す。
【数1】
【0041】
本例では、線吸収係数推定部206は、最小二乗法を用いて近似関数特定情報群を取得する。なお、線吸収係数推定部206は、最小二乗法以外の方法(例えば、最尤推定法等)を用いて近似関数特定情報群を取得してもよい。
【0042】
線吸収係数推定部206は、取得された頻度分布に基づいて、I個の成分群存在領域(換言すると、第1成分群存在領域乃至第I成分群存在領域)のそれぞれに対する成分群存在割合を推定する。各成分群存在領域に対する成分群存在割合は、画像情報受付部202により受け付けられた画像情報が表す画像領域に対する、当該成分群存在領域の割合である。本例では、各成分群存在領域に対する成分群存在割合は、当該成分群存在領域を構成する画素位置の数の、画像領域を構成する画素位置の数に対する割合である。
【0043】
本例では、線吸収係数推定部206は、取得された近似関数特定情報群に基づいて、I個の成分群存在領域のそれぞれに対する成分群存在割合を推定する。本例では、数式2に表されるように、線吸収係数推定部206は、取得された第1係数a乃至第I係数aに基づいて、第i成分群存在領域に対する成分群存在割合Pを推定する。
【数2】
【0044】
線吸収係数推定部206は、推定されたI個の成分群存在割合と、成分情報受付部201により受け付けられた成分情報と、成分群情報受付部204により受け付けられた成分群情報と、密度情報受付部205により受け付けられた密度情報と、質量吸収係数記憶部203により記憶されている、対象物に含まれるJ個の成分のそれぞれの質量吸収係数と、に基づいて、I個の成分群存在領域のそれぞれにおける線吸収係数を推定する。なお、線吸収係数推定部206は、I個の成分群存在領域のうちの一部における線吸収係数を推定してもよい。
【0045】
具体的には、数式3に表されるように、線吸収係数推定部206は、第i成分群存在領域における線吸収係数μを推定する。
ここで、ρは、密度情報受付部205により受け付けられた密度情報により表される、第i成分群存在領域における対象物の密度を表す。
μM,jは、質量吸収係数記憶部203により記憶されている、j番目の成分の質量吸収係数を表す。jは、1乃至Jの整数を表す。
i,jは、第i成分群存在領域における、j番目の成分の質量比(換言すると、成分群存在領域質量比)を表す。
【数3】
【0046】
第i成分群存在領域における、j番目の成分の質量比である成分群存在領域質量比Wi,jは、数式4により表される。
は、成分情報受付部201により受け付けられた成分情報に含まれる、j番目の成分の質量比を表す。
i,jは、第i成分群存在領域において、j番目の成分が存在するか否かを表す存在係数を表す。存在係数ei,jは、第i成分群存在領域において、j番目の成分が存在する場合に「1」を表すとともに、第i成分群存在領域において、j番目の成分が存在しない場合に「0」を表す。本例では、存在係数ei,jは、成分群情報受付部204により受け付けられた成分群情報に含まれる。
【数4】
【0047】
線吸収係数出力部207は、線吸収係数推定部206により取得された第1極大位置パラメータb乃至第I極大位置パラメータbと、線吸収係数推定部206により推定された、I個の成分群存在領域における線吸収係数μ乃至線吸収係数μと、を出力装置24を介して出力する(本例では、出力装置24のディスプレイに表示する)。本例では、線吸収係数出力部207は、線吸収係数推定部206により取得された頻度分布と、線吸収係数推定部206により取得された近似関数特定情報群により特定される近似関数f(x)と、も出力装置24を介して出力する。
【0048】
ところで、特定の成分が、複数の成分群存在領域のそれぞれに存在する場合において、成分群存在領域毎に当該成分の濃度(単位体積当たりに含まれる当該成分の質量)が異なる場合がある。この場合、存在係数ei,jは、0乃至1の実数を表すことが好適である。
【0049】
なお、成分群存在領域数Iが「2」を表す場合において、第1成分群存在領域に第1成分群が存在するとともに、第2成分群存在領域に第1成分群及び第2成分群が存在する場合、第2成分群は、偏在成分群と表されてもよい。この場合、第1成分群存在領域は、画像領域の中で偏在成分群が欠落する領域である欠落領域と表されてもよい。また、この場合、第2成分群存在領域は、画像領域の中で偏在成分群が存在する領域である存在領域と表されてもよい。
【0050】
なお、分析装置20の機能の説明は、後述の分析装置20の動作の説明によって補足されてよい。
【0051】
(動作)
次に、分析装置20の動作の一例について、図4乃至図9を参照しながら説明する。
本例では、対象物は、凍結された蒲鉾である。本例では、対象物は、-25℃の冷凍庫における凍結と、自然解凍と、が複数回(本例では、4回)に亘って繰り返されることにより生成される。
【0052】
先ず、X線CT装置10は、所定の波長を有するX線(換言すると、単色X線)を対象物に照射することにより画像情報を取得する。
次いで、分析装置20は、分析装置20のユーザにより入力装置23を介して入力される実行指示に従って、対象物を分析するため、図4に表される処理を実行する。
【0053】
先ず、分析装置20は、成分情報を受け付けるまで待機する(ステップS101にて「No」と判定)。次いで、分析装置20のユーザは、入力装置23を介して成分情報を入力する。本例では、成分情報は、図5に表されるように、H、C、N、O、Na、Mg、P、S、Cl、K、Ca、及び、Znからそれぞれ構成されるJ(本例では、Jは、12を表す。)個の成分のそれぞれに対して、当該成分と、当該成分の質量比(換言すると、構成質量比)と、が対応付けられた情報を含む。これにより、分析装置20は、入力された成分情報を受け付けることにより、ステップS101にて「Yes」と判定し、ステップS102へ進む。
【0054】
次いで、分析装置20は、画像情報を受け付けるまで待機する(ステップS102にて「No」と判定)。次いで、分析装置20のユーザは、入力装置23を介して画像情報を入力する。本例では、画像情報は、図6に表されるような情報である。図6は、白色に近づくほど線吸収係数が高くなることを表す。これにより、分析装置20は、入力された画像情報を受け付けることにより、ステップS102にて「Yes」と判定し、ステップS103へ進む。
【0055】
次いで、分析装置20は、成分群情報を受け付けるまで待機する(ステップS103にて「No」と判定)。次いで、分析装置20のユーザは、入力装置23を介して成分群情報を入力する。本例では、成分群情報において、成分群存在領域数Iは、「2」を表す。本例では、成分群情報において、第1成分群存在領域に存在する成分群は、H、C、N、O、P、S、及び、Znからそれぞれ構成される7個の成分からなる。本例では、成分群情報において、第2成分群存在領域に存在する成分群は、H、C、N、O、Na、Mg、P、S、Cl、K、Ca、及び、Znからそれぞれ構成される12個の成分からなる。なお、第1成分群存在領域に存在する成分群は、H、C、N、O、及び、Znからそれぞれ構成される5個の成分からなっていてもよい。
これにより、分析装置20は、入力された成分群情報を受け付けることにより、ステップS103にて「Yes」と判定し、ステップS104へ進む。
【0056】
次いで、分析装置20は、I個の成分群存在領域のそれぞれに対する密度情報を受け付けるまで待機する(ステップS104にて「No」と判定)。次いで、分析装置20のユーザは、入力装置23を介して各密度情報を入力する。本例では、I個の成分群存在領域のそれぞれに対する密度情報は、1.00g/cmを表す。これにより、分析装置20は、入力された、I個の成分群存在領域のそれぞれに対する密度情報を受け付けることにより、ステップS104にて「Yes」と判定し、ステップS105へ進む。
【0057】
次いで、分析装置20は、ステップS102にて受け付けられた画像情報に基づいて、対象物の断面内の画像領域における線吸収係数の頻度分布を取得する。本例では、頻度分布は、図7の符号H1が付された円により表される。次いで、分析装置20は、取得された頻度分布を、数式1により表される近似関数f(x)が近似するように、近似関数f(x)を特定する近似関数特定情報群を取得する(ステップS105)。本例では、近似関数f(x)は、図7の符号F1が付された実線により表される。
【0058】
次いで、分析装置20は、ステップS105にて取得された近似関数特定情報群に含まれる、第1係数a乃至第I係数aと、数式2と、に基づいて、I個の成分群存在領域のそれぞれに対する成分群存在割合Pを推定する(ステップS106)。本例では、第1成分群存在領域に対する成分群存在割合P、及び、第2成分群存在領域に対する成分群存在割合Pは、それぞれ、0.7及び0.3である。
【0059】
次いで、分析装置20は、ステップS106にて推定されたI個の成分群存在割合Pと、ステップS101にて受け付けられた成分情報と、ステップS103にて受け付けられた成分群情報と、ステップS104にて受け付けられた密度情報と、記憶装置22に記憶されている成分毎の質量吸収係数と、数式3及び数式4と、に基づいて、I個の成分群存在領域のそれぞれにおける線吸収係数μを推定する(ステップS107)。
【0060】
本例では、第1成分群存在領域における成分群存在領域質量比W1,j、及び、第1成分群存在領域における線吸収係数μは、図8に表されるように推定される。図8においては、第1成分群存在領域における線吸収係数μは、第1成分群存在領域に存在する成分群を構成する成分のそれぞれに対する線吸収係数の合計である2.54である。
【0061】
本例では、第2成分群存在領域における成分群存在領域質量比W2,j、及び、第2成分群存在領域における線吸収係数μは、図9に表されるように推定される。図9においては、第2成分群存在領域における線吸収係数μは、第2成分群存在領域に存在する成分群を構成する成分のそれぞれに対する線吸収係数の合計である3.41である。
【0062】
次いで、分析装置20は、図7に表されるように、ステップS105にて取得された近似関数特定情報群に含まれる第1極大位置パラメータb乃至第I極大位置パラメータbと、ステップS107にて推定された、I個の成分群存在領域における線吸収係数μ乃至線吸収係数μと、ステップS105にて取得された頻度分布と、ステップS105にて取得された近似関数特定情報群により特定される近似関数f(x)と、を出力装置24のディスプレイに表示する。
【0063】
本例では、図7に表されるように、第1極大位置パラメータb及び第2極大位置パラメータbは、符号B1が付された欄、及び、符号B2が付された欄にてそれぞれ表示される。本例では、第1成分群存在領域における線吸収係数μ、及び、第2成分群存在領域における線吸収係数μは、符号B3が付された欄、及び、符号B4が付された欄にてそれぞれ表示される。本例では、頻度分布は、符号H1が付された円により表される。本例では、近似関数f(x)は、符号F1が付された実線により表される。本例では、近似関数f(x)を構成する2個のガウス関数は、符号F11が付された実線、及び、符号F12が付された実線によりそれぞれ表される。
【0064】
本例では、図7に表されるように、第1極大位置パラメータbと、第1成分群存在領域における線吸収係数μと、が十分に近い値を有するとともに、第2極大位置パラメータbと、第2成分群存在領域における線吸収係数μと、が十分に近い値を有する。
【0065】
従って、本例では、H、C、N、O、P、S、及び、Znからそれぞれ構成される7個の成分からなる成分群が第1成分群存在領域に存在するとともに、H、C、N、O、Na、Mg、P、S、Cl、K、Ca、及び、Znからそれぞれ構成される12個の成分からなる成分群が第2成分群存在領域に存在する、という仮定が十分に尤もらしいと解釈されてよい。換言すると、Na、Mg、Cl、K、及び、Caからそれぞれ構成される5個の成分から構成される偏在成分群が欠落領域にて欠落するとともに、偏在成分群が存在領域にて存在する、という仮定が十分に尤もらしいと解釈されてよい。この結果、図6に表される画像情報が表す線吸収係数の分布が、黒色に近い領域において偏在成分群が欠落するとともに、白色に近い領域において偏在成分群が存在することを認識できる。
【0066】
そして、分析装置20は、図4に表される処理の実行を終了する。
【0067】
なお、分析装置20は、ステップS101乃至ステップS104の処理を並列に実行してもよい。また、分析装置20は、ステップS101乃至ステップS104の処理を、図4に例示される順序と異なる順序にて実行してもよい。
また、分析装置20は、図5図8、及び、図9にそれぞれ表される複数(本例では、3個)の表の少なくとも1つを出力装置24を介して出力してもよい。
【0068】
また、分析装置20は、I個の成分群存在領域のそれぞれにおける対象物の密度を推定してもよい。本例では、分析装置20は、第1成分群存在領域に灰分以外の食品成分(換言すると、水分、タンパク質、脂質、及び、炭水化物)が存在するとともに、第2成分群存在領域に灰分を含む食品成分(換言すると、水分、タンパク質、脂質、炭水化物、及び、灰分)が存在する、という仮定に基づいて、第1成分群存在領域、及び、第2成分群存在領域のそれぞれにおける対象物の密度を推定してもよい。例えば、分析装置20は、第1成分群存在領域における対象物の密度を、0.991g/cmと推定するとともに、第2成分群存在領域における対象物の密度を、1.02g/cmと推定してよい。
【0069】
以上、説明したように、第1実施形態の分析装置20は、所定の波長を有するX線を対象物に照射することにより取得されるとともに、対象物の断面内の画像領域における画素位置毎の線吸収係数を表す画像情報に基づいて対象物を分析する。
【0070】
分析装置20は、成分情報受付部201と、線吸収係数推定部206と、を備える。
成分情報受付部201は、対象物の質量に対する、対象物に含まれるJ(Jは、2以上の整数を表す)個の成分のそれぞれの質量の比である質量比を表す成分情報を受け付ける。
【0071】
線吸収係数推定部206は、画像情報に基づいて、画像領域における線吸収係数の頻度分布を取得し、画像領域を構成するとともに互いに異なる成分群がそれぞれ存在するI(Iは、2以上の整数を表す)個の成分群存在領域のそれぞれの、画像領域に対する割合である成分群存在割合を、取得された頻度分布に基づいて推定し、I個の成分群存在領域のそれぞれに存在する成分群がJ個の成分のうちの、少なくとも1つを含み、推定されたI個の成分群存在割合と、受け付けられた成分情報と、J個の成分のそれぞれの質量吸収係数と、に基づいて、I個の成分群存在領域の少なくとも1つにおける線吸収係数を推定する。
【0072】
これによれば、推定された線吸収係数と、画像情報が表す線吸収係数の頻度分布、又は、当該頻度分布にて極大値を有する線吸収係数と、を比較することにより、互いに異なる成分群がI個の成分群存在領域にそれぞれ存在する、という仮定の尤もらしさを知ることができる。これにより、各成分群を特定できる。この結果、画像情報が表す線吸収係数の分布を適切に認識できる。
【0073】
更に、第1実施形態の分析装置20において、線吸収係数推定部206は、取得された頻度分布を、数式1により表される近似関数f(x)が近似するように、近似関数f(x)を特定する、第i(iは、1乃至Iの整数を表す)係数a、第i極大位置パラメータb、及び、第i分散パラメータcを取得し、取得された第i係数aに基づいて、I個の成分群存在割合を推定する。
【0074】
ところで、各成分が均質である領域における頻度分布は、ガウス関数により高い精度にて近似される。従って、I個の成分群存在領域のそれぞれにおいて、各成分が均質である場合、頻度分布は、数式1により表される、I個のガウス関数の線形和である近似関数によって高い精度にて近似される。更に、この場合、第i係数aと、I個の成分群存在割合と、は強い相関を有する。従って、分析装置20によれば、I個の成分群存在割合を高い精度にて推定できる。
【0075】
更に、第1実施形態の分析装置20は、第i極大位置パラメータbと、推定された線吸収係数と、を出力する線吸収係数出力部207を備える。
【0076】
第i極大位置パラメータbは、I個の成分群存在領域における線吸収係数を高い精度にて反映する。従って、分析装置20によれば、第i極大位置パラメータbと、推定された線吸収係数と、を比較することにより、互いに異なる成分群がI個の成分群存在領域にそれぞれ存在する、という仮定の尤もらしさを高い精度にて知ることができる。これにより、各成分群を高い精度にて特定できる。
【0077】
ところで、波長が0.05nmよりも短いX線に対して、原子番号が1番乃至10番である元素から構成される成分(換言すると、軽元素成分)と、原子番号が11番乃至20番である元素から構成される成分(換言すると、中元素成分)と、の間の、質量吸収係数の差は、相当に小さい。このため、軽元素成分と中元素成分とを含む対象物にて中元素成分が偏在している場合であっても、偏在成分群の偏在が画像情報に反映されにくい。
【0078】
図10は、線吸収係数の波長に対する変化の一例を表す。図10において、対象物は、図5に表されるような質量比を有する成分を含む。符号C1により表される曲線は、対象物のうちの軽元素成分が有する線吸収係数の総和を表す。符号C2により表される曲線は、対象物のうちの中元素成分が有する線吸収係数の総和を表す。符号C3により表される曲線は、中元素寄与度を表す。中元素寄与度は、対象物のうちの中元素成分が有する線吸収係数の総和の、対象物の線吸収係数に対する比である。
図10に表されるように、X線の波長が0.05nmよりも短い場合、中元素寄与度は、波長が短くなるにつれて急激に低下する。
【0079】
これに対し、第1実施形態の分析装置20において、I個の成分群存在領域のうちの第1成分群存在領域に存在する成分群は、原子番号が1番乃至10番である元素から構成される成分を含む。更に、I個の成分群存在領域のうちの第2成分群存在領域に存在する成分群は、原子番号が11番乃至20番である元素から構成される成分を含む。加えて、画像情報の取得に用いられるX線の波長は、0.05nm以上である。
【0080】
従って、分析装置20によれば、軽元素成分と中元素成分とを含む対象物にて中元素成分が偏在している場合において、偏在成分群の偏在が画像情報に十分に高い精度にて反映される。この結果、偏在成分群を高い精度にて特定できる。従って、例えば、食品において、品質に影響を及ぼしやすい成分である、Na、Mg、Cl、K、又は、Ca等から構成される成分が偏在成分群に含まれるか否かを高い精度にて判定できる。
【0081】
<参考例>
図11及び図12は、参考例に係る対象物に対する画像情報及び頻度分布をそれぞれ表す。参考例に係る対象物は、凍結された蒲鉾である。本例では、対象物は、液体窒素による凍結と、自然解凍と、が複数回(本例では、4回)に亘って繰り返されることにより生成される。
【0082】
図11は、白色に近づくほど線吸収係数が高くなることを表す。図12に表されるように、頻度分布は、符号H2が付された円により表される。本例では、数式5により表される近似関数h(x)は、符号F2が付された実線により表される。aは、第1係数を表し、bは、第1極大位置パラメータを表し、cは、第1分散パラメータを表す。
【数5】
【0083】
本例では、第1極大位置パラメータbは、2.81である。また、数式6と、図5に表される質量比と、に基づいて算出される線吸収係数μも、2.81である。ρは、対象物の全体に対する密度を表す。
【数6】
【0084】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されない。例えば、上述した実施形態に、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において当業者が理解し得る様々な変更が加えられてよい。
【0085】
例えば、成分は、元素成分以外の成分であってもよい。例えば、成分は、食品成分(例えば、水分、タンパク質、脂質、炭水化物、又は、灰分等)であってもよい。
【0086】
また、分析装置20は、I個の成分群存在領域のそれぞれにおける対象物の密度を推定してもよい。この場合、分析装置20は、成分群情報と、I個の成分群存在領域のそれぞれに対する成分群存在割合と、に基づいて、I個の成分群存在領域のそれぞれにおける対象物の密度を推定してもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 分析システム
10 X線CT装置
20 分析装置
21 処理装置
22 記憶装置
23 入力装置
24 出力装置
201 成分情報受付部
202 画像情報受付部
203 質量吸収係数記憶部
204 偏在成分群情報受付部
205 密度情報受付部
206 線吸収係数推定部
207 線吸収係数出力部
BU1 バス

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12