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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113414
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】膝装具
(51)【国際特許分類】
   A61F 5/01 20060101AFI20220728BHJP
   A61F 2/64 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
A61F5/01 N
A61F2/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009646
(22)【出願日】2021-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】506120242
【氏名又は名称】有限会社 愛トリノ
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】井上 誠二
【テーマコード(参考)】
4C097
4C098
【Fターム(参考)】
4C097AA07
4C097BB03
4C097BB09
4C097CC01
4C097CC10
4C097CC18
4C097DD01
4C097DD04
4C097TA10
4C098AA02
4C098BB11
4C098BC04
4C098BC13
4C098BC16
4C098BC17
4C098BD13
(57)【要約】
【課題】膝に十分な伸展誘導を与えることが可能な膝装具を提供する。
【解決手段】膝装具1は、使用者の大腿部に装着される大腿支持部10と、下腿部に装着される下腿支持部20と、大腿支持部10と前記下腿支持部20とを回動可能に連結する外側ジョイント30及び内側ジョイント40と、膝の伸展を誘導する方向である伸展方向に力を付与する伸展誘導機構50と、を備える。伸展誘導機構50は、外側ジョイント30及び内側ジョイント40の回動支点よりも前方に設けられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の大腿部に装着される大腿支持部と、
前記使用者の下腿部に装着される下腿支持部と、
前記大腿支持部と前記下腿支持部とを回動可能に連結するジョイント部と、
前記使用者の膝の伸展を誘導する方向である伸展方向に力を付与する伸展誘導機構と、を備え、
前記伸展誘導機構は、前記ジョイント部の回動支点よりも前方に設けられていることを特徴とする膝装具。
【請求項2】
前記伸展誘導機構は、前記伸展方向に付与する力の大きさを調節可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の膝装具。
【請求項3】
前記伸展誘導機構は、長尺の弾性体を有し、
前記弾性体は、前記ジョイント部の上端部及び下端部に係止され、
前記弾性体と前記ジョイント部の前記上端部との係止位置である上側係止位置、及び前記弾性体と前記ジョイント部の前記下端部との係止位置である下側係止位置は、前記ジョイント部の前記回動支点よりも前方に位置していることを特徴とする請求項1又は2に記載の膝装具。
【請求項4】
前記伸展誘導機構は、前記膝装具が着脱可能な状態となるように前記ジョイント部を前記回動支点を中心に所定角度回動させたとき、前記弾性体の張力がゼロとなり、前記ジョイント部を略一直線状に伸展させたとき、前記弾性体の張力がゼロより大きくなるように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の膝装具。
【請求項5】
前記ジョイント部は、前記大腿支持部と前記下腿支持部とを膝の外側で連結する外側ジョイントと、膝の内側で連結する内側ジョイントとを備え、
前記弾性体は、前記外側ジョイント及び前記内側ジョイントに取り付けられた一対の弾性体からなり、
前記伸展誘導機構は、一対の前記弾性体を束ねる収束部材を有し、前記収束部材を膝の中央部分に相当する位置に配置して一対の前記弾性体を束ねたことを特徴とする請求項3又は4に記載の膝装具。
【請求項6】
前記大腿支持部は、前記使用者の大腿部の後方を支持する略半円筒状の大腿後方支持部を有し、
前記下腿支持部は、前記使用者の下腿部の後方を支持する略半円筒状の下腿後方支持部を有し、
前記大腿後方支持部、及び前記下腿後方支持部は、伸縮性のない硬質材料で形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の膝装具。
【請求項7】
前記ジョイント部は、前記回動支点を含む軸部を有し、
前記軸部は、前記弾性体を掛止可能な掛止部を有することを特徴とする請求項3乃至5のいずれか一項に記載の膝装具。
【請求項8】
前記軸部は、対向する一対の板状部材を有し、
前記掛止部は、対向する一対の前記板状部材の先端部分の外周面を、前記板状部材の対向面と反対側の面から前記対向面に向かって前記軸部の中心側に傾斜させたV字状の溝であることを特徴とする請求項7に記載の膝装具。
【請求項9】
前記軸部は、対向する一対の板状部材からなり、
前記掛止部は、対向する一対の前記板状部材の先端部分において、前記膝装具の中央側に配置される一方の板状部材の外周の一部が、他方の板状部材の外周よりも回動支点からの距離が小さくなるように切り欠かれて形成された段差部であることを特徴とする請求項7に記載の膝装具。
【請求項10】
前記伸展誘導機構は、膝の前側中央に相当する位置を通って上下方向に延在し、前記大腿支持部及び前記下腿支持部に係止された中央弾性体を備えることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の膝装具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膝部に装着する膝装具に関し、特に、伸展誘導機能を有する膝装具に関する。
【背景技術】
【0002】
膝部に装着して歩行を補助する膝装具には、主に変形性膝関節症などの患者の治療・矯正を目的とする装具と、膝の手術後やけが等の受傷後のリハビリを目的とする装具とがあり、それぞれ種々の膝装具が従来から知られている。
【0003】
いずれの目的に用いられる膝装具も、使用者の歩行や膝の屈曲、伸展を補助するために脚を誘導する作用が働くことが必要である。そこで、使用者の脚の動きに適切に追従し、誘導作用を効果的に脚に伝えることが可能な膝装具が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
特許文献1に記載の膝装具は、円筒形の大腿支持部の円周における円の中心を通る同一中心線上に、大腿支持部と、外脚側ジョイント及び内脚側ジョイントとの取付位置を配置している。この構成により、装着時には、各ジョイントが使用者の大腿部の外側側方及び内側側方に大腿部の周径の中心とともに横一列に並ぶことになる。その結果、各ジョイントの回動支軸と使用者の膝の周径の中心とが横一列に並ぶので、外脚側ジョイント及び内脚側ジョイントが、使用者の脚の動きに最も適切に追従し、膝装具の誘導を最も効果的に使用者の脚に伝えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-058485
【0006】
しかし、脚の筋力、主には大腿四頭筋や下腿三頭筋の筋力が著しく低下している使用者の場合は、膝装具を装着していても、立ち上がったときに立位姿勢を安定して保つことができず、膝折れや横揺れを生じることがある。このような膝折れや横揺れを防止するために、より一層、膝の伸展を誘導し、補助する膝装具が求められていた。
また、膝の伸展を誘導するために必要な力の大きさは、膝や筋力の状態に応じて変わるため、使用者に応じて、または治療やリハビリの段階に応じて、伸展誘導の強さを適宜調節可能に構成されていることが求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、膝に十分な伸展誘導を与えることができる膝装具を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、伸展誘導の強さを調節することが可能な膝装具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、本発明に係る膝装具によれば、使用者の大腿部に装着される大腿支持部と、前記使用者の下腿部に装着される下腿支持部と、前記大腿支持部と前記下腿支持部とを回動可能に連結するジョイント部と、前記使用者の膝の伸展を誘導する方向である伸展方向に力を付与する伸展誘導機構と、を備え、前記伸展誘導機構は、前記ジョイント部の回動支点よりも前方に設けられていること、により解決される。
【0009】
上記構成によれば、使用者の膝の伸展を誘導する伸展方向に力を付与する伸展誘導機構がジョイント部の回動支点よりも前方に設けられているので、使用者の脚部・膝が屈曲した屈曲状態、及び脚部・膝が伸展した状態のいずれの場合も、膝を後方に押し戻す方向、すなわち伸展させる方向に力を付与することができる。これにより、脚部の筋肉、特に大腿四頭筋や下腿三頭筋が衰えている使用者の立位を安定して保持するとともに、膝折れを防止して歩行を補助することができる。
【0010】
また、前記伸展誘導機構は、前記伸展方向に付与する力の大きさを調節可能に構成されていると好適である。
使用する人によって、また1人の人でも左右の脚によって、筋肉の衰え度合いが異なるため、伸展方向に付与する力の大きさを調節可能な構成とすることにより、使用者ごとに最適な伸展誘導の力を付与するよう設定できる。
【0011】
また、前記伸展誘導機構は、長尺の弾性体を有し、前記弾性体は、前記ジョイント部の上端部及び下端部に係止され、前記弾性体と前記ジョイント部の前記上端部との係止位置である上側係止位置、及び前記弾性体と前記ジョイント部の前記下端部との係止位置である下側係止位置は、前記ジョイント部の前記回動支点よりも前方に位置していること好適である。
このように、弾性体とジョイント部の上端部及び下端部との係止位置がジョイント部の回動支点よりも前方に位置しているので、使用者の脚部・膝が屈曲した屈曲状態、及び脚部・膝が伸展した状態のいずれの場合も、より適切に、膝を後方に押し戻す方向、すなわち伸展させる方向に力を付与することができる。
【0012】
また、前記伸展誘導機構は、前記膝装具が着脱可能な状態となるように前記ジョイント部を前記回動支点を中心に所定角度回動させたとき、前記弾性体の張力がゼロとなり、前記ジョイント部を略一直線状に伸展させたとき、前記弾性体の張力がゼロより大きくなるように構成されていると好適である。
このように、膝装具の着脱が可能な状態にジョイント部を回動させたときの弾性体の張力がゼロとなるように設定することで、膝装具を装着及び脱着するときに弾性体のテンションに抗して着脱する必要がなく、着脱が容易になる。また、伸展状態においてある程度のテンションがかかるため、立位時の膝折れを防止でき、立位姿勢を保持できる。
【0013】
また、前記ジョイント部は、前記大腿支持部と前記下腿支持部とを膝の外側で連結する外側ジョイントと、膝の内側で連結する内側ジョイントとを備え、前記弾性体は、前記外側ジョイント及び前記内側ジョイントに取り付けられた一対の弾性体からなり、前記伸展誘導機構は、一対の前記弾性体を束ねる収束部材を有し、前記収束部材を膝の中央部分に相当する位置に配置して一対の前記弾性体を束ねると好適である。
このように、収束部材を設けて一対の弾性体を中央に束ねることにより、弾性体が中央に引き寄せられて大きいテンションが加わり、膝の伸展方向に、より大きい力を付与することができる。また、収束部材は膝の中央部分に相当する位置に配置されているので、膝を押し戻す力が膝の中央に作用し、確実に膝を押し戻すことができる。
【0014】
また、前記大腿支持部は、前記使用者の大腿部の後方を支持する略半円筒状の大腿後方支持部を有し、前記下腿支持部は、前記使用者の下腿部の後方を支持する略半円筒状の下腿後方支持部を有し、前記大腿後方支持部、及び前記下腿後方支持部は、伸縮性のない硬質材料で形成されていると好適である。
本発明の膝装具は、伸展誘導機構により前側に強いテンションがかかるため、大腿部の後方及び下腿部の後方を支持する大腿後方支持部及び下腿後方支持部が伸縮性のない硬質の材料を用いて形成されていることで、膝装具の変形を防止することができる。
【0015】
また、前記ジョイント部は、前記回動支点を含む軸部を有し、前記軸部は、前記弾性体を掛止可能な掛止部を有すると好適である。
このように、軸部に弾性体を掛止する掛止部を有しているので、膝装具を屈曲状態で装着した後、軸部に弾性体を掛止することで、弾性体にテンションがかかる。その状態で立ち上がると、伸展方向に力が付与されるので、使用者の立ち上がりを補助することができる。
【0016】
また、前記軸部は、対向する一対の板状部材を有し、前記掛止部は、対向する一対の前記板状部材の先端部分の外周面を、前記板状部材の対向面と反対側の面から前記対向面に向かって前記軸部の中心側に傾斜させたV字状の溝であると好適である。
または、前記軸部は、対向する一対の板状部材からなり、前記掛止部は、対向する一対の前記板状部材の先端部分において、前記膝装具の中央側に配置される一方の板状部材の外周の一部が、他方の板状部材の外周よりも回動支点からの距離が小さくなるように切り欠かれて形成された段差部として形成することもできる。
このように、軸部の先端部分に掛止部としてV字状の溝、または段差部を設けることで、弾性体を容易に引っ掛けることができるとともに、V字状の溝の両外側端部、または段差部の高い方の段がストッパとなり、弾性体が掛止部から外れるのを防止することができる。
【0017】
また、前記伸展誘導機構は、膝の前側中央に相当する位置を通って上下方向に延在し、前記大腿支持部及び前記下腿支持部に係止された中央弾性体を備えると好適である。
このように、中央弾性体は膝の前側中央に相当する位置を通って上下方向に延在しているので、膝が前に突き出ると、膝を押し戻す力が膝の中央に作用し、安定して膝を押し戻すことができる。また、上記の外側ジョイント及び内側ジョイントに取り付けられた一対の弾性体を備えた誘導伸展機構にこの中央弾性体をさらに設けた場合は、伸展方向に付与する力をより大きくすることができる。さらに、大腿支持部及び下腿支持部で膝周りを保持しているため、伸展方向に付与する力をより大きくし、かつ、膝周りの安定性も確保するという相乗効果を発揮した、従来にない膝装具を提供できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の膝装具によれば、膝に十分な伸展誘導を与えることができる。また、本発明の膝装具によれば、伸展誘導の強さを調節することが可能であるので、伸展誘導する力の大きさを適切に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第一実施形態に係る膝装具の斜視図である。
図2】同膝装具のジョイント部の側面図である。
図3】同膝装具を着脱するときの状態を示す説明図である。
図4】同膝装具を装着した状態(伸展状態)の正面図である。
図5】同膝装具を装着して歩行する歩行状態を示す説明図である。
図6】伸展誘導機構の変形例の説明図である。
図7図3における外側回動軸部35のVII-VII断面図である。
図8】第二実施形態に係る膝装具の説明図である。
図9】同膝装具を装着して歩行する歩行状態を示す説明図である。
図10】第三実施形態に係る膝装具の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の第一実施形態について、図1~7を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明の趣旨を逸脱することなく各種改変され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれる。第二、第三実施形態においても同様である。
【0021】
図1は本発明の第一実施形態に係る膝装具の斜視図、図2は膝装具のジョイント部の側面図である。
本実施形態の膝装具1は、膝の周囲に装着する装具であって、図1及び図2に示すように、使用者(装着者)の大腿部の周囲に巻回され装着される大腿支持部10と、使用者の下腿部の周囲に巻回され装着される下腿支持部20と、大腿支持部10と下腿支持部20とを回動可能に連結するジョイント部としての外側ジョイント30及び内側ジョイント40と、使用者の膝の伸展を促す方向である伸展方向に力を付与するように構成されている伸展誘導機構50と、を主要構成要素としている。ジョイント部としての外側ジョイント30及び内側ジョイント40は、それぞれ、使用者の脚部のうち膝関節周辺の部位の外側及び内側に配設される部材である。
図1は、一例として右脚用の膝装具1を示しており、すなわち図面に向かって左側が外側、図面に向かって右側が内側を示している。なお、膝装具1は左右両用であるため、左脚に用いることも可能である。以後、図1に示す膝装具1は右脚用として説明する。
【0022】
大腿支持部10は、大腿部の後方を支持する略半円筒状の大腿カフ11と、大腿部の前側で取り外し可能に接合される大腿ベルト12と、を有している。大腿カフ11は、大腿後方支持部である。大腿カフ11は、伸縮しない硬性材料、例えばプラスチックで形成されている。なお、大腿カフ11の内側面には、不図示の肌にやさしい材質のパッドが設けられている。
大腿ベルト12は、伸縮性のある生地からなる基材に面ファスナー等の接合手段を備えて構成されており、内側上アーム41と連結されたベルト通し用のリング12bに自由端である他端を挿通させて折り返し、面ファスナー等の接合手段で留めることで長さ調節可能に設けられている。このように、大腿ベルト12の長さを調節して係止することで、大腿カフ11及び大腿ベルト12で形成される環の周長を、装着する大腿部の周囲に合わせて調節可能に設けられている。
【0023】
大腿支持部10の下方であって大腿部の後方に相当する位置には、大腿支持帯15が設けられており、大腿部の後方を確実に支持するように構成されている。
【0024】
下腿支持部20は、概ね大腿支持部10と同様の構成を有している。下腿支持部20は、下腿部の後方を支持する略半円筒状の下腿カフ21と、下腿部の前側で取り外し可能に接合される下腿ベルト22と、を有している。下腿カフ21は、下腿後方支持部である。下腿カフ21は、伸縮しない硬性材料、例えば、プラスチックで形成されている。なお、下腿支持部20の内側面には、不図示の肌にやさしい材質のパッドが設けられている。
下腿ベルト22は、伸縮性のある生地からなる基材に面ファスナー等の接合手段を備えて構成されており、内側下アーム42と連結されたベルト通し用のリング22bに自由端である他端を挿通させて折り返し、面ファスナー等の接合手段で留めることで長さ調節可能に設けられている。このように、下腿ベルト22の長さを調節して係止することで、下腿カフ21及び下腿ベルト22で形成される環の周長を、装着する下腿部の周囲に合わせて調節可能に設けられている。
【0025】
膝に相当する位置の下方であって下腿支持部20よりも上方には、後方に膝窩支持帯25、前方に膝蓋下ベルト26が設けられている。使用者の下腿部にこれを巻き付けて下腿部を支持させることにより、膝装具1が脚部の動きに一層追従するようになる。
【0026】
ここで、膝の周囲に装着する一般的な装具について説明すると、装具の種類として、硬性装具と軟性装具がある。
硬性装具は、脚部を支持する金属またはプラスチック製の核となる部分と、伸縮性を有するネオプレン(登録商標)等の合成ゴムや長さ調節可能なベルトとの混成で構成されている。硬性装具は、加齢による関節症や筋肉の衰退・事故による手術の保存などを目的とし、比較的長期間使用されるものである。筋肉運動が可能なように、筋肉全体を包み込まない構造である必要がある。
【0027】
一方、軟性装具は、いわゆるサポーターであり、全体が伸縮性を有するネオプレン(登録商標)等の合成ゴムや弾性のある織布、あるいはこれらとベルトで構成されており、膝周り全体を包み込む構造となっている。筋肉全体を包み込む構造のため、装着して筋肉強化運動はできない。軟性装具は、捻挫や怪我の患部を守る目的で、一定期間使用されるものである。
【0028】
本実施形態の膝装具1は、硬性装具に相当する。大腿カフ11及び下腿カフ21は、大腿部及び下腿部を支持する核となる部分であり、上述のとおり、伸縮しない硬性材料で形成されている。本実施形態の膝装具1においては、後述する伸展誘導機構50によって前方に強いテンション(張力)がかかるよう構成されている。そのため、装具の変形を防止するため、大腿部及び下腿部の後方部分を支持する大腿カフ11及び下腿カフ21が、伸縮性を有さず、ある程度の硬度を有する材料により形成されている必要がある。この材料としては、金属や、プラスチック等の硬度がある程度高く、伸縮性のない、容易に変形しない樹脂が好ましい。また、伸縮せず、かつ装着感が良好である軟性プラスチックがより好ましい。
このように、大腿カフ11及び下腿カフ21が大腿部及び下腿部の後側に設けられ、伸縮性のない硬質の材料により形成されているため、膝装具1の前方に強いテンションがかかっても、膝装具1が変形することを防止することができる。
【0029】
膝装具1は、大腿支持部10と下腿支持部20とを回動可能に連結するジョイント部として、装着したときに使用者の膝の外側に配置される外側ジョイント30と、膝の内側に配置される内側ジョイント40とを備えている。
外側ジョイント30は、外側上アーム31と、外側下アーム32と、外側上アーム31と外側下アーム32を回動可能に接続する外側回動軸部35と、を備えている。内側ジョイント40は、内側上アーム41と、内側下アーム42と、内側上アーム41と内側下アーム42を回動可能に接続する内側回動軸部45と、を備えている。
なお、外側ジョイント30と内側ジョイント40とは、その構成及び作用・機能が同じであるため、以下、外側ジョイント30及びその構成部材について説明し、内側ジョイント40及びその構成部材については、符号の十の位を「4」に変えた対応する符号を付して図示し、その説明を省略する。
【0030】
外側上アーム31は、プラスチック等の剛性材料で形成された長尺の板状部材からなる。
外側上アーム31の上端部は、2か所でボルト・ナットやネジ等の固着具により大腿カフ11に固定されている。外側上アーム31の上端部の前側には、前方に突出した突部31bが設けられており、突部31bの先端部分には、後述する外側弾性体51の端部を係止するための上部係止孔31cが形成されている。突部31bは外側弾性体51の端部を係止する上部係止部である。なお、上部係止部は突部に限られず、外側上アーム31の上端部に長尺の弾性体の端部を係止できる形態であればよい。
【0031】
外側上アーム31の下端部は、後述する外側回動軸部35の回動プレート36a,36bに挟まれて、ネジやビス等の留め具により回動プレート36a,36bの上端部に回動可能に取り付けられている。外側上アーム31の下端は、図2に示すように、その前側が外側ジョイント30の伸展状態において略水平になるように形成され、後側が凹凸の歯31dを有する歯車状に形成されている。
【0032】
外側下アーム32は、プラスチック等の剛性材料で形成された長尺の板状部材からなる。
外側下アーム32の下端部は、2か所でボルト・ナットやネジ等の固着具により下腿カフ21に固定されている。外側下アーム32の下端部の前側には、前方に突出した突部32bが設けられており、突部32bの先端部分には、後述する外側弾性体51の端部を係止するための下部係止孔32cが形成されている。突部32bは外側弾性体51の端部を係止する下部係止部である。なお、下部係止部は突部に限られず、外側下アーム32の下端部に長尺の弾性体の端部を係止できる形態であればよい。
【0033】
外側下アーム32の上端部は、外側上アーム31の下端部と対向し当接した状態で、後述する外側回動軸部35の回動プレート36a,36bに挟まれて、ネジやビス等の留め具により回動プレート36a,36bの下端部に回動可能に取り付けられている。外側下アーム32の上端は、図2に示すように、その前側が外側ジョイント30の伸展状態において略水平になるように形成され、後側が凹凸の歯32dを有する歯車状に形成されている。
【0034】
外側回動軸部35は、プラスチック等の剛性材料で形成された2枚一対の回動プレート36a,36bからなる。外側上アーム31の下端部及び外側下アーム32の上端部は、互いに対向して当接した状態で、重ね合わせた一対の回動プレート36a,36bの間に挟持され、それぞれを回動プレート36a,36bの上端部の上側回動支点37a及び下端部の下側回動支点37bにビス等の留め具で回動可能に係止されている。このように、回動プレート36a,36bは、外側上アーム31を上側回動支点37aで回動可能に支持し、外側下アーム32を下側回動支点37bで回動可能に支持して、軸部としての外側回動軸部35を構成している。
【0035】
図2において、(a)は外側ジョイント30が略一直線状(180度)になるように伸展した伸展状態を示し、(b)は屈曲した屈曲状態を示す。
伸展状態においては、外側上アーム31の下端前側の平坦部分と外側下アーム32の上端前側の平坦部分とが当接しており、この平坦部分が、外側上アーム31と外側下アーム32とがこれ以上前方に向かって回動することを阻止するストッパとして機能している。
一方、伸展状態から屈曲方向に力が加わると、外側上アーム31及び外側下アーム32は、上側回動支点37a及び下側回動支点37bを中心に後方に回動し、それぞれの歯車の歯31d,32dが噛合しながら回動することで、回動の力が互いに伝達される。また、屈曲状態から伸展状態に変位するときも同様に、外側上アーム31及び外側下アーム32の歯31d,32dが噛合しながら前方に回動することで、回動の力が互いに伝達される。これにより、外側上アーム31と外側下アーム32とが同じ方向(屈曲方向又は伸展方向)に同じ角度で回動するよう構成されている。
【0036】
なお、回動軸部は上記構成に限定されるものではない。本実施形態においては、外側上アーム31と外側下アーム32をそれぞれ別個の回動支点で回動可能に支持するよう構成したが、外側上アーム31と外側下アーム32を重ねて1つの回動軸で連結し、1つの回動支点周りを回動可能となるように構成してもよい。
【0037】
伸展誘導機構50は、膝装具1を装着した使用者の膝の伸展を補助するために膝装具1に備えられた機構である。脚部の筋肉、主に大腿四頭筋や下腿三頭筋の衰えが著しい人は、立ち上がっても立位の安定を保てず、膝折れや横揺れが生じ、歩行が困難である。伸展誘導機構50は、このような筋肉の衰退でほぼ歩行不能の人の立位を保ち、かつ歩行の踏み出しができるよう、膝の屈曲・伸展を補助することを目的として設けられている。
【0038】
本実施形態の伸展誘導機構50は、ゴム等の弾性体から形成された長尺の部材からなる一対の弾性体である外側弾性体51及び内側弾性体52を有して構成されている。また、後述する、外側弾性体51及び内側弾性体52をまとめて束ねる収束部材としての収束パッド55を備えてもよい。
【0039】
外側弾性体51は、ゴム等の弾性を有する長尺の部材からなり、その上端が外側上アーム31の上端部に設けられた上部係止部31bの上部係止孔31cに、下端が外側下アーム32の下端部に設けられた下部係止部32bの下部係止孔32cに、フック等の係止部材51a,51bを介して係止されている。
内側弾性体52は、同様にゴム等の弾性を有する長尺の部材からなり、その上端が内側上アーム41の上端部に設けられた上部係止部41bの上部係止孔41cに、下端が内側下アーム42の下端部に設けられた下部係止部42bの下部係止孔42cに、フック等の係止部材52a,52bを介して係止されている。
【0040】
なお、外側弾性体51及び内側弾性体52は、紐状の丸ゴム又は丸チューブ状のゴムが好ましいが、平ゴムや平たい帯状又はベルト状の弾性部材でもよく、また引張コイルばねを用いてもよい。この外側弾性体51及び内側弾性体52は、後述するように伸展方向への力を付与すべく弾性によるテンション(張力)がかかる状態で取り付けられるものであるが、その材料硬度や材質、外径又は幅の大きさを異なるものに交換することで、所望のテンション強度を選択し、伸展誘導の力を調節することができる。
【0041】
伸展誘導機構50は、外側弾性体51と内側弾性体52とをまとめて束ねる収束部材としての収束パッド55をさらに備えることもできる(図4参照)。収束パッド55は、例えば弾性材料からなる帯状の布地に面ファスナー等の接合部材を設けてなる。収束パッド55を膝の中央部分に相当する位置に配置して、外側弾性体51と内側弾性体52を左右中央に引き寄せ、収束パッド55で包んで面ファスナーを接合することで、収束パッド55で外側弾性体51と内側弾性体52を膝の位置でまとめる。収束パッド55は、装着性を良好にするため、弾性材料から形成されているが、外側弾性体51及び内側弾性体52からテンションがかかるため、外側弾性体51及び内側弾性体52よりも硬度が高く、伸縮しにくい材料を用いている。
なお、外側弾性体51及び内側弾性体52の外面に軟性樹脂製のコイル53(図1参照)を巻き付けると、中央に引き寄せ収束パッド55で束ねる作業がスムースに行える。
【0042】
上述したように、上部係止部31b及び下部係止部32bはそれぞれ、外側上アーム31及び外側下アーム32の前側から前方に突出した突部として形成されているため、これらに係止された外側弾性体51は、図2に示すように、伸展状態において、外側上アーム31及び外側下アーム32の回動支点である上側回動支点37a及び下側回動支点37bよりも前方に配置される。より詳細には、伸展状態において、外側弾性体51と外側上アーム31の上端部との上側係止位置である上部係止孔31c、及び外側弾性体51と外側下アーム32の下端部との下側係止位置である下部係止孔32cは、上側回動支点37a及び下側回動支点37bよりも前方に位置しており、よってこれらに係止した外側弾性体51も回動支点よりも前方に配置される。
【0043】
また、説明を省略したが、内側弾性体52と内側上アーム41及び内側下アーム42との係止位置、及び内側上アーム41及び内側下アーム42に係止される内側弾性体52も同様に、内側上アーム41及び内側下アーム42の回動支点よりも前方に配置される。このように、外側弾性体51及び内側弾性体52、またはこれらと収束パッド55から構成される伸展誘導機構50は、外側ジョイント30及び内側ジョイント40の回動支点よりも前方に設けられている。
なお、本実施形態においては、上側係止位置及び下側係止位置はジョイント部に形成された弾性体(より具体的には弾性体の係止部材)を係止する係止孔の位置であるが、これに限定されるものではなく、ジョイント部の上端部及び下端部と弾性体とが直接または間接的に係止される位置である。
【0044】
次に、伸展誘導機構50の作用、機能について、図3~5を参照して説明する。なお、以下の説明において、外側ジョイント30と外側弾性体51の関係、作用と、内側ジョイント40と内側弾性体52の関係、作用とは同じであるので、外側の機構に基づいて説明し、内側の機構に関する説明を省略するが、内側の機構における作用、機能も同様である。また、外側弾性体51、内側弾性体52を、単に弾性体51、弾性体52とも称し、さらにこれらを総称して弾性体51,52とも称する。
【0045】
弾性体51のテンション(張力)は、以下のように設定される。
図3に、膝装具1を着脱するときの状態を示す。なお、図3は脚部の外側から見た図である。膝装具1の装着、脱着をする際、使用者は座って図3に示すように膝を屈曲した状態で行う。このとき、膝装具が着脱可能な状態となるように、外側回動軸部35の回動支点を中心に、外側上アーム31と外側下アーム32を所定角度回動させる。一例として、使用者の脚部の屈曲角度が90度の状態よりも20~30度程度、下腿部を前方へ出した方が装着、脱着しやすいため、大腿部と下腿部の屈曲角度は概ね110~120度となる。そして、外側上アーム31が水平方向よりも10度前後傾くため、外側上アーム31と外側下アーム32とのなす角度は、概ね110~130度となる。この角度の状態において、弾性体51の伸びがゼロ(0)、すなわち弾性体51のテンションがゼロ(0)となるように弾性体51の長さを設定する。このように、着脱するときの弾性体51のテンションをゼロとすることで、膝装具1の着脱が容易となる。なお、このときの弾性体51の長さ(自由長)を100%とする。
ちなみに、膝装具1の回動域については、使用者が垂直に立った状態である完全伸展状態から、正座状態の範囲で回動可能である。通常歩行時の回動域は、健常者であれば垂直方向に対して前後+-30度程度である。
【0046】
図4における(a)は、膝装具1を装着した後に膝を伸展させた状態を示す。この状態では、弾性体51は、自由長100%に対して概ね120%程度の長さに引っ張られており、弱いテンションがかかっている。この状態においても、弾性体51に若干のテンションがかかっているため、図2における矢印F1方向に引っ張る力が働く。すなわち、弾性体51により膝の伸展を誘導、補助する方向である伸展方向に力が付与される。
【0047】
さらに、膝を伸展させた状態で、図4において(b)で示されるように、外側側部及び内側側部にある弾性体51,52を左右中央(外側と内側の中央)に引き寄せ、収束パッド55でまとめて束ねてもよい。このとき、収束パッド55を膝の中央に相当する位置に配置する。このように収束パッド55で弾性体51,52を中央にまとめることで、収束パッド55を用いない(a)で示される状態よりも弾性体51,52に大きいテンションがかかり、膝の伸展方向により大きい力が付与される。また、弾性体51,52の引き寄せ加減によってテンションの大きさを調節し、適切な大きさに設定することができる。
さらに、弾性体51,52の材料硬度や外径又は幅を変更することによってもテンションの大きさを変更することが可能である。
【0048】
図5に、膝装具1を装着して歩行する歩行状態を示す。より具体的には、収束パッド55を用いた伸展誘導機構50を備えた膝装具1を装着した場合の歩行状態である。
直立状態で膝が伸展している状態(図5の(a))から、脚を踏み出し、膝が屈曲すると(図5の(b))、弾性体51,52が徐々に大きく引っ張られ、テンションが徐々に大きくかかる。これにより、弾性体51,52に、外側ジョイント30(外側上アーム31、外側下アーム32)、及び内側ジョイント40(内側上アーム41、内側下アーム42)をそれぞれ回動支点中心に伸展方向に回動させる力(図5における矢印F2)が生じる。
【0049】
伸展誘導機構50は、上述のとおり、直立状態で膝を伸ばした伸展状態であっても弾性体51,52の復元力で伸展方向への力が生じており、膝を押し戻す方向に力が付与されている。そして、歩行状態において、脚を踏み出そうとして膝を曲げる角度(垂直方向に対する大腿部、下腿部の角度)が大きくなるほど弾性体51,52の復元力が大きく働くので、伸展誘導機構50が膝を押し戻す力も大きくなり、膝折れを防止できる。また、収束パッド55が膝の中心部分(膝蓋骨)に相当する位置に配置されており、膝を覆うように設けられているため、膝が屈曲したときに、弾性体51,52と収束パッド55との復元力で膝を伸展方向に押し戻すように作用し、膝を押し戻す力をより確実に膝に伝達することができる。さらに、膝装具1が膝の周囲を保持しているので、横揺れも防止できる。
なお、筋力がほとんどない使用者の場合は、歩行時であっても膝をほとんど屈曲しないため、膝を屈曲した際に生じる程度の押し戻し力は生じないが、膝の伸展状態でもある程度の力が一定で付与されるため、伸展状態を維持でき、いわゆる棒足を維持できる。よって、伸展誘導機構50により、リハビリ歩行時等での危険な膝折れを防止できる。
【0050】
次に、本実施形態における伸展誘導機構50の変形例について、図6を参照して説明する。図6は、伸展誘導機構50の伸展誘導の力の強さを調節可能とするための変形例を示したものであり、具体的には、収束部材としての収束パッド55の変形例を示す。
なお、図6における(a)は収束パッド55を使用しない例、(b)は上述した収束パッド55を使用した例であり、既に説明した構成である。
【0051】
図6において、(c)、(d)で示される収束パッド55’、55’’は、(b)で示される収束パッド55と大きさ、形状が異なるパッドが用いられている。収束パッド55’の縦の長さh’は収束パッド55の縦の長さhの約2倍であり、幅w’は収束パッド55の幅wよりも小さい。収束パッド55’’の縦の長さh’’は収束パッド55の縦の長さhの約3倍であり、幅w’’は収束パッド55の幅wの半分程度である。これらの変形例においては、パッドの縦の長さが長いほど、弾性体51,52が引っ張られる力が大きくなり、大きなテンションが加わるため、膝を押し戻す力、すなわち伸展方向に付与される力が大きくなる。
このように、収束パッド55の大きさや形状を変更することによって、弾性体51,52の引き寄せ度合いを調節でき、伸展誘導する力の大きさを調節することができる。
【0052】
伸展誘導の力の大きさ(強さ)は、大きければ大きいほど効果的という訳ではなく、使用者の筋肉の衰え度合いに応じて、補助・誘導する力の大きさを適切に設定する必要がある。使用者が最も歩きやすい大きさに設定することで、歩行時の安全性も確保できる。
例えば、使用者の左右の脚の筋力に差がある場合には、左右それぞれを最も歩きやすいテンションの大きさに設定することが好ましい。また、リハビリテーションセンター等で不特定多数の患者の歩行訓練に膝装具を使用する場合には、使用者ごとの個人差に適応できるよう調節可能であることが必要であり、有効である。本変形例によれば、簡易な構造で伸展誘導の力を調節可能であり、使用者に応じて適応させることができる。
【0053】
次に、本実施形態の膝装具1の立ち上がり補助機能について、図3及び図7を参照して説明する。なお、以下の説明において、外側ジョイント30と外側弾性体51の関係、作用と、内側ジョイント40と内側弾性体52の関係、作用とは同じであるので、外側の機構に基づいて説明し、内側の機構に関する説明を省略する。
図7は、図3における外側回動軸部35のVII-VII断面図である。
【0054】
外側回動軸部35を構成する一対の回動プレート36a,36bは、略円形の板状部材であり、互いに対向した状態で、外側上アーム31及び外側下アーム32を回動可能に挟持している。図3に示すように、膝装具1を装着する時は、外側上アーム31及び外側下アーム32を回動させて外側ジョイント30を屈曲させる。外側回動軸部35の前端部分であって、屈曲した状態での外側ジョイント30の先端部分、すなわち回動プレート36a,36bの先端部分に、弾性体51を一時的に掛止するための掛止部が設けられている。図3における仮想線は、掛止部に掛止した状態の弾性体51を示している。
【0055】
掛止部の具体例を図7に示す。図7の(a)に示されるように、一対の回動プレート36a,36bの外周面36c,36dが、互いに、回動プレート36a,36bの外側面、すなわち対向する面(対向面)と反対側の面から、対向面の方向に向かって、外側回動軸部35の中心側に傾斜しており、V字状の溝38を形成している。このV字状の溝38が掛止部であり、溝38の間に、弾性体51を引っ掛けることができる。
また、V字状の溝38の両外側部分は、溝の中央(溝の底部)よりも高くなっているため、弾性体51が掛止部としての溝38から外れることを防止するストッパとしての機能を果たす。
【0056】
図7の(b)は、掛止部の変形例を示している。一対の回動プレート36a’,36b’のうち、膝装具1の中央に近い側、すなわち使用者の脚部に近い側を内側、遠い側を外側としたとき、内側に配置される回動プレート36b’の先端部分をDカットして外周面36d’が平面になるようカットする。つまり、外側回動軸部35の先端部分において、膝装具1の中央に近い側に配置される回動プレート36b’の外周の一部が、対向する回動プレート36a’の外周面36c’よりも回動支点からの距離が小さくなるように切り欠かれている。このように内側の回動プレート36b’の一部をカットすることで、回動プレート36a’と回動プレート36b’とによる段差部38’が形成されている。この段差部38’が係止部であり、段差部38’に弾性体51を引っ掛けることができる。
また、段差部38’においては、外側、すなわち使用者の脚部から遠い側の回動プレート36a’により高い段が形成されているため、弾性体51が掛止部としての段差部38’から外側に外れることを防止するストッパとしての機能を果たす。
【0057】
このように、外側回動軸部35に弾性体51を掛止する掛止部が設けられているため、膝装具1を脚部へ装着した後、弾性体51を回動プレート36a,36bの先端部分に引っ掛けることによって、テンションがかかり、伸展方向への力が付与されるので、使用者の立ち上がりを補助することができる。
【0058】
以上のように、本実施形態の膝装具1は、伸展誘導機構50を備えることにより、座位からの立ち上がり補助機能、膝折れ・横揺れ防止を含む立位の安定保持及び歩行補助機能を有し、さらに、本来の膝装具の機能である膝関節の前後左右の安定保持機能を有している。よって、脚部の筋肉の衰えが著しい人への立ち上がりから歩行の補助を十分に行うことができる。さらには、伸展誘導機構50により付与される伸展誘導の力の大きさを調節することが可能であるので、使用者の筋力に応じた適切な伸展誘導機能を提供できる。
【0059】
次に、伸展誘導機能を備える膝装具の第二実施形態について、図8及び図9を参照して説明する。
本実施形態の膝装具101は、大腿支持部110、下腿支持部120、伸展誘導機構150を主な構成要素として有している。なお、本実施形態の大腿支持部110及び下腿支持部120は、大腿部及び下腿部を支持する支持部としての機能と、弾性体を束ねる収束パッドとしての機能とを有している。
【0060】
大腿支持部110及び下腿支持部120は、伸縮性を有するネオプレン(登録商標)等の合成ゴムで形成されている。大腿支持部110及び下腿支持部120は、前側が展開可能であって、それぞれ大腿部下側(膝の上側)及び下腿部上部(膝の下側)に後ろから巻き付けて前側で係止可能なように、前側に面ファスナー等の接合部材が設けられている。そして、後部は大腿支持部110と下腿支持部120とが一体となるよう連結されている。この接続部分が装着時には使用者の膝裏に配置される。
【0061】
伸展誘導機構150は、膝の前側中央に相当する位置を通って上下方向に延在する中央弾性体151を備える。中央弾性体151は、ゴム等の弾性体から形成された長尺の部材からなる。中央弾性体151は、紐状の丸ゴム又は丸チューブ状のゴム、或いは平ゴムや平たい帯状(ベルト状)の弾性部材から形成することができる。膝突き出し時の安定性の観点からは、平面で膝に当接する帯状(ベルト状)が好ましい。図8では、ゴムベルト状の弾性体の例を示している。
【0062】
中央弾性体151の上端は、使用者のウエストに巻き付けるウエストベルト160にフック等の係止部材151aで係止され、下端は、使用者の足の周囲に巻き付ける足ベルト170にフック等の係止部材151bで係止される。
中央弾性体151の上端をウエストベルト160に係止する係止部材151aは、中央弾性体151の長さを調節可能なアジャスターとしての機能を有していると好ましい。例えば、ウエストベルト160に下方に延出する短いベルトを取り付け、その下端部にベルト通しリングを備え、中央弾性体151の上端を挿通させて適切な長さで係止することで、中央弾性体151の長さを調節できる。これにより、使用者の身長に合わせて長さを調節したり、適切な誘導の強さになるよう中央弾性体151のテンションの大きさを調節したりできる。
【0063】
中央弾性体151の膝前側を通る部分は、膝の中央からずれないように、大腿支持部110及び下腿支持部120の前側中央に、面ファスナー等の接合部材で取り付けられている。すなわち、大腿支持部110、下腿支持部120は、中央弾性体151をまとめて束ねる収束パッドとしての機能を兼ね備えている。
【0064】
なお、中央弾性体151を構成する弾性体の本数は、1本、又は2本以上でもよく、本数によってテンションの大きさを調節することができる。また、弾性体の外径又は幅の大きさ、素材の硬度、長さにより、テンションの大きさを調節できる。これらの調節により、伸展誘導する力の大きさを調節できる。
また、中央弾性体151は、使用者の状態により、両脚に設けてもよく、片脚に設けてもよい。
【0065】
図8に示す伸展状態において、中央弾性体151の復元力は、強めに、例えば2~10kg程度に設定され、伸展方向に力が付与される。これにより、筋力が著しく弱い使用者の立位を保つための補助となる。そして、図9に示すように、歩行状態に移行し、足を踏み出して膝が屈曲すると、中央弾性体151から伸展方向に力が付与され、使用者の膝を押し戻す。
【0066】
このように、本実施形態の伸展誘導機構150を備えた膝装具101によれば、簡易な構成で、筋力が著しく弱い使用者に対して効果的に伸展誘導の機能を発揮できる。より具体的には、座位からの立ち上がり補助機能、膝折れ防止を含む立位の安定保持及び歩行補助機能を有し、脚部の筋肉の衰えが著しい人への立ち上がりから歩行の補助を十分に行うことができる。また、膝関節周囲に装着する装具として小型、薄型であるため、装着した状態でズボンや履物を履くことができ、通常と変わらない服装での生活を可能とする。
【0067】
次に、伸展誘導機能を備える膝装具の第三実施形態について、図10を参照して説明する。なお、上述した第一、第二実施形態と同様の部材、機構等は、同様の符号を付して説明を省略する。
図10に示される膝装具201は、伸展誘導機構250を備える。本実施形態における伸展誘導機構250は、第一実施形態における外側弾性体51及び内側弾性体52(図10では不図示)と、第二実施形態における中央弾性体151とを併せて備えている。
【0068】
中央弾性体151は、第二実施形態におけるものと同様、ゴム等の弾性体から形成された長尺の部材からなり、その上端及び下端は、それぞれウエストベルト(図10では不図示)及び足ベルト170に係止される。そして、本実施形態では、中央弾性体151の膝前側を通る部分は、膝の中央からずれないように、大腿支持部10の大腿ベルト12及び下腿支持部20の下腿ベルト22の前側中央に、面ファスナー等の接合部材で取り付けられている。
なお、図10では、中央弾性体151が丸チューブ状のゴムからなる例を示しているが、他の構成は第二実施形態のものと同様であり、また帯状(ベルト状)の弾性体であってもよいのは勿論である。
【0069】
さらに、第一実施形態と同様、収束部材としての収束パッド55を備えてもよい。本実施形態においては、外側弾性体51及び内側弾性体52に加え、中央弾性体151をまとめて収束パッド55で束ねている。なお、図10に示す外側弾性体51のうち、仮想線は収束パッド55でまとめる前の状態の外側弾性体51を示し、実線は収束パッド55でまとめた状態の外側弾性体51を示す。
【0070】
本実施形態の伸展誘導機構250は、外側弾性体51及び内側弾性体52と、中央弾性体151とを備えているので、外側弾性体51及び内側弾性体52のテンションに加え、中央弾性体151のテンションもかかり、それぞれ別個に備えた場合よりも大きな力が伸展方向に付与される。これにより、立位を全く保てないような人に対する立位を保つための補助となる。また、歩行状態に移行し、で足を踏み出して膝が屈曲すると、外側弾性体51及び内側弾性体52に加えて、中央弾性体151からも伸展方向に力が付与され、使用者の膝をより大きな力で押し戻す。
さらに、収束パッド55を備えた構成とした場合は、外側弾性体51、内側弾性体52、及び中央弾性体151の3本の弾性体を収束パッド55でまとめて一体化するとともに、収束パッド55で膝の中央を安定して押し戻すことにより、伸展方向に付与する力をより一層大きくし、また安定して付与することができる。
【0071】
このように、本実施形態の膝装具201によれは、筋力が著しく弱い使用者に対して、より効果的に伸展誘導の機能を発揮できる。特に、全く立位を保てないような人であっても、膝装具201を装着することで、補助のための平行棒等を保持しながらこれに沿って歩行ができるようになる。
また、本実施形態の膝装具201は、第一実施形態と同様の大腿支持部10、下腿支持部20を備えているので、複数の弾性体と膝周りの支持部材との相乗効果が発揮され、膝の全周囲の安定性を確保しつつ、伸展方向に付与する力を大きくすることができる。そして、複数の弾性体による強力な復元力と膝周りの保持により、より効果的に、立位時は立位を保持でき、歩行時は容易に足を前方に運んで踏み出しを補助することができる。
【0072】
以上で説明した膝装具における伸展誘導機構は、変形性膝関節症の患者の矯正、歩行補助用に用いられる膝装具、膝の手術後やけが等の受傷後のリハビリに用いられる膝装具のいずれにも適用することができるものである。そして、本発明の伸展誘導機能を備えた膝装具によれば、膝に十分な伸展誘導を与えることができ、特に脚部の筋肉の衰えが著しい人に対する座位からの立ち上がり補助、膝折れ・横揺れ防止を含む立位の安定保持及び歩行補助のための伸展誘導を行うことができる。
【符号の説明】
【0073】
1,101,201 膝装具
10,110 大腿支持部
11 大腿カフ(大腿後方支持部)
12 大腿ベルト
12b リング
15 大腿支持帯
20,120 下腿支持部
21 下腿カフ(下腿後方支持部)
22 下腿ベルト
22b リング
25 膝窩支持帯
26 膝蓋下ベルト
30 外側ジョイント(ジョイント部)
31 外側上アーム
31b 突部、上部係止部
31c 上部係止孔(上側係止位置)
31d 歯
32 外側下アーム
32b 突部、下部係止部
32c 下部係止孔(下側係止位置)
32d 歯
35 外側回動軸部(軸部)
36a,36b,36a’,36b’ 回動プレート(板状部材)
36c,36d,36c’,36d’ 外周面
37a 上側回動支点
37b 下側回動支点
38 溝、掛止部
38’ 段差部、掛止部
40 内側ジョイント(ジョイント部)
41 内側上アーム
41b 上部係止部
41c 上部係止孔(上側取付位置)
42 内側下アーム
42b 下部係止部
42c 下部係止孔(下側取付位置)
45 内側回動軸部(軸部)
46a,46b 回動プレート(板状部材)
47a 上側回動支点
47b 下側回動支点
50,150,250 伸展誘導機構
51 外側弾性体(弾性体)
52 内側弾性体(弾性体)
51a,51b,52a,52b 係止部材
53 コイル
55,55’,55’’ 収束パッド(収束部材)
151,251 中央弾性体
151a,151b 係止部材
160 ウエストベルト
170 足ベルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10