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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022113445
(43)【公開日】2022-08-04
(54)【発明の名称】ポリアミドイミド組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20220728BHJP
   C08G 73/14 20060101ALI20220728BHJP
   C08G 18/34 20060101ALI20220728BHJP
【FI】
C08L79/08 C
C08G73/14
C08G18/34 030
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009699
(22)【出願日】2021-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉野 文子
(72)【発明者】
【氏名】森北 達弥
(72)【発明者】
【氏名】柴田 健太
(72)【発明者】
【氏名】山田 宗紀
(72)【発明者】
【氏名】越後 良彰
【テーマコード(参考)】
4J002
4J034
4J043
【Fターム(参考)】
4J002CM04W
4J002CM04X
4J002GQ00
4J034CA25
4J034CB04
4J034CB07
4J034CC12
4J034CC61
4J034CC65
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC12
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034RA16
4J043QB58
4J043SA11
4J043SB01
4J043TA13
4J043TB01
4J043UA121
4J043UA122
4J043UA131
4J043UB401
4J043VA021
4J043VA041
4J043ZB47
(57)【要約】      (修正有)
【課題】フィルム状に成形した時、高い弾性率と高い伸度とが両立したポリアミドイミド(PAI)フィルムを得ることできるポリアミドイミド(PAI)組成物の提供。
【解決手段】酸成分としてトリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)を用いたポリアミドイミド(PAI-1)と、イミド系エラストマと、からなるポリアミドイミド(PAI)組成物であって、フィルムとした時の引張伸度が60%以上、引張弾性率が4.5GPa以上であることを特徴とするポリアミドイミド(PAI)組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸成分としてトリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)を用いたポリアミドイミド(PAI-1)と、イミド系エラストマと、からなるポリアミドイミド(PAI)組成物であって、フィルムとした時の引張伸度が60%以上、引張弾性率が4.5GPa以上であることを特徴とするポリアミドイミド(PAI)組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、フィルム状に成形して、複写機、プリンタ等の中間転写ベルト、定着ベルト等として好適に用いられるポリアミドイミド(PAI)組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高速化が求められる複写機、プリンタの中間転写ベルト、定着ベルトとして、耐熱性、機械特性、寸法安定性に優れたPAI等のポリイミド系材料からなるフィルムが広く用いられている。
これらのベルトは、例えば、PAIを含有する溶液を金型に塗布、乾燥することにより得ることができ、通常、厚みが30μm~150μmのPAIフィルムからなるシームレスのベルトとして用いられる。
【0003】
これらのベルトとして用いられるPAIフィルムとして、酸成分としてトリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)を用いたPAIからなるフィルムが知られている。このような化学構造を有するPAIフィルムからなるPAIベルトは、寸法安定性、耐熱性、力学特性(特に剛性)に優れるので、複写機、プリンタ等の中間転写ベルト、定着ベルト等の成形用として好適に用いられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-147199号公報
【特許文献2】特開2004-155947号公報
【特許文献3】特開2003-261768号公報
【特許文献4】特開2007-16097号公報
【特許文献5】特開2011-79965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献に記載された酸成分としてTMA、イソシアネート成分としてTODIを用いたPAIからなるベルトは、ベルトとしての強靭性、すなわちフィルムとした時の伸度が十分ではなく、ベルトを複写機に装着して長時間使用した際、破断や割れが起こることがあった。 このようなことから、複写機用のベルトとして用いられるPAIとしては、フィルムとした際に高い弾性率(剛性)を有することに加え、高い伸度を有するものが求められていた。すなわち、トレードオフの関係にある、高い弾性率と高い伸度とを両立させることができるPAIが求められていた。
【0006】
そこで、本発明は前記課題を解決するものであって、フィルム状に成形した時、高い弾性率と高い伸度とが両立したPAIフィルムを得ることできるPAI組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の組成を有する新規なPAI組成物であって、フィルムとした時に特定の力学的特性を有するPAI組成物とすることにより、前記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
本発明は、「酸成分としてトリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)を用いたポリアミドイミド(PAI-1)と、イミド系エラストマと、からなるポリアミドイミド(PAI)組成物であって、フィルムとした時の引張伸度が60%以上、引張弾性率が4.5GPa以上であることを特徴とするPAI組成物」を趣旨とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のPAI組成物をフィルム状に成形することにより、高い弾性率と高い伸度とが両立したPAIフィルムとすることができる。従い、このPAIフィルムからなるPAIベルトは、複写機、プリンタの中間転写ベルト、定着ベルトとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のPAI組成物を構成するPAI-1は、例えば、以下のような方法で、溶液として得ることができる。
すなわち、略当モルの、TMA(酸成分)と、TODI(イソシアネート成分)とを、溶媒中、重合反応させることにより得ることができる。
酸成分と、イソシアネート成分とのモル比は、1/1.00~1.05とすることが好ましい。
ここで、TMAと、TODIのみからなるホモポリマは、反応溶媒に溶解しにくい傾向があるので、TODIの10~60モル%をメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)および/またはトルエンジイソシアネート(TDI)に置換することが好ましい。
なお、TMAの一部は、他の酸成分で置換されていてもよい。具体的には、TMAの10モル%以下であれば、ピロメリット酸無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸無水物等で置換されていてもよい。 この置換率が10モル%を超えると、力学的特性値を両立させることが難しくなることがある。
【0012】
重合反応に際しては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、トリエチレンジアミン(DABCO)等の塩基性化合物を触媒としてTMAに対し、0.01~1モル%配合することが好ましい。
このような塩基性触媒を用いることにより、高粘度のPAI-1溶液とすることができる。
これらの塩基性触媒は、PAI重合の際の重合触媒として知られてはいるが、TMAと、TODIとからなるPAIの重合反応において、特異的に有効である。
【0013】
重合反応に用いられる溶媒に制限はないが、アミド系溶媒を用いることが好ましい。アミド系溶媒の具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独または混合物として用いることができる。これらの中で、NMP、DMAc、およびそれらの混合物が好ましい。これらの重合溶媒は、その水分率が100ppm以下に脱水されていることが好ましい。
【0014】
重合反応を行う際の反応温度としては、100~200℃が好ましく、120~180℃がより好ましい。この反応において、モノマーおよび溶媒の添加順序は特に制限はなく、いかなる順序でもよい。
【0015】
本発明のPAI組成物を構成するPAI-1の溶液は、その溶液粘度が、10Pa・s以上、200Pa・s以下であることが好ましく、80Pa・s以上、150Pa・s以下とすることがより好ましい。
ここで、溶液粘度は、トキメック社製、DVL-BII型デジタル粘度計(B型粘度計)を用い、30℃における回転粘度を測定することにより確認することができる。
【0016】
前記溶液の濃度は、10質量%超、25質量%未満とすることが好ましく、16質量%以上、22質量%以下とすることがより好ましい。
【0017】
本発明のPAI組成物のもう一つの構成成分であるイミド系エラストマを前記PAI-1溶液に配合することにより本発明のPAI組成物とすることができる。ここで「イミド系エラストマ」とは、NMP等のアミド系溶媒に可溶であって、フィルムとした時の引張伸度が80%以上のポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエステルイミド、ポリエーテルイミドをいう。
【0018】
これらのイミド系エラストマは、公知の高分子化合物であり、例えば、特開平08-217874号公報、特開平11-21454号公報、特開2014-28921号公報、特開2013-155329号公報等の特許文献に記載されている。従って、本発明の実施に際しては、これらの文献の記述を参照することができる。なお本発明者らの追試によれば、これらの特許文献に記載されているイミド系エラスマの引張弾性率はどれも4GPa未満であった。
【0019】
本発明のPAI組成物を作成するための、イミド系エラストマの配合比率は、PAI-1とイミド系エラストマの合計質量に対し、1~40質量%とすることが好ましく、2~30質量%とすることがより好ましい。イミド系エラストマの配合量をこのような範囲とすることにより、高伸度、高弾性率というトレードオフの関係にある力学的特性値を両立させることができる。
【0020】
前記のようにして得られる本発明のPAI組成物を含有する溶液は、基材上に塗布、乾燥することにより、本発明のPAI組成物からなるフィルムとすることができる。
用いる基材に制限はないが、銅箔等の金属箔、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム等の有機高分子フィルムを好ましく用いることができる。
また、本発明のPAI組成物を含有する溶液を、円筒状の金型に塗布、乾燥後、脱型することにより、PAIフィルムからなるシームレスのベルトとすることができる。
なお、PAI組成物溶液からフィルム得る際の乾燥条件としては、50~180℃の温度で予備乾燥した後、200~300℃の温度でさらに乾燥することが好ましい。
また、成形されたPAIフィルムの厚みに制限はないが、通常、1~200μm程度である。
【0021】
本発明のPAI組成物は、フィルムとした時の時の引張伸度が60%以上、引張弾性率が4.5GPa以上であることが必要であり、引張伸度が70%以上、引張弾性率が4.8GPa以上であることがより好ましい。
このようにすることにより、例えば、剛性と強靭性とが両立した複写機用のベルトとして用いることができる。
なお、PAIフィルムの弾性率と伸度とは、JIS K7127:1999に準拠して測定することにより確認することができる。
【実施例0022】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0023】
<参考例1>
(PAI-1の調製)
ガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、TMA:1.00モル、TODI:0.82モル、TDI:0.20モル、DBU:0.001モルを、脱水されたNMP(水分率80ppm)と共に仕込み、攪拌しながら150℃に昇温して5時間反応させさせることにより、PAI固形分濃度が18質量%の「PAI-1a」溶液を得た。
【0024】
<参考例2>
(PAI-1の調製)
「TODI:0.82モル、TDI:0.20モル」を「TODI:0.61モル、TDI:0.40モル」としたこと以外は、参考例1と同様にして、PAI固形分濃度が18質量%の「PAI-1b」溶液を得た。
【0025】
<参考例3>
(イミド系エラストマの調製)
特開2014-28921号公報、実施例3の記載に準拠してイミド系エラストマ(E-1)を調製した。
すなわち、ガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、TMA:0.70モル、ダイマー酸(クローダジャパン社製、商品名:PRIPOL1009):0.30モル、MDI:1.00モルを、ポリアミドイミドとしての固形分濃度が18質量%となるように、脱水されたNMP(水分率80ppm)と共に仕込み、攪拌しながら120℃で2時間反応させた。DBU0.01モルを添加し、180℃に昇温して3時間反応させ、ポリアミドイミドからなるイミド系エラストマ(E-1)溶液を得た。
【0026】
<参考例4>
(イミド系エラストマの調製)
特開2013-155329号公報、実施例1の記載に準拠してイミド系エラストマ(E-2)を調製した。
すなわち、ディーンスタークトラップ付き冷却管を付したガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、ダイマージアミン(クローダジャパン社製、商品名:PRIAMINE1074):0.11モル、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物:0.11モル、ピリジン:0.012モル、およびDMAcを入れ、200℃まで2時間かけて昇温し、ディーンスタークトラップを用いて水を系外に除去した。同温度で3時間保持後放冷し、固形分濃度が18質量%のポリイミドからなるイミド系エラストマ(E-2)の溶液を得た。
【0027】
<実施例1>
PAI-1a溶液とE-1とを、攪拌下、30℃で混合し、PAI-1a:90質量%、E-1:10質量%からなるPAI組成物溶液(固形分濃度:18質量%)を得た。
このPAI組成物溶液をポリエステルフィルム上に塗布し、80℃で10分、130℃で10分乾燥後、塗膜をポリエステルフィルムから剥離した。その後、この塗膜を金枠に挟持し、窒素ガス雰囲気下、290℃で60分乾燥することにより、厚みが40μmのPAIフィルムを得た。
得られたPAIフィルムの弾性率と伸度とをJIS K7127:1999に準拠して測定した結果を表1に示す。
【0028】
<実施例2~6>
PAI-1、イミド系エラストマの種類と配合比率とを表1に記載のようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、PAI組成物溶液(固形分濃度:18質量%)を得た後、この組成物溶液を用いて、厚みが40μmのPAIフィルムを得た。
得られたPAIフィルムの弾性率と伸度とを実施例1と同様にして測定した結果を表1に示す。
【0029】
<比較例1、2>
PAI-1a溶液のみ(比較例1)またはPAI-1b溶液のみ(比較例2)を用い、実施例1と同様にして、厚みが40μmのPAIフィルムを得た。
得られたPAIフィルムの弾性率と伸度とを実施例1と同様にして測定した結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
実施例で示したように、本発明のPAI組成物から、高い弾性率と高い伸度とが両立したPAIフィルムを得ることできる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のPAI組成物からなるフィルムは、シームレスのPAIベルトとして、複写機、プリンタの中間転写ベルト、定着ベルトとして好適に用いることができる。