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特開2022-113342短パルスファイバレーザおよび多光子顕微鏡
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113342
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】短パルスファイバレーザおよび多光子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/067 20060101AFI20220728BHJP
   H01S 3/00 20060101ALI20220728BHJP
   H01S 3/10 20060101ALI20220728BHJP
   G02B 6/02 20060101ALI20220728BHJP
   G02B 6/024 20060101ALI20220728BHJP
   G02F 1/35 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
H01S3/067
H01S3/00 A
H01S3/10 D
G02B6/02 376B
G02B6/024
G02F1/35
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009516
(22)【出願日】2021-01-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「超短赤外パルス光源を用いた顕微イメージング装置の開発と生命科学への応用」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】707001768
【氏名又は名称】ファイバーラボ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】100146950
【弁理士】
【氏名又は名称】南 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】後藤 龍一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤 貴夫
【テーマコード(参考)】
2H250
2K102
5F172
【Fターム(参考)】
2H250AB03
2H250AB10
2H250AC41
2H250AF11
2H250AG04
2H250AG13
2H250AH33
2K102AA12
2K102BD09
2K102EB20
5F172AE15
5F172AF02
5F172AF04
5F172AM08
5F172NN17
5F172NN22
5F172NN26
5F172NN28
5F172NR28
5F172ZZ04
(57)【要約】
【課題】1300nm帯の波長の短パルス光を形状劣化がなく、高出力で発生でき、小型かつ軽量で機械的安定性が高い短パルスファイバレーザおよびそれを光源とする多光子顕微鏡を提供する。
【解決手段】短パルスファイバレーザ1は、パルス光発生器10と、伸長器20と、光ファイバ増幅器30と、圧縮器40とを有する。パルス光発生器10は、1250nmと1350nmの間の波長のパルス光を出射する。伸長器20は、パルス光発生器10から射出されたパルス光を、時間領域で伸長する。光ファイバ増幅器30は、1250nmから1350nmまでの波長の光で発光する希土類がコアに添加された希土類添加フッ化物ファイバを増幅媒体とし、伸長器20によって伸長されたパルス光を増幅する。圧縮器40は、光ファイバ増幅器30によって増幅されたパルス光を時間領域で圧縮し、短パルス光に変換する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1250nmと1350nmの間の波長のパルス光を出射するパルス光発生器と、
前記パルス光発生器から射出されたパルス光を、時間領域で伸長する伸長器と、
1250nmから1350nmまでの波長の光で発光する希土類がコアに添加された希土類添加フッ化物ファイバを増幅媒体とし、前記伸長器によって伸長されたパルス光を増幅する光ファイバ増幅器と、
前記光ファイバ増幅器によって増幅されたパルス光を時間領域で圧縮し、短パルス光に変換する圧縮器と、
を備える短パルスファイバレーザ。
【請求項2】
前記伸長器および/または前記圧縮器が、パルス光に2次分散と3次以上の分散を付与する分散付与部材を有する請求項1に記載の短パルスファイバレーザ。
【請求項3】
前記伸長器と前記光ファイバ増幅器において、パルス光が通る経路に配置されている全ての部材が直線偏波を保持する請求項1または2に記載の短パルスファイバレーザ。
【請求項4】
前記光ファイバ増幅器が前記伸長器を兼ねており、前記希土類添加フッ化物ファイバが前記パルス光を時間領域で伸長するとともに増幅する請求項1に記載の短パルスファイバレーザ。
【請求項5】
前記光ファイバ増幅器において、パルス光が通る経路に配置されている全ての部材が直線偏波を保持する請求項4に記載の短パルスファイバレーザ。
【請求項6】
前記圧縮器が、パルス光に2次分散と3次以上の分散を付与する分散付与部材を有する請求項5に記載の短パルスファイバレーザ。
【請求項7】
前記希土類が、Prおよび/またはNdである請求項1ないし6のいずか1項に記載の短パルスファイバレーザ。
【請求項8】
多光子顕微鏡の光源として使用可能なレベルの出力を有する請求項1ないし7のいずれか1項に記載の短パルスファイバレーザ。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の短パルスファイバレーザを光源とする多光子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1250nmと1350nmの間の波長の短パルス光を発生する短パルスファイバレーザおよびそれを光源とする多光子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
フェムト秒レーザ(時間領域における半値全幅が1000フェムト秒(fs)未満であるパルス光を発生するレーザ)から出射されるパルス光は、同じ平均出力を持ち、時間領域でより長い半値全幅を持つパルスレーザから射出されるパルス光と比較して、より高いピークパワーを有する。このため、このパルス光は、それを集光した際、集光点におけるピークパワー密度が非常に高く、集光点で多光子吸収過程を効率的に発生させることが可能であるという特徴を有する。この特徴を利用し、フェムト秒レーザは、多光子顕微鏡用の光源として有効に使用されている。特に、1250nmから1350nmまでの波長の光は生体による吸収が少なく深部に到達可能である。このため、1300nm帯のフェムト秒レーザは、三光子吸収を用いて生体内部の構造を顕微的に観測するために適した光源とされている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
現在、三光子顕微鏡(三光子吸収を用いる多光子顕微鏡)で用いられる1250nmと1350nmの間(以下、1300nm帯という)の波長のフェムト秒レーザとしては、主に、導波路構造を有しないバルク型光学結晶内における非線形光学現象を利用した光パラメトリック増幅器が使用されている(例えば、非特許文献2および非特許文献3参照)。
【0004】
光パラメトリック増幅器は、可視から赤外までの広い波長範囲において高出力かつ高ピークパワーの短パルスを発生させることができるという利点を有する。光パラメトリック増幅器は、多光子顕微鏡の研究を実施する段階においては優れた装置である。その一方で、光パラメトリック増幅器は大型であり、また、振動や温度変化の少ない環境で動作させる必要があるという欠点を有する。
【0005】
一方、ファイバレーザが近年急速に普及しつつある。ファイバレーザは、上記光パラメトリック増幅器のようなバルク型の増幅媒体を使用する光源と比較し、小型軽量、振動や温度変化といった環境変化に対して安定といった利点を有する。今後、1300nm帯の波長の光を利用した多光子顕微鏡が普及するためには、1300nm帯の高出力フェムト秒ファイバレーザが望まれる。
非特許文献4によれば、多光子顕微鏡の光源として求められる1300nm帯の高出力フェムト秒ファイバレーザの出力は、数100nJのパルスエネルギー(平均出力/繰り返し周波数)を必要とする。
【0006】
しかしながら現在、1300nm帯においてフェムト秒パルスを発生するファイバレーザのパルスエネルギー(平均出力/繰り返し周波数)は10nJ程度に留まっている。例えば、非特許文献5には、このファイバレーザは平均出力4mW、繰り返し周波数700kHzと記載されている。従って非特許文献5に記載されているファイバレーザのパルスエネルギーはおよそ5.7nJである。また、非特許文献6には、このファイバレーザは平均出力6.8mW、繰り返し周波数41.3MHzと記載されている。従って、非特許文献6に記載されているファイバレーザのパルスエネルギーはおよそ0.16nJである。また、非特許文献7には、平均出力3.4mW、繰り返し周波数42.4MHzと記載されている。従って、非特許文献6に記載されているファイバレーザのパルスエネルギーはおよそ0.08nJである。
【0007】
1300nm帯のフェムト秒ファイバレーザのパルスエネルギーが低い主要な原因は、1300nm帯の波長の光の増幅に適した高出力の光ファイバ増幅器の入手が困難なためである。また、光ファイバ増幅器の入手が困難であることに伴い、その他の技術課題も明確でない。
【0008】
高出力のパルス増幅に使用される光ファイバ増幅器は、一般的にコアに希土類元素を添加した光ファイバ(以下、希土類添加ファイバという。)を増幅媒体とする。そのような光ファイバ増幅器は、希土類元素を添加した光ファイバのコアに信号光と励起光が入射される。励起光によって、希土類元素の電子はある励起準位に励起される。そして、光ファイバ増幅器は、励起された電子が励起準位とは別の下位準位へ遷移する際に起こる発光を利用することで信号光を増幅する。
【0009】
また、光ファイバのコアだけでなくクラッドにも励起光を入射することで信号光の増幅度を高める手法も一般的である。これは、いわゆるクラッド励起と呼ばれる。光ファイバ増幅器はクラッド励起を用いて光増幅することもできる。
【0010】
希土類元素の発光波長はその希土類元素に固有のものである。希土類元素の発光波長と信号光波長が一致するように適切な希土類元素を選択することで、信号光の増幅を実現することができる。1250nmから1350nmまでの波長で発光する希土類元素としてはプラセオジミウム(Praseodymium、Pr)やネオジミウム(Neodymium、Nd)が知られている。
【0011】
また、希土類が添加されるホストガラスとしては、石英ガラスが一般的である。石英ガラスは、きわめて化学的に安定な材質である。希土類添加石英ファイバを使用したチャープパルス増幅(Chirped Pulse Amplification、CPA)の例として、イッテルビウム(Ytterbium、Yb)が添加されたコアにより1000nmと1100nmの間の光を増幅する例、エルビウム(Erbium、Er)が添加されたコアにより1500nm帯の光を増幅する例、ツリウム(Thulium、Tm)が添加されたコアにより1950nmと2050nmの間の光を増幅する例が一般的に知られている。希土類添加石英ファイバは、機械的・化学的に非常に安定である。例えば、非特許文献8には、希土類添加石英ファイバを使用したチャープパルス増幅によって100W以上の高い平均出力が得られたことが記載されている。
【0012】
しかしながら、石英ガラスにPrやNdを添加しても1300nm帯の波長の光における発光効率は著しく低いことが知られている。これは、石英ガラスのフォノンエネルギーが1000cm-1と大きいため、1300nm帯の発光に対応する励起準位に励起された希土類元素の電子の下位準位への遷移では、発光による遷移ではなく、ホストガラスの熱振動による遷移(多フォノン緩和による、発光を伴わない非輻射遷移)が支配的となってしまうためである。
【0013】
このため、1250nmから1350nmまでの波長において高効率な発光を実現する希土類添加ファイバを得るためには、フォノンエネルギーの小さなホストガラスにPrやNdを添加し、光ファイバとする必要がある。フォノンエネルギーが小さく、かつ、光ファイバに使用されるホストガラスとしては、フッ化物ガラスが好適に使用されている。代表的なフッ化物ガラスであるZBLAN系ガラス(ZrF-BaF-LaF-AlF-NaF)のフォノンエネルギーは500cm-1程度と石英ガラスの半分程度である。フッ化物ガラスをホストとすると、上述したフォノン緩和が低減されるため、石英ガラスをホストとした場合と比較して、1300nm帯において大幅に高い発光効率を得ることができる。
【0014】
フッ化物ガラスは主成分としてフッ化物を使用したガラスの総称であり、その組成は様々である。フッ化物ファイバに使用されるフッ化物ガラスとしては、例えば、上述したZBLAN系ガラスや、InF系ガラス(InF-ZnF-SrF-BaF)、AlF3系ガラス(AlF-BaF-SrF-CaF-MgF-YF)といった組成のものがよく知られている。
【0015】
フッ化物ファイバに希土類が添加された光ファイバ(以下、希土類添加フッ化物ファイバという。)を増幅媒体として用い、1300nm帯の光を増幅する光ファイバ増幅器として、非特許文献9には、Pr添加フッ化物ファイバを増幅媒体として用い、連続波を入力した時に、およそ250mWの出力を有する光ファイバ増幅器が記載されている。また、本発明の発明者は、Pr添加フッ化物ファイバを増幅媒体として用い、連続波を入力した時に、400mWを超える出力を有する光ファイバ増幅器を作成した(例えば、非特許文献10参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Tianyu Wang and Chris Xu, "Three-photon neuronal imaging in deep mouse brain", Optica, Optical Society of America, August 2020, Vol.7, No.8, p.947-960
【非特許文献2】Chao J. Liu, Arani Roy, Anthony A. Simons, Deano M. Farinella & Prakash Kara, "Three-photon imaging of synthetic dyes in deep layers of the neocortex", [online] Scientific Reports, [retrieved on 2021-01-12]. Retrieved from the Internet:<URL:https://www.nature.com/articles/s41598-020-73438-w>
【非特許文献3】Dimitre G Ouzounov, Tianyu Wang, Mengran Wang, Danielle D Feng, Nicholas G Horton, Jean C Cruz-Hernandez, Yu-Ting Cheng, Jacob Reimer, Andreas S Tolias, Nozomi Nishimura & Chris Xu1, "In vivo three-photon imaging of activity of GCaMP6-labeled neurons deep in intact mouse brain", [online] nature methods, [retrieved on 2021-01-12]. Retrieved from the Internet:<URL:https://www.nature.com/articles/nmeth.4183>
【非特許文献4】C. Xu and F. W. Wise, “Recent advances in fibre lasers for nonlinear microscopy,” Nature Photonics, Nov. 2013, Vol.7, No.11, p.875-882
【非特許文献5】M. J. Guy, D. U. Noske, A. Boskovic, and J. R. Taylor, "Femtosecond soliton generation in a praseodymium fluoride fiber laser", Optics Letters, Optical Society of America, June 1994, Vol.19, No.11, p.828-830
【非特許文献6】Jun Takayanagi, Toshiharu Sugiura, Makoto Yoshida, and Norihiko Nishizawa, "1.0-1.7-μm Wavelength-Tunable Ultrashort-Pulse Generation Using Femtosecond Yb-Doped Fiber Laser and Photonic Crystal Fiber", IEEE Photonics Technology Letters, November 2006, Vol.18, No.21, p.2284-2286
【非特許文献7】Hao Luo, Li Zhan, Zhiqiang Wang, Liang Zhang, Cheng Feng, and Xuehao Shen, "All-Fiber Generation of Sub-30 fs Pulses at 1.3-μm via Cherenkov Radiation With Entire Dispersion Management", Journal of Lightwave Technology, June 2017, Vol.35, No.11, p.2325-2330
【非特許文献8】Z. Zhao and Y. Kobayashi, “Ytterbium fiber-based, 270 fs, 100 W chirped pulse amplification laser system with 1 MHz repetition rate,” Appl. Phys. Express, Dec. 2015, Vol.9, No.1, p.012701
【非特許文献9】Tim Whitley, Richard Wyatt, Daryl Szebesta, Steve Davey, and Jhon R. Williams, " Quarter-watt output at 1.3 μm from a praseodymium-doped fluoride fiber amplifier pumped with a diode-pumped Nd:YLF laser", IEEE Photonics Technology Letters, April 1993, Vol.4, No.4, p.399-401
【非特許文献10】Applicability of high-power PDFA for 400GBASE-LR8 and CWDM4 wavelength range、[online]、ファイバーラボ株式会社ホームページ、[令和3年1月12日検索]、インターネット<URL:https://www.fiberlabs.com/blog/high-power-pdfa-for-lr8-and-cwdm4/>
【非特許文献11】Yigit Ozan Aydin, Frederic Maes, Vincent Fortin, Souleymane T. Bah, Real Vallee, and Martin Bernier, "Endcapping of high-power 3 μm fiber lasers", Optics Express, July 2019, Vol.27, No.15, p.20659-20669
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、PrやNdが添加された希土類添加フッ化物ファイバによる1300nm帯の光の増幅は、上述したEr、Yb、Tmといった希土類が添加されたフッ化物ファイバによる光の増幅よりも効率が悪い。従って、1300nm帯の波長で高いエネルギーの光パルスを得るためには、小さなコアに信号光と励起光を強く閉じ込めることで、増幅効率を高める必要がある。
小さなコアに信号光と励起光を閉じ込めた場合、コアが大きな場合と比較して、非線形光学効果が顕著となる。また、非線形光学効果はピークパワーが大きいほど顕著となる。従って、同じ平均パワーの連続波とパルス光を入射した場合を比較すると、連続波を増幅する場合より、パルス光を増幅する場合のほうが、非線形光学効果が顕著となる。連続波の場合、平均パワーとピークパワーは同一の値である。
このため、PrやNdが添加された希土類添加フッ化物ファイバによって1300nm帯のパルス光の増幅を行う場合、Er、Yb、Tmといった希土類が添加されたフッ化物ファイバによってパルス光の増幅を行う場合よりも、希土類添加フッ化物ファイバでの非線形光学効果がより顕著となる。その結果、増幅されたパルス光の形状劣化とピークパワーの低下がより顕著になる。
【0018】
本発明の目的は、1300nm帯の波長の短パルス光を形状劣化がなく、高出力で発生でき、小型かつ軽量で機械的安定性が高い短パルスファイバレーザおよびそれを光源とする多光子顕微鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、本発明の短パルスファイバレーザは、
1250nmと1350nmの間の波長のパルス光を出射するパルス光発生器と、
前記パルス光発生器から射出されたパルス光を、時間領域で伸長する伸長器と、
1250nmから1350nmまでの波長の光で発光する希土類がコアに添加された希土類添加フッ化物ファイバを増幅媒体とし、前記伸長器によって伸長されたパルス光を増幅する光ファイバ増幅器と、
前記光ファイバ増幅器によって増幅されたパルス光を時間領域で圧縮し、短パルス光に変換する圧縮器と、
を備える。
【0020】
好ましくは、本発明の短パルスファイバレーザは、
前記伸長器および/または前記圧縮器が、パルス光に2次分散と3次以上の分散を付与する分散付与部材を有する。
【0021】
好ましくは、本発明の短パルスファイバレーザは、
前記伸長器と前記光ファイバ増幅器において、パルス光が通る経路に配置されている全ての部材が直線偏波を保持する。
【0022】
好ましくは、本発明の短パルスファイバレーザは、
前記光ファイバ増幅器が前記伸長器を兼ねており、前記希土類添加フッ化物ファイバが前記パルス光を時間領域で伸長するとともに増幅する。
【0023】
好ましくは、本発明の短パルスファイバレーザは、
前記光ファイバ増幅器において、パルス光が通る経路に配置されている全ての部材が直線偏波を保持する。
【0024】
好ましくは、本発明の短パルスファイバレーザは、
前記圧縮器が、パルス光に2次分散と3次以上の分散を付与する分散付与部材を有する。
【0025】
好ましくは、本発明の短パルスファイバレーザは、
前記希土類が、Prおよび/またはNdである。
【0026】
好ましくは、本発明の短パルスファイバレーザは、
多光子顕微鏡の光源として使用可能なレベルの出力を有する。
【0027】
また、本発明の多光子顕微鏡は、
上述した短パルスファイバレーザを光源とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、1300nm帯の波長の短パルス光を形状劣化がなく、高出力で発生でき、小型かつ軽量で機械的安定性が高い短パルスファイバレーザおよびそれを光源とする多光子顕微鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の第1の実施形態に係る短パルスファイバレーザの一例を示す図である。
図2】本発明の第1の実施形態における第1の変形例である短パルスファイバレーザを示す図である。
図3】本発明の第1の実施形態における第2の変形例である短パルスファイバレーザを示す図である。
図4】本発明の第2の実施形態に係る短パルスファイバレーザの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施形態に係る1300nm帯のファイバレーザとは、増幅媒体に光ファイバを用いた1300nm帯の光増幅器によって、レーザ発振器の出力を増幅するものを含むものとする。従って、いわゆるMOPA(Master Oscillator Power Amplifier)構造を採用し、1300nm帯の光増幅器の増幅媒体として光ファイバを用いたものは、1300nm帯のファイバレーザに含まれるものとする。
以下、本発明の実施形態に係る短パルスファイバレーザについて図面を参照しながら詳細に説明する。なお、実施形態を説明する全図において共通の構成要素には同一の符号を付し、以下では繰り返しの説明を省略する。
【0031】
図1は、本発明の実施形態に係る短パルスファイバレーザ1の一例を示す。
短パルスファイバレーザ1は、パルス光発生器10と、伸長器20と、光ファイバ増幅器30と、圧縮器40とを有する。短パルスファイバレーザ1は、希土類添加フッ化物ファイバを使用してパルス光をチャープパルス増幅する。
パルス光発生器10は、1250nmと1350nmの間(1300nm帯)の波長のパルス光を出射する。伸長器20は、パルス光発生器10から射出されたパルス光を、時間領域で伸長する。光ファイバ増幅器30は、1250nmから1350nmまでの波長の光で発光する希土類がコアに添加された希土類添加フッ化物ファイバを増幅媒体とし、伸長器20によって伸長されたパルス光を増幅する。圧縮器40は、光ファイバ増幅器30によって増幅されたパルス光を時間領域で圧縮し、時間領域における半値全幅が1000fs未満である短パルス光に変換する。
【0032】
次に、各部の詳細な構成について説明する。
パルス光発生器10は、パルス光源101と、レンズ111と、レンズ112と、フォトニック結晶ファイバ121と、光バンドパスフィルタ131とを有する。
パルス光源101は、例えば、中心波長1030nm、平均出力193mW、繰り返し周波数78MHz、時間領域でのパルスの半値全幅が86fs、直線偏光であるパルス光を出射する。レンズ111は、パルス光源101からの出射光を集光する。
【0033】
レンズ111によって集光されたパルス光は、例えば、長さ15mのフォトニック結晶ファイバ121に入射され、1030nmの入射パルス光が、非線形光学効果であるソリトン自己周波数シフトによって1300nmに波長変換される。フォトニック結晶ファイバ121は、例えば、FORC-Photonics製、HN-PCF-1040である。
フォトニック結晶ファイバ121は、直線偏波を保持し、入射偏光方向とフォトニック結晶ファイバの複屈折軸方向とを揃えることで、フォトニック結晶ファイバからの出射偏光を直線偏光とすることが可能である。
【0034】
そして、フォトニック結晶ファイバ121からの出射光は、レンズ112によって平行光とされる。平行光は、光バンドパスフィルタ131に入射される。光バンドパスフィルタ131は、波長1300nm帯に波長変換された光のみを透過させる。これにより、例えば、中心波長1300nm、平均出力13mW、パルスの半値全幅300fs、直線偏光であるパルス光が得られる。バンドパスフィルタ131から出射されるパルス光は、例えば、繰り返し周波数が78MHzであるから、そのパルスエネルギーはおよそ0.17nJである。
【0035】
伸長器20は、レンズ113と、石英ファイバ122と、石英ファイバ123と、石英ファイバ124と、アイソレータ151と、波長合分波カプラ171とを有する。
光バンドパスフィルタ131を透過した1300nm帯のパルス光は、レンズ113によって集光され、石英ファイバ122に入射される。石英ファイバ122に入射されたパルス光は、石英ファイバ122と、アイソレータ151と、石英ファイバ123と、波長合分波カプラ171と、石英ファイバ124とを通じて光ファイバ増幅器30のPr添加フッ化物ファイバ125に入射され、増幅される。
【0036】
アイソレータ151は、1300nm帯の光を一方向(石英ファイバ122から石英ファイバ123に向かう方向)にのみ伝搬させる特性を有し、反対方向に伝搬する光を遮断することで、光増幅器の動作を安定させる。
石英ファイバ122と石英ファイバ123と石英ファイバ124とは、例えば、Corning社のHI1060ファイバを使用することができる。HI1060ファイバは1300nm帯で正常分散を有するため、石英ファイバ122に入射した1300nm帯のパルス光は、石英ファイバ122と石英ファイバ123と石英ファイバ124との正常分散によって時間的に伸長されて、光ファイバ増幅器30のPr添加フッ化物ファイバ125に入射される。
【0037】
光ファイバ増幅器30は、Pr添加フッ化物ファイバ125と、石英ファイバ126と、石英ファイバ127と、石英ファイバ128と、連続波光源141と、アイソレータ152と、3dBカプラ161と、波長合分波カプラ172とを有する。
Pr添加フッ化物ファイバ125の長さは、例えば、10mである。Pr添加フッ化物ファイバ125は、例えばファイバーラボ製ZSF-2.4/125-1.5Pである。このPrファイバーラボ製の添加フッ化物ファイバ125は、直径2.4μm、コアNA(Numerical Aperture:開口数)0.24のステップ型屈折率分布を有する。また、Pr添加フッ化物ファイバ125へのPrの添加濃度はモル濃度で0.15%である。
【0038】
ここで、コアNAは、コアの屈折率をncore、クラッドの屈折率をncladとして、次の(1)式で定義される。
(ncore-nclad1/2 (1)
【0039】
また、添加濃度は、次の(2)式で定義される。
フッ化物希土類のモル数/(ホストガラスを構成するフッ化物のモル数+フッ化物希土類のモル数) (2)
例えば、Pr添加ZBLAN系ガラスファイバであれば、次の(3)式で定義される。
(PrFのモル数)/(ZrFのモル数+BaFのモル数+LaFのモル数+AlFのモル数+NaFのモル数+PrFのモル数) (3)
【0040】
Pr添加フッ化物ファイバ125に入射されたパルス光は、Pr添加フッ化物ファイバ125内でPrによる1300nm帯の発光により増幅される。Pr添加フッ化物ファイバ125での1300nm帯のパルス光の増幅に必要な励起光は、連続波光源141から供給される。連続波光源141は、例えば、波長1040nmで最大2Wの出力を有し、3dBカプラ161によって出力が最大1Wずつに等分割される。その後、分割された光は、波長合分波カプラ171から石英ファイバ124を通過する経路と、波長合分波カプラ172から石英ファイバ126を通過する経路の2つの経路によって、Pr添加フッ化物ファイバ125に励起光を供給する。
【0041】
Pr添加フッ化物ファイバ125で増幅されたパルス光は、石英ファイバ126と、波長合分波カプラ172と、石英ファイバ127と、アイソレータ152と、石英ファイバ128とを通過し、圧縮器40に入射される。
アイソレータ152は、アイソレータ151と同様に、1300nm帯の光を一方向(石英ファイバ127から石英ファイバ128に向かう方向)にのみ伝搬させる特性を有し、反対方向に伝搬する光を遮断することで、光増幅器の動作を安定させる。
石英ファイバ126と石英ファイバ127と石英ファイバ128とは、石英ファイバ122、123、124と同様に、例えばCorning社のHI1060ファイバを使用することができる。
【0042】
圧縮器40は、レンズ114と、1/4波長板181と、1/2波長板182と、パルス圧縮器191とを有する。
伸長され、増幅されたパルス光はレンズ114によって平行光とされる。その平行光は、1/4波長板181と1/2波長板182によって偏光状態を直線偏波に変換される。直線偏波に変換されたパルス光は、透過型回折格子対からなるパルス圧縮器191によって時間領域で圧縮され、時間領域における半値全幅が1000fs未満である短パルス光に変換される。これは、パルス圧縮器191の多くが直線偏光の入射時に透過率が最大になるため、パルス圧縮器191の出射パワーを最大にすることができるからである。偏波コントローラ(1/4波長板181と1/2波長板182)は、例えば、複屈折率媒質である水晶板を使用することができる。
変換された短パルス光は空間に出射される。出射される短パルス光の偏光状態は直線偏波である。
なお、パルス圧縮器191としては、チャープパルス増幅で一般的に使用されるパルス圧縮器を使用することができる。上述した実施形態では、透過型回折格子からなるパルス圧縮器を用いているが、例えば、プリズム対を使用したもの、反射型回折格子を使用したもの、体積型ホログラフィック回折格子を使用したものがよく知られており、これらをパルス圧縮器191として使用することもできる。
【0043】
図2は、本発明の第1の実施形態における第1の変形例である短パルスファイバレーザ2を示す。
第1の変形例の短パルスファイバレーザ2は、パルス光発生器10と、伸長器20Aと、光ファイバ増幅器30と、圧縮器40とを有する。
短パルスファイバレーザ2は、伸長器20Aの構成が短パルスファイバレーザ1における伸長器20と異なる。伸長器20Aでは、アイソレータ151の代わりに、サーキュレータ201と非線形チャープファイバグレーティング211とが配置されている。
その他の点では、短パルスファイバレーザ1と短パルスファイバレーザ2は同一である。
【0044】
次に、伸長器20Aの詳細な構成について説明する。
石英ファイバ122に入射されたパルス光は、サーキュレータ201を通じて非線形チャープファイバグレーティング211に入射される。そして、パルス光は、非線形チャープファイバグレーティング211によって、2次の波長分散と3次の波長分散を付与されて伸長された後に反射され、サーキュレータ201を通じて、石英ファイバ123に入射される。
非線形チャープファイバグレーティング211は、石英ファイバ、Pr添加フッ化物フイバ、パルス圧縮器と比較して、2次分散と3次分散を遥かに高い自由度で設計、製造することができる。非線形チャープファイバグレーティング211は、パルス圧縮器191から出射されたパルス光の2次分散と3次分散が両方とも最小となるように設計、製造されている。
【0045】
短パルスファイバレーザ2では、伸長器20Aによって2次の波長分散だけでなく、3次の波長分散も制御されている。このため、短パルスファイバレーザ2の出力は、短パルスファイバレーザ1の出力と同じパルスエネルギーで、より短いパルスの半値全幅を有している。すなわち、短パルスファイバレーザ2の出力は、短パルスファイバレーザ1の出力と同じパルスエネルギーで、短パルスファイバレーザ1よりも高いピークパワーを有している。
なお、短パルスファイバレーザ2においては、伸長器20Aにおいて2次分散と3次分散を両方とも制御する構成としたが、圧縮器で2次分散と3次分散を両方とも制御する構成であってもよい。また、伸長器と圧縮器の両方で2次分散と3次分散を両方とも制御する構成であってもよい。更に、伸長器および/または圧縮器で2次分散と3次分散の制御に加えて、4次以上の分散を制御する構成であってもよい。
なお、サーキュレータ201と非線形チャープファイバグレーティング211は、本発明の分散付与部材の例である。
【0046】
図3は、本発明の第1の実施形態における第2の変形例である短パルスファイバレーザ3の一例を示す。
第2の変形例の短パルスファイバレーザ3は、パルス光発生器10と、伸長器20Aと、光ファイバ増幅器30と、圧縮器40Aとを有する。
第2の変形例の短パルスファイバレーザ3は、レンズ113と、石英ファイバ122と、サーキュレータ201と、非線形チャープファイバグレーティング211と、石英ファイバ123と、波長合分波カプラ171と、石英ファイバ124と、Pr添加フッ化物ファイバ125と、石英ファイバ126と、波長合分波カプラ172と、石英ファイバ127と、アイソレータ152と、石英ファイバ128とが、すべて直線偏波保持機能を有している点が第1の変形例である短パルスファイバレーザ2と異なる。
また、圧縮器40Aにおいて、1/4波長板181と1/2波長板182とが不要である点が第1の変形例である短パルスファイバレーザ2の圧縮器40と異なる。
その他の点では、第1の変形例の短パルスファイバレーザ2と第2の変形例の短パルスファイバレーザ3は同一である。
【0047】
短パルスファイバレーザ3では、伸長器20Aと光ファイバ増幅器30において、パルス光が通る経路に配置されている全ての部材がパルス光の直線偏波を保持する。すなわち、レンズ113と、石英ファイバ122と、サーキュレータ201と、非線形チャープファイバグレーティング211と、石英ファイバ123と、波長合分波カプラ171と、石英ファイバ124と、Pr添加フッ化物ファイバ125と、石英ファイバ126と、波長合分波カプラ172と、石英ファイバ127と、アイソレータ152と、石英ファイバ128とが全てパルス光の直線偏波を保持する。このため、短パルスファイバレーザ3では、石英ファイバ128から出射された1300nm帯の短パルス光は直線偏波を有している。この構成により、圧縮器40Aでは、レンズ114によって平行光とされた短パルス光を、偏波コントローラ(1/4波長板181と1/2波長板182)を介することなく、パルス圧縮器191に直接入射させることができる。
なお、上記では第1の実施形態にかかる短パルスファイバレーザ1に含まれるPr添加フッ化物ファイバ125の例としてファイバーラボ製ZSF-2.4/125-1.5Pを示したが、これは直線偏波を保持する機能を有していない。第2の変形例の短パルスファイバレーザ3に含まれるPr添加フッ化物ファイバ125は、上述した通り直線偏波保持機能を有するものが用いられる。
【0048】
図4は、本発明の第2の実施形態に係る短パルスファイバレーザ4の一例を示す。
短パルスファイバレーザ4は、パルス光発生器10と、光ファイバ増幅器30Aと、圧縮器40Bとを有する。短パルスファイバレーザ4は、光ファイバ増幅器30Aが伸長器を兼ねており、希土類添加フッ化物ファイバがパルス光を時間領域で伸長するとともに増幅する。
パルス光発生器10は、第1の実施形態に係る短パルスファイバレーザ1のものと同一である。光ファイバ増幅器30Aは、パルス光発生器10から射出されたパルス光を時間領域で伸長するとともに増幅する。圧縮器40Bは、光ファイバ増幅器30Aによって伸長されて増幅されたパルス光を時間領域で圧縮し、時間領域における半値全幅が1000fs未満である短パルス光に変換する。
【0049】
次に、光ファイバ増幅器30Aと圧縮器40Bの詳細な構成について説明する。
光ファイバ増幅器30Aは、レンズ115と、レンズ116と、レンズ117と、レンズ118と、連続波レーザ光源141と、Pr添加フッ化物ファイバ125と、アイソレータ151と、アイソレータ152と、3dBカプラ161と、ダイクロイックプリズム301と、ダイクロイックプリズム302とを有する。
アイソレータ151は、光バンドパスフィルタ131を透過した1300nm帯のパルス光を一方向(光バンドパスフィルタ131からダイクロイックプリズム301に向かう方向)にのみ伝搬させる特性を有し、反対方向に伝搬する光を遮断する。
【0050】
アイソレータ151を通ったパルス光は、連続波レーザ光源141からの励起光と、ダイクロイックプリズム301によって空間的に合成され、レンズ115によって集光される。集光された光は、Pr添加フッ化物ファイバ125の一方の端面に入射される。
Pr添加フッ化物ファイバ125の長さは、例えば、10mである。Pr添加フッ化物ファイバ125の両端面には、高出力の光(増幅されたパルス光および励起光)による端面損傷を防ぐためにエンドキャップ加工311とエンドキャップ加工312とが施されている。
Pr添加フッ化物ファイバ125に入射した1300nm帯のパルス光は、Pr添加フッ化物ファイバ125の正常分散によって時間的に伸長されるとともにPrによる1300nm帯の発光により増幅される。
【0051】
Pr添加フッ化物ファイバ125での1300nm帯のパルス光の増幅に必要な励起光は、連続レーザ波光源141から供給される。連続波光源141は、例えば、波長1040nmで最大2Wの出力を有する。3dBカプラ161によって連続波光源141の出力は最大1Wずつに等分割される。
分割された励起光の一方は、レンズ117によって平行光とされ、ダイクロイックプリズム301に入射される。上述したように、この一方の励起光とアイソレータ151を通ったパルス光とはダイクロイックプリズム301によって空間的に合成される。
分割された励起光の他方は、レンズ118によって平行光とされ、ダイクロイックプリズム302に入射される。この他方の励起光はダイクロイックプリズム302を通り、レンズ116によって集光されてPr添加フッ化物ファイバ125の他方の端面に入射される。
【0052】
Pr添加フッ化物ファイバ125で伸長されて増幅されたパルス光は、レンズ116によって平行光とされ、ダイクロイックプリズム302を通って、アイソレータ152に入射される。
アイソレータ152は、1300nm帯のパルス光を一方向(ダイクロイックプリズム302からパルス圧縮器191に向かう方向)にのみ伝搬させる特性を有し、反対方向に伝搬する光を遮断する。
アイソレータ152を通ったパルス光は、圧縮器40Bに入射される。
【0053】
圧縮器40Bは、パルス圧縮器191を有する。
圧縮器40Bに入射されたパルス光は、透過型回折格子対からなるパルス圧縮器191によって時間領域で圧縮され、時間領域における半値全幅が1000fs未満である短パルス光に変換される。
【0054】
なお、第2の実施形態に係る短パルスファイバレーザ4では、光ファイバ増幅器30Aにおいて、パルス光が通る経路に配置されている全ての部材がパルス光の直線偏波を保持する。すなわち、アイソレータ151と、ダイクロイックプリズム301と、レンズ115と、エンドキャップ加工311とエンドキャップ加工312を含むPr添加フッ化物ファイバ125と、レンズ116と、ダイクロイックプリズム302と、アイソレータ152とが全てパルス光の直線偏波を保持する。従って、光ファイバ増幅器30Aから出射される短パルス光の偏光状態は直線偏波である。このため、圧縮器40Bでは、入射された短パルス光を、偏波コントローラ(1/4波長板と1/2波長板)を介することなく、パルス圧縮器191に直接入射させることができる。
また、第2の実施形態に係る短パルスファイバレーザ4は、第1の実施形態における第1の変形例の短パルスファイバレーザ2と同様に、パルス光の2次分散と3次以上の分散を付与する分散付与部材を圧縮器が有していてもよい。
【0055】
また、本発明の短パルスファイバレーザに用いるパルス光発生器10として、平均パワー、ピークパワーの小さな1300nm帯の短パルスレーザを用いることができる。例えば、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7に示されるようなファイバレーザを用いることができるが、必ずしもこれらに限定されず、1300nm帯の短パルスレーザであればどのようなものでも使用できる。
【0056】
また、本発明の短パルスファイバレーザに用いる伸長器20、20Aとしては、チャープパルス増幅で一般的に使用されるパルス伸長器を使用することができる。例えば、光ファイバを使用したり、チャープ型ファイバブラッググレーティングを使用したりできる。また、プリズム対や回折格子、体積型ホログラフィック回折格子といった光学部品を使用することもできる。
【0057】
また、本発明の短パルスファイバレーザにおいては、増幅媒体である希土類添加フッ化物ファイバの2つの端面のうち少なくとも一方の端面、好ましくは両端面に、高出力の光(増幅されたパルス光および励起光)による端面損傷を防ぐためのエンドキャップ加工が施されていることが好ましい。どちらか一方の端面にのみエンドキャップ加工を施す際は、増幅後の出射端面側にエンドキャップ加工が施されていることが好ましい。例えば非特許文献11に、フッ化物ファイバへのエンドキャップ加工の例が記載されている。
また、上述した実施形態では本発明の短パルスファイバレーザの励起光源として用いる連続波光源141の波長を1040nmとしたが、950nmから1100nmの間の波長のものであれば連続波光源141として使用することができる。
【0058】
また、本発明の短パルスファイバレーザを多光子顕微鏡の光源として用いる場合、本発明の短パルスファイバレーザから出射されたパルス光は、多光子顕微鏡に使用されるレンズやミラーといった光学部品が有する波長分散によってパルス形状が変化する。したがって、多光子顕微鏡に使用されるレンズやミラーといった光学部品を通過したのちにパルス光の2次分散と3次以上の波長分散がいずれも最小となるように、圧縮器から出射されるパルス光の2次分散と3次以上の波長分散が制御されていることが好ましい。つまり、圧縮器から出射されるパルス光の波長分散は、多光子顕微鏡に使用される光学部品の波長分散とは逆の符号、同じ絶対値をもつように制御されていることが好ましい。
このように、圧縮器から出射されるパルス光の波長分散を、多光子顕微鏡に使用される光学部品の波長分散を考慮して制御することを、プリチャープを付与すると呼ぶ。そして、必要な波長分散の制御量(プリチャープ量と呼ぶ)は、多光子顕微鏡に使用される光学部品の構成によって異なる。このため、付与するプリチャープ量の最適値は常に一定ではない。従って、本発明の短パルスファイバレーザは、圧縮器から出射されるパルス光に付与されるプリチャープの量を可変とできるよう、波長分散値を動的に変化させることができる可変分散補償器を有する構成が好ましい。
【0059】
また、本発明の短パルスファイバレーザにおいては、2次分散と3次分散を独立に制御できることが好ましい。具体的には、2次分散と3次分散の変動比が異なる2個以上の可変分散補償器を有する構成とすることで実現することができる。
【0060】
以上説明したように、本発明の短パルスファイバレーザによれば、希土類添加フッ化物ファイバを使用してパルス光をチャープパルス増幅することによって、増幅媒体である希土類添加フッ化物ファイバのコア直径が小さい場合であっても、非線形光学効果の低減と高効率な増幅とを両立することができる。
【0061】
また、非特許文献4によれば、多光子顕微鏡の光源として求められる1300nm帯の高出力フェムト秒ファイバレーザの出力は、数100nJのパルスエネルギー(平均出力/繰り返し周波数)を必要とする。本発明の短パルスファイバレーザは、時間領域における半値全幅が1000fs未満である短パルスを射出する。多光子顕微鏡の光源として用いられる場合、本発明の短パルスファイバレーザの出力は、例えば100nJ以上のパルスエネルギー(平均出力/繰り返し周波数)を有する。望ましくは、本発明の短パルスファイバレーザの出力は、例えば200nJ以上のパルスエネルギー(平均出力/繰り返し周波数)を有する。もっと望ましくは、本発明の短パルスファイバレーザの出力は、例えば300nJ以上のパルスエネルギー(平均出力/繰り返し周波数)を有する。更に望ましくは、本発明の短パルスファイバレーザの出力は、例えば500nJ以上のパルスエネルギー(平均出力/繰り返し周波数)を有する。更にもっと望ましくは、本発明の短パルスファイバレーザの出力は、例えば700nJ以上のパルスエネルギー(平均出力/繰り返し周波数)を有する。更にそれ以上に望ましくは、本発明の短パルスファイバレーザの出力は、例えば1μJ(1000nJ)以上のパルスエネルギー(平均出力/繰り返し周波数)を有する。
そして、本発明に係る短パルスファイバレーザが多光子顕微鏡の光源に必要なレベル(大きさ)の出力を達成できた場合、それを光源として使用することにより、1300nm帯の高出力フェムト秒レーザを光源として用いる多光子顕微鏡を小型化することができる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明したが、設計または製造上の都合やその他の要因によって必要となる様々な修正や組み合わせは、請求項に記載されている発明や発明の実施形態に記載されている具体例に対応する発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
1,2,3,4…短パルスファイバレーザ、10…パルス光発生器、20,20A…伸長器、30,30A…光ファイバ増幅器、40,40A、40B…圧縮器、101…パルス光源、111,112,113,114,115,116,117,118…レンズ、121…フォトニック結晶ファイバ、122,123,124…石英ファイバ、125…Pr添加フッ化物ファイバ、126,127,128…石英ファイバ、131…光バンドパスフィルタ、141…連続波レーザ光源、151,152…アイソレータ、161…3dBカプラ、171,172…波長合分波カプラ、181…1/4波長板、182…1/2波長板、191…パルス圧縮器、201…サーキュレータ、211…非線形チャープファイバグレーティング、301,302…ダイクロイックプリズム、311,312…エンドキャップ加工
図1
図2
図3
図4