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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113404
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】自動変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/18 20060101AFI20220728BHJP
【FI】
F16H61/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009632
(22)【出願日】2021-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】井上 亮
(72)【発明者】
【氏名】清水 将人
(72)【発明者】
【氏名】市川 雅英
(72)【発明者】
【氏名】今永 雄二
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩司
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA02
3J552MA12
3J552NA01
3J552NB01
3J552NB08
3J552PB06
3J552QA06B
3J552QA06C
3J552QB03
3J552RA06
3J552SA07
3J552SB10
3J552TB07
3J552VA53W
3J552VA58W
3J552VA78W
(57)【要約】
【課題】適切に変速を行うことができる自動変速機の制御装置を提供することを課題とする。
【解決手段】第1係合装置に第1油圧を供給可能な第1供給手段と、第2係合装置に第2油圧を供給可能な第2供給手段と、第3係合装置に第3油圧を供給可能な第3供給手段と、コントロールバルブに第4油圧を供給可能な第4供給手段と、前記第1、第2、第3、第4供給手段を制御する制御部と、を備えた自動変速機の油圧制御装置。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1係合装置に第1油圧を供給可能な第1供給手段と、第2係合装置に第2油圧を供給可能な第2供給手段と、第3係合装置に第3油圧を供給可能な第3供給手段と、コントロールバルブに第4油圧を供給可能な第4供給手段と、前記第1、第2、第3、第4供給手段を制御する制御部と、を備えた自動変速機の油圧制御装置において、
前記コントロールバルブは、前記第1供給手段に連通した第1入力ポート、前記第1係合装置に連通した出力ポート、前記第2供給手段に連通した第2入力ポート、前記第3供給手段に連通した第3入力ポート、前記第4供給手段に連通した第4入力ポート、前記第1入力ポートと前記出力ポートを連通する正常位置と遮断するフェール位置との間を移動可能なスプール、前記スプールを前記正常位置側へと付勢する付勢部材、を含み、
前記スプールには、前記正常位置側への第1押圧力と、前記フェール位置側への第2押圧力と、が作用し、
前記第1押圧力は、前記付勢部材の付勢力、前記第4入力ポートを介して前記スプールに供給される第4油圧、に基づいており、
前記第2押圧力は、前記第1入力ポートを介して前記スプールに供給される前記第1油圧、前記第2入力ポートを介して前記スプールに供給される前記第2油圧、前記第3入力ポートを介して前記スプールに供給される前記第3油圧、に基づいており、
前記制御部は、前記第1油圧の供給が停止し、前記第2、第3、第4油圧が供給された状態から、前記第1、第2、第4油圧を供給し前記第3油圧の供給を停止する状態に移行する場合には、前記第2押圧力が前記第1押圧力以上とならないように、前記第2係合装置が係合状態に維持された範囲内で前記第2油圧を低下させるように前記第2供給手段を制御する、自動変速機の油圧制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の係合装置を備えた自動変速機の制御装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-014062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような自動変速機の制御装置では、所定の油圧を供給する供給手段から所定の係合装置に、コントロールバルブを介して油圧が供給される。係合装置に供給される油圧に応じて、係合装置は係合状態又は非係合(解放)状態に切り替えられる。ここで、コントロールバルブは、所定の供給手段から所定の係合装置への油路を確保する正常位置と、この油路を遮断するフェール位置とに移動可能なスプールを備え、このスプールは正常位置側に付勢部材によって常時付勢されている。このスプールには、他の係合装置に所定の油圧を供給する供給手段からも油圧が供給される。供給される複数の油圧のバランスによっては、スプールが正常位置からフェール位置に移動して、所定の係合装置への油圧の供給が適切に行われないおそれがある。
【0005】
そこで本発明は、適切に変速を行うことができる自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、第1係合装置に第1油圧を供給可能な第1供給手段と、第2係合装置に第2油圧を供給可能な第2供給手段と、第3係合装置に第3油圧を供給可能な第3供給手段と、コントロールバルブに第4油圧を供給可能な第4供給手段と、前記第1、第2、第3、第4供給手段を制御する制御部と、を備えた自動変速機の油圧制御装置において、前記コントロールバルブは、前記第1供給手段に連通した第1入力ポート、前記第1係合装置に連通した出力ポート、前記第2供給手段に連通した第2入力ポート、前記第3供給手段に連通した第3入力ポート、前記第4供給手段に連通した第4入力ポート、前記第1入力ポートと前記出力ポートを連通する正常位置と遮断するフェール位置との間を移動可能なスプール、前記スプールを前記正常位置側へと付勢する付勢部材、を含み、前記スプールには、前記正常位置側への第1押圧力と、前記フェール位置側への第2押圧力と、が作用し、前記第1押圧力は、前記付勢部材の付勢力、前記第4入力ポートを介して前記スプールに供給される第4油圧、に基づいており、前記第2押圧力は、前記第1入力ポートを介して前記スプールに供給される前記第1油圧、前記第2入力ポートを介して前記スプールに供給される前記第2油圧、前記第3入力ポートを介して前記スプールに供給される前記第3油圧、に基づいており、前記制御部は、前記第1油圧の供給が停止し、前記第2、第3、第4油圧が供給された状態から、前記第1、第2、第4油圧を供給し前記第3油圧の供給を停止する状態に移行する場合には、前記第2押圧力が前記第1押圧力以上とならないように、前記第2係合装置が係合状態に維持された範囲内で前記第2油圧を低下させるように前記第2供給手段を制御する、自動変速機の油圧制御装置によって達成できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、適切に変速を行うことができる自動変速機の制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施例の車両の概略構成を説明する図である。
図2図2は、トルクコンバータや自動変速機を説明する骨子図である。
図3図3は、ギヤ段を形成する際のソレノイドバルブへの係合指示の組み合わせ、及び係合装置の作動の組み合わせを説明する作動図表である。
図4図4は、コントロールバルブの断面図である。
図5図5は、ギヤ段が3rdから1stへ切り替えられる際のスプールに作用する油圧の推移を示したタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施例について図面を参照して説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0010】
図1は、本実施例の車両10の概略構成を説明する図である。図1において、車両10は、走行用の駆動力源として機能するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等のエンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間に設けられた動力伝達装置16とを備えている。動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース18(以下、ケース18という)内において、エンジン12に連結された流体式伝動装置としての公知のトルクコンバータ20、トルクコンバータ20に連結された車両用自動変速機22(以下、自動変速機22という)、自動変速機22の出力回転部材である出力軸24に連結されたプロペラシャフト26、そのプロペラシャフト26に連結された差動歯車装置(ディファレンシャルギヤ)28、その差動歯車装置28に連結された1対の車軸30等を備えている。このように構成された動力伝達装置16において、エンジン12の動力(或いはトルク)は、トルクコンバータ20、自動変速機22、プロペラシャフト26、差動歯車装置28、車軸30等を順次介して1対の駆動輪14へ伝達される。
【0011】
図2は、トルクコンバータ20や自動変速機22を説明する骨子図である。尚、トルクコンバータ20や自動変速機22等は中心線(軸心RC)に対して略対称的に構成されており、図2ではその中心線の下半分が省略されている。又、図2中の軸心RCはエンジン12、トルクコンバータ20の回転軸心である。
【0012】
図2において、トルクコンバータ20は、軸心RCと同心に配設されており、エンジン12に連結されたポンプ翼車20p、自動変速機22の入力回転部材である変速機入力軸32に連結されたタービン翼車20tを備えている。ポンプ翼車20pには、機械式のオイルポンプ34が連結されている。これにより、機械式のオイルポンプ34はエンジン12により回転駆動されることにより自動変速機22を変速制御したり、動力伝達装置16の動力伝達経路の各部に潤滑油を供給したりする為の作動油圧を発生する。
【0013】
自動変速機22は、エンジン12から駆動輪14までの動力伝達経路の一部を構成し、複数の摩擦係合装置の何れかが選択的に係合されることによりギヤ比(変速比)が異なる複数のギヤ段(変速段)が形成される有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式多段変速機である。例えば、公知の車両によく用いられる所謂クラッチツゥクラッチ変速を行う有段変速機である。この自動変速機22は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置36と、ラビニヨ型に構成されているシングルピニオン型の第2遊星歯車装置38及びダブルピニオン型の第3遊星歯車装置40と、シングルピニオン型の第4遊星歯車装置42とを同軸線上(軸心RC上)に有し、入力軸32の回転を変速して出力軸24から出力する。
【0014】
第1遊星歯車装置36、第2遊星歯車装置38、第3遊星歯車装置40、第4遊星歯車装置42は、良く知られているように、サンギヤ(S1、S2、S3、S4)、ピニオンギヤ(P1、P2、P3、P4)を自転、公転可能に支持するキャリヤ(CA1、CA2、CA3、CA4)、ピニオンギヤを介してサンギヤと噛み合うリングギヤ(R1、R2、R3、R4)によって各々3つの回転要素(回転部材)が構成されている。そして、それら各々3つの回転要素は、直接的に或いは摩擦係合装置(クラッチC1、C2、C3、C4、ブレーキB1、B2)を介して間接的(或いは選択的)に、一部が互いに連結されたり、変速機入力軸32、ケース18、或いは出力軸24に連結されている。
【0015】
クラッチC1~C4、ブレーキB1、B2は、公知の車両用自動変速機においてよく用いられている油圧式の摩擦係合装置であって、油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される。このように構成されたクラッチC1~C4、ブレーキB1、B2は、それぞれ、自動変速機22に備えられた油圧制御回路50が有する不図示のリニアソレノイドバルブSL1、SL2、SL3、SL4、SL5、SL6からの油圧によりトルク容量(すなわち係合力)が変化させられて、係合と解放とが切り替えられる。
【0016】
油圧制御回路50によってクラッチC1~C4、ブレーキB1、B2の係合と解放とが制御されることで、図3の作動図表に示すように、運転者のアクセル操作や車速V等に応じて前進10段の各ギヤ段が形成される。図3は、ギヤ段を形成する際のソレノイドバルブへの係合指示の組み合わせ、及び係合装置の作動の組み合わせを説明する作動図表である。図3の「1st」-「OD3」はそれぞれ前進ギヤ段としての第1速ギヤ段-第10速ギヤ段を意味しており、各ギヤ段に対応する自動変速機22のギヤ比γ(=変速機入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout)は、第1遊星歯車装置36、第2遊星歯車装置38、第3遊星歯車装置40、第4遊星歯車装置42の各歯車比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)によって適宜定められる。「Rev」は後進ギヤ段を意味している。
【0017】
図3の作動図表は、上記各ギヤ段とリニアソレノイドバルブSL1~SL6に対するソレノイド指示との関係、上記各ギヤ段と係合装置の各作動状態との関係をまとめたものである。図3において、「○」はリニアソレノイドバルブSL1~SL6を作動させる(オンする)係合指令信号の出力および係合装置の係合を、空欄は上記係合指令信号の非出力および係合装置の非係合(解放)をそれぞれ表している。このように、自動変速機22は、所定のリニアソレノイドバルブSL1~SL6等の作動による所定の係合装置への係合油圧の供給によってその所定の係合装置が係合されることで複数のギヤ段が択一的に形成される自動変速機である。
【0018】
図1に戻り、車両10には、例えば自動変速機22の変速制御などに関連する自動変速機22の制御装置を含む電子制御装置80が備えられている。よって、図1は、電子制御装置80の入出力系統を示す図でもあり、又、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置80は、エンジン12の出力制御、自動変速機22の変速制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン出力制御用電子制御装置や油圧制御用電子制御装置等に分けて構成される。
【0019】
電子制御装置80には、車両10が備える各種センサ(例えば各種回転速度センサ70、72、74、アクセル開度センサ76、スロットルセンサ78など)による検出信号に基づく各種実際値(例えばエンジン回転速度Ne(rpm)、タービン回転速度Nt(rpm)である変速機入力軸回転速度Nin(rpm)、車速Vに対応する出力軸回転速度Nout(rpm)、アクセル開度θacc(%)、スロットル弁開度θth(%)など)が、それぞれ供給される。又、電子制御装置80からは、エンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号Se、自動変速機22の変速に関する油圧制御の為の油圧制御指令信号Sp等が、それぞれ出力される。油圧制御指令信号Spは、例えば所定の係合装置を係合させる為の係合指令信号であって、クラッチC1~C4、ブレーキB1、B2の各油圧アクチュエータへ供給される油圧PSL1、PSL2、PSL3、PSL4、PSL5、PSL6を調圧する各リニアソレノイドバルブSL1~SL6を作動させる為の係合指令信号であり、油圧制御回路50(すなわち所定のリニアソレノイドバルブSL1~SL6)へ出力される。
【0020】
次にコントロールバルブ60の構成について説明する。図4は、コントロールバルブ60の断面図である。コントロールバルブ60は、内部に収納室60bを有して所定方向に延びたスリーブ60aと、収納室60b内に移動可能に収納されたスプール63と、スプール63を後述する正常位置側に付勢するスプリング67とを備えている。図4では、左半分はスプール63が正常位置にある状態を示し、右半分はスプール63がフェール位置にある状態を示している。
【0021】
スリーブ60aは、上方側から入力ポート61a、61b、61c、出力ポート61d、ドレインポート61e、出力ポート61f、入力ポート61g、61h、61i、61jが順に形成され、これらは収納室60bに連通している。入力ポート61aには、リニアソレノイドバルブSL2及びSL4が油路を介して連通しており、油圧PSL2又は油圧PSL4が供給される。入力ポート61b、61c、61gには、リニアソレノイドバルブSL1が油路を介して連通しており油圧PSL1が供給される。出力ポート61dには、油路を介してクラッチC1が連通している。ドレインポート61eからは、収納室60b内の余分なオイルがオイルパンに排出される。出力ポート61fには、ブレーキB2への油圧を制御するコントロールバルブが油路を介して連通している。入力ポート61hには、リニアソレノイドバルブSL4及びSL5が油路を介して連通しており、油圧PSL4又は油圧PSL5が供給される。入力ポート61i及び61jには、オイルポンプ34が油路を介して連通しており、ライン油圧PLが供給される。尚、入力ポート61iには、ギヤ段が4th~OD3の何れかの際にオンとなるソレノイドバルブがオフの状態で、ライン油圧PLが供給される。
【0022】
スプール63は、主軸64と、主軸64の上方側から順に形成された円柱状の小径ランド部65a、中径ランド部65b、65c、65d、大径ランド部65e、中径ランド部65fとを備えている。中径ランド部65bの軸方向の断面積は、小径ランド部65aよりも大きく形成されている。大径ランド部65eの軸方向の断面積は、中径ランド部65d及び65fのそれぞれよりも大きく形成されている。スプリング67は、コイル状のバネであり、スリーブ60aの収納室60b内に収納されており、一端がスリーブ60aに係止しており他端が大径ランド部65eの下部を上方側に押圧している。従ってスプリング67はスプール63を正常位置側に付勢している。
【0023】
スプール63が正常位置にある状態では、入力ポート61c及び出力ポート61dは連通しており、入力ポート61cから供給された油圧PSL1は、出力ポート61dを介してクラッチC1に供給されてクラッチC1は係合状態となり得る。スプール63がフェール位置にある状態では、中径ランド部65bにより入力ポート61cと出力ポート61dは遮断され、クラッチC1に油圧PSL1を供給することはできない。また、スプール63が正常位置にある状態では、中径ランド部65dにより入力ポート61gと出力ポート61fは遮断され、スプール63がフェール位置にある状態では、入力ポート61gと出力ポート61fは連通し、入力ポート61gから供給された油圧PSL1は、出力ポート61fを介してブレーキB2用のコントロールバルブに供給される。
【0024】
ギヤ段を3rdから1stに切り替えられる場合について説明する。ギヤ段が3rdの場合、図3に示したように、リニアソレノイドバルブSL2、SL5、SL6を作動させてクラッチC2、ブレーキB1、B2が係合状態となる。即ち、スプール63には、入力ポート61aから油圧PSL2が供給され、入力ポート61hから油圧PSL5が供給される。この際の油圧PSL2及びPSL5のそれぞれは、ライン油圧PLと同じ値に維持される。
【0025】
一方、ギヤ段が1stの場合、図3に示したように、リニアソレノイドバルブSL1、SL2、SL6が作動して、クラッチC1、C2、ブレーキB2が係合状態となる。即ち、スプール63には、入力ポート61b、61c、61gから油圧PSL1が供給され、入力ポート61aから油圧PSL2が供給される。この際の油圧PSL1及びPSL2のそれぞれは、ライン油圧PLと同じ値に維持される。尚、入力ポート61i及び61jからは、ギヤ段が3rd、1stの何れの場合にもライン油圧PLが供給される。
【0026】
ここで、スプール63が正常位置にある状態で、入力ポート61aからスプール63に供給される油圧PSL2は、小径ランド部65aの上部を下方側に押圧するように作用する。即ち、油圧PSL2は、スプール63をフェール位置側に押圧するように作用する。また、スプール63が正常位置にある状態で、入力ポート61hからスプール63に供給される油圧PSL5は、大径ランド部65eの上部と中径ランド部65dの下部に作用するが、上述したように大径ランド部65eの方が中径ランド部65dよりも軸方向の断面積が大きいため、大径ランド部65eの上部を下方側に押圧する力の方が、中径ランド部65dの下部を上方側に押圧する力よりも大きい。即ち油圧PSL5は、スプール63をフェール位置側に押圧するように作用する。
【0027】
また、スプール63が正常位置にある状態で、入力ポート61bからスプール63に供給される油圧PSL1は、中径ランド部65bを下方側に押圧するように作用するが、入力ポート61cからスプール63に供給される油圧PSL1は、出力ポート61dを介してクラッチC1に供給されるため、スプール63に対して軸方向の力は作用しない。同様に、入力ポート61gからスプール63に供給される油圧PSL1は、スプール63が正常位置にある場合には中径ランド部65dにより塞がれているためスプール63に対して軸方向の力は作用しない。従って、スプール63が正常位置にある場合には、入力ポート61c及び61gから供給される油圧PSL1はスプール63には作用しないが、入力ポート61bから供給される油圧PSL1は、スプール63をフェール位置側に押圧するように作用する。
【0028】
スプール63が正常位置にある状態で、入力ポート61iからスプール63に供給されるライン油圧PLは、大径ランド部65eの下部と中径ランド部65fの上部に作用するが、上述したように軸方向の断面積は大径ランド部65eの方が中径ランド部65fよりも大きいため、大径ランド部65eの下部を上方側に押圧する力の方が中径ランド部65fの上部を下方側に押圧する力より大きい。即ち、入力ポート61iから供給されるライン油圧PLは、スプール63を正常位置側に押圧する。また、スプール63が正常位置にある状態で、入力ポート61jからスプール63に供給されるライン油圧PLは、中径ランド部65fの下部を上方側に押圧するように作用する。即ち、入力ポート61jから供給されるライン油圧PLは、スプール63を正常位置側に押圧する。
【0029】
また、上述したようにスプリング67はスプール63を正常位置側に付勢しており、スプリング67によるスプール63への正常位置側への圧力を付勢力PSSとする。尚、付勢力PSSは例えば320kPaであるがこれに限定されない。
【0030】
以上により、ギヤ段が3rd、1stの何れの場合もスプール63に正常位置側に作用する圧力は、入力ポート61iから供給されるライン油圧PLと、入力ポート61jから供給されるライン油圧PLと、付勢力PSSとの合計で表すことができ、即ち、2×PL+PSSと表すことができる。また、ギヤ段が3rd時にスプール63にフェール位置側に作用する圧力は、PSL2+PSL5と表すことができる。ギヤ段が1st時にスプール63にフェール位置側に作用する圧力は、PSL1+PSL2と表すことができる。
【0031】
ここで、ギヤ段が3rdの時にスプール63を正常位置に維持するためには、以下の不等式が成立する必要がある。
PSL2+PSL5<2×PL+PSS…(1)
上述したように、PSL2=PSL5=PLに維持されるため、付勢力PSSにより上記(1)の不等式は維持される。
また、ギヤ段が1stの時にスプール63を正常位置に維持するためには、以下の不等式が成立する必要がある。
PSL1+PSL2<2×PL+PSS…(2)
上述したように、PSL1=PSL2=PLに維持されるため、付勢力PSSにより上記(2)の不等式は維持される。
【0032】
しかしながら、ギヤ段が3rdから1stへの移行途中でスプール63を正常位置に維持するためには、以下の不等式きが成立する必要がある。
PSL1+PSL2+PSL5<2×PL+PSS…(3)
即ち、ギヤ段が3rdから1stへの移行途中では、スプール63にはフェール位置側に作用する油圧PSL1及びPSL5の双方が作用し、油圧PSL1は徐々に増大し、油圧PSL5は徐々に低下する。
【0033】
このため、ギヤ段が3rdから1stへの移行途中での油圧PSL1及びPSL5の大きさによっては、上記の(3)の式において、左辺が右辺よりも大きくなってスプール63がフェール位置側に移動して、中径ランド部65bにより入力ポート61c及び出力ポート61dの連通が遮断されてクラッチC1に油圧PSL1が供給されない可能性がある。例えば、ギヤ段が3rdから1stへの移行途中で、油圧PSL5の低下速度よりも油圧PSL1の増大速度が速い場合である。このような場合には、最終的には油圧PSL5はスプール63には供給されなくなるため、上記の(3)の式で右辺の方が左辺よりも大きくなり、スプール63はフェール位置から正常位置に移動するが、この際にライン油圧PLや付勢力PSSによりスプール63が正常位置に位置付けられてスプール63に衝撃が加わるおそれがある。また、このようにスプール63がフェール位置側に移動してから正常位置側に移動してクラッチC1に油圧PSL1が供給されるため、3rdから1stへの切替に要する時間が延び、応答性が低下する可能性がある。
【0034】
そこで本実施例では、ギヤ段の3rdから1stへの切替の際には、移行途中で油圧PSL2をクラッチC2が係合状態を維持できる程度に低減することにより、上記の(3)で右辺の方が左辺よりも小さい状態に維持する。これにより、ギヤ段を3rdから1stへ適切に切り替えることができる。
【0035】
次に具体的な油圧の推移について説明する。図5は、ギヤ段が3rdから1stへ切り替えられる際のスプール63に作用する油圧の推移を示したタイミングチャートである、具体的には図5では、スプール63に作用する油圧PSL1、PSL2、PSL5の推移を示している。図5においては、油圧PSL1は点線で、油圧PSL2は一点鎖線で、油圧PSL5は2点鎖線で示している。
【0036】
時刻t0では、ギヤ段が3rdに維持されており、電子制御装置80は油圧PSL2及びPSL5がそれぞれライン油圧PLに維持されるようにリニアソレノイドバルブSL2及びSL5を制御し、油圧PSL1がほぼゼロとなるようにリニアソレノイドバルブSL1を制御している。3rdから1stへの切替要求があると電子制御装置80は、時刻t1で油圧PSL1が所定値まで増大するようにリニアソレノイドバルブSL1を制御し、油圧PSL5が低下するようにリニアソレノイドバルブSL5を制御すると共に、油圧PSL2が所定値ΔPだけ低下させて維持するようにリニアソレノイドバルブSL2を制御する。ここで所定値ΔPは、クラッチC2が係合状態であることを維持しつつ、油圧PSL1の増大量と油圧PSL5の低下量を考慮して、上述した式(3)における左辺が右辺よりも大きくならない値に設定されている。所定値ΔPは、油圧PSL1の増大量よりも、油圧PSL2の低下量と油圧PSL5の低下量との方が大きくなるように設定されていることが好ましい。この所定値ΔPは、実験により予め取得され電子制御装置80に記憶されている。
【0037】
電子制御装置80は更に油圧PSL5を低下させ時刻t2では、ブレーキB1は解放状態となる。尚、電子制御装置80は時刻t2で再度油圧PSL1を低下させる。次に電子制御装置80は、油圧PSL5を徐々に低下させつつ油圧PSL1を徐々に増大させる。時刻t3では、クラッチC1は係合状態となる。また、時刻t4では電子制御装置80は油圧PSL1をライン油圧PLまで上昇させ、その後の時刻t5で油圧PSL2をライン油圧PLに戻すと共に油圧PSL5を略ゼロに制御する。
【0038】
以上のようにして、ギヤ段の3rdから1stへの切替時に、スプール63がフェール位置側に移動することを抑制することができる。これにより、上述したギヤ段の切替時に衝撃が発生することを抑制し、応答性を良好にしてギヤ段を適切に切り替えることができる。
【0039】
上記実施例において、クラッチC1、C2、ブレーキB1は、それぞれ第1、第2、第3係合装置の一例である。リニアソレノイドバルブSL1、SL2、SL5は、それぞれ第1、第2、第3供給手段の一例である。オイルポンプ34は、第4供給手段の一例である。電子制御装置80は、制御部の一例である。入力ポート61b、61c、61gは、第1入力ポートの一例である。出力ポート61dは、出力ポートの一例である。入力ポート61aは、第2入力ポートの一例である。入力ポート61hは、第3入力ポートの一例である。入力ポート61i及び61jは、第4入力ポートの一例である。スプリング67は付勢部材の一例である。油圧PSL1、PSL2、PSL5、ライン油圧PLは、それぞれ第1、第2、第3、第4油圧の一例である。
【0040】
上記の実施の形態の自動変速機の制御装置は、車両用内燃機関に適用した例について説明したが、動力源として内燃機関を用いるものであれば適用可能であり、例えば、所謂ハイブリッド車や自動二輪車等に搭載される内燃機関にも適用可能である。
【0041】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0042】
10 車両
12 エンジン
16 動力伝達装置
20 トルクコンバータ
22 自動変速機
60 コントロールバルブ
60a スリーブ
61a、61b、61c、61g、61h、61i 入力ポート
61d、61f 出力ポート
61e ドレインポート
63 スプール
64 主軸
80 電子制御装置
C1~C4 クラッチ
B1、B2 ブレーキ
SL1~SL6 リニアソレノイドバルブ
PSL1~PSL6 油圧
図1
図2
図3
図4
図5